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特表2022-545539初代ヒトT細胞へのGUIDE-Seqの実施方法
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  • 特表-初代ヒトT細胞へのGUIDE-Seqの実施方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(54)【発明の名称】初代ヒトT細胞へのGUIDE-Seqの実施方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/90 20060101AFI20221020BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221020BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20221020BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20221020BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221020BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20221020BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20221020BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20221020BHJP
【FI】
C12N15/90 Z ZNA
C12Q1/02
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6844 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/11 Z
C12Q1/68
C12N15/09 100
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513268
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(85)【翻訳文提出日】2022-04-04
(86)【国際出願番号】 US2020047964
(87)【国際公開番号】W WO2021041519
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】62/891,741
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520032608
【氏名又は名称】パクト ファーマ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PACT PHARMA, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】パオ, シアオイェン ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ジャコビー, カイル
(72)【発明者】
【氏名】ルー, ウィリアム
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA17
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR77
4B063QS25
(57)【要約】
ここに開示されるのは、初代細胞のゲノム改変のオフターゲット効果を含む効果を識別するための方法である。これらの方法は、治療用T細胞の工学的アプローチを検証するのに適している高精度で実施される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
初代細胞のゲノムDNAにおける二重鎖切断(DSB)を検出するための方法であって、
a. 初代細胞のゲノムDNAにおいて二重鎖切断を誘導することができるヌクレアーゼ組成物を提供する工程;
b. 二重鎖オリゴヌクレオチド(dsODN)を含むヌクレオチド組成物を提供する工程であって、dsODNが、約1pmolから約10nmolの範囲の量で提供される工程;
c. 細胞のゲノムDNAにDSBを誘導し、DSBを修復し、一又は複数のDSBにdsODNを組込むのに十分な時間、初代細胞をインキュベートする工程;
d. 組込まれたdsODNを含むゲノムDNAの一部を増幅する工程;及び
e. ゲノムDNAの増幅された部分をシークエンシングする工程
を含み、それによって初代細胞のゲノムDNAにおけるDSBを検出する、方法。
【請求項2】
dsODNが、約250pmolから約500pmolの範囲の量で提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
dsODNの両方の鎖が、細胞のゲノムに直交している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
dsODNの5’末端がリン酸化されている、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
dsODNが、両方の3’末端にホスホロチオエート結合を含む、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
dsODNが、両方の3’末端及び両方の5’末端にホスホロチオエート結合を含む、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
dsODNが、約15から約50ヌクレオチド長である、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
ゲノムDNAの一部を増幅する工程が、
a. ゲノムDNAを断片化する工程;
b. 断片化されたゲノムDNAの末端をユニバーサルアダプターでライゲートする工程;
c. 組込まれたdsODNに相補的な第一プライマーとユニバーサルアダプターに相補的な第二プライマーを用いて、ライゲートされたDNAに対して第一ラウンドのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施する工程;及び
d. 3’ネステッドプライマーであり、第一プライマーに相補的である第三プライマー、3’ネステッドプライマーであり、第二プライマーに相補的である第四プライマー、及び第四プライマーに相補的である第五プライマーを使用して第二ラウンドのPCRを実施する工程
を含む、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
第五プライマーが、精製配列、結合配列、識別配列、又はそれらの組み合わせである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ヌクレアーゼ組成物が、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENヌクレアーゼ、Casヌクレアーゼを含む、請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
ヌクレアーゼ組成物が、リボ核タンパク質(RNP)複合体を含む、請求項1から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
RNP複合体が、Cas9ヌクレアーゼ及びガイドRNAを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Cas9:ガイドRNAのモル比が、約1:4から約1:7である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
Cas9:ガイドRNAのモル比が、約1:6である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
Cas9ヌクレアーゼが、RNP複合体当たり約15μgから約30μgの範囲の量である、請求項12から14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
Cas9ヌクレアーゼが、RNP複合体当たり約16μgの量である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
gRNAが、RNP複合体当たり約500pmolから約750pmolの範囲の量である、請求項12から16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
gRNAが、RNP複合体当たり約600pmolの量である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ヌクレアーゼ組成物が、TRAC遺伝子座を標的とする、請求項1から18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
ヌクレアーゼ組成物が、TRBC遺伝子座を標的とする、請求項1から19の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
ガイドRNAが、TRAC遺伝子座及び/又はTRBC遺伝子座を標的とする、請求項11から20の何れか一項に記載の方法。
【請求項22】
DSBがオフターゲットDSBである、請求項1から21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
dsODNが、DNAバーコードを含む、請求項1から22の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
DNAバーコードがランダム化される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
dsODNが、配列番号:1及び配列番号:2に示されるヌクレオチド配列を含む、請求項1から24の何れか一項に記載の方法。
【請求項26】
ヌクレアーゼ組成物が、非ウイルス送達系によって送達される、請求項1から25の何れか一項に記載の方法。
【請求項27】
ヌクレアーゼ組成物が、エレクトロポレーションによって送達される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ヌクレオチド組成物が、非ウイルス送達系によって送達される、請求項1から27の何れか一項に記載の方法。
【請求項29】
ヌクレオチド組成物が、エレクトロポレーションによって送達される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
初代細胞が哺乳動物細胞である、請求項1から29の何れか一項に記載の方法。
【請求項31】
初代細胞がヒト細胞である、請求項1から30の何れか一項に記載の方法。
【請求項32】
ヒト細胞が造血幹細胞である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ヒト細胞がT細胞である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
T細胞が、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、制御性T細胞、腫瘍浸潤性T細胞、ナチュラルキラーT細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
T細胞がCD8+ T細胞又はCD4+ T細胞である、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
