(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(54)【発明の名称】組織アブレーションレーザ装置、および、組織をアブレートする方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/20 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
A61B18/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508969
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(85)【翻訳文提出日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 EP2020072630
(87)【国際公開番号】W WO2021028473
(87)【国際公開日】2021-02-18
(32)【優先日】2019-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518454612
【氏名又は名称】アドバンスト オステオトミー ツールズ - エーオーティー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ, アルフレート エー.
(72)【発明者】
【氏名】マルティン, ロレンツ
【テーマコード(参考)】
4C026
【Fターム(参考)】
4C026AA02
4C026BB08
4C026HH15
(57)【要約】
組織アブレーションレーザ装置(100)は、基本レーザビーム(140)を発生させるように構成されたレーザ光源(110)と、基本レーザビーム(140)を受光し、基本レーザビーム(140)を放射レーザビーム(143)に変形するように構成されたビーム成形光学系(120)とを備える。ビーム成形光学系(120)は、更に、放射レーザビーム(143)が約10°以下の集束角度(142)を有するように基本レーザビーム(140)を焦束するように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本レーザビーム(140)を発生させるように構成されたレーザ光源(110)と、
前記基本レーザビーム(140)を受光し、前記基本レーザビーム(140)を放射レーザビーム(143)へ変形するように構成されたビーム成形光学系(120)と
を含む組織アブレーションレーザ装置(100)であって、
前記ビーム成形光学系(120)は、前記放射レーザビーム(143)が約10°以下、約5°以下、または、約3°以下の集束角度(142)を有するように前記基本レーザビーム(140)を集束させるように構成される
ことを特徴とする組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項2】
前記集束角度(142)が、前記放射レーザビーム(143)の最も外側の光線(145)の方向と前記放射レーザビーム(143)の伝播路(z)の方向とによって定義される、請求項1に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項3】
前記放射レーザビーム(143)の前記伝播路(z)の前記方向が前記放射レーザビーム(143)の中心の光線(147)の方向に対応する、請求項2に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項4】
前記放射レーザビーム(143)によってアブレートされる組織(131)を濡らすように構成されたウェッティング装置(151)を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項5】
前記ウェッティング装置(151)が前記放射レーザビーム(143)によって前記組織(131)に作られる切除開口部(130)を濡らすように構成される、請求項4に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項6】
前記ウェッティング装置(151)は、前記放射レーザビーム(143)によってアブレートされる前記組織(131)への液体噴霧(152)を生じさせるように構成されたスプレーノズル(151)を有する、請求項4または5に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項7】
前記レーザ光源(110)が、約2.5マイクロメートルから約3.5マイクロメートルの範囲内の波長、または、約2940ナノメートルの波長で前記基本レーザビーム(140)を発生させるように構成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項8】
前記レーザ光源(110)が、パルス化されたレーザビームとして前記基本レーザビーム(140)を発生させるように構成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項9】
前記レーザ光源(110)が、約1から約100ヘルツの範囲の、または、約10から約30ヘルツの範囲の周波数でパルス化された前記基本レーザビーム(140)を発生させるように構成される、請求項8に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項10】
前記レーザ光源(110)が約5マイクロ秒から約300マイクロ秒の範囲内の、約10マイクロ秒から約150マイクロ秒の範囲内の、または、約50マイクロ秒から約120マイクロ秒の範囲内の時間幅を有するパルス化された前記基本レーザビーム(140)のパルスを発生させるように構成される、請求項8または9に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項11】
前記ビーム成形光学系(120)が約4cmを超える焦点距離を有する前記放射レーザビーム(143)を発生させるように構成される、請求項1から10のいずれか一項に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項12】
前記放射レーザビーム(143)の焦点距離が約25cm未満または約20cm未満である、請求項11に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項13】
骨切除装置として適用されるように構成される、請求項1から12のいずれか一項に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項14】
前記放射レーザビームが、約15以下または約10以下のビーム品質係数Mの二乗の値を有するように構成される、請求項1から13のいずれか一項に記載の組織アブレーションレーザ装置(100)。
【請求項15】
