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▶ 広東省科学院微生物研究所(広東省微生物分析検測中心)の特許一覧

特表2022-545580エンサイファおよびその生物発電における用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(54)【発明の名称】エンサイファおよびその生物発電における用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20221020BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20221020BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
H01M4/90 Y
H01M8/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530342
(86)(22)【出願日】2020-12-31
(85)【翻訳文提出日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 CN2020141924
(87)【国際公開番号】W WO2021159886
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】202010712489.0
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522025488
【氏名又は名称】広東省科学院微生物研究所(広東省微生物分析検測中心)
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】許 ▲メイ▼英
(72)【発明者】
【氏名】宋 建華
(72)【発明者】
【氏名】楊 永剛
【テーマコード(参考)】
4B065
5H018
【Fターム(参考)】
4B065AC20
4B065BB02
4B065BB03
4B065BB29
4B065BB40
4B065BC03
4B065BC11
4B065BC32
5H018AA07
5H018AS07
5H018HH05
5H018HH08
(57)【要約】
エンサイファおよびその生物発電における用途である。前記のエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5は、中国広東省微生物菌種保蔵センター(GDMCC)に保蔵され、保蔵番号はGDMCC No:60957であり、保蔵日時は2020年1月14日である。エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5は黒臭水域の堆積物からスクリーニングおよび分離されたものであり、この菌株は高い発電能力を有し、広範囲のpH(5.5~9.5)、温度(4~45℃)範囲内で増殖することができる同時に、様々な炭素源を使用して発電することもでき、環境処理およびエネルギー生産の分野で良好な応用の見通しがある。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保蔵番号がGDMCC No:60957である、エンサイファEnsifer sesbaniae Y5。
【請求項2】
請求項1に記載のエンサイファEnsifer sesbaniae Y5の生物発電または微生物燃料電池の調製における用途。
【請求項3】
前記微生物燃料電池の陽極室の培養培地に前記エンサイファEnsifer sesbaniae Y5を接種し、前記エンサイファEnsifer sesbaniae Y5は、前記培養培地で浮遊状態で増殖するか、または陽極の表面に付着するステップ(1)と、
接種後、無菌窒素を注入させて前記陽極室内の酸素を除去し前記陽極室を密閉して、嫌気性培養を行い、前記微生物燃料電池から電気を発生させるステップ(2)と、を含む、ことを特徴とする請求項2に記載の用途。
【請求項4】
前記陽極室中の前記培養培地の組成は、リン酸水素二ナトリウム17.1~18g/L、リン酸二水素カリウム3~3.6g/L、塩化ナトリウム0.5~0.6g/L、塩化アンモニウム1~1.2g/L、酵母抽出物0.5~0.6g/L、酢酸ナトリウム0.82~1g/Lまたはギ酸ナトリウム1.04~1.2g/Lまたは乳酸ナトリウム1.12~1.5g/Lまたはグルコース1.8~2.0g/Lであり、溶媒は水である、ことを特徴とする請求項3に記載の用途。
【請求項5】
前記ステップ(1)では、固形培養培地に前記エンサイファEnsifer sesbaniae Y5を接種し、それを嫌気性ワークステーションに静置して培養し、コロニーを選択して無菌のPBS緩衝溶液中に均一に混合し、均一に混合した後細菌溶液を前記微生物燃料電池の前記陽極室中の前記培養培地に接種し、前記エンサイファEnsifer sesbaniae Y5は前記培養培地で浮遊状態で増殖するか、または前記陽極の表面に付着する、ことを特徴とする請求項3に記載の用途。
