(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(54)【発明の名称】皮膚の処置方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/02 20060101AFI20221020BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20221020BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
A61K8/02
A61Q17/00
A61K8/81
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523370
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(85)【翻訳文提出日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 US2020058178
(87)【国際公開番号】W WO2021087239
(87)【国際公開日】2021-05-06
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八谷 輝
(72)【発明者】
【氏名】ストリューウィング,シャロン
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC211
4C083AC212
4C083AC302
4C083AC472
4C083AC692
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD622
4C083BB11
4C083CC02
4C083DD12
4C083EE11
4C083EE14
4C083FF04
(57)【要約】
本発明は、次の工程A)、次いで工程B)を行うことを特徴とする、皮膚の処置方法に関する。
A)皮膚の表皮を物理的又は化学的に処理する工程
B)工程A)を行った皮膚上に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する工程
通常の工程A)後の皮膚に、前記の工程B)をすれば、工程A)によって生じる炎症、発赤、腫脹などの症状が緩和されるともに、それらの症状の消失が早まり、その美容的又は皮膚科学的処置を受けたヒトの生活の質(QOL)が顕著に向上する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程A)、次いで工程B)を行うことを特徴とする、皮膚の処置方法。
A)皮膚の表皮を物理的又は化学的に処理する工程
B)工程A)を行った皮膚上に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する工程
【請求項2】
工程B)が、次の成分(a)及び(b)を含有する組成物Xを皮膚上に静電スプレーする工程である請求項1記載の皮膚の処置方法。
(a)水、アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質
(b)繊維の堆積物を含有する被膜の形成能を有するポリマー
【請求項3】
工程B)が、エレクトロスピニング又はメルトブローにより得られた平均繊維径0.01~7μmの繊維の堆積物からなる被膜を貼付する工程である請求項1記載の皮膚の処置方法。
【請求項4】
さらに、工程B)の前又は後に、工程C)を行う請求項1~3のいずれか1項記載の皮膚の処置方法。
C)油剤及びポリオールから選ばれる1種又は2種以上の成分を含有する組成物Yを塗布する工程
【請求項5】
工程C)に用いられる組成物Yが、さらに接着性ポリマーを含有するものである請求項4記載の皮膚の処置方法。
【請求項6】
工程B)が、次の成分(c)及び(d)を含有する組成物Zを塗布する工程である請求項1記載の皮膚の処置方法。
(c)油剤及び20℃で液状のポリオールから選ばれる1種又は2種以上
(d)平均繊維径0.01~7μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)10~1000の繊維
【請求項7】
工程A)が、皮膚の角質層、顆粒層、有棘層及び基底層から選ばれる1種又は2種以上の層を、物理的又は化学的に処理する工程である請求項1~3、5及び6のいずれか1項記載の皮膚の処置方法。
【請求項8】
工程A)が、ケミカルピーリング、アルカリ洗浄処理、脱毛ワックス処理、ダーマブレーション、マイクロダーマブレーション、マイクロニードリング、無線周波数マイクロニードリング、レーザー処理、IPL処理、クライオセラピー、タトゥー処理、タトゥー除去、ニキビ処置、LED処理、酵素マスク処理及びプラズマ・フィブロブラストから選ばれる皮膚の表皮処理である請求項1~3、5及び6のいずれか1項記載の皮膚の処置方法。
【請求項9】
(b)繊維の堆積物を含有する被膜の形成能を有するポリマーが、水不溶性の繊維形成性ポリマーである請求項2、3、5及び6のいずれか1項記載の皮膚の処置方法。
【請求項10】
前記(d)繊維を構成するポリマーが、水不溶性の繊維形成性ポリマーである請求項6記載の皮膚の処置方法。
【請求項11】
物理的又は化学的な処理をした皮膚の表皮上に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する、皮膚の処置方法(但し、医療行為を除く)。
【請求項12】
物理的又は化学的な処理による皮膚の表皮への刺激を緩和するための被膜の製造における繊維の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルピーリングなどの皮膚表皮処置時に生じる種々の皮膚症状を改善する皮膚の処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケミカルピーリング、マイクロダーマブレーション、マイクロニードリング、レーザー処理、タトゥー処理など皮膚の表皮に対して、化学的又は物理的処置をすることにより、シミ、そばかす、しわなどを目立たなくする、皮膚に色彩的処置をするなどの美容的又は皮膚科学的処置が広く行われるようになっている。
しかし、これらの処置手段は、皮膚の表皮であっても、角質層だけでなく、顆粒層、有棘層、基底層に化学的又は物理的刺激を与えるため、処置後は、10日間から4週間ぐらいは、炎症、発赤、腫脹などの症状が生じることが多い。これらの症状が発現すると、症状が改善するまでの間は、外出できないなどの問題が生じることが指摘されている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、次の工程A)、次いで工程B)を行うことを特徴とする、皮膚の処置方法を提供するものである。
A)皮膚の表皮を物理的又は化学的に処理する工程
B)工程A)を行った皮膚上に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する工程
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】本発明で好適に用いられる静電スプレー装置の構成を示す概略図である。
【
図2】静電スプレー装置を用いて静電スプレー法を行う様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
前記の美容的又は皮膚科学的処置後の皮膚症状に対しては、殺菌剤や抗炎症剤の塗布などの処置が行われるが、症状の改善には、10日間から4週間ぐらい必要であるといわれている。
【0006】
そこで、本発明者は、前記の美容的又は皮膚科学的処置後の皮膚症状の早期改善手段について種々検討したところ、美容的又は皮膚科学的処置(工程A))後の皮膚に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する処置(工程B))をすれば、炎症、発赤、腫脹などの症状が緩和されるとともに、それらの症状の消失が早まることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明方法によれば、通常の工程A)後の皮膚に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する処置(工程B))をすれば、炎症、発赤、腫脹などの症状が緩和されるともに、それらの症状の消失が早まり、その美容的又は皮膚科学的処置を受けたヒトの生活の質(QOL)が顕著に向上する。
【0008】
本発明は、次の工程A)、次いで工程B)を行うことを特徴とする、皮膚の処置方法である。
A)皮膚の表皮を物理的又は化学的に処理する工程
B)工程A)を行った皮膚上に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する工程
【0009】
エレクトロスピニングにより得られたナノファイバーで形成された被膜を、創傷部位に適用する手段、化粧用シートとして使用する手段、健常な皮膚に直接適用する手段は知られている(特開2005-290610、特開2008-179629、WO2001/12139など)。しかし、前記工程A)のように、皮膚の表皮を物理的又は化学的に処理した皮膚に対して適用できるか否か、またそのような皮膚に対して適用した場合にどの様な影響が出るのかについては、全く知られていない。
