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特表2022-545460炭素繊維生産における酸化雰囲気の選択的制御
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  • 特表-炭素繊維生産における酸化雰囲気の選択的制御 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(54)【発明の名称】炭素繊維生産における酸化雰囲気の選択的制御
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/22 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
D01F9/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511108
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(85)【翻訳文提出日】2022-04-06
(86)【国際出願番号】 US2020047023
(87)【国際公開番号】W WO2021034945
(87)【国際公開日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】16/546,990
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503308494
【氏名又は名称】ヘクセル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェリン、ピーター アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、デヴォン カドワラダー トッド
【テーマコード(参考)】
4L037
【Fターム(参考)】
4L037CS02
4L037CS03
4L037FA01
4L037FA06
4L037PA53
4L037PC05
4L037PS02
4L037PS10
4L037PS11
4L037PS20
4L037UA09
(57)【要約】
複数の酸化オーブンシステム内のすべての酸化オーブンに入る周囲空気を除湿することなく、炭素繊維の引張強度を増加させる、炭素繊維を製造するための方法。一連の酸化オーブンのうちの第1のオーブンに入る周囲空気のみが除湿される場合、引張強度にプラスの効果がもたらされる。さらに、先行する酸化オーブンのうちの1つまたは複数が除湿された空気で操作される場合、最後のオーブンに入る周囲空気は除湿されない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前駆体繊維から炭素繊維を製造するための方法であって、
前記前駆体繊維は、複数の酸化オーブン内で酸化処理に供され酸化繊維を形成し、次いで前記酸化繊維は、炭化処理に供され前記炭素繊維を形成し、前記複数の酸化オーブンは、周囲空気によって囲まれ、
前記酸化処理は、以下の工程:
1つまたは複数の第1の酸化空気の入口を介して第1の酸化ゾーンに入る第1の酸化用空気を含む前記第1の酸化ゾーンの雰囲気を有する第1の酸化ゾーンを画定する少なくとも第1の酸化オーブンを提供する工程であって、前記第1の酸化ゾーンの雰囲気は第1の酸化雰囲気の湿度を有し、前記第1の酸化ゾーン内の1つまたは複数の温度は第1の酸化ゾーンの温度範囲内にある、工程;
前記前駆体繊維を前記第1の酸化ゾーンに通過させて、部分的に酸化された繊維を形成する工程;
1つまたは複数の周囲空気の入口を介して最終の酸化ゾーンに入る周囲空気を含む前記最終の酸化ゾーンの雰囲気を有する最終の酸化ゾーンを画定する最終の酸化オーブンを提供する工程であって、前記周囲空気は周囲空気の湿度を有し、前記第1の酸化用空気は、前記第1の酸化雰囲気の湿度が前記周囲空気の湿度よりも低くなるように除湿された周囲空気を含み、前記最終の酸化ゾーン内の1つまたは複数の温度は、前記第1の酸化ゾーンの温度範囲よりも高い最終の酸化ゾーンの温度範囲内にある、工程;
前記部分的に酸化された繊維を前記最終の酸化ゾーンに通過させて、前記酸化繊維を形成する工程
を含む、方法。
【請求項2】
第2の酸化ゾーンを画定する少なくとも第2の酸化オーブンが提供され、前記第2の酸化ゾーン内の1つまたは複数の温度が、前記第1の酸化ゾーンの温度範囲よりも高く、前記最終の酸化ゾーンの温度範囲よりも低い第2の酸化ゾーンの温度範囲内にあり、前記第2の酸化ゾーンが、第2の酸化用空気を含む第2の酸化ゾーンの雰囲気を有し、前記第2の酸化用空気が、1つまたは複数の第2の酸化用空気の入口を介して前記第2の酸化ゾーンに入り、前記第2の酸化ゾーンの雰囲気が、第2の酸化雰囲気の湿度を有し、前記第2の酸化用空気は、前記第2の酸化雰囲気の湿度が前記周囲空気の湿度よりも低くなるように除湿された周囲空気を含み、前記部分的に酸化された繊維が、前記第2の酸化ゾーンを通過して第1のさらに酸化された繊維を形成し、前記第1のさらに酸化された繊維が、前記最終の酸化ゾーンを通過して前記酸化繊維を形成する、請求項1に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項3】
第3の酸化ゾーンを画定する少なくとも第3の酸化オーブンが提供され、前記第3の酸化ゾーン内の1つまたは複数の温度が、前記第2の酸化ゾーンの温度範囲よりも高く、前記最終の酸化ゾーンの温度範囲よりも低い第3の酸化ゾーンの温度範囲内にあり、前記第3の酸化ゾーンが、第3の酸化用空気を含む第3の酸化ゾーンの雰囲気を有し、前記第3の酸化用空気が、1つまたは複数の第3の酸化用空気の入口を介して前記第3の酸化ゾーンに入り、前記第3の酸化ゾーンの雰囲気が、第3の酸化雰囲気の湿度を有し、前記第3の酸化用空気は、前記第3の酸化雰囲気の湿度が前記周囲空気の湿度よりも低くなるように除湿された周囲空気を含み、前記第1のさらに酸化された繊維が、前記第3の酸化ゾーンを通過して第2のさらに酸化された繊維を形成し、前記第2のさらに酸化された繊維が、前記最終の酸化ゾーンを通過して前記酸化繊維を形成する、請求項2に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項4】
前記前駆体繊維がポリアクリロニトリル繊維である、請求項1に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項5】
前記第1の酸化ゾーンの温度(単数または複数)が200℃~300℃の範囲内であり、前記最終の酸化ゾーンの温度(単数または複数)が200℃~300℃の範囲内である、請求項1に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項6】
