(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-31
(54)【発明の名称】循環ヌクレオソームを単離する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20221024BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221024BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20221024BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20221024BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20221024BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20221024BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20221024BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALN20221024BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALN20221024BHJP
【FI】
C12N5/071
G01N33/53 D
G01N33/50 P
G01N27/62 V
C12N15/10 100Z
C12Q1/6806 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6813 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513263
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(85)【翻訳文提出日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2020074026
(87)【国際公開番号】W WO2021038010
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2020-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517151969
【氏名又は名称】ベルジアン ボリション エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】マーク エドワード エクルストン
(72)【発明者】
【氏名】ジャコブ ビンセント ミカレフ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041FA10
2G041FA11
2G041FA12
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA13
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
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4B065AA90X
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4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、生体液試料由来のリンカーDNAを含む循環無細胞ヌクレオソーム、特に、疾患起源のヌクレオソームを分離するための方法に関する。そのような方法は、疾患起源のヌクレオソームに関連する遺伝子マーカー及びエピジェネティックマーカーの改良された分析を可能にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体液試料由来のリンカーDNAを含む循環無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を:
(a)ヌクレオソーム関連リンカーDNA;
(b)リンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質;又は
(c)リンカーDNAに関連するコアヌクレオソームの特徴
に結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
生体液試料由来のリンカーDNAを含まない循環無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を:
(a)ヌクレオソーム関連リンカーDNA;
(b)リンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質;又は
