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特表2022-545376硝子軟骨組織のin vitroでの産生のための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(54)【発明の名称】硝子軟骨組織のin vitroでの産生のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20221020BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20221020BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221020BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221020BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C12N5/077
C12N5/071
C12Q1/02
A61L27/38 112
A61L27/36 130
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509150
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(85)【翻訳文提出日】2022-04-04
(86)【国際出願番号】 EP2020072237
(87)【国際公開番号】W WO2021028335
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】19191756.6
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522056057
【氏名又は名称】ヴァナリックス エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ティエング,ヴァンナリー
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR72
4B063QR77
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065BB02
4B065BB19
4B065BB23
4B065BD22
4B065BD39
4B065CA44
4C081AB04
4C081BA12
4C081CD34
4C081DA12
(57)【要約】
本発明は、軟骨組織のin vitroでの産生のための新規の方法、ならびにこれにより産生された軟骨組織を使用する治療上の使用およびスクリーニング方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨組織のin vitroでの産生のための方法であって、
i)Wntシグナリング経路を活性化する脱分化培養培地の接着培養系で軟骨細胞を培養して線維芽細胞様細胞の形態の軟骨細胞を得るステップと、
ii)Wntシグナリング経路を不活性化する再分化培養培地の接着培養系で前記線維芽細胞様軟骨細胞を培養して硝子質マトリックスを再合成する完全な特性を有する軟骨細胞を得るステップと、
iii)Wntシグナリング経路の不活性化を維持する誘導/成熟培養培地の3次元の培養系でステップii)で得た軟骨細胞を培養するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記脱分化培養培地が、FGF-2を含み、再分化培養培地および誘導/成熟培養培地が、FGF-2フリー培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脱分化培養培地が、FGF-2、PDGF-BB、TGF-β、およびEGFからなる群から選択される少なくとも1つの増殖因子、好ましくはFGF2を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記再分化培養培地および成熟培養培地が、TGF-β、好ましくはTGF-β3、より好ましくはTGF-β3およびFGF7を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記再分化培養培地が、血小板のライセートを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記脱分化培養培地、再分化培養培地、および/または成熟培養培地が、血清を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記成熟培地が、インスリン、IGF-1、セレニウム、トランスフェリン、およびエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップiii)において、前記軟骨細胞を、10(v/v)%未満のO2を含む低酸素の雰囲気で培養する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記軟骨細胞を、ステップi)において10~15日間、ステップii)において4~8日間、および/またはステップiii)において10~15日間培養する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップi)の軟骨細胞を、対象、好ましくはヒトまたはウマの対象の軟骨組織から単離する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも15のGAG/二本鎖DNAの比率を提示するスフェロイドの形態の操作された軟骨組織。
【請求項12】
それを必要とする対象の軟骨欠損および軟骨変性疾患の処置に使用するため、好ましくは自家移植に使用するための、請求項11に記載の操作された軟骨組織。
【請求項13】
軟骨変性プロセスを阻害する分子をスクリーニングする方法であって、
i)請求項11に記載の軟骨組織を1つ以上の候補分子と接触させるステップと、
ii)軟骨変性プロセスを阻害する分子を選択するステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝子軟骨組織(「Cartibeads」)のin vitroでの産生のための新規の方法、ならびにこれにより産生された軟骨組織を使用する治療上の使用およびスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硝子軟骨は、細胞外マトリックスにより囲まれている、軟骨細胞と呼ばれる特化した細胞から構成されている。このマトリックスは、軟骨細胞により合成および分泌され、主にII型コラーゲン線維、グリコサミノグリカン(GAG)、および60~80%の水から構成されている。硝子軟骨は、軟骨下骨の上部に4つの層:表層、中間層、深層、および石灰化層を有する。関節の軟骨の生体力学的な特性は、主に、細胞外マトリックスの組成および完全性に依存している。
【0003】
軟骨は、自己修復能が非常に限定されており、損傷後、多くの場合、変形性関節症(OA)を発症させる。老化および反復性の外傷(たとえば集中的なスポーツの練習の間に起こる)は、膝軟骨の変性の主要なリスク因子である。OAは、多くの人々が罹患しており、高齢者で最も多く発症する(60歳超の人々で10%超の有症率)が、一般に、より若い人々も、関節の損傷によりOAを罹患する。
【0004】
外科的な処置は、人工関節での関節置換術を含む。しかしながら、人工関節の寿命は、15~20年に限定されている。さらに、疼痛の軽減は、患者の大部分において完全に減弱されてはおらず:膝人工関節を有する患者の20~30%は、依然として不快感または疼痛を感じ続けている。処置は、大部分が対症療法的であり、疼痛の軽減を目的とする。間葉系幹細胞、ヒアルロン酸、または血小板を多く含む血漿のなどのいくつかの生物学的な作用物質の注入は、関節の悪化を遅らせることができるが、これらは組織の再生を促進するものではない。
【0005】
今のところ、この欠損を満たすための外部の合成のスキャフォールドを使用する戦略は十分なものではなく、関節の軟骨の生体力学的な特性を不完全に模倣している。従来の処置として、病変領域への幹細胞の遊走を刺激するためのマイクロフラクチャー手術、または軟骨細胞の直接的な移植が挙げられる。
【0006】
マイクロフラクチャーの手法は、新規の軟骨細胞を形成し、損傷した組織を置き換えるため血塊の中の骨の髄質からの間葉系幹細胞の遊走を刺激する目的で、軟骨下骨へ小さな孔を作製することから構成される(consist on)。
【0007】
自家軟骨細胞移植(ACI)では、軟骨細胞は、軟骨から抽出され、限定された数の継代で培養され、病変へ移植される。この方法を改善するために、軟骨細胞を培養するためのI/III型ブタコラーゲンまたはヒアルロン酸などのマトリックスが使用され得る(Kon E, et al., 2009, The American journal of sports medicine 37(1):33-41; Hettrich CM, Crawford D, & Rodeo SA, 2008, 16(4):230-235)。これらマトリックスは、マイクロフラクチャーの手法の後に病変に直接適用されるか、または再移植前に軟骨細胞を培養するためにin vitroで使用される(Ekkers JE, et al. 2013, Osteoarthritis Research Society 21(7):950-956)。
【0008】
自家軟骨細胞移植(ACI)を使用する細胞ベースの治療は、2平方センチメートル超の軟骨病変に適応される(Armoiry X. et al. 2019, Pharmacoeconomics 37, 879-886)。軟骨細胞は、軟骨再生にとって合理的な細胞の供給源を表す。実際に、この種の軟骨細胞のみが、硝子軟骨マトリックスの維持に関与していた。
【0009】
主な課題は、軟骨細胞が培養において線維芽細胞様細胞へと脱分化する傾向があり、2次元の細胞培養系において、通常第2または第3の細胞継代で起こる機能の迅速な損失がもたらされることである(Munirah, S. et al. 2010. Tissue & cell 42, 282-292)。脱分化した軟骨細胞は、硝子軟骨の主な構成要素である、グリコサミノグリカン(GAG)およびII型コラーゲンの産生の喪失を特徴とし、これらは、線維軟骨に存在するI型コラーゲンに置き換わる(Wu, L. et al. 2014. Tissue Eng Part C Methods 20, 160-168; Benya, P. D et al. 1978. Cell. 15, 1313-1321)。実際に、増幅ステップの間、軟骨細胞は、元の表現型を失うことにより脱分化し、遺伝子発現(間葉系幹細胞(MSC)を特徴づけるために使用されるCD73、CD90、CD105などの細胞表面マーカーの発現)において幹細胞様の性質を有する線維芽細胞様細胞(伸長した細胞)となる傾向がある。たとえば、患者の関節軟骨から抽出した軟骨細胞は、in vitroでの培養において数回の継代の後に特異的な硝子質マトリックスの軟骨を合成するそれらの軟骨形成能を迅速に失う。線維軟骨は、硝子軟骨とは生体力学的に異なり、線維軟骨は機能不全の修復をもたらすため、有効な長期間持続する処置とはみなされていない。対照的に、軟骨細胞の硝子質の特性は、3次元の培養系で保存されることが知られており(Benya, P. D. & Shaffer, J. D. 1982. Cell 30, 215-224)、in vivoの環境を模倣している。
【0010】
培養における軟骨形成能の喪失は、特に老年の患者に当てはまる。よって、軟骨細胞ベースの細胞療法の別の課題は、高齢の患者由来の細胞を増殖および分化させることが困難であり、この集団でのそれらの使用が限定されていることである。結果として、大部分の臨床試験は、患者の包含を55歳に限定している。
【0011】
軟骨を産生させるために軟骨細胞を使用するアイディアは、細胞増殖が元の表現型を維持しながら行うことができる場合に意味をなす。よって、全年齢の患者に固有の特性を模倣している、高品質の硝子質様軟骨組織(高いレベルのGAG検出を特徴とする)をもたらす軟骨の産生のための標準化された方法を開発することが、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0012】
本試験の主な成果は、増殖の間の軟骨細胞の表現型の喪失(軟骨細胞の脱分化)を反転できる方法である。これは、出発物質として軟骨細胞を使用する細胞療法が直面している重要な問題を解決する。本データは、新規の3ステップの方法が、患者の年齢および関節の関節炎の状態に関わらず、硝子質の特徴を有する高品質の軟骨をもたらし得ることを示している。
【0013】
Cartibead法は、従来のヒト軟骨細胞ベースの細胞療法(Brittberg, M. 2018. Injury 39 Suppl 1, S40-49)における平均260mgとは対照的に、非常に小量の軟骨サンプルの回収(本発明者らの前臨床のミニブタでの試験では約30mg)からの細胞増殖を可能にし、ドナーの部位の病的状態を低減する。本方法は、以前に報告されている軟骨のマイクロ組織(これら軟骨のマイクロ組織が、硝子質が少なく、より多くの線維軟骨を含むことが示唆されている)(Bartz, C. et al. 2016. J Transl Med 14, 317)よりも20倍多いGAG/Cartibeadの比率を示した。これら結果と一致して、本発明者らは、他の公開されている方法(Mumme, M. et al. 2016. Lancet 388, 1985-1994 ; Dang, P. N et al. 2014. Tissue engineering. Part A 20, 3163-3175)よりも平均して少なくとも3倍大きいGAG/DNAの比率を得た(図2B)。
【0014】
再分化は、FGF-2の除去によるものであった。しかしながら、3D培養におけるこの除去は、2ステップの方法において硝子質マトリックスの合成を誘導するには十分ではなかった。軟骨細胞の再分化は、十中八九、2D培養において、マトリックスでコーティングされたフラスコへの細胞接着および特有の細胞シグナリング経路の誘導を必要とする。
【0015】
