(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-31
(54)【発明の名称】切除術を監視するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/02 20060101AFI20221024BHJP
A61B 18/04 20060101ALI20221024BHJP
A61B 18/18 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
A61B18/02
A61B18/04
A61B18/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022510970
(86)(22)【出願日】2020-08-17
(85)【翻訳文提出日】2022-04-18
(86)【国際出願番号】 US2020046613
(87)【国際公開番号】W WO2021034744
(87)【国際公開日】2021-02-25
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521234386
【氏名又は名称】ヴェラン メディカル テクノロジーズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】ホルシング,トロイ
(72)【発明者】
【氏名】ハンター,マーク
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160JJ07
4C160JK01
4C160KK03
4C160KK13
(57)【要約】
凍結切除術を用いて標的組織を治療するシステムおよび方法を提供する。誘導挿管および凍結プローブを標的組織に挿入する。凍結プローブを冷却して氷球を形成する。氷球がまだ凍結している間に凍結プローブを引き抜き、超音波カテーテルを挿入する。氷球内で発生させた超音波を用いて、超音波カテーテルから氷球の外周部までの距離を測定する。これを種々の角度で繰り返して氷球の切片を形成する。超音波カテーテルを径方向に移動させて、この過程を繰り返して氷球の少なくとも一部分のモデルを形成する。この氷球モデルを、標的組織を示す記録された画像集合上に表示して、その組織が氷球の治療領域内にあることを確実にできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結切除術のための方法であって、
a)誘導挿管を通して患者の標的組織内に凍結プローブを挿入する工程;
b)前記凍結プローブの遠位端を冷却して、前記凍結プローブの遠位端に氷球を形成する工程;
c)前記誘導挿管から前記凍結プローブを引き抜く工程;
d)遠位端に超音波変換素子を備えた超音波カテーテルを前記誘導挿管内に挿入する工程;
e)前記超音波変換素子を用いて前記氷球内から指向性超音波信号を送信し、かつ前記氷球の表面からの超音波反射について前記超音波変換素子を監視する工程;
f)前記超音波反射を受信するのに必要な時間および凍結組織内の超音波の速度に基づいて、前記超音波カテーテルから前記氷球の表面までの距離を計算する工程;
g)工程e)とf)を種々の方向で繰り返して、前記氷球の切片を形成するのに十分な情報を生成する工程;
h)前記挿管内で前記超音波カテーテルを既知の距離だけ移動させる工程;
i)工程e)~h)を繰り返して、前記氷球の少なくとも一部分の複数の切片を計算する工程;および
j)コンピュータを用いて、前記複数の切片を組み合わせて前記氷球部分のサイズと形状を示す氷球モデルとする工程を含む、方法。
【請求項2】
k)前記コンピュータを用いて、前記氷球に対して有効な治療領域を決定する工程;および
l)前記コンピュータを用いて、前記氷球モデルを前記標的組織の既知のサイズと形状と比較して前記氷球の有効な治療領域の外側にある前記標的組織の部分を特定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
m)前記氷球の有効な治療領域の外側にある前記標的組織の部分で工程a)~j)を繰り返す工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
患者を治療するための方法であって、
a)誘導挿管を通して切除カテーテルを前記患者の標的組織内に挿入する工程;
b)前記切除カテーテルを用いて前記標的組織を切除して、未切除組織での通常の超音波伝達速度とは異なる既知の超音波伝達速度を有する切除組織の領域を形成する工程;
c)前記切除カテーテルを引き抜いて、超音波カテーテルの遠位端にある少なくとも1つの超音波変換素子が前記切除組織内に配置されるように、前記超音波カテーテルを誘導挿管内に挿入する工程;
d)複数の指向性超音波パルスを前記超音波カテーテルから径方向に前記切除組織内に送信する工程;
e)コンピュータを用いて、各パルスの送受信の間の時間を用いること、および前記切除組織の領域での超音波伝達の既知の速度を用いることによって、前記超音波カテーテルから前記切除組織の領域の端部までの複数の距離を測定する工程;および
f)前記コンピュータを用いて、径方向に測定された距離と各パルスの並進位置を用いて、前記切除組織の領域のモデルを形成することを含み、前記複数の指向性超音波パルスは、
i)前記超音波カテーテルから特定の径方向に個々に向けられ、かつ前記特定の径方向から受信され;
ii)複数の径方向に集合的に送信され;かつ
iii)前記誘導挿管に対して複数の種々の前記並進位置に配置された前記超音波カテーテルによって集合的に送信される、方法。
【請求項5】
g)前記コンピュータを用いて、前記標的組織を示す前記患者の三次元画像上に前記切除組織の領域のモデルを表示する工程をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
h)前記コンピュータ上で前記切除組織の領域モデルを前記標的組織の既知のサイズと形状に対し比較して、前記切除組織の領域の有効な治療領域の外側にある前記標的組織の部分を特定する工程;および