【請求項6】
前記嫌気性ワークステーションの温度は30~37℃である、ことを特徴とする請求項5に記載の用途。
【請求項7】
前記固形培養培地は、請求項4に記載の前記陽極室中の前記培養培地に、アマランス0.15~0.2mMまたはメチルオレンジ染料0.15~0.2mM、および寒天15~18g/Lを添加したものである、ことを特徴とする請求項5に記載の用途。
【請求項8】
前記PBS緩衝溶液の組成は、リン酸水素二ナトリウム3.6g/L、リン酸二水素カリウム0.27g/L、塩化ナトリウム8g/L、塩化カリウム0.2g/Lであり、溶媒は水であり、pH値は7.3~7.5である、ことを特徴とする請求項5に記載の用途。
【請求項9】
接種後の前記陽極室の培養液のOD600は0.05~0.06である、ことを特徴とする請求項3に記載の用途。
【請求項10】
前記微生物燃料電池は、プロトン交換膜によって分離されたデュアルチャンバー微生物燃料電池であり、陰極と陽極は両方ともグラファイト板であるか、または単一チャンバー微生物燃料電池であり、陽極はグラファイト板であり、陰極は白金担持空気陰極である、ことを特徴とする請求項3に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境微生物およびバイオエネルギーの技術分野に関し、具体的に黒臭水域の堆積物に由来する発電能力を有するエンサイファおよびその生物発電における用途に関する。
【背景技術】
【0002】
発電微生物(「細胞外発電細菌、陽極呼吸細菌」とも呼ばれる)とは、代謝によって生成された電子を細胞外電子受容体に伝達できる細胞外電子伝達機能を有する微生物の一種を指し、主に嫌気性微生物または通性嫌気性微生物である。発電微生物は、土壌、廃水、湖、海洋および川の堆積物などの嫌気性または低酸素環境に広く分布している。
【0003】
微生物燃料電池は、近年急速に発展している生物電気化学反応装置であり、従来の生物分解と電気化学技術を組み合わせて、微生物の電子伝達により、微生物が利用できる有機物の化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。微生物燃料電池は、汚染防止、生物発電およびなどの分野で幅広い用途の見通しがある。その動作原理としては、発電微生物が利用できる有機物を酸化する同時に陽極で電子を生成し、電子が対応する電子伝達メカニズムを介して陰極の電子受容体に伝達され、陰極の電子受容体は一般に酸素およびフェリシアン化カリウムなどである。
【0004】
発電微生物は、微生物燃料電池の発展および応用に非常に重要であり、これまでの研究で報告されていた発電微生物の種類と数はまだ非常に限られ、現状では、関連する研究も主にジオバクター(Geobacter)とシュワネラ(Shewanella)属などに集中している。これに加えて、大部分の発電微生物の発電効率が低く、微生物燃料電池に応用できる発電微生物は非常に限られ、発電微生物資源の開発と利用はまだ始まったばかりである。そのため、より多く効率的な発電細菌種を選択および分離することが急務である。
【0005】
エンサイファ(Ensifer)属は、グラム陰性菌で、土壌や川の堆積物などの自然環境で広く発見され得る。しかしながら、これまでエンサイファによる環境汚染物の分解に関する研究はたくさんあるが、その生物発電の分野での研究報告はまだない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、発電微生物菌種の資源が比較的不足しているという現状を考慮して、エンサイファおよびその生物発電における用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の目的は、生物発電機能を有するエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5を提供することであり、この菌株は2020年1月14日に中国広東省微生物菌種保蔵センター(住所:中国.広州.中国広東省微生物研究所、郵便番号:510070)に保蔵され、保蔵センター登録番号はGDMCC No:60957である。
【0008】
前記エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5は、中国広東佛山容桂Wenta公園の黒臭川の堆積物に由来する。微生物燃料電池の濃縮および勾配希釈-アゾ還元スクリーニング方法によって分離される。この菌株は通性嫌気性菌で、棒状、長さ約3μm、幅0.8~0.9μmで、鞭毛あり、グラム陰性である。広範囲のpH(5.5~9.5)、温度(4~45℃)の範囲内で増殖することができる。この細菌の際立った特徴は発電活性を有することである。
【0009】