本発明者らは、培養において軟骨細胞を増幅するための新規の方法を開発し、患者の年齢とは無関係に軟骨の小片(約30mg)からそれらの軟骨形成能を回復させた。第1のステップで、細胞を、2次元の培養においてFGF-2の支援を伴う細胞外マトリックスで増殖させ、次に第2のステップで、細胞増殖のために使用したFGF-2を除去することにより、元の表現型へと事前に再分化させた。最終的なステップでは、完全な再分化が、マイクロ組織を形成する自然発生的な細胞凝集を伴う3次元の(3D)培養において達成される。驚くべきことに、本発明者らは、2D培養において特に第2のステップでFGF-2増殖因子を除去することにより、軟骨細胞がGAGと結合したタンパク質であるアグリカンを合成することを通してそれらの元の機能を回復し始めることを示し、また、3D培養において第3のステップでFGF-2を継続して除去することにより、コラーゲンIIがGAGと併せて合成され、よって、関節軟骨特有の硝子質マトリックスが産生されることを示した。さらに本発明者らは、FGF-2を除去することが、増幅ステップの後にWntシグナリング経路、好ましくはWnt7Bシグナリングの不活性化を誘導し、よって、in vivoの軟骨を著しく代表する均一な硝子軟骨の産生を可能にすることを示した。本発明者らは、Wnt7Bが、脱分化培地(ME)で活性化され、事前再分化培地(pre-redifferentiation medium)(MR)において少なくとも10倍および成熟培地(MI)において少なくとも40倍減少することを示した。ネイティブな軟骨の特徴と可能な限り近い特徴を有する高品質の硝子質マイクロ組織の移植は、軟骨病変の処置の長期間の成功を予想するために重要である(Negoro, T et al. 2018.. npj Regenerative Medicine 3, 17 ; Madeira, C et al. 2015. Trends in biotechnology 33, 35-42)。
【0016】
よって、操作された軟骨(「Cartibeads」)は、移植の後に軟骨病変に完全に統合する可能性が高い。
【0017】
よって本発明は、軟骨組織のin vitroでの産生のための方法であって、好ましくは対象から、より好ましくはヒトまたはウマの対象の軟骨組織から単離された軟骨細胞を、好ましくは10~15日間、Wntシグナリング経路を活性化する脱分化培養培地の接着培養系で培養して線維芽細胞様細胞を得る第1のステップと;好ましくは4~8日間、Wntシグナリング経路を不活性化する再分化培養培地の接着培養系で前記線維芽細胞様細胞を培養して軟骨細胞を得る第2のステップと;好ましくは10~15日間、Wntシグナリング経路を不活性化する成熟培養培地の3次元の培養系で第2のステップで得た軟骨細胞を培養する第3のステップとを含む、方法に関する。好ましい実施形態では、上記脱分化培養培地は、FGF-2を含み、好ましくは再分化培養培地および/または成熟培養培地は、FGF-2フリー培地である。上記脱分化培養培地は、PDGF-BB、TGF-β、およびEGFからなる群から選択される少なくとも1つの増殖因子を含み得る。上記再分化培地および成熟培養培地は、TGF-β、好ましくはTGF-β3、より好ましくはTGF-β3およびFGF-7を含み得る。別の実施形態では、上記再分化培地は、血小板のライセートを含み得る。特に、上述の全ての培養培地は、血清を含み得る。上記成熟培地は、インスリン、IGF-1、BMP-2、セレニウム、トランスフェリン、およびエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含み得る。
【0018】
特定の実施形態では、第3のステップにおいて、上記軟骨細胞は、10(v/v)%未満のO2を含む低酸素の雰囲気において培養される。
【0019】
別の態様では、本発明は、少なくとも15のGAG/二本鎖DNAの比率(ration)を提示するスフェロイド(Cartibeads)の形態の操作された軟骨組織に関する。上記操作された軟骨組織は、それを必要とする対象の軟骨欠損および軟骨変性疾患の処置、好ましくは自家移植で使用され得る。
【0020】
最後に、本発明はまた、軟骨変性プロセスを阻害する分子をスクリーニングする方法であって、上述の操作された軟骨組織を1つ以上の候補分子と接触させるステップと、軟骨変性プロセスを阻害する分子を選択するステップとを含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】3ステップの方法で操作されたCartibeadsの性質決定。a.脱分化した軟骨細胞由来のCartibeadsの作製のための3ステップの方法のスキーム:ステップ1(増殖)、ステップ2(再分化)は、酸素(21%)の大気条件において2Dで行い、ステップ3(Cartibeadの形成)は、酸素(5%)の低酸素の条件において3D培養で行った。b、前臨床試験の図面:ヒトCartibeadsのSCIDマウスでの安全性およびミニブタでの有効性を評価するためのヒトCartibeadsの使用。c、固定したサンプル由来のCartibeadsの組織学的な分析。3つの独立したドナーから得たCartibeadsの、硝子軟骨を特徴づけるGAGのサフラニン-O染色(上部のパネル)およびII型コラーゲンの強力な免疫検出(DAB染色、中央)、ならびに弱いI型コラーゲンの検出(下部パネル)の代表的な画像。スケールバー200μm。d、15名のドナー(黒色のドット)および3つのネイティブな軟骨対照(四角)由来の、ジメチルメチレンブルーアッセイ(DMMB)で決定した、μg/mg組織で表されるCartibeadsにおけるグリコサミノグリカン(GAG)含有量の生化学的な定量化。e、Cartibeadsの生体力学的な特性は、Cartibeadsの弾性を測定する圧縮試験(ヤング率)により決定される。応力-ひずみの曲線は、3名のドナーから表されており、大きなCartibeadsで制約の増大を示す。
図2】全てのドナー由来のCartibeadsにおけるGAGの量。a、DMMBアッセイによるCartibeadあたりのGAG含有量の生化学的な定量化。b、GAG/DNAの比率(μg/μg)で表される、DNA含有量に対して正規化した、CartibeadのGAG含有量の生化学的な定量化。
図3】高酸素および低酸素レベルならびに3ステップおよび2ステップの方法で作製したCartibeadsの比較。a、3名のドナーでの低酸素条件下にて3ステップの方法で作製されたCartibeadsの巨視的な図。b、Cartibeadの切片におけるGAGのサフラニンO染色を、1名のドナーにて4つの異なる条件下で作製した。Cartibeadsは、高酸素レベルおよび低酸素レベル(21%および5%)を伴う培養条件下で、3ステップおよび2ステップの方法により作製した。写真は、3名のドナーを代表している。スケールバー200μm。c、3名のドナーでの4つの異なる条件下でのGAG/Cartibeadの量の評価。
図4】Cartibeadsの安定性。a、3ステップの方法が完了した後のCartibeads、ならびにクローズドなレシピエントにおいて、37℃(5%のO2でのインキュベーター)ならびに4℃および室温(RT)にてさらに6日間放置されたCartibeadsにおけるGAGの生化学的な定量化。b、Cartibeadsの中の死細胞の数を、赤色蛍光色素染色により定量的に評価した。死細胞の陽性対照は、蛍光染色前に10%のトリトンで事前に処置したCartibeadsであった。スケールバー100μm。
図5】2ステップの方法と比較した3ステップの方法から操作したCartibeadsの硝子質の特徴の改善。a、Cartibeadsの作製のための2ステップの方法のスキーム。Cartibeadの作製のため、軟骨細胞(Chondocyte)を、ステップ1において培地Eで増殖させ、ステップ2において培地Iにて直接使用した。b、3ステップ対2ステップの発現に基づく遺伝子セットのエンリッチメント解析の機能的な注釈のクラスター化。ヒストグラムは、有意なエンリッチメントが見出された遺伝子の各ファミリーにおける遺伝子の数を示している。薄灰色では、遺伝子は、3ステップの方法由来のCartibeadsの高いレベルの発現を伴い、濃灰色では、遺伝子は上記より低い発現を伴う。c、統計的な有意性(FDR<0.001)対変化の大きさ(2超の倍差)を示すVolcanoプロットを用いたRNAseqの結果の可視化。Volcanoプロットは、2ステップと比較して3ステップの方法で増大しているACAN、COL2A1、ならびに減少しているCOL1A1などの統計的に有意である倍差を有する遺伝子を強調している。***p<0.001;**p<0.01 d、e、f 3ステップおよび2ステップの方法でACAN(d)、COL2A1(e)、およびCOL1A1(f)の遺伝子の(RPKMにおける)mRNA発現レベルを比較したRNASeq解析からのデータ。NA(該当なし)は、ステップ自体の非存在による分析の非存在を表す。g、3ステップの方法および2ステップの方法からもたらされたCartibeadsにおけるGAGのサフラニン-O染色。スケールバー100μm。
図6】MSCマーカー発現。a、左から右へそれぞれCD73、CD90、およびCD105を表すフローサイトメトリー。b、骨細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞を提供する脂肪組織幹細胞(ASC)、間葉系幹細胞(MSC)および軟骨細胞の可能性を比較した分化試験。アリザリンレッドSは、成熟骨細胞の指標であるカルシウム沈着物を染色するために使用される色素であり(上部のパネル)、オイルレッドOは、脂肪細胞の中性脂質の特徴を染色し(中央のパネル)、サフラニン-Oは、軟骨細胞のGAGを染色した(下部のパネル)。スケールバー100μm。
図7】WNTシグナリングの阻害は、硝子質マトリックス成分の産生を高める。a、3ステップの方法における培地R対培地Eの差次的な発現レベルに基づく遺伝子セットのエンリッチメント解析および機能的なグループ化。グラフは、各遺伝子ファミリーのエンリッチメントを示す(差次的に発現される遺伝子の数)。***p<0.001;**p<0.01 b、3ステップの方法における培地R対培地Eの軟骨細胞からのRNAseqの結果のVolcanoプロット。c.RNAseq分析由来のデータは、ki67(増殖マーカー)(上部のパネル);TCF4(wnt/βカテニン経路の下流に含まれている)(中央のパネル)、SOX9(マトリックスの産生に関与する転写因子)(下部のパネル)に関するRPKMにおけるmRNA発現を示している。d、e、f RNAseqからのデータは、3ステップおよび2ステップの方法における培地E、R、およびIの中の軟骨細胞のWNT5A(d)、WNT5B(e)、およびWNT7B(f)のRPKMにおけるmRNA発現を示す。NA(該当なし)は、ステップ自体の非存在による分析の非存在を表す。g、イムノブロットは、軟骨細胞におけるWNTシグナリング阻害剤XAV-939(10μM)の存在下での指定されたタンパク質の発現を示す。ヒストグラムは、対照と比較したβ-カテニンおよびアキシンのデンシトメトリー分析を示す。h、i、ACANおよびCOL2A1のmRNA発現を、培地E、培地E+XAV-939の培養における4日後の軟骨細胞、ならびに培地Eおよび培地+XAV-839で培養した軟骨細胞由来のCartibeads(2ステップの方法)において、qPCRにより決定した。j、培地R(3ステップの方法)および培地E+XAV-939(2ステップの方法)で培養した軟骨細胞から作製したCartibeadsにおけるGAGのサフラニン-O染色の代表的な画像。スケールバー100μm。k、スキームは、培地EにおけるWNTシグナリング経路の分子の基盤、ならびに、軟骨細胞が、ACANおよびII型コラーゲンを含む硝子質マトリックスの産生を可能にする、培地Rまたは培地E+XAV939で培養される場合のWNT阻害をまとめている。
図8】ヒトの膝のex vivoでのCartibeadsのグラフトの実現可能性。a、外科的な機器を用いて手動で作製した病変(左)、1日目にグラフトしたCartibeads(中央)、培地Iにおいて回転させながら培養した後のグラフトから1カ月後のビーズを伴う病変(右)を示す全人工膝関節置換術後の大腿骨遠位部の巨視的な図。スケールバー4mm。b、ex vivoの標本の断面のサンプルのGAGのサフラニン-O染色は、共に融合したCartibeadsが、高い倍率により示されるように、硝子質を保持しており、ネイティブな軟骨と統合していることを示している(左および右のパネル)。データは、3つの独立した実験の代表である。スケールバー1mm。
図9】免疫不全マウスにおけるグラフト後のヒトCartibeadsの腫瘍形成能の非存在。a、移植から2カ月後のCartibead(0.2×10個の軟骨細胞/cartibead)(上部パネル)およびマウスの背中への皮下グラフト後のグラフトから6週間後の5つのA549のビーズ(0.2×10個のA549細胞/ビーズ)に由来する腫瘍(黒色の矢印、左のパネル)の代表的な写真。b、SCIDマウス(n=1名のCartibeadドナーでは10~14匹のマウスおよび2×n=A549ビーズあたり4匹のマウス)あたり1つのCartibead、1または5つのビーズのA549細胞の皮下移植後の腫瘍の発達。c、グラフト前(中央のパネル)および後(右のパネル)のCartibeadsにおけるGAGのサフラニン-O染色。スケールバー200μm。
図10】自家性Cartibeadsの移植の後のミニブタの膝における硝子質のグラフトの統合。a.スキームは、Cartibeadsの作製のために使用した生検の主要な部位、および5つの病変/膝の作製と自家性Cartibeadsの移植とを組み合わせた第二の外科手術を記載している。b、6匹のミニブタのGAGの生化学的な定量化(μg/Cartibead)。c-d、巨視的な図(左のパネル)およびミニブタの膝の切片のGAGのサフラニン-O染色(中央のパネル)、ここで拡大されたセグメントは、移植から3および6カ月後の組織のリモデリングを示している。移植部位は、黒色で丸が付されており、白色の丸は、対照としての空の病変を表す(右のパネル)。移植した病変(中央のパネル)および空の病変(右のパネル)の代表的な染色は、3カ月(c)および6カ月(d)で示されている。スケールバー200μm。
