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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-31
(54)【発明の名称】原子ナノ位置決め装置
(51)【国際特許分類】
   G01Q 10/02 20100101AFI20221024BHJP
   G12B 5/00 20060101ALI20221024BHJP
   B81B 7/02 20060101ALI20221024BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20221024BHJP
   G01Q 10/04 20100101ALI20221024BHJP
【FI】
G01Q10/02 101
G12B5/00 A
B81B7/02
B81B3/00
G01Q10/04 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511188
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(85)【翻訳文提出日】2022-04-12
(86)【国際出願番号】 CA2020051191
(87)【国際公開番号】W WO2021035366
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】62/893,338
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506175792
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(71)【出願人】
【識別番号】522064856
【氏名又は名称】ザ ガバナーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ アルバータ
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】ウォーコウ ロバート エー.
(72)【発明者】
【氏名】ピッターズ ジェイソン エル.
(72)【発明者】
【氏名】サロモンズ マーク
【テーマコード(参考)】
2F078
3C081
【Fターム(参考)】
2F078CA06
2F078CB14
2F078CC01
3C081AA01
3C081AA13
3C081BA21
3C081BA22
3C081BA41
3C081BA48
3C081BA55
3C081EA18
3C081EA41
(57)【要約】
少なくとも1つのアクチュエータを備える、微細および粗ナノ位置決めのためのナノ位置決めシステムであって、少なくとも1つのアクチュエータが高キュリー温度材料を備え、ナノ位置決めシステムが、少なくとも1つのアクチュエータに電圧をかけて、少なくとも1つのアクチュエータによる微細および/または粗運動を生じさせるように構成されている、システムを提供する。ナノ位置決めシステムは、独立型システム、走査型プローブ顕微鏡、または、粗ステッピングを使用してプローブを基板の第1区域に対して位置決めすること、およびプローブを位置決めした60秒未満後に、微細運動を使用して基板の第1区域と相互作用させることを含む、クリープレスなナノ位置決めの方法を行うように構成された既存の顕微鏡への付属装置である。走査型プローブ顕微鏡の動作は、クリープ、ヒステリシス、およびエージングを制限および/または排除する高キュリー温度圧電材料によって作動させる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのアクチュエータを備える、微細および粗ナノ位置決めのためのナノ位置決めシステムであって、少なくとも1つのアクチュエータが高キュリー温度材料を備え、ナノ位置決めシステムが、少なくとも1つのアクチュエータに電圧をかけて、少なくとも1つのアクチュエータによる微細運動を生じるように構成されている、システム。
【請求項2】
少なくとも1つのアクチュエータに電圧をかけて、少なくとも1つのアクチュエータによる粗運動を生じるようにさらに構成されている、請求項1に記載のナノ位置決めシステム。
【請求項3】
少なくとも1つのアクチュエータが、剪断アクチュエータ、縦方向アクチュエータ、またはバイモルフアクチュエータである、請求項2に記載のナノ位置決めシステム。
【請求項4】
少なくとも1つの第2のアクチュエータをさらに備える、請求項1に記載のナノ位置決めシステムであって、少なくとも1つの第2のアクチュエータが高キュリー温度材料を備え、ナノ位置決めシステムが、少なくとも1つの第2のアクチュエータに電圧をかけて、少なくとも1つの第2のアクチュエータによる微細運動を生じるようにさらに構成されている、システム。
【請求項5】
少なくとも1つの第2のアクチュエータに電圧をかけて、少なくとも1つの第2のアクチュエータによる粗運動を生じるようにさらに構成されている、請求項4に記載のナノ位置決めシステム。
【請求項6】
少なくとも1つの第2のアクチュエータが、バイモルフアクチュエータ、縦方向アクチュエータ、または剪断アクチュエータである、請求項5に記載のナノ位置決めシステム。
【請求項7】
少なくとも1つのアクチュエータがバイモルフアクチュエータまたは剪断アクチュエータであり、少なくとも1つの第2のアクチュエータが剪断アクチュエータまたはクローラの構成要素である、請求項4に記載のナノ位置決めシステム。
【請求項8】
