(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-28
(54)【発明の名称】末梢神経作動薬による炎症抑制
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20221021BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20221021BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20221021BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221021BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20221021BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20221021BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20221021BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20221021BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20221021BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20221021BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20221021BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20221021BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20221021BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20221021BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20221021BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/197
A61K31/202
A61P43/00 105
A61P17/04
A61P37/08
A61K9/20
A61P17/00
A61P17/06
A61P3/10
A61K9/06
A61K9/107
A61K9/12
A61K9/70
A61P25/04
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513062
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(85)【翻訳文提出日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 US2020048183
(87)【国際公開番号】W WO2021041662
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504279968
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ピッツバーグ - オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル、エイチ.カプラン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA17
4C076AA24
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4C084ZC35
4C206AA01
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4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA08
4C206ZA89
4C206ZB11
4C206ZB13
4C206ZB21
4C206ZC35
(57)【要約】
本明細書では、満細胞の活性化または過活性化に関連する病態、すなわち、急性または慢性蕁麻疹、肥満細胞症もしくは肥満細胞症のあらゆる亜種、偽アレルギー、接触性もしくはアトピー性皮膚炎などのあらゆる形態の皮膚炎、創傷治癒、酒さ、座瘡、または乾癬、食物アレルギー、または過敏性腸症候群を治療する方法が提供される。この方法は、その病態を治療するために患者にβアラニン、GABA、β-AIBA、または5-oxoETEなどのMRGPRD作動薬を投与することを含んでなる。また、β-アラニンを含んでなる局所用、腸溶、遅延放出、またはエアロゾル剤形も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態を有する患者を治療する方法であって、前記患者に、患者において肥満細胞の脱顆粒を下方調節するために有効な量のMRGPRD作動薬を投与することを含んでなる、方法。
【請求項2】
前記MRGPRD作動薬が、βアラニン(β-ala)もしくはその薬学上許容される塩;γアミノ酪酸(GABA)もしくはその薬学上許容される塩;βアミノイソ酪酸(β-AIBA)もしくはその薬学上許容される塩;5-オキソエイコサテトラエン酸(5-oxoETE)もしくはその薬学上許容される塩;または上記のいずれかの組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態が蕁麻疹性疾患であり、前記MRGPRD作動薬が患者に局所投与または全身投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態が肥満細胞症であり、前記MRGPRD作動薬が前記患者に局所投与または全身投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態が食物アレルギーであり、前記MRGPRD作動薬が前記患者に、腸溶性または遅延放出経口剤形などで経腸投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態が急性もしくは慢性蕁麻疹、肥満細胞症もしくは肥満細胞症の亜種、偽アレルギー、接触性もしくはアトピー性皮膚炎などのあらゆる形態の皮膚炎、創傷治癒、酒さ、座瘡、または乾癬であり、前記患者に、患者において炎症を阻害または軽減するために有効な量、例えば、患者において肥満細胞の活性化を阻害または低下させるために有効な量のMRGPRD作動薬を投与することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
5mg~5,000mgの前記MRGPRD作動薬が前記患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記MRGPRD作動薬が前記患者に少なくとも1週間投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
患者において創傷を治療する方法であって、前記患者において創傷治癒を増強するために有効な量のMRGPRD作動薬を創傷に投与することを含んでなる、方法。
【請求項10】
