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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(54)【発明の名称】鉱物同定のためのラマン分光法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
G01N21/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022510115
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(85)【翻訳文提出日】2022-04-13
(86)【国際出願番号】 US2020043691
(87)【国際公開番号】W WO2021034456
(87)【国際公開日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】16/542,900
(32)【優先日】2019-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522060629
【氏名又は名称】バーソロミュー、ポール
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(72)【発明者】
【氏名】バーソロミュー、ポール
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043CA05
2G043DA06
2G043EA01
2G043EA03
2G043FA06
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA05
2G043JA04
2G043KA01
2G043KA05
2G043KA09
2G043LA03
2G043MA01
2G043MA04
2G043NA01
2G043NA13
(57)【要約】
鉱物および他の物質を同定する方法であって、該方法は、照射持続時間だけ単色光で鉱物を照射し、ラマン分光計検出器を用いて散乱光を収集し、集約または平均ラマンスペクトルデータが決定される。真のラマンスペクトルデータは、ブランクスペクトルを差し引くことによって決定される。鉱物または材料を同定するために、真のラマンスペクトルデータは参照スペクトルと比較される。(a)1つまたは複数の同定された鉱物の名称および/または化学組成;(b)真のラマンスペクトルデータ;並びに(c)1つまたは複数の参照スペクトル;のうちの1つ以上の表示または出力が提供される。好ましくは、単色光が約400nmから約425nmの範囲内の波長を有し、ラマン分光計検出器は約100cm-1から約1400cm-1のラマンシフト範囲を検出するように適合される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物のラマンスペクトルを決定する方法であって、
試料が入っていない試料ホルダー領域を、ある波長を有する単色光でブランク照射持続時間だけ照射するステップと;
少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記ブランク照射持続時間に起因するブランク散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記ブランク散乱光に対応するブランクスペクトルデータを決定するステップと;
試料が入っていない前記試料ホルダー領域を、前記ブランク照射持続時間だけ照射するために使用された前記単色光の前記波長と同一の波長を有する単色光で一番目の照射持続時間だけ前記試料ホルダー領域内の鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記一番目の照射持続時間に起因する一番目の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目の散乱光に対応する一番目のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目のラマンスペクトルデータと前記ブランクスペクトルデータとの間の差により決定された真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
を含む、方法。
【請求項2】
試料が入っていない前記試料ホルダー領域を前記ブランク照射持続時間だけ照射するために使用された前記単色光の前記波長と同一の波長を有する単色光で二番目以上の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記二番目の照射持続時間に起因する二番目以上の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記二番目以上の散乱光に対応する二番目以上のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目の散乱光および前記二番目以上の散乱光に対応する集約されたラマンスペクトルデータを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記集約されたラマンスペクトルデータと前記ブランクスペクトルデータとの差により決定された前記真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一番目のスペクトルデータまたは前記二番目以上のスペクトルデータが前記散乱光を受信するために使用された検出器の飽和を示す場合は、
単色光で三番目の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記三番目の照射持続時間に起因する三番目の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての照射持続時間に対して前記収集された散乱光から集約されたラマンスペクトルデータを決定するが、前記集約されたラマンスペクトルデータの前記決定から、検出器の飽和を示す前記スペクトルデータを除外するステップと;
をさらに含み、
前記鉱物試料を照射するステップにおいて、前記三番目の照射持続時間の時間期間は、前記一番目または前記二番目の照射持続時間よりも少ない、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記一番目のスペクトルデータまたは前記二番目以上のスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示さない場合は、
単色光で四番目の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記四番目の照射持続時間に起因する四番目の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての照射持続時間に対して前記収集された散乱光から前記集約されたラマンスペクトルデータを決定するステップと;
をさらに含み、
前記鉱物試料を照射するステップにおいて、前記四番目の照射持続時間の時間期間は、前記一番目の照射持続時間または前記二番目以上の照射持続時間よりも大きい、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行するステップはさらに、
前記集約されたラマンスペクトルデータの信号対ノイズ比を決定することと;
前記信号対ノイズ比を信号対ノイズ比の最小と比較することと;
前記信号対ノイズ比が前記信号対ノイズ比の最小を下回る場合には、前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記五番目以上の照射持続時間に起因する五番目以上の散乱光を収集することと;
前記集約されたラマンスペクトルデータを決定し、前記集約されたラマンスペクトルデータの前記信号対ノイズ比が前記信号対ノイズ比の最小と等しいかそれ以上になるまで、前記集約されたラマンスペクトルデータの前記信号対ノイズ比を決定することと;
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記単色光が約400nmから約425nmの範囲内の波長を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器は、約100cm-1から約1400cm-1のラマンシフト範囲を検出するように適合される、
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
鉱物のラマンスペクトルを決定する方法であって、
初期露光時間、信号対ノイズ比の目標値、および最大露光時間を受信するステップと;
前記最大露光時間と等しいブランク照射持続時間だけ、試料が入っていない試料ホルダー領域を、ある波長を有する単色光で照射するステップと;
少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記ブランク照射持続時間に起因するブランク散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての分光計強度を前記露光持続時間で除して前記ブランク散乱光に対応するブランクスペクトルデータを決定してすべての強度を毎秒計数として記録するステップと;
前記ブランクスペクトルデータをメモリ内に格納するステップと;
前記ブランク照射持続時間だけ試料が入っていない前記試料ホルダー領域を照射するために使用された前記単色光の波長と同一の波長を有する単色光で、前記初期露光時間と等しい一番目の照射持続時間だけ、前記試料ホルダー領域内の鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて、前記一番目の照射持続時間に起因する一番目の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての分光計強度を前記露光持続時間で除して前記一番目の散乱光に対応する一番目のラマンスペクトルデータを決定しすべての強度を毎秒計数として記録するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記格納されたブランクスペクトルを差し引くことにより前記ブランクスペクトルデータにより調整された前記一番目のスペクトルデータを用いて真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
を含む、方法。
【請求項9】
前記ブランク照射持続時間だけ試料が入っていない前記試料ホルダー領域を照射するために使用された前記単色光の波長と同一の波長を有する単色光で、二番目以上の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記二番目の照射持続時間に起因する二番目以上の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての分光計強度を秒単位ごとの計数において記録しながら、前記二番目以上の散乱光に対応する二番目以上のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目の、前記二番目の、および任意の付加的な照射持続時間に対する前記記録された強度の平均を計算することにより、前記鉱物試料の平均ラマンスペクトルを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記格納されたブランクスペクトルを差し引くことにより前記ブランクスペクトルデータにより調整された、前記一番目のスペクトルデータと前記二番目以上のスペクトルデータとの平均を使用して真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記一番目のスペクトルデータまたは前記二番目以上のスペクトルデータが前記散乱光を受信するために使用された検出器の飽和を示す場合は、
単色光で三番目の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記三番目の照射持続時間に起因する三番目の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記三番目の散乱光に対応する前記三番目のラマンスペクトルデータを決定しすべての分光計強度を秒単位ごとの計数において記録するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目、前記二番目の、および任意の付加的な照射持続時間に対する前記記録された強度の平均を計算するが、前記平均ラマンスペクトルデータの決定から、検出器の飽和を示すスペクトルデータを除外することにより、前記鉱物試料の前記平均ラマンスペクトルを決定するステップと;
をさらに含み、
前記鉱物試料を照射するステップにおいて、前記三番目の照射持続時間が前記一番目の照射持続時間かまたは前記二番目の照射持続時間よりも小さい、
請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記信号対ノイズ比の目標値が条件を満たさず、前記一番目のスペクトルデータまたは二番目以上のスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示さない場合は、
単色光で四番目の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記付加的な照射持続時間に起因する付加的な散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記付加的な散乱光に対応する前記付加的なラマンスペクトルを決定しすべての光学計強度を秒単位ごとの計数において記録するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目の、前記二番目の、および任意の照射持続時間に対する前記記録された強度の平均を計算することにより、前記鉱物試料の前記平均ラマンスペクトルを決定するステップと;
をさらに含み、
前記鉱物試料を照射するステップにおいて、前記四番目の照射持続時間は前記一番目の照射持続時間または前記二番目以上の照射持続時間よりも大きい、
請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
前記一番目のスペクトルデータおよび前記二番目以上のスペクトルデータの平均の信号対ノイズ比を決定するステップと;
前記信号対ノイズ比を前記信号対ノイズ比の目標値とを比較するステップと;
前記信号対ノイズ比が前記信号対ノイズ比の目標値を下回る場合は、前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて、前記五番目以上の照射持続時間に起因する五番目以上の散乱光を収集するステップと;
秒単位ごとの計数においてすべての光学計強度を記録するステップと;
前記平均ラマンスペクトルデータを決定することと、前記平均ラマンスペクトルデータの前記信号対ノイズ比が前記信号対ノイズ比の目標値に等しいかまたは大きくなるまで、前記平均ラマンスペクトルデータの前記信号対ノイズ比を決定するステップと;
をさらに含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項13】
試料が入っていない前記試料ホルダー領域を前記ブランク照射持続時間だけ照射するために使用された前記単色光の波長と同一の波長を有する単色光で、別の照射持続時間だけ、前記試料ホルダー領域内の別の鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて、前記別の照射持続時間に起因する別の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記別の散乱光に対応する別のスペクトルデータを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記格納されたブランクスペクトルを差し引くことにより前記ブランクスペクトルデータにより調整された前記別のスペクトルデータを用いて、真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記単色光が約400nmから約425nmの範囲内の波長を有する、
請求項8~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器は、約100cm-1から約1400cm-1のラマンシフト範囲を検出するように適合される、
請求項8~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
鉱物のラマンスペクトルから鉱物を同定するための方法であって、
未知の鉱物のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
以下のステップを介して、前記ラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較するステップと;を含み、
ここで、以下のステップは、
一致ピーク項と欠損ピークペナルティ項との両方を含む式を用いて、前記未知の鉱物のラマンスペクトルデータと比較した各参照スペクトルに対する同定スコアを算出するステップと;
