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特表2022-545234CD3とCD20を標的とする二重特異性抗体及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-26
(54)【発明の名称】CD3とCD20を標的とする二重特異性抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20221019BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20221019BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20221019BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20221019BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221019BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221019BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20221019BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K16/46 ZNA
C12N15/13
C12P21/08
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P35/02
A61K47/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511021
(86)(22)【出願日】2020-07-23
(85)【翻訳文提出日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 CN2020103731
(87)【国際公開番号】W WO2021031784
(87)【国際公開日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】201910764107.6
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522064395
【氏名又は名称】ヤン ヤン
(71)【出願人】
【識別番号】522064409
【氏名又は名称】イン ウェイ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】イン ウェイ
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA05
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF63
4C076FF70
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB41
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は抗CD3一本鎖Fab分子、抗CD20一本鎖Fab分子、及び二重特異性抗体の製造におけるそれらの使用を提供する。本発明はCD3とCD20を標的とする二重特異性抗体、及びB細胞関連疾患を治療するための薬物の製造におけるその使用をさらに提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fab軽鎖とFab重鎖を含む抗CD3一本鎖Fab分子であって、前記Fab軽鎖のC末端は、長さが45~80個のアミノ酸であるリンカーペプチドを介して前記Fab重鎖のN末端に接続される抗CD3一本鎖Fab分子。
【請求項2】
前記リンカーペプチドの長さは60個のアミノ酸である請求項1に記載の抗CD3一本鎖Fab分子。
【請求項3】
前記リンカーペプチドはタンデムに繰り返されるGGGGS配列を含む請求項1又は2に記載の抗CD3一本鎖Fab分子。
【請求項4】
SEQ ID NO:6又は9に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の抗CD3一本鎖Fab分子。
【請求項5】
Fab軽鎖とFab重鎖を含む抗CD20一本鎖Fab分子であって、前記Fab軽鎖のC末端は、長さが45~80個のアミノ酸であるリンカーペプチドを介して前記Fab重鎖のN末端に接続される抗CD20一本鎖Fab分子。
【請求項6】
前記リンカーペプチドの長さは60個のアミノ酸である請求項5に記載の抗CD20一本鎖Fab分子。
【請求項7】
前記リンカーペプチドはタンデムに繰り返されるGGGGS配列を含む請求項5又は6に記載の抗CD20一本鎖Fab分子。
【請求項8】
SEQ ID NO:10に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む請求項5~7のいずれか一項に記載の抗CD20一本鎖Fab分子。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗CD3一本鎖Fab分子又は請求項5~8のいずれか一項に記載の抗CD20一本鎖Fab分子の二重特異性抗体を製造するための使用。
【請求項10】
CD3に結合した第一部分とCD20に結合した第二部分を含む二重特異性抗体であって、前記第一部分は抗CD3一本鎖Fab分子であり、前記抗CD3一本鎖Fab分子は、Fab軽鎖とFab重鎖を含み、前記Fab軽鎖のC末端は、長さが45~80個のアミノ酸であるリンカーペプチドを介して前記Fab重鎖のN末端に接続され、前記第二部分は抗CD20抗体の軽鎖及び重鎖を含む二重特異性抗体。
【請求項11】
