(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-31
(54)【発明の名称】細胞培養のためのマイクロキャリア
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20221024BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20221024BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20221024BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20221024BHJP
G01N 21/41 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 D
C12M1/34 B
C12N5/071
G01N21/41 102
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511072
(86)(22)【出願日】2020-08-18
(85)【翻訳文提出日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2020073104
(87)【国際公開番号】W WO2021032743
(87)【国際公開日】2021-02-25
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516296566
【氏名又は名称】ルクセンブルク・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー・(エルアイエスティ)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シヴァシャンカール・クリシュナムルティ
(72)【発明者】
【氏名】シャルロット・ストフェルス
【テーマコード(参考)】
2G059
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB12
2G059CC16
2G059DD01
2G059EE03
2G059EE06
2G059EE07
2G059FF03
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC13
4B029FA01
4B065AA90X
4B065BC46
4B065CA46
(57)【要約】
細胞培養用マイクロキャリアビーズを提案する。マイクロキャリアビーズは、プラズモンナノ粒子を点在させた表面を有するビーズ体でできている。第2の態様では、本発明は、細胞培養培地及び提案するマイクロキャリアビーズを含有する細胞培養リアクターに関する。本発明の第3の態様は、そのようなマイクロキャリアビーズ上の生細胞を観察するための方法に関する。更に本発明の更なる態様は、キャリア体上にナノ粒子を詰め込むための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズモンナノ粒子を点在させた表面を有するビーズ体でできている細胞培養用マイクロキャリアビーズであって、前記ビーズ体が50μm~1mmの範囲の直径を有し、前記ビーズ体が膨潤又は非膨潤ハイドロゲルを含む、細胞培養用マイクロキャリアビーズ。
【請求項2】
前記プラズモンナノ粒子がプラズモン金属ナノ粒子を含む、請求項1に記載のマイクロキャリアビーズ。
【請求項3】
前記プラズモン金属ナノ粒子が金ナノ粒子を含む、請求項1に記載のマイクロキャリアビーズ。
【請求項4】
前記プラズモンナノ粒子がキャッピング剤、例えばクエン酸で安定化される、請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロキャリアビーズ。
【請求項5】
前記プラズモンナノ粒子が球状である、請求項1から4のいずれか一項に記載のマイクロキャリアビーズ。
【請求項6】
前記プラズモンナノ粒子が2~200nmの範囲の直径を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のマイクロキャリアビーズ。
【請求項7】
前記ビーズ体の直径の前記プラズモンナノ粒子の直径に対する比が250~25000の範囲である、請求項1から6のいずれか一項に記載のマイクロキャリアビーズ。
【請求項8】