前記計算された同定スコアを降順にソーティングするステップと;
ユーザにより目視観察(view)するために、前記ソーティングされた同定スコアを出力するステップと;
である方法。
【請求項17】
前記未知の鉱物のラマンスペクトルは、連続バックグラウンドが事前に除去されてその最も強度の高いピークに対して強度正規化された真のラマンスペクトルである、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記同定スコアは、次式を用いて決定され、
【数1】
ここで、
【数2】
は前記一致ピーク項であり、
【数3】
は前記欠損ピークペナルティ項であり、aiおよびbiはそれぞれ、ラマンシフトのi番目の値での前記未知のスペクトルデータおよび前記参照スペクトルの強度で、VとUはユーザが選択可能なパラメータである、
請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
鉱物のラマンスペクトルから鉱物を同定する方法であって、
未知の鉱物のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
前記ラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較して前記ラマンスペクトルデータが前記1つ以上の参照スペクトルに対応するかどうかを決定するステップと;を含み、
ここで、前記1つ以上の参照スペクトルは、既知の鉱物のラマンスペクトルの数学的なモデルにより決定されたノイズなしの参照スペクトルデータである、
方法。
【請求項20】
材料のラマンスペクトルから材料を同定するための方法であって、
未知の材料の真のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
以下のステップを介して、前記真のラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較するステップと;を含み、
ここで、以下のステップは、
一致ピーク項と欠損ピークペナルティ項との両方を含む式を用いて、前記未知の材料の真のラマンスペクトルデータと比較した各参照スペクトルに対する同定スコアを算出するステップと;
前記計算された同定スコアを降順にソーティングするステップと;
ユーザにより目視観察(view)するために、前記ソーティングされた同定スコアを出力するステップと;
である方法。
【請求項21】
前記未知の材料のラマンスペクトルは、連続バックグラウンドが事前に除去されてその最も強度の高いピークに対して強度正規化された真のラマンスペクトルである、
請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記同定スコアは、次式を用いて決定され、
【数4】
ここで、
【数5】
は前記一致ピーク項であり、
【数6】
は前記欠損ピークペナルティ項であり、aiおよびbiはそれぞれ、ラマンシフトのi番目の値での前記未知のスペクトルデータおよび前記参照スペクトルの強度で、VとUはユーザが選択可能なパラメータである、
請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
材料のラマンスペクトルから材料を同定する方法であって、
未知の材料のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
前記ラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較して前記ラマンスペクトルデータが前記1つ以上の参照スペクトルに対応するかどうかを決定するステップと;を含み、
ここで、前記1つ以上の参照スペクトルは、既知の材料のラマンスペクトルの数学的なモデルにより決定されたノイズなしの参照スペクトルデータである、
方法。
【請求項24】
少なくとも1つのプロセッサによりアクセス可能なコンピュータ可読媒体であって、該媒体は、前記少なくとも1つのプロセッサにより実行可能なソフトウェア命令を含み、該ソフトウェア命令は、
未知の材料の真のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
以下のステップを介して、前記真のラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較するステップと;を実行させ、
ここで、以下のステップは、
一致ピーク項と欠損ピークペナルティ項との両方を含む式を用いて、前記未知の材料の真のラマンスペクトルデータと比較した各参照スペクトルに対する同定スコアを算出するステップと;
前記計算された同定スコアを降順にソーティングするステップと;
ユーザにより目視観察(view)するために、前記ソーティングされた同定スコアを出力するステップと;
であるコンピュータ可読媒体。
【請求項25】
前記未知の材料のラマンスペクトルは、連続バックグラウンドが事前に除去されてその最も強度の高いピークに対して強度正規化された真のラマンスペクトルである、
請求項24に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項26】
前記同定スコアは、次式を用いて決定され、
【数7】
ここで、
【数8】
は前記一致ピーク項であり、
【数9】
は前記欠損ピークペナルティ項であり、aiおよびbiはそれぞれ、ラマンシフトのi番目の値での前記未知のスペクトルデータおよび前記参照スペクトルの強度で、VとUはユーザが選択可能なパラメータである、
請求項24または25に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項27】
少なくとも1つのプロセッサによりアクセス可能なコンピュータ可読媒体であって、該媒体は、前記少なくとも1つのプロセッサにより実行可能なソフトウェア命令を含み、該ソフトウェア命令は、
未知の材料のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
前記ラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較して前記ラマンスペクトルデータが前記1つ以上の参照スペクトルに対応するかどうかを決定するステップと;を実行させ、
ここで、前記1つ以上の参照スペクトルは、既知の材料のラマンスペクトルの数学的なモデルにより決定されたノイズなしの参照スペクトルデータである、
コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン分光法の分野に関するものであり、より詳細には、未知の鉱物を同定するための装置およびソフトウェアに関するものである。本発明は、鉱物同定のために最適化されるように設計されているが、いくつかの成分は、同様にラマン分光法の他の多くの用途にも有利であると予想される。
【背景技術】
【0002】
鉱物同定は、鉱物学、岩石学、地球化学、地質年代学、石油探査、鉱物選鉱、建材、環境衛生、医療鉱物学、法医鉱物学、惑星地質学などの分野における研究調査(現場および実験)、産業調査及び規制調査を含むほとんどの地球科学調査に不可欠である。これらの産業および応用のすべてのニーズを満たすには、信頼性が高く、正確で、広範囲の物理的要件(試料サイズ、試料フォーマット、試料位置)を扱うことが可能であり、多種多様な訓練を受けているユーザがアクセス可能であり、理想的には、良心的な価格の分析技術を必要とする。
【0003】
日常的な鉱物同定(“RMI”)は、各分析のための試料および/または機器の調整が低レベルで、比較的迅速な結果が得られ、高レベルの信頼性(正確な結果の再現性および可能性)を有する鉱物試料の同定を提供する分析処理(プロセス)として定義される。しかしながら、分析処理が非常に高価であり、多量の物理的空間および/または物理的サポートを必要とし、高レベルの保守および較正を必要とし、および/または操作するために高レベルの教育および訓練を必要とする場合、それもまた非実用的であり、分析結果を日常的に必要とする個々/施設に広く配備することはできないかもしくは高い割合で容易に利用することができない。そのような実用的RMI(“PRMI”)は、中程度から低量のユーザ訓練、費用、空間(スペース)、および保守を必要とするRMIシステムとして定義される。
【0004】
十分な訓練および経験を有する個々は少数の手道具で多くの鉱物を同定できるかもしれない一方で、日常的な鉱物同定のより分析的で自動化された手段が広く必要とされている。従来採用されている次のレベルの技術は偏光顕微鏡であるが、これはかなりの試料調整を必要とし、かなりの訓練および経験を必要とし続ける。20世紀の中頃から、RMIのために採用された主要な技術ツールは粉末X線回折(“PXRD”)であった。現代的な改良により、PXRDの機器およびコンピュータの物理的サイズおよび費用が減少し、分析処理のかなりの自動化が提供されているが、その応用には、一般的には鉱物試料の抽出および粉末化を必要とする。このタイプおよび試料調整量は、PXRDが各分析前に試料調製遅延を必要とし、そのままの状態(in situ)(抽出なし)で小鉱物粒または鉱物粒に適用することは極めて困難である、ことを意味する。さらに、PXRDのために成し遂げられた機器サイズの減少にもかかわらず、現場調査環境内にPXRDを採用しようとする試みを続けることは実用的ではない。
【0005】
PXRDとは対照的に、ラマン分光法は、全くかほとんど試料調整なしでそのままの状態で、ミクロンレベルまでの物理的スケールで用いることができる。また、ラマン機器は、典型的には、比較的少ないスペースしか必要とせず、現場での携帯型ユニットおよびハンドヘルド型ユニットの両方が利用可能である。しかしながら、鉱物(および人工結晶固形物)への応用のためのラマン技術の最適化が一般的に欠けているため、RMIに対するラマン技術の広範な採用が妨げられている。
【0006】
ラマン効果は、物質によって散乱される光の波長において変化(シフト)を生じさせる。このシフトは、光が分子振動の量子化されたエネルギーレベルと相互作用した結果である。例えば、この波長シフトの大きさやラマン散乱の強度は、原子の質量、隣接する原子間の結合力の性質、隣接する結合間の幾何学的(対称性)関係に直接的に関係する。言い換えれば、ラマン分光法におけるピークのスペクトル位置および強度は、対象物質の構造と化学的性質から生じる。しかしながら、他の多くの分光技術とは異なり、原子/分子からの応答は特定の固有波長においてではなく、むしろ一般的にはレーザである励起源の波長からの特定のシフト(スペクトル距離)においてである。結果として、異なる波長で励起レーザを使用するラマン機器は、同一の物質から同一のパターンのラマンシフトを生成するであろう。
【0007】
光と物質との相互作用のいくつかの付加的な側面は、ラマンシステムから信頼できる結果を得ようとするときに重要になる。(1)ラマン効果は実際には非常に低い確率の相互作用である-入射光の多くは(波長において変化することなしに)弾性的に散乱される。(2)特定の標的物質からのラマンシフトのパターンは励起レーザの波長とは無関係であるが、ラマンピークの強度は励起レーザの波長とは無関係ではない。その可能性ひいてはラマン散乱の強度は、励起源の波長が減少するにつれて着実に増加する。(3)入射光のエネルギーの一部は吸収され、熱エネルギーに変換される。任意の特定の標的物質により吸収される量、その熱伝導性、および熱安定性に基づいて、標的物質が修飾(改変)されるかもしくはラマンレーザにより破壊すらされるかもしれない。(4)最後に、少なくとも多くの物質については、吸収された光エネルギーのいくつかは、より長い波長光として再度放出される-蛍光または光(フォト)ルミネッセンスと呼ばれる効果-。標的物質がラマンレーザに蛍光の光で応答するとき、その強度はラマン散乱光より強くなる傾向があり、しばしば桁違いに強くなる。しかしながら、ラマン効果とは異なり、蛍光の強度は、仮にそれが起こっていた場合でも、励起光源の波長に実に依存する。
【0008】
ラマン分光計システムの基本的な構成要素は以下の通りである。すなわち、(1)励起光源としてのレーザ。その理由は、波長シフトを測定する必要性およびラマン効果の低可能性により高強度の単色性の励起源を必要とするからである。(2)レーザビームを試料上に焦点を合わせるための光学的構成要素。(3)試料から散乱/放出された光を分光計に向けるための光学的構成要素。(4)試料と分光器との間に位置付けされた長パスフィルタもしくはノッチフィルタ。これにより、入射波長で弾性散乱光から波長シフトされた光を分離する。(5)回折格子およびソリッドステートアレイ検出器を典型的には用いる分光計。
【0009】
キュベット内の液体のように空間的特異性のない標準化された試料ホルダーのために、機械的な試料の位置決めは十分である。空間的に特定の試料の位置決めを必要とする場合には、ある種の光学的なポインティングシステムが必要とされる-これは、しばしば、部分的に反射するミラーを同軸的に導入されたレーザ源を有する顕微鏡である。最後に、物理的利便性から分光計を試料から分離するための実用的な必要性に及ぶ理由から、多くのラマン分光計は、中心ファイバを通してレーザ源が供給され、散乱光がバンドル内の残りのファイバを通して分光計に戻される光ファイババンドルを採用している。一般には、やはりラマン効果の欠点のために、試料はどの周囲光からも隔離される必要がある。
【0010】
ラマン技術の性能上の課題は、しばしば相互に交差するかもしくは競合することさえあり、結果として、性能のトレードオフが生じる。中心的な性能上の課題は、最小ラマンシフト、スペクトル分解能、スペクトル範囲、信号感度、および蛍光干渉の低減/回避である。
【0011】
最小ラマンシフトは、カットオフフィルタの型(タイプ)および品質により決定される。この性能パラメータは、研究対象である材料のラマンスペクトルが低いラマンシフト領域(例えば300cm-1より小さいなど)における重大なピークまたは臨界ピークを有する場合にのみ重要となる。
【0012】
一般的には、スペクトル範囲を広げるために必要とされる技術は、分解能を低下させることである。このトレードオフは、分光器の物理的サイズを増加させること、および/またはアレイ検出器のピクセル幅を増加させることにより低減させることが可能となる。
【0013】
信号感度とは、検出器に到達し該検出器により記録される、試料からの信号応答光の割合をいう。ここでも、感度と他の性能要因との間には技術的なトレードオフが存在する。解像度を増加させるために採用される技術は、しばしば信号スループットを減少させる。また、信号を収集する光学は、制限要因となり得る。特に、試料からの非常に低い立体角の光を捕獲する光ファイバである。高信号感度は、弱いラマン散乱体である試料物質に対してのみ重大である。
【0014】
多くの試料物質は蛍光発光でレーザ光に反応しないが、試料から蛍光光が放射される場合には、試料のラマンスペクトルが全く観察されないほどラマン応答よりもはるかに強度であることが多い。多種多様な物質からラマンスペクトルを得ることがより重要であればあるほど、蛍光の大きさまたは蛍光の可能性(確率)を低減させるための何らかの技術的戦略を採用することがより重大となる。
【0015】
蛍光はおそらくラマン分光法の応用依存性に対する最大の課題であり、この問題を解決するために多くの解決法が用いられてきた。以下に、PRMIに応用された場合のそれらの欠点を含み、それぞれについて簡単に説明する。
【0016】
複数のレーザシステム:特定のラマンレーザで特定の標的材料に対して深刻な(重大な)蛍光干渉が存在する場合、十分に確立された解決法の1つは、ラマン分光計を複数のレーザで構成することである。蛍光は特定の範囲の波長にわたって発生するので、1つのレーザは、(少なくともラマン分光法によって検査されるスペクトル範囲にわたって、)蛍光を励起しないレーザ波長に単純に切り替えることができるものを用いる。いくつかの蛍光中心は広範囲の波長にわたって蛍光を発生させるので、且つ、いくつかの鉱物は複数の蛍光中心を含むので、多種多様の標的(鉱物種)に対するラマンスペクトルを得ることができる可能性が高くなることを保証するために、優に2つよりも多いレーザ波長が必要とされる。ラマンシステムの中には、4つまたは5つのレーザで構成されているものもある。PRMIに対するこのアプローチの限界は経費と複雑さである。レーザを2つでも採用すると、操作にははるかに多くの訓練と経験とが必要となり、典型的には、1つのレーザのみで構成された同じモデルよりも50%から90%だけ多くの費用がかかるラマンシステムとなる。4つおよび5つのレーザを有するラマンシステムは、かなりのスペース、費用、および保守を必要とする。
【0017】
