(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(54)【発明の名称】水安定性銅Paddlewheel型金属有機構造体(MOF)組成物及びMOFを用いる方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20221020BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20221020BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20221020BHJP
B01D 53/02 20060101ALI20221020BHJP
C07F 1/08 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
B01J20/22 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01D53/02
C07F1/08 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509607
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(85)【翻訳文提出日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 US2020046029
(87)【国際公開番号】W WO2021030503
(87)【国際公開日】2021-02-18
(32)【優先日】2019-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522057814
【氏名又は名称】ニューマット・テクノロジーズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ウェストン,ミッチェル・ヒュー
(72)【発明者】
【氏名】アルグエタ・ファハルド,エドウィン・アルフォンソ
(72)【発明者】
【氏名】シウ,ポール・ウェイ・マン
【テーマコード(参考)】
4D012
4G066
4H048
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012CA07
4D012CA10
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4D012CG01
4D012CG03
4D012CG04
4G066AA53A
4G066AB07A
4G066AB09D
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4G066CA27
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4G066CA31
4G066CA32
4G066CA33
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4G066CA46
4G066DA03
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4G066FA21
4G066FA34
4G066FA37
4H048AA01
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4H048AB90
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4H048BB14
4H048BB20
4H048BB31
4H048BC10
4H048VA20
4H048VA30
4H048VA56
4H048VB10
(57)【要約】
本発明は、水安定性であるCu-BTC MOFに関する。Cu-BTC MOFを、BTC配位子(1,3,5-ベンゼントリカルボン酸)の一部を5-アミノイソフタル酸(AIA)で置換することによって修飾した。別の選択肢として、Cuのオープン配位部位が、アセトニトリル(CH3CN)などの配位子によって部分的に占有される。配位子は、合成後修飾によって付与される。得られたMOFは、60℃の液体水に6時間曝露した後に、合成した時点のその表面積の少なくとも40%を維持する。これは、未修飾のCu-BTC MOFと比較して、予想外の結果である。このMOFは、ガス流中の、特に空気流中のアンモニアなどの汚染物質を除去するために用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅金属イオンと、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)及び5-アミノイソフタル酸(AIA)から選択される有機配位子の混合物との配位生成物を含む金属有機構造体(MOF)組成物であって、前記MOFは、60℃の液体水に6時間曝露した後に、合成した時点の表面積の少なくとも40%を維持することを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記MOFが、合成した時点で、少なくとも1500m
2/gのブルナウアー-エメット-テラー(BET)表面積を有することをさらに特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記MOFが、合成した時点で、少なくとも1700m
