(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(54)【発明の名称】脱細胞化及び再細胞化人工臓器移植片の封止
(51)【国際特許分類】
A61L 27/34 20060101AFI20221020BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20221020BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20221020BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20221020BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
A61L27/34
A61L27/36 400
A61L27/38 100
A61L27/52
A61L27/54
A61L27/36 320
A61L27/38 120
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511024
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(85)【翻訳文提出日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 US2020046963
(87)【国際公開番号】W WO2021034911
(87)【国際公開日】2021-02-25
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517335857
【氏名又は名称】ミロマトリックス メディカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】カタネ、アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ロス、ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィドフ、ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】リースグラフ、ショーン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081AB12
4C081BA16
4C081BB07
4C081BB08
4C081CA022
4C081CA032
4C081CA052
4C081CA062
4C081CA182
4C081CC05
4C081CD012
4C081CD112
4C081CD122
4C081CD152
4C081CD25
4C081CD34
4C081DA11
4C081DA12
4C081DA15
(57)【要約】
本開示は、脱細胞化及び再細胞化人工臓器移植片を封止する方法を提供することによって、補強(強化)された脱細胞化及び再細胞化人工臓器移植片を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱細胞化された哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の外側繊維層の多孔性を低下させる方法であって、
脱細胞化細胞外マトリックスを含む外面を含むとともに脱細胞化細胞外マトリックス血管樹を含む前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスであって、前記臓器又は組織又はそれらの一部の前記脱細胞化細胞外マトリックスに導入された流体のうち全てでないが大部分を保持する前記臓器又は組織又はそれらの一部の前記脱細胞化細胞外マトリックスを準備することと、
前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の前記脱細胞化細胞外マトリックスの前記外面上に生体適合性の被覆を形成する量の少なくとも一つの作用因子を含む組成物に、前記外面を接触させることとを含み、前記被覆は、前記組成物に接触させられていない脱細胞化細胞外マトリックスおよび脱細胞化細胞外マトリックス血管樹を含む外面を含む前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の対応する脱細胞化細胞外マトリックスに対して、前記脱細胞化細胞外マトリックス血管樹に導入された流体の保持性を増加させる効果のあるものである、方法。
【請求項2】
前記哺乳類は、ブタ、ウシ、ヒツジ又はヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記臓器は、肝臓、心臓、脾臓、膵臓、膀胱、腎臓、小腸、大腸、胃、骨、脳、又は肺である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物は、粉末、ゲル、又は液体である、請求項1から3のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物の前記量は、前記哺乳類の臓器又は組織の前記脱細胞化細胞外マトリックスの機械的可撓性又は強度を高める、請求項1から4のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
脱細胞化臓器又は組織の管、腔又は一つ以上の血管に細胞群を導入することをさらに含む、請求項1から5のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞は、前記外面を前記組成物に接触させる前に導入される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞は、前記外面を前記組成物に接触させた後に導入される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物は、癒着形成を低減させる作用因子を含む、請求項1から8のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記外面を、癒着形成を低減させる作用因子を含む組成物と接触させることをさらに含む、請求項1から8のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記作用因子は、ポリプロピレンを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記作用因子は、ラミニン、基底膜基質又はコラーゲンIVを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物は、前記外面に噴霧、はけ塗、又は塗布される、請求項1から12のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記臓器又は組織は、前記組成物中に浸漬される、請求項1から12のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記接触により、前記外面上の分子の架橋が生じる、請求項1から14のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記作用因子は酵素である、請求項1から15のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記酵素は、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ又はオキシドレダクターゼを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記酵素は、トランスグルタミナーゼを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも一つの作用因子に架橋される前記外面上の分子は、コラーゲンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物は光架橋剤を含む、請求項1から19のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記外面は、さらに光架橋剤と接触される、請求項1から19のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記光架橋剤はポリマを含む、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記外面は、ポリビニルピロリドン又はフォトポリビニルピロリドンと接触される、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項24】
前記外面は、ポリ(エチレン)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、無水マレイン酸及び/又は無水フタル酸とスチレンとのコポリマ、及び桂皮酸由来のいくつかのポリマと接触される、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項25】