プローブをさらに備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のナノ位置決めシステムであって、少なくとも1つのアクチュエータが、プローブを制御可能に位置決めするように構成されている、システム。
【請求項9】
プローブをさらに備える、請求項4から7のいずれか一項に記載のナノ位置決めシステムであって、少なくとも1つのアクチュエータおよび少なくとも1つの第2のアクチュエータが、プローブを制御可能に位置決めするように構成されている、システム。
【請求項10】
高キュリー温度材料が高キュリー温度強誘電材料である、請求項1から9のいずれか一項に記載のナノ位置決めシステム。
【請求項11】
高キュリー温度材料が、印加電圧の周波数および振幅の関数として、実質的に一貫しており、実質的に無ヒステリシスおよび無クリープである運動を提供する、請求項1から9のいずれか一項に記載のナノ位置決めシステム。
【請求項12】
高キュリー温度材料が、XY運動とは分離されたZ運動を提供する、請求項1から9のいずれか一項に記載のナノ位置決めシステム。
【請求項13】
ナノ位置決め方法であって、
粗運動を使用してプローブを基板の第1区域に対して位置決めすることと、
プローブを位置決めした60秒未満後に、微細運動を使用して基板の第1区域を読取り、書込み、または走査することと
を含み、ナノ位置決めが実質的にクリープレスである方法。
【請求項14】
プローブが走査型プローブ顕微鏡のプローブである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
基板の第1区域の走査型プローブ顕微鏡観察(SPM)画像を記録することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
SPM画像が歪みを実質的に含まない、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
プローブを、微細スキャナの再位置決め技法を使用して位置決めする、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
粗ステッピングを、走査型プローブ顕微鏡の粗モーターを使用して実施する、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
基板の第1区域を読取り、書込み、または走査することによって得られるデータを、データを解釈するように構成されたプロセッサーに伝達することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
基板が水素終端Si(100)表面である、請求項13から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
プローブの動作が、印加電圧で活性化される高キュリー温度圧電材料バイモルフによって作動される、請求項13から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
請求項13から19のいずれか一項に記載の方法を行うように構成されたナノ位置決めシステム。
【請求項23】
既存の走査型プローブ顕微鏡の付属装置であって、前記既存の走査型プローブ顕微鏡が請求項13から19のいずれか一項に記載の方法を行うことを可能にする付属装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、本明細書中に参考として組み込まれている、2019年8月29日に出願の米国仮特許出願第62/893,338号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、ナノ位置決めシステムの分野に向けられており、より詳細には、走査型プローブ顕微鏡観察のための圧電ナノ位置決めシステムを含む、圧電アクチュエータの分野に向けられている。
【背景技術】
【0003】
相補型金属酸化膜半導体(CMOS)技術の小型化がその根本的な限界に近づいていることに伴って、米国特許出願第16/318,262号に開示されているものなどの原子レベルで構築された代替方法が開発されている。1、2、3
【0004】
走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、原子を含むナノスケールの表面および構造の画像を作成するために使用される一群のツールである。これらは、物理的プローブを使用して試料の表面上を往復して走査する。この走査プロセス中、コンピュータがデータを集め、これを使用して表面の画像が生成される。数種のSPMが存在する。一部の例としては、原子間力顕微鏡、磁気力顕微鏡、および走査型トンネル顕微鏡が挙げられる。原子間力顕微鏡(AFM)はカンチレバーの先端と試料との間の力を測定する。磁気力顕微鏡(MFM)は磁気力を測定する。走査型トンネル顕微鏡(STM)は先端と試料との間に流れるトンネル電流を測定する。
【0005】
SPMは、原子1個ほどと鋭い場合があるプローブ先端を有する。先端は、表面を横切って、原子1個ずつまでさえ精密かつ正確に、往復して動く。先端が試料表面付近にある場合、SPMは、トンネル電流、静電力、磁気力、化学結合、ファンデルワールス力、および毛管力を含む様々な種類の効果によって引き起こされる先端-表面相互作用を測定することができる。SPMは、ナノメートルの小数点以下、概ね原子1個の直径である高さの差異を検出することができる。コンピュータがデータを組み合わせて画像を作成する。
【0006】
