(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(54)【発明の名称】複数の標的受容体のための音響親和性細胞の選択
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20221020BHJP
C07K 17/00 20060101ALN20221020BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20221020BHJP
C07K 17/08 20060101ALN20221020BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C07K17/00
C07K16/28
C07K17/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511383
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(85)【翻訳文提出日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 US2020048126
(87)【国際公開番号】W WO2021041621
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519144901
【氏名又は名称】フロデザイン ソニックス, インク.
【氏名又は名称原語表記】FLODESIGN SONICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】トストエス, ルイ
(72)【発明者】
【氏名】リプケンス, バルト
(72)【発明者】
【氏名】チターレ, ケダール, シー.
(72)【発明者】
【氏名】ロス-ヨンスル, ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】プレス, ウォルター エム., ジュニア.
(72)【発明者】
【氏名】サロイオ, ジャック
【テーマコード(参考)】
4B029
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029AA27
4B029BB01
4B029BB15
4B029DG08
4H045AA30
4H045AA40
4H045BA62
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA60
4H045GA21
(57)【要約】
物質の分離は、親和性結合及び音響泳動技術を使用して達成される。分離のための物質及び支持構造体の流体混合物を備えたカラムは、支持構造体の流れを阻止するために音響波とともに使用してもよい。支持構造体は、流体混合物中の1つ又は複数の物質に対して親和性を有してもよい。支持構造体の流れを阻止することにより、支持構造体に結合又は付着した物質も阻止される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離システムであって、
流体の流れを可能にする開口部を両端部に有するカラムであって、少なくとも2つの異なる種類の細胞物質を標的とする複数の支持構造体の導入及び封じ込めを可能にするために流動床として構成された前記カラムと、
前記カラム内に音響定在波を生成するために前記カラムの一端部に設けられた音響トランスデューサであって、前記流体の流れに逆らって前記カラム内の支持構造体を阻止及び保持するための前記音響定在波を生成するように構成された前記音響トランスデューサと、
を備える、システム。
【請求項2】
請求項1のシステムにおいて、
前記流体を攪拌するために前記カラムに結合された攪拌機を更に備える、システム。
【請求項3】
請求項1のシステムにおいて、
前記音響トランスデューサが複数のモードで動作するように構成された、システム。
【請求項4】
請求項3のシステムにおいて、
前記複数のモードは、クラスタリングモードとエッジ効果モードとを含む、システム。
【請求項5】
請求項1のシステムにおいて、
前記音響トランスデューサは、前記カラム内に複数次元の音響定在波を生成するように構成された、システム。
【請求項6】
請求項1のシステムにおいて、
所定の比率で2つの異なる種類の細胞物質を得るために、少なくとも2つの異なる種類の細胞物質を標的とする複数の支持構造体の比率を更に備える、システム。
【請求項7】
請求項6のシステムにおいて、
前記支持構造体は、標的細胞の種類に特異的な抗体で構成される親和性ビーズを備える、システム。
【請求項8】
請求項7のシステムにおいて、
前記親和性ビーズは、前記カラムのボリュームの約10%から約30%の範囲のカラムに充填された、システム。
【請求項9】
請求項7のシステムにおいて、
前記親和性ビーズは、1つ又は複数のCD4又はCD8の捕捉抗体で構成されるシステム。
【請求項10】
請求項7のシステムにおいて、
前記親和性ビーズは、アビジン結合メタクリレートビーズとして構成された、システム。
【請求項11】
物質を分離するための方法であって、
少なくとも2つの異なる種類の細胞物質と結合するための流動床として構成されたカラムに支持構造体を提供することと、
前記少なくとも2つの異なる種類の細胞物質を含む流体混合物を前記カラムに流すことと、
前記流体の流れとともに前記支持構造体が前記カラムから離れるのを阻止するために、前記カラムの端部の近くにある音響トランスデューサで音響定在波を生成することと、
を含む、方法。
【請求項12】
請求項11の方法において、
前記カラム内の流体混合物を攪拌することを更に含む、方法。
【請求項13】
請求項11の方法において、
前記カラム内の第1の支持構造体と第1の種類の細胞物質とを結合させることと、
前記第1の種類の細胞物質とは異なる第2の種類の細胞物質と、前記カラム内の第2の支持構造体とを結合させることと、を更に含む、方法。
【請求項14】
請求項13の方法において、
前記音響定在波で前記カラム内の前記支持構造体を保持しながら、前記カラムから前記第1の種類の細胞物質又は前記第2の種類の細胞物質の少なくとも1つを溶出させることを更に含む、方法。
【請求項15】
請求項11の方法において、
前記カラム内に複数次元の音響定在波を生成することを更に含む、方法。
【請求項16】
請求項11の方法において、
前記支持構造体が親和性ビーズを含む、方法。
【請求項17】
請求項16の方法において、
前記カラムのボリュームの約10%から約30%の範囲で前記カラムを前記親和性ビーズで充填することを更に含む、方法。
【請求項18】
請求項16の方法において、
前記親和性ビーズが、1つ又は複数のCD4又はCD8の捕捉抗体で構成される、方法。
【請求項19】
請求項16の方法において、
前記親和性ビーズは、アビジン結合メタクリレートビーズとして構成される、方法。
【請求項20】
音響親和性分離方法であって、
流体中の第1の細胞物質を標的とする第1の親和性ビーズを第1のカラムに提供することと、
流体中の第2の細胞物質を標的とする第2の親和性ビーズを第2のカラムに提供することと、
前記第1のカラム及び前記第2のカラムのそれぞれの端部の近くに音響トランスデューサを用いて音響定在波を生成することと、
細胞物質の流体混合物を前記第1のカラムに流して前記音響定在波に通すことと、
前記第1の親和性ビーズが前記音響定在波を通過しないように前記第1のカラムに前記音響定在波を構成することと、
前記第1のカラムの音響定在波を通過した細胞材物質の流体混合物を前記第2のカラムに流して前記第2のカラムの音響定在波に通すことと、
前記第2の親和性ビーズが前記第2のカラムの音響定在波を通過しないように前記第2のカラムの前記音響定在波を構成することと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年8月30日に出願された米国仮特許出願第63/101,227号の優先権の利益を主張し、その米国仮特許出願の内容全体は参照により本書に組み込まれる。
【0002】
背景
生体物質の分離は、様々な状況で適用されてきた。例えば、タンパク質を他の生体物質から分離するための分離技術は、多くの分析プロセスで使用されている。
【0003】
音響泳動は、音響定在波などの音響を使用して、粒子及び/又は二次流体を一次流体又はホスト流体から分離するための技術である。音響コントラスト因子(acoustic contrast factor)としても知られている密度及び/又は圧縮率に差がある場合、音響定在波は流体内の粒子に力を及ぼすことができる。定在波の圧力プロファイルは、定在波の節(nodes)で圧力振幅が極小になっている領域と、定在波の腹(anti-nodes)で圧力振幅が極大になっている領域とを含む。粒子は、その密度と圧縮率とに応じて、定在波の節又は腹に移動させられて捕捉される。一般的に、定在波の周波数が高いほど、捕捉される粒子は小さくなる。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、物質の音響分離のための方法、システム及び装置に関連する技術を説明する。分離される物質は生体物質であってもよい。分離は、物質の支持構造体を採用してもよい。支持構造体はビーズであってもよい。機能化された物質は、分離される1つ又は複数の物質に対して親和性を有する支持構造体に適用されてもよい。支持構造体は、前記物質を含む流体に混合されてもよい。流体混合物は、流体カラム又はフローチャンバに提供されてもよい。支持構造体は、その支持構造体が通過するのを防ぐことができる音響定在波を前記カラムの一端に提供することによって、前記カラムを通る流体又は流体混合物の流れに逆らって前記カラム内に保持することができる。
【0005】
いくつかの例によれば、密閉、自動化及び/又は使い捨て(single-use)といった特徴を含むことができる音響親和性システムが実装されている。前記システムのコンポーネントを大気開放環境から遮断することができれば、そのシステムは密閉されていると考えてよい。自動化されたシステムは、オペレータの介入をほとんど又はまったく必要とせずに、自律的に動作することができる。複数の再循環を含んでもよい親和性分離の実行に使用されたコンポーネント及び物質が、親和性分離の実行の後に切り離されて廃棄される場合、そのシステムは使い捨てである。使い捨てシステムにより、後続の実行のために機器のコンポーネント及び物質を洗浄及び滅菌する追加の手順を回避することができる。
【0006】
いくつかの例では、特定の標的物質と結合する機能化物質を流体チャンバ内に分散させることにより、生体物質の分離を実現するための方法、システム及び装置が開示されている。特定の標的物質は、細胞、組換えタンパク質及び/又はモノクローナル抗体が例として挙げられる粒子であってもよい。ビーズ及び/又はマイクロキャリア構造体であってもよい機能化された物質は、特定の標的物質を引き付けて結合するための親和性物質でコーティングされるか、又は、その親和性物質を備えている。親和性物質は、標的物質との結合を形成することができるタンパク質、リガンド又は他の物質であってもよい。
【0007】
いくつかの実装例では、親和性物質及び標的物質は、機能化物質上の結合部位と抗原抗体相互作用を形成することができる。いくつかの例では、標的物質又は機能化物質のリガンドが相補的な物質上のマトリックスに結合したとき、標的物質は機能化物質に結合する。機能化物質の例としては、機能化されたマイクロビーズを挙げることができる。機能化されたマイクロビーズの例としては、対応する抗体に対して親和性を有する特定の抗原リガンドを挙げることができる。
【0008】
いくつかの例では、機能化物質で支持構造体に付着した物質はカラム内に残り、流体中の他の遊離物質が音響定在波を通過することにより、物質を分離することができる。支持構造体は、その支持構造体が流体混合物中の他の物質よりも音響定在波に対してより強く反応することを可能にする、支持構造体の密度、圧縮率、サイズ、又は、他の特性に基づいて、特定の音響コントラスト因子を有するように実装されてもよい。
【0009】
親和性プロセスを強化するために、支持構造体をカラム内で攪拌してもよい。様々なモードで、音響定在波を通過するカラム流体混合物をカラムに再循環させることも、再循環させないこともできる。前記カラム内の流体の流れは、流れるように制御することも、流れないように制御することもでき、又は、流れるときの流量率を制御することもできる。前記流体は、カラム内で静止していてもよく、温度調整、攪拌、培養、及び/又は、他の任意の有用なプロセスなどの他のプロセスが適用されていてもよい。前記カラムにプランジャ又はピストンを設けるなどして、カラムの容積を効果的に変更することができる。加熱又は冷却は、カラムの内部又は外部で、カラム又はカラムの内容物に適用することができる。
【0010】
粒子状物質の例としては、ビーズを挙げてもよい。前記ビーズの少なくとも1つは、直径が約20から300μmの球を含み、DEAE(N、N-ジエチルアミノエチル)-デキストラン、ガラス、ポリスチレンプラスチック、アクリルアミド、コラーゲン又はアルギン酸塩の少なくとも1つを含む。細胞支持物質の例としては、細胞の成長のための表面コーティングを有するマイクロバブルを挙げてもよい。細胞の例としては、例えば、T細胞、MRC-5細胞又は幹細胞を挙げてもよい。
【0011】