i)識別可能な視覚的特性を用いて、前記標的組織の特定された部分を表示する工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記超音波変換素子の遠位端はさらに、電磁場内の前記遠位端を位置決めする電磁信号を受信する電磁センサーを含み、かつ前記受信した電磁信号を用いて、前記患者の三次元画像上に前記切除組織の領域モデルを表示する工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記切除カテーテルは凍結プローブであり、さらに前記切除組織の領域は氷球を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記切除カテーテルは加熱切除カテーテルであり、さらに前記切除組織の領域は熱によって死滅した組織を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記加熱切除カテーテルはマイクロ波切除カテーテルである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記加熱切除カテーテルは高周波切除カテーテルである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記超音波カテーテルは前記遠位端に複数の超音波変換素子を有し、さらに全ての超音波変換素子よりも少ない部分集合を用いて各超音波パルスを生成し、さらに前記部分集合は、各超音波パルスの特定の径方向に基づいて選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の超音波変換素子は、前記超音波カテーテルの遠位端にある前記超音波カテーテルの周辺部の周りの環状列内に配置されている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記超音波変換素子の部分集合は、各指向性超音波パルスを送信するフェーズドアレイ送信素子を形成する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記フェーズドアレイ送信素子を形成する同一の超音波変換素子の部分集合はまた、各指向性超音波パルスを受信するフェーズドアレイ受信素子を形成する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記超音波変換素子の部分集合は、各指向性超音波パルスを受信するフェーズドアレイ受信素子を形成する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記超音波カテーテルは前記遠位端に単一の超音波変換素子を有し、この単一の超音波変換素子は指向性超音波パルスを送受信する、請求項4に記載の方法。
【請求項18】
前記超音波カテーテルおよび前記単一の超音波変換素子を物理的に回転して、複数の径方向に複数の超音波パルスを送信する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
電気ステッピングモーターは超音波カテーテルを物理的に回転させる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
患者を治療するための方法であって、
a)誘導挿管内にある超音波カテーテルを前記患者の標的組織内に挿入する工程;
b)前記超音波カテーテルを用いて前記標的組織にQUS分析を実行する工程;
c)前記誘導挿管を動かすことなく前記超音波カテーテルを凍結プローブで置換する工程;
d)前記凍結プローブを冷却して氷球を形成する工程;
e)前記誘導挿管を動かすことなく前記凍結プローブを前記超音波カテーテルで置換する工程;および
f)前記超音波カテーテルを用いて、前記氷球内に超音波エネルギーを発生させて前記超音波カテーテルと前記氷球の外周部との間の距離を測定する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
凍結手術中の氷球のサイズ、形状、および位置の測定を可能にする医療機器である超音波カテーテルシステムおよびその方法を提供する。類似のシステムおよび方法を、加熱切除される組織のサイズ、形状、および位置の測定に使用可能である。
【背景技術】
【0002】
凍結手術または凍結切除術は、異常組織または標的組織を凍結処置によって破壊する手法である。組織細胞の凍結により、細胞または細胞内の細胞小器官を破壊させる。凍結手術過程では、異常組織内に装置(「凍結プローブ」)を挿入して、次いでその装置を冷却する必要がある。殆どの場合に、凍結プローブの冷却はアルゴンなどの高圧ガスを装置に通過させて達成される。この様に凍結プローブを冷却すると、凍結プローブの遠位端のほぼ中央に位置する凍結組織の「氷球」が形成される。
【0003】
この手法を成功に導くには、氷球のサイズ、形状、および位置を高精度に測定することが重要である。氷球が必要以上に大きいと、標的組織を取り巻く健在な組織を不必要に損傷してしまう。氷球が小さ過ぎると、その過程で死滅すべき異常組織が生き残ってしまう。
【0004】
従来から、氷球のサイズおよび位置は超音波技術によって測定されていた。超音波エネルギーは、正常組織を貫通して、次いで氷球の外表面に衝突する。氷球の特性により、超音波エネルギーは、典型的には氷球に当たって跳ね返る。この大きな反射により、超音波画像技術で超音波エネルギー源に最近接の氷球の表面を画像にできる。しかしながら超音波エネルギーは氷球を貫通できず、この表面反射によって投影される「陰影」のために氷球の真の三次元のサイズと形状を表示できない。本質的に既存の方法では、使用者は氷球の最近接表面の概略の位置は見出せるが、その真のサイズ、形状、または位置の特定は不可能である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一実施態様は、凍結切除術を用いて腫瘍またはその他の標的組織を治療する方法を提供する。この方法は、この切除術前にCT画像取得を実行するなど、標的組織の位置の特定から始まる。形成された画像を、3D画像あるいは患者または患者臓器の3Dモデル内に組み込んでもよい。この切除術中に誘導挿管内に含まれる超音波カテーテルを標的組織中に挿入する。一実施態様では、超音波カテーテルおよび挿管を経皮挿入する。配置されると、超音波カテーテルを用いて、標的組織を画像にしてそのカテーテルと挿管の適切な位置を確実にできる。超音波カテーテルにより、組織のQUS分析を実施可能にしてもよい。
【0006】
超音波カテーテルおよび挿管の位置が確定されると、超音波カテーテルを挿管から引き抜き、凍結プローブをその位置に挿入する。あるいは、超音波カテーテルを用いることなく、凍結プローブおよび挿管を標的組織内に直接的に経皮挿入することも可能である。別の実施態様では、凍結プローブの先端部が標的組織内に高精度に配置されることを確実にするように、凍結プローブを外部超音波の助けを借りて配置する。状況によっては、凍結切除術過程によって形成される氷球のサイズと形状をある程度制御するために、複数の凍結プローブを標的組織に挿入する必要がある。
【0007】
次に患者内に氷球を形成するために、凍結プローブを冷却する。理想的には、氷球は標的組織を完全に包み込むのに十分な大きさである。標的組織を死滅させる際の氷球の有効性を高めるために、氷球を頻繁に生成し、解凍させて、次に凍結プローブを再度冷却して再生する。
【0008】