人間または動物の硬組織(131)のような組織(131)をアブレートする方法であって、
焦束された放射レーザビーム(143)を発生させることと、
前記組織(131)に対する前記放射レーザビーム(143)の内部入射角(148)が、約10°以下、好適には約5°以下、より好適には約3°以下であるように、前記組織(131)の表面に焦束された前記放射レーザビーム(143)を向けることと
を含む、方法。
【請求項16】
前記内部入射角(148)が前記放射レーザビーム(143)の最も外側の光線(145)の方向と前記組織(131)の切除開口部(130)の側壁(180)とによって定義される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記放射レーザビーム(143)によってアブレートされる前記組織(131)を濡らすステップを含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記放射レーザビーム(143)によってアブレートされる前記組織(131)を濡らすことが、前記組織(131)の前記切除開口部(130)の側壁(180)を濡らすことを含む、請求項16および請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記放射レーザビーム(143)によってアブレートされる前記組織(131)に液体が噴霧される、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記放射レーザビーム(143)が約2.5マイクロメートルから約3.5マイクロメートルの範囲内の波長、または、約2940ナノメートルの波長で発生させられる、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記放射レーザビーム(143)がパルス化されたレーザビームとして発生させられる、請求項15から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
放射基本レーザビーム(140)が約1から約100ヘルツの範囲内の、または、約10から約30ヘルツの範囲内の周波数でパルス化される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
パルス化された基本レーザビーム(140)のパルスが、約5マイクロ秒から約300マイクロ秒の範囲内の、約10マイクロ秒から約150マイクロ秒の範囲内の、または、約50マイクロ秒から約120マイクロ秒の範囲内の時間幅を有する、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記放射レーザビーム(143)が約4cmを超える焦点距離で発生させられる、請求項15から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記放射レーザビーム(143)の前記焦点距離が、約25cm未満または約20cm未満である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
手術または治療による、人間または動物の体の処置のための方法でない、請求項15から25のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1の前提部分による組織アブレーションレーザ装置に関し、より詳細には、例えば、そのような組織アブレーションレーザ装置によって組織をアブレートする方法に関する。
【0002】
基本レーザビームを発生させるように構成されたレーザ光源と、基本レーザビームを受光して基本レーザビームを放射レーザビームに変形するように構成されたビーム成形光学系とを有する上記の種類の組織アブレーションレーザ装置が、組織を切る(cut)、削る(mill)、または、抉る(drill)べく組織をアブレートするために用いられ得る。組織は、特に、人間または動物の硬組織であり得る。
【背景技術】
【0003】
多くの技術分野において様々な種類の物質を切り、抉るために、機械工具を使用する代わりにレーザ光のビームを照射して、アブレーションによって物質を除去する装置を使用することは増々普及してきている。実際、今日では、産業上の用途においては、レーザ光によって切る、削る、または、抉ることが広く普及している。なぜならば、小さい部品(例えば、腕時計製造、医療装置製造等)の製造のための必要に応じた高精度で、効率的かつ柔軟に加工し複製することを可能にするからである。同様に、骨、軟骨等のような人間または動物の硬組織を切る、削る、そして、抉るためにも、その様々の利点のためにレーザアブレーションの使用が浮かび上がりつつある。例えば、ロボット手術において、機械ツールに代わる切断ツールとしてレーザビームを使用することが結果として多くの利点をもたらすことが知られている。より具体的には、例えば、EP2480153B1には、コンピュータ支援かつロボット誘導のレーザ骨切除の医療装置が示されている。この装置は、骨、および、人間または動物の他の硬組織、ならびに、より軟らかい組織を正確かつ穏やかに抉る、削る、そして、切ることを可能にする「冷たい(cold)」アブレーション作用メカニズムに基づく。
【0004】
より具体的には、医療目的の生物組織のレーザ組織アブレーションは、皮膚科、泌尿器科、腫瘍科、脳神経外科、眼科の手術、および、組織の正確な切除が重要である他の分野で用いられている。通常、特定の目的に応じて異なるレーザシステムが用いられる。例えば、光のスペクトルの赤外部でレーザ発振するロッドの形に加工された様々な固体のガラスまたは結晶に埋め込まれ、フラッシュランプまたはレーザダイオードによってエネルギー供給されるツリウム(Tm)、ホルミウム(Ho)、ネオジム(Nd)、または、エルビウム(Er)が用いられる。更に、従来、CO2ガスレーザも組織をアブレートするために用いられてきた。組織アブレーション目的のためのこれらの全てのレーザの選択は、主に、それらのレーザ放射波長が、生物細胞内に、したがって、組織内に存在する水によって強く吸収されるという事実による。こうして、組織は効率的にアブレートされ得る。
【0005】
更に、人間または動物の硬組織をアブレートするためには、(例えば、2.96μmに輝線を有するEr:YAGレーザのような)水によって強く吸収されるレーザ波長によって特定の組織をアブレートするときに、同時に、例えば、水溶液スプレーによって標的の硬組織を濡らすことが有益であり得ることが知られている。例えば、アブレーションの間、特に、残りの硬組織の壊死が防止され得るように、水または他の液体が組織を濡れた冷たい状態に保つと認められている。
【0006】