音響トランスデューサを使用して、一方向又は複数の方向に圧力を生成することができる音響定在波を生成することができる。複数次元では、前記音響定在波の力は、同じオーダーの大きさである可能性がある。例えば、波の伝播方向の力は、異なる方向に生成される力と同じオーダーの大きさであってもよい。界面領域(interface region)は、支持構造体の通過を防ぐのに寄与する音響定在波の境界の近くに生成することができる。複数のトランスデューサを使用してもよく、そのいくつかのトランスデューサは1つ又は複数のモードで音響波を生成するためのものであり、他のトランスデューサは別の異なるモードで音響波を生成するためのものである。例えば、前記音響波は、一次元又は複数の次元に圧力を発生させることができる定在波であってもよい。前記音響波は、他の物質の通過を許しながら、特定の物質の通過を防ぐための界面領域を形成するモードで生成してもよい。前記音響波は、クラスタに作用する重力又は浮力が流体力や音響力などのクラスタに作用する他の力を超えるまでサイズが大きくなる特定の物質を捕捉してクラスタ化し、そのクラスタが前記音響波から落下又は上昇するモードで生成することができる。
【0012】
細胞の収集は、音響トランスデューサをオフにするかどうかに関係なく実行してもよい。フローチャンバへの支持構造体の強凝集(aggregation)を促進する添加剤を適用してもよい。前記方法は、ビーズなどの支持構造体を、フローチャンバに結合された培養チャンバに再循環させることを更に含んでもよい。前記方法はまた、対象患者への注入のために収集された細胞を処理することを含んでもよい。優先的に捕捉した後、前記方法は、捕捉された細胞及び/又は細胞支持物質が、浮力又は重力によって流体から上昇又は沈降することを可能にすることを含んでもよい。前記上昇又は沈降する細胞及び/又は支持物質は、前記フローチャンバを出てもよい。前記流体から上昇又は沈降することによる分離のために細胞又は支持物質を捕捉するモードは、細胞及び/又は支持物質が流体経路を通過するのを防止又は許可するモードを伴ってもよい。前記通過を防止又は許可するモードは、前記流体経路を横切る界面領域を有する音響波を実装してもよい。
【0013】
いくつかの実装例において、前記物質の例としては、組換えタンパク質及びモノクローナル抗体などの標的化合物、ウイルス及び/又は生存細胞(例えば、T細胞)が挙げられる。表面に機能化物質がある場合とない場合のビーズ又はマイクロキャリアは、標的の化合物又はコンポーネントであってもよい。
【0014】
例示的な装置は、機能化物質を含む流体を受け入れるように構成されたフローチャンバを備えてもよい。フローチャンバは、カラムの形態であってもよい。音響トランスデューサは、フローチャンバに関連して配置され、例えば、フローチャンバに音響的に結合されて、励起されたときにフローチャンバに音響的な波又は信号を提供する。前記トランスデューサの励起は、例えば音響トランスデューサがオフになっているときなど、音響の圧力振幅がベースレベルから上昇する第1の空間的な場所、及び、例えば音響の圧力振幅が音響トランスデューサがオフになっているときの音響の圧力振幅と同等であってもよいなど、音響の圧力振幅がベースレベルからほとんど又はまったく上昇していない第2の空間的な場所を含むチャンバ内に、複数次元の音響場を生成することができる。
【0015】
いくつかのモードにおいて、機能性物質は、複数次元の音響場の第1の場所又は第2の場所に移動させられて保持されてもよい。他のモードでは、機能性物質は、界面領域でのエッジ効果に従って、複数次元の音響場に入ることを防いでもよい。分離される標的物質を含む処理対象の物質は、機能化物質が保持されるフローチャンバに流入されてもよく、その結果、機能化物質に相補的な特徴を有する標的物質の一部が機能化物質に結合するようになり、一方、前記標的物質の他の部分はフローチャンバを通過する。チャンバは、上向き又は下向きの垂直流れ用に構成してもよい。チャンバへの流体経路は、チャンバの上部及び/又は下部に提供されてもよい。音響トランスデューサをチャンバの上部及び/又は下部に結合して、その位置で音響場を生成することができる。
【0016】
機能化マイクロキャリアはまた、組換えタンパク質又はモノクローナル抗体が緩衝液又は他のプロセス溶出によって表面から溶出された後に循環されてもよい。これにより、機能化マイクロキャリアとバイオリアクタからの発現タンパク質との表面積が大きくなり、親和性の高い相互作用が得られるため、音響流動床クロマトグラフィープロセスの効率が向上する。
【0017】
いくつかの実装例において、前記装置は、充填されたカラムよりも、ビーズ又は細胞などの粒子間に、より多くのスペースを提供する配置で、ビーズなどの機能化粒子を提供する。密度が低いほど、非標的生体物質が機能化粒子間の流路を詰まらせる可能性が低くなる。いくつかの実装例において、標的生体物質を含む媒体を再循環させることにより、遊離した標的生体物質が機能化粒子を複数回通過して、前記装置の捕捉表面積を実質的に増加させることができる。細胞などの非標的生体物質との接触を減らすことで、細胞の生存率を維持することができる。本書で説明する技術は、高密度又は低密度の細胞培養、新しい研究アプリケーション、例えば、1,000リットルを超える大量生産の培養、効率的なモニタリング及び培養制御、細胞培養のアプリケーションにおける、コスト及び汚染の削減に利用することができる。
【0018】
本書で説明されている主題の1つ又は複数の実装の詳細は、添付の図面及び以下の説明に記載されている。主題の他の特徴、態様及び利点は、説明、図面及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本開示は、添付の図面を参照して、以下でより詳細に説明される。
【0020】
【
図1】
図1は、音響親和性プロセスの簡略図である。
【0021】
【
図2】
図2は、エッジ効果モードで動作する音響親和性システムの側面図である。
【0022】
【
図3】
図3は、クラスタモードで動作する音響親和性システムの側面図である。
【0023】
【0024】
【
図5】
図5は、音響親和性システム及びプロセスの図である。
【0025】
【
図6】
図6は、音響親和性システム及びプロセスの図である。
【0026】
【
図7】
図7は、音響親和性システム及びプロセスの図である。
【0027】
【
図8】
図8は、音響親和性システム及びプロセスの図である。
【0028】
【
図9】
図9は、音響親和性プロセスにおける親和性ポジティブ選択の図である。
【0029】
【
図10】
図10は、音響親和性プロセスにおける親和性ネガティブ選択の図である。
【0030】
【
図11】
図11は、保持と流入流量率との関係を示すグラフである。
【0031】
【
図12】
図12は、細胞生存率とカラム容積との関係を示すグラフである。
【0032】
【
図13】
図13は、粒子サイズのヒストグラムを示すグラフである。
【0033】
【
図14】
図14は、音響親和性システム及び再循環を伴うプロセスの図である。
【0034】
【
図15】
図15は、再循環の配置における純度及び回収率を示す棒グラフである。
【0035】
【
図16】
図16は、CD3マーカーを標的とするための機能化物質を有するビーズの図である。
【0036】
【
図17】
図17は、異なる種類のビーズのサイズ分布を示すグラフである。
【0037】
【
図18】
図18は、異なる種類のビーズの結合比を示すグラフである。
【0038】
【
図19】
図19は、異なる親和性システム間の比較分析を示す図である。
【0039】
【
図20A】
図20Aは、抗体滴定比の変化による細胞集団の違いを図示する4つのグラフを示している。
【
図20B】
図20Bは、抗体滴定比の変化による細胞集団の違いを図示する4つのグラフを示している。
【0040】
【
図21】
図21は、1ミリリットル当たりの細胞数とカラム容積との関係を示すクロマトグラムである。
【0041】
【
図22】
図22は、時間の経過に伴うカラム流出物における細胞数を示すグラフである。
【0042】
【
図23】
図23は、ビーズを保持することと音響場内で非標的細胞を通過させることを含む一連の細胞選択アクションを示す図である。
【
図24】
図24は、ビーズを保持することと音響場内で非標的細胞を通過させることを含む一連の細胞選択アクションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本開示では、節(nodes)及び腹(anti-nodes)を有する音響定在波を使用して、ビーズ又はコーティングされたマイクロバブルなどの支持構造体を、カラムなどのチャンバ内の他の物質から分離する方法、システム及び装置について説明する。本書で説明される例示的な実装は、異なるモードで動作されてもよい。例えば、一部のモードでは、音響波は、チャンバ全体に特定の特性で生成される。音響波は、カラムの一端に配置される音響トランスデューサによって生成されてもよい。音響波は、他の物質の通過を可能にしながら特定の物質が音響波に入るのを阻止する界面領域を生成させてもよい。音響波の特性は、圧縮率、密度、サイズ、音響コントラスト因子、及び、音響波に応答するその他のパラメータなどのパラメータに基づいて、物質を阻止又は通過するように制御することができる。他のモードでは、音響波は、物質を捕捉する空間的な位置で発生してクラスタを形成し、そのクラスタに作用する重力又は浮力が音響力又は流体抗力を上回るまでサイズが大きくなると、クラスタは音響波から出ることになる。
【0044】
本書で論じられるモードは、一緒に若しくは別々に採用してもよいし又は組み合わせて採用してもよい。モードは、1つ又は複数の音響トランスデューサを用いて採用又は生成してもよい。音響波によって生成される音響場は、特定の物質の通過を阻止又は許可するように構成することができる。例えば、ビーズ、ビーズ/細胞の複合体又は粒子の形態をとることができる細胞の支持構造体は、音響場を通過するのを阻止されてもよい。細胞などの物質は、流体チャンバを通過してもよい。支持構造体としては、流体チャンバを通過した物質の少なくとも一部と結合することができる機能化物質が例として挙げられる。機能化物質を介して支持構造体に結合された物質は、音響波とともに流体チャンバ内に保持されている支持構造体によって流体チャンバ内に保持されている。支持構造体に結合していない物質は、音響波を通過して流体チャンバから出て行ってもよい。音響波を使用して親和性分離を実行する技術は、本書でより詳細に説明されるように、多くの利点が得られる。
【0045】
図1を参照すると、図は、音響親和性プロセス100を示している。機能化ビーズ102は、標的物質及び非標的物質を含むチャンバ104内に配置されている。標的物質は、ビーズ102に提供される機能化に対応している。プロセス100は、親和性結合プロセスにおいてビーズ102に結合されている標的物質を示している。ビーズ102は、トランスデューサ106とリフレクタ108との間のトランスデューサ106によって生成される音響定在波によって収集され又は影響を受ける。ビーズ102が音響波によって保持されている間、チャンバ104内の残りの物質は、チャンバ104を通して流体を流すことによって除去することができる。
図1に示されるプロセス100は、ポジティブ選択プロセス又はネガティブ選択プロセスであることができ、ここで、標的物質は、それ自体が他の物質からそれぞれ収集又は除去されることが望まれる。
【0046】
いくつかの例によれば、密閉、自動化及び/又は使い捨て(single-use)といった機能を有してもよい音響親和性システムが実装されている。コンポーネントを大気開放環境から遮断できる場合、システムは密閉されていると考えることができる。自動化されたシステムは、オペレータの介入をほとんど又はまったく必要とせずに、自律的に動作することができる。複数の再循環を有してもよい親和性分離の実行に使用されるコンポーネント及び物質が、親和性分離の実行の後に切り離されて廃棄される場合、そのシステムは使い捨てである。使い捨てシステムにより、後続の実行のために機器のコンポーネント及び物質を洗浄及び滅菌する追加の手順を回避できる。
【0047】
親和性分離のための従来のシステムは、磁気応答性ビーズを使用していた。これらのビーズは、生体内で溶解しないか又は容易に消費されないため、患者に提供されるいかなる治療からも優先的に完全に除去されるため、製造プロセス中に問題が発生する可能性がある。そのようなビーズは、本開示の音響親和性分離システムで使用してもよいが、音響を利用することで、特に音響的に応答するように調整されたビーズなどの支持構造体を使用できる可能性がある。例えば、ビーズは、非磁性であってもよく、又は、非磁性的に応答してもよく、高い音響応答性を有してもよい。音響応答性ビーズは様々な物質で構成できるため、ビーズを使用する処理システムの柔軟性が大幅に向上する。これらの音響親和性ビーズは、生体適合性のある溶解性物質で構成することができ、磁気応答性ビーズで採用されている積極的なビーズ除去プロセスを軽減することができる。
【0048】
音響親和性システムは、現在のシステムと比較してスループットが向上するように構成してもよい。例えば、システムを通る流体の流量率は、従来の親和性システムで通常使用される流量率よりも増やしてもよい。システムは、より高い流量率及び容量を可能にするより大きなチャネルで構成してもよい。細胞集団の増殖は、本開示のシステム内で実施してもよいし、又は、外部で実施して音響親和性システムに供給してもよい。
【0049】
音響親和性システムの構成により、異なる範囲のサイズ又は密度など、異なる特性を有してもよい複数の種類の支持構造体又はビーズの使用が可能になる。支持構造体又はビーズの異なるグループは、タンパク質、抗原又は抗体などの異なる種類の機能化物質を備えていてもよく、それにより、親和性分離の多重化を可能にすることができる。この構成により、複雑なシングルパス親和性の選択を実現することができる。
【0050】