前記リンカーペプチドの長さは60個のアミノ酸である請求項10に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
前記リンカーペプチドはタンデムに繰り返されるGGGGS配列を含む請求項10又は11に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
CD3に結合した前記第一部分は、SEQ ID NO:6又は9に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む請求項10~12のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項14】
前記抗CD20抗体の軽鎖は、SEQ ID NO:7に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含み、前記抗CD20抗体の重鎖はSEQ ID NO:8に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む請求項10~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項15】
前記抗CD20抗体の軽鎖のC末端は前記リンカーペプチドを介して前記抗CD20抗体の重鎖のN末端に接続される請求項10~14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項16】
CD20に結合した前記第二部分はSEQ ID NO:10に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む請求項10~15のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項17】
B細胞関連疾患を治療する薬物の製造における請求項10~16のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の使用。
【請求項18】
前記B細胞関連疾患は、B細胞白血病又はB細胞リンパ腫である請求項17に記載の使用。
【請求項19】
請求項10~16のいずれか一項に記載の二重特異性抗体及び薬学上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項20】
患者においてB細胞関連疾患を治療する方法であって、請求項10~16のいずれか一項に記載の二重特異性抗体又は請求項19に記載の医薬組成物を治療有効量で前記患者に投与することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CD3と抗CD20の一本鎖Fab分子に関し、さらにCD3とCD20を標的とする二重特異性抗体及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
B細胞リンパ腫は一般的な血液系疾患であり、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫に分けられ、その病因が明らかではないが、免疫不全及び環境要因は可能な発症要因と考えられる。B細胞リンパ腫の治療及び予後はリンパ腫の具体的なタイプ及び病期・グレードに依存する。臨床の進展によって、B細胞リンパ腫は不活性リンパ腫及び侵襲性リンパ腫に分けられる。不活性リンパ腫は、一般的に発展が遅く、長年の疾患の安定性及び長期生存を保持することができるが、治癒することができない一方、侵襲性リンパ腫は、一般的に直ちに緊急治療を行う必要がある。有効な治療薬物が欠乏するため、現在、Bリンパ球腫瘍の治療効果は理想的ではない。
【0003】
CD3はT細胞受容体(T cell receptor、TCR)に接続されたT細胞表面のみに発現された分化抗原であり、T細胞活性化に必要な分子である。CD3はε、ζ、δ及びγの四本鎖を含み、機能性CD3はそのうちの二本鎖から形成された二量体である。抗CD3抗体は、T細胞表面のCD3と結合することができ、TCR-CD3分子と類似する効果を奏することによって、Tリンパ球を活性化する。
【0004】
CD20はB細胞マーカーであり、成熟し活性化されたBリンパ球に発現され、B細胞非ホジキンリンパ腫及び他のB-細胞悪性腫瘍において広く発現されるが、前駆体Bリンパ球、形質細胞及びリンパ性幹細胞等の細胞において発現されない。また、CD20抗原は明らかであり、識別しやすく体内の血清に遊離しないCD20が存在する。したがって、CD20は良好なBリンパ球腫瘍の治療標的である。
【0005】
CD3及びCD20はTリンパ球及びBリンパ球の特異性標的であるため、良好な成薬ポテンシャルを有するので、多くの研究グループがCD3とCD20を標的とする二重特異性抗体を既に構築しているか、又は構築中であり、一部について特許(例えばCN104640881A及びCN104558191A)を出願したが、分子構造及び開発技術の制限のため、二重特異性抗体は一般的に発現量が低く、重鎖がミスマッチし、抗体と抗原との結合力が低下し、精製プロセスが煩雑であるなどの面の問題がある。
【発明の概要】
【0006】
一態様において、本発明はFab軽鎖とFab重鎖を含む抗CD3一本鎖Fab分子であって、前記Fab軽鎖のC末端は、長さが45~80個のアミノ酸であるリンカーペプチドを介して前記Fab重鎖のN末端に接続される抗CD3一本鎖Fab分子を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記リンカーペプチドの長さは60個のアミノ酸である。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記リンカーペプチドはタンデムに繰り返されるGGGGS配列を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記抗CD3一本鎖Fab分子は、SEQ ID NO:6又は9に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0010】