ナノスケール構造を可視化することに加えて、SPMは、個々の原子および分子を操作し、これらを動かして具体的なパターンを作るために使用する。
【0007】
走査型プローブ顕微鏡観察(SPM)により、Cu(III)表面上のFe原子を使用したスピンに基づく論理、ケイ素中のリンドーパントを使用した単一原子トランジスター、ならびに水素終端ケイ素(H-Si)上のダングリングボンド(DB)を使用したバイナリ原子ワイヤーおよび論理ゲートを含めた、いくつかの異なる種類の原子スケールの装置の製作の手段が提供されている。H-Si表面上の水素脱離が、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)技術を越える、次世代の究極的に小型化された低電力ナノエレクトロニクス装置のためのDBに基づく回路の作製を可能にする。
【0008】
水素終端ケイ素表面は、原子回路および原子スケールでのバイナリデータ貯蔵の有望なプラットフォームである。これは、とりわけ、その不活性性、熱安定性、非常に低い欠陥密度、および特にその表面ダングリングボンドのユニークな特性が理由である。絶縁されたダングリングボンドの根本的特性は大規模に研究されている。これらは、ホスト基板から電子的に絶縁されており、電荷を持つことができ、したがって原子量子ドットとして働くことが示されている。これらは、精密に配置および消去する、すなわち0または1の状態となることができる。量子-セルラー-オートマトンセル、バイナリ伝送線、およびバイナリ計算ゲートなどの様々な機能要素を、ダングリングボンドを互いに近くに配置することによって作製することができる。H-Si表面上のダングリングボンドは書き換え可能11、12、13かつ室温で安定14、15であることが示されており、それにより、これらは原子スケールの装置の優れた候補となる。
【0009】
H-Si表面は、秩序多分子線の自己決定的成長16、17および反応エネルギー論18を含めた、表面化学の研究において応用が見つかっている。走査型トンネル顕微鏡(STM)のプローブ先端を使用した、H-Si(100)-2×1表面からの水素の制御可能な脱離19により、表面化学のより精密な研究20および初歩的装置の製作21、22が可能となった。H-Si表面上のDBの継続的な研究に伴って、より複雑かつ実現可能な装置が開発されている。
【0010】
原則的に、この技術の能力により、現在主要であるCMOS技術よりも小型、効率的、高速、かつ安価な電子機器が提供される。これらおよび他の装置の概念の設計における進歩にもかかわらず7、8、9、10、実用的な実装は既存のSPMおよびスキャナの制限が原因で制限されている。
【0011】
SPMの現在のスキャナは、スキャナが再位置決めされる際、または走査操作中にスキャナを速く動かしすぎた場合にクリープを経験する傾向にある。クリープとは、電界駆動の強誘電性ポーリングプロセスのバリアントである。すべてのスキャナは、スキャナをキュリー温度より高く加熱しながら電界をかけることによってポーリングする。電界はスキャナ材料が冷めるまで維持し、それにより、かかる電界がゼロの場合でもレムナント分極が閉じ込められる。しかし、キュリー温度をはるかに下回る場合でさえも、スキャナを作動させることである程度の望ましくない再ポーリングが引き起こされ、クリープとして知られる非線形の挙動がもたらされる。クリープは、毎回新しい走査区域が選択される際に、最も明白かつ最も厄介である。これは、SPMの微細スキャナを再位置決めすることによって新しい区域に到達したか、SPMの粗X、Y(慣性)モーターの使用を通じてまたは粗モーターおよび/もしくは微細スキャナを用いた試料への初期Zアプローチ中に新しい位置が選択されたかにかかわらず、当てはまる。
【0012】
プローブを新しい領域に移動させた際、クリープは数分間にも及ぶドリフト効果を引き起こす場合があり、これは、走査画像が歪み、次に続く走査がZに歪みを有する実質的にシフトされた区域のものとなることを引き起こす。ルーチン的な走査では、この漸近的動作を許容できるほど最小化するためには、典型的には数分間の遅延が必要である。ピコメートルレベルの正確性を要する最も精密な測定では、測定を開始することができる前に数時間程度のスキャナの休止期間が必要である。また、クリープは、ゆっくりとした走査方向に大きな変化が起こる際、たとえば連続した画像の走査を再起動する際にも現れる場合がある。また、クリープは、プローブが表面に近づいた後にも明白であり、これは、Z範囲が通常はその最大まで伸長されているためである。これには、Z方向のクリープを排除するために相当な時間を必要とする。
【0013】
閉ループスキャナはクリープを補正することができるが、これらは複雑であり、スキャナアセンブリに対する追加の不動産を必要とする。さらに、閉ループスキャナは高価であり、多くの場合、最高レベルの正確性が必要な場合は走査速度の低下を要する。また、ループスキャナは、そのフィードバック回路および操作が原因で、より低い位置決め解像度を生じる場合もある。4Kで作業することによってクリープを大きく低下させ得るが、ほとんどの応用では、極低温操作の追加費用が全く非実用的である。4Kで作業する以外選択肢がない、最も要求の高い事例では、クリープが原因である測定の制限が残る。クリープはSPMにおいて不可避なものとして受け入れられるようになっており、この技法の正確性、効率、および応用性を制限している。
【0014】
