(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-31
(54)【発明の名称】勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20221024BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021551615
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(85)【翻訳文提出日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 CN2020110787
(87)【国際公開番号】W WO2022016647
(87)【国際公開日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】202010698191.9
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516293598
【氏名又は名称】江西金力永磁科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】JL MAG RARE-EARTH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 81, West Jinling Road, Development Zone, Ganzhou City, Jiangxi 341000, P.R. China
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミンフォ リィァオ
(72)【発明者】
【氏名】バオグゥイ ツァイ
(72)【発明者】
【氏名】ヨン リィウ
(72)【発明者】
【氏名】ハイミン ウー
【テーマコード(参考)】
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
5E040AA04
5E040BD01
5E040CA01
5E040NN17
5E062CD04
5E062CG02
5E062CG07
(57)【要約】
本発明は、減磁容易領域と、減磁困難領域とを含むネオジム-鉄-ホウ素磁性体であって、磁化方向に垂直な方向に、減磁容易領域の残留磁束密度が減磁困難領域の残留磁束密度より小さく、減磁容易領域の保磁力が減磁困難領域の保磁力より大きく、磁化方向に垂直な方向に、減磁容易領域の残留磁束密度及び保磁力がそれぞれ一定値であり、減磁困難領域の残留磁束密度及び保磁力がそれぞれ一定値である、磁気特性勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体を提供する。本願で提供されるネオジム-鉄-ホウ素磁性体は、残留磁束密度及び保磁力の勾配分布により、このネオジム-鉄-ホウ素磁性体の残留磁束密度、保磁力、磁束および表面磁気が最適化される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減磁容易領域と、減磁困難領域とを含むネオジム-鉄-ホウ素磁性体であって、
磁化方向に垂直な方向に、減磁容易領域の残留磁束密度が減磁困難領域の残留磁束密度より小さく、減磁容易領域の保磁力が減磁困難領域の保磁力より大きく、磁化方向に垂直な方向に、減磁容易領域の残留磁束密度及び保磁力がそれぞれ一定値であり、減磁困難領域の残留磁束密度及び保磁力がそれぞれ一定値である、磁気特性勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体。
【請求項2】
前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体は、さらに減磁最易領域を含み、
磁化方向に垂直な方向に、前記減磁最易領域の残留磁束密度は、減磁容易領域の残留磁束密度より小さく、前記減磁最易領域の保磁力は、前記減磁容易領域の保磁力より大きく、磁化方向に垂直な方向に、前記減磁最易領域の残留磁束密度及び保磁力は、それぞれ一定値である、ことを特徴とする請求項1に記載のネオジム-鉄-ホウ素磁性体。
【請求項3】
前記減磁困難領域の残留磁束密度に対する前記減磁容易領域の残留磁束密度の減少値が0.05KGs~0.4KGsであり、前記減磁困難領域の保磁力に対する前記減磁容易領域の保磁力の増加値が2KOe~10KOeである、ことを特徴とする請求項2に記載のネオジム-鉄-ホウ素磁性体。
【請求項4】
前記減磁最易領域の残留磁束密度に対する前記減磁容易領域の残留磁束密度の減少値が0.05KGs~0.4KGsであり、前記減磁最易領域の保磁力に対する前記減磁容易領域の保磁力の増加値が2KOe~10KOeである、ことを特徴とする請求項2に記載のネオジム-鉄-ホウ素磁性体。
【請求項5】
A)磁化方向に垂直な方向に、ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁容易領域の表面に重希土類粉末と溶剤とを含有する第1混合物を塗布し、同時、ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁困難領域の表面に重希土類粉末と溶剤とを含有する第2混合物を塗布し、第1混合物の重希土類粉末の質量が第2混合物の重希土類粉末の質量より大きいステップと、
B)ステップA)で得られるネオジム-鉄-ホウ素磁性体材料を粒界拡散処理し、冷却後に時効処理し、勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体を得るステップと、を含む、請求項1に記載の勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体の製造方法。