一方、本発明はFab軽鎖とFab重鎖を含む抗CD20一本鎖Fab分子であって、前記Fab軽鎖のC末端は、長さが45~80個のアミノ酸であるリンカーペプチドを介して前記Fab重鎖のN末端に接続される抗CD20一本鎖Fab分子を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記リンカーペプチドの長さは60個のアミノ酸である。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記リンカーペプチドはタンデムに繰り返されるGGGGS配列を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記抗CD20一本鎖Fab分子はSEQ ID NO:10に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0014】
一方、本発明は前記抗CD3一本鎖Fab分子又は前記抗CD20一本鎖Fab分子の二重特異性抗体を製造するための使用を提供する。
【0015】
一方、本発明は、CD3に結合した第一部分とCD20に結合した第二部分を含む二重特異性抗体であって、前記第一部分は抗CD3一本鎖Fab分子であり、前記抗CD3一本鎖Fab分子は、Fab軽鎖とFab重鎖を含み、前記Fab軽鎖のC末端は、長さが45~80個のアミノ酸であるリンカーペプチドを介して前記Fab重鎖のN末端に接続され、前記第二部分は抗CD20抗体の軽鎖及び重鎖を含む二重特異性抗体を提供する。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記リンカーペプチドの長さは60個のアミノ酸である。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記リンカーペプチドはタンデムに繰り返されるGGGGS配列を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、CD3に結合する前記第一部分は、SEQ ID NO:6又は9に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記抗CD20抗体の軽鎖は、SEQ ID NO:7に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含み、前記抗CD20抗体の重鎖はSEQ ID NO:8に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記抗CD20抗体の軽鎖のC末端は前記リンカーペプチドを介して前記抗CD20抗体の重鎖のN末端に接続される。
【0021】
いくつかの実施形態において、CD20に結合する前記第二部分は、SEQ ID NO:10に示す配列と少なくとも90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0022】
一方、本発明はB細胞関連疾患を治療する薬物の製造における前記二重特異性抗体の使用を提供する。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記B細胞関連疾患は、B細胞白血病又はB細胞リンパ腫である。
【0024】
一方、本発明は請求項に記載の二重特異性抗体及び薬学上許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0025】
一方、本発明は患者においてB細胞関連疾患を治療する方法であって、前記二重特異性抗体又は前記医薬組成物を治療有効量で前記患者に投与することを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例1で製造されたリンカーペプチドの一本鎖Fab分子特性への影響を評価するための候補分子の構造概略図である。
図2】異なる長さのリンカーペプチドを有する上記候補分子が細胞において発現されて精製された後にSDS-PAGE電気泳動分析を行った結果を示す。
図3】異なる長さのリンカーペプチドを有する上記候補分子のCD3結合能力に対する検出結果を示す。
図4】本発明の二重特異性抗体YY0421及びYY0422の構造概略図である。α-CD3はCD3結合部分を指し、α-CD20はCD20結合部分を指す。
図5】本発明の二重特異性抗体及び対照としての二重特異性抗体REGN1979(図面でCon)とCD3(図5a)及びCD20(図5b)とが結合したウエスタンブロット検出結果を示す。
図6】本発明の二重特異性抗体及び対照としての二重特異性抗体REGN1979とRaji細胞との結合能力の検出結果を示す。
図7】本発明の二重特異性抗体及び対照としての二重特異性抗体REGN1979とJurkat細胞との結合能力の検出結果を示す。
図8】本発明の二重特異性抗体及び対照としての二重特異性抗体REGN1979のヒトDaudi細胞(図8)に対する殺傷結果を示す。縦軸は増殖の相対的な変化値を示す。
図9】本発明の二重特異性抗体及び対照としての二重特異性抗体REGN1979がヒトDaudi細胞に誘導されたヌードマウス皮下腫瘍本体の成長を抑制する結果を示す。横軸は日数を表し、縦軸は腫瘍体積(立方ミリメートル)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
特に断りのない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学的用語は当業者が一般的に理解する意味を有する。
【0028】
