(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(54)【発明の名称】IL11活性を阻害することによって、腫瘍治療電場(TTフィールド)に対するがん細胞の感受性を高める
(51)【国際特許分類】
A61N 1/32 20060101AFI20221020BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221020BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221020BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20221020BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/4412 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/41 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/196 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/4402 20060101ALI20221020BHJP
A61K 38/47 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/4422 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20221020BHJP
A61K 31/554 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
A61N1/32
A61K45/00
A61P35/00
A61K39/395 N
A61K31/44
A61P43/00 121
A61K31/404
A61K31/506
A61K31/55
A61K31/4412
A61K31/496
A61K31/41
A61K31/196
A61K31/4402
A61K38/47
A61K31/4422
A61K31/137
A61K31/554
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507479
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(85)【翻訳文提出日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 IB2020057342
(87)【国際公開番号】W WO2021024170
(87)【国際公開日】2021-02-11
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519275847
【氏名又は名称】ノボキュア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】タリ・ボロシン-セラ
【テーマコード(参考)】
4C053
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C053JJ01
4C053JJ21
4C053JJ40
4C084AA17
4C084DC22
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZC412
4C084ZC751
4C085AA14
4C085BB11
4C085GG02
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC13
4C086BC17
4C086BC23
4C086BC31
4C086BC42
4C086BC50
4C086BC62
4C086BC92
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA11
4C206GA33
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】
がん細胞(例えば、神経膠芽腫)の生存率の低下及び腫瘍体積の低下は、がん細胞に100~500kHz(例えば、200kHz)の交流電場を印加する工程、及びIL11(インターロイキン-11)活性を阻害する工程、及び任意選択で、抗線維化剤を投与する工程によって実現することができる。IL11活性の阻害は、例えば、IL11発現の減少、IL11シグナル伝達の阻害、IL11の下方制御、IL11の中和、IL11受容体の遮断、IL11アンタゴニストの投与、IL11中和抗体の投与、又はIL11受容体α(IL11Ra)中和抗体の投与によって達成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん細胞の生存率を低下させる方法であって、
