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特表2022-545264珪酸塩を含む球状天然黒鉛をベースにしたリチウムイオン電池アノード材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-26
(54)【発明の名称】珪酸塩を含む球状天然黒鉛をベースにしたリチウムイオン電池アノード材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20221019BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221019BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20221019BHJP
   C01B 32/205 20170101ALI20221019BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M4/36 B
C01B32/205
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511261
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(85)【翻訳文提出日】2022-04-18
(86)【国際出願番号】 IB2020000685
(87)【国際公開番号】W WO2021033027
(87)【国際公開日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】62/889,816
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522065428
【氏名又は名称】シラー リソーシーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】230121430
【弁護士】
【氏名又は名称】安井 友章
(72)【発明者】
【氏名】デ サヴィオ シルバ,カミラ
(72)【発明者】
【氏名】バーンズ,ピーター,イアン
(72)【発明者】
【氏名】ベルカン,イェンス
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムス,ジョセフ,ラッセル
(72)【発明者】
【氏名】チェンバレン,リチャード,ヴィ
(72)【発明者】
【氏名】シー,ジェイ,ジエ
(72)【発明者】
【氏名】オネルド,トード パー,イェンス
(72)【発明者】
【氏名】ランペ-オネルド,マリア,クリスティアナ
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AA17
4G146AB01
4G146AB07
4G146AC12B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD23
4G146BA02
4G146BA18
4G146BA22
4G146BA24
4G146BC04
4G146BC36B
4G146CB19
4G146CB35
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB08
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA14
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】 Liイオン電池用の炭素アノードを製造するための材料及び新規の方法が記載されている。これらの材料は、物理的特性を改良するために処理された天然フレーク黒鉛を使用するが、経済的見地からは除去することが困難な珪酸塩及びその他の珪素含有鉱物を含む残留不純物を保持している。電池アノード材料を製造する目的のためには、さらなる精製が必要であり、従来はフッ化水素酸を使用しており、追加の大きなコスト及び環境管理を必要としていた。
【解決手段】 代替となる新規なプロセスは、フッ化水素酸を用いる標準的な酸精製と比較して、より低コストで環境に優しい方法となる。リチウムイオン電池アノードの製造において、炭素質被覆を含む非精製球状化黒鉛材料の直接黒鉛化のための方法が提供される。これら方法を用いて製造された材料は、人造黒鉛及び粒子状珪素又はSiO材料と混合され、特性を向上するようにしてもよい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆黒鉛材料の熱処理のための方法であって、
a.天然黒鉛材料を炭素質材料と組み合わせることと、
b.天然黒鉛材料と炭素質材料とを組み合わせたものに、黒鉛純度を増大し、炭素質材料の熱分解、炭化及び/又は黒鉛化を生起させるのに有効な温度処理工程を施すことと、
を備え、
これにより、リチウムイオン電池アノード材料として使用するのに有効な被覆黒鉛を製造する、方法。
【請求項2】
炭素質材料は、石油タールピッチ、コールタールピッチ、高分子材料、炭化水素液体及び炭化水素ガスのうちの少なくとも1つを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭素質材料は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール及びポリスチレンからなる群から選択される高分子材料である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
温度処理工程は、被覆黒鉛の直接黒鉛化を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
温度処理工程は、天然黒鉛中に珪素ベース不純物を少なくとも約0.5重量%珪素のレベルで保持する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
温度処理済被覆黒鉛を、人造黒鉛、SiO又は珪素前駆物質のうちの少なくとも1つと混合することを更に備える、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
天然黒鉛材料は酸処理工程を施されない、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
天然黒鉛材料は酸処理工程を施されるが、当該酸処理工程はHFによる処理を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法により製造された被覆黒鉛材料。
【請求項10】
請求項9に記載の被覆黒鉛材料から少なくとも部分的に製造されたリチウムイオン電池アノード。