前記外面は、ベンゾフェノンと接触され、備える、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物は、一つ以上のアミノ酸を含む、請求項20から25のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物は、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、ラミニン、RGD、又はIV型コラーゲンを含む、請求項1から25のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも一つの作用因子は、二官能性架橋剤を含む、請求項1から27のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物は、ゼラチン、寒天又はカラギーナンを含む、請求項1から28のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物はコラーゲンを含む、請求項1から29のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
請求項1から30のうちいずれか一項に記載の方法によって作製された製品。
【請求項32】
哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の外面の多孔性を低下させる方法であって、
外面、血管樹及び細胞を含んだ、哺乳類の臓器又は組織、またはそれらの一部を準備することと、
前記臓器又は組織又はそれらの一部の前記外面を、前記外面上に被覆を形成する量の少なくとも一つの作用因子を含む組成物と接触させることとを含み、前記被覆は、前記組成物にさらす前の対応する臓器又は組織又はそれらの一部に導入された流体に対して、前記臓器又は組織内の流体の保持性を増加させる効果のあるものである、方法。
【請求項33】
前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部は、脱細胞化及び再細胞化されていない、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部は、脱細胞化及び再細胞化済みである、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記哺乳類は、ブタ、ウシ、ヒツジ又はヒトである、請求項32、33又は34のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記臓器は、肝臓、心臓、脾臓、膵臓、膀胱、腎臓、小腸、大腸、胃、骨、脳、又は肺である、請求項32から35のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物は、粉末、ゲル又は液体を含む、請求項32から36のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物の前記量は、前記哺乳類の臓器又は組織の脱細胞化細胞外マトリックスの機械的可撓性又は強度を高める、請求項32から請求項37のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記組成物は、癒着形成を低減させる作用因子を含む、請求項32から38のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記外面を、癒着形成を低減させる作用因子を含む組成物と接触させることをさらに含む、請求項32から39のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記作用因子はポリプロピレンを含む、請求項39又は40に記載の方法。
【請求項42】
前記作用因子は、ラミニン、基底膜基質又はコラーゲンIVを含む、請求項39又は40に記載の方法。
【請求項43】
前記組成物は、前記外面上に噴霧される、請求項32から42のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記臓器又は組織は、前記組成物中に浸漬される、請求項32から43のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記接触により、前記外面上の分子の架橋が生じる、請求項32から44のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記作用因子は酵素である、請求項32から45のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記酵素は、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ又はオキシドレダクターゼを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記酵素はトランスグルタミナーゼを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記少なくとも一つの作用因子に架橋される前記外面上の分子は、コラーゲンを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
前記組成物は光架橋剤を含む、請求項32から49のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記外面は、さらに光架橋剤と接触される、請求項32から49のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記光架橋剤はポリマを含む、請求項50又は51に記載の方法。
【請求項53】
前記外面はポリビニルピロリドン又はフォトポリビニルピロリドンと接触される、請求項50又は51に記載の方法。
【請求項54】
前記外面は、ポリ(エチレン)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、無水マレイン酸及び/又は無水フタル酸とスチレンとのコポリマ、及び桂皮酸由来のいくつかのポリマと接触される、請求項50又は51に記載の方法。
【請求項55】
前記外面は、ベンゾフェノンと接触され、備える、請求項50又は51に記載の方法。
【請求項56】
前記組成物は、一つ以上のアミノ酸を含む、請求項32から55のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記組成物は、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、ラミニン、RGD又はIV型コラーゲンを含む、請求項32から56のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記少なくとも一つの作用因子は、二官能性架橋剤を含む、請求項32から57のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記組成物は、ゼラチン、寒天又はカラギーナンを含む、請求項32から58のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記組成物はコラーゲンを含む、請求項32から58のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
請求項32から60のうちいずれか一項に記載の方法によって作製された製品。
【請求項62】
再細胞化臓器又は組織又はそれらの一部の前記外面を、前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の再細胞化細胞外マトリックスの前記外面上に生体適合性の被覆を形成する量の少なくとも一つの作用因子を含む組成物と接触させることをさらに含む、請求項6から8のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記被覆された臓器又は組織又はそれらの一部を脱細胞化することをさらに含む、請求項32から60のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記脱細胞化臓器又は組織又はそれらの一部の外面を、前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスの外面上に生体適合性の被覆を形成する量の少なくとも一つの作用因子を含む組成物と接触させることをさらに含む、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
脱細胞化された哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の外側繊維層の多孔性を低下させる方法であって、
脱細胞化細胞外マトリックス血管樹を含む哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスの外面であって、前記臓器又は組織又はそれらの一部の前記脱細胞化細胞外マトリックスは、そこに導入された流体のうち全てではないが大部分を保持するものである、前記外面を、
前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスの外面上に生体適合性の被覆を形成する量の少なくとも一つの作用因子を含む組成物と接触させることを含み、前記被覆は前記組成物に接触されていない脱細胞化細胞外マトリックスおよび脱細胞化細胞外マトリックス血管樹を含む外面を含む前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の対応する脱細胞化細胞外マトリックスに対して、前記脱細胞化細胞外マトリックス血管樹へ導入された流体の保持性を増加させる効果のあるものである、方法。