ヒト細胞がNK細胞である、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
初代細胞が対象から得られる、請求項1から36の何れか一項に記載の方法。
【請求項38】
対象がヒトである、請求項37に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互参照]
この出願は、内容がその全体において援用され、優先権が主張される、2019年8月26日に出願された米国仮出願第62/891741号の優先権を主張する。
【0002】
[配列表]
本明細書では、(「0875200150.txt」との名称のtxtファイルとして電子的に提出された)配列表が参照される。txtファイルは2020年8月18日に作成され、サイズは2937バイトである。配列表の全内容が出典明示によりここに援用される。
【背景技術】
【0003】
遺伝子ターゲティングは、ゲノムを直接編集して、細胞産物を改変し、遺伝性障害を引き起こす変異を修復し、又は遺伝子を研究する変異を作製するための道筋を提供する方法である。新規な特異性を持つT細胞を作製するための初代ヒトT細胞における遺伝子ターゲティングの使用により、標的抗原に対する免疫応答を開始し、増幅し、又は減弱する臨床的に有益な免疫療法(例えば、TCR遺伝子導入及びワクチン)が可能になる。遺伝子ターゲティングは、特異的な標的ゲノム切断及び配列送達のための強いゲノム編集試薬及び方法に依存している。しかし、遺伝子ターゲティングの治療的使用には、臨床的使用前にその安全性を評価するために、オフターゲットゲノム位置での切断及び/又は挿入活性など、対象におけるゲノム編集試薬のオフターゲット効果の詳細な理解が必要になる。
【0004】
遺伝子編集(例えば、Cas9によるガイドRNAを利用した切断)の結果として生じる潜在的なオフターゲット挿入部位を識別する既存の方法には、計算シミュレーション、例えばミスマッチ、挿入、及び欠失を伴うCRISPRオフターゲット部位(CRISPR Off-target Sites with Mismatches, Insertions, and Deletions)(COSMID)(Cradick等,2014)と、シークエンシングによって可能になる二重鎖切断のゲノムワイドな偏りのない識別(Genome-wide, Unbiased Identification of Doublestranded breaks Enabled by Sequencing)(GUIDE-Seq)(Tsai等,2015)と呼ばれる細胞ベースの実験方法が含まれる。
【0005】
計算シミュレーションでは、インビトロ法で見出されたオフターゲット部位を識別できず(例えば、Tsai等,2015を参照)、よって遺伝子ターゲティング試薬の治療的使用を試験するために必要な信頼性がない。
【0006】
GUIDE-Seqは、U2OS又はHEK293細胞株など、二重鎖オリゴヌクレオチド(例えば、dsODN)のトランスフェクションに許容される幾らかの特定の細胞株におけるオフターゲットゲノム編集の高度に特異的で高感度な識別に有望である。しかし、Tsai等において提供されたアプローチは、初代ヒト細胞におけるオフターゲット挿入部位を識別するために使用することはできない。(例えば、Kim等(2018)を参照:「広く使用されている細胞ベースの方法であるGUIDE-Seqは、細胞への二重鎖オリゴヌクレオチドのトランスフェクションを必要とする。GUIDE-Seqは、トランスフェクションに不応である所定の細胞では使用できない。更に、二重鎖オリゴヌクレオチドは多くの初代細胞に対して細胞傷害性である。」)更に、患者固有のゲノム配列バリアントから生じるオフターゲット切断部位の可能性は、細胞株での実験では対処できない。
【0007】
従って、必要とされるものは、患者固有のバリアントを含む初代細胞、例えば初代ヒトT細胞において使用できるオフターゲット切断/遺伝子編集部位を識別するための高感度で偏りのないゲノムワイドな方法である。
【発明の概要】
【0008】
所定の実施態様では、本開示は、初代細胞のゲノムDNAにおける二重鎖切断(DSB)を検出するための方法であって、初代細胞のゲノムDNAにおいて二重鎖切断を誘導することができるヌクレアーゼ組成物を提供する工程;平滑末端二重鎖オリゴヌクレオチド(dsODN)を含むヌクレオチド組成物を提供する工程であって、dsODNが、約1pmolから約10nmolの範囲の量で提供される工程;細胞のゲノムDNAにDSBを誘導し、DSBを修復し、一又は複数のDSBにdsODNを組込むのに十分な時間、初代細胞をインキュベートする工程;組込まれたdsODNを含むゲノムDNAの一部を増幅する工程;及びゲノムDNAの増幅された部分をシークエンシングする工程を含み、それによって初代細胞のゲノムDNAにおけるDSBを検出する、方法を提供する。
【0009】
所定の実施態様では、dsODNは、約250pmolから約500pmolの範囲の量で提供される。所定の実施態様では、dsODNの両方の鎖は、細胞のゲノムに直交している。所定の実施態様では、dsODNの5’末端はリン酸化されている。所定の実施態様では、dsODNは、両方の3’末端にホスホロチオエート結合を含む。所定の実施態様では、dsODNは、両方の3’末端及び両方の5’末端にホスホロチオエート結合を含む。所定の実施態様では、dsODNは、約15から約50ヌクレオチド長である。
【0010】
所定の実施態様では、ゲノムDNAの一部を増幅する工程は、ゲノムDNAを断片化する工程;断片化されたゲノムDNAの末端をユニバーサルアダプターでライゲートする工程;組込まれたdsODNに相補的な第一プライマーとユニバーサルアダプターに相補的な第二プライマーを用いて、ライゲートされたDNAに対して第一ラウンドのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施する工程;及び3’ネステッドプライマーであり、第一プライマーに相補的である第三プライマー、3’ネステッドプライマーであり、第二プライマーに相補的である第四プライマー、及び第四プライマーに相補的である第五プライマーを使用して第二ラウンドのPCRを実施する工程を含む。所定の実施態様では、第五プライマーは、精製配列、結合配列、識別配列、又はそれらの組み合わせである。
【0011】
所定の実施態様では、ヌクレアーゼ組成物は、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENヌクレアーゼ、又はCasヌクレアーゼを含む。所定の実施態様では、ヌクレアーゼ組成物は、リボ核タンパク質(RNP)複合体を含む。所定の実施態様では、RNP複合体は、Cas9ヌクレアーゼ及びガイドRNAを含む。所定の実施態様では、Cas9:ガイドRNAのモル比は、約1:4から約1:7である。所定の実施態様では、Cas9:ガイドRNAのモル比は、約1:6である。所定の実施態様では、Cas9ヌクレアーゼは、RNP複合体当たり約15μgから約30μgの範囲の量である。所定の実施態様では、Cas9ヌクレアーゼは、RNP複合体当たり約16μgの量である。所定の実施態様では、gRNAは、RNP複合体当たり約500pmolから約750pmolの範囲の量である。所定の実施態様では、gRNAは、RNP複合体当たり約600pmolの量である。
【0012】
所定の実施態様では、ヌクレアーゼ組成物は、TRAC遺伝子座を標的とする。所定の実施態様では、ヌクレアーゼ組成物は、TRBC遺伝子座を標的とする。
【0013】
所定の実施態様では、ガイドRNAは、TRAC遺伝子座及び/又はTRBC遺伝子座を標的とする。所定の実施態様では、DSBはオフターゲットDSBである。所定の実施態様では、dsODNは、DNAバーコードを含む。所定の実施態様では、DNAバーコードはランダム化される。所定の実施態様では、dsODNは、配列番号:1及び配列番号:2に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0014】
所定の実施態様では、ヌクレアーゼ組成物は、非ウイルス送達系によって送達される。所定の実施態様では、ヌクレアーゼ組成物は、エレクトロポレーションによって送達される。所定の実施態様では、ヌクレオチド組成物は、非ウイルス送達系によって送達される。所定の実施態様では、ヌクレオチド組成物は、エレクトロポレーションによって送達される。
【0015】
所定の実施態様では、初代細胞は哺乳動物細胞である。所定の実施態様では、初代細胞はヒト細胞である。所定の実施態様では、ヒト細胞は、造血幹細胞である。所定の実施態様では、ヒト細胞はT細胞である。所定の実施態様では、T細胞は、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、制御性T細胞、腫瘍浸潤性T細胞、ナチュラルキラーT細胞である。所定の実施態様では、T細胞は、CD8+ T細胞又はCD4+ T細胞である。所定の実施態様では、ヒト細胞はNK細胞である。所定の実施態様では、初代細胞は対象から得られる。所定の実施態様では、対象はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
前述及び他の目的、特徴、並びに利点は、同様の参照符号が異なる図全体にわたって同じ部分を指す添付図に示されているように、本発明の特定の実施態様の次の説明から明らかであろう。図面は必ずしも原寸に比例しておらず、代わりに本発明の様々な実施態様の原理を例証することに重点が置かれている。
図1図1は、2%のアガロースゲル上でNdeI制限酵素で消化されたエレクトロポレーションT細胞からTRAC、TRBC1、及びTRBC2アンプリコンを流すことによって測定されたTRAC、TRBC1、及びTRBC2を標的とするCas9RNPを用いたヒトT細胞のエレクトロポレーションによるdsODN組込み効率を示している。dsODN量を、TRAC、TRBC1、及びTRBC2 Cas9 RNPとの反応ごとに5、10、及び20μgで変化させた。dsODN量は、「dsODN」の下の各ゲル画像に示される楔高さに対応する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、遺伝子編集を受けた初代細胞、例えば、T細胞における二重鎖切断(DBS)の検出に関連して有用な組成物及び方法に関する。
【0018】
ここに記載されるのは、オフターゲット効果を含む、初代細胞におけるゲノム編集の効果を識別する改善された方法である。所定の実施態様では、これらの方法は、遺伝子編集メカニズムによって挿入され、ついで効果、例えば、オフターゲット効果の識別のために偏りのない増幅を受ける、特別にデザインされた二重鎖オリゴヌクレオチドを使用することによって、そのような効果、例えば、オフターゲット効果の高度に正確な識別をもたらす。ゲノム工学及び初代細胞への二重鎖オリゴヌクレオチドの挿入に関連する既知の課題のため、オフターゲット識別法を含む同様の識別法はまだ達成されていない。
【0019】
非ウイルス媒介送達を用いる初代細胞のヌクレアーゼ媒介遺伝子編集は以前に開示されている(例えば、ここにその全体が援用されるPCT公開第2019/089610号、「初代細胞遺伝子編集」を参照のこと)。その刊行物に記載されているように、Cas9によるガイドRNAを利用した切断は、T細胞受容体遺伝子を改変するために成功裡に実施されており、これは、幾つかの免疫療法用途でT細胞特異性を改変するのに役立つ。しかし、Cas9によるガイドRNAを利用した切断は、プロトスペーサー配列と完全に一致していないゲノム部位で発生する可能性があり、その結果、オフターゲット切断が生じる。
【0020】