前記第1の酸化ゾーンの温度(単数または複数)、前記第2の酸化ゾーンの温度(単数または複数)、および前記最終の酸化ゾーンの温度(単数または複数)が、すべて200℃~300℃の範囲内である、請求項2に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項7】
前記第1の酸化ゾーンの温度(単数または複数)、前記第2の酸化ゾーンの温度(単数または複数)、前記第3の酸化ゾーンの温度(単数または複数)、および前記最終の酸化ゾーンの温度(単数または複数)が、すべて200℃~300℃の範囲内である、請求項3に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項8】
前記前駆体繊維が前記第1の酸化ゾーンを通過する速度は、前記第1の酸化ゾーン内での前記前駆体繊維の滞留時間が10分~40分であるような速度であり、前記部分的に酸化された繊維が前記最終の酸化ゾーンを通過する速度は、前記最終の酸化ゾーン内での前記部分的に酸化された繊維の滞留時間が10分~40分であるような速度である、請求項1に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項9】
前記前駆体繊維が前記第1の酸化ゾーンを通過する速度は、前記第1の酸化ゾーン内での前記前駆体繊維の滞留時間が10分~40分であるような速度であり、前記部分的に酸化された繊維が前記第2の酸化ゾーンを通過する速度は、前記第2の酸化ゾーン内での前記部分的に酸化された繊維の滞留時間が10分~40分であるような速度であり、前記第1のさらに酸化された繊維が前記最終の酸化ゾーンを通過する速度は、前記最終の酸化ゾーン内での前記第1のさらに酸化された繊維の滞留時間が10分~40分であるような速度である、請求項2に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項10】
前記前駆体繊維が前記第1の酸化ゾーンを通過する速度は、前記第1の酸化ゾーン内での前記前駆体繊維の滞留時間が10分~40分であるような速度であり、前記部分的に酸化された繊維が前記第2の酸化ゾーンを通過する速度は、前記第2の酸化ゾーン内での前記部分的に酸化された繊維の滞留時間が10分~40分であるような速度であり、前記第1のさらに酸化された繊維が前記第3の酸化ゾーンを通過する速度は、前記第3の酸化ゾーン内での前記第1のさらに酸化された繊維の滞留時間が10分~40分であるような速度であり、前記第2のさらに酸化された繊維が前記最終の酸化ゾーンを通過する速度は、前記最終の酸化ゾーン内での前記第2のさらに酸化された繊維の滞留時間が10分~40分であるような速度である、請求項3に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項11】
前記周囲空気の湿度が空気1キログラム当たり2~10グラムの水であり、前記第1の酸化雰囲気の湿度が空気1キログラム当たり1~3グラムの水であり、前記第1の酸化雰囲気の湿度が前記周囲空気の湿度より空気1キログラム当たり少なくとも1グラムの水だけ低い、請求項1に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項12】
前記周囲空気の湿度が空気1キログラム当たり2~8グラムの水であり、前記第1の酸化雰囲気の湿度および前記第2の酸化雰囲気の湿度が、それぞれ空気1キログラム当たり1~3グラムの水であり、前記第1の酸化雰囲気の湿度および前記第2の酸化雰囲気の湿度が、それぞれ前記周囲空気の湿度より空気1キログラム当たり少なくとも1グラムの水だけ低い、請求項2に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項13】
前記周囲空気の湿度が空気1キログラム当たり2~8グラムの水であり、前記第1の酸化雰囲気の湿度、前記第2の酸化雰囲気の湿度、および前記第3の酸化雰囲気の湿度が、それぞれ空気1キログラム当たり1~3グラムの水であり、前記第1の酸化雰囲気の湿度、前記第2の酸化雰囲気の湿度、および前記第3の酸化雰囲気の湿度が、それぞれ前記周囲空気の湿度より空気1キログラム当たり少なくとも1グラムの水だけ低い、請求項3に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項14】
前記周囲空気が、空気1キログラム当たり2~4グラムの水の周囲空気の湿度を有する、請求項11に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項15】
前記周囲空気が、空気1キログラム当たり2~4グラムの水の周囲空気の湿度を有する、請求項12に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項16】
前記周囲空気が、空気1キログラム当たり2~4グラムの水の周囲空気の湿度を有する、請求項13に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項17】
前記第1の酸化ゾーンが、第1の温度サブゾーンと第2の温度サブゾーンとを含み、前記前駆体繊維が、前記第1の酸化ゾーンの前記第2の温度サブゾーンを通過する前に前記第1の酸化ゾーンの前記第1の温度サブゾーンを通過し、前記第2の温度サブゾーンの温度が、前記第1の温度サブゾーンの温度よりも高い、請求項1に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項18】
前記最終の酸化ゾーンが、第1の温度サブゾーンと第2の温度サブゾーンとを含み、前記前駆体繊維が、前記最終の酸化ゾーンの前記第2の温度サブゾーンを通過する前に前記最終の酸化ゾーンの前記第1の温度サブゾーンを通過し、前記第2の温度サブゾーンの温度が、前記第1の温度サブゾーンの温度よりも高い、請求項1に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項19】
前記最終の酸化ゾーンが、第1の温度サブゾーンと第2の温度サブゾーンとを含み、前記前駆体繊維が、前記最終の酸化ゾーンの前記第2の温度サブゾーンを通過する前に前記最終の酸化ゾーンの前記第1の温度サブゾーンを通過し、前記最終の酸化ゾーンの前記第2の温度サブゾーンの温度が、前記最終の酸化ゾーンの前記第1の温度サブゾーンの温度よりも高い、請求項17に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【請求項20】
前記第2の温度サブゾーンの温度が、前記第1の温度サブゾーンの温度よりも1℃~10℃高い、請求項17に記載の炭素繊維を製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、炭素繊維を製造するための方法に関する。より詳細には、本発明は、炭素繊維の引張強度に悪影響を及ぼすことなく生産コストを最小限に抑えるためにそのような方法において使用される、酸化オーブン内の湿度の選択的制御を含む。