【0010】
工程A)は、皮膚の表皮を物理的又は化学的に処理する工程である。
ここで、皮膚の表皮とは、皮膚の表面から、角質層、顆粒層、有棘層及び基底層までをいう。表皮の細胞成分としては、角質細胞、顆粒細胞、有棘細胞、基底細胞のほか、少量のメラノサイト、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞がある。
工程A)としては、これらの表皮のうち、角質層、顆粒層、有棘層及び基底層から選ばれる1種又は2種以上を物理的又は化学的に処理する工程であるのが好ましく、これらの層の処理により炎症などの症状が生じる可能性が高いことから、工程A)は、顆粒層、有棘層及び基底層から選ばれる1種又は2種以上を物理的又は化学的に処理する工程であるのがより好ましい。尚、本発明は表皮の処理において、真皮乳頭層まで及ぶものも含む。
【0011】
表皮を物理的又は化学的に処理する手段としては、表皮に存在する細胞に対して物理的刺激を与える手段、表皮に存在する細胞に対して化学的処理をする手段、及び表皮に存在する細胞に対して物理的刺激と化学的処理を併用する手段が挙げられる。
【0012】
前記物理的又は化学的処理の具体例としては、ケミカルピーリング、アルカリ洗浄処理、脱毛ワックス処理、ダーマブレーション、マイクロダーマブレーション、マイクロニードリング、無線周波数マイクロニードリング、レーザー処理、IPL処理、クライオセラピー(冷却処置)、タトゥー処理、タトゥー除去、ニキビ処置、LED処理、酵素マスク処理及びプラズマ・フィブロブラストから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0013】
ケミカルピーリングは、表皮をグリコール酸、乳酸などのアルファヒドロキシ酸、サリチル酸、トリクロロ酢酸、ベーカーゴードン液、フェノールなどを含有する組成物で処理する表皮の化学的処理である。ケミカルピーリングによれば、ニキビ、シミ、日焼け後のシミ、しわなどが消失又は目立たなくなるとされている。ケミカルピーリング組成物を塗布した後、表皮に炎症、発赤などが生じる。
アルカリ洗浄処理は、表皮のpHをpH5.6程度からpH12程度に急激に変化させる化学的処理である。この処理は、ニキビ、シミ、しわなどを消失又は目立たなくするとされている。このアルカリ処理によっても、表皮に炎症、発赤などが生じる。
脱毛ワックス処理は、脱毛手段の一つであり、脱毛すべき部位にワックスを塗布した後、固形化したワックスを剥がす操作により脱毛する処理手段である。固形化したワックスを剥がす際に、物理的刺激により、表皮に炎症、発赤などが生じる。
【0014】
ダーマブレーションは剥離技術であり、回転器具を用いて皮膚の外層を除去する処置である。処置を行う間、損傷した皮膚の最外層を除去する前に麻酔を行う。ダーマブレーションはまた、にきび痕、加齢斑、しわ、前がん状態の皮膚斑、鼻膿瘍、手術又は外傷の痕、日焼けによる損傷、刺青、不均一な皮膚色調等の処置にも有用である。
一方で、マイクロダーマブレーションは、皮膚全体の色調及びテクスチャを取り戻すための最小限の侵襲的処置である。研磨面を有する特殊なアプリケータを用いて、皮膚の厚い外層を優しく研磨して、若返らせる。マイクロダーマブレージョンは、小じわ、しわ、高色素沈着、加齢斑、褐斑、広がった毛穴、黒くなったにきび、にきび、にきび痕、皮膚線条、くすんだ肌の色、不均一な皮膚色調及び肌理、黒斑、日焼けによる損傷、並びに他の皮膚関連の懸念及び状態の外観を改善することができる。
マイクロニードリング及び無線周波数マイクロニードリングは、皮膚の再生を促すために極小の針で皮膚に創傷を作る方法であり、ニキビの瘢痕、皮膚の若返りの目的で使用される。このシステムによっても、炎症、発赤、痛みなどが生じる。
レーザー処理は、ナノ秒のパルス幅のQスイッチ・レーザーなどの特別な範囲の波長を有するレーザーで皮膚を処理する方法であり、シミなどの色素病変の改善、皮膚の若返りなどに使用される。この処理によって、炎症、発赤、腫脹などが生じる。
IPL(Intense Pulsed Light)処理は、IPLという特殊な光を皮膚に照射する光処置であり、シミ、そばかす、しわ、ニキビなどに使用される。この処理によっても、皮膚に炎症などが生じる。
クライオセラピーは、冷却療法とも呼ばれ、液体窒素を用い-120℃~-196℃の冷却部をある程度の時間適用することにより、シミ、そばかす、ニキビなどに使用する。この処理によって、皮膚に炎症、発赤、痛みなどが生じる。
タトゥー処理は皮膚に色素を挿入し文字や絵を描く手段であり、タトゥー除去はその除去手段である。これらの処理によっても炎症、発赤、腫脹などが生じる。
【0015】
ニキビ処置は、例えば、次のステップで行われる。
フェイシャルステップ1: ディープクレンジング
この工程は、メイクを除去し、徹底的な洗浄を行うことから開始する。最初のクレンジングの後、皮膚を再度クレンジングして、汚れ、油、化粧品の痕跡がすべて取り除かれていることを確認する。
フェイシャルステップ2:スチーム処理
特殊スチーマ製造機は、顔の上に温かい蒸気を数分間流す。スチームが実際に行うことは、その中にある皮脂質の栓とともに毛穴を柔らかくし、より容易に洗浄できるようにすることである。
フェイシャルステップ3:剥離手順
剥離手順は、死んだ皮膚細胞や毛穴を詰まらせる可能性のある破片を取り除くのに有用である。簡単なスクラブから微細皮膚剥離まで、表在性の化学的剥離まで、多くの剥離選択肢がある。サリチル酸によるピーリングは、ニキビ治療フェイシャルを行う間に一般的に使用される。
フェイシャルステップ4:シミの抜き取り
エステティシャンは、毛穴のニキビ及び面皰を手動で洗浄し、除去する。指でやさしい圧力をかけたり、面皰抜き取り器と呼ばれる小さな器具を使ったりすることで、このようなことができる。
フェイシャルステップ5:マスクの装着
抜き取りが完了した後、マスクを装着する。硫黄はにきびの除去に役立つため、硫黄マスクは、にきびの治療面で使用されることが多い。超油性肌タイプの場合、代わりに吸油性クレイマスクを使用してもよい。また、炎症を起こしたニキビや抽出液から皮膚が少し赤くなっている場合は、スージング・マスクが最良の選択となる。
フェイシャルステップ6: 化粧水又は収斂剤
マスクが取り外されると、化粧水又は収斂剤を皮膚全体に塗布する。
フェイシャルステップ7:保湿剤及び日焼け止め
顔面、頸部、胸部全体に、軽度の非ニキビ肌用の保湿剤を塗布する。日焼け止めは、処置したエリアに細い繊維を塗布した後に塗布する。
上記のニキビ処置の中でも、毛穴洗浄などの物理的洗浄手段を用いる場合には、炎症などが生じる。
【0016】
LED処置は、波長が415-420nmの青色光及び/又は波長が610-850nmの赤色光を用いる。青色光は主にニキビに有効とされている。一方、赤色光はコラーゲンの生成を促進することなどが知られており、アンチエイジングに有効とされている。これらのLED処置の場合も、皮膚に炎症などが生じることがある。
酵素マスク処理は、タンパク分解酵素などを含有するパック処理などの皮膚処理であり、表皮の死んだタンパク質、毒素などの流出物を除去する作用を有する。この酵素マスク処理でも、炎症などが生じることがある。
【0017】
工程B)は、前記の工程A)の後に行われる工程であり、工程A)を行った皮膚上に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する工程である。
工程B)で形成される被膜は、繊維の堆積物を含有する被膜である。ここで、被膜に含まれる繊維は、平均繊維径0.01μm以上7μm以下であるのが好ましい。さらに平均繊維径0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましく、また、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。工程B)で形成される被膜をこのような細い繊維の堆積物とすることにより、工程A)により生じる可能性のある皮膚の炎症、発赤、腫脹などの症状を改善し、治癒を促進するとともに、被膜の皮膚への密着性が向上し、皮膚の動きへの追随性も向上する。
ここで、平均繊維径は、繊維の平均太さであり、円相当直径である。この繊維の太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、繊維を10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(繊維の塊、繊維の交差部分、液滴)を除き、繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き、繊維径を直接読み取ることで測定することができる。
【0018】
前記繊維の長さは、特に制限されるものではないが、平均繊維径の10倍以上であることが好ましく、20倍以上であることがより好ましく、50倍以上であることがさらに好ましい。繊維の長さの上限は特に制限はなく、100倍以上の場合を連続繊維と規定し、連続繊維であればよい。
【0019】
繊維の堆積物を含有する被膜の坪量は、0.1g/m2以上であることが好ましく、1g/m2以上であることが更に好ましい。また30g/m2以下であることが好ましく、20g/m2以下であることが更に好ましい。例えば被膜の坪量は、0.1g/m2以上30g/m2以下であることが好ましく、1g/m2以上20g/m2以下であることが更に好ましい。被膜の坪量をこのように設定することで、被膜の密着性を向上させることができる。