がん細胞に交流電場を印加する工程であり、前記交流電場が100から500kHzの間の周波数を有する工程、及び
IL11活性を阻害する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記交流電場の周波数が180から220kHzの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記がん細胞が、神経膠芽腫細胞及び肝癌細胞のうちの少なくとも1つからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
IL11活性の前記阻害が、IL11発現の減少、IL11シグナル伝達の阻害、IL11の下方制御、IL11の中和、及びIL11受容体の遮断のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
IL11活性の前記阻害が、IL11アンタゴニストの投与、IL11中和抗体の投与、及びIL11受容体α(IL11Ra)中和抗体の投与のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
治療上有効な濃度の線維症阻害剤を対象に投与する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記線維症阻害剤の投与が、ファスジル、ピルフェニドン、ニンテダニブ、ロサルタン、ヒアルロニダーゼ、トラニラスト、及びビスモデギブのうちの少なくとも1つの前記対象への投与を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ソラフェニブ、スニチニブ、及びイマチニブのうちの少なくとも1つの治療上有効な濃度を対象に投与する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
生きている対象の体内の腫瘍の体積を低下させる方法であって、
腫瘍に交流電場を印加する工程であり、前記交流電場が100から500kHzの間の周波数を有する工程、及び
治療上有効な濃度のIL11阻害剤を対象に投与する工程
を含む、方法。
【請求項10】
前記交流電場の周波数が180から220kHzの間である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記印加工程の少なくとも一部が、前記投与工程の少なくとも一部と同時に実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記IL11阻害剤の投与が、IL11アンタゴニストの投与、IL11中和抗体の投与、及びIL11受容体α(IL11Ra)中和抗体の投与のうちの少なくとも1つを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記IL11阻害剤の投与が、IL13アンタゴニストの投与、IL13中和抗体の投与、及びIL13受容体α(IL13Ra)中和抗体の投与のうちの少なくとも1つを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
治療上有効な濃度の線維症阻害剤を前記対象に投与する工程を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記線維症阻害剤の投与が、ファスジル、ピルフェニドン、ニンテダニブ、ロサルタン、ヒアルロニダーゼ、トラニラスト、及びビスモデギブのうちの少なくとも1つの前記対象への投与を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ソラフェニブ、スニチニブ、及びイマチニブのうちの少なくとも1つの治療上有効な濃度を前記対象に投与する工程を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
腫瘍の腫瘍体積が約5分の1以下に低下する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
生きている対象の体内にあるがん細胞の生存率を低下させる方法であって、
がん細胞に交流電場を印加する工程であり、前記交流電場が100から500kHzの間の周波数を有する工程、及び
