(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-28
(54)【発明の名称】歯科用インプラントの表面硬化
(51)【国際特許分類】
C23C 8/34 20060101AFI20221021BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C23C8/34
A61C13/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022512403
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(85)【翻訳文提出日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2020073547
(87)【国際公開番号】W WO2021037753
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514240460
【氏名又は名称】イーロス メドゥテック ピノール アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】トマス ロンディン クレスチャンスン
(72)【発明者】
【氏名】モーデン ステンデール イェレスン
(72)【発明者】
【氏名】マーセル アー.ヨズ.ソマス
(72)【発明者】
【氏名】アンドレーアス フレズレク キールスホルム コアゲル
(57)【要約】
本発明は、保護酸化物表面層、コア硬度を有するIV族金属又は合金成分、IV族金属又は合金の飽和レベルまで材料コアの硬度の120%の硬度を提供するレベルの固溶体中の酸素を有する拡散ゾーン、成分の表面におけるIV族金属酸化物層を有し、拡散ゾーンがIV族金属酸化物層と材料コアとの間にあるIV族金属又は合金成分に関する。別の態様では、本発明は、IV族金属又は合金のワークピースを提供し、IV族金属又は合金を第1及び第2の酸化工程で酸化することを含む、IV族金属又は合金上に保護酸化物表面層を生成する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護酸化物表面層を有するIV族金属又は合金成分であって、コア硬度を有する材料コアと、IV族金属又は合金の飽和レベルまで材料コアの硬度の120%を提供するレベルの範囲の固溶体中の酸素を有する拡散ゾーンと、成分の表面におけるIV族金属酸化物層とを含み、拡散ゾーンはIV族金属酸化物層と材料コアとの間にあり、
ここで、IV族金属酸化物層は、5μm~100μmの範囲の厚さ、炭素含有量、及び少なくとも650HV
0.005の断面硬度を有する上記IV族金属又は合金成分。
【請求項2】
拡散ゾーンが、IV族金属酸化物層の最低炭素含有量を超えるレベルで固溶体中の炭素を含む、請求項1に記載のIV族金属又は合金成分。
【請求項3】
IV族金属酸化物層が窒素を含有する、請求項1又は2に記載のIV族金属又は合金成分。
【請求項4】
成分が、同一条件下で摺動摩耗試験後に分析した場合に、請求項10~12のいずれか1項に記載のIV族金属酸化物層を有しない成分の体積損失の最大5%の体積損失を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のIV族金属又は合金成分。
【請求項5】
IV族金属又は合金が、チタン、チタン合金、ジルコニウム、及びジルコニウム合金からなるリストから選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載のIV族金属又は合金成分。
【請求項6】
IV族金属又は合金がアルミニウムを含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載のIV族金属又は合金成分。
【請求項7】
成分が、別の材料のコアを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のIV族金属又は合金成分。
【請求項8】
成分がチタン合金又は純水なチタンであり、少なくとも800HV
0.005の断面硬度を有する酸化チタン層を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のIV族金属又は合金。
【請求項9】
IV族金属又は合金がチタン/ニオブ合金である、請求項1~7のいずれか1項に記載のIV族金属又は合金。
【請求項10】
IV族金属又は合金がジルコニウム合金又は純粋なジルコニウムであり、成分が少なくとも1000HV
0.005の断面硬度を有する酸化ジルコニウム層を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のIV族金属又は合金。
【請求項11】
IV族の金属又は合金上に保護酸化物表面層を生成する方法であって、
-IV族金属又は合金のワークピースを提供する工程、
-IV族金属又は合金を、中間のIV族金属酸化物を提供する第1の酸化能力を有する炭素含有ガス種を用いて、500℃~900℃の範囲の温度で第1の酸化工程において酸化する工程、
-中間のIV族金属酸化物を、保護酸化物表面層を提供す第2の酸化能力を有する第2のガス種を用いて、300℃~900℃の範囲の温度で第2の酸化工程において酸化する工程であって、第2の酸化能力が第1の酸化能力よりも高い工程
を含む方法。
【請求項12】
炭素含有ガス種が、CO
2又はCO
2とCOの混合物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
炭素含有ガス種が、CO
2とCOの混合物であり、CO
2対CO及びCO
2の比率が、0.4~0.9の範囲である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第2のガス種が、N
2OもしくはO
2、又はN
2OとO
2の組合せである、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
第1のガス種及び/又は第2のガス種が水素含有種を含まない、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
第1の酸化工程が、700℃~800℃の範囲の温度で行われる、請求項11~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
第2の酸化工程が、600℃~700℃の範囲の温度で行われる、請求項11~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
酸化工程が、0.2時間~24時間の範囲の第1の反応持続時間を有する、請求項11~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
第2の酸化工程が、1時間~24時間の範囲の第2の反応持続時間を有する、請求項11~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
炭素含有ガス種がCO
2又はCO
2とCOとの混合物であり、第1の酸化工程温度が700℃~800℃の範囲であり、第1の反応持続時間が12時間~24時間の範囲であり、第2のガス種がN
2中の全N
2Oに対して20%~40%のN
2Oの比率であるN
2中のN
2Oであり、第2の酸化工程温度が600℃~700℃の範囲であり、第2の反応持続時間が12時間~24時間の範囲である、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
第1の酸化工程が、周囲圧力で炭素含有ガス種を用いて実施され、及び/又は第2の酸化工程が、周囲圧力で第2のガス種を用いて実施される、請求項11~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
第2のガス種及び/又は炭素含有ガス種が、N
2又は不活性ガスを含む雰囲気中に含まれる、請求項11~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
IV族金属又は合金が、チタン、チタン合金、ジルコニウム、及びジルコニウム合金からなるリストから選択される、請求項11~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
IV族金属又は合金が、チタングレード1~4、Zr7O