細胞培養培地及び請求項1から7のいずれか一項に記載のマイクロキャリアビーズを含有する、細胞培養リアクター。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載のマイクロキャリアビーズ上の生細胞を観察するための方法であって、
前記プラズモンナノ粒子中の局在表面プラズモンを励起するために前記マイクロキャリアビーズをプローブ光で照射する工程と、
照射に反応して前記プラズモンナノ粒子から発する光を検出する工程を含む、
方法。
【請求項10】
前記検出が、1つ又は複数の以下の技術:局在表面プラズモン共鳴(LSPR)、表面増強ラマン分光法(SERS)、蛍光及び第二高調波発生、に基づく、請求項9に記載の生細胞を観察するための方法。
【請求項11】
キャリア体上にナノ粒子を詰め込むための方法であって、
膨潤状態の前記キャリア体の表面上にナノ粒子を付着させる工程と、
前記キャリア体の体積を縮小させ、それによって前記ナノ粒子を互いに接近させる工程を含む方法。
【請求項12】
前記ナノ粒子がプラズモンナノ粒子、例えばプラズモン金属ナノ粒子である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記キャリア体が細胞培養のためのマイクロキャリアビーズを含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記キャリア体がハイドロゲルを含み、前記体積の縮小をハイドロゲルの少なくとも一部の脱水によってもたらす、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記マイクロキャリアビーズからの細胞の遊離を、前記プラズモンナノ粒子中の局在表面プラズモン共鳴を励起することによって刺激する、請求項1から7のいずれか一項に記載のマイクロキャリアビーズ上で生細胞を培養するための方法。
【請求項16】
前記細胞の遊離を前記ナノ粒子のプラズモン加熱によって刺激する、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には、細胞培養のためのマイクロキャリア、そのようなマイクロキャリアの製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
数十ミクロンほどの大きさのマイクロキャリア(MC)は、3次元細胞培養の増殖表面として使用されており、バイオリアクター内の制御された環境内での、より良い栄養素利用性、拡張された表面積並びに自動化及びハイスループット化された回収という利点を有する細胞増殖を可能にする。
【0003】
当領域における研究では、細胞増殖、幹細胞の幹細胞性の維持、所望の細胞タイプへの幹細胞の分化の促進に影響を及ぼし、且つ細胞の容易な遊離を可能にする化学的、機械的刺激をもたらすように設計された、より新規なMCに注目が集まっているが、有機及び無機材料で作られた、様々な表面化学を提示するMCが市販されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の目標を超えた、細胞増殖のためのMCの使用に対する更なる顕著な進歩は、細胞培養中に細胞の健康状態をモニターすること及び/又は注目するバイオマーカーをレポートすることに役立つ可能性のある、センシング機能を統合することであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、細胞培養用マイクロキャリアビーズ(cell culture microcarrier bead)が提案される。マイクロキャリアビーズは、プラズモンナノ粒子を点在させた(プラズモンナノ粒子を散在させた、プラズモンナノ粒子でコーティングされた)表面を有するビーズ体でできている。
【0006】
本明細書で使用される場合、「ナノ粒子」という用語は、周囲を取り囲む界面層を有する粒子であって、サブマイクロメートルの範囲内の特徴的な大きさ、例えば1~500nmの範囲の直径を有する粒子を指す。好ましくは、プラズモン金属ナノ粒子は2~200nmの範囲の直径を有する。本文書では、文脈に矛盾しない限り、「直径」という用語は、対象となる物体の凸包に接する2つの向かい合う平行な面の間に形成され得る最小の距離を意味する。直径の測定は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡又は走査型プローブ顕微鏡(SPM)によって行うことができる。
【0007】
好ましくは、プラズモンナノ粒子は、金属ナノ粒子を含むか又はそれからなる。そのようなプラズモン金属ナノ粒子は、例えば、金、銀又はアルミニウムナノ粒子を含むか又はそれからなり得るが、他のプラズモン金属又は合金も除外されない。例えばそれが細胞上の受容体に特異的に結合するように、プラズモンナノ粒子を機能化させることができる。