【背景技術】
【0002】
複合材料は、2つの主成分として繊維強化構造および樹脂マトリックスを含む。複合材料は、典型的には、かなり高い強度対重量比を有する。その結果、複合材料は、複合構造の高強度および比較的軽い重量が特に重要である航空宇宙産業において使用される。
【0003】
炭素繊維は、複合材料のための一般的な繊維強化材である。炭素繊維は、一般に「トウ」と呼ばれるマルチフィラメント糸として通常提供される。炭素繊維トウは、典型的には1,000から50,000本の個々のフィラメントを含む。市販の炭素繊維トウは、例えば、およそ3000フィラメント(3K)、6000フィラメント(6K)、12000(12K)フィラメント、または24000(24K)フィラメントを含む。単一の炭素フィラメントの線重量は、典型的には、1メートル当たり0.02~0.5ミリグラムの範囲である。炭素フィラメントは、一般に炭素繊維とも呼ばれる。
【0004】
炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維などの前駆体繊維を少なくとも90%の炭素である繊維に転化することによって製造される。転化プロセスは、空気などの酸化性雰囲気中で前駆体繊維を加熱して、安定化繊維とも呼ばれる酸化繊維を形成することを含む。酸化繊維は、最終的な炭素繊維を形成するために、窒素などの不活性雰囲気中でさらに加熱され、炭化される。
【0005】
実際には、酸化工程は、150℃~300℃の温度で維持された一連の酸化オーブンに前駆体繊維を通過させることによって達成される。酸化オーブンを取り囲む周囲空気が、一般的に酸化ガスとして使用される。周囲空気はいくつかの位置で酸化オーブンに入り、これは酸化オーブンに入る前にヒータボックスに入る空気および前駆体繊維がオーブンに入る隙間を通って入る空気を含む。オーブンの設計および操作に応じて、各酸化オーブンに入る周囲空気の追加の供給源が存在してもよい。炭素繊維生産ラインは、一般に、2~6つの酸化オーブンを含む。典型的な生産ラインは、4つの酸化オーブンを利用する。
【0006】
酸化オーブン内および酸化オーブン間の両方でのオーブン温度および繊維の滞留時間などの酸化条件が、得られる炭素繊維の引張強度に影響を及ぼすことは当技術分野で公知である。引張強度は、酸化オーブンまたは安定化オーブン内の雰囲気によっても影響を受ける。例えば、低酸素雰囲気中で安定化させると、炭素繊維の引張強度が低下する傾向がある。酸化オーブンに導入される周囲空気の湿度も引張強度に影響を及ぼす。例えば、12gm水/Kg空気以上の絶対湿度を有する比較的湿った周囲空気は、引張強度に悪影響を及ぼすことが示されている。1994年9月20日公開の特開平6-264311号を参照されたい。
【0007】
任意の炭素繊維生産プロセスにおける重要な目標は、均一に高い引張強度を有する炭素繊維を提供することである。この目標は、周囲空気を酸化ガスとして使用する場合、湿度の季節的および/または一日を通しての変動のために、達成することが困難であり得る。比較的高い湿度環境(12gm水/Kg空気以上の絶対湿度)で均一に最適な引張強度を得るためには、周囲空気が酸化オーブンに入る前にすべての周囲空気を除湿する以外に選択肢はないかもしれない。しかし、そのような除湿システムに関連するコスト、複雑さ、および労力はかなりのものである。したがって、均一に高い引張強度を確保するために、生産設備をより乾燥した気候に移転させるか、または高価な除湿システムに投資するかのいずれかのジレンマに直面する。より乾燥した気候であっても、絶対湿度の一日を通しての変動および/または季節的変動に起因して起こり得る、考えられる引張強度の変動に関しては課題が依然として残る。
【0008】
より乾燥した気候では、絶対湿度は、通常、季節および/または一日において、2~10gm水/Kg空気で変化する。絶対湿度がこのようなより低い湿度レベルで変動する場合、炭素繊維の引張強度と酸化オーブンで使用される周囲空気の絶対湿度との間の関係については、存在するとしても、ほとんど知られていない。
【0009】
均一に高い引張強度を有する炭素繊維を生産するために、必要に応じて、酸化オーブンに入る周囲空気の湿度を低下させる、より乾燥した気候で炭素繊維を製造する方法を提供することが望ましい。そのような方法は、複数の酸化オーブンに入る周囲空気の除湿に関連するコスト、複雑さ、および労力を回避するために、除湿される周囲空気の量を可能な限り制限することがさらに望ましい。
【発明の概要】
【0010】
本発明によれば、複数のオーブンシステム内のそれぞれの酸化オーブンに入る周囲空気を除湿することなく、炭素繊維の引張強度を改善することができることが発見された。代わりに、一連の酸化オーブンの第1のオーブンに入る周囲空気のみの除湿は、引張強度にプラスの効果をもたらすことが発見された。さらに、一連の酸化オーブンの最後のオーブンに入る周囲空気の除湿は、先行する各オーブンが除湿された空気を使用する場合、引張強度の改善をほとんどもたらさないことが発見された。これらの発見により、すべての酸化オーブンを除湿することに関連するコスト、複雑さ、および労力を回避しながら、少なくとも第1の酸化オーブンの雰囲気を除湿することによって、均一に高い引張強度を有する炭素繊維を生産することが可能になる。
【0011】
本発明は、複数の酸化オーブン内で前駆体繊維を酸化処理に供して酸化繊維を形成させる、前駆体繊維から炭素繊維を製造する方法に基づく。次いで、酸化繊維を炭化処理に供して、炭素繊維を形成させる。酸化オーブンは、周囲空気によって取り囲まれている。少なくとも第1の酸化オーブンが提供され、これは、第1の酸化ゾーンの雰囲気を有する第1の酸化ゾーンを画定する。第1の酸化ゾーンの雰囲気は、1つまたは複数の第1の酸化空気の入口を介して第1の酸化ゾーンに入る第1の酸化用空気で構成される。第1の酸化ゾーンの雰囲気は、第1の酸化雰囲気の湿度を有し、第1の酸化ゾーン内の1つまたは複数の温度は、第1の酸化ゾーンの温度範囲内にある。
【0012】
最終の酸化オーブンが提供され、これは、1つまたは複数の周囲空気の入口を介して最終の酸化ゾーンに入る周囲空気で構成された最終の酸化ゾーンの雰囲気を有する最終の酸化ゾーンを画定する。周囲空気は周囲空気の湿度を有し、最終の酸化ゾーン内の1つまたは複数の温度は、第1の酸化ゾーンの温度範囲よりも高い最終の酸化ゾーンの温度範囲内にある。
【0013】
本発明の特徴として、第1の酸化用空気は、第1の酸化雰囲気の湿度が周囲空気の湿度よりも低くなるように、除湿された周囲空気から構成される。第1の酸化ゾーンの雰囲気のみを除湿することにより、複数の酸化オーブンを使用して製造される炭素繊維の引張強度に改善がもたらされることが発見された。
【0014】