図11】ミニブタにおけるブタのCartibeadの移植は、硝子質が統合したグラフトをもたらす。a、この試験で使用した6匹のミニブタに関する移植前のCartibeadsにおけるGAGのサフラニン-O染色(上部のパネル、スケールバー200μm)および膝の巨視的な図(中央のパネル)およびグラフトした病変におけるGAGのサフラニン-O染色(下部のパネル、スケールバー200μm)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、以下に記載の軟骨細胞の培養の3つのステップを含む、軟骨組織のin vitroでの産生のための方法に関する。
【0023】
軟骨細胞は、主にそれらが産生する細胞外マトリックスの種類に基づく特徴的な表現型を有する間葉系細胞から生じる。前駆体細胞はI型コラーゲンを産生するが、これらは軟骨細胞系列にコミットされるようになると、I型コラーゲンの産生を減らし、硝子質細胞外マトリックスの実質的なタンパク質を構成するII型コラーゲンの合成を開始する。さらに、コミットされた軟骨細胞は、プロテオグリカンを産生し、これは、著しく硫酸化されているグリコサミノグリカンに結合したアグリカンである。
【0024】
用語「軟骨細胞」は、本明細書中使用される場合、硝子質マトリックスを合成する完全な特性を有する軟骨から得た分化した細胞(コミットした軟骨細胞)を表す。用語軟骨細胞は、(生検から新鮮な状態で単離された)初代培養、および遺伝的に修飾、不死化、選択、保存されたものなどを含むin vitroで増殖した細胞を表す。
【0025】
対象の軟骨細胞の単離
本発明の方法では、第1のステップにおいて、軟骨細胞を、対象、好ましくは対象、より好ましくはヒトまたはウマの対象の膝、足首、尻、指、または肩から単離する。軟骨細胞は、従来の方法により、たとえばトリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エラスターゼ、およびヒアルロニダーゼなどの酵素による組織の消化を使用して、成熟軟骨組織の生検から単離する。軟骨組織は、好ましくは直径5mm未満(約30mgに相当する)の、非常に小さな小片であり得る。軟骨組織は、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトの軟骨またはウマの軟骨である。軟骨組織は、健常なドナーから、または患者、好ましくは患者の膝、足首、尻、指、肩、より好ましくは膝または足首から回収され得る。
【0026】
第1のステップ:脱分化培地での接着培養
まず、単離した軟骨細胞を、脱分化培養培地の接着培養系で培養する。
【0027】
本発明に係る方法での使用に適切な接着培養系は、接着性単層培養系またはフィーダー細胞上の培養系、好ましくは接着性単層培養系であり得る。培養系は、本発明に係る方法に適したいずれかの形態、特にフラスコ、複数のウェルプレート、またはディッシュの形態であり得る。
【0028】
好ましい実施形態では、接着培養系は、接着性単層培養系である。この系は、通常細胞の接着を促進するマトリックスまたは基質でコーティングされている、固体の担体、たとえばガラスまたはプラスティックを含む。基質は、接着因子からなり、担体への細胞の接着を促進するタンパク質の基質であり得る。これら接着因子は、特に、ポリ-L-リジン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、またはゼラチンから選択され得る。
【0029】
細胞外マトリックスを模倣し、本発明に係る方法での使用に適したマトリックスは、当業者によく知られており、多くの種類が市販されている。これらマトリックスは、たとえばMatrigel(商標)、Geltrex(登録商標)のタイプ、CELLstart(商標)のマトリックス、またはコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン、プロテオグリカン、アミノグリカン、もしくはビトロネクチンなどの1つ以上のアンカータンパク質を含む他のマトリックスを含む。3次元のハイドロゲル型のマトリックスもまた使用され得る。好ましい実施形態では、マトリックスは、Matrigel(商標)のタイプまたはCELLstart(商標)Substrateである。
【0030】
軟骨細胞は、線維芽状態(線維芽細胞様形態)と称される前駆体/未分化状態の細胞を増幅および脱分化させることを可能にする培地の接着培養系で培養される。特に、脱分化培地は、線維芽細胞様細胞の形態を有する脱分化した軟骨細胞であり幹細胞の特徴を呈する、線維芽細胞様軟骨細胞とも称される、線維芽細胞様細胞への軟骨細胞の増殖および脱分化を可能にする培養培地である。好ましくは、脱分化培地は、軟骨細胞を、CD105、CD90、および/またはCD73などの間葉系幹細胞表面マーカーを発現する線維芽細胞様細胞へと脱分化することを可能にする。線維芽細胞様細胞は、硝子質マトリックス(コラーゲン2およびGAG)を合成する特性を失った脱分化した軟骨細胞である。脱分化培地は、軟骨細胞を未分化状態で増幅および脱分化させる少なくとも1種以上の成分を含む基本培地である。
【0031】
多くの基本培地が市販されており、当業者によく知られている。この培地は、特に細胞に重要な無機塩、アミノ酸、ビタミン、および炭素供給源、ならびにpHを調節するためのバッファー系を含む最小培地であり得る。本発明に係る方法で使用できる基本培地として、たとえば限定するものではないが、DMEM/F12培地、DMEM培地、RPMI培地、Ham’sF12培地、IMDM培地、およびKnockOut(商標)DMEM培地(Life Technologies)が挙げられる。
【0032】
使用される培地に応じて、グルタミン、ビタミンC、1つ以上の抗生剤、たとえばストレプトマイシン、ペニシリン、および/または抗真菌剤、たとえばファンギゾン(アンホテリシンB)を添加することが必要または望ましいとされ得る。
【0033】
本発明では、脱分化培地は、Wntシグナリング経路を活性化する。
【0034】
活性状態では、Wntリガンドはfrizzled受容体およびそれらの共受容体、リポタンパク質-受容体関連タンパク質(LRP)5/6に結合する。これは、その後GSK3βの活性およびβ-カテニンのリン酸化を阻害するDSH(disheveled)を活性化する。β-カテニンは、核に移動され、転写因子TCF/LEF(T細胞に特異的な転写因子/リンパ系エンハンサー結合因子)と相互作用する。不活性状態では、β-カテニンは、グリコーゲン合成酵素キナーゼ(GSK)3βによりリン酸化され、リン酸化したβ-カテニンは、その後ユビキチン化(ubiquitinylation)およびプロテアソームの分解を経る。
【0035】
好ましい実施形態では、脱分化培地は、Wntシグナリング、好ましくはWnt7Bシグナリングを活性化する1つの化合物を含む基本培地である。
【0036】
Wntシグナリング経路の活性化は、脱分化した軟骨細胞において、wnt RNA、特にwnt7B、wnt5Aまたはwnt5B、好ましくはwnt7B RNAおよびWntシグナリング経路の下流の標的遺伝子、たとえばTCF4の発現レベルを測定することにより決定され得る。細胞でのWntシグナリング経路の活性化は、標的遺伝子の発現レベルが上記化合物を伴わずに培養された細胞でよりも少なくとも1.5倍高い、または2、3、4、5倍高い場合に生じる。
【0037】
mRNAの発現レベルは、当業者に知られているいずれかの適切な方法により決定され得る。通常、これら方法は、mRNAの量を測定することを含む。mRNAの量を決定するための方法は、当該分野でよく知られている。たとえば、サンプルに含まれる核酸は、最初に標準的な方法により、たとえば溶解性の酵素もしくは化学的な溶液を使用して抽出されるか、または製造社の指示に従い核酸に結合する樹脂により抽出される。次に、抽出されたmRNAは、ハイブリダイゼーション(たとえばノーザンブロット分析)、増幅(たとえばRT-PCR)、またはシーケンシング(RNA-seq)により検出される。
【0038】
また標的遺伝子のタンパク質のレベルは、当業者に知られているいずれかの適切な方法により決定され得る。通常、これら方法は、細胞サンプル、好ましくは細胞のライセートを、サンプルに存在する標的遺伝子のタンパク質と選択的に相互作用できる結合パートナーと接触させることを含む。この結合パートナーは、全般的に、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体、好ましくはモノクローナル抗体である。タンパク質の量は、たとえば、半定量的なウェスタンブロット、酵素標識イムノアッセイおよび酵素が介在するイムノアッセイ、たとえばELISA、ビオチン/アビジン型のアッセイ、ラジオイムノアッセイ、免疫電気泳動、もしくは免疫沈降によるか、またはタンパク質もしくは抗体のアレイにより、測定され得る。
【0039】
特に、Wntシグナリング経路を活性化できる化合物は、Wnt受容体に結合するWntタンパク質または小分子GSK-3βアンタゴニスト、好ましくはWNT7B、WNT5A、またはWNT5B、より好ましくはWNT7Bであり得る。
【0040】
上記Wntシグナリング経路を活性化できる化合物は、塩化リチウム(CAS番号7447-41-8)、CHIR99021(CAS番号252917-06-9)、SB-216763(CAS番号280744-09-4)、BIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)(CAS番号667463-62-9)からなる群から選択され得る。
【0041】
好ましい実施形態では、上記化合物は、bFGFとしても知られているFGF2(線維芽細胞増殖因子-2)または線維芽細胞増殖因子の基本的な形態である。
【0042】
Wntシグナリング経路の活性化は、軟骨細胞を線維芽細胞様細胞へと増幅および脱分化することを可能にする。好ましい実施形態では、脱分化培地は、少なくとも5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100ng/mLのFGF-2を含む。好ましくは、この培地は、5~100ng/mLのFGF-2、好ましくは20ng/mLのFGF-2を含む。
【0043】
本発明では、少なくとも1つの態様において、好ましくは本発明の方法において軟骨細胞を増幅するための、FGF2分子と同様の方法で軟骨細胞に作用するポリペプチドなどのいずれかの分子が、使用され得る。
【0044】
未分化状態の細胞を増幅および脱分化するように軟骨細胞を支援するさらなる成分は、特に制限されてはおらず、目的に応じて適宜選択され得る。この成分の例として、骨形成タンパク質(BMP)、上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、インスリン増殖因子1(IGF-1)が挙げられる。上述の他の成分は、それぞれ、単独で使用されてもよく、またはそれらの複数が、Wntシグナリング経路を活性化できる化合物と組み合わせて使用され得る。
【0045】
特定の実施形態では、脱分化培地は、EGF、TGF-β、およびPDGF-BB、ならびにそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の増殖因子をさらに含み得る。この実施形態では、EGF、PDGF-BB、およびTGF-βは、それぞれ、1~100ng/mLの範囲、好ましくは5~50ng/mLの範囲の濃度で存在する。より特定の実施形態では、上記TGF-βは、TGF-β3である。
【0046】
特定の実施形態では、本発明に係る方法において、ヒト軟骨細胞は、FGF-2、PDGF-BBおよびTGF-β3、好ましくは5~100ng/mLのFGF-2、1~100ng/mLのPDGF-BBおよび1~100ng/mLのTGF-β3、より好ましくは5~50ng/mLのFGF-2、5~50ng/mLのPDGF-BB、および5~50ng/mLのTGF-β3を含む脱分化培地で培養される。
【0047】
別の特定の実施形態では、本発明に係る方法において、ウマ軟骨細胞が、FGF-2およびEGF、好ましくは5~100ng/mLのFGF-2および1~100ng/mLのEGF、より好ましくは5~50ng/mLのFGF-2および5~50ng/mLのEGFを含む脱分化培地で培養される。
【0048】
好ましい実施形態では、脱分化培地は、動物起源の血清をさらに含む。好ましい実施形態では、自家血清が使用される。異種または同種異系間の血清を使用することも可能である。特に、ヒト軟骨細胞の培養では、ヒト患者由来または集められたヒト血清由来の自家血清が使用され得る。特定の実施形態では、ウマ軟骨細胞の培養では、ウシ胎仔血清が使用され得る。培地は、好ましくは2~20%、好ましくは5~15%、より好ましくは10%の血清を含む。
【0049】
特定の実施形態では、軟骨細胞は、10~20日間、好ましくは10~15日間、脱分化培地と接触させる。
【0050】
細胞は、好ましくは、培養物がコンフルエンスを達成しないように、すなわち利用可能な表面全体を覆わないように定期的に継代培養される。実際に、コンフルエンスは、増殖の停止および望ましくない代謝上の変化を誘導する。細胞は、当業者によく知られている標準的な技術を使用して継代培養され得る。これらは特に、コラゲナーゼIVなどの酵素の作用によるか、またはEDTAを含むPBSもしくは他のいずれかの酵素フリーの溶液(たとえばReleSR(STEMCELL Technologies))での機械的な継代によるか、またはTrypLE(商標)Express(Life Technologies)などの市販の細胞脱離培地の作用によりマトリックスまたは担体から脱離されてもよく、遠心により回収されてもよく、機械的に解離されてもよく、新規の培養系に再播種されてもよい。
【0051】
第2のステップ:再分化培地での接着培養
細胞増殖のための脱分化培地で使用されるWntシグナリング経路を、培養の第2の中間のステップにおいて不活性化することにより、驚くべきことに本発明者らは、3次元系の培養によって、軟骨細胞が完全な元の表現型および硝子質マトリックスを合成するための完全な特性を回復させたことを示した。
【0052】
よって、本発明に係る方法は、Wntシグナリング経路、好ましくはWnt7B、Wnt5A、またはWnt5B、好ましくはWnt7Bシグナリング経路を不活性化する再分化培地を伴う上述の接着培養系において、第1のステップで得た線維芽細胞様細胞を培養する中間のステップをさらに含む。軟骨細胞は、この再分化培地と接触して、線維芽細胞の表現型を反転し、線維芽細胞様細胞を、硝子質マトリックスを合成する完全な特性を有する軟骨細胞へと再分化する。この第2のステップでは、細胞は自身の形態を変え、伸長は少なく、より大きくなり、光学顕微鏡下で細胞質に明らかな顆粒状の小胞体を伴うことにより、高レベルのタンパク質合成活性をシグナリングする。軟骨細胞は、GAGと結合したプロテオグリカンである、アグリカンを再発現し始める。コラーゲンIIは、第2のステップの終了時には再発現されない。