「抗体」とは、形質細胞(エフェクターB細胞)から分泌され、生体免疫系によって外来物質(ポリペプチド、ウイルス、細菌等)の中和に用いられる免疫グロブリンをいう。この外来物質は、対応して抗原と呼ばれる。クラシック抗体分子の基本構造は2本の同じ重鎖と2本の同じ軽鎖から構成された4量体である。アミノ酸配列の保存性の差異によって、重鎖はアミノ末端に位置する可変領域(VH)とカルボキシル末端に位置する定常領域(CH)とに分けられる。軽鎖も同様に、アミノ末端に位置する可変領域(VL)と、カルボキシル末端に位置する定常領域(CL)とに分けられる。1本の重鎖と1本の軽鎖の可変領域が互いに作用して抗原結合部位(Fv)を形成する。軽鎖の定常領域は、1つのIgドメインのみを含み、重鎖の定常領域は抗体種類(Isotype)によって異なる数のIgドメインを含み、例えばIgG、IgA及びIgDは、CH1、CH2、及びCH3の3つのIgドメインを含み、IgM及びIgEは、CH1、CH2、CH3及びCH4の4つのIgドメインを含む。
【0029】
「Fab」とは、抗原結合断片(fragment of antigen binding)を指し、抗体の1本の完全な軽鎖及び重鎖のVH及びCH1ドメインを含む。本発明のいくつかの実施形態において、短いリンカーペプチドによりFabにおける軽鎖のC末端を重鎖のN末端に接続し、「一本鎖Fab(scFab)分子」を形成する。説明を容易にするために、Fabに関するコンテキストにおいて、該一本鎖Fab分子において軽鎖部分を「Fab軽鎖」と呼び、重鎖部分を「Fab重鎖」と呼ぶ。いくつかの実施形態において、Fab重鎖はC末端に接続されたFcセグメントを含んでもよい。
【0030】
「リンカーペプチド」について、本明細書は実施例においてより詳細に説明し、それは40~80個(例えば50、52、55、58、60、62、65、70、75又は78個)のアミノ酸の長さを有してもよい。リンカーペプチドの使用は、分子構造の安定化と、二重特異性抗体における軽鎖ミスマッチの防止とに寄与する。
【0031】
「Fcセグメント」はフラグメント結晶化領域(fragment crystallizable region)であり、IgG抗体のCH2及びCH3ドメインに対応する。IgGは、そのFcセグメントが表面に対応する受容体を有する細胞と結合することにより、異なる生物学的作用、例えばオプソニン作用(opsonization)及び抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を生成することができる。タンパク質加水分解酵素(例えばパパイン)により抗体分子を加水分解して抗体Fcセグメントを得ることができる。いくつかの実施形態において、「Fcセグメント」は抗体の重鎖のヒンジ領域(hinge region)を含んでもよい。いくつかの実施形態において、「Fcセグメント」はIgG、IgA、IgD、又はIgM抗体に由来する。
【0032】
いくつかの実施形態において、CD3に結合した一本鎖Fab分子は、CD3結合部分として他方の抗原結合部分に結合し、CD3と該他方の抗原を標的とする二重特異性抗体を形成する。いくつかの実施形態において、該一本鎖Fab分子は、CD3結合部分としてCD20結合部分に結合し、CD3とCD20を標的とする二重特異性抗体を形成する。いくつかの実施形態において、該一本鎖Fab分子は、CD3結合部分として複数種の別の抗原結合部分に結合し、多重特異性抗体を形成する。
【0033】
いくつかの実施形態において、CD20に結合した一本鎖Fab分子は、CD20結合部分として他方の抗原結合部分に結合し、CD20と該他方の抗原を標的とする二重特異性抗体を形成する。いくつかの実施形態において、該一本鎖Fab分子は、CD20結合部分としてCD3結合部分に結合し、CD3とCD20を標的とする二重特異性抗体を形成する。いくつかの実施形態において、該一本鎖Fab分子は、CD20結合部分として複数種の別の抗原結合部分に結合し、多重特異性抗体を形成する。
【0034】
本発明の二重特異性抗体におけるCD20結合部分とCD3結合部分との結合は、共有結合(例えばFcセグメントの間にジスルフィド結合が形成されることにより)又は非共有結合であってもよい。
【0035】
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体においてCD3結合部分の軽鎖及び重鎖可変ドメインはOKT3モノクローナル抗体又はL2Kモノクローナル抗体(WO 2004106380)に由来する。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体においてCD20結合部分の軽鎖及び重鎖可変ドメインは、リツキシマブ(Rituximab)又はオファツムマブ(Ofatumumab)に由来する。
【0036】
抗体が抗原に「結合」すると言及する場合に、該抗体は該抗原を識別して検出可能に結合することを指す。抗体と抗原との結合は、公知の抗原抗体結合測定方法、例えばELISAにより測定されてもよい。なお、抗体抗原結合の解離平衡定数KDは、抗体と対応する抗原との結合親和性を示すために用いてもよい。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態において、Fcセグメントの「ノブインホール(Knobs-into-holes)」を利用して二重特異性抗体における重鎖ミスマッチを防止する。この技術はGenentech社によって開発された(米国特許5,731,168を参照)。具体的な方法としては、そのうちの1つの抗体の重鎖CH3領域の366位の体積が小さいトレオニン(T)を、体積の大きいチロシン(Y)に突然変異し、突出した「Knobs(ノブ状)」構造(T366Y、(Kabat番号システム))を形成するとともに、別の抗体重鎖CH3領域の407位の大きいチロシン(Y)残基を小さいトレオニン(T)に突然変異し、凹んだ「holes(穴状)」構造(Y407T)を形成する。「Knobs-into-holes」構造の立体障害効果により二種類の異なる抗体重鎖間の正確な組み立てを実現する。突然変異後、製品の正確な組立率が明らかに向上し、量産の要求を満たすことができる。しかし、重鎖CH3のこのような再編方式は、抗体構造の安定性を低下させ、この欠点を克服するために、研究者はファージディスプレイ技術によりランダム突然変異選別を行い、より安定した「3+1」モードであるT366W突然変異を構築して突出した「Knobs」型を形成し、3つのアミノ酸が突然変異(T366S、L368A及びY407V)して凹んだ「holes」型を形成する。Knobs-holes構造設計は、2種類の異種抗体重鎖の組み立てに役立つ。