逐次シフトされた励起:このタイプの蛍光除去解決法は、調節可能な波長レーザまたは二重波長レーザのいずれかを含む。非常に近接した2つのレーザ源波長を用いて、2つのラマンスペクトルを収集する。2つのスペクトルは、ラマン特徴が各スペクトルにおける同一の位置に生じ、蛍光特徴が源波長間の差に等しい量だけシフトするという仮定で処理される。このアプローチは、それがレーザおよび他の分光計の構成要素の重複を回避するので、複数のレーザシステムよりわずかだけ安価であるに過ぎない。PRMIに対するこのアプローチの限界は、スペクトルアーチファクトと応用の広さである。分析時間(1つの代わりに2つのスペクトルを収集する時間)がまた因子である一方で、いくつかのシステムは2つのスペクトルを同時に収集することが可能である。シフト励起システムは、採用されたスペクトル処理から、幾つかの非ラマンスペクトルアーチファクトを生成することが知られている。さらに、最大の制限は、多分、シフト励起がラマン強度よりも一桁分だけ明るい蛍光を生成する試料に対して効果的でないという事実であろう。これらの場合において、ラマンピークは電子ノイズと光子計数に特有な“ショットノイズ”と同様の強度(もしくはそれらよりも小さい強度)を有し、二重スペクトルから抽出することはできない。
【0018】
ゲートラマン:ゲートラマンは、ラマン散乱および蛍光が生じる時間スケールにおける差を利用する。高速パルスレーザと高速ゲーティング検出器を用いると、そのようなラマンシステムは、レーザパルスが試料に当たったときに検出器が開き、大部分または時には任意の蛍光を発生させることができる前に数百ピコ秒以内に閉じるように慎重に時間が計測される。レーザおよび検出器は、任意の蛍光が減衰されてしまいそうになるまで待って、次にこの励起/検出パターンを、毎秒数千回など、可能な限り何回も繰り返すように制御される。PRMIに対するこのアプローチの限界は経費と感度である。最近までは、すべてのゲートラマンシステムは高価で、複雑なオーダーメイドの光学ベンチシステムであった。現在利用可能な商用ゲートラマンシステムでさえ、その他の点では同等である精巧さを有する非ゲートシステムの3倍の費用がかかる。さらに、ゲートシステムの動作モードの重要な意味合いは、たとえ100kHzのパルス周波数で動作させられたとしても、それは検出器を開いてデータ収集するとしても毎秒5%しか費やさないということである。そのようなシステムは、弱いラマン散乱体である多数の鉱物に対して、非実用的な時間期間だけデータを収集しなければならないかもしれない。
【0019】
IRレーザ:多くのラマン機器メーカは、IRレーザ源(例えば1064nmなど)を有するシステムを提供する。その理由は、そのような長波長源が蛍光を励起するであろう可能性はほとんどないからである。PRMIに対するこのアプローチの主要な限界は感度である。上述したように、ラマン散乱の可能性は、励起源の波長が減少するにつれて増加する。実際には、ラマン強度は波長の4乗にともなって増加する。このことは、源波長がより長くなるにつれて同一の対象物からのラマン強度が急速に低下する、ことを意味する。多くの鉱物は弱いラマン散乱体であるので、IRレーザラマンシステムは概して鉱物に対する応用に制限をかけてしまっていた。
【0020】
UVレーザ:UVレーザを採用するラマンシステムは、それらのスペクトル性能の課題と費用のため、比較的珍しい。UVラマンシステムは、狭いスペクトル領域を調べなければならず、その結果、技術的に適切なスペクトル分解能を達成することが困難となり、そのようなシステムの最小ラマンシフトは、典型的には、350nm~450nmである。PRMIに対するUVラマンの限界は経費と性能である。UVにおける性能課題を満たすために必要な構成要素は高価であり、非常に多数の鉱物は400nmより低いラマンシフトで重要なラマンピークを有する。
【0021】
反ストークスラマン:詳細には、ラマン効果は、より長い波長への波長シフト(ストークスラマン)およびより短い波長への波長シフト(反ストークスラマン)を包含する。理論的には、蛍光は励起源よりも長い波長において光を生成するので、反ストークスラマン散乱を検出するようにラマン分光計を構成することにより蛍光干渉を回避できることが提案されている。反ストークスラマンの限界には、より短い波長の蛍光とラマン強度の限界とを含む。内殻電子からの狭域蛍光は励起源よりも長い波長では起こらないことは真実である一方で、励起された外殻電子に起因する広域蛍光は、それらの緩和経路を介したこれらの電子間の複雑な相互作用のために、励起源よりも短い波長内に著しく伸びることが分かっている。さらに、反ストークスラマンは、ラマンレーザからの光子によって励起されたときのそれらの基底状態よりも高いエネルギーレベルにおいて既に存在している標的試料内の量子振動状態のいくつかに依存する。結果として、反ストークスラマンの強度はストークスラマンより弱い傾向にあり、反ストークスラマンの強度は、(同一の試料からの)ラマンシフトのピークが増加するにつれて着実に減少する。
【0022】
またさらに、現場応用における使用ためのハンドヘルドの分析計(アナライザ)を生産することが非常に普及している。しかしながら、これは、より短い波長のレーザ源を部分的に使用するラマンシステムにとって、有用なスペクトル分解能を達成するために必要とされる分光器構成要素の物理的なサイズのために、物理的にも技術的にも実用的でないものとなる。ポータブル/現場のラマンシステムに対する1つの課題は、単一の光ポートを通して狙いを定めるために、レーザ光のデリバリー、信号光の収集、および試料の可視性を提供することである。多くのハンドヘルド装置(ユニット)およびいくつかのポータブルは、光学分析を目的とした提供を試みることさえなく、分析計の光学フロントエンドを簡単にそれに向けさせるのに十分な大きさである分析部位(サイト)に依存する。さらに、PRMIのためのラマン分析計は、弱いラマン散乱体でうまく働くために信号光収集において効率的でなければならず、現場の地質学的応用はしばしば、ミリサイズの鉱物粒を分析する必要性を有している。
【0023】
従って、蛍光干渉問題を回避するPRMIのためのより信頼性が高く、効率的で、費用対効果の高いラマン分光法システムが必要である。さらに、ポータブルのPRMIシステムが、現場内もしくは社内の応用のために利用可能であることが望まれる。また、ラマンスペクトルデータ収集、処理、ノイズ除去、および未知の鉱物の同定を伴うPRMIラマン分光法システムを効率的に支援するために、ソフトウェアが利用可能であることが望まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0024】
したがって、本発明の実施態様は、材料、特に鉱物を同定する方法、および未知の鉱物のラマンスペクトルデータの収集、処理、および同定のためのソフトウェアを含む。
【0025】
本発明の1つの実施態様において、鉱物を同定する方法であって、試料が入っていない試料ホルダー領域を、ある波長を有する単色光でブランク照射持続時間だけ照射するステップと;少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いてブランク照射持続時間に起因するブランク散乱光を収集するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行してブランク散乱光に対応するブランクスペクトルデータを決定するステップと;同一の単色光で一番目の照射持続時間だけ試料ホルダー領域内の鉱物試料を照射し、少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて一番目の照射持続時間に起因する一番目の散乱光を収集するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して一番目の散乱光に対応する一番目のラマンスペクトルデータを決定するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して一番目のラマンスペクトルデータとブランクスペクトルデータとの間の差により決定された真のラマンスペクトルデータを決定するステップと、を含む。望ましくは、その方法は、同一の単色光で二番目以上の照射持続時間だけ鉱物試料を照射し、少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて二番目の照射持続時間に起因する二番目以上の散乱光を収集するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して二番目以上の散乱光に対応する二番目以上のラマンスペクトルデータを決定するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して一番目の散乱光および二番目以上の散乱光に対応する集約されたラマンスペクトルデータを決定するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して集約されたラマンスペクトルデータとブランクスペクトルデータとの差により決定された真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;を付加的に含む。好ましくは、単色光は、約400nmから約425nmの範囲における波長を有する。好ましくは、ラマン分光計検出器は、約100cm-1から約1400cm-1の範囲のラマンシフトを検出するように適合される。
【0026】
真のラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較し、真のラマンスペクトルデータがデジタルコンピュータ上で実行されるソフトウェア処理によって1つ以上の参照スペクトルに対応するか否かを決定する。好ましくは、参照スペクトルは、鉱物のラマンスペクトルの数学的なモデルにより生成された異なる鉱物および/またはノイズなしの参照スペクトルデータセットのラマンスペクトルの数学的モデルを含む。
【0027】
(a)真のラマンスペクトルデータに対応する1つ以上の参照スペクトルによって同定された1つ以上の鉱物の名称および/または化学組成;(b)真のラマンスペクトルデータ;および(c)真のラマンスペクトルデータに対応する1つ以上の参照スペクトルのうちの一つ以上が、真のラマンスペクトルデータに対応する参照スペクトルが同定されたときに、画面上の表示により、プリントアウト(印刷)により、および/またはデータファイルに保存することにより出力される。
【0028】
好ましくは、1つ以上の参照スペクトルが真のラマンスペクトルデータに対応するかどうかの決定が、一致ピーク項と欠損ピークペナルティ項との両方を含む式を用いて、真のラマンスペクトルデータに対する各参照スペクトルに対する同定スコアを計算することにより提供される。1つの実施形態において、同定スコアは次式により決定される。
【数1】
ここで、aiおよびbiはそれぞれ、ラマンシフトのi番目の値での前記真の一番目のスペクトルデータおよび前記参照スペクトルの強度で、VとUはユーザが選択可能なパラメータである。
【0029】
計算された同定スコアは、降順にソーティングされる;そして、(a)真のラマンスペクトルデータに対応する1つ以上の参照スペクトルによって同定された1つ以上の鉱物の名称および/または化学組成;(b)真のラマンスペクトルデータ;(c)真のラマンスペクトルデータに対応する1つ以上の参照スペクトル;および(d)真のラマンスペクトルデータに対応する1つ以上の参照スペクトルの計算された同定スコアのうちの1つ以上を含む出力が提示されてもよい。
【0030】
望ましくは、この方法はまた以下を提供する。すなわち、収集されたスペクトルデータが散乱光を受信するために使用される検出器の飽和を示す場合には、そのスペクトルデータは真のラマンスペクトルデータを計算する際に使用されない。好ましくは、この方法は、付加的な試験(テスト)サイクルを自動的に実行し、ここで、付加的な照射持続時間の時間期間は検出器において飽和を引き起こした照射持続時間よりも小さい。
【0031】
同様に、信号対ノイズ比の最小値が条件を満たさず、ラマンスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示さない場合には、この方法は、付加的な試験サイクルを自動的に実行し、ここで、付加的な照射持続時間の時間期間は前の試験サイクルの照射持続時間よりも大きい。
【0032】
本発明の1つの実施態様において、材料を同定するための少なくとも1つのプロセッサおよび少なくとも1つのラマン分光計によりアクセス可能なコンピュータ可読媒体が提供される。そのコンピュータ可読媒体は、(A)単色光源に命令して単色光で一番目の照射持続時間だけ試料のない領域を照射すること;(B)少なくとも1つの検出器により収集された一番目の散乱光に対応し且つ一番目の照射持続時間に起因するブランクスペクトルデータを受信すること;(C)単色光源に命令して単色光で二番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること;(D)少なくとも1つの検出器により収集された材料試料からの二番目の散乱光に対応し且つ二番目の照射持続時間に起因する一番目のスペクトルデータを受信すること;(E)一番目のスペクトルデータからブランクスペクトルデータを差し引いて、真の一番目のスペクトルデータを結果として得ること;および(F)真の一番目のスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較してマッチ(整合性)を決定すること;のための、少なくとも1つのプロセッサにより実行可能なソフトウェア命令を含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、ステップ(F)の比較は、(i)例えば、
【数2】
のような、一致ピーク項および欠損ピークペナルティ項の両方を含む、真の一番目のスペクトルデータに対する各参照スペクトルに対する同定スコアを計算することを含み、ここで、aiおよびbiはそれぞれ、ラマンシフトのi番目の値での真の一番目のスペクトルデータおよび参照スペクトルの強度であり、VとUはユーザが選択可能なパラメータである。さらに、ステップ(F)の比較は、(ii)計算された同定スコアを降順にソーティングすること;および(iii)ユーザにより目視観察(view)するために、ソーティングされた同定スコアを出力すること、を含む。
【0034】
いくつかの実施態様において、コンピュータ可読媒体は、(G)真の一番目のスペクトルデータの一番目の信号対ノイズ比を分析すること;(H)ユーザ選択された信号対ノイズ比の目標値を受信すること;並びに(I)信号対ノイズ比の条件が満たされている場合には、(i)ステップ(C)からステップ(G)を繰り返して真の二番目のスペクトルデータおよび二番目の信号対ノイズ比を生成すること;(ii)一番目の信号対ノイズ比と二番目の信号対ノイズ比とを比較すること;および(iii)二番目の信号対ノイズ比が一番目の信号対ノイズ比よりも小さい場合には、材料試料に対する損傷の可能性についてユーザに警告すること、のための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0035】
いくつかの実施態様において、コンピュータ可読媒体は、(J)一番目のスペクトルデータが散乱光を受信するために使用される検出器の飽和を示す場合には、(i)単色光源に命令して単色光で三番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること、ここで、三番目の照射持続時間は二番目の照射持続時間よりも小さい;(ii)少なくとも1つの検出器によって収集された材料試料からの三番目の散乱光に対応し且つ三番目の照射持続時間に起因する三番目のスペクトルデータを受信すること;(iii)ステップ(E)を繰り返して真の三番目のスペクトルデータを決定すること、および(iv)真の三番目のスペクトルデータを保存すること;のための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、コンピュータ可読媒体は、(K)信号対ノイズ比の目標値が条件を満たさず且つ一番目のスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示さない場合には、(i)単色光源に命令して単色光で四番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること、ここで、四番目の照射持続時間は二番目の照射持続時間よりも大きい、(ii)少なくとも1つの検出器によって収集された材料試料からの四番目の散乱光に対応し且つ四番目の照射持続時間に起因する四番目のスペクトルデータを受信すること;(iii)ステップ(E)を繰り返して真の四番目のスペクトルデータを決定すること、および(iv)真の四番目のスペクトルデータを保存すること;並びに(L)信号対ノイズ比の目標値が条件を満たさず且つ一番目のスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示す場合には、(i)信号対ノイズ比の目標値を得るように意図された五番目の照射持続時間を計算すること;(ii)単色光源に命令して単色光で五番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること;(iii)少なくとも1つの検出器によって収集された材料試料からの五番目の散乱光に対応し且つ五番目の照射持続時間に起因する五番目のスペクトルデータを受信すること;(iv)ステップ(E)を繰り返して真の五番目のスペクトルデータを決定すること、および(v)真の五番目のスペクトルデータを保存すること;のための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0037】