2、又はチタン/ニオブ合金である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
IV族合金がアルミニウムを含まない、請求項11~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
IV族金属又は合金上の保護酸化物表面層が、請求項1~10のいずれか1項に記載のIV族金属又は合金成分上にある、請求項11~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
請求項11~25のいずれか1項に記載の方法で得ることができる、請求項1~10のいずれか1項に記載のIV族金属又は合金成分。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IV族金属又は合金の硬化に関する。具体的には、IV族金属又は合金上に保護酸化物表面層を生成する方法、ならびに硬化IV族金属又は合金成分が提供される。この方法及び成分は、インプラント、特に歯科インプラントに有用である。
【背景技術】
【0002】
チタンは、ステンレス鋼に匹敵する引張強度を有する軽量金属であり、自然に酸素と反応して表面に酸化チタン層を形成し、耐食性を付与する。これらの特性は、航空宇宙、軍事、及び工業プロセスなどの多くの分野においてチタンを非常に魅力的にし、さらに、チタンは生体適合性であるため、チタンは、例えばインプラントなどの医療用途にも関連する。酸化チタンの自然に形成される層は、例えばナノメートルスケールの薄い層であり、特定の用途のために、酸化物層の厚さを増加させることが望ましい。酸化を制御する目的で、硬化チタンのいくつかの例が従来技術から知られている。
【0003】
米国特許出願公開第2003/041922号は、耐摩耗性を改善するためにチタン合金を強化する方法を開示している。本方法は、チタン合金をCO2雰囲気中で600~900℃で加熱して、C及びO原子をチタン合金中に拡散させるが、酸化チタンを形成しないことを含む。好ましい温度範囲は800~850℃であり、特に900℃を超える温度では酸化チタンが形成される。反応時間は0.5~50時間とすることができる。
【0004】
米国特許出願公開第2003/118858号は、チタン食器の表面処理方法を開示している。このプロセスでは、窒素を主成分とする混合ガスと酸素成分を用いて、700~800℃の温度でチタン内部の窒素と酸素を減圧下で拡散させる。混合ガスは、窒素ガス及び二酸化炭素ガス又は一酸化炭素ガスを含むことができる。この工程における処理温度は、窒素及び酸素成分とチタンとの反応によって化合物を形成することを避けるために重要であるが、食器は、例えば窒化物、炭化物、酸化物、ニトリド-炭化物又はチタンのニトリド-炭化物などの硬質コーティングフィルムでコーティングすることもできる。硬質コーティングフィルムは、イオンメッキを用いて提供することができる。
【0005】
JPH059702では、最外層に白色で剥離可能なスケール層が形成され、黒さと表面安定性の面で問題がある表面酸化によりチタンを硬化させる問題を扱っている。従って、低コストで十分な安定性を有する黒色表面硬化層を形成することができる方法が開示されている。チタン表面をCO2ガスで処理することにより、CとOはチタン表面層から内側に向かって高濃度に拡散し、元素CとOの両方が固溶した強固な硬化層となる。熱処理は500~950℃で行う。
【0006】
米国特許第4,478,648号は、チタン合金成分上に保護酸化物表面層を生成する方法を開示している。この方法では、不活性キャリアガス中の酸化剤として水蒸気又は二酸化炭素を含む気体混合物の存在下で、物体の表面を500~900℃の温度で処理する。酸化電位は、酸化剤の分圧を変化させることによって調節することができ、例えば、CO2の分圧は50ミリバール未満であってもよい。アルゴン中の20mbarの水蒸気を用いて800℃で4時間酸化すると、TiAl16V4上に厚さ10~15μmの緻密なTi2AlO3層が得られた。
【0007】
JPH0797676は、チタンボルト又はナットの表面処理方法を開示している。この方法では、CO2又は窒素ガスは、チタン材料の酸素及び炭素固溶体硬化を提供し、N2はチタンと反応して緻密な窒化層を形成する。
【0008】
WO2017/207794は、IV族金属、例えば、チタン合金の成分を、COとCO2、又はH2OとH2の混合物を用いて酸化する方法を説明しており、ここで、O2の分圧(pO2)は、COとCO2、又はH2OとH2の間の比率から、それぞれ決定することができる。具体的には、この方法は、金属酸化物、例えば、ルチル又はTiO2の存在なしに、金属上又は金属中に、純粋な形態でチタン上にマグネリ相を形成することを可能にする。マグネリ相の生成を例示し、COの分圧を減少させることにより(CO2と比較して)、マグネリ相におけるTi4O7の増加量を示した。
【0009】
米国特許出願公開第2005/234561号は、耐摩耗性チタン合金整形外科デバイスと、チタン合金デバイス内に酸素を深く拡散させることによって耐摩耗性チタン合金整形外科デバイスを形成する方法とを開示している。チタン合金デバイス内に酸素を深く拡散させることによって、チタンから形成されたデバイスを硬化させる方法も開示されている。
【0010】
GB2159542は、酸化雰囲気中で金属表面を処理することにより酸化保護層を生成する方法を開示しており、処理媒体のO2圧は、酸化ポテンシャルを支配し、酸化プロセス中に連続的に変化し、生成される酸化物の核形成及び成長速度を制御する。これは、結果として生じる酸化物層の密度の高い等方性構造をもたらし、欠陥濃度が最小となると考えられる。
【0011】
米国特許第6,328,819号は、高合金鉄物品を含む加工物においてさえ、実質的に均一な窒化物層を得るための金属加工物の熱処理方法を開示している。
【0012】
従って、従来技術は、酸化チタンの白色の頑丈な表面層を提供することができず、本発明は、この問題に対処することを目的とする。
【発明の概要】
【0013】
発明の開示
第1の態様では、本発明は、コア硬度を有するコア材料と、IV族金属又は合金の飽和レベルまで材料コアの硬度の120%の硬度を提供するレベルの固溶体中の酸素を有する拡散ゾーンと、IV族金属酸化物層と材料コアとの間の拡散ゾーンとを含むIV族金属又は合金成分に関する。IV族金属酸化物層は、5μm~100μmの範囲の厚さ、炭素含有量、及び少なくとも650HV0.005の断面硬度を有する。IV族金属酸化物層は、保護酸化物表面層とみなすことができる。したがって、本発明は、保護酸化物表面層を有するIV族金属又は合金成分を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は、IV族金属又は合金上に保護酸化物表面層を生成する方法に関し、本方法は、以下の工程:
-IV族金属又は合金のワークピースを提供し、
-IV族金属又は合金を、中間のIV族金属酸化物を提供する第1の酸化能力を有する炭素含有ガス種を用いて、500℃~900℃の範囲の温度で第1の酸化工程において酸化し、
-保護酸化物表面層を提供するための第2の酸化ポテンシャルを有する第2のガス種を用いて、第2の酸化工程において中間のIV族金属酸化物を、300℃~900℃の範囲の温度で酸化することを含み、この第2の酸化ポテンシャルは、第1の酸化ポテンシャルよりも高い。
【0015】
本発明の第1の態様のIV族金属又は合金成分は、本発明の第2の態様の方法で得ることができる。
【0016】
本発明は、IV族金属又は合金成分に関する。本発明に関連して、成分は、IV族金属又はIV族金属を50%(a/a)以上含有する合金から製造することができる。成分はまた、他の材料、例えば、別の材料のコアを含んでもよい。いかなるIV族金属も、本発明の両側面に適している。特定の実施形態では、IV族金属又は合金は、チタン、チタン合金、ジルコニウム及びジルコニウム合金のリストから選択される。本発明の文脈において、成分は、チタン合金、又はIV族金属から構成されてもよく、又は他の材料から構成されてもよい。例えば、成分は、別の材料、ポリマー、ガラス、セラミック又は別の金属のコア、及びチタン合金の外層を有してもよい。外層は、成分の外面を完全に覆う必要はない。成分は、例えば、本発明の方法で処理される前に、添加剤製造又は3Dプリントから調製することができる。本発明の方法で製造される保護酸化物表面層、及びIV族金属又は合金成分は、歯科インプラントに特に適している。歯科インプラントのための適切なIV族合金は、米国特許第8,168,012号に開示されており、これは参照により本明細書に組み込まれている。米国特許第8,168,012号のIV族合金は、ジルコニウム含有量が9.9重量%~19.9重量%及び0.1重量%~0.3重量%の二元単相チタン-ジルコニウム合金である。