(c)リンカーDNAに関連するコアヌクレオソームの特徴
に結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法。
【請求項3】
前記ヌクレオソーム関連リンカーDNAに結合する結合剤が、ヒストンH1、macroH2A又はそれらの断片もしくは操作された類似物から選択されるヒストンタンパク質である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヌクレオソーム関連リンカーDNAに結合する結合剤が、クロマチン結合タンパク質又はその断片もしくは操作された類似物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
リンカーDNAに結合する前記クロマチン結合タンパク質が:
(a)クロモドメインヘリカーゼDNA結合(CHD)タンパク質;
(b)DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ(DNMT)タンパク質;
(c)高移動度群ボックスタンパク質(HMGB)タンパク質;
(d)ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ(PARP)タンパク質;又は
(e)メチル-CpG-結合ドメイン(MBD)タンパク質、例えば、MBD1、MBD2、MBD3、MBD4、もしくはメチルCpG結合タンパク質2(MECP2))など
から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
リンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質に結合する前記結合剤が、抗体、アフィマー、又はアプタマーから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
リンカーDNAに結合する前記クロマチン結合タンパク質が:
a)クロモドメインヘリカーゼDNA結合(CHD)タンパク質;
(b)DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ(DNMT)タンパク質;
(c)高移動度群ボックスタンパク質(HMGB)タンパク質;
(d)ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ(PARP)タンパク質;又は
(e)メチル-CpG-結合ドメイン(MBD)タンパク質、例えば、MBD1、MBD2、MBD3、MBD4、もしくはメチルCpG結合タンパク質2(MECP2))など
から選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記リンカーDNAに関連するコアヌクレオソームの特徴が、ヒストンバリアントmacroH2Aである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
(iii)前記工程(ii)の単離された無細胞ヌクレオソームを、イムノアッセイ、質量分析、及び/又はDNA分析によって分析することをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
工程(iii)が、前記単離された無細胞ヌクレオソームを、以下:ヒストンの種類(例えば、H2A、H2B、H3、H4ヒストン)、翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム、特定のヌクレオチドもしくは修飾されたヌクレオチド(例えば、メチル化、ヒドロキシルメチル化、もしくは他のヌクレオチド修飾)、該ヌクレオソームに付加されたタンパク質、又はそれらの組み合わせから選択されるエピジェネティックなヌクレオソームの特徴に関して分析することを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記DNA分析が、次世代シークエンシング(ターゲット又は全ゲノム)及びメチル化DNAシークエンシング分析などのDNAシークエンシング、ビーミング、デジタルPCR及びcold PCR(低変性温度PCRでの共増幅)などのPCR、等温増幅、MIDI活性化加ピロリン酸分解(MAP)、又は再配列末端の個別化分析(PARE)を含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
工程(i)で結合させた前記試料を、ヌクレオソーム又はその構成要素に結合する第2の結合剤と接触させることをさらに含む、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記生体液試料が、血液、血清、又は血漿試料から選択される、請求項1~12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記試料を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合する2種類以上の結合剤と接触させる、請求項1~13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