いくつかの実施態様において、ステップ(C)の前に、コンピュータ可読媒体は、ユーザ選択された最大総露光時間を受信するための付加的なソフトウェア命令を含む。該媒体はまた、ユーザ選択された最大総露光時間に基づいて総照射時間を制限するためのソフトウェア命令を含む。
【0038】
いくつかの実施態様において、ステップ(F)の前に、コンピュータ可読媒体は、1つ以上の参照スペクトルからノイズを除去するための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0039】
本発明の別の実施形態では、少なくとも1つのプロセッサおよび少なくとも1つの記憶装置(ストレージ)によってアクセス可能なコンピュータ可読媒体が提供される。該コンピュータ可読媒体は、(A)単色光源に命令して単色光で一番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること;(B)少なくとも1つの検出器により収集された材料試料からの散乱光に対応し且つ一番目の照射持続時間に起因する一番目のスペクトルデータを受信すること;および(C)一番目のスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較してマッチ(整合性)を決定すること;のための、少なくとも1つのプロセッサにより実行可能なソフトウェア命令を含む。ステップ(C)の比較は、(i)例えば、
【数3】
のような、一致ピーク項および欠損ピークペナルティ項の両方を含む式を用いて、真の一番目のスペクトルデータに対する各参照スペクトルに対する同定スコアを計算することを含み、ここで、aiおよびbiはそれぞれ、ラマンシフトのi番目の値での真の一番目のスペクトルデータおよび参照スペクトルの強度であり、VとUはユーザが選択可能なパラメータである。さらに、ステップ(C)の比較は、(ii)計算された同定スコアを降順にソーティングすること;および(iii)ユーザにより目視観察(view)するために、ソーティングされた同定スコアを出力すること、を含む。
【0040】
いくつかの実施態様では、ステップ(A)の前に、コンピュータ可読媒体は、単色光源に命令して単色光で二番目の照射持続時間だけ試料のない領域を照射し、少なくとも1つの検出器によって収集された二番目の散乱光に対応し且つ二番目の照射持続時間に起因するブランクスペクトルデータを受信するための、付加的なソフトウェア命令を含む。
【0041】
いくつかの実施態様において、ステップ(C)の前に、コンピュータ可読媒体は、一番目のスペクトルデータからブランクスペクトルデータを差し引いて、ステップ(C)(i)の同定スコア式において使用される真の一番目のスペクトルデータを結果として生じさせるための、付加的なソフトウェア命令を含む。
【0042】
いくつかの実施態様において、コンピュータ可読媒体は、(D)一番目のスペクトルデータの一番目の信号対ノイズ比を分析すること;(E)ユーザ選択された信号対ノイズ比の目標値を受信すること;並びに(F)信号対ノイズ比の目標値が条件を満たす場合には、(i)ステップ(A)からステップ(D)を繰り返して二番目のスペクトルデータおよび二番目の信号対ノイズ比を生成すること;(ii)一番目の信号対ノイズ比と二番目の信号対ノイズ比とを比較すること;および(iii)二番目の信号対ノイズ比が一番目の信号対ノイズ比よりも小さい場合には、材料試料に対する損傷の可能性についてユーザに警告すること、のための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0043】
いくつかの実施態様において、コンピュータ可読媒体は、(G)一番目のスペクトルデータが散乱光を受信するために使用される検出器の飽和を示す場合には、(i)単色光源に命令して単色光で三番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること、ここで、三番目の照射持続時間は一番目の照射持続時間よりも小さい;(ii)少なくとも1つの検出器により収集された材料試料からの三番目の散乱光に対応し且つ三番目の照射持続時間に起因する三番目のスペクトルデータを受信すること;および(iii)三番目のスペクトルデータを保存すること;のための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0044】
いくつかの実施形態において、コンピュータ可読媒体は、(H)信号対ノイズ比が条件を満たさず一番目のスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示さない場合には、(i)単色光源に命令して単色光で四番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること、ここで、四番目の照射持続時間は一番目の照射持続時間よりも大きい;(ii)少なくとも1つの検出器によって収集された材料試料からの四番目の散乱光に対応し且つ四番目の照射持続時間に起因する四番目のスペクトルデータを受信すること;(iii)四番目のスペクトルデータを保存すること;並びに(I)信号対ノイズ比が条件を満たさず一番目のスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示す場合には、(i)信号対ノイズ比の目標値を得るように意図された五番目の照射持続時間を計算すること;(ii)単色光源に命令して単色光で五番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること、(iii)少なくとも1つの検出器によって収集された材料試料からの五番目の散乱光に対応し且つ五番目の照射持続時間に起因する五番目のスペクトルデータを受信すること;および(iv)五番目のスペクトルデータを保存すること;のための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0045】
いくつかの実施態様において、ステップ(A)の前に、コンピュータ可読媒体は、ユーザ選択された最大総露光時間を受信するための付加的なソフトウェア命令を含む。該媒体はまた、ユーザ選択された最大総露光時間に基づいて総照射時間を制限するためのソフトウェア命令を含む。
【0046】
いくつかの実施態様において、ステップ(C)の前に、コンピュータ可読媒体は、1つ以上の参照スペクトルからノイズを除去するための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0047】
本発明の別の実施形態では、少なくとも1つのプロセッサおよび少なくとも1つの記憶装置(ストレージ)によってアクセス可能なコンピュータ可読媒体が提供される。該コンピュータ可読媒体は、(A)単色光源に命令して単色光で一番目の照射持続時間だけ試料のない領域を照射すること;(B)少なくとも1つの検出器により収集された一番目の散乱光に対応し且つ一番目の照射持続時間に起因するブランクスペクトルデータを受信すること;(C)単色光源に命令して単色光で二番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること;(D)少なくとも1つの検出器により収集された材料試料からの二番目の散乱光に対応し且つ二番目の照射持続時間に起因する一番目のスペクトルデータを受信すること;(E)一番目のスペクトルデータからブランクスペクトルデータを差し引いて、真の一番目のスペクトルデータを結果として得ること;および(F)真の一番目のスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較してマッチ(整合性)を決定すること;のための、少なくとも1つのプロセッサにより実行可能なソフトウェア命令を含む。ステップ(F)の比較は、(i)例えば、
【数4】
のような、一致ピーク項および欠損ピークペナルティ項の両方を含む式を用いて、真の一番目のスペクトルデータに対する各参照スペクトルに対する同定スコアを計算することを含み、ここで、aiおよびbiはそれぞれ、ラマンシフトのi番目の値での真の一番目のスペクトルデータおよび参照スペクトルの強度であり、VとUはユーザが選択可能なパラメータである。さらに、ステップ(F)の比較は、(ii)計算された同定スコアを降順にソーティングすること;および(iii)ユーザにより目視観察(view)するために、ソーティングされた同定スコアを出力すること、を含む。
【0048】
いくつかの実施態様において、コンピュータ可読媒体は、(G)真の一番目のスペクトルデータの一番目の信号対ノイズ比を分析すること;(H)ユーザ選択された信号対ノイズ比の目標値を受信すること;並びに(I)信号対ノイズ比の目標値が条件を満たす場合には、(i)ステップ(C)からステップ(G)を繰り返して真の二番目のスペクトルデータおよび二番目の信号対ノイズ比を生成すること;(ii)一番目の信号対ノイズ比と二番目の信号対ノイズ比とを比較すること;および(iii)二番目の信号対ノイズ比が一番目の信号対ノイズ比よりも小さい場合には、材料試料に対する損傷の可能性についてユーザに警告すること、のための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0049】
いくつかの実施形態において、コンピュータ可読媒体は、(J)真の一番目のスペクトルデータが散乱光を受信するために使用される検出器の飽和を示す場合には、(i)単色光源に命令して単色光で三番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること、ここで、三番目の照射持続時間は二番目の照射持続時間よりも小さい;(ii)少なくとも1つの検出器により収集された材料試料からの三番目の散乱光に対応し且つ三番目の照射持続時間に起因する三番目のスペクトルデータを受信すること;(iii)ステップ(E)からステップ(G)を繰り返してステップ(F)(i)の同定スコア式内での使用のために真の三番目のスペクトルデータを決定すること;および(iv)真の三番目のスペクトルデータを保存すること;(K)信号対ノイズ比の目標値が条件を満たさず真の一番目のスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示さない場合には、(i)単色光源に命令して単色光で四番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること、ここで、四番目の照射持続時間は二番目の照射持続時間よりも大きい;(ii)少なくとも1つの検出器によって収集された材料試料からの四番目の散乱光に対応し且つ四番目の照射持続時間に起因する四番目のスペクトルデータを受信すること;(iii)ステップ(E)からステップ(G)を繰り返してステップ(F)(i)の同定スコア式内での使用のために真の四番目のスペクトルデータを決定すること;および(iv)真の四番目のスペクトルデータを保存すること;並びに(L)信号対ノイズ比が条件を満たさず真の一番目のスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示す場合には、(i)信号対ノイズ比の目標値を得るように意図された五番目の照射持続時間を計算すること;(ii)単色光源に命令して単色光で五番目の照射持続時間だけ材料試料を照射すること;(iii)少なくとも1つの検出器によって収集された材料試料からの五番目の散乱光に対応し且つ五番目の照射持続時間に起因する五番目のスペクトルデータを受信すること;(iv)ステップ(E)からステップ(G)を繰り返してステップ(F)(i)の同定スコア式内での使用のために真の五番目のスペクトルデータを決定すること;および(v)真の五番目のスペクトルデータを保存すること;のための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0050】
いくつかの実施態様において、ステップ(C)の前に、コンピュータ可読媒体は、ユーザ選択された最大総露光時間を受信するための付加的なソフトウェア命令を含む。該媒体はまた、ユーザ選択された最大総露光時間に基づいて総照射時間を制限するためのソフトウェア命令を含む。
【0051】
いくつかの実施態様において、ステップ(F)の前に、コンピュータ可読媒体は、1つ以上の参照スペクトルからノイズを除去するための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0052】
本発明のさらに別の実施形態では、少なくとも1つのプロセッサおよび少なくとも1つの記憶装置(ストレージ)によってアクセス可能なコンピュータ可読媒体が提供される。該コンピュータ可読媒体は、(A)記憶装置からスペクトルデータを検索するステップと;(B)スペクトルデータに5点移動平均平滑化を適用するステップと;(C)スペクトルデータをその最も強いピークに正規化するステップと;(D)スペクトルデータの二乗平均平方根ノイズを推定するステップと;(E)スペクトルデータにベースラインモデルを追加するステップと;(F)(i)一番目の潜在的ピーク位置を同定すること;(ii)潜在的ピーク位置において二番目のモデルを作成すること、(iii)二番目のモデルをスペクトルデータにフィッティング(適合)すること;(iv)スペクトルデータと二番目のモデルとの間の強度残差を計算すること;(v)二番目の潜在的ピーク位置を同定すること;(vi)スペクトルデータの二乗平均平方根ノイズに基づいて、二番目の潜在的ピーク位置の推定高さを最小ピークサイズ限界と比較すること;(vii)二番目の潜在的ピーク位置の推定高さが最小ピークサイズ限界よりも大きい場合には、ステップ(i)からステップ(vi)を繰り返すこと;(viii)二番目の潜在的ピーク位置の推定高さが最小ピークサイズ限界より小さい場合には、反復ループから抜け出ること、を含む反復ループを実行するステップと;(G)ステップ(F)から結果として生じたスペクトルモデルからベースラインモデルを差し引くステップと;並びに(H)スペクトルモデルをディスプレイに出力するステップと;のために少なくとも1つのプロセッサにより実行可能なソフトウェア命令を含む。
【0053】
いくつかの実施態様において、スペクトルデータは、参照スペクトルのデータベースまたはライブラリからの参照スペクトルデータである。
【0054】
いくつかの実施態様において、ステップ(D)は、(i)一番目のモデルの下位領域上のスプラインカーブに一連の間隔を置いたデータ点をフィッティング(適合)すること;および(ii)下位領域におけるデータ点間の残差の二乗平均平方根を計算すること;のための付加的なソフトウェア命令を含む。
【0055】
以下、本発明の実施形態の付加的な特徴および詳細が図を参照して述べられるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】鉱物蛍光の特性を示すグラフである。
図2】本発明の実施態様に係る、最も重要な蛍光中心のスペクトル範囲およびPMRIのためのラマンレーザ源の最適範囲を表示するグラフである。
図3】本発明の実施形態に係る、ラマン分光法システムの構成要素の図である。
図4】いくつかの可動構成要素がそれぞれ第2の位置に配置された、図3のラマン分光システムの図である。
図5図3の対物レンズの側断面図である。
図6】ネフェリン(Nepheline、霞石)および石英(Quartz)のラマンスペクトルを比較するために使用した場合の、本発明の同定スコア(ID-Score)の式の挙動を示すグラフである。
図7a】本発明のノイズ低減ソフトウェアを適用する前のラマンスペクトルのモデルを構成する元の機器データおよび個々のモデリング関数を示すグラフである。
図7b】本発明のノイズ低減ソフトウェアを図7aの機器データに適用することから生じる最終的なラマンスペクトルモデルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0057】
ここで、図を参照すると、複数の図面にわたって同じ参照番号は対応する構造を示す。以下の実施例は、本発明をさらに例示して説明するために提示され、いかなる点においても限定されるものとしてとらえるべきではない。
【0058】
図1は、鉱物蛍光の特性を表すチャートである。ピーク22、24、および26はそれぞれ、ヤナギ、ハルジソナイト、ロドナイトに対するMn2+の蛍光ピークである。より鋭いピーク群32は、無水物のSm2+の蛍光ピークである。破線曲線12は、ウィルレマイトのMn2+の蛍光22に対する励起スペクトルであり、どのような源の波長がより高いかもしくはより低い強度の蛍光を生じるかを示す。スペクトル10、20、および30のバンドはそれぞれ、325nm、532nm、および780nmのレーザでラマン分光計がスペクトルのどの部分を見るかということを示す。各バンドは、0波数から1500波数(”cm-1”)までのラマンシフトを表している。
【0059】
蛍光はおそらくラマン分光法の応用依存性に対する最大の課題である。この問題に対する現在の解決法を述べるためには、まず、ラマン効果と蛍光との間の重要な区別のみならず、蛍光の性質を再検討する必要がある。
【0060】