GUIDE-Seqは、オンターゲットとオフターゲットの両方のCas9切断部位での二重鎖オリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)の組込みを検出することにより、潜在的なオフターゲット部位を識別するために使用される細胞ベースの方法である(Tsai等,2015)。しかし、GUIDE-Seqは、dsODNトランスフェクションに許容される細胞型に制限されている(Kim及びKim,2018)。特に、GUIDE-Seqは初代ヒトT細胞を使用して実施されていない。初代ヒトT細胞におけるオフターゲット効果をシミュレートするための非初代細胞許容細胞株の使用にも、細胞型間のエピジェネティックな差異又は倍数性の潜在的な差異による欠点がある。更に、患者固有のゲノム配列バリアントから生じるオフターゲット切断部位の可能性は、細胞株での実験では対処できない。
【0021】
ここに記載されるように、所定の実施態様によれば、初代ヒトT細胞におけるオフターゲット効果を含む遺伝子編集効果は、i)TRAC又はTRBCガイドRNAと複合体を形成したリボ核タンパク質(RNP)、及びii)dsODN(患者固有のTCRプラスミドの代わりに)と共にT細胞を同時にエレクトロポレーションし、続いて特定のオフターゲット効果を識別するための偏りのない増幅法によって成功裡にモニターされた。
【0022】
本開示の様々な実施態様の詳細は、以下の説明に記載される。本開示の他の特徴、目的、及び利点は、明細書及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0023】
限定ではなく、開示を明確化する目的で、詳細な説明を次のサブセクションに分ける。
1. 定義;
2. Guide-Seq;
3. 遺伝子編集システム;
4. 組成物とベクター;
5. キット;及び
6. 例示的な実施態様。
【0024】
1. 定義
別段の定義がない限り、ここで使用される全ての技術的及び科学的用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。次の参考文献は、本開示の主題で使用される用語の多くの一般的な定義を当業者に提供する:Singleton等,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(2版 1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker編,1988);The Glossary of Genetics,5版,R.Rieger等(編),Springer Verlag(1991);並びにHale及びMarham,The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。ここで使用される場合、次の用語は、特に明記しない限り、以下の定義に帰する意味を有している。
【0025】
ここに記載の本発明の態様及び実施態様は、態様及び実施態様を「含む」、「からなる」、及び「から本質的になる」ことを含むことが理解される。「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」という用語は、米国特許法においてそれらに帰する広い意味を有することを意図しており、「含む(includes)」、「含む(including)」などを意味しうる。
【0026】
ここで使用される場合、「抗原」には、患者特異的ネオ抗原を含む任意の抗原が含まれる。抗原には、免疫応答を誘導しうる任意の物質が含まれる。「インビトロ」という用語は、生体とは別個に成長する、例えば組織培養で成長する、生細胞において起こるプロセスを指す。
「インビボ」という用語は、生体内で生じるプロセスを指す。
【0027】
「宿主細胞」とは、そのような細胞の子孫を含む、外因性核酸が導入されている細胞を意味する。宿主細胞には、継代数に関係なく、初代形質転換細胞及びそれに由来する子孫が含まれる。子孫は、核酸含有量が親細胞と完全には同一ではない場合があるが、変異を含む場合もある。元の形質転換された細胞においてスクリーニングされ又は選択されたものと同じ機能又は生物学的活性を有する変異子孫がここに含まれる。
「個体」又は「ドナー」又は「対象」は哺乳動物である。所定の態様では、個体又はドナー又は対象はヒトである。
【0028】
ここで使用される場合、「ポリヌクレオチド」又は「核酸」又は「核酸は交換可能に使用され、ヌクレオチドのポリマーを含む任意の化合物及び/又は物質を含む。各ヌクレオチドは、塩基、具体的にはプリン又はピリミジン塩基(すなわち、シトシン(C)、グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)又はウラシル(U))、糖(すなわち、デオキシリボース又はリボース)、及びリン酸基から構成される。多くの場合、核酸分子は塩基の配列によって記述され、前記塩基は、核酸分子の一次構造(線形構造)を表す。塩基の配列は典型的には5’から3’まで表される。ポリヌクレオチドとは、任意のDNA(限定されないがcDNA、ssDNA、及びdsDNAを含む)及び任意のRNA(限定されないがssRNA、dsRNA、及びmRNAを含む)を指し、DNA及びRNAの合成形態、並びにこれら分子の二以上を含む混合ポリマーを更に含む。当業者は、例えば、ポリヌクレオチドが使用されている状況に基づいて、どの形態が参照されているかを理解することができる。ポリヌクレオチドは、線状又は環状でありうる。加えて、ポリヌクレオチドという用語には、センス鎖とアンチセンス鎖の両方、並びに単鎖及び二重鎖の形態が含まれる。ポリヌクレオチドは、天然に生じるヌクレオチド又は天然には生じないヌクレオチドを含みうる。非天然ヌクレオチドの例には、誘導体化された糖又はリン酸骨格結合又は化学的に修飾された残基を含む修飾ヌクレオチド塩基が含まれる。ポリヌクレオチドは、インビトロ及び/又はインビボで本発明のポリペプチドを直接発現するためのベクターとして適切なDNA及びRNA分子を包含する。
【0029】
特に述べられていない限り又は文脈から明らかでない限り、ここで使用される「約」又は「およそ」という用語は、当該技術分野における通常の許容範囲内、例えば平均の2標準偏差内であると理解される。約は記載されている値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、又は0.01%以内と理解されうる。あるいは、該用語は、値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味しうる。
【0030】
「実質的に含まない」という用語は、関連する全組成物において成分が検出不可能なレベルにある(つまり、「含まない」)場合を含む、関連する全組成物に存在する成分が統計的に有意な量未満であることを意味すると理解される。統計的に有意な量未満とは、0.1、0.05、又は0.01を超えるp値など、関連する組成物に成分が存在するという統計的信頼性を有しているとは見なされない検出レベルを指す。組成物が質量/体積パーセント濃度で10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、0.01%、0.001%、又は0.0001%未満の成分を含む場合、組成物は成分を実質的に含まないと言える。
【0031】
「非相同末端結合」又は「NHEJ」は、カノニカルNHEJ(cNHEJ)と、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、単鎖アニーリング(SSA)、及び合成依存性マイクロホモロジー媒介末端結合(SD-MMEJ)を含むオルタナティブNHEJ(altNHEJ)とを含む、ライゲーション媒介修復及び/又は非鋳型媒介修復を指す。
【0032】
「ベクター」、「発現ベクター」及び「発現コンストラクト」は、交換可能に使用することができ、その発現又は複製の何れかのために異種DNAを細胞に導入するために使用される別個のエレメントを意味する。ここで使用される場合、ベクターは、ベクター内に挿入されたコード配列によってコードされるポリペプチド遺伝子産物のインビボ又はインビトロ発現のために改変されて使用されうる。
【0033】
ここで使用される場合、「バーコード」という用語は、サンプルを識別するために使用されるヌクレオチド、生体分子成分及び/又はサブユニット、又はポリマー成分及び/又はサブユニットの配列を指す。所定の非限定的な実施態様では、例えば、バーコードは、ポリヌクレオチド中のヌクレオチドの配列でありうる。
【0034】
「キット」とは、特定の目的のために用いることができる機能ユニットを一緒に構成する二以上の構成要素の任意のコレクションを指す。例示として(限定ではない)、本開示に係る一キットは、ここに開示される方法を実施するためのdsODN、他の試薬、及び消耗品を含みうる。キットの構成要素は、一緒にパッケージ化することができ、又は別々にパッケージ化してもよい。本開示に係るキットはまた、例えば、本開示の方法による、キットの使用を説明する使用説明書を場合によっては含む。説明書はキットに物理的にパッケージ化することも、例えばインターネットアクセスによってキットのユーザーが利用できるようにすることもできる。
【0035】
1.1 他の解釈上の慣例
ここに記載されている範囲は、記載されている終点を含む、範囲内の全ての値の省略形であると理解される。例えば、1から50の範囲は、その任意の数又は分数、その数又は分数の組み合わせ、又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、及び50からなる群からのサブ範囲(群からの任意の数の分数を含む)を含むと理解される。
【0036】
2. Guide-Seq
ここに記載のシークエンシングによって評価されるDSBのゲノムワイドな偏りのない識別(Genomewide Unbiased Identification of DSBs Evaluated by Sequencing)(GUIDE-Seq)法は、非相同末端結合(NHEJ)修復経路が活性である初代ヒト細胞における操作されたヌクレアーゼ切断部位の位置を識別するための高感度で偏りのないゲノムワイド法を提供する。幾つかの実施態様では、該方法は、短い二重鎖オリゴデオキシヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド(dsODNs)のヌクレアーゼ誘導性切断への組込み(NHEJ経路によって媒介されると推定されるプロセス)と、ついでゲノム挿入部位を特定するための挿入されたdsODN配列の使用に依存する。幾つかの実施態様では、挿入されたdsODN配列が、ハイスループットシークエンシングのためにゲノム挿入部位を選択的に増幅するために使用される、偏りのないPCRベースのディープシークエンシングアプローチを使用することができる。幾つかの実施態様では、挿入されたdsODNsを含むゲノム断片を、例えば、溶液ハイブリッド捕捉を使用して、ビオチンなどの付着タグを使用して選択的にプルダウンすることができる。
【0037】
ここに記載するのは、初代ヒト細胞におけるGUIDE-Seq法の開発と検証である。
この最初のシークエンシング法によって識別される潜在的なオフターゲット部位は、ヌクレアーゼ成分のみが発現される細胞におけるNHEJ修復に特徴的なインデル変異についてまた分析されるかもしれない。これらの実験は、増幅とそれに続くディープシークエンシングを使用して実施でき、各ヌクレアーゼによって誘導されるオフターゲット変異の追加の確認と頻度の定量化をもたらす。
【0038】
2.1. 二重鎖オリゴデオキシヌクレオチド及び二重鎖オリゴヌクレオチド(dsODNs)