【請求項66】
前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の前記被覆された脱細胞化細胞外マトリックスを再細胞化することをさらに含む、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の再細胞化され被覆された細胞外マトリックスの外面を、前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の再細胞化細胞外マトリックスの外面上に生体適合性の被覆を形成する量の少なくとも一つの作用因子を含む組成物に接触させることをさらに含む、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の外面の多孔性を低下させる方法であって、
血管樹及び細胞を含んだ哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の外面を、前記外面上に被覆を形成する量の少なくとも一つの作用因子を含む組成物と接触させることを含み、前記被覆は、前記組成物にさらす前の対応する臓器又は組織又はそれらの一部に導入された流体に対して、前記臓器又は組織中の流体の保持性を増加させる効果のあるものである、方法。
【請求項69】
前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の前記被覆された脱細胞化細胞外マトリックスを脱細胞化することをさらに含む、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスの外面を、前記哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスの外面上に生体適合性の被覆を形成する量の少なくとも一つの作用因子を含む組成物と接触させることをさらに含む、請求項69に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
結合組織の主要分類は、固有結合組織、支持組織及び液状組織である。疎性固有結合組織は、脂肪組織、疎性結合組織、及び細網組織を含む。これらは臓器及び他の組織を適所に保持するとともに、脂肪組織の場合にはエネルギー貯蓄を分離及び保存する働きをする。脂肪組織は細胞外マトリックスをあまり有しないが、マトリックスは疎性組織にとって最も豊富な特徴である。密性固有結合組織は、繊維がより豊富であるとともに、規則的であって靱帯及び腱におけるように繊維が平行に配向されているか、又は不規則であって繊維が様々な方向に配向されていてもよい。臓器被膜(コラーゲン型)は密性不規則結合組織を含む。密性結合組織は、引張強度、弾性、及び保護を与える繊維の束によって補強される。医師は、移植中に損傷したドナー臓器表面に直面すると、商業的に入手可能であるバイオグルー、フィブリンシーラント、止血スポンジ、及び例えばサージフォーム又はティシールのような他の解決策を適用することによって出血を治療することがある。さらに肝臓損傷からの出血は、それらが手術前又は手術中の外傷が原因で発生したか否かに関わらず、ゼラチンゲルフォーム、酸化セルロース、微小繊維コラーゲン、トロンビン、ゼラチンを伴ったトロンビン、又はフィブリンシーラントによって治療され得る。
【発明の概要】
【0002】
本開示は、生物工学によって作製された脱細胞化臓器又は組織又はそれらの一部であって、強度、伸張性、弾性、摩耗耐性、弾性係数、及び/又は多孔性のような特徴が生来の臓器又は組織の外側繊維層と類似しているか又は当該外側繊維層よりも強化された強化(補強)外層(非繊維コラーゲンよりも繊維コラーゲンを多く有する実質とは対照的に、一実施形態では少なくとも50%が非繊維コラーゲンである組成を有する外側細胞外マトリックスを含む外側繊維層)になるよう修飾された、例えば封止部を付与するよう被覆された、脱細胞化臓器又は組織又はそれらの一部を提供する。一実施形態では修飾された外層は、対応する生来の臓器又は組織の外側繊維層に対して増加した強度、増加した伸張性、増加した弾性、増加した摩耗耐性、増加した弾性係数、及び/又は低下した多孔性を有する。本開示はまた、生物工学によって作製された再細胞化臓器又は組織又はそれらの一部を提供する。当該臓器又は組織又はそれらの一部は、生来の臓器又は組織の外側繊維層と同様の又は当該外側繊維層に比べて強化された特徴を有する強化外層を有するように修飾される。生物工学によって作製された脱細胞化又は再細胞化臓器又は組織又はそれらの一部は、例えば水溶性液体、粉末又はゲル組成物等の生体適合性の組成物と接触され、当該組成物は、臓器又は組織又はそれらの一部の表面上に被覆された時にその外表面を、また存在すれば例えばその部分のどんな端縁をも封止する一つ以上の作用因子を有する。そのため、当該臓器又は組織又はそれらの一部の血管系内に外因的に導入及び/又は循環される水溶性液体は、対応する組成物と接触されていない臓器又は組織又はそれらの一部内に導入及び/又は循環された場合よりも大幅に、例えば少なくとも5%、10%又はそれ以上の保持性にて臓器又は組織又はそれらの一部内に保持される。一実施形態では、例えば生理学的圧力と同等かそれ以上のものと任意に対応する流れで、あるいはその圧力の二倍又は三倍の圧力、例えば5から10mmHg(0.67から1.33kPa)、10から22mmHg(1.33から2.93kPa)、20から40mmHg(2.67から5.33kPa)、50から60mmHg(6.67から8.00kPa)、60から100mmHg(8.00から13.3kPa)、100から150mmHg(13.3から20.0kPa)又はそれ以上の圧力が、液体の保持性を比較するために使用される。修飾された外表面(外面)は、非修飾の外表面よりも、外表面を横切る流体の移動を大幅に阻止する。従って液体に印加される圧力は、生理学的圧力、又は限定されないが、固有圧力の5%、7%、10%、20%、50%又は100%増以上を含むより大きな圧力であり得る。例えばもし生来の肝臓における生理学的圧力が約8から12mmHg(1.07から1.60kPa)であるならば、少なくとも8から12mmHg(1.07から1.60kPa)、例えば少なくとも14から18mmHg(1.87から2.40kPa)の圧力を受ける強化(補強)外層を有する肝臓に導入された液体は、対応する強化外層を有しない肝臓よりも大幅に肝臓内に保持されるであろう。肝臓への液体の門脈送達のための生理学的圧力は、約6から約10mmHg(0.80から1.33kPa)である。肺への液体の送達のための生理学的圧力は、約12から14mmHg(1.60から1.87kPa)である。動脈流のための生理学的圧力は、約80から120mmHg(10.7から16.0kPa)であり、静脈供給のための生理学的圧力は、約8から14mmHg(1.07から1.87kPa)である。従って臓器の強化外層は、少なくとも生理学的圧力はもとより生理学的圧力よりも高い圧力においても、対応する臓器の強化されていない外層と比べて、高い液体保持性を有することになる。一実施形態では組成物と接触されていない臓器の乾いた外面と比較して、組成物と接触後の臓器の乾いた外面上では、導入された水溶性液体の液滴形成はわずかである。一実施形態では組成物と接触されていない臓器に対して組成物と接触後の臓器からの、導入された水溶性液体の例えば経時的な漏れ(体積)は少ない。一実施形態では組成物はゲルでありその中の作用因子は、外表面(外面)上の分子が互いに直接又は間接的に架橋をもたらす。一実施形態では架橋は、pH又は温度における変化の結果として起こる。一実施形態では作用因子は、例えばUV光が架橋開始のために用いられるような、光によって活性化される架橋剤である。一実施形態では組成物は、例えば生体適合性の組成物質又はタンパク質を含む天然ポリマ等のポリマを含み、そのポリマは、臓器又は組織又はそれらの一部の外表面上の分子、及び任意に他のポリマ分子に架橋される。一実施形態ではポリマは、例えば、限定ではないが、ブタの真皮コラーゲン又はそこに由来するゼラチンを含み、任意にウシコラーゲンを含まないヒト又はブタのコラーゲンのような例えば哺乳類のコラーゲン等のコラーゲンを含む。このコラーゲンは、例えば100から10,000Da、10,000から100,000Da、又は100から500kDa等いかなる分子量でもよい。一実施形態では組成物は、例えばトランスグルタミナーゼであるトランスフェラーゼ、例えばペプチダーゼであるヒドロラーゼ、イシルオキシダーゼ、チロシナーゼ、ラッカーゼ又はペルオキシダーゼのようなオキシドレダクターゼ、又はプリルヒドロキシラーゼのようなヒドロキシラーゼ等の酵素を含む。一実施形態では組成物は、修飾(被覆)された臓器又は組織又はそれらの一部が移植された場合に、癒着形成を低減させる作用因子を含み得る。一実施形態では例えばラミニン又はコラーゲンIV等の癒着形成を低減させる作用因子は、臓器又は組織又はそれらの一部が組成物によって被覆された後に塗布され得る。一実施形態では癒着形成を低減させる例えばポリプロピレンを含む作用因子等の作用因子は、平滑面を提供する。一実施形態では組成物は、親水性ポリマからなる。一実施形態では組成物は、疎水性ポリマを含む。一実施形態では修飾は、例えばボールバースト、引張強度、引裂試験、及び/又は液体漏出によって測定され得る外側繊維層の機械的特性を変化させる。
【0003】