次に誘導挿管内の凍結プローブを、氷球がまだ凍結している間に引き抜く。超音波カテーテルを、挿管内にかつ凍結プローブの引き抜きによって残された氷球中の通路内に挿入する。パルスエコー技術とビーム形成を用いて、超音波カテーテルの端部にある超音波変換素子から一径方向に強力な信号を放射する。次に氷球の外周部から反射された超音波エネルギーを同一方向で監視する。超音波信号の帰還に要する時間および凍結組織中の既知の超音波速度を用いると、この選択された方向での超音波変換素子から氷球の端部までの径方向距離が分かる。超音波ビームによって検査された氷球部分そのものと同一の形状とサイズを持つ切片をモデル化するのに十分な情報を生成するように、類似の信号を別の方向に送受信する。次に超音波カテーテルを挿管内で既知の距離だけ僅かに移動させることができ、この過程を繰返して別の切片を形成する。この過程を氷球全体の切片を計算するのに十分な時間で繰り返した後に、複数の切片を氷球のサイズと形状を示す1個のモデルとして組み合わせる。
【0009】
一実施態様では、超音波カテーテルは、その先端部にEMセンサーを含む。EM航法システムを用いて、超音波カテーテルの位置と方向を氷球モデルの形成された切片毎に決定できる。EM航法システムが術前のCT画像またはモデルに記録されているとすれば、形成された氷球モデルをCT画像に重ね合わせることができる。CT画像は標的組織のサイズと位置を特定するので、生成された氷球がその有効な治療領域内に標的組織を完全に組み込んでいたか否かが明確になる。実施態様によっては、ソフトウェアにより、標的組織の既知のサイズ、形状、および位置を、生成された氷球の測定済みのサイズ、形状、および位置と比較して、標的領域が氷球の治療域内に無い場合には警告を発する。必要に応じて、新規の氷球を生成して標的領域の欠落部分を処置して、この新規の氷球の別のモデルを生成して治療効果を確実にできる。
【0010】
凍結切除術は、これら実施態様を用いて切除される組織のサイズ、形状、および位置を測定できる唯一の切除技術である。類似のシステムおよび方法は、マイクロ波切除または高周波切除などの加熱切除とともに使用できる。超音波カテーテルを加熱切除される組織内に挿入し、パルスエコー技術を用いて切除される組織のモデル切片を形成できる。次に複数の切片を組み合わせて、切除される組織の完全なモデルを形成し、このモデルを標的組織の3D画像に表示して切除の有効性を判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1は、超音波の誘導に基づく凍結プローブの経皮挿入の側面斜視図である。
【0012】
図2は、標的組織を貫通し氷球を形成している、
図1の凍結プローブの概略図である。
【0013】
図3は、3本の等温線が示されている、形成された氷球の概略図である。
【0014】
図4は、第2の凍結後の
図3の形成された氷球の概略図である。
【0015】
図5は、3本の凍結プローブを用いて形成された不規則な氷球の概略図である。
【0016】
図6は、標準的な超音波手法によって観察される、
図5の不規則な氷球の概略図である。
【0017】
図7は、1本の凍結プローブが引き抜かれた、
図5の不規則な氷球の概略図である。
【0018】
図8は、引き抜かれた凍結プローブの代わりに超音波プローブが挿入された、
図5の不規則な氷球の概略図である。
【0019】
図9は、誘導挿管内にある一実施態様の超音波プローブの遠位端の平面図である。
【0020】
図10は、時間に対する反射された超音波信号を示す第1の図である。
【0021】
図11は、時間に対する反射された超音波信号を示す第2の図である。
【0022】
図12は、氷球の1枚の切片の計算された寸法の概略図である。
【0023】
図13は、複数の切片からなる氷球の計算された寸法の概略図である。
【0024】
図14は、本発明の一実施態様を実行する方法を示す流れ図である。
【0025】
図15は、加熱切除術を用いて切除された切除組織の不規則形状領域の概略図である。
【0026】
図16は、誘導挿管内にある別の実施態様の超音波プローブの遠位端の平面図である。
【0027】
図17は、電気ステッピングモーターによって回転する超音波プローブの経皮挿入の側面斜視図である。
【発明の詳細な説明】
【0028】
氷球の形成
凍結切除術は、典型的には、処置の前に患者内に認められた異常組織を死滅させるために実施される。殆どの場合には、異常組織の正確な位置を、CTやMRI画像などの従来技術を用いる撮像によって特定する。凍結切除術が異常組織に対して適切であると決定された後に、患者の準備を進めて、処置を開始する前に再度異常組織を位置決めする。
図1のように、外部超音波装置100を用いて標的組織の位置を特定する。次にこの同じ超音波装置を用いて、凍結プローブ110の先端部の患者120への挿入を監視する。凍結プローブ110の先端部を、例えば超音波エネルギーに対して高度に視覚化できる溝や他の物理的異形部を適合させて、超音波下での先端部の識別可能性を向上させるように特別に設計してもよい。このようにして、凍結プローブ110の先端部を経皮的に標的組織に向ける。
図14に関連して、以下の説明のように、さらに挿入された超音波カテーテルを用いて標的組織の位置を特定しかつ凍結プローブ110を配置することが可能となる。
【0029】
図1には示されないが、コンピュータシステムが存在し、このシステムは、どの信号をどの程度の電力量で超音波装置100および凍結プローブ110に送信するかを決定し、これらの信号および電力をこれらの装置100、110に送信し、これらの装置100、110から信号を受信し、これらの信号を解析し、次いでその分析の結果を使用者に対し表示する。開示の実施態様で用いられる装置との間で送受信される信号および電力を制御および解析するコンピュータシステムは、CPU、短期および長期の記憶保持装置、コンピュータプログラミング、表示システム、および例えば装置100、110などの装置と通信するためのインターフェースを含む標準的なコンピュータシステムである。これらのようなコンピュータシステムはまた、以下に説明する装置との間で送受信される信号を制御して、
図14での方法1400を含む以下に説明の方法中の計算工程および表示工程を実行することを担っている。
【0030】
図2は、凍結プローブ110が患者120の異常標的組織200内に挿入された後の凍結プローブ110の遠位端または先端部112を示している。
図2のように、凍結プローブ110は、標的組織200に配置された誘導挿管210の空洞部を貫通する。誘導挿管210が冷凍切除術の手順に常に必要となる訳ではないが、標的組織200に追加のカテーテル装置を配置できるので、その挿管の使用は本発明の大半の実施態様では有益なものとなる。
【0031】
凍結プローブ110の先端部112を標的組織200内に挿入すると、アルゴンガスがプローブ110内を通過する。プローブ110は、ガスが先端部112またはその近傍で膨張するように設計されている。アルゴンガスは膨張すると冷えるので、この膨張によりプローブ110の先端部112は非常に急速に冷却される。従来の凍結プローブ110では、アルゴンガスの注入により、先端部112に近位の組織が-160~-170℃の温度に到達する。この温度により、先端部112に隣接して凍結組織の氷球220が急速に形成しかつ標的組織200内で拡張する。