【請求項6】
ステップA)は、
ネオジム-鉄-ホウ素磁性体における減磁最易領域の表面に重希土類粉末と溶剤とを含有する第3混合物を塗布し、第3混合物の重希土類粉末の質量が前記第1混合物の重希土類粉末の質量より大きいこと、をさらに含む、ことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第3混合物の重希土類粉末の質量は、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体における減磁最易領域の質量の0.6~1.2wt%であり、
前記第1混合物の重希土類粉末の質量は、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁容易領域の質量の0.4~0.7wt%であり、
前記第2混合物の重希土類粉末の質量は、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁困難領域の質量の0.05~0.3wt%である、ことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第1混合物の重希土類粉末、前記第2混合物の重希土類粉末、および前記第3混合物の重希土類粉末は、それぞれ独立して、テルビウム粉末、フッ化テルビウム粉末、テルビウム合金粉末、ジスプロシウム粉末、フッ化ジスプロシウム粉末およびジスプロシウム合金粉末の1種または2種から選ばれ、
前記重希土類粉末の平均粒子径が1~100μmであり、
前記第1混合物の溶剤、前記第2混合物の溶剤、および前記第3混合物の溶剤は、いずれもシリコーンオイルであり、
前記第1混合物の重希土類粉末と溶剤との質量比、前記第2混合物の重希土類粉末と溶剤との質量比、および前記第3混合物の重希土類粉末と溶剤との質量比は、いずれも(90~98):(2~10)である、ことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記粒界拡散処理は、具体的に、
前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体材料を、まず、真空浸透炉で300~500℃で3~5h保温し、シリコーンオイルを乾燥させ、700~1000℃まで昇温し1~100h保温することである、ことを特徴とする請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項10】
前記時効処理は、温度が400~600℃であり、時間が4~6hである、ことを特徴とする請求項5または6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本願は、2020年07月20日に、中国特許局に出願された出願番号が202010698191.9、発明名称が「勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体およびその製造方法」である中国特許出願に基づく優先権を主張し、その全内容は援用により本出願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、磁性材料の技術分野に関し、特に、勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、磁性材料は、焼結ネオジム-鉄-ホウ素、結合ネオジム-鉄-ホウ素、焼結サマリウムコバルト、結合サマリウムコバルト、焼結フェライト及び結合フェライトを含むが、これらに限定されない。それぞれの磁性材料にはその性能の差があるが、各磁石は、各部分の性能や成分が基本的に同じであり、わずかな違いがあってもプロセスの欠陥によって引き起こされたる。
【0004】
磁石の部分によって磁気特性に大きな差が生じる場合には、この磁石は製造過程での深刻な品質問題によって不良になるはずであり、つまり、実際に使用されている磁石は磁気特性の勾配分布がない。しかし、磁石が実際に使用される際には、磁石の各部分の磁気特性要求が異なる。例えば、開回路状態では、焼結ネオジム-鉄-ホウ素の保磁力は温度が上昇するにつれて低下し、円形のネオジム-鉄-ホウ素焼結磁石がある温度まで上昇すると、焼結ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の表面磁気および磁束が減衰し、また、ディスク磁性体のコア部のPC値がエッジのPC値よりも低いため、この焼結ネオジム-鉄-ホウ素焼結磁性体はコア部から磁気特性が減衰する。つまり、上記の円形ネオジム-鉄-ホウ素焼結磁性体は、開回路状態で、設定された高温状態で表面磁気および磁束が減衰しないと、そのコア部に対してより高い保磁力が要求され、そのエッジに要求される保磁力がコア部に比べてそれほど高くない。従って、このような焼結ネオジム-鉄-ホウ素円形の磁性体が開回路状態で設定高温下で減衰しないように、この磁石の各部の保磁力を、基準としてコア部に要求される保磁力のみを使用し、同じように高くする。これにより、この焼結ネオジム-鉄-ホウ素磁性体のエッジの保磁力が無駄になり、また、焼結ネオジム-鉄-ホウ素の製造過程では、保磁力、残留磁束密度およびコストが互いに制約する関係であり、保磁力が無駄になると、残留磁束密度の向上およびコストの削減を妨げる。このような事情は、サマリウムコバルトやフェライトなどの磁性材料においても同様に存在する。
【0005】