ここに記載の方法では、天然には生じないdsODNが、遺伝子編集試薬と共に初代ヒト細胞に送達され又は発現される。幾つかの実施態様では、dsODNの両方の鎖は、細胞のゲノムに対してオルソロガスである(すなわち、細胞のゲノムに存在しないか、又は存在する配列に相補的ではない、すなわち、存在する配列に対して10%以下、20%以下、30%>、40%>、又は50%>の同一性を有する)。dsODNsは、好ましくは、約15から約75ヌクレオチド長、例えば、約15~約50ヌクレオチド長、約50~約75ヌクレオチド長、約30~約35ヌクレオチド長、約60~約65ヌクレオチド長、又は約50~約65ヌクレオチド長、又は約15から約50ヌクレオチド長、例えば、約20~約40ヌクレオチド長、約30~約35ヌクレオチド長、例えば、約32~約34ヌクレオチド長でありうる。dsODNの各ストランドは、偏りのない増幅と識別を容易にするために固有のPCRプライミング配列を含む必要がある(つまり、dsODNは各ストランドに一つの、二つのPCRプライマー結合部位を含む)。幾つかの実施態様では、dsODNは、例えば、dsODNの挿入を検証するために、制限酵素認識部位、好ましくは、細胞のゲノムに比較的稀である部位を含む。
【0039】
幾つかの実施態様では、dsODNsは改変される。所定の実施態様では、dsODNsは化学修飾を含む。幾つかの実施態様では、dsODNの5’末端がリン酸化される。所定の実施態様では、dsODNの5’末端はホスホロチオレートである。幾つかの実施態様では、二つのホスホロチオエート結合が、両方の3’末端及び両方の5’末端に存在する。幾つかの実施態様では、dsODNは平滑末端である。幾つかの実施態様では、dsODNsは、5’又は3’末端に無作為な種類の1、2、3、4又はそれ以上のヌクレオチドオーバーハングを含む。
【0040】
dsODNはまた、例えば、当該技術分野で知られているか、又は出典明示によりその全体がここに援用されるPCT特許公開第2012/065143号「ポリコーム関連非コードRNA」に記載されるような、一又は複数の追加の改変を含みうる。例えば、幾つかの実施態様では、dsODNはビオチン化される。dsODNタグのビオチン化型は、ゲノムDSBの部位に組込むための基質として使用できる。ビオチンは、dsODNの内部のどこにあってもよい(例えば、修飾チミジン残基(Biotin-dT)又はビオチンアジドの使用)が、5’又は3’末端にはない。幾つかの実施態様では、そのようなビオチンタグは、dsODNタグを含むオリゴヌクレオチド断片を回収するために使用されうる。幾つかの実施態様では、これらの配列はネステッドPCRによって検索され識別されるが、このアプローチでは、それらは、ビオチンを使用することによって、例えば、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズへの結合によって、又は溶液ハイブリッド捕捉を使用することによって、物理的にプルダウンされる;例えば、Gnirke等,Nature Biotechnology 27,182-189(2009)を参照のこと。主な利点は、両方のフランキング配列の検索であり、これにより、参照ゲノムへのマッピング配列への依存性が低下し、オフターゲット切断部位が識別される。
【0041】
2.2. 増幅とシークエンシング
本開示は、初代細胞のゲノムDNAの増幅を含む方法を提供する。所定の実施態様では、限定されないが、ゲノムDNAの増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって実施されうる。
【0042】
ここで使用される場合、「シークエンシング」は、核酸の配列を決定する任意の方法を含む。チェーンターミネーター(Sanger)シークエンシング及びダイターミネーターシークエンシングを含む、任意のシークエンシング方法を本発明の方法において使用することができる。所定の実施態様では、何千又は何百万のシークエンシング反応を並行して実施するハイスループットシークエンシング技術である次世代シークエンシング(NGS)が使用される。異なるNGSプラットフォームは様々なアッセイケミストリーを使用するが、それらは全て多数の鋳型で同時に実行される多数のシークエンシング反応から配列データを生成する。典型的には、配列データはスキャナーを使用して収集され、ついで集合され、生物情報学的に分析される。従って、シークエンシング反応は並行して実施され、読み取られ、集合され、かつ分析される;例えば、米国特許出願公開第2014/0162897号、並びにVoelkerding等,Clinical Chem.,55:641-658,2009;及びMacLean等,Nature Rev.Microbiol.,7:287-296(2009)を参照のこと。
【0043】
一部のNGS法は鋳型増幅を必要とし、一部は必要としない。増幅を必要とする方法には、パイロシークエンシング(例えば、米国特許第621089号及び第6258568号を参照;ロシュによって商品化);Solexa/Illuminaプラットフォーム(例えば、米国特許第6833246号、第7115400号、及び第6969488号を参照);及びサポーテッドオリゴヌクレオチドライゲーション及び検出(SOLiD)プラットフォーム(Applied Biosystems;例えば、米国特許第5912148号及び第6130073号を参照)が含まれる。増幅を必要としない方法、例えば、単一分子シークエンシング法には、ナノポアシークエンシング、HeliScope(米国特許第7169560号;第7282337号;第7482120号;第7501245号;第6818395号;第6911345号;及び第7501245号);合成によるリアルタイムシークエンシング(例えば、米国特許第7329492号を参照);ゼロモード導波(ZMW)を使用する単一分子リアルタイム(SMRT)DNAシークエンシング法;及び米国特許第7170050号;第7302146号;第7313308号;及び第7476503号に記載されているものを含む他の方法が含まれる。例えば、米国特許出願公開第2013/0274147号;米国特許出願公開第2014/0038831号;Metzker,Nat Rev Genet 11(1):31-46(2010)を参照のこと。
【0044】
あるいは、ハイブリダイゼーションベースのシークエンス法又は他のハイスループット法、例えば、マイクロアレイ分析、NANOSTRING、ILLUMINA、又は他のシークエンシングプラットフォームを使用することもできる。
【0045】
3. 遺伝子編集システム
ここに記載のオフターゲットゲノム編集識別法は、初代細胞への改変に基づいている。一般に、改変細胞は、ヌクレアーゼ媒介編集を使用して、それらがゲノム的に編集されるように改変されるか、又はゲノム的に編集されうる。
幾つかの実施態様では、ヌクレアーゼは、特定の核酸配列(すなわち、ヌクレアーゼによって切断される「定まったヌクレオチド配列」)、例えば、ゲノム配列での切断を最初に方向付けることによって編集を促進し、その後の編集は、非鋳型ベースのDNA修復、例えば、ヌクレアーゼ切断により誘導される非相同な末端結合DNA修復メカニズムから生じるか、又は鋳型ベースの修復、例えば、相同組換えDNA修復メカニズムから生じる。
【0046】
配列特異的切断を促進するように改変できる様々なヌクレアーゼが当業者に知られており、限定されないが、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)ファミリーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)又はその誘導体、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)又はその誘導体、及びホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)又はその誘導体が含まれる。特に、CRISPR/Cas9編集システムなどのCRISPR媒介遺伝子編集システムを使用できる。ヌクレアーゼ媒介編集、特にCRISPR媒介編集については、それが教示する全てについてここに出典明示により援用されるAdli M(The CRISPR tool kit for genome editing and beyond.Nat Commun.2018 May 15;9(1):1911)に更に詳しく検討されている。
【0047】
3.1. 細胞と細胞サンプル
ここに記載の方法は、ゲノムDNA中のDSBを修復することができる任意の初代細胞において使用することができる。真核細胞における二つの主要DSB修復経路は、相同組換え(HR)及び非相同末端結合(NHEJ)である。好ましくは、本方法は、NHEJが可能な初代細胞において実施される。NHEJ活性を検出するための方法は当該技術分野で知られている;NHEJカノニカル及びオルタナティブ経路の概説については、Liu等,Nucleic Acids Res.Jun 1,2014;42(10):6106-6127を参照のこと。
【0048】
幾つかの実施態様では、ここに記載の方法は、初代ヒト細胞で使用される。幾つかの実施態様では、初代ヒト細胞は、ウイルス送達系を使用しないで遺伝要素を付加し及び/又は除去するように改変されている。幾つかの実施態様では、改変された細胞は、ウイルス媒介送達成分を実質的に含まない。幾つかの実施態様では、初代ヒト細胞は、改変されたT細胞である。幾つかの実施態様では、改変は、外因性ヌクレオチド配列、例えば、dsODNを含むポリヌクレオチドの初代細胞への送達を含む。
【0049】
幾つかの実施態様では、ここに記載の方法は、限定されないが、血液、血漿、末梢血単核細胞(PBMC)サンプル、骨髄、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)サンプル、組織、固形腫瘍、血液がん、及び液性腫瘍、又はそれらの任意の組み合わせを含む免疫細胞を含む任意の適切な患者由来サンプルからの免疫細胞、例えばT細胞及びB細胞に対して実施される。例えば、CD4+及びCD8+ T細胞は、抗CD4及び抗CD8蛍光抗体を使用してPBMC又はTILから単離でき、CD4+及びCD8+単一陽性細胞の生細胞集団が、蛍光標識細胞分取(FACS)を使用して選別され、その後の改変/オフターゲット試験のために、CD4+又はCD8+ 細胞のみが単離される。幾つかの実施態様では、CD4及びCD8の両方に対して陽性であるT細胞が、抗CD3蛍光抗体とそれに続くFACSを使用して、その後の改変/オフターゲット試験のために、単離されうる。幾つかの実施態様では、CD4及びCD8陽性T細胞は、Prodigy機器(Miltenyi,Auburn CA)を使用して単離されうる。幾つかの実施態様では、CD4及びCD8陽性T細胞は、CD4及びCD8ビーズを備えたMACカラムを使用して単離されうる。幾つかの実施態様では、サンプルは血液サンプルである。幾つかの実施態様では、サンプルはPBMCサンプルである。幾つかの実施態様では、サンプルは固形腫瘍サンプルである。幾つかの実施態様では、サンプルは血液腫瘍サンプルである。幾つかの実施態様では、サンプルは骨髄サンプルである。幾つかの実施態様では、サンプルは、腫瘍浸潤リンパ球を含む腫瘍サンプルである。T細胞はCD8+ T細胞又はCD4+ T細胞でありうる。幾つかの実施態様では、T細胞は、CD8+ T細胞である。幾つかの実施態様では、T細胞は、CD4+ T細胞である。幾つかの実施態様では、T細胞は、ヒトT細胞である。幾つかの実施態様では、T細胞は、ヒトCD8+ T細胞である。
【0050】
所定の実施態様では、ここに開示される方法は、初代細胞で実施される。所定の実施態様では、初代細胞は、細胞であり、不死になるように改変された細胞株ではない細胞である。所定の実施態様では、初代細胞は、生体組織(例えば、血液)から直接単離される。所定の実施態様では、初代細胞は、それらの元の細胞及び分子の特徴を保持しうる。所定の実施態様では、初代細胞は、遺伝子改変された細胞の作製のために使用されうる。例えば、限定されないが、初代細胞は組換えタンパク質を発現するように改変され、細胞治療製品として使用される。所定の実施態様では、初代細胞は幹細胞である。所定の実施態様では、初代細胞は多能性幹細胞である。所定の実施態様では、初代細胞は造血幹細胞である。所定の実施態様では、初代細胞は、末梢ドナーリンパ球である。所定の実施態様では、初代細胞はT細胞である。所定の実施態様では、初代細胞はNK細胞である。