【0032】
プローブの近傍に形成された氷球220の温度は-160℃より低くなる場合があるが、氷球220の表面温度は0℃のままである。組織を確実に破壊するためには、組織を-40℃以下の温度に到達させ約3分間保持する必要があることが一般に知られている。この温度により細胞内で氷の形成を引き起こし、その形成により大半の細胞は破壊される。結果として異常組織は、典型的には凍結切除術の手順中に3~5分間凍結される。この時点で、
図3に示すように氷球220は成長を完了している。この時間の経過後に、氷球220の少なくとも半分の直径範囲では-40℃まで到達完了となる。この位置を、
図3の陰影付き領域300によって概略図として示す。より広域の陰影付き領域310では、-20℃の等温線の概略の位置を示し、一方で氷球220の外面320は0℃の温度である。
【0033】
氷球220の-40℃の保持温度を示すその部分のみが確実に破壊されたことになるので、殆どの凍結切除術の医療従事者は、この手順を2回実行する。まず氷球220を形成した後に氷球を解凍させる。氷球220内の凍結組織の緩慢な解凍によって、解凍される氷の結晶が融合してさらなる細胞損傷を起こしうるより大きな結晶を形成するので、さらなる細胞損傷を引き起こすことになる。この解凍過程は、ヘリウムを凍結プローブ110に通過させて促進できる。アルゴンなどの極低温ガスとは異なり、ヘリウムは膨張すると温くなる。ヘリウムが凍結プローブ110を通過する場合に、ヘリウムはアルゴンとは逆の影響を有して、凍結プローブ110の先端部112を温める。
【0034】
解凍後に異常組織を再度凍結する標準的な手法により、組織の凍結をより迅速に引き起こす(この手法は組織に対してより破壊的である)。これにより、-20℃~-30℃などの僅かに高い温度でも完全な組織破壊が可能となる。結果として、この手順の有効な治療領域は、氷球220の外周部320により近い位置まで移動する。
図4に示すように、陰影付きの死滅領域は、ほぼ-20℃の等温線310まで拡大する。殆どの状況では、死滅領域と氷球の周辺部との間の距離は、4~10 mmであると考えられる。氷球220の外側領域は確定的な治療領域310の外側にあるので、一般的には、破壊することが望ましい組織200よりも大きな氷球を凍結手術中に形成する必要がある
【0035】
状況によっては、標的組織200の形状およびサイズに一致させるために、氷球220には種々の形状を形成する必要がある。この状況では、複数の凍結プローブを組織200の種々の部分内に挿入してもよい。
図5に示すように、第1の凍結プローブ110を、第2の凍結プローブ510および第3の凍結プローブ520と組み合わせる。これらの2種の追加の凍結プローブ510、520を、誘導挿管を用いて標的組織200内に挿入してもよいが、1本のプローブ110のみがこの外装管210を伴うことが必須である。3本の凍結プローブ110、510、520が冷却されると、それらプローブは共に作用して一体的ではあるが不規則形状の表面532を持つ単一の氷球530を形成する。凍結プローブ110、510、520のうちのいくつかは、種々の温度で作動でき、僅かに高い温度では凍結の効果はより小さくなる。さらに凍結プローブ110、510、520の作製条件は、結果として生じる氷球の形状に影響を及ぼす可能性がある(例えば、プローブによってはより球状の形態を形成する)。凍結プローブ110、510、520の間で種々の設計および温度を用いることにより、得られる氷球530を、周囲の組織への損傷を最小限に抑えながら標的組織200をより効率的に死滅させる形状に意図的に適合させることが可能となる。
図5に示すように、結果として生じる氷球530は、凍結プローブ520の先端部から遠位にある組織200の一部が形成された氷球530の境界の外側に留まることがあるので、標的組織200の全体を破壊できなかった。このことはおそらく、氷球530を形成する前に標的組織200内で十分に遠方に挿入されていなかった第3の凍結プローブ520が起因しているものと思われる。
【0036】
凍結プローブ110、510、および520を誘導するのに用いられた超音波装置100を、氷球の形成が完了した後にそのサイズおよび位置を監視するように用いることができるが、この装置100では観察できる範囲には制限がある。
図6に示すように、超音波装置100を用いて氷球530を撮像する場合に、装置100から放射する超音波音響エネルギー600は、氷球530に衝突する前に非凍結の組織620を通過する。この装置100は、帰還する超音波エネルギーを監視するように設計されている。この帰還エネルギーに関連する時間情報および強度情報を用いて、超音波撮像装置は、エネルギー600が入り込んだ患者120の種々の組織の三次元画像を生成できる。
【0037】
しかしながら氷球530の凍結特性として、この氷球は超音波600に対して極端なエコー発生源となる。事実、組織の密度変化および音が組織を通過する際の結果として生じる速度変化を含む、解凍組織と凍結組織との間の物理的特性の差異により、超音波エネルギーが氷球で跳ね返る原因となる音響インピーダンスの不一致が発生する。さらに氷球自体は、非凍結組織よりも遥かに効率的に超音波エネルギーを吸収する。氷球530の反射特性により、超音波を用いて氷球表面532の鮮明な画像を形成するが、超音波エネルギー600は、この表面532を超えて効率的に貫通できない。これにより、この表面532の背後に音響陰影が形成され、この陰影は、表面532の背後にあるいずれかの組織または構造が結果として得られる超音波画像内に出現するのを抑止する。
【0038】
さらに、超音波音響エネルギー600は単一の装置100から放射されるので、エネルギー600は本質的に、超音波画像で観察される氷球表面532のその部分を規定する視野610を形成する。このことは、装置100が円弧形状の超音波エネルギーを送信する湾曲した超音波列を利用する場合にも、あるいはパイ形状のエネルギーを送信するフェーズドアレイプローブを使用する場合にも当て嵌まる。これらのいずれの場合でも、超音波エネルギー600は、有効な視野610を規定するその単一の装置から放射される。このことは、超音波装置100を使用する医療従事者が高精度に近接する位置で形成された氷球530を観察できること、氷球530の幅が標的組織を包含するように十分に広いこと、かつ近位表面632がその組織200の近位部分の破壊を確実にするように標的組織200から十分に外側の位置にあることを意味する。但し、医療従事者は氷球530の最近接の表面632を越えて形成された陰影内を観察できないので、その従事者は、第3の凍結プローブ520が標的組織200内に十分に深く挿入されたか否かを判断できない。
超音波カテーテル
【0039】