【0008】
ビーズ体は、膨潤状態(水和状態)又は非膨潤状態(脱水状)のハイドロゲルマトリックスでできていてもよい。そのようなハイドロゲルマトリックスは、例えば、多糖類(例えばアガロース、デキストラン等)、エラスチン様ポリペプチド(ELP)等を含むか又はそれからなってもよい。ビーズ体は、そのようなハイドロゲルマトリックスからなるか、又は、代わりに、ハイドロゲルマトリックスによって取り囲まれた(固体)コアを有してもよい。
【0009】
ビーズ体は、好ましくは、その体積内に分布する正に帯電した基を担持する。この場合、プラズモンナノ粒子のビーズ体への付着は静電的な集合によってもたらされ得る。
【0010】
好ましくは、マイクロキャリアビーズは、ビーズ体の表面上にのみプラズモンナノ粒子を担持する、すなわち、ビーズ体の内側、少なくともビーズ体の内側の深部には担持しない。「深部」とは、この文脈においては、表面から0.3×R以上を意味し、Rはビーズ体半径のことを指す。
【0011】
プラズモンナノ粒子は、キャッピング剤、例えばクエン酸で安定化することができる。
【0012】
プラズモンナノ粒子は任意の形状、例えば球、星、棒、立方体等であってもよい。球状のナノ粒子の場合は、それらの直径は好ましくは100nm以下である。他の形状のナノ粒子、例えばナノサイズの星(nanostar)、ナノサイズの棒(nanorod)等はより大きなサイズとすべきである。ナノ粒子がナノサイズの棒の場合は、横断面の直径は好ましくは2~200nmの範囲とすべきであり、一方ナノサイズの棒の長さはより長くてもよい。
【0013】
マイクロキャリアビーズの本体は、好ましくは、50μm~1mmの範囲の直径を有する。ビーズ体の直径のプラズモン金属ナノ粒子の直径に対する比は、好ましくは250~50000の範囲、より好ましくは250~25000の範囲にある。ハイドロゲルマトリックスを有するビーズ体の場合では、示される直径の範囲は、脱水状態での直径、又は水和状態(例えば、細胞培養培地中で使用する場合)若しくは任意の中間状態の直径のことを指し得る。
【0014】
第2の態様では、本発明は、細胞培養培地及び本明細書に記載されるマイクロキャリアビーズを含有する細胞培養リアクターに関する。
【0015】
本発明の更なる態様は、本明細書に記載されるマイクロキャリアビーズ上の生細胞を(インビトロで)観察するための方法に関する。前記方法は、
・プラズモン金属ナノ粒子中の表面プラズモンを励起するためにマイクロキャリアビーズをプローブ光で照射する工程と、
・照射に反応して前記プラズモン金属ナノ粒子から発する光を検出する工程を含む。
【0016】
前記検出は、好ましくは、1つ又は複数の以下の技術:(局在)表面プラズモン共鳴(SPR)、表面増強ラマン分光法(SERS)、蛍光及び第二高調波発生、に基づく。SPR技術によれば、細胞反応、例えば細胞と別の生物学的実体(例えば抗原)との相互作用、細胞分裂等、によって誘起される局所的な屈折率の変動の指標となる、吸収波長又は他の何らかの検出光の特性の変化が測定される。
【0017】
更に本発明の更なる態様は、キャリア体上にナノ粒子を詰め込むための方法に関する。その方法は、細胞培養用マイクロキャリア上にプラズモンナノ粒子を詰め込むことにおいて特に有用であり得るが、他の目的に対して使用することもできる。前記方法は、
・キャリア体を膨潤状態にしながら、前記キャリア体の表面上にナノ粒子を付着させる工程と、
・前記キャリア体の体積を縮小させ、それによって前記ナノ粒子を互いに接近させる工程を含む。
【0018】
付着プロセスそれ自体を、キャリア体とナノ粒子との間の静電引力を使用してもたらしてもよい。そのような静電的な集合は、理論最大被覆度を有するランダム順次吸着(random-sequential adsorption)(RSA)プロセスと考えることができることが理解されよう。実験において達成される被覆度は、特に時間が限られるため、理論最大被覆度よりも典型的には顕著に低い。従って、本方法が、キャリア体が膨潤している時にナノ粒子を付着させ、次いでキャリア体を収縮させることにより、ナノ粒子の密度の増加を可能にしていることが理解されよう。収縮状態におけるナノ粒子間の平均距離がより短いと、実際の適用、例えばプラズモンセンシングにおいて有益であり得る。或いは、前記方法は、ナノ粒子の所与の標的密度に対する付着プロセスを短くするために使用することができる。
【0019】
上記で示されるように、ナノ粒子はプラズモンナノ粒子、例えばプラズモン金属ナノ粒子であり得る。更に、キャリア体は、細胞培養のためのマイクロキャリアビーズでできていることが可能である。