ネオジム-鉄-ホウ素磁性体は、主にモータに使用されている。モータのコイルに通電して発生した逆磁界は均一な磁界ではなく、磁性体のコイルに最も近いの位置は最も減磁しやすく、最も減磁されやすい領域(減磁最易領域)と呼ばれ、コイルから最も遠い位置は最も減磁されにくく、減磁されにくい領域(減磁困難領域)と呼ばれ、最も減磁されやすい領域と最も減磁されにくい領域との間にある遷移領域は減磁されやすい領域(減磁容易領域)と呼ばれる。ネオジム-鉄-ホウ素磁性体における減磁最易領域、減磁容易領域および減磁困難領域の各領域がその性能や特徴を有するので、減磁最易領域および減磁容易領域の保磁力を確保するとともに、減磁困難領域での表面磁気および磁束が減衰せず、減磁容易領域および減磁困難領域の残留磁束密度が最も高くなるために、各領域の保磁力が一致する関係を実現する必要がある。
【0006】
上記の問題を解決するために、当業者は勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体を提供する。このネオジム-鉄-ホウ素磁性体は、性能の勾配分布を達成するが、磁性体が作動中で磁気回路の反磁界を受けることに加えて、温度上昇による減磁に耐えなければならない。磁気回路では、磁性体の減磁はエッジやコーナーから始まるが、動作温度の上昇による減磁は、コア部から始まる。そのため、上記のネオジム-鉄-ホウ素磁性体は、高温でのコア部の減磁が考慮されなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする技術課題は、勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記事情に鑑みて、本願は、減磁容易領域と、減磁困難領域とを含むネオジム-鉄-ホウ素磁性体であって、磁化方向に垂直な方向において、減磁容易領域の残留磁束密度が減磁困難領域の残留磁束密度より小さく、減磁容易領域の保磁力が減磁困難領域の保磁力より大きく、磁化方向に垂直な方向に、減磁容易領域の残留磁束密度及び保磁力がそれぞれ一定値であり、減磁困難領域の残留磁束密度及び保磁力がそれぞれ一定値である、磁気特性勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体、を提供する。
【0009】
好ましくは、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体は、さらに減磁最易領域を含み、磁化方向に垂直な方向において、前記減磁最易領域の残留磁束密度は、減磁容易領域の残留磁束密度より小さく、前記減磁最易領域の保磁力は、前記減磁容易領域の保磁力より大きく、磁化方向に垂直な方向に、前記減磁最易領域の残留磁束密度及び保磁力は、それぞれ一定値である。
【0010】
好ましくは、前記減磁困難領域の残留磁束密度に対する前記減磁容易領域の残留磁束密度の減少値が0.05KGs~0.4KGsであり、前記減磁困難領域の保磁力に対する前記減磁容易領域の保磁力の増加値が2KOe~10KOeである。
【0011】
好ましくは、前記減磁最易領域の残留磁束密度に対する前記減磁容易領域の残留磁束密度の減少値が0.05KGs~0.4KGsであり、前記減磁最易領域の保磁力に対する前記減磁容易領域の保磁力の増加値が2KOe~10KOeである。
【0012】
本願は、さらに、
A)磁化方向に垂直な方向に、ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁容易領域の表面に重希土類粉末と溶剤とを含有する第1混合物を塗布し、同時、ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁困難領域の表面に重希土類粉末と溶剤とを含有する第2混合物を塗布し、前記第1混合物の重希土類粉末の質量が第2混合物の重希土類粉末の質量より大きいステップと、
B)ステップA)で得られたネオジム-鉄-ホウ素磁性体材料を粒界拡散処理し、冷却後、時効処理し、勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体を得るステップと、を含む、前記の勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体の製造方法、を提供する。
【0013】
好ましくは、ステップA)は、さらに
ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁最易領域の表面に重希土類粉末と溶剤とを含有する第3混合物を塗布し、第3混合物の重希土類粉末の質量が前記第1混合物における重希土類粉末の質量よりも大きいこと、を含む。
【0014】
好ましくは、前記第3混合物の重希土類粉末の質量は、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁最易領域の質量の0.6~1.2wt%であり、前記第1混合物の重希土類粉末の質量は、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁容易領域の質量の0.4~0.7wt%であり、前記第2混合物の重希土類粉末の質量は、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁困難領域の質量の0.05~0.3wt%である。
【0015】
好ましくは、前記第1混合物の重希土類粉末、前記第2混合物の重希土類粉末、および前記第3混合物の重希土類粉末は、それぞれ独立して、テルビウム粉末、フッ化テルビウム粉末、テルビウム合金粉末、ジスプロシウム粉末、フッ化ジスプロシウム粉末およびジスプロシウム合金粉末から選ばれる1種または2種であり、前記重希土類粉末の平均粒子径が1~100μmであり、前記第1混合物の溶剤、前記第2混合物の溶剤、および前記第3混合物の溶剤は、いずれもシリコーンオイルであり、前記第1混合物の重希土類粉末と溶剤との質量比、前記第2混合物の重希土類粉末と溶剤との質量比、および前記第3混合物の重希土類粉末と溶剤との質量比は、いずれも(90~98):(2~10)である。
【0016】
好ましくは、前記粒界拡散処理は、具体的に、