【0053】
好ましくは、接触は、単純に培養培地を変えることにより行われる。あるいは、これは、復帰培地を含む上述の接着培養系で継代培養することにより行われ得る。
【0054】
一実施形態では、接着培養系は、上述の接着性単層培養系である。好ましい実施形態では、マトリックスは、Matrigel(商標)のタイプ、またはCELLstart(商標)Substrateである。
【0055】
第1の実施形態では、再分化培地は、上述のWntシグナリング経路を活性化する化合物が除去されている基本培地を含む再分化培地であり得る。
【0056】
化合物を除去することにより、上記再分化培地は、Wntシグナリング経路の活性化を可能にしない濃度で化合物を含むことが意図される。
【0057】
より好ましい実施形態では、上記再分化培地は、FGF-2フリーの再分化培地である。上記FGF-2フリーの再分化培地は、0.5ng/mL未満のFGF-2、好ましくは0.4、0.3、0.2、0.1ng/mL未満のFGF-2を含む基本培地を含む。
【0058】
別の実施形態では、上記再分化培地は、Wntシグナリング経路の阻害剤を含む基本培地である。
【0059】
上記Wntシグナリング経路の阻害剤は、Dvlタンパク質を標的とする化合物、たとえばNSC668036(CAS番号144678-63-7)、3289-8625(CAS番号294891-81-9)、J01-017a、TMEM88、KY-02061、KY-02327、BMD4702(CAS番号335206-54-7)、ニクロサミド(CAS番号50-65-7)、DK-520、スリンダク(CAS番号38194-50-2);β-カテニン破壊複合体を標的とする化合物、たとえばPyrvinium(CAS番号7187-62-4);天然の化合物、たとえばderricin(CAS番号34211-25-1)、derricidin(CAS番号38965-74-1)、カルノシン酸(CAS番号3650-09-7);TCF/LEF転写レポーターを標的とする化合物、たとえばICG-001(CAS番号847591-62-2)、PNU-74654(CAS番号113906-27-7)、Windorphen(CAS番号19881-70-0);Prenを標的とする化合物、たとえばIWP-L6(CAS番号1427782-89-5)、Wnt-C59(CAS番号1243243-89-1)、LGK974(CAS番号1243244-14-5)、ETC-159(CAS番号1638250-96-0)、TNKSを標的とする化合物、たとえばXAV939(CAS番号284028-89-3)、E7449(CAS番号1140964-99-3)からなる群から選択される小分子、好ましくはXAV939であり得る。
【0060】
別の実施形態では、低分子干渉RNA(small inhibitory RNA:siRNA)もまた、Wnt経路のシグナリングに関与する少なくとも1つのタンパク質の遺伝子発現レベルを減らすために使用され得る。好ましい実施形態では、上記Wntシグナリングタンパク質の遺伝子発現は、細胞に小さな二本鎖RNA(dsRNA)または小さな二本鎖RNAの産生を引き起こすベクターもしくはコンストラクトを導入することによってWntシグナリング経路が不活性化されることにより、低減され得る(すなわちRNA干渉またはRNAi)。その配列が知られている遺伝子について適切なdsRNAまたはdsRNAをコードするベクターを選択するための方法は、当該分野でよく知られている(たとえばTuschl, T. et al. (1999);Elbashir, S. M. et al. (2001); Hannon, GJ. (2002); McManus, MT. et al. (2002); Brummelkamp, TR. et al. (2002);米国特許第6,573,099号および同第6,506,559号;および国際特許公開公報第01/36646号、同第99/32619号、および同第01/68836を参照)。
【0061】
別の実施形態では、小ヘアピンRNA(shRNA)もまた、Wntシグナリングタンパク質の遺伝子発現レベルを減少させるために使用され得る。小ヘアピンRNA(shRNA)は、RNA干渉(RNAi)を介して標的遺伝子の発現をサイレンシングするために使用され得るタイトなヘアピンターンを形成するRNAの配列である。細胞でのshRNAの発現は、通常、プラスミドの送達によるかまたはウイルスベクターもしくは細菌ベクターを介して達成される。プロモーターの選択は、強力なshRNA発現を達成するために重要である。最初は、U6およびHIなどのポリメラーゼIIIプロモーターが使用された;しかしながら、これらプロモーターは、空間的および時間的な制御を欠いている。よって、shRNAの発現を調節するためにポリメラーゼIIプロモーターの使用へとシフトしている。
【0062】
好ましい実施形態では、siRNAは、Wnt5B、Wnt7B、Wnt5A、またはβ-カテニン、好ましくはWnt7Bの遺伝子発現レベルを減らすために使用される。
【0063】
基本培養培地は、特に細胞に重要な無機塩、アミノ酸、ビタミン、および炭素供給源、ならびにpHを調節するためのバッファー系を含む最小培地であり得る。本発明に係る方法で使用することができる基本培地として、たとえば限定するものではないが、DMEM/F12培地、DMEM培地、RPMI培地、Ham’sF12培地、IMDM培地、およびKnockOut(商標)DMEM培地(Life Technologies)が挙げられる。
【0064】
特定の実施形態では、再分化培地は、0.5ng/mL未満のFGF-2を含む基本培地を含み、軟骨細胞へ再分化させるように線維芽細胞様細胞を促進する少なくとも1つ以上の成分を含むFGF-2フリーの再分化培地である。
【0065】
特定の実施形態では、再分化培地は、形質転換増殖因子β(TGFβ)、より好ましくはTGF-β3を含み、好ましくは、再分化培地は、1~100ng/mLのTGF-β3、より好ましくは5~50ng/mLのTGF-β3を含む。
【0066】
より特定の実施形態では、再分化培地は、ケラチノサイト増殖因子としても知られているFGF-7をさらに含む。FGF-7は、細胞増殖および細胞分化に関与する。好ましくは、再分化培地は、1~100ng/mLのFGF-7、より好ましくは5~50ng/mLのFGF-7を含む。
【0067】
特定の実施形態では、使用される再分化培地は、上述の動物起源の血清をさらに含む。
【0068】
好ましい実施形態では、上記TGF-β、FGF-7、および/または血清は、血小板のライセートに置き換えられている。血小板のライセートは、凍結/融解サイクル後の血小板に由来する増殖因子を多く含む細胞培養サプリメントである。凍結/融解サイクルは、血小板を溶解させて、細胞増殖に必要な大量の増殖因子を放出する。好ましい実施形態では、再分化培地は、5~20%、好ましくは10%の血小板のライセートを含む。好ましい実施形態では、上記血小板のライセートは、集められたヒト血小板のライセートである。
【0069】
軟骨細胞の分化に影響し得る成分は、特に限定されてはおらず、目的に応じて適宜選択され得る。この成分の例として、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF-1)、形質転換増殖因子β、骨形成タンパク質(BMP)、セレニウム、トランスフェリン、エタノールアミン、血小板由来増殖因子が挙げられる。上述の他の成分はそれぞれ、単独で使用されてもよく、またはそれらのうちの複数を組み合わせて使用してもよい。
【0070】
特定の実施形態では、軟骨細胞は、2~10日間、好ましくは3~7日間、より好ましくは7日間、再分化培地と接触させる。
【0071】
細胞は、培養物がコンフルエンスに達しないように、すなわち利用可能な表面全体を覆わないように、定期的に継代培養され得る。実際に、コンフルエンスは、増殖の停止および望ましくない代謝上の変化を誘導する。細胞は、上述の当業者によく知られている標準的な技術を使用して継代培養され得る。
【0072】
第3のステップ:誘導/成熟培地における3D培養系
軟骨組織の形成を可能にするために、次に、第2のステップで得た軟骨細胞を、誘導培地とも称される成熟培地において3次元の培養系で培養する。このステップで、軟骨細胞は、自身の細胞外マトリックスを産生して軟骨組織を形成し、特にII型のコラーゲンの合成を開始する。得られた軟骨組織は、様々な大きさの3次元の組織であり、スフェロイドと呼ばれ得る。上記スフェロイドは、スフェロイドに含まれる細胞およびこれら細胞により形成される硝子質マトリックスから構成される。
【0073】
成熟培地は、軟骨細胞に硝子質マトリックスを産生させ軟骨組織を形成させる少なくとも1つ以上の成分を含む基本培地である。
【0074】
特に、成熟培地は、Wntシグナリング経路を不活性化する。一実施形態では、成熟培地は、上述のWntシグナリング経路を活性化する化合物が除去されている基本培地を含む。別の実施形態では、上記成熟培地は、上述のWntシグナリング経路の阻害剤を含む基本培地である。
【0075】
好ましい実施形態では、上記成熟培地は、FGF-2増殖因子が除去されている基本培地である。他の用語では、成熟培地は、0.5ng/mL未満のFGF-2、好ましくは0.4、0.3、0.2、0.1ng/mL未満のFGF-2を含む基本培地である。
【0076】
軟骨細胞の成熟に影響し得る成分は、特には限定されておらず、目的に応じて適宜選択され得る。この成分の例として、TGF-β増殖因子、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF-1)、形質転換増殖因子β、骨形成タンパク質(BMP)、セレニウム、トランスフェリン、エタノールアミン、上皮増殖因子、血小板由来増殖因子が挙げられる。上述の他の成分はそれぞれ、単独で使用されてもよく、またはそれらの複数が組み合わせて使用され得る。
【0077】
特定の実施形態では、成熟培地は、TGF-β、好ましくはTGF-β3をさらに含む上述の基本培養培地である。
【0078】
好ましくは、成熟培地は、1~100ng/mLのTGF-β3、より好ましくは5~50ng/mLのTGF-β3を含む。
【0079】
一実施形態では、軟骨細胞成熟培地は、TGF-β3、IGF-1、BMP-2、およびインスリンを含む基本培養培地である。好ましくは、軟骨細胞成熟培地は、TGF-β3、インスリン、IGF-1、BMP-2、セレニウム、トランスフェリン、およびエタノールアミン、より好ましくはTGF-β3、インスリン、セレニウム、トランスフェリン、およびエタノールアミンを含む。
【0080】
好ましくは、成熟培地は、1~100ng/mLのTGF-β3、好ましくは5~50ng/mLのTGF-β3、1~100ng/mLのIGF-1、好ましくは5~50ng/mLのIGF-1、および/または1~100ng/mL、好ましくは5~50ng/mLのBMP-2を含む。
【0081】
特定の実施形態では、軟骨細胞は、10~20日間、好ましくは10~15日間、成熟培地の3次元の培養系で培養される。
【0082】
3D培養は、軟骨細胞による細胞外マトリックスの合成を支援するように、細胞を互いに結合させることができる。3D培養系は、静的または動的であり得る。静的な方法は、静的な物理的な力により凝集体を形成するための様式を細胞に提供することを暗示する。静的な方法として、限定するものではないが、懸滴法、寒天またはアガロースの薄いコーティングなどの非接着性の基質上での液体培養、低接着表面プレート上での培養が挙げられる。動的な方法は、強制的な細胞の凝集を暗示する。動的な方法として、限定するものではないが、スピナーフラスコでの培養、回転壁の容器、およびペレットでの培養が挙げられる。好ましい実施形態では、3D培養系は、ペレットでの培養である。ペレットでの培養では、軟骨細胞は、プレートに分散され、遠心分離されることにより細胞を凝集し、ペレットを形成する。
【0083】
好ましい実施形態では、成熟培地における3D培養は、軟骨形成を向上させるために低酸素の雰囲気で行われる。好ましい実施形態では、軟骨細胞は、10(v/v)%未満のO2、より好ましくは7%未満のO2、より好ましくは5%のO2の雰囲気にて、成熟培地における3D培養系で培養される。
【0084】
細胞は、軟骨組織を得るまで軟骨細胞成熟培地で維持される。本明細書中使用される場合、軟骨は、硝子軟骨を表す。この期間の間、従来の方法で、培養培地は、定期的に、好ましくは2または3日ごとに、変えられてよい。
【0085】
得られる軟骨組織の質は、操作された軟骨組織におけるグリコサミノグリカン(GAG)およびコラーゲンIIの含有量を測定することにより試験され得る。また軟骨組織の質および量は、GAG/マイクロ組織の量を測定するかまたはGAG/二本鎖DNAの比率により、決定され得る。GAG、コラーゲン、または二本鎖DNAの存在は、当該分野で知られているいずれかの方法により評価され得る。たとえば、GAGは、サフラニン-Oの呈色によるかまたはジメチルメチレンブルーアッセイ(DMMB)を使用したGAGの用量によってより定量的に、明らかにされ得る。コラーゲンIIは、イムノ染色によるかまたはELISAなどのより定量的なアッセイにより評価され得る。
【0086】
よって、任意選択で、本発明に係る方法は、操作された軟骨組織におけるGAGおよび/またはコラーゲンIIの存在を測定または評価することからなるさらなるステップを含み得る。
【0087】
操作された軟骨組織(Cartibeads)
また本発明は、本発明に係る方法により入手可能な操作された軟骨組織に関する。
【0088】
本発明は、スフェロイドの形態の操作された軟骨組織であって、上記スフェロイドが、少なくとも15、16、17、18、19、または20μg/スフェロイド、好ましくは10~100μg/スフェロイド、より好ましくは15~60μg/スフェロイドのスフェロイドあたりのGAG含有量を提示する、操作された軟骨組織に関する。
【0089】
本発明は、スフェロイドの形態の操作された軟骨組織であって、上記スフェロイドが、少なくとも10、15、または20、好ましくは10~100、より好ましくは10~80のGAG/二本鎖DNAの比率を提示する、操作された軟骨組織に関する。