【0020】
好ましくは、キャリア体はハイドロゲルマトリックスを含み、体積の縮小はハイドロゲルの(少なくとも一部の)脱水によってもたらされる。
【0021】
マイクロキャリアビーズ上のプラズモンナノ粒子の存在を、例えば細胞の回収のために使用することができることが理解されよう。例えば、マイクロキャリアビーズからの細胞の遊離は、プラズモンナノ粒子中の局在表面プラズモン共鳴を励起することにより刺激することができる。具体的には、細胞の遊離を、ナノ粒子のプラズモン加熱によって刺激することができる。
【0022】
添付の図面は、本発明のいくつかの態様を例示し、詳細な記載と共に、それらの原理を説明する役割を果たすものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、プラズモンナノ粒子でコーティングされた表面を有する細胞培養用マイクロキャリアの模式図である。
【
図2】
図2は、細胞培養のためのマイクロキャリア上にプラズモンナノ粒子を付着させるためのプロセスを示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実践の実施例で使用される、プラズモンナノ粒子(左側)及びマイクロキャリア(右側)のサイズ分布の図表である。
【
図4】
図4は、様々な濃度の金ナノ粒子で覆い、次いで乾燥させたハイドロゲルマイクロキャリアのSEM画像を示す図である。
【
図5】
図5は、AuNPでコーティングされたマイクロキャリアのミクロトーム切片のSEM画像であって、融合したマイクロキャリア間の接触面に焦点を合わせたSEM画像を示す図であり、(i)から(iv)にかけて倍率が増加する。
【
図6】
図6は、乾燥状態の裸のMC(a)、水中の裸のMC(c)、水中のAuNPでコーティングされたMC、の光学顕微鏡画像、及び対応する観察されたサイズ分布(d)を示す図である。
【
図7】
図7は、被覆度の増加を伴った、Auナノ粒子でコーティングされたマイクロキャリアの懸濁液の写真(a))、対応する吸光度スペクトルのグラフ(b))並びにピーク強度及びピーク位置のグラフ(c))を示す図である。
【
図8】
図8は、裸のマイクロキャリア及びプラズモンナノ粒子でコーティングされたマイクロキャリア上での細胞培養における、グルコース及びラクテートの濃度の漸進的変化を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、細胞培養用マイクロキャリアビーズ10を模式的に例示する。マイクロキャリアビーズ10は、プラズモンナノ粒子14を点在させた表面を有するビーズ体12(例えば、従来の市販のMC)でできている。同様に例示されるのは、マイクロキャリアビーズ10を増殖表面として使用する細胞16である。
【0025】
センシング機能、例えば細胞の健康状態のモニタリング及び/又はバイオマーカーのレポート等のマイクロキャリアビーズ内への統合に関しては、MCの修飾が、制御し得ない有害な影響を細胞接着及び細胞増殖に対して及ぼさないこと、並びにMCが使用されることになる環境にセンシング機能が適合することが重要な要件となる。そのため、付着したプラズモンナノ粒子を有するマイクロキャリアビーズを使用する場合には、プラズモンナノ粒子の存在が培養細胞の挙動を変化させるかどうか(必要であれば、どの程度まで)を評価するために、比較試験を実施すべきである。
【0026】
以下で論じられる実施例では、デキストランベースのMC(正に帯電したN,N-ジエチルアミノエチル(DEAE)基で置換された架橋デキストランマトリックスに基づく、市販のCytodex-1(商標)マイクロキャリア)の表面上への金ナノ粒子の高密度集合体の統合が、コーティングされていない(修飾されていない)MCのものと同等の細胞増殖及び細胞遊走能力を保持することが示される。金ナノ粒子を点在させたMCがプラズモンセンシングに適することも更に実証される。金粒子の生体適合性、固有の光学、分光学特性を使用したセンシングの容易さ、更に複雑な環境中での安定性の維持を考えると、結果は、マイクロキャリア上に統合するのに金ナノ粒子は優れた選択であることを示す。
【0027】
図2に例示されるように、MC112上への金ナノ粒子114の付着は、MCのポリマーマトリックス内の正電荷の存在をうまく利用した静電的な自己集合によってもたらされ得る。