エンサイファは、グラム陰性で、通性嫌気性細菌である。現在、Ensifer菌属は、体系的に命名された14種の菌種、それぞれ、Ensifer adhaerens(典型的な菌株:LMG 20216)、Ensifer alkalisoli(典型的な菌株:YIC4027)、Ensifer aridi(典型的な菌株:RMT3)、Ensifer collicola(典型的な菌株:Mol 12)、Ensifergaramanticus(典型的な菌株:ORS 1400)、Ensiferglycinis(典型的な菌株:CCBAU 23380)、Ensifermaghrebium(典型的な菌株:ORS 1410)、Ensifermexicanus(典型的な菌株:ITTG~R7)、Ensifer numidicus(典型的な菌株:ORS 1407)、Ensifer psoraleae(典型的な菌株:CCBAU 65732)、Ensifer sesbaniae(典型的な菌株:CCBAU 65729)、Ensifer shofinae(典型的な菌株:CCBAU 251167)、Ensifer sojae(典型的な菌株:CCBAU 05684)、Ensifer xericitae(典型的な菌株:STM 354)を含んでいる。しかしながら、これまでにエンサイファ属の発電に関連する報告はまだない。
【0010】
本発明の第2の目的は、エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5の生物発電または微生物燃料電池の調製における用途を提供することである。
【0011】
具体的には、
微生物燃料電池の陽極室の培養培地にエンサイファEnsifer sesbaniae Y5を接種し、前記エンサイファEnsifer sesbaniae Y5は、前記培養培地で浮遊状態で増殖し、または陽極の表面に付着するステップ(1)と、
接種後、無菌窒素を注入させて前記陽極室内の酸素を除去し前記陽極室を密閉して、嫌気性培養を行い、前記微生物燃料電池から電気を発生させるステップ(2)と、を含む。
【0012】
好ましくは、前記陽極室中の前記培養培地の組成は、リン酸水素二ナトリウム17.1~18g/L、リン酸二水素カリウム3~3.6g/L、塩化ナトリウム0.5~0.6g/L、塩化アンモニウム1~1.2g/L、酵母抽出物0.5~0.6g/L、酢酸ナトリウム0.82~1g/Lまたはギ酸ナトリウム1.04~1.2g/Lまたは乳酸ナトリウム1.12~1.5g/Lまたはグルコース1.8~2.0g/Lであり、溶媒は水である。
【0013】
好ましくは、前記ステップ(1)では、固形培養培地に前記エンサイファEnsifer sesbaniae Y5を接種し、それを嫌気性ワークステーションに静置して培養し、コロニーを選択して無菌のPBS緩衝溶液中に均一に混合し、均一に混合した後細菌溶液を前記微生物燃料電池の前記陽極室中の前記培養培地に接種し、前記エンサイファEnsifer sesbaniae Y5は培養培地で浮遊状態で増殖し、または陽極の表面に付着する。
【0014】
好ましくは、前記嫌気性ワークステーションの温度は30~37℃である。
【0015】
好ましくは、前記固形培養培地は、前記陽極室中の前記培養培地に、アマランス0.15~0.2mMまたはメチルオレンジ染料0.15~0.2mM、および寒天15~18g/Lを添加したものである。
【0016】
前記PBS緩衝溶液の組成は、リン酸水素二ナトリウム3.6g/L、リン酸二水素カリウム0.27g/L、塩化ナトリウム8g/L、塩化カリウム0.2g/Lであり、溶媒は水であり、pH値は7.3~7.5である。
【0017】
好ましくは、接種後の前記陽極室の培養液のOD600は0.05~0.06である。
【0018】
好ましくは、前記微生物燃料電池は、プロトン交換膜によって分離されたデュアルチャンバー微生物燃料電池であり、陰極と陽極は両方ともグラファイト板であり、または単一チャンバー微生物燃料電池であり、陽極はグラファイト板であり、陰極は白金担持空気陰極である。
【発明の効果】
【0019】
従来技術と比較すると、本発明は以下の利点を有する。本発明のエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5は、黒臭水域の堆積物に由来する発電微生物であり、この細菌は比較的高い発電活性を有し、広範囲のpH(5.5~9.5)、温度(4~45℃)の範囲内で増殖でき、さらに、この細菌は様々な炭素源を使用して発電することができる。これらの特徴は、エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5が強力な環境適応能力を持ち、低温、酸性またはアルカリ性の条件下で有機廃棄物を酸化および分解して電気エネルギーを生成することを示している。この応用は、環境汚染の処理を実現するだけでなく、グリーン電気エネルギーを取得することもでき、幅広い用途が見込まれる。
【0020】