本発明のさらなる特徴として、前駆体繊維の酸化を行うために3つ以上の酸化オーブンが使用される場合、最終の酸化オーブンを除く各酸化オーブンに供給される酸化用空気は、除湿された周囲空気から構成される。引張強度の比較的小さな改善は、一連の3つ以上の酸化オーブンにおける最終の酸化ゾーンに入る周囲空気を除湿することによって得られることが発見された。多くの状況において、そのような引張強度のわずかな増加は、最終の酸化オーブンに入る周囲空気の除湿に関連する追加のコスト、複雑さ、および労力を必要としない可能性がある。
【0015】
本発明は、周囲空気を酸化ガスとして使用して複数の酸化オーブンを操作する、炭素繊維を生産するための方法に関する。本発明は、周囲空気の絶対湿度が上方に変動する時であっても、炭素繊維が可能な限り高く、均一な引張強度を有することを確実にするための効果的かつ効率的な方策を提供する。本発明は、炭素繊維生産設備の周囲空気の絶対湿度が2~10gm水/Kg空気で変化する気候での使用に特によく適している。
【0016】
本発明の上記および多くの他の特徴ならびに付随する利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明による例示的な酸化処理の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、ポリアクリロニトリル繊維などの前駆体繊維から炭素繊維を製造するためのプロセスまたは方法のいずれにも適用可能である。一般に、そのような方法は、前駆体繊維の延伸および/または仕上げ油の適用(塗布)を包含し得る様々な前処理を含んでもよい。次いで、処理された前駆体繊維は、複数の酸化オーブンを通され、そこで酸素含有雰囲気中で酸化されて、酸化された前駆体繊維を形成する。酸化工程は、安定化された前駆体繊維を形成する安定化工程とも呼ばれる。次いで、安定化された前駆体繊維は、1つまたは複数の炭化炉に供給され、そこで高温の不活性雰囲気中で炭化されて炭素繊維を形成する。炭素繊維は、典型的には、少なくとも90重量パーセントの炭素、好ましくは少なくとも92重量パーセントの炭素から構成される。
【0019】
本発明は、複数の酸化オーブンを使用して前駆体繊維を酸化または安定化する炭素繊維の生産方法において、酸化雰囲気中の湿度を制御することを目的とする。本方法は、任意の典型的な前駆体繊維、前駆体前処理工程、および任意の典型的な炭化方法と組み合わせて使用することができる。
【0020】
例示的な酸化システムは、図1の10で図式的に示されている。酸化システム10は、第1の酸化オーブン11、第2の酸化オーブン12、第3の酸化オーブン13、および第4の(最終の)酸化オーブン14を含む。本発明の以下の詳細な説明は、4つの酸化オーブンを使用する好ましい酸化システムおよび方法に限定される。わずか2つの酸化オーブン、および6つもの酸化オーブンを使用する酸化システムおよび方法も適している。特定の酸化システムおよび方法で使用される酸化オーブンは、通常すべて同じまたは類似のタイプであり、酸化オーブン内の温度が通常最初のオーブンから最後のオーブンに向かって上昇することを除いて、同じ様式で操作される。
【0021】
第1の酸化オーブン11は、第1の酸化ゾーンの雰囲気を有する第1の酸化ゾーン16を画定する。第1の酸化ゾーンの雰囲気は、矢印18によって表されるように、1つまたは複数の第1の酸化用空気の入口を通って第1の酸化ゾーン16に入る第1の酸化用空気によって形成される。第1の酸化ゾーンの排気は、矢印20によって表されるように、適切な排気ポートを通って第1の酸化オーブン11を出る。
【0022】
第1の酸化用空気の主な入口は、酸化用空気が第1の酸化ゾーン16に入る前に加熱される第1のヒータボックス(図示せず)を通る。このタイプの酸化用空気は、「補給」(“make-up”)酸化用空気と呼ばれる。第1の酸化用空気の他の可能な入口は、前駆体繊維がオーブンに出入りする隙間、および密閉されていないオーブンの縁部または他の場所を含む。このタイプの酸化用空気は、「代替」(“alternate”)酸化用空気と呼ばれる。
【0023】
第1の酸化ゾーン16に入る代替の酸化用空気の量は、代替空気の入口での圧力を制御することによって最小化することができる。これは、ファンおよび当技術分野で公知な他のデバイスを使用して行うことができる。第1の酸化ゾーン16に入る代替の酸化用空気の量は、第1のヒータボックスを通って第1の酸化ゾーン16に入る第1の酸化用空気(第1の補給空気)の量が、第1の酸化ゾーン16に入る第1の酸化用空気の全体積の少なくとも60体積パーセントであるように制御される。好ましくは、第1の酸化用空気の全体積の少なくとも85体積パーセントは、ヒータボックスを通って第1の酸化ゾーン16に入る。
【0024】
本発明によれば、第1の酸化用空気は、主に除湿された周囲空気から構成される。本明細書の目的に関しては、周囲空気は、炭素繊維生産設備内に存在し、酸化オーブンを取り囲む雰囲気である。周囲空気は、空調されてもされなくてもよく、生産設備は、様々な程度で外部大気に開放されてもよい。周囲空気は、典型的には、酸化オーブンからリサイクルされる空気を含む。そのようなリサイクルされた空気は、周囲空気のかなりの割合を構成し得る。周囲空気は、生産設備における気候、酸化オーブンを取り囲むリサイクルされた空気の割合、およびリサイクルされた空気の湿度を含むいくつかの要因に依存する周囲空気の湿度を有する。本明細書で使用される場合、「湿度」は、特に明記しない限り、絶対湿度を意味する。絶対湿度は、空気1キログラム当たりの水のグラム数(gm水/Kg空気)として表され、温度に関係なく、大気の水蒸気含有量である。
【0025】
本発明は、周囲空気の湿度が比較的高い(12gm水/Kg空気以上である)生産設備において使用することができる。しかし、炭素繊維が均一に高い引張強度を有することを確実にするために、周囲空気の湿度は2~10gm水/Kg空気の範囲内であることが好ましい。2~6gm水/Kg空気の湿度を有する周囲空気がより好ましく、2~4gm水/Kg空気の湿度を有する周囲空気が最も好ましい。
【0026】
第1の酸化ゾーン16は、第1の酸化雰囲気の湿度を有する第1の酸化ゾーンの雰囲気を有する。第1の酸化雰囲気の湿度は、主に、第1の酸化ゾーン16に入る、補給空気および代替空気中の水分によって決定される。第1の酸化雰囲気の湿度はまた、程度は小さいが、前駆体繊維から放出される内在の水分および酸化反応によって生成される水分によって決定される。
【0027】
第1のヒータボックスを通って入る周囲空気(補給空気)のみを除湿することが好ましい。このことは、第1の酸化ゾーン16に入る第1の酸化用空気の総量の少なくとも60体積パーセント(好ましくは少なくとも85体積パーセント)の除湿を行いながら、除湿プロセスを単純化する。周囲空気は、第1のヒータボックスに入る前に除湿されることが好ましい。
【0028】