【0090】
上記軟骨組織のスフェロイドは、1~2mmの直径を有し、50000~250000個の細胞、好ましくは(preferentially)200000個の細胞を含む。
【0091】
医薬組成物
別の態様では、本発明はまた、本発明の操作された軟骨組織と、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0092】
薬学的に許容される賦形剤は、細胞と適合可能でなければならず、たとえば、培養培地、バッファー溶液、または生理食塩水であり得る。
【0093】
好ましい実施形態では、本医薬組成物は、好ましくは皮下経路による、非経口投与に適しており、特には軟骨または骨組織への直接投与に適している。本医薬組成物は、当業者に知られている標準的な薬学的な実務により製剤化され得る。
【0094】
特定の実施形態では、本医薬組成物は、生体適合性マトリックスにカプセル化されている、本発明の軟骨組織を含む。
【0095】
また本医薬組成物は、1つ以上のさらなる有効な化合物、たとえば細胞の生存もしくは増殖を向上させるかまたはコンタミネーションを防ぐことが知られている化合物を含み得る。
【0096】
治療上の適応
さらなる別の態様では、本発明は、それを必要とする対象の、特に軟骨欠損および軟骨変性疾患の処置のための、本発明の操作された軟骨組織または上記操作された軟骨組織を含む医薬組成物の治療上の使用に関する。
【0097】
よって、本発明は、それを必要とする対象の軟骨欠損および軟骨変性疾患の処置に使用するための本発明の操作された軟骨組織に関する。またこれは、それを必要とする対象の軟骨欠損および軟骨変性疾患の処置に使用するための本発明に係る医薬組成物に関する。
【0098】
本発明は、特に、それを必要とする対象の自家性軟骨組織移植に適している。本発明の自家性の操作された軟骨組織の移植では、最初に軟骨細胞が、上記対象から、好ましくは上記対象の成熟した軟骨組織の生検から単離される。次に、軟骨細胞が本発明の方法により培養されることにより、自家性の操作された軟骨組織を入手し、上記患者の軟骨欠損および軟骨変性疾患の処置に使用される。
【0099】
よって、好ましい実施形態では、本発明は、それを必要とする対象の軟骨欠損および軟骨変性疾患の処置のための本発明の自家性の操作された軟骨組織または上記自家性の操作された軟骨組織を含む医薬組成物の使用に関する。
【0100】
別の実施形態では、同種異系間移植が、それを必要とする対象で使用され得る。
【0101】
本明細書中使用される場合、用語「軟骨欠損および軟骨変性疾患」は、限定するものではないが、軟骨病変、関節症、リウマチ、または変形性関節症を含む。
【0102】
特定の実施形態では、本発明の操作された軟骨組織またはその医薬組成物は、人工関節の限定された寿命により60歳以下の患者では一般に提案されていない全膝置換を遅延または回避するために、限局性関節軟骨病変または早期変形性関節症を罹患している患者に適応される。よって、好ましい実施形態では、軟骨欠損および軟骨変性疾患は、限局性関節軟骨病変または早期変形性関節症である。
【0103】
用語「処置」は、本文書で使用される場合、疼痛および可動性の減少などの症状の改善もしくは消失、疾患の進行の遅延、疾患の発展の停止、または疾患の消失を表す。またこの用語は、予防的処置および治癒的な処置の両方を含む。
【0104】
本明細書中使用される場合、本明細書中使用される用語「対象」または「患者」は、哺乳類を表す。開示される処置方法から利益を得ることができる哺乳類の種として、限定するものではないが、ヒト、類人猿、チンパンジー、サル、およびオランウータンなどの非ヒトの霊長類、イヌおよびネコを含む飼い慣らされた動物、ならびにウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、およびヤギなどの家畜、または限定するものではないが、ラクダ、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスターなどを含む他の哺乳類種が挙げられる。特定の実施形態では、上記対象は、ヒトまたはウマである。
【0105】
また本発明は、軟骨欠損および軟骨変性疾患の処置または予防を意図した薬物の調製のための、本発明の軟骨組織または医薬組成物の使用に関する。
【0106】
さらに本発明は、軟骨欠損および軟骨変性疾患を処置するための方法であって、本発明に係る操作された軟骨組織または医薬組成物の治療上有効量を処置される対象に投与するステップを含む、方法に関する。
【0107】
他の文言では、本発明はまた、それを必要とする対象の軟骨欠損および軟骨変性疾患を処置するための方法であって、
i)前記対象から軟骨細胞を単離するステップと、
ii)上述のWntシグナリング経路を活性化する脱分化培養培地の接着培養系で前記軟骨細胞を培養して線維芽細胞様細胞を得るステップと、
iii)上述のWntシグナリング経路を不活性化する再分化培養培地の接着培養系で前記線維芽細胞様細胞を培養して軟骨細胞を得るステップと、
iv)上述のWntシグナリング経路を不活性化する成熟培地における3D培養系でステップiii)の軟骨細胞を培養して軟骨組織を得るステップと、
v)治療上有効量の軟骨組織を処置される対象へ投与するステップと
を含む、方法に関する。
【0108】
用語「治療上有効量」は、本明細書中使用される場合、軟骨欠損および/または軟骨変性疾患を呈する対象の疼痛の症状を減らすかまたは可動性を増大させるために十分な量を表す。
【0109】
好ましい実施形態では、病変を完全にカバーするために、1cmあたり10~50個の直径約1~2mmの軟骨組織のスフェロイドが投与される。スフェロイドは、軟骨下骨および軟骨病変の内端に自己接着する。
【0110】
本発明の操作された軟骨組織または医薬組成物は、上記軟骨を軟骨の表面もしくは支持マトリックス上にかまたは対象の軟骨もしくは支持マトリックスの局所的な環境に直接グラフトすることにより投与され得る。
【0111】
本発明の操作された軟骨組織または医薬組成物は、open-joint手術の手法によるかまたは関節鏡検査を介して、好ましくは患者のより早い回復を可能にするために関節鏡検査を介して対象に投与され得る。
【0112】
in vivoで移植された後、軟骨組織の中の軟骨細胞は、均一な軟骨組織を形成するために損傷した組織の表面までの全層の欠陥を充填しin vivoで共に融合する可能性を有するように、マトリックスを産生しつづけることにより、機械的な荷重に応答する。
【0113】
キット
また本発明は、軟骨組織のin vitroでの産生のためのキットに関する。このキットは、
上述の脱分化培地に存在する1つ以上の化合物、好ましくはFGF-2、より好ましくはFGF-2ならびにEGF、TGF-β3、およびPDGF-BBおよびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される増殖因子を含む第1の容器と、
上述の再分化培地に存在する1つ以上の化合物、好ましくはTGFβ3、より好ましくはTGFβ3およびFGF-7を含む第2の容器であって、上記TGF-β3および/またはFGF-7が血小板のライセートで置き換えられ得る、第2の容器と、
上述の成熟培地に存在する1つ以上の化合物、好ましくはTGF-β3、より好ましくはTGF-β3ならびにIGF-1、BMP-2、インスリン、セレニウム、トランスフェリン、およびエタノールアミンおよびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される1つの化合物、繰り返しになるが、より好ましくはTGF-β3およびインスリン、セレニウム、トランスフェリン、およびエタノールアミンを含む第3の容器と
を含む。
【0114】
好ましくは、本キットは、それぞれが再構成ならびに/または分化および/もしくは成熟培地の使用ならびに本発明に係る方法の実施を促進する濃度または量の1つ以上の化合物を含む、複数の容器を含む。また本発明に係るキットは、上述の基本培地を含む容器を含み得る。
【0115】
また本発明に係るキットは、特にフラスコ、マルチウェルプレート、またはディッシュの形態の、接着培養系を含み得る。
【0116】
また本キットは、本発明の方法に係る軟骨組織のin vitroでの産生のための分化または成熟培地を調製および/または使用するための方法を表す説明書を含み得る。
【0117】
また本発明は、本発明の方法による軟骨細胞のin vitroでの産生のための本発明に係るキットの使用に関する。
【0118】
治療上の目的の分子をスクリーニングするための方法
別の態様では、本発明は、治療上の目的の分子をスクリーニングするための本発明の軟骨組織の使用に関する。
【0119】
治療上の目的の分子は、特に、軟骨変性疾患の変性プロセスを阻害する分子であり得る。これら分子は、特に、上述の軟骨欠損または軟骨変性疾患の処置または予防に使用可能であり得る。
【0120】
よって本発明は、目的の分子をスクリーニングするための方法であって、
i)本発明の軟骨組織を候補分子と接触させるステップと、
ii)望ましい活性を有する分子を選択するステップと
を含む、方法に関する。
【0121】
本発明は、特には軟骨変性プロセスを阻害する分子をスクリーニングするための方法であって、
i)本発明の軟骨を1つ以上の候補分子と接触させるステップと、
ii)軟骨変性プロセスを阻害する分子を選択するステップと
を含む、方法に関する。
【0122】
軟骨組織の産生は、たとえばGAGまたはコラーゲンIIを測定することを含む方法などの、当業者によく知られている技術により評価され得る。
【0123】
探索される分子の性質に応じて、軟骨組織を産生させるために使用される軟骨細胞は、健常な対象または上記に定義した軟骨欠損もしくは軟骨変性疾患を有する対象から、入手され得る。
【0124】
この説明で引用されている全ての参照文献は、本出願において参照により組み込まれている。本発明の他の特性および利点は、非限定的な例示により提供される以下の実施例を読むことにより、より明らかとなるであろう。
【0125】
実施例
材料および方法
化学物質
XAV939は、Sigmaにより入手し、培地Eにおいて2D培養で4日間10μMの濃度で使用した。
【0126】
Cartibeadsの産生
表1に記載の以下の培地を、実施例で使用した。
【表1】
表1:実施例で使用した培地の組成
【0127】
サンプルの回収
ヒト軟骨サンプルを、様々な症状に対する整形外科的な手法の後に、生命に関して同意したドナー(life consenting donors)(18~80歳)から得た(表2)。
【表2】
表2:性別、年齢、および病態を含むドナーの特徴
【0128】
回収した軟骨は、室温にて通常の生理食塩水(NaCl 0.9%)において無菌性のレシピエントの試験室に移された。ヒト軟骨サンプルの回収は、スイス倫理委員会(Swiss Ethics Committee)(BASEC, 2016-00656)により承認された。
【0129】
ミニブタの軟骨は、外側滑車溝(lateral trochlear holder)(約30mg)から入手し、ミニブタの右膝から回収した。
【0130】
軟骨(約30mg)を、小片(1mm)にスライスして、酵素による消化により軟骨細胞の抽出を促進させ、次に、抗細菌剤(ゲンタマイシン、50ug/ml)および抗真菌剤(アムホテリシン(amphotericine)Bまたはファンギゾン(登録商標)、0.250ug/ml)を含む培地EにおいてII型のコラゲナーゼ(400U/ml、ThermoFisher)を用いて、回転させながら37℃で一晩おいた。
【0131】
細胞の培養およびCartibeadsの産生
細胞を洗浄し、細胞外マトリックス(MaxGel(商標)、Sigma)であらかじめコーティングしたT25cmのフラスコに置き(p0)、次にゲンタマイシンおよびファンギゾン(登録商標)(5日間の細胞増殖の後にこれらを除去した)を伴う培地Eで12~16日間培養した。全ての2D細胞培養を、細胞外マトリックスをコーティングしたフラスコで行った。コンフルエンスに達した際に、細胞を、1 T75(p1)に継代し、その後2x T75(p2)に分け、コンフルエンスに達成させた。この段階で細胞を、バックアップのため凍結することができる(p3)。培地Eでの細胞増殖(ステップ1)の後に、ステップ2において、細胞を培地Rにおいて7日間培養し、ここではこれらの増殖の減少が、ステップ3での3D培養へ進む前に観察された。ステップ3において、軟骨細胞を回収し、培地Iにおいて凝集させて、コニカル96ウェルプレートにおいて0.2×10個の細胞/ウェル(約20×10個の細胞/プレート)を得た。96ウェルプレートを、300gで5分間遠心分離し、3D培養において15日後に、細胞凝集およびCartibeadsの形成を可能にした。Cartibeadsを、最大8継代までの軟骨細胞から得た。これらビーズを、96ウェルプレートから取り出し、まとめて集め、これらは高い安定性にて最大6日間4~23℃(室温)にて培地Iにおいて維持することができる。
【0132】
GAGの定量化
グリコサミノグリカン(GAG)含有量を、ジメチルメチレンブルーアッセイ(DMMB)(Sigma, 341088)により評価した。コンドロイチン硫酸A(Sigma, C9819)を使用して、0~50μg/mLの範囲の濃度の6つの標準物質を作製した。コンドロイチンC硫酸C(Sigma, C4384)を使用して、それぞれ15および35μg/mLの濃度の低いおよび高い内部品質管理(IQC)(low and high Internal Quality Control)をもたらした。Cartibeadsを、Tris-HCl(50mM、pH8)(Sigma)においてプロテイナーゼK(1mg/ml)(Promega, V3021)で、56℃で15±2時間消化させた。この酵素を用いた消化を、97℃で15分間インキュベートすることにより停止させた。次に、得られたサンプルを、アッセイのためTris-HCl(50mM、pH8)で希釈(1/5~1/10)した。100μLの標準物質、ICQ、およびサンプルを、1mLのDMMB溶液との5分間の反応の後に、分光光度計を用いて三連で読み取った(λ=525nm)。次に、GAG含有量を、DNAの量に対し正規化し、これはPicoGreen-Qubitアッセイで測定した。標準物質およびICQは、2つの別々の製剤におけるウシ胸腺DNAから調製した。標準物質およびICQIは、200mMのTris-HCl、20mMのEDTA、pH7.5(TE)バッファーで調製し;これらサンプルは、プロテイナーゼKによる消化由来のサンプルであり、次に、TEバッファーで1/15に希釈した。このアッセイでは、100μLの標準物質、IQC、それからサンプルを採取し、三連に分けた。次に、100μLの1/200に希釈したPicoGreen Quant-It(登録商標)(ThermoFischer, P11496)を添加した。次に、サンプルを5分間インキュベートし、この時間の間、インターカラントはDNAと複合体形成した。最後に、読み取りを、Qubit 4 Fluorometer(ThermoFischer, Q33238)において485nmの励起ピークで行った。