このように、脱細胞化された哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の外側繊維層の多孔性(例えばそこからの流体流出)を低下させるための方法が提供される。本方法は、外側の臓器表面を通した流体の損失なくより高い圧力を維持できる組織又は臓器又はその一部の開発を可能にし得る。本方法は、脱細胞化細胞外マトリックスを含む外面を含むとともに脱細胞化細胞外マトリックス血管樹を含む哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスであって、前記臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックス血管樹に導入された流体のうち全てではないが大部分を保持するものである前記脱細胞化細胞外マトリックスを準備することを含む。少なくとも一つの外面は、生体外において、哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスの外面上に、脱細胞化臓器又は組織又はそれらの一部に導入された流体の保持性を増加させる効果のある生体適合性の被覆を形成する量の少なくとも一つの作用因子を含む組成物にさらされるか、又は接触させられる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】表面を封止及び補強するために肝臓の細胞外マトリックスの表面に架橋された、ゼラチンを基にした物質の被覆を示す。前記物質は表面領域を不均一に覆うことができる。
【
図2】架橋した物質が、細胞外マトリックスの表面上において伸長及び屈曲可能であることを示す。これは、強化物質が、培養、運搬、移植、及び治療の間に作業者によって取扱いできるほどの機械的特性を有することを示す。
【
図3】摘出されたブタの肝臓の表面上の典型的な補強/強化組成物の被覆を示す。肝臓の表面全体は、被膜を封止及び強化するために組成物の薄い層によって覆われている。図は、組成物が架橋後に肝臓の表面に付着し、外側被膜の表面と共に屈曲及び伸長可能であることを示す。
【
図4】約350mL/minのDI水によって灌流されることで被膜の表面を介して漏れを呈示した脱細胞化肝臓移植片を示す。これは、被膜の表面上のDI水の液滴形成によって明らかである。
【
図5】移植片の表面にUV架橋されたゼラチン物質によって処理されることで強化/封止された表面を有する脱細胞化肝臓移植片を示す。これは約350mL/minのDI水によって灌流されているが、外表面を介した液体の漏れはない。
【
図6】ポリマ被覆された及び被覆されていない脱細胞化ブタ肝臓(被覆され、脱細胞化され、かつヒト内皮細胞によって再細胞化された)を、生来の門脈流に従って350mL/minの一定流量にて生体外において血液ループに供した。生体外における血液ループの間、肝臓移植片は80mg/hを超えるグルコース消費速度をもって開存したままであった。(UV光にさらされると架橋をもたらすベンゾフェノンを基にしたポリマによって)被覆された移植片は、被覆されていない移植片と比較して外側被膜を介する流体移動量を減少させた。これらの肝臓は、開存性評価及び臓器の効果的な被覆の検証ができるよう脱細胞化されかつヒト内皮細胞によって再細胞化されたものである。
【
図7】ポリマ被覆された及び被覆されていない再細胞化ブタ腎臓(脱細胞化され、被覆され、かつ再細胞化された)は、腎臓動脈及び腎臓静脈の直接吻合を通してブタ内に移植された。再灌流後、被覆された移植片は、被覆されていない腎臓と比較して外表面を介する流体移動量を減少させた。
【
図8】脱細胞化された、被覆された及び被覆されていないブタ肝臓移植片の平均漏出速度(mL/min、15mmHg(2.00kPa)において)である。漏出速度は、蓋つき容器及び血液より粘度の低い標準的なPBS溶液を使用して15mmHg(2.00kPa)の圧力において計算される。被覆された脱細胞化肝臓は、被覆されていない脱細胞化移植片と比較して漏出速度において有意な減少を示した。ポリマ被覆は、脱細胞化の前に新たに分離された肝臓に塗布された。被覆は頑丈であったため、脱細胞化プロセスを通して外面に付着したままであった。
【発明を実施するための形態】
【0005】
臓器又は組織の境界及び外表面(いくつかの場合にはこれは被膜として言及される)は重要な役割を果たす。その役割は脱細胞化後に欠損されることがある。例えば脱細胞化プロセス中に臓器の境界又は表面の完全性は、例えば外表面近くの細胞の除去、あるいは臓器又は組織のバルク特性を低下させる内側細胞の不足が原因となって低下する。これは、脱細胞化臓器又は組織移植片が、灌流の際に液体が浸透(漏出)しやすいものとなったり、低下した機械的強度又は可撓性を有するものとなったり、亀裂を生じやすいものとなったり、又は損なわれた取扱特性を有することにつながり得る。例えばそのため、非修飾の脱細胞化臓器又は組織を破裂させることは容易である。生理学的に適合可能であるために人工臓器移植片は、外側への漏出なく血管内の血液の内部流を保持できる外表面を有するのがよい。従って特に灌流脱細胞化を受けるならば脱細胞化臓器の外表面は、肉眼的に損傷がないか又は実質的に損傷がないままであっても、最外細胞層の除去は、もし流体が脱細胞化血管系に導入されるなら、外側への少なくともいくつかの漏出につながり得る。本開示は、例えば移植の成功につながる、弾力のある取扱特性及び設置特性を有する人工臓器又は組織移植片の外表面を提供する。一実施形態ではこれは、追加の化学物質層を成膜することや、又は例えば細胞外マトリックスの外層を架橋する等の移植片を強化できる細胞表面上の分子又は細胞表面上に追加された分子を例えばリンカーによって架橋することにより、移植片の外側を強化及び/又は封止することによって達成され得る。このように本開示は、脱細胞化及び再細胞化人工臓器移植片の補強、強化、及び/又は封止の方法を提供する。
【0006】
一実施形態では生物工学によって作製された臓器移植片の外側の強化は、脱細胞化移植片の外側を封止できる物質(化合物)を成膜することによって達成され得る。この物質は、粉末、液体、又はゲルの形状であり得る。成膜された物質は、架橋をもたらすものであってよい。この物質は、外表面(外面)全体に、又は完全性を有しないと予想されるその一部に塗布され得る。一旦臓器又は組織又はそれらの一部に塗布されると成膜された物質の層は、さらなる反応があってもなくても物理的なバリアとして働くため、従って漏出に対して臓器又は組織又はそれらの一部を封止し、及び/又は取扱特性を改善するために、例えば肝葉、心臓弁、肺葉、左心室、右心室、腎極等の臓器又は組織又はそれらの一部を強化する。一旦塗布されると臓器又は組織又はそれらの一部は、臓器又は組織又はそれらの一部が例えば一旦再細胞化された移植片/臓器の形状に適応するための屈曲及び伸長の範囲を有するように十分に頑丈である。成膜された層は、例えば培養/製造期間、搬送期間、及び/又は移植後全体を含むその後の取り扱いの間、移植片の表面に付着したままである。塗布された化合物(作用因子)及びその結果形成された層は、生体適合性であるため、移植できるとともに副作用を引き起こし得ない。これは、移植後の癒着形成を防止、抑制又は低減させるであろう修飾を含み得る。塗布された物質はまた、移植片の表面上の癒着形成を防止する分子を含み得る。
【0007】
一実施形態では成膜物質は、ゼラチン、又は例えばそれが塗布された臓器の種に合うもの等の、最初は流動可能であるが、その後一旦移植片の表面上に成膜されると硬化して付着するゼラチン様物質であり得る。流動可能物質は、限定されないが、ゼラチン、寒天又はカラギーナンを含み得る。一実施形態では物質は、移植片の表面上のコラーゲンとの架橋によって移植片の表面にそれが付着することを可能にする特性を有し得る。付加的な触媒の架橋作用因子は、限定されないが、トランスグルタミナーゼを含み得る。
【0008】
他の添加剤は、限定されないが、例えばポリビニルピロリドン、フォトポリビニルピロリドン、PEG、抗体、アミノ酸、又は例えばI型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、ラミニン、RGD、IV型コラーゲン等のタンパク質等のポリマを含む。
【0009】
流動可能成膜物質は、一つ以上の光反応性架橋剤、及び/又は例えばUV暴露によって移植片の表面上に架橋する第二の成分を含み得る。一実施形態ではUV暴露を伴う光反応性架橋剤は、溶液成分と移植片のコラーゲン表面との間に共有結合を誘導し得る。これにより溶液の成分が、移植片の表面に付着することにより移植片表面を強化及び封止することが可能となる。
【0010】
一実施形態では噴霧可能成膜物質は、一つ以上の光反応性架橋剤、及び/又は例えばUV暴露によって臓器又は組織の移植片の表面上に架橋する第二の成分を含み得る。架橋剤の硬化は、pH、化学物質、音、熱、光、水、又はレーザーによって開始され得る。物質は、スプレーノズル又はパワードスプレーヘッドの外に噴霧され得る。これにより、移植片の表面上に物質の均一な塗布が可能となる。
【0011】
臓器移植片は、一つ以上の光反応性架橋剤、又は移植片の表面上に架橋する第二の成分を含む組成物中に浸漬され得る。組成物はまた、例えばトランスグルタミナーゼ等のトランスフェラーゼ、例えばペプチダーゼ等のヒドロラーゼ、イシルオキシダーゼ、チロシナーゼ、ラッカーゼ又はペルオキシダーゼのようなオキシドレダクターゼ、又はプロリルハイドロオキシラーゼのようなハイドロオキシラーゼ等の酵素を含み得る。移植片は、架橋を可能にするために組成物中に浸漬されるとともに表面が硬化するようにUV暴露を受け得る。組成物のpHは、移植片が組成物中に浸漬された状態で移植片の表面を架橋するための酵素作用を活性化するために、変更され得る。
【0012】