蛍光の性質:蛍光はまた、(ラマンレーザなど)入射する放射線源からの光子エネルギーの吸収から始まるが、それは(原子間振動エネルギー準位の励起の代わりに)電子をより高いエネルギー準位に励起することから生じる。一般的に、この吸収エネルギー量の一部は、物質の他の原子の振動/回転に転移される(熱緩和)。多くの場合は、吸収されたエネルギーのすべてが熱的に分散されるが、場合によっては、残りのエネルギーを担う光子が放出される(放射緩和)-これが蛍光発光である。
【0061】
蛍光中心:(例えば遷移金属および希土類元素などの)特定の元素は、特に特定の原子価状態および電子環境(すなわち、結晶構造)において、予測可能に蛍光を生じやすいので、どの材料が蛍光でありどの材料が蛍光でないのかということが予測可能であることがかなり多い。そのような元素/構造の組合せが蛍光中心を構成する。多くの場合、そのような元素のほんのわずかなまたは微量の濃度が、高強度の蛍光さえ生じさせるのに必要とされる。
【0062】
蛍光の分光分析:特定の蛍光中心のスペクトル幅、スペクトル位置、励起分光分析を検討することが重要である。光子で励起された電子が外殻電子(価電子)であるとき(例えば遷移金属)、(結晶性固体における)それらの基底状態エネルギーは、近くの原子の影響とそれらの熱振動により非常に変動する。結果として生じた蛍光は特定ピーク中心を有するが、Mn2+蛍光ピーク22~26として図1に描かれた、50nm~100nmオーダーのFWHMによる広いピーク形状を有する。(一般的には希土類元素に対してであるが、)励起電子が内部殻電子の場合、近傍の原子/電子の影響は基底状態のエネルギーへの影響がはるかに少なく、結果として生じた蛍光は、Sm2+の蛍光ピーク32として図1に見られる、大抵は単一の蛍光中心からの狭いピークのファミリーである、5nm~40nmオーダーのFWHMによる非常に狭いピークにより特徴付けられる。特定の蛍光中心に対する蛍光ピークの位置は、100nm以上まで、ある材料/鉱物から別の材料/鉱物へと変化することができる一方で、その位置は、依然として、光学スペクトルの特定領域に限定される。ここでも、内殻電子からの蛍光は、ある材料から別の材料へとスペクトル位置における変動が少ないことを示す。蛍光が起こり得る前に、関連する電子は励起される光子エネルギーを吸収しなければならない。地球科学のコミュニティのほとんどは、鉱物蛍光を紫外線(UV)光源による励起を必要とすると考えている一方で、第一の必要条件は、結果として生じた蛍光よりも短い波長の光源である。例えば、780nm~785nmのNIRラマンレーザは、IR(880nm~1100nm)を中心とする励起Nd3+の蛍光においてかなり効率的である。さらに、吸収/励起の可能性は局所的な電子構造に依存するので、特定の波長は他の波長よりも電子励起をより生じやすい。図1は、ウィルレマイト22の525nmのMn2+の蛍光に対する励起スペクトル12を示す。このカーブは、光源の波長としてのMn2+の蛍光の強度が300nmから520nmまでどのように変化するかを示している。
【0063】
蛍光の強度:ラマン散乱の強度と比較された蛍光光の相対強度を検討することが重要である。蛍光光の強度は、ラマン強度と同様のものから、桁違いに高いものまで幅がありうる。蛍光の絶対強度は決定的因子でさえない。ラマン散乱の強度は、種々の天然鉱物の間で桁違いに異なるので、場合によっては、非常に中程度の量の蛍光が、鉱物のラマンスペクトルを完全に圧倒して覆い隠すことができる。ここで、留意すべきことは、図1の例の励起スペクトル12において、励起効率のそのような波長依存性の特徴の大部分は、ある鉱物から別の鉱物へと(鉱物ごとに)大きく異なるであろう一方で、入射波長が結果として生じる蛍光の中心波長に近づくにつれて、励磁効率がいつも急激に低下することが期待される、ということである。また、蛍光はしばしば少量から微量の蛍光中心から生じるので、同一の鉱物種の異なる試料は、(ゼロを含む)ものすごく異なる量(および色さえ)の蛍光を生じさせることができる。
【0064】
光学的蛍光の範囲:光学的蛍光が生じる波長の範囲には限界がある。光源の波長が長くなればなるほど、IR内に入射する光子が電子遷移を励起するのに十分なエネルギーを持つようになる可能性は低くなる。スペクトルの他端では、UV内に、ラマン分光計によってサンプリングされたスペクトルの領域が、励起レーザの波長が短くなるにつれてより狭くなる波長の帯状のものであることが関連するようになる。図1では、スペクトル10、20、30の帯が、ラマン分光計が325nm、532nm、および780nmのレーザでそれぞれスペクトルのどの部分を見ているかを示している。多くの蛍光中心はUV源によって励起される一方で、結果として生じる蛍光の波長は、ラマン分光計の波長範囲内におけるのと同様におおよそUV内にはない。
【0065】
さらに、RMIのためのラマン分光法を最適化するためには、鉱物のラマンスペクトルの性質、およびそれらがラマンを介して典型的に検査される他の材料とどのように異なるかを検討することが重要である。関連のある詳細事項は、スペクトル範囲、ラマン強度、ラマンピークの相対強度、および試料損傷を含む。
【0066】
スペクトル範囲:ほとんどのラマン機器は、3000cm-1、4000cm-1、または5000cm-1さえまでのラマンシフト提供し、多くは200cm-1の最低ラマンシフトを提供し、いくつかは上述したように、350cm-1~450cm-1の最低ラマンシフト範囲を有する。一般的に、グループ(群)としての鉱物は、それらのラマンのピークのほとんどが1200cm-1を下回り、(例えば硫化物などの)いくつかの鉱物は、それらのラマンのピークのほとんどもしくはすべてが500cm-1を下回る。HO、OH、COのような軽元素クラスタを含む多くの鉱物は2500cm-1を超えてラマンピークを有する一方で、これらのピークを鉱物の同定作業に含める必要はない。留意すべきこれらの一般化に対する例外は、グラファイトとダイヤモンドである。典型的には、ダイヤモンドは1335cm-1付近にラマンピークを1つしかもたず、グラファイトのラマンピークは1580cm-1付近に強いピークを有することから始まる。
【0067】
ラマン強度:鉱物から期待されるラマン強度の範囲は4桁に及ぶ。例えば鉱石鉱物などの多くの重要な鉱物は、かなり弱いラマン強度から非常に弱いラマン強度を生じさせる。
【0068】
ラマンピークの相対強度:(ラマンシフト内の)ラマンピークの位置は一般的には、入射レーザの波長には無関係である一方で、ラマンピークの相対強度は2つの理由から鉱物内において変わりやすい。第一に、鉱物は結晶性なので、単一の鉱物粒子内のすべての単位胞もしくは“分子”は空間的に同一配向を有する。このことが、結晶構造の軸とラマンレーザビームの方向軸および偏光面との間の空間的な/角度に関する関係における変動に応じて、ラマンピークの相対強度の変動をもたらす。第二に、鉱物以外の材料と共通して、ラマンピークの相対強度は典型的には、ラマンレーザの波長とともに変化する。
【0069】
試料損傷:例えば硫化物や硫塩鉱物(スルホサルト)などの鉱石鉱物を含む、かなりの数の鉱物が、ラマンレーザによる加熱に反応して変化する傾向を有する。これは、相転換から完全破壊までのあらゆる形をとることができる。
【0070】
ラマン分光法による鉱物の同定は、指紋スタイルの同定の他の例と同様に、明確で特徴的なスペクトル(標的の特徴を示していないアーチファクトはない)を収集し、(トリミング、バックグラウンド除去、平滑化(スムージング)を含むかもしれないが)そのスペクトルを調整した後に、そのスペクトルを既知の鉱物からのスペクトルのデータベース内のすべてのエントリーと比較することから構成される。ある種のマッチ(整合性)スコアリングシステムが、ベストマッチの短いリスト(一覧表)でユーザに提示するために使用される。ほとんどすべての工程でこの作業を完遂するには課題がある。
【0071】
明確なスペクトル:明確なスペクトルは、標的のピーク特性をノイズやバックグラウンドとから区別するのに十分な信号強度を有する。異なった鉱物標的から期待されるラマン強度の非常に大きい範囲のために、ラマンのユーザは、データ収集パラメータの標準的なセットを設定することができず、これを異なった鉱物の範囲に繰り返し適用することはできない。さらに、非常に弱いラマン強度を有する鉱物のサブセットは、長い計数時間を必要とするだけでなく、それらのラマンスペクトルを機器の弱いアーチファクトおよび標的上方の空気から受信された弱い信号さえも区別するために、余分な注意が必要となる。最後に、(図1のMn2+蛍光22~26など)広域蛍光は、ラマン分光計の狭いスペクトル表示において高強度連続バックグラウンドとして現れる-時にはラマンピークが失われるほど強度に現れる。ラマンピークが依然として高強度蛍光を超えて識別可能であるときでさえも、この蛍光バックグラウンドはしばしば、ほとんどのバックグラウンド除去アルゴリズムがそれを取り除くのに十分なほどスムーズに波長を伴って変化しない。
【0072】
特性スペクトル:いくつかの例において、蛍光光は、ラマンピークと類似した形状および強度を有する1つ以上のピークの形をとって提示される。特に、より長い波長の範囲のラマンシステムにおける(例えばREEなどの)狭い蛍光がそうである。さらに、試料損傷はしばしば、(変質していない)鉱物の特性を示したラマンピークの(完全な消光を含む)減少と、レーザビームが標的鉱物を変質させたものに特性を示した異なったラマンピークの出現との両方をもたらす。
【0073】
スペクトル調製:スペクトル調製は一般的に、測定された検出器バックグラウンドを差し引くこと、宇宙線事象の除去、および信号バックグラウンドを差し引くことを含み、平滑化(スムージング)を含んでもよい。弱いラマン強度を有する鉱物を扱うときには、典型的ではないとしても、一般的には、機器の出力には、対象となる鉱物の特性を示すのではなく、分光計並びに分光計の光学経路における空気および/または他の物質の特性を示す空間的な特徴が含まれていることが理解されている。そのような特徴は、ラマン信号が強い場合には取るに足らないほど弱い一方で、ラマン信号が弱い場合には、それらは問題となり、標準的なスペクトル調製法には適さない。
【0074】
マッチ(整合性)スコアリング:鉱物のラマンスペクトルは、様々な幅のピークを含み、一般に重複ピークを含むので、全てのスペクトルチャネルのマッチスコアリングを介した全スペクトルマッチングが一般的に用いられる。鉱物からの相対ラマン強度が結晶学的配向およびラマンレーザ波長によって変化する可能性(潜在力)のために、RMIのための効果的なマッチスコアリングアルゴリズムは相対強度に対して相対的に鈍感でなければならない。平方根スクワッシング(正規化した後にすべての強度の平方根をとる)だけで、鉱物同定におけるかなりの改善が達成される。しかしながら、このスクワッシング技術でさえ、1つのスペクトルが比較されたスペクトルが有さない強いピークを有する場合、マッチ品質に対する有意性を認識しない。
【0075】
参照データベース:参照スペクトルの収集(すなわち、既知鉱物のラマンスペクトル)との比較による鉱物同定の成功には、そのような収集が完全かつ高品質であるべきことが必要である。PRMIに対して、5千何百もの既知の鉱物種は本当に珍しいので、本当に完全な参照データベースは重要ではない。一方、多くの弱いラマン鉱物に対する高い信号対ノイズ比(“S/N”)の参照スペクトルを集めることは困難である。全スペクトルマッチングは、ラマンピーク間における分光計強度を含むので、非常に少ないピーク間の広い空間を有する適度にノイズの多い(低S/N)の参照スペクトルでさえも、単に、参照スペクトルのバックグラウンドノイズにおける高点で偶然にコーディネート(座標調整)される未知のスペクトルのノイズにおける高点の高入射が存在したので、ノイズの多い未知のスペクトルに誤ってマッチングされ得ることが見つけられている。参照スペクトルにおけるノイズに関するこのような問題は、スペクトルの平方根スクワッシングが採用される場合にのみ増加する。スクワッシングによって提供されるパターンマッチ同定への改善は、未知のスペクトルとすべての参照スペクトルとの両方が同一の方法でスクワッシングされる場合にのみ機能し、スクワッシングはスペクトル中の最も強いピークと最も弱いピークとの間のコントラストを減少させる一方で、本質的に、それはまたノイズ振幅も拡大させる。
【0076】
本発明のラマン分光法システムは、極めて高価であり、かさ高く、または操作が困難ということはなく、上述した課題に取り組むことにより、PRMIに対して最適化される。
【0077】
好ましくは、本発明のラマン分光法システムは、複数のレーザ、ゲート分光分析(スペクトロメトリー)、もしくはUVレーザの費用および/または複雑さを回避しながら、鉱物の分析に対して最大の信頼性を可能にする理想波長範囲内で作動する単一のレーザを使用する。PRMIの可視光スペクトルの理想的な部分は、以下の要因の共通部分に基づいて選択される。すなわち、
(1)鉱物の蛍光スペクトルに関する既存のデータは、励起波長と蛍光出力領域との間の関係に適切な注意を払って、(可視スペクトルにおいて)どこでそれらが蛍光を発しないかという観点から評価されなければならない。
(2)(UVからIRまで)の広がった光スペクトルのすべての部分内で蛍光光を発生させる天然鉱物においては蛍光中心が存在する一方で、すべての蛍光中心が天然鉱物において等しく共通しているわけではない。
(3)同一の試料からのラマン散乱の強度は、ラマンレーザの波長が減少するにつれて強く増大する。従って、より短い波長のラマンレーザでラマンスペクトルを収集するには、蛍光の同一の強度はあまり問題にならない。
(4)必要とされる技術水準、ひいてはラマンシステムの費用およびサイズでさえもがラマンレーザ波長がUVに向かってそしてUV内に取り込まれるにつれて着実に大きく(高く)なる一方で、400nmにおいて許容可能な最小ラマンシフトを生成可能なレーザカットオフフィルタの利用可能性においてはっきりとしたブレークがある。
【0078】
多くの個々の鉱物の蛍光分光法が研究され、それらのそれぞれの蛍光中心が同定されている。圧倒的に一般的な蛍光中心は、Na2+,Mg2+,Ca2+,Zn2+、もしくはAl3+を名目上含む結晶学的位置に置き換えられたときに蛍光中心を生成できるMn2+である。蛍光中心を生成する可能性が低いのは、Fe3+とCr3+で、主にAl3+、および多くの希土類元素の代わり、主にCaの代わりとなる。これらの元素が蛍光中心を形成する可能性に加えて、実用的な評価では、これらの元素の地殻内での存在量もまた考慮しなければならない。このことは、広範囲の自然例で重大な蛍光を生成するのに十分な濃度で存在する可能性を直接的に意味する。図2は、Mn、FeおよびCrからの蛍光が生じる拡張可視スペクトルの範囲を示す。さらに、最も地殻の存在量が多いREE、NdおよびCe、からの蛍光の範囲を示している。Euの地殻内存在量はNdやCeの1/10やMnの1/500より小さい場合であっても、それは長石やホタル石のようないくつかの一般的な鉱物において自然に濃縮される傾向があるので、Euの蛍光範囲が同様に示される。
【0079】
特に、実際、鉱物が蛍光を発しないスペクトル領域は存在しない。しかしながら、鉱物蛍光があまりみられない傾向があり、ラマン強度がより強い傾向がある領域は、(大きさ、複雑さ、および費用において)最も実用的なラマン構成-単一レーザシステム-を実現するために重要である。従って、PRMIのためのラマンレーザ源の理想的な範囲は、カットオフフィルタの技術的遷移である400nmと、(1500cm-1のラマンシフト範囲を有する)ラマン分光計が強く一般的なMn蛍光の一部を捕捉し始めるであろう波長425nmとの間である。図2に図示されるように、領域40はPRMIレーザに対する400nm~425nm範囲を表し、領域50は425nmのレーザ源を用いてラマンシフトを1500cm-1まで目視観察したラマンシステムのスペクトル範囲を表す。405nmのラマンシステムを用いて80種の鉱物のグループについて発明者が実施した試験では、問題となるレベルの蛍光(ホタル石)を生成した鉱物が1種だけ発見された。これは、1.25%の失敗率であるが、780nmのレーザによる同様の研究の失敗率は15%であった。
【0080】
図3は、本発明の好ましい実施形態に係るラマン分光法システム100を表す。ラマンシステム100は、例えばレーザ装置110などの単色光源と、分析される試料114と、光スループットおよび検出器感度のために最適化された分光器210とを含む。好ましくは、レーザ装置110は、レーザの所望の発光線を分離するための適切なクリーンアップフィルタと、相対ラマン強度に対する標的鉱物の結晶学的配向の影響を最小化するための偏光解消フィルタとを含む、400nmから425nmの範囲で動作する安定化ラマンレーザである。いくつかの実施態様では、レーザ装置110は、光ファイバケーブル112を介してレーザビーム113を試料114に光ファイバで伝送するように構成される。他の実施態様では、レーザビーム113は、例えば70/30部分反射ミラーなどの同軸レーザ挿入光学系を介して試料114に伝送される。
【0081】
図3に図示されるように、試料114は、柔軟性のあるシザージャックの提示ステージのようなホルダー116上に置かれている。しかし、様々な一般的な地質学的試料タイプを取り扱うように設計された他のいかなる試料ホルダーでも十分である。好ましくは、データ収集の間に周囲光を除外するための典型的なシステムは、例えば、試料114がホルダー116上に装填された後に試料チャンバから周囲光を除外するための硬い筐体または重い不透明な障壁などの、機器の試料提示部分内に含まれる。いくつかの実施態様では、試料チャンバはまた、例えば高出力LEDなどの少なくとも1つの可視光源118を含み、試料114を位置決めし、レーザビーム113を照準するときに試料114を照射する。