治療上有効な濃度の線維症阻害剤を対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項19】
前記交流電場の周波数が180から220kHzの間である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記印加工程の少なくとも一部が、前記投与工程の少なくとも一部と同時に実施される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記線維症阻害剤の投与が、ファスジル、ピルフェニドン、ニンテダニブ、ロサルタン、ヒアルロニダーゼ、トラニラスト、及びビスモデギブのうちの少なくとも1つの前記対象への投与を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記線維症阻害剤の投与が、カルシウムチャネル遮断剤の前記対象への投与を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記カルシウムチャネル遮断剤が、フェロジピン、ベラパミル、ジルチアゼム、及びニフェジピンのうちの少なくとも1つを含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により全体を本明細書に組み込んだ2019年8月5日出願の米国特許仮出願第62/882,813号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍治療電場、すなわちTTフィールドは、がん細胞の成長を阻害する中間周波数範囲(例えば、100~500kHz)内の低強度(例えば、1~3V/cm)の交流電場である。この非侵襲的処置は固形腫瘍を標的とし、参照により全体を本明細書に組み込んだ米国特許第7,565,205号に記載されている。TTフィールドは、神経膠芽腫(GBM)の処置のためにFDAに承認されており、例えば、Optune(商標)システムを介して提供され得る。Optune(商標)には、電場ジェネレータ及び剃毛した患者の頭部に配置される2対のトランスデューサーアレイ(すなわち、電極アレイ)が含まれる。1対の電極は腫瘍の左右に配置され、もう1対の電極は腫瘍の前後に配置される。前臨床設定では、TTフィールドは、例えばInovitro(商標)TTフィールドラボベンチシステムを使用して、インビトロにおいて印加することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,565,205号
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0016067号
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】
図1Aは、N1S1肝癌細胞において、150kHzのTTフィールドとソラフェニブとの組み合わせから生じる腫瘍体積の倍増加及び腫瘍体積それぞれの低下を示す例示的な研究の結果を示した図である。
図1Bは、N1S1肝癌細胞において、150kHzのTTフィールドとソラフェニブとの組み合わせから生じる腫瘍体積の倍増加及び腫瘍体積それぞれの低下を示す例示的な研究の結果を示した図である。
【
図2】線維症を評価するための4つの処置条件(I、II、II、及びIV)の例示的なTTフィールド処置及び投与計画を示した図である。
【
図3】
図3Aは、処置したN1S1肝癌腫瘍の線維症特異的マッソントリクローム(MT)染色(青)の例示的な組織病理学的評価を示した図であり、(1)元の画像(線維症スコアに使用)(左上)、(2)線維症を表すROI青色を有するMT染色切片の線維症の色のセグメンテーション(面積計算用)、(3)線維症のない組織全体(面積計算用、赤-エオジン、左下)、及び(4)組織の外側の領域(右下)を示している。
図3Bは、
図3Aに関して記載した実験の線維症スコアを示した図である。
【
図4】
図3Aに関して記載した実験から計算した、各条件の線維化面積(%)を示している。
【
図5】
図3Aに関して上述した実験から計算した、各条件の倍変化として表した線維化面積を示した図である。
【
図6】
図6Aは、(1)TTフィールドで処置した腫瘍における線維症スコアと腫瘍体積との間の相関を示した図である。
図6Bは、(2)TTフィールドで処置した腫瘍における線維症スコアと腫瘍の倍変化との間の相関を示した図である。
図6Cは、(3)TTフィールドで処置した腫瘍における線維化面積と腫瘍の倍変化との間の相関を示した図である。
図6Dは、(4)TTフィールドで処置した腫瘍における線維化面積と腫瘍体積との間(