【請求項11】
珪素不純物を実質的に除去することなく天然黒鉛から処理された、リチウムイオン電池アノード材料のための前駆物質黒鉛材料。
【請求項12】
処理済天然黒鉛は、約0.5から約2.0重量%珪素を保持している、請求項11に記載の前駆物質黒鉛材料。
【請求項13】
保持珪素は、珪酸塩ベース鉱物及び/又は炭化珪素ベース鉱物の形態で珪素を含む、請求項11に記載の前駆物質黒鉛材料。
【請求項14】
天然黒鉛は、適宜Fe、Al、Na、Ca、Mn、Mg、V及びTi混合物を実質的に除去するように処理されている、請求項11に記載の前駆物質黒鉛材料。
【請求項15】
他の金属不純物が、約0.05重量%未満のレベルで存在する、請求項11に記載の前駆物質黒鉛材料。
【請求項16】
請求項11に記載の前駆物質黒鉛材料から少なくとも部分的に製造されたリチウムイオン電池アノード材料。
【請求項17】
少なくとも約0.5重量%残留珪素を含む黒鉛を備え、残留珪素は、天然黒鉛により保持されている、リチウムイオン電池アノード材料。
【請求項18】
少なくとも約0.5重量%残留珪素を含む黒鉛を備え、黒鉛は、炭化又は黒鉛化されて炭素質被覆を形成する炭素質材料と組み合わされ、残留珪素は、天然黒鉛により保持されている、リチウムイオン電池アノード材料。
【請求項19】
炭素質材料は、石油タールピッチ、コールタールピッチ及びポリマー材料のうちの少なくとも1つを備える、請求項18に記載のリチウムイオン電池アノード材料。
【請求項20】
炭素質材料は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール及びポリスチレンからなる群から選択されたポリマー材料である、請求項19に記載のリチウムイオン電池アノード材料。
【請求項21】
炭素質材料は、約200℃から300℃の間の軟化点を有する、請求項18に記載のリチウムイオン電池アノード材料。
【請求項22】
炭素質材料は、200℃未満の軟化点を有する、請求項18に記載のリチウムイオン電池アノード材料。
【請求項23】
炭素質材料は、黒鉛と組み合わされて炭化及び/又は黒鉛化されて炭素質被覆を形成する前に、SiO及び/又は珪素前駆物質と混合されている、請求項18に記載のリチウムイオン電池アノード材料。
【請求項24】
炭素質材料と組み合わされた黒鉛は、2850℃未満の炭化温度で熱処理を施されている、請求項18に記載のリチウムイオン電池アノード材料。
【請求項25】
炭化後、黒鉛及び炭素質材料は、2850℃を超える温度で更に熱処理を施され、被覆黒鉛から不純物を昇華させる、請求項24に記載のリチウムイオン電池アノード材料。
【請求項26】
黒鉛又は被覆黒鉛は、人造黒鉛と混合されて、混合リチウムイオン電池アノード材料を形成する、請求項18に記載のリチウムイオン電池アノード材料。
【請求項27】
黒鉛又は被覆黒鉛に対する人造黒鉛の比率は、20/80と80/20との範囲内である、請求項26に記載のリチウムイオン電池アノード材料。
【請求項28】
黒鉛又は被覆黒鉛は、SiO及び/又は1つ以上の珪素ベース材料と混合されている、請求項18に記載のリチウムイオン電池アノード材料。
【請求項29】
リチウムイオン電池アノード前駆物質材料を製造する方法であって、少なくとも約0.5重量%珪素を保持している天然黒鉛材料に、先行する化学的精製工程なしに、温度処理工程を施し、黒鉛純度を、リチウムイオン電池アノード材料として使用するのに有効なレベルまで増大させることを備える、方法。
【請求項30】
天然黒鉛は、約0.5から約2.0重量%珪素を保持している、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
温度処理工程は、珪素含有不純物以外の金属不純物を実質的に除去するのに有効である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
温度処理工程は、適宜Fe、Al、Na、Ca、Mn、Mg及びV混合物を実質的に除去するのに有効である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
珪素含有不純物以外の金属不純物は、約0.05重量%未満のレベルにまで除去される、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
請求項29に記載の方法によって製造されたリチウムイオン電池アノード前駆物質材料。
【請求項35】
請求項34に記載のリチウムイオン電池アノード前駆物質材料から少なくとも部分的に製造されたリチウムイオン電池アノード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は、2019年8月21日に出願され、62/889,816号を指定された、名称「球状天然黒鉛をベースにしたリチウムイオン電池アノード材料」の仮出願の優先権を主張するものである。前記仮出願の全内容は、参照により本件明細書に組み込まれる。
【0002】
本件開示は、特に、Liイオン電池用の炭素アノードを製造するのに有利に利用され得る天然黒鉛を処理するための方法を対象とする。また、本件開示は、Liイオン電池用の炭素アノードの製造に特に有用な処理済天然黒鉛を対象とする。
【0003】
本件開示の例示的な実施形態では、Liイオン電池アノードの製造において、炭素質被覆を含む球状化黒鉛材料を直接黒鉛化するための方法が提供される。開示された直接黒鉛化方法は、リチウムイオン電池アノードの製造に適した材料を生成するために、完全に温度をベースにしてもよく、即ち、化学的精製工程を全面的に排除してもよく、又は、フッ化水素(HF)酸処理を排除した化学的精製工程を含んでもよい。
【0004】
本件開示のさらなる例示的な実施形態では、天然黒鉛は、品位を向上させるために処理されるが、経済的見地からは排除することが困難な珪酸塩及び他の珪素含有鉱物を含む残留珪素ベース不純物を保持する。開示された方法を用いて生成された処理済材料は、人造黒鉛及び/又は粒子状珪素及び/又は酸化珪素(SiO)材料と混合して性能を向上させてもよい。
【背景技術】
【0005】
天然黒鉛は、リチウムへのインターカレーションが可能であるため、従来、Liイオン電池のためのアノード材料として使用されてきた。天然黒鉛は、か焼コークスから製造された黒鉛のような人工的に製造された黒鉛に比べて低コストであるため人気である。現在、天然黒鉛鉱石は露天掘りと坑内掘りとの両方で採掘されている。黒鉛含有鉱石は、破砕、粉砕、選別、浮遊及び乾燥により、母岩から黒鉛鉱物を遊離させ、選別鉱物を高濃度バルク製品に精製する一連の機械的処理により処理される。
【0006】