一つ以上の酵素又は光架橋可能ポリマを含む粉末物質は、移植片の表面上に配置され得る。移植片の表面上の水分の存在により、粉末が溶液に溶解することが可能となり流動可能液体が表面上を覆うことが許容される。表面のpHにより、移植片の表面を架橋するための酵素作用が引き起こされ得る。一旦移植片の表面が覆われると移植片表面は、ポリマを互い及び移植片表面と架橋するために、UV照射を受け得る。
【0013】
脱細胞化及び再細胞化臓器を作製する一般的な方法
固形臓器は、「実質的に閉鎖した」血管系を有する臓器を指す。臓器に関して「実質的に閉鎖した」血管系は、液体による灌流において、液体の大部分は固体臓器内に含まれるとともに、主な血管がカニューレ挿入されるか、結紮されるか、又は別の方法で制限されることを仮定すれば、固形臓器の外に漏出しないことを意味する。「実質的に閉鎖した」血管系を有するにもかかわらず上に挙げた臓器の多くは、灌流中に臓器全体にわたって液体の導入及び移動のために有用である「入口」及び「出口」の血管を規定する。加えて、例えば関節(例えば膝、肩又は臀部)の全体又は一部、肛門、気管又は脊髄のような他の種類の血管新生臓器又は組織は、灌流脱細胞化され得る。さらに、例えば軟骨又は角膜のような無血管組織は、脚全体のような大きな血管新生構造の一部である時に脱細胞化され得る。
【0014】
組織又は臓器のECMの灌流脱細胞化は、例えば機能的細胞分化及び維持を可能にするための構造的、生化学的及び機械的特性を与える能力を有する、損傷のないEMCを提供する。臓器又は臓器のEMCの灌流脱細胞化は、損傷のない血管を含む構造的及び生化学的な刺激を有する損傷のないマトリックスを保護する点において浸漬よりも優れるが、明細書中に説明された組成物は、例えば2cm3を超える、及び/又は厚さが約2mmを超える厚さの脱細胞化臓器又は組織又はそれらの一部の灌流及び浸漬の両方に有効である。
【0015】
灌流脱細胞化は、損傷のない血管及び微小血管系を含む損傷のないマトリックス及び微小環境を保護するため、実質的に閉鎖した血管系を有する臓器の灌流脱細胞化されたマトリックスは、特に有用である。血管系は、栄養素、及び/又は分化因子又は維持因子だけでなく細胞を体外において細胞に送達するために利用され得る。細胞及び栄養素、及び/又は他の因子は、例えば注入、又は受動的手段、又はそれらの組み合わせ等の他の手段によって送達され得る。一実施形態では目的の細胞群は、灌流脱細胞化臓器のEMCの中に灌流されることによって、間質腔、又は血管の外側のマトリックスの中への播種が可能となる。これは、例えば膵臓マトリックス内における膵島構造へのベータ細胞のホーミング等の生来の微小構造への細胞の活発な移動及び/又はホーミングを含む。一実施形態では目的の細胞群が、灌流脱細胞化されたECM中に灌流され、続いて例えばベータ細胞群等の第二の細胞群、続いて内皮細胞群が灌流されるが、内皮細胞はそれらの生来の微小環境におけるように血管内に留まる。別の実施形態では二つ以上の細胞群が、混合され共に灌流される。別の実施形態では二つ以上の異なる細胞群が、灌流、直接注入、又は両方の組み合わせのうちいずれかによって連続的に導入される。例えば肝細胞は、灌流又は注入のうちいずれか一方によって灌流脱細胞化された肝臓マトリックスに導入され、続いて内皮細胞が播種される。別の実施形態では灌流脱細胞化された肝臓マトリックスは、内皮細胞及び上皮細胞を含む胎児肝臓細胞によって播種される。別の実施形態では胎児肝臓細胞がマトリックスに播種され、続いて内皮細胞が播種される。一実施形態では上皮性、内皮性及び間質性の系統を含む全ての肺細胞型の混合物を含む胎児肺細胞が、例えば分離された肺細胞のさらなる成熟をもたらす肺構造のような機能的な肺構造をつくるために、灌流脱細胞化された肺の肺血管系及び気道中への灌流によって播種される。一実施形態では例えばラット、ウサギ、マウス、モルモット又はフェレットのような小動物由来の灌流脱細胞化された心臓は、例えば薬剤試験のための鼓動する小型のヒト心臓を作製するために、部分的に分化したヒト心筋細胞、ヒト心臓線維芽細胞、ヒト平滑筋細胞、及びヒト内皮細胞によって灌流される。
【0016】
細胞は、細胞の増殖、代謝及び/又は分化を補助する培地の中に導入され得る。あるいは細胞がECMに生着した後に培地は、細胞の増殖、代謝及び/又は分化を補助するものに交換される。培養された細胞は、生理学的細胞密度にてECM内に、及び細胞の増殖、代謝及び/又は分化を補助する培地の存在下に存在してよく、及び/又はECM内の適切な微小環境は、細胞の維持及び/又は機能的分化を可能にしてよい。
【0017】
臓器又は組織の脱細胞化
脱細胞化は、一般的に以下の工程、例えば血管新生構造等の固体臓器又は組織の安定化、固体臓器又は組織の脱細胞化、固体臓器又は組織の再生及び/又は中和、固体臓器の洗浄、臓器上に残存するDNAの分解、臓器又は組織の消毒、及び臓器のホメオスタシスを含む。
【0018】
臓器血管新生構造又は組織の脱細胞化における最初の工程は、臓器又は組織にカニューレ挿入することである。臓器又は組織の血管、管及び/又は腔は、当技術分野で知られる方法及び材料を使用してカニューレ挿入され得る。次にカニューレ挿入された臓器血管新生構造又は組織は、細胞破砕培地によって灌流される。臓器を通る灌流は、多方向(例えば順方向及び逆方向)であり得る。
【0019】
心臓のランゲンドルフ灌流は、生理学的灌流(4チャンバーワーキングモード灌流としても知られている)として当技術分野において常用の手法である。例えば、Dehnert,The Isolated Perfused Warm-Blooded Heart According to Langendorff,In Methods in Experimental Physiology and Pharmacology:Biological Measurement Techniques V.Biomesstechnik-Verlag March GmbH,West Germany,1988を参照。
【0020】
簡潔に説明すると、ランゲンドルフ灌流では大動脈はカニューレ挿入され、特定の継続期間中、心臓が体外にて機能することを可能にする生理溶液を含む容器に取り付けられる。灌流脱細胞化を遂行するためのプロトコルは、例えば輸液ポンプ又はローラーポンプによって、又は一定の静水圧ポンプによって送達される一定の流速にて大動脈を下降するように逆方向に送達される細胞破砕培地を灌流するように修正された。どちらの例においても大動脈弁は強制的に閉じられ、灌流流体は、冠状動脈口に中に移動した後(それによって心臓の心室重量全体が順方向で灌流される)、冠状静脈洞を通って右心房の中に流れ出る。ワーキングモード灌流のために第二のカニューレは、左心房に連結されるとともに、灌流は、逆方向に変更される。
【0021】
一実施形態では生理溶液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。一実施形態では生理溶液は、例えば栄養補完剤(例えばグルコース)が追加された生理学的に適応可能な緩衝液である。例えば心臓において、生理溶液は、95%O2、5%CO2でガス処理した、118mM NaCl、4.7mM KCl、1.2mM MgSO4、1.2mM KH2PO4、25mM NaHCO3、11mMグルコース、1.75mM CaCl2、2.0mMピルビン塩酸及び5U/Lイヌリンを含む改変型クレブス-ヘンゼライト緩衝液、又は118mM NaCl、4.7mM KCl、25mM NaHCO3、1.2mM MgSO4、2mM CaCl2を含むクレブス緩衝液であり得る。心臓は、単一基質として、又は約1又は1.2mM パルミテートと共同して、グルコース(例えば約11mM)によって灌流され得る。腎臓では生理溶液は、KPS-1(登録商標)腎臓灌流溶液であり得る。肝臓では生理溶液は、118mM NaCl、4.7mM KCl、1.2mM MgSO4、1.2mM KH2PO4、26mM NaHCO3、8mMグルコース、1.25mM CaCl2を含む2%BSAが追加されたクレブス-ヘンゼライト緩衝液であり得る。
【0022】
他の臓器又は組織を灌流するための方法は、当技術分野で知られている。例として以下の参考文献は、肺、肝臓、腎臓、脳及び手足の灌流を説明している。Van Putte et al.,Ann.Thorac.Surg.,74(3):893(2002);den Butter et al.,Transpl.Int.,8:466(1995);Firth et al.,Clin.Sci.(Lond.),77(6):657(1989);Mazzetti et al.,Brain Res.,999(1):81(2004);Wagner et al.,J.Artif.Organs,6(3):183(2003)。
【0023】
一つ以上の細胞破砕培地が、臓器又は組織を脱細胞化するために使用され得る。細胞破砕培地は一般的に、限定されないが、SDS、PEG、CHAPS又はTritonXのような少なくとも一つの界面活性剤を含む。細胞破砕培地は、水を含み得るため、培地は浸透圧的に細胞と不適合である。あるいは、細胞破砕媒質は、浸透圧的に細胞と適合するための緩衝液(例えばPBS)を含み得る。細胞破砕培地はまた、限定されないが、一つ以上のコラゲナーゼ、一つ以上のディスパーゼ、一つ以上のDNase、又はトリプシンのようなプロテアーゼのような酵素を含み得る。いくつかの例では細胞破砕培地はまた、又は代わりに、一つ以上の酵素の阻害剤(例えばプロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、及び/又はコラゲナーゼ阻害剤)を含み得る。