生体液試料由来のリンカーDNAを含まない循環無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を、ヒストンテールの全て又は一部が存在しないクリッピングされたヒストン分子に結合する結合剤と接触させる工程:
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法。
【請求項16】
(iii)前記工程(ii)の単離された無細胞ヌクレオソームを、イムノアッセイ、質量分析、及び/又はDNA分析によって分析すること、をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
工程(iii)が、前記単離された無細胞ヌクレオソームを、以下:ヒストンの種類(例えば、H2A、H2B、H3、H4ヒストン)、翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム、特定のヌクレオチドもしくは修飾されたヌクレオチド(例えば、メチル化、ヒドロキシルメチル化、もしくは他のヌクレオチド修飾)、該ヌクレオソームに付加されたタンパク質、又はそれらの組み合わせから選択されるエピジェネティックなヌクレオソームの特徴に関して分析することを含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記DNA分析が、次世代シークエンシング(ターゲット又は全ゲノム)及びメチル化DNAシークエンシング分析などのDNAシークエンシング、ビーミング、デジタルPCR及びcold PCR(低変性温度PCRでの共増幅)などのPCR、等温増幅、ハイブリダイゼーション、MIDI活性化加ピロリン酸分解(MAP)、又は再配列末端の個別化分析(PARE)を含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
生体液試料由来の精製された循環腫瘍DNA(ctDNA)を単離するための方法であって:
(i)請求項2~18のいずれか1項記載の方法を行う工程;及び
(ii)前記単離されたヌクレオソームから該DNAを抽出する工程
を含む、前記方法。
【請求項20】
(i)請求項2~18のいずれか1項記載の方法を行って、患者から得た生体試料由来の循環腫瘍ヌクレオソームを単離すること;及び
(ii)該単離された循環腫瘍ヌクレオソーム及び/又は関連DNAを分析すること
を含むがんを診断する方法。
【請求項21】
工程(ii)が、前記単離された循環腫瘍ヌクレオソームを、以下:ヒストンの種類(例えば、H2A、H2B、H3、H4ヒストン)、ヒストン翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム、特定のヌクレオチドもしくは修飾されたヌクレオチド(例えば、メチル化、ヒドロキシルメチル化、もしくは他のヌクレオチド修飾)、該ヌクレオソームに付加されたタンパク質、又はそれらの組み合わせから選択されるエピジェネティックなヌクレオソームの特徴に関して分析することを含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記関連DNAが、DNAシークエンシング、例えば、次世代シークエンシング(ターゲット又は全ゲノム)及びメチル化DNAシークエンシング分析から選択されるシークエンシング法、ビーミング、デジタルPCR及びcold PCR(低変性温度PCRでの共増幅)などのPCR、等温増幅、ハイブリダイゼーション、MIDI活性化加ピロリン酸分解(MAP)、又は再配列末端の個別化分析(PARE)を用いて分析される、請求項20記載の方法。
【請求項23】
疾患起源の無細胞ヌクレオソームに優先的に結合する抗体又は他の結合剤を得るための方法であって:
(i)約150塩基対以下のDNAを含むヌクレオソームを、それに対して抗体又は他の結合剤を生じさせる抗原として用いる工程;
(ii)工程(i)で得た該抗体又は他の結合剤を、約165塩基対以上のDNAを含むヌクレオソームに提示する工程;及び
(iii)工程(i)の該ヌクレオソームに結合するが、工程(ii)の該ヌクレオソームには結合しない該抗体又は他の結合剤を選択する工程
を含む、前記方法。
【請求項24】
非疾患起源の無細胞ヌクレオソームに優先的に結合する抗体又は他の結合剤を得るための方法であって:
(i)約165塩基対以上のDNAを含むヌクレオソームを、それに対して抗体又は他の結合剤を生じさせる抗原として用いる工程;
(ii)工程(i)で得た該抗体又は他の結合剤を、約150塩基対以下のDNAを含むヌクレオソームに提示する工程;及び
(iii)工程(i)の該ヌクレオソームに結合するが、工程(ii)の該ヌクレオソームには結合しない該抗体又は他の結合剤を選択する工程