【0038】
「配列相同性(Sequence identity)」とは、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列の間の類似度を指し、一般的に相同性の百分率で表し、目視検査又はコンピュータプログラム(例えばBLAST)により決定されてもよい。本発明のいくつかの実施形態において、CD3に結合した一本鎖Fab分子はSEQ ID NO:6に示すアミノ酸配列を含み、又はSEQ ID NO:6に示す配列と少なくとも80%(例えば、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%や100%)の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体においてCD3結合部分は、SEQ ID NO:6に示すアミノ酸配列を含み、又はSEQ ID NO:6に示す配列と少なくとも80%(例えば、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%や100%)の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体においてCD20結合部分の軽鎖はSEQ ID NO:7に示すアミノ酸配列を含み、又はSEQ ID NO:7に示す配列と少なくとも80%(例えば、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%や100%)の配列相同性を有するアミノ酸配列を含み、二重特異性抗体においてCD20結合部分の重鎖は、SEQ ID NO:8に示すアミノ酸配列を含み、又はSEQ ID NO:8に示す配列と少なくとも80%(例えば、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%や100%)の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体においてCD3結合部分は、SEQ ID NO:9に示すアミノ酸配列を含み、又はSEQ ID NO:9に示す配列と少なくとも80%(例えば、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%や100%)の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。本発明のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体においてCD20結合部分は、SEQ ID NO:10に示すアミノ酸配列を含み、又はSEQ ID NO:10に示す配列と少なくとも80%(例えば、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%や100%)の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0041】
当業者であれば理解されるように、本明細書が提供する具体的な配列を基に、少数のアミノ酸に対して置換、削除、添加を行って得られた生成物と対応する抗原との結合能力又は生物学的活性を検証し又はスクリーニングすることにより、本発明の提供するCD3又はCD20に結合した一本鎖Fab分子又は二重特異性抗体の対応する変異体を取得することができ、これらの変異体も本発明の範囲に含まれるべきである。
言及された医薬組成物について、使用された「薬学上許容される担体」は安全に投与可能な固体又は液体希釈剤、充填剤、酸化防止剤、安定剤などの物質を指し、これらの物質は過度の有害な副反応を引き起こすことなくヒト及び/又は動物の投与に適しており、また、それにおける薬物又は活性剤の活性を維持することに適している。
【0042】
「治療有効量」とは、被験者体内で臨床医師の所望する生物学的又は医学的な反応を引き起こすのに十分な活性化合物の量を指す。本発明の二重特異性抗体の「治療有効量」は当業者により投与経路、被験者の体重、年齢、病状などの要因に基づいて決定されてもよい。例えば、典型的な日用量範囲は体重1kgあたり0.01mg~100mgの活性成分であってもよい。
【0043】
以下、具体的な実施例を参照して本発明をさらに説明する。
【0044】
実施例1.抗CD3一本鎖Fab分子を構築するために採用された可撓性リンカーペプチドの長さのスクリーニング
Fab分子の空間構造特徴から、本発明者らはCD3を標的とする一本鎖Fab分子を設計し、すなわち可撓性リンカーペプチドにより軽鎖と、それに対応する重鎖可変領域、及びCH1セグメントと「ノブ状」Fcセグメントとを接続し、軽鎖及び重鎖可変領域配列はL2K抗体に由来する。形成された一本鎖Fab分子はSEQ ID NO:6に示すアミノ酸配列を有する。
【0045】
可撓性リンカーペプチドの長さが3.5nm以上であり、アミノ酸の隣接するペプチド結合の距離が0.38nmであることを考慮するとともに、scFabの空間構造に一定の可撓性を保持する必要があることを考慮すると、本発明者らは長さが26~80個のアミノ酸である複数の可撓性リンカーペプチドを設計し、そのうちの5つの代表的なリンカーペプチドの長さ及び配列を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
1.1 各長さの可撓性リンカーペプチドの発現レベルへの影響