クリープはまた、スティックスリップモードで剪断圧電を用いた粗位置決めにおいても存在する。すなわち、慣性アクチュエータによる剪断圧電スティックスリップ運動においては、クリープはスティックスリップ運動の後に起こる場合がある。クリープはまた、剪断プレートモーターの微細位置決めにおいても起こる場合があり、これは上述のように走査によって引き起こされるクリープに似ている。これらの状況においては、クリープの補正には閉ループが必要であり、閉ループシステムに伴う通常の問題が適用される(上述)。これらの状況において示されるクリープの量は測定する運動の種類と比較して小さいとはいえ、それでもクリープは存在する。しかし、既存の文献中において、クリープ効果はほとんど無視されている(圧電アクチュエータ(PA)は高周波数で圧電性慣性摩擦アクチュエータ(PIFA)システムにおいて作業し、クリープ効果が小さいため。低い解像度を有する、ミクロンスケールのヒステリシスおよび静電容量位置センサー研究などの操作では、クリープの効果は無視される。しかし、クリープは例外なく起こり、スケールの問題として、原子スケール製造などの高解像度の応用では無視することができない。
【0015】
さらに、圧電アクチュエータは「エージング」を示し、その動作温度に関して制限される。エージングはデポーリングに関連する。さらに、一部の圧電材料(PZT)の変位は、クリープおよびヒステリシスが原因で周波数依存性である。したがって、単一のステップの変位は、ランプ速度および三角波の振幅に応じて変動する場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、微細スキャナの再位置決め後および粗モーターを使用した再位置決め後の両方で、三軸すべてにおいてクリープ効果を排除し、それにより、より高速かつより明瞭な走査を商業的に実現可能な様式で提供する、SPMのためのシステムおよび方法の必要性が存在する。さらに、デポーリングの結果としてエージングを示さず、ヒステリシスが制限されており、問題なしに高温走査に耐えることができる、圧電アクチュエータの必要性が存在する。無クリープ運動はまた、光リソグラフィー、光学ミラーの位置決め、SEMイメージング、およびセンシングなどの、高解像度の位置決めを要する他の応用においても望ましい。
【0017】
さらに、チューブスキャナを利用する場合、XYを走査する際のチューブの曲げ運動が原因で画像にバレル歪曲が観察される場合があり、これは測定されたZに影響を与える。このバレル効果を緩和させるために、チューブスキャナは通常、スキャナ限界の小範囲内で走査させる。
【0018】
したがって、XYをその限界を通して走査する一方でZの効果を制限する、ナノ位置決めシステムを作製する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、少なくとも1つのアクチュエータを備える、微細および粗ナノ位置決めのためのナノ位置決めシステムであって、少なくとも1つのアクチュエータが高キュリー温度材料を備え、ナノ位置決めシステムが、少なくとも1つのアクチュエータに電圧をかけて、少なくとも1つのアクチュエータによる微細および/または粗運動を生じさせるように構成されている、システムを提供する。ナノ位置決めシステムは、独立型システム、走査型プローブ顕微鏡、または、粗ステッピングを使用してプローブを基板の第1区域に対して位置決めすること、およびプローブを位置決めした60秒未満後に、微細走査を使用して基板の第1区域と相互作用させることを含む、クリープレスなナノ位置決めの方法を行うように構成された既存の顕微鏡への付属装置である。走査型プローブ顕微鏡の動作は、印加電圧で活性化させる高キュリー温度圧電性バイモルフによって作動させる。走査型プローブ顕微鏡の運動は印加電圧に二次的なものである。あるいは、走査型プローブ顕微鏡の動作は、クリープ、ヒステリシス、およびエージングを制限および/または排除する高キュリー温度圧電材料によって作動させる。本発明は、スティックスリップ作動による粗運動および剪断圧電を用いた微細運動をどちらも含む。微細走査および粗運動はまた、バイモルフの非固定末端で方向性運動を課すために圧電が印加電圧に伴って曲がるバイモルフ実装を用いて作動させることもできる。クローラ実装は、3つ以上の方向性アクチュエータのそれぞれを1つずつ順々に前進させることによって、モーターを連続的かつ機械または電気ショックなしに前進させる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、金属プレートによって隔てられた複数のニオブ酸リチウム剪断圧電結晶を備える、本開示の実施形態によるナノ位置決めシステムのアクチュエータを示す図である。
図2図2は、本開示の実施形態によるナノ位置決めシステムの静止段階を示す図であり、静止ステージは、電圧をかけるために1つの電極によって接続された3つのアクチュエータおよび電極上に配置された、図3の移動ステージのV溝およびプレートに載せるセラミックボールを備え、静止ステージはまた、図3の移動ステージを静止ステージに磁石によって留めるために、2つのディスク磁石がそれ内に埋め込まれている。
図3図3は、本開示の実施形態によるナノ位置決めシステムの移動ステージを示す図であり、移動ステージは、図2の3つのセラミックボールを載せるV溝およびフラットプレートを備え、一軸の運動を可能にする。
図4図4は、本開示の実施形態によるナノ位置決めシステムのアセンブルムーバーを示す斜視図である。
図5A-5B】図5Aおよび5Bは、慣用スキャナを使用したケイ素100表面の室温走査型トンネル顕微鏡画像を示す図であり、図5Aは第1の位置での表面の走査画像を示し、図5Bはスキャナの80nmの横方向動作の後の表面の走査画像を示す。図5Bは、図5Aと比較した列特長の曲線的外見から明らかなように、相当なクリープを示す。