【0017】
本発明の方法は、IV族金属又は合金の2段階酸化を表すものとみなすことができる。第1の酸化工程は、炭素含有ガス種を使用し、第2の酸化工程は、第1の酸化工程がIV族金属又は合金を酸化し、第2の酸化工程が第1の酸化工程で形成された中間のIV族金属酸化物を酸化するように、第2のガス種を使用する。本発明者らは、CO
2又はCO
2とCOの混合物のような低い酸化ポテンシャルを有する炭素含有ガス種、例えば、CO
2と、CO及びCO
2との比率が0.4~0.9以上の炭素含有ガス種を使用することにより、IV族金属又は合金の表面にIV族金属酸化物の緻密で安定な層、すなわち、IV族金属又は合金の緻密で安定な層が形成され、IV族金属酸化物の安定性により、IV族金属酸化物の中間体が、炭素含有ガス種よりも高い酸化ポテンシャルを有する第2のガス種を使用して、第2の酸化工程においてさらに酸化されることを、驚くべきことに発見した。対照的に、高い酸化電位を有する第2のガス種が、IV族金属又は合金と直接使用される場合、IV族金属酸化物の不安定な層が、IV族金属の表面上に形成される。例えば、純チタンを、例えば周囲圧で、N
2O、O
2又は空気で直接酸化すると、チタン金属を容易にスケールオフする層状酸化チタン層が生じることがある。例示的な層状酸化物層を
図16示す。理論に拘束されることなく、本発明者らは、炭素含有ガス種が中間のIV族金属酸化物にある量の炭素を導入し、これは、低い酸化電位と共に、層化することなく、緻密で安定なIV族金属酸化物の形成を可能にし、その結果、IV族金属酸化物は、より高い酸化電位を有する第2のガス種によってさらに酸化されて、保護酸化物表面層を生成することができると考えている。中間のIV族金属酸化物層の炭素含有量は、中間のIV族金属酸化物層の厚さにわたって検出可能であるが、例えば、厚さにわたって安定した濃度として検出可能であるが、第2の酸化工程は、驚くべきことに、中間のIV族金属酸化物層から成分の表面付近の保護IV族金属酸化物表面層の領域に炭素を再分配し、それによって濃縮することが見出された。理論に拘束されることなく、本発明者らは、炭素を再分配すること、例えば、表面付近に炭素を濃縮することは、中間のIV族金属酸化物表面層と比較して、保護IV族金属酸化物表面層の耐摩耗性を増大させると考えている。炭素含有量は、任意の適切な技術を用いて検出することができる。例えば、本発明の成分のGDOES分析は、中間のIV族金属酸化物の厚さにわたる炭素含有量、及び保護酸化物表面層中の検出可能な炭素含有量を示す。保護酸化物表面層中の炭素含有量は、保護酸化物表面層の厚さにわたって検出可能であり得る。他の関連分析は、X線光電子分光法(XPS)、二次イオン質量分析(SIMS)及びオージェ電子分光法である。例示的なGDOES分析を
図10~14に示す。
図13と14の比較は、炭素含有量が本発明の成分の表面に向かってどのように移動したかを示している。従って、分析の約100秒から300秒まで
図14の炭素含有量は減少し、一方、
図13の炭素含有量は表面から拡散ゾーンまで増加するように見える。
【0018】
第1の酸化工程において実質的に純粋なCO2を使用することにより、IV族金属酸化物を安定化し、IV族金属酸化物のさらなる酸化を可能にするのに充分な炭素を中間のIV族金属酸化物に提供する。しかしながら、第一酸化工程におけるCOの含有量を増加させることにより、中間のIV族金属酸化物中の炭素の含有量は比例して増加する。中間のIV族金属酸化物中の炭素含有量がより高いと、最終保護酸化物表面層に暗色を付与することができ、それによって、本発明の成分は、より暗色が関連する特定の用途のために設計することができる。
【0019】
本発明の方法は、炭素含有ガス種及び第2ガス種を使用し、それぞれの反応条件は、反応性雰囲気とも呼ばれ得る。用語「炭素含有ガス種」及び「第2ガス種」は、酸化反応に関する活性化合物を指し、反応雰囲気は、酸化反応において活性でない他の分子、例えば、気体分子を含んでもよい。ガス状分子は、不活性な分子、例えば希ガス、又は酸化を引き起こさずにIV族金属又は合金と相互作用し得る分子、例えばN2を含み得る。第1の酸化工程において、IV族金属又は合金には中間のIV族金属酸化物が提供される。一般に、ガス状N2は、第1及び第2の酸化工程の両方において、関連する温度で、IV族金属及び合金と反応する。しかしながら、第2の酸化工程において、N2は、IV族金属に直ちに到達することはできないが、N2は、IV族金属酸化物に窒素を含む。本発明者らは、保護酸化物表面層の色を白色から壊れた白色に調整するために窒素を用いることができることを驚くほど発見した。特に、大気中のN2含有量が高いほど、例えば第2の酸化工程では、保護酸化物表面層の色が黄色くなる。したがって、本発明の方法は、インプラントの色が、インプラントが設計された患者の歯の色と密接に整合することができる歯科インプラントの製造に特に適している。本発明の実施形態において、第2の酸化工程及び/又は第1の酸化工程は、N2を含む雰囲気中で実施される。N2が存在する場合、特に第2の酸化工程において、保護酸化物表面層は、保護酸化物表面層の厚さにわたって窒素含有量を有し、この含有量は、厚さにわたって一般に安定である。窒素含有量は、任意の適切な分析方法、例えば、GDOES又はXPSを用いて同定することができる。
【0020】
本発明の成分は、摩耗に対して耐性であり、特に、処理された表面は、破砕に関して問題を経験しない。具体的な実施形態では、部品は、磨耗試験で分析され、部品と同じIV族金属の未処理サンプルと比較される。従って、成分は、同じ条件下、例えば、同一条件下で摺動摩耗試験後に分析した場合に、本発明の成分のIV族金属酸化物層を有しない成分の体積損失の最大5%の体積損失を有することができる。成分は、本発明の方法で得ることができ、本発明の方法における処理前の加工物は、本発明の成分と比較することができる。ワークピースは、IV族金属酸化物層を有しないことを除き、成分と同一であるべきである。本発明の特定の実施形態では、成分の体積損失は、同じ方法を用いて分析した場合、未処理の加工物の体積損失の最大2%又は最大1%、又は最大0.5%である。任意の摩耗試験が適切である。摺動摩耗の例示的な試験は、ASTM G99-17試験(「ピンオンディスク装置による摩耗試験の標準試験方法」)である。分析はまた、他のアプローチを用いて実施することもできる。特に、本発明の成分の摩耗は、未処理の加工物の摩耗と比較されるため、任意の試験が適切である。例えば、本発明の成分及び未処理サンプルは、以下のように処理することができる:本発明の成分と同じ第IV族金属又は合金の未処理サンプルを提供すること、成分及び未処理サンプルを、リンガー溶液中の円盤摩擦試験を使用する摩耗抵抗分析に付すこと。具体的には、摩耗カウンターパートは、0.12g/lのCaCl2、0.105g/lのKCl、0.05g/lのNaHCO3及び2.25g/lのNaClを含むリンガース試液中で、全速0.5cm/sの速度で、回転サンプルディスク上に直径5NのAl2O3ボールを装填した6mm径とすることができる。摩耗は、2つのサンプルの体積損失として定量化することができ、本発明の成分の体積損失は、未処理サンプルと比較することができる。
【0021】
第2の酸化工程は、例えば、
図1も示されるように、第1の酸化工程によって得られる硬度よりも有意に高い硬度を提供しない。しかしながら、成分の表面近くの保護酸化物表面層中の増加した炭素含有量は、中間酸化物表面層から入手可能なものよりも高い耐摩耗性を提供すると信じられている。一実施形態によると、IV族金属酸化物層の断面硬度は、少なくとも700HV
0.005、例えば少なくとも800HV
0.005である。例えば、IV族金属又は合金は、チタン合金又は純チタンであってもよく、成分は、少なくとも800HV
0.005の断面硬度を有する酸化チタン層を有してもよい。実施形態において、IV族金属又は合金は、例えば、グレード4又はグレード2のチタンであり、成分は、少なくとも800HV
0.005の断面硬度を有する酸化チタン層を有する。一般に、酸化ジルコニウムは酸化チタンよりも硬く、他の実施形態では、IV族金属又は合金はジルコニウム合金又は純粋なジルコニウムであり、成分は少なくとも1000HV
0.005の断面硬度を有する酸化ジルコニウム層を有する。実施形態において、IV族金属又は合金はジルコニウムであり、成分は少なくとも1000HV