前記MRGPRD作動薬がβアラニン(β-ala)もしくはその薬学上許容される塩;γアミノ酪酸(GABA)もしくはその薬学上許容される塩;βアミノイソ酪酸(β-AIBA)もしくはその薬学上許容される塩;5-オキソエイコサテトラエン酸(5-oxoETE)もしくはその薬学上許容される塩;または上記のいずれかの組合せである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記MRGPRD作動薬が局所用医薬組成物として処方される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記創傷が治癒しない創傷である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記患者が糖尿病であり、前記創傷が場合により足部潰瘍である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
β-アラニンまたはその薬学上許容される塩を薬学上許容される担体と組み合わせて含んでなる、局所用組成物。
【請求項15】
肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態、例えば、急性もしくは慢性蕁麻疹、肥満細胞症もしくは肥満細胞症のあらゆる亜種、偽アレルギー、接触性もしくはアトピー性皮膚炎などのあらゆる形態の皮膚炎、創傷治癒、酒さ、座瘡、または乾癬を治療するために有効な量の、請求項14に記載の局所用組成物。
【請求項16】
軟膏、クリーム、ローション、スプレー、ゲル、または創傷包帯である、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
β-アラニンまたはその薬学上許容される塩を薬学上許容される担体と組み合わせて含んでなる、エアロゾルまたはスプレー医薬製剤または装置。
【請求項18】
鼻腔噴霧器または定量噴霧器または定量吸入器などの噴霧器の形態である、請求項17に記載の医薬製剤または装置。
【請求項19】
患者におけるβ-アラニンの腸内放出のための、遅延放出および/もしくは腸溶組成物中、ならびに/または遅延放出および/もしくは腸溶コーティング内にβ-アラニンまたはその薬学上許容される塩を含んでなる遅延放出または腸溶製剤。
【請求項20】
患者における疼痛または掻痒、例えば、患者における神経性の炎症、疼痛、または掻痒を予防、軽減または治療する方法であって、前記患者に、患者において疼痛または掻痒を予防、軽減または治療するために有効な量、例えば、患者において肥満細胞の活性化を阻害または低下させるために有効な量のMRGPRD作動薬を投与することを含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府の補助金に関する陳述
本発明は、認可番号AR067187として米国国立衛生研究所により授与された政府の助成によってなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2019年8月29日に出願された米国仮特許出願第62/893,433号の利益を主張するものである。
【0003】
本明細書では、皮膚および粘膜における炎症の抑制のための方法および組成物が提供される。本方法および組成物は、例えば、限定されるものではないが、蕁麻疹、肥満細胞症、アレルギー、湿疹、アレルギー性接触皮膚炎、過敏性腸症候群、および食物アレルギーを含む、肥満細胞の活性化により引き起こされる病態の治療に有用である。
【0004】
肥満細胞は、例えば身体と環境の間の皮膚および粘膜境界において、重要な免疫調節機能を有する。肥満細胞は自然免疫系の重要な一部であり、皮膚などのバリア器官に豊富に存在する。肥満細胞は、免疫グロブリン(Ig)Eおよび特定のクラスのIgGのFc領域を含め、細胞表面への抗体の結合を可能とする多くの活性化受容体を発現する。抗原が入ってくると、顆粒を含んだ肥満細胞がヒスタミンおよびセロトニンなどの多くの炎症性メディエーターを放出する(肥満細胞の活性化)。肥満細胞はまた、表面Mas関連Gタンパク質受容体も発現する。これらの受容体は、ニューロペプチドサブスタンスP、抗微生物ペプチドLL37ならびにある種の薬物およびイエダニの成分などの外因性の因子を含む特定のリガンドと結合する。この受容体の結合は、アレルギー反応、アナフィラキシー型応答およびいくつかの炎症性疾患に重要な、サイトカインおよびプロテアーゼを含む数種の生物学的に活性な分子の放出をもたらす。これらの反応は、肥満細胞メディエーターの放出を阻害する薬剤(肥満細胞安定剤と呼ばれる)、またはメディエーターの作用を阻害する薬剤(抗ヒスタミン薬など)の使用によって弱めることができる。
【0005】
限定されるものではないが、蕁麻疹、肥満細胞症(例えば、皮膚または全身性)、アレルギー、湿疹、アレルギー性接触皮膚炎、過敏性腸症候群、および食物アレルギーを含むいくつかの病態(例えば、病理または疾患)が肥満細胞の活性化に関連付けられている。
【0006】
肥満細胞は自然免疫系の重要な一部であり、皮膚などのバリア器官に豊富に存在する。肥満細胞は主としてアレルギー性反応の誘導に関して知られているが、今般、これらの細胞に関して、多くの他の生物学的機能が記載されている。創傷の修復中、肥満細胞は急性炎症を増長し、再上皮化および血管新生を刺激し、瘢痕化を促進することを示した複数の研究がある。肥満細胞は異常な感覚とも関連付けられており、慢性創傷、肥厚性瘢痕およびケロイドには多数のMCが見られる。
【発明の概要】
【0007】
肥満細胞の活性化、またはその影響を下方調節する、例えば、軽減するまたは改善するために有効な治療薬が望まれるが、このような治療薬およびその使用は肥満細胞の活性化から起こる病態の治療において望まれるためである。
【0008】
本発明の第1の態様または実施形態では、肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態を有する患者を治療する方法であって、患者に、患者において肥満細胞の脱顆粒を下方調節するために有効な量のMRGPRD作動薬を投与することを含んでなる方法が提供される。
【0009】
本発明の第2の態様または実施形態では、MRGPRD作動薬がβアラニン(β-ala)またはその薬学上許容される塩である、第1の態様または実施形態の方法が提供される。
【0010】
本発明の第3の態様または実施形態では、MRGPRD作動薬がγアミノ酪酸(GABA)またはその薬学上許容される塩である、第1の態様または実施形態の方法が提供される。
【0011】
本発明の第4の態様または実施形態では、MRGPRD作動薬がβアミノイソ酪酸(β-AIBA)もしくはその薬学上許容される塩、または5-オキソエイコサテトラエン酸(5-oxoETE)またはその薬学上許容される塩である、第1の態様または実施形態の方法が提供される。
【0012】
本発明の第5の態様または実施形態では、肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態が蕁麻疹性(uticaria)疾患であり、MRGPRD作動薬が患者に局所投与または全身投与される、第1~第4の態様または実施形態のいずれかの方法が提供される。
【0013】
本発明の第6の態様または実施形態では、肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態が肥満細胞症であり、MRGPRD作動薬が患者に局所投与または全身投与される、第1~第4の態様または実施形態のいずれかの方法が提供される。
【0014】
本発明の第7の態様または実施形態では、肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態が食物アレルギーであり、MRGPRD作動薬が患者に腸溶性または遅延放出経口剤形などで経腸(患者の腸への、または患者の腸で放出させるための)投与される、第1~第4の態様または実施形態のいずれかの方法が提供される。
【0015】