オーバーラップPCR技術により上記一本鎖Fab分子のコード核酸配列及び「穴状」Fcセグメントのコード核酸配列をそれぞれ合成し、真核発現ベクターpcDNA(Life Technologiesから購入)にそれぞれクローニングした。次に、該一本鎖Fab分子のコード核酸配列を含む発現ベクターと「穴状」Fcセグメントのコード配列を含む発現ベクターを1.5:1の割合で総量200μgの混合物として混合し、質量体積比1:2.5でトランスフェクション試薬PEIと混合してDNA-トランスフェクション試薬複合体として製造し、対数増殖期にある293F細胞200mLに一滴ずつ添加した。トランスフェクション後の5~7日に、細胞上澄液を収集し、0.45μmの濾過膜で濾過した後、結合緩衝液(12.15gのTrisに適量の滅菌水を加えて溶解し、pHを7.0に調整し、8.78gのNaClを添加して1Lまで定容したもの)で洗浄されたアフィニティークロマトグラフィーゲルカラム(Protein A)に上澄液を添加してから、溶出液(7.5gのグリシンに適量の再蒸留水を添加して溶解し、pHを3.5に調整し、8.78gのNaClを加えて、1Lまで定容したもの)により溶出した。溶出成分を1M Tris-HCl、pH9.0で中和し、各長さの可撓性リンカーペプチドを介して接続された候補分子(構造概略図を図1に示す)を得た。
【0048】
20μLの溶出液を取り、ローディング緩衝液を加えた後、95℃で10分間変性し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動でタンパク質を分離し、クマシーブリリアントブルー染色でバンドを表示した。染色結果を図2に示す。レーン1~5は26、32、45、60及び80個のアミノ酸の長さの可撓性リンカーペプチドを含む候補分子にそれぞれ対応する。図面から分かるように、60個のアミノ酸の長さの可撓性リンカーペプチドを用いて構築された候補分子(図中の黒色のブロックに付されたバンドであって、Fcセグメントを含むFab一本鎖分子である)の発現量が僅かに高く、不純物のバンドが少なかった。
【0049】
1.2 各長さの可撓性リンカーペプチドの熱安定性への影響
上記1.1部分で精製されたタンパク質(候補分子)に対して37℃、24時間の熱処理及び50℃、2時間の熱処理をそれぞれ行い、4℃処理と同じ時間で放置された抗体とともにSEC-HPLC検出を行った。SEC-HPLC検出操作としては、TSK-GELG3000SWXLゲルクロマトグラフィーカラム(TOSOH社)を選択し、移動相(50mMのリン酸塩緩衝液、150mMの塩化ナトリウム、pH7.0)を用いてクロマトグラフィーカラムを平衡化した後にUVで検出する。異なる温度で処理した50μLのタンパク質をそれぞれ1mL/minの流速でクロマトグラフィーカラムに通し、各サンプルごとに20分間運行した後に結果図をフィッティングし、目的とするタンパク質の純度を算出した。
【0050】
結果を表2に示す。全体的には、可撓性リンカーペプチドの長さの延長に伴い、抗体の熱安定性もよくなり、すなわち、4℃の状態でのタンパク質との差が小さくなる。50℃で処理する時に、60個のアミノ酸の長さの可撓性リンカーペプチドから構築された候補分子は最適な熱安定性を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
1.3 各長さの可撓性リンカーペプチドの抗原結合能力への影響
上記1.1部分で精製された抗体(すなわち候補分子)とCD3抗原との結合能力をELISAにより検出した。概略ステップは以下のとおりである。ELISAプレートに濃度0.5μg/mLのCD3抗原(Sino Biologics社、SEK10981)を100μLコーティングし、4℃で一夜放置した。2%のBSAを含有するPBS緩衝液で洗浄した後、2%のBSAを含有するPBSを用いて室温で1時間ブロックした後に3回洗浄した。次に、勾配希釈された抗体100μLを添加して室温で1時間インキュベートしてから3回洗浄し、さらにホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIgGの二次抗体(Brthyl社、1:5000希釈)を100μL加えて室温で1時間インキュベートした。3回洗浄した後、TMB発色液を100μL添加して発色させ、マイクロプレートリーダーから450nm波長での吸光度値を読み取った。
【0053】
図3に示す結果から、大体に可撓性リンカーペプチドの長さの増加に伴い、EC50値が減少し、すなわち結合能力が向上する。これらのうち、60個のアミノ酸の長さの可撓性リンカーペプチドから構築された候補分子は、最適な抗原結合能力(EC50値が最小である)を示す。
各長さの可撓性リンカーペプチドの発現レベル、熱安定性及び抗原結合能力への影響を総合的に考慮すると、本発明者らは60個のアミノ酸の長さの可撓性リンカーペプチドを後続の二重特異性抗体の構築に用いるようにした。
【0054】
実施例2.二重特異性抗体の製造
CD3結合部分(アミノ酸配列がSEQ ID NO:6である抗CD3一本鎖Fab分子)のコードDNA断片及び抗CD20抗体の軽鎖及び重鎖(アミノ酸配列はそれぞれSEQ ID NO:7及びSEQ ID NO:8である)のコードDNA断片をそれぞれ合成し、組換DNA、例えばオーバーラップPCR技術を利用してそれらを真核発現ベクターpcDNA(Life Technologiesから購入)にそれぞれクローニングしてから、得られたCD3結合部分のコードDNA配列を含む発現ベクター、抗CD20抗体軽鎖のコードDNA配列を含む発現ベクター、及び抗CD20抗体重鎖のコードDNA配列を含む発現ベクターを質量比1.5:2:1の割合で均一に混合した。総量200μgの上記発現ベクターの混合物とトランスフェクション試薬PEIを質量体積比1:2.5で均一に混合してDNA-トランスフェクション試薬複合体として製造し、対数増殖期にある293F細胞200mLに一滴ずつ添加した。