いくつかの実装例では、カラムは、特定の種類の細胞に親和性のある大量のビーズを備えている。カラムに導入された細胞は、ビーズと複合体を形成し、この複合体は、音響技術を使用してカラムボリュームから分離することができる。前記分離を利用して対象の培養細胞を回収してもよく、抽出された細胞を患者に注入してもよい。親和性結合システムで音響を使用して対象の培養細胞を分離することは、様々な細胞治療の用途、例えば、ワクチン治療、幹細胞治療、特に自己由来治療及び同種他家由来治療、又は、再生治療などに適用することができる。
【0051】
音響波は、カラムなどのフローチャンバで生成され、流体中の結合していない細胞又は物質からビーズ及びビーズ複合体の分離を行う。前記分離は、除外される不要な物質がビーズに結合されている場合、又は、分離に必要な物質がビーズに結合されている場合、それぞれネガティブ又はポジティブの場合がある。ネガティブ選択又はポジティブ選択のいずれにおいても、対象の物質は、付着細胞を含む互いに異なる様々な種類の細胞であってもよい。付着細胞としては、ヒト多能性幹細胞(hMSC)、ヒト間葉系幹細胞(同じく、hMSC)、ヒト多能性幹細胞(hPSC)、ヒト皮膚線維芽細胞(hDF)、ヒト軟骨細胞、及び、いくつかのTリンパ球を、例として挙げることができる。付着細胞は、抗原特異性が異なる場合がある(例えば、CD8付着細胞)。細胞治療で使用される株は、モノクローナル又はポリクローナル(例えば、ポリクローナルCD8付着細胞株)、及び、CAR(キメラ抗原受容体)付着細胞(別名、人工付着細胞受容体、又は、キメラ付着細胞受容体、又は、キメラ免疫受容体)であってもよい。これらは、特定のタンパク質を認識するように改変されたT細胞である。音響親和性分離システムで使用されるビーズは、ネガティブ選択又はポジティブ選択のために、これらの細胞若しくは対象の物質に結合するように、又は、結合しないように構成してもよい。
【0052】
本書で説明するビーズ技術は、高密度細胞培養、新しい研究アプリケーション、例えば、1,000リットルを超える大量生産の培養、効率的なモニタリング及び培養制御、細胞培養のアプリケーションにおけるコスト及び汚染の削減に利用することができる。使用されるビーズは、Promega社によって供給されるMAGNE磁気親和性ビーズ若しくはポリスチレンビーズ又はMiltenyi Biotec社によって供給されるMACS(磁気活性化細胞ソーティング)ビーズなどの市販のものであってもよい。ビーズのサイズ、例えばそれらの直径は、ナノメートル又はマイクロメートルの範囲であってもよい。少なくとも2層のビーズであるコスフェリック(Cospheric)ビーズを使用してもよい。前記層は、異なるコントラスト因子、構造的剛性、又は、複数の層を使用して単一のビーズに組み合わせることが望まれる他の任意の特性など、異なる特性を有してもよい。
【0053】
いくつかの実装では、対象物質を結合するための支持構造体としてマイクロバブルを使用してもよい。マイクロバブルは、タンパク質、脂質又は生体高分子が例として挙げられる対象の細胞又は物質に結合することができる生体適合性物質及びリガンドのシェルによって、並びに、充填ガスによって、構成することができる。製造を比較的容易にするために、低密度の流体を使用してもよい。マイクロバブルのシェルは、硬くてもよく(例えば、変性アルブミン)、又は、柔らかくてもよく(リン脂質)、厚さが10~200nmであるものでもよい。充填ガスは、血液などの周囲の流体と比較してマイクロバブル内の蒸気濃度が高くなり、周辺循環におけるマイクロバブルの安定性を高めることができる、高分子量で溶解度の低い充填ガス又は液体(パーフルオロカーボン又は六フッ化硫黄)であってもよい。マイクロバブルのシェルは、脂質層などの表面コーティングを有してもよい。脂質層は、細胞又は生体分子などの物質成長のためのスキャフォールド又は基材として利用してもよい。活性基は、ガラス表面により簡単に直接結合するものであってもよい。マイクロバブルは、2マイクロメートルから6マイクロメートルの範囲の直径を有していてもよい。コーティングされたマイクロバブルは、負のコントラスト因子を持っていてもよい。
【0054】
上述した例は、支持構造体としてビーズを提供する。コーティングされたバブルやマイクロバブルなどの他の支持構造体も使用することができる。便宜上、支持構造体は、本書では集合的にビーズと呼ばれることがあり、この用語は、ビーズ、バブル、マイクロキャリア及び対象の標的物質に結合でき又は結合されることができる他の種類の親和性物質又は支持構造体が例として挙げられる、すべての種類の支持構造体を包含することを意図している。
【0055】
細胞は、ビーズ、例えばCD3活性化ビーズ又はCD28活性化ビーズに結合する。以下で更に詳しく説明するように、ビーズは、対象の細胞又は物質がビーズの表面に接着又は付着できるように表面化学による機能化が可能である。ビーズとしては、バイオリアクタ又は他の細胞培養システムにおける付着細胞の成長を可能にする支持マトリックスを例として挙げることができる。いくつかの場合においては、付着細胞は表面に抗原がなくてもビーズに結合し、ビーズは機能化又は非機能化することができる。親和性アプリケーションのいくつかの例としては、アフェレーシス製品のCD3+、CD3+CD4+、及び/又はCD3+CD8+親和性選択のポジティブ選択又はネガティブ選択が挙げられる。親和性アプリケーションの他の例としては、TCR+又はTCR-細胞のポジティブ選択又はネガティブ選択が挙げられる。
【0056】
ビーズの構造的な例としては、1μmから300μmの範囲、例えば、125μmから250μmの範囲の直径を有する球が挙げられる。球は、1.02~1.10g/cm3の範囲の密度を持つものであってもよい。いくつかの場合においては、ビーズは棒状の構造を有してもよい。ビーズは滑らかであってもよく、マクロポーラスであってもよい。
【0057】
ビーズのコアは、ガラス、ポリスチレンプラスチック、アクリルアミド、コラーゲン、アルギン酸塩などの様々な物質で作ることができる。ビーズの素材は、様々な表面の化学的性質とともに、形態や増殖などの細胞の挙動に影響を与えることができる。
【0058】
ビーズは、ガラス、コラーゲン(例えば、中性又は帯電したゼラチン)、組換えタンパク質又は化学処理などの様々なコーティングによって被覆して、細胞接着を強化し、多くの異なる細胞株でより望ましい細胞収量が得られるようにしてもよい。
【0059】
ビーズの表面化学としては、細胞外マトリックスタンパク質、組換えタンパク質、ペプチド、及び、正又は負に帯電した分子を例として挙げることができる。マイクロキャリアの表面電荷は、DEAE(N、N-ジエチルアミノエチル)-デキストラン、ラミニン、又は、ビトロネクチンコーティング(細胞外基質タンパク質)を例として挙げることができる互いに異なる多くのグループから導入されてもよい。DEAE-デキストランの例では、軽度の正電荷を表面に加えることができる。
【0060】
例えば、生物学的親和性プロセスで使用するための機能化物質を用いたビーズコーティングの他の例として、ストレプトアビジン、単量体アビジン、プロテインA、抗CD3、及び、生物学的物質を結合するための他の既知の機能化物質が挙げられる。抗体、試薬及び/又は機能化物質の様々な組み合わせをビーズとともに使用して、対象の細胞に結合させることができる。対象の細胞は、例えば、CD3などの標的タンパク質又はマーカーで識別してもよい。
【0061】
いくつかの実装形態では、ビーズは、架橋されたデキストラン基質を、基質全体に分布する正に帯電したDEAE基で置き換えることによって形成される。この種類のビーズは、確立された細胞株に使用することができ、及び、一次細胞株と正常な二倍体細胞株の培養物からのウイルス又は細胞産物の生産に使用することができる。
【0062】
いくつかの実装形態では、ビーズは、変性コラーゲンの薄層を架橋デキストラン基質に化学的に結合することによって形成される。コラーゲン表面層は様々なタンパク質分解酵素で消化できるため、増加した又は最大の細胞の生存率と膜の完全性を維持しながら、ビーズから細胞を回収する機会を提供する。本書で説明される音響親和性システムは、様々な種類のビーズで動作させることができ、以下に、その3つの一般的なグループについて説明する。
【0063】
ビーズは、cGMP(現在の適正製造基準)基準又は規制に従って作製及び構成されてもよい。音響親和性システムで使用できるビーズの一例のグループは、密度の高い大サイズのビーズである。これらの大サイズのビーズは、次のような特徴を持っていてもよい。
・非磁性
・約50μmの平均サイズ
・より遅い結合速度
・音響技術を使用してより簡単に分離される
・正の音響コントラスト因子
・溶解性及び生体適合性
・ポリ乳酸-グリコール酸共重合体、PLGA
・細胞によって内在化されていない
【0064】
ビーズの他の例のグループは、本書でミディアムサイズのビーズと呼ばれるものである。これら中間サイズのビーズは、以下の特徴を持っていてもよい。
・非磁性
・約1~10μmの範囲の平均サイズ
・溶解性及び生体適合性
・大サイズのビーズよりも速い結合速度
・大きな音響コントラストを使用する
・負及び正のコントラスト
・PLGA又は独自の脂質ベース
【0065】
ビーズの他のグループ例は、本書で小さいビーズと呼ばれるものである。これらの小さいビーズは、次のような特徴を持っていてもよい。
・非磁性
・約200nm~2μmの範囲の平均サイズ
・溶解性及び生体適合性
・非常に速い結合
・クラスタリングによる分離
・負のコントラスト因子、低音速と高密度
・独自の脂質ベース
【0066】
様々な種類のアプリケーションに応じて、様々な種類のビーズを選択してもよい。例えば、細胞がビーズと共に培養される場合、又は、親和性結合が非流動モードで起こる場合、より大きなビーズを使用してもよい。
【0067】
親和性結合に使用されるビーズは、音響トランスデューサによって生成された音響波によって引き止められるか、又は、音響波を通過することができる。音響トランスデューサは、フローチャンバ内で複数次元の音響定在波を生成して、増加した圧力放射力の場所を含む音響場を生成してもよい。音響トランスデューサは、振動して音響波を生成するように励起される圧電材料を含んでもよい。音響トランスデューサは、高次の振動モードを生成するように構成してもよい。例えば、音響トランスデューサ内の振動材料を励起して、振動材料の表面に定在波を得ることができる。振動の周波数は、励起信号の周波数に直接関係している。いくつかの実装形態では、振動材料は、流体層、例えば、流体又はフローチャンバを通って流れる流体中のビーズ及び培養細胞の混合物に直接露出する外面を有するように構成される。いくつかの実装形態では、音響トランスデューサは、振動材料の外面を覆う摩耗表面材料を有し、その摩耗表面材料は、半波長以下の厚さを有し、及び/又は、ウレタン、エポキシ又はシリコーンのコーティング又はポリマー若しくは同様の薄いコーティングを有する。いくつかの実装形態では、音響トランスデューサは、上端、下端及び内部容積を有するハウジングを含む。振動材料は、ハウジングの下端及び内部容積内に配置することができ、ハウジングの上端に面する内面を有する。いくつかの例では、音響物質の内面は、ハウジングの上端に直接露出している。いくつかの例では、音響トランスデューサは、音響物質の内面に接触するバッキング層を含み、バッキング層は、実質的に音響的に透明な物質でできている。複数次元の音響定在波の生成に使用するために、音響トランスデューサにおいて1つ又は複数の構成を組み合わせてもよい。
【0068】
生成された複数次元の音響定在波は、その定在波の軸方向だけでなく横方向を含むすべての方向における音響場の強い勾配によって特徴付けることができる。いくつかの例において、このような勾配の強さは、音響放射力がmm/sのオーダーの線速度で抗力に打ち勝つのに十分であるようなものである。特に、音響放射力は、同じオーダーの大きさの軸力成分及び横力成分を有することができる。結果として、音響勾配により、横方向に強い捕捉力が発生する。
【0069】
複数次元の音響定在波は、音響放射力の空間パターンを発生させることができる。複数次元の音響定在波は、トランスデューサ内の圧電材料のマルチモードの摂動により、1つのトランスデューサとリフレクタのペアから生成されてもよい。音響放射力は、同じオーダーの大きさの軸力成分及び横力成分を有することができる。空間パターンは、放射力の周期的な変化として現れてもよい。より具体的には、圧力節面と圧力腹面は、流体媒体内に生成することができ、圧力節面と圧力腹面の間に極大及び極小の音響放射力面を有する床音響放射力面にそれぞれ対応する。圧力節面は、音響的な変位の腹面でもあり、その逆も同様である。空間パターンは、流体媒体の櫛形フィルタのように機能してもよい。
【0070】
以下でより詳細に説明するいくつかのモードにおいて、空間パターンは、特定の特性を有する粒子の侵入が、音響波に侵入したり音響波を横切ったりするのを阻止する界面領域を生成してもよい。以下でより詳細に説明する他の動作モードでは、空間パターンを使用して、例えば、特定のサイズ又はサイズ範囲の粒子を捕捉してもよく、一方、異なるサイズ又はサイズ範囲の粒子は捕捉されないようにしてもよい。モードは、同じ場所又は別々の場所で、バリア機能及び捕捉機能の両方を提供するために、別々に又は一緒に組み合わせて使用してもよい。
【0071】
複数次元の音響定在波において、特定の圧力節面内の音響放射力は、粒子がこれらの平面内のいくつかの異なる点に捕捉されるようなものである。粒子の捕捉は粒子のクラスタの形成につながり、粒子のクラスタが連続的に成長して臨界サイズに達すると、重力又は浮力の沈降が促進されるため、その粒子のクラスタは一次流体から連続的に沈降又は上昇する。例えば、空間パターンは、例えば、ビーズやマイクロバブルなどの支持構造体を捕捉しながら培養細胞を自由に流せるように、超音波照射の周波数及び/又は位相、トランスデューサに供給される電力、電圧及び/又は電流、又は、流体速度又は流量率を調整することによって構成することができ、それによって少なくとも捕捉された支持構造体を流体中の細胞又は他の物質から分離することができる。