【0082】
光ファイバケーブル112を利用する実施形態では、図5に図示されるように、ラマンシステム100は、好ましくは、光ファイバケーブル112の端部を受け入れるための開口部122を有する対物レンズ120と、開口部122内に位置決めされた集束レンズ124とを含む。好ましくは、開口部122は、対物レンズ120の中心を貫通して穿設された穴である。好ましい実施形態では、レーザビーム113が集束レンズ124を通過するように、集束レンズ124は、光ファイバケーブル112の端部の後に開口部122内に位置決めされる。描かれた図では対物レンズ120は平凸対物レンズとして図示されているが、異なる形状のレンズでもよく、大口径で短焦点距離を有するレンズであればなんでもよい。短焦点距離(高開口数)レンズは、試料114からの高立体角の散乱された/信号光115を収集する一方で、光ファイバケーブル112のフィードスルーは、観察および信号収集のために使用されるのと同一の光学系を介した伝送を必要とすることなしに、レーザ励起を提供する。
【0083】
好ましい実施形態では、信号光115は、対物レンズ120を通過し、第1リダイレクションミラー130によって、信号光115を分光器210上に焦点を合わせるように設計された第1集束レンズ140に偏向される。いくつかの実施態様では、光学系は、偏向が不要となるように配置され、信号光115は、対物レンズ120から第1集束レンズ140に直接的に通過する。
【0084】
いくつかの実施態様では、ラマンシステム100は、ビデオ画像観察および照準のために、付加的な光学系およびビデオアレイ検出器のアセンブリを含む。好ましくは、このアセンブリは、観察用リダイレクションミラー150と、観察用画像形成レンズ160と、ビデオ光学的画像検出器170とを含む。図3に図示されるように、観察用リダイレクションミラー150は、信号光115の光路の道から外れている第1位置152を有する。図4に図示されるように、観察用リダイレクションミラー150はまた、可視光が観察用画像形成レンズ160を通ってビデオ光学的画像検出器170内へと反射されるように、試料114から反射される可視光の光路内にある第2位置154を有する。観察用リダイレクションミラー150は、手動もしくはモータ制御下に置くことができる。可視光のビデオ映像化により、ユーザの眼に危険を及ぼさずに分析部位の目視確認が可能となる。好ましくは、マイクロスイッチは、観察用リダイレクションミラー150がその第2位置154にあるとき、可視光源118のスイッチをオンにし、そのスイッチは、観察用リダイレクションミラー150が試料分析のためのその第1位置152にあるとき、可視光源118のスイッチをオフにするであろう。
【0085】
好ましい実施形態では、ラマンシステム100はまた、光収集光学系と分光器210との間にレーザ線遮断フィルタ180を含む。いくつかの実施態様では、遮断フィルタ180は、ノッチフィルタもしくはナイフエッジロングパスフィルタである。異なるタイプの遮断フィルタであってもよく、強力な(弾性散乱された)レーザ光をフィルタリングしながら、150波数もしくは理想的には100波数ほどの低い波数のラマンシフトで信号光115を分光器210に通過させて観測することができるものであればよい。
【0086】
好ましくは、ラマンシステム100はまた、レーザ波長(波数で)+1400の波数よりも長い波長を有するすべての光を分光器210から除外するように設計されたショートパスフィルタ190を含む。レーザ源波長は、ラマンシステムによって検査される波長範囲の励起蛍光を回避するように選択される一方で、多くの場合、それはスペクトルのより長い波長部分において強い蛍光を励起し得る。分光器は、回折格子によって検出器に向かって偏向されない光波長を吸収するように設計されるが、この回折格子により除外された光が強い蛍光光を含む場合には、そのかなりの部分が吸収を拒否され、検出器に向かって跳ね返される。好ましい実施形態において、ショートパスフィルタ190が常に所望の光波長さえある程度減少させ、最も弱いラマン信号を有する鉱物が重大な蛍光を発することはまれであるという理由から、ショートパスフィルタ190は可動性である。これにより、ショートパスフィルタ190は、分光器210の前にそれが信号光115をフィルタリングする第1位置192と、それが信号光115をフィルタリングしない第2位置194とを有する。ショートパスフィルタ190は、ユーザが手動かもしくは制御機器220によって自動的に移動可能である。
【0087】
好ましくは、試料114と分光器210との間の光路は、ラマンシステム100が、弱いラマン散乱体である鉱物をうまく働かせることができるように、最大光スループットのために最適化されている。好ましくは、分光器210は、該分光器210によって得られるスペクトル分解能を改善するために、狭いスリット200を含む。しかしながら、このタイプの入射スリットはまた、試料からの大部分の散乱光も除外する。好ましい実施形態では、分光器スリット200は、例えばHTVS(www.tornado-spectral.com)などの高スループット/高分解能の技術である。
【0088】
好ましくは、分光器210それ自体は、高スループットおよび高感度のために最適化され、さらに100から1400波数のラマンシフト範囲に対する信号光の検出のために最適化される。さらに、PMRIに対して、回析格子を移動/走査させることなしに、100から1400波数のラマンシフト範囲のからのデータを収集するように分光器スリット200を構成するための特定の理由が存在する。いくつかの実施態様では、より大きなラマンシフトでのラマン線からのデータを必要とする鉱物学的研究のために、この範囲への選択可能な増加のための(例えば、回析格子走査もしく第2回析格子を介するなどの)オプションが提供される。
【0089】
好ましい実施形態では、ラマンシステム100は、試料114に対するレーザ損傷を管理するように設計された電子および/または光学的構成要素を含む。これは、当該技術分野で知られた任意の手段を介して達成される。例えば、幾つかの実施形態では、これは、レーザ装置110それ自体を制御することにより、および/またはレーザ装置110と試料114との間に減光フィルタを配置することにより、レーザビーム113の強度を低減させることによって達成される。他の実施形態では、このことは、試料114上でレーザビーム113を広げる(デフォーカスする)ためにもしくはレーザビーム113の直径よりも著しく大きい試料114の領域にわたるパターン内にレーザビーム113を連続的に移動(ラスター)させるために、レーザ装置110と試料114との間の1つ以上の光学的および/または電気機械的構成要素を用いることによって達成される。
【0090】
好ましくは、ラマンシステム100はまた、ラマンシステム100を制御してデータ収集処理を管理するように構成された制御機器220を含む。好ましい実施形態では、制御機器220は、レーザビーム113の強度を制御し、例えば観察用リダイレクションミラー150およびショートパスフィルタ190などの任意のモータ制御構成要素を制御し、例えば分光器210からの分光器データおよびビデオ光学的画像検出器170からのビデオデータなどのデータを収集するように構成される。いくつかの実施形態では、制御機器220はまた、収集されたデータを、以下で説明するソフトウェアを実行できる外部コンピュータに、有線もしくは無線接続を通して通信する。他の実施形態では、制御機器220は、以下で説明するソフトウェアを実行できるコンピュータである。
【0091】
いくつかの実施形態では、ラマンシステム100はポータブル(携帯型)ユニットであり、ラマンシステム100はまた、外部AC/DCプラグイン電源もしくは外部再充電可能バッテリーパックから給電するためのDC電源入力ポートも含む。
【0092】
いくつかの実施形態において、ラマンシステム100は、顕微鏡材料試料の目視観察を可能とするように構成される。そのような実施形態では、上述した光学系は、好ましくは、400nmから450nmの波長の光に対して最大の透過性を提供する顕微鏡光学系である。好ましい実施形態では、レーザビーム113は、例えば70/30部分反射ミラーなどの同軸レーザ挿入光学系を介して試料114に送られる。他の実施態様では、上述した光学系は、透過光および反射光照射の両方を有する偏光顕微鏡の光学系である。好ましくは、顕微鏡観察用に構成されたラマンシステムの実施形態は、試料内の垂直分解能を改善し、かつ重要なPRMIの応用-カバースリップ下の薄片中の鉱物の分析-を可能にするための共焦点アパーチャーを含む。
【0093】
外部コンピュータ/制御機器220は、好ましくは、データ収集ソフトウェア、スペクトル処理および鉱物同定ソフトウェア、並びにノイズ低減ソフトウェアを実行するように構成された少なくとも1つのプロセッサを有するであろう。データ収集ソフトウェアは、好ましくは、非常に弱いラマン信号を生成する鉱物と、非常に広範囲のラマン信号強度と、レーザビームによる損傷を受けやすい鉱物と共に知的に働くように備えられる。好ましい実施形態では、これは以下のようにして達成される。
【0094】
第一に、PRMIデータ収集コンピュータは、他のあらゆる機器制御コンピュータシステムと同様に、例えばレーザパワー、レーザシャッター、モータ制御光学的構成要素、ビデオ画像化(イメージング)、および検出器を含む分光器構成要素などの全てのアドレス可能な構成要素からのデータを制御し受信するために設定された通信インタフェースおよび命令を備えていることが好ましい。
【0095】
第二に、露光時間を変更する毎に検出器のバックグラウンドまたはブランクスペクトルを収集することを回避するために、すべての強度が毎秒計数に変換されることが好ましい。
【0096】
第三に、未知の材料に関するデータ収集を開始する前に、ユーザは、ソフトウェアがレーザをオンにして収集するであろうブランクスペクトルの収集のために、任意の試料を除去してステージ(もしくは使用中の試料保持プラットフォームはどれでも)を下げるように促されるであろうことが好ましい。ブランクのための露光時間はユーザ調整可能であろうけれど、その結果は単なる電子ノイズではなくむしろ光学系および検出器の特徴を特徴付けるように、デフォルトは好ましくは、(例えば300秒から600秒などの)長い露光である。毎秒計数標準は、試料上の様々な露光時間にそのようなブランクの適用を可能にする一方で、レーザ出力に対するもしくは機器光学系の任意のユーザ設定可能要素に対する変更は好ましくは、ソフトウェアを動作させて新しいブランクを促す。ユーザ設定可能な「ブランク寿命」は、新しいブランクが時間にわたる微量の機器ドリフトを占めるように促す頻度をソフトウェアに伝えるであろう。
【0097】
第四に、データ収集は、好ましくは、ソフトウェアが、スペクトルを収集してピーク検出、飽和検出、およびRMSノイズ推定ルーティンを用いてそのスペクトルを迅速に処理するまでループする自動露光アルゴリズムを進めるであろう。このデータ収集ループは、検出器飽和を結果として生じさせる可能性がかなり低い露光時間(例えば1秒など)で始まり、少なくとも1回繰り返す。ユーザにより設定された所望のS/N比が条件を満たすと、ループから抜け出るであろう。検出器飽和が検出されると、アルゴリズムは露光時間を50%だけ下げて繰り返すであろう。ピークが検出されなかったならば、ループは次のループの露光時間を10の倍数で増加させるであろう。ピークが検出されたならば、ソフトウェアはS/Nの目標値を達成するのに必要な露光時間を計算し、次のスペクトル収集のためにその露光時間を設定するであろう。この処理を通して、(検出器飽和が検出された任意のスペクトルを除いて)データは廃棄されないであろう-ループから抜け出るとき、累積されたスペクトルが毎秒計数標準に変換されるように、各チャネルにおける全検出器計数ならびに全露光時間が累積されるであろう。好ましくは、ユーザは、S/Nの目標値および最大総露光時間の両方を設定することにより、このデータ収集処理を制御する。
【0098】
第五に、最も弱いラマン信号を有する鉱物は暗色および/または金属色であるという傾向があるため、自動露光ルーティンは、いくつかの実施形態では、(例えば20秒などの)より高い露光時間で始まる1クリック「暗色鉱物」オプションを有する。
【0099】
第六に、自動露光ルーティンの繰り返しを少なくとも1回は行うことが好ましいことの理由の1つは、レーザによる損傷の検出を可能にするためである。レーザによる試料損傷の指標の一つは、反復露光のS/Nが着実に減少するということである。好ましい実施形態では、自動露光ルーティンは、試料損傷が検出された場合にユーザに警告する。
【0100】
最後に、ブランクスペクトルは、真の試料スペクトルを決定するように収集されたすべての試料スペクトルから差し引かれることが好ましい。
【0101】
好ましくは、スペクトル処理および鉱物同定ソフトウェアは、(1)CREピークおよび連続バックグラウンドの両方の除去;(2)正規化および平方根スクワッシング;(3)ピークの一致を強調し、欠損ピークに対してペナルティを課す(ペナリゼーションする)アルゴリズムを使用する参照スペクトルのデータベースに対するスペクトル同定スコアリング;並びに(4)ベストマッチから下方に降順に整理されることが好ましい、ユーザにトップマッチのリストを提供する同定スコアのソーティングを実行するアルゴリズムを含む。
【0102】
PRMIシステムに対するスペクトル処理の主要な目的は鉱物同定である。鉱物のラマンスペクトルにおける相対的ピーク強度の可変性を考慮すると、「未知」スペクトルを参照スペクトルと比較する場合、両スペクトルが同一場所にピークを有し、両スペクトルが同一場所にピークを持たないケースを明確に同定することに関して最も優先度を高く付け、相対的ピークの高さのパターンに類似性があるかどうかを測定することに関してより低い優先度を置く必要がある。
【0103】
以下のスペクトルマッチスコアリングシステムの説明において、比較される2つのスペクトルがAおよびBであり、ここで、各々は数列のペア(ラマンシフト、強度)から成り、各々が、同一の一連のラマンシフト値に対する強度値を含む。この前後関係(コンテキスト)に基づいて、aiおよびbiはラマンシフトのi番目の値での各スペクトルの強度である。sumは、iの全値にわたる総和を示し、使用した方程式を表現するためにコンピュータ言語構文が使用される。
【0104】
ポピュラーなマッチスコアリング法の1つは、十分に確立されたコサイン類似度式であり、これは次式からなる:
【数5】
【0105】
しかしながら、コサイン類似度式の欠点は、比較したスペクトルの一つが強いピークを有し、第2スペクトルが同一の領域に全くピークを有さない場合に、総同定スコアに有意な正の寄与を加えることにある。2つのスペクトルが同一物質/位相からなのか否かを判断する場合に、そのような欠損ピークは、マッチに反する投票を構成すべきであり、マッチする投票を構成すべきではない。
【0106】
本発明は、一致ピーク項と欠損ピークペナルティ項との2つの項を含む同定スコアリングシステムと呼ばれる、改良されたマッチングスコアリングシステムを提供する。
【0107】
一致ピーク項は、従来のマッチングスコアリング式の全部に対応するが、1つの価値ある例は簡単に:
【数6】
であろう。
【0108】
この項は、両スペクトルが同一領域にピークを有する場合には常に正となるが、両ピークが同程度の強度を有する場合には最高値となるであろう。
【0109】
欠損ピークペナルティ項の1つの価値ある例は:
【数7】
ここで、Vはペナルティ項の全体的な大きさを制御する調節可能なパラメータである。欠損ピークシナリオにおける同定スコアから差し引く(ペナリゼーションする)ことが重要であるが、このペナルティは、より低い強度スペクトルが同一領域の弱いピークでさえ有する場合には、速やかに消失することがまた重要である。ここで、Uはペナルティ項がどれほど早く消失するかを制御する調節可能なパラメータである。
【0110】
次に、完全な同定スコア式を示す:
【数8】
【0111】
図6は、霞石(ネフェリン)と石英のラマンスペクトルとを比較した場合の同定スコア式の挙動を示すチャートである。
【0112】
好ましくは、PRMI最適化スペクトル処理ソフトウェアは、以下から構成される:
【0113】
第一に、マッチングされる/同定される入力スペクトルを以下のようにマッチングするために準備される。
【0114】
CREおよび連続バックグラウンドを除去するための基本的な前処理は、分光計データ収集ソフトウェアによって一般的に実行される一方で、ここで、これらの前処理ステップを実行するためのオプションは好ましくは、入手可能である。
【0115】
データは、ラマンシフト値の標準的な範囲および間隔、例えば分光計の範囲をカバーする全整数波数値(すなわち、100から1400波数)にリセットされる。
【0116】
リセットされたスペクトルは、その最高強度値に正規化され、次に、すべての(正規化された)強度がその平方根で置き換えられる。
【0117】
第二に、そのアルゴリズムは、上述した式を用いて同定スコアを計算することにより、調整された強度アレイを参照データベースにおけるすべてのスペクトルと比較することを通してループする。