前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体材料を、まず、真空浸透炉で300~500℃で3~5h保温し、リコーンオイルを乾燥させ、700~1000℃まで昇温して1~100h保温する。
【0017】
好ましくは、前記時効処理は、温度が400~600℃であり、時間が4~6hである。
【0018】
本願は、減磁容易領域と、減磁困難領域とを含むネオジム-鉄-ホウ素磁性体であって、磁化方向に垂直な方向に、減磁容易領域の残留磁束密度が減磁困難領域の残留磁束密度より小さく、減磁容易領域の保磁力が減磁困難領域の保磁力より大きく、磁化方向に垂直な方向に、減磁容易領域の残留磁束密度及び保磁力がそれぞれ一定値であり、減磁困難領域の残留磁束密度及び保磁力がそれぞれ一定値である、勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体を提供する。本願は、保磁力の勾配分布および残留磁束密度の勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体を提供し、減磁困難領域の保磁力が低すぎにならないことを保証し、このような高性能磁性体の減磁困難領域の磁気弱化現象、または高温下での減磁困難領域で現れる磁気特性の減衰の問題を回避し、さらに磁性体の表面磁気および磁束を保証する。
【0019】
さらに、本願は、ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の製造方法を提供する。製造過程では、減磁困難領域の重希土類の微量拡散により、減磁困難領域の残留磁束密度が低下することがなく、その保磁力が減磁容易領域での保磁力とに一致することを確保し、2つの浸透面の均一被覆による残留磁束密度の低下を低減するだけでなく、減磁困難領域の保磁力が低くなりすぎないことを確保し、減磁困難領域で現れる磁気弱化現象や高温下での減磁困難領域で現れる磁気特性の減衰を回避し、高性能なネオジム-鉄-ホウ素磁性体を製造する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明に係る勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体の性能分布の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る実施例1における異なるサンプルの異なる塗布部分の比較概略図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る実施例2における異なるサンプルの異なる塗布部分の比較概略図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る実施例3における異なるサンプルの異なる塗布部分の比較概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をさらに理解するために、本発明に係る好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明するが、以下の記載は、本発明の特徴やメリットをさらに説明するためのものであり、本発明の請求範囲を限定するものではないこと、を理解されたい。
【0022】
従来技術では、残留磁束密度と保磁力とのバランスを取ることが困難であり、即ち、残留磁束密度が非常に高いと、保磁力が比較的低くなる。磁性体のコア部が重希土類による浸透処理を行わないと、保磁力が比較的低く、製造された磁性体のコア部の表面磁気が異常に低くなり、適用前に減衰し、磁性体の適用に影響を与える。そのため、コア部の磁気弱化現象が起こらないように、磁性体のコア部に一定の保磁力を確保する必要があり、基体のコア部の保磁力を確保すると、磁性体の残留磁束密度の向上が制限される。従って、磁性体にコア部の磁気弱化現象を示さないことを保証するが、磁性体の残留磁束密度を向上させることも確保するために、磁性体のコア部の保磁力と残留磁束密度とのバランスを取る必要がある。そこで、本願は、従来技術における不均衡な保磁力と残留磁束密度との課題を鑑み、勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体を提供する。該磁性体は、減磁困難領域の保磁力を最適化することにより、ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の残留磁束密度と、保磁力と、磁束と、中央の表面磁気とのバランスを取り、かつ、重希土類元素の使用量を削減する。具体的には、本発明の実施例は、減磁容易領域と、減磁困難領域とを含むネオジム-鉄-ホウ素磁性体であって、磁化方向に垂直な方向に、減磁容易領域の残留磁束密度が減磁困難領域の残留磁束密度より小さく、減磁容易領域の保磁力が減磁困難領域の保磁力より大きく、磁化方向に垂直な方向に、減磁容易領域の残留磁束密度及び保磁力がそれぞれ一定値であり、減磁困難領域の残留磁束密度及び保磁力がそれぞれ一定値である、磁気特性勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体を開示している。
【0023】
本願に係るネオジム-鉄-ホウ素磁性体はさらに減磁最易領域を含み、磁化方向に垂直な方向に、前記減磁最易領域の残留磁束密度は、減磁容易領域の残留磁束密度より小さく、前記減磁最易領域の保磁力は、前記減磁容易領域の保磁力より大きく、磁化方向に垂直な方向に、前記減磁最易領域の残留磁束密度及び保磁力は、それぞれ一定値である。
【0024】
ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁困難領域、減磁容易領域および減磁最易領域の各領域がその性能や特徴を有し、表面磁気および磁束が減衰せず保磁力を確保するとともに、減磁容易領域および減磁最易領域の残留磁束密度を確保するように、それぞれの領域の保磁力が一致する関係を実現する必要がある。従って、本願では、前記減磁困難領域の残留磁束密度に対する前記減磁容易領域の残留磁束密度の減少値は0.05KGs~0.4KGsであり、前記減磁困難領域の保磁力に対する前記減磁容易領域の保磁力の増加値は2KOe~10KOeである。
【0025】
同様に、前記減磁容易領域の残留磁束密度に対する前記減磁最易領域の残留磁束密度の減少値は0.05KGs~0.4KGsであり、前記減磁容易領域の保磁力に対する前記減磁最易領域の保磁力の増加値は2KOe~10KOeである。
【0026】
本願に係る勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体においては、磁化方向に垂直な方向に、減磁困難領域が到達する保磁力は減磁容易領域が到達する保磁力と一致し、残留磁束密度と保磁力とのバランスを取り、さらに表面磁気および磁束を確保する。
【0027】
本願においては、減磁容易領域と減磁困難領域との間、および、減磁最易領域と減磁容易領域との間には、遷移層が存在するが、該遷移層が極めて狭く、性能への影響が小さいため、無視できる。
【0028】
さらに、本願は、
A)磁化方向に垂直な方向に、ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁容易領域の表面に重希土類粉末と溶剤とを含有する第1混合物を塗布するとともに、ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁困難領域の表面に重希土類粉末と溶剤とを含有する第2混合物を塗布し、第1混合物の重希土類粉末の質量が第2混合物の重希土類粉末の質量より大きいステップと、
B)ステップA)で得られるネオジム-鉄-ホウ素磁性体材料を粒界拡散処理し、冷却後、時効処理し、勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体を得るステップと、を含む、勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体の製造方法を提供する。
【0029】
特別な性能要求を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体は、ステップA)は、
ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁最易領域の表面に重希土類粉末と溶剤とを含有する第3混合物を塗布し、第3混合物の重希土類粉末の質量が前記第1混合物の重希土類粉末の質量より大きいこと、をさらに含む。
【0030】
性能の要求に鑑み、本願の核心となる思想は具体的に
図1に示される。
図1には、減磁困難領域、減磁容易領域および減磁最易領域が含まれる。減磁困難領域では、常温および高温下で表面磁気および磁束の減衰が起こらないように、微量の重希土類の拡散を行う。減磁容易領域では、高温下で反磁界によって減磁されて磁束が減衰する問題がないように、適度的な重希土類の拡散を行う。減磁最易領域では、該領域の保磁力ができるだけ向上するように、重希土類の使用量が最大であるか、又は二次浸透を採用する。高性能な磁性体を製造する際に、残留磁束密度をできるだけ高めるために、拡散前基材の保磁力を比較的低くすることができ、減磁困難領域で少量に重希土類を浸透させ、減磁容易領域で重希土類を多く浸透させ、減磁最易領域で重希土類を多量に浸透させるか、又は二次浸透させることで、減磁困難領域の保磁力が低く、減磁容易領域の保磁力が2番目、減磁最易領域の保磁力が最も高くなるような保磁力の勾配分布を形成することにより、磁性体の高磁束および高温耐性を実現できる。
【0031】
ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の保磁力の勾配分布、磁束と表面磁気と残留磁束密度とのバランスを実現し、かつ重希土類元素の使用量を低減するために、前記第3混合物の重希土類粉末の質量は、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体における減磁最易領域の質量の0.6~1.2wt%であり、前記第1混合物の重希土類粉末の質量は、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁容易領域の質量の0.4~0.7wt%であり、前記第2混合物の重希土類粉末の質量は、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁困難領域の質量の0.05~0.3wt%である。本願は、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の成分が、特に限定されなく、当業者によく知られるネオジム-鉄-ホウ素磁性体である。
【0032】
本願における前記第1混合物、第2混合物及び第3混合物の重希土類粉末は、いずれも当業者によく用いられる重希土類であり、具体的な実施例では、TbおよびDyから選ばれる1種または2種であってもよく、TbおよびDyのフッ素化合物およびそれらの合金化合物あってもよい。また、重希土類の拡散を容易にするために、前記重希土類の平均粒子径が1~100μmである。重希土類粉末の溶解を実現すると同時に、後の拡散中の溶剤の揮発を促進するために、前記第1混合物、第2混合物および前記第3混合物の溶剤はシリコーンオイルから選ばれる。より具体的には、前記重希土類粉末と前記溶剤との質量比が(90~98):(2~10)であり、また、具体的な実施例では、前記重希土類粉末と前記溶剤との質量比が95:5である。
【0033】