【0072】
いくつかの実装例では、1つ又は複数の複数次元音響定在波が、超音波トランスデューサとリフレクタとの間に生成される。音響波は、音響トランスデューサから継続的に発射され、リフレクタによって反射されて、発射された音響波と干渉し、音響定在波を形成する。音響定在波の形成は、周波数、電力、媒体、トランスデューサとリフレクタとの間の距離など、いくつかの要因に依存してもよい。定在波は、その極小値又は極大値がトランスデューサ又はリフレクタから離間するように、トランスデューサ又はリフレクタでオフセットしてもよい。反射波(又は、反対側のトランスデューサによって生成された波)は、トランスデューサによって生成された波と同相にしたり又は位相をずらしたりしてもよい。定在波の特性は、駆動信号の位相、振幅又は周波数を修正及び/又は制御するように、トランスデューサに印加される駆動信号によって修正及び/又は制御してもよい。また、音響的に透明又は応答性の物質をトランスデューサ又はリフレクタと共に使用して、定在波を修正及び/又は制御してもよい。
【0073】
流体混合物が超音波トランスデューサとリフレクタとの間、又は、2つの向かい合う超音波トランスデューサの間を流れると、その間に1つ又は複数の複数次元音響定在波が形成され、粒子又は二次流体がクラスタ化、収集、弱凝集(agglomerate)、強凝集(aggregate)、塊化(clump)又は合体する。物質のクラスタ化は、ホスト流体に対する粒子又は二次流体の音響コントラスト因子に応じて、複数次元音響定在波の節又は腹で発生してもよい。クラスタが複数次元音響定在波の保持力に打ち勝つために十分な大きさに成長すると、粒子は、最終的に複数次元音響定在波の節又は腹を出るクラスタを形成する。例えば、クラスタのサイズは、重力又は浮力が音響又は流体の抗力よりも支配的となるポイントまで成長し、クラスタがそれぞれ沈降又は上昇する原因となる。ほとんどの細胞の場合のように、ホスト流体よりも密度の高い流体又は粒子の場合、クラスタは沈み、浄化されたホスト流体とは別に収集できる。ホスト流体よりも密度が低い流体又は粒子の場合、浮力のあるクラスタは上方に浮いて、収集できる。
【0074】
粒子からの音響場の散乱により、粒子又は液滴を一緒に移動させることに寄与する二次的な音響力が発生する。複数次元音響定在波は、三次元捕捉場として機能する三次元の音響放射力を生成する。粒子が波長に対して小さい場合、音響放射力は粒子の体積(例えば、半径の三乗)に比例する。力は周波数と音響コントラスト因子に比例する。力は音響エネルギ(例えば、音響の圧力振幅の二乗)に比例する。粒子に加えられる音響放射力が、流体の抗力と浮力及び重力の複合効果よりも強い場合、粒子は音響定在波内に捕捉される。複数次元音響定在波での粒子の捕捉は、捕捉された粒子のクラスタ化、集中、弱凝集及び/又は合体をもたらす。従って、ある物質の比較的大きな固体は、重力又は浮力の分離を強化することにより、異なる物質、同じ物質及び/又はホスト流体の小さな粒子から分離することができる。
【0075】
複数次元定在波は、音響波伝搬方向及び音響波伝搬方向の横方向を含む様々な方向に音響放射力を生成する。混合物が音響チャンバを通って流れるとき、懸濁液中の粒子は定在波の方向に強い軸力成分にさらされる。この音響力は流れの方向を横切る(例えば垂直に)ため、流体の抗力とは一致しない。従って、音響力は、粒子のコントラスト因子に応じて、粒子を圧力の節面又は腹面にすばやく移動させることができる。横方向の音響放射力は、集中した粒子を各平面節の中心に向かって移動させるように作用し、その結果、クラスタ化、弱凝集又は塊化が発生する。横方向の音響放射力成分は、そのような粒子の塊の流体抗力を克服して、優位的に作用する重力又は浮力によって混合物から出ることができるクラスタを継続的に成長させることができる。粒子クラスタのサイズが大きくなるにつれて粒子あたりの抗力が低下すること、及び、粒子クラスタのサイズが大きくなるにつれて粒子あたりの音響放射力が低下することは、音響分離デバイスの動作に個別に又は集合的に影響を与えてもよい。本開示では、複数次元音響定在波の横力成分及び軸力成分は、互いに同一又は異なるオーダーの大きさである。単一のトランスデューサによって生成される複数次元音響定在波では、軸方向の力は横方向の力に匹敵してもよい。このような複数次元音響定在波の横方向の力は、平面定在波の横方向の力よりもはるかに大きく、通常は2桁以上大きい。
【0076】
バリアの形成やクラスタリングなどのための様々なモードで生成される複数次元音響定在波は、トランスデューサの基本的な3D振動モードを励起する周波数で圧電材料を励起することによって得られる。トランスデューサは、超音波を生成するために摂動することができる様々な物質で構成してもよい。例えば、トランスデューサは、圧電結晶又は多結晶が例として挙げられる圧電材料で構成してもよい。マルチモード応答を達成するための超音波トランスデューサ内の圧電材料(圧電結晶又は多結晶であってもよい)の摂動は、複数次元音響定在波の生成を可能にする。圧電材料は、設計された周波数でマルチモード応答で変形するように特別に設計することができ、複数次元音響定在波の生成を可能にする。複数次元音響定在波は、9つの個別の複数次元音響定在波を生成する3×3モードなど、圧電材料の個別のモードで生成してもよい。また、圧電材料を多くの異なるモード形状で振動させることにより、多数の複数次元音響定在波を生成してもよい。従って、材料を選択的に励起して、0×0モード(つまりピストンモード)、1×1、2×2、1×3、3×1、3×3及びその他の高次モードなどの複数のモードで動作させてもよい。材料は、順番に又は1つ以上のモードをスキップして、様々なモードを循環するように動作させることができるが、必ずしも各循環でのモードの順序は同じである必要はない。モード間の材料の切り替え又はディザリングにより、指定された時間にわたって生成される単一のピストンモード形状とともに、様々な複数次元波形が可能になる。トランスデューサは、圧電結晶又は多結晶などの圧電材料で構成してもよく、PZT-8(チタン酸ジルコン酸鉛)で作られてもよい。そのような結晶は、1インチ以上のオーダーの主要な寸法を有していてもよい。圧電材料の共振周波数は、公称で約2MHzであり、1つ又は複数の周波数で動作してもよい。各超音波トランスデューサモジュールは、単一又は複数の結晶を含んでもよい。複数の結晶はそれぞれ個別の超音波トランスデューサとして機能させ、1つ又は複数のコントローラによって制御してもよい。これらのコントローラには信号増幅器が含まれていてもよい。トランスデューサの制御は、トランスデューサのドライバに制御信号を提供するようにプログラムできるコンピュータ制御によって提供してもよい。コンピュータ制御によって提供される制御信号は、周波数、電力、電圧、電流、位相、又は圧電材料を励起するために使用される他の種類のパラメータなどの駆動パラメータを制御してもよい。圧電材料は、正方形、長方形、不規則な多角形、又は、一般に任意の形状にしてもよい。トランスデューサは、横方向と軸方向に同じオーダーの力を生成する圧力場を作成するために使用される。
【0077】
いくつかの例では、圧電材料のサイズ、形状及び厚さによって、様々な励起周波数でのトランスデューサの変位を決定してもよい。異なる周波数のトランスデューサの変位を使用して、超音波処理された流体内の特定の物質を標的にしてもよい。例えば、より短い波長でより高い周波数は、より小さなサイズの物質を標的にすることができる。より長い波長でより低い周波数は、より小さなサイズの物質を標的にすることができる。これらの高周波数と低周波数の場合、音響波の影響を受けない物質が大きな変化なしに通過してもよい。高次のモーダル変位は、すべての方向の音響場に強い勾配を持つ三次元音響定在波を生成することができ、これによってすべての方向に強い音響放射力が発生する。この力は、例えば大きさが等しく、複数の捕捉ラインにつながってもよい。ここで、捕捉ラインの数はトランスデューサの特定のモード形状と相関している。
【0078】
本書で説明されるトランスデューサの圧電結晶は、結晶を励起するための周波数を含む駆動パラメータを変更することにより、様々な応答モードで動作させることができる。各動作ポイントでは、理論的には無限の数の振動モードが重ね合わされており、1つ又は複数のモードが支配的である。実際には、トランスデューサの任意の動作ポイントにおいて複数の振動モードが存在し、一部のモードは特定の動作ポイントで支配的である。
【0079】
図2を参照すると、界面バリアモードで動作するシステム200が図示されている。音響界面領域202は、ビーズ204が音響波206を通過するのを阻止するために使用される。音響波206は音響トランスデューサ208によって生成され、音響トランスデューサ208は、リフレクタ210によって反射されて極小値(節)及び極大値(腹)を有する定在波を生成する音響波を継続的に発射する。圧力上昇は、入ってくる浮遊粒子に作用する音響放射力とともに、界面領域202で音響波206の上流側に生成されてもよい。エッジ効果、境界効果又はバリア効果を提供するともいわれる界面領域202は、特定の物質又は粒子に対するバリアとして機能することができる。システム200では、ビーズ204の大部分又は実質的にすべてが、音響波206に入るのを妨げられる。他の物質は、界面領域202を通過することができる。音響波206は、ビーズ204に影響を与えるように構成されているが、他の物質は、音響波206を通過できるようにするために、より小さい影響しか受けない。
【0080】
界面領域202は、音響トランスデューサ208によって音響波が生成されている流体のボリュームの上流側の境界の面又は領域に位置している。例えば、流体は、界面領域202を横切って流れ、音響波が生成されている流体のボリュームに入り、下流方向に進んでもよい。音響定在波206の周波数は、例えば、互いに異なるコントラスト因子の物質が音響定在波206によって引き止められるか又は通過できるよう、所望の特性を有するように制御されてもよい。界面領域202は、例えば、保持される第1のサイズ範囲の粒子に影響を与えるように生成及び制御されてもよい。音響定在波206は、例えば、第1のサイズ範囲とは異なる第2のサイズ範囲の粒子が通過することができるように生成及び制御されてもよい。界面領域202を形成する音響定在波206は、物質を選択的に阻止又は通過するように変調されてもよい。前記変調は、流体が音響定在波206によって生成された音響場を通って流れる間、互いに異なる時間に物質を選択的に阻止又は通過させるために使用してもよい。
【0081】
いくつかの実装例では、音響定在波206は、三次元の音響場を生成し、これは、四角形のトランスデューサとして実装されたトランスデューサ208による励起の場合、流体の流れの方向を横切る流体のほぼ四角柱のボリュームを専有していると説明することができる。音響波206は、定在波として生成してもよい。音響波206の生成は、流体の流れを横切って互いに向かい合う2つのトランスデューサで実現することができる。単一のトランスデューサ、例えばトランスデューサ208は、チャンバ壁又はリフレクタ210で実施され得るような音響特性の変化を提供する界面境界領域に向けて流体を通して音響波206を発射するために使用されてもよい。界面境界から反射された音響波は、トランスデューサ208から発射された音響波とともに定在音響波の形成に寄与することができる。互いに異なる又は変化する流量率での動作中に、界面領域202の位置は、上流又は下流に移動してもよい。
【0082】
音響定在波206によって生成された音響場は、界面領域202で流体及び物質に音響放射圧力(例えば、圧力上昇)及び音響放射力を及ぼす。放射圧力は、流体内の物質に影響を与え、特定の特性を持つ上流の物質が音響場に入るのを阻止する。阻止された物質とは異なる特性を持つ他の物質は、流体の流れとともに音響場を通過することができる。物質又は粒子が音響場によって阻止されるか通過するかに影響を与える特性の例としては、物質の圧縮率、密度、サイズ、及び音響コントラスト因子が挙げられる。音響波の生成又は変調に影響を与えることができるパラメータの例としては、周波数、電力、電流、電圧、位相、又は、トランスデューサ208を動作させるための他の任意の駆動パラメータが挙げられる。音響波206に影響を与える他のパラメータの例としては、チャンバのサイズ、及び、密度、粘度及び流量率などの流体パラメータだけでなく、トランスデューサのサイズ、形状及び厚さが挙げられる。
【0083】
図3を参照すると、クラスタリングモードで動作するシステム300が図示されている。1つ又は複数の複数次元音響定在波306は、超音波トランスデューサ308とリフレクタ310との間に生成される。音響波は、音響トランスデューサ308から連続的に発射され、リフレクタ310によって反射され、前記発射された波と干渉し、それによって、極小値及び極大値又は節及び腹をそれぞれ有する定在波306が形成される。反射波(又は反対側のトランスデューサによって生成された波)は、トランスデューサによって生成された波と同相にしたり又は位相をずらしたりしてもよい。定在波の特性は、駆動信号の位相、振幅又は周波数を修正及び/又は制御するように、トランスデューサ308に印加される駆動信号によって修正及び/又は制御してもよい。また、音響的に透明又は応答性の物質をトランスデューサ308又はリフレクタ310と共に使用して、定在波306を修正及び/又は制御してもよい。
【0084】