本発明の第8の態様または実施形態では、肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態が急性または慢性蕁麻疹、肥満細胞症または肥満細胞症のあらゆる亜種、偽アレルギー、接触性もしくはアトピー性皮膚炎などのあらゆる形態の皮膚炎、創傷治癒、酒さ、座瘡、または乾癬であり、患者に、患者において炎症を阻害または軽減するために有効な量、例えば、患者において肥満細胞の活性化を阻害または低下させるために有効な量のMRGPRD作動薬を投与することを含んでなる、第1~第4の態様または実施形態のいずれかの方法が提供される。
【0016】
本発明の第9の態様または実施形態では、5mg~5000mgまたは1mg~10gのMRGPRD作動薬が患者に投与される、第1~第3の態様または実施形態のいずれかの方法が提供される。
【0017】
本発明の第10の態様または実施形態では、MRGPRD作動薬が患者に少なくとも1週間投与される、第1~第3の態様または実施形態のいずれかの方法が提供される。
【0018】
本発明の第11の態様または実施形態では、患者において創傷を治療する方法であって、創傷に患者において創傷治癒を増強するために有効な量のMRGPRD作動薬を投与することを含んでなる方法が提供される。
【0019】
本発明の第12の態様または実施形態では、MRGPRD作動薬がβアラニン(β-ala)もしくはその薬学上許容される塩;γアミノ酪酸(GABA)もしくはその薬学上許容される塩;βアミノイソ酪酸(β-AIBA)もしくはその薬学上許容される塩;5-オキソエイコサテトラエン酸(5-oxoETE)もしくはその薬学上許容される塩、または上記のいずれかの組合せである、第11の態様または実施形態の方法が提供される。
【0020】
本発明の第13の態様または実施形態では、MRGPRD作動薬が局所用医薬組成物として製剤される、第11または第12の態様または実施形態の方法が提供される。
【0021】
本発明の第14の態様または実施形態では、創傷が治癒しない創傷である、第11~第13の態様または実施形態のいずれかの方法が提供される。
【0022】
本発明の第15の態様または実施形態では、患者が糖尿病である、第11~第14の態様または実施形態のいずれかの方法が提供される。
【0023】
本発明の第16の態様または実施形態では、創傷が糖尿病性足部潰瘍である、第15の態様または実施形態の方法が提供される。
【0024】
第17の態様または実施形態では、β-アラニンまたはその薬学上許容される塩を薬学上許容される担体と組み合わせて含んでなる局所用組成物が提供される。
【0025】
本発明の第18の態様または実施形態では、肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態、例えば、急性または慢性蕁麻疹、肥満細胞症または肥満細胞症のあらゆる亜種、偽アレルギー、接触性もしくはアトピー性皮膚炎などのあらゆる形態の皮膚炎、創傷治癒、酒さ、座瘡、または乾癬を治療するために有効な量の第17の態様または実施形態の組成物が提供される。
【0026】
本発明の第19の態様または実施形態において、軟膏、クリーム、ローション、スプレー、ゲル、または創傷包帯である、第18の態様または実施形態の組成物が提供される。
【0027】
第20の態様または実施形態では、β-アラニンまたはその薬学上許容される塩を薬学上許容される担体と組み合わせて含んでなるエアロゾルまたはスプレー医薬製剤または装置が提供される。
【0028】
本発明の第21の態様または実施形態では、噴霧器の形態の第20の態様または実施形態のエアロゾルまたはスプレー医薬製剤または装置が提供される。
【0029】
本発明の第22の態様または実施形態では、鼻腔噴霧器の形態の第20の態様または実施形態のエアロゾルまたはスプレー医薬製剤または装置が提供される。
【0030】
本発明の第23の態様または実施形態では、定量吸入器または定量噴霧器の形態の第20の態様または実施形態のエアロゾルまたはスプレー医薬製剤または装置が提供される。
【0031】
本発明の第24の態様または実施形態では、患者におけるβ-アラニンの腸内放出(すなわち、薬物は主として患者の腸で放出される)のための、遅延放出および/もしくは腸溶組成物中、ならびに/または遅延放出および/もしくは腸溶コーティング内にβ-アラニンまたはその薬学上許容される塩を含んでなる遅延放出または腸溶製剤が提供される。
【0032】
本発明の第25の態様または実施形態では、患者における疼痛または掻痒、例えば、患者における神経性の炎症、疼痛、または掻痒を予防、軽減または治療する方法であって、患者に、患者において疼痛または掻痒を予防、軽減または治療するために有効な量、例えば、患者において肥満細胞の活性化を阻害または低下させるために有効な量のMRGPRD作動薬を投与することを含んでなる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、実施例2に記載されるように、β-アラニンは48/80により媒介される肥満細胞の脱顆粒を抑制することを示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例3に記載されるように、β-アラニンはin vivoにおいてDNFB接触過敏症を抑制することを示すグラフである。エラーバー+/-SEM。
**p<0.01;
*p<0.05。
【
図3】
図3は、実施例4に記載されるように、5%局所的b-アラニンはマウスにおいて肥満細胞の脱顆粒を抑制することを示すグラフである。値は、真皮のエバンスブルー色素の量を組織1g当たりのμgで表す。
**p<0.01。各記号は、個々の動物からのデータを表す。
【
図4】
図4は、実施例5に記載されるように、β-アラニンは創傷治癒関連のトランスクリプトーム変化を誘導することを示すグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0034】
本願に明示される様々な範囲における数値の使用は、特に明記されていない限り、示された範囲の最小値および最大値の双方の前に「約」という語がついているかのような近似として記載される。この方法で、記載された範囲の上下の若干の変動が、その範囲内の値と実質的に同じ結果を達成するために使用できる。また、特に明記されていない限り、これらの範囲の開示は、その最小値と最大値の間の総ての値を含む連続的な範囲として意図される。
【0035】
本明細書において使用される場合、用語「を含んでなる」、およびその変形はオープンエンドであることを意味する。用語「1つの(a)」および「1つの(an)」は、1以上を指すことが意図される。
【0036】
「病態」は、本開示の文脈では、肥満細胞の活性化または過活性化から起こる病理、疾患、障害、後遺症、または他のいずれかの異常もしくは望ましくない影響である。
【0037】
本明細書において使用される場合、「患者」は、限定されるものではないが、霊長類(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、例えば、サル、およびチンパンジー)、非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ラクダ、ラマ、ウマ、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、モルモット、ネコ、イヌ、ラット、マウス、ウマ、およびクジラ)を含む哺乳類または鳥類(例えば、アヒルまたはガチョウ)などの動物であり得る。
【0038】
本明細書において使用される場合、用語「治療」は、1以上の機能、または病態、例えば本開示の文脈では、肥満細胞の活性化もしくは過活性化から起こる病態の状症の改善などの有益なまたは特定の結果を指し得る。用語「治療」はまた、限定されるものではないが、本開示の文脈では、肥満細胞の活性化または過活性化から起こる病態の1以上の症状の緩和または改善も含み得る。「治療」はまた、治療を行わない場合の予測生存に比べての生存の延長も意味する。