【0020】
工程B)としては、皮膚上に、前記繊維の堆積物を含有する被膜を形成できる手段であれば限定されないが、具体的には、次の(1)~(3)の手段が挙げられる。
(1)次の成分(a)及び(b)を含有する組成物Xを皮膚上に静電スプレーする工程。
(a)水、アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質
(b)繊維の堆積物を含有する被膜の形成能を有するポリマー
(2)エレクトロスピニングにより得られた平均繊維径0.01~7μmの繊維の堆積物からなる被膜を貼付する工程。
(3)次の成分(c)及び(d)を含有する組成物Zを塗布する工程。
(c)油剤及び20℃で液状のポリオールから選ばれる1種又は2種以上
(d)平均繊維径0.01~7μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)10~1000の繊維
【0021】
まず、前記手段(1)について説明する。
手段(1)における被膜の形成方法は、静電スプレー法を採用している。静電スプレー法は、組成物に正又は負の高電圧を印加して該組成物を帯電させ、帯電した該組成物を対象物に向けて噴霧する方法である。噴霧された組成物はクーロン反発力によって微細化を繰り返しながら空間に広がり、その過程で、又は対象物に付着した後に、揮発性物質である溶媒が乾燥することで、対象物の表面に繊維の堆積物を含有する被膜を形成する。この手段(1)は、例えばWO2018/194143、WO2018/194140、WO2019/103974などに記載の方法、装置を用いて行うことができる。
【0022】
前記手段(1)に用いられる組成物Xに含まれる成分(a)は、水、アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質である。
【0023】
成分(a)の揮発性物質は、液体の状態において揮発性を有する物質である。組成物Xにおいて成分(a)は、電界内に置かれた該組成物Xを十分に帯電させた後、ノズル先端から皮膚に向かって吐出され、成分(a)が蒸発していくと、組成物Xの電荷密度が過剰となり、クーロン反発によって更に微細化しながら成分(a)が更に蒸発していき、最終的に繊維の堆積物からなる乾いた被膜を皮膚上に形成させる目的で配合される。この目的のために、揮発性物質はその蒸気圧が20℃において0.01kPa以上106.66kPa以下であることが好ましく、0.13kPa以上66.66kPa以下であることがより好ましく、0.67kPa以上40.00kPa以下であることが更に好ましく、1.33kPa以上40.00kPa以下であることがより一層好ましい。
【0024】
成分(a)の揮発性物質のうち、アルコールとしては例えば一価の鎖式脂肪族アルコール、一価の環式脂肪族アルコール、一価の芳香族アルコールが好適に用いられる。一価の鎖式脂肪族アルコールとしてはC1~C6アルコールが、一価の環式脂肪族アルコールとしてはC4~C6環式アルコールが、一価の芳香族アルコールとしてはベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等がそれぞれ挙げられる。それらの具体例としては、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、フェニルエチルアルコール、n-プロパノール、n-ペンタノールなどが挙げられる。これらのアルコールは、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
成分(a)の揮発性物質のうち、ケトンとしてはジC1-C4アルキルケトン例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。これらのケトンは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
成分(a)の揮発性物質は、より好ましくはエタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール及び水から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはエタノール及びブチルアルコールから選ばれる1種又は2種以上であり、そして更に好ましくは少なくともエタノールを含む揮発性物質である。
【0027】
成分(a)の揮発性物質は、電荷を付与する観点から、より好ましくは水を含む。揮発性物質の全量に対して水の含有量は、電荷付与の観点から、0.01質量%以上であることが好ましく、0.04質量%以上であることが好ましく、繊維形成性の観点から、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
組成物Xにおける成分(a)の含有量は、繊維形成性の観点から、30質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが一層好ましい。また、組成物Xにおける成分(a)の含有量は、繊維形成性の観点から、98質量%以下であることが好ましく、96質量%以下であることが更に好ましく、94質量%以下であることが一層好ましく、油やポリオール等を含有する場合には、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることが好ましい。組成物Xにおける成分(a)の含有量は、30質量%以上98質量%以下であることが好ましく、55質量%以上96質量%以下であることが更に好ましく、60質量%以上94質量%以下であることが一層好ましい。また、組成物Xがポリオール又は油を含有する場合には、組成物Xにおける成分(a)の含有量は、30質量%以上90質量%以下であることが好ましく、55質量%以上90質量%以下であることが更に好ましく、60質量%以上90質量%以下であることが一層好ましい。この割合で組成物X中に成分(a)を含有することは、静電スプレー法を行うときに組成物Xの揮発性の観点から好ましい。
また、エタノールは成分(a)の揮発性物質の全量に対して、50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが一層好ましい。また100質量%以下であることが好ましい。エタノールは成分(a)の揮発性物質の全量に対して、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、65質量%以上100質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以上100質量%以下であることが一層好ましい。
【0029】
成分(b)である繊維の堆積物を含有する被膜の形成能を有するポリマーは、一般に、成分(a)の揮発性物質に溶解することが可能な物質である。ここで、溶解するとは20℃において分散状態にあり、その分散状態が目視で均一な状態、好ましくは目視で透明又は半透明な状態であることを言う。
【0030】
(b)繊維の堆積物を含有する被膜の形成能を有するポリマーとしては、成分(a)の揮発性物質の性質に応じて適切なものが用いられる。具体的には、このポリマーは水溶性の繊維形成性ポリマーと水不溶性の繊維形成性ポリマーとに大別される。本明細書において「水溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1gを秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が水に溶解する性質を有するものをいう。一方、本明細書において「水不溶性ポリマー」とは、1気圧・23℃の環境下において、ポリマー1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が溶解しない性質を有するものをいう。
【0031】
水溶性の繊維形成性ポリマーとしては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ-γ-グルタミン酸、変性コーンスターチ、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン酸、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分鹸化ポリビニルアルコール(架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、水溶性ナイロン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子などが挙げられる。これらの水溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性ポリマーのうち、被膜の製造が容易である観点から、プルラン、並びに部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、水溶性ナイロン、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成高分子から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。水溶性ポリマーとしてポリエチレンオキサイドを用いる場合、その数平均分子量は、5万以上300万以下であることが好ましく、10万以上250万以下であることが一層好ましい。