クラスタリングモードにおいて、ビーズ304、ビーズ複合体314及び/又は細胞などの粒子は、複数次元定在波306内でクラスタ化、収集、弱凝集(agglomerate)、強凝集(aggregate)、塊化(clump)又は合体する。クラスタリングは、ビーズ304又はホスト流体に対する粒子の音響コントラスト因子に応じて、複数次元音響定在波306の節又は腹で発生してもよい。例えば、正の音響コントラスト因子を有するビーズ304、ビーズ複合体314又は粒子は、複数次元音響定在波306の節に向けて移動させられ、一方、負の音響コントラスト因子を有するビーズ304、ビーズ複合体314又は粒子は、腹に向けて移動させられる。クラスタ化されたビーズ304、ビーズ複合体314又は粒子はクラスタ312を形成し、クラスタ312が複数次元音響定在波306の保持力に打ち勝つのに十分な大きさに成長すると、最終的に複数次元音響定在波306の節又は腹を出る。例えば、クラスタ312が複数次元音響定在波306でサイズが大きくなるにつれて、重力又は浮力が音響及び/又は流体の抗力よりも優勢になり始める。クラスタ312のサイズが、クラスタ312にかかる重力又は浮力が音響及び/又は流体の抗力を超えるのに十分な大きさになると、クラスタ312は、複数次元音響定在波306を出る。
【0085】
例えば正の音響コントラスト因子を有するビーズ304、ビーズ複合体314又は、粒子の場合、クラスタ312は、通常、重力で沈む。例えば負の音響コントラスト因子を有するビーズ304、ビーズ複合体314又は粒子の場合、クラスタ312は、通常、浮力で上昇する。重力は
図3には示されておらず、システム300の向きは、重力が流体の流れの方向と一致するか又は反対になるようにしてもよい。重力が流体の流れの方向と反対の場合、クラスタ312は、重力による沈下として描かれる。重力が流体の流れの方向と一致している場合、クラスタ312は浮力による上昇として描かれる。
【0086】
この動作モードでは、ビーズ304及びビーズ複合体314は、音響波から沈下又は上昇することによってチャンバ内に保持される。ビーズはこのモードで軽くクラスタ化される傾向があり、標的物質又は標的細胞との追加の相互作用を可能にするためにチャンバ内で再分配される傾向がある。更に、クラスタ化されたビーズの移動及び再分配を促進するために、攪拌機をチャンバに設けてもよい。
【0087】
タイプAの細胞などの粒子は、複数次元音響定在波306に捕捉されない。タイプAの細胞及び複数次元音響定在波306の特性により、タイプAの細胞は捕捉及び/又はクラスタリングされずに通過することができる。タイプBの細胞は、ビーズ304に結合して、ビーズ複合体314を形成する。従って、タイプBの細胞は、それ自体は複数次元音響定在波306を通過することができるが、ビーズ304に結合した場合、クラスタ312内に移動させられる可能性がある。
【0088】
図4を参照すると、流動床システム400の設定が図示されている。流動床は、約10%から約30%の充填範囲のコスフェリック(Cospheric)ビーズで構成されている。音響トランスデューサは、流動床を収容するカラムの上部に取り付けられている。ビーズ、細胞又は他の物質を引き入れている可能性のある流体を導入又は除去するために、接続部がカラムの基部(base)に設けられている。システム400の構成及び動作は、トランスデューサのドライバを動作させるための信号を提供するコントローラ、並びに、ポンプ、バルブ又はスイッチなどの流体制御デバイスを用いて制御することができる。コントローラは、濁度センサ、流体フローセンサ及び/又はバルブセンサを含むセンサからフィードバックを受け取る。また、コントローラは、音響トランスデューサからフィードバックを受け取り、閉ループトランスデューサ制御の提供に寄与する。トランスデューサの様々な動作モードは、コントローラによって実装してもよい。コントローラは、本書で説明される例に従って、システム400に自動動作を提供するために使用してもよい。例えば、コントローラは、自動化された音響親和性細胞選択プロセスを実装するためにオペレータが選択できる多数の自動化プロファイルを備えてもよい。
図4に示されるように、音響トランスデューサは、上述したようにエッジ効果又は界面領域を生成するモードで使用される。このモードで動作するトランスデューサを使用したカラムのスループットの試験により、音響定在波及びエッジ効果によってビーズがカラム内に保持されている間にカラム内で使用できる流速又は流量率に関するいくつかのガイドラインが確立された。
【0089】
図5を参照すると、流動床システム500が図示されている。この実装例において、カラム502は親和性ビーズ504で充填されており、その充填は約10%から約30%の範囲の充填であってもよく、ここで、充填の割合(%)は、カラム全体の容積に対するビーズ体積の割合を示す。ビーズ504は、標的細胞506に結合するための親和性構造を備えている。音響場を生成することができる音響トランスデューサ512は、カラム502の上部に結合されている。動作中、標的細胞506及び非標的細胞508の混合物は、流入口510を介してカラム502に入る。細胞の混合物がカラム502を通って流れるとき、標的細胞506はビーズ504と結合する。非標的細胞508は、相補的な親和性構造の欠如のためにビーズ504と結合しない傾向がある。混合物がカラム502を通ってトランスデューサ512に向かって流れるとき、ビーズ504は、カラム502の流動床内を自由に移動する。ビーズ504は、トランスデューサ512によって生成された音響場に近づくと、音響エッジ効果によって阻止され、及び/又は、音響場に捕捉される。いずれの場合でも、ビーズ504は、カラム502の流出口を通過することが妨げられる。標的細胞506がビーズ504に結合すると、標的細胞506は、それらが結合しているビーズ504と共にカラム502を出ることが妨げられる。非標的細胞508は、ビーズ504ほど強く音響場の影響を受けず、音響場を通過してカラム502を出ることができる。
【0090】
流動床システム500で採用されるこの親和性技術は、シングルパスベースで実施することができる。システム500は、ビーズを選択して、カラム502を通過して出る物質を選択するか、又は、ビーズに結合されてカラム502に保持される物質を選択するように、構成してもよい。通過した物質又は保持された物質は、ポジティブに選択してもよいし、又は、ネガティブに選択してもよい。
【0091】
図6を参照すると、親和性分離プロセス600が図示されている。プロセス600には、親和性ビーズと細胞とを組み合わせてビーズ複合体を取得する外部培養ステップが含まれる。流体中のビーズ複合体と未結合物質との混合物は、カラム602に供給される。流体混合物がカラム602に沿って移動するとき、ビーズ複合体は、トランスデューサ604によって生成された音響場によってカラム602内に向けられる。未結合物質は、音響場を通過することによってカラム602を出る。この分離ステップは、未結合物質の大部分を除去しながら、ビーズ複合体を保持する。ビーズ複合体がカラム602に充填されたときに、カラム602の基部に緩衝液を導入することでフラッシュプロセスを実施してもよい。残りの未結合物質は、トランスデューサ604によって生成された音響場を通って緩衝液と共に移動する。ビーズ複合体もカラム602に沿って緩衝液と共に移動するが、音響場によって出るのを阻止される。
【0092】
プロセス600は、物質の親和性分離に有利な多くの機能を提供する。例えば、ビーズへの標的物質の結合は外部で行うことができ、これにより柔軟な培養ステップも可能になる。音響分離は、穏やかで高スループットの分離プロセスを提供し、ビーズ複合体と混合する未結合物質の量を迅速に削減する。例えば、分離プロセスは1時間未満で完了することができる。プロセス600は柔軟に拡張も可能であり、約10mLから約1Lの範囲の処理量を処理することができる。更に、プロセス600ではあらゆる種類のビーズを使用することができ、独自の又はカスタムの親和性分離プロセスに非常に高い自由度をもたらす。
【0093】
図7を参照すると、流動床システム700が図示されている。
図4~6に示されるカラムのいずれかとして実装することができるカラム702が提供されている。最初の洗浄プロセスでは、カラム702に親和性ビーズが充填される。音響トランスデューサ704がオンにされてカラム702の上部近くに音響場が生成されている間に、洗浄溶液がカラム702を通過する。洗浄液が通過して親和性ビーズが洗浄されている間、音響場はカラム702に親和性ビーズを保持する。細胞物質がカラム702に導入される捕捉プロセスが実装されている。標的細胞物質は、親和性ビーズに結合してビーズ複合体を形成し、音響トランスデューサ704によって生成された音響場によってカラム702を出るのを阻止される。非標的材料は、音響場を通過することができ、カラム702を出ることができる。捕捉プロセスの後、流体がカラム702に導入され、非標的材料をカラム702から流出させるフラッシュプロセスが提供される。ビーズ複合体は、音響トランスデューサ704によって生成された音響場によって流体の流れに逆らってカラム702に保持される。
【0094】
システム700は、内部ビーズ結合やカラム702の物質にかかる低せん断力など、親和性分離プロセスに多くの有利な機能を提供する。より大きなビーズに関連する潜在的により大きな結合エネルギーのためにより大きなビーズが使用される場合、低いせん断力での内部ビーズ結合は重要である。例えば、標的細胞物質がより大きなビーズによって捕捉されるには、より長い時間又はより多くのエネルギー量が必要になる場合がある。従って、せん断力を低くすることで、より大きなビーズとの結合を阻害しないようにすることができる。システム700は、音響トランスデューサ704を使用して、スループットの向上につなげることができる音響エッジ効果を作り出すことができる。例えば、結合と分離のプロセスは2時間以内に完了することができる。システム700はスケーラブルであり、約10mLから約1Lの範囲の処理量を処理することができる。システム700で採用される流動床は、親和性分離及び/又は分離のみの目的でビーズとともに又は細胞とともに使用してもよい。
【0095】
図8を参照すると、細胞選択システム800が図示されている。システム800は、攪拌機構804を備えたカラム802を含む。攪拌機構804は、カラム802の基部近くの攪拌子として実装してもよい。親和性分離プロセスは、流動床としてカラム802を使用してシステム800に実装してもよい。カラム802には、例えば、約10%から約30%の充填範囲の親和性ビーズが充填されている。親和性ビーズは、音響トランスデューサ806によって音響場が生成されている間に、流体をカラム802に導入することによって洗浄される。親和性ビーズが音響場によって出るのを阻止されている間、流体はカラム802を出る。音響トランスデューサ806が、カラム802の上部近くに音響場を生成している間に、細胞物質の混合物がカラム802に導入される。すべての細胞物質は、音響場の実装によって親和性ビーズとともにカラム802に保持される。過剰な流体は、細胞及び親和性ビーズが出るのを阻止されている間、音響場を通過してカラム802を出てもよい。
【0096】
洗浄プロセス中及び細胞物質の導入中に、トランスデューサ806は、互いに異なるモード又は互いに異なる特性で動作してもよく、ある場合には、洗浄プロセス中に親和性ビーズが出るのを阻止し、また別の場合には、親和性ビーズと細胞物質の両方が出るのを阻止してもよい。例えば、トランスデューサ806を駆動するために使用される周波数は、親和性ビーズを保持するための周波数と、細胞及び親和性ビーズの両方を保持する場合の周波数とで、異なってもよい。
【0097】
カラム802に親和性ビーズと細胞物質が充填されると、攪拌機構804を使用してカラム802を攪拌することができる。攪拌は、カラム802内の親和性ビーズ及び細胞物質の移動に寄与する。親和性ビーズ及び細胞物質がカラム802内を移動すると、標的物質の親和性結合プロセスを強化することができる。この培養ステップは、流体の流れがなくトランスデューサ806が通電されていない状態で実施してもよい。
【0098】
培養/結合プロセスが完了すると、親和性ビーズ/標的物質の複合体を洗浄することができ、非標的物質をカラム802から除去することができる。標的物質は、親和性ビーズから標的物質の分離を促進するカラム802に提供される溶液を用いて親和性ビーズから分離してもよい。例えば、溶液は、緩衝液中に酵素(例えば、トリプシン)を含んでもよい。例えば、その後、親和性ビーズが音響トランスデューサ806によって生成された音響場で保持されている間、標的物質をカラム802から除去してもよい。
【0099】
図9を参照すると、シングルパスを伴うストレートカラムでのポジティブ選択のための親和性選択プロセス900が図示されている。プロセス900は、親和性ビーズをカラム902に充填し、ビーズを洗浄することから始まる。音響トランスデューサ904は、充填プロセス中及び洗浄プロセス中に、カラム902の上部近くに音響場を生成する。次に、細胞物質の混合物がカラム902に供給される。標的物質は親和性ビーズに結合してビーズ複合体を形成する。非標的物質は、音響場を通ってカラム902を出る。標的物質はカラム902内に親和性ビーズで保持されるが、非標的物質はカラム902を出る。ビーズ複合体は、カラム902に緩衝液が導入されて洗浄される。分離緩衝液がカラム902に導入され、標的物質が親和性ビーズから分離される。音響場が所定の位置にあると、分離した標的物質はカラム902を出て回収されるが、親和性ビーズは保持される。
【0100】