図2は、正に帯電したハイドロゲルMC112上への、クエン酸で安定化した金ナノ粒子114(拡大された細部を参照のこと)の静電的な自己集合をより具体的に例示する。静電的な自己集合プロセスそれ自体は知られているが、発明者らの認識する限りでは、MCに対して以前に試行されたことはない。帯電したコロイドの逆に帯電した表面への不可逆的な単層付着は、54.7%の理論最大表面被覆度(詰め込み限界(jamming limit))をもたらすランダム順次吸着(RSA)プロセスとして考え得るが、実際に達成される表面被覆度は典型的にはそれより顕著に低い。
【0028】
プラズモンナノ粒子を点在させたMCは、例えば、ナノ構造表面のごく近くで生じる増強電磁場をうまく利用した、表面増強ラマン分光法(SERS)に基づくセンシングに対して有用である。増強の大きさは、特徴及びそれらの集合の幾何学的属性に依存し、隣接するナノ粒子間の分離が減少するにつれて非線形となる。ナノ粒子間の接合部における高電磁場は、「ギャップホットスポット(gap hot-spot)」と称される。そのようなホットスポットの出現の可能性は、ナノ粒子密度と共に増加する。従って、ハイドロゲルベースのマイクロキャリアが大きく膨潤する条件(例えば温度、pH等)において、ハイドロゲルベースのマイクロキャリア上にプラズモンナノ粒子を集合させることは、特に有利であり得る。(環境条件を変えることによって)MCを収縮させることにより、表面に付着したナノ粒子間の平均距離が縮小し、上記のホットスポットの出現を容易にする。
【実施例】
【0029】
図2で示すように、静電相互作用により、DEAE-デキストランMC(Cytodex-1(商標)、Sigma-Aldrich社から購入)を、クエン酸で安定化した金ナノ粒子で機能化した。ミリQ水(18.2MΩcm、Millipore社)を、溶液の調製及びすべてのリンスに使用した。クエン酸ナトリウム(Na
3C
6H
5O
7、Sigma-Aldrich社)を用いた塩化金酸(HAuCl
4、Sigma-Aldrich社)の還元により、クエン酸で安定化した金ナノ粒子(AuNP)をTurkevich法によって調製した。得られたAuNPは、実質的に平均サイズ12nmの球状であった。
【0030】
調製したコロイド懸濁液を4℃で保管し、使用する12時間前に冷蔵庫から取り出した。2mLのエッペンドルフセーフロックチューブ、50mLの円錐底遠心チューブ、シリコンウェハー(Siegert Wafer社)及びガラスウェハー(Menzel(商標)、顕微鏡カバーガラス)を、特徴づけのための容器及び支持体としてそれぞれ使用した。
【0031】
AuNPのサイズを、集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)により測定した。AuNPのFIB-SEM画像を、20kVの加速電圧及び4mmの距離で動作するHelios NanoLab(商標)650顕微鏡を使用して得た。二次電子検出器を使用した。AuNPを、3-アミノプロピルトリメトキシシランで機能化した正に帯電したシリコン表面上に吸着させ、次いでAuNPのサイズを測定した。
【0032】
MCのサイズを、光学顕微鏡により測定した。MCの画像をOlympus社の顕微鏡BX51を使用して得た。2つの対物レンズ(Olympus社; x10、x50)を、焦点を合わせるために使用した。OLYMPUS Stream画像解析ソフトウェアを使用して画像を取得した。
【0033】
図3は、FIB-SEMによって測定したAuNP(左)のサイズ分布及びAuNPを点在させたMC(右)の水中でのサイズ分布を示す。
【0034】
金ナノ粒子の流体力学的サイズ及びゼータ電位を決定するために、動的光散乱(DLS)を使用した。使用した機械は、MALVERN ZETASIZER NANO ZSであった。使い捨てFolded Capillary Zeta Cell(MALVERN社)を、両パラメータの測定のために使用した。AuNP溶液のpHは5.8に相当した。サンプルを以下の通りに調製した:金ナノ粒子の100%及び33%希釈溶液を、(比較のために)2つの異なる使い捨てセルの内部に注入した。金ナノ粒子のゼータ電位を、DLSにより、pH6で-34±10mVに相当すると決定した。ゼータ電位は、そのpH値では負に帯電するキャッピング剤(クエン酸)が原因で負となる。マイクロキャリアはあまりに大きく、それらをDLSによって特徴づけることは出来なかった。しかし、DEAE-デキストランは、そのDEAE基が原因でほぼすべてのpHで正に帯電することが知られている。その結果として、金ナノ粒子はマイクロキャリアの表面を覆うことが予想された。Cytodex-1は、マトリックス全体にわたって陽性基を有する架橋ハイドロゲルである。従って、金ナノ粒子がマイクロキャリアの内側に浸透し、内部表面(ポア)を機能化するかどうかについて疑問が生じる。しかし、以下に詳述するように、外部及び内部構造の特徴づけでは、外側の表面に対する金ナノ粒子の分布のみが明らかにされる。DEAE-デキストランマイクロキャリアは、任意の培地に添加した場合に膨潤する。その結果として、金ナノ粒子との相互作用に利用可能な表面積は、使用する培地によって変化する。