【0024】
ある実施形態ではカニューレ挿入された臓器又は組織は、連続して二つの異なる細胞破砕培地によって灌流され得る。例えば第一の細胞破砕培地は、SDSのような陰イオン性界面活性剤を含み得るとともに、第二の細胞破砕培地は、TritonXのようなイオン性界面活性剤を含み得る。少なくとも一つの細胞破砕培地による灌流の後にカニューレ挿入された臓器又は組織は、例えば洗浄溶液及び/又は明細書中に開示された酵素のような一つ以上の酵素を含む溶液によって灌流され得る。灌流の方向(例えば順方向及び逆方向)を変更することによって、臓器又は組織全体の脱細胞化が支援され得る。脱細胞化は一般的に、内側から外側へ臓器を脱細胞化するため、ECMへの損傷は非常に少ない結果となる。臓器又は組織は、4℃と40℃との間の適切な温度にて脱細胞化され得る。臓器又は組織の大きさ及び重さ、及び細胞破砕培地中の特定の界面活性剤及び界面活性剤の濃度によって、臓器又は組織は一般的に、固体臓器又は組織(一般的に50gより大きい)1g当たり約0.05時間から約5時間、又は固体組織又は臓器の組織(一般的に50gより小さい)1g当たり約2時間から約12時間、細胞破砕培地によって灌流される。洗浄を含めて臓器は、固体臓器又は組織(一般的に50gより大きい)1g当たり最大約0.75時間から約10時間、又は組織(一般的に50gより小さい)1g当たり約12時間から72時間灌流され得る。脱細胞化時間は、全体の質量の範囲が制限されていれば、臓器又は組織の血管及び細胞密度に依存する。そのため一般的なガイダンスとして上記の時間の範囲及び質量が提供されている。灌流は一般的に、拍動流、率及び圧力を含む生理学的な状態に調整される。
【0025】
脱細胞化臓器又は組織は、血管樹の細胞外マトリックス(EMC)成分を含む臓器又は組織のうち全て又はほとんどの領域の細胞外マトリックス(ECM)成分を有する。EMC成分は、基底膜のような所定構造として組織されたままであり得る以下のフィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、エラスチン、コラーゲンファミリーの要素(例えばコラーゲンI、III及びIV)、成長因子及びサイトカインを含む成長タンパク質に関連するECM、グリコサミノグリカン、基質、細網繊維、及びトロンボスポンジンのうちのいくつか又は全てを含み得る。脱細胞化の成功は、組織切片に標準的な組織染色手順を用いて検出可能である筋フィラメント、内皮細胞、平滑筋細胞、及び核がないこと、又は蛍光分析によって測定された時検出可能であるDNAのうち97%以上の除去と定義される。残りの細胞片は、脱細胞化臓器又は組織から除去され得る。
【0026】
ECMの形態及び構造は、脱細胞化工程の最中及び後に維持される。明細書中の使用において「形態」は、ECMの臓器又は組織の全体的な形状を指し、一方明細書中の使用において「構造」は、外面、内面、及びそれらの間のECMを指す。
【0027】
ECMの形態及び構造は、視覚的及び/又は組織学的に調べられ得る。例えば固体臓器の外面上又は臓器又は組織の血管内の基底膜は、灌流脱細胞化が原因で除去、又は著しく損傷されるべきではない。さらにECMの原繊維は、脱細胞化されていない臓器又は組織の原繊維と類似しているか、又は脱細胞化されていない臓器又は組織の原繊維から著しく変更されないはずである。
【0028】
一つ以上の化合物は、例えば脱細胞化臓器を保護するため、あるいは脱細胞化臓器又は組織を再細胞化に備えさせるため、及び/又は再細胞化プロセスの間に細胞を補助又は刺激するために、脱細胞化臓器又は組織の中又は上に塗布され得る。このような化合物は、限定されないが、一つ以上の成長因子(例えばVEGF-1、DKK-1、FGF、BMP-1、BMP-4、SDF-1、IGFおよびHGF)、免疫装飾薬(例えばサイトカイン、グルココルチコイド、IL2R拮抗薬、ロイコトリエン拮抗薬)、及び/又は凝固カスケードを修正する因子(例えばアスピリン、ヘパリン結合タンパク質及びヘパリン)を含む。さらに脱細胞化臓器又は組織は、脱細胞化臓器又は組織上又は中に残存する各種微生物の存在を減少又は除去するために、例えば照射(例えばUV、ガンマ)によってさらに処理され得る。
【0029】
臓器又は組織の再細胞化
脱細胞化臓器又は組織は、分化した(成熟又は初代)細胞、幹細胞、又は部分的に分化した細胞のうちいずれか一つの細胞群と接触させられる。従ってこれら細胞は、分化全能性細胞、多機能細胞、又は多分化能細胞であってよく、未感作細胞又は感作細胞であってよく、単一系統の細胞であってよい。細胞は、胎児由来の細胞を含む、未分化の細胞、部分的に分化した細胞、又は完全に分化した細胞であり得る。細胞は、臍帯細胞及び胎児幹細胞を含む、前駆細胞(progenitor cells)、前駆細胞(precursor cells)、又は「成体」由来の細胞を含み得る。本発明のマトリックスにおいて有用な細胞は、胚性幹細胞(国立衛生研究所(NIH)によって規定される;例えばワールドワイドウェブ上のstemcells.nih.govの用語集参照)及びiPS細胞を含む。
【0030】
臓器又は組織の再細胞化に使用され得る細胞の例は、限定されないが、胚性幹細胞、臍帯血細胞、組織由来の幹細胞又は前駆細胞、骨髄由来の幹細胞又は前駆細胞、血液由来の幹細胞又は前駆細胞、間葉幹細胞(MSC)、骨格筋由来の細胞、多分化能成体前駆細胞(MAPC)、又はiPS細胞を含む。使用され得るさらなる細胞は、心臓幹細胞(CSC)、多分化能成体心臓由来幹細胞、心臓線維芽細胞、心臓微小血管系内皮細胞、大動脈内皮細胞、冠状動脈内皮細胞、微小血管系内皮細胞、静脈内皮細胞、動脈内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、肝細胞、ベータ細胞、ケラチノサイト、プルキンエ線維、ニューロン、胆管内皮細胞、島細胞、肺細胞、クララ細胞、刷子縁細胞、又は有足細胞を含み得る。骨髄単核細胞(BM-MNC)のような骨髄由来の幹細胞、内皮又は血管の幹細胞又は前駆細胞、及び内皮前駆細胞(EPC)のような末梢血液由来の幹細胞はまた、細胞として使用され得る。
【0031】
灌流脱細胞化された骨格の中又は上に導入される細胞の数は、臓器(例えばどの臓器か、臓器の大きさ及び重さ)又は組織、及び再細胞化細胞の種類及び発生段階の両方に依存し得る。異なる種類の細胞は、それらの細胞が到達する集団密度に関して異なる傾向を有し得る。同様に異なる臓器又は組織は、異なる密度で細胞化され得る。例において脱細胞化臓器又は組織は、少なくとも約1,000(例えば少なくとも10,000、100,000、1,000,000、10,000,000又は100,000,000)細胞によって「播種」され得るか、又は約1,000細胞/mg組織(湿重量、例えば脱細胞化前)から約10,000,000細胞/mg組織(湿重量)をそこに付着させ得る。
【0032】
細胞は、脱細胞化臓器又は組織中への一か所以上への注入によって導入(「播種」)され得る。さらに一種類以上の細胞が、脱細胞化臓器又は組織中に導入され得る。例えば分化した細胞種類の群が、脱細胞化臓器又は組織において複数の部分にて注入され得るか、又は異なる細胞種類が、脱細胞化臓器又は組織の異なる部分に注入され得る。注入の代わりに、又は加えて細胞又は細胞の混合物が、カニューレ挿入された脱細胞化臓器又は組織中へ灌流によって導入され得る。例えば細胞は、細胞の成長及び/又は分化を誘導するための拡大及び/又は分化培地にその後交換され得る灌流培地を使用して、脱細胞化臓器中に灌流され得る。場所特異的な分化は、臓器中の様々な位置、例えば心房、心室又は節のような心臓の領域に細胞を配置することによって達成され得る。
【0033】
再細胞化の間に臓器又は組織は、少なくとも細胞のいくつかが脱細胞化臓器又は組織内又は上にて増殖及び/又は分化できる状況下に維持される。これらの状況は、限定されないが、適切な温度及び/又は圧力、電気的及び/又は機械的活動、力、適切なO2及び/又はCO2量、適切な湿度、及び無菌又は無菌に近い状況を含む。再細胞化中、脱細胞化臓器又は組織及びそこに付着する再細胞化細胞は、適した環境において維持される。例えば細胞は、栄養補助剤(例えば栄養素及び/又はグルコースのような炭素源)、外因性ホルモン又は成長因子、及び/又は特定のpHを必要とし得る。
【0034】
細胞は、脱細胞化臓器又は組織と同種(例えばヒト細胞を播種されたヒトの脱細胞化臓器又は組織)であり得るか、又は細胞は、脱細胞化臓器又は組織と異種(例えばヒト細胞を播種されたブタの脱細胞化臓器又は組織)であり得る。明細書中の使用において「同種」は、臓器又は組織が由来する種と同じ種(例えば血縁関係又は非血縁関係の個体)から採取された細胞を指し、一方明細書中の使用において「異種」は、臓器又は組織が由来する種と異なる種から採取された細胞を指す。
【0035】