図10を参照すると、シングルパスを伴うストレートカラムにおけるネガティブ細胞選択のための親和性選択プロセス1000が図示されている。プロセス1000は、親和性ビーズを所望の空隙率でカラム1002に所望の空隙率で充填することから始まる。充填プロセスは、音響トランスデューサ1004がカラム1002から取り外されている間に実施してもよい。カラム1002の上部に音響トランスデューサ1004が接続されている状態で、緩衝液が導入されて親和性ビーズが洗浄される。この洗浄プロセスは、ビーズのボリュームを増大させて流動床を形成するのにも役立つ。音響トランスデューサ1004が音響場を生成している状態で、細胞物質の混合物がカラム1002に供給される。標的物質は親和性ビーズに結合してビーズ複合体を形成する。非標的物質は、音響場を通ってカラム1002を出る。標的物質はカラム1002の親和性ビーズとともに保持されるが、非標的物質はカラム1002を出て所望の生成物として回収される。このネガティブ細胞選択により、シングルパスで細胞物質の混合物から標的物質が除去される。親和性ビーズは、多重化するか、又は、複数の種類の標的物質と結合するように構成してもよく、これにより、シングルパスで多重化されたネガティブ選択が可能になる。
【0101】
図11を参照すると、グラフ1100は、音響流動床カラムの音響場と流体の流入量率との関係でのビーズ保持を図示している。グラフ1100に示すように、流体の流入量率が0から約10mL/分に増加すると、ビーズの100%がカラムに保持される。流体の流入量率が毎分10mLを超えて増加するにつれて、より多くのビーズが音響場を通過していく。グラフ1100に示されているデータは、ビーズが音響場を通過するようになる流体のブレークスルー流入量率を理解するのに役立つ。この試験では、平均直径90μm、平均密度1.033g/ccのSPセファロース(Sepharose)「Fast Flow」ビーズを使用した。終端速度は52.2cm/時であった。カラムパラメータは、容積が40ml;高さが20cm;直径が1.6cmであった。膨張したボイド率は70%で、開始ビーズ濃度は7.86×10
5細胞/mlであった。動作パラメータは、周波数が1MHzであり、電力が3Wであった。
【0102】
図12を参照すると、グラフ1200は、音響親和性システムで回収された生存細胞の総量とカラムボリュームとの関係を図示しており、カラムボリュームは、カラムの容積によって正規化されたシステムへの入力量を示している。グラフ1200に示すように、生存細胞の総数(1ミリリットルあたり数百万の細胞)は、カラムボリュームの約半分になった後に大幅に増加する。このデータは、音響親和性システムにおける結合の効率を示している。例えば、流動床カラムに細胞物質供給物を供給しているカラムボリュームの最初の半分の量まで間、未結合細胞はほとんど観察されない。
【0103】
図13を参照すると、グラフ1300は、粒子直径に沿って、流動床カラムを出るビーズのヒストグラムを図示している。グラフ1300は、より低い流量率では、小さな粒子はカラムから流出する(escape)が、大きな粒子は保持されることを示している。更に、流出する粒子の平均サイズは、流量率とともに増加する。
【0104】
図14を参照すると、再循環を伴う音響親和性細胞選択を実施するための流動床システム1400が図示されている。システム1400は、カラム1402と音響トランスデューサ1404とを含む。カラム1402は、流体の流れを妨げ、流体の流れをカラム1402の中心に向かって強制的に向かわせることができる環状リブ1406を含む。リブ1406は、カラム1402内のチャネリングなどの望ましくない影響を防ぐのに役立つ。
【0105】
システム1400は、上述したシステムと同様に動作する。例えば、システム1400は、ポジティブ選択又はネガティブ選択に使用してもよく、音響トランスデューサ1404で互いに異なる動作モードを使用してもよい。システム1400は、標的細胞がカラム1402内のビーズと結合する機会を増やすことによって、標的細胞の回収を改善するための再循環の使用を図示している。ビーズがカラム1402に充填されて洗浄された後、パス1の供給物がカラム1402に供給される。パス1の供給物から生じるカラム1402の流出は、パス2の供給物として使用するために回収される。パス2の供給物は、後続の再循環パスの供給物を供給するための入力として使用される。図示されていないが、パス2の供給物は、別の後続の再循環パスのために回収できる流出物を生成することができる。再循環の回数は任意である。本書で論じた例示的なシステム及び流動床はそれぞれ、複数の再循環パスを有するように構成してもよい。
【0106】
図15を参照すると、グラフ1500は、多数の再循環供給パスを備えた流動床システムにおける純度(P)と回収率(R)を図示している。グラフ1500は、純度が高いレベルに維持されていることを示しており、再循環パス1及び2では90%を超え、再循環パス3では80%を超えている。細胞の回収率は、再循環パスごとに増加し、3回目の再循環で100%に近づいている。
【0107】
図16を参照すると、機能化物質を用いたビーズの実装例が図示されている。ビーズは、細胞上のCD3受容体に親和性を持つように構成されている。ビーズは、ストレプトアビジン、単量体アビジン、プロテインA及び/又は抗CD3でコーティングしてもよい。ビオチン-抗CD3複合体を使用して、細胞上のCD3受容体の親和性標的を提供してもよい。抗CD3-ビオチン抗体は、抗TCR-ビオチン抗体で置き換えてもよく、又は、抗TCR-ビオチン抗体を代わりに用いてもよい。ストレプトアビジンでコーティングされたビーズは、他の種類のコーティングよりも大きな結合表面積を提供することができる。例えば、ストレプトアビジンでコーティングされたビーズは、他のコーティングよりも1平方センチメートル当たりの細胞結合比が大きくなる可能性がある。コーティングという用語は、ビーズの表面にある機能化物質を指すために使用され、また、ビーズの表面の一部又は全部を覆う場合に使用されてもよい。代替的に又は追加的に、ビーズの一部をストレプトアビジンでコーティングし、別の部分を別の機能化物質でコーティングして、多重親和性プロセスを実施してもよい。
【0108】
図17を参照すると、様々な種類のビーズのサイズ分布を示すグラフが図示されている。y軸は百分率で目盛りが振られ、x軸はマイクロメートル単位のサイズで目盛りが振られている。グラフは、GE セファロース(Sepharose)ビーズ及びABTビーズの様々なサイズ分布を図示している。ビーズは、細胞のサイズよりも大きいサイズに分散される。細胞上のビーズ間のサイズ差は、ビーズと細胞を区別して分離するための音響コントラスト因子として使用することができる。
【0109】
図18を参照すると、グラフは、互いに異なる種類のビーズの結合比を図示している。結合比は、100,000細胞の初期細胞集団に対するものである。y軸は細胞/cm
2を表し、x軸は様々な種類のビーズを表している。図示されているように、直径34μmの平均サイズのセファロース(Sepharose)ビーズは、30,000細胞/cm
2を超える結合比を達成した。直径65μmの平均サイズのプロメガ(Promega)ビーズは、約65,000細胞/cm
2の結合比を達成した。直径70μmの平均サイズのプルリ(Pluri)ビーズは、セファロース(Sepharose)ビーズよりも大きく、40,000細胞/cm
2未満の結合比を達成した。
【0110】
図19を参照すると、互いに異なる親和性システム間の比較分析を示す図が示されている。一方のシステムはAPCと抗CD3を使用し、もう一方のシステムはAPC、抗ビオチン、ビオチン及び抗CD3を使用する。図示するように、ビオチンを含むシステムでは約65%の結合が得られたが、ビオチンを含まないシステムでは約55%の結合が得られた。比較実装には、抗CD3-フルオロフォアと抗CD3-ビオチン+アンチビオチン-フルオロフォアが含まれる。
【0111】
図20を参照すると、様々な抗体滴定比の細胞数を表すいくつかのグラフが図示されている。グラフが示すように、滴定比が増加するにつれて、細胞集団の分離が大きくなっている。
【0112】
図21を参照すると、1ミリリットル当たりの細胞数とカラムボリュームとの関係を図示するクロマトグラムが示されている。カラムボリュームとは、流動床に供給されるか又は流動床で再循環される物質が取り込まれた流体の量を指している。カラムを通る流体の流れにおいては、栓流(plug flow)にするのが望ましい。
【0113】
図22を参照すると、時間の経過に伴うカラム流出物における細胞数を図示するグラフが示されている。カラム流出物の濁度は、細胞濃度とよく相関する。
【0114】
音響親和性細胞分離のためのいくつかの実験的試験が実施された。試験の結果は、以下の例として、表にまとめられている。
〔例1〕
【0115】
試験初日に、互いに異なる細胞濃度(100×106/mL及び10×106/mL)及び互いに異なる捕捉抗体の組み合わせ(抗TCRa/bのみと抗TCRa/b及び抗CD52)を使用して、4つの流動床プラットフォームの試験を実施した。初期供給濃度(100×106/mLのTCRa/b集団)は74~78%であった。
【0116】
すべてのサンプルを、表1に記載されている対応する捕捉抗体の組み合わせとともにPBS中の2%BSAで、IKAローラ(30rpm)で20分間培養した。細胞をPBS中の2%BSAで2回洗浄し、最後にPBS中の2%BSA10mLに再懸濁した。フローサイトメトリのためにサンプルを取り出し、試験AからDの初期集団として使用した。次に、4mlの50%固体プロメガ(Promega)ビーズスラリーを流動床カラムに充填し、PBS溶液中の30mlの2%BSAで洗浄して、残留エタノール及び粒子を除去した。この最初の洗浄ステップは、1ml/minの流量率及び0.75Wの電力で実施された。
【0117】
次に、流量率が1ml/minで電力が0.75Wの条件で動作するアビジン結合メタクリレートビーズ(Promega)が充填された流動床ユニットを使用して、供給細胞集団を分離した。流出(outflow)として示される第1の留分(fraction)は、サンプル全体が流動床に充填された後に回収された。フラッシュ(flush)として示される第2の留分は、流動床を1ml/min及び0.75WのPBS溶液中の2%BSA30mlでフラッシングした後に回収された。このフラッシングステップは、捕捉されていないすべての細胞が確実に回収されるようにするために実施される。このプロセスが完了すると、カラムの残留物は、ホールドアップ(holdup)として示される第3の留分として取得されて回収された。フローサイトメトリのために、3つの留分すべてからサンプルを回収した。物質収支を実施する目的で、各留分の質量及び細胞数を記録した。
【表1】
【0118】
初期の細胞集団が76%のTCRノックアウト細胞で構成されていた流動床ユニットによる分離の後、純度はすべてのサンプルで約15%増加した。より高い細胞濃度(100×10
6細胞/ml)で実施された試験では、サンプルA及びBの純度はそれぞれ、流出で13%及び10%を示し、フラッシュで11%及び8%を示し、第2の留分で純度がわずかに低下したことを示している。ホールドアップの留分の純度はサンプルA及びBで73.2%及び68.1%であり、100%の純度が達成されなかったことを示している。より低い細胞濃度(10×10
6細胞/ml)で実施された試験では、サンプルC及びDでそれぞれ、流出の留分で90.5%及び92.4%のより高い純度が得られ、フラッシュの留分で94.8%及び93.2%のさらに高い純度が得られた。この結果は、流動床ユニットで使用されている現在の条件では、細胞濃度が低いほど良いことを示している。捕捉抗体として抗TCRと抗CD52との組み合わせを全体的に使用しても、捕捉抗体として抗TCRのみを使用した場合と比較して、純度に大きな有意差はなかった。
【表2】
【0119】
各試験の総TCR回収率は、フロースルー及びフラッシュ留分のTCR細胞の合計を開始TCR細胞数で割ったものに等しくなる(付録の式6参照)。TCR細胞を流動床システムに保持できるメカニズムは2つある。音響保持と非効率的なフラッシングである。音響保持は、流体の流れによって加えられる抗力と比較して、遊離細胞が音響場からより大きな力を受けるときに発生する。これは、流量率に対する電力の比が高い場合に発生し、動作条件を最適化することで防ぐことができる。また、細胞は、システムのボリュームに分散する傾向があるため、回収率を改善するためにはフラッシュステップが必要になる。フラッシングステップは均一な速度分布を持つ必要がある。そうしないと、入ってくる洗浄緩衝液が流動床と混合するため、TCR細胞を回収するには大量の緩衝液が必要となる。このタイプの細胞保持は、フラッシュの速度及び容量を増加させ、流動床の入口の設計を改善することで減らすことができる。
【0120】
各流動床試験について、TCR細胞の総回収率を表2に示す。
【0121】
高い細胞密度(100×106/ml)を試験しているときに、最も低い回収率が見られた。試験A及びBのTCR回収率はそれぞれ7%及び5%であった。これらの試験中に、ビーズ及び細胞が非常に大きな塊になって凝集するカラムの「目詰まり」現象が観察された。これらの固体の塊は、流体として機能するのではなく、カラム内でチャネリングを引き起こし、細胞が出るのを妨げた。カラムが汚れることによって非特異的な結合が起こった可能性もある。
【0122】
試験CおよびDの回収率は互いに同様な34%及び33%であった。10×106/mlを使用した2つの試験は期待どおりに動作したが、TCR細胞の回収率は比較的低かった。これは、前述の低い流体速度及び非効率的なフラッシュステップによるものであり、動作条件を最適化し、流動床の入口の設計を改善することで改善できる。抗体の変更は、細胞の回復に最小限の影響しかなかった。
〔例2〕
【0123】
互いに異なる種類の親和性ビーズ(Promega、Dynabead、ポリスチレン、6μm及び14μm)を使用して、4つの音響セパレータユニット試験を実施した。2日目には、固定の抗体の組み合わせ(抗TCR及び抗CD52並びに各抗体量0.15mL及び0.052mL)を使用した。初期のTCRa/b集団は77%であった。