2/gのブルナウアー-エメット-テラー(BET)表面積を有することをさらに特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記MOFが、MOF1グラムあたり少なくとも0.25gの、650トル及び25℃で測定したアンモニアに対する重量取り込み容量を有することをさらに特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
BTC:AIAのモル比が、約99:1~約1:99である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
BTC:AIAの前記モル比が、1:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
BTC:AIAの前記モル比が、1:3である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
BTC:AIAの前記モル比が、3:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
60℃の液体水に6時間曝露した後に、表面積の少なくとも50%を維持する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記MOFが、少なくとも0.6cc/gの細孔体積を有することをさらに特徴とする、請求項1に記載のMOF。
【請求項11】
前記MOFが、ペレット、球、ディスク、モノリシック体、不規則形状粒子、押出し物、及びこれらの混合物から選択される造形体に成形されることをさらに特徴とする、請求項1に記載のMOF。
【請求項12】
前記MOFが、モノリス、球状支持体、セラミック発泡体、織布、不織布、膜、ポリマー、ペレット、押出し物、不規則形状粒子、及びこれらの混合物から選択される支持体上に堆積されることをさらに特徴とする、請求項1に記載のMOF。
【請求項13】
前記MOFの上に、亜鉛、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、ニオブ、レニウム、バナジウム、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、及びこれらの混合物から選択される少なくとも1つの触媒金属が分散されていることをさらに特徴とする、請求項1に記載のMOF。
【請求項14】
金属有機構造体(MOF)組成物を製造するための方法であって、
a)銅化合物を、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)及び溶媒と混合して、第一の混合物を得ること、
b)前記第一の混合物を、約60℃~約100℃の温度まで加熱すること、
c)5-アミノイソフタル酸(AIA)を添加し、得られた第二の混合物を、前記MOFを得るのに充分な時間にわたって反応させること、及び
d)粉末の形態の前記MOFを単離すること、
を含む、方法。
【請求項15】
前記AIAが、連続的に添加される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記AIAが、一回の投入で添加される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒が、ジメチルホルムアミド、エタノール、及び水の混合物である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒が、硝酸をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
ガス流を精製するための方法であって、
アンモニア、硫化水素、シアン化水素、塩化シアン、塩素、二酸化窒素、ヒドラジン、アルシン、ホスゲン、ホスフィン、及び三フッ化ホウ素から選択される少なくとも1つの汚染物質を含む前記ガス流を、金属有機構造体材料(MOF)であって、
a)銅金属イオンと、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)及び5-アミノイソフタル酸(AIA)から選択される有機配位子の混合物との配位生成物(Cu-BTC-AIA)、又は
b)銅金属イオンと1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)配位子との配位生成物であり、前記銅が、少なくとも部分的にアセトニトリル(CH
3CN)に占有されているオープン配位部位を有することを特徴とするMOF(CH
3CN-CuBTC)、
である、金属有機構造体(MOF)と接触させて、前記ガス流から少なくとも部分的に前記汚染物質を除去し、精製されたガス流を得ることを含む、方法。
【請求項20】
前記MOFが、Cu-BTC-AIAである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記MOFが、CH