【0035】
1マイクロキャリアあたりの金ナノ粒子の分布及び数をSEMによって調べた。
図4は、様々な濃度の金ナノ粒子で覆い、次いで乾燥させたMCのSEM画像を示す。乾燥プロセス中のMCの収縮は、皺の寄った表面及び高密度なAuNPの詰め込みをもたらす。AuNPの被覆度は、左から右にかけて増加する(2つの倍率で示される)。低濃度から高濃度への移り変わりが容易に観察できる。飽和被覆度においては、マイクロキャリアはナノ粒子で完全に覆われることが分かったが、それより低い粒子被覆度においては、ナノ粒子は、均一ではあるがまばらな被覆を示す。
【0036】
金ナノ粒子がMCのポア内へ浸透するかどうかの疑問について調べるために、AuNPを点在させたMCを懸濁液からペレット化し、次いで80℃の乾燥器中で乾燥させ、ウルトラミクロトームで薄片にし、SEM及びNano-SIMS(ナノスケール二次イオン質量分析)によって特徴づけた。
図4で観察することができるように、乾燥器での乾燥のプロセスはマイクロキャリアの接触面を融合することが分かった。乾燥器内で乾燥した時よりもより良い結果が得られたとしても、マイクロキャリアの完全な分離は実現できなかった。SEMでは、ナノ粒子はマイクロキャリア間の接触面に限定して認めることができ、MC内の内部分布の証拠はなかった(
図5を参照のこと)。ミクロトーム切片上の
197Auの元素分布のNano-SIMS測定により、この結果が裏付けられる。従って、NPに覆われたMCは、膨潤MCの外面上にAuNPが一様に分布した、単純な幾何学的モデルによって表すことができる。
【0037】
図6は、乾燥状態の裸のMC(a)、水中の裸のMC(c)及びAuNPでコーティングされたMCのサイズ分布(d)を示す。水中での、乾燥状態から完全な水和状態への膨潤(直径を単位として+260%)は、乾燥MCをAuNP懸濁液に入れた場合に達成される膨潤(直径を単位として+115%)よりも大きい。AuNP懸濁液中での膨潤の低下は、高イオン強度に起因する静電反発の遮蔽の結果であり得る。
【0038】
RSAを、MC表面上でのAuNPの静電的な集合プロセスのモデルとすると、詰め込み限界に達するのに必要なNPの濃度(1MCあたりのNPにおいて)は、
【0039】
【0040】
として計算することができ、式中、SMC=4πR2(RはMCの半径)はMCの表面積であり、SNP=πr2(rはNPの半径)は金ナノ粒子の専有面積(footprint area)である。r=6nm、R=86μmでは、[NP]ideal=4.5×108である。
【0041】
MCを金ナノ粒子でコーティングするために、懸濁液中のナノ粒子濃度([NP]
ution)を、単層被覆度に相当するナノ粒子濃度([NP]
ideal、[数1])に対して系統的に増加させた。溶液中のナノ粒子の濃度([NP]
ution)を、1マイクロキャリアあたりの利用可能な溶液中のナノ粒子の数として定義し、ナノ粒子の総数を、同じ体積中に存在するマイクロキャリアの総数で割ることによって計算する。懸濁液中のナノ粒子の総数は、溶液中の金の質量の1金ナノ粒子の質量に対する比から見積もることができる。溶液中の金の質量は合成中に使用する金塩のモル濃度から分かり、ここで、そのすべてが金に還元されると仮定している。1金粒子あたりの質量は、NPをサイズ分布のピーク(
図3を参照のこと)に相当する直径を有する球として近似し、金NPの密度がバルクの金と同じであると仮定することによって得られる。単位体積あたりのMCの数は、メーカー仕様書の乾燥質量1グラムあたりのMCの数に由来し、それはCytodex(商標)-1については6.8×10
6 g
-1 であり、乾燥粉末の質量を使用した。
【0042】
裸のMCは水中で透明であり、コーティングされたMCはナノ粒子被覆度に依存する強度を伴った紫色に見えるため(
図7a))、AuNPでコーティングされたCytodex(商標)-1 MCは、全くコーティングされていないCytodex-1から容易に識別される。Auナノ粒子でコーティングされたマイクロキャリアの吸光度スペクトルは、金粒子の局在表面プラズモン共鳴帯のピーク強度における、ナノ粒子被覆度の関数としての系統的な増加を示す(
図7b)及びc))。ピーク強度における増加は、ピーク波長の赤方偏移とも関連づけられる(