トランスフェクション後の5~7日に、細胞上澄液を収集し、0.45μmの濾過膜で濾過した後、結合緩衝液(12.15gのTrisに適量の滅菌水を加えて溶解し、pHを7.0に調整し、8.78gのNaClを添加して1Lまで定容したもの)で洗浄されたアフィニティークロマトグラフィーゲルカラム(Protein A)に上澄液を添加してから、溶出液(7.5gのグリシンに適量の再蒸留水を添加して溶解し、pHを3.5に調整し、8.78gのNaClを加えて、1Lまで定容したもの)により溶出した。溶出成分を1M Tris-HCl pH9.0で中和し、本発明の二重特異性抗体YY0421を得た。同様な方式で本発明の二重特異性抗体YY0422を製造し、ここでCD20結合部分の軽鎖及び重鎖はリンカーペプチドを介して接続される(そのCD3結合部分のアミノ酸配列はSEQ ID NO:9に示すとおりであり、CD20結合部分のアミノ酸配列はSEQ ID NO:10に示すとおりである)。二重特異性抗体YY0421及びYY0422の構造概略図を図4に示す。
【0055】
実施例3 ウエスタンブロット検出
3.1 本発明の二重特異性抗体によるCD3識別能力の検出
細胞形態が健康で、コンフルエンシーが80%に達するJurkat細胞を収集し、遠心分離して上澄みを捨てた。細胞溶解液を添加し、95℃で10分間変性し、さらにポリアクリルアミドゲル電気泳動で細胞タンパク質を分離した。セミドライ法でタンパク質をニトロセルロース膜(NC膜)に転移し、5%の脱脂乳を用いて室温で1時間ブロックした。本発明の抗体YY0421、YY0422又は対照抗体REGN1979(CD3及びCD20二重特異性抗体、WO2014047231及びUS20170355767を参照)を添加し、室温で1時間インキュベートし、PBSTで洗浄した後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識二次抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。PBSTで洗浄した後、化学発光試薬を利用して発色させ、暗室で現像した。
【0056】
ウエスタンブロットの検出結果を図5aに示す。結果から明らかなように、ヒトCD3及びCD20の両方を標的とする二重特異性抗体YY0421及びYY0422は、タンパク質レベルでCD3抗原を効果的に識別することができる。
【0057】
3.2 本発明の二重特異性抗体によるCD20識別能力の検出
細胞形態が健康で、コンフルエンシーが80%に達するJurkat細胞を収集し、遠心分離して上澄みを捨てた。細胞溶解液を添加し、95℃で10分間変性し、さらにポリアクリルアミドゲル電気泳動で細胞タンパク質を分離した。セミドライ法でタンパク質をニトロセルロース膜(NC膜)に転移し、5%の脱脂乳を用いて室温で1時間ブロックし、本発明の抗体YY0421、YY0422又は対照抗体REGN1979を添加し、室温で1時間インキュベートし、PBSTで洗浄した後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識二次抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。PBSTで洗浄した後、化学発光試薬を利用して発色させ、暗室で現像した。
【0058】
ウエスタンブロットの検出結果を図5bに示す。結果から明らかなように、ヒトCD3及びCD20の両方を標的とする二重特異性抗体YY0421及びYY0422は、タンパク質レベルでCD20抗原を効果的に識別することができる。
【0059】
実施例4.フローサイトメトリーによる本発明の二重特異性抗体と細胞表面CD3及びCD20との結合の検出
ヒトRaji細胞及びJurkat細胞を6ウェルプレートに接種し、20時間培養してからパンクレリパーゼ(EDTAを含まない)で消化して細胞を収集し、1000rpm、室温で5分間遠心分離しPBSで2回洗浄し、YY0421、YY0422又は対照抗体REGN1979とともに氷上で1時間インキュベートした。PBSで洗浄してから氷上でFITC標識ウサギ抗ヒトIgG(Fab)とともに1時間インキュベートし、フローサイトメトリーにより検出した。
【0060】
フローサイトメトリーの検出結果を図6及び図7に示す。結果から明らかなように、本発明のヒトCD3及びCD20を標的とする二重特異性抗体YY0421及びYY0422は細胞表面のヒトCD3(図6)及びCD20(図7)と高親和性を有する。
【0061】
実施例6.本発明の二重特異性抗体によるCD8+T細胞の腫瘍細胞への殺傷の媒介
形態が健康で、終濃度5μMのCFSEで染色されたヒトDaudi細胞を5×10で96ウェルプレートに接種した。0.5%のウシ胎児血清を含有する培地で一夜飢餓した後、E/T比5:1でCD8T細胞を添加した。実験を2ロットに分けて行い、ロットごとに細胞を3群に分けた(群ごとに3ウェル)。第1ロットにおいて培地(図8aではBlank)、対照抗体REGN1979(図8aではControl)、本発明の抗体YY0421をそれぞれ加えた。第2ロットにおいて培地(図8bではBlank)、対照抗体REGN1979(図8bではControl)及び本発明の抗体YY0422をそれぞれ加えた。その後、セルインキュベータにて4時間培養し続けた。上澄みと細胞懸濁液を収集し、遠心分離した後に上澄みを捨ててPBSで再懸濁し、次に1μg/mLのPIを添加し、フローサイトメトリーによりCFSE陽性細胞に占めるCFSE、PI両陽性細胞の割合を検出することにより、CD8Tの腫瘍細胞への殺傷を媒介する二重特異性抗体の能力を検出した。
【0062】
殺傷結果を図8に示す。結果から分かるように、本発明のヒトCD3及びCD20の両方を標的とする二重特異性抗体YY0421及びYY0422は、T細胞のDaudi細胞への殺傷を効果的に媒介することができる。
【0063】
実施例7.ヌードラットにおける移植腫瘍の検出