【0039】
病態、例えば、本開示の文脈では、肥満細胞の活性化または過活性化に関する病態に関連するマーカーまたは症状の文脈で「より低い」とは、このようなレベルの臨床的に意味のある、かつ/または統計的に有意な低下を指し得る。この低下は、例えば、このような病態を持たない個体にとって通常の範囲内と認められるレベルまで、またはそのアッセイの検出水準を下回るレベルまでの少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、またはそれを超える低下であり得る。特定の態様において、低下は、このような病態を持たない個体にとって通常の範囲内と認められるレベルへの低下であり得、これはまたレベルの正常化とも呼ぶことができる。特定の態様において、この減少は、病態の徴候または症状のレベルの正常化、すなわち、病態の徴候の対象レベルと病態の徴候の正常レベルの間の差の縮小(例えば、対象の値が正常値に達するように低下させなければならない場合には正常の上限、対象の値が正常レベルに達するように増加させなければならない場合には正常の下限)であり得る。これらの方法は、本明細書に記載されるように対象をMRGPRD作動薬で処置した後に、臨床的に意味のある転帰によって示されるような肥満細胞の脱顆粒の臨床的に意味のある阻害を含み得る。
【0040】
「治療上有効な量」は、本明細書において使用される場合、それを必要とする患者、例えば、肥満細胞の活性化または過活性化から起こる病態を有する患者に投与した際に、その病態の治療を果たす(例えば、既存の病態または病態の1以上の症状を消散、緩和または維持することによる)ために十分であり得る量の、本明細書に記載されるようなMRGPRD作動薬を含み得る。「治療上有効な量」は、MRGPRD作動薬、その薬剤がどのようにして投与されるか、病態および重症度、ならびに治療される患者の病歴、年齢、体重、家族歴、遺伝子構成、存在する場合には先行治療または並行治療のタイプ、およびその他の個々の特徴によって異なり得る。
【0041】
「治療上有効な量」はまた、いずれの治療にも適用可能な合理的ベネフィット/リスク比で局部的効果または全身効果を生じる薬剤の量も含み得る。本明細書に記載の方法および組成物で使用されるMRGPRD作動薬は、このような治療に適用可能な合理的ベネフィット/リスク比を得るために十分な量で投与することができる。
【0042】
患者の治療に関して、治療用化合物、例えば、βアラニン(β-ala)、γアミノ酪酸(GABA)、および/またはβアミノイソ酪酸(β-AIBA)などのMRGPRD作動薬は、限定されるものではないが、静脈内、腹腔内、臓器内、例えば、肝送達、もしくは筋肉内注射によるなどの非経口投与;例えばスプレーもしくはエアロゾル定量噴霧式吸入器における吸入;真皮、経皮的、耳内、もしくは眼内送達などの局所投与;経膣もしくは口内などの経粘膜投与;または経口投与といったいずれの有効な投与経路によって投与することもできる。組成物は、肥満細胞の活性化の低下を維持するために、個々の用量で投与してもよいし、または複数用量で経時的に投与してもよい。粘膜送達は、例えば、限定されるものではないが、呼吸器系、消化管系、および腟内の粘膜への送達を含む。MRGPRD作動薬は、皮膚、直腸、腸、または鼻腔などの特定の組織を標的とする様式で送達することができる。
【0043】
MRGPRD作動薬は、調剤してもよいし、またはそうでなければ、当該化合物が有効成分である医薬剤形または医薬品などの好適な組成物として製造してもよい。医薬品は、薬学上許容される担体または賦形剤を含んでなり得る。治療薬/医薬組成物は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 第21版, Paul Beringer et al.編, Lippincott, Williams & Wilkins, Baltimore, MD Easton, Pa. (2005)に記載されているものなど、許容される製薬手順に従って調製される。製薬分野で広く知られているように、送達経路に応じて、剤形は付加的な担体または賦形剤、例えば、水、食塩水(例えば、生理食塩水)またはリン酸緩衝生理食塩水を含んでなり得る。組成物は、薬学上許容される担体または賦形剤を含んでなり得る。賦形剤は、薬剤の有効成分の担体として使用される不活性な物質である。「不活性な」賦形剤は、医薬品中の有効成分の送達、安定性またはバイオアベイラビリティを助長および補助し得る。有用な賦形剤の限定されない例としては、製薬/調剤分野で利用可能であるような固結防止剤、結合剤、レオロジー調整剤、コーティング剤、崩壊剤、乳化剤、オイル、緩衝剤、塩、酸、塩基、増量剤、希釈剤、溶媒、香味剤、浸透促進剤、着色剤、流動促進剤、滑沢剤、保存剤、抗酸化剤、吸収剤、ビタミン、甘味剤などが挙げられる。
【0044】
局的用製剤または医薬品が本明細書に記載されるようなMRGPRD作動薬を送達するために使用できる。局所送達には、真皮、経口、鼻腔、眼内、耳内、または膣送達経路などの皮膚または粘膜を介した送達が含まれる。好適な局所送達製剤、およびそのような局所用製剤の調剤に関する考慮事項は広く知られている(参照 例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, The University of the Sciences in Philadelphia, Lippincott, Williams, & Wilkins, Philadelphia, Pa.編, 第21版 (2005)は、1以上の治療組成物の医薬送達に好適な組成物および製剤を記載しており、特に、65章(「opical Drugs」)、43章(「Ophthalmic Preparations」)、および44章(「Medical Topicals」);Ueda, C.T. et al. “Topical and Transdermal Drug Products” Pharmacopeial Forum 35(3) [May–June 2009];およびBenson, Heather A E et al. “Topical and Transdermal Drug Delivery: From Simple Potions to Smart Technologies.” Current drug delivery vol. 16,5 (2019): 444-460を参照)。
【0045】
あるいは、腸溶または遅延放出経口製剤または医薬品は、本明細書に記載されるようなMRGPRD作動薬を送達するために使用することができる。腸溶または遅延放出製剤において、剤形は、小腸などの標的に到達するまで治療薬の放出を遅延させるために、治療薬を取り囲む腸溶コーティングなどの遅延放出コーティングを含んでなる経口剤形である。剤形は、例えば、単回または複数回使用のためのシリンジまたはアンプル内に充填された脂質粒子とともに単位剤形として提供され得る。
【0046】
経口剤形は、小腸に到達するまで治療薬の放出を遅延させるための遅延放出コーティングを含んでなり得る。この剤形は、例えば、単回または複数回使用のための好適な包装中に充填された治療薬とともに単位剤形として提供され得る。この剤形はまた、例えば、坐剤、浣腸として、または患者の腸に送達するための栄養チューブを介して好適な消化管剤形となり得る。
【0047】
医薬剤形上の「遅延放出コーティング」は、その剤形の有効成分、例えば治療薬の放出を遅延させる経口剤形に適用されるコーティングまたはバリアである。遅延放出コーティングは、胃では無傷で留まり、胃のpHおよび酵素処理に生き残るが、小腸の環境で溶解する「腸溶コーティング」であり得る。本明細書に記載の医薬組成物、医薬品、または剤形の文脈で、この送達の目的は、それが小腸に通過するまで治療薬の放出を遅延させることであり得る。胃の内容物および個体間の違いによって胃を通過する速度は著しく異なるために、腸溶放出コーティングまたはバリアは、腸管環境への通過よりも通過時間に依存する遅延放出バリアよりも好ましいものであり得る。