幹培地又は前駆培地は、例えばKODMEM培地(ノックアウトダルベッコ変法イーグル培地)、DMEM、ハムF-12培地、FBS(ウシ胎児血清)、FGF2(線維芽細胞成長細胞2)、KSR又はhLIF(ヒト白血病阻止因子)を含む様々な成分を含み得る。細胞分化培地はまた、L-グルタミン、NEAA(非必須アミノ酸)、P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)、N2、B27及びベータメルカプトエタノールのような補助剤を含み得る。さらなる因子が、限定されないが、フィブロネクチン、ラミニン、ヘパリン、ヘパリン硫酸塩、レチノイン酸、上皮成長因子ファミリー(EGFs)の要素、FGF2、FGF7、FGF8及び/又はFGF10を含む線維芽細胞成長因子ファミリー(FGFs)の要素、血小板由来成長因子ファミリー(PDGFs)の要素、限定されないがノギン、フォリスタチン、コーディン、グレムリン、ケルベロス/DNAファミリータンパク質、ベントロピン、高容量アクチビン及びアムニオンレスを含むトランスフォーミング成長因子(TGF)/骨形成タンパク質(BMP)/成長分化因子(DGF)因子ファミリー拮抗剤、又はこれらの変異体もしくは機能的断片を含む細胞分化培地に加えられ得ることが予想される。TGF/BMP/GDF拮抗剤はまた、TGF/BMP/GDF受容体Fcキメラの形状において追加され得る。追加され得る他の因子は、限定されないが、Notchプロセシング又は開裂の阻害剤だけでなくDelta様及びJaggedファミリーのタンパク質、又はそれらの変異体もしくは機能的断片を含むNotch受容体ファミリーを通したシグナル伝達を活性化又は不活性化できる分子を含む。他の成長因子は、インスリン様成長因子ファミリー(IGF)の要素、インスリン、無翅関連(WNT)因子ファミリー、及びヘッジホッグ因子ファミリー、又はそれらの変異体もしくは機能的断片を含み得る。さらなる因子が、中内胚葉幹/前駆細胞、内胚葉幹/前駆細胞、中胚葉幹/前駆細胞、又は胚体内胚葉幹/前駆細胞の増殖及び生存と同様にこれら前駆細胞の派生物の生存及び分化を促進するために加えられ得る。
【0036】
一実施形態では灌流脱細胞化マトリックスは、胚様体(EB)法を用いて分化されたiPS又はES細胞と組み合わせられる。例えばレンチウイルス媒介性形質転換のような、転写因子(OCT4、SOX2、NANOG及びLIN28、Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc-Myc、又はOct3/4、Sox2、及びKlf4)の形質転換によって再プログラムされたヒトiPS細胞系が、使用される。胎児由来又は新生児由来のiPSクローンが、使用され得る。ヒトES細胞系もまた、使用され得る。iPS細胞及びES細胞は、20%ノックアウト血清代替(インビトロゲン)、0.1mmol/L非必須アミノ酸、1mmol/L L-グルタミン、及び0.1mmol/L β-メルカプトエタノール(シグマ)を補足されたDMDM/F12培養培地の6穴培養プレート(Numc)において19,500細胞/cm2の密度にて、照射されたマウス胚由来線維芽細胞(MEFs)上に維持され得る。さらに培地は、iPS細胞のために10ng/mLゼブラフィッシュ塩基性線維芽細胞成長因子、及びhES細胞のために4ng/mLヒト組み換え体塩基性線維芽細胞成長因子(インビトロゲン)にて補足され得る。iPS細胞及びES細胞系はまた、15%ウシ胎児血清(FCS;シグマ-アルドリッチ)、0.1μmol/L 2-メルカプトエタノール(2ME)、及び1,000ユニット/mL LIF(ケミコンインターナショナル)を含むDMEM(シグマ-アルドリッチ)にてゼラチンで固められた100-mm皿上に維持され得る。分化のためにこれらの細胞は、0.25%トリプシン/エチレンジアミン四酢酸(GIBCO)にて処理されるとともに、10%FCS及び0.05μmol/L 2MEにて補足されたα-最小必須培地(GIBCO)においてゼラチンで固められた6穴プレートに3×104細胞/穴の濃度にて移され得る。
【0037】
コロニーは、37℃にて8から15分間1mg/mLディスパーゼ(Gibco)溶液で培養されることによって培養プレートから分離され得るとともに、超低接着プレートにて懸濁培養で例えば4日間置かれ得る。懸濁培養の間培地は、一日目に交換された後、培地交換なしで他の3日間培養され得る。EBsはその後、例えばある濃度、又は穴あたり50から100EBsにて0.1%ゼラチン被覆培養プレート上、又は灌流脱細胞化EMC中にプレーティングされるとともに、分化培地中(例えば毎日交換される)にて培養される。
【0038】
いくつかの例では、明細書中に説明された方法によって作製された臓器又は組織は、患者内へ移植される。それらの場合には脱細胞化臓器又は組織を再細胞化するために使用される細胞は、患者から採取され得るため細胞は患者にとって「自己」である。患者由来の細胞は、例えば血液、骨髄、組織又は臓器から異なる生活段階(例えば出生前、新生児期又は周産期、青年期、又は成人期)にて当技術分野において知られた方法を用いて採取され得る。もしくは脱細胞化臓器又は組織を再細胞化するために使用される細胞は、患者と同系(すなわち一卵性双生児由来)であり得るか、細胞は、例えば患者の血縁者又は患者と非血縁関係のHLA適合者由来のヒトリンパ球抗原(HLA)適合細胞であり得るか、又は細胞は、例えばHLA不適合ドナー由来の、患者と同種の細胞であり得る。
【0039】
細胞の供給源(例えば自己か否か)に関係なく脱細胞化固体臓器は、患者と自己、同種又は異種であり得る。
細胞の成長は、再細胞化の間観察され得る。例えば臓器又は組織上又は中の細胞数は、再細胞化中の一つ以上の時点で検体を採取することによって評価され得る。さらに細胞が経た分化の量は、様々なマーカーが細胞又は細胞群に存在するか否かを判定することによって観察され得る。異なる細胞種類及びそれらの細胞種類の異なる分化段階に関連するマーカーは、当技術分野において知られているとともに、抗体及び標準的な免疫測定法を使用して容易に検出され得る。例えば、Current Protocols in Immunology,2005,Coligan et al.,Eds.,John Wiley&Sonsの第3章及び第11章を参照。形態学的及び/又は組織学的評価だけでなく核酸分析も、再細胞化を観察するために使用され得る。
【0040】
典型的な実施形態
一実施形態では臓器表面の補強は、脱細胞化プロセスの前に遂行され得る。補強物質は、臓器の外側を補強及び封止するために、摘出された臓器の表面上に成膜され得る。補強物質の成膜後に臓器は、脱細胞化プロセスにさらされるが、その間脱細胞化臓器の外側は補強されたままである。
【0041】
一実施形態では臓器表面の補強は、脱細胞化プロセス後かつ再細胞化前に遂行され得る。補強物質は、脱細胞化移植片の外側を補強又は封止するために脱細胞化臓器の表面上に成膜され得る。補強物質の成膜後に移植片は、表面が補強されたままの状態で播種及び培養され得る。
【0042】
一実施形態では臓器表面の補強は、再細胞化プロセス後に遂行され得る。補強物質は、再細胞化移植片の外側を補強及び封止するために再細胞化移植片の表面上に成膜され得る。補強物質の成膜後に移植片は、表面が補強されたままの状態で培養され得る。
【0043】
一実施形態では臓器表面の補強は、治療のための移植片の移植前に遂行され得る。補強物質は、搬送後かつ移植前に再細胞化移植片の外側を補強及び封止するために、再細胞化移植片の表面上に成膜され得る。生物工学によって作製された再細胞化臓器は、移植箇所において補強物質によって処理された表面であり得る。
【0044】
一実施形態では臓器表面の補強は、移植片の脱細胞化前、及び任意に例えば移植前のような再細胞化後にも遂行され得る。
一実施形態では臓器表面の補強は、移植片の脱細胞化前、及び任意に再細胞化前にも遂行され得る。
【0045】
一実施形態では流動可能補強物質は、限定されないが、噴霧、はけ塗/スワビング、又は例えば物質中に臓器をディップ(浸漬)すること等による臓器を被覆する他の方法のような方法を用いて移植片上に成膜され得る。
【0046】
一実施形態では補強物質は、物質を移植片の表面、例えば移植片の表面上のコラーゲンと架橋することによって移植片表面に付着され得る。架橋は、限定されないが、トランスグルタミナーゼ及び他の触媒のような触媒的な作用因子によって遂行され得る。光誘起された架橋は、移植片の表面と添加剤との間の結合をつくるための光架橋剤の添加によって補助され得る。光架橋剤は、臓器の既存表面を架橋するために使用され得る。添加剤は、限定されないが、ポリマ、アミノ酸及び特定のタンパク質を含む。
【0047】
従って明細書中に開示された組成物は、移植片の表面全体を被覆し得る。被覆は、出血又は浸出(漏出)の前に塗布され得る。バリアをつくる以外に組成物は、止血作用を有し得るか、又は抗血栓性であり得る。被覆は、架橋のような作用を通じて表面多孔性を低下させ得るか、又は被覆は低下した多孔性を有する付着性バリア被覆を外側被覆につくり得る。
【0048】
ポリマヒドロゲルは、二官能性モノマ又は架橋性高分子を任意に光開始剤又は架橋剤と共に使用することによって形成され得る。一実施形態では被覆は、臓器の外面に塗布されたポリビニルピロリドン(PVP)及びUV光を使用して形成された。一実施形態では被覆は、臓器の外面に塗布されたポリエチレングリコール(PEG)及びUV光を使用して形成された。一実施形態では被覆は、臓器の外面に塗布された寒天及びUV光を使用して形成された。一実施形態では被覆は、臓器の外面に塗布されたゼラチン及びUV光を使用して形成された。一実施形態では被覆は、臓器の外面に塗布されたコラーゲン及びUV光を使用して形成された。
【0049】
一実施形態では塗布される組成物は、表面上にて活性化して表面をコラーゲン粉末と架橋するであろうトランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ又はオキシドレダクターゼのような触媒が添加された例えばコラーゲン粉末等の粉末であり得る。例えば5%(重量による)ブタ真皮ゼラチンは、水を45℃まで温めるとともに溶液をかき回した状態でゼラチン粉末を加えることによって調整される。5%(重量による)活性GS(トランスグルタミナーゼ)は、45℃にてかき回された状態で溶液に加えられる。pHは、その後1N塩酸を加えることによって6.5~7に滴定される。一旦pHが範囲内になると溶液は、スワブ又は注ぐことによって移植片の表面に塗布される。溶液が冷めると溶液は、ゲル状に相変化した後pH変化によって架橋し始めるであろう。溶液が冷め、硬化し、かつ移植片上に架橋するため、硬化時間は1から4時間の範囲である。