図5C-5D】図5Cおよび5Dは、本開示の実施形態によるスキャナを使用したケイ素100表面の室温走査型トンネル顕微鏡画像を示す図であり、図5Cは第1の位置での表面の走査画像を示し、図5Dはスキャナの80nmの横方向動作の後の表面の走査画像を示す。図5Dでは、列は曲線ではなく直線に見え、さらに、列の傾斜は再位置決め前に撮られた図5Cと同じである。
図6図6は、慣用スキャナ(曲線)および本開示の実施形態による無クリープスキャナ(直線)について、クリープ速度対時間を示すグラフであり、慣用スキャナの線は、慣用スキャナが、制御シグナルが一定であるにもかかわらず動き続けて(クリープ)、プローブの再位置決めの後に得られた図5Bの走査画像の重度の反り、および走査が進行するにつれて走査した区域の望ましくないシフトをもたらすことを示す一方で、本開示の実施形態による無クリープスキャナの線は、プローブが指示通りに動き、クリープが行われず、画像がプローブの再位置決めの直後に記録されることを可能にし、図5Dに示すように正確な有用な走査を即座に与えることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
【0022】
本明細書中で使用する「高キュリー温度圧電材料」とは、600℃を超えるキュリー温度を有する圧電材料をいう。高キュリー温度圧電材料の例としては、それだけには限定されないが、ニオブ酸リチウム、リチウムタンタライト、PbTiNb、PbZrNb、およびCaBi2Nbが挙げられる。
【0023】
本明細書中で使用する用語「微細運動」とは、圧電アクチュエータに対して静止しているステージなどの物体と接触している、圧電アクチュエータの動作または変位をいい、圧電アクチュエータと静止物体との間の接触点は固定されており、圧電アクチュエータが動くにつれて変化しない。
【0024】
本明細書中で使用する「粗運動」とは、圧電アクチュエータに対して静止しているステージなどの物体と接触している、圧電アクチュエータの動作をいい、圧電アクチュエータと静止物体との間の接触点は圧電アクチュエータの動作に伴って変化する、すなわち接触点は固定されていない。静止物体に対する圧電アクチュエータの動作は別個のステップで起こり、圧電アクチュエータと静止物体との間の接触点は圧電アクチュエータが動くにつれて変化する。
【0025】
本明細書中で使用する用語「実質的に」とは、完全またはほぼ完全な程度または度合の目的の特徴または特性を示す、定性的状態をいう。たとえば、特徴または特性を実質的に含まないとは、特徴または特性が、完全に非存在であること、または、意図する性能もしくは特性に対して影響を与えないもしくはわずかな影響しか与えないかのどちらかの、十分に低い度合で存在することの、いずれかであることを意味する。
【0026】
本明細書中で使用する用語「クリープレス」および「無ヒステリシス」の走査または位置決めとは、クリープまたはヒステリシスを実質的に欠く走査または位置決めをいう。
【0027】
説明
【0028】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡観察(SPM)のためのシステムおよび方法として、ならびに、微細スキャナの再位置決め後および粗モーターを使用した再位置決め後の両方で、三軸すべてにおいてクリープ効果を実質的に排除し、ヒステリシスおよびエージングを制限し、それにより、より高速かつより明瞭な走査を商業的に実現可能な様式で提供するナノ位置決めシステムとして、有用性を有する。また、標準の圧電材料を使用しては達成可能でない、周波数および電圧の関数として一貫したステップを提供することによって、クリープ、ヒステリシス、およびエージングが制限されるため、粗モーター位置決めも、より再現性を高くすることができる23
【0029】
結晶性ケイ素は四価であり、ダイアモンド型結晶格子を形成する。それぞれのケイ素原子は4つの結合、すなわち原子の上に2つ、原子の下に2つの結合を共有する。表面では、これらの結合のうちの2つは不飽和であるため、結晶は、より低エネルギーの立体配置へと再編成される。アニーリングプロセス中の、ケイ素表面への水素原子の付加は、3つの可能な相のうちの1つの形成をもたらす。これらの相を形成する可能性は、試料を調製するアニーリング温度によって制御することができる。2×1相はおよそ300~350℃で形成され、3×1相はおよそ100~150℃で形成され、1×1相は約20℃未満で形成される33、14、34。DBパターン形成のために最も定期的に使用されているものは、それぞれの表面原子が隣接する表面原子と対合して二量体対を作製する、2×1相の再構築である。二量体対は、表面を横切って互いに平行に走る列で形成される。表面のそれぞれのケイ素原子には単一の不飽和結合が残り、これは、真空空間へと伸び、水素で終わらせるか、空けたままにしてダングリングボンドを作製するかのどちらかであることができる。H-Si(100)-2×1相の調製は十分理解されているが、完璧にきれいな欠陥のない表面を作製することは、多くの場合は困難である。これらの欠陥およびきれいなH-Si(100)は、STMを使用してイメージングすることができる。
【0030】