3CN-CuBTCである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ガス流が、空気流であり、前記汚染物質が、アンモニアである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記ガス流中の前記アンモニアの少なくとも75%が除去される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記MOFが、モノリス、球状支持体、セラミック発泡体、織布、不織布、膜、ペレット、押出し物、不規則形状粒子、及びこれらの混合物から選択される支持体上に層として堆積されている、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記支持体が、織布又は不織布である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記MOFが、ペレット、球、ディスク、モノリシック体、不規則形状粒子、押出し物、及びこれらの混合物から選択される造形体に成形されている、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記造形体が、前記ガス流が通される層に備えられる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
銅金属イオンと1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)配位子との配位生成物を含む金属有機構造体(MOF)組成物であって、前記MOFは、前記銅が、少なくとも部分的にアセトニトリル(CH
3CN)によって占有されているオープン配位部位を有すること、及び前記MOFが、室温の液体水に6時間曝露した後に、合成した時点の表面積の少なくとも40%を維持すること、を特徴とする、組成物。
【請求項29】
前記MOFが、合成した時点で、少なくとも1200m
2/gのブルナウアー-エメット-テラー(BET)表面積を有することをさらに特徴とする、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記MOFが、MOF1グラムあたり少なくとも0.3gの、675トル及び25℃で測定したアンモニアに対する重量取り込み容量を有することをさらに特徴とする、請求項28に記載の組成物。
【請求項31】
前記MOFが、少なくとも0.5cc/gの細孔体積を有することをさらに特徴とする、請求項28に記載のMOF。
【請求項32】
前記MOFが、室温の液体水に6時間曝露した後に、合成した時点の表面積の少なくとも50%を維持する、請求項28に記載のMOF。
【請求項33】
前記MOFが、ペレット、球、ディスク、モノリシック体、不規則形状粒子、押出し物、及びこれらの混合物から選択される造形体に成形されることをさらに特徴とする、請求項28に記載のMOF。
【請求項34】
前記MOFが、モノリス、球状支持体、セラミック発泡体、織布、不織布、膜、ペレット、押出し物、不規則形状粒子、及びこれらの混合物から選択される支持体上に層として堆積されることをさらに特徴とする、請求項28に記載のMOF。
【請求項35】
前記MOFの上に、亜鉛、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、ニオブ、レニウム、バナジウム、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、及びこれらの混合物から選択される少なくとも1つの触媒金属が分散されていることをさらに特徴とする、請求項28に記載のMOF。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、ACC-NJによってCWMD Consortiumに与えられた契約番号W15QKN-18-9-1004の下、米国政府の支援によって行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、水安定性であり、アンモニアに対する高い容量を有する金属有機構造体(MOF)材料に関する。本発明はさらに、MOF材料の製造方法及び使用方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
様々なガス流の精製は、半導体製造などの様々な用途において重要である。加えて、様々な流れは、所望される流れの性能に影響を与え得る汚染物質を含有し得る。1つのそのような化合物は、アンモニアである。アンモニアは、天然ガス流中に存在し得るものであり、除去される必要がある。アンモニアはまた、ヒトに対して毒性でもあり、その入手し易さから、化学兵器として用いられ得るものである。したがって、様々なガス流からアンモニアを分離又は除去することができる材料が求められている。
【0004】
アンモニアを除去することができるとして識別されている化合物の1つのクラスは、金属有機構造体(MOF)材料である。MOFは、無機金属ノードが少なくとも二座の有機配位子によって一緒に連結された構成である、ガス貯蔵能を有する多孔質材料である。その物理的及び化学的特性を調節するために、金属及び有機リンカーの様々な組み合わせが可能である。
【0005】