この問題を克服するために、氷球530が依然凍結している間に、凍結プローブ110を誘導挿管210から引き抜いてもよい。凍結プローブ110は、初期にはその場で凍結されていてもよいが、ヘリウムの短時間の注入により、氷球530を激しく解凍することなくプローブ110が自由に動くのに十分な程度に凍結プローブ110を温める。
図7は、
図5の氷球530での凍結プローブ110が引き抜かれた状態を示している。この図に示すように、凍結プローブ110の引き抜きにより、氷球530内に開口部または通路700が残る。
【0040】
この通路700が外挿管210内を連通しているという事実は、
図8に示すように、超音波カテーテル800を氷球530内に挿入可能であることを示している。このカテーテル800は、その遠位端に複数の超音波変換素子810を備える。超音波カテーテル800を形成された氷球530内に直接的に挿入することで、氷球530のサイズと形状をより高精度に解析できる。
【0041】
カテーテル800は、米国仮出願62/776,667号および62/776,677号として出願された開示に従って構成でき、これらの開示は両者とも2018年12月7日付けで本出願の出願人によって提出された。これら2つの仮出願の全体の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0042】
超音波カテーテル900の一実施態様を
図9に示す。このカテーテル900は、カテーテルの遠位端902の近傍に複数の超音波変換素子910を有する。好ましい実施態様では、超音波変換素子910の64個の要素環状列をカテーテル900の周辺部の周りに配置する。これらの変換素子910は、PZT、pMUT、またはcMUTに基づく変換素子であってもよく、4~50 MHzで動作する周波数などの様々な周波数の超音波エネルギーを送信および検出できる。
図9は超音波カテーテル900の端部の平面図を示しているので、個々の変換素子910は、同一平面上にある、すなわちカテーテル900の平坦表面上に配置されているように見える。この配置は一つの可能な構造ではあるが、
図9に示す構造のように変換素子910は、(円形、楕円形、またはその他の丸みを帯びた断面を有するカテーテルを用いて形成されるような環状表面または円筒状表面などの)平坦でない表面の周辺部の周りに配置される。
【0043】
個々の変換素子910は、フェーズドアレイを形成でき、複数の変換素子910からのエネルギーが共に機能して、超音波エネルギーの一方向性ビームを形成できることを意味している。これは一般に、制御可能な一方向に干渉パターンを形成するために、複数の変換素子からの超音波エネルギーの送信時機を合わせて実行される。その方向に送信される超音波エネルギーは、単一の変換素子から送信できるエネルギー量よりも大きくなる。エネルギーを受信しながら同一の原理を機能させて、複数の変換素子910でのエネルギーの受信を個別にかつ慎重に遅延させて解析し、変換素子910が一方向から受信する信号を最大にする。この手法および
図9に示す変換素子910の環状列を用いて、一径方向で変換素子910から超音波信号を送受信することが可能となる。
【0044】
他の実施態様によっては、合成開口手法が用いられる。この環境では、個々の送信パルスは未集束の状態で送受信される。次にビーム形成アルゴリズムは、超音波エネルギーの送受信を一方向に集束させるために、その後に未集束の信号を分析する。
【0045】
凍結プローブ110を引き抜いて形成された通路700への変換素子910の侵入を可能とするために、超音波カテーテル900を可能な限り小さな装置サイズ、好ましくは直径2 mm未満の装置サイズに縮小することが好ましい。さらに一実施態様では少なくとも64個の撮像要素910を持つように想定されているが、16個~256個超の要素を持つその他の構造も可能である。実際に(以下に説明の)
図16は、1個の変換素子要素1610のみを備える一実施態様を示している。
【0046】
一実施態様では、超音波カテーテル900は、従来からの超音波撮像手法を用いて画像を生成できる。適合可能な超音波撮像手法として、走査平面でエコー振幅を表示する白黒諧調「Bモード」撮像法;経時的に特定の固定位置での動きを追跡するMモード撮像法;走査平面内での動きを表示する二重の色調付きパワードップラー撮像法;入射超音波に対する非線形応答を表示する調波撮像法;相対的な組織剛性を表示する弾性撮像法;および血液充填空間を表示する造影剤を用いる、あるいは特定の薬剤結合組織種を表示する標的薬剤を用いる造影剤撮像法などの種々の手法が存在する。
【0047】
超音波撮像技術は、あまり知られていないが、組織から後方散乱された受信エコー信号の周波数の関数として、電力の分布を解析する定量的超音波(すなわちQUS;quantitative ultrasound)に基づいている。QUSでは、結果として得られるスペクトルパラメータを利用して、各組織を特徴付けて区別する。QUSを使用すると、組織に対してその場で実行できる「音響生検(AB;acoustic biopsy)」または「音波生検(sonic biopsy)」を効率的に構築して、微量の標的組織試料を分析できる。さらにQUSを用いて、細胞死および/またはアポトーシスに関連するパラメータを提供する腫瘍間質および微細血管の性質を分析して、化学療法、近接照射療法、細胞毒性剤(薬剤)、または切除術などの治療法の確定または監視データを提供できる。この分析は、有効散乱径や有効音響濃度などのパラメータを用いて、治療法に対する腫瘍応答性の中間的なフィードバックを提供できる。腫瘍または組織の剛性の不均一性を、複数の種々の方向からの結節を評価すること、かつ超音波信号の浸透深さを測定することによって解析できる。
【0048】
超音波カテーテル900の好ましい実施態様は、遠位端902に電磁(EM)センサー920を埋め込むことをさらに含む。これらのセンサー920を用いて、患者120内でカテーテル900を誘導できる。実際には、少なくとも2個のセンサー920を互いに隣接して備えるが、利用可能な位置情報および方向情報を最大にするためにカテーテル900内で異なる方向に配置する。Veran Medical Technologies社は、EMセンサーとEM航法を用いて、微細な組織塊を高精度に標的化しそれに到達する一連のカテーテルシステムを開発した。この技術は、「内視鏡用途での四次元軟組織航法のための装置および方法」と題する米国特許第8,696,549号に詳述されており、この特許は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。この特許では、多くの場合に、手術前にコンピュータ断層撮影X線走査(CTスキャン)を用いて、患者内の肺気道などの臓器モデルを構築できることを説明している。次いで処置中の電磁航法は、カテーテル900表面のセンサー920を用いて三次元空間での位置情報および方向情報を提供する。EMによる三次元空間は、CTで形成されたモデルに登録され、臓器モデルでのカテーテルの位置をリアルタイムに表示可能となる。Veran社のシステムはまた、四次元の経時追跡情報も提供する。仮想表示内のプローブの見掛けの位置を変更して、EMセンサーが体の呼吸運動に連動して動く際にEMセンサーの物理的な位置に一致させる呼吸下の追跡を実行でき、これは現状の装置に非常に役立つものである。