【0133】
Cartibeadsの細胞のバイアビリティ
サンプルを、生細胞に対し非浸透性であるが、欠陥のある膜を有する細胞に対して浸透性であることから、生細胞対死細胞を評価することを可能にするアミン反応性蛍光色素である、赤色蛍光色素のZombie Aqua(商標)(Biolegend, 423101)を使用してアッセイを介してバイアビリティに関して試験した。3Dサンプルを、ステップ3の終了時までに回収し、次にPBSで洗浄し、次に、PBSで希釈したZombie色素(1:100)を20分間添加し、サンプルを暗室に保存した。その後、サンプルを、クリオスタットミクロトームを介して3μmの厚さに切断し、スーパーフロスト・プラススライドガラス上に乗せた。その後、これらを、4%のホルモルで固定し、次にPBSで希釈したHoescht(Molecular probe, H3570Thermofisher)(1:2000)で10分間処置した。このアッセイの対照は、Zombie色素ステップを開始する前にPBSにおいて10%のTriton(商標)(Sigma, X100-100ML)を室温(RT)で1時間添加することにより達成した。
【0134】
免疫組織化学染色
ホルマリンで固定しパラフィン包埋した軟骨組織およびCartibeadsの免疫組織化学染色では、サンプルを含むパラフィンブロックを、ミクロトームを用いて5μmで切断した。このスライドを、47℃で一晩乾燥させた。スライドを、Xylolにより脱パラフィン処理し(deparaffinate)、連続的なアルコール槽(100%、95%、および70%の濃度)により再水和した。アンマスキングの2つの技術を使用した。ミニブタ由来のネイティブな軟骨では、本発明者らは、0.1Mのリン酸塩バッファーにおいて20mg/mLのヒアルロニダーゼの溶液を使用し、37℃で1時間スライドに載置した。スライドを、5分間PBSで2回すすいで、ヒアルロニダーゼを除去した。Cartibeadsのサンプルを、pH=6、0.01Mのクエン酸塩バッファー槽に浸漬し、それぞれを電子レンジにて620wで5分間、3回加熱し、次に、氷槽で20分間冷却した。次に、スライドを、PBSで5分間すすいだ。次に、一次抗体を使用した(Collagen I Abcam, ab6308;Collagen II Abcam ab85266およびThermoFischer MA5-12789)。注目すべきことに、使用した2つのII型コラーゲン抗体は、同様の結果を示した。これら抗体は、異なるサンプルに置き、0.3%のトリトン:PBSにおいて1:100に1時間希釈した。PBSで5分間すすいだ後、二次抗体の、ビオチンコンジュゲート抗マウス(Vector lab, BA-2000)、抗ウサギIgG(Vector lab BA-1000)、および3,3’-ジアミノベンジジン基質を伴うアビジン-ビオチンペルオキシダーゼ検出系(Vector Labs)を使用した。サンプルを、ヘマトキシリンで対比染色した。脱水を、アルコール槽(95%および100%の濃度)、その後スライドがEukittレジン(Batch A1113, KiNDO1500)とアセンブリするまでXylol槽において10~20回ラックを振とうすることにより勢いよく脱水することにより達成した。Nikon Eclipse C1共焦点顕微鏡およびNikon Eclipse TE2000-Eを、イメージングに使用した。
【0135】
サフラニン-O染色
5μmのパラフィンスライス上のグリコサミノグリカン(GAG)を明らかにするために、軟骨のスフィアおよびネイティブな軟骨のホルマリンで固定しパラフィン包埋したサンプルのサフラニン-O染色を行った。スライドを、Xylolにより脱パラフィン処理し、連続的なアルコール槽(100%、95%、および70%の濃度)により、最終的に5分間蒸留水槽を使用することにより、再水和した。次に、ヘマトキシリン染色を、核の対比染色に使用し、その後、熱水をかけて5分間洗浄した。Fast Green(Sigma F7252)を使用して細胞質を染色し、次に酢酸を用いて洗い出した。スライドを、蒸留水を用いて即座に洗い出した。水槽において0.1%のサフラニン-O(Sigma S2255)を、2.5分間GAGの染色に適用し、その後、蒸留水で繰り返し洗浄した。脱水を、アルコール槽(95%および100%の濃度)、その後スライドがEukittレジン(Batch A1113, KiNDO1500)とアセンブリするまでXylol槽においてラックを10~20回勢いよく振とうすることにより達成した。
【0136】
多分化能の評価
単層に増殖したヒトMSC/ASC/軟骨細胞を、軟骨形成、脂肪生成、および骨原性の運命に分化して、それらの多分化能を評価した。骨原性の分化は、アリザリンレッドS(Merck, TMS-008-C)染色を使用して評価した。脂肪生成の分化は、オイルレッドO(Sigma, O1391)染色を使用して評価し、軟骨形成は、サフラニン-O(Sigma, S2255)/Fast Green染色(Sigma F7252)を使用して評価した。
【0137】
生体力学の測定
圧縮試験を、直径0.68mm~1.54mmの範囲の軟骨ビーズ上およびネイティブな軟骨において1Nのロードセルを備えたMTS criterion pull-push machine(model 42)で行った。圧縮速度は、0.01mm.s-1に設定し、最大荷重圧縮は、0.2Nで課され;プロービングした表面積を増大させるために試験あたり最大10個のビーズを使用した。元の保持システムは、試験中のビーズのスライドを回避し、等方性の圧縮を確保するように特注されていた。変位の関数としての圧縮力を、生のデータとして測定した。次に、応力-ひずみ曲線を計算して、正規化のためサンプルの表面積およびビーズの数で除算し、線形領域のデータセットの傾きを考慮した、軟骨のヤング率を推定した。ヤング率の計算は、後述のように行った。
E=σ/ε(式中、σは、圧縮応力(kPa)であり、Eは、ヤング率(kPa)であり、εは、正規化した伸長に対応するひずみ(単位なし)である)。
【0138】
イムノブロッティング
細胞を、ホスファターゼおよびプロテアーゼ阻害剤(Complete anti-protease cocktail;Roche)を補充した氷冷したRIPAバッファー(Life Technologies)において氷上で30分間溶解した。タンパク質(10μg)を、SDS-PAGE(BioRad)により分離し、PVDF膜(Amersham)に移した。ブロットを、抗ホスホ-β-カテニン(Cell Signaling;5651T)、TCF-4(Cell Signaling; 2569)、アキシン1(Cell Signaling;2087)、β-アクチンHRP(Sigma-Aldrich)、およびGADPH(Cell Signaling; 2118)(1:1000)、次にHRP-ウサギまたはマウスコンジュゲート抗体(1:5000)でプロービングした。
【0139】
フローサイトメトリー
100,000個の細胞を、4%のPFAで固定し、次に、FACsバッファー(BSA-Azide-PBS)においてRTで1時間CD73-CFS、CD90-APC、およびCD105-PerCP(Cell Sigma)に関して染色した。最小10,000個の生細胞を、Galliosフローサイトメーターを用いて獲得し、FlowJoソフトウェアを使用して分析を行った。結果は、CD73およびCD90の3回の独立した実験の平均を表す。CD105では、2回の独立した実験を行った。ゲート戦略のため、最初に生細胞を選択し、次に、単一の細胞を、FSC-WおよびFSC-Aに基づき同定して、ダブレットを除去した。正の染色は、CD73-CFS、CD90-APC、およびCD105-PerCPそれぞれの陰性対照IgG-CFS、IgG-APC、およびIgG-PerCPに基づき定義した。
【0140】
RNASeq
以前に記載されるように、SR100-ライブラリーTruSeqHT stranded-Illumina HiSeq 4000を使用し、シーケンシングのクオリティコントロールを、FastQC v.0.11.5(Cosset, E. et al. 2016. Biomaterials 107, 74-87)で行った。読み取りに沿ったクオリティの分布を、全てのサンプルで評価および検証した。UCSCヒトhg38参照物質を使用し、参照ゲノムに対してSTAR aligner v.2.5.3aで読み取りをマッピングした。平均マッピング比率は、93.54%であった。トランスクリプトームの測定基準を、Picard tools v.1.141で評価し、差次的な発現分析を、統計分析R/Bioconductor package edgeR v. 3.18.1(Gentleman, R. C. et al. 2004. Genome Biol 5, R80, Huber, W. et al. 2015. Nat Methods 12, 115-121)で行った。簡潔に述べると、カウントを、ライブラリーの大きさにより正規化し、フィルタリングした。少なくとも3つのサンプルにおいて1cpm(count per million)超の読み取りのカウントを有する遺伝子を、分析のため保存した。このセットの生の遺伝子の数は、26,485であった。不十分に発現するかまたは発現しなかった遺伝子は、除外した。最終的なデータセットは、13,884の遺伝子からなるものであった。差次的に発現した遺伝子の検定を、負の2項分布を使用する正確検定で行った。差次的に発現した遺伝子のp値は、5%のFDR(偽陽性率)を用いて多重検定誤差に関して補正した。使用した補正は、Benjamini-Hochberg(BH)であった。差次的に発現した遺伝子の検定は、負の2項分布を使用するedgeRで行った。差次的に発現した遺伝子のp値は、Benjamini-Hochberg(BH)偽陽性率(FDR)を使用して多重検定誤差に関して補正した。
【0141】
Panther分析を、遺伝子のそれぞれのファミリーにおけるエンリッチメント(実体の数)を決定するために使用した(Mi, H. et al. 2017. Nucleic Acids Res 45, D183-D189)。
【0142】
RNA抽出およびRT-PCR
総RNAの単離を、Qiagen製のRNeasy kitを製造社の指示により使用することにより行い、分光計を使用して測定した。500ngの総RNAを使用し、PrimeScript RT Reagent Kit(Takara)を製造社のプロトコルに従い使用してcDNAを合成した。
【0143】
リアルタイムPCRを、Genomic platform core facilities(University of Geneva)にて、QuantStudio 12K Flex Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific)を使用して、PowerUp SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems)で行った。最初に、有効性の試験を、事前の利用のバリデーションのため全てのプライマーで行った。各サンプルの相対的なレベルを、少なくとも2つのハウスキーピング遺伝子(ALAS1)に対して正規化した。RT-PCRの反応を、少なくとも技術的および生物学的な三連で行い、平均サイクルの閾値(CT)を決定した。
【0144】
安全性試験のためのSCID/NODマウスにおけるヒトCartibeadsの移植
56匹の雄性のSCID/NODマウスを使用して、本発明の標準化したCartibeadsの安全性を試験した。44匹のマウスに、ヒトCartibeadsを皮下移植により投与した。1つの対照グループを使用し、ここでは8匹の動物に、ビーズ(beads)と命名された凝集したA549腺癌細胞が投与された(グループあたりのマウスの数は、表3にまとめられている)。
【表3】
表3.SCIDマウスに移植したドナーCartibeadsのリスト。異なるドナーおよび細胞継代(3~6)由来のCartibeadsを、SCID/NODマウス(グループあたりn=8~14匹のマウス)に皮下注射した。腺癌細胞株A549が、陽性細胞として使用され、これは100%の腫瘍をもたらした。6カ月で動物を安楽死させた後、マウスは、Cartibeadの移植による体重の喪失、触診による異常、または苦痛の徴候を示さなかった。さらに、肺、心臓、肝臓、腎臓、および脾臓では、腫瘍の存在の異常またはエビデンスが観察されなかった。
【0145】
全ての移植されたヒトCartibeadsを、標準化した3ステップの方法により培養し、同じ方法で移植した。全身麻酔を、5%の酸素で遮蔽しながら4%のイソフルラン、次に2%のイソフルランを用いて達成した。背中を剪毛した後の皮膚を、70%のアルコールで局所殺菌する。後頭極から0.5cm尾側の皮膚の切開を行った。もたらされた組織(Cartibeadsおよび腺癌のビーズ)の200,000個の細胞を、それぞれ、無菌のピペットを用いて皮下移植した(1個のビーズ/動物)。次に、皮膚を、外科用の接着剤(Histoacryl, B. Braun Surgical S.A.)を用いて閉鎖した。皮膚でのサンプルの部位および向きを示すために、本発明者らは、無菌の26ゲージの針および緑色のタトゥー用のインクを用いて4つの主要点のタトゥーを行った。対照グループのマウスは、4~6週目で安楽死させ、Cartibeadsグループのマウスは、最大6カ月まで経過観察した。皮膚および臓器を回収し、各段階での2つの試験メンバーにより試験した。サンプルは全て4%のホルモルにおいて1/3を保存し、2/3を-20℃で乾燥させた。動物の手法は、Swiss Federal Veterinary Office(GE/12/18)により承認されていた。