HKUST-1(Hong Kong University of Science and Technology)は、Cu-BTC、Cu3(BTC)2、MOF-199とも称される銅ベースのMOFであり、この場合、Paddlewheel型Cuダイマーが、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)によって一緒に連結されて、3次元細孔構造が形成される。Cu-BTCは、配位的に飽和されていないCu部位のために、アンモニアなどの塩基性ガスの吸着において他のMOFよりも優れていることが示されている。しかし、Cu-BTCは、水安定性ではなく、その結晶構造の劣化又は崩壊と共に、その多孔度及びアンモニアの取り込み容量を失う。したがって、粉末形態のCu-BTCは、この用途のために使用可能な材料ではない。Cu-BTCの水安定性を高める試みが行われてきた。1つの報告によると(Jared B. DeCoste et. al., J. Chemical Science, 2016, 7, 2711)、Cu-BTCを混合マトリックス膜中に組み込むと、合成した時点のCu-BTCと比較して水安定性が著しく高まることが示されている。Cu-BTC/MMMの組み合わせは、水安定性を高めたものの、それを膜としてしか用いることができず、アクセス可能なMOFの有効質量が低下するという制限を有する。Cu-BTCを安定化させるために用いられる別の方法は、ペルフルオロアルカンプラズマ処理であるが、この処理は、Cu-BTCの表面積を減少させるものであり、特に大スケールでの実施が非常に困難である。ペルフルオロアルカンは、環境上の懸念事項でもある。したがって、良好なアンモニア容量を有する水安定性MOFが依然として求められている。
【発明の概要】
【0006】
出願者らは、BTC配位子の一部を5-アミノイソフタル酸(AIA)で置換することによって、Cu-BTCを、そのアンモニアに対する高い容量を維持した状態で水安定性とすることができることを見出した。出願者らはまた、Cu-BTC MOFを用い、それをCH3CN(アセトニトリル)で溶媒和し、続いて活性化することで、水安定性が大きく改善されたMOFが得られることも見出した。
【0007】
本発明の1つの実施形態は、金属有機構造体(MOF)組成物であって、銅金属イオンと、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)及び5-アミノイソフタル酸(AIA)から選択される有機配位子の混合物との配位生成物を含む、組成物である。生成したMOFは、本明細書においてCu-BTC-AIA MOFと称する。Cu-BTC-AIA MOFは、60℃の水に24時間曝露した後に、合成した時点のその表面積の少なくとも40%を維持することを特徴とする。Cu-BTC-AIA MOFはまた、アンモニア、硫化水素、シアン化水素、塩化シアン、塩素、二酸化窒素、ヒドラジン、アルシン、ホスゲン、ホスフィン、及び三フッ化ホウ素から選択される毒性ガスと反応する、又はそれらに対する収着親和性を有する。
【0008】
別の実施形態では、Cu-BTC/AIA MOFの合成した時点のブルナウアー-エメット-テラー(BET)表面積は、少なくとも1200、又は1300、又は1400、又は1500、又は1600、又は1700、又は1800m2/gである。
【0009】
さらなる実施形態では、MOF中のBTC:AIAのモル比は、約99:1~約1:99で変動する。
なお別の実施形態では、Cu-BTC-AIA MOFは、60℃の水に6時間曝露した後、その表面積の少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%を維持する。
【0010】
なお別の実施形態では、Cu-BTC-AIA MOFは、60℃の水に24時間曝露した後、その表面積の少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%を維持する。
【0011】
さらに別の実施形態では、CU-BTC-AIA MOFは、ペレット、球、ディスク、モノリシック体、不規則形状粒子、押出し物、及びこれらの混合物から選択される造形体に成形される。
【0012】
なお別の実施形態では、Cu-BTC-AIA MOFは、モノリス、球状支持体、セラミック発泡体、織布、不織布、膜、ペレット、押出し物、不規則形状粒子、及びこれらの混合物から選択される支持体上に層として堆積される。
【0013】
さらなる実施形態では、Cu-BTC-AIA MOFの上に、亜鉛、ニッケル、パラジウム、白金、銅、モリブデン、鉄、バナジウム、マンガン、及びロジウムから選択される少なくとも1つの触媒金属が分散されている。
【0014】
なお別の実施形態は、汚染物質を含むガス流を精製するための方法であり、この方法は、ガス流を、a)銅金属イオンと1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)及び5-アミノイソフタル酸(AIA)から選択される有機配位子の混合物との配位生成物であり、60℃の水に24時間曝露した後に、合成した時点のその表面積の少なくとも40%を維持することを特徴とする、Cu-BTC-AIA MOF、又はb)銅金属イオンと1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)配位子との配位生成物であり、銅が、少なくとも部分的にアセトニトリル(CH3CN)に占有されているオープン配位部位(open coordination sites)を有することを特徴とするMOF(CH3CN-CuBTC)、と接触させて、ガス流から少なくとも部分的に汚染物質を除去し、精製されたガス流を得ることを含む。
【0015】
別の実施形態は、汚染物質が、アンモニア、硫化水素、シアン化水素、塩化シアン、塩素、二酸化窒素、ヒドラジン、アルシン、ホスゲン、ホスフィン、三フッ化ホウ素、及びこれらの混合物から選択される実施形態である。
【0016】
具体的な実施形態は、汚染物質がアンモニアであり、ガス流が空気である実施形態である。
別の実施形態は、金属有機構造体(MOF)組成物を製造するための方法であって:
1)銅化合物を、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)及び溶媒と混合して、第一の混合物を得ること;
2)第一の混合物を、約25℃~約100℃の温度まで加熱すること;
3)5-アミノイソフタル酸(AIA)を添加し、得られた第二の混合物を、MOFを得るのに充分な時間にわたって反応させること;及び
4)粉末の形態のMOFを単離すること、
を含む。
【0017】
なおさらなる実施形態は、金属有機構造体(MOF)組成物であり、銅金属イオンと1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)配位子との配位生成物を含み、MOFは、銅が、少なくとも部分的にアルキル若しくは芳香族ニトリル、環状アミン、又はこれらの混合物によって占有されている、すなわち交換されているオープン配位部位を有することを特徴とする。アルキルニトリルの例は、アセトニトリル(CH3CN)である(本明細書において、CH3CN-Cu-BTCと称する)。環状アミンの例は、ピリジンである(本明細書において、以降、ピリジン-Cu-BTCと称する)。一般的に、アルキルニトリル、芳香族ニトリル、環状アミン、又はこれらの混合物で交換されたMOFは、室温の液体水に24時間曝露した後に、合成した時点の表面積のうちの高いパーセントを維持するその能力によって示されるように、水安定性であることを特徴とする。具体的には、CH3CN-Cu-BTCは、室温の液体水に24時間曝露した後に、合成した時点のその表面積の少なくとも40%を維持する。
【0018】
なお別の実施形態は、合成した時点で、少なくとも1200m2/gのブルナウアー-エメット-テラー(BET)表面積を有するCH3CN-Cu-BTC MOF材料である。
【0019】
さらなる実施形態は、675トル及び25℃で測定したアンモニアに対するMOF1gあたりの重量取り込み容量が、少なくとも0.2gのアンモニアである、CH3CN-Cu-BTC MOF材料である。
【0020】
なおさらなる実施形態は、細孔体積が少なくとも0.5cc/gであるCH3CN-Cu-BTC MOF材料である。
これらの及び他の目的並びに実施形態は、発明を実施するための形態からより明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0021】
アンモニアは、最も広く製造されている化学物質の1つであり、肥料の製造に用いられている。アンモニアはまた、ヒトに対して毒性でもあり、広く入手し易いことから、化学兵器として用いられ得るものである。このために、空気などの様々なガス流からアンモニアを効果的に除去することができる材料が求められてきた。金属有機構造体材料(MOF)は、高い表面積の微多孔質材料であり、構造内部の細孔に分子を吸着することができる。アンモニアに対する高い容量を有することが見出された1つのMOFは、Cu-BTC又はCu3(BTC)2としても知られるHKUNST-1であり、BTCはベンゼン1,3,5-トリカルボキシレートである。Cu-BTCは、銅ベースのMOFであり、Paddlewheel型Cuダイマーが、ベンゼン1,3,5-トリカルボキシレートによって一緒に連結されて、3次元細孔構造が形成されている。
【0022】
しかし、Cu-BTCは、水への感受性が極めて高いため、アンモニアの捕捉にはそれほど有用ではない。本出願者らは、Cu-BTCを、配位子の混合物を用いてMOFを合成することによって、又は銅原子を「キャップ」することによって、水安定性とすることができることを見出した。キャップするとは、ある分子を銅原子のオープン部位に対して配位結合させることを意味する。
【0023】
したがって、本発明の1つの態様は、BTCの一部を5-アミノイソフタル酸(AIA)で置き換えることである。BTCのAIAに対するモル比は、約1:99~約99:1、又は約10:90~約90:10、又は約30:70~約70:30、又は約40:60~約60:40の範囲内であってよい。具体的なBTC:AIAの比としては、約50:50(又は1:1)、25:75(又は1:3)、75:25(又は3:1)、20:40(又は1:2)、及び40:20(又は2:1)が挙げられる。
【0024】
Cu-BTC(HKUST-1)の合成は、S.S.Y. Chui et. al, Science, 1999, vol.283, 1148に報告された。この合成は、銅の塩(硝酸第二銅)とBTCとを、水エタノール混合物中、180℃で12時間、圧力下で反応させることを含む。1つの態様では、本発明者らによって開発された合成は、硝酸第二銅、塩化銅、酢酸銅、及び硫酸銅から選択される銅化合物を、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(BTC)及び5-アミノイソフタル酸(AIA)と混合することを含む。以下の記載では、例示的な銅化合物として硝酸銅が用いられるが、本発明は硝酸銅に限定されない。
【0025】