図6D)の相関を示した図である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、がん細胞の生存率を低下させる第1の方法を対象とする。この第1の方法は、がん細胞に交流電場を印加する工程であり、交流電場が100から500kHzの間の周波数を有する工程、及びIL11活性を阻害する工程を含む。
【0006】
第1の方法の一部の例では、交流電場の周波数は180から220kHzの間である。第1の方法の一部の例では、がん細胞は、神経膠芽腫細胞及び肝癌細胞を含む。
【0007】
第1の方法の一部の例では、IL11活性の阻害は、IL11発現の減少、IL11シグナル伝達の阻害、IL11の下方制御、IL11の中和、及びIL11受容体の遮断のうちの少なくとも1つを含む。第1の方法の一部の例では、IL11活性の阻害は、IL11アンタゴニストの投与、IL11中和抗体の投与、及びIL11受容体α(IL11Ra)中和抗体の投与のうちの少なくとも1つを含む。
【0008】
第1の方法の一部の例では、治療上有効な濃度の線維症阻害剤を対象に投与する。第2の方法の一部の例では、線維症阻害剤の投与は、ファスジル、ピルフェニドン、ニンテダニブ、ロサルタン、ヒアルロニダーゼ、トラニラスト、及びビスモデギブのうちの少なくとも1つの対象への投与を含む。一部の例では、広域スペクトルチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ソラフェニブ、スニチニブ、及びイマチニブ)のうちの少なくとも1つの治療上有効な濃度を対象に投与する。
【0009】
本発明の別の態様は、生きている対象の体内の腫瘍の体積を低下させる第2の方法を対象とする。第2の方法は、腫瘍に交流電場を印加する工程であり、交流電場が100から500kHzの間の周波数を有する工程、及び治療上有効な濃度のIL11阻害剤を対象に投与する工程を含む。
【0010】
第2の方法の一部の例では、交流電場の周波数は180から220kHzの間である。第2の方法の一部の例では、印加工程の少なくとも一部は、投与工程の少なくとも一部と同時に実施される。
【0011】
第2の方法の一部の例では、IL11阻害剤の投与は、IL11アンタゴニストの投与、IL11中和抗体の投与、及びIL11受容体α(IL11Ra)中和抗体の投与のうちの少なくとも1つを含む。
【0012】
第2の方法の一部の例では、IL11阻害剤の投与は、IL13アンタゴニストの投与、IL13中和抗体の投与、及びIL13受容体α(IL13Ra)中和抗体の投与のうちの少なくとも1つを含む。
【0013】
第2の方法の一部の例では、治療上有効な濃度の線維症阻害剤を対象に投与する。
【0014】
第2の方法の一部の例では、線維症阻害剤の投与は、ファスジル、ピルフェニドン、ニンテダニブ、ロサルタン、ヒアルロニダーゼ、トラニラスト、及びビスモデギブのうちの少なくとも1つの対象への投与を含む。
【0015】
一部の例では、第2の方法は更に、広域スペクトルチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ソラフェニブ、スニチニブ、及びイマチニブ)のうちの少なくとも1つの治療上有効な濃度を対象に投与する工程を含む。腫瘍の腫瘍体積は約5分の1以下に低下し得る。
【0016】
本発明の別の態様は、生きている対象の体内にあるがん細胞の生存率を低下させる第3の方法を対象とする。この第3の方法は、がん細胞に交流電場を印加する工程であり、交流電場が100から500kHzの間の周波数を有する工程、及び治療上有効な濃度の線維症阻害剤を対象に投与する工程を含む。
【0017】
第3の方法の一部の例では、交流電場の周波数は180から220kHzの間である。第3の方法の一部の例では、印加工程の少なくとも一部は、投与工程の少なくとも一部と同時に実施される。第3の方法の一部の例では、線維症阻害剤の投与は、ファスジル、ピルフェニドン、ニンテダニブ、ロサルタン、ヒアルロニダーゼ、トラニラスト、及びビスモデギブのうちの少なくとも1つの対象への投与を含む。
【0018】
第3の方法の一部の例では、線維症阻害剤の投与は、カルシウムチャネル遮断剤の対象への投与を含む。任意選択で、これらの例の一部では、カルシウムチャネル遮断剤は、フェロジピン、ベラパミル、ジルチアゼム、及びニフェジピンのうちの少なくとも1つを含む。
【発明を実施するための形態】
【0019】
通常、ほとんどの腫瘍は健康な周囲の組織よりも電気伝導率が高い。また、この高い電気伝導率によって、悪性組織に対するTTフィールドの特異性を説明することができる。より詳細には、電場の電力損失密度、Lは、
【0020】
【0021】