【0124】
すべてのサンプルは、PBS中の2%BSA中で抗TCR及び抗CD52とともに、IKAローラ(30rpm)で20分間培養された。細胞をPBS中の2%BSAで2回洗浄した。フローサイトメトリのためにサンプルを取り出し、LからQまでの試験の初期集団として使用した。サンプルは、表3に記載されている対応するビーズ候補とともに、10mLのPBS中の2%BSA中でIKAローラ(30rpm)上で30分間培養し、流量率が1mL/minで電力が0.75Wで動作する音響セパレータユニットを使用して分離した。流出として示される第1の分流は、サンプル全体が音響場を通過した後に回収された。フラッシュとして示される第2の留分は、流動床をPBS溶液中の2%BSA30mlでフラッシュした後に回収された。このプロセスが完了すると、カラムの残留物は、ホールドアップとして示される第3の留分として取得されて回収された。フローサイトメトリのために、3つの留分すべてからサンプルを回収した。物質収支を実施する目的で、各留分の質量及び細胞数を記録した。
【表3】
【0125】
音響セパレータユニットによる分離の後、純度はすべてのサンプルで約13%増加した。ここで、初期の細胞集団は77%のTCRノックアウト細胞で構成されていた。ダイナビーズ(Dynabeads)と培養したサンプルは流出留分で89.4%の最高純度をもたらしたが、ポリスチレン(10~14μm)ビーズと培養したサンプルは84.3%の最低純度になった。この傾向は、ダイナビーズ(Dynabeads)と培養したサンプルの純度が91.1%、ポリスチレンビーズと培養したサンプルの純度が84.5%であるフラッシュ留分でも観察された。すべてのサンプルの純度は、流出(84.3%~89.8%)からフラッシュ留分(84.6%~91.1%)にわずかに増加した。
【表4】
【0126】
表4に各音響セパレータシステム試験のTCR細胞の総回収率を示す。この表では、回収率はビーズの種類によって影響を受けているように見える。50μmのプロメガ(Promega)ビーズはTCR細胞回収率が80%であり、4.5μmのダイナビーズ(Dynabeads)は回収率がわずか17%である。ポリスチレン粒子は両方とも回収率が類似しており、6μmビーズ及び14μmビーズでそれぞれ26%及び27%であった。すべての試験が同じ動作条件で実施されたので、同様の回収率が期待されたため、この関係は今後の作業で確認する必要がある。流動床と同様に、音響セパレータシステムのTCR回収率は、流速を上げ、入口及びコレクタの設計を改善することで向上させることができる。
〔例3〕
【0127】
2つの流動床(FB)プロセスと2つの音響セパレータ(AS)プロセスが実施された。互いに異なるポンプシステム(シリンジポンプ及びぜん動ポンプ)が流動床ユニットでテストされ、2つの新しいビーズ候補が試験の初日に音響セパレータユニットでテストされた。初期供給濃度は107細胞/mLであり、TCRa/b集団は約80%であった。
【0128】
サンプルの準備及び音響ユニットの動作手順は、上述の例と同じであった。簡単に説明すると、流動床の供給サンプルを、PBS中の2%BSA中でビオチン化抗TCRa/b抗体(表5)とともにIKAローラ(30rpm)で20分間培養した。細胞をPBS中の2%BSAで2回洗浄し、最後にPBS中の2%BSA10mLに再懸濁した。音響セパレータユニットの供給サンプルでは、ビーズの培養に続いて抗体細胞の培養が行われた。各供給サンプルから1×106個の細胞をフローサイトメトリ用に個別に収集し、各試験の初期集団として使用した。
【0129】
流動床カラムに2mlのプロメガ(Promega)ビーズスラリー(アビジン結合メタクリレートビーズ)を充填し、PBS溶液中の2%BSA30mlで洗浄して、残留エタノール及び粒子を除去した。この最初の洗浄ステップは、3mL/minで2.25Wで実施した。2つの異なるポンプ(シリンジポンプ-FB_A及びぜん動ポンプ-FB_B)が1日目に評価された。次に、3mL/minで4mLのカラムボリュームで動作するプロメガ(Promega)ビーズが充填された流動床ユニットを使用して、供給細胞集団を分離した。音響セパレータユニットの動作では、ビーズラベルの付いたフィードを、流量率が1mL/min、電力が0.75Wの条件で分離した。
【0130】
性能評価については、両方のユニットから処理されたサンプルが回収され、流出、フラッシュ及びホールドアップの3つの異なる留分から分析された(表6)。流出として示される、処理されたサンプルの第1の留分は、サンプル全体が流動床に充填された後に回収された。フラッシュとして示される第2の留分は、流動床をPBS溶液中の2%BSA30mlでフラッシュした後に回収された。このフラッシングステップは、捕捉されていないすべての細胞を確実に回収するために必要である。このプロセスが完了すると、カラムの残留物が取得され、ホールドアップとして示される第3の留分として回収された。フローサイトメトリのために、3つの留分すべてからサンプルを回収した。細胞回収の評価のために、各留分の質量及び細胞濃度のカウントを記録した。
【表5】
【0131】
純度は、流動床ユニットによる分離後にすべてのサンプルで約11~12%増加し、音響セパレータユニットによる分離後にはほとんど変化しなかった(表6)。ここで、初期の細胞集団は80の%TCRノックアウト細胞で構成されていた。流動床試験では、ぜん動ポンプ(FB_A)とシリンジポンプ(FB_B)の両方で、フロースルーとフラッシュ留分で同様のレベルの純度(90~92%)が得られた。流動床試験に加えて、2つの異なるミクロンサイズの生分解性粒子候補(AS_A-PLGA及びAS_B-ワックス)が音響セパレータユニットでテストされた。
【0132】
表6は、回収結果も示している。ぜん動ポンプ(FB_A)とシリンジポンプ(FB_B)を備えた流動床はそれぞれ、78%及び61%のTCR回収率を示した。結果に基づいて、FDSは今後のプラットフォーム検証にぜん動ポンプを使用することを決定した。ぜん動ポンプは、更なるプロセス最適化とクローズドシステム開発の柔軟性を可能にする。PLGA及びワックス用の音響セパレータは、回収率が低くなった(それぞれ50%及び38%)。
【表6】
〔例4〕
【0133】
4つの流動床ユニット試験が異なる操作手順で実行された。カラム内の供給細胞の滞留時間は、処理されたサンプルを再循環させるか、又は、サンプルをカラム内に長期間保持することによって増加した。初期供給濃度は107細胞/mLであり、TCRa/b集団は約80%であった。
【0134】
流動床ユニットの供給及び初期ビーズ充填は、1日目と同じ手順を実行した。表7は、再循環なし(FB_E、再循環なし)、1回の再循環(FB_F、1回の再循環)、4回の再循環(FB_G、4回の再循環)、並びに、停止及び流れ(FB_H、停止及び流れ)の4つの異なる動作手順を示している。具体的には、停止及び流れの条件で、2.5mLの供給サンプルに(3mL/min)を充填し、フローを3分20秒間停止した。この手順は、すべての供給ボリュームがカラムに充填されるまで繰り返された。すべての供給細胞は、高出力条件(4.5W)で合計13分20秒間カラムに保持された。再循環ステップ並びに停止及び流れのステップが終了したら、カラムを30mLの2%BSA溶液でフラッシュした。処理されたサンプルは、1日目と同様に回収されて分析された。
【表7】
【0135】
純度は、分離後にすべてのサンプルで約9~18%増加した(表8)。ここで、初期の細胞集団は80%のTCRノックアウト細胞で構成されていた。1回の再循環(FB_F)により、フロースルー部分とフラッシュ部分でそれぞれ95.6%と97.7%の純度が得られた。特に、4回の再循環(FB_G)は純度が低く、4回の再循環による温度上昇が見られた。停止及び流れの条件(FB_H)でも温度上昇が発生した。
【表8】
【0136】
TCRa/bの回収については、再循環並びに停止及び流れの条件が良好な結果を示した。より多くの再循環ステップを追加すると、より良い回収が示され(1回の再循環で82.64%、4回の再循環で98.89%)、停止及び流れの条件でも高い回収率(85.75%)が得られた。
【0137】
本開示によれば、多くの有利な特徴を提供する音響親和性システムが説明されている。例えば、本書で説明されているシステム及び方法は、標的細胞物質の回収率及び純度を向上させることができる。システム及び方法はスケーラブルであり、比較的広範囲の量の物質を処理することができる。本開示によれば、ポジティブ選択及びネガティブ選択を実装することができる。ポジティブ選択の例としては、アフェレーシス製品を使用した実装を挙げることができる。ネガティブ選択及びポジティブ選択は多重化ベースで実装でき、1回のパスで複数種類の細胞物質を選択することができる。本書で説明するシステム及びプロセスは完全に自動化でき、消耗品の構成要素で使用できると考えられる。音響親和性細胞選択システムは、細胞濃縮洗浄デバイス及び/又は下流側のアプリケーションのためのシステムと統合することができる。
【0138】
遺伝子治療及び細胞治療は、癌や自己免疫などの生命を脅かす病気の治療に大きな期待を寄せている。幹細胞移植又は血液癌のキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法などの治療法の開発では、血液又はアフェレーシス製品からの初期集団からの細胞選択を使用してもよい。
【0139】
CAR-T療法を開発するために、T細胞、B細胞、単球、NK細胞、並びに、好塩基球、好中球、好酸球、樹状細胞などの他の細胞を含む末梢血単核細胞(PBMCs)が、血液又はアフェレーシス製品から分離される。従前の分離技術としては、密度勾配遠心分離(物理的、ラベルフリー選択)及び表面マーカー発現に基づく選択(親和性、ラベル付き選択)が挙げられる。これらの技術は、CD3+T細胞又はCD3+T細胞のCD4+/CD8+サブセットを分離するために使用することができる。T細胞は、約5億から約10億までの包括的な範囲で数えることができるが、このT細胞は、活性化され、ウイルスで形質導入されてキメラ抗原受容体(CAR)を標的とする癌細胞を発現し、患者への投与量の最終的な処方の前にさらに増殖されてもよい。処方された細胞製品は、自家療法のために細胞が収集された同じ患者に注入され、又は、同種療法のために複数の患者に注入される。
【0140】
そのような細胞ベースの治療のための上述した技術は、複雑で、長期で、費用のかかる製造プロセスを伴う傾向がある。さらに、このようなCAR-T製造における最終製品の品質管理プロセスにより、全体の時間が長くなり、累積で2週間かかり、患者1人あたり約40万ドルの費用がかかる可能性がある。細胞のサブタイプへのより細かい分離が実装されると、プロセスはより長く、よりコストがかかるようになる。例えば、動物実験では、CD4+及びCD8+の集団内で定義されたT細胞サブセットを使用すると、CAR-T療法での生体内持続性(in vivo persistence)などの治療上の利点があるが、一方で、エフェクタ及びメモリの表現型を含むT細胞サブセットの他の組み合わせは、T細胞治療の短期的な効率及び長期的な持続性に影響を与える可能性があることが強く示唆されている。商業的な例において、ジュノ治療学(Juno Therapeutics)は、定義されたCD4/CD8T細胞サブセットを使用して、非ホジキンリンパ腫を治療するためにCD19+B細胞を標的としている。
【0141】
現在最も一般的な細胞分離技術の1つである密度勾配遠心分離は、手動で、低解像度で、非スケーラブルなプロセスである。潜在的に細胞毒性のある磁性ナノ粒子を介したラベリングを使用する磁気活性化細胞ソーティング(MACS)を使用した細胞選択では、スループットが制限される。実際には、複数のMACS細胞の選択が順番に実行され(例えば、最初にCD4+、その後にCD8+)、それらはすべての標的細胞を収集する傾向がある。この条件は、CAR-T製造に必要な任意の開始比率が、MACSプロセスから得られた各細胞のタイプをカウントし、適切な量の細胞を混合して所望の開始比率を取得することにより、手動で準備されることを意味している。患者ごとにPBMC組成が変動することを考えると、このプロセスはより問題になる。
【0142】
本書で論じられた音響指向の細胞選択プロセスは、従前の細胞選択技術に勝る多くの利点を提供する。本書で論じられた細胞選択に適用される音響技術は、改善されたCAR-T細胞療法を含むよりアクセスしやすい細胞及び遺伝子療法を得るために、より速く、例えば毒性が少なくてより安全で、閉鎖型で、費用対効果が高く、堅牢で、より細かいサブセパレーションをより高い品質で実行できるプロセスを創出する傾向がある。
【0143】
細胞選択技術の一つに、免疫細胞の捕捉とアフェレーシス製品からの溶出のための角度のある音響波ベースの技術の使用がある。この技術は、細胞治療及び遺伝子治療のための細胞分離及び生産におけるコスト及びプロセス時間を大幅に削減する可能性を有している。この技術により、密度、サイズ、圧縮率、その他の因子などの物理的特性に基づいたラベルのない分離が可能になり、高スループット及び低せん断率で、定義された細胞サブセットの多重選択が可能になる。
【0144】