【0048】
腸溶コーティングに有用なポリマーは、低pHでは無傷で留まり得るが、小腸でpHが上昇すると、ポリマーが膨潤し、腸液中で可溶性となる。腸溶コーティングに使用される材料の限定されない例としてが、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ポリ(メタクリル酸-コ-メタクリル酸メチル)、酢酸トリメリト酸セルロース(CAT)、ポリ(酢酸フタル酸ビニル)(PVAP)、およびフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、脂肪酸、ワックス、セラック、プラスチックおよび植物繊維が挙げられる。遅延放出コーティングとしてはまた、ポリマーコーティング、例えば、限定されるものではないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)または他の治療薬を含んでなる即放出コア上にコーティングされ得るポリマー化合物が含まれる。コーティングの厚さは、治療薬の放出に所望の遅延を生じるために様々であり得る。同様に、治療薬を含んでなる粒子を、HPMC、CMC、または治療薬の放出の制御に有用な他のポリマー内に包埋することもできる。遅延放出コーティングは、治療薬の放出をさらに制御するために腸溶コーティングでコーティングすることができる。調剤分野の熟練者は、いずれの特定の治療薬についても、本明細書に記載の剤形において全体的な剤形構造および放出パターンを最適化することができる。
【0049】
MRGPRD作動薬は、例えば、全身処置のため、またはMRGPRG作動薬の鼻腔、鼻咽頭、気管、気管支、および/または肺送達のためなど、呼吸器系に影響を及ぼす病態を治療するために、エアロゾルとして鼻腔内にまたは吸入により送達され得る。エアロゾルの限定されない例としては、ドライパウダー、ネブライザーまたはアトマイザーによって生成される液滴、定量エアロゾル吸入器により生成されるエアロゾル、鼻腔吸入器によって生成される液滴が含まれる。一例では、MRGPRD作動薬は、口腔または鼻腔からの吸入による送達のために構成され得るドライまたは液体定量吸入器によって送達される(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, The University of the Sciences in Philadelphia, Lippincott, Williams, & Wilkins, Philadelphia, Pa.編, 第21版 (2005)、例えば、第50章 (“Aerosols”)参照)。定量噴霧式吸入器は、経口吸入および一般に肺への送達のための噴射剤および口腔アダプターを含み得る。鼻腔および鼻咽頭送達のためには、剤形は、鼻腔へ噴霧するための鼻腔アダプターを備えたポンプ噴霧器などの噴霧装置であり得る。鼻腔噴霧器中の組成物は、鼻腔および鼻咽頭における保持を助長するための増粘剤を含んでなり得る。
【0050】
送達経路の選択は、治療される病態によって異なり得る。全身送達も有効であり得るが、罹患組織への集中送達が好ましいものであり得る。蕁麻疹(urtucaria)、接触皮膚炎、皮膚肥満細胞症、湿疹、または創傷などの皮膚病態は、局所用クリームまたは軟膏を用いて例えば皮膚上に局所処置することができる。鼻アレルギー、喘息、またはアナフィラキシーなどの呼吸器系病態は、鼻腔および口腔へのエアロゾル送達によって処置することができる。腸管病態は、遅延放出/腸溶医薬品、または坐剤で処置することができる。全身性肥満細胞症などの全身病態は、経口投与、またはエアロゾルの吸入などのいずれの有効な経路によって処置してもよい。
【0051】
肥満細胞の脱顆粒のダウンレギュレーションにおけるその使用の他、β-alaは創傷治癒関連のトランスクリプトーム変化を誘導することが判明した。結果として、β-alaは、例えば、創傷の処置、および糖尿病性足部潰瘍の場合のような糖尿病性創傷など、治癒の緩慢なまたは治癒しない創傷の処置において、創傷治癒を促進するために有用であろうと考えられる。一例において、β-alaは、糖尿病性創傷、例えば糖尿病性足部潰瘍などの創傷を処置するために局所投与される。
【0052】
1つの態様または実施形態において、MRGPRD作動薬はβ-alaであり、これはGABAまたはβ-AIBAに比べてそのより優れたMRGPRD活性化のために好ましいものであり得る。β-alaは、広く利用可能であり、安価である。β-alaは、競技者のパフォーマンスの向上のため、および高齢者の全般的身体パフォーマンスを高めるために機能性食品として経口摂取されてきた。本明細書では、肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態の治療のための、β-alaおよび関連のMRGPRD作動薬の新たな使用が提供される。現在、粉末またはカプセル剤として販売されているようなβ-alaは全身病態に有効であり得るが、標的化された局所送達および腸内送達はこれまで注目されていなかった。
【0053】
従って、局所用および腸内抗炎症性医薬組成物および医薬品は、本明細書においては、β-alaの標的化送達に関して記載される。従って、β-ala(その薬学上許容される塩を含む)および薬学上許容される担体を含有する医薬組成物が提供される。認識試薬であるβ-alaを含有する医薬組成物は、本明細書に記載されるように、肥満細胞の活性化または過活性化から起こる病態の治療に有用である。
【0054】
β-alaの好適な用量は、約0.001ミリグラム(mg)/キログラム(kg-1)レシピエント体重~約1,000mg/キログラム体重の範囲、例えば、約1~50mg kg-1体重/日の範囲であり得る。単位用量、および局所(局部)処置は、例えば、約0.001mg~約10,000mg、または5mg~5,000mgの範囲であり得、軟膏またはクリームなどの局所用組成物は、例えば、1ナノグラム(ng)/ミリリットル(ml-1)~10mg ml‑1の範囲、または1%w/v(重量/容量)~10%w/vの範囲、例えば5%w/vの濃度を有する。反復用量計画は、1日に複数回、1日おきに、または1年に1回、または必要に応じてなどの定期的な、治療量のMRGPRD作動薬の投与を含み得る。最初の治療計画の後、処置は低頻度で行うことができる。限定されるものではないが、病態の重症度、過去の処置、健康状態および/または対象の年齢、および存在する他の疾患を含む特定の因子は、対象を効果的に治療するために必要な用量および時機に影響を及ぼし得る。さらに、治療上有効な量による対象の処置は、単回処置または一連の処置を含み得る。
【0055】
局所投与用の医薬組成物および製剤としては、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、滴剤、坐剤、スプレー、液剤、および散剤を含み得る。慣例の医薬担体、水性、粉末、または油性基剤、増粘剤などが使用可能である。組成物は、MRGPRD作動薬がワセリンを含んでなる担体中に混合された軟膏であってもよい。好適な局所製剤としてはまた、限定されるものではないが、MRGPRD作動薬が脂質、リポソーム、脂肪酸、脂肪酸エステル、ステロイド、キレート剤、および界面活性剤などの局所送達剤とl混合されたものが挙げられる。好適な脂肪酸およびエステルとしては、限定されるものではないが、アラキドン酸、オレイン酸、エイコサン酸、ラウリン酸、カプリル酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ジカプレート、トリカプレート、モノオレイン、ジラウリン、グリセリル1-モノカプリレート、1-ドデシルアザシクロヘプタン-2-オン、アシルカルニチン、アシルコリン、またはC1-20アルキルエステル(例えば、イソプロピルミリスチレート)、モノグリセリドまたはジグリセリド、またはそれらの薬学上許容される塩が挙げられる。製薬および調剤分野の熟練者は、本明細書に記載されるように、MRGPRD作動薬の送達に好適な製剤を調製することができる。