これらプロセスから得られた天然黒鉛鉱物精鉱から、サイズ及び純度に基づいて区別される一定範囲のフレーク製品が得られる。続く分級では、特定の用途に対応するフレークのサイズ分布のカテゴリーに精鉱を分離する。浮遊選鉱のような物理的な選鉱プロセスでは、典型的には、約94%-98%の総炭素(TC)含有量に達する純度レベルを達成することが可能である。
【0007】
精鉱中の不純物は、黒鉛質母岩と一致する自然発生の鉱物であり、別名脈石鉱物である。脈石鉱物は、典型的には、精鉱中の黒鉛から遊離しているが、黒鉛フレークに付着し又は黒鉛フレーク内に埋め込まれていることもある。黒鉛精鉱中の脈石鉱物の大部分は、珪酸塩、又は、石英、長石、層状珪酸塩を含む他の珪素含有鉱物である。また、黒鉛精鉱は、アルミニウム及び鉄の酸化物に加えて、リチウムイオン電池用途のアノード中には望ましくない/有害な他の混合物を充分な量含有している。
【0008】
より一般的には、リチウムイオン電池中の異質で制御されていない混合物には、電池の性能及び信頼性を低下させる副反応を発生させる高いリスクがある。天然のプロセス及び形成の結果として、不純物は均一であることがあり又は均一ではないことがあり、採算の合う最高レベルまで炭素材料、例えば黒鉛を精製することにより軽減可能な制御リスクを示している。不純物を管理するために、電池用アノード材料の業界では、不純物を除去して、非常に低い灰分レベル(99.9%を超えるTC、好ましくは99.98%を超えるTC)を達成する化学的及び熱的な精製プロセスが確立されている。
【0009】
リチウムイオン電池の用途では、天然黒鉛精鉱は、業界で採用されている厳格な要件を満たすために、追加の様々な処理の段階を施されなければならない。具体的には、フレーク黒鉛は、サイズ、密度、形態、高純度及び表面処理について、非常に特有な物理的及び化学的特性を得るために処理を施される。この処理は、典型的には、黒鉛粒子の機械的な粉砕及び成形を含み、球状化と称される処理を介して、精製プロセス、通常は化学的精製プロセスが続く。リチウムイオン電池アノード活物質の前駆物質の製造のために、典型的には60μm-150μm(d50)の範囲となる、より小さなフレークサイズ分布の天然黒鉛が供給材料として使用される。最終用途のための特定の粉末形態の要件を満たすためには、通常、粉砕による黒鉛の追加のサイズの縮小が必要である。
【0010】
熱精製(即ち、非化学精製)では、不純物を蒸発/昇華させるのに充分な温度で熱処理が行われなければならない。特に、珪酸塩ベース鉱物の除去には、人造黒鉛の製造に適用される黒鉛化温度に相当する範囲の非常に高い温度が必要である。このプロセスは、危険を伴うことがあり、エネルギー/時間を浪費し、従って高コストである。また、熱精製には、熱処理の様々な段階において黒鉛粒子から放出されるガスを除去及び管理可能な炉システムが必要である。
【0011】
一方、化学精製は、黒鉛から残留鉱物を浸出させるアルカリ処理と酸処理との両方によって行われ得る。酸処理のほうがより一般的に行われ、典型的には、塩酸(HCL)、硫酸(HSO)及びフッ化水素(HF)酸の混合物を用いる。化学的精製の後、製品は残留する酸及び塩を除去するために洗浄される。
【0012】
化学又は熱精製の後、黒鉛は、典型的には99.90%を超える炭素を含有する。
【0013】
除去が最も困難な鉱化作用は一般的に珪素元素をベースとしており、この不純物については珪酸塩の形態が最も顕著である。熱精製では、炭化珪素の存在による問題が大きく、炭化珪素は、酸化珪素の分解と、その結果として起こる珪素の炭素との反応の副産物として形成される。炭化珪素は、安定した化合物であり、2600℃から2800℃より低い温度では昇華しない。化学精製プロセスでは、黒鉛から珪素を含有する鉱物を効率よく溶解できるため、好ましくはフッ化水素酸が使用される。好ましくないことに、HFを使用した化学精製プロセスは、環境、健康及び安全上の懸念と結びついており、環境管理が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これまでの努力にもかかわらず、費用対効果が高く、安全かつ効率的な方法で、天然黒鉛から高効率の炭素アノード材料を得ることを可能とする材料/方法が必要とされている。これら及びその他の有益な目的は、本件明細書に開示されている材料及び方法によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本件開示は、特に、Liイオン電池用の炭素アノードを製造するために利用され得る、天然黒鉛を処理するための有利な方法を提供する。本件開示は、更に、Liイオン電池のための炭素アノードの製造に特に有用な処理済天然黒鉛材料を提供する。天然黒鉛は、品位を向上するように、又は、経済的見地からは除去することが困難な珪酸塩及び他の珪素含有鉱物を含む残留珪素ベース不純物を保持するように、処理されてもよい。処理済材料は、球状化されても、球状化されなくてもよい。処理済材料は、炭素質材料(例えば、ピッチ)で被覆され、炭素化あるいは黒鉛化表層を獲得する温度ベース処理を施されてもよい。温度処理を含むこのような処理は、黒鉛粒子を99.95重量%炭素を超えるまで精製し得る。開示された方法を用いて生成された処理済材料は、性能を向上させるために人造黒鉛及び/又は粒子状珪素及び/又はSiO材料と混合されてもよい。
【0016】
本件開示に従い、処理方法が開示され、これにより、球状化天然黒鉛及び炭素質材料(例えば、ピッチ)が、温度ベース処理のみ即ち酸処理なしを施され、費用対効果が高く、環境に優しい、被覆としての炭素質材料の直接黒鉛化を達成し、コア黒鉛粒子を精製する。別の実施態様では、前記温度ベース処理に関連して、黒鉛の化学処理は、黒鉛/炭素質材料の組み合わせの前に行われてもよい。しかしながら、本件開示に従い、この別の実施態様に関連する化学処理は、黒鉛のHFによる処理を含まないので、従来の作業に関連する最も高価で潜在的に危険な形態の化学処理を排除する。開示された黒鉛/炭素質材料の黒鉛化のための処理温度は、炭素質材料の黒鉛化のためにこれまで実行可能と考えられていた温度よりも低くてもよい。このより低い温度は、リチウムイオン電池のアノード製造において効果的に利用され得る黒鉛ベース前駆物質材料を生成するためには、珪素ベース不純物を除去する必要がないという認識に基づいて、可能となっている。
【0017】
開示された黒鉛処理方法、及び、本件開示に従い製造された処理済黒鉛材料は、重要な利点を示す。例えば、開示された方法は、それによって製造された処理済材料を使用するリチウムイオン電池用途においてアノード機能を犠牲にすることなく、従来の酸精製方法(例えば、フッ化水素酸を使用する)及び高温精製技術と比較して、より低コストで、より環境に優しい。
【0018】
