(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-28
(54)【発明の名称】正極スクラップを用いた活物質の再使用方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20221021BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514234
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(85)【翻訳文提出日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 KR2020015554
(87)【国際公開番号】W WO2021241817
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】10-2020-0062370
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】セ-ホ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ミン-ソ・キム
(72)【発明者】
【氏名】トゥ-キョン・ヤン
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031BB02
5H031EE03
5H031RR02
(57)【要約】
正極スクラップから活物質を回収して再使用する方法を提供する。本発明の正極活物質の再使用方法は、(a)集電体上のリチウムコバルト酸化物正極活物質層を含む正極スクラップを空気中で熱処理して活物質層中のバインダーと導電材を熱分解することで、集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収する段階と、(b)回収された活物質を水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液で洗浄して乾燥する段階と、(c)洗浄された活物質にリチウム前駆体を添加してアニーリングして再使用可能な活物質を得る段階と、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)集電体上のリチウムコバルト酸化物正極活物質層を含む正極スクラップを空気中で熱処理して前記活物質層中のバインダーと導電材を熱分解することで、前記集電体を前記活物質層から分離し、前記活物質層中の活物質を回収する段階と、
(b)回収された活物質を水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液で洗浄して乾燥する段階と、
(c)洗浄された活物質にリチウム前駆体を添加してアニーリングして再使用可能な活物質を得る段階と、を含む、正極活物質の再使用方法。
【請求項2】
前記熱処理を300~650℃で行うことを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項3】
前記リチウム化合物水溶液は、0%超過15%以下のリチウム化合物を含むように製造され、前記洗浄を1時間以内で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項4】
前記洗浄は、前記回収された活物質を前記リチウム化合物水溶液に含浸すると共に攪拌することで行うことを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項5】
前記リチウム前駆体は、LiOH、Li
2CO
3、LiNO
3及びLi
2Oのいずれか一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項6】
前記リチウム前駆体を、前記活物質層に使用された原材料活物質中のリチウムと他の金属との割合に対し、損失されたリチウムの割合分を補い得る量で添加することを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項7】
前記リチウム前駆体を、リチウム添加量が0.001~0.4モル比となる量で添加することを特徴とする、請求項6に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項8】
前記アニーリングを400~1,000℃の空気中で行うことを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項9】
前記アニーリングの段階の温度は、前記リチウム前駆体の融点を超過する温度であることを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項10】
前記活物質層中の活物質を、粉末形態で回収し、前記バインダーや導電材の炭化によって生じる炭素成分が表面に残っていないことを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項11】