【0056】
MRGPRD作動薬の限定されない例としては、β-ala、GABA、およびβ-AIBAが挙げられる。他のMRGPRD作動薬も既知であるか、または開発可能である。このような他のMRGPRD作動薬も、肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態の治療に有効性を示すと思われる。MRGPRD作動薬の有効性は、例えば、化合物がMRGPRD作動薬として働く能力を決定するため、および肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態の治療におけるその有効性を決定するために使用可能な他のアッセイによって、本明細書に記載されるように試験してもよい。
【0057】
Β-アラニン(β-ala)はまた、例えば以下の構造を有する3-アミノプロパン酸としても知られる。
【化1】
【0058】
本明細書で提供される方法および組成物において、β-alaまたはその薬学上許容される塩は有用である。
【0059】
β-alaの薬学上許容される塩の限定されない例としては、限定されるものではないが、β-ala塩酸塩または米国特許第7,956,218 B2号に開示されている、リンゴ酸塩、フマル酸塩、またはクエン酸塩などの酸付加塩が挙げられ、以下の構造を有する:
【化2】
(式中、nは、例えば、1、2または3であり、Aは、薬学上許容される対イオンである)。例として、nは、Aがリンゴ酸塩またはフマル酸塩である場合には2であり、Aがクエン酸塩である場合には3である。
【0060】
γアミノ酪酸(GABA、または4-アミノブタン酸)およびその薬学上許容される塩もまた、本明細書で提供される方法および組成物において有用である。GABA(左)および例示的なその酸付加塩(右)の構造は以下の通りである:
【化3】
(式中、nは、例えば、1、2または3であり、Aは、薬学上許容される対イオンである)。例として、nは、Aがリンゴ酸塩またはフマル酸塩である場合には2であり、Aがクエン酸塩である場合には3である。
【0061】
β-アミノイソ酪酸(β-AIBA、または3-アミノイソ酪酸)およびその薬学上許容される塩もまた、本明細書で提供される方法および組成物において有用である。β-AIBA(左)および例示的なその酸付加塩(右)の構造は以下の通りである:
【化4】
(式中、nは、例えば、1、2または3であり、Aは、薬学上許容される対イオンである)。例として、nは、Aがリンゴ酸塩またはフマル酸塩である場合には2であり、Aがクエン酸塩である場合には3である。
【0062】
5-オキソエイコサテトラエン酸(5-oxoETE)もしくはその薬学上許容される塩もまた、本明細書で提供される方法および組成物において有用である。5-oxoETE(上)および例示的なその塩基付加塩(下)の構造は以下の通りである:
【化5】
(式中、nは、例えば、1、2または3であり、Aは、薬学上許容される対イオンである)。例として、nは、Aがリンゴ酸塩またはフマル酸塩である場合には2であり、Aがクエン酸塩である場合には3である。
【0063】
本明細書に記載のいずれの化合物の薬学上許容される塩も、本明細書に記載の方法において使用可能である。本明細書に記載される化合物の薬学上許容される塩形態は、製薬分野で公知の慣例の方法によって製造することができ、ある種の獣医学上許容される塩としての製造も含む。例えば、限定されるものではないが、化合物がカルボン酸基を含んでなる場合、その好適な塩は、化合物を適当な塩基と反応させて対応する塩基付加塩を得ることによって形成され得る。限定されない例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化リチウムなどの水酸化アルカリ金属;水酸化バリウムおよび水酸化カルシウムなどの水酸化アルカリ土類金属;カリウムエタノラートおよびナトリウムプロパノラートなどのアルカリ金属アルコキシド;ならびにピペリジン、ジエタノールアミン、およびN-メチルグルタミンなどの種々の有機塩基が挙げられる。
【0064】
酸付加塩および塩基付加塩は、遊離塩基形態を、当技術分野で公知の方法で塩を生成するために十分な量の所望の酸または塩基と接触させることによって作製することができる。遊離塩基は、その塩形態を塩基または酸(塩の性質に応じて)と接触させ、遊離塩基を単離することによって再生させることができる。遊離塩基形態は、極性溶媒中での溶解度など、ある種の物理特性がそれらの個々の塩形態とはやや異なるが、これらの塩はそれ以外の点では、本明細書に記載の目的のためには、それらの個々の遊離塩基形態と同一である。
【0065】
含塩基性窒素基を含んでなる化合物は、C1-4アルキルハリド、例えば、メチル、エチル、イソプロピルおよびtert-ブチルクロリド、ブロミドおよびヨージド;C1-4アルキルスルフェート、例えば、ジメチル、ジエチルおよびジアミルスルフェート;C10-18アルキルハリド、例えば、デシル、ドデシル、ラウリル、ミリスチルおよびステアリルクロリド、ブロミドおよびヨージド;およびアリール-C1-4アルキルハリド、例えば、塩化ベンジルおよび臭化フェネチルなどの薬剤で四級化され得る。このような塩は、水溶性および油溶性化合物の両方の調製を可能とする。
【0066】
薬学上許容される塩基塩の限定されない例としては、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、第二マンガン、第一マンガン、カリウム、ナトリウム、および亜鉛塩が挙げられる。薬学上許容される有機非毒性塩基から誘導される塩としては、限定されるものではないが、第1級、第2級、および第3級アミン、天然置換アミンを含む置換アミン、環状アミン、ならびに塩基性イオン交換樹脂、例えば、アルギニン、ベタイン、カフェイン、クロロプロカイン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン(ベンザチン)、ジシクロヘキシルアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソ-プロピルアミン、リドカイン、リシン、メグルミン、N-メチル-D-グルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、およびトリス-(ヒドロキシメチル)-メチルアミン(トロメタミン)の塩が挙げられる。
【0067】
酸付加塩は、化合物を、限定されるものではないが、ヒドロハリド、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩;他の無機酸およびそれらの対応する塩、例えば、硫酸塩、硝酸塩、およびリン酸塩;アルキル-およびモノ-アリールスルホン酸塩、例えば、エタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、およびベンゼンスルホン酸塩;ならびに他の有機酸およびそれらの対応する塩、例えば、酢酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、およびアスコルビン酸塩を含む薬学上許容される有機酸および無機酸で処理することによって作製され得る。
【0068】