対数増殖期で形態が良好である5×10個のヒトDaudi細胞をSPFグレードBALB/Cヌードマウスの前腋窩皮膚に注射し、注射した後の6日目にPBMC細胞(2.5×10、ATCCから購入)及び本発明の二重特異性抗体又は対照抗体REGN1979をそれぞれ10μg注射した。皮下腫瘍の最大長径と最大横径を毎日測定し、腫瘍体積を計算し、ヌードマウスの食事や体重等の状況を観察、記録した。28日目に頸椎脱臼法で全てのマウスを殺した直後、腫瘍を分離し、撮影して秤量した。
【0064】
ヌードマウスにおける移植腫瘍の検出結果を図9に示す。結果から明らかなように、本発明のヒトCD3及びCD20の両方を標的とする二重特異性抗体は良好な生物学的活性を有し、ヒトDaudi細胞に誘導されたヌードマウス皮下腫瘍本体の増殖を顕著に抑制することができる。
【0065】
本明細書に言及されたいくつかのアミノ酸配列は以下のとおりである。
YY0421 CD3結合部分のアミノ酸配列SEQ ID NO:6
DIQLTQSPAIMSASPGEKVTMTCRASSSVSYMNWYQQKSGTSPKRWIYDTSKVASGVPYRFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAATYYCQQWSSNPLTFGAGTKLELKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSDIKLQQSGAELARPGASVKMSCKTSGYTFTRYTMHWVKQRPGQGLEWIGYINPSRGYTNYNQKFKDKATLTTDKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARYYDDHYCLDYWGQGTTLTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPCQEEMTKNQVSLWCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLG
YY0421 CD20結合部分の軽鎖アミノ酸配列SEQ ID NO:7
EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYDASNRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQRSNWPITFGQGTRLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC

YY0421 CD20結合部分の重鎖アミノ酸配列SEQ ID NO:8
EVQLVESGGGLVQPGRSLRLSCAASGFTFNDYAMHWVRQAPGKGLEWVSTISWNSGSIGYADSVKGRFTISRDNAKKSLYLQMNSLRAEDTALYYCAKDIQYGNYYYGMDVWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVCTLPPSQEEMTKNQVSLSCAVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLVSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLG

YY0422 CD3結合部分のアミノ酸配列SEQ ID NO:9
DIQLTQSPAIMSASPGEKVTMTCRASSSVSYMNWYQQKSGTSPKRWIYDTSKVASGVPYRFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAATYYCQQWSSNPLTFGAGTKLELKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSDIKLQQSGAELARPGASVKMSCKTSGYTFTRYTMHWVKQRPGQGLEWIGYINPSRGYTNYNQKFKDKATLTTDKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARYYDDHYCLDYWGQGTTLTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPCQEEMTKNQVSLWCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLG

YY0422 CD20結合部分のアミノ酸配列SEQ ID NO:10
EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYDASNRATGIPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQQRSNWPITFGQGTRLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGECGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGRSLRLSCAASGFTFNDYAMHWVRQAPGKGLEWVSTISWNSGSIGYADSVKGRFTISRDNAKKSLYLQMNSLRAEDTALYYCAKDIQYGNYYYGMDVWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVCTLPPSQEEMTKNQVSLSCAVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLVSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLG
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8a
図8b
図9
【配列表】
2022545234000001.app
【国際調査報告】