として定義され、σは組織の導電率であり、|E|は電場の強度である(電力損失密度は、ミリワット/立方センチメートルの単位で測定される)。また、腫瘍組織内の高い導電率σは、その特定の組織内でより高い電力損失密度を生じる。
【0022】
臨床データは、TTフィールドで処置したGBM患者の腫瘍におけるIL11(インターロイキン-11)発現レベルの有意な増加を示している。データは以下の通りに得られた。GBM腫瘍試料は、標準的な化学放射線療法プロトコル(6人の患者)又はTTフィールドと標準的な化学放射線療法とを組み合わせたプロトコル(6人の患者)に従った処置の前後に得られた。遺伝子発現の分析は、RNA-seqによって実施した。負の二項分布の一般化線形モデルを使用して、処置後の発現並びに対照及びTTフィールド処置の効果の差異を分析した。生データはDESeq2ソフトウェアを使用して分析した。差次的遺伝子発現分析は、化学放射線療法及びTTフィールド処置群のキロベースミリオン当たりの読み取り(RPKM)値を使用して計算した。統計分析は、負の二項分布の一般化線形モデルを使用して実施した。処置前後の発現の差は、各個体について別々に導き、平均正味処置効果は、各処置群について計算した。処置効果間の差は、TTフィールド及び対照の平均正味効果の間の倍変化として表された。ベンジャミーニ-ホッホベルク法を使用して、多重比較の倍変化p値を補正した。免疫活性に関連した712遺伝子のリストは、一般的な文献、Nanostring社「nCounter(登録商標)PanCancer immune profiling panel」及びThermoFischer社「Oncomine(商標)immune response」遺伝子リストを使用して編集した。
【0023】
TTフィールドと対照処置の効果の有意差は、補正されたp値<0.1での倍変化>2又は<0.5として定義された。以下の表は、有意に変化した遺伝子発現を示した遺伝子を表している。
【0024】
【0025】
特に、IL11の発現に対するTTフィールド+化学放射線処置の効果の差異(化学放射線のみの対照と比較して)は8.5倍の増加であった。下記の動作の理論に拘束はされないが、IL11のこの増加は2つの問題を引き起こす可能性がある。
【0026】
第1の問題は、IL11が線維化因子であることが知られていることである。結果として、TTフィールドの印加に関連したIL11の増加は、腫瘍組織内で細胞外マトリックスのリモデリング及び線維症を生じる可能性がある。線維症は細胞内液及び細胞外液の減少を引き起こすため、線維性組織は通常、非線維性組織よりも導電率が低い。したがって、IL11によって促進される線維症は、(徐々に)腫瘍の導電率σを減少させ、次いで式(1)の演算によって腫瘍の電力損失密度を低下させ、それによってTTフィールドの有効性を減少させるであろう。この有害な一連の事象は、IL11活性を阻害することによって中断することができる。より詳細には、IL11活性を阻害すると線維症が低下し、導電率σを高く維持することが可能で、電力損失密度を高く維持することが可能で、TTフィールドの有効性を高く維持することが可能である。
【0027】
前述の有害な一連の事象を中断することによって期待される有効性は、IL11の阻害が心臓及び腎臓の線維症を予防することを示したことを立証する実験によって裏付けられる。
【0028】
第2の問題は、腫瘍におけるIL11の発現が、肝細胞癌、膵臓がん、胃腺癌、非小細胞肺がん、乳がん、子宮内膜癌、及び軟骨肉腫等の広範囲の腫瘍における高悪性度の表現型及び予後不良に関連していることである。
【0029】
上記の問題はいずれも、腫瘍がTTフィールドに曝露されたときに生じるIL11の増加を打ち消すことによって(例えば、IL11活性を阻害することによって)改善することができる。
【0030】
IL11活性を阻害するためのいくつかの適切なアプローチの例には、IL11発現の減少、IL11シグナル伝達の阻害(例えば、バゼドキシフェンを投与することによる)、IL11の下方制御、IL11の中和、IL11受容体の遮断、IL11アンタゴニスト(例えば、W147A)の投与、IL11中和抗体(例:ENxl08A、ENx203、又はENx209)の投与、及びIL11受容体α(IL11Ra)中和抗体の投与が含まれる。
【0031】
IL11活性の阻害はまた、IL11の刺激因子を阻害することによって、又はIL11受容体α(IL11Ra)の刺激因子を阻害することによって間接的に達成することができる。例えば、IL13はIL11及びIL11Raの強力な刺激因子なので、IL11活性を阻害するための適切なアプローチの更なる例には、IL13発現の減少、IL13シグナル伝達の阻害、IL13の下方制御、IL13の中和(例えば、デュピルマブの投与による)、IL13受容体の遮断、IL13アンタゴニストの投与、IL13中和抗体の投与、及びIL13受容体α(IL13Ra)中和抗体の投与が含まれる。