【0032】
一方、水不溶性の繊維形成性ポリマーとしては、例えば被膜形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで被膜形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N-プロパノイルエチレンイミン)グラフト-ジメチルシロキサン/γ-アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)等のポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水不溶性ポリマーのうち、被膜形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで被膜形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ(N-プロパノイルエチレンイミン)グラフト-ジメチルシロキサン/γ-アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート及びツエインから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましく、ポリブチラール樹脂及びポリウレタン樹脂から選ばれる1種又は2種以上を用いることがより好ましい。
【0033】
組成物Xにおける成分(b)の含有量は、2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることが更に好ましく、6質量%以上であることが一層好ましい。また50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることが一層好ましい。組成物Xにおける成分(b)の含有量は、2質量%以上50質量%以下であることが好ましく、4質量%以上45質量%以下であることが更に好ましく、6質量%以上40質量%以下であることが一層好ましい。この割合で組成物X中に成分(b)を配合することは、繊維の堆積物からなり、皮膚の表面をマスキングし、工程A)を行った皮膚の種々の皮膚症状を緩和し、治癒を促進する観点で好ましい。
【0034】
組成物X中の成分(a)と成分(b)の含有量の比率((a)/(b))は、静電スプレー法を行うときに成分(a)を十分に揮発させることができる観点から、0.5以上40以下が好ましく、1以上30以下がより好ましく、1.3以上25以下が更に好ましい。
また、組成物X中のエタノールと成分(b)の含有量の比率(エタノール/(b))は、静電スプレー法を行うときにエタノールを十分に揮発させることができる観点から、0.5以上40以下が好ましく、1以上30以下がより好ましく、1.3以上25以下が更に好ましい。
【0035】
更に、組成物X中にグリコールを含有することができる。グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。静電スプレー法を行うときに成分(a)を十分に揮発させることができる観点から、組成物X中に10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。
さらに、水は、繊維形成性と導電性の観点から、(a)の揮発性物質の全量に対して50質量%未満であることが好ましく、45質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以下であることが一層好ましく、5質量%以下であることがより一層好ましく、0.2質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上であることがより好ましい。
【0036】
更に、組成物Xに粉体を含有することができる。粉体としては、着色顔料、体質顔料、パール顔料及び有機粉体が挙げられる。皮膚表面に滑らかな感触を付与する点から、組成物X中に5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が好ましく、実質含まないことが好ましい。
【0037】
組成物X中には、上述した成分(a)及び成分(b)のみが含まれていてもよく、あるいは成分(a)及び成分(b)に加えて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば、ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)等の油剤、グリセリン等の前述以外の20℃で液体のポリオール、界面活性剤、UV防御剤、香料、忌避剤、酸化防止剤、安定剤、防腐剤、制汗剤、各種ビタミン等が挙げられる。なお、これらの各剤は、各剤としての用途に限られず、目的に応じて他の用途、例えば制汗剤を香料として使用することができる。あるいは、他の用途との併用として、例えば制汗剤と香料としての効果を奏するものとして使用することができる。組成物X中に他の成分が含まれる場合、当該他の成分の含有割合は、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。
【0038】
手段(1)においては、工程A)の後に、組成物Xを皮膚に直接静電スプレーして皮膚表面に繊維の堆積物を含有する被膜を形成する。
【0039】
静電スプレー法を行う場合、組成物Xとして、その粘度が、25℃において、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上、更に好ましくは50mPa・s以上であるものを用いる。また粘度が、25℃において、好ましくは5000mPa・s以下、より好ましくは2000mPa・s以下、更に好ましくは1500mPa・s以下であるものを用いる。組成物Xの粘度は、25℃において、好ましくは1mPa・s以上5000mPa・s以下であり、より好ましくは10mPa・s以上2000mPa・s以下であり、更に好ましくは50mPa・s以上1500mPa・s以下である。この範囲の粘度を有する組成物Xを用いることで、静電スプレー法によって繊維の堆積物を含有する多孔性被膜を首尾よく形成することができる。繊維の堆積物を含有する多孔性被膜の形成は、皮膚の表面をマスキングし、工程A)を行った皮膚の種々の皮膚症状を緩和し、治癒を促進する観点から有利なものである。組成物Xの粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定される。E型粘度計としては例えば、例えば東京計器株式会社製のE型粘度計を用いることができる。その場合のローターとしては、ローターNo.43を用いることができる。
【0040】
組成物Xは静電スプレー法によって、ヒトの皮膚に直接噴霧される。静電スプレー法は、静電スプレー工程において、静電スプレー装置を用いて、皮膚に噴霧用組成物を静電スプレーして、被膜を形成する工程を含む。該静電スプレー装置は、噴霧用組成物を収容する容器と、噴霧用組成物を吐出するノズルと、容器中に収容されている噴霧用組成物をノズルに供給する供給装置と、ノズルに電圧を印加する電源とを備える。
図1には、本発明で好適に用いられる静電スプレー装置の構成を表す概略図が示されている。
図1に示す静電スプレー装置10は、低電圧電源11を備えている。低電圧電源11は、数Vから十数Vの電圧を発生させ得るものである。静電スプレー装置10の可搬性を高める目的で、低電圧電源11は1個又は2個以上の電池からなることが好ましい。また、低電圧電源11として電池を用いることで、必要に応じ取り替えを容易に行えるという利点もある。電池に代えて、ACアダプタ等を低電圧電源11として用いることもできる。
図2には、自分の皮膚に静電スプレーする様子を示した。
【0041】
次に、手段(2)について説明する。
手段(2)は、エレクトロスピニング又はメルトブローにより得られた平均繊維径0.01~7μmの繊維の堆積物からなる被膜を貼付する工程である。
この手段(2)に用いられる平均繊維径0.01~7μmの繊維の堆積物からなる被膜としては、前記成分(a)及び(b)を含有する組成物Xを用いて、基板上にエレクトロスピニング又はメルトブローすることにより得られるものが好ましい。エレクトロスピニング手段も、前記静電スプレー手段と同様に行うことができる。ただし、エレクトロスピニング時の電圧等は、皮膚上にエレクトロスピニングするものでないため、高電圧であってもよい。基板としては、金属、樹脂などが用いられる。また、メルトブロー手段は、樹脂を融点以上の温度で溶融し、溶融樹脂の吐出口周囲に熱風も吐出させながら吐出させて、前述の平均繊維径の繊維の堆積物からなる皮膜を形成することができる。
【0042】
エレクトロスピニング又はメルトブローにより得られた平均繊維径0.01~7μmの繊維の堆積物からなる被膜は、工程A)を行った皮膚上に貼付すればよい。
【0043】
手段(1)又は(2)を採用する場合には、工程B)の前又は後に、C)油剤及びポリオールから選ばれる1種又は2種以上の成分を含有する組成物Yを塗布する工程を行うのが、工程B)によって形成される被膜により良好な透明性を付与し、耐久性(耐擦過性、伸張性など)を向上させる観点から、好ましい。また、この組成物Yには、工程B)によって形成される被膜の耐久性を向上させる観点から、さらに接着性ポリマーを含有していてもよい。
【0044】