ヒータボックスに入る周囲空気の除湿は、大量の空気から水分を除去することができる任意のタイプの除湿システムを使用して達成することができる。適切な除湿システムには、周囲空気から水分を凝縮および/または吸収するものが含まれる。
【0029】
本発明によれば、第1のヒータボックスを通って第1の酸化ゾーンに入る周囲空気(第1の補給空気)は十分に除湿されて、1~3gm水/Kg空気、好ましくは1~2gm水/Kg空気の絶対湿度を有する第1の酸化ゾーンの雰囲気を提供する。所望の第1の酸化雰囲気の湿度を提供するために第1のヒータボックスを通過する周囲空気(第1の補給空気)から除去されなければならない水分の量は、補給空気と代替空気の相対量、前駆体繊維によって酸化オーブンに導入される水分の量、および周囲空気の湿度を含むいくつかの要因に依存する。第1の補給空気は、第1の酸化雰囲気の湿度が周囲空気よりも少なくとも1gm水/Kg空気低くなるように十分に除湿される。例えば、周囲空気の湿度が2である場合、第1の酸化雰囲気の湿度は1gm水/Kg空気以下となる。
【0030】
周囲空気の湿度が高いほど、必要とされる除湿のレベルは高くなる。例えば、8gm水/Kg空気の絶対湿度での周囲空気は、1~3gm水/Kg空気の第1の酸化雰囲気の湿度を提供するために、除湿されて、少なくとも5~7gm水/Kg空気を除去する必要がある。別の例として、4gm水/Kg空気の絶対湿度での周囲空気は、1~2gm水/Kg空気の好ましい範囲の第1の酸化雰囲気の湿度を提供するために、除湿されて、少なくとも2~3gm水/Kg空気を除去する必要がある。
【0031】
第1の酸化ゾーンの雰囲気の湿度は、好ましくは、第1のヒータボックスを通って入る除湿された第1の酸化用空気(第1の補給空気)の湿度と実質的に同じか、またはわずかに高い。これは、代替空気として第1の酸化ゾーン16に入る周囲空気の量を可能な限り制限することによって達成される。第1の酸化用空気の総量の60~85体積パーセントが第1の補給空気として第1のヒータボックスを通って第1の酸化ゾーン16に入る場合、第1の酸化ゾーンの雰囲気の湿度は、第1のヒータボックスを通って入る除湿された第1の酸化用空気(第1の補給空気)の湿度よりわずかに高くなる。第1の酸化用空気の総量の85~100体積パーセント(第1の補給空気)が第1のヒータボックスを通って第1の酸化ゾーン16に入る場合、第1の酸化ゾーンの雰囲気の湿度は、第1のヒータボックスを通って入る除湿された第1の酸化用空気(第1の補給空気)の湿度と実質的に同じであるか、または多くても0.9gm水/Kg空気だけ高くなる。
【0032】
第2の酸化オーブン12は、第2の酸化ゾーンの雰囲気を有する第2の酸化ゾーン22を画定する。第2の酸化ゾーンの雰囲気は、矢印24によって表されるように、1つまたは複数の第2の酸化用空気の入口を通って第2の酸化ゾーン22に入る第2の酸化用空気によって形成される。第2の酸化ゾーンの排気は、矢印26によって表されるように、適切な排気ポートを通って第2の酸化オーブン12を出る。
【0033】
第2の酸化用空気の主な入口は、酸化用空気が第2の酸化ゾーン22に入る前に加熱される第2のヒータボックス(図示せず)を通る。前述のように、このタイプの酸化用空気は、「補給」酸化用空気と呼ばれる。第2の酸化用空気の他の可能な入口は、前駆体繊維がオーブンに出入りする隙間、および密閉されていないオーブンの縁部または他の場所を含む。前述のように、このタイプの酸化用空気は、「代替」酸化用空気と呼ばれる。
【0034】
本発明によれば、第2の酸化用空気は、可能な限り均一で高い引張強度を有する炭素繊維を提供するために、除湿された周囲空気から主に構成されることが好ましい。しかし、第2の酸化オーブンに入る周囲空気を除湿することに関連するコスト、複雑さ、および労力を排除するために、引張強度のわずかな低下(3%未満)が許容され得る状況では、第2の酸化用空気は周囲空気から主に構成されてもよい。
【0035】
周囲空気が除湿される場合、第2の酸化オーブン12は、第1の酸化オーブン11と同じ様式で操作され、その結果、第2の酸化ゾーン22に入る代替の酸化用空気の量は、代替空気の入口での圧力を制御することによって最小化される。これは、ファンおよび当技術分野で公知な他のデバイスを使用して行うことができる。第2の酸化ゾーン22に入る代替の酸化用空気の量は、第2のヒータボックスを通って第2の酸化ゾーン22に入る第2の酸化用空気(第2の補給空気)の量が、第2の酸化ゾーン22に入る第2の酸化用空気の全体積の少なくとも60体積パーセントであるように制御される。好ましくは、第2の酸化用空気の全体積の少なくとも85体積パーセント(第2の補給空気)は、第2のヒータボックスを通って第2の酸化ゾーン22に入る。
【0036】
第2の酸化ゾーン22に入る周囲空気(第2の補給空気)の除湿は、第1の酸化オーブンについて前述したのと同じ様式で達成される。したがって、第2のヒータボックスを通って第2の酸化ゾーン22に入る周囲空気は十分に除湿されて、1~3gm水/Kg空気、好ましくは1~2gm水/Kg空気の絶対湿度を有する第2の酸化雰囲気を提供する。第2の補給空気を形成するために周囲空気から除去されなければならない水分の量はまた、補給空気と代替空気の相対量、前駆体繊維によって酸化オーブンに導入される水分の量、および周囲空気の湿度にも依存する。第2の酸化雰囲気の湿度は、周囲空気よりも少なくとも1gm水/Kg空気低い必要があり、周囲空気の湿度よりも9gm水/Kg空気低くてもよい。
【0037】
第2の酸化オーブンに入る周囲空気が除湿される場合、第2の酸化ゾーンの雰囲気の湿度は、好ましくは、第2のヒータボックスを通って入る除湿された第2の酸化用空気(第2の補給空気)の湿度と実質的に同じか、またはわずかに高い。これは、代替空気として第2の酸化ゾーン22に入る周囲空気の量を可能な限り制限することによって、第1の酸化オーブンと同じ様式で達成される。第2の酸化用空気の総量の60~85体積パーセントが第2の補給空気として第2のヒータボックスを通って第2の酸化ゾーン22に入る場合、第2の酸化ゾーンの雰囲気の湿度は、第2のヒータボックスを通って入る除湿された第2の酸化用空気(第2の補給空気)の湿度よりもわずかに高くなる。第2の酸化用空気の総量の85~100体積パーセント(第2の補給空気)が第2のヒータボックスを通って第2の酸化ゾーン22に入る場合、第2の酸化ゾーンの雰囲気の湿度は、第2のヒータボックスを通って入る除湿された第2の酸化用空気(第2の補給空気)の湿度と実質的に同じであるか、または多くても0.3gm水/Kg空気だけ高くなる。
【0038】
第3の酸化オーブン13は、第3の酸化ゾーンの雰囲気を有する第3の酸化ゾーン28を画定する。第3の酸化ゾーンの雰囲気は、矢印30によって表されるように、1つまたは複数の第3の酸化用空気の入口を通って第3の酸化ゾーン28に入る第3の酸化用空気によって形成される。第3の酸化ゾーンの排気は、矢印32によって表されるように、適切な排気ポートを通って第3の酸化オーブン13を出る。