本願では、その後、得られたネオジム-鉄-ホウ素磁性体の材料が、粒界拡散を行い、冷却後、時効処理を行い、勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体を得る。前記粒界拡散の具体的なプロセスは、まず、前記ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の材料を300~500℃で3~5時間保温し、混合物の溶剤を揮発させ、700~1000℃まで昇温し1~100時間拡散する。前記時効処理は温度が400~600℃であり、時間が1~10である。
【0034】
焼結ネオジム-鉄-ホウ素の分野で粒界拡散プロセスを使用されると、重希土類元素であるDyやTbなどによる保磁力を最大限に向上させ、残留磁束密度の低下が100~300ガウスになり、配合に添加するよりもはるかに優れた。したがって、本分野では、一般に、残留磁束密度低下を気にせずにHCjを最大限に増加させるために、0.5%wt以上の重希土類を使用する。本発明は減磁困難領域で微量的な重希土類を粒界拡散させ、拡散量を0.05%~0.3%の範囲にすることにより、残留磁束密度が低下しないことを優先的に確保し、HCjの増加を減らすことができることを提案する。同時、本発明は、性能勾配を一致させるという概念を提案する。2つまたは2つ以上の性能勾配を互いに一致させる必要がある。そのうち一つの勾配のうち、ある一側面の性能が低すぎると、全体的な性能にも影響する。例えば、残留磁束密度が高く保磁力が低い基材では、中央の勾配での保磁力が低すぎると、磁気弱化現象が発生し、最後、磁性体全体の表面磁気と磁束とも非常に低下しなる。ミクロ拡散と性能勾配とを一致させて組み合わせることで、減磁困難領域でミクロ拡散を行い、該領域での残留磁束密度が低下しないことを確保するが、保磁力はさらに減磁容易領域での保磁力と一致し、二つの浸透面の均一被覆による残留磁束密度の低下を低減するだけでなく、中央勾配での保磁力が低くなりすぎないことを確保し、中央部で現れる磁気弱化現象や高温下での中央部で現れる磁気特性の減衰を回避し、高性能なネオジム-鉄-ホウ素焼結磁性体を製造する。焼結ネオジム-鉄-ホウ素を実用する際に、2つの領域の保磁力の差が10KOe以上であると、実際に一致しなく、高性能領域が低性能領域からの悪影響を受け、使用中に十分に活用することができない。
【0035】
以下、本発明をさらに理解するために、本発明で提供される勾配分布を有するネオジム-鉄-ホウ素磁性体の製造方法について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明が保護する範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1
平均粒子径3~4ミクロンの金属テルビウム粉末を用意し、窒素雰囲気のグローブボックス内でテルビウム粉末を、テルビウム粉末とシリコーンオイルとの重量比が95:5であるようにシリコーンオイルに入れ、その後、均一に撹拌して用意した。
【0037】
N54型ブランクを10個取り、それらのブランクブロックから採取したサンプルを測定した性能の結果は、表4に示される。
【0038】
【0039】
各ブランクを40×20×1.8(mm)の四角形のシートに切断し、合計180枚のサンプルを3つのグループに分けた。
【0040】
第1グループ:専用の塗布装置で、40×20(mm)の両面に、用意された金属テルビウム粉末とシリコーンオイルとの混合物を、全面に均一に塗布し、第1グループのサンプルのテルビウムの使用量がサンプル重量の0.6%であり、比較サンプル1とした。
【0041】
第2グループ:専用の塗布装置で、40×20(mm)の両面のコア部の30×12(mm)の領域に塗布せず、その両面の残りの部分に、用意された金属テルビウム粉末とシリコーンオイルとの混合物を均一に塗布し、テルビウムの使用量が第1グループのサンプルと同じ位置でのテルビウムの使用量と同じであり、第2グループのサンプルのテルビウムの使用量がサンプル重量の0.33%であり、比較サンプル2とした。
【0042】
第3グループ:40×20(mm)の面を、中心線に沿って2つの40×10(mm)の領域に区画し、モータ組立中のコイルに近い側の40×10(mm)の領域が減磁容易領域であり、減磁容易領域における2つのR5(mm)のエッジ領域が減磁最易領域であり、コイルから遠い反対側の40×10(mm)の領域が減磁困難領域であり、
図2に示される。
【0043】
専用の塗布装置で、用意された金属テルビウム粉末とシリコーンオイルとの混合物は、2つのR5(mm)の減磁最易領域に浸透するテルビウムの使用量が焼結ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁最易領域の質量の0.8%であり、40×10(mm)の減磁容易領域の残りの部分のテルビウムの使用量がネオジム-鉄-ホウ素焼結磁性体の減磁容易領域の質量の0.6%であり、40×10(mm)の減磁困難領域のテルビウムの使用量が焼結ネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁困難領域の質量の0.12%であり、第3グループで使用されるテルビウムの量がサンプル重量の0.37%であり、サンプル3とした。具体的には、
図2に示される。
【0044】
次に、塗布された第1グループ、第2グループおよび第3グループのサンプルをそれぞれ真空拡散炉に入れ、まず、400℃で4時間保温し、シリコーンオイルを乾燥させ、真空炉の真空システムによりシリコーンオイルを拡散炉から排出し、その後、700~1000℃まで昇温して拡散時間30時間、粒界拡散処理を行い、拡散終了後、80℃以下に急冷し、その後、さらに500℃まで昇温して、時効時間5時間、時効処理を行い、時効終了後、さらに80℃以下に急冷し、炉から取り出し、3つのグループの処理済みサンプルを得た。
【0045】