【0049】
カテーテル900では、EMセンサー920および超音波変換素子910列は、両方とも電子機器パッケージ930に結合されている。この電子機器パッケージは、個々の変換素子910を操作すること、かつデジタル化解析および医療従事者への表示のためにカテーテル900を介して(図に示されないが)データ伝送経路に沿って受信信号を送信することを担っている。一実施態様では、電子機器パッケージ930は、EMセンサー920および変換素子910の両方からの信号を多重化する役割を担っていて、その結果、それら信号はカテーテル900に沿って単一のデータ経路を共有できる。
氷球サイズの測定
【0050】
超音波カテーテル900は、(例えばBモード撮像法を用いて)標準的な超音波画像を形成できるように設計され、かつQUSを用いて特定の組織を解析するように設計されているが、そのような撮像手法は、氷球530のサイズを測定するためには用いられない。凍結組織の性質により、組織を通して送信される超音波エネルギーは、通常の組織を通過するよりも遥かに迅速に移動する。さらに、凍結組織の吸収性および超音波が氷球に侵入する前の信号の反射リスクにより、通常の超音波画像の形成は殆ど不可能になる。さらに問題の組織の全てが凍結しているという事実により、超音波で観察できる正常組織との違いを検出することが困難になる可能性がある。
【0051】
従って氷球530の画像を生成するのではなく、カテーテル900は、超音波探知器として効率的に作動するパルスエコー方式を用いる。変換素子910の環状列は、まず超音波信号を一方向に送信するように制御される。複数の変換素子910は、ビーム形成された単一信号を生成してこの信号を送信する際に利用できる。あるいは、環状列内の単一の変換素子910を用いて、その一方向に超音波信号を送信できる。この信号パルスで送信されるエネルギー量は、撮像中に通常送信される音響エネルギー量よりも大きくなる可能性がある。事実として、このパルスエコー手法では微調整する必要はなく、むしろ送信されるエネルギーを最大にする必要がある。
【0052】
パルスを送信する1個以上の同一の変換素子910はまた、超音波が氷球530の表面から跳ね返った後のその超音波を検出する。上述の説明のように、氷球530と周囲の未凍結の組織620との間のインピーダンスの不一致により、氷球530の外周部532に衝突すると超音波信号の反射を引き起こす。この反射は信号の変換素子910への帰還を引き起こし、この場合にこれら変換素子は、音響エネルギーが氷球530を通過して表面532に移動しその後帰還するのに要する時間の後に検出される。上述のフェーズドアレイ手法を用いて、複数の変換素子910はこのエネルギーを受信して、受信したエネルギーをフィルターに掛けて、エネルギーを送信したのと同じ方向から受信したエネルギーのみを可視化できる。あるいは、信号をその一方向に送信したのと同じ変換素子が、帰還エネルギーを受信できる。
図10に示す図表1000に見るように、受信された音響エネルギーの波高を時間に対して図示してもよい。この図表1000は、時間1012に対して、大量の超音波エネルギーを図表1000中のピーク1010として受信したことを示している。時間1012をTとし凍結氷球530を通る超音波の速度をVとする場合に、ピーク1010で受信される音波が移動した合計距離は、D=V*Tとなる。超音波は氷球530の端部532まで移動して帰還する必要があるので、この方向でのカテーテル900から氷球530の端部までの実際の距離は、1/2V*Tとなる。超音波は、一般的には約1540 m/sで未凍結の組織を通過する。しかし凍結組織中では、音速は大幅に速く2500 m/s~4000 m/sである。さらに氷の温度が下がると凍結水中の音速は速くなることが知られていて、凍結切除術の治療中での凍結組織にも当て嵌まることが予測される。
【0053】
図表1000は、受信した超音波エネルギーの若干理想的に描かれた結果を示している。実際には、変換素子910から送信された超音波エネルギーの相当な部分が、通路700内で氷球530の初期の境界部で即時に反射されて帰還する可能性が高い。この場合には、受信された超音波エネルギーは、
図11の図表1100に類似して観察される可能性がある。この場合には、氷球530の外側境界532は、時間1112のピーク1110として観察される。さらに時間1122で顕著なピーク1120が観察されるが、これは通路700内からの即時の反射を示している。このピーク1120は、氷球530のサイズを測定する際には無視してもよく、パルスの送信後にその発生が速すぎる場合には検出さえ不可能な場合がある。超音波変換素子910は、通路700に挿入された際に氷球530の凍結組織と接触していることが好ましい。これにより、超音波エネルギーの初期の反射を低減できるはずである。
【0054】
上述の説明のように、変換素子910によって生成された超音波パルスは、一方向に送信される。このパルスを
図12の概略図では方向1200として表示する。図表1000/1100の時間解析および上述の式を用いて、カテーテル900から氷球530の外側壁532までの距離を計算できる。このパルスが発生すると、変換素子910は、方向1210などの異なる方向に別のパルスを送信し、次いでその方向1210での外側境界532までの距離を測定する。これは第3の方向1220でも繰り返され、次いで変換素子910の全360°の範囲に亘って繰り返される。各方向では、外側境界532までの距離を、カテーテル900の既知の位置(
図12の位置1202)から測定する。これらの距離を
図12に示すように組み合わせると、氷球の外周部532のサイズと形状を示す切片1230が形成される。この実施態様では、各パルスをカテーテル900(位置1202)の変換素子910から放射状に送信し、形成された切片1230が変換素子910の現状位置での氷球530のサイズのみを表示することを意味している。
【0055】
誘導挿管210内でカテーテル900を物理的に滑動させて、氷球530内の種々の位置に切片1230を形成するプロセスを繰り返すことができる。一実施態様では、カテーテル900を、通路700内の最も遠方の位置から始めて、次いで通路700に沿って形成された切片(例えば切片1230)毎に2~10 mm移動させる。これらの切片を組み合わせると、
図13に示すように、氷球530のサイズと形状の比較的完全なモデル1300が形成される。これらの種々の切片を形成するために、カテーテル900を、通路700と誘導挿管210に対して