前記再使用可能な活物質は、前記活物質層中の活物質と類似の粒度分布を有することを特徴とする、請求項1に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項12】
(a)集電体上のリチウムコバルト酸化物正極活物質層を含む正極から正極板を打ち抜いた後に残った部分である正極スクラップを、空気中で、300~650℃で熱処理して前記活物質層中のバインダーと導電材を熱分解することで、前記集電体を前記活物質層から分離し、前記活物質層中の活物質を回収する段階と、
(b)回収された活物質を、水溶液状態で塩基性を示し、0%超過15%以下のリチウム化合物を含んでいるリチウム化合物水溶液で洗浄して乾燥する段階と、
(c)洗浄された活物質に、LiOH、Li
2CO
3、LiNO
3及びLi
2Oのうちいずれか一つ以上を添加し、400~1,000℃の空気中でアニーリングする段階と、を含む、正極活物質の再使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の製造時、資源をリサイクルする方法に関する。本発明は、特に、リチウム二次電池の製造工程で発生する正極スクラップまたは使用後に廃棄されるリチウム二次電池の正極活物質を回収して再使用する方法に関する。
【0002】
本出願は、2020年5月25日出願の韓国特許出願第10-2020-0062370号に基づく優先権を主張し、該当出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
反復的な充電と放電の可能なリチウム二次電池が化石エネルギーの代替手段として脚光を浴びている。リチウム二次電池は、携帯電話、ビデオカメラ、電動工具のような伝統的なハンドヘルドデバイスに主に使用されていた。しかし、最近には、電気で駆動される自動車(EV、HEV、PHEV)、大容量の電力貯蔵装置(ESS)、無停電電源装置(UPS)などにその適用分野が次第に増加しつつある。
【0004】
リチウム二次電池は、活物質が集電体にコーティングされた正極板と負極板が分離膜を挟んで配置された構造を有する単位セルが集合した電極組立体と、この電極組立体を電解液と共に密封して収納する外装材、即ち、電池ケースを備える。リチウム二次電池の正極活物質は、主にリチウム系酸化物を使用し、負極活物質は炭素材を使用する。リチウム系酸化物には、コバルト、ニッケルまたはマンガンのような金属が含有されている。特に、コバルト、ニッケル、マンガンは、非常に高価である有価金属であり、その中でもコバルトは戦略的金属に属するものであって、世界各国は需給に格別の関心を持っており、コバルト生産国の数が限定されていることから、世界的にその需給が不安定な金属と知られている。戦略的金属の原資材の需給不均衡が招来されると、原資材価格の上昇可能性が大きい。
【0005】
既存には、使用後に寿命が完了して廃棄されるリチウム二次電池(廃電池)からこのような有価金属を回収してリサイクルする研究が主に進んできた。廃電池の外にも、正極板の打ち抜き後に捨てられる廃棄物または工程中に不良が発生した正極から資源が回収可能であれば、より望ましい。
【0006】
現在、リチウム二次電池の製造時には、
図1のようにアルミニウム(Al)ホイルのような長いシート状の正極集電体10に、正極活物質、導電材、バインダー、溶媒などを混合した正極スラリーをコーティングして正極活物質層20を形成することで正極シート30を製造した後、一定のサイズで正極板40を打ち抜いている。打ち抜いた後に残った部分は、正極スクラップ(scrap)50として廃棄される。正極スクラップ50から正極活物質を回収して再使用可能になれば、産業経済面及び環境面で非常に望ましいであろう。
【0007】
既存の正極活物質を回収する方法は、正極を、塩酸、硫酸、硝酸などで溶解した後、コバルト、ニッケル、マンガンなどの活物質元素を抽出し、再び正極活物質の合成のための原料として使用する場合がほとんどである。しかし、酸を用いた活物質元素の抽出法は、純粋な原料を回収するための工程が環境に優しくないだけでなく、中和工程と廃水処理工程が必要になり、工程費用が上昇するという短所がある。また、正極活物質元素のうち主元素の一つであるリチウムを回収できないという短所がある。このような短所を解消するには、正極活物質を溶解せず、活物質を元素形態で抽出することなく直接再使用可能な方法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、正極スクラップから活物質を回収して再使用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するために、本発明の正極活物質の再使用方法は、(a)集電体上のリチウムコバルト酸化物正極活物質層を含む正極スクラップを空気中で熱処理して活物質層中のバインダーと導電材を熱分解することで、集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収する段階と、(b)回収された活物質を水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液で洗浄して乾燥する段階と、(c)洗浄された活物質にリチウム前駆体を添加してアニーリングして再使用可能な活物質を得る段階と、を含む。