【0118】
第三に、同定スコアがソーティングされ、(相名による)参照スペクトルのリストが最初に最高のスコアでソーティングされたユーザに提示される。
【0119】
(a)1つまたは複数の同定された鉱物の名称および/または化学組成;(b)真のラマンスペクトルデータ;および(c)1つまたは複数の参照スペクトル;のうちの1つまたは複数の表示または出力が提供される。
【0120】
ソフトウェアを実用化するための必要条件は、参照スペクトルのデータベースの累積と、同一のバックグラウンド除去、スペクトルのリセット(再設定)、正規化、および平方根スクワッシングを用いてそれらを調整することである。
【0121】
また、本発明のいくつかの実施形態は、参照スペクトルからノイズを除去するためのソフトウェアシステムの使用を含む。好ましくは、上述したスペクトル処理および同定ソフトウェアの適用前に、ノイズ除去ソフトウェアが参照スペクトルに適用される。従来、単純な移動平均から複雑な多段階フィルタリングアルゴリズムまで、分光分析におけるノイズ低減のために多くの方法が採用されてきた。それらの限界には、(1)それらは最終的にノイズ低減システムであり、ノイズ除去システムではない、そして(2)それらは、ラマンピークのような試料信号ピークの固有の規則的形状を認識しない、ことが含まれる。この限界に対する解決策は、それらをフィルタリングする代わりにモデル化することである。利用可能なソフトウェアプログラムを使用して、数学的ピークモデルをスペクトルデータに適合させることができる一方で、任意の数のピークおよび多種多様なS/N特性を有するスペクトルを自動的にモデル化するために、かなりの方法論が採用されている。従って、採用されるピークモデリングソフトウェアは、何らかの処方言語を介してプログラマブルでなければならない。好ましくは、方法論は以下を含む:
【0122】
第一に、入力スペクトルは、上述したように、CRE除去および連続バックグラウンド除去前処理を既に経ていなければならない。
【0123】
第二に、ノイズ異常値は除去されることが好ましい。ノイズを含むスペクトルは、スペクトルモデリングの成功を妨げる時折の単一チャネルノイズの異常値を含むことが分かっている。好ましくは、5点移動平均平滑化がこの機能を実行する。この方法は、炭酸塩や硫酸塩のような鉱物の例外的に鋭くて狭い主要なピークのいくつかの相対強度をわずかに広げ、低下させる傾向がある一方で、実際には、それは分光計の校正に対する感度を低下させることによって、これらの鉱物のパターンマッチの成功を改善させる。
【0124】
第三に、各スペクトルはその最も強いピーク(最高強度値)に正規化される。
【0125】
第四に、同定可能な分光ピークとノイズにおける高点との間で同定を行う必要があるので、スペクトルの二乗平均平方根(”RMS”)ノイズの推定値が計算されなければならない。スペクトルピークの位置が確立される前にこれを達成する方法の例は、(a)一連の離間したデータ点(例えば5番目のデータ点毎など)をスペクトルのサブ領域にわたるスプライン曲線に適合させること、および(b)同一のサブ領域にわたる全てのスペクトルデータ点とこのスプライン曲線との間の残差のRMSを計算することである。
【0126】
第五に、図7aに図示されるように、モデルに追加される第1の「曲線」は、直線60である。これはベースライン調整のために必要である。機器スペクトルの真のベースラインは、ゼロの強度を有し、機器ノイズはゼロのどちらか一方のサイドで散乱するであろう一方で、大部分の連続バックグラウンド除去アルゴリズムは、ゼロより大きい全てのデータ点を残す-真のベースラインからずらされる。
【0127】
第六に、次の関数を繰り返し実行する反復ループが入力される:(a)潜在的なピーク位置を同定する、(b)この位置で新しいモデルピークを作成する、(c)すべてのピークサイズ/形状パラメータを調整することによって、累積されたスペクトルモデル全体をスペクトルデータに適合させる、(d)新しいモデルと各データ点との間の強度残差を計算する、(e)次の潜在的なピーク位置を同定する、および(f)スペクトルのRMSノイズレベルに基づいて、この次のピークの推定高さを最小ピークサイズ限界と比較する。潜在的な次のこの限界より小さい推定高さを有する場合には、反復ループから抜け出る。図7aはまた、開始スペクトルデータ61、およびモデル化されたピーク62を示す。
【0128】
ほとんどのピーク発見アルゴリズムは、ラマンスペクトルの非常に一般的な特徴である、著しく重なり合ったピークを分解する困難を有するので、次の潜在的ピークを同定するための効果的な方法は、好ましくは、モデル-データ残差の最大値のスペクトル位置を計算することである。
【0129】
ラマンピークはガウス型とローレンツ型の組み合わせである形状を有することが知られているので、加算される各ピークは、例えば疑似フォークト(Pseudo-Voigt)式などこれら2つを可変的に組み合わせるピーク形状式を用いることが好ましい。
【0130】
ピークサイズ/形状パラメータは現実的な値の範囲内に制約されることが好ましい。例えば、半値全幅(“FWHM”)のようなパラメータは、負の値を持つことが許されるべきではない。
【0131】
いつ反復ループから抜け出されるかを制御するように使用される最小ピークサイズ限界は、機器ノイズにおけるランダムな高値から分光データを表す可能性が高い最小ピークを区別する必要性に基づいている。種々の実施例スペクトルに関する試験を通して、本発明者は、最小ピークサイズ限界は、好ましくは、RMSノイズの約3倍である必要があることを見出した。
【0132】
反復ループを介して作成され且つかい洗練されているスペクトルモデルは、初期RMSノイズ推定のために採用されたスプライン曲線法よりも、もしそうでないとしても、スペクトルのより正確なモデルになり得る。従って、新しいモデルが作成され、反復ループに適合される毎に、モデルの残差の二乗平均平方根は、好ましくは、初期RMS推定値と比較され、より低いことが判明した場合には、新しいRMSノイズ推定値として採用される。
【0133】
第七に、初期の直線関数はモデルから差し引かれてそのベースラインをゼロに持っていくことが好ましい。
【0134】
第八に、スペクトルに対して数学的モデルを有するならば、モデル化されたスペクトルのバージョンは、好ましくは、モデルを使用して計算された一連のデータ点(ラマンシフト、強度)として出力される。いくつかの実施形態では、これは、特定の所望のデータ間隔(例えば全波数値など)および特定の範囲のラマンシフト値を用いて行われる。モデル化されたスペクトルおよびモデルの平方根スクワッシングバージョンの両方が同時に出力される。
【0135】
多くの場合、この方法は1つ以上の小さな“ピーク”を生じさせ、そのモデルにおける役割は、疑似フォークト(Pseudo-Voigt)の形状が実際のラマンピークを適切に描写できないところに書き入れられることである。これらの小さな形状フィリング(充填)ピークそれら自体は、スペクトルが収集された材料の実際のラマン「モード」を表すものではないが、それらはこの方法によって作成されたスペクトルモデルの妥当性を損なうものではない。
【0136】
結果として得られたモデル化されたスペクトルは、図7bに図示されるように、ランダムな強度変動のない滑らかに変化する曲線である。この方法は、リアルタイムデータ処理にはあまりにもコンピュータ的に遅すぎるが、参照スペクトルデータベースを展開する前に、それは事前に、すべての参照スペクトルに1回だけ適用される。結果として得られたノイズのない参照データベースは、特に未知の機器スペクトルが著しくノイズが多い(すなわち、中程度から低いS/Nを有する)場合には、スペクトルマッチ(種同定)のソフトウェアの性能を改善させる。
【0137】
鉱物を同定する方法の1つの実施形態において、本方法は、試料が入っていない試料ホルダー領域を、ある波長を有する単色光でブランク照射持続時間だけ照射するステップと;少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いてブランク照射持続時間に起因するブランク散乱光を収集するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての分光計強度を露光持続時間で除してブランク散乱光に対応するブランクスペクトルデータを決定しすべての強度を毎秒計数として記録するステップと;同一の単色光で一番目の照射持続時間だけ試料ホルダー領域内の鉱物試料を照射し、少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて一番目の照射持続時間に起因する一番目の散乱光を収集するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての分光計強度を露光持続時間で除して一番目の散乱光に対応する一番目のラマンスペクトルデータを決定しすべての強度を毎秒計数として記録するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して一番目のラマンスペクトルデータとブランクスペクトルデータとの差により決定された真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;を含む。望ましくは、本方法は、同一の単色光で二番目以上の照射持続時間だけ鉱物試料を照射し、少なくとも1つのラマン分光計検出器を使用して二番目の照射持続時間に起因する二番目以上の散乱光を収集するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての分光計強度を露光持続時間で除して二番目以上の散乱光に対応する二番目以上のラマンスペクトルデータを決定しすべての強度を毎秒計数として記録するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、一番目の散乱光と二番目以上の散乱光に対応する集約されたもしくは平均のラマンスペクトルデータを決定するステップと;デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、集約されたもしくは平均のラマンスペクトルデータとブランクスペクトルデータとの間の差により決定された真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;を含む。好ましくは、単色光が約400nmから約425nmの範囲内の波長を有する。好ましくは、ラマン分光計検出器は、約100cm-1~約1400cm-1のラマンシフト範囲を検出するように適合される。
【0138】
真のラマンスペクトルデータが1つ以上の参照スペクトルと比較され、真のラマンスペクトルデータがデジタルコンピュータ上で実行されるソフトウェア処理によって1つ以上の参照スペクトルに対応するか否かを決定する。好ましくは、参照スペクトルは、異なる鉱物のラマンスペクトルの数学的モデルおよび/または鉱物のラマンスペクトルの数学モデルによって生成されるノイズなしの参照スペクトルデータセットを含む。
【0139】
(a)真のラマンスペクトルデータに対応する1つ以上の参照スペクトルによって同定された1つ以上の鉱物の名称および/または化学組成;(b)真のラマンスペクトルデータ;並びに(c)真のラマンスペクトルデータに対応する1つ以上の参照スペクトル;のうちの1つ以上のものが、真のラマンスペクトルデータに対応する参照スペクトルが同定された場合、真のラマンスペクトルデータに対応する参照スペクトルが同定されたときに、画面上の表示により、プリントアウト(印刷)により、および/またはデータファイルに保存することにより出力される。
【0140】
好ましくは、真のラマンスペクトルデータに対応する1つ以上の参照スペクトルが、一致ピーク項と欠損ピークペナルティ項との両方を含む式を用いて、真のラマンスペクトルデータに対する各参照スペクトルに対して同定スコアを計算することにより提供される。1つの実施形態では、同定スコアを次式により決定される。
【数9】
ここで、aiおよびbiはそれぞれ、ラマンシフトのi番目の値での真の一番目のスペクトルデータおよび参照スペクトルの強度であり、VとUはユーザが選択可能なパラメータである。
【0141】
計算された同定スコアは、降順にソーティングされる;そして、(a)真のラマンスペクトルデータに対応する1つ以上の参照スペクトルによって同定された1つ以上の鉱物の名称および/または化学組成;(b)真のラマンスペクトルデータ;(c)真のラマンスペクトルデータに対応する1つ以上の参照スペクトル;並びに(d)真のラマンスペクトルデータに対応する1つ以上の参照スペクトルの計算された同定スコア;のうちの1つ以上を含む出力が提示されてもよい。
【0142】
望ましくは、この方法はまた、収集されたスペクトルデータが散乱光を受信するように使用される検出器の飽和を示す場合、そのスペクトルデータは真のラマンスペクトルデータを計算する際に使用されず、好ましくは、この方法は、付加的な照射持続時間の時間期間が検出器における飽和を引き起こした照射持続時間よりも小さい付加的な試験サイクルを自動的に実行する。
【0143】
同様に、信号対ノイズ比の最小値が条件を満たさず、ラマンスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示さない場合、本方法は、付加的な照射期間の時間周期が前の試験サイクルの照射持続時間よりも大きい付加的な試験サイクルを自動的に実行する。
【0144】
本発明は、部分および特徴などの特定の配置を参照して記載されたが、これらは、すべての可能な配置または特徴を除外することを意図しているわけではない。実際、多くの他の改変および変形が当業者に確認されるであろう。
【0145】
(付記)
(付記1)
鉱物のラマンスペクトルを決定する方法であって、
試料が入っていない試料ホルダー領域を、ある波長を有する単色光でブランク照射持続時間だけ照射するステップと;
少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記ブランク照射持続時間に起因するブランク散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記ブランク散乱光に対応するブランクスペクトルデータを決定するステップと;
試料が入っていない前記試料ホルダー領域を、前記ブランク照射持続時間だけ照射するために使用された前記単色光の前記波長と同一の波長を有する単色光で一番目の照射持続時間だけ前記試料ホルダー領域内の鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記一番目の照射持続時間に起因する一番目の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目の散乱光に対応する一番目のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目のラマンスペクトルデータと前記ブランクスペクトルデータとの間の差により決定された真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
を含む、方法。
【0146】
(付記2)
試料が入っていない前記試料ホルダー領域を前記ブランク照射持続時間だけ照射するために使用された前記単色光の前記波長と同一の波長を有する単色光で二番目以上の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記二番目の照射持続時間に起因する二番目以上の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記二番目以上の散乱光に対応する二番目以上のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目の散乱光および前記二番目以上の散乱光に対応する集約されたラマンスペクトルデータを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記集約されたラマンスペクトルデータと前記ブランクスペクトルデータとの差により決定された前記真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
をさらに含む、付記1に記載の方法。
【0147】
(付記3)
前記一番目のスペクトルデータまたは前記二番目以上のスペクトルデータが前記散乱光を受信するために使用された検出器の飽和を示す場合は、
単色光で三番目の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記三番目の照射持続時間に起因する三番目の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての照射持続時間に対して前記収集された散乱光から集約されたラマンスペクトルデータを決定するが、前記集約されたラマンスペクトルデータの前記決定から、検出器の飽和を示す前記スペクトルデータを除外するステップと;
をさらに含み、
前記鉱物試料を照射するステップにおいて、前記三番目の照射持続時間の時間期間は、前記一番目または前記二番目の照射持続時間よりも少ない、
付記1または2に記載の方法。