0.005の断面硬度を有する酸化ジルコニウム層を有する。
【0022】
本発明の方法における両酸化工程は、900℃までの温度で実施される。したがって、IV族金属又は合金、特にチタンは、処理中変形せず、最終的な形状の加工物を本発明の方法で処理することができる。
【0023】
最初の酸化工程では、500℃以下の温度では酸化物は生成しないので、少なくとも500℃の温度が必要である。一般に、温度が高いほど、ガス種はより反応性が高い。特に、第1の酸化工程における900℃を超える温度での処理は、過剰な酸化物形成をもたらし、その結果、IV族金属又は合金の表面に安定な中間のIV族金属酸化物層が形成されない。第1の酸化工程は、好ましくは、700℃~800℃の範囲の温度で実施される。800℃までの温度は、800℃を超える温度よりもより安定な中間の第4族金属酸化物を提供し、第1の酸化工程のための特に好ましい温度範囲は、720℃~780℃、例えば、約750℃である。
【0024】
第2のガス種は、炭素含有ガス種よりも高い酸化電位を有するので、第2の酸化工程は、第1の酸化工程よりも低い温度で行うことができる。例えば、第2のガス種は、300℃の温度で中間のIV族金属酸化物に対して反応性であり、具体的な実施形態では、第2の酸化工程の温度は、第1の酸化工程の温度よりも低い。これにより、よりコスト効率の高いプロセスが得られる。第2の酸化工程は、好ましくは、600℃~700℃の範囲の温度で実施される。700℃までの温度は、700℃を超える温度よりもより安定な第4族金属酸化物を提供する。第2の酸化工程のための特に好ましい温度範囲は、620℃~680℃、例えば約650℃である。
【0025】
特定の好ましい実施形態では、第1の酸化工程は700℃~800℃、例えば720℃~780℃の範囲の温度で行われ、第2の酸化工程は600℃~700℃、例えば620℃~680℃の範囲の温度で行われる。
【0026】
本発明の方法は、IV族金属又は合金上に白色保護酸化物表面層を形成することを可能にする。アルミニウムがIV族合金中に存在する場合、合金中に存在するIV族金属の安定な中間酸化物が形成され、中間のIV族金属酸化物が保護酸化物表面層に変換され得るが、本発明者らは驚くべきことに、本発明の方法では白色表面が得られないことを見出した。理論に拘束されることなく、本発明者らは、アルミニウムが合金中に存在するIV族金属よりも強い酸化物を形成し、それによって白色保護酸化物表面層の形成を防止すると信じる。しかしながら、避けられないアルミニウムの不純物は、IV族金属又は合金の白色酸化物の形成に問題を引き起こさない。好ましい実施形態では、IV族金属又は合金はアルミニウムを含まない。
【0027】
IV族金属又は合金を炭素含有ガス種で処理すると、IV族金属又は合金中に酸素が溶解し、拡散ゾーンが形成される。IV族金属又は合金中の固溶体中の酸素原子は、IV族金属又は合金を硬化させ、拡散ゾーンがIV族金属又は合金のコアよりも高い硬度を有するようにする。一般に、拡散ゾーンは、酸素が測定され得るIV族金属又は合金の表面から深さまで、及び拡散ゾーンと中間のIV族金属酸化物との間の界面で、IV族金属又は合金は酸素で飽和される。酸素含有量が飽和レベルを超えると、中間のIV族金属酸化物が形成される。チタンの場合、拡散ゾーンは1wt%から14wt%の範囲の酸素含有量を有する。IV族金属又は合金の硬度は、固溶体中の酸素含有量と直接相関する。例えば、純粋なチタン、例えばグレード2の場合、コア硬度、すなわち、溶存酸素なしでは、約200HV0.05(純粋なチタンの場合)であってもよく、酸素で飽和したチタンは、約1000HV0.05の硬度を有してもよい。本発明の文脈において、拡散ゾーンとコアとの間の限界は、従って、微小硬度がコア硬度より20%高い表面からの深さとして、任意のIV族金属又は合金について検出することができる。
【0028】
本発明の成分は、コア硬度を有するコア材料、IV族金属又は合金の飽和レベルまで材料コアの硬度の120%の硬度を提供するレベルの固溶体中の酸素を有する拡散ゾーン、及び成分の表面におけるIV族金属酸化物層を有し、拡散ゾーンはIV族金属酸化物層と材料コアとの間にある。拡散ゾーン及び酸化物層は、例えば顕微鏡を用いた目視観察によって、成分の断面において容易に同定でき、拡散ゾーンは、断面硬度によってさらに規定できる。3つのゾーンはすべて、GDOES分析を用いてさらに定義することができる。例えば、GDOESは、異なる層内の異なる要素のレベルの相対的比較を提供するために使用することができる。最初の酸化段階における炭素含有ガス種による処理は拡散ゾーンに炭素を導入することを見いだした。理論に拘束されることなく、本発明者らは、拡散ゾーン内の炭素含有量は、中間酸化物層とコア金属とのより強い統合を提供し、それにより、層状酸化物層の形成を防止すると考える。第2の酸化段階では、中間酸化物層中の炭素は成分の表面に向かって移動するが、拡散ゾーン中の炭素は移動しない。これにより、成分のIV族金属酸化物層は、コア金属と等しく強く一体化され、IV族金属酸化物層は、表面付近の炭素含有量のため、中間酸化物層と比較して耐摩耗性が増大する。したがって、本発明の方法は、コア金属と強く一体化された耐摩耗性のIV族金属酸化物層を有する成分を提供する。拡散ゾーンの炭素含有量を
図13及び
図14に図示する。具体的な実施形態では、拡散ゾーンは、例えばGDOESを用いて測定されるように、IV族金属酸化物層の炭素含有量より高いレベルで固溶体中の炭素を含有する。拡散ゾーン内のより高いレベルの炭素は、拡散ゾーン上の酸化物層のより安定な集積を提供し、それによって安定性をさらに増大させると考えられる。
【0029】
第2の酸化工程中の炭素の再配置は、成分のIV族金属酸化物層、即ち保護酸化物表面層中の最小炭素含有量を作り出すことができる。例えば、最小炭素含有量は、保護酸化物表面層の表面付近の炭素含有量よりも低い。最小炭素含有量は、典型的には、保護酸化物表面層の厚さの50%~90%の範囲の表面からの深さで検出可能である。
【0030】
本発明の方法は、炭素含有ガス種及び第1の酸化電位及び第2の酸化電位をそれぞれ有する第2のガス種を使用する。第2の酸化電位は第1の酸化電位よりも高い。本発明の文脈において、酸化電位は、他の点では同一の条件下で、2つのガス状種で参照サンプルを酸化し、処理後の酸化物層の厚さを比較することによって決定することができる。酸化物層が厚ければ厚いほど、酸化電位は高くなる。具体的には、ガス状種の酸化電位は、純粋なIV族金属(例えば、グレード1、2、3又は4のような純粋なチタン)の参照サンプルを提供する工程、ガス状種を用いて参照サンプルを850℃で酸化する工程、酸化物層の厚さを測定する工程、及び酸化で得られる酸化物層の厚さを比較する工程で決定することができる。任意に、多数の参照サンプルを異なる持続時間で分析することができ、例えば、4~6の参照サンプルを10分~1000分の範囲の期間にわたって分析する。
【0031】
概して、一般に使用されるガス種は、それらの酸化電位に応じて、CO
2<O
2<N
2Oとして列挙することができる。CO
2、大気、O
2、N
2Oの酸化電位を
図2に示す。H
2Oは、酸化性ガス種としても考えられる。しかしながら、第1の酸化工程及び第2の酸化工程、特に第1の酸化工程における反応性雰囲気は、水素が中間体であるIV族金属酸化物の安定性を低下させる可能性があるので、水素含有種を含まないことが好ましい。さらに、IV族金属又は合金中の間隙水素の存在は、望ましくないIV族金属又は合金の脆化をもたらす。したがって、水素含有ガス種を使用しないことが好ましい。
【0032】
ガス種の酸化電位は、ガス種の分圧を減少させることによって減少させることができ、ガス種の酸化電位は、ガス種の分圧を増加させることによって増加させることができる。分圧は、反応中の全圧を増加又は減少させることによって変化させることができる。しかしながら、周囲圧力で酸化反応を行うことが好ましい。周囲圧力での操作は、変更された圧力での操作と比較して、プロセスを簡単にする。あるいは、ガス種の分圧は、更なる気体分子、例えば不活性ガスを含むことによって低下させることができる。好ましい不活性ガスはアルゴンであるが、任意の希ガスを使用することができる。
【0033】