を含む、前記方法。
【請求項25】
ファージディスプレイライブラリー抗体選択を含む、請求項23又は24記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、循環無細胞ヌクレオソーム、特に、疾患起源のヌクレオソームを濃縮及び単離する方法に関する。そのような方法は、疾患起源のヌクレオソームに関連する遺伝子マーカー及びエピジェネティックマーカーの改良された分析を可能にする。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
細胞のDNAは、クロマチンとよばれるタンパク質-核酸複合体として存在する。ヌクレオソームは、クロマチン構造の基本単位であり、タンパク質複合体の周囲に巻きつけられたDNAからなる。DNAは、「ひもでつながれたビーズ(beads on a string)」に似ているとよく言われる構造で連続したヌクレオソームの周囲に巻きつけられており、これは、開いたすなわちユークロマチンの基本構造を形成する。ぎっしり詰められたすなわちヘテロクロマチンにおいては、このひもは、コイル又はスーパーコイルを形成して閉じられた複雑な構造となっている。
【0003】
クロマチン内の各ヌクレオソームは、8つの高度に保存されたコアヒストンのタンパク質複合体からなる(ヒストンH2A、H2B、H3、及びH4の各1組を含む)。この複合体の周囲に、約145塩基対(bp)のDNAが巻きつけられている。もう1つのヒストンであるH1は、コアヒストンの外部のヌクレオソーム上に位置し得るものであるが、さらなる20bpのDNAに結合して、約165bpのDNAを含むヌクレオソーム(又はクロマトソーム)を生じる。ヒストンH1は、リンカーヒストンとして作用すると言われており、追加のDNAは、多くの場合、「リンカーDNA」と呼ばれる。すなわち、このDNAは、染色体中のあるヌクレオソームを別のヌクレオソームに繋げている。染色体中の2つのヌクレオソームを分離しているリンカーDNAは、時には、20bpよりも長く、長さが80bpに至ることもある。
【0004】
ヒト成体における正常細胞のターンオーバーは、絶え間のない細胞の形成(細胞分裂による)及び毎日の膨大な数の細胞の死を伴う。アポトーシスのプロセスの間に、クロマチンは、モノヌクレオソーム及びオリゴヌクレオソームへと分解され、その一部は、循環中に見出し得る。通常の条件下では、健康な対象にみられる循環ヌクレオソームのレベルは低いと報告されている。レベルの上昇が、多くのがん、自己免疫疾患、炎症状態、卒中、及び心筋梗塞を含む種々の状態の対象にみられる(Holdenrieder及びStieberの文献、2009)。また、死細胞由来のヌクレオソームも、尿、大便、又は痰などの他の体液中に排出され得る。循環無細胞ヌクレオソームは、細胞死に際してクロマチンの消化によってクロマチン断片として生じるモノヌクレオソームと関連DNAとを主に含むと報告されている。
【0005】
DNAの異常は、全てのがん疾患に特徴的である。がん細胞のDNAは、これらに限定されないが、点変異、転座、遺伝子コピー数、マイクロサテライト異常、DNA鎖完全性、及びヌクレオチド修飾(例えば、シトシンの5位でのメチル化)などの多くの点で健康な細胞のDNAとは異なる。これらのDNA構造又は配列の腫瘍に関連する変化は、生検又は外科手術で除去されたがん細胞又はがん組織において、臨床診断、予後判定、及び治療選択の目的でルーチンに調査されている。腫瘍の遺伝学的及びエピジェネティックな特徴は、異なる腫瘍タイプの間及び同一の腫瘍疾患の異なる患者の間で異なる。さらに、これらの特徴は、同一の患者の同一のがんの範囲内でも、疾患の進行に伴い及び薬物又は他の療法に対する獲得抵抗性の発生において経時的に変化する。従って、外科手術又は生検で除去された細胞中の腫瘍DNAの連続的な調査は、臨床医が、微小残存病変を評価し、患者の予後を予測し、該患者に対して適切な治療を選択し、疾患の進行をモニタリングし、再発又は獲得された治療抵抗性を初期段階で(おそらく、放射線学的な検出よりも多くの月数だけ早く)検出するのに役立ち得、場合によっては、治療コースの変更を成功裏に行うことを可能とする。
【0006】
しかしながら侵襲性の生検処置を、患者に対して繰り返し行うことはできないために、組織DNA試験には制約がある。一部の患者に対しては、決して生検を用いてはならない。生検は、実施するのに費用が嵩み、患者にとって不快なものであり、患者のリスクを生み、外科的な合併症を招き得る。さらに、患者の腫瘍は、同一の腫瘍の異なる領域内又は異なる転移部内(転移性のがんの場合)に位置する複数の腫瘍クローンからなることもあり、これらは、生検で全てが採取さないこともある。従って、組織生検DNA調査は、特定の瞬間の腫瘍の異なる領域内に位置する異なる腫瘍クローンのうちの、時間及び空間の双方の点での腫瘍のスナップショットを提供する。
【0007】