【0051】
3.2. 初代細胞改変
ここに記載の改変細胞は、非ウイルス法を使用して改変することができ、例えば、ここに記載のヌクレアーゼ及びCRISPR媒介遺伝子編集システムは、非ウイルス法を使用して細胞に送達されうる。ウイルス媒介送達(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、及びレンチウイルスベースの送達方法)がヌクレアーゼ及びCRISPR媒介遺伝子編集システムを送達するために使用されてきたが、ウイルス媒介系はまた免疫原性につながる成分を導入するウイルス系から悪影響を受ける場合がある。例えば、ウイルス媒介送達成分は、ゲノムに組込むことができるウイルス又はウイルス由来のヌクレオチド配列を含みうる。従って、ここに記載の改変細胞は、ウイルス媒介送達成分を実質的に含まない場合がある。「ウイルス媒介送達成分を実質的に含まない」という用語は、関連する全組成物中のウイルス媒介送達成分が検出不可能なレベルにある場合を含む(すなわち、「ここに記載の改変細胞は、ウイルス媒介送達成分を含まない可能性がある」)、関連する全組成物(例えば、細胞又は細胞の集団)中に存在する一又は複数のウイルス媒介送達成分が統計的に有意な量未満であることを意味すると理解される。統計的に有意な量未満とは、ウイルス媒介送達成分が、0.1、0.05、又は0.01を超えるp値など、関連する組成物中に存在している統計的信頼性を有しているとはみなされない検出レベルを意味しうる。ウイルス媒介送達成分は、ウイルス構造タンパク質(例えば、カプシド、エンベロープ、及び/又は膜融合タンパク質)などのウイルスタンパク質を含みうる。一般に、組込まれたウイルス配列又は導入されたウイルスタンパク質に由来する全てのペプチドは、細胞表面のMHC分子、特にMHCクラスI対立遺伝子によって提示される可能性があり、その後免疫原性につながる場合がある。養子細胞療法などの治療の文脈では、免疫原性は治療効果に悪影響を与える可能性がある。従って、非ウイルス送達法は、養子T細胞療法などの養子細胞療法で使用される細胞を改変し編集するのに有利である場合がある。従って、特定の態様では、改変細胞の表面上のMHCクラスIは、ウイルス媒介送達成分又は組込みウイルスに由来するペプチドを含まない場合があり、組込みウイルスは、ウイルス媒介送達成分と作用可能に関連している。
【0052】
一部のCRISPR系では、それぞれが一を超える定まったヌクレオチド配列で同じ遺伝子又は一般的ゲノム遺伝子座を個別に標的とするように、一を超えるCRISPR組成物が提供されうる。例えば、二つの別個のCRISPR組成物を提供して、例えば10塩基対以下、20塩基対以下、30塩基対以下、40塩基対以下、50塩基対以下、100塩基対以下、200塩基対以下、300塩基対以下、400塩基対以下、500塩基対以下、1000塩基対以下、2000塩基対以下、5000塩基対以下、又は10000塩基対以下など、互いに所定の距離内にある二つの異なる定まったヌクレオチド配列で切断を方向付けることができる。一部のCRISPR系では、それぞれが同じ遺伝子又は一般的ゲノム遺伝子座の逆ストランドを別個に標的とするように、一を超えるCRISPR組成物を提供することができる。例えば、二つの別個のCRISPR「ニッカーゼ」組成物を提供して、同じ遺伝子又は一般的ゲノム遺伝子座の逆ストランドでの切断を方向付けることができる。
【0053】
3.2. ヌクレアーゼとリボヌクレアーゼ
本開示は、ヌクレアーゼ及びリボヌクレアーゼの切断プロファイルを評価するための方法を提供する。遺伝子編集は、限定されないが、1)メガヌクレアーゼ、2)ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、3)転写活性化因子エフェクター様ヌクレアーゼ(TALEN)、及び4)クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)Cas RNAガイドヌクレアーゼ(RGN)を含む、細胞内で発現されるか又は細胞に送達等される幾つかの異なるヌクレアーゼによって媒介されうる。例えば、Gaj等,Trends Biotechnol.2013 Jul;31(7):397-405を参照のこと。ヌクレアーゼは、当該技術分野で知られている方法を使用して、細胞内で一過性に又は安定して発現されうる;典型的には、発現を得るために、タンパク質をコードする配列が、転写を指示するプロモーターを含む発現ベクターにサブクローン化される。適切な真核生物発現系は当該技術分野で周知であり、例えば、Sambrook等,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(4版 2013);Kriegler,Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(2006);及びCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel等編,2010)に記載されている。真核生物及び原核生物細胞の形質転換は、標準的な技術に従って実施される(例えば、上記の参考文献並びにMorrison,1977,J.Bacteriol.132:349-351;Clark-Curtiss及びCurtiss,Methods in Enzymology 101:347-362(Wu等編,1983)を参照のこと)。
【0054】
所定の実施態様では、ヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼである。所定の実施態様では、ヌクレアーゼは、部位特異的エンドヌクレアーゼ(例えば、制限エンドヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼなど)である。
【0055】
所定の実施態様では、ヌクレアーゼは、ZFNヌクレアーゼである。ZFNヌクレアーゼは、ジンクフィンガーDNA結合ドメインをDNA切断ドメインと組み合わせることによって作製される。ジンクフィンガードメインは、特定のDNA配列を標的とするように改変できる。これにより、ジンクフィンガーヌクレアーゼがゲノム内の所望の配列を標的にすることができる。個々のZFNのDNA結合ドメインは、典型的には、複数の個別のジンクフィンガーリピートを含み、それぞれが複数の塩基対を認識できる。新しいジンクフィンガードメインを作製する一般的な方法は、既知の特異性のより小さなジンクフィンガー「モジュール」を組み合わせることである。ZFNは、標的DNA配列に二重鎖切断(DSB)を生成することによりタンパク質の発現を調節し、これは、相同鋳型がない場合、非相同末端結合(NHEJ)によって修復される。このような修復は、塩基対の欠失又は挿入をもたらし、フレームシフトを引き起こし、有害なタンパク質の産生を防止しうる。
【0056】
所定の実施態様では、ヌクレアーゼは、TALENヌクレアーゼである。TALENは、DNAの特定の配列を切断するように改変できる制限酵素である。TALEN系はZFNと同様の原理で作用する。TALENは、転写活性化因子様エフェクターDNA結合ドメインをDNA切断ドメインと組み合わせることによって作製される。転写活性化因子様エフェクター(TALE)は、特定のヌクレオチドに対して強い認識性を有する二つの可変位置を持つ33~34アミノ酸の繰り返しモチーフで構成されている。これらTALEのアレイを組み立てることにより、TALE DNA結合ドメインを、所望のDNA配列に結合するように改変し、それによってヌクレアーゼをゲノム内の特定の位置で切断するように誘導できる(Boch等,Nature Biotechnology;29(2):135-6(2011))。
【0057】
所定の実施態様では、ヌクレアーゼはメガヌクレアーゼである。メガヌクレアーゼは15~40塩基対の切断部位を認識する。メガヌクレアーゼは、染色体に二重鎖切断を生じさせることにより、宿主ゲノムの特定の位置での相同組換え又は遺伝子挿入を自然に促進し、これが細胞のDNA修復機構を補充する(Stoddard(2006),Q.Rev.Biophys.38:49-95)。
【0058】
所定の実施態様では、ヌクレアーゼは、CRISPR関連タンパク質である。CRISPR関連タンパク質、例えばCas9タンパク質は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)システムにおいてゲノム編集ツールとして使用される。RNA分子(例えば、ガイドRNA)と複合体化されると、CRISPR関連タンパク質は宿主DNAの特定の領域を標的にして、単鎖又は二重鎖切断を生成する。gRNAは、単分子(単一RNA分子を含み、キメラとも呼ばれる)又はモジュラー(一を超え、典型的には二つの別個のRNA分子、例えばcrRNA及びtracrRNAを含み、これは例えば二重鎖によって通常は互いに関連している)でありうる。所定の実施態様では、CRISPR関連タンパク質及びgRNAは、細胞への送達のためにリボ核タンパク質複合体(RNP)中に複合体化され、例えば、エレクトロポレーションによって送達されうる(例えば、RNPを細胞に送達する追加の方法について、DeWitt等,Methods 121-122:9-15(2017)を参照のこと)。
【0059】
幾つかの実施態様では、CRISPR媒介遺伝子編集システムが使用され、オフターゲット効果が識別される。CRISPR媒介遺伝子編集システムは、CRISPR関連(Cas)ヌクレアーゼと、切断を特定の標的配列に方向付けるRNAを含む。例示的なCRISPR媒介遺伝子編集システムは、Cas9ヌクレアーゼと、CRISPR RNA(crRNA)ドメイン及びトランス活性化CRISPR(tracrRNA)ドメインを有するRNAで構成されるCRISPR/Cas9システムである。crRNAは、典型的には、二つのRNAドメイン:塩基対ハイブリダイゼーションを介して標的配列(「定まったヌクレオチド配列」)、例えば、ゲノム配列に特異性を方向付けるガイドRNA配列(gRNA);及びtracrRNAにハイブリダイズするRNAドメインを含む。tracrRNAは、ヌクレアーゼ(例えば、Cas9)と相互作用し、それによってゲノム遺伝子座への補充を促進しうる。crRNA及びtracrRNAポリヌクレオチドは、別個のポリヌクレオチドでありうる。crRNA及びtracrRNAポリヌクレオチドは、単一ガイドRNA(sgRNA)とも呼ばれる単一ポリヌクレオチドでありうる。ここではCas9システムを例証しているが、Cpflシステムなどの他のCRISPRシステムを使用することもできる。
【0060】
ヌクレアーゼは、Cas9機能的変異体、例えば、Cas9酵素によって典型的に産生される完全な二重鎖切断とは対照的に、定まったヌクレオチド配列の一本鎖のみの切断を一般に媒介するCas9「ニッカーゼ」変異体などのその誘導体を含みうる。幾つかの実施態様では、ガイドRNAは、TRAC、TRBC1、又はTRBC2などのT細胞受容体遺伝子を標的とする。
【0061】
一般に、CRISPR系の成分は互いに相互作用してリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成し、配列特異的な切断を媒介する。一部のCRISPR系では、各成分は別個に産生され、RNP複合体を形成するために使用されうる。一部のCRISPR系では、各成分はインビトロで別個に産生され、インビトロで相互に接触させて(つまり、「複合体化」されて)RNP複合体を形成しうる。次に、インビトロで産生されるRNPは、細胞の細胞質ゾル及び/又は核、例えば、T細胞の細胞質ゾル及び/又は核内に導入(すなわち、「送達」)されうる。