加えて、標的の組織が湿っている状態が、全体のアブレーションプロセスに寄与する間接的なアブレーションプロセスを促進し得ることが知られている。この間接的なアブレーションプロセスにおいては、標的の組織の近傍を飛ぶ水滴もしくは液滴、および/または、組織の表面で凝縮した水もしくは液体の膜は、レーザパルスの電磁エネルギーによって粉砕され得、かつ、吸収されたレーザビームパルスにより提供された運動エネルギーを有して伝播し得る。これらの小さくかつ速く移動する小片が、例えば、1000m/sに及ぶこともあり得る速度で標的の組織と衝突するときに、組織は更にアブレートされる。場合によっては、そのような間接的なアブレーションプロセスが、全体のアブレーションに寄与する主要または唯一の要因である場合もある。特に、歯または脂肪組織のような疎水性、および/または、低含水量の組織をアブレートするときには、間接的なアブレーションプロセスはしばしば主要または支配的な組織アブレーションメカニズムである。
【0007】
更に、水または同様の液体の使用は、特に外科または同様の医療用途において他の1つの関連する利点を有し得る。すなわち、水または同様の液体の使用により、そうでなければ手術室を汚染し得るいくつかの潜在的に有毒な成分を含むアブレーションの破片(debris)を凝縮することができる。
【0008】
人間または動物の硬組織の効率的なアブレーションを達成するために、典型的には、集束されたレーザが用いられる。特に、既知の有益なレーザ光源を使用するときにレーザビームが組織に当たるスポットにおいて適切なエネルギー密度を有するために、典型的には、2センチメートル(cm)以下の焦点距離を有するレーザビームが提供される。これに関連して、放射レーザビームの焦点で出現するビームウエスト(W0)におけるエネルギー密度(ED)またはエネルギーフラックスは、W0(D=2ω0)におけるビームの直径によって除算される単一パルスのエネルギー量(E)に関係する。すなわち、ED=F=E/D=E/2ω0。
【0009】
このことにより、レーザ光源のそのような用途においては、組織までの距離が大き過ぎると、組織を効率的にアブレートするためには、または、そもそも組織をアブレートするためには全く、強度が低過ぎるので、組織までの距離が適切であることを確実にすることが重要である。組織のアブレーションの進行中に、組織において意図されたレーザビームエネルギー密度を達成するべく常に距離を適切に保つためにオートフォーカス技術を使用することは、例えば、EP2480153B1から知られている。
【0010】
しかしながら、組織までの必要な距離は比較的に小さいため、典型的には、人間または動物の硬組織を切る、削る、または、抉るために用いられる既知のレーザ装置は、例えば、1cmを超える深さのような比較的高深度まで組織を満足にアブレートするのに適していない。多くの用途および治療のためには1cmの深さで十分であっても、より深いアブレーションが必要とされ得る場合がある大腿骨または胸骨を切るような用途も存在する。
【0011】
また、上述のような焦点距離を有するレーザビームを用いることによって、典型的には、深さが進行するにつれて、穴の入口または作られる切除開口部は増々広くなる。このことは、切除開口部が焦束されたレーザビームの形状に倣う場合には、結果として、円筒形よりはむしろ円錐形を有する、または、非平行な壁を有する穴を作り出し得る。切除開口部の場合におけるそのような非平行なまたは発散する対向壁は、再び構成される表面の間の接触が理想的でないので、後に続く骨の治癒を悪化させる可能性がある。
【0012】
更に、既知のレーザ装置では、組織までの距離は通常比較的小さく保たれるので、レーザ装置は介入領域の直接の可視化を妨げる、または、邪魔する可能性がある。このことにより、アブレーションプロセスの直接の目視検査ができるようにするために外科医に頻繁にレーザ装置の位置を変えさせることになり得る。また、そのような小さい距離は、軟組織のための開創器またはアスピレータチューブのような他の器具用のスペースを残さず、レーザ装置の位置決めのためのスペースまたはロボットの最終段階において搭載され得るレーザ装置の操作性を制限する。
【0013】
こうして、比較的高深度まで人または動物の硬組織を切る、削る、かつ/または、抉ること、作られた切除開口部または穴に比較的平行な壁を作ること、そして、アブレーション中の直接の目視検査を改善することを可能にする装置、システム、または、プロセスが必要である。
【発明の概要】
【0014】
本発明によれば、独立請求項1の特徴により定義される組織アブレーションレーザ装置によって、そして、独立請求項15の特徴により定義される、組織をアブレートする方法によって、上記の必要は解決される。好適な実施形態は従属請求項の主題である。
【0015】
1つの態様によれば、本発明は、レーザ光源およびビーム成形光学系を含む組織アブレーションレーザ装置である。レーザ光源は、基本レーザビームを発生させるように構成される。ビーム成形光学系は、基本レーザビームを受光して、基本レーザビームを放射レーザビームに変形するように構成される。更に、ビーム成形光学系は、放射レーザビームが約10°以下、好適には約5°以下、より好適には約3°以下の集束角度を有するように、基本レーザビームを焦束させるように構成される。
【0016】
「レーザ装置」という用語は、一般に、レーザビームを発生させるように構成されている装置、または、電磁放射の誘導放出に基づく光増幅のプロセスによって光を発生させる装置に関係する。一般に、レーザは、「放射の誘導放出による光増幅(light amplification by stimulated emission of radiation)」の略語である。コヒーレントな光を発するという点でレーザは他の光源と異なり得る。そのような空間的コヒーレンスによって、レーザが狭いスポットに焦束されることが許容され得る。このことは切断(cutting)またはリソグラフィのような用途を可能にする。組織をアブレートするレーザアブレーション装置は、特に、レーザ骨切除装置であり得る、または、骨切除装置として使用されるように構成され得る。
【0017】
レーザ装置によってアブレートされる組織は、人または動物の組織、および、より具体的には、人または動物の自然または人工の硬組織であり得る。それにより、「硬組織」という用語は、爪組織、軟骨組織、そして、特に骨組織に関係し得る。したがって、組織アブレーションレーザ装置は、特に、骨を切る、削る、かつ/または、抉るために設計され得る。この点に関して「人工的な」という用語は、自然の硬組織に代わる、または置き換えるための合成物質に関係し得る。したがって、「人工硬組織」という用語は、骨の代替として用いられる合成された組織または材料を指すことがある。上述のように、特に有利な実施形態において、組織アブレーションレーザ装置は骨アブレーションレーザ装置またはレーザ骨切除装置である。より具体的には、骨アブレーションレーザ装置またはレーザ骨切除装置は、自動の骨アブレーションレーザ装置であり得る。例えば、それはレーザ光源および/またはビーム成形光学系を担持するロボットユニット、ならびに、制御ユニットを含むことができ、制御ユニットは、骨の予め決められた切除開口部または切削形状を形成するためにロボットユニットを制御するように構成される。