第1及び第2の酸化工程で使用される圧力は、自由に選択することができる。例えば、第1の酸化工程における炭素含有ガス種は、さらなるガス種が存在することなく使用することができ、圧力、すなわち、炭素含有ガス種の圧力は、周囲圧力であってもよい。しかしながら、炭素含有ガス種、例えば炭素含有ガス種の圧力を低下させることも可能であり、例えば、炭素含有ガス種の分圧は、更なるガス種、例えば不活性ガスの存在のために低下されている。炭素含有ガス種が、さらなるガス種が存在することなく、減圧された全圧力で存在することも可能である。また、全圧は、さらなるガス種の存在に関わらず、増加させてもよい。例えば、炭素含有ガス種は、0.1バール~5バールの範囲の圧力であってもよい。同様に、第2のガス種は、0.1バール~5バールの範囲の圧力、例えば周囲圧力であり得、圧力は、さらなるガス種、例えば、アルゴンのような不活性ガスを含むことによって、及び/又は全圧力を変えることによって制御され得る。
【0034】
具体的な実施形態では、ガス種を含む炭素はCO2である。別の実施形態では、ガス種を含む炭素は、CO2及びCOの混合物である。具体的には、ある種のガス種は、例えば、気相中の他の種との反応に関与することができる。例えばCO2とCOは反応に関与することができ、この反応はガス種の量を変えることによって酸化電位を変えることができる。例えば、ガス種を含む炭素は、CO2とCOの混合物であってもよく、関連する温度では、CO2とCOは、下記に特定される反応1及び反応2に関与する
反応1 CO(g)+1/2O2(g)=CO2(g)
反応2 2CO(g)=CO2(g)+C
【0035】
概して、COは酸化力を持たない炭素供給分子であるが、CO
2は酸化力を持つと考えられている。したがって、CO
2のみの酸化雰囲気は純粋な酸化を提供すると考えられるが、100%COは無限に高い炭素活性に対応すると考えられる。たとえば、
図3は、純チタンを840℃でCOで処理しても酸化膜が形成できないことを示し、O
2の分圧(pO
2)と炭素(a
c)の活性は、式1及び式2から決定することができ、そのため、O
2の分圧は、
【0036】
【0037】
であり、炭素の活性は、
【0038】
【0039】
であり、式中、ΔG1=282.200+86.7T(J)、ΔG2=170.550+174.3T(J)である。
【0040】
CO2とCOの混合物を使用することにより、第1の酸化電位を低下させることができ、従って、ガス状種の酸化電位、例えば、CO2とCOの混合物として調整することができ、また、IV族金属酸化物、例えば、酸化チタン中のO及びCの含有量を制御することもできる。第1の反応性ガス種がCOを含有する場合、COの炭素活性は、炭素原子を間隙的にIV族金属又は合金に溶解する。炭素は、一般に、酸素を含むが炭素を含まない拡散ゾーンと比較して、酸素含有拡散ゾーンの微小硬度を増加させる。さらに、理論に拘束されることなく、本発明者らは、中間のIV族金属酸化物中の炭素は、中間のIV族金属酸化物をさらに安定化させ、それによって、CO2のみを炭素含有ガス種として使用する場合と比較して改良された工程を生じると考える。具体的な実施形態では、したがって、ガス状種を含む炭素は、CO2及びCOの総量に比べてCO2が40%~90%であるCO2及びCOの混合物である。別の実施形態では、ガス状種を含む炭素は、CO2及びCOの総量と比較して40%~60%のCO2を有するCO2及びCOの混合物である。
【0041】
拡散ゾーンの形成は、第1の酸化工程が開始されると直ちに開始し、反応持続時間の後に、酸素原子は、IV族金属又は合金のコアと中間のIV族金属酸化物との間に拡散ゾーンがあるように、中間のIV族金属酸化物を形成する。第1の酸化工程の反応持続時間は、第1の反応持続時間とも呼ばれ得る。一般に、中間のIV族金属酸化物の十分な層を形成するためには、少なくとも0.2時間、例えば少なくとも1時間の反応持続時間が必要である。拡散ゾーン及び中間のIV族金属酸化物の両方の厚さは、反応持続時間に依存する。第2の酸化工程は、一般に、IV族金属酸化物層の厚さを増加させない。IV族金属への元素の溶解は放物線状であると考えられ、溶解深さの倍化は4倍長い反応持続時間を必要とする。しかし、最初の酸化工程の反応持続時間は30時間を超えてはならない。硬化表面層、例えば、IV族金属酸化物層は、20μm~100μmの範囲の厚さを有することが好ましく、例えば、本発明の実施形態では、第1の酸化工程の反応持続時間は、1時間~24時間の範囲である。好ましい実施形態において、第1の酸化工程の反応持続時間は、12時間~24時間の範囲、例えば14時間~18時間である。
【0042】
第2の酸化工程は、外部のIV族金属酸化物層を提供し、第2の酸化工程は、反応持続時間、すなわち第2の反応持続時間にわたって実施することができる。一般に、0.5時間の第2の反応持続時間は、十分な外部のIV族金属酸化物層を提供する。第2の反応持続時間は、1時間~24時間の範囲、例えば12時間~20時間であることが好ましい。
【0043】
具体的な実施形態では、炭素含有ガス種は、CO2又はCO2及びCOとの混合物であり、例えば、CO2と、COおよびCO2との比率が0.4~0.9の範囲であり、第1の酸化工程温度は700~800℃、例えば、720~780℃の範囲であり、第1の反応持続時間は12時間~24時間の範囲であり、第2のガス種はN2O又はO2であり、第2の酸化工程温度は600~700℃、例えば、620~680℃の範囲であり、第2の反応持続時間は12時間~24時間の範囲である。この実施形態において、IV族金属又は合金は、チタン、例えばグレード1~4、ジルコニウム、例えば、Zr702、又はチタン/ニオブ合金、例えば、13TiNb13Zrであり得る。特定の合金元素は、α-β転移(Tβ)温度を上昇又は低下させることができ、特定の合金元素は、IV族合金に含まれてもよい。
【0044】
具体的な実施形態では、炭素含有ガス種は、CO2又はCO2とCOとの混合物であり、例えば、CO2と、CO及びCO2との比率が0.4~0.6の範囲であり、第1の酸化工程温度は700~800℃、例えば、720~780℃の範囲であり、第1の反応持続時間は12時間~24時間の範囲であり、第2のガス種はN2中でN2の20~40%N2Oの比率でN2中であり、第2の酸化工程温度は600~700℃、例えば、620~680℃の範囲であり、第2の反応持続時間は12時間~24時間の範囲である。この実施形態において、IV族金属又は合金は、チタン、例えばグレード1~4、ジルコニウム、例えばZr702、又はチタン/ニオブ合金、例えば13TiNb13Zrであり得る。
【0045】
成分は、本発明の方法において入手可能であり、特に、本発明の方法において提供される成分に関して観察されるすべての利点は、本発明の成分にも関連し、方法の態様に関して上述された特徴及び対応する利点も、成分に関連する。
【0046】
一般に、本発明の任意の態様及び実施形態に関する全てのバリエーション及び特徴は、自由に組み合わせることができる。従って、本方法について上述した特徴は、本発明の成分に等しく関連する。
【0047】
以下では、本発明を、例を用いて、また、以下の概略図を参照して、より詳細に説明する。図面への言及は、本発明を説明するのに役立ち、図示されるように、特徴を特定の実施形態に限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】
図1は、中間層及び表面酸化物層としての酸化チタンの硬度を示す。
【
図2】
図2は、ある範囲のガス種の酸化電位を示す。
【
図5】
図5は、第1の酸化工程後のチタンの断面図を示す。
【
図6】
図6は、第2の酸化工程後のチタンの断面図を示す。
【
図7】
図7は、第1の酸化工程後のチタンの断面図を示す。
【
図8】
図8は、第2の酸化工程後のチタンの断面図である。
【
図9】
図9は、本発明により硬化されたチタンの断面における硬度分析を示す。
【
図10】
図10は、未処理チタンのグロー放電光発光分光法(GDOES)を示す。
【
図11】
図11は、本発明の第1の酸化工程で処理されたチタンのGDOESを示す。
【
図12】
図12は、本発明により硬化されたチタンのGDOESを示す。
【
図15】
図15は、本発明により硬化されたチタンの分光光度分析を示す。
【
図16】
図16は、O
2を用いて酸化したチタンサンプルの断面図を示す。
【
図17】
図17は、本発明のジルコニウム成分の断面図を示す。
【
図18】
図18は、本発明のジルコニウム成分、ジルコニウム及び中間酸化ジルコニウムの硬度を示す。
【
図19】
図19は、本発明の第1及び第2の酸化工程後のTi13Nb13Zrの加工物及び加工物の硬度分析を示す。
【
図20】
図20は、本発明の第1及び第2の酸化工程後のTi13Nb13Zrの加工物及び加工物の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