本開示の実施形態は、微細スキャナの再位置決め後および粗モーターを使用した再位置決め後の両方で、三軸すべてにおいてクリープ効果を実質的に排除する、走査型プローブ顕微鏡観察(SPM)の応用のための、ナノ位置決めシステムまたはスキャナを提供する。SPMシステム、ナノ位置決めシステム、および本開示の方法は、位置の変更と歪みのない新しい区域での走査の開始との間の遅延時間を除去することによって、SPMおよび位置決めをはるかにより効率的にする。実施形態によれば、本開示は、走査型プローブ顕微鏡のプローブを基板の第1区域に対して位置決めすること、およびプローブを位置決めした60秒未満後に、基板の第1区域を走査することを含む、クリープレス走査型プローブ顕微鏡観察(SPM)またはナノ位置決めの方法を提供する。本開示の走査または位置決めのシステムおよび方法はクリープレスであるため、走査、読取り、または書込みは、慣用システムの長い遅延時間および再ポーリング時間と比較して、プローブの位置決めまたは再位置決めの後即座に開始することができる。
【0031】
実施形態によれば、クリープレスSPMのシステムおよび方法またはナノ位置決めシステムは、走査した基板の画像をSPMで記録することさらに含む。記録された画像では、図5Bに示されるものなどの画像の反りまたは歪みは排除され、データ収集の間またはその後に補正アルゴリズムを適用する必要はない。
【0032】
本発明の実施形態は、慣用の閉ループシステムよりも単純(したがってよりコンパクト)であり、より安価であり、より失敗しにくい。さらに、閉ループを排除することで、位置決めノイズが下がり、高速AFMにおける走査速度が増加する。本開示の実施形態によれば、スキャナ/位置決め器は、既存のSPMの基礎構造内にプラグアンドプレイモジュールとして容易に組み込まれる付属装置であり、高価な開発の必要性を減らし、幅広い採用を容易にする。
【0033】
ポーリングプロセス中に起こる微視的な変化を調査することによって、本開示のシステムおよび方法は、通常走査中の望ましくないポーリングの有効な排除を提供して、ほぼ完璧なスキャナを作製する。実施形態は、エラーが大きく減る一方で時間も節約した、イメージングおよび製作を可能にする、原子線スキャナまたはナノ位置決め器を提供する。
【0034】
クリープレス走査/位置決めシステムの実施形態は、微細運動スキャナおよび/またはスティックスリップ翻訳装置としても知られる慣性翻訳装置を含む。実施形態によれば、システムのモーターおよび/または他の構成要素は高キュリー温度強誘電材料から形成されており、したがってクリープおよびヒステリシスを実質的に含まない。特定の実施形態によれば、通常の微細運動スキャナおよびスティックスリップ型の翻訳装置に加えて、システムは、3つ以上の方向性アクチュエータのそれぞれを1つずつ順々に前進させることによってモーターを連続的かつ機械的または電気的ショックなしに前進させるクローラも備える。クローラは、ピコメートル増分の非常に微細な動作を行うことができる。スティックスリップ翻訳装置としても知られる慣性翻訳装置とは対照的に、クローラは連続的な運動装置または非スティックスリップ装置とみなし得る。実施形態によれば、クローラも高キュリー温度強誘電材料から作製される。クローラは、慣用の慣性翻訳器の振動する衝撃性の作用なしに、かつ付随する制御電圧の大きく高速な揺れなしに非常に滑らかに動くという、追加の利点を提供する。いかなる慣性翻訳器に関連するそのような機械的および電気的な混乱も、敏感な機器およびそれらを用いて行われた測定に対して、有害なノイズの多い効果を与える。クローラは、そのノイズおよび混乱を有効に減らす。滑らかに、連続的に、かつステップ毎ではなく動くために、クローラは、より複雑な制御シグナルおよびより微細な機械耐性を要する。たとえば、クローラのアクチュエータは長さが滑らかに縮み、それ以降、すべてのアクチュエータ同等かつ同時に伸長してサンプル動作を達成する。完全に伸長している場合、プロセスが繰り返され、それぞれのアクチュエータが順々に縮んで、そのアクチュエータの接触点を再位置決めするために、アクチュエータとそれが駆動するサンプル/移動ステージとの間に滑りを引き起こす。他のアクチュエータ間のより大きな摩擦が原因で、駆動される移動ステージは静止したままである。プロセスは、それぞれのアクチュエータが新しい接触点を得て、移動ステージの動作を可能にするまで繰り返される。それぞれのアクチュエータのシーケンスは、慣用の慣性翻訳器の振動または衝撃のない滑らかな運動を提供するために時間配分することができる。
【0035】
実施形態によれば、本発明はまた、バイモルフ概念に基づく長距離微細スキャナを提供する。バイモルフとは、2層の圧電材料を一緒に結合することによって形成されたサンドイッチ型のアクチュエータであり、多くの場合は2つの圧電層の間に配置された支持層を有する。バイモルフは、2つの圧電材料が一緒に結合されており、電圧をかけた際の電界下では一方の圧電層が伸長を生じる間に他方の圧電層が収縮を生じるため、曲げ変形を引き起こす。曲げ動作は、バイモルフ中の圧電材料の伸長/収縮に対して角度があり、どちらの圧電材料の直線的な長さの変化よりもはるかに大きい。運動は、電圧にほぼ二次的なものである。実施形態によれば、ニオブ酸リチウムなどの高キュリー温度圧電材料のバイモルフは、所望の無クリープ運動を達成する。実施形態によれば、本発明は、2つ以上の高キュリー温度圧電材料バイモルフの2D走査アセンブリを提供する。実施形態によれば、3D走査アセンブリは、X、Y、およびZ方向の走査を可能にする3つ(以上)のバイモルフの組合せを含む。これらの2Dおよび3Dのスキャナは、優れた無クリープ特徴を有する。これらの2Dおよび3Dスキャナはまた、単純な直線または剪断アクチュエータと比較して、比較的大きな走査範囲を達成する。実施形態によれば、範囲はXおよびYでは約100ミクロンであり、Zでは1~10倍少ない。実施形態では、範囲はXおよびYで250ミクロンまでである。