【0032】
上記を考慮すると、腫瘍を処置し、がん細胞の生存率を低下させるための1つのアプローチは、TTフィールドをがん細胞に印加し、IL11活性を阻害することである。このアプローチは、上記の問題の両方を改善することによって、TTフィールド処置の有効性を高めることが期待される。インビボの状況では、IL11活性の阻害は、治療上有効な濃度のIL11阻害剤を対象に投与することによって達成することができる。
【0033】
腫瘍を処置し、がん細胞の生存率を低下させるための代替アプローチは、TTフィールドをがん細胞に印加し、全般的に線維症を阻害することである。このアプローチは、上記の第1の問題を改善することによって(上記の第2の問題が改善されるかどうかに関わりなく)、TTフィールド処置の有効性を高めることが期待される。より詳細には、線維性組織は通常非線維性組織よりも導電率が低いので、IL11によって誘発される線維症は、(徐々に)腫瘍の導電率σを減少させ、次いで式(1)の演算によって腫瘍の電力損失密度を低下させ、それによってTTフィールドの有効性を減少させるであろう。この有害な一連の事象は、IL11によって誘発される線維症を阻害する異なるアプローチを使用することによって打ち消すことができる。
【0034】
一部の実施形態では、これは、以下の薬物:ファスジル、ピルフェニドン、ニンテダニブ、ロサルタン、ヒアルロニダーゼ、トラニラスト、及びビスモデギブ(これらのそれぞれは、線維症を阻害することが知られている化合物を含む)のうちの少なくとも1つを使用して達成される。その他の実施形態では、これは、線維症を阻害することが知られているカルシウムチャネル遮断薬(例えば、フェロジピン、ベラパミル、ジルチアゼム、及び/又はニフェジピン)を使用して達成される。その他の実施形態では、これは、線維症を阻害することが知られているその他の様々な化合物のいずれかを使用して達成される。
【0035】
一部の実施形態では、これは、抗腫瘍性及び抗線維性の両方である少なくとも1つの化合物(例えば、ソラフェニブ又はスニチニブ及びイマチニブ等の任意の適切な広域スペクトル受容体チロシンキナーゼ阻害剤(RTKI))を使用して達成することができる。この態様では、ソラフェニブは線維症を減少させ、腫瘍サイズを減少させ、TTフィールド処置に対する腫瘍反応を改善することができる。
【0036】
線維症を阻害するためにIL11活性を阻害することに基づく上述の実施形態のように、これらの実施形態における線維症のレベルの低下によって、導電率σを高く維持することが可能で、電力損失密度を高く維持することが可能で、TTフィールドの有効性を高く維持することが可能である。
【0037】
インビボの状況では、線維症の阻害は、治療上有効な濃度の線維症阻害剤を対象に投与することによって達成することができる。
【0038】
インビボの状況では、関連する分子又は分子類(例えば、IL11阻害剤又は線維症阻害剤)のがん細胞への投与は、分子類が患者の体内を循環しているとき(例えば、全身投与後)、又はがん細胞の近くに導入されたとき、第1の時間(t1)から、分子類が患者の体から排除されるか、又は使い果たされるような時間(t2)まで、継続的に行われてもよい。結果として、TTフィールドがt1とt2の間にがん細胞に印加される場合、印加工程は、投与工程の少なくとも一部と同時に行われる。対象への分子類の投与は、静脈内、経口、皮下、髄腔内、筋肉内、脳室内、及び腹腔内を含むがこれらに限定されない様々なアプローチのいずれかを使用して実施することができる。更に、がん細胞への交流電場の印加は、Novocure Optune(登録商標)システム又は異なる周波数で動作するその変種を使用して実施することができる。
【0039】
一部の例では、線維症は、抗線維性及び抗腫瘍性の両方である因子を使用して低下させることができる。例えば、TTフィールドとソラフェニブとの組み合わせは、肝細胞癌N1S1細胞の腫瘍体積を相乗的に低下させることが知られている。米国特許出願公開第2020/0016067号の
図1を参照のこと。
図1に示されたように、TTフィールドとソラフェニブとを組み合わせた結果、腫瘍体積が10分の1以下に減少する。
【0040】
TTフィールド単独及びソラフェニブとの併用の効果は、N1S1腫瘍における線維症への影響に関して評価した。ソラフェニブと組み合わせたTTフィールドは、病理学者によって評価されたように、TTフィールド単独と比較して線維症スコアを有意に低下させた。