本件開示の例示的な実施態様では、リチウムイオン電池アノードとして使用するための前駆物質材料が提供される。前駆物質材料は、天然黒鉛即ち採掘された天然の形態の黒鉛材料から製造される。前駆物質材料は、その金属ベース及び非金属ベースの不純物を保持するように処理される。本件開示の更なる例示的な実施形態では、前駆物質材料は、0.5から2重量%珪素のレベルで珪素ベース鉱物を含有/保持するように処理されてもよく、一方で、そのような処理は、天然金属含有混合物、例えば、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カルシウム、マンガン、マグネシウム、バナジウム及び/又はチタンを含む混合物(珪酸塩、酸化物、粘土、硫化物等のような)を0.05重量%未満のレベルまで実質的に除去するのに有効である。珪素ベース鉱物は、様々な形態で、例えば、珪酸塩(複数可)及び/又は炭化珪素ベース鉱物(複数可)として、前駆物質材料に存在して/保持されていてもよい。
【0019】
開示された前駆物質材料は、直接熱分解、炭化及び/又は黒鉛化プロセスにより炭素質材料が黒鉛前駆物質粒子を被覆することを介して、リチウムイオン電池アノード材料を製造するために使用されてもよい。このようにして製造されたリチウムイオン電池用アノード材料は、後処理の後に天然珪素材料を含有/保持していてもよく、又は、所定の仕様に部分的又は全体的に精製されてもよい。
【0020】
リチウムイオン電池アノード材料として天然黒鉛を使用する場合、より優れた性能特性を獲得するために、天然黒鉛は、一般的に、炭化又は黒鉛化炭素質被覆を形成するように取り扱われる。この結果の被覆天然黒鉛粒子は、図1に模式的に示されている。特に、図1は、炭素質被覆天然黒鉛粒子を模式的に示している。球状化天然黒鉛コア(A)は、炭素質材料により被覆され、炭化又は黒鉛化温度に熱処理されて炭化又は黒鉛化被覆(B)を形成する。本件開示の例示的な実施形態では、内側コア(A)は天然黒鉛であり、外側被覆(B)は炭素質材料である。天然黒鉛内側コア(A)は、天然金属及び非金属不純物を保持していてもよく、又は、他の非金属及び金属不純物が実質的に除去されている一方で、天然珪素(少なくとも約0.5重量%珪素)を保持していてもよい。炭素質被覆材料は、炭素質被覆(B)を形成する前に、SiO及び/又は珪素前駆物質と混合されてもよい。
【0021】
本件開示の例示的な実施形態では、開示された前駆物質材料から製造された(即ち、残留珪素ベース鉱物を有する)リチウムイオン電池アノード材料は、熱分解、炭化及び/又は黒鉛化されたピッチ材料又はポリマー材料で被覆されてもよい。また、業界で知られているように、化学気相蒸着(CVD)法が利用されてもよい。リチウムイオン電池アノード材料を被覆するために使用されるピッチ材料は、約200℃から300℃の温度の軟化点を有していてよいが、200℃未満の軟化点を有していてもよい。ポリマー材料は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール又はポリスチレンであってもよい。例示的なポリマー被覆は、Morgan Hairongに対するCN100420627Cに記載されており、その開示内容は参照により本件明細書に組み入れられる。例示的な実施形態では、ピッチは、SiO及び/又は珪素前駆物質と混合され、これによりリチウムイオン電池アノードに更に珪素ベース材料を導入してもよい。
【0022】
従って、リチウムイオン電池アノード材料は、炭化温度、例えば、900℃と1900℃との間の温度、好ましくは1050℃と1400℃との間の温度での熱処理によって処理されてもよい。
【0023】
更に、リチウムイオン電池アノード材料は、2200℃と3000℃との間、好ましくは2400℃と2900℃との間の黒鉛化温度で熱処理されることにより、更に処理されてもよい。
【0024】
開示されたリチウムイオン電池アノード材料は、人造黒鉛と混合されてもよい。リチウムイオン電池アノード材料の人造黒鉛との混合は、通常、上述の熱処理工程とは独立して、熱処理工程に続いて行われる。
【0025】
例示的な実施形態では、リチウムイオン電池アノードが人造黒鉛と混合され、人造黒鉛と前駆物質材料との割合は、通常、20/80から80/20(人造黒鉛/前駆物質材料)の範囲である。
【0026】
本件開示のリチウムイオン電池アノード材料は、アノード材料製造の任意の段階で、SiO及び/又は他の珪素ベース材料(複数可)と混合されて、最終的なアノード部材における所望の珪素レベルを達成するようにしてもよい。
【0027】
開示されたリチウムイオン電池アノード材料は、所望の特性を得るために更に処理されてもよい。例えば、リチウムイオン電池アノード材料は、球状化及び粉砕技術を用いて更に処理され、mAh/gで測定される所定の材料容量を可能にするようにしてもよい。例示的な実施形態では、リチウムイオン電池アノード材料は、更に処理されて、372×(1-((N/100)/0.467))を超える材料容量を提供し、ここで、Nは、アノード中の珪素の相対割合量(前駆物質材料をベースとする)である。上述したように、前駆物質材料に保持される珪素の量は、リチウムイオン電池用途において効果的なアノード機能を達成しながら、0.5-2重量%の範囲であってもよい。
【0028】
本件開示の方法及び材料の追加の特徴、機能及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
開示された発明の製造及び使用において当業者を支援するために、添付の図を参照する。
図1図1は、炭素質材料で被覆された天然黒鉛を模式的に示す。
図2図2は、精製済天然黒鉛材料の容量データを示す。
図3図3は、精製済天然黒鉛材料のSEM画像を示す。
図4図4は、以下の3つのフローチャートを示す:図4Aは、本件開示に従う、化学的精製プロセス工程を排除した、ピッチ被覆天然黒鉛インサイチュ精製及び黒鉛化のための方法を示す;図4Bは、本件開示に従う、化学的精製工程を削減してHF酸の使用を排除した、ピッチ被覆天然黒鉛精製及び黒鉛化のための方法を示す;図4Cは、化学的精製を含む照合/典型的な方法を示す。
図5図5は、化学精製済及び非精製前駆物質を使用した黒鉛化後の材料の第1サイクル効率(%)及び容量データを示す。
図6図6は、異なる処理温度による金属不純物低減の比較を示す。
図7図7は、異なる温度で処理された材料の電気化学的特性の比較を示す。