本発明のエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5は、2020年1月14日に中国広東省微生物菌種保蔵センター(GDMCC)に保蔵され、その住所は、広州市Xianlie Middle Road、100番ヤード、59号館、5階、保蔵番号は、GDMCC No:60957である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5のコロニー形態の電子顕微鏡画像。
図2】エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5の発電検証図であり、図のY5はエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5を表す。
図3】エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5の発電特徴(サイクリックボルタンメトリーチャート)であり、図のY5はエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5を表す。
図4】様々な炭素源を使用したエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5の発電分析を示し、a:ギ酸ナトリウム;b:酢酸ナトリウム;c:乳酸ナトリウム;d:グルコースである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施例を参照して本発明をさらに説明する。実施例は、例を挙げて本発明を説明することを意図し、いかなる形式で本発明を制限するものではない。特に明記されるプロセスパラメータについては、従来の技術を参照して設定することができる。
【0023】
実施例1
エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5のスクリーニングおよび分離:
【0024】
(1)接種物の用意:中国広東佛山容桂Wenta公園の黒臭水域から川の堆積物を収集し、冷蔵室(5~8℃)に保管した。適切な量の堆積物サンプルに対してふるい分け(80目)処理を行い、均一に攪拌した後用意する(均一に混合された堆積物)。
【0025】
(2)堆積物の微生物燃料電池装置の構造および電流収集システム:堆積物の微生物燃料電池の体積は1Lであり、プロトン交換膜のない単一チャンバー微生物燃料電池である。陰極と陽極は両方ともカーボンフェルト(5×5cm)であり、チタンワイヤを介して電極に接続される。陽極がチタンワイヤに接続された後電池の底部に置かれ、均一に混合された600mLの堆積物を加え、その後300mLの水道水を上部水としてゆっくりと滴下する。陰極がチタンワイヤに接続された後上部水に浮かんで、陰極と陽極はチタンワイヤを介して1000Ωの抵抗に接続される。電池の抵抗両端は、電池の発電データ(電圧)を収集するために、Kethley 2700マルチチャンネルデータコレクターに接続される。
【0026】
(3)堆積物の微生物燃料電池の発電微生物の濃縮:一定のラグ期間の後、電池の電圧は時間とともに上昇し続け、最終的に安定する。電池の電圧が安定すると、電池は発電微生物の濃縮を完了する。
【0027】
(4)発電微生物のスクリーニングおよび分離:濃縮された電池を超クリーンワークベンチに移し、陽極のカーボンフェルトを取り出す。カーボンフェルトを無菌のPBS緩衝液(PBS溶液の組成は、リン酸水素二ナトリウム3.6g/L、リン酸二水素カリウム0.27g/L、塩化ナトリウム8g/L、塩化カリウム0.2g/Lであり、溶媒は水であり、pH値は7.3~7.5であり、その調製方法では、各成分を含有量に応じて均一に混合し、pH値を7.3~7.5に調節し、減菌する)に浸漬し、渦振動により電極表面の微生物を溶液に移動させる。この溶液を接種物として、勾配希釈された後、異なる希釈度の接種液を無菌の固形培養培地に塗布する(培養培地の組成:リン酸水素二ナトリウム17.1g/L、リン酸二水素カリウム3g/L、塩化ナトリウム0.5g/L、塩化アンモニウム1g/L、酵母抽出物0.5g/L、酢酸ナトリウム0.82g/L、アマランス0.15mM、寒天15g/Lであり、溶媒は水であり、調製:培養培地の各成分を混合して水に溶解し、攪拌しながら溶解し、減菌、冷却した後に得られる)。塗布された固形培養培地(プレート)を嫌気性ワークステーションに置いて培養し、培養温度は30~37℃である。一定時間培養した後、培養培地を取り出し、プレート培養培地上の単一コロニーを選択して新しい培養培地に画線して精製した後、新しい培養培地を嫌気性ワークステーションに置いて培養し、培養温度は30~37℃である。画線および精製プロセスを繰り返して、すべてのコロニーの形態、色が一致になるまで、複数回の分離および精製を行う。最後に、純粋な培養物を取得し、この純粋な培養物は高い発電活性を有するエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5であり、その形態は図1に示される。