【0062】
3.2.1. RNP複合体
所定の実施態様では、本開示は、リボ核タンパク質(RNP)複合体を初代細胞に送達する方法を含む。所定の実施態様では、限定されないが、RNP複合体は、ガイドRNA(例えば、sgRNA)をCas9ヌクレアーゼと組み合わせることによって得られる。インビトロで産生されるRNP複合体は、ヌクレアーゼとgRNAの様々な比率で複合体化されうる。例えば、インビトロで産生されるRNP複合体は、1:1~1:9の間のCas9:sgRNAモル比、例えば1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、又は1:9のCas9:sgRNAモル比でCas9タンパク質と複合体化されたsgRNAで形成されうる。インビトロで産生されるRNP複合体は、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、又は約1:9のCas9:sgRNAモル比でCas9タンパク質と複合体化されたsgRNAで形成されうる。
【0063】
インビトロで産生されるRNP複合体は、またCRISPRを介した編集システムにおいて様々な量で使用することができる。例えば、編集が望まれる細胞の数に応じて、加えられる全RNP量を調整することができ、例えば反応において多数(例えば、5×10)の細胞を編集する場合に加えられるRNP複合体の量を増加させることができる。
【0064】
幾つかのCRISPR系では、各成分(例えば、Cas9及びsgRNA)は、ポリヌクレオチドによって別個にコードされ得、各ポリヌクレオチドが細胞に導入される。幾つかのCRISPR系では、各成分は単一のポリヌクレオチドによってコードされ(すなわち、マルチプロモーター又はマルチシストロンベクター、以下の例示的なマルチシストロン系の説明を参照)、細胞に導入されうる。細胞内での各ポリヌクレオチドコード化CRISPR成分の発現(例えば、ヌクレアーゼの翻訳及びCRISPR RNAの転写)に続いて、RNP複合体が細胞内で形成され得、その後、部位特異的切断を方向付けうる。一部のRNPは、核内へのRNPの送達を促進する部分を有するように改変されうる。例えば、Cas9ヌクレアーゼは、Cas9 RNP複合体が細胞の細胞質ゾル内に送達されるならば、又はCas9の翻訳とそれに続くRNP形成に続いて、NLSがCas9 RNPの核内への更なる輸送を促進できるように、核局在化シグナル(NLS)ドメインを持ちうる。
【0065】
所定の実施態様では、RNP複合体は、Casヌクレアーゼを含む。所定の実施態様では、RNP複合体は、gRNAを含む。所定の実施態様では、RNP複合体は、二以上のgRNAを含む。例えば、限定しないが、RNP複合体は、Cas9ヌクレアーゼと、TRAC遺伝子座及び/又はTRBC遺伝子座を標的とするガイドRNAとを含む。
【0066】
3.2.2. リボ核タンパク質複合体及びdsODNsの送達
細胞(限定されないが、例えば、T細胞)の遺伝子改変は、ゲノムDNAに二重鎖切断を作製し、そこにDNAコンストラクトを挿入することができるヌクレアーゼを使用することによって達成することができる。しかし、これらのプロセスは、改変された細胞の臨床的使用を損なう場合があるオフターゲット二重鎖切断の生成につながる場合がある。更に、これらのプロセスは、トランスフェクションに不応性であり、ヌクレオチド関連細胞傷害性のため、初代細胞で検出するのは困難である。
【0067】
本開示は、ヌクレアーゼ組成物(例えば、リボ核タンパク質複合体)とヌクレオチド組成物(例えば、dsODNs)を初代細胞に送達することを含む方法を提供する。
遺伝子編集試薬又はコード化ポリヌクレオチド、例えばインビトロで産生されたリボ核タンパク質(RNP)複合体、dsODN分子、又はこれらをコードするベクターは、限定されないが、トランスフェクション、形質導入、エレクトロポレーション、リポフェクション、ソノポレーション(超音波処理)、機械的破壊、又はウイルスベクターを含む、既知の適切な方法によって宿主細胞中に挿入されうる。例示的なトランスフェクション試薬には、限定されないが、FectorPro、Expifectamine、Lipofectamine、ポリエチレンイミン(PEI)、Fugene、又は細胞型、トランスフェクション系、トランスフェクション型、トランスフェクション条件、及びトランスフェクトされるコンストラクトに基づいて最適なトランスフェクション速度を提供するその他のトランスフェクション試薬が含まれる。幾つかの例では、Expifectamineを使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする。幾つかの例では、ポリエチレンイミンを使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする。幾つかの例では、FectorProを使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする。
【0068】
特定の例では、遺伝子編集試薬は、Nucleofector/ヌクレオフェクション(Nucleofection)(登録商標)エレクトロポレーションベースの送達系(Lonza(登録商標))を使用して細胞に送達することができる。他のエレクトロポレーション系には、限定されないが、MaxCyteエレクトロポレーション系、Miltenyi CliniMACSエレクトロポレーション系、Neonエレクトロポレーション系、及びBTXエレクトロポレーション系が含まれる。CRISPRヌクレアーゼ、例えば、Cas9は、当業者に知られている様々なタンパク質産生技術を使用して、インビトロで産生(すなわち、合成及び精製)することができる。CRISPR系RNA、例えば、sgRNAは、インビトロ転写又は化学合成などの当業者に知られている様々なRNA産生技術を使用して、インビトロで産生(すなわち、合成及び精製)することができる。
【0069】
dsODN又はRNP複合体成分をコードする遺伝子を含むポリヌクレオチドは、宿主細胞において一過性に又は安定して発現されうる。幾つかの実施態様では、そのようなポリヌクレオチドは、宿主ゲノムに組み込まれる。他の実施態様では、ポリヌクレオチドは染色体外に残る。CRISPR/Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、又はTALENヌクレアーゼを含む、ポリヌクレオチドで宿主細胞を改変するために、当該技術分野で知られている任意の適切な遺伝子編集技術をまた用いることができる。
【0070】
所定の実施態様では、ここに開示されるRNP複合体及び/又はdsODNsの送達は、ウイルス送達系を使用することによって実施される。所定の実施態様では、ウイルス送達系は、標的化された及び/又は無作為の組込みを含む。所定の実施態様では、ウイルス送達系は、Lentiflash(登録商標)又は他の同様の送達系でありうる。
【0071】
所定の実施態様では、ここに開示されるRNP複合体及び/又はdsODNsの送達は、非ウイルス送達系を使用することによって実施される。例えば、核酸分子は、リポフェクションの存在下で核酸を投与することによって、又はポリリジン結合によって細胞に導入することができる。遺伝子導入のための他の非ウイルス性手段には、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、エレクトロポレーション、及びプロトプラスト融合を使用したインビトロでのトランスフェクションが含まれる。リポソームはまた、細胞内への核酸の送達のために潜在的に有益でありうる。
【0072】
所定の実施態様では、限定されないが、送達は、エレクトロポレーションを介して起こり、細胞をここに開示されるRNP複合体及び/又はdsODNsとキュベット内で混合し、定まった持続時間及び振幅の一又は複数の電気インパルスを加えることを含む。
所定の実施態様では、RNP複合体及び/又はdsODNsは、ベクター及び非ベクターベースの方法の組み合わせによって送達される。
【0073】
所定の実施態様では、本開示は、リボヌクレオチド(RNP)複合体を提供する方法を含む。所定の実施態様では、RNP複合体は、Cas9ヌクレアーゼを含む。所定の実施態様では、Cas9ヌクレアーゼは、RNP複合体中に、約0.5μgから約1000μg、約5μgから約100μg、約10μgから約100μg、約25μgから約100μg、約50μgから約100μg、約75μgから約100μg、約1μgから約75μg、約1μgから約50μg、約1μgから約25μg、約1μgから約10μg、約10μgから約20μg、約15μgから約20μg、約.5μgから約10μg、約.5μgから約1μg、約100μgから約200μg、約200μgから約300μg、約300μgから約400μg、約400μgから約500μg、約500μgから約600μg、約600μgから約700μg、約700μgから約800μg、約800μgから約900μg、又は約900μgから約1000μg及びその間の値の量で存在する。
【0074】
所定の実施態様では、RNP複合体は、ガイドRNA(gRNA)を含む。所定の実施態様では、gRNAは、RNP複合体中に、約1pmolから約50000pmolまで、約1pmolから約100pmol、約100pmolから約1000pmol、約200pmolから約1000pmol、約300pmolから約1000pmol、約500pmolから約1000、約750pmolから約1000pmol、約100pmolから約250pmol、約100pmolから約500pmol、約100pmolから約750pmol、約250pmolから約500pmol、約250pmolから約750pmol、約250pmolから約1000pmol、約500pmolから約750pmol、約500pmolから約1000pmol、約500pmolから約600pmol、約500pmolから約650pmol、約550pmolから約600pmol、約550pmolから約650pmol、又は約1000pmolから約50000pmol、及びその間の値の量で存在する。
【0075】
所定の実施態様では、本開示は、dsODNを提供する方法を含む。所定の実施態様では、dsODNは、約200pMから約1000pM、約300pMから約1000pM、約400pMから約1000pM、約500pMから約1000pM、約600pMから約1000pM、約800pMから約1000pM、約200pMから約300pM、約200pMから約400pM、約200pMから約500pM、約200pMから約600pM、約200pMから約800pM、約300pMから約500pM、約300pMから約600pM、約300pMから約800pM、約300pMから約1000pM、約400pMから約500pM、約400pMから約600pM、又は約400pMから約800pM、及びその間の値の濃度で提供される。
【0076】
所定の実施態様では、dsODNは、約1pmolから約10nmol、約1pmolから約100pmol、約100pmolから約200pmol、約200pmolから約1000pmol、約300pmolから約1000pmol、約400pmolから約1000pmol、約500pmolから約1000pmol、約600pmolから約1000pmol、約800pmolから約1000pmol、約200pmolから約300pmol、約200pmolから約400pmol、約200pmolから約500pmol、約200pmolから約600pmol、約200pmolから約800pmol、約300pmolから約500pmol、約300pmolから約600pmol、約300pmolから約800pmol、約300pmolから約1000pmol、約400pmolから約500pmol、約400pmolから約600pmol、約400pmolから約800pmol、約1nmolから約2nmol、約2nmolから約3nmol、約3nmolから約5nmol、又は約5nmolから約10nmol、及びその間の値の量で提供される。