図13で要素1302として示す経路に沿って移動させる。なお、氷球530の外側壁532は、凍結プローブ110によって形成された通路700の周辺に集中していなくてもよいので、この経路1302は、モデル1300を構成する切片の「軸」でも「中心点」でもない。
【0056】
上述のように、カテーテルの先端部902の物理的な位置を、EM航法およびEMセンサー920によって発生させた信号を用いて常時識別できる。結果として氷球530の3Dモデル1300は、3D空間に配置でき、次いで標的組織200を示す記録されたCT画像に重ね合わせることができる。この手法を用いて、医療従事者は、氷球530の死滅領域が標的組織200を包含できなかった領域を特定できる。実施態様によっては、CT画像内の標的組織200のモデルを氷球530の3Dモデル1300と自動的に比較して、医療従事者に氷球530の有効領域の外側に留まる標的組織200に対して自動的に警告を発する。このフィードバックによって、医療従事者は、凍結プローブ110を再挿入して、より長いまたはより激しい凍結サイクルの使用によりプローブ110、510、520の既存の位置を用いて組織を再凍結してもよい。あるいは、医療従事者は、標的組織200の未凍結領域を治療するために追加のプローブを挿入してもよい。
プロセス1400
【0057】
上述の個々の工程は、
図14の流れ図に示すように、プロセスまたは方法1400に組み合わせることができる。このプロセスでの最初の工程1405は、上述の工程とは大きく異なる唯一の工程である。
図1および
図2に関連して、この工程では、超音波装置100が標的組織200内への凍結プローブ110の誘導を支援できると説明されていた。別の実施態様では、超音波カテーテル900のEMセンサー920を、EM航法を用いて標的組織200に向けることができる。超音波変換素子910が(未凍結の)標的組織200内に配置されると、組織200の画像を取得できる。一実施態様では、QUSを用いて、標的組織を診断または他の方法で解析するのを支援する。工程1405では、センサー910によって形成される超音波画像を用いて、誘導挿管210が凍結プローブ110の挿入のために適切に配置されることが確実にできる。工程1410では、超音波カテーテル900が引き抜かれ、工程1415では、誘導挿管210を通して同一の位置に凍結プローブ110を挿入する。場合によっては、適切なサイズと形状の氷球530を形成するために、追加の凍結プローブ510、520を標的組織200内に挿入してもよい。
【0058】
工程1420では、凍結プローブを用いて標的組織を凍結する。また上の説明のように、凍結過程は、氷球530の有効性を向上させるために、氷球530の解凍操作によって分離される2回の異なる凍結操作を含むことが多い。
【0059】
工程1425では、凍結プローブ110を引き抜いて、これにより氷球530内に誘導挿管210を通して到達可能な通路を形成する。工程1430では、超音波カテーテル900をこの通路に挿入する。
【0060】
次いで超音波カテーテル900を用いて、氷球サイズの3Dモデルを形成する。この形成を方法1400の工程1435~1455によって実施する。工程1435では、超音波エネルギーのパルスを送信する一方向を選択する。次いでその方向で氷球530の外縁部532からのエコーを検出する。凍結組織内での既知の超音波速度を用いて、その方向でのカテーテル900から外縁部532までの距離を決定する。次にこれを、工程1440で氷球530の一切片のサイズと形状が決定されるまで種々の角度で繰り返す。各パルス間の理想的な角度は、実験室試験を用いて決定して、パルス間の小さな角度によって得られる一切片モデルの詳細度の向上と、パルス間のより大きな角度を用いて得られるモデルの形成速度との間の適切な妥協点を得るようにする。計算技術の向上によって各パルスの解析速度が増大すると、好ましい角度は小さくなる。一実施態様では、パルス間の角度は5°~20°となるように選択する。工程1445では、複数の切片を形成するために、カテーテル900を移動させて工程1430~1445を繰り返し、各切片は、カテーテル900の移動経路に沿ってその位置での氷球530の形状とサイズを示している(工程1450)。次いで工程1455では、これらの複数の切片は氷球530の単一の3Dモデルとして組み合わされる。
【0061】
カテーテル900はEMセンサー920を含むので、EM航法に用いるCT画像内の3Dモデルを位置付ける、サイズを決定する、かつ方向付けることが可能となる。工程1460では、これらの画像上に3Dモデルを表示する。
【0062】
工程1465では、形成かつモデル化された氷球530の有効性を逸したように見受けられる標的組織200の任意の部分を決定する。この決定は、3Dモデルのサイズ、形状、および方向を標的組織200の既知のサイズ、形状、および方向と比較するコンピュータソフトウェアを用いて達成できる。3Dモデルと標的組織の両方をディスプレイ上に同時に表示できるので、ある種の識別可能な視覚的特性を用いて、標的組織の生き残っている部分を提示することが可能となる。例えば生き残っている組織を、固有の色であるいは周囲の組織とは異なる(より明るい、またはより暗い)輝度を用いて表示してもよい。どのような特性を用いたとしても、医療従事者が、標的組織のどの部分がモデル化された氷球530の死滅領域内に含まれないかを即座に見て識別できることが重要である。この生き残っている組織を、工程1470で治療できる。場合によっては、工程1470によって1405~1465の工程全体を繰り返して、標的組織200の全てが破壊されたことを確定できる。別の場合によっては、生き残っている標的組織を効率的に凍結するように氷球530のサイズと形状を変更する方法では、凍結プローブ110、510、520のうちの1個以上を再凍結することが単に必要となる。次いでこの方法を工程1475で終了する。
加熱切除術の応用
【0063】
上述に説明した切除組織を視覚化する新規のプロセスは、凍結手術以外にも応用できる。標的組織は、マイクロ波切除術や高周波切除術などの様々な手法によって切除できる。マイクロ波切除術では、マイクロ波範囲(300 MHz~300 GHz)の電磁波を応用して、標的領域内の組織を死滅させる。組織内の水分はマイクロ波放射を吸収し、それによって組織を加熱しかつ死滅させる。高周波切除術も類似しており、(この場合は高周波範囲の)電磁波を用いて標的組織を加熱しかつ死滅させる。いずれの場合でも、電磁波は標的組織内に直接挿入された針によって送信される。この針を凍結プローブ110と結合して上述と同一の方法で標的組織に誘導し、次いで熱発生信号を針の端部から放出する。このことは、針を経皮的に、腹腔鏡下で、または手術中に挿入できることを意味している。いずれの場合でも、この針は上述の挿管210などの誘導挿管を用いて、標的組織内に挿入できる。
【0064】