図8図8は、残留SiO含有量の関数としての重量及びエネルギーベースの相対アノード材料コストを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上述したように、本件開示は、Liイオン電池のための炭素アノードを製造するために使用され得る天然黒鉛を処理するための有利な方法を提供する。開示された処理方法は、向上された品位を特徴とする黒鉛を製造するのに有効であるが、これまで業界で許容可能と考えられてきた珪素不純物レベルを超えるレベルで、珪酸塩及び他の珪素含有鉱物を含む珪素ベース不純物を保持することを更に特徴とし得る。本件開示の処理済黒鉛材料は、先行技術の処理過程と比較して、より費用対効果が高く、環境的に受容可能な方法で製造され得、それにもかかわらずリチウムイオン電池用途のための有効な機能を提供する。実際に、開示された処理方法は、費用対効果が高く環境に優しい手法でのリチウムイオン電池アノードの製造において、温度ベース処理のみ即ち酸処理なしを利用し得る。開示された方法を用いて製造された処理済黒鉛材料は、人造黒鉛及び/又は粒子状珪素及び/又はSiO材料と混合され、特性を向上してもよい。以下の説明は、開示された方法及び材料に関連する利点を更に説明し、実証するのに役立つ。
【0031】
図2は、化学精製プロセスを行うことを含む、電池アノード材料を製造するための標準的な市販型の方法で処理された幾つかの天然黒鉛(NG)材料の比充電容量データを示す。これら天然黒鉛材料の物理的外観がSEM分析により実証され、図3に示される。
【0032】
比充電容量は、電池の性能にとって重要な特性であり、許容可能な性能を示す材料を認定するのに用いられる。天然黒鉛電池アノード材料では、比充電容量が350mAh/gから370mAh/gの範囲にあること、好ましくは360mAh/gを超えることが期待される。この充電容量の測定値は、電池アノード材料として使用する場合の天然黒鉛材料のリチウムイオンへのインターカレーションの能力を表す。黒鉛材料は、第1サイクル効率、電力能力及び耐用能力を含む他の必要な性能を向上させるように改良されてもよい。これら改良は、その材料固有の充電容量とのトレードオフが伴い得る。
【0033】
このような改良を行うために、一般的な種類の天然黒鉛電池アノード材料では、球状化及び精製後に、球状又は球状化天然黒鉛は、コールタールピッチ又は石油タールピッチ又は他の炭素質材料で被覆され、熱処理されて個々の黒鉛粒子を被覆する炭化表面を形成し得る。本件明細書では、用語「球状」及び「球状化」は、同義であり、互換的に使用される。この被覆の目的は、電池アノード材料として使用される場合に、特に、完成した電池内において球状黒鉛粒子と電解質液との間に物理的な障壁を形成することにより、天然黒鉛の性能特性を向上することである。被覆粒子の比容量と性能特性とのバランスをとるために、被覆は、所望の厚さの範囲内で均質な比表面被覆率を維持しながら、実際上可能な限り薄くするべきである。このようなプロセスのうちの1つでは、球状天然黒鉛は、石油タールピッチ又はコールタールピッチにより被覆される。このような被覆プロセスでは、約0.5から10重量%ピッチが使用され得る。
【0034】
このようなプロセスのうちの1つでは、被覆は、専用炉での材料の熱処理中に均質な被覆が得られるように、微細に粉砕されたピッチを機械的に混合して球状黒鉛の表面に均一に分配することによって実行されてもよい。このピッチ被覆黒鉛は、加熱されて、物理的な熱分解及び炭化を経た後に、炭化被覆を形成する。熱処理は、1050℃から1400℃の範囲で行われて、炭化被膜を形成してもよく、又は、2200℃から3000℃の範囲で行われて、炭化被膜の形成及び形成された炭化被膜の黒鉛化の両方を行ってもよい。この結果の炭素被覆又は黒鉛化炭素被覆天然黒鉛材料は、リチウムイオン電池のアノード材料として使用される製品として供給される。
【0035】
上述したような、天然黒鉛リチウムイオンアノード業界にとって典型的な従来のプロセスの例は、BTRに対する特許CN100338802C及びCN200410027615X、キタガワ等(三菱電機工業株式会社/三菱化学株式会社)に対するUS6,403,259、及び、モーガン ハイロングに対するCN100420627Cに見い出される。
【0036】
本件開示の1つの例示的な実施態様では、60℃から320℃、好ましくは200℃から300℃の範囲の軟化点を備える石油タールピッチ又はコールタールピッチ被覆が、0.5%から10.0%、より好ましくは3%から6%の質量当量の黒鉛対ピッチ比率で自然に存在する/天然黒鉛材料と組み合わされる。ピッチ被覆は、更に、1800℃を超えない、より好ましくは1650℃未満の最高温度での段階的な熱処理によって炭化被覆に変換され、又は、代わって、2200℃から3000℃の温度、より好ましくは2400℃から2900℃の温度での高温熱処理によって黒鉛化被覆に変換される。
【0037】
同一の鉱床と処理プラントからの非精製及び精製済黒鉛材料を用いて複数の実験を行い、それらの実験により、リチウムイオン電池に使用するアノード材料の製造に特に有用な有利な処理経路及び処理済材料が実証された。特に、開示された熱処理プロセスの前駆物質として低純度黒鉛を使用することにより、業界ベースの純度標準を満たす従来の黒鉛材料と比較して、顕著に低コストのアノード材料製品が製造され得ることが見い出された。
【0038】
例示的な実施態様では、本件開示に従う自然に存在する/天然黒鉛材料のリチウムイオン電池用アノード材料として使用可能な材料への処理は、(i)自然に存在する不純物を除去し、通常1500℃から3000℃の温度範囲で行われる熱処理、又は、(ii)酸を使用するが特にHFを除く化学精製工程、又は、(iii)前記熱処理及び化学精製プロセスの組み合わせ(HFベースの化学精製を除く)、を含むプロセスを備える。
【0039】
実施例1
本件開示の実施例として、本件明細書では、図4Aに示されるような直接黒鉛化の有利なプロセスが提供される(プロセス1)。プロセス1では、採掘され一連の選鉱段階を経て選鉱された天然フレーク黒鉛が、粉砕及び成形プロセスに移行される前に乾燥及び分級される。その後、粉末は、被覆され、熱分解、炭化及び黒鉛化を組み合わせた単一の熱処理精製段階を施される。黒鉛粒子を精製し、被覆層を黒鉛化するために、被覆された黒鉛は、2200℃から3000℃の間のような黒鉛化温度を施される。
【0040】
本件開示に従い、より高温の熱プロセス(即ち、2850℃を超える温度)により、珪素ベース不純物及び他の金属ベース不純物は、黒鉛粒子上の新たな黒鉛化炭素被覆(ピッチからの人工黒鉛被覆)を破壊することなく、精製済/黒鉛化材料から昇華により完全に除去され得ると判断された。特に、この結果の炭素被覆黒鉛化球状黒鉛材料は、天然黒鉛前駆物質材料と一致した高い電気容量を示した。
【0041】