【0028】
(5)菌種の同定および発電活性の検証:形態分析の結果から分かるように、このエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5は棒状で、長さ約3μm、幅0.8~0.9μmで、鞭毛ある。この細菌は通性嫌気性菌で、グラム陰性である。ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウムおよびグルコースなどの様々な炭素源を使用して増殖することができる。広範囲のpH(5.5~9.5)、温度(4~45℃)の範囲内で増殖でき、この細菌の高い環境適応能力を反映する。
【0029】
16SrRNA遺伝子(配列番号がSEQ ID NO.1に示される)の相同性分析から分かるように、この細菌はエンサイファ(Ensifer sesbaniae CCBAU 65729)との類似度が99.97%に達した。しかしながら、これまでに発見されたこの菌属に属するすべての菌種の中で、発電能力のある菌株の関連報告はまだない。したがって、この細菌を一時的にエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5と命名した。
【0030】
本発明のエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5は、2020年1月14日に中国広東省微生物菌種保蔵センター(GDMCC)に保蔵され、住所は、中国広州市Xianlie Middle Road、100番ヤード、59号館、5階であり、保蔵番号はGDMCC No:60957である。
【0031】
エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5の純粋な培養物を無菌のスパチュラで無菌のPBS緩衝液にこすり落とし、完全に均一に混合して、細菌溶液を得、細菌溶液をデュアルチャンバー微生物燃料電池の陽極室のLM培養培地(陽極液)に接種し、発電試験を実施し、接種後の陽極室の培養液のOD600は0.05~0.06であり、エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5は培養培地で浮遊状態で増殖し、または陽極の表面に付着し、無菌窒素を注入して陽極室内の酸素を除去した後陽極室を密閉して、嫌気性培養を行う。試験方法:デュアルチャンバー微生物燃料電池について、電池の陰極と陽極は両方とも同じサイズ(2cm×3.3cm×0.2cm)の高純度グラファイト電極である。陰極室の電解液は50mMのフェリシアン化カリウム溶液であり、溶媒はPBS緩衝液である。陽極液はLM培養培地である(培養培地の組成:リン酸水素二ナトリウム18g/L、リン酸二水素カリウム3.6g/L、塩化ナトリウム0.6g/L、塩化アンモニウム1.2g/L、酵母抽出物0.6g/L、酢酸ナトリウム1g/Lであり、溶媒は水である。調製:培養培地の各成分を混合して水に溶解し、攪拌しながら溶解し、減菌、冷却して得られる。)。試験の結果から分かるように、図2に示すように、この菌株は微生物燃料電池で長期間安定して発電できる。
【0032】
実施例2
本実施例は、エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5の細胞外電子伝達の特徴を開示する。実施例1に示すように、デュアルチャンバー微生物燃料電池の陽極室にエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5を接種し、電池は電圧がピーク値に達して安定したままになるまで動作する。その後電池の陽極室に対してサイクリックボルタンメトリースキャン分析を行い、ポテンシオスタットはCHI 700Eを採用し、参照電極としてAg/AgCl電極を使用し、陰極を対電極とする。スキャン電圧は-0.6~-0.2Vで、スキャン速度は10mV/sであり、結果が図3に示される。
【0033】
既存の文献報告によると、発電微生物の電子伝達は、主に、外膜チトクロームの細胞外伝達経路、細胞外膜上のナノワイヤの細胞外電子伝達経路、および可溶性酸化還元電子メディエーターを分泌する電子伝達経路という3つの方法がある。図3から分かるように、サイクリックボルタンメトリー曲線には、小さなレドックスピークがあり、これは、エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5は発電中、可溶性の酸化還元メディエーターを生成および分泌する可能性があることを示す。したがって、エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5は、可溶性の酸化還元電子メディエーターの自身分泌により電子を伝達する電子伝達の可能性がある。
【0034】
実施例3