この組成物Yに含まれる油剤としては、液状油(20℃において液体の油)及び固形油(20℃において固形の油)から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0045】
本発明における液状油は、20℃において液体の油であり、流動性のある半固形のものも含む。液状油としては、炭化水素油、エステル油、高級アルコール、シリコ-ン油、脂肪酸等が挙げられる。これらのうち、塗布時の滑らかさ、被膜の耐擦過性及び伸張性の点から、炭化水素油、エステル油、シリコーン油が好ましい。また、これらの液状油から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
前記液状の炭化水素油としては、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、n-オクタン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、軽質イソパラフィン、流動イソパラフィン、水添ポリイソブテン、ポリブテン、ポリイソブテン等が挙げられ、使用感の観点から流動パラフィン、軽質イソパラフィン、流動イソパラフィン、スクワラン、スクワレン、n-オクタン、n-ヘプタン、シクロヘキサンが好ましく、流動パラフィン、スクワランがより好ましい。また、被膜の耐擦過性、伸張性の観点から、炭化水素油の30℃における粘度は、好ましくは1mPa・s以上であり、より好ましくは3mPa・s以上である。また、被膜の耐擦過性、伸張性の観点から、イソドデカン、イソヘキサデカン、水添ポリイソブテンの液剤中の合計の含有量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下であり、より更に好ましくは0.5質量%以下であり、含有しなくてもよい。
同様に、被膜の耐擦過性、伸張性の観点から、エステル油及びシリコーン油の30℃における粘度は、好ましくは1mPa・s以上であり、より好ましくは3mPa・s以上である。
ここでの粘度は、30℃においてBM型粘度計(トキメック社製、測定条件:ローターNo.1、60rpm、1分間)により測定される。なお、同様の観点から、セチル-1,3-ジメチルブチルエーテル、ジカプリルエーテル、ジラウリルエーテル、ジイソステアリルエーテル等のエーテル油の液剤中の合計の含有量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。
【0047】
前記エステル油としては、直鎖又は分岐鎖の脂肪酸と、直鎖又は分岐鎖のアルコール又は多価アルコールからなるエステルが挙げられる。具体的には、ミリスチン酸イソプロピル、イソオクタン酸セチル、オクタン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、オレイン酸デシル、オレイン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、酢酸ラノリン、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、イソノナン酸エチルヘキシル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、イソステアリン酸イソステアリル、12-ヒドロキシステアリル酸コレステリル、ジ2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、モノイソステアリン酸N-アルキルグリコール、ジカプリル酸プロピレングリコール、ジイソステアリン酸プロピレングリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ2-ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、セチル2-エチルヘキサノエート、2-エチルヘキシルパルミテート、ナフタレンジカルボン酸ジエチルヘキシル、安息香酸(炭素数12~15)アルキル、セテアリルイソノナノエート、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン、(ジカプリル酸/カプリン酸)ブチレングリコール、ジ(カプリル酸/カプリン酸)プロピレングリコール、トリイソステアリン酸グリセリル、トリ2-ヘプチルウンデカン酸グリセリル、トリヤシ油脂肪酸グリセリル、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、オレイン酸オレイル、パルミチン酸2-ヘプチルウンデシル、アジピン酸ジイソブチル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-2-オクチルドデシルエステル、アジピン酸ジ2-ヘプチルウンデシル、エチルラウレート、セバシン酸ジ2-エチルヘキシル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸2-ヘキシルデシル、アジピン酸2-ヘキシルデシル、セバシン酸ジイソプロピル、コハク酸ジ2-エチルヘキシル、クエン酸トリエチル、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、ジピバリン酸トリプロピレングリコール等が挙げられる。
これらの中では、被膜を皮膚に密着させる観点及び皮膚に塗布した際の感覚に優れる点から、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸イソセチル、イソノナン酸イソノニル、イソステアリン酸イソセチル、セテアリルイソノナノエート、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジ2-エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリンから選ばれる1種が好ましく、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、安息香酸(炭素数12~15)アルキル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリンから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリンから選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
【0048】
また、エステル油としては、上記エステル油を含む植物油、動物油を用いることが可能であり、例えばオリーブ油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、メドフォーム油、ヒマシ油、紅花油、ヒマワリ油、アボカド油、キャノーラ油、キョウニン油、米胚芽油、米糠油などが挙げられる。
【0049】
高級アルコールとしては、炭素数12~20の液状の高級アルコールが挙げられ、分岐脂肪酸を構成要素とする高級アルコールが好ましく、具体的にはイソステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。
【0050】
液状のシリコーン油としては、直鎖シリコーン、環状リシコーン、変性シリコーンが挙げられ、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、フェニル変性シリコーン、高級アルコール変性オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0051】
また、20℃で固形の油剤(固形油)も用いることができる。20℃で固形の油剤は20℃で固体の性状を示し、融点が40℃以上のものが好ましい。20℃で固形の油剤としては、炭化水素ワックス、エステルワックス、パラオキシ安息香酸エステル、高級アルコール、炭素数14以上の直鎖脂肪酸エステル、炭素数12以上直鎖脂肪酸3つを構成要素とするトリグリセライド、シリコーンワックス等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2以上を含有させることができる。かかるワックスとしては、通常の化粧料に用いられるものであれば制限されず、例えば、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス;パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素ワックス;カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ライスワックス、木ロウ、サンフラワーワックス、水添ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ、鯨ロウ等の動物性ワックス;シリコーンワックス、フッ素系ワックス、合成ミツロウ等の合成ワックス;脂肪酸、高級アルコール及びこれらの誘導体が挙げられる。また、パラオキシ安息香酸エステルとしては、パラオキシ安息香酸メチル、パラアミノ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ベンジル等が挙げられ、炭素数12以上直鎖脂肪酸3つを構成要素とするトリグリセライドとしては、トリラウリン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリル等が挙げられる。炭素数14以上の直鎖脂肪酸を構成要素とする脂肪酸エステル油としては、ミリスチン酸ミリスチル等が挙げられる。