また、供給材料中に初期の金属ベース不純物を含む及び含まない処理された複数の異なる材料を比較したところ、機械的特性及び電気化学的特性は同様であることが示された。この結果は、所定の黒鉛用途においては、被覆層の黒鉛化処理の前の非被覆球状天然黒鉛又はピッチ被覆天然黒鉛材料の予備精製は必要がないことを実証している。この結果は、更に、被覆層の黒鉛化処理の前のピッチ被覆の予備炭化は必要ないことを実証している。
【0042】
以下では、本件開示に従う図4Aのプロセス1の実施例が説明される。
【0043】
供給原料は、点火損失(LOI)法で測定した純度が95%総炭素(TC)を超える標準品位のフレーク黒鉛である。標準品位のフレーク黒鉛の粒子サイズの仕様は、標準的な実験室での選別方法を用いて、100メッシュのスクリーンを通過する質量が80%を超え、325メッシュのスクリーンを通過する質量が25%未満であるものである。非精製フレーク黒鉛の粉砕、成形及び選択的分級の組み合わせによる球状化プロセスが導入される。この球状化プロセスでは、最初に、フレークは、成形前に材料を初期の目標粒子サイズ分布にまで縮小するために、直列に配置された1以上のエア分級機又はファカルティミルで粉砕される。その後、サイズ調整された材料は、直列に配置された1以上のエア分級機又はファカルティミルに供給され、楕円形又は球状粒子に成形される。材料は、粉砕の各段階で分級され、副産物である微細材料を除去する。プロセスは、最終的に目標とする粒子サイズ分布、形状、タップ嵩密度が得られるまで継続される。このような中間製品を、本件明細書では、「非精製非被覆球状黒鉛」と定義する。
【0044】
被覆工程が続き、好ましくは2から10ミクロンの間のサイズ範囲を有する微細粉砕ピッチ固体が非精製球状黒鉛と組み合わされる。溶剤使用及び蒸着法を含む業界で一般的に使用されている他の被覆方法も採用され得る。2つの成分を機械的に混合することにより、非精製球状黒鉛粒子の表面の周囲に固着されたピッチ材料の被覆層が生成される。被覆として使用されるピッチは、コールタールピッチと石油タールピッチとのいずれか又は両者の混合物であり、好ましくは200℃から300℃の範囲の軟化点を有するが、より低い軟化点(例えば、200℃未満の軟化点)のピッチを使用してもよい。
【0045】
被覆非精製球状黒鉛は、連続的な粉末ベース黒鉛化プロセスにおいて処理されてもよい。しかしながら、例示的な実施態様では、被覆非精製球状黒鉛は、るつぼ又はボートに充填され、黒鉛化炉に供給される。炉は、加熱及び冷却サイクル制御を備える静止炉であってもよく、材料を様々な加熱及び冷却ゾーンを輸送又は搬送して、連続プロセスにおいて所望の熱プロファイルを達成するものであってもよい。代わって、回転炉や他の連続炉が使用されてもよい。
【0046】
不活性雰囲気例えばアルゴン又は窒素中での300℃から600℃の温度範囲での被覆黒鉛の加熱により、ピッチ中の有機混合物が分解されて、揮発成分が放出される。1050℃を超える温度での加熱の継続により、ピッチが完全に炭素に変換され、球状黒鉛粒子の周囲に炭化被覆層を形成する。2400℃から2600℃の範囲での加熱の継続により、炭化被覆層と初期材料中の非黒鉛化成分が徐々に黒鉛状分子構造に変換される。更に、2400℃から2600℃を超えて2900℃を超える温度まで加熱することにより、結果として、黒鉛中の酸化物ベース金属不純物が炭化物に徐々に還元され、最終的には昇華又は気化されて、追加で黒鉛が精製される。そして、冷却及び選別された製品は、リチウムイオン電池アノードで使用することができる。
【0047】
図5は、プロセス1で試験された材料及び電気化学特性を示し、これらと、精製済前駆物質、即ち不純物レベルに関する業界の要求を満たすように処理された前駆物質から生成された材料と、を比較する。非精製及び化学精製済の16μmの球状天然黒鉛前駆物質の両方が、重量ベースで夫々3%及び6%のピッチ対黒鉛により被覆された。被覆サンプルは、加熱段階において2900℃で4時間黒鉛化された。この結果の黒鉛化サンプルの容量及びクーロン効率がコインセルテストを用いて決定された。この結果として、後続の熱処理プロセスを経た非精製被覆サンプルは、第1サイクル効率(FCE)及び容量という主要な電池性能指標において、精製済被覆サンプルと同様に機能することが示された。
【0048】
表1(以下)は、プロセス1によって提供されたサンプルの黒鉛結晶基底面層間間隔d002及び黒鉛化度が、精製済被覆前駆物質の黒鉛化を示す、図4Cに示されるプロセス3(照合)によって提供されたサンプルについて得られた結果と同様であることを示している。
【表1】
【0049】
以上に基づき、プロセス1-金属ベース不純物、例えば、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カルシウム、マンガン、マグネシウム、バナジウム及び/又はチタンを含む混合物を(例えば、0.05重量%未満のレベルまで)実質的に除去する-に従って処理された前駆物質材料は、リチウムイオン電池用途について実質的に同等の機能を示すことが明らかである。プロセス1は、リチウムイオン電池用途において、プロセス3と比較して、前駆物質を製造するためのより費用対効果が高く環境的に許容可能な方法を提供することは明らかである。
【0050】
プロセス1に従って追加試験が実施され、これにより、非精製天然球状黒鉛は、石油ベースタールピッチを被覆され、2400℃、2600℃、2900℃の3つの異なる温度で熱処理され、製造物は、蛍光X線分光法(XRF)で分析された。図6は、異なる温度で処理された材料の鉄、アルミニウム及び珪素の組成を、非被覆及び被覆済前駆物質材料のそれらと比較したものである。この組成により、熱処理が全てのサンプルにおいて不純物を減少させ、2600℃及び2900℃のより高い処理温度では、不純物の減少がより向上されることが実証されている。
【0051】
2600℃及び2900℃の処理で生成された材料は、電気化学的に試験され、充電容量及び第1サイクル効率を決定した。図7は、2つの市販の天然球状黒鉛アノード材料との電気化学特性の比較を示している。第1の比較材料は、化学的に精製され、ピッチ被覆され、炭化された天然球状黒鉛である。第2の比較材料は、ピッチ被覆され、炭化され、黒鉛化された天然球状黒鉛である。電気化学的特性の比較により、プロセス1に従って処理された材料の充電容量及び第1サイクル効率は、市販の製品と同等又はそれ以上であり、アルミニウム、鉄及び珪素の不純物の少なくとも幾つかの保持が、充電容量又は第1サイクル効率に僅かな影響を与えることが実証されている。
【0052】
実施例2
本件開示の第2の実施例では、黒鉛材料が、リチウムイオン電池のアノード材料として使用され、自然に存在する珪素ベース不純物を含む自然に存在する黒鉛材料から全体的又は部分的に製造され、自然に存在する即ち天然の黒鉛材料の処理は、アノード材料を製造するのに使用される黒鉛材料中の珪素含有量を0.5%から5%(質量換算)元素珪素の範囲に低減するのに有効である。