【0146】
比較ゲノムハイブリダイゼーションアレイ
またゲノムの安定性を、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)を使用して、6日間、10%のFBSまたは10%のPRPを用いて処置した正常なヒトの皮膚の線維芽細胞(dermal fibroblat)を比較することにより決定した。DNAは、QIAGEN QIAamp DNA Mini Kit(Qiagen, Hilden)を製造社のプロトコルに従い使用して抽出した。アレイCGHは、全体のプローブ間距離中央値が43KbであるAgilent SurePrint G3 Human CGH Microarray kit 4_44K(design ID 014950)(Agilent Technologies)を使用して行った。実際の分解能は、約200kbであった。患者のDNAおよび性別が一致した対照のDNA(それぞれ1μg)を、それぞれCy3-dUTPおよびCy5-dUTPで標識した(Sure Tag labeling kit, Agilent Technologies)。標識した産物は、アミコンウルトラ30 Kフィルター(Millipore)により精製した。ハイブリダイゼーションは、Agilentが提供したプロトコルにしたがい行った。患者および対照のDNAを集め、2mgのヒトCot-I DNAと65℃で回転させながら24時間ハイブリダイゼーションを行った。アレイは、Agilent SureScanマイクロアレイスキャナおよびAgilent Feature Extractionソフトウェア(v11.5)を使用して分析し、結果は、Agilent Genomic Workbench(v.7.0)により提示された。
【0147】
有効性試験のためのミニブタの自家性Cartibeadsの移植
6匹の成年の雌性のミニブタ(37~48kg)を、この試験に使用した。これら動物を、セボフルランで麻酔をかけ、切開の30分前に防止用の抗生剤(セファゾリン:2g/kg)を静脈内に投与した。これらを、完全な昏睡下で手術し、皮膚閉鎖から5分後に抜管した。皮膚の殺菌を3回反復し、無菌の覆布を、廃棄可能な外科手術用の掛け布を用いて行った。
【0148】
ステップ1 外科手術
super-lateral para-patellar approachを、第1の外科手術で選択した。軟骨の回収は、後の第2の外科的なステップの間の軟骨病変と重複する可能性を防ぐため、外側滑車溝(lateral trochlear facette)の上外側の境界で行った。軟骨の生検は、さらなる処理のため培養培地E液の中に置いた。段階的な閉鎖を行った。包帯は適用しなかった。
【0149】
ステップ2 外科手術
軟骨回収から5~6週間後に、ミニブタに、medial para-patellar tendon approach(Bonadio, M. B. et al. 2017. J Exp Orthop 4, 11)を介して第2の外科手術を行った。この手法により、内側および外側の大腿骨の滑車溝上の2つの病変それぞれを、ドナー部位の度合いにより1つを除き全てのミニブタで作製した。病変の大きさは、直径6mmであり、小さい鋭匙により作製し、次に、4~5つのCartibeadsの単層により完全に充填した。より速い結合のため、Tisseel(Baxter)の薄層を各欠陥に添加した。次に、5番目の病変を、内側の大腿骨顆部で作製し、同一の方法でCartibeadsで充填した。各動物で、1つの病変を、陰性対照の病変として異なる位置で空のままにした。段階的な閉鎖を行った。包帯は適用しなかった。
【0150】
リハビリテーション
昏睡が終了するとすぐに、活動を全く制限することなく完全な体重負荷が可能であった。
【0151】
安楽死
3匹のミニブタを、第2の外科手術から3カ月後に安楽死させ、残りの3匹を6カ月目に安楽死させた。手術した膝を切断し、大腿骨遠位部を、さらなる分析のためホルミルアルデヒド溶液に置いた。
【0152】
動物の手法は、Swiss Federal Veterinary Office(GE/60/18)により承認されていた。
【0153】
結果
Cartibeadsの操作および性質決定
この試験では、本発明者らは、GAG含有量およびコラーゲンIIの発現により定義される、改善された硝子軟骨の特徴を有するCartibeadsと命名された軟骨のマイクロ組織を作製した。Cartibeads法は、(ステップ1)細胞の脱分化を特徴とする2次元の培養(2D)での軟骨細胞の増殖、次に(ステップ2)、軟骨形成のコミットメントとして定義される、2Dでの細胞の再分化、および最後に(ステップ3)軟骨細胞の凝集によるCartibeadsの形成を可能にする3次元の培養(3D)を行うことからなる、革新的な3ステップのプロトコル(図1A)である。よって、ヒト軟骨細胞を、外科的な廃棄物から酵素を用いて抽出し、ステップ1および2で大気の酸素条件(21%)において2Dで培養した後、低酸素レベル(5%)で3D培養を行った。
【0154】
軟骨細胞は、遺伝子発現において幹細胞の特徴を有する「線維芽細胞」となり、間葉系幹細胞表面マーカー(CD105、CD90、CD73)を発現する(図6)。3週間で、培地1(培地E)で培養した後、抽出された100000個の細胞から、6000万~1億個の細胞を得ることが可能である。
【0155】
第2のステップは、大量の細胞の増幅ステップの後に軟骨細胞の表現型への線維芽細胞の表現型の「復帰」に対応する。細胞を、再分化(培地2)に、3~7日間置く。0日目に、200万個の細胞を、T75cm2フラスコにコンフルエンスに達するまで置き、細胞を、4~8日目までコンフルエントに保った後、これらを3D培養のため脱離した。T75cm2フラスコから、600万から1000万個の細胞が、ステップ2で得られる。対して、脱分化培地における第1のステップでは、コンフルエンスに達する際に1200万~1600万個の細胞がT75で得られる。再分化培地(培地R)におけるFGF-2増殖因子の除去は、細胞の増殖を減少させ、軟骨細胞の完全な分化に向かう表現型の復帰および再分化を可能にする。細胞は、培養の第2のステップでそれらの形態を変え、伸長が少なく、より大きくなり、光学顕微鏡下で細胞質に明らかな顆粒状の小胞体を伴い、よって高レベルのタンパク質合成活性をシグナリングする。軟骨細胞は、GAGと結合したプロテオグリカンである、アグリカンを再発現し始める(データ RNAseq)。2D培養におけるこの第2のステップでは、コラーゲンIIは、まだ再発現されていない。
【0156】
第3のステップでは、細胞を、培地2(培地R)での培養から脱離し、3D培養に播種する。100000~200000個の細胞を、ポリプロピレンコニカル96ウェルプレートにおいて再分化培養培地(培地3、培地Iとも称される)に分散する。96ウェルプレートを、300gで5分間遠心分離させて細胞を凝集し、ペレットを形成する。96ウェルプレートは、ウェルの表面で細胞が固着するのを回避するために、ポリプロピレン物質で作製されている。培養物を、低酸素の雰囲気(5%のO2)でインキュベートして、マイクロ組織を使用する前に15日間硝子軟骨の産生を増大させた。
【0157】
軟骨細胞から操作したCartibeadsは、軟骨病変を処置するためのATMPとしての可能性を保持していた。よって、その安全性および有効性を評価するために、本発明者らは動物モデル(SCIDマウスおよびミニブタ)を使用した(図1B)。Cartibeadsを良好に特徴づけるために、組織学的な定性的分析を行った。サフラニン-Oで染色したGAGの均一な分布を伴う硝子質の特性の存在が示され、これはII型コラーゲンの強力な免疫検出と相関したが、I型コラーゲンはかすかであった(図1C)。
【0158】
本発明者らは、変形性関節症(OA)患者由来のものを含む、最大80歳のドナー由来の同様の質の軟骨組織(cartibeadsと称される)を操作することができた。Cartibeadsの定量的な分析は、高いGAG含有量を明らかにし、これは、患者の年齢および関節の骨関節炎の状態とは無関係であった(図1D、表2)。本発明者らは、平均40μgのGAG/cartibeadおよび平均50(10:140)のGAG/DNAを測定した(図2)。
【0159】
Cartibeadsの生体力学的な特性を特徴づけるために、本発明者らは、圧縮試験によりCartibeadsの弾性を定量化するために適応した特注の型を有する装置を使用した。ヤング率を、曲線の弾性部のひずみ(正規化した伸長)で圧縮応力を除算することにより計算した(Lee, J. K. et al. 2017, Nature Materials, 16:864-873)。この方法は、一般に、軟骨の弾性を試験するために使用され、その細胞外マトリックス(ECM)の組成を反映している。本発明者らは、より多くのGAGを含むCartibeadsでの制約に対する耐性の増大を観察し、これはGAGの量の増大の利点を示唆しており(図1E)、他の公開されている試験と一致している(Omelyanenko, N. P. et al. 2018, Cartilage, 1947603518798890)。
【0160】
HIF-1α(Hypoxia-Inducible Factor 1-alpha)は、ECMの構成要素を誘導することが知られているため(Madeira et al. 2015, Trends in Biotechnology, 33:35-42)、本発明者らは、大気条件と比較してCartibeadsの質に及ぼす3D培養の間の低酸素レベル(5%の酸素)の効果を評価した。予測されるように、これら結果は、低酸素条件において軟骨ビーズの硝子質の質の改善を示した(図3A~C)。注目すべきことに、大気条件での標準的な培養条件は、実際に、ネイティブな軟骨組織で記録される酸素のレベルが深度に応じて0.5~5%であるため、過酸素症に対応している(Lafont, J. E. 2010, Int. J. exp. Pathol. 91(2):99-106)。
【0161】
細胞療法では、移植される物質の細胞性成分の安定性が重要である。よって、本発明者らは、異なる条件および生細胞の比率におけるCartibeadsの安定性を評価した。本発明者らは、成熟ステップの終了後0日目のCartibeadsにおけるGAGの量を比較した。ここでCartibeadsは、さらに6日間、4℃および23℃に保存した(図4A)。これら結果は、GAGの濃度が、経時的および不感温度のバリエーションにおいて平均して55μg/cartibeadで変化しないままであることを示し、安定性を示した。これら条件において死細胞がわずかな数のみ検出され(13%)、Cartibeadsにおける軟骨細胞の良好な生存を示唆した(図4B)。
【0162】
3ステップのCartibead法のトランスクリプトーム分析は、硝子質マトリックスの質に関与する重要な経路としてWNT遺伝子の低レベルの発現を同定した。
硝子軟骨の産生の増大に関与する分子経路を同定する試みにおいて、3ステップのCartibead法を、組織の操作で従来より使用されている2ステップの方法と比較した(図5A)。形態の観点から、3ステップの方法は、2ステップの方法(直径0.5~1mm)より大きな白色に着色されたCartibeads(直径1~2mm)およびより多量のGAG/ビーズをもたらした(図2A~C)。3ステップの方法におけるCartibeadsの硝子質の質の改善は、主にFGF-2での大規模な細胞増殖の後のさらなるステップの導入によるものであった。このステップは、飢餓ステップに対応し、FGF-2を含まない培地「R」を使用し、これにより軟骨細胞の再分化および硝子質マトリックスの産生を容易にする。両方の方法において、最終的なステップは、TGF-β3の補足を含む成熟培地Iにおける2週間の3D培養を含む(consist in)(図5A)。
【0163】
Cartibeadの産生を可能にする分子機構を理解するために、本発明者らは、両方法のそれぞれの重要なステップで3つのドナーサンプルを使用してRNAシーケンシング(RNAseq)分析を行った。RNAを、3ステップのCartibead法の異なる時点:(i)ステップ1の終了時(増幅した軟骨細胞、培地E)、(ii)培地Rでのステップ2の終了時、および(iii)ステップ3での15日後(ビーズ、培地I)で、抽出した。2ステップの方法では、2つの時点を選択した:ステップ1(増幅した軟骨細胞、培地E)およびステップ2の終了時(ビーズ、培地I)。最初に本発明者らは、培地Iにおいて両方の方法により作製した軟骨のマイクロ組織を比較した(図5BおよびC)。
【0164】
本発明者らは、CartibeadsでのECMの組織化と共に、コラーゲンおよびECMの分解/形成に関与する遺伝子の有意に高いレベルを観察した(COL1A1、COL2A1、COL4A1、MMP1、MMP13、MMP11)。差次的な遺伝子発現解析は、3ステップの方法が、Cartibeadsにおいてより高いレベルのII型コラーゲン(COL2A1)およびアグリカン(ACAN)を誘導し、対して線維軟骨に特有のI型コラーゲン(COL1A1)は、2ステップの方法で高かったことを示した(図5C~F)。GAGのレベルの増大により、3ステップのCartibead法における軟骨の分化の改善が確認された(図5G図2A~C)。3ステップの方法(M1+M2+M3)では、SOX9(マトリックスの産生に関与する転写因子)もまた増大している(図7C)。
【0165】
これらデータは、COL1A1発現の検出を伴う培地E(FGF-2を含む)における軟骨細胞の脱分化ならびにCOL2A1およびACAN(GAG結合タンパク質)などの硝子軟骨マーカーの非存在を確認した(図5D~F)。本発明者らは、フローサイトメトリーにより培地Eに脱分化した細胞が多く含まれることを確認し、これはISCT(International Society for Cell Therapy)により定義および提案される、間葉系幹細胞マーカーCD73、CD90、およびCD105を発現する細胞の比率が増殖期の終了時に、細胞集団の合計の90%超であったことを表している(図6A、表4)。
【0166】
【表4】
表4:脱分化した軟骨細胞のフローサイトメトリー分析。表は、3名のドナー由来のCD73、CD90、およびCD105に関する脱分化した軟骨細胞のフローサイトメトリー分析を表す。
【0167】