【0039】
第3の酸化用空気の主な入口は、酸化用空気が第3の酸化ゾーン28に入る前に加熱される第3のヒータボックス(図示せず)を通る。前述のように、このタイプの酸化用空気は、「補給」酸化用空気と呼ばれる。第3の酸化用空気の他の可能な入口は、前駆体繊維がオーブンに出入りする隙間、および密閉されていないオーブンの縁部または他の場所を含む。前述のように、このタイプの酸化用空気は、「代替」酸化用空気と呼ばれる。
【0040】
本発明によれば、第3の酸化用空気は、可能な限り均一で高い引張強度を有する炭素繊維を提供するために、除湿された周囲空気から主に構成されることが好ましい。しかし、第3の酸化オーブンに入る周囲空気を除湿することに関連するコスト、複雑さ、および労力を排除するために、引張強度のわずかな低下(3%未満)が許容され得る状況では、第3の酸化用空気は周囲空気から主に構成されてもよい。
【0041】
周囲空気が除湿される場合、第3の酸化オーブン13は、第1の酸化オーブン11と同じ様式で操作され、その結果、第3の酸化ゾーン28に入る代替の酸化用空気(第3の補給空気)の量は、代替空気の入口での圧力を制御することによって最小化される。これは、ファンおよび当技術分野で公知な他のデバイスを使用して行うことができる。第3の酸化ゾーン28に入る代替の酸化用空気の量は、第3のヒータボックスを通って第3の酸化ゾーン28に入る第3の酸化用空気(第3の補給空気)の量が、第3の酸化ゾーン28に入る第3の酸化用空気の全体積の少なくとも60体積パーセントであるように制御される。好ましくは、第3の酸化用空気の全体積の少なくとも85体積パーセントは、第3のヒータボックスを通って第3の酸化ゾーン16に入る。
【0042】
第3の酸化ゾーン28に入る周囲空気の除湿は、第1の酸化オーブンについて前述したのと同じ様式で達成される。したがって、第3のヒータボックスを通って第3の酸化ゾーン28に入る周囲空気は十分に除湿されて、1~3gm水/Kg空気、好ましくは1~2gm水/Kg空気の絶対湿度を有する第3の酸化雰囲気を提供する。第3の酸化用空気を形成するために周囲空気から除去されなければならない水分の量は、補給空気と代替空気の相対量、前駆体繊維によって酸化オーブンに導入される水分の量、および周囲空気の湿度に依存する。第3の酸化雰囲気の湿度は、周囲空気よりも少なくとも1gm水/Kg空気低い必要があり、周囲空気の湿度よりも9gm水/Kg空気低くてもよい。
【0043】
第3の酸化オーブンに入る周囲空気が除湿される場合、第3の酸化ゾーンの雰囲気の湿度は、好ましくは、第3のヒータボックスを通って入る除湿された第3の酸化用空気(第3の補給空気)の湿度と実質的に同じか、またはわずかに高い。これは、代替空気として第3の酸化ゾーン28に入る周囲空気の量を可能な限り制限することによって、第1の酸化オーブンと同じ様式で達成される。第2の酸化用空気の総量の60~85体積パーセントが第3の補給空気として第3のヒータボックスを通って第3の酸化ゾーン28に入る場合、第3の酸化ゾーンの雰囲気の湿度は、第3のヒータボックスを通って入る除湿された第3の酸化用空気(第3の補給空気)の湿度よりもわずかに高くなる。第3の酸化用空気の総量の85~100体積パーセント(第3の補給空気)が第3のヒータボックスを通って第3の酸化ゾーン28に入る場合、第3の酸化ゾーンの雰囲気の湿度は、第3のヒータボックスを通って入る除湿された第3の酸化用空気の湿度と実質的に同じであるか、または多くても0.3gm水/Kg空気だけ高くなる。
【0044】
第4および最終の酸化オーブン14は、第4の酸化ゾーンの雰囲気を有する第4の酸化ゾーン34を画定する。第4の酸化ゾーンの雰囲気は、矢印36によって表されるように、1つまたは複数の周囲空気の入口を通って第4の酸化ゾーン34に入る周囲空気によって形成される。第4および最終の酸化ゾーンの排気は、矢印38によって表されるように、適切な排気ポートを通って第4の酸化オーブン14を出る。
【0045】
本発明によれば、第4の酸化ゾーン34に入る周囲空気は除湿されない。第4の補給空気として第4の酸化ゾーン34に入る周囲空気を除湿することによって得られる、均一に高い引張強度を有する炭素繊維の生産における改善は、たとえあったとしてもわずかであることが発見された。このことは、周囲空気の湿度が10gm水/Kg空気未満、好ましくは6gm水/Kg空気未満、最も好ましくは4gm水/Kg空気未満である場合に特に当てはまる。さらに、少なくとも第1の酸化用空気は、前述のように除湿されなければならない。好ましくは、第2および/または第3の酸化用空気も除湿される。
【0046】
連続した前駆体繊維は、任意の前処理後に、矢印40によって表されるように、第1の酸化ゾーン16に供給される。前駆体繊維は、炭素繊維の製造に適した既知の繊維タイプのいずれかであり得る。ポリアクリロニトリルは、好ましい前駆体繊維である。例示的な前駆体繊維は、米国特許第4,001,382号、同第4,009,248号、同第4,397,831号、および同第4,452,860号に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0047】
前駆体繊維が第1の酸化ゾーンを通過する速度は、第1の酸化ゾーン16内での前駆体繊維の滞留時間(第1の酸化時間)が5分~1時間となる速度であることが好ましい。好ましくは、第1の酸化時間は10~40分である。前駆体繊維は、42で示すように、部分的に酸化された繊維として第1の酸化ゾーン16を出る。
【0048】
部分的に酸化された繊維は、第1の酸化ゾーンの出口42から第2の酸化ゾーン22の入口44まで移動する際に周囲空気に曝される。第1と第2の酸化オーブンの間の周囲空気における部分的に酸化された前駆体の滞留時間(第1の周囲エアタイム)は、使用される酸化オーブンの特定の種類および設計に対して可能な限り短く保たれる必要がある。8分未満の第1の周囲エアタイムが適切であり、5分以下の周囲エアタイムが好ましい。
【0049】
部分的に酸化された繊維が第2の酸化ゾーン22を通過する速度は、必ずしもそうである必要はないが、典型的には、第1の酸化ゾーン16を通る繊維速度と同じである。第2の酸化ゾーン22内での部分的に酸化された繊維の滞留時間(第2の酸化時間)はまた、5分~1時間であり、好ましくは10~40分である。
【0050】
部分的に酸化された繊維は、46で示すように、第1のさらに酸化された繊維として第2の酸化ゾーン22を出る。第1のさらに酸化された繊維は、第2の酸化ゾーンの出口46から第3の酸化ゾーン28の入口48まで移動する際に、周囲空気に再び曝される(第2の周囲エアタイム)。第2の周囲エアタイムはまた、使用される酸化オーブンの特定の種類および設計に対して可能な限り短く保たれる必要がある。8分未満の第2の周囲エアタイムが適切であり、5分以下の第2の周囲エアタイムが好ましい。
【0051】