【0053】
注目すべきは、所望の前駆物質を形成するための自然に存在する/天然の黒鉛の処理は、珪素鉱物の保持を可能にする一方で、他の金属ベース及び非金属ベースの不純物、例えば、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カルシウム、マンガン、マグネシウム、バナジウム及び/又はチタンを含む混合物(珪酸塩、酸化物、粘土、硫化物など)を実質的に除去するように選択されることである。特に、金属不純物(珪素以外)は、本件開示に従い、それぞれ一般的に0.05重量%(元素金属ベース)未満のレベルにまで低減され、一方で珪素ベースの鉱物は指摘された範囲内(即ち、0.5から5重量%の元素珪素)に保持される。このようなコスト最適化処理方法を用いて製造された材料は、前駆物質中に存在する珪素ベース鉱物を補正した後、相対的な黒鉛質量ベースで実質的に同等の充電容量を有することが分かった。
【0054】
本件開示に従う前駆物質中に保持されている黒鉛材料の珪素ベースの汚染の幾つかは、標準的な電池作動条件、即ち、従来の充電状態(SOC)範囲及び従来の電圧範囲での作動を施された場合に、リチウムイオン電池中で化学的及び電気物理的に不活性化されることが想定される。鉄、マンガンを含む混合物のような金属含有混合物、及び、リチウムイオン電池用途で溶解可能なその他の金属含有混合物が除去され、樹枝状結晶の形成を回避している限り、標準的な精製材料と同様のエネルギー容量を有する低コストのアノード材料が生成され得る。
【0055】
珪素ベース鉱物の汚染を(本件明細書に記載されているレベルで)残存させるが、遷移金属を除去することにより、化学的精製が充分に縮小され又は排除され得、これにより、リチウムイオン電池用途で現在許容可能な電気化学的特性を示す、残存珪素ベース汚染を備える別の低コストのアノード材料を生成する。このように、本件開示では、リチウムイオン電池のアノード用途に同等の機能を示す前駆物質を生成する一方で、より安価でより環境に優しい前駆物質生成のための処理様式を特定している。前駆物質の機能を犠牲にすることなく、自然に存在する/天然黒鉛の精製を低減することができることは想定外であり、リチウムイオン電池のためのアノードの製造に使用するための前駆物質材料に必要な純度特性に関する長年の業界の考え方に真っ向から反するものである。
【0056】
表2は、様々な供給元からの非精製球状天然黒鉛材料のXRF法で測定した不純物レベルを示す。供給元Aは、3.15%から3.75%の範囲の珪酸塩含有量を有し、供給元Bは、1.52%から1.97%の範囲の珪酸塩含有量を有し、供給元Cは、1.67%の珪酸塩含有量を有し、供給元Dは、1.56%の珪酸塩含有量を有し、供給元Eは、3.2%の珪酸塩含有量を有し、供給元Fは、1.5%の珪酸塩含有量を有している。珪酸塩含有量は、珪酸塩の想定化学形態であるSiO換算重量パーセントと、元素珪素重量パーセントの両方で表されている。鉄含有量は、全ての供給元のサンプルについてFe換算重量パーセントで表され、0.3%から0.48%の範囲にある。
【表2】
【0057】
表3は、2つの球状化黒鉛サンプルの比容量データを示し、各サンプルは従来の精製の前後にテストされている。精製済天然黒鉛-即ち、従来の球状化及び精製技術に従って処理され、珪素不純物を従来の業界標準以下に低減した天然黒鉛-は、測定された比容量が天然黒鉛の理論的期待値である372mAh/gに近いことが実証されている。非精製/天然サンプルについては、不純物(特に珪素ベース不純物を含む)の存在により、測定比容量に寄与する活性黒鉛が少なくなるため、材料の比容量が減少される。しかしながら、材料は、リチウムイオン電池用途に有用で実用的な範囲の容量(典型的には330mAh/gより大きい)を示している。
【表3】
【0058】
本件開示に従い、処理過程は、これにより珪素含有鉱物が精製プロセスを介して保持され、処理コストを削減し、酸洗浄プロセスでHFを使用する必要をなくし、これにより、精製プロセスの環境への影響も低減する。この処理過程への根本的な改良により、低コストの選択肢が可能になり、コストに非常に敏感なリチウムイオン電池の用途に特によく適したアプローチが提示される。
【0059】
本件開示に従い、物理的処理技術の高温処理との組み合わせが、期待されるよりも高い比充電容量を示す珪素ベース不純物を含む天然黒鉛を生成するのに使用され得ると考えられる。高温処理は不純物を除去し、珪素ベース不純物は通常昇華させるのに最も高い温度を必要とすることが知られている。典型的には、珪素ベース不純物は、最初に炭化珪素(SiC)に変換される。珪酸塩(例えば、SiO)とはやや異なり、炭化珪素は、黒鉛構造に組み込まれ、電気化学的なインターカレーション(充電)又はディンターカレーション(放電)を阻害し得る。従って、炭化珪素の存在により、リチウムイオン電池の容量が低下され得る。
【0060】
本件開示に従い、球状化及び分粒を含む物理的粉末処理技術を用いて、天然黒鉛粒子構造が、リチウムイオン電池アノード材料として用途に適したサイズ及び形状に改良される。この物理的粉末処理により、通常、黒鉛の表面特性が変化され、SiCの阻害機能が克服され得、これにより期待されるよりも高い容量を可能とする。注目すべきは、処理過程は、物理的処理に依存するが、珪素ベースの不純物を除去することを目的とした高コスト/環境に優しくない処理工程を含まず、リチウムイオン電池用途の珪素レベルの業界標準を満たすように珪素レベルを低減/除去することを目的とした処理作業の排除に少なくとも部分的に基づいて、処理コストを低減することを提供する。
【0061】
典型的には、天然黒鉛の想定容量は、100%黒鉛を仮定すれば、372mAh/gとなるであろう。(珪酸塩の形態の珪素のような)不純物は、不活性で、その質量%に比例してリチウムイオン電池の容量を低下させる。珪素ベース不純物の大部分は珪酸塩(化学構造はSiO)の形態であると想定されるため、珪素ベース不純物のレベルを知れば、想定容量は、以下の式により算出され得る。
【0062】
【数1】
ここで,NはSiの重量%,0.467はSiO中のSiの質量分率である。
【0063】
リチウムイオン電池において、式(1)で予測されるよりも高い容量を生成することは想定外であり、そのような想定外の結果は、処理技術(複数可)が、式(1)で予測されるよりも電池の容量への不活性化への寄与が小さくなるように、珪素不純物の形態を変更したことを示すであろう。
【0064】