図7b)及びc))。両変化は、金粒子の飽和被覆度で定常に達する(
図7c))。ピーク位置での赤方偏移は、隣接する粒子間のプラズモンカップリングに対する予想と一致し、その機会は粒子被覆度と共に増加する。飽和被覆度は、ナノ粒子濃度が3倍以上の[NP]
idealに達すると達成された。マイクロキャリアの紫外可視スペクトルを、TECAN社のInfinite M1000 PROプレートリーダーを使用して獲得し、250~1000nmの範囲において記録した。Greiner社のCELLSTAR(商標)96ウェルプレートをプレートリーダーとして使用した。サンプルを以下の通りに調製した:200μlの各MC懸濁液(C0~C9)をマイクロプレートのウェルに添加した。以下の表は、AuNPでのマイクロキャリアの機能化のために使用する試薬、すなわち、Cytodex-1の質量、AuNP懸濁液の体積(上記で示されるように製造される)及び各回で総体積が2mLになるように添加する水の体積を示す。
【0043】
【0044】
様々な質量の市販のMC粉末を、9個の異なるエッペンドルフチューブ内に直接計量した。次いで、それぞれの体積のAuNP懸濁液及び水を添加した。MCを3時間インキュベートした。インキュベーション後、MCは沈降しており、上清を除去した。次いでMCを、
・水をエッペンドルフチューブに添加し、上下にピペッティングして溶液中のすべてのMCを洗浄する工程、
・1300gで2分間遠心分離する工程、及び
・上清を除去する工程により3回洗浄した。
【0045】
次いで、AuNPでコーティングされたMCを、それらのスペクトルに関して特徴づけた。
【0046】
非弾性散乱特性を、ラマン分光法によって評価した。785nmで動作する高出力近赤外レーザーダイオード及び633nmで動作する可視レーザーダイオードを備えたRenishaw社のinVia(商標)ラマン顕微鏡を使用して、100~4000cm-1の広い範囲においてラマン散乱スペクトルを記録した。スペクトルを取得する前に、光学顕微鏡(Olympus社、対物レンズ、×50L)を使用してレーザー光の焦点を合わせた。レーザー出力は0.9mW(10%)であった。各スペクトルに対して、6回の5秒の累積(accumulations of 5 seconds)を記録した。表面の典型的な特徴づけを確実にするために、同じマイクロキャリアの異なる部位と、異なるマイクロキャリアの両方において複数回の測定を行った。結果を、WiRE(商標)及びOriginLab(商標)ソフトウェアを使用して解析した。取得したスペクトルを平滑化し、正規化した。サンプルを以下の通りに調製した:一部のMCをカーボンタブ上に置いた。
【0047】
AuNPでコーティングされたMC(Cytodex(商標)-1)及びそのコーティングされていないバージョンを用いて、細胞培養試験を実施した。
図8に示すように、細胞の動的成長(cell kinetic growth)を、グルコース及びラクテートの濃度の時間変化(time evolution)を毎日測定することによりモニターした。グルコースは、細胞にとってエネルギーの主要な供給源であり、ラクテートはグルコース代謝の代謝副産物の1つである。従って、グルコース及びラクテートの濃度は、細胞成長及び代謝活性の重要な指標である。細胞培養発酵においては、約50~100%のグルコースが通常ラクテートに変換される。AuNPでコーティングされたCytodex(商標)-1 MC上の細胞は、コーティングされていないCytodex(商標)-1 MC上の細胞と同様にグルコースを消費した。グルコースの消費速度はグルコースが制限された場合に遅くなり、その結果としてラクテートの産生速度は減少した。市販のCytodex(商標)-1とAuNPでコーティングされたCytodex(商標)-1 MCの間で顕著な差は認められなかった。
【0048】
細胞培養の前に、Cytodex(商標)-1 MCは、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)中で膨潤させるべきであり、それらを滅菌するために120℃でオートクレーブすべきである。しかし、金ナノ粒子の付着前に、Cytodex-1 MCをオートクレーブしなかった。AuNPの付着後では、金ナノ粒子とマイクロキャリアとの相互作用に影響する可能性があるため、オートクレーブしたAuNPでコーティングされたCytodex(商標)-1とオートクレーブしていないAuNPでコーティングされたCytodex(商標)-1の両方について細胞培養を実施した。
【0049】