がん患者の血液は、死につつある又は死んだがん細胞からの循環中へのクロマチン断片又はヌクレオソームの放出に起源をもつと考えられている循環腫瘍DNA(ctDNA)を含有する。腫瘍由来ctDNAは、モノヌクレオソームに期待されるサイズと一致する小さいDNA断片として循環する。がん患者由来のマッチさせた血液及び組織試料の調査により、患者の腫瘍中に存在する(が、該患者の健康な細胞には存在しない)がん関連変異が、同一の患者から採取した血液試料中のctDNAにも存在することが示されている(Newmanらの文献、2014)。同様に、がん細胞中の示差的にメチル化された(シトシン残基のメチル化によってエピジェネティックに変化した)DNA配列も、循環中のctDNA内のメチル化された配列として検出することができる。加えて、ctDNAで構成される無細胞循環DNA(cfDNA)の比率は、腫瘍負荷に関連しており、従って、疾患の進行を、存在するctDNAの比率によって定量的に及びその遺伝学的な及び/又はエピジェネティックな組成によって定性的にの双方でモニタリングし得る。ctDNAの分析は、腫瘍内の全ての又は多くの異なるクローン起源のDNAに関しており、かつ腫瘍クローンを空間的に統合する高度に有用かつ臨床的に正確なデータを生じさせることができる。さらに、経時的に繰り返されるサンプリングは、非常に実用的かつ経済的な選択肢である。ctDNAの分析は、侵襲性の組織生検処置を伴わない腫瘍DNAの調査により、腫瘍の検出及びモニタリング、並びに腫瘍に対する治療の選択のための初期段階での再発及び獲得される薬剤抵抗性の検出に革命を起こす可能性がある。そのようなctDNA試験を用いて、全てのタイプのがん関連DNA異常(例えば、点変異、ヌクレオチド修飾状態、転座、遺伝子コピー数、マイクロサテライト異常、及びDNA鎖完全性)を調査してもよく、ルーチンのがんスクリーニング、定期的かつより高頻度のモニタリング、並びに最適な治療計画の定期的なチェックに適用可能であろう(Zhouらの文献、2012)。
【0008】
血液、血漿、又は血清は、ctDNAアッセイの基質として用いられ得、限定するものではないが、遺伝子DNAシークエンシング、エピジェネティックDNAシークエンシング分析(例えば、5-メチルシトシンを含む配列に関するもの)、PCR、ビーミング(BEAMing)、NGS(ターゲット又は全ゲノム)、デジタルPCR、等温DNA増幅、cold PCR(低変性温度PCRでの共増幅(co-amplification at lower denaturation temperature-PCR))、MAP(MIDI活性化加ピロリン酸分解)、PARE(再配列末端の個別化分析(personalized analysis of rearranged ends))、及び質量分析などの任意のDNA分析方法が採用され得る。
【0009】
DNAの異常は、全てのがん疾患に特徴的であり、ctDNAが、それを調査した全てのがん疾患で観察されているために、ctDNA試験は、全てのがん疾患に適用可能である可能性がある。調査されたがんとしては、限定するものではないが、膀胱、乳房、結腸直腸、黒色腫、卵巣、前立腺、肺、肝臓、子宮内膜、卵巣、リンパ腫、口腔、白血病、頭頸部、及び骨肉腫のがんが挙げられる(Crowleyらの文献、2013;Zhouらの文献、2012;Jungらの文献、2010)。ctDNA試験の性質を、いくつかの(非限定的な)例示的なアプローチを概説することによってここに例示する。
【0010】
第1の例は、ctDNAにおけるがん関連遺伝子配列変異の検出を伴う。ctDNAにおける単一の遺伝子変異の検出を伴う血液検査は、一般に、低い臨床的感度を有する。これには、2つの理由がある。第一に、全てのがんは変異を有するものの、特定のがん疾患における任意の特定の変異の頻度は、通常低い。例えば、K-ras及びp53変異は、より頻発するがん変異のうちの2つとみなされており、膀胱、乳房、結腸、肺、肝臓、膵臓、子宮内膜、及び卵巣がんなどの広範ながんにおいて研究されているが、これらは、それぞれ、がん組織試料の23%~64%及び17%~54%に検出された。第2に、患者のがん組織が、変異を含んでいるとしても、患者の血液中に存在する変異型ctDNAのレベル又は濃度は、低いこともあり、検出するのが難しい。例えば、K-ras及びp53変異は、K-ras及びp53組織陽性患者の0%~75%のctDNA中に検出できた。これらの2つの作用の総計は、K-ras又はp53変異が、40%未満のがん患者の血液中に検出されたことを意味していた(Jungらの文献、2010)。
【0011】