【0036】
実施形態では、ジルコン酸鉛などの通常適用される材料よりもはるかに高いキュリー温度を有する強誘電材料を使用する。慣用スキャナの材料は、典型的には200~350℃のキュリー温度を有する。対照的に、本発明において利用する高キュリー温度圧電材料は600℃を超えるキュリー温度を有する。一実施形態では、高キュリー温度材料は約1200℃のキュリー温度を有する。高キュリー温度材料は強誘電材料であり得る。当業者には、ニオブ酸リチウム、リチウムタンタライト、PbTiNb、PbZrNb、およびCaBi2Nbなどの高キュリー温度圧電材料が同様のクリープレス挙動を提供できることが理解されよう。
【0037】
実施形態によれば、本発明はまた、微細および粗位置決め(運動)の両方を提供するように構成されたナノ位置決めシステム10も提供する。一実施形態では、ナノ位置決めシステムは少なくとも1つのアクチュエータ12を備え、少なくとも1つのアクチュエータは高キュリー温度材料を備え、ナノ位置決めシステムは、少なくとも1つのアクチュエータに電圧をかけて、少なくとも1つのアクチュエータによる微細運動を生じるように構成されている。実施形態では、ナノ位置決めシステムは、少なくとも1つのアクチュエータに電圧をかけて、少なくとも1つのアクチュエータによる粗運動を生じるようにさらに構成されている。たとえば、剪断アクチュエータは、剪断モードで操作して微細運動をもたらす、またはスリップスティックモードで操作して粗運動をもたらし得る。どのように電圧をかけるか次第で微細運動または粗運動をもたらすように操作することができる他のアクチュエータとしては、バイモルフアクチュエータおよび縦方向アクチュエータが挙げられる。たとえば、電圧を変える/かける速度および電圧曲線の形状(たとえば三角波またはのこぎり波)を変動させることができ、それにより、操作モードを粗から微細へと変更することができる。
【0038】
図1は、金属プレート16によって隔てられた複数のニオブ酸リチウム剪断圧電結晶14を備える、本開示の実施形態によるナノ位置決めシステム10のアクチュエータ12を示す。図2は、ナノ位置決めシステム10の静止ステージ18を示し、静止ステージは、電圧をかけるために1つの電極20によって接続された3つのアクチュエータ12および電極20上に配置された、図3の移動ステージ28のV溝24およびプレート26に載せるセラミックボール22を備える。静止ステージ18はまた、図3の移動ステージ28を静止ステージ18に磁石によって留めるために、2つのディスク磁石30がそれ内に埋め込まれている。移動ステージ28を図3に示し、移動ステージ28は、図2の3つのセラミックボール22を載せるV溝24およびフラットプレート26を備え、一軸、たとえばx軸の運動を可能にする。図4は、ナノ位置決めシステム10のアセンブル二軸ムーバーの斜視図を示す。図4のアセンブルムーバーでは、x軸アクチュエータは静止(中)ステージ18の横に配置され、y軸アクチュエータは静止(中)ステージ18の反対側に配置される。上および下ステージは2つの移動ステージ28、28’である。ムーバーの最下ステージ28’は静止物体にボルト止めされているため、中ステージ18および上ステージ28がムーバーのxおよびy運動となる。
【0039】
他の実施形態では、ナノ位置決めシステムは、上述のように微細運動のための少なくとも1つのアクチュエータ、および粗運動のための少なくとも1つの第2のアクチュエータを備え、少なくとも1つの第2のアクチュエータは高キュリー温度材料を備え、ナノ位置決めシステムは、少なくとも1つの第2のアクチュエータに電圧をかけて、少なくとも1つの第2のアクチュエータによる粗ステッピングを生じるように構成されている。実施形態では、少なくとも1つのアクチュエータは、バイモルフアクチュエータ、剪断アクチュエータ、または縦方向アクチュエータである。実施形態では、少なくとも1つの第2のアクチュエータは、バイモルフ、剪断、または縦方向アクチュエータである。これらの種類のアクチュエータの基本設計および操作は、当業者には理解されよう。ナノ位置決めシステムは、微細運動もしくは微細および粗運動の両方が可能な単一のアクチュエータを備え得る、または、ナノ位置決め装置は、微細運動もしくは微細および粗運動の両方が可能な複数のアクチュエータを備え得る。たとえば、ナノ位置決めシステムは、微細運動または微細および粗運動の両方が可能な2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20個、またはそれより多くのアクチュエータを備え得る。同様に、微細または微細および粗運動の両方が可能なアクチュエータ(複数可)に加えて、ナノ位置決め装置は、粗運動が可能な単一のアクチュエータを備え得る、または粗運動が可能な複数のアクチュエータを備え得る。たとえば、ナノ位置決め装置は、粗運動が可能な2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20個、またはそれより多くのアクチュエータを備え得る。粗運動が可能なアクチュエータは、本明細書中で粗モーターと呼ぶ。アクチュエータの数は、ナノ位置決めシステムの所望の動作軸および機械的設計に応じて、当業者によって選択され得る。一実施形態では、走査型プローブ顕微鏡観察のためのナノ位置決め装置は、軸ごとに静止ステージに取り付けられた3つのアクチュエータを備える。