反応混合物中に存在するBTC及びAIAの量は、上記で示したモル比が得られる量である。溶媒は、水及びジメチルホルムアミド(DMF)を含んでよい。所望に応じて、溶媒は、エタノール及び/又は硝酸を追加で含有してもよい。水のDMFに対する体積比は、約99:1から、又は1:99から様々である。エタノールも存在する場合、水のエタノールに対する体積比は、約99:1~約1:99である。反応混合物は、いくつかの方法で調製されてよい。例えば、BTCをDMFに溶解してよく、その後硝酸銅及び水を添加し、続いて所望される温度まで加熱し、所望される温度が得られた時点で所望されるAIAを添加する。反応混合物を調製するための第二の方法では、BTCをエタノールに溶解し、その後硝酸銅と水及びDMFとを添加し、この混合物を所望される温度まで加熱し、続いてAIAを添加する。反応混合物を調製するための第三の方法では、BTCをDMF及び水と混合し、所望される温度まで加熱し、硝酸銅を、続いてAIAを添加する。反応混合物を調製するための第四の方法では、BTCをDMF及び水と混合し、所望される温度まで加熱し、硝酸銅及び硝酸を添加する。AIAは、すべて一度に添加されてよい、又は約5分間~約480分間の時間にわたって連続的に添加されてもよい。本出願者ら、設定した時間にわたってAIAを連続的に添加することによって、表面積の増加を例とするより良好な特性を有するMOFが得られることを見出した。反応混合物がどのようなm2/gに調製されるかにかかわらず、それは、約25℃~約120℃、又は約25℃~約100℃、又は約25℃~約75℃、又は約25℃~約50℃の温度まで加熱される。反応混合物は、約12~約48時間、又は約12~約24時間にわたって所望される温度で維持される。得られたMOFは、ろ過によって単離され、メタノールで洗浄され、次に約75℃~約150℃の温度で約8~約72時間にわたって真空乾燥される。
【0026】
本発明のCu-BTC-AIA MOFは、ブルナウアー-エメット-テラー(BET)表面積が少なくとも1200m2/g、又は少なくとも1300m2/g、又は少なくとも1400m2/g、又は少なくとも1500m2/g、又は少なくとも1600m2/g、又は少なくとも1700m2/g、又は少なくとも1800m2/gであることを特徴とする。より具体的には、MOFは、約1300m2/g~約2000m2/g、又は約1500m2/g~約1900m2/gの表面積を有する。MOFはまた、MOF1グラムあたり少なくとも0.20gの、650トル及び25℃で測定したアンモニアに対する重量取り込み容量も有する。より具体的には、アンモニア容量は、MOF1グラムあたり約0.20g~約0.45gのアンモニア、又はMOF1グラムあたり約0.20g~約0.40gのアンモニアで変動する。
【0027】
本発明のCu-BTC-AIA MOFは、青色矩形状結晶に結晶化することも特徴とする。
本発明のCu-BTC-AIAの重要な特徴は、水への曝露時に、非常に改善された安定性を有することである。例えば、Cu-BTC-AIA MOFは、60℃の水に24時間曝露された場合、その合成した時点の表面積の少なくとも40%、又はその合成した時点の表面積の少なくとも約50%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%を維持する。この水安定性試験は、ほとんどのMOFが合格できない極限的な試験である。実際、文献での報告によると、Cu-BTC MOFは、25℃で相対湿度90%の空気に曝露された場合、その多孔度及びアンモニア容量を大きく喪失し、アモルファスとなる。
【0028】
その表面積を維持すると共に、本発明のCu-BTC-AIAは、アンモニア取り込みに対するその容量も維持する。60℃の水へ24時間曝露した後、本発明のMOFは、そのアンモニア容量の少なくとも40%、又はそのアンモニア容量の少なくとも50%、又は少なくとも70%、又は少なくとも90%を維持する。
【0029】
Cu-BTC-AIAの別の特徴は、少なくとも0.45cc/g又は0.6cc/g又は0.7cc/gの細孔体積を有することである。60℃の水へ24時間曝露した後、細孔体積の少なくとも50%が維持される。
【0030】
本発明の別の態様は、合成後の修飾によって水安定性とされたCu-BTCである。この場合、Cu-BTCは、上記で引用したS.S.Y. Chui et. alに記載のものなどの本技術分野で公知の手段によって製造される。合成、単離、及び乾燥後、Cu-BTC MOFを、水よりも強く銅原子と結合するが、アンモニアよりは弱く結合する配位子と接触させる。これらの配位子としては、アルキルニトリル、芳香族ニトリル、環状アミン、及びこれらの混合物が挙げられる。具体例は、アセトニトリル(CH3CN)、ピリジン、及びこれらの混合物である。アセトニトリルは、特に有利であり、以降の例示的な配位子として用いられる。しかし、本発明がアセトニトリルに限定されないことは理解される。Cu-BTCは、MOFをアセトニトリル中に約5時間~約20時間の時間にわたって浸漬することによって、アセトニトリルと交換される。接触時間の後、MOF材料は、単離され、次に、真空下、約30℃~約70℃の温度で、30分間~150分間にわたって活性化される。活性化は、約40℃~約60℃の温度で、約60分間~約120分間にわたって、又は約45℃~約55℃の温度で、約80分間~約100分間にわたって、又は約50℃の温度で、約90分間にわたって行われてよい。このMOF(本明細書において以降、CH3CN-Cu-BTCと称する)は、水への曝露時に、非常に改善された安定性を有することを特徴とする。例えば、CH3CN-Cu-BTC MOFは、室温の水に6時間曝露された場合、その合成した時点の表面積の少なくとも40%、又はその合成した時点の表面積の少なくとも約50%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約90%を維持する。
【0031】
CH3CN-Cu-BTCはまた、Cu-BTCと同様の高いアンモニア容量も有する。容量は、MOF1グラムあたり少なくとも0.3グラムのアンモニアである。