【0018】
ビーム成形光学系は、レンズ、テレスコープ、偏向ミラーもしくはダイクロイックミラー、他のミラー、コリメータ、リフレクタ等のような光学コンポーネントを含むことができる。ビーム成形光学系は、そのような単一のコンポーネントによって、あるいは、複数のそのようなコンポーネントによって実現され得る。例えば、放射レーザビームが提供される前の最後のコンポーネントの1つとして、ビーム成形光学系は集束レンズ(すなわち、凸レンズ)を含み得る。ここで使用した「テレスコープ」という用語は、複数のレンズの組合せを意味し、通常、一定の距離をおいて配置されレーザビームを倍率Xだけ拡大するために用いられる、発散レンズおよび収束レンズという2つのレンズの単一のエレメントへの組合せを意味する。レーザビームの光線が平行または略平行に伝播するように、上記テレスコープの複数のレンズ間の距離は変化され得る。
【0019】
放射レーザビームは、レーザ装置によって放射されるレーザビームである。それは、特に標的(すなわち、骨または人間もしくは動物のその他の硬組織のような組織)に向けられるように適合され得る。したがって、放射レーザビームは、レーザ装置全体によって発生される最終的なレーザビームである。レーザ装置によって、その用途または目的の要件に適合されることが有利である。
【0020】
本明細書においてレーザビームに関連して角度に言及するときには、特に、レーザビームによって構成される複数の光線のエンベロープの外側の、または、最も外側の光線の角度を意味し得る。より具体的には、集束角度は、好適には、放射レーザビームの最も外側の光線の方向と放射レーザビームの伝播路の方向とによって定義される。放射レーザビームの伝播路の方向は、放射レーザビームの中心の光線の移動方向に対応し得る。本明細書で用いられる「線(ray)」という用語は、光線(light ray)を意味する。典型的には、レーザビームは、複数の光線または光線束から成る。放射レーザビームの最も外側の光線は、ビームの周辺部の光線である。当たっている放射レーザビームの外側部分に対応する光線は、一般にはz軸によって表され典型的にはレーザビームの中心として定義される伝播路に対して最も大きい集束角度を有する光線である。内側の光線の集束角度は、それらが伝播路またはz軸と同軸になるその中心において0度になるまで、減少する。したがって、放射レーザビームが焦束されたレーザビームであるので、最も外側の光線はレーザビームの全ての光線のうちの最大集束角度を有する光線である。最も外側の光線の方向はこの光線が進む方向である。それは、進行方向と呼ばれることあり得る。
【0021】
放射レーザビームに関連して用いられる「伝播路」という用語は、レーザビームが放射された後に進む経路に関係する。伝播路の方向は、放射レーザビームまたはその伝播路の軸に対応し得る。特に、伝播路の方向は、放射レーザビームの光線の全ての方向の中間(mean)または平均(average)であり得る。
【0022】
本発明によるレーザ装置は、放射レーザビームを比較的大きい入射角で組織上に向けることを可能にする。このことにより、外科医によって提案される実際的な推奨および選択が考慮され得るように、大部分の解剖学的領域への適切な視野および良好なアクセスを達成することができる比較的長い作動距離が提供され得る。
【0023】
更に、上記放射レーザビームの集束角度は、1cmを超える深さまで骨または他の硬組織をアブレートすることを可能にする。このように、例えば、1cmを超える厚さの骨が切断され得る。また、そのような放射レーザビームによって作られる切除開口部または穴の形状は有益であり得る。例えば、略平行な壁を有する。例えば、両方とも、しばしば1cmを超える厚さを有する、心臓または肺手術において要求されるような胸骨の中央を通る切開または成人の頭骨切開の際に、より早い術後治癒のためには、切除開口部の壁が基本的に平行であることが重要である。
【0024】
組織アブレーションレーザ装置による組織のアブレーションは以下の点に基づく。一般に、レーザビームによる組織アブレーションは複数の物理的効果によって発生させられる。最も多くある例においては、レーザ光は、タンパク質、脂質、コラーゲン、および/または、他の生物学的化合物のような分子によって吸収される。吸収されたレーザエネルギーの変換は熱を発生させ、結果として、強く急速な温度上昇が発生させられる。このプロセスでは最も多くの場合、組織内の分子は直接分解して、アブレーションスポットから放出されるプルーム(plume)または破片に変わる。このことは、熱的な性質を有する直接アブレーションプロセスによるアブレーションと称され得る。そのようなプロセスは、望ましくないことに、結果として、組織の炭化、壊死をもたらし、後に続く治癒を不可能にすることになるので、アブレーションの条件は、典型的には、アブレーションプロセス中に正確に最適化かつ制御されなければならない。
【0025】
本明細書で用いられる「プルーム」という用語は、レーザアブレーションによって引き起こされる燃焼または炭化のプロセスの生成物に関係し得、破片と呼ばれる、臭気分子、煙、エアロゾル等を含むことができる。より具体的には、レーザアブレーションの文脈では、プルームは、標的組織に当たるときにレーザビームによって放出される全ての物質をまとめて破片として含む場合もある。「破片」という用語は、標的組織の揮発性の小さい固体片、煙、エアロゾル、臭気分子等のような標的組織のアブレーションから生じる全ての分子に関係し得る。
【0026】
直接のアブレーションに加えて、組織が濡らされるときに間接的なアブレーションが発生させられる。このことにより、水滴または液滴は、放射レーザビームの電磁エネルギーによって分解され、吸収されたレーザビームにより提供された運動エネルギーを有して伝播する。これらの小さくかつ速く移動する小片が、例えば、1000m/sに及ぶこともあり得る速度で組織と衝突するときに、組織は更にアブレートされる。
【0027】
本発明による組織アブレーションレーザ装置の動作においては、特定の集束角度によって、放射レーザビームが比較的鋭い角度(すなわち、10°以下、5°以下、または、3°以下)で組織内の拡大する切除開口部または穴の側壁に当たることが可能になる。側壁が濡らされるときに、レーザビームをそのような角度で側壁に当てることによって、レーザビームは組織を濡らすために用いられる水または他の液体によって反射される。
【0028】
このように、一方では、ある程度側壁をアブレートしたであろうレーザビームが側壁を通って組織に入ることが防止される。このことにより、レーザビームは、特にその入口で切除開口部または穴を広げる。したがって、切除開口部または穴は、上記したような複数の理由で有益であり得る基本的に平行な側壁を有することができる。
【0029】