前述の流動床システムは、音響親和性細胞選択(AACS)細胞ソーティングを実装することができる。本書で論じられたAACSは、プロセススケールで、例えば、1秒あたり100万個を超える細胞で、親和性ラベルされた細胞選択のために細胞に及ぼされる音響放射力を採用する。この細胞操作へのアプローチはスケーラブルで、名目上はせん断がない。AACS流動床は、下部流入口の流れの抗力と音響定在波によって生成される圧力とのバランスによりカラム内に浮遊する親和性ビーズを含むカラムで構成されている。流動床は、カラム内のビーズがカラムボリュームの全体に膨張する膨張床システムとして動作させてもよい。MACSなどの充填床システムでは、ビーズ間の流路が狭いため、常に高せん断力又は低流量率が発生する。AACS流動床は拡張床として動作させることができるため、せん断力が大幅に低下し、はるかに高い流量率を実現することができる。このシステムのより高い流量率及びスケーラビリティは、CAR-T製造における親和性細胞選択に関する時間的制約の軽減に貢献する。例えば、従前の細胞選択技術では、処理時間が8時間かかる場合があり、これは、細胞製品の品質を損なう可能性が高い。AACSシステムは、これらの細胞分離を2時間未満で実行できる可能性がある。
【0145】
AACSシステムは、多重化された細胞選択の有益な利点を備えたCAR-T製造に使用してもよい。システムは、定義された比率でT細胞サブセットを選択できるように構成してもよい。従前の細胞選択システムでは、そのような多重化された細胞選択を達成することができない。例えば、MACSシステムには、親和性を標的とした細胞に付着した常磁性ナノ粒子を引き付けるために磁化される大きなビーズで構成される充填床がある。この充填されたカラムは、選択されている実際の抗体と抗原のペアに関係なく、すべてのナノ粒子を引き付ける。これは、複数の標的細胞の種類が分離されている場合、順次ラベリングステップを使用できることを意味する。AACSシステムは、様々な標的の抗体で機能化されたビーズを有してもよい。流動床は、音響を使用してカラム内のビーズを維持しながら、細胞及びビーズの自由な移動及び混合を可能にする。互いに異なる抗体で機能化されたビーズの比率をカラムで使用してもよく、これにより、単離された対応する異なる抗原を持つ細胞の比率が得られ、例えば、定義された比率でCD4/CD8細胞を同時に多重化して選択することができる。
【0146】
本書では、AACSに基づく多重化されたポジティブ細胞選択システムについて論じられている。多重化されたAACSは、T細胞の総数及びCD4対CD8T細胞の比率によって定義される所望の開始細胞集団からさかのぼって動作する。合計2億個のT細胞が1:1の比率でプロセスを開始するために使用されると仮定すると、1億個のCD4+及びCD8+T細胞がアフェレーシス製品から単離される。この数の3倍、例えば各T細胞サブタイプを3億個持つことが望ましい場合がある。これにより、製造に失敗した場合に備えて、残りの細胞で製造プロセスを再開するという選択肢が常にある。実際には、患者のPBMCの量と、アフェレーシス製品で得られるCD4/CD8細胞の比率には大きなばらつきがある。サブタイプは、患者からアフェレーシスバッグで得られた全PBMCsの5%であってもよく、好ましくは、全PBMCsの少なくとも5%である。患者の血液中のPBMCsの最小数が100億であると仮定すると、すべてのアフェレーシスバッグに少なくとも5億個のCD4+及び5億個のCD8+T細胞が存在すると予想される。そのため、CD4+及びCD8+の望ましい細胞回収率の合計は、AACS多重化細胞選択システムでは、少なくとも60%(最終純度を含む)である。
【0147】
互いに異なる種類の細胞表面マーカーの細胞の所定の比率を得るために、2つの異なる方法を使用してもよい。第1の方法は、細胞を均等に結合して溶出する互いに異なる比率のビーズを有する方法である(「ビーズ比率法」)。第2の方法は、2つの異なる種類のビーズに対して第1と第2の溶出を行う差動リリース機構又は動作を有する方法である。第1の溶出緩衝液1は、ビーズ1から細胞タイプ1例えばCD4を溶出するために使用され、また、溶出緩衝液2は、ビーズタイプ2から細胞タイプ2例えばCD8を溶出する。ここで、1と2は、標的細胞表面マーカー、この場合はCD4とCD8によって定義される。この第2の方法は、差動リリース方法と呼ばれる。
【0148】
どちらの方法でも抗体は細胞ではなくビーズに付着することが好ましいが、どちらの付着を使用してもよい。いくつかの状況では、例えばビオチン-ビオチン化抗体の配列が使用される場合、抗体が細胞に付着して両方の種類の標的細胞が捕捉されてもよい。使用される結合は、i)細胞ビオチン化抗体結合とそれに続く単量体アビジンビーズ結合システム(「細胞優先」)、又は、ii)単量体アビジンビーズ-ビオチン化抗体結合とそれに続く流動床カラムでの親和性細胞捕捉(「ビーズ優先」)であってもよい。互いに異なる抗体で機能化されたビーズに基づく多重化細胞選択を可能にするために、ビーズ優先技術が好ましい。いくつかの実装では、複数のカラム(例えば、CD4用のカラムとCD8用のカラム)を使用してもよい。他の実装では、単一のカラムを使用してもよい(例えば、CD4/CD8の単一カラム混合体)。実装に応じて、異なるリリース方法を使用してもよい。例えば、複数のカラムの場合はシリアルカラムリリースを使用してもよいが、単一のカラムの場合は差動リリース方式を使用してもよい。いくつかの実装では、切断可能なビーズ抗体リンカーを使用してもよい。多重化細胞選択AACSプロセスは、CD4+及びCD8+の細胞である一次細胞を有するアフェレーシス製品のT細胞(又はPBMCs)を使用して実行してもよく、又は、(例えば、2つの異なるマーカーを有する)混合細胞株を使用して所望の種類の細胞を選択してもよい。
【0149】
図23及び
図24を参照すると、多重化された細胞選択のためのプロセスが図示されている。
図23では、互いに異なる種類の細胞を含有するサンプルがカラムに適用されている間、音響定在波であってもよい音響場はビーズがカラムから出るのを阻止するために使用される。
図24では、ビーズの機能化によって対象となった種類の細胞(この場合はストレプトアビジン-ビオチン結合)がビーズと結合してカラムに残る。非標的細胞は音響場を通過してカラムを出る。これらの非標的細胞は、
図23及び
図24に示すカラムで標的化されたものとは異なる特定の種類の細胞を捕捉するように機能化されたビーズを含有する連続カラムに入力することができる。ビーズの標的となる細胞はポジティブ選択され、ビーズの標的とならない細胞はネガティブ選択される(音響場を通過してカラムの外側で回収される)。
【0150】
上記の方法、システム、及びデバイスは例である。様々な構成では、必要に応じて、いろいろな手順又はコンポーネントを省略、置換又は追加してもよい。例えば、代替構成では、これらの方法は、記載されている順序とは異なる順序で実行してもよく、いろいろなステップを追加、省略又は組み合わせてもよい。また、特定の構成に関して説明された機能は、他の様々な構成で組み合わせてもよい。構成の異なる態様及び要素は、同様の方法で組み合わせてもよい。また、技術は進化しているため、要素の多くは例であり、開示又はクレームの範囲を制限するものではない。
【0151】
構成例(実装を含む)を完全に理解できるように、具体的な詳細が説明に記載されている。但し、構成はこれらの具体的な詳細なしで実行されてもよい。例えば、よく知られているプロセス、構造及び手法は、構成が不明瞭になるのを避けるために、不必要な詳細なしで示されている。この説明は、構成例のみを提供し、特許請求の範囲、適用可能性又は構成を制限するものではない。むしろ、構成についての前述の説明は、説明された技法を実装するための説明を提供する。本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、要素の機能及び配置に様々な変更を加えることができる。
【0152】
また、構成は、フロー図又はブロック図として示されるプロセスとして説明されてもよい。それぞれが動作を順次プロセスとして説明してもよいが、動作の多くは並行して実行することも、同時に実行することもできる。また、動作の順序を変更してもよい。プロセスには、図に含まれていない追加のステージ又は機能が含まれてもよい。
【0153】
いくつかの例示的な構成を説明したが、本開示の精神から逸脱することなく、様々な修正、代替構造及び同等物を使用してもよい。例えば、上述の要素は、より大きなシステムのコンポーネントであってもよく、他の構造又はプロセスは、本発明の適用よりも優先されるか、あるいは、修正されてもよい。また、上述の要素が考慮される前、考慮中、又は、考慮された後に、多くの動作が行われてもよい。従って、上述の説明は、特許請求の範囲を拘束するものではない。
【0154】
値が第1の閾値を超える(又は、上回る)という記述は、その値が第1の閾値よりわずかに大きい第2の閾値を満たすか又は超えるという記述と同等であり、例えば、関連するシステムの分解能において第2の閾値が第1の閾値よりも1つ高い値であるという記述と同等である。値が第1の閾値よりも小さい(又は、その範囲内にある)という記述は、その値が第1の閾値よりわずかに小さい第2の閾値以下であるという記述と同等であり、例えば、関連するシステムの分解能において第2の閾値が第1の閾値より1つ低い値であるという記述と同等である。
【手続補正書】
【提出日】2022-05-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離システムであって、
流体の流れを可能にする開口部を両端部に有
し垂直方向に延在するように配置されたカラムであって、少なくとも2つの異なる種類の細胞物質を標的とする複数の支持構造体
が分散された流動床として
前記カラムの一部が構成された前記カラムと、
前記カラム内に音響定在波を生成するために前記カラムの一端部に設けられた音響トランスデューサであって、前記流体の流れに逆らって前記カラム内の支持構造体を阻止及び保持するための前記音響定在波を生成するように構成された前記音響トランスデューサと、
を備える、システム。
【請求項2】
請求項1のシステムにおいて、
前記流体を攪拌するために前記カラムに結合された攪拌機を更に備える、システム。
【請求項3】
請求項1のシステムにおいて、
前記音響トランスデューサが複数のモードで動作するように構成された、システム。
【請求項4】
請求項3のシステムにおいて、
前記複数のモードは、クラスタリングモードとエッジ効果モードとを含む、システム。
【請求項5】
請求項1のシステムにおいて、
前記音響トランスデューサは、前記カラム内に複数次元の音響定在波を生成するように構成された、システム。
【請求項6】
請求項1のシステムにおいて、
所定の比率で2つの異なる種類の細胞物質を得るために、少なくとも2つの異なる種類の細胞物質を標的とする複数の支持構造体の比率を更に備える、システム。
【請求項7】
請求項6のシステムにおいて、
前記支持構造体は、標的細胞の種類に特異的な抗体で構成される親和性ビーズを備える、システム。
【請求項8】
請求項7のシステムにおいて、
前記親和性ビーズは、前記カラムのボリュームの約10%から約30%の範囲のカラムに充填された、システム。
【請求項9】
請求項7のシステムにおいて、
前記親和性ビーズは、1つ又は複数のCD4又はCD8の捕捉抗体で構成されるシステム。
【請求項10】
請求項7のシステムにおいて、
前記親和性ビーズは、アビジン結合メタクリレートビーズとして構成された、システム。
【請求項11】
物質を分離するための方法であって、
少なくとも2つの異なる種類の細胞物質と結合するための流動床として構成されたカラムに支持構造体を提供することと、
前記少なくとも2つの異なる種類の細胞物質を含む流体混合物を前記カラムに流すことと、
前記流体の流れとともに前記支持構造体が前記カラムから離れるのを阻止するために、前記カラムの端部の近くにある音響トランスデューサで音響定在波を生成することと、
を含む、方法。
【請求項12】
請求項11の方法において、
前記カラム内の流体混合物を攪拌することを更に含む、方法。
【請求項13】
請求項11の方法において、
前記カラム内の第1の支持構造体と第1の種類の細胞物質とを結合させることと、
前記第1の種類の細胞物質とは異なる第2の種類の細胞物質と、前記カラム内の第2の支持構造体とを結合させることと、を更に含む、方法。
【請求項14】
請求項13の方法において、
前記音響定在波で前記カラム内の前記支持構造体を保持しながら、前記カラムから前記第1の種類の細胞物質又は前記第2の種類の細胞物質の少なくとも1つを溶出させることを更に含む、方法。
【請求項15】
請求項11の方法において、
前記カラム内に複数次元の音響定在波を生成することを更に含む、方法。
【請求項16】
請求項11の方法において、
前記支持構造体が親和性ビーズを含む、方法。
【請求項17】
請求項16の方法において、
前記カラムのボリュームの約10%から約30%の範囲で前記カラムを前記親和性ビーズで充填することを更に含む、方法。
【請求項18】
請求項16の方法において、
前記親和性ビーズが、1つ又は複数のCD4又はCD8の捕捉抗体で構成される、方法。
【請求項19】
請求項16の方法において、
前記親和性ビーズは、アビジン結合メタクリレートビーズとして構成される、方法。
【請求項20】
音響親和性分離方法であって、
流体中の第1の細胞物質を標的とする第1の親和性ビーズを第1のカラムに提供することと、
流体中の第2の細胞物質を標的とする第2の親和性ビーズを第2のカラムに提供することと、
前記第1のカラム及び前記第2のカラムのそれぞれの端部の近くに音響トランスデューサを用いて音響定在波を生成することと、
細胞物質の流体混合物を前記第1のカラムに流して前記音響定在波に通すことと、
前記第1の親和性ビーズが前記音響定在波を通過しないように前記第1のカラムに前記音響定在波を構成することと、
前記第1のカラムの音響定在波を通過した細胞材物質の流体混合物を前記第2のカラムに流して前記第2のカラムの音響定在波に通すことと、
前記第2の親和性ビーズが前記第2のカラムの音響定在波を通過しないように前記第2のカラムの前記音響定在波を構成することと、
を含む、方法。
【国際調査報告】