それぞれのアクチュエータは、結晶のそれぞれの面に電圧をかけるための、金属プレートによって隔てられた薄い剪断ニオブ酸リチウム圧電結晶を積み重ねた物である。金属プレートを通した交流電圧が、結晶を通した場をかけて、剪断作用を生じることを可能にする。結晶は、印加電圧場で剪断作用を生じるために正しい結晶学的配向を必要とし、これは、結晶がどのようにニオブ酸リチウムのバルク単結晶から切り取られたかの関数である。それぞれのアクチュエータの上には、2つのアクチュエータのためのV溝に載せられたセラミックボール、および第3のアクチュエータのためのフラットプレート上に載せられたセラミックボールが存在する。V溝およびプレートは可動ステージ内に取り付けられている。これにより一軸の運動が可能となる。3つすべてのアクチュエータに対する印加場の素早い低下(10ns)は、3つすべてのアクチュエータに関して可動ステージが少量(数nm~μm)スリップすることを引き起こし、これが1つの粗ステップを構成する。3つのアクチュエータの場をゆっくりと変えた場合(マイクロ秒間)、セラミックボールはV溝およびプレート中のその場所を保持し、可動ステージは、場に正比例して往復走査することができる。これが微細運動を構成する。別のアクチュエータの組が静止ステージの背面に取り付けられており、可動ステージ上に第1の組に対して直角に取り付けられたV溝およびプレートに作用する。これにより、3つのアクチュエータの第2の組を作動させた際に、第1の組に直交する運動が引き起こされる。これはxおよびy運動として理解することができる。
【0040】
本開示のナノ位置決めシステムは、クリープまたはヒステリシスが皆無またはそれに近い微細および粗ナノ位置決めが所望される、走査型プローブ顕微鏡観察の分野以外に応用が見つかり得る。たとえば、SEM、TEMのための位置決めステージ、半導体リソグラフィーならびに微細ミラーおよび光学ステージ運動のためのアラインメントステージである。
【0041】
以下の実施例は、本発明の具体的な非限定的な例である。実施例中に提供する具体的な詳細は、添付の特許請求の範囲の範囲を制限するとみなされるべきでない。
【実施例
【0042】
室温走査型トンネル顕微鏡は、それぞれの種類のスキャナのクリープ速度を測定および比較するために、慣用スキャナおよび本開示の実施形態によるスキャナの両方が備えられている。ケイ素(100)試料を比較走査のために使用する。ケイ素(100)表面上に自然に存在する列が、好都合な視覚ガイドを提供する。列は直線として現れるはずである。検出可能なクリープ運動を排除するために十分長い時間の間、先端を静止したまま放置した後、慣用スキャナおよび本開示のスキャナを使用して画像を記録する。慣用スキャナによって生成された画像を図5Aに示し、本開示のスキャナを使用して生成された画像を図5Cに示す。
【0043】
その後、先端を横方向に80nm再位置決めし、新しい走査を即座に開始する。操作者関連のタイミングの変動を排除するために、移動および新しい走査の開始はプログラム制御下で行う。図5Bは、再位置決め後に慣用スキャナによって記録された画像を示す。図5Dは、再位置決め後に本開示のスキャナによって記録された画像を示す。図5Bに示すように、再位置決め後に慣用スキャナによって記録された画像は、画像にクリープが原因の歪みまたは湾曲を含む。さらに、再位置決め前(図5A)および再位置決め後(図5B)に慣用スキャナによって記録された画像の比較は、列の傾斜の相違を示し、これは、クリープがまだ完全に減退していないことを示す。図5Dに示すように、再位置決め後に本開示のスキャナを用いて記録された走査画像の列は曲線ではなく直線に見え、さらに、列の傾斜は再位置決めの前および後に撮った画像において同じである。画像は約1~30分間収集した。
【0044】
本実施例では、STM画像は、原子スケール特長を除去し、それによってクリープが原因のものの列構造および歪みを強調するために、フーリエフィルターに供した。
【0045】
図6に示すように、慣用スキャナ(図6の曲線)は、制御シグナルが一定であるにもかかわらず動き続けて(クリープ)、プローブの再位置決めの後に得られた図5Bの走査画像の重度の反り、および走査が進行するにつれて走査した区域の望ましくないシフトをもたらす。図6は、慣用スキャナのクリープ速度が無視できるようになるまで100秒間以上が経過することを実証している。対照的に、本開示のスキャナ(図6の下の線)は、その新しい位置に即座にロックし、指示通りに動き、クリープが行われず、画像がプローブの再位置決めの直後に記録されることを可能にし、図5Dに示すように正確な有用な走査を即座に与える。
【0046】
本明細書中で引用する参考文献および特許文書は、それぞれの参考文献が個々にかつ明確に参考として組み込まれている場合と同じ程度に、参考として組み込まれている。
【0047】
当業者には、前出の詳細な説明ならびに図および特許請求の範囲から理解されるように、以下の特許請求の範囲中で定義した本発明の範囲から逸脱せずに、本発明の好ましい実施形態に改変および変更を行うことができる。
【0048】
参考文献































【0049】
[符号の説明]
10 ナノ位置決めシステム
12 アクチュエータ
14 ニオブ酸リチウム剪断圧電結晶
16 金属プレート
18 静止ステージ
20 電極
22 セラミックボール
24 V溝
26 フラットプレート
28 移動ステージ
28’ 移動ステージ
30 ディスク磁石
100 ケイ素


図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】