他方では、濡らされた側壁で放射レーザビームを反射することによって、放射レーザビームが切除開口部または穴の中により深く到達することができる。これは、レーザ装置により提供される切除開口部または穴の深さを増加することを可能にする。
【0030】
より具体的には、放射レーザビームが、組織アブレーションレーザ装置によって作られた切除開口部の水を含んだ横壁(lateral aqueous wall)または湿らせられた側壁に到達するときに、アブレーション閾条件が上記したように満たされる場合、その強度の一部はスネルの法則に従って水または水分内に屈折して入り、間接的なアブレーションに導いてその中で吸収される。水または水分の膜の厚さによっては(すなわち、水の膜の厚さが2、3μmのように非常に薄いとき)、そのような屈折光線は骨に達して直接のアブレーションに導くことができる。
【0031】
しかしながら、本発明にとって特に重要なことは、水を含んだ横壁または側壁で反射され、横壁の数か所で数回反射された後、切除開口部の底に到達できる、放射レーザビームの残りの強度の一部である。
【0032】
理解されたように、反射された放射レーザビームの強度は屈折損失によってフレネルの式に従って減少する。しかしながら、比較的小さい内部入射角(すなわち、放射レーザビームが切除開口部の側壁に当たる角度)を有する放射レーザビームは、強度のより小さい反射減衰量と関係付けられ、(例えば、約4cm以上の底のような)切除開口部の一定の深さに達するために受ける反射はより少ない。例えば、以下に更に詳細に示されるように、組織アブレーションレーザ装置が骨切除装置として設定されるときに、前述の内部入射角で骨の切除開口部の側壁に当てることは放射レーザビームの強度の(例えば、50%を超える、80%を超える、または、90%を超える)比較的大きな部分を開口部の4cmの深さにまで供給することを可能にする。これに反して、比較的大きい内部入射角を有する放射レーザビームは、より多くの数の反射を被って、より大きい反射減衰量と関係付けられる。そのようなビームが穴または切除開口部のより深い領域に到達する可能性はより少ない。また、切除開口部の底において比較的高いビーム強度を提供するために有益であり得る、より小さい内部入射角が含まれるときには典型的には屈折損失もより小さい。
【0033】
そのために、本発明に従う集束角度を有する放射レーザビームを提供することは、適切な幾何学的形状を有する比較的深い開口部が形成され得るように組織を切除するときに比較的小さい内部入射角を効率的に達成することを可能にする。特に、10°以下、5°以下、または、3°以下の内部入射角が効率的に提供され得る。例えば、ビーム伝播路の方向が放射レーザビームによって作られた切除開口部の1つまたは複数の側壁と略平行であるときに、そのような集束角度は効率的に、かつ、問題なく有利な内部入射角を実現することができる。
【0034】
上の説明を要約すると、本発明による組織アブレーションレーザ装置は、a)(例えば、1cmを超えるというような)十分な深さにおいて骨を切ることまたは抉ること、b)手術の解剖学的領域までの装置の作動距離が手術室の外科医にとって実際的に有用であるには十分に長いこと、c)切除開口部の場合の複数の壁は比較的または基本的に平行であり、あるいは、穴の場合の壁は比較的または基本的にそれぞれ円筒状であること、ならびにd)患者、外科医、および、手術室にいる人員の安全性が向上すること、を可能にすることを許容する。
【0035】
一方で、濡らされた、または、湿らせられた組織の組織アブレーションに関連した有益な効果を達成するために、濡らすことは、例えば、外部のウェッティングシステムのような任意の手段によって実行され得る。しかしながら、好適には、組織アブレーションレーザ装置自体が、放射レーザビームによってアブレートされる組織を濡らすように構成されたウェッティング装置を含む。より具体的には、ウェッティング装置は、放射レーザビームによって組織または骨において作られた切除開口部を濡らすように構成され得る。特に、切除開口部の内部または側壁がウェッティング装置によって濡らされ得ることが有利であり得る。レーザ装置にウェッティング装置を含めることによって、組織が正しい位置で、すなわち、放射レーザビームが向けられた位置で、適切に濡らされることを確実にすることができる。このように、切る、削る、または、抉ることが個別に効率的に達成され得るように、アブレーションおよびウェッティングは調整され得る。濡らすために、水、または、より具体的には、水溶液のような適切な液体が用いられ得る。
【0036】
組織アブレーションレーザ装置が上述のように自動の骨アブレーションレーザ装置として実現される場合には、ウェッティング装置は、対応してウェッティング装置を制御するように構成されている制御ユニットによって設定され得る。特に、制御ユニットは、切除開口部を濡らすことと共に、骨内における予め決められた切除開口部の形成を調整するように構成され得る。
【0037】
このことにより、好適には、ウェッティング装置は、放射レーザビームによってアブレートされる組織への液体噴霧を生じさせるように構成されたスプレーノズルを備える。そのようなスプレーノズルは、放射レーザビームが向けられた位置で組織を正確かつ個別に濡らすことを可能にする。
【0038】
硬組織および特に骨組織をアブレートするのに適するように、切断レーザビームは適切な波長を有して、水または他の細胞コンポーネントを蒸発させることができる。このために、レーザ光源は、好適には、約2.5マイクロメートル(μm)から約3.5μmの範囲の、より好適には、約2940ナノメートル(nm)の波長を有する基本レーザビームを発生させるように構成される。水で強く吸収される、そのような波長を提供するのに適しているレーザ光源は、2.94μmの輝線を有する、Er:YAGレーザであり得る。加えて、硬組織を同時に水溶液で濡らすことによって、アブレーション率は非常に増加され得る。
【0039】
様々の理由のために、アブレーションのために有利に使用されるレーザ光源は連続波レーザよりもむしろパルス化されたレーザである。本明細書で用いられる場合「レーザパルス」という用語は、好適には、特定の時間幅、形状、および/または、パワーを有する所与の波長の比較的短時間のレーザビームに関係し得る。パルス化されたレーザの1つの利点は、アブレーションを誘発するためには、所与の体積および照射時間の範囲内で、レーザ光のパルスのピークエネルギーが所与の最小限のアブレーション閾値を超えなければならないという事実に関係する。さもなければ組織に投入されたエネルギーが、意図されるように放出される破片よりもむしろ、主に熱に変わる。しかしながら、例えば、水溶液ならびに/あるいは(周囲組織の熱拡散および/または循環血液により生じる)本来備わっている熱放散によってもたらされる冷却が切除開口部の表面における温度上昇を制御するには十分でない状態で、フルエンス(F)またはエネルギー密度(ED)が余りに高い場合、残りの組織は後続する各パルスによって増々暖かくなり、ある時点で炭化し始め、結果として、後に続く治癒を不可能にする望ましくない壊死に導くこととなる。言い換えると、液体による加湿および冷却によって支援される組織の効果的な「冷たい」アブレーションのために要求される、その反復率、パルスエネルギーおよび密度、パルス幅、ビーム集束特性等を含めて、所与の波長のレーザビームパルスは、効率的で壊死が起きないアブレーション率を有するように最適化かつ制御され得る。そのために、レーザ光源は、好適には、基本レーザビームをパルス化されたレーザビームとして発生させるように構成される。より具体的には、レーザ光源は、好適には、約1~約100ヘルツの範囲内の、または、約10~約30ヘルツの範囲内の周波数でパルス化された基本レーザビームを発生させるように構成される。そのような周波数範囲は、十分な冷却および高いアブレーション効率が達成され得るように組織またはアブレーションの状態を適切に調整することを可能にする。