細胞生存率の定量化を蛍光顕微鏡法によって実施した。細胞(ヒト間葉系幹細胞)をカルセインAM及びエチジウムホモダイマー1(EthD-1)分子と混合して、生存細胞(緑色)及び死滅(赤色)細胞をそれぞれ染色した。細胞は、AuNPでコーティングされたCytodex(商標)-1がオートクレーブされなかった場合に、より広範囲にそれらにコロニー形成することが分かった。それゆえ、オートクレーブは、マイクロキャリアに、細胞の接着を阻害する影響を及ぼしている。しかし、AuNPとCytodex(商標)-1 MCの間の相互作用には影響が及ぼされなかったように見えた、すなわちマイクロキャリアはオートクレーブ後も依然として不透明なままであり、そのことはAuNPの存在を裏付けた。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、細胞接着が低下した1つの理由は、金ナノ粒子とクエン酸(金ナノ粒子の安定剤)の間の静電相互作用が高温により切断されたことにあり得るということを示した。負に帯電したクエン酸分子の除去は、マイクロキャリアの表面上の全体的な電荷を変化させることになり、それにより細胞との相互作用に影響が及ぼされる。
【0050】
市販のマイクロキャリア上で培養された細胞が、プラズモンナノ粒子を点在させたマイクロキャリアに遊走するかどうかについて、更に試験した。遊走アッセイは、(オートクレーブしていない)AuNPでコーティングされたCytodex(商標)-1を、裸であるがその他の点では同一であるCytodex(商標)-1マイクロキャリア上での細胞培養に加える工程を含んだ。
【0051】
2mLのCytodex(商標)-1懸濁液(20g/l)及び25mLの細胞培養培地を125mLのエルレンマイヤーフラスコに添加した。MCを、その容器内で、37℃、5%のCO2で1時間保った。細胞は、トリプシン処理によってそれらの容器のフラスコから剥離させ、回収した。それらを、マイクロキャリアを既に含有するエルレンマイヤー内に添加した(0.8×105細胞/ml)。細胞及びMCを細胞培養培地中でインキュベートして細胞をMC上に接着させた。1時間後、マイクロキャリアに係留された細胞を、70RPMで撹拌させた(37℃、5%のCO2)。細胞培養培地のサンプルを毎日抜き出して、グルコース及びグルタミンの消費量並びにラクテート、アンモニウム及び乳酸デヒドロゲナーゼの産生量を測定した。細胞生存率を、蛍光顕微鏡によって評価した。これを行うために、細胞をDAPI、カルセインAM及びエチジウムホモダイマー1(EthD-1)分子と混合して、細胞、生存細胞と死滅細胞、をそれぞれ染色した。
【0052】
4日目に、50%の細胞培養培地を交換した。4日目に、金ナノ粒子でコーティングされたマイクロキャリアをCytodex(商標)-1の培養フラスコに添加した。1時間のインキュベーション後、撹拌を再開した(70 RPM)。蛍光顕微鏡法で、細胞の定量化を毎日行った。細胞をDAPIと混合して細胞を染色した。細胞は新しいキャリアに向かって移動することができ、修飾されたマイクロキャリアの細胞増殖機能をサポートする能力を裏付けた。
【0053】
要約すると、プラズモンナノ粒子でコーティングされたマイクロキャリアの光学特性は、金ナノ粒子の被覆度と相関し、飽和被覆度において強力なプラズモンカップリングを示す。プラズモンNPでコーティングされたMCは、SERS又は他のプラズモンセンシング技術を使用してより小さな有機分子を検出する可能性を開く。プラズモンNPでコーティングされたMCを、それらのコーティングされていない同等物と比較することにより、類似の細胞成長速度論及びヒト間葉系幹細胞の遊走が示され、細胞増殖機能性の保有についての最初の証拠が与えられた。ここで報告するプラズモンマイクロキャリアは、マイクロキャリアと生物学的培地との間の接触面における変化のプラズモンセンシングのため且つ細胞増殖の異なるフェーズにおける生物学的細胞に対する変化のモニタリングのため且つプラズモン加熱作用による細胞のプラズモン遊離を潜在的に可能にするために、今後の道を切り開くものである。
【0054】
本明細書において特定の実施形態を詳細に記載してきたが、それらの詳細に対する種々の修正形態及び代替形態が、本開示の教示全体に照らして開発され得ることが当業者には理解されよう。よって、開示される特定の配置は例示的であることのみを意図しており、添付の特許請求の範囲及びありとあらゆるその等価物のすべてが与えられるべき本発明の範囲に関して限定するものではない。
【符号の説明】
【0055】
10 マイクロキャリアビーズ
12 ビーズ体
14 プラズモンナノ粒子
16 細胞
112 マイクロキャリア
114 金ナノ粒子
【国際調査報告】