図3A~
図3B。腫瘍の線維化面積は、面積パーセント及び倍変化によって測定され、線維症において同様の低下を示した。
図4~
図5。
【0041】
腫瘍の倍変化(
図1A)及び腫瘍体積(
図1B)の低下は、TTフィールドで処置した腫瘍の線維症スコア(
図6A~
図6B)の増加と相関していた。腫瘍の倍変化及び腫瘍体積の低下は、線維化面積の増加と相関していた(
図6C~
図6D)。
【0042】
まとめると、TTフィールドは、抗IL11及び/又は追加の抗線維化剤、並びに腫瘍体積を相乗的に低下させることができる薬剤と組み合わせることができる。一部の場合では、ソラフェニブは、腫瘍体積を低下させるために、また本明細書で記載したような抗線維化剤として使用することができる。
【0043】
本明細書で使用した「がん細胞の生存率を低下させる」という用語は、がん細胞の成長、増殖、又は生存率を低下させることを意味する。一部の態様では、がん細胞の生存率の低下は、がん細胞のクローン原性生存の低下、がん細胞の細胞毒性の増加、がん細胞におけるアポトーシスの誘導、及びがん細胞の少なくとも一部から形成される腫瘍における腫瘍体積の減少を含む。
【0044】
「クローン原性生存」という用語は、単一のがん細胞ががん細胞のコロニーに成長する能力を意味する。一態様では、「コロニー」とは少なくとも50個の細胞である。
【0045】
「細胞毒性」という用語は、細胞を殺滅するための薬物又は処置の能力の基準を意味する。
【0046】
「アポトーシス」という用語は、「プログラムされた細胞死」と呼ばれる現象を意味し、細胞の成長及び発達の制御された細胞周期の一部としての細胞の死を意味する。
【0047】
本明細書で使用した「治療上有効な濃度」という用語は、その意図された目的(例えば、IL11活性の阻害、線維症の阻害等)を実現するのに十分な関連化合物の濃度を意味する。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
TTフィールド(150kHz)/ソラフェニブの組み合わせによって、インビボでの腫瘍体積の有意な低下が引き起こされた。
図1A及び
図1B、並びに米国特許出願公開第2020/0016067号(参照により全体を本明細書に組み込んだ)に示されるように、150kHzのTTフィールドとソラフェニブとの組み合わせは、N1S1肝癌細胞における腫瘍体積の倍増加を有意に低下させた。腫瘍体積はMRIによって判定した。
図1A及び
図1Bは、熱、TTフィールド単独、ソラフェニブ単独、及びTTフィールドとソラフェニブとの組み合わせで処置したSprague DawleyラットにおけるN1S1腫瘍体積に関して、以下に記載したインビボ研究の結果を示す。この実験では、腫瘍の体積を6日目(処置開始の1日前)及び14日目(処置終了の1日後)にMRIを使用して測定しており、
図1Aの各データポイントは、14日目の腫瘍の体積を6日目の腫瘍の体積で除したものを表す。したがって、1より大きい数値は腫瘍体積の増大を表し、1より小さい数値は、6日目から14日目までの間に縮小した腫瘍を表す。この図では、「*」はp<0.1を表し、「**」はp<0.01を表し、「****」はp<0.0001を表す。
図1に示したように、TTフィールド(2.86V/cm)とソラフェニブ(10mg/kg/日)との組み合わせによる処置後、腫瘍体積は相乗的に減少した。
図1Bは腫瘍の体積を表す。
【0049】
(実施例2)
線維症及びTTフィールド処置
8週齢の雄SDラット(Envigo Ltd社、イスラエル)を、ケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)のIP注射によって麻酔した(
図2)。姿勢反射が失われた後、トリマーを使用して上腹部領域から被毛を除去した。肝臓の左葉を外科的に露出させ、等量の無血清培地及びマトリゲル(CORNING社、Bedford、MA)に50,000個のN1-S1肝細胞癌細胞を含有する細胞懸濁液10μlを、31ゲージの針を付けた注射器を使用して左葉に直接注射した。腹膜及び腹筋の切開は、外科用縫合糸を使用して閉じ、皮膚はクリップによって閉じた。ラットは回復のために6日間与えられた。
【0050】
6日目に、全動物に1回目のMRIスキャンを行い、無作為に以下の処置群に分けた。
群I-ラットをシャムの加熱電極及びビヒクル注射で処置した。
群II-ラットを150kHzTTフィールド及びビヒクル注射で処置した。
群III-ラットをソラフェニブ10mg/kg/日で処置した。
群IV-ラットを150kHzTTフィールド及びソラフェニブ10mg/kg/日で処置した。