さらに、この脱分化した軟骨細胞集団の多分化能の特徴を、この集団が、他の間葉系幹細胞(MSC)派生細胞(骨細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞)へと分化する特性を、この可能性がMSCと比較して依然として低くても有するという事実により確認した(図6B)。
【0168】
本発明者らは、培地R(再分化ステップ)から培地E(増殖ステップ)において培養した細胞の遺伝子発現を比較した際に、再分化の間に炎症プロセスに関与する遺伝子(インターフェロンのシグナリングと共にインターロイキンおよびサイトカインのシグナリング)のより高レベルの発現を見出した。並行して、本発明者らは、細胞周期に関与する遺伝子(MI67、CDK、CCNB1)の低レベルの発現を見出し、これは硝子質マトリックスの産生が、細胞の炎症と細胞周期の出口に関連する組織のリモデリングとの間で動的なバランスを必要とすることを表している(図7A)。
【0169】
増殖期を再分化期と比較することにより、本発明者らは、増殖期(ステップ1、培地E、両方の方法)の間に、WNT5A、WNT5B、およびWNT7Bの遺伝子の高い発現レベルを観察した(図7B、D~F)。これら遺伝子は、3D培養(ステップ3、培地I)での中間の発現を示したWNT5Bを除き、再分化ステップ(培地R、3ステップの方法)の間および3D培養(培地I、両方の方法)の間にて強力にダウンレギュレートされた(図7E)。
【0170】
また、KI67(増殖マーカー)およびTCF4(wnt/βカテニン経路の下流に関与)の発現が、再分化ステップの間に減少している(図7C)。最も重要なことに、脱分化期および再分化期(M1+M2)の後に、KI67およびWNT7B/WNT5Bは、成熟期(M3)でのスフィアの形成前に減少した。細胞が、脱分化期(M1)から直接スフェロイドを形成するために使用される場合、これらは、依然として、KI67およびWNT7B/WNT5Bを著しく発現し、硝子質マトリックスの産生は少なかった。
【0171】
これら結果は、FGF-2処置後のWNTのアップレギュレーションを報告した以前の試験(Buchtova, M. et al. 2015. Biochim Biophys Acta 1852, 839-850; Deng, Y. et al. 2019. Biomaterials 192, 569-578)と一致していた。実際に、WNTシグナリングは、幹細胞様の表現型(stem-like phenotype)に関与している(Buchtova, M. et al. 2015. Biochim Biophys Acta 1852, 839-850)。よって、培地RにおけるFGF-2の除去は、再分化期の間にWNTシグナリングのダウンレギュレーションをもたらした。本発明者らは、3ステップの方法と比較して2ステップの方法において低いレベルのCOL2A1およびACANの発現を検出した(図5C~E)。しかしながら、本発明者らは、培地Iにおける3D分化期の間、2ステップの方法において同等のWNT5A、WNT5B、およびWNT7Bの遺伝子の減少を観察した(図7B)。
【0172】
再分化期(培地R)の間のWNT経路のダウンレギュレーションの役割を検証するために(図1A)、本発明者らは、培地Rを、10μMのWNT経路の阻害剤であるXAV-939を補充した培地Eに、4日間置き換えた(図7G)。XAV-939での処置の後、本発明者らは、WNTシグナリング阻害の既知の指標である、ホスホ-β-カテニンおよびアキシンの増大を観察した(図7G)(Huang, S. M. et al. 2009. Nature 461, 614-620)。よって、培地Rと同様に、WNTの薬理学的な阻害は、2Dおよび3Dの培養の後、2ステップの方法においてACANおよびCOL2A1の発現の増大を誘導した(図7H、I)。結果として、WNTの薬理学的な阻害は、GAGのサフラニン-O染色により確認されるように、XAV-939の存在下で2ステップの方法にて得られたビーズの硝子質の特性の存在をもたらした(図7J)。
【0173】
まとめると、トランスクリプトーム分析は、この応答の潜在的な主要な介在物質として作用するWNT5A、WNT5B、およびWNT7Bと共に、軟骨細胞の脱分化および再分化におけるWNTシグナリング経路の関与およびその調節を同定した(図7D~F)。XAV-939を補充した培地Eは、培地Rの効果を模倣する(図7K)が、3ステップの方法は、費用のかかる薬理学的な分子を使用することなく7日間でWNT遺伝子のダウンレギュレーションを自然に誘導した。
【0174】
ヒト軟骨欠損におけるex vivoでの実現可能性の試験
Cartibeadsの臨床適応の観点から、本発明者らは、ex vivoでのヒトの膝関節において作製された病変内に共に融合し統合するCartibeadsの特性を評価した。病変は、8mmの外科的なパンチ生検で作製し、乾燥条件にて20~50個のCartibeadsを充填した。Cartibeadsをこの条件にて20分間そのままにし、病変部位および互いに対してCartibeadsの接着を促進させた後(図8A、左および中央のパネル)、培地Iを添加した。次に、Cartibeadsを充填したその病変を伴う検体全体を、回転させながら1カ月間培養して、栄養素の大量の移動を促進させた。移植から1カ月後に、本発明者らは骨軟骨組織を分析し(図8A、右のパネル)、充填した病変のレベルにてサフラニン-O染色を行った(図8B)。本発明者らは、病変の中での硝子質の特徴の維持およびいくらかのレベルのネイティブな周辺組織とCartibeadsの統合およびCartibeadsの互いの融合を観察した(図8B)。
【0175】
in vitroおよびin vivoでのCartibeadsの前臨床安全性試験
in vitroで増殖された細胞の移植は、潜在的な制御されていない増殖の問題を提起している。Cartibeadsの安全性を、前臨床試験を介して評価した。CGH(比較ゲノムハイブリダイゼーション:comparative genomic hybridization)アレイ解析は、最大11継代まで細胞増幅の間の軟骨細胞の遺伝子の安定性を示した(表5)。
【0176】
【表5】
表5:CGH-アレイにより分析したドナーCartibeadsのリスト。軟骨細胞の遺伝子の安定性を、3~11継代で培養した10個のドナーサンプルで比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)アレイ分析を行うことにより、FGF-2の存在下での培地Eの広範囲の増殖の後に評価した。
【0177】
以前の試験と一致して、Y染色体の喪失は、男性の通常の老化における一般的な後天的変異であり、高齢のドナーの一部(43%)で観察された(Thompson, D. J. et al. 2019. Nature 575, 652-657; Stumm, M. et al. 2012. Osteoarthritis and cartilage 20, 1039-1045)。
【0178】
in vivoでの試験において、本発明者らは、SCIDマウスに移植したヒトCartibeadsの潜在的な腫瘍形成作用を評価した。Cartibeadsは、増殖せず、SCIDマウスにおいて移植から6カ月後にはほとんど検出されず、これにより6カ月のフォローアップにわたり潜在的な腫瘍形成能の非存在が確認された(図9A~C、表5)。
【0179】
in vivoでの前臨床での有効性試験
臨床適応へ向けて動くために、本発明者らは、軟骨の成熟性およびヒトと類似する膝組織のため選択された成年のGottingenミニブタにおいて前臨床での有効性試験を行った(Christensen, B. B. et al. 2015. Journal of experimental orthopaedics 2, 13; Pfeifer, C. G. et al. 2017. Tissue engineering. Part C, Methods 23, 745-753)。6匹の雌性をこの試験に使用した。第1の外科手術を行い、膝から軟骨生検(約30mg)を回収して、自家性ミニブタCartibeadsを作製した。第2の外科手術を行い、動物/右膝あたり4~5つの病変を誘導し、自家性Cartibeadsを移植した。ミニブタを、3~6カ月間経過観察した(図10A図11)。移植前に、ミニブタCartibeadsにおけるGAGの量を定量化し、これは平均して40~50μg/ビーズの範囲であった(図10B)。移植から3カ月後に、本発明者らは、サフラニン-O染色によりミニブタCartibeadsをグラフトした病変の硝子質の特性を確認した(図10C)。同様の結果が、移植から6カ月後のグラフトした病変から得られた(図10D)。まとめられたCartibeadsの完全な融合ならびに周辺のネイティブな軟骨および軟骨下骨の中のそれらの統合が、3および6カ月のフォローアップ期間に全てのミニブタで観察された(図10C~D)。まとめると、自家性Cartibeadsは、硝子質の質を保ちつつ、病変の生着の観点からそれらの有効性を証明した。これらはまた、関節の変性も(図11、中央のパネル)異所的または肥大型の組織形成も2名の無関係な操作者による巨視的な検査で指摘されなかったため(データ不図示)、安全であることを証明した。
【0180】
論述および結論
本試験の主な成果は、増殖の間の軟骨細胞の表現型の喪失(軟骨細胞の脱分化)を反転できる方法である。これは、出発物質として軟骨細胞を使用する細胞療法が直面している重要な問題を解決する。本データは、新規の3ステップの方法が、患者の年齢および関節の関節炎の状態に関わらず、硝子質の特徴を伴う高品質の軟骨をもたらし得ることを示している。
【0181】
Cartibead法は、従来のヒト軟骨細胞ベースの細胞療法(Brittberg, M. 2008. Injury 39 Suppl 1, S40-49)における平均260mgとは対照的に、非常に小量の軟骨サンプルの回収(本発明者らの前臨床のミニブタでの試験では約30mg)からの細胞増殖を可能にし、ドナーの部位の病的状態を低減する。本方法は、硝子質が少なくより多くの線維軟骨を含んでいることが示唆されている以前に報告された軟骨のマイクロ組織(Bartz, C. et al. 2016. J Transl Med 14, 317)よりも20倍多いGAG/Cartibeadの比率を示した。これら結果と一致して、本発明者らは、他の公開されている方法(Mumme, M. et al. 2016. Lancet 388, 1985-1994 ; Dang, P. N., Solorio, L. D. & Alsberg, E. 2014. Tissue engineering. Part A 20, 3163-3175)よりも平均して少なくとも3倍高いGAG/DNAの比率を得た(図2B)。
【0182】
再分化は、FGF-2の除去によるものであった。しかしながら、3D培養におけるこの除去は、2ステップの方法で硝子質マトリックスの合成を誘導するには十分ではなかった。軟骨細胞の再分化は、十中八九、2D培養においてマトリックスでコーティングされたフラスコへの細胞接着および特有の細胞シグナリング経路の誘導を必要とする。FGF-2の飢餓は、WNTシグナリング経路のいくつかの遺伝子を含む、多分化能および幹細胞性に関与する遺伝子を停止させる。WNTシグナリングは、成年の前駆体細胞の軟骨形成の分化の阻害および刺激の両方に関与している(Day, T. F. et al. 2005. Developmental cell 8, 739-750; Hill, T. P., et al. 2005. Developmental cell 8, 727-738; Hu, H. et al. 2005. Development, 132, 49-60)。胚において示されるように、高いレベルのWNT/β-カテニンのシグナリングは、幹細胞の軟骨形成の分化を阻害し、この経路のダウンレギュレーションは、軟骨形成を誘導する(Hartmann, C. 2007. Molecules and cells 24, 177-184; Johnson, M. L. & Rajamannan, N. 2006. Reviews in endocrine & metabolic disorders 7, 41-49; Westendorf, J. J., Kahler, R. A. & Schroeder, T. M. 2004. Gene 341, 19-39)。
【0183】
本試験では、本発明者らは、この機構に関与する可能性の高いWNTアイソフォームとしてWNT5A、WNT5B、およびWNT7Bを同定した。WNT経路のダウンレギュレーションと並行して、本発明者らは、炎症性経路に関与する遺伝子の発現(インターロイキン、サイトカイン)の増大を観察した。創傷治癒および組織修復において、炎症促進性因子および抗炎症性因子の間の動的なバランスが、効果的な治癒に重要である(Gerhard T. Laschober et al. 2011. Rejuvenation Research 14, 119-131; Bosurgi, L. et al. 2017. Science 356, 1072-1076)。よって、本データは、炎症が、硝子質マトリックスの生合成に関連する組織再生の必要条件であることを示唆している(Karin, M. & Clevers, H.2016. Nature 529, 307-315)。
【0184】
ヒトCartibeadsは、SCIDマウスに移植した際に増殖せず、さらには6カ月後には消失した。これは、同様の試験(Zscharnack, M. et al. 2015. J Transl Med 13, 160)と一致している。さらに、ミニブタにおけるCartibeadsの自家移植は、移植から6カ月後に、安定した病変内への統合を示し、高レベルのGAGを維持し、軟骨損傷の修復を成功させた。まとめると、本発明者らは、大型動物モデルにおける高レベルのGAGを含むCartibeadの移植の実現可能性を示しており、この長期間の軟骨修復の可能性を支援している。結果として、Cartibeadsは、軟骨修復の分野でのブレイクスルーを表し、現在、軟骨損傷を有する患者における自家性軟骨移植に関するフェーズIの臨床試験(FIH:First-in-Human)に入ることができる。
図1A-B】
図1C-E】
図2
図3
図4
図5A-B】
図5C-G】
図6
図7A-B】
図7C
図7D-K】
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】