【0077】
所定の実施態様では、dsODNは、約1μgから約100μg、約5μgから約100μg、約10μgから約100μg、約20μgから約100μg、約30μgから約100μg、約50μgから約100μg、約75μgから約100μg、約1μgから約75μg、約1μgから約50μg、約1μgから約30μg、約1μgから約20μg、約1μgから約10μg、約10μgから約20μg、約15μgから約20μg、又は約15μgから約30μg、及びその間の値の量で提供される。
【0078】
所定の非限定的な実施態様では、本開示は、リボヌクレオチド(RNP)複合体及びdsODNを、ここに開示される量及び濃度の何れかで初代細胞に提供する方法を含む。例えば、限定されないが、ここに開示される方法は、約1:5から1:7の比率のRNP複合体を提供し、ここで、RNP複合体は、約10μgから約20μgの量のCas9ヌクレアーゼ及び約500pmolから約650pmolの量のgRNA;並びに約400pmolから約500pmolの濃度のdsODNを含む。所定の非限定的な実施態様では、ここに開示される方法は、約1:5から1:7の比率のRNP複合体を提供し、ここで、RNP複合体は、約10μgから約20μgの量のCas9ヌクレアーゼ及び約500pmolから約650pmolの量のgRNA;並びに約15μgから約30μgの量のdsODNを含む。
【0079】
4. 組成物とベクター
所定の実施態様では、本開示は、ここに開示される方法を実施するために使用される組成物を提供する。
所定の実施態様では、本開示は、「ヌクレオチド組成物」を提供する。所定の実施態様では、ヌクレオチド組成物は、ここに開示されるdsODNを含む。所定の実施態様では、dsODNは、配列番号:1-2に示されるヌクレオチド配列を含む配列を有する。所定の実施態様では、ヌクレオチド組成物は、ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む。所定の実施態様では、ヌクレオチド組成物は、Casヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド及び遺伝子座の遺伝子破壊のためのgRNAを含む。所定の実施態様では、遺伝子座はTRACである。所定の実施態様では、遺伝子座はTRBCである。また提供されるのは、そのようなヌクレオチド組成物を含む細胞である。
【0080】
所定の実施態様では、本開示は、ヌクレアーゼ組成物を提供する。「ヌクレアーゼ組成物」は、ヌクレアーゼタンパク質又はポリヌクレオチドを含む。所定の実施態様では、ヌクレアーゼ組成物は、天然に生じるヌクレアーゼを含む。所定の実施態様では、ヌクレアーゼ組成物は、組換えヌクレアーゼを含む。所定の実施態様では、ヌクレアーゼ組成物は、アクセサリー分子を含む。例えば、限定されないが、ヌクレアーゼ組成物は、Cas9ヌクレアーゼ及びゲノム遺伝子座を標的とするgRNAを含む。ヌクレアーゼ組成物に包含されるヌクレアーゼに関する追加情報は、本開示のセクション3.2に開示されている。
【0081】
ヌクレアーゼ組成物及びヌクレオチド組成物は、ここに記載の方法によって細胞に送達することができる。ヌクレアーゼ組成物及び/又はヌクレオチド組成物を送達するために使用される方法の例は、本開示のセクション3.2.2に記載されている。
【0082】
5. キット
本開示の主題は、ここに開示される方法を実施するためのキットを提供する。所定の実施態様では、キットはdsODNを含む。所定の実施態様では、キットはヌクレアーゼを含む。所定の実施態様では、キットはヌクレアーゼ組成物を含む。所定の実施態様では、キットは、ここに開示される核酸を含む。所定の実施態様では、キットはヌクレオチド組成物を含む。所定の実施態様では、キットは、アダプター;末端修復及び/又はライゲーション用の試薬及び/又は酵素;エキソヌクレアーゼ;エンドヌクレアーゼ;及び/又はここに記載の方法で使用するための説明書を含む。
【0083】
所望される場合、キットは、ここに開示された方法を実施するための説明書と共に提供される。所定の実施態様では、説明書は、次のうちの少なくとも一つを含む:dsODNの説明書;使用マニュアル;技術プロトコル;及び/又はリファレンス。説明書は別個のシートとして印刷してもよく、又は電子的手段で利用可能とすることもできる。
【0084】
6. 例示的な実施態様
A. 所定の非限定的な実施態様では、本開示は、初代細胞のゲノムDNAにおける二重鎖切断(DSB)を検出するための方法であって、初代細胞のゲノムDNAにおいて二重鎖切断を誘導することができるヌクレアーゼ組成物を提供する工程;平滑末端二重鎖オリゴヌクレオチド(dsODN)を含むヌクレオチド組成物を提供する工程であって、dsODNが、約250pmolから約500pmolの範囲の量で提供される工程;細胞のゲノムDNAにDSBを誘導し、DSBを修復し、一又は複数のDSBにdsODNを組込むのに十分な時間、初代細胞をインキュベートする工程;組込まれたdsODNを含むゲノムDNAの一部を増幅する工程;及びゲノムDNAの増幅された部分をシークエンシングする工程を含み、それによって初代細胞のゲノムDNAにおけるDSBを検出する、方法を提供する。
A1. dsODNが、約250pmolから約500pmolの範囲の量で提供される、Aの前述の方法。
A2. dsODNの両方の鎖が、細胞のゲノムに直交している、A又はA1の前述の方法。
A3. dsODNの5’末端がリン酸化されている、A-A2の前述の方法。
A4. dsODNが、両方の3’末端にホスホロチオエート結合を含む、A-A3の前述の方法。
A5. dsODNが、両方の3’末端及び両方の5’末端にホスホロチオエート結合を含む、A-A4の前述の方法。
A6. dsODNが、約15から約50ヌクレオチド長である、A-A7の前述の方法。
A7. ゲノムDNAの一部を増幅する工程が、ゲノムDNAを断片化する工程;断片化されたゲノムDNAの末端をユニバーサルアダプターでライゲートする工程;組込まれたdsODNに相補的な第一プライマーとユニバーサルアダプターに相補的な第二プライマーを用いて、ライゲートされたDNAに対して第一ラウンドのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施する工程;及び3’ネステッドプライマーであり、第一プライマーに相補的である第三プライマー、3’ネステッドプライマーであり、第二プライマーに相補的である第四プライマー、及び第四プライマーに相補的である第五プライマーを使用して第二ラウンドのPCRを実施する工程を含む、A-A6の前述の方法。
A8. 第五プライマーが、精製配列、結合配列、識別配列、又はそれらの組み合わせである、A7の前述の方法。
A9. ヌクレアーゼ組成物が、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENヌクレアーゼ、Casヌクレアーゼを含む、A-A8の前述の方法。
A10. ヌクレアーゼ組成物が、リボ核タンパク質(RNP)複合体を含む、A-A9の前述の方法。
A11. RNP複合体が、Cas9ヌクレアーゼ及びガイドRNAを含む、A10の前述の方法。
A12. Cas9:ガイドRNAのモル比が、約1:4から約1:7である、A11の前述の方法。
A13. Cas9:ガイドRNAのモル比が、約1:6である、A12の前述の方法。
A14. Cas9ヌクレアーゼが、RNP複合体当たり約15μgから約30μgの範囲の量である、A10-A13の前述の方法。
A15. Cas9ヌクレアーゼが、RNP複合体当たり約16μgの量である、A14の前述の方法。
A16. gRNAが、RNP複合体当たり約500pmolから約750pmolの範囲の量である、A11-A15の前述の方法。
A17. gRNAが、RNP複合体当たり約600pmolの量である、A16の前述の方法。
A18. ヌクレアーゼ組成物が、TRAC遺伝子座を標的とする、A-A17の前述の方法。
A19. ヌクレアーゼ組成物が、TRBC遺伝子座を標的とする、A-A18の前述の方法。
A20. ガイドRNAが、TRAC遺伝子座及び/又はTRBC遺伝子座を標的とする、A-A19の前述の方法。
A21. DSBがオフターゲットDSBである、A-A20の前述の方法。
A22. dsODNが、DNAバーコードを含む、A-A21の前述の方法。
A23. DNAバーコードがランダム化される、A22の前述の方法。
A24. dsODNが、配列番号:1及び配列番号:2に示されるヌクレオチド配列を含む、A-A23の前述の方法。
A25. ヌクレアーゼ組成物が、非ウイルス送達系によって送達される、A-A24の前述の方法。
A26. ヌクレアーゼ組成物が、エレクトロポレーションによって送達される、A25の前述の方法。
A27. ヌクレオチド組成物が、非ウイルス送達系によって送達される、A-A26の前述の方法。
A28. ヌクレオチド組成物が、エレクトロポレーションによって送達される、A27の前述の方法。
A29. 初代細胞が哺乳動物細胞である、A-A28の前述の方法。
A30. 初代細胞がヒト細胞である、A-A29の前述の方法。
A31. ヒト細胞が造血幹細胞である、A30の前述の方法。
A32. ヒト細胞がT細胞である、A31の前述の方法。
A33. T細胞が、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、制御性T細胞、腫瘍浸潤性T細胞、ナチュラルキラーT細胞である、A32の前述の方法。
A34. T細胞がCD8+ T細胞又はCD4+ T細胞である、A32又はA33の前述の方法。
A35. ヒト細胞がNK細胞である、A30の前述の方法。
A36. 初代細胞が対象から得られる、A-A35の前述の方法。
A37. 対象がヒトである、A36の前述の方法。
【実施例
【0085】
次は、本開示の方法及び組成物の実施例である。上に提供された一般的な説明を前提として、他の様々な実施態様を実施できることが理解される。
【0086】
実施例1 初代T細胞GUIDE-Seq
初代T細胞GUIDE-Seqを、以下に説明するように、初代T細胞用に変更された培養及びヌクレオフェクション条件で、公開されているプロトコル(例えば、出典明示によりその全体が援用されるTsai等,2015及びPCT公開第2015/200378号、「シークエンシングによって評価されるDSBSのゲノムワイドな偏りのない識別(Genome-wide, Unbiased Identification of Doublestranded breaks Enabled by Sequencing)(GUIDE-Seq)」を参照のこと)に従ってTRAC及びTRBCガイドRNAを使用して単離CD4及びCD8 T細胞について実施した。
【0087】
[細胞培養とヌクレオフェクション]
健康なドナーのleukopakから元々得られたCD4及びCD8に富むT細胞を、製造元の説明書に従って、Miltenyi Prodigy又はMiltenyi MACS分離カラムで単離した。
二重鎖切断(DSB)部位をマークするために使用した二重鎖オリゴヌクレオチド(dsODN)は、特注合成されアニーリングされた鎖として購入した。次のdsODN配列を使用したが、ここで、Pは5’リン酸化を表し、はホスホロチオエート結合を示す:
5’ P-GTTAATTGAGTTGTCATATGTTAATAACGGTT 3’(配列番号:1)