【0010】
熱処理を、300~650℃で行い得る。
【0011】
熱処理を、5℃/minの温度上昇速度で、550℃で30分間行い得る。
【0012】
洗浄を、回収された活物質をリチウム化合物水溶液に含浸すると共に攪拌することで行い得る。
【0013】
リチウム化合物水溶液は、0%超過15%以下のリチウム化合物を含むように製造され、望ましくはLiOHを使用する。洗浄は、1時間以内で行い得る。
【0014】
リチウム前駆体は、LiOH、Li2CO3、LiNO3及びLi2Oのいずれか一つ以上であり得る。
【0015】
リチウム前駆体を、活物質層に使用された原材料活物質中のリチウムと他の金属との割合に対し、損失されたリチウムの割合分を補い得る量で添加し得る。
【0016】
例えば、リチウム前駆体を、リチウム添加量が0.001~0.4モル比となる量で添加し得る。
【0017】
アニーリングを400~1,000℃の空気中で行い得る。
【0018】
アニーリング段階の温度は、リチウム前駆体の融点を超過する温度であり得る。
【0019】
活物質層中の活物質を粉末形態で回収し、バインダーや導電材の炭化によって生じる炭素成分が表面に残っていない。
【0020】
再使用可能な活物質は、活物質層中の活物質と類似の粒度分布を有し得る。
【0021】
本発明による正極活物質の再使用方法は、(a)集電体上のリチウムコバルト酸化物正極活物質層を含む正極から正極板を打ち抜いた後に残った部分である正極スクラップを、空気中で、300~650℃で熱処理して活物質層中のバインダーと導電材を熱分解することで、集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収する段階と、(b)回収された活物質を、水溶液状態で塩基性を示し、0%超過15%以下のリチウム化合物を含んでいるリチウム化合物水溶液で洗浄して乾燥する段階と、(c)洗浄された活物質に、LiOH、Li2CO3、LiNO3及びLi2Oのうちいずれか一つ以上を添加し、400~1,000℃の空気中でアニーリングする段階と、を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、リチウム二次電池の製造工程で発生する正極スクラップのような廃正極活物質を、酸を用いることなく再使用可能であるため、環境に優しい。本発明による方法は、中和工程や廃水処理工程が不要であるので、環境への負担を緩和して工程費用を節減することができる。
【0023】
本発明によると、回収できない金属元素なく正極活物質を回収することができる。集電体を溶解しないため、集電体も回収可能である。活物質元素を抽出してさらに正極活物質の合成のための原料として使用せず、粉末形態で回収した活物質を直接再使用できる方法であるので、経済的である。
【0024】
本発明によると、NMP、DMC、アセトン、メタノールのような有毒及び爆発危険のある溶媒を使用しないため安全であり、熱処理と洗浄、アニーリングなどの簡単な工程を用いることから、工程管理が容易であり、大量生産に適している。
【0025】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施例を例示するものであり、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】正極シートから正極板を打ち抜いた後、廃棄される正極スクラップを示す図である。
【
図2】本発明による活物質の再使用方法を示したフローチャートである。
【
図3】実施例及び比較例の活物質を用いてセル評価を行った結果である。
【
図4】実施例及び比較例の活物質のX線回折(X-Ray Diffraction,XRD)パターンである。
【
図5】実施例及び比較例の活物質の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,SEM)写真である。
【
図6】実施例及び比較例の活物質の粒度分布グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付された図面を参照して本発明の望ましい実施例を詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施例及び図面に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0028】