発明の詳細な説明
本発明は、成分の表面にIV族金属酸化物層を有するIV族金属又は合金成分上に保護酸化物表面層を形成する方法に関する。
【0050】
本発明の文脈において、「IV族金属又は合金」は、元素の周期表のチタン基から選択される任意の金属又はチタン基からの少なくとも50%の金属を含む合金である。したがって、「チタン合金」とは、少なくとも50%(a/a)のチタンを含有する任意の合金であり、同様に「ジルコニウム合金」とは、少なくとも50%(a/a)のジルコニウムを含有する任意の合金である。本発明の方法及び本発明の成分については、少なくとも50%(a/a)のチタン及びジルコニウムの合計を含むいずれかの合金が適切であると考えられる。同様に、合金は、少なくとも50%(a/a)のチタン、ジルコニウム、及びハフニウムの合計を有する任意の合金が本発明に適切であるように、元素の周期表のIV族のメンバーであるハフニウムを含んでもよい。
【0051】
本発明に関連する合金は、他の適切な元素を含んでもよく、本発明の文脈において、「合金元素」は、合金中の金属元素、又は合金中の任意の成分を指すことができる。チタン及びジルコニウム合金は、当業者に周知である。
【0052】
少なくとも約99%(w/w)のチタンを含有するあらゆる等級のチタンは、本発明の文脈において、「純粋なチタン」、例えば、グレード1のチタン又はグレード2のチタンと考えられる。従って、純粋なチタンは、約1%(w/w)までの微量元素、例えば、酸素、炭素、窒素、又は鉄のような他の金属を含有することができる。特に、本発明に関連するIV族金属又は合金に含まれる窒素及び炭素は、避けられない不純物を表すことができる。「やむを得ない不純物」として存在する元素は、本発明の方法に従って処理された加工物又は本発明の成分に効果を与えないと考えられる。同様に、少なくとも約99%(w/w)のジルコニウムを含有するあらゆるグレードのジルコニウムは、本発明の文脈において、「純粋なジルコニウム」と考えられる。
【0053】
金属又は合金についてパーセンテージが記載される場合、パーセンテージは、特に断らない限り、材料の重量、例えば、重量%である。ある大気について百分率が記載されている場合、その百分率は、特に断らない限り、例えば%(v/v)で示されるような体積で表される。同様に、特に断らない限り、ガスの混合物の組成物は、原子ベースであってもよく、次いで、パーセンテージ又はppm(パーセント/百万分率)で提供してもよい。
【0054】
本発明の方法は、ガス種を使用する。特に、本方法は、酸化電位を有するガス種を使用する。酸化能力を有するガス種は、酸化性種又は酸化性ガス種とも呼ばれ得る。本方法はまた、さらなるガス状分子、例えば酸化しない不活性ガス状分子を使用することもできる。特に断らない限り、「ガス種」は酸化種である。酸化性化学種が他の化学種との反応に関与する場合、酸化性化学種と他の化学種との混合物は「気体化学種」と総称することができる。例えば、気体化学種を含む炭素は、CO2とCOの混合物とすることができる。
【0055】
本発明の文脈では、硬度は、一般に、DIN EN ISO 6507標準に従って測定されるHV0.05である。特に言及しない場合、ユニット「HV」は、従って、この標準を指す。硬度は、好ましくは、例えば、処理されたIV族金属又は合金の断面について記録され、測定の表面からの深さに関して記録され得る。断面における硬度測定は、「微小硬度」とも称することができ、表面における硬度測定は、「マクロ硬度」とも称することができる。
【0056】
微小硬度測定は、断面内のマイクロスケールで測定されるので、一般に試験条件とは無関係である。微小硬度測定は、典型的には、25gの負荷、すなわちHV0.025、又は50g、すなわちHV0.05で実施される。対照的に、マクロ硬度は、HV0.5に対応する、より高い荷重、例えば0.50kgを有する表面から実施することができ、その結果、測定は、それぞれの材料及びそれが含有する任意の表面層の硬度の全体値を表す。25g又は50gの負荷での微小硬度測定は、典型的には、同じ値「HV」を提供するが、25gでの測定は、測定が断面内のより少ないスペースを必要とするので好ましい。
【0057】
断面で硬度を記録する場合、測定は、印加された圧力の方向に関して均一なサンプルを表すものとみなされる。対照的に、表面での測定から硬度が得られる場合、測定は、硬度のいくつかの異なる値の平均、すなわち異なる深さで表すことができる。本発明の文脈において、約1μmの深さで断面に記録された硬度測定は、材料の表面の実際の硬度を提供すると考えられる。酸素が表面から溶解するという事実の効果として、溶存酸素の含有量は、表面からIV族金属又は合金のコアに向かって減少し、同様に、硬度は、例えば、約1μmの深さの断面における硬度を測定することによって表されるように、表面で最大となる。
【実施例】
【0058】
比較例1
円筒状(φ10mm)グレード2のチタンサンプルをNetzsch 449熱分析器(炉)で処理した。実験では、炉を真空にし、アルゴンガスで2回充填し、10ml/分Arと40ml/分COからなる連続ガス流を適用した。サンプルを同じガス混合物中で20℃/分の速度で840℃に加熱し、そこで16時間保持された温度に到達した。流動プロセスガス中で50℃/分で冷却した。この処理により、
図3から分かるように、目に見える酸化チタン相を伴わない拡散ゾーンが形成された。したがって、酸化種COの存在なしには、単独で酸化物層を提供することはできない。
【0059】
実施例1
直径15mm、厚さ2mmの円筒試験サンプルを酸化雰囲気中で処理した。試験サンプルはCPチタングレード2であった。酸化は、O2、Air、N2O、又はCO2のいずれかの雰囲気中で、850℃で16分間~900分間実施した。
【0060】
O2中での酸化のために、試験サンプルをNETZCH STA449 F3炉に入れた。加熱炉を排気し、O2で埋め戻した。63ml/分の連続ガス流を使用した。N2を5ml/分の流量で保護ガスとして使用した。試験サンプルを30K/分の速度で850℃に加熱した。炉を850℃に16分間保持した後、20K/分の速度で炉を室温に冷却した。実験は、炉を850℃で36分間、64分間、400分間、及び900分間保持するように繰り返した。
【0061】
空気中での酸化のために、試験サンプルをNabertherm LE4/11 R6炉に入れた。次いで、試験サンプルを30K/分の速度で850℃に加熱した。炉を850℃に16分間保持した後、試験サンプルを炉から取り出し、室温まで冷却した。炉内の雰囲気は空気であった。実験は、炉を850℃に保ち、25分後、36分後、49分後、64分後、400分後、900分後にサンプルを取り出して繰り返した。
【0062】
N2O中での酸化のために、試験サンプルをNETZCH STA449 F3炉に入れた。次いで、炉を真空にし、N2で埋め戻した。周囲圧力に到達すると、15ml/分の連続ガス流でN2Oを添加した。N2は、30ml/分の流量で保護ガスとして保護ガスとして使用された。試験サンプルを30K/分で850℃に加熱した。加熱炉を850℃に16分間加熱し、その後、20K/分の速度で炉を室温に冷却した。実験を850℃に25分間、36分間、49分間、64分間、225分間、400分間、及び900分間加熱した。
【0063】
CO2中での酸化のために、試験サンプルをNETZCH STA449 C加熱炉に入れた。次いで、炉を真空にし、CO2で埋め戻した。50ml/分の連続ガス流を使用し、試験サンプルを30K/分の速度で850℃に加熱した。炉を850℃に16分間保持した後、20K/分の速度で炉を室温に冷却した。N2を5ml/分の流量で保護ガスとして使用した。実験を25分間、36分間、49分間、64分間、400分間、及び900分間、炉を850℃に保った状態で繰り返した。
【0064】
表面はCPチタングレード2試験サンプルの表面上に酸化物層を示した。試験サンプルを半分に切断し、包埋し、研磨した。光学顕微鏡を用いて、酸化物層の厚さを測定し、
図2にプロットした。試験したガスについて得られた厚さは、試験したガスの酸化電位を表すと考えられた。すなわち、酸化物層が厚ければ厚いほど、酸化電位は高くなる。したがって、酸化物層の厚さは、処理時間の増加と共に直線関係を示し、使用した4つの異なる雰囲気間の酸化電位の明らかな差異を示した。したがって、試験ガスの酸化電位は、CO
2<空気<O
2<N
2Oの順に並べることができる。
【0065】
実施例2