3つのグループのサンプルについて性能試験を行い、当分野における通常の技術手段に従って上記の3つのグループの磁性体の磁束、モータの耐減磁性を測定し、結果を表2、表3に示した。
【0046】
【0047】
【0048】
表2および表3から分かるように、比較サンプル2は、基材の保磁力が13.80KOeに達したため、中央で何の拡散処理を行わず、磁束が低くなかった。ただし、モータ組立の高温減磁試験において、コア部のHcjが低く、減衰がそれぞれ10.26%、41.67%と非常に大きく、サンプル1およびサンプル3より低くなった。また、サンプル3は、減磁されにくい領域で重希土類を微量に拡散することにより、減磁されにくい領域の残留磁束密度が低下しないため、磁束が増加し、サンプル3の磁束量が比較サンプル1より3.22%高かった。
【0049】
サンプル3の磁性体は、最も減磁されやすい領域、減磁されやすい領域、および減磁されにくい領域の3つの領域に分けられ、3つの領域のHcjの勾配差値が2~10kOeの間であった。サンプル3は、減磁最易領域への浸透量を多くするプロセスにより、減磁最易領域のHcjが26.82kOeに達し、耐減磁性が大幅に向上した。比較サンプル2は、大電流下で減磁が急激に劣化したが、サンプル3は、130℃/65Aの大電流でのモータの減磁率がただ1.78%であり、減磁率が比較サンプル2よりはるかに優れた。また、サンプル3で使用されるテルビウムの量が比較サンプル1の62%だけであり、総合的性能が確かに最高であり、成分と構造の勾配設計により、重希土類の浸透量を低減するとともに、製品の性能を向上させる効果を得ることができる。
【0050】
実施例2
平均粒子径3~4ミクロンの金属テルビウム粉末を用意し、窒素雰囲気のグローブボックス内でテルビウム粉末を、テルビウム粉末とシリコーンオイルとの重量比が95:5であるようにシリコーンオイルに入れ、その後、均一に撹拌して用意した。
【0051】
5個のN56型ブランクを取り、それらのブランクブロックから採取したサンプルを測定した性能の結果は、表4に示される。
【0052】
【0053】
各ブランクを40×20×1.8(mm)の四角形のシートに切断し、合計90枚のサンプルを3つのグループに分けた。
【0054】
第1グループ:専用の塗布装置で、40×20(mm)の両面に、用意された金属テルビウム粉末とシリコーンオイルとの混合物を全面に均一に塗布し、テルビウムの使用量がサンプル重量の0.6%であり、このサンプルを比較サンプル1とした。
【0055】
第2グループ:専用の塗布装置で、40×20(mm)の両面のコア部の30×12(mm)の領域に塗布せず、両面の残りの部分に、用意された金属テルビウム粉末とシリコーンオイルとの混合物を均一に塗布し、テルビウムの使用量が第1グループのサンプルと同じ位置でのるテルビウムの使用量と同じであり、第2グループのサンプルで使用されるテルビウムの量が第1グループの55%であり、テルビウムの使用量がサンプル重量の0.33%であり、この試料を比較サンプル2とした。
【0056】
第3グループ:40×20(mm)の面を、サイズがそれぞれ40×4(mm)、40×12(mm)および40×4(mm)である3つの部分に区画し、ここで、その両側の40×4(mm)の領域が減磁容易領域であり、中間領域が減磁困難領域であり、
図3に示される。このような製品は、両側で対称であり、磁性体を組み立てる時に減磁容易領域と減磁困難領域を逆に組み立てるのを防ぐことができる。
【0057】
専用の塗布装置で、用意された金属テルビウム粉末とシリコーンオイルとの混合物を、40×20(mm)の両面のコア部の40×12(mm)の領域に、テルビウムの使用量がネオジム-鉄-ホウ素磁性体の減磁困難領域の質量の0.12%であるように微量に塗布し、また、他の2つの領域のテルビウムの使用量がいずれも該ネオジム-鉄-ホウ素の減磁容易領域の質量の0.6%であり、第3グループのサンプルで使用されるテルビウムの量が第1グループの52%であり、テルビウムの使用量がサンプル重量の0.312%であり、この試料をサンプル3とした。具体的には、
図3に示される。
【0058】
次に、塗布された第1グループ、第2グループのサンプルおよび第3グループのサンプルをそれぞれ真空拡散炉に入れ、まず、400℃で4時間保温し、シリコーンオイルを乾燥させ、真空炉の真空システムによりシリコーンオイルを拡散炉から排出し、その後、700~1000℃まで昇温し、拡散時間30時間、粒界拡散処理を行い、拡散終了後、80℃以下に急冷し、その後、さらに500℃まで昇温し、時効時間5時間、時効処理を行い、時効終了後、さらに80℃以下に急冷し、炉から取り出し、3つのグループの処理済みサンプルを得た。
【0059】
3つのグループのサンプルについて性能試験を行い、当分野の通常の技術手段に従って上記の3つのグループの磁性体の磁束およびモータの耐減磁性を測定し、結果を表5、表6に示した。
【0060】
【0061】
【0062】
表5および表6から分かるように、比較サンプル2は、比較サンプル1および比較サンプル3より磁束およびコア部の表面磁気が著しく低かった。これは、比較サンプル2の中央の拡散処理が行われていなかった箇所の保磁力が低すぎ、中央部のPC値が最小となり、磁気弱化の現象が現れたためである。比較サンプル1および比較サンプル3は、比較サンプル2より磁束が15%以上高かった。
【0063】
比較サンプル1は、2つの大きな面に完全に均一に塗布され、中央の表面磁気および磁束が比較サンプル3より2%低かった。これは、焼結ネオジム-鉄-ホウ素の重希土類の粒界拡散は、保磁力を向上できるが、同時に残留磁束密度を低減する。サンプル3は、コア部で重希土類を微量に拡散するプロセスを採用することで、コア部の残留磁束密度が低下しなく、保磁力の増加がエッジほどではなかったが、コア部の保磁力の増加により、コア部に磁気弱化の現象が現れないようにすることができた。
【0064】