後述する説明において、本願の一部を形成する添付図面を参照する。詳細な説明に記述された具現例、図面及び請求項は、制限しようとする意図がない。ここに開示された主題物の精神と範囲から外れることなく他の実施例を活用することができ、他の変更も可能である。ここに一般的に記述され、図面によって説明されたような本発明の様相は、多様な他の構成で配列、代替、組合せ、分離及びデザインされ得、その全てがここで確かに考慮されたということを理解することができるであろう。
【0029】
他の方式で定義されない限り、本明細書において使用されたあらゆる技術的・科学的用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を持つ者(以下、「当業者」とする。)に共通して理解されるものと同じ意味を有する。
【0030】
本発明は、本願に説明された特定の実施例によって限定されない。当業者に明白であるように、本発明の精神と範囲から外れることなく多様な変更と修正が可能である。ここに列挙したものに加え、本願の範囲内で機能的に均等な方法が前述した説明から当業者に明白になるであろう。そのような変更と修正は、添付の特許請求の範囲内にある。このような請求項が資格を付与する均等物の全体範囲と共に、本発明は、請求項のみによって限定される。本発明が、勿論、変化され得る特定の方法に限定されることではないという点を理解しなければならない。ここに使用された専門用語は、特定の実施例を説明するための目的としてのみ使用されているだけで、制限しようとする意図ではない。
【0031】
従来の活物質リサイクル工程の場合、使用後、性能が退化したリチウム二次電池活物質内に有価金属(ニッケル、コバルト、マンガンなど)を元素として抽出して活物質を再合成することが主なことであったとしたら、本発明は、リチウム二次電池の製造工程中に発生する正極スクラップから活物質を回収するという点で差別性がある。
【0032】
また、既存に知られた活物質リサイクル工程の場合、酸/塩基溶解または還元/添加剤を用いた溶融を用いて有価金属を抽出し、これを金属(直接還元法)または再合成した活物質に製造するなどの化学的方法が加えられ、工程の複雑性及び費用がさらに発生する。しかし、本発明は、正極活物質を溶解することなく直接再使用する方法に関する。
【0033】
正極活物質を直接再使用するには、正極から集電体を除去しなければならない。正極から集電体を除去する方法には、高温の熱処理によってバインダーを除去すること、溶媒を用いてバインダーを溶かすこと、集電体そのものを溶かすこと、乾式粉砕とふるい分離によって活物質を選別することなどが挙げられる。
【0034】
溶媒を用いてバインダーを溶かすには、溶媒の安定性が重要である。NMPが最も効率的な溶媒であるが、毒性及び高い価格という短所がある。そして、廃溶媒を再処理するなどの溶媒回収工程が必要となる短所もある。集電体を溶かすことは、溶媒を用いることよりは工程費用が安い。しかし、再使用活物質の表面の異物除去が難しく、集電体の除去過程で水素ガスが発生するため、爆発の危険がある。乾式粉砕とふるい分離によっては、集電体と活物質とを完璧に分離しにくい。粉砕過程で活物質の粒度分布が変わり、バインダー除去が難しいため、これを再使用した電池特性が退化するという短所がある。
【0035】
本発明では、高温の熱処理を用いて活物質と集電体を分離する。特に、熱処理を空気中で行うため、格別の装置構成が求められず、加熱さえすればよい比較的に簡単な工程であるため、大量生産及び商業化に有利である。しかし、再使用活物質の表面に異物が残留してはいけない。本発明においては、再使用活物質の表面の異物除去の段階までも提案する。
【0036】
以下、
図2を参照して本発明の一実施例による活物質の再使用方法を説明する。
図2は、本発明による活物質の再使用方法のフローチャートである。
【0037】
図2を参照すると、先ず、捨てられる正極スクラップを準備する(段階S10)。
【0038】
正極スクラップは、
図1を参照して説明したように、集電体上に正極活物質層を含む正極シートを製造し、打ち抜いた後に残った部分であり得る。しかのみならず、工程中に不良が発生した正極を集めて正極スクラップを用意し得る。また、使用後に廃棄されたリチウム二次電池から正極を分離して正極スクラップを用意してもよい。
【0039】
例えば、LiCoO2(LCO)のようなリチウムコバルト酸化物である活物質、導電材として炭素系であるカーボンブラック、及びバインダーであるポリビニリデンフルオライド(polyvinylidene fluoride, PVdF)に、NMP(N-methyl pyrrolidone)を添加して混合して製造したスラリーをアルミニウムホイルからなるシート状集電体の上にコーティングした後、約120℃の真空オーブンで乾燥して正極シートを製造した後、一定の大きさの正極板を打ち抜いて残った正極スクラップを準備する場合であり得る。
【0040】
このように正極スクラップは、アルミニウムホイルのような金属箔の集電体の上に活物質層を有している。活物質層は、活物質、導電材、バインダー、溶媒などを混合したスラリーをコーティングして形成したものであることから、溶媒の揮発後、活物質と導電材とをバインダーが連結する構造となっている。したがって、バインダーを除去すると、集電体から活物質が分離できる。