本実施例は、様々な炭素源を使用したエンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5の発電特徴を開示する。試験方法は、実施例1の前記ステップ5に従う。実験の結果から分かるように、エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5は、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウムおよびグルコースなどの炭素源を使用して発電することができるが、発電効果は同じではない。その中では、酢酸ナトリウムによる発電の場合に、発電効果が最も好ましい(図4)。本実施例では、エンサイファ(Ensifer sesbaniae)Y5のデュアルチャンバー微生物燃料電池における発電特徴を開示し、この細菌は様々な炭素源を使用して発電することができることを開示することを意図する。使用されるデュアルチャンバー微生物燃料電池およびプロセスは最適ではなく、現在、多くの文献では、電極改善、反応器および反応条件の最適化などの方法によって発電微生物の発電能力を大幅に向上させることができるのは報告されている。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上記の好ましい実施形態は本発明を制限するものではなく、本発明の保護範囲は特許請求の範囲に従うべきである。当業者は、本発明の精神および範囲を逸脱することなく加えられたいくつかの変更や改善は、すべて本発明の保護範囲に含まれるのは明らかである。
【0036】
(付記)
(付記1)
保蔵番号がGDMCC No:60957である、エンサイファEnsifer sesbaniae Y5。
【0037】
(付記2)
付記1に記載のエンサイファEnsifer sesbaniae Y5の生物発電または微生物燃料電池の調製における用途。
【0038】
(付記3)
前記微生物燃料電池の陽極室の培養培地に前記エンサイファEnsifer sesbaniae Y5を接種し、前記エンサイファEnsifer sesbaniae Y5は、前記培養培地で浮遊状態で増殖するか、または陽極の表面に付着するステップ(1)と、
接種後、無菌窒素を注入させて前記陽極室内の酸素を除去し前記陽極室を密閉して、嫌気性培養を行い、前記微生物燃料電池から電気を発生させるステップ(2)と、を含む、ことを特徴とする付記2に記載の用途。
【0039】
(付記4)
前記陽極室中の前記培養培地の組成は、リン酸水素二ナトリウム17.1~18g/L、リン酸二水素カリウム3~3.6g/L、塩化ナトリウム0.5~0.6g/L、塩化アンモニウム1~1.2g/L、酵母抽出物0.5~0.6g/L、酢酸ナトリウム0.82~1g/Lまたはギ酸ナトリウム1.04~1.2g/Lまたは乳酸ナトリウム1.12~1.5g/Lまたはグルコース1.8~2.0g/Lであり、溶媒は水である、ことを特徴とする付記3に記載の用途。
【0040】
(付記5)
前記ステップ(1)では、固形培養培地に前記エンサイファEnsifer sesbaniae Y5を接種し、それを嫌気性ワークステーションに静置して培養し、コロニーを選択して無菌のPBS緩衝溶液中に均一に混合し、均一に混合した後細菌溶液を前記微生物燃料電池の前記陽極室中の前記培養培地に接種し、前記エンサイファEnsifer sesbaniae Y5は前記培養培地で浮遊状態で増殖するか、または前記陽極の表面に付着する、ことを特徴とする付記3に記載の用途。
【0041】
(付記6)
前記嫌気性ワークステーションの温度は30~37℃である、ことを特徴とする付記5に記載の用途。
【0042】
(付記7)
前記固形培養培地は、付記4に記載の前記陽極室中の前記培養培地に、アマランス0.15~0.2mMまたはメチルオレンジ染料0.15~0.2mM、および寒天15~18g/Lを添加したものである、ことを特徴とする付記5に記載の用途。
【0043】
(付記8)
前記PBS緩衝溶液の組成は、リン酸水素二ナトリウム3.6g/L、リン酸二水素カリウム0.27g/L、塩化ナトリウム8g/L、塩化カリウム0.2g/Lであり、溶媒は水であり、pH値は7.3~7.5である、ことを特徴とする付記5に記載の用途。
【0044】
(付記9)
接種後の前記陽極室の培養液のOD600は0.05~0.06である、ことを特徴とする付記3に記載の用途。
【0045】
(付記10)
前記微生物燃料電池は、プロトン交換膜によって分離されたデュアルチャンバー微生物燃料電池であり、陰極と陽極は両方ともグラファイト板であるか、または単一チャンバー微生物燃料電池であり、陽極はグラファイト板であり、陰極は白金担持空気陰極である、ことを特徴とする付記3に記載の用途。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2022545580000001.app
【国際調査報告】