【0148】
(付記4)
前記一番目のスペクトルデータまたは前記二番目以上のスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示さない場合は、
単色光で四番目の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記四番目の照射持続時間に起因する四番目の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての照射持続時間に対して前記収集された散乱光から前記集約されたラマンスペクトルデータを決定するステップと;
をさらに含み、
前記鉱物試料を照射するステップにおいて、前記四番目の照射持続時間の時間期間は、前記一番目の照射持続時間または前記二番目以上の照射持続時間よりも大きい、
付記1または2に記載の方法。
【0149】
(付記5)
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行するステップはさらに、
前記集約されたラマンスペクトルデータの信号対ノイズ比を決定することと;
前記信号対ノイズ比を信号対ノイズ比の最小と比較することと;
前記信号対ノイズ比が前記信号対ノイズ比の最小を下回る場合には、前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記五番目以上の照射持続時間に起因する五番目以上の散乱光を収集することと;
前記集約されたラマンスペクトルデータを決定し、前記集約されたラマンスペクトルデータの前記信号対ノイズ比が前記信号対ノイズ比の最小と等しいかそれ以上になるまで、前記集約されたラマンスペクトルデータの前記信号対ノイズ比を決定することと;
を含む、付記1または2に記載の方法。
【0150】
(付記6)
前記単色光が約400nmから約425nmの範囲内の波長を有する、
付記1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0151】
(付記7)
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器は、約100cm-1から約1400cm-1のラマンシフト範囲を検出するように適合される、
付記1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0152】
(付記8)
鉱物のラマンスペクトルを決定する方法であって、
初期露光時間、信号対ノイズ比の目標値、および最大露光時間を受信するステップと;
前記最大露光時間と等しいブランク照射持続時間だけ、試料が入っていない試料ホルダー領域を、ある波長を有する単色光で照射するステップと;
少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記ブランク照射持続時間に起因するブランク散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての分光計強度を前記露光持続時間で除して前記ブランク散乱光に対応するブランクスペクトルデータを決定してすべての強度を毎秒計数として記録するステップと;
前記ブランクスペクトルデータをメモリ内に格納するステップと;
前記ブランク照射持続時間だけ試料が入っていない前記試料ホルダー領域を照射するために使用された前記単色光の波長と同一の波長を有する単色光で、前記初期露光時間と等しい一番目の照射持続時間だけ、前記試料ホルダー領域内の鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて、前記一番目の照射持続時間に起因する一番目の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての分光計強度を前記露光持続時間で除して前記一番目の散乱光に対応する一番目のラマンスペクトルデータを決定しすべての強度を毎秒計数として記録するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記格納されたブランクスペクトルを差し引くことにより前記ブランクスペクトルデータにより調整された前記一番目のスペクトルデータを用いて真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
を含む、方法。
【0153】
(付記9)
前記ブランク照射持続時間だけ試料が入っていない前記試料ホルダー領域を照射するために使用された前記単色光の波長と同一の波長を有する単色光で、二番目以上の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記二番目の照射持続時間に起因する二番目以上の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、すべての分光計強度を秒単位ごとの計数において記録しながら、前記二番目以上の散乱光に対応する二番目以上のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目の、前記二番目の、および任意の付加的な照射持続時間に対する前記記録された強度の平均を計算することにより、前記鉱物試料の平均ラマンスペクトルを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記格納されたブランクスペクトルを差し引くことにより前記ブランクスペクトルデータにより調整された、前記一番目のスペクトルデータと前記二番目以上のスペクトルデータとの平均を使用して真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
をさらに含む、付記8に記載の方法。
【0154】
(付記10)
前記一番目のスペクトルデータまたは前記二番目以上のスペクトルデータが前記散乱光を受信するために使用された検出器の飽和を示す場合は、
単色光で三番目の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記三番目の照射持続時間に起因する三番目の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記三番目の散乱光に対応する前記三番目のラマンスペクトルデータを決定しすべての分光計強度を秒単位ごとの計数において記録するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目、前記二番目の、および任意の付加的な照射持続時間に対する前記記録された強度の平均を計算するが、前記平均ラマンスペクトルデータの決定から、検出器の飽和を示すスペクトルデータを除外することにより、前記鉱物試料の前記平均ラマンスペクトルを決定するステップと;
をさらに含み、
前記鉱物試料を照射するステップにおいて、前記三番目の照射持続時間が前記一番目の照射持続時間かまたは前記二番目の照射持続時間よりも小さい、
付記8または9に記載の方法。
【0155】
(付記11)
前記信号対ノイズ比の目標値が条件を満たさず、前記一番目のスペクトルデータまたは二番目以上のスペクトルデータが少なくとも1つのピークの存在を示さない場合は、
単色光で四番目の照射持続時間だけ前記鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて前記付加的な照射持続時間に起因する付加的な散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記付加的な散乱光に対応する前記付加的なラマンスペクトルを決定しすべての光学計強度を秒単位ごとの計数において記録するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記一番目の、前記二番目の、および任意の照射持続時間に対する前記記録された強度の平均を計算することにより、前記鉱物試料の前記平均ラマンスペクトルを決定するステップと;
をさらに含み、
前記鉱物試料を照射するステップにおいて、前記四番目の照射持続時間は前記一番目の照射持続時間または前記二番目以上の照射持続時間よりも大きい、
付記8または9に記載の方法。
【0156】
(付記12)
前記一番目のスペクトルデータおよび前記二番目以上のスペクトルデータの平均の信号対ノイズ比を決定するステップと;
前記信号対ノイズ比を前記信号対ノイズ比の目標値とを比較するステップと;
前記信号対ノイズ比が前記信号対ノイズ比の目標値を下回る場合は、前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて、前記五番目以上の照射持続時間に起因する五番目以上の散乱光を収集するステップと;
秒単位ごとの計数においてすべての光学計強度を記録するステップと;
前記平均ラマンスペクトルデータを決定することと、前記平均ラマンスペクトルデータの前記信号対ノイズ比が前記信号対ノイズ比の目標値に等しいかまたは大きくなるまで、前記平均ラマンスペクトルデータの前記信号対ノイズ比を決定するステップと;
をさらに含む、付記8または9に記載の方法。
【0157】
(付記13)
試料が入っていない前記試料ホルダー領域を前記ブランク照射持続時間だけ照射するために使用された前記単色光の波長と同一の波長を有する単色光で、別の照射持続時間だけ、前記試料ホルダー領域内の別の鉱物試料を照射するステップと;
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器を用いて、前記別の照射持続時間に起因する別の散乱光を収集するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記別の散乱光に対応する別のスペクトルデータを決定するステップと;
デジタルコンピュータ内のソフトウェアを実行して、前記格納されたブランクスペクトルを差し引くことにより前記ブランクスペクトルデータにより調整された前記別のスペクトルデータを用いて、真のラマンスペクトルデータを決定するステップと;
をさらに含む、付記8に記載の方法。
【0158】
(付記14)
前記単色光が約400nmから約425nmの範囲内の波長を有する、
付記8~13のいずれか1つに記載の方法。
【0159】
(付記15)
前記少なくとも1つのラマン分光計検出器は、約100cm-1から約1400cm-1のラマンシフト範囲を検出するように適合される、
付記8~13のいずれか1つに記載の方法。
【0160】
(付記16)
鉱物のラマンスペクトルから鉱物を同定するための方法であって、
未知の鉱物のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
以下のステップを介して、前記ラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較するステップと;を含み、
ここで、以下のステップは、
一致ピーク項と欠損ピークペナルティ項との両方を含む式を用いて、前記未知の鉱物のラマンスペクトルデータと比較した各参照スペクトルに対する同定スコアを算出するステップと;
前記計算された同定スコアを降順にソーティングするステップと;
ユーザにより目視観察(view)するために、前記ソーティングされた同定スコアを出力するステップと;
である方法。
【0161】
(付記17)
前記未知の鉱物のラマンスペクトルは、連続バックグラウンドが事前に除去されてその最も強度の高いピークに対して強度正規化された真のラマンスペクトルである、
付記16に記載の方法。
【0162】
(付記18)
前記同定スコアは、次式を用いて決定され、
【数10】
ここで、
【数11】
は前記一致ピーク項であり、
【数12】
は前記欠損ピークペナルティ項であり、aiおよびbiはそれぞれ、ラマンシフトのi番目の値での前記未知のスペクトルデータおよび前記参照スペクトルの強度で、VとUはユーザが選択可能なパラメータである、
付記16または17に記載の方法。
【0163】
(付記19)
鉱物のラマンスペクトルから鉱物を同定する方法であって、
未知の鉱物のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
前記ラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較して前記ラマンスペクトルデータが前記1つ以上の参照スペクトルに対応するかどうかを決定するステップと;を含み、
ここで、前記1つ以上の参照スペクトルは、既知の鉱物のラマンスペクトルの数学的なモデルにより決定されたノイズなしの参照スペクトルデータである、
方法。
【0164】
(付記20)
材料のラマンスペクトルから材料を同定するための方法であって、
未知の材料の真のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
以下のステップを介して、前記真のラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較するステップと;を含み、
ここで、以下のステップは、
一致ピーク項と欠損ピークペナルティ項との両方を含む式を用いて、前記未知の材料の真のラマンスペクトルデータと比較した各参照スペクトルに対する同定スコアを算出するステップと;
前記計算された同定スコアを降順にソーティングするステップと;
ユーザにより目視観察(view)するために、前記ソーティングされた同定スコアを出力するステップと;
である方法。
【0165】
(付記21)
前記未知の材料のラマンスペクトルは、連続バックグラウンドが事前に除去されてその最も強度の高いピークに対して強度正規化された真のラマンスペクトルである、
付記20に記載の方法。
【0166】
(付記22)
前記同定スコアは、次式を用いて決定され、
【数13】
ここで、
【数14】
は前記一致ピーク項であり、
【数15】
は前記欠損ピークペナルティ項であり、aiおよびbiはそれぞれ、ラマンシフトのi番目の値での前記未知のスペクトルデータおよび前記参照スペクトルの強度で、VとUはユーザが選択可能なパラメータである、
付記20または21に記載の方法。
【0167】
(付記23)
材料のラマンスペクトルから材料を同定する方法であって、
未知の材料のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
前記ラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較して前記ラマンスペクトルデータが前記1つ以上の参照スペクトルに対応するかどうかを決定するステップと;を含み、
ここで、前記1つ以上の参照スペクトルは、既知の材料のラマンスペクトルの数学的なモデルにより決定されたノイズなしの参照スペクトルデータである、
方法。
【0168】
(付記24)
少なくとも1つのプロセッサによりアクセス可能なコンピュータ可読媒体であって、該媒体は、前記少なくとも1つのプロセッサにより実行可能なソフトウェア命令を含み、該ソフトウェア命令は、
未知の材料の真のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
以下のステップを介して、前記真のラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較するステップと;を実行させ、
ここで、以下のステップは、
一致ピーク項と欠損ピークペナルティ項との両方を含む式を用いて、前記未知の材料の真のラマンスペクトルデータと比較した各参照スペクトルに対する同定スコアを算出するステップと;
前記計算された同定スコアを降順にソーティングするステップと;
ユーザにより目視観察(view)するために、前記ソーティングされた同定スコアを出力するステップと;
であるコンピュータ可読媒体。
【0169】
(付記25)
前記未知の材料のラマンスペクトルは、連続バックグラウンドが事前に除去されてその最も強度の高いピークに対して強度正規化された真のラマンスペクトルである、
付記24に記載のコンピュータ可読媒体。
【0170】
(付記26)
前記同定スコアは、次式を用いて決定され、
【数16】
ここで、
【数17】
は前記一致ピーク項であり、
【数18】
は前記欠損ピークペナルティ項であり、aiおよびbiはそれぞれ、ラマンシフトのi番目の値での前記未知のスペクトルデータおよび前記参照スペクトルの強度で、VとUはユーザが選択可能なパラメータである、
付記24または25に記載のコンピュータ可読媒体。
【0171】
(付記27)
少なくとも1つのプロセッサによりアクセス可能なコンピュータ可読媒体であって、該媒体は、前記少なくとも1つのプロセッサにより実行可能なソフトウェア命令を含み、該ソフトウェア命令は、
未知の材料のラマンスペクトルデータをコンピュータメモリ内に受信するステップと;
前記ラマンスペクトルデータを1つ以上の参照スペクトルと比較して前記ラマンスペクトルデータが前記1つ以上の参照スペクトルに対応するかどうかを決定するステップと;を実行させ、
ここで、前記1つ以上の参照スペクトルは、既知の材料のラマンスペクトルの数学的なモデルにより決定されたノイズなしの参照スペクトルデータである、
コンピュータ可読媒体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
【国際調査報告】