【0041】
次に、このような正極スクラップを適切な大きさで破砕する(段階S20)。破砕は、正極スクラップが適当に取扱いが容易な大きさに切断または切り刻む(shredding)することを示す。破砕してから正極スクラップは、例えば、1cm×1cmの大きさに細かく切られる。破砕には、ハンドミル、ピンミル、ディスクミル、カッターミル、ハンマーミルのような多様な乾式粉砕装備を用いてもよく、高速カッターを用いてもよい。
【0042】
破砕は、正極スクラップの取扱いと以後の工程で用いる装備のうち、求められる特性を考慮して行い得る。例えば、正極スクラップのローディングとアンローディングにおいて連続的な処理が必要な装備を用いる場合なら、正極スクラップの流動性がよくなければならないため、大きすぎる正極スクラップを破砕すべきである。
【0043】
次に、正極スクラップを空気中で熱処理する(段階S30)。
【0044】
本発明において、熱処理は、活物質層中のバインダーを熱分解するために行う。熱処理は、300~650℃で行い得ることから、高温熱処理ともいえる。300℃未満の温度では、バインダーの除去が難しくなり、集電体を分離できない問題が起こり、650℃以上の温度では、集電体が溶けてしまい(Alの融点:660℃)、集電体を分離することができなくなる。
【0045】
熱処理時間は、バインダーが充分に熱分解される程度に維持する。例えば、30分間前後にする。望ましくは、30分間以上にする。熱処理時間が長くなるほどバインダーの熱分解が起こる時間が長くなるが、一定時間以上になれば、熱分解効果に差がなくなる。望ましくは、熱処理時間は、30分間以上5時間以下にする。
【0046】
熱処理装備は、多様な形態のファーネス(furnace)であり得る。例えば、ボックス型のファーネスであってもよく、生産性を考慮すると、連続的な処理が可能なロータリキルン(rotary kiln)であり得る。
【0047】
熱処理後には大気中で徐冷または急冷し得る。
【0048】
例えば、熱処理は、温度上昇速度5℃/min、550℃で30分間行い得る。温度上昇速度は、例えば、ボックス型のファーネスで無理なく具現可能でありながら、正極スクラップに熱衝撃などを発生させることなく加熱可能な程度であり得る。550℃は、Al集電体の融点を考慮しながらも、バインダーの熱分解がよく起こるようにする温度である。この温度では、10分間未満に熱処理をすると、熱分解が十分でないので、10分間以上に熱処理をしなくてはならず、30分間以上熱処理することが望ましい。
【0049】
空気中における熱処理によって活物質層中のバインダーと導電材が熱分解されながらCO2とH2Oになって除去される。バインダーが除去されるため、集電体から活物質が分離され、回収しようとする活物質は粉末形態で選別され得る。したがって、段階S30のみでも集電体を活物質層から分離し、活物質層中の活物質を回収することができる。
【0050】
段階S30の熱処理は、空気中で行うことが重要である。還元気体または非活性気体雰囲気で熱処理を行うと、バインダーと導電材が熱分解されず、炭化される。炭化されると、炭素成分が活物質の表面に残るようになり、再使用活物質の性能を低下させるようになる。空気中で熱処理を行うと、バインダーや導電材中の炭素物質は、酸素と反応してCO、CO2ガスに燃焼して除去されるため、バインダーと導電材の残留なくほとんど除去される。
【0051】
そのため、本発明によると、活物質は粉末形態で回収され、バインダーや導電材の炭化によって生ずる炭素成分が表面に残らない。
【0052】
次に、回収された活物質を洗浄して乾燥する(段階S40)。洗浄に際し、水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液で洗浄することが重要である。このようなリチウム化合物水溶液は、0%超過15%以下のリチウム化合物を含むように製造され、望ましくは、LiOHを使用する。LiOHの量は、15%以下にすることが望ましい。過量のLiOHの使用は、洗浄後にも活物質の表面にLiOHが残ることがあり、以後のアニーリング工程に影響を及ぼし得る。最大限にアニーリングの前段階における活物質の表面をきれいにするために、過量のLiOH添加は工程上よくないので、15%以下に制限する。
【0053】
洗浄は、このようなリチウム化合物水溶液に回収された活物質を浸漬しておくことで行い得る。浸漬後一週間、望ましくは一日間、より望ましくは1時間以内で洗浄を行い得る。一週間以上洗浄する場合、リチウムの過多溶出によって容量低下が発生する恐れがある。したがって、1時間以内で行うことが望ましい。洗浄は、水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液に活物質を浸漬しておくこと、浸漬した状態で攪拌することなどを含む。なるべく攪拌を並行した方がよい。リチウム化合物水溶液で攪拌せず浸漬のみを行うと、洗浄工程が遅くなり、リチウム溶出の原因になり得る。攪拌を並行すると、工程時間を最小化することができるため、攪拌はリチウム化合物水溶液の含浸と共に行うことが望ましい。乾燥は、濾過後にオーブン(convection type)で空気中で行い得る。