比較サンプル2は、コア部で拡散処理を行わなかったので、中央部で優先的に減磁され、モータの耐減磁性も極めて悪かった。サンプル3は、モータの耐減磁性が2つの大きなに完全に均一に塗布された比較サンプル1に近く、比較サンプル2より大幅に優れた。ただし、サンプル3に使用された重希土類の量がただサンプル1の52%であり、成分および構造の勾配設計により、サンプル3は、モータの耐減磁性が基本的に変わらないながら、重希土類の浸透量を低減することができた。
【0065】
実施例3
48H型のブランクを10個取り、ブロックから採取したサンプルを測定した性能の結果は、表7に示される。
【0066】
【0067】
各ブランクを40×20×1.8(mm)の四角形のシートに切断し、合計100枚のサンプルを2つのグループに分けた。
【0068】
第1グループ:40×20×1.8(mm)の磁性体を、磁化方向が鉛直となるように、窒素雰囲気の保護キャビティに置き、用意された金属テルビウム粉末を、テルビウム粉末の重量が磁性体の重量の0.5%であるように、40×20の全面に均一に塗布し、その後、テルビウム粉末層が被覆された磁性体をレーザに移動し、レーザで磁性体シートの表面のエッジから3mmまでの領域を、この領域でのテルビウム粉末が急速に加熱されて重希土類膜層に硬化し、磁性体シートの表面と付着するように、(照射面積がテルビウム希土類粉末で被覆された面積の約40.5%であった)照射し、磁性体シート表面に膜が形成されていないテルビウム希土類粉末を取り除いた後、磁性体シートを裏返し、反対面に上記のステップを繰り返し、磁性体を真空拡散炉に入れ時効処理し、拡散処理後、勾配ネオジム-鉄-ホウ素磁性体を形成した。ここで、磁化方向に垂直な面がエッジ領域、遷移領域および中央領域の3つの領域に分かれ、エッジ領域の平均Hcjが遷移領域より大きく、遷移領域の平均Hcjが中央領域より大きかった。エッジ領域は、面積が40.5%を占め、Tbの平均含有量が0.5%wtであった。遷移領域は、面積が22%を占め、Tbの平均含有量が0.3%wtであった。中央領域は、面積が37.5%を占め、Tbの平均含有量が0であった。総合的使用量として第1グループのサンプルで使用されるテルビウムの総量は、サンプル重量の0.2685%であり、それを比較サンプル1とした。
【0069】
第2グループ:40×20(mm)の面で、モータ組立中のコイルに近い側の40×6.67(mm)の領域が減磁容易領域であり、減磁容易領域の2つのR5(mm)のエッジ領域が減磁最易領域であり、コイルから遠い反対側の40×13.34(mm)の領域が減磁困難領域であり、
図4に示される。
【0070】
専用の塗布装置で、用意された金属テルビウム粉末とシリコーンオイルとの混合物は、テルビウム粉末の使用量が減磁最易領域の質量の0.8%であるように、2つのR5(mm)の減磁最易領域へテルビウムを浸透させた。40×6.66(mm)の減磁容易領域のテルビウムの使用量が減磁容易領域の質量の0.5%であり、40×13.33(mm)の減磁困難領域のテルビウムの使用量が減磁困難領域の質量の0.12%であり、総合的使用量として第3グループサンプルで使用されるテルビウムの量がサンプル重量の0.2614%であり、それをサンプル2とし、
図4に示される。
【0071】
次に、塗布された第1グループ、第2グループのサンプルをそれぞれ真空拡散炉に入れ、700~1000℃まで昇温し、拡散時間30時間、粒界拡散処理を行い、拡散終了後、80℃以下に急冷し、その後、さらに500℃まで昇温し、時効時間5時間、時効処理を行い、時効終了後、さらに80℃以下に急冷し、炉から取り出し、2つのグループの処理済みサンプルを得た。
【0072】
2つのグループのサンプルについて性能試験し、当分野における通常の技術手段に従って上記の2つのグループの磁性体の磁束、モータの耐減磁性を測定し、結果を表8、表9に示した。
【0073】
【0074】
【0075】
表8および表9から分かるように、比較サンプル2は、減磁困難領域でミクロ拡散を採用することで、Brがほぼ低下しなく、比較サンプル1と比べて磁束が1.0%増加した。モータ組立の高温減磁試験において、比較サンプル1は、中央領域のHcjが低かったため、150℃/32Aと150℃/65Aで減衰がそれぞれ2.37%と7.04%と非常に大きい。サンプル2は、減磁最易領域で浸透量を大きくするプロセスにより、減磁最易領域のHcjが30.05kOeに達し、耐減磁性が大幅に向上した。比較サンプル1は、大電流下で減磁が急激に劣化したが、比較サンプル2は、130℃/65Aの大電流でモータの減磁率がただ1.16%であり、減磁率は比較サンプル1よりもはるかに優れた。サンプル2は、使用されるテルビウムの量が比較サンプル1よりも僅かに少なく、性能が比較サンプル1よりも確かに優れた。
【0076】
上述した実施例1のサンプル2、実施例2のサンプル2および実施例3のサンプル1は、製造方法が異なるが、最後に得られた製品の勾配分布が同じであった。
【0077】
以上の実施例の説明は、本発明の方法及び要旨を理解するために用いられたものでは過ぎない。当業者にとって、本発明の原理から逸脱することなく、幾つの改良及び修飾を加えることができるが、それらの改良及び修飾も本発明の特許範囲に含まれることに留意する必要がある。
【0078】
開示される実施例についての上述した説明によっては、当業者が本発明を実現、或いは使用できる。これらの実施例に対する様々な修正は、当業者にとって自明なものである。本明細書で定義される一般原理は、本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく他の実施形態においても実現できる。したがって、本発明は、本明細書に記載されたこれらの実施形態に限定されるものではなく、本明細書に開示された原理および新規の特徴に一致する最も広い範囲と合致するべきである。
【国際調査報告】