【0052】
組成物Y中の油剤の含有量は、被膜の耐擦過性、伸張性及び使用感の点から、1質量%以上20質量%以下が好ましく、2質量%以上18質量%以下がより好ましく、3質量%以上16質量%以下が更に好ましい。
【0053】
組成物Yに用いられるポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール等のアルキレングリコール類;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、分子量1000以下のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類等が挙げられる。これらのうち、被膜の耐擦過性、伸張性の観点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、分子量1000以下のポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリンが好ましく、更にプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、グリセリンがより好ましく、グリセリン類が一層好ましい。
【0054】
組成物Y中のポリオールの含有量は、被膜の耐擦過性、伸張性の観点から1質量%以上40質量%以下が好ましく、1質量%以上30質量%以下がより好ましく、3質量%以上25質量%以下が更に好ましく、5質量%以上20質量%以下が更に好ましく、10質量%以上20質量%以下がより更に好ましい。
【0055】
組成物Yに用いられる接着性ポリマーは、静電スプレーにより皮膚上に形成された被膜の耐擦過性の向上、伸張性の向上に寄与する。接着性ポリマーとしては、一般に接着剤又は粘着剤として使用されるものを用いることができる。例えば、ゴム系接着性ポリマー、シリコーン系接着性ポリマー、アクリル系接着性ポリマー、ウレタン系接着性ポリマーが挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。また接着性ポリマーとしては、非イオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー及び両性ポリマーから選択される少なくとも1種を使用することができる。接着性ポリマーは、成分(b)のポリマー以外のポリマーが好ましい。
【0056】
接着性ポリマーは、被膜の耐擦過性と伸張性を向上させる観点から、接着性の良好なものが選択される。接着性ポリマーとしては、JISK6850を参照して測定された最大引張せん断荷重が1N以上のポリマーが好ましく、3N以上のポリマーがより好ましく、5N以上のポリマーが更に好ましい。また、接着性を確保する観点から8N以上のポリマーがよりさらに好ましい。また、最大引張せん断荷重は、好ましくは200N以下、より好ましくは150N以下、さらに好ましくは100N以下である。具体的には、ゴム系接着性ポリマー、シリコーン系接着性ポリマー、アクリル系接着性ポリマー、ウレタン系接着性ポリマーから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましく、また、非イオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー及び両性ポリマーから選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0057】
ポリマーの接着性(最大引張せん断荷重)は、次のようにして測定できる。20mgのポリマー溶液(10%エタノール溶液もしくは飽和溶液)を1枚のポリカーボネート基板(スタンダードテストピース社製、カーボグラス ポリッシュクリア、10cm×2.5cm×2.0mm)の端の1.25cm×2.5cmの範囲に塗布し、もう1枚のポリカーボネート基板と張り合わせて、12時間以上乾燥する。Orientec社製テンシロンUTC-100Wを用いて引張速度5mm/minでポリカーボネート基板の両端を引張り、最大引張せん断荷重を測定する。
【0058】
組成物Y中の接着性ポリマーを含有する場合の含有量は、被膜の耐擦過性、伸張性の観点から、5質量%以上20質量%以下が好ましく、より好ましくは6質量%以上である。また、より好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは12質量%以下であり、より更に好ましくは10質量%以下である。具体的には、5質量%以上15質量%以下が好ましく、5質量%以上12質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
【0059】
組成物Yを皮膚に塗布する工程(工程C))は、工程B)の前であっても後であってもよい。また組成物Yを皮膚に塗布する手段は、手指等で皮膚に塗布する手段、アプリケータを用いて皮膚に塗布する手段等が挙げられる。なお、組成物Xと組成物Yとは、異なる組成である。エレクトロスピニングされる組成物Xと、その前又は後に皮膚に塗布する組成物Yとは組成が異なる別の処方であり、仮に組成物Yを静電スプレーして皮膜を形成しても、組成物Xと同じ繊維を含む堆積物を形成するものではない。
【0060】
次に、手段(3)について説明する。
手段(3)は、次の成分(c)及び(d)を含有する組成物Zを塗布する工程である。
(c)油剤及び20℃で液状のポリオールから選ばれる1種又は2種以上
(d)平均繊維径0.01~7μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)10~1000の繊維
【0061】
組成物Zに用いられる成分(c)の油剤及びポリオールとしては、前記組成物Yに用いられる油剤及びポリオールが挙げられる。
すなわち、この組成物Zに含まれる油剤としては、液状油(20℃において液体の油)及び固形油(20℃において固形の油)から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
この液状油は、20℃において液体の油であり、流動性のある半固形のものも含む。液状油としては、炭化水素油、エステル油、高級アルコール、シリコ-ン油、脂肪酸等が挙げられる。これらのうち、塗布時の滑らかさ、被膜の耐擦過性及び伸張性の点から、炭化水素油、エステル油、シリコーン油が好ましい。また、これらの液状油から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。炭化水素油、エステル油、高級アルコール、シリコーン油、脂肪酸などの具体例も、前記組成物Yの例として挙げたものを例示することができる。
【0062】
組成物Z中の油剤の含有量は、被膜の耐擦過性、伸張性及び使用感の点から、1質量%以上20質量%以下が好ましく、2質量%以上18質量%以下がより好ましく、3質量%以上16質量%以下が更に好ましい。
【0063】
組成物Zに用いられるポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール等のアルキレングリコール類;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、分子量1000以下のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類等が挙げられる。これらのうち、被膜の耐擦過性、伸張性の観点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、分子量1000以下のポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリンが好ましく、更にプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、グリセリンがより好ましく、グリセリン類が一層好ましい。
【0064】
組成物Z中のポリオールの含有量は、被膜の耐擦過性、伸張性の観点から1質量%以上40質量%以下が好ましく、1質量%以上30質量%以下がより好ましく、3質量%以上25質量%以下が更に好ましく、5質量%以上20質量%以下が更に好ましく、10質量%以上20質量%以下がより更に好ましい。
【0065】
また、組成物Zには、揮発性成分を含有するのが、組成物Zを皮膚に塗布したとき、皮膚上に繊維の堆積物を形成させる観点で、好ましい。
組成物Zに用いられる揮発性成分としては、水、アルコール、揮発性シリコーン、揮発性炭化水素などから選ばれる1種以上が好ましい
【0066】
アルコールとしては例えば一価の鎖式脂肪族アルコール、一価の環式脂肪族アルコール、一価の芳香族アルコールが好適に用いられる。一価の鎖式脂肪族アルコールとしてはC1-C6アルコール、一価の環式アルコールとしてはC4-C6環式アルコール、一価の芳香族アルコールとしてはベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等がそれぞれ挙げられる。それらの具体例としては、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、フェニルエチルアルコール、n-プロパノール、n-ペンタノールなどが挙げられる。これらのアルコールは、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