【0054】
水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液で洗浄する理由は、回収された活物質の表面に存在し得るLiFと金属フッ化物(metal fluoride)を除去して表面を改質するためである。段階S30の熱処理の間には、活物質層中のバインダーと導電材がCO2とH2Oになりながら気化して除去され、この過程でCO2とH2Oが活物質表面のリチウムと反応してLi2CO3、LiOHを形成するか、またはPVdFのようなバインダーに存在していたFが正極活物質を構成する金属元素と反応してLiFまたは金属フッ化物を形成し得る。LiFまたは金属フッ化物が残っていれば、活物質の再使用時に電池特性が劣化する。本発明においては、段階S40のように洗浄段階を追加して、熱処理段階S30で再使用活物質の表面に生成されている反応物を除去することで、再使用活物質の表面に異物が残らないようにする。
【0055】
段階S40では、水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液で洗浄するのが重要である。水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液ではなく、硫酸や塩酸水溶液を使用すると、活物質表面のFを洗浄することはできるが、活物質に存在する転移金属(Co,Mg)などを溶出させて再使用正極活物質の性能を低下させる。本発明において使用する水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液は、段階S30の熱分解後にも微量でも残っているかもしれないバインダーを除去可能であるだけでなく、活物質に存在する転移金属などを溶出させず、洗浄過程で溶出され得るリチウムの量を補う役割も果たすため、非常に望ましい。
【0056】
次に、洗浄された活物質にリチウム前駆体を添加してアニーリングする(段階S50)。段階S50によって、再使用可能な活物質が得られる。
【0057】
前段階であるS30、S40を経る間、活物質中のリチウム損失が発生し得る。段階S50では、このようなリチウム損失量を補う。
【0058】
しかのみならず、段階S50では、アニーリングによって活物質の結晶構造を回復して再使用活物質の特性を一度も使用しなかったフレッシュな活物質水準に回復または改善する。
【0059】
前段階であるS30、S40を経る間、活物質の表面に変形構造が現われ得る。また、LCO活物質の場合なら、表面で熱分解によってCo3O4が生成されていることもある。Co3O4がそのまま存在する状態で電池を製造すると、電池特性が悪くなり得る。本発明においては、段階S50によって結晶構造を回復し、Co3O4を除去して、フレッシュな活物質に類似の水準に初期特性を回復または改善することができる。
【0060】
段階S50のリチウム前駆体は、LiOH、Li2CO3、LiNO3及びLi2Oのいずれか一つ以上であり得る。
【0061】
リチウム前駆体は、活物質層に使用された原材料活物質(即ち、フレッシュな活物質)中のリチウムと他の金属との割合に対し、損失されたリチウムの割合分を補い得る量で添加される。例えば、フレッシュな活物質中のリチウムと他の金属との割合が1である場合、リチウム添加量が0.001~0.4モル比となる量でリチウム前駆体を添加し得る。望ましくは、0.01~0.2モル比になるように添加することが望ましい。洗浄などによって損失されたリチウム量以外の過量のリチウム前駆体の添加は、未反応リチウム前駆体を再使用活物質に残すようになり、これは活物質の再使用過程で抵抗を増加させる要因になるので、適切な量のリチウム前駆体の添加が求められる。
【0062】
アニーリングは、400~1,000℃、空気中で行い得る。また、アニーリング温度は600~900℃であり得る。アニーリング温度は、リチウム前駆体の種類によっては制限された範囲内で変化し得る。アニーリング時間は1時間以上にすることが望ましい。より望ましくは、5時間前後である。アニーリング時間が長い場合、結晶構造回復が充分に行われるが、長時間行うとしても性能に大きい影響を与えない。アニーリング時間は、例えば、15時間以内にする。アニーリング装備は、熱処理段階S30と同一または類似の装備を用い得る。
【0063】
例えば、リチウム前駆体としてLi2CO3を使用する場合、アニーリング温度は700~900℃が望ましく、より望ましくは、710~780℃である。これは、Li2CO3の融点が723℃であるためである。さらに望ましくは750℃で行う。リチウム前駆体としてLiOHを使用する場合、アニーリング温度は400~600℃が望ましく、より望ましくは450~480℃である。これは、LiOHの融点が462℃であるためである。