【0050】
一実施形態では塗布される組成物は、例えばUV光暴露によって活性化されることによりコラーゲンを含む移植片の表面に架橋する(光活性ポリビニルピロリドン、フォトポリビニルピロリドン、ベンゾフォノ等のような)光反応性架橋作用因子を含む液体溶液等の液体溶液である。一実施形態では塗布される組成物は、例えば一旦移植片の表面上へ塗布されるとゲルに相変化する(ゼラチン、寒天、カラギーナン等のような)ゼラチン様成分を含む液体溶液等のゲルである。相変化は、被覆が移植片上に留まることが可能にするとともに、一実施形態では温度、pH変化、音響、化学物質又は水による結果である。
【0051】
出来上がった強化臓器は、生来の臓器と同様の又は生来の臓器に対して改善された特性を有する。例えば被覆が塗布された臓器は、生来の臓器と同様の又は生来の臓器に対して改善された例えば機械的強度等の機械的特性を有し得る。機械的特性は、例えばボールバースト(ASTM D6797-15)、パントティア(ASTM D1938-19)又は引張強度(ASTM D5034-09)のような機械的試験を用いて測定される。塗布被覆を有する臓器は、例えば生理学的であり得る規定された流れの下における漏出テスト又は外表面を通る流体移動によって測定される、生来の臓器に対して類似又は改善された構造的又は血流機械的特性を有し得る。
【0052】
一実施形態では塗布された組成物は、例えば光反応性ポリマのような、疎水性特性を有するポリマであり得るため、それによって癒着を阻止する疎水性表面を提供する。一実施形態では塗布された組成物は、親水性であるとともに非癒着性である親水性の被覆を提供する物質を含み得る。一実施形態では塗布された組成物は、ラミニンのような修飾タンパク質又は被覆の非癒着特性を高めるコラーゲンIVのような基底膜基質であり得る。
【0053】
一実施形態では非癒着性成分は、被覆が塗布された後に加えられ得る。
一実施形態では脱細胞化された哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の外側繊維層の多孔性を低下させるための生体外における方法が、提供される。前記方法は、脱細胞化細胞外マトリックスを含む外面を含むとともに脱細胞化細胞外マトリックス血管樹を含む例えば8cm3より大きい哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスであって、前記臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスは、そこに導入された流体のうち全てではないが大部分を保持する前記脱細胞化細胞外マトリックスを準備すること、及び哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスの外面上に、対応する組成物にさらされていない脱細胞化細胞外マトリックスおよび脱細胞化細胞外マトリックス血管樹を含む外面を含む哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の脱細胞化細胞外マトリックスに対して、脱細胞化細胞外マトリックス血管樹へ導入された流体の保持性を増加させる効果のある生体適合性の被覆を形成する量の少なくとも一つの作用因子を含む組成物に外面をさらすことを含む。一実施形態では哺乳類は、ブタ、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ウシ、ヒツジ又はヒトである。一実施形態では臓器は、肝臓、心臓、脾臓、膵臓、膀胱、腎臓、小腸、大腸、胃、骨、脳又は肺である。一実施形態では組成物は、粉末、ゲル又は例えば水溶性液体等の液体を含む。一実施形態では前記量の組成物は、哺乳類の臓器又は組織の脱細胞化細胞外マトリックスの機械的可撓性又は強度を高める。一実施形態では方法はまた、脱細胞化臓器又は組織の管、腔又は一つ以上の血管に細胞群を導入することを含む。一実施形態では細胞は、外面が組成物にさらされる前に導入される。一実施形態では細胞は、外面が組成物にさらされた後に導入される。一実施形態では組成物は、癒着形成を低減させる作用因子を含む。一実施形態では方法は、癒着形成を低減させる作用因子を含む組成物と外面を接触させることをさらに含む。一実施形態では作用因子は、ポリプロピレンを含む。一実施形態では作用因子は、ラミニン、基底膜基質又はコラーゲンIVを含む。一実施形態では組成物は外面上に噴霧される。一実施形態では臓器又は組織は、組成物に浸漬される。一実施形態ではさらすことによって外面上の分子の架橋を生じさせる。一実施形態では作用因子は、例えばトランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、オキシドレダクターゼ又はトランスグルタミナーゼ等の酵素である。一実施形態では架橋された分子は、コラーゲンを含む。一実施形態では組成物は、光架橋剤を含む。一実施形態では外面は、組成物及び架橋作用因子にさらされる。一実施形態では光架橋剤は、ポリマを含む。一実施形態では組成物は、ポリビニルピロリドン又はフォトポリビニルピロリドンを含む。一実施形態では組成物は、ポリ(エチレン)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、無水マレイン酸及び/又は無水フタル酸とスチレンとのコポリマ、及び桂皮酸由来のいくつかのポリマを含む。一実施形態では組成物は、ベンゾフェノンを含む。一実施形態では組成物は、一つ以上のアミノ酸を含む。一実施形態では組成物は、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、ラミニン、RGD又はIV型コラーゲンを含む。一実施形態では作用因子は、二官能性架橋剤を含む。一実施形態では組成物は、ゼラチン、寒天又はカラギーナンを含む。一実施形態では組成物は、コラーゲンを含む。この方法によって作製された製品が、さらに提供される。
【0054】
一実施形態にでは被覆された脱細胞化臓器又は組織又はそれらの一部における流体の保持性は、対応する被覆されていない脱細胞化臓器又は組織又はそれらの一部に対して、少なくとも5%、10%、30%、40%、50%、70%又はそれ以上増加する。
【0055】
一実施形態では被覆された脱細胞化臓器又は組織又はそれらの一部は、液体が生理学的圧力又は最大二倍の生理学的圧力にて導入された時、例えば15mL/minより高い割合で流体を損失し得る対応する被覆されていない脱細胞化臓器又は組織又はそれらの一部に対して、15mL/min、12mL/min、10mL/min、7mL/min、5mL/min、2mL/minより少ない流体の損失を有する。
【0056】
一実施形態では哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部の外面の多孔性を低下させるための生体外における方法が、提供される。方法は、哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部であって、前記臓器又は組織又はそれらの一部は外面、血管樹及び細胞を含む前記臓器又は組織又はそれらの一部を準備すること、及び前記臓器又は組織又はそれらの一部の外面を、対応する組成物にさらす前の臓器又は組織又はそれらの一部に導入された流体に対して臓器又は組織内の流体の保持性を増加させる効果のある外面上の被覆を形成する量の少なくとも一つの作用因子を含む組成物にさらすことを含む。一実施形態では哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部は、脱細胞化及び再細胞化されていない。一実施形態では哺乳類の臓器又は組織又はそれらの一部は、脱細胞化及び再細胞化されている。この方法によって作製された製品もまた、提供される。
【0057】
一実施形態では被覆された臓器又は組織又はそれらの一部における流体の保持性は、対応する被覆されていない臓器又は組織又はそれらの一部に対して、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、70%又はそれ以上増加する。
【0058】
一実施形態では被覆された臓器又は組織又はそれらの一部は、生理学的圧力又は最大二倍の生理学的圧力にて液体が導入された時、対応する被覆されていない臓器又は組織又はそれらの一部が例えば15mL/minより高い割合で流体を損失するのに対して、15mL/min、12mL/min、10mL/min、7mL/min、5mL/min、2mL/min又は0mL/minより少ない流体の損失を有する。
【0059】
従って前記方法は、脱細胞化前、脱細胞化後又は移植前、又はそれらのいかなる組み合わせにおける被覆も含む。
全ての出版物、特許及び特許出願書類は、参照により本明細書に組み込まれる。前述の仕様において本発明は、特定の望ましい実施形態に関して説明されるとともに、多くの詳細が実例とするために説明されたが、本発明は、さらなる実施形態を受け入れる余地があるとともに、明細書中に説明されたうちのいくつかは、本発明の基本的な原則からの逸脱なく大幅に変更され得ることが、当業者にとって明らかとなるであろう。
【国際調査報告】