薬学上許容される酸塩の限定されない例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩(ベンゼンスルホン酸塩)、重硫酸塩、重亜硫酸塩、臭化物、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、カプリル酸塩、塩化物、クロロ安息香酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、リン酸二水素塩、ジニトロ安息香酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、ガラクタル酸塩、ガラクツロン酸塩、グルコヘプタン酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミコハク酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、馬尿酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ヨウ化物、イセチオン酸塩、イソ酪酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メタリン酸塩、メタンスルホン酸塩、メチル安息香酸塩、リン酸一水素塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、オレイン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、フェニル酢酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、およびフタル酸塩
が挙げられる。
【0069】
多重塩の形態も薬学上許容される塩であると考えられる。多重塩形態の一般的な限定されない例としては、重酒石酸塩、重酢酸塩、重フマル酸塩、ジメグルミン、重リン酸塩、ジナトリウム、および三塩酸塩が挙げられる。
【0070】
従って、「薬学上許容される塩」は、本明細書において使用される場合、本明細書に記載されるようなあらゆる化合物の塩形態を含んでなる有効成分(薬物)を意味することが意図される。塩形態は、好ましくは、本明細書に記載される化合物に改善されたおよび/または望ましい薬物動態/薬理力学特性を付与する。
【0071】
MRGPRDは、例えば、遺伝子ID:116512に記載されるように、「MAS関連GPRファミリーメンバーD(MAS related GPR family member D)」を指す。MRGPRDはまた、β-アラニン受容体としても知られている。MRGPRDは、感覚ニューロンの特定の亜集団で発現されるGタンパク質共役型受容体である。MRGPRDは、皮膚表皮から脊髄の膠様質(substantia gelatinosa)(SG、ラミナII)へポリモーダルな侵害受容情報を伝達する感覚ニューロンの明らかに異なるサブセットをマークする。さらに、Mrgprd発現(Mrgprd(+))ニューロンは、機械的侵害受容の全面的発現には必要とされるが、熱的侵害受容には必要とされない(Wang H, et al. Mrgprd-expressing polymodal nociceptive neurons innervate most known classes of substantia gelatinosa neurons. J Neurosci. 2009;29(42):13202-13209)。
【0072】
β-アラニンは、MRGPRDを発現する細胞において、フォルスコリンにより刺激されるcAMP生産を低下させるが、このことは、この受容体がGタンパク質G(q)およびG(i)と結合することを示唆する。MRGPRDの作動薬としては、β-ala、GABA、およびβ-AIBAが挙げられる(ただし、GABAおよびβ-AIBAは、MRGPRD作動薬としての活性においてはβ-alaよりも著しく低い)。β-ala、GABA、およびβ-AIBAは例示的なMRGPRD作動薬であり、他のMRGPRD作動薬も、本明細書に記載されている方法で、肥満細胞の活性化のダウンレギュレーション(脱顆粒)に働きがあると思われることに留意されたい。
【0073】
本明細書では、肥満細胞の活性化または過活性化に関連する病態を有する患者を治療する方法が提供される。この方法は、患者に、患者において肥満細胞の脱顆粒を下方調節するために有効な量のMRGPRD作動薬を投与することを含んでなる。有用なMRGPRD作動薬の例としては、限定されるものではないが、βアラニン(β-ala)またはその薬学上許容される塩、γアミノ酪酸(GABA)またはその薬学上許容される塩、およびβアミノイソ酪酸(β-AIBA)またはその薬学上許容される塩が挙げられる。上述の化合物のいずれを組み合わせたものも、患者を治療するために使用可能である。例としては、限定されるものではないが、蕁麻疹性疾患、肥満細胞症、食物アレルギー、アナフィラキシー、過敏性腸症候群が挙げられる。
【0074】
本明細書ではまた、肥満細胞の活性化または過活性化に関連する特定の病態に取り組むために、皮膚または粘膜へのβ-alaの送達を標的化するためのβ-alaを含んでなる局所、遅延放出、または腸溶医薬製剤が提供される。この製剤は、単位剤形、スプレー装置、エアロゾル装置、定量吸入器、スプレー、またはエアロゾル装置、またはネブライザーであり得る。この製剤は、ローション、クリーム、軟膏、点眼剤、点耳剤、絆創膏などの局所用製剤であり得る。スプレーまたはエアロゾル装置は、噴射剤および/またはレオロジー調整剤を含んでなり得る。局所用製剤は、浸透促進剤、レオロジー調整剤、抗生物質、抗炎症剤、または麻酔剤を含んでなり得る。いずれの製剤も、いずれの有用な付加的有効薬剤を含んでもよい。
【0075】
記載の製剤において有用な抗生物質の限定されない例としては、アシクロビル、アフロキサシン(afloxacin)、アンピシリン、アムホテリシンB、アトバコン、アジスロマイシン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、クリンダマイシン、クロファジミン、ダプソン、ジクラザリル(diclazaril)、ドキシサイクリン、エリスロマイシン、エタンブトール、フルコナゾール、フルオロキノロン、ホスカルネット、ガンシクロビル、ゲンタマイシン、イアトロコナゾール(iatroconazole)、イソニアジド、ケトコナゾール、レボフロキサシン、リンコマイシン、ミコナゾール、ネオマイシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、パロモマイシン、ペニシリン、ペンタミジン、ポリミキシンB、ピラジンアミド、ピリメタミン、リファブチン、リファンピン、スパルフロキサシン、ストレプトマイシン、スルファジアジン、テトラサイクリン、トブラマイシン、トリフルオロウリジン、硫酸トリメトプリム、Zn-ピリチオン、シプロフロキサシン、ノルフロキサシン、アフロキサシン(afloxacin)、レボフロキサシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、ネオマイシン、エリスロマイシン、硫酸トリメトプリム、ポリミキシンBおよび銀塩、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物および過ヨウ素酸塩が挙げられる。
【0076】