【0064】
アニーリング温度は、リチウム前駆体の融点を超過する温度であることが望ましい。但し、1,000℃を超過する温度では、正極活物質の熱分解が発生して活物質の性能低下が発生するため、1,000℃を超えないようにする。
【0065】
このように本発明によると、LiFまたは金属フッ化物は洗浄段階S40で、Co3O4はアニーリング段階S50で除去される。水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液を使用した洗浄及び乾燥段階は、安全かつ安価であり、他の元素の消失なくLiFまたは金属フッ化物を除去することができ、転移金属などの溶出を防止でき、工程中に発生するリチウム損失を補うことができる長所がある。アニーリング段階も、安全かつ安価であり、Co3O4を効果的に除去でき、結晶構造の回復、即ち、結晶性を改善して再使用活物質の電池特性が回復可能な長所がある。
【0066】
本発明によって得られる再使用可能な活物質は、正極スクラップ中の活物質層中に存在していた活物質と類似の粒度分布を有するため、別の処理をしなくてもよい。バインダーや導電材に生ずる炭素成分が表面に残っていないため、このような炭素成分を除去するための段階などが不要である。したがって、以上の
図2の方法によって得られた活物質は、別の処理なくそのまま再使用して正極の製造に用いることができる。
【0067】
再使用活物質を組成の調節なく100%そのまま使用するか、フレッシュなLCOに混合して、導電材やバインダー、溶媒に混合してスラリーに製造して使用し得る。
【0068】
以下、本発明の実験例について詳しく説明する。
【0069】
<実験例>
以下の実施例及び比較例のような方法で各々正極活物質を準備し、電気化学性能を評価した。
【0070】
実施例
上述したような本発明の活物質再使用方法によって再使用活物質を収去した。正極板を打ち抜いた後に捨てられる正極スクラップを準備し、段階S30で、熱処理を550℃で30分間行った。段階S40で、洗浄をLiOHを用いて10分間行った。段階S50では、再使用LCOのリチウム量に対して2mol%過量のリチウム量になるリチウム前駆体(Li2CO3)を投入し、750℃で15時間アニーリングした。
【0071】
比較例1
再使用活物質ではなく、フレッシュなLCOを使用した。
【0072】
比較例2
上述したような本発明の活物質再使用方法のうち、段階S30の熱処理のみを行って、バインダー、導電材の除去及びAl集電体を分離してLCO活物質を収去した。段階S30は、実施例と同じ条件で行った。本発明の活物質再使用方法のうち、段階S40の表面改質と段階S50の結晶構造回復は行わなかった。
【0073】
比較例3
比較例2に加え、上述したような本発明の活物質再使用方法のうちで段階S40の表面改質をさらに行ってLCO活物質を収去した。即ち、表面改質は行うが、本発明の活物質再使用方法のうち段階S50の結晶構造回復は行わなかった。段階S40は、実施例と同じ条件で行った。
【0074】
実施例及び比較例で各々回収または準備した正極活物質を96wt%、導電材であるカーボンブラックは2wt%、バインダーであるPVdFは2wt%に秤量してNMPに混合してスラリーを作って正極を製造した後、セル(Coin Half Cell,CHC)を製造し、電気化学性能を評価した。
【0075】
図3は、実施例及び比較例の活物質を使用してセル評価を行った結果である。相異なる電流において、サイクル反復回数による容量を評価し、レート性能(rate performance)を評価した。評価に使用した装備は、実験室で使用する通常の充放電実験装置を用いた。測定装置や方法による偏差はない。
図3のグラフにおいて、横軸はサイクル(cycle)回数であり、縦軸は容量(capacity)である。
【0076】
電圧は3~4.5V条件にし、初期フォーメーション充放電は0.2C/0.2Cで行った。セルを構成する電解液は、カーボネート系であって、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=3:7にし、添加剤が一部入っているものを使用した。
【0077】
図3を参照すると、再使用活物質であるが、本発明による表面改質と結晶構造回復を行っていない比較例2から最も低いレート性能を確認することができる。これは、段階S30のような高温熱処理過程でバインダーと導電材がCO
2とH
2Oになって除去されながら正極活物質表面のリチウムと反応してLi
2CO
3、LiOHを形成し、バインダーに存在していたFと反応してLiFまたは金属フッ化物を形成したためである。また、LCOの表面で熱分解によって生成されるCo
3O
4によって低い電池特性を示すと判断される。
【0078】
比較例3は、比較例2に加え、表面改質を行ったものである。比較例3は、表面に生成された反応物を洗浄によって除去したため、比較例2に比べてよい結果が得られたと評価される。