熱切除術の状況では上述の手法を応用するために、RF針またはマイクロ波切除術針1510を標的組織1500内に誘導挿管1520を通して挿入する。マイクロ波切除術の状況では、追加のマイクロ波針1512、1514を、切除領域1530の結果として生じる形状に適合させるために標的組織1500内に挿入できる。複数の高周波切除針を同時に作動させることは一般的に不可能である。それにもかかわらず、複数本の同じ切除針を挿入させて、あるいは2本の針が同時に作動しないことを保証しながら種々の針を用いて、高周波切除術で複数の切除源の位置を処置することは依然として可能である。複数の針または複数の挿入を用いるか否かに関係なく、複数の切除源の位置を用いて、不規則な形状領域の切除組織1530が形成される。
【0065】
上述の説明のように、切除手順を実行する医師は、死滅させた組織/切除した組織1530の領域が、患者での標的組織1500の死滅を成功させたか否かを知る必要がある。これを判断するために、誘導挿管1510を通して挿入された切除針1510を引き抜き、超音波カテーテルを同じ誘導挿管1510を通して切除組織1530の中央部分に挿入する。上述と同一の手法を用いて、標的組織1500に対する切除組織1530のサイズ、形状、位置、および方向を決定できる。当然であるが、切除組織1530を凍結に代えて加熱したので、上記の計算法は僅かに変更される。超音波エネルギーは通常の組織よりも凍結組織内を遥かに速く移動することが知られており、結果として、標準的な超音波画像技術を用いて凍結した氷球を三次元で画像にすることは困難である。また超音波エネルギーが加熱による切除組織1530を通過する形態は非常に異なることは事実であり、この差異によって標準的な超音波技術を用いて切除組織1530を撮像することはさらに困難になる。パルスエコー技術とビーム形成を用いて、かつ氷球内の超音波エネルギーの速度ではなく加熱切除組織内の速度を用いるように上述のアルゴリズムを変更して、切除組織1530のモデルを生成しかつこのモデルを標的組織1500のサイズおよび位置と比較することが可能となる。凍結療法に関連する上述の説明のように、このプロセスにより、加熱による切除組織1530が標的組織1500の全てを包含できなかったことを決定でき、結果として医師がRF切除術すなわちマイクロ波切除術を再度実施して、元の熱切除領域1530の外側にある標的組織1500の部分を適切に治療することを確実にする。
単一の変換素子カテーテル
【0066】
別の実施態様の超音波カテーテル1600を
図16に示すが、カテーテル1600の先端部1602の近位に単一の変換素子要素1610のみを備えている。より大型の単一の変換素子1610を用いて、変換素子1610に対し垂直に送信される超音波エネルギーの量を最大にできると思われる。同じ大型の変換素子1610はまた、氷球530の遠位境界532から反射された超音波エネルギーを受信する点でより高感度であると思われる。この一方向での単一変換素子パルスは、上述の方法1400を実行するのに必要な音波水中探知機に似たパルスに対して超音波カテーテル1600を最適にする。
【0067】
変換素子1610は好ましくは平坦であり、一実施態様では、変換素子は超音波カテーテル1600の先端部の平坦表面1620上に配置される。平坦表面1620は、カテーテル1600長さの全体にわたって延在させてもよく、あるいはその表面は
図16のように位置1622で終端してもよい。位置1622は、平坦表面1620を持つ先端部分を、カテーテル1600の残りの部分1630から分離している。従って残りの部分1630は、誘導カテーテル210内での移動を容易にするために、円形またはほぼ丸い断面であってもよい。平坦表面1620を持つ先端部分の断面は、頂点に変換素子1610を保持する平坦表面1620が配置される丸型の底部(図示しないが)を有する半円形であってもよい。
【0068】
図16に示すように、カテーテル1600はまた、遠位端1602に埋め込み電磁(EM)センサー1640を含んでもよい。これらのEMセンサー1640は、センサー920に関連していて上述のように機能する。電子パッケージ1642を、単一の変換素子1610およびEMセンサー1640に結合して、これらの部品から送受信される信号を制御する。
【0069】
単一の変換素子1610を保持する超音波カテーテルの使用は、一方向へのより大きなエネルギー伝達ならびにより優れた信号検出を可能にする。単一の変換素子1610の使用により、超音波画像を生成するカテーテル1600の能力は大幅に低下するが、この機能の低下は方法1400の環境では重要ではない。但しカテーテル900に利用される変換素子910の環状列が存在しないことにより、上述の(切片1230などの)切片を形成するには、単一の変換素子カテーテル1600を回転させる必要がある。この回転は、医療従事者がその他のカテーテルを回転させるのと同じ方法により手動で実施できる。手動で実施するために360°の回転が必要となることにより、EMセンサー1640の使用によってのみ利用可能となる高精度の位置測定の重要性が強調される。医療従事者によるカテーテル1600の手動での回転は、誘導カテーテル210に対してカテーテル1600の不注意な並進運動を引き起こす可能性がある。このような不注意な位置変化を、EMセンサー1602の位置の検出によって記録できる。それぞれの角度の距離測定(工程1435)のためのカテーテル1600の正確な現状位置では、同形の「切片」を形成できない可能性はあるが、氷球530に等しい高精度の全体モデルは形成できる。
【0070】
別の実施態様を
図17に示すが、これは誘導挿管210を通してカテーテルを挿入して患者と共に使用されている単一の変換素子カテーテル1600を示している。電気ステッピングモーター1700が、カテーテル1600に取り付けられている。ステッピングモーターは、このモーター1700がカテーテル1600の回転を制御できるように、カテーテル1600に物理的に係合されている。このモーター1700の各段階は、カテーテルの所定角度での回転に連動していて、その結果、制御信号を制御配線1710に沿って送信して、命令通りに必要に応じてモーター1700がカテーテル1600を回転させることができる。このようにして、医療従事者はカテーテル1600を手動で回転させる必要はない。逆に制御配線1710の制御下にあるモーター1700は、回転サイクル中の変換素子1600の並進運動を最小限にして氷球530の切片全体の測定が可能な限り迅速かつ効率的に実行されるように、単一の変換素子1600の回転の時機を合わせることができる。
【0071】
本発明の多くの特徴および利点は、上述の説明から明白である。多数の変更および変形を、当業者は容易に考え付くと思われる。そのような変更には可能性があるので、本発明は、図示および説明された通りの構造および操作に限定されるものではない。逆に本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【国際調査報告】