製剤は、鎮痛剤または麻酔剤、例えば、局所麻酔剤を含んでよい。限定されるものではないが、アセトアミノフェン、トラマドールまたはカンナビノイドを含む鎮痛薬;限定されるものではないが、ブロムフェナ、コルヒチン、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、インドプロフェン、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナム酸塩、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、ナプロキセン、ナパフェナク、オキサプロジン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、サリチルアミド、スリンダック、トルメチンを含む非ステロイド系抗炎症薬(NSAID前記);限定されるものではないが、セレコキシブ、ロフェコキシブ、およびエトリコキシブを含むCOX-2阻害剤;限定されるものではないが、ブプレノルフィン、ブトルファノール、コデイン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、レボルファノール、メペリジン、メタドン、モルヒネ、ナルブフィン、オキシコドン、オキシモルフォン、ペンタゾシン、プロポキシフェン、タペンタドールを含む麻薬性鎮痛薬(鎮痛剤);ならびに限定されるものではないが、アムブカイン、アミロカイン、アルチカイン、ベンゾナテート、ブピバカイン、ブタカイン、ブタニリカイン、クロロプロカイン、シンコカイン、コカイン、ククロメチルカイン(cuclomethylcaine)、ジメトカイン、ジペロドン、ベンゾカイン、ジブカイン、リドカイン、オキシブプロカイン、ブタムベン、プラモキシン、プロパラカイン、プロキシメタカイン、テトラカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、ニトラカイン、オルトカイン、オキセタカイン、パラエトキシカイン、フェナカイン、ピペロカイン、ピリドカイン、プラモカイン、プリロカイン、プリマカイン、プロカインアミド、プロカイン、プロポキシカイン、ピロカイン、キニソカイン、ロピバカイン、トリカイン、トリメカイン、トリパコカイン、およびカプサイシンを含む局所鎮痛薬または麻酔薬が挙げられる。
【実施例】
【0077】
実施例1:MRGPRDニューロンの作動は肥満細胞の活性化を抑制する
皮膚には、特定の刺激に応答するように特殊化された様々な間隔求心ニューロンが存在し、その特定の刺激は次に、疼痛または掻痒などの感覚に解釈される。本発明者らは、肥満細胞の活性化を抑制するためには、皮膚の表皮ならびに腸(およびその他の器官)に分布するニューロンの特定のサブセットが必要であることを見出した。これらのニューロンは、受容体Mas関連Gタンパク質受容体D(Mas related G protein receptor D)(MRGPRD)を発現する。マウスにおいてMRGPRD発現ニューロンが遺伝的に除去されると、肥満細胞の活性化の上昇が見られる。さらに、本発明者らは、野生型マウスにおいて皮膚の肥満細胞の機能を抑制するためには小分子MRGPRD作動薬であるβ-アラニンで十分であることも見出した。
【0078】
本明細書に記載されるように、肥満細胞の活性化を抑制するためにMRGPRDの小分子作動薬を適用することができる。
【0079】
潜在的使用としては、以下に関する皮膚炎症の抑制を含む:
あらゆる形態の急性または慢性蕁麻疹、
あらゆるタイプの蕁麻疹性疾患、
あらゆるサブタイプの肥満細胞症、
偽アレルギー、
接触性およびアトピー性皮膚炎、創傷治癒、酒さ、座瘡および乾癬を含むあらゆる形態の皮膚炎。
【0080】
皮膚における他の使用としては、神経性炎症、疼痛、および掻痒の抑制が挙げられる。他の組織における使用としては、喘息、血管性浮腫、および下痢の治療が挙げられる。さらなる使用としては、肥満細胞が病原的役割を果たす他の疾患の治療が含まれる。
【0081】
MRGPRD作動薬は、いずれの有効用量、剤形、処置経路、または処置計画で局所的、経口的、または非経口的に与えてもよい。
【0082】
実施例2:β-アラニンは48/80により媒介される肥満細胞脱顆粒を抑制する
C57BL/6マウスを、b-アラニンまたはビヒクルのいずれかのi.d.注射で2日間前処置した後に、化合物48/80のi.d.投与を行った。N-メチルp-メトキシフェネチルアミンとホルムアルデヒドの縮合生成物である化合物48/80は、急速な肥満細胞の脱顆粒および関連の浮腫を誘導する周知の化学物質である。皮膚の浮腫の程度は、皮膚のエバンスブルー色素の量によって測定した。
図1に示されるように、化合物48/80は、ビヒクル処置マウスにおいてエバンスブルー色素を増加させたが(縦列1と2を比較)、β-アラニンによる前処置はこの効果を阻害した(縦列3と4を比較)。MRGPRDニューロンを欠いたマウスでは、β-アラニンは、48/80の肥満細胞活性化能に対する効果を示さなかった(縦列5と6を比較)。β-アラニンに対する受容体を発現するニューロンが存在しないことから、これは特異度対照である。
【0083】
実施例3:β-アラニン(MRGPRD作動薬)はin vivo(アレルギー性接触皮膚炎のマウスモデル)においてDNFB接触過敏症を抑制する
図2を参照して、C57BL/6マウスのコホート(n=5)を、b-アラニン(WT+b-ala)またはビヒクル(WT)のいずれかで腹部へのi.d.注射で2日間前処置した後に、同じ部位に0.2%DNFB(化学増感剤)を感作させた。5日後、0.2%DNFBを耳に塗布した。示された日の耳の腫脹の程度の増大を、DNFBを塗布する前の耳の厚さと比較して測定した。DNFBに対する免疫応答の量を測定する代わりに耳の厚さの増大を用いた。特異度対照として、MRGPRD-DTRをDTで処置してMRGPRD発現ニューロンを除去し(
図DDでMRGPRDと表示)、同様に処置した(MRGPRDおよびMRGPRD+b-ala)。これらのマウスで耳の厚さは、活動亢進した肥満細胞と一致して全体的に増大した。重要なこととして、β-アラニンの注射は、MRGPRDを除去したマウスには効果がなく、これにより、このβ-アラニンの効果がMRGPRD発現ニューロンの存在を必要とすることが証明される。WTマウスでは、β-アラニンは耳の腫脹、および従って免疫応答に有意な効果を有していた。
【0084】
実施例4:5%局所β-アラニンはマウスにおいて肥満細胞の脱顆粒を抑制する
図3に示されるように、マウスの剃毛した側腹部の皮膚に、示された濃度のβ-アラニンの局所製剤(「b-ala」、白い四角)またはビヒクル単独(「con」、黒い丸)で2日間、1日2回処置を施した。次いで、マウスにエバンスブルー色素をi.v.投与し、その後、化合物48/80を皮内に注射した。10分後、肥満細胞の脱顆粒程度の指標として、皮膚に存在するエバンスブルー色素の量(μg・g
-1組織)を、皮膚生検、酵素消化、および比色定量評価によって決定した。
【0085】
実施例5:B-アラニンは創傷治癒に関連するトランスクリプトーム変化を誘導する
野生型C57BL/6マウスに100mMのβ-アラニンまたはビヒクルを1日2回、2日間注射した。処置部位の皮膚を採取し、mRNAを得、RNAseqを行った。β-アラニ処置群で遺伝子発現が増加した遺伝子をパスウェイ分析によって分析した。遺伝子数に対して正規化した-log
2 p値を
図4示す(黒いバー)。テープストリッピングの6時間後に採取したマウスの皮膚またはシャム対照から得られた公開RNAseqデータ(Naik S、et al. Nature 2017 Oct 26;550(7677):475-480. PMID: 29045388)を用いて同様の分析を行った(グレーのバー)。
【0086】
β-アラニンの投与およびテープストリッピングの後に活性化した経路の強い類似性は、β-アラニンが創傷治癒経路を活性化することを強く示唆する。
【0087】
本発明を特定の例示的実施形態、分散性組成物およびその使用に関して記載してきた。しかしながら、これらの例示的ないずれの実施形態の種々の置換、改変または組合せも本発明の趣旨および範囲から逸脱することなくなし得ることが当業者により認識されるであろう。よって、本発明は、例示的実施形態の記載によって限定されるものではない。
【国際調査報告】