揮発性シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、環状シリコーンが挙げられる。
【0067】
揮発性成分の含有量は、組成物Zの塗布性、被膜の均一性の観点から、組成物Z中に15~90質量%が好ましく、組成物Zを皮膚に塗布する際の使用感の観点から、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、また組成物Zを皮膚に塗布した後の繊維の堆積物の形成性の観点、被膜の耐久性の観点から、87質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましい。
【0068】
組成物Zに含まれる繊維は、(d)平均繊維径0.01~7μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)10~1000の繊維である。
当該成分(d)は、形成された被膜中で繊維の堆積物を形成し、被膜に均一性及び密着性を付与する。なお、被膜中で繊維が堆積物を形成しているか否かは走査型電子顕微鏡等により確認できる。また、堆積物とは、被膜中に分散した繊維同士が互いに交点を持つことによって、間隙を持つようにした状態であり、該間隙に組成物に含有される成分を保持し得る状態である。
【0069】
組成物Zに用いられる繊維の平均繊維径は、形成された被膜の均一性の観点から、0.01μm以上7μm以下である。また、前記繊維の平均繊維径は、被膜の密着性やフィット性の観点から、好ましくは0.05μm以上であり、より好ましくは0.1μm以上であり、さらに好ましくは0.2μm以上であり、よりさらに好ましくは0.3μm以上であり、また好ましくは5μm以下であり、より好ましくは4μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。繊維径は、例えば走査型電子顕微鏡観察によって、繊維を2000倍又は5000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(例えば、繊維の塊、繊維の交差部分)を除いた繊維を任意に100本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き繊維径を直接読み取ることにより測定できる。平均繊維径は、これらの測定値の相加平均を求めて、平均繊維径とした。
【0070】
繊維の長さは、形成された被膜の均一性の観点から、平均繊維長として20μm以上500μm以下が好ましい。より好ましくは30μm以上であり、さらに好ましくは40μm以上であり、また、より好ましくは400μm以下であり、さらに好ましくは250μm以下であり、よりさらに好ましくは200μm以下である。平均繊維長は、繊維長さを、例えば走査型電子顕微鏡観察によって、繊維の長さに応じて、250倍ないし750倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(例えば、繊維の塊、繊維の交差部分)を除いた繊維を任意に100本選び出し、繊維の長手方向に線を引き繊維長を直接読み取ることで測定することができる。平均繊維長はこれらの測定値の相加平均を求めて、平均繊維長とした。
【0071】
繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、形成された被膜の均一性、均一な繊維の堆積物を形成による被膜耐久性の観点から、10以上1000以下であり、15以上がより好ましく、20以上がさらに好ましく、また500以下がより好ましく、400以下がさらに好ましく、300以下がよりさらに好ましい。
【0072】
組成物Zにおいては、形成された被膜中において繊維が堆積物を形成し、被膜の均一性、密着性を良好にするため、(平均繊維径2)/平均繊維含有量(μm2/質量%)が0.005~7の範囲であることが好ましい。
この値は、繊維の堆積物の均一性の観点から、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.05以上であり、また、被膜中で十分に繊維の堆積物を形成する観点から、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下であり、よりさらに好ましくは3以下である。この値、即ち(平均繊維径2)/平均繊維含有量(μm2/質量%)は、組成物Zに含まれる繊維の累積長さの指標であり、この数値が大きくなるほど累積長さが短くなることを意味する。
【0073】
成分(d)の繊維は、繊維形成性ポリマーを種々の公知の紡糸技術によって得られた繊維を粉砕処理することによって製造することができる。ここで、繊維形成性ポリマーは、通常、熱可塑性又は溶剤に可溶性の鎖状高分子である。繊維形成性ポリマーのうち、水不溶性ポリマーを使用するのが組成物Z中で繊維の形状を維持する点で好ましい。また、紡糸法としては、エレクトロスピニング法(電界紡糸法)が、繊維径の小さい繊維を得る点で好ましい。
【0074】
組成物Zには、前記成分(c)、(d)及び揮発性成分以外に、界面活性剤、防腐剤、種々の粉体、ポリオール以外の保湿剤、水溶性ポリマー、アミノ酸、色素等を含有することができる。
【0075】
組成物Zを皮膚に塗布すれば、皮膚表面上に均一性に優れた繊維の堆積物を含有する被膜を形成させることができる。組成物Zの皮膚への塗布手段としては、手指による塗布、スプレーによる塗布、ローラーやスポンジ等の道具を用いた塗布等が挙げられる。手で塗れる範囲としては20℃における粘度は、5~50,000mPa・sであることが好ましい。
【0076】
前記のように、通常の工程A)後の皮膚に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する処置(工程B))をすれば、工程A)によって生じる炎症、発赤、腫脹などの症状が緩和されるともに、それらの症状の消失が早まり、その美容的又は皮膚科学的処置を受けたヒトの生活の質(QOL)が顕著に向上する。なお、本発明方法は、美容目的で行うのが好ましい。
【0077】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の方法、組成物、用途を開示する。
【0078】
<1>次の工程A)、次いで工程B)を行うことを特徴とする、皮膚の処置方法。
A)皮膚の表皮を物理的又は化学的に処理する工程
B)工程A)を行った皮膚上に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する工程
【0079】
<2>工程B)が、次の成分(a)及び(b)を含有する組成物Xを皮膚上に静電スプレーする工程である<1>記載の皮膚の処置方法。
(a)水、アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質
(b)繊維の堆積物を含有する被膜の形成能を有するポリマー
<3>工程B)が、エレクトロスピニング又はメルトブローにより得られた平均繊維径0.01~7μmの繊維の堆積物からなる被膜を貼付する工程である<1>記載の皮膚の処置方法。
<4>さらに、工程B)の前又は後に、工程C)を行う<1>~<3>のいずれかに記載の皮膚の処置方法。
C)油剤及びポリオールから選ばれる1種又は2種以上の成分を含有する組成物Yを塗布する工程
<5>工程C)に用いられる組成物Yが、さらに接着性ポリマーを含有するものである<4>記載の皮膚の処置方法。
<6>工程B)が、次の成分(c)及び(d)を含有する組成物Zを塗布する工程である<1>記載の皮膚の処置方法。
(c)油剤及び20℃で液状のポリオールから選ばれる1種又は2種以上
(d)平均繊維径0.01~7μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)10~1000の繊維
<7>工程A)が、皮膚の角質層、顆粒層、有棘層及び基底層から選ばれる1種又は2種以上の層を、物理的又は化学的に処理する工程である<1>~<66のいずれかに記載の皮膚の処置方法。
<8>工程A)が、ケミカルピーリング、アルカリ洗浄処理、脱毛ワックス処理、ダーマブレーション、マイクロダーマブレーション、マイクロニードリング、無線周波数マイクロニードリング、レーザー処理、IPL処理、クライオセラピー(冷却処置)、タトゥー処理、タトゥー除去、ニキビ処置、LED処理、酵素マスク処理及びプラズマ・フィブロブラストから選ばれる1種又は2種以上の皮膚の表皮処理である<1>~<7>のいずれかに記載の皮膚の処置方法。
<9>(b)繊維の堆積物を含有する被膜の形成能を有するポリマー、又は(d)繊維を構成するポリマーが、水不溶性の繊維形成性ポリマーである<1>~<8>のいずれかに記載の皮膚の処置方法。
<10>皮膚の表皮を物理的又は化学的に処理する工程を行った後に、当該皮膚上に静電スプレーするための、次の成分(a)及び(b)を含有する組成物Xの使用。
(a)水、アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質
(b)繊維の堆積物を含有する被膜の形成能を有するポリマー
<11>皮膚の表皮を物理的又は化学的に処理する工程を行った後に、当該皮膚上に貼付するための、エレクトロスピニングにより得られた平均繊維径0.01~7μmの繊維の堆積物からなる被膜の使用。