【0051】
7日目に、電極(TTフィールド又はシャム加熱)を動物に配置した。動物をTTフィールド又はシャム加熱で6日間処置した。ソラフェニブ又は対照ビヒクルは、6日間の処置のうち5日間にIP注射によって投与した。13日目に全電極を取り外し、14日目に動物に2回目のMRIを行い、安楽殺した。腫瘍体積は、腫瘍移植後7日目及び14日目のMRIスキャンに基づいて判定した。MRIシステムは、会社の動物施設内に設置された1テスラで動作するBruker Iconシステムである。動物をイソフルランで麻酔し、ラット用ボディコイルにうつ伏せに配置した。ローカライザ画像の後、T2強調コロナル解剖学的画像をRAREシーケンス及び以下のパラメーターを用いてスキャンした:TR/TE 1900/51ms、スライス数10、スライス厚1mm、FOV 55~65mm、取得マトリックス140、平均8、取得時間4分18秒。腫瘍体積は、ITK-SNAPバージョン3.6.0-rclフリーソフトウェアを使用して腫瘍を手動のセグメンテーションによって測定した(t検定; *P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001)(
図1)。
【0052】
半定量的評価尺度を使用して線維症のグレードを組織学的に評価するために腫瘍を採取した。パラフィンブロックは約4ミクロンの厚さに切断した。切片をスライドガラス上に置き、ヘマトキシリン&エオジン(H&E)及びマッソントリクローム(MT)で染色した。マッソントリクローム染色切片は、スコアリンググレードスケール及びデジタル形態計測を使用して、線維症について分析した。
【0053】
H&E染色切片は、1人の病理学者が検査し、以下の通りに病理学的変化の存在について半定量的スコアリングシステムによってスコア化した(
図3及び
図3A)。
グレード0:線維症の徴候無し
グレード1:線維症の非常に軽度の徴候
グレード2:線維症の軽度の徴候
グレード3:線維症の中等度の徴候
グレード4:高度の線維症
グレード5:非常に高度の線維症
【0054】
図3に示したように、MATLAB社の色ベースのセグメンテーションを用いて、L*a*b*色空間を使用して、青く染色された領域(MT:線維症)の色セグメンテーションを実施した。L*a*b*色空間は、CIE XYZ3刺激値から得られる。L*a*b*空間は、明度「L*」又は輝度層、色が赤緑軸に沿って下がる位置を示す色度層「a*」、及び色が青黄軸に沿って下がる位置を示す色度層「b*」から構成される。
【0055】
(実施例3)
形態計測(線維化面積の倍変化、線維化面積パーセント)
図4に示したように、組織全体(
図3:右上+左下)のうちの染色領域(
図3:右上)のパーセントを計算した。
【0056】
線維化パーセントの形態計測では、TTフィールド単独を投与されたラットの腫瘍において最も高い線維化面積を示し(対照と比較して34%増加)、ソラフェニブ(抗線維化)単独を投与されたラットの腫瘍において最も低い線維化面積(対照と比較して30.4%減少)を示す。
【0057】
TTフィールド及びソラフェニブの併用処置は、対照群と比較して線維化面積の20.8%の低下をもたらした。これらの結果は、「線維化面積(倍変化)」にまとめられている(
図5)。線維化面積のパーセント変化は
図4にまとめられている。
【0058】
(実施例4)
腫瘍体積の低下及び線維症の増加として測定されたTTフィールドに対する応答の相関
図6A~
図6Dは、(1)TTフィールドで処置した腫瘍における線維症スコアと腫瘍体積との間(
図6A)、(2)TTフィールドで処置した腫瘍における線維症スコアと腫瘍の倍変化との間(
図6B)、(3)TTフィールドで処置した腫瘍における線維化面積と腫瘍の倍変化との間(
図6C)、及び(4)TTフィールドで処置した腫瘍における線維化面積と腫瘍体積との間(
図6D)の相関を示している。特定の理論に拘束はされないが、TTフィールド処置に関連する線維症の低下によって、腫瘍はTTフィールド単独、及びIL11阻害剤、線維症阻害剤、又は抗腫瘍原性因子/線維症阻害剤(例、ソラフェニブ)との組み合わせによる処置の影響を受けやすくなると考えられる。
【0059】
本発明は特定の実施形態を参照して開示してきたが、添付の特許請求の範囲で定義されるように、本発明の分野及び範囲から逸脱することなく、記載した実施形態に対する多数の改変、変更、及び変化が可能である。したがって、本発明は、記載した実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲の言語及びそれらの同等物によって定義される全範囲を有するものである。
【国際調査報告】