【0040】
レーザアブレーションにおいて関連を有する他のパラメータには、パルス当たりのエネルギーだけでなく、ピークパワーを決定するパルスの時間幅も含まれる。上に言及された典型的な例として、例えば、200μs内に1Jのエネルギースプレッドを有するフリーランニング状態のEr:YAGまたはNd:YAGレーザのパルスでは、ピークパワーは5kWに達する。これに対して、例えば、15ns内に100mJのスプレッドを有するQスイッチNd:YAGレーザでは、ピークパワーは6.7MWである。これは、同じレーザがフリーランニングモードで動作するときの数千倍である。これらの値を、やはり10Wの非常に低いピークパワーを有する10Wで動作する連続波(cw)レーザの値と比較して、cwレーザがレーザアブレーションに適していないという事実を説明することも重要である。したがって、レーザ光源は、好適には、約5マイクロ秒(μs)から約300μsの範囲内(例えば、200μsまたは250μsのような)、約10μsから約150μsの範囲内、または、約50μsから120μsの範囲内の、一時的な時間幅を有するパルス化された基本レーザビームのパルスを発生させるように構成される。
【0041】
好適には、ビーム成形光学系は、約4センチメートル(cm)を超える焦点距離(FL)を有する放射レーザビームを生成するように構成される。このことにより、放射レーザビームのFLは、約25cm未満または約20cm未満である。本明細書で用いられるとき、単一レンズ、または、単一の光学エレメントの中に組み込まれた複数のレンズの組合せを含む(ビーム成形光学系のような)単一の光学エレメントの焦点距離は、ビーム成形光学系の単一光学エレメントの出口と、焦束された放射レーザビームのウエストまたは焦点との間の距離に関係し得る。
【0042】
本明細書の文脈において、本明細書で使用する場合、F値(F/#)は、FLの、ビーム成形光学系に入射する放射レーザビームの直径(D)に対する比を示す無次元数である。すなわち、F/#=FL/Dである。例えば、D=10mmの放射レーザビームおよびFL=150mmを有するレンズに対しては、F/#=15である。
【0043】
好適には、放射レーザビームが、約15以下、または、約10以下のビーム品質係数Mの二乗(M2)の値を有するように組織アブレーションレーザ装置は構成される。レーザ科学において、パラメータM2によって表されるビーム品質係数は、理想的なガウスビームからのビームの変形の程度を示す。パラメータM2は、ビームのビームパラメータ積の、同じ波長を有するガウスビームのビームパラメータ積に対する比率から算出され得る。典型的に、パラメータM2は、達成され得る最小限の焦束されたスポットサイズに対して相対的なレーザビームのビーム発散に関係する。単一モード(ガウス形)レーザビームに対するM2は正確に1である。レーザビームのパラメータM2は指定パラメータとしてレーザ科学および工業において広く用いられており、その測定法は国際標準化機構の標準(すなわち、ISO標準11146、2005)として規定されている。
【0044】
ビーム品質係数またはビーム伝播比M
2に加えて、他のビーム品質係数Kもまた、放射されたレーザビームの発散特性に基づいて所与のレーザの品質を評価するために用いられる。2つのパラメータKおよびM
2は、互いに他方に依存し、実験的に測定されたビームパラメータを用いて算出され得る。2つのパラメータは、
で定義され得る。ここで、ω
0は焦点スポット半径(ビームウエストDの半分)、Θは遠視野での発散の拡がり角の半分、λは波長、そして、K
max=M
2
min=1である。
【0045】
より具体的には、パラメータM2およびKの両方は、実際の非ガウス性ビームがどれくらい完璧なガウスビームに近いかについて記述することができる。M2=1=Kは、実際に達成するのが不可能である完璧なガウスビームに対応する。しかしながら、M2がより小さいほど、レーザビームの品質はより良好であり、結果として、ビームウエストにおける、より小さい発散、したがって、小さいビーム直径になる。
【0046】
好適な範囲内のM2を達成するために、光学系を調整するレーザ光源およびビームは、適切に選択され調整される。そのようなM2を有することによって、放射レーザビームは、特に、比較的高深度に達するパワーまたはビーム強度が比較的大きくなるように切除開口部の側壁の湿気によって反射されるのに有利なように、かつ適するようにできる。このことは、効率的に比較的深い切除開口部を実現することを可能にする。
【0047】
他の1つの態様においては、本発明は、人または動物の硬組織および特に骨組織または骨のような組織をアブレートする方法である。この方法は、以下の動作を含む。焦束された放射レーザビームを発生させて、組織に対する放射レーザビームの内部入射角が約10°以下、好適には約5°以下、より好適には約3°以下であるように、組織の表面に焦束された放射レーザビームを向けること。入射角は、放射レーザビームと、放射レーザビームが当たる組織の表面との間の角度である。このことにより、組織のアブレーションを進行させる際に、任意の所望の形状を有し得る切除開口部が作られる。少なくとも最初は、切除開口部は、典型的には穴である。通常、そのような切除開口部は、側壁および底を有する。切除開口部または穴の側壁は、組織の表面によって定義される平面と、基本的に直角をなすことができる。
【0048】
このことにより、内部入射角は、好適には、放射レーザビームの最も外側の光線の方向と組織内の切除開口部の側壁とによって定義される。
【0049】
放射レーザビームが約10°以下の角度で側壁に当たるとき、本発明による組織アブレーションレーザ装置に関する上述の効果および利点が効率的に達成され得る。
【0050】
本発明による方法の以下の好適な実施形態によって、本発明による組織アブレーションレーザ装置の好適な実施形態に関する上記の効果および利点は効率的に達成され得る。
【0051】
好適には、方法は、放射レーザビームによってアブレートされる組織を濡らすステップを含む。このことにより、液体は、放射レーザビームによってアブレートされる組織に好適に噴霧される。