3’ CAATTAACTCAACAGTATACAATTATTGCCAA-P 5’(配列番号:2)
【0088】
エレクトロポレーションを、100μLのキュベット中、Lonza 4-D Nucleofector X-ユニットで実施した。各エレクトロポレーションでは、5E6 T細胞、10μgのdsODN、及び1:6のCas9:sgRNAモル比で複合体を形成したCas9リボ核タンパク質複合体(RNP)を使用した。ついで、細胞を、100U/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシンを含む培養培地で増殖させた。ヌクレオフェクションの72時間後に細胞を収集し、製造元の標準プロトコルに従ってNucleospin Tissueキット(Macherey-Nagel)を使用してゲノムDNA(gDNA)を単離した。単離したゲノムDNAを、Nanodrop分光光度計を使用して定量した。
【0089】
[dsODN組込みの制限断片長多型(RFLP)確認]
単離されたゲノムDNAにおけるTRAC(T細胞受容体アルファ定常)、TRBC1(T細胞受容体ベータ定常1)、及びTRBC2(T細胞受容体アルファ定常2)部位を、以下の表のプライマーと共にPCRを使用して増幅させた。
【0090】
次の温度サイクリング条件:95℃で120秒間、7サイクル(95℃で20秒間、68℃で10秒間(-1℃/サイクル);70℃で15秒間)、26サイクル(95℃で20秒間、60℃で10秒間、70℃で15秒間)70℃で5分間、4℃でサンプルが除去されるまでで、KOD Hot Startマスターミックス(Millipore Sigma)と共に100ngのgDNAを使用して、各部位を増幅させた。
【0091】
アンプリコンのサイズを2%のアガロースゲルで確認し、正しいサイズのアンプリコンを、ZR-96DNA Clean-upキット(Zymo Research)を使用して精製した。200ngの各アンプリコンを5U NdeI制限酵素(New England Biolabs)で20μlの反応において37℃で>2時間消化し、消化産物を2%のアガロースゲルで分析した(例えば、図1を参照)。モックのエレクトロポレーションT細胞DNAを使用して作製したアンプリコンを陰性対照として使用した。NdeI制限部位を自然に含むアンプリコンを、NdeI切断の陽性対照として使用した。
【0092】
[DNAプロセシングとシークエンシング]
各DNAサンプルの3つのアリコート(1アリコート当たり900ng)をCovaris M220で剪断し、一部をゲルで分析した。平均断片サイズが500bpに近い各サンプルのアリコートをプールし、末端を修復し、Aテールを付け、Yアダプターをライゲートした。dsODN組込み部位PCRの第一ラウンドを、トランスフェクション中に使用したdsODNタグに特異的なプライマー(+及び-ストランドGSP1)とP5プライマーを使用して、センス及びアンチセンス鎖について実施した。dsODN組込み部位PCRの第二ラウンドを、dsODNのためのネステッドプライマー(+及び-ストランドGSP2)とP5プライマーを用いて実施した。サンプルを、1×ビーズ(GE,Sera-Mag Select)を使用して精製し濃縮した。最終ライブラリーの定量化を、Qubit High Sensitivity dsDNAアッセイ(Thermo Fisher)を使用して実施した。TRAC+タグセンス/アンチセンス及びTRBC+タグセンス/アンチセンスの両方の複製物のライブラリーを等モル濃度で混合し、500サイクルバージョン2 Illuminaキットにロードし、MiSeq(Illumina)で実行した。TRAC及びTRBCサンプルを、別々のMiSeqランでシークエンシングした。
【0093】
[データ解析]
MiSeqリードを、公開されたスクリプト(https://github.com/aryeelab/guideseq)を使用して解析した。このスクリプトは、FASTQファイルからリードを取り、P5プライマーの固有の分子識別子(UMI)を使用してPCR複製物を除去する。次に、リードをゲノムにアラインし、リードパイルアップを使用して潜在的なオフターゲット部位を呼び出す。潜在的な部位を、ペナルティ関数を使用して更にフィルタリングして擬陽性を除去し、フィルタリング後に残った部位を、ゲノムアノテーションと共に出力する。スクリプトは標準オプションを使用して実行したが、但し、ガイド鎖配列と比較してミスマッチがある部位にCRISPRオフターゲット切断が観察されたため、ミスマッチのペナルティを通常の100ではなく10に設定した(Lin等 2014)。
【0094】
[結果]
エレクトロポレーション混合物において使用されるdsODNの濃度を、次のように最適化した:最初にT細胞を、dsODNの3通りの量(反応当たり5、10、及び20μg)を使用してエレクトロポレーションした。TRAC及びTRBC Cas9RNPのエレクトロポレーションを別々に実施した。TRAC、TRBC1、及びTRBC2部位は、上に「dsODN組込みのRFLP確認」で記載したようにして増幅した。アンプリコンを、5UのNdeI制限酵素を使用して消化し、消化産物を2%のアガロースゲルで分析した。モックでエレクトロポレーションしたT細胞DNAを陰性対照として使用した。NdeI制限部位を含む陽性対照をまた使用した。図1と表2は、この初期最適化の結果を示している。
【0095】
表2と図1に示されるように、より多量のdsODNを使用すると切断効率が劇的に低下し(10μgのdsODNから20μgのdsODNへの減少を参照)、10μgのdsODNと5μgのdsODNの間の平均切断効率に殆ど差異はない。従って、dsODN組込みシグナルの大部分をキャプチャするために、以降の全ての実験では、エレクトロポレーション当たり10μgの単一量でdsODNを使用した。
【0096】
潜在的に細胞型に関連するCRISPRオフターゲット部位を識別するために、GUIDE-Seqを、改変T細胞の製造に使用されるsgRNAで作製されたCas9 RNPでエレクトロポレーションした初代ヒトT細胞を使用して、実施した。二つのヒトドナーサンプルからのT細胞に、TRAC sgRNAと複合体を形成したCas9RNPとTRBC sgRNAと複合体を形成したCas9RNPの両方で同時にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションと分析を、両方の研究で反復エレクトロポレーション実験のために実施した;生物学的複製物の使用により、測定感度とノイズの更なる評価が可能になった。
【0097】
予想された通り、GUIDE-Seqのリードカウントが最も多い部位は、オンターゲットTRAC及びTRBC部位であった(例えば、表3を参照)。各オンターゲット遺伝子座でのdsODNタグの組込みは、制限断片長多型分析(RFLP)によって直交性であることがまた確認された。従って、初代T細胞GUIDE-Seq手順は、T細胞ゲノム内の二重鎖切断部位の部位にdsODNsを成功裏に組込む。U2OS細胞を使用したGUIDE-Seqの結果と同様に、初代T細胞GUIDE-Seqは、TRACガイドRNAに由来する如何なるオフターゲット部位も識別しなかった(表3)。
【0098】
実施例2 初代T細胞GUIDE-Seq細胞培養及びトランスフェクション
初代T細胞GUIDE-Seqを、表4に示した「新PACT法」という表題の方法を示して、単離CD4及びCD8 T細胞について実施した。
【0099】
表4に示されるように、初代細胞に使用される新トランスフェクション条件と比較して、非初代細胞株で使用される既知のGuide-Seq法に使用されるdsODNとガイドRNAには顕著な違いがある。更に、Cas9の発現は、リボ核タンパク質(RNP)を使用して初代細胞で達成されたが、プラスミドの発現は非初代細胞株では十分であった。これらの差異は、初代細胞でGuide-Seq法を如何に使用するかを発見するための鍵であることが証明された。
表4に示された実験では例示的な目的のために特定の培地を使用したが、初代細胞の培養のための任意の培地を、当業者によって知られているものに基づいて使用することができる。
【0100】
更に、表5に示されるように、ヌクレオフェクションを使用して初代細胞をトランスフェクトしたところ、前述のように、ヌクレオフェクションを使用したときに初代細胞に使用された新トランスフェクション条件と比較して、非初代細胞株で使用された既知のGuide-Seq法に使用されたdsODNとGuideRNAには顕著な違いがあった。
表5に示された実験では例示的な目的のために特定の培地を使用したが、初代T細胞の培養のための任意の培地を、当業者によって知られているものに基づいて使用することができる。
従って、Guide-Seqのために細胞をトランスフェクトするためのPACT法は初代T細胞に対して成功することが示された。
【0101】
[参考文献]
Cradick,T.J.等(2014)‘COSMID:A Web-based Tool for Identifying and Validating CRISPR/Cas Off-target Sites.’,Molecular Therapy - Nucleic acids.American Society of Gene & Cell Therapy,3(12),p.e214.doi:10.1038/mtna.2014.64。
Kim,D.及びKim,J.-S.(2018)‘DIG-seq:a genome-wide CRISPR off-target profiling method using chromatin DNA.’,Genome research.Cold Spring Harbor Laboratory Press,28(12),pp.1894-1900.doi:10.1101/gr.236620.118。
Lin,Y.等(2014)‘CRISPR/Cas9 systems have off-target activity with insertions or deletions between target DNA and guide RNA sequences’,Nucleic Acids Research.Oxford University Press,42(11),p.7473.doi:10.1093/NAR/GKU402。
Tsai,S.Q.等(2015)‘GUIDE-Seq enables genome-wide profiling of off-target cleavage by CRISPR-Cas nucleases’,Nature Biotechnology.Nature Publishing Group,a division of Macmillan Publishers Limited.All Rights Reserved.,33(2),pp.187-197.doi:10.1038/nbt.3117。
【0102】
[他の実施態様]
本発明は、好ましい実施態様と様々な代替の実施態様を参照して特に示され、説明されたが、関連技術の当業者には、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、その中で形態及び詳細の様々な変更を行うことができることが理解されるであろう。
【0103】
本明細書の本文内に引用された全ての参考文献、発行された特許及び特許出願は、あらゆる目的のために、出典明示によりその全体がここに援用される。矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先する。加えて、セクションの見出し、材料、方法、及び実施例は例示にすぎず、限定することを意図したものではない。
図1
【配列表】
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【国際調査報告】