第1のさらに酸化された繊維が第3の酸化ゾーン28を通過する速度は、必ずしもそうである必要はないが、典型的には、第1および第2の酸化ゾーン16および22を通る繊維速度と同じである。第3の酸化ゾーン28内での第1のさらに酸化された繊維の滞留時間(第3の酸化時間)はまた、5分~1時間であり、好ましくは10~40分であることが好ましい。
【0052】
第1のさらに酸化された繊維は、50で示すように、第2のさらに酸化された繊維として第3の酸化ゾーン28を出る。第2のさらに酸化された繊維は、第3の酸化ゾーンの出口50から第4および最終の酸化ゾーン34の入口52まで移動する際に、周囲空気に再び曝される(第3の周囲エアタイム)。第3の周囲エアタイムはまた、使用される酸化オーブンの特定の種類および設計に対して可能な限り短く保たれる必要がある。8分未満の第3の周囲エアタイムが適切であり、5分以下の第3の周囲エアタイムが好ましい。
【0053】
第2のさらに酸化された繊維が第4の酸化ゾーン34を通過する速度はまた、必ずしもそうである必要はないが、典型的には、第1、第2、および第3の酸化ゾーン16、22、および28を通る繊維速度と同じである。第4の酸化ゾーン28内での第2のさらに酸化された繊維の滞留時間(第4の酸化時間)はまた、5分~1時間であり、好ましくは10~40分であることが好ましい。
【0054】
第2のさらに酸化された繊維は、54で示すように、酸化繊維として第4の酸化ゾーン34を出る。次いで、酸化繊維は、当技術分野で周知のように、1つまたは複数の炭化炉に通されて、酸化繊維または安定化繊維を最終の炭素繊維に転化する。典型的な炭化炉システムおよびプロセスのいずれかを使用して、酸化繊維を炭素繊維に転化することができる。そのような炉のシステムは、典型的には、酸化繊維が順次通過する複数の炭化炉を含む。炭化オーブンは、酸化繊維を炭素繊維に転化するために十分高い温度の不活性雰囲気を有する。
【0055】
4つの酸化オーブンは、前駆体繊維から炭素繊維を生産する際に通常使用される酸化オーブンのいずれかの種類とすることができる。4つの酸化オーブンはすべて、複数の酸化オーブンが利用される典型的な炭素繊維の生産操作手順に従って操作される。4つの酸化オーブンの操作パラメータは、第1の酸化オーブンに入る第1の補給空気が前述のように除湿された周囲空気であることを除いて、典型的な炭素繊維生産ラインに従っている。好ましくは、それぞれ第2および第3の酸化オーブンに入る第2および/または第3の補給空気はまた、前述のように除湿された周囲空気である。第4の酸化オーブンは、第4の補給空気が除湿されていない周囲空気であることを除いて、最初の3つの酸化オーブンと同じ様式で操作される。
【0056】
4つの酸化オーブンは、150℃~300℃(好ましくは200℃~300℃)の従来の酸化/安定化温度で操作される。周知のように、オーブン内の1つまたは複数の温度は、第1の酸化オーブンから第4の酸化オーブンに向かって徐々に上昇する。例示的な酸化/安定化プロセスは、米国特許第5,256,344号および同第9,121,112号に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0057】
第1の酸化ゾーン16の温度範囲は、好ましくは200℃~250℃である。第1の酸化ゾーン16は、第1の温度サブゾーンおよび第2の温度サブゾーンを含み、前駆体繊維は第2の温度サブゾーンを通過する前に第1の温度サブゾーンを通過することが好ましい。第2の温度サブゾーンの温度は、第1の温度サブゾーンの温度よりも1~20℃高い。好ましくは、第2の温度サブゾーンの温度は、第1の温度サブゾーンの温度よりも1~10℃高い。
【0058】
第2の酸化ゾーン22の温度範囲は、好ましくは210℃~260℃である。第2の酸化ゾーンはまた、第1の温度サブゾーンおよび第2の温度サブゾーンを含み、前駆体繊維は第2の温度サブゾーンを通過する前に第1の温度サブゾーンを通過することが好ましい。第2の温度サブゾーンの温度は、第1の温度サブゾーンの温度よりも1~20℃高い。好ましくは、第2の温度サブゾーンの温度は、第1の温度サブゾーンの温度よりも1~10℃高い。
【0059】
第3の酸化ゾーン28の温度範囲は、好ましくは220℃~265℃である。第3の酸化ゾーンはまた、第1の温度サブゾーンおよび第2の温度サブゾーンを含み、前駆体繊維は第2の温度サブゾーンを通過する前に第1の温度サブゾーンを通過することが好ましい。第2の温度サブゾーンの温度は、第1の温度サブゾーンの温度よりも1~20℃高い。好ましくは、第2の温度サブゾーンの温度は、第1の温度サブゾーンの温度よりも1~10℃高い。
【0060】
第4の酸化ゾーン34の温度範囲は、好ましくは225℃~275℃である。第4の酸化ゾーンはまた、第1の温度サブゾーンおよび第2の温度サブゾーンを含み、前駆体繊維は第2の温度サブゾーンを通過する前に第1の温度サブゾーンを通過することが好ましい。第2の温度サブゾーンの温度は、第1の温度サブゾーンの温度よりも1~20℃高い。好ましくは、第2の温度サブゾーンの温度は、第1の温度サブゾーンの温度よりも1~10℃高い。
【0061】
本発明によれば、例示的な酸化方法は、4つの酸化オーブンのうちの第1の酸化オーブンに入る補給空気を除湿することを必要とし、これは、補給空気のいかなる除湿もなしに同じ4つのオーブンを使用して製造された炭素繊維と比較して、比較的高い均一な引張強度を有する炭素繊維の利点を提供するためである。この利点は、4つすべてのオーブンに入る補給空気を除湿するために必要なコスト、複雑さ、および労力なしにもたらされる。本発明は、最終の補給空気を加湿する必要がないことにより、最終の酸化オーブンに入る補給を除湿することに関連するコスト、複雑さ、および労力を排除するという追加の利点を提供する。このことは、3つの先行する酸化オーブンに入る補給空気が除湿される場合、最終の酸化オーブンに入る補給空気を除湿することがもたらす炭素繊維の引張強度の増加が、たとえあったとしてもわずかであるという発見に基づく。
【0062】
本発明の上記の特徴は、最初の3つのオーブンに入る補給空気を除湿することによって、均一な引張強度を可能な限り増加させると同時に、最終の酸化オーブンに入る補給空気を不必要に除湿することに関連するコストおよび労力を節約する選択肢を提供する。本発明によって提供される別の選択肢は、第1の酸化オーブンに入る補給空気のみを除湿することができることである。この選択肢は、炭素繊維の引張強度を実質的に増加させつつ、第1の補給空気を除湿することに関連するコストおよび労力しか発生させない。この選択肢は、3つ以上の酸化オーブンに入る補給空気が除湿されるように製造された炭素繊維と比較した場合、炭素繊維の引張強度の比較的小さな(5%以下の)減少があることを受容できることを必要とする。
【実施例
【0063】
実施の例は以下の通りである:
【0064】