【0079】
実施例は、比較例3に加え、アニーリングまでを行ったものである。活物質を回収する過程中で損失されたリチウムを補って結晶性を回復するために、Li2CO3を添加してアニーリングした。工程中に発生するリチウムの損失量を補うことができるだけでなく、再生中に活物質の表面に現われ得る変形構造及びCo3O4をさらにLCO結晶構造に還元させ、比較例1のフレッシュな活物質の初期特性よりも改善した結果を示すことが確認される。このように本発明によると、正極スクラップから活物質を直接再使用可能な水準で回収することができる。NMP、DMC、アセトン、メタノールのような有毒及び爆発危険のある溶媒を使用しなくてもよいので安全であり、熱処理、洗浄及び乾燥、アニーリングなどの簡単かつ安全な方法を用いるので、大量生産にも適する。
【0080】
図4は、実施例及び比較例の活物質のXRDパターンである。XRDパターンにおいて、横軸は2θ[degree]であり、縦軸は強度(intensity)である。XRDパターンは、実験室で使用する通常のX線回折装置を用いて得られた。例えば、Rigaku社のX線回折分析機XG-2100を使用して分析し得る。しかし、装置や方法による偏差はない。
【0081】
図4の(a)は、比較例1、即ち、フレッシュなLCOのXRDパターンである。(b)は、比較例2の活物質、(c)は、比較例3の活物質のXRDパターンである。(b)、(c)を(a)と比較すると、Co
3O
4相が確認される。即ち、段階S30の熱処理過程でLCOの表面にCo
3O
4が生成されることを確認することができる。
【0082】
図4の(d)は、実施例の活物質のXRDパターンである。(c)と(d)を比較すると、段階S50のアニーリングによってCo
3O
4相はなくなり、結晶構造がLCOに回復されたことが分かる。XRDパターンから回折ピークの位置を見ると、(d)の結晶構造は(a)の結晶構造と類似である。したがって、本発明の実施例が比較例1のフレッシュな活物質水準に回復したことが分かる。このように本発明によると、正極スクラップから活物質を直接再使用可能な水準で回収することができる。
【0083】
図5は、実施例及び比較例の活物質のSEM写真である。SEM写真は、実験室で使用する通常のSEM装置で撮影した。例えば、HITACHI社のs-4200を用いて撮影し得る。しかし、測定装置や方法による偏差はない。
【0084】
図5の(a)は、比較例1のフレッシュなLCOのSEM写真であり、(b)は、実施例の再使用活物質のSEM写真である。フレッシュなLCOと比較すると、実施例の回収されたLCOも同じ形状を示していることが分かる。また、LCOのみが観察されることから、バインダー及び導電材が高温の熱処理過程で除去されたことが分かる。したがって、空気中における熱処理のみで集電体から活物質が分離され、活物質の表面にバインダーや導電材がほとんど残っていないということが分かる。このように本発明によると、複雑な方法や有害な物質を使用しなくても集電体と活物質の分離が可能になり、活物質を環境に優しく回収することができる。酸を使用しなくても再使用可能であるため、中和工程や廃水処理工程が不要となり、環境への負担を緩和し、工程費用を節減することができる。
【0085】
図6は、実施例及び比較例の活物質の粒度分布グラフである。粒度分布は、実験室で使用する通常の粒度分析機によって得ることができる。例えば、Horiba LA 950V2粒度分析機を用いて測定し得る。しかし、測定装置や方法による偏差がない。
図6において、横軸は粒子サイズ(particle size[μm])であり、縦軸は体積%(volume[%])である。
【0086】
実施例及び比較例2、3で回収された活物質はいずれも比較例1のフレッシュなLCOと粒度分布が類似である。同じ粒子の大きさを有する粒子の体積%が+/-2%以内の範囲のみで差を有する場合、粒度分布が類似であると定義する。このように、本発明によると、活物質の粒度分布が変わらないため、初期特性がほぼそのまま維持され、これを再使用した電池特性が、フレッシュな活物質を使用した電池特性と類似の水準になると期待される。
【0087】
このように本発明によると、単純であり、環境に優しくて経済的な方法を用いて正極スクラップを再使用することができ、このように製造されたLCO正極活物質をそのまま再使用してリチウム二次電池を製造するとしても電池の性能に問題がない。
【0088】
以上、本発明を限定された実施例と図面によって説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の属する技術分野で通常の知識を持つ者によって本発明の技術思想と特許請求の範囲の均等範囲内で多様な修正及び変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0089】
10 正極集電体
20 正極活物質層
30 正極シート
40 正極板
50 正極スクラップ
【国際調査報告】