【0052】
好適には、放射レーザビームによってアブレートされる組織を濡らすことは、組織の切除開口部の側壁を濡らすことを含む。このように、切除開口部内において特に効率的な反射を実現することができ、これにより、被写界深度(DOF)を増加させ、組織内または骨内に、より深い切除開口部を作り出すことを可能にする。
【0053】
好適には、放射レーザビームは、約2.5μmから約3.5μmの範囲の波長で、または、約2940nmの波長で発生させられる。
【0054】
好適には、放射レーザビームは、パルス化されたレーザビームとして発生させられる。このことにより、放射基本レーザビームは、好適には、約1から約500ヘルツの範囲内の、または、約10から約30ヘルツの範囲内の周波数でパルス化される。パルス化された基本レーザビームのパルスは、好適には、200μsまたは250μsのような約5μsから約300μsの範囲内、約10μsから約150μsの範囲内、または、約50μsから120μsの範囲内の一定の時間幅を有する。
【0055】
好適には、放射レーザビームは、約4cmを超える焦点距離で発生させられる。このことにより、放射レーザビームの焦点距離は、好適には、約25cm未満または約20cm未満である。
【0056】
好適には、本発明による方法は、人間または動物の体の手術または治療(therapy)による処置(treatment)のための方法ではない。そのようなエキソビボまたはインビトロの方法は、多くの用途において有益であり得る。特に、そのようなエキソビボの方法においては、外科ステップは含まれず、しかし、切除は、いかなる生きている人間または動物の体からも遠く離れた、完全に外側で実行される。
【0057】
本発明による組織アブレーションレーザ装置および本発明による方法は、例示的実施形態によって、そして、添付の図面を参照して、本明細書において以下に更に詳細に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】本発明による組織アブレーションレーザ装置の第1の実施形態の概略図である。
【
図2】本発明による組織アブレーションレーザ装置の第2の実施形態の概略図である。
【
図3】切除開口部の底における、様々な内部入射角に応じた強度比のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下の説明においては、便宜上の理由で特定の条件が用いられる場合があるが、これらは本発明を限定することを意図しない。「右」、「左」、「上へ」、「下へ」、「の下に」、および、「の上に」という用語は、図面における方向を示す。専門用語とは、明確に言及された用語、それらの派生語、そして、同様の意味を有する用語を含む。また、「の直ぐ下に(beneath)」、「の下方に(below)」、「の下側に(lower)」、「の上に(above)」、「の上側に(upper)」、「近位に(proximal)」、「遠位に(distal)」等のような空間的に相対的な用語は、図面にて示されるように、1つのエレメントまたは特徴の他のエレメントまたは特徴との関係を記述するために用いられ得る。これらの空間的に相対的な用語は、図面に示される位置および向きに加えて、使用中または動作中の装置の様々の位置および向きを含むことを意図する。例えば、図中の1つの装置が逆向きにされる場合、他のエレメントまたは特徴「の下方に」または「の直ぐ下に」として記載されたエレメントは、それからは他のエレメントまたは特徴「の上に」、または、「の上方に」あるであろう。したがって、「下で」という典型的な用語は、上下両方の位置および方向を含む場合がある。装置は別の向きに向けられる(90度回転させられる、または、他の向きに向けられる)場合があり、本明細書において用いられた空間的に相対的な記述はそれに応じて解釈される。同様に、様々の軸に沿った、そして、その回りの動きの記述は、様々な特殊な装置位置および向きを含む。
【0060】
図面ならびに様々な態様および例示された実施形態の説明において反復を回避するために、多くの特徴が多くの態様および実施形態に共通であることは理解されるべきである。1つの態様が記述または図面において省略されていても、その態様を組み込む実施形態に含まれていないことを意味するものではない。その代わりに、その態様は、明確にするために、そして、冗長な説明を回避するために省略された場合がある。これに関連して、以下の点は、本明細書の記述の残りの部分に適用される。図面を明確にするために、図面が説明の直接関連する部分で説明されない参照符号を含む場合、それらの参照符号はそれ以前または以下の説明の部分で言及されている。更に、明快さの理由で、図面において1つの部分の全ての特徴が参照符号を備えているというわけではない場合、それについては同じ部分を示している他の図面を参照する。2つ以上の図面における類似の番号は、同じまたは同様なエレメントを示す。
【0061】
図1は、本発明による方法の実施形態を適用するように操作される組織アブレーションレーザ装置100の第1の実施形態を示す。組織アブレーションレーザ装置100はレーザ光源110とビーム成形光学系120とを備える。レーザ光源110は、Er:YAGレーザであり、2.96μmの輝線を有し、約20ヘルツの周波数で約80μsの時間幅を有するパルス化された基本レーザビーム140を発生させる。基本レーザビーム140は、初期直径144から始まり、発散角141で広がる。
【0062】
ビーム成形光学系120は凸集束レンズ121を含む。基本レーザビーム140がレンズ121の左側の入射面によって受光されるように、レーザ光源110および集束レンズ121の位置および向きが決められる。レンズ121はレーザビームを変形し、変形されたレーザビームを放射レーザビーム143の形で、伝播路または伝播方向に対応するz軸に沿ってレンズ121の右側から放射する。
【0063】
レンズ121は基本レーザビーム140を焦束して、放射レーザビーム143が15cmの焦点距離の位置に焦点150を有するようにする。更に、レンズ121は、6°の集束角度142を有するように放射レーザビームを形成する。集束角度142は、放射レーザビーム143の最も外側の光線145の方向と放射レーザビーム143(すなわち、z軸または中心の光線147の方向)の伝播路の方向とによって定義される。
【0064】
組織アブレーションレーザ装置100は、ウェッティング装置としてスプレーノズル151を更に含む。スプレーノズル151は、液体が特に水溶液である液体噴霧152を生じさせるように構成される。
【0065】
本発明による方法を実施するために組織アブレーションレーザ装置100の動作において、組織アブレーションレーザ装置100は、アブレートされる組織としての骨131まで約12cm離れた距離に配置される。より具体的には、放射レーザビーム143およびスプレー152がアブレートされる骨131の位置に向けられるように、組織アブレーションレーザ装置100は向けられる。このことにより、放射レーザビーム143は、放射レーザビーム143が供給される間に深さ191が増加する切除開口部130を形成する。切除開口部131は、エネルギー密度(ED)または放射レーザビーム143の束によって定められる直径190を有する。