直径15mm、厚さ2mmの純チタン(グレード2)のサンプルを、第1の反応種としてCO2を用いて、650℃、700℃又は750℃で16時間処理し、次いで、第2の反応種としてN2Oを用いて、750℃で64分又は400分間酸化した。両方の酸化を周囲圧力で行った。具体的には、最初の酸化工程をMTI OFT-1200ガラス管炉で行った。試験サンプルを12K/分の速度で試験温度に加熱する前に、炉を真空にし、50ml/分の連続ガス流でCO2で埋め戻した。第2の酸化工程は、NETZCH STA449 F3炉で実施した。炉内にサンプルを置いた後、炉を真空にし、N2で埋め戻した。15ml/分N2Oの連続気流を使用した。N2を30ml/分の流量で保護ガスとして使用した。炉を750℃、700℃、又は650℃で400分又は64分間保持した後、炉を20K/分で室温まで冷却した。
【0066】
2回の酸化後、サンプルを表面硬度(HV
0.010)について分析した。比較のために、第2の酸化工程に曝露されていないサンプルもまた、表面硬度について分析された(このサンプルは、750℃でCO
2中で処理された)。硬度の測定値は
図1に示され、標準偏差の測定値を「箱」に、信頼区間(α=0.05)を「棒」に示す。従って、中間酸化チタンと保護酸化物表面層は、コア硬度(約300HV)よりかなり硬かった。第2の酸化工程処理は、第1の酸化工程よりも表面上の外部酸化チタン層に対して有意に高い硬度を提供しなかった。中間酸化チタンは緻密で頑丈であったが、保護酸化物表面層は中間酸化チタン層よりも高い耐摩耗性を有した。
【0067】
実施例3
純チタンのサンプルは、本発明に従って又はN2Oのみを用いた処理で硬化させた。具体的には、第1の酸化工程において、サンプルをMTI OFT-1200ガラス管炉に入れ、適切なガスを排気し、充填した。200ml/分の連続ガス流を使用し、試験サンプルを12K/分の速度で加熱した。この最初の工程の後、炉を単独で室温まで冷却した。第2の酸化工程での処理は、同じ炉を使用したが、第1の酸化工程とは別に行った。中間ワークを炉内に置いた後、炉を排気し、300ml/分の連続ガス流で適切なガスで埋め戻し、中間ワークピースを12K/分の速度で加熱した。第2の酸化工程の後、炉の成分を、補助なしで室温まで冷却した。
【0068】
従って、サンプルを、大気圧でCO2中で16時間、780℃で処理し、次いで、680℃で3時間、同様に周囲圧でN2O処理した。CO2による硬化を伴わないN2O単独での処理を、880℃で16時間行った。Ringers溶液中でボールオンディスクトライボロジー試験を実施することにより、処理サンプル及び未処理チタンサンプルを耐摩耗性について分析した。具体的には、摩耗カウンターパートは、直径6mmのAl2O3ボールに、回転サンプルディスクに5Nの垂直力を負荷し、0.5cm/sの速度で、合計50メートルであった。試験溶液は、0.12g/lのCaCI2、0.105g/lのKCl、0.05g/lのNaHCO3及び2.25g/lのNaClを含むリンガー溶液であった。結果を表1に示す。
【0069】
【0070】
表1から分かるように、本発明による硬化は、未処理サンプルと比較して、耐摩耗性を有意に改善した。対照的に、N2Oにおける処理は未処理サンプルよりも性能が悪かった。具体的には、880℃のN2O中での処理は、破砕に対して非常に感受性の高い層状酸化チタン層を生じた。対照的に、本発明の成分は、未処理の加工物の体積損失の0.35%の体積損失を有した。
【0071】
実施例4
直径15mm、厚さ2mmの市販純(CP)チタン(グレード2及び4)のサンプルを本発明に従って硬化した。最初の酸化工程において、サンプルをMTI OFT-1200ガラス管炉に入れた。炉を真空にし、CO2で埋め戻した。200ml/分の連続ガス流を使用した。試験サンプルを12K/分の速度で750℃に加熱した。炉を750℃に16時間保持した後、炉を補助なしで室温まで冷却した。
【0072】
第2の酸化工程において、試験サンプルを再びMTI OFT-1200ガラス管炉に入れた。炉を真空にし、30%N2O及び70%N2で埋め戻した。合計300ml/minの連続ガス流を使用した。試験サンプルを12K/分の速度で650℃に加熱した。炉を650℃に16時間保持し、その後、炉を単独で室温まで冷却した。
【0073】
未処理サンプル、中間サンプル及び最終サンプル(グレード4のチタン)の写真を
図4に示す。中間試験サンプルは緻密な頑丈な灰色酸化物層を有し、最終成分は白色、緻密、硬質、頑丈な酸化物層を示す表面を有した。
【0074】
グレード2及びグレード4のチタンのいずれについても、最初及び2回目の酸化工程の後にサンプルの断面を分析した。結果は、第1酸化工程後のグレード4チタンサンプルを示し、第2酸化工程後のグレード4チタンサンプルを示し、第1酸化工程後のグレード2チタンサンプルを示し、第2酸化工程後のグレード2チタンサンプルを示す。中間酸化物層と最終酸化物層、すなわち保護酸化物表面層の両方について、ほぼ同じ厚さを有し、一方、酸化物層はグレード2のチタンと比較してグレード4のチタンで厚いことが分かった。本発明者らは、理論に拘束されることなく、グレード2のチタンの厚さ約20μmと比較してグレード4のチタンの厚さ約60μmの厚さの方が、グレード2のチタンよりもグレード4のチタンの鉄の含有量が高いことに起因すると考えている。具体的には、本発明者らは、グレード4のチタンの方がグレード2のチタンよりも厚い酸化物層が形成されるように、鉄が反応速度を増加させると考えている。しかしながら、両グレードのチタンについて中間酸化物層は緻密であり、十分に厚い保護酸化物表面層の形成を可能にした。
【0075】
実施例5
実施例4のグレード4のサンプルをさらに分析するために選択し、このようにして断面を硬度について分析した。5gの荷重を用いて硬度測定を行い、硬度測定値を
図9に示し、分析後の実際の断面も示している。保護酸化物表面層は>800HV
0.005の硬度を有し、約60μmの深さで酸化物層と拡散ゾーンとの間の界面が可視であった。硬度は、酸素飽和チタン、すなわち>800HV
0.005を示唆する界面付近のレベルから、約100μmの深さで、コア金属の硬度の120%のレベルまで低下するのが見られる。
【0076】
未処理のGrade 4チタンサンプル、中間酸化物層を有するGrade 4チタンサンプル、及び硬化したGrade 4チタンサンプルも、グロー放電光発光分光分析(GDOES)に曝露した。GDOESは、特定の要素の内容を、経時的(秒単位)に強度(単位V)で表したものを分析する。したがって、強度は要素の相対量を反映し、時間は表面からの深さを反映する。3層すべての組成を反映するのに十分な時間サンプルを分析することにより、GDOES分析は、保護酸化物表面層(プロットの左側)と拡散層(プロットの中央部分)及び金属のコア(プロットの右側部分)との組成の比較を適切に提供する。したがって、
図10は未処理チタンのGDOES分析を示し、
図11は最初の酸化後のチタンのGDOES分析を示し、
図12は、2回目の酸化後のチタンのGDOES分析を示した。
図13と14また、それぞれ
図11と12の部分を拡大して表示する。
図10は、最初、すなわち、最初の50秒で、チタン中のこれら元素の必然的な含有量を表すと考えられる非金属元素の含有量の明らかな急激な減少を示す。最初の急激な減少は、第1及び第2の酸化段階後にも観察される(
図11、
図12、
図13、及び
図14)。
図11および
図12は、中間酸化チタン層の厚さにわたる炭素含有量を示し、炭素含有量が本発明の成分の表面に向かってどのように移動したかを示す。酸素信号の低下とチタン信号の増加は拡散ゾーンを表すと考えられ、約1300秒後の信号は金属コアを表すと考えられた。
図11と
図12のプロットの拡大図は、それぞれ、
図13及び
図14中に示されており、ここでは、
図11と
図12は、Y軸上に8つの強度単位を示し、
図14と
図15は、Y軸上に1.5の強度単位を示す。
図12は、保護酸化物表面層は、主にチタンと酸素の組成を有し、保護酸化物表面層と拡散ゾーンとの界面では、酸素含有量が金属コアに向かって低下することを示している。
図14における拡大された部分は、保護酸化物表面層が保護酸化物表面層の厚さにわたって検出可能な炭素含有量を有することを強調するが、炭素含有量は成分の表面付近でより高い。チタンサンプルは、保護酸化物表面層に見られる炭素含有量が中間酸化物層にも存在するように、第1の酸化工程でCO