<12>皮膚の表皮を物理的又は化学的に処理する工程を行った後に、当該皮膚上に塗布するための、次の成分(c)及び(d)を含有する組成物Zの使用。
(c)油剤及び20℃で液状のポリオールから選ばれる1種又は2種以上
(d)平均繊維径0.01~7μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)10~1000の繊維
<13>物理的又は化学的な処理をした皮膚の表皮上に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する、皮膚の処置方法(但し、医療行為を除く)。
<14>物理的又は化学的な処理による皮膚の表皮への刺激を緩和するための被膜の製造における繊維の使用。
【実施例】
【0080】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0081】
実施例1(ケミカルピーリング1)
<ケミカルピーリング1>
酸製剤としてTCA液(30質量%トリクロロアセトン、5質量%サリチル酸、残部:精製水)を用い、左腕内側に直径1cmの範囲で薄く5回~10回重ね塗りをして、frostingという白くなる状態が見えるまで行った(1分から2分)。2ヶ所の円形部を同様の方法で処理した。その後、清浄綿で皮膚の上から酸製剤をふきとった。この施術は、ケミカルピーリングを行うことが許可された専門家が行った。
【0082】
<施術後のケア>
上記ケミカルピーリングに続いて、DMKブランドのBETA GEL(Danne Montague-King社製)を0.3mL塗布した。
処理した箇所の一つに、上記のGEL塗布後に以下の条件でナノファイバーからなる繊維の堆積物を塗布した。
繊維形成用の溶液Aは、ポリビニルブチラール(積水化学香料(株)社製:商品名S-LEC B BM-1)12質量%、1,3-ブチレングリコール6.8質量%、残部:エタノール(99.5%)からなる。
溶液Aを以下の条件で左上内側のケミカルピーリング後の領域を覆うように静電スプレーする。
電圧 14.5KV
流量 0.08mL/min
ノズルから皮膚までの距離14cm
スプレー時間 10秒
室温20℃、湿度45%RH
以上のように、他方の処理箇所にはBETA GELのみを適用し、繊維の堆積物を塗布した箇所にはBETA GELと繊維の堆積物を塗布することを1ケアとし、1日に2回のケアを行い、皮膚の発赤とかさぶたがなくなるまでケアを続けた。
【0083】
<結果>
繊維の堆積物の塗布を行わなかった箇所は20日で発赤がひき、かさぶたが取れたが、繊維の堆積物を塗布した箇所は8日で発赤がひき、かさぶたがとれた。
【0084】
実施例2(ケミカルピーリング2)
<ケミカルピーリング2>
酸製剤として、AHA/BHA/Retinol(サリチル酸14質量%、乳酸14質量%、レチノール14質量%、残部:精製水)を用い、右腕に2cm×2cmの範囲に塗布し6時間適用した。3ヶ所の正方形部分を同様に処理した。その後、清浄綿で皮膚上の酸製剤をふきとった。この施術は、ケミカルピーリングを行うことが許可された専門家が行った。
【0085】
<施術後のケア>
2ヶ所において、施術後のケアは、BETA GELの適用量を0.5mL、静電スプレー時間を30秒とした以外は実施例1と同様に行った。繊維の堆積物を該2ヶ所の1つに塗布した。該ケアは1日間行ったところ、24時間経過後は発赤がひいたので、ケアを終了させた。
【0086】
<結果>
施術後6日目に6時間太陽光に両腕を暴露させた状態ですごした。その結果、繊維の堆積物を適用しなかった右腕は、複数の小さな水疱が発生したが、繊維の堆積物を適用した左腕は水疱がみられなかった。
【0087】
実施例3(アルカリ洗浄処理)
アルカリ洗浄剤による処理を行い、続いて酵素マスク処理を行った頬に、下記調製例1のシート製剤を適用した結果、良好な改善傾向が認められた。アルカリ洗浄処理は、この施術を行うことが許可された専門家が行い、シート製剤の適用もその専門家が行った。
【0088】
<調製例1 シート製剤〕
表1に示す各成分をビーカーに秤取り、プロペラミキサーを用いて常温で約12時間撹拌することで、繊維被膜形成用組成物を製造した。この繊維被膜形成用組成物を用いて、特開2020-90097号公報の記載に準じて静電スプレー法で被膜を形成させ、目の下から目尻までを覆う程度のサイズ及び大きさに裁断することで、繊維の堆積物からなるシート製剤を調製した。シート製剤の繊維の太さ(円相当直径)は700nm、坪量は1.3g/m2、繊維量1.08g/m2である。
【0089】
【0090】
表1中の記号は、それぞれ以下を示す。
*1:エスレックB BM-1(積水化学工業株式会社製)
*2:Varisoft TA100(エボニックジャパン株式会社製)
【0091】
実施例4(酵素マスク処理)
酵素マスク処理を行った頬に、実施例1と同様に静電スプレーして、ナノファイバーからなる繊維の堆積物を適用した結果、良好な改善傾向が認められた。酵素マスク処理は、この施術を行うことが許可された専門家が行った。
【0092】
実施例5(レーザー処理)
レーザー処理を行った左頬に、実施例1と同様に静電スプレーして、ナノファイバーからなる繊維の堆積物を適用し、目の周りには実施例3と同様のシート製剤を適用した結果、右頬に比べて、乾燥と刺激が少なかった。レーザー処理は、この施術を行うことが許可された専門家が行い、静電スプレーによる繊維堆積物及びシート製剤の適用は被験者自身が行った。
【0093】
実施例6(ニキビ処置)
ニキビ処置後の顎のラインと腕に、実施例1と同様に静電スプレーして、ナノファイバーからなる繊維の堆積物を適用し、口の周りには実施例3と同様のシート製剤を適用した結果、良好な改善傾向が認められた。二キビ処置は、この施術を行うことが許可された専門家が行い、静電スプレーによる繊維堆積物及びシート製剤の適用は被験者自身が行った。
【0094】
実施例7(マイクロニードリング)
頬、目の下、あご、額にマイクロニードリング処置を行った後、実施例1と同様に静電スプレーして、ナノファイバーからなる繊維の堆積物を適用し、目と口の周りには実施例3と同様のシート製剤を適用した結果、良好な改善傾向が認められた。マイクロニードリング処置は、看護師が行い、静電スプレーによる繊維堆積物及びシート製剤の適用は被験者自身が行った。
【0095】
実施例8(ワックス処理)
眉毛のワックス脱毛処理後に、実施例3と同様のシート製剤を適用した結果、良好な改善傾向が認められた。ワックス処理は、この施術を行うことが許可された専門家が行い、シート製剤の適用もその専門家が行った。
【符号の説明】
【0096】
10 静電スプレー装置
11 低電圧電源
12 高電圧電源
13 補助的電気回路
14 ポンプ機構
15 容器
16 ノズル
17 管路
18 フレキシブル管路
19 電流制限抵抗
20 筐体
【手続補正書】
【提出日】2022-08-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程A)、次いで工程B)
、さらに、工程B)の前又は後に、工程C)を行うことを特徴とする、皮膚の処置方法。
A)皮膚の表皮を物理的又は化学的に処理する工程
B)工程A)を行った皮膚上に、繊維の堆積物を含有する被膜を形成する工程
C)油剤及びポリオールから選ばれる1種又は2種以上の成分、並びに接着性ポリマーを含有する組成物Yを塗布する工程
【請求項2】
工程B)が、次の成分(a)及び(b)を含有する組成物Xを皮膚上に静電スプレーする工程である請求項1記載の皮膚の処置方法。
(a)水、アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質
(b)繊維の堆積物を含有する被膜の形成能を有するポリマー
【請求項3】
工程B)が、エレクトロスピニング又はメルトブローにより得られた平均繊維径0.01~7μmの繊維の堆積物からなる被膜を貼付する工程である請求項1記載の皮膚の処置方法。
【請求項4】
工程B)が、次の成分(c)及び(d)を含有する組成物Zを塗布する工程である請求項1記載の皮膚の処置方法。
(c)油剤及び20℃で液状のポリオールから選ばれる1種又は2種以上
(d)平均繊維径0.01~7μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)10~1000の繊維
【請求項5】
工程A)が、皮膚の角質層、顆粒層、有棘層及び基底層から選ばれる1種又は2種以上の層を、物理的又は化学的に処理する工程である請求項1~
4のいずれか1項記載の皮膚の処置方法。
【請求項6】
工程A)が、ケミカルピーリング、アルカリ洗浄処理、脱毛ワックス処理、ダーマブレーション、マイクロダーマブレーション、マイクロニードリング、無線周波数マイクロニードリング、レーザー処理、IPL処理、クライオセラピー、タトゥー処理、タトゥー除去、ニキビ処置、LED処理、酵素マスク処理及びプラズマ・フィブロブラストから選ばれる皮膚の表皮処理である請求項1~
5のいずれか1項記載の皮膚の処置方法。
【請求項7】
(b)繊維の堆積物を含有する被膜の形成能を有するポリマーが、水不溶性の繊維形成性ポリマーである請求項2
~6のいずれか1項記載の皮膚の処置方法。
【請求項8】
前記(d)繊維を構成するポリマーが、水不溶性の繊維形成性ポリマーである請求項
4~7のいずれか1項記載の皮膚の処置方法。
【国際調査報告】