【0066】
スプレー152は切除開口部130内部で水の膜132を作り、切除開口部130の側壁180および底181は水の膜132によって被覆される。放射レーザビーム143が6°(すなわち10°以下)の集束角度142を有するので、放射レーザビーム143の光または光線は切除開口部130の側壁180に比較的鋭い角度で当たる。これにより、そして、放射レーザビーム143の光の比較的大きい部分は側壁180で反射され、相当な部分が切除開口部130の底181の方へ前進するようにすることが達成される。このように、底181はアブレートされ、4cm以上のような比較的大きな深度まで骨131内に切り込まれ得る。
【0067】
したがって、正しく位置および向きが決められた組織アブレーションレーザ装置100によって焦束された放射レーザビーム143が発生させられ、骨131の表面の外側の平面に対して約94°の外部入射角度または初期角度146で骨131の外部表面に向けられる。アブレーションが前進するときに、切除開口部130が作られる。放射レーザビーム143が骨131の外部表面に直角に向けられるので、側壁180は、骨131の外部表面から約90°で伸びる。このことにより、放射レーザビーム143は、約6°の内部入射角148で側壁180に当たる。内部入射角148は、放射レーザビーム143の最も外側の光線145の方向および骨の切除開口部130の側壁180によって定義される。
【0068】
図2においては、組織アブレーションレーザ装置100の第2の実施形態が示される。
図2の組織アブレーションレーザ装置100は
図1の第1の組織アブレーションレーザ装置100と広範囲に同一に設計され、
図1の第1の組織アブレーションレーザ装置100のように操作される。唯一の違いは、アブレーションレーザ装置100が異なるビーム成形光学系120を備えているということである。特に、ビーム成形光学系120は、集束レンズ121を有し、加えて、コリメーティングレンズ122を有する。コリメートレンズ122は、集束レンズ121に対して基本レーザビーム140の上流側に配置される。より具体的には、コリメーティングレンズ122は、レーザ光源110によって発生させられる基本レーザビーム140を受光して、光を平行にして、平行ビームを集束レンズ121に提供する。それから、集束レンズは、光を焦束して、上記の通りに放射レーザビーム143を出力する。
【0069】
図3は、骨131内に作られた切除開口部130の底181に到達する放射レーザビーム143のビーム強度またはパワーのパーセント比のグラフを示す。縦軸は、切除開口部130の底181における、放射レーザビーム143のビーム強度のパーセント比を表す。切除開口部130は穴であり、4cmの深さと1cmの直径とを有する。横軸は、内部入射角148を度で示す。放射レーザビーム143は1.3mmの直径および2.96μmの波長λを有する。
【0070】
図3から分かるように、特に骨を切るのに適している放射レーザビーム143を出力するときに、内部入射角が10°であるならば、骨131の4cmの深い切除開口部130の底181の強度の比率は未だ50%を超えている。そのような切除開口部の深さは、大部分の人骨を切るには十分である。したがって、強度の比率が50%を超えるので、たとえこの比較的高深度であっても、骨131は効率的に切られ得る。
【0071】
しかしながら、
図3のグラフで分かるように、切除開口部の底181における強度の比率は、内部入射角148を10°未満まで低下させるときに、急速に増加する。したがって、内部入射角148の比較的小さい適応によって、アブレーション効率のかなりの増加が達成され得る。例えば、内部入射角148を約5°まで下げることによって、放射レーザビーム強度の約80%が切除開口部130の底に到着する。または、約3°の内部入射角では、放射レーザビーム強度の約90%もが切除開口部130の底に提供され得る。
【0072】
本発明の態様および実施形態を説明する、本明細書の記述および添付の図面は、保護される発明を定めている請求項を限定するものと解釈されるべきではない。言い換えると、本発明は図面およびここまでの記述において例示され詳細に記述されたが、そのような例示および記述は、例示的または例証的なものであって限定的なものではないとみなされるべきである。様々な機械的、構成的、構造的、電気的、および、操作上の変更が、本明細書の記述および請求項の趣旨と技術範囲から逸脱することなくなされ得る。ある場合には、本発明を不明瞭にしないために、既知の回路、構造、および、技術については詳細に示されていない。したがって、以下の請求項の技術範囲および趣旨の範囲内で当業者により変形および変更がなされ得ることは理解されるであろう。特に、本発明は、本明細書においてここまでおよびこれ以降に記載されている様々な実施形態の複数の特徴の任意の組合せを有する更なる実施形態をも包含する。
【0073】
また、個々に図面に示される特徴のうち、本明細書においてここまでおよびこれ以降に特に記述されないものもあり得るが、本開示は、個々に図面に示される特徴の全てを包含する。また、図面および本明細書に説明されている実施形態の単一の代替形態、および、説明されている実施形態の特徴の単一の代替の特徴は、本発明の主題または開示された主題に含まれないとされる場合がある。本開示は、請求項または例示的実施形態において定められる特徴からなる主題、および、これらの特徴を含む主題を包含する。
【0074】
更に、請求項において、「含む」または「備える」(comprising)という単語は他のエレメントまたはステップを除外せず、「1つの」(不定冠詞aまたはan)との記載は複数を除外しない。単一のユニットまたはステップが、特許請求の範囲において記載されるいくつかの特徴の機能を達成する場合がある。複数の特定の手段が相互に異なる従属請求項において記載されるという事実だけでは、これらの手段の組合せが有利に用いられ得ないということを示すものではない。特に1つの属性または1つの値に関連した、「基本的には」、「約」、「近似的に」等の語句は、また、それぞれ、正確にその属性を、または、正確にその値を定める。所与の数値または所与の数値の範囲の文脈における「約」との用語は、その所与の数値または数値の範囲の、例えば、20%以内の、10%以内の、5%以内の、または、2%以内の、1つの数値または数値の範囲を意味する。「連結される」または「接続される」と記述される複数のコンポーネントは、電気的または機械的に直接連結され得るか、あるいは、それらは1つまたは複数の中間コンポーネントを介して間接的に連結され得る。請求項のいかなる参照符号も、技術範囲を制限するものとして解釈されるべきでない。
【国際調査報告】