すべての試験について同様の条件下で操作した同じ炭素繊維生産ラインを使用して、ポリアクリロニトリル前駆体繊維を炭素繊維に転化する試験を行った。炭素繊維生産ラインは、各々が2つの温度サブゾーンを含む酸化ゾーンを画定する4つの酸化オーブンを含んだ。第2のサブゾーンは、第1のサブゾーンよりも1~10℃熱かった。すべての試験について、第1の酸化ゾーン内の温度は、230℃と250℃の間であった。第2の酸化ゾーン内の温度は、235℃と255℃の間であった。第3の酸化ゾーン内の温度は、245℃と260℃の間であった。最終の酸化ゾーン内の温度は、250℃と265℃の間であった。
【0065】
繊維が酸化オーブンを通過する速度は、各酸化ゾーン内の前駆体繊維に対して約30分の酸化滞留時間をもたらした。前駆体繊維は、第1と第2の酸化オーブンの間、第2と第3の酸化オーブンの間、および第3と第4の酸化オーブンの間で周囲空気を通過した。前駆体繊維がオーブン間の周囲空気を通過する速度は、各酸化オーブンペアの間で約2分の周囲空気の滞留時間をもたらした。
【0066】
すべての前駆体繊維に対する予備酸化処理(仕上げ油の塗布を含む)は同じであった。すべての試験繊維の炭化は、350から1450℃まで上昇する温度での窒素下で一連の炉内にて行った。すべての試験で使用したポリアクリロニトリル前駆体繊維は、直径5ミクロンであり、0.8のデニールを有した。
【0067】
4つの酸化オーブンゾーンのうちの1つまたは複数で酸化雰囲気の湿度を選択的に変化させることによって、生産ラインで様々な試験を実行した。酸化雰囲気の湿度の変化は、補給空気として酸化オーブンに入る周囲空気を除湿するか、補給空気として酸化オーブンに入る周囲空気に水を添加するか、または周囲空気のみを使用して酸化オーブンを操作することのいずれかによって得られた。すべての試験について、周囲空気の湿度は、空気1キログラム当たり約3グラムの水(gm水/Kg空気)であった。周囲空気が補給空気として酸化オーブン(複数可)に入る前に除湿された場合、周囲空気から除去される水の量は、除湿された酸化ゾーン(複数可)内の酸化雰囲気が約1.4gm水/Kg空気であるように制御された。補給空気として酸化オーブンに入る前の周囲空気に水を添加した場合(試験No.6)、加湿された空気を形成するために周囲空気に添加された水の量は、約21gm水/Kg空気であった。4つの酸化オーブンのそれぞれに入る補給空気は、酸化オーブンに入る酸化用空気(補給空気+代替空気)の総量の60~85体積パーセントであった。
【0068】
その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,004,590号に記載されているように、ASTM D4018の現在のバージョンに従って炭素繊維の引張強度を測定した。試験の結果を表1および表2に示す。各オーブンで補給空気として使用された空気の種類は、上述のような3つの空気の種類にそれぞれ対応する「周囲空気」、「除湿された空気」、または「加湿された空気」のいずれかとして表で識別される。
【表1】
【0069】
試験No.1では、4つすべての酸化オーブンを周囲空気を使用して操作した。試験No.2では、第1の酸化オーブンを、除湿された空気である補給空気で操作した。第2、第3、および第4の酸化オーブンを周囲空気で操作した。試験No.2で生産された炭素繊維の引張強度は、試験No.1で生産された炭素繊維の引張強度よりも215MPa高かった。これらの試験は、炭素繊維の引張強度の改善を提供するために、4つの酸化オーブンのうちの第1の酸化オーブンに入る補給空気を除湿するだけでよいことを示している。
【表2】
【0070】
試験No.6では、第2、第3、および第4の酸化オーブンを周囲空気を使用して操作した。第1の酸化オーブンの雰囲気の絶対湿度が第2、第3、および第4の酸化オーブンの雰囲気の湿度よりも十分に高くなるように、第1のオーブン用の補給空気に水を添加した(加湿された空気)。第1の酸化オーブン単独での湿度の増加は、試験No.5に従って製造した繊維の引張強度の81%まで減少した炭素繊維の引張強度をもたらした。試験No.5では、補給空気としてすべての酸化オーブンに入る周囲空気を除湿した。これらの試験は、4つの酸化オーブンのうちの第1の酸化オーブンのみでの高湿度が、得られる炭素繊維の引張強度に実質的に悪影響を及ぼすことを示している。
【0071】
試験No.3では、第1および第2の酸化オーブンを、補給空気として除湿された空気で操作し、第3および第4の酸化オーブンを周囲空気で操作した。試験No.3で生産された炭素繊維の引張強度は、試験No.5で生産された炭素繊維の約97%であった。これらの試験は、4つの酸化オーブンすべてが除湿された場合に製造される炭素繊維の引張強度よりもわずか3%低い引張強度を有する炭素繊維を提供するためには、4つの酸化オーブンのうちの最初の2つに入る周囲空気を除湿することのみが必要であることを示している。
【0072】
試験No.4では、第1、第2、および第3の酸化オーブンを、補給空気として除湿された空気で操作し、第4の酸化オーブンを周囲空気で操作した。試験No.4で生産された炭素繊維の引張強度は、試験No.5で生産された炭素繊維の約99%であった。これらの試験は、4つの酸化オーブンすべてに入る周囲空気が除湿される場合に製造される炭素繊維の引張強度よりもわずか1%低い引張強度を有する炭素繊維を提供するためには、4つの酸化オーブンのうちの最初の3つを除湿することのみが必要であることを示している。
【0073】
先行する試験は、第1の酸化オーブン単独で除湿された空気を使用することは、得られる炭素繊維の引張強度の増加をもたらすことを実証している。さらに、試験は、4つの酸化オーブンのうちの最初の3つのみに入る周囲空気が除湿される場合に得られる引張強度を超える引張強度の改善は、4つの酸化オーブンのうちの4つすべてに入る周囲空気を除湿することによっては、たとえあったとしても、ほとんどもたらされないことを実証している。本発明は、これらの発見を認識し、少なくとも第1の酸化オーブンに入る周囲空気を除湿して、高めた引張強度をもたらす方法であって、最終の酸化オーブンを除湿することに関連するコスト、複雑さ、および労力を低減するために、最終の酸化オーブンに入る周囲空気を除湿しない、方法を提供する。酸化オーブンの雰囲気のこの選択的制御は、引張強度を高めると同時に、周囲空気がすべての酸化オーブンに入る前に、周囲空気を除湿することに関連するコスト、複雑さ、および労力を低減するという利点を提供する。
【0074】
このように本発明の例示的な実施形態を説明してきたが、当業者であれば、開示内は例示的なものにすぎず、本発明の範囲内で様々な他の代替形態、適合形態、および修正形態を行うことができることに留意されたい。したがって、本発明は、上述の実施形態によって限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
図1
【国際調査報告】