本件開示に従い、リチウムイオン電池用途で特に有用な前駆物質の製造のために、更に有利な処理方法が提供される。特に、図4Bに示されるプロセス2は、プロセス1(上述)で使用されたのと同じ供給材料を利用し、ピッチ被覆工程の前に塩酸(HCL)精製工程を含む。選択的に、最後の熱処理工程は、1700℃のような又は1200℃のように低い低最大温度で作動してもよい。化学的塩酸精製は、多くの金属不純物、特に重要な鉄を除去するが、珪素ベース不純物の希釈は限定的である。
【0065】
非精製球状黒鉛は、塩酸を含む部分的に使用済又は未使用の希釈酸溶液と混合される。スラリーは、典型的には60℃から80℃を超えない温度に加熱され、長時間、典型的には8時間から12時間継続して混合される。フィルターを介して、固形物が酸混合物から分離される。濾過された固体は、後続する使用済又は未使用の酸溶液の希釈バッチを介して更に処理され、純度を向上させてもよい。
【0066】
続いて、被覆プロセスが利用され、2から10ミクロンの範囲のサイズを有する微細に粉砕されたピッチ固形物を部分的に精製済の球状黒鉛と組み合わせ、2つの成分を混合して、ピッチで球状黒鉛粒子を被覆する。また、溶剤使用及び蒸着法を含む、業界で一般的に使用されている他の被覆方法が導入されてもよい。被覆に使用されるピッチは、典型的にはコールタールピッチ又は石油タールピッチであり、好ましくは200℃から300℃の範囲の軟化点を有するが、より低い軟化点のピッチ材料が使用されてもよい。また、低軟化点のピッチと高軟化点のピッチとの混合物が使用されてもよい。
【0067】
被覆球状黒鉛は、るつぼ又はボートに充填され、黒鉛化炉に移送される。上述したように、連続的な動力ベースの黒鉛化プロセスが利用されてもよい。黒鉛化炉は、制御された加熱及び冷却サイクルを有する静止炉であってもよく、又は、材料が様々な加熱及び冷却ゾーンを介して移送又は搬送され、所望の熱プロファイルを得るものであってもよい。代わって、回転炉又はその他の連続炉が使用されてもよい。被覆され、部分的に精製された球状黒鉛の初期加熱は、300℃から600℃の範囲の温度で行われ、ピッチ中の有機混合物が熱分解によって分解され、揮発性成分が放出される。その後、1200℃までの継続的な加熱がなされ、ピッチが完全に炭素に還元され、球状黒鉛粒子の周囲に炭化被覆を形成する。この製品は、「プロセス2a製品」と称され、最終製品として選択的に使用され得る。その後、粉末が理想的には約2200℃から3000℃の範囲で更に熱処理され、炭化被覆及び初期材料中の非黒鉛化炭素成分を黒鉛に徐々に変換し、必要であれば残留不純物を所望のレベルまで低減してもよい。この製品も、「プロセス2b製品」と称され、最終製品として使用され得る。
【0068】
プロセス1(図4A)、プロセス2a(図4B)、及びプロセス2b(図4B)からの製品は、同様のサイズレジームを特徴とする人造黒鉛粉末と混合されてもよい。また、より小さな粒子サイズの人造黒鉛が使用されてもよい。このような人造黒鉛粉末は、業界でよく知られており、通常はピッチ前駆物質から製造される。人造黒鉛は、典型的には、天然黒鉛よりも小さい容量を有するが、より長いサイクル寿命という利点を有する。天然黒鉛は、一般的に、より大きな容量及びより低いコストという利点を有する。従って、プロセス1、プロセス2a、及びプロセス2bにより製造されるような革新的な材料及びこれらの製品の人造黒鉛との混合物は、電池に使用する場合には、低コスト、高容量及び長サイクル寿命という利点を有する。
【0069】
実施例3
更に別の混合製品では、容量を高めるために活性珪素が更に製品に混合される。そのような珪素は、特許文献(例えば、JP2005149946、CN102394287B、US5624606及びJP2000-203818Aを参照)に記載されているような、純粋な微細珪素粒子粉末又はSiO混合物であり得る。珪素は、黒鉛に対して約1から約15重量%のレベルで追加されてもよく、このような珪素の追加は、約5から10重量%の範囲の黒鉛対追加珪素であってもよい。プロセス1、プロセス2a及びプロセス2bで説明された全ての製品又はこれらと人造黒鉛との組み合わせは、Si又はSiO粉末と組み合わせて使用されてもよい。本件明細書に記載の黒鉛に追加する例示的な珪素は、US9,614,216(日立化学)及びCN103022435(Shanshan Technology)に記載されている珪素材料を含む。
【0070】
更に、SiO又は珪素に混合する場合、このような粉末は、ピッチ被覆工程中にピッチと混合されてもよく、プロセス1、プロセス2a、及びプロセス2bに従って製造された場合、珪素は天然黒鉛粉末のピッチ被覆領域に残留する。
【0071】
このような珪素及びSiO混合物は、純粋な黒鉛材料の372mAh/gの理論的容量を超えてアノード材料の容量を増加させるために使用されてもよい。不活性な珪素を有する前駆物質材料については、珪素のみと混合した純粋な材料よりも総珪素は高くなる。
【0072】
図8は、ピッチ被覆炭化球状天然黒鉛の相対コスト対%SiO含有量を示す。残留珪酸塩量の炭素被覆アノード材料のコストに与える影響の理論的計算結果がここに示される。従来の黒鉛処理過程に従う処理コストに影響を与える主要なパラメータは、(i)試薬コスト(例えば、HF)、(ii)人件費、及び、(iii)エネルギーコストである。本件開示に従い、試薬コスト及び化学処理プロセスのコストが大幅に削減又は完全に除去され、これにより、効果的/許容可能な充電容量性能を提供しながら、リチウムイオン電池用途の黒鉛処理の全体的なコストを充分に削減する。
【0073】
コスト/パフォーマンス分析の目的において、カーボン被覆精製済天然黒鉛の比容量は370mAh/gである。球状黒鉛前駆物質の化学的精製コストを固定することにより、前駆物質中の様々な含有量の残留珪酸塩から製造されたアノード材料の材料コスト及びエネルギーコストが計算された。図8は、化学的に精製された前駆物質から製造されたアノード材料の材料コスト($/kg)及びエネルギーコスト($/Wh)を100%ベースとして、ピッチ被覆炭化球状天然黒鉛中のSi重量含有量で表される残留珪酸塩量に対する相対材料及びエネルギーコストを示している。通常、残留珪素量が多いほど、材料及びエネルギーコストは低くなる。しかしながら、残留Si量が1.3wt%より大きくなる場合には、コスト削減効果が薄れ、Si材料に代表される材料の不活性質量のために、エネルギー当たりのコストに悪影響を与え始める。従って、Si不純物の完全な除去に比べて単位重量当たりのコストが削減されるという利点も得つつ、単位エネルギー当たりのコストの利点について、最適なSi含有量の範囲が特定される。
【0074】
本件開示は、例示的な実施形態/実施例を参照して説明されたが、本件開示は、そのような例示的な説明によって又はそのような例示的な説明に限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】