本発明のMOF材料は、粉末形態で用いることができるが、MOF材料を、ペレット、球、ディスク、モノリシック体、不規則形状粒子、及び押出し物などの様々な造形体に成形することが有利である。これらの種類の形状を成形する方法は、本技術分野において周知である。MOF材料は、それ単独で、又はバインダーを用いることで、様々な形状に成形することができる。バインダーを選択する場合、所望される造形体に成形された後に表面積及びアンモニア容量が悪影響を受けないように、バインダーを選択することが重要である。バインダーとして用いられ得る材料としては、限定されないが、セルロース、シリカ、カーボン、アルミナ、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
成形プロセスは、通常、MOF材料を溶媒と、又はバインダー及び溶媒と混合することによって高粘度のペースト状材料を調製することを含む。ペースト状材料が形成されると、それを約1~2mmの穴を有するダイを通して押出して、6~10mmを例とする様々な長さの押出し物を成形してよい。ペーストを又は粉末自体を高圧でプレスして、ペレット又はピルを成形してもよい。形状を成形する他の手段としては、加圧成形、金属成形、ペレット化、造粒、押出し、圧延法、及び球形造粒(marumerizing)が挙げられる。
【0033】
本発明の別の態様は、造形MOF体上に触媒金属を堆積させることを含む。触媒金属は、亜鉛、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、ニオブ、レニウム、バナジウム、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、及びこれらの混合物から選択され得る。造形MOF支持体上への触媒金属の堆積は、所望される金属の化合物を含有する溶液を用い、それで造形MOF体を含浸し、続いて乾燥し、所望に応じて焼成及び/又は還元などの処理を行うことを通常は含む従来の手段によって行われる。
【0034】
本発明のなお別の態様では、MOF材料は、モノリス、球状支持体、セラミック発泡体、織布、不織布、膜、ペレット、押出し物、不規則形状粒子、及びこれらの混合物などであるがこれらに限定されない物品上に堆積され得る。所望される物品が、モノリス、球状支持体、セラミック発泡体、ペレット、押出し物、不規則形状粒子である場合、MOF材料のスラリーが調製され、浸漬、噴霧乾燥などの手段によって物品上に堆積され、続いて乾燥、及び所望に応じて焼成が行われる。膜の場合、膜上にMOF材料を直接形成することが可能である。本発明のMOF材料は、電界紡糸、直接結晶成長、及び交互吸着積層などの技術によって、布(織布及び不織布)又はポリマーの上に堆積又は分散することができる。
【0035】
本発明のMOF材料は、アンモニアを含有するガス流、特に空気流の精製などの多くの用途を有する。プロセスは、MOF材料を、ガス流が通される容器中に配置することを含み、それによって、ガス流からアンモニアが実質的に除去される。精製装置の1つの特定のタイプは、ガスマスクであり、この場合、本発明のMOF材料は、マスクの一部であるカートリッジ内に配置され、それを通して空気が流される。マスク内のMOFは、アンモニアを吸着して、アンモニアが透過してくるようになるまでの時間にわたってマスク装着者が呼吸することを可能とすることができる。そのような装置は、その全内容が参照により本明細書に援用される米国特許第10272279号に記載されている。
【0036】
実施例
例1~例5
様々な量のAIAをCu-BTC MOFに組み込んで、一連の実験を行った。各実験で用いたパラメータを表1に提示する。全体としての手順は、BTCをエタノール(DMFを用いなかった場合)又はDMF(DMFと水のみを用いた場合、又はDMFとエタノールを用いた場合)に溶解することを含んでいた。BTCを溶解した後、硝酸銅及び残りの溶媒、例えば水又は水とエタノール、を添加し、この反応混合物を所望される温度まで加熱し、その時点でAIAを添加し、この最終反応混合物を所望される時間にわたって反応させた。硝酸を添加した場合は、AIAと同時に添加した。次に、得られたMOF粉末を、ろ過によって単離し、メタノールで洗浄し、続いて150℃で12時間乾燥した。
【0037】
【0038】
上記の例からのサンプルを、真空下150℃で12時間にわたって活性化し、その表面積、細孔体積、及びアンモニア取り込みを、水処理の前後で調べた。水処理は、各MOFの活性化したサンプルをバイアルの水に入れ、続いてバイアルを60℃で24時間加熱することによって行った。表面積(BET)、細孔体積、及びアンモニア取り込み(675トル及び25℃)。結果を表2に提示する。
【0039】
【0040】
例6
Cu-BTCを、BTCと硝酸銅とのソルボサーマル反応によって調製した。得られたCu-BTCをメタノールで洗浄し、次にアセトニトリル中に18時間浸漬した。この時間の間に、アセトニトリルを、新しいアセトニトリルに2回交換した。CH3CN-Cu-BTCを単離し、生成物の一部分を、真空下50℃で90分間にわたって活性化した。この活性化したCH3CN-Cu-BTCの一部分を、水に1日浸漬し、Cu-BTCのサンプルと比較した。CH3CN-Cu-BTCサンプルは、光学顕微鏡によって判断した場合、その結晶外観を維持していたが、Cu-BTCサンプルは、ほぼアモルファスである材料の存在を示した。
【国際調査報告】