2を用いて処理された。理論に拘束されることなく、本発明者らは、この検出可能な炭素含有量が中間酸化物層を安定化させ、中間酸化物層が第2の酸化工程においてさらに酸化されて、中間酸化物層と同程度に安定であるが中間酸化物層よりも硬い保護酸化物表面層を提供することを可能にすると考える。中間酸化物層と比較して保護酸化物表面層の硬度が増加することは、従来技術の方法で利用可能なものを超える耐摩耗性を有する成分を提供する。
【0077】
図14は、さらに、拡散ゾーン、特に保護酸化物表面層との界面近傍では、金属コア中の含有量及び保護酸化物表面層の両方と比較して、炭素の量が増加していることを示す。理論に拘束されることなく、本発明者らは、この炭素、すなわち拡散ゾーン内の固溶体中に存在する炭素は、硬化成分の表面上の保護酸化物表面層をさらに安定化させ、それによって本発明の成分上の保護酸化物表面層の安定性に寄与すると考える。
【0078】
第2の酸化工程は、N
2中のN
2O雰囲気中で実施した。第2の酸化工程におけるN
2の存在は、
図14のGDOES分析により示されるように、窒素の安定な含有量を有する保護酸化物表面層を提供した。第2の酸化工程でN
2量を制御することで窒素含有量を制御できるが、第2の酸化工程でのN
2に関わらず、保護酸化物表面層中の窒素量はその厚さにわたって安定である。本発明者らは、保護酸化物表面層中の窒素が白色からより黄色味を帯びた色に変化し、さらに、第2の酸化工程におけるN
2の含有量の変更を使用して、保護酸化物表面層の色を白色から壊れた白色に調節することができ、第2の酸化工程におけるN
2の含有量が高いほど、保護酸化物表面層の色がより黄色になることを驚くほど見出した。
【0079】
実施例6
実施例4のグレード4のサンプルの表面を分光光度法で分析し、標準的な白色、RAL9003(「シグナルホワイト」)、及び黒色、RAL9004(「シグナルブラック」)と、未処理サンプル及び最初の酸化工程後のサンプルとを比較した。本発明の成分は、高反射率(>60%)及び可視波長範囲にわたる反射率のわずかな変動によって示されるように、白色及び反射面を有することが分かる。
【0080】
実施例7
直径15mm、厚さ2mmのTi6Al4V合金のサンプルを、2つの別々の酸化工程で本発明に従って処理した。第1の酸化工程において、サンプルをMTI OFT-1200ガラス管炉に入れた。炉を真空にし、CO2で埋め戻した。200ml/分の連続ガス流を使用した。次いで、試験サンプルを12K/分の速度で750℃に加熱した。炉を750℃に16時間保持した後、炉を補助なしで室温まで冷却した。この時点での中間試験サンプルは、緻密で頑強な灰色酸化物層を有していた。
【0081】
第2の酸化工程において、試験サンプルを再びMTI OFT-1200ガラス管炉に入れた。炉を真空にし、30%N2O及び70%N2で埋め戻した。合計300ml/分の連続ガス流を使用した。試験サンプルを12K/分の速度で750℃に加熱した。炉を650℃に16時間保持し、その後、炉を単独で室温まで冷却した。
【0082】
最終酸化工程後のサンプルの表面は、灰色の緻密で硬く頑強な酸化物層を示した。酸化物層の厚さは10~15μmである。この熱化学処理を施した場合、N2の存在により酸化物は白色にならない。
【0083】
実施例8
本発明の変形例において、グレード4のCPチタンの処理のために、周囲空気を第2のガス種として使用した。直径15mm、厚さ2mmのサンプルをMTI OFT-1200ガラス管炉に入れた。炉を真空にし、CO2で埋め戻した。200ml/分の連続ガス流を使用した。次いで、試験サンプルを12K/分の速度で750℃に加熱した。炉を750℃に16時間保持した後、炉を補助なしで室温まで冷却した。この時点で、試験サンプルは密な頑強な灰色酸化物層を有する。
【0084】
第2の酸化工程では、試験サンプルをNabertherm N 7/H炉に入れた。試験サンプルを12K/分の速度で650℃に加熱した。次いで、炉を650℃に16時間保持し、その後、炉を自力で室温まで冷却した。炉内の雰囲気は周囲気圧であった。空気の循環は使用しなかった。
【0085】
このようにして提供された成分は、表面上に白色で、緻密で、硬く、頑強な酸化物層を有し、これは、第2段階でN2Oを用いて観察された表面と外観が類似していた。
【0086】
実施例9
グレード2のCPチタンの処理における最初の酸化種としてO2を使用した場合の影響を分析した。直径15mm、厚さ2mmのサンプルをNETZCH STA449 F3炉に入れた。加熱炉を排気し、O2で埋め戻した。63ml/minのO2連続ガス流を5ml/minのN2流と共に使用した。N2は、O2の強い酸化能力を考慮して、保護気体として考えられた。試験サンプルを30K/分の速度で850℃に加熱した。炉を850℃で400分間保持した後、炉を20K/分の速度で室温まで冷却した。
【0087】
O
2処理により、光光学画像上で見られるように、厚さ50~55μmの白色酸化物層が表面に提供された。白色酸化物層は350~700 HV
0.025の硬度を有したが、酸化物層は層状構造を示し、破砕に対する抵抗が低いことを示した。処理サンプルの断面を
図16に示す。このように、酸化物層は、取扱い時に表面から容易に剥離することが観察された。
【0088】
実施例10
グレード2のCPチタンの処理における第1の酸化種として大気を使用した場合の効果を分析した。実施例9の操作を繰り返したが、O2とN2の混合物の代わりに周囲空気を用いた。周囲空気を使用したため、炉内を流れないようにした。
【0089】
この処理により、厚さ25~30μm、見かけの硬度700~1000HV0.025を有する白色酸化物層が得られた。しかし、実施例9と同様に、酸化物層は層状構造を示し、破砕に対する抵抗が低いことを示した。このように、酸化物層は、取扱い時に表面から容易に剥離することが観察された。
【0090】
実施例11
グレード2のCPチタンの処理における第1の酸化種としてN2Oを使用した場合の影響を分析した。直径15mm、厚さ2mmのサンプルをNETZCH STA449 F3炉に入れた。炉を真空にし、N2Oで埋め戻し、N230ml/分の流量で15ml/分の連続ガス流を使用した。試験サンプルを30K/分の速度で750℃に加熱し、炉を750℃で400分間保持した後、炉を20K/分の速度で室温まで冷却した。
【0091】
この手順を、処理温度1000℃、持続時間64分の新しい未処理サンプルについて繰り返した。
【0092】
どちらの処理も、それぞれ15~20μm及び60~65μmの厚さと700~1000HV0.025の見かけの硬度を有する白色酸化物層を提供した。しかし、実施例9及び10と同様に、酸化物層は、層状構造を示し、破砕に対する抵抗が低いことを示した。このように、酸化物層は、取扱い時に表面から容易に剥離することが観察された。
【0093】
実施例12
側面長さ15mm、厚さ1.5mmのZr702の正方形試験サンプルを、本発明による2つの別々の酸化工程で処理した。第1の酸化工程において、サンプルをMTI OFT-1200ガラス管炉に入れ、これを真空にし、CO2で埋め戻した。200ml/分の連続ガス流を使用した。次いで、試験サンプルを12K/分の速度で750℃に加熱した。炉を750℃に16時間保持した後、炉を補助なしで室温まで冷却した。この時点での中間試験サンプルは、緻密で頑強な灰色酸化物層を有していた。
【0094】
第2の酸化工程において、サンプルを再び真空にし、30%N2O及び70%N2で埋め戻した同じ炉に入れた。300ml/分の連続全ガス流を使用した。試験サンプルを12K/分の速度で750℃に加熱した。炉を650℃に16時間保持し、その後、炉を単独で室温まで冷却した。
【0095】
提供された成分は、8~12μmの厚さを有する灰色の高密度、硬質、頑強な酸化物層を有していた。ジルコニウム成分の断面を
図17に示す。
【0096】
本発明の方法で処理する前に、硬化成分、中間酸化ジルコニウムを有する加工物、及び加工物を表面硬度について分析し、その結果を
図18に示す。未処理ジルコニウムの硬度は約200HV
0.05であったが、処理ジルコニウム成分の表面硬度は約1150HV
0.05であった。
【0097】
実施例13
Ti13Nb13Zrのサンプルを実施例4に概説したように処理した。
図20において、上面パネル、中間パネル、下面パネルには、処理前のワーク断面、酸化工程後のワーク断面、最終構成部品がそれぞれ示される。従って、加工物は可視酸化物層を持たなかったが、一方、最初の酸化工程は緻密な中間酸化物層を提供した。
図19に見出された硬度値は酸化により硬度が増加することを示した。成分は、最初の酸化工程後、加工物よりも安定な酸化物層を有した。
【国際調査報告】