第2の例は、ctDNAにおける複数のがん関連遺伝子配列変異の検出を伴う。K-ras又はp53などの任意の特定の遺伝子の変異は、少数のがんにのみ存在し得るが、全てのがんは、変異を含み、従って、変異の十分に大きなパネルが、原則として、大部分の、さらには全ての腫瘍の検出を容易にするであろう。従って、そのような試験の臨床的感度を増加させる一つのやり方は、多くの遺伝子における広範な変異を試験することである。Newmanらは、このアプローチを非小細胞性肺がん(NSCLC)に対して採用し、139個の再発性変異型遺伝子由来の521個のエクソン配列及び13個のイントロン配列を調査した。研究した変異は、一塩基多様性(SNV)及び融合遺伝子などの複数のクラスのがん関連遺伝子変化を含んでいた。このやり方で、著者らは、95%超のステージII~IVの腫瘍及び50%のステージIの腫瘍の検出を、ctDNA血液検査において96%の特異度で報告している(Newmanらの文献、2014)。
【0012】
第3の例は、ctDNA中の特定の遺伝子配列に対するがん関連エピジェネティック変化の検出を伴う。このアプローチは、任意のDNA又はヌクレオチド修飾に適用することができる。このアプローチの最も重要な例は、ある特定のがんにおけるシトシン残基で示差的にメチル化された遺伝子の検出である。多数の遺伝子が、種々のがんにおいてこの目的のために調査されている。そのうちのいくつかは、膀胱、乳房、結腸直腸、黒色腫、卵巣、及び前立腺がんにおいて調査されたSEPTIN-9、APC、DAPK、GSTP1、MGMT、p16、RASSF1A、T1G1、BRCA1、ERα、PRB、TMS1、MLH1、HLTF、CDKN2A、SOCS1、SOCS2、PAX5、PGR、PTGS2、及びRARβ2である。通常、DNAが血漿から抽出され、次いで、非修飾シトシン残基をウラシルへと変換する重亜硫酸塩で処理される重亜硫酸塩変換シークエンシング法が用いられる。次いで、シークエンシング、PCR、又は他の方法を、特定のメチル化された遺伝子配列が存在するかどうかを決定するために適用することができる。このアプローチを説明する例は、48%のCRC症例を91%の臨床的特異度で検出することが報告されている結腸直腸がん(CRC)の検出のためのctDNA中のメチル化セプチン-9の検出である(Churchらの文献、2014)。
【0013】
第4の例は、循環DNA断片の配列分析並びに組織及び細胞株のヌクレアーゼ到達可能部位分析(別名:DNase過感受性分析)の結果との比較を伴う「フラグメントミクス」アプローチである。このアプローチでは、任意の細胞型の全ゲノムDNAタンパク質占有パターンが、細胞内のオープンな(タンパク質に結合していない)DNAのヌクレアーゼ消化によって確立され得る。タンパク質に結合したDNAは、ヌクレアーゼ消化から保護されており、抽出後に配列決定されて、細胞型のユニークなDNAタンパク質占有パターン(又は非占有オープンDNAパターン)が特定され得る。同様に、循環cfDNA断片は、自然界では、ヌクレオソーム中でのように、ヒストンであり得るか、又は転写因子などの他のタンパク質によるものであり得るタンパク質結合によって保護されている。cfDNA断片の境界は、それのヌクレオソーム、転写因子、又はタンパク質への結合に関しており、個々のcfDNAをシークエンシングすることによって得られるフラグメンテーションパターンを、ヌクレオソーム及び他のタンパク質占有のマップとすることができる。そのようなcfDNA占有マップは、ヌクレアーゼ到達可能部位マップとして誘導された既知の組織又はがん細胞株の占有マップと比較可能である。この方法は、健康な個体におけるcfDNAシークエンシングによって明らかとされる調節エレメント及び遺伝子ボディにおけるヌクレオソーム間隔が、リンパ系及び骨髄系細胞株の占有パターンと強く相関していることを指摘すると報告されている。後期のがん患者由来のcfDNAのシークエンシングは、多くの場合、患者のがんの解剖学的な起源と合致している、がん細胞株の占有マップと最も強く相関していた追加の占有パターンを示した(Snyderらの文献、2016)。これは、cfDNAパターンのヌクレオソーム及び他のタンパク質占有分析を、がんを検出するため及び場合によってはがんの器官部位を特定するための双方に用い得ることを示す。
【0014】
第5の例は、対象のがん細胞及び健康な細胞における全般的ゲノムDNAメチル化パターン(global genome DNA methylation pattern)の分析を伴う。健康な細胞のDNAは、全ゲノムの端から端まで全般的に分散されたメチル化のパターンを示し、これは、その特定の細胞及び組織のエピジェネティックな状態を反映している。健康な状態から悪性がん細胞への細胞の移行は、ゲノムの制御(例えば、遺伝子プロモーター)領域内の5-メチルシトシン残基のレベルの限局性の増加と共に、DNAメチル化(5-メチルシトシン)の全般的な正味の低下を伴い、大量のCpG部位同士が、DNAの短い領域内にクラスターを形成している。従って、がん細胞は、DNAの全般的な低メチル化を有するが、生じたメチル化DNA(5-メチルシトシン)は、小さい領域に密集してクラスターを形成する傾向がある。これは、がん細胞由来のctDNA断片が、非常に低メチル化されているか又は非常に過剰メチル化されているかのいずれかとなる傾向があり、それらの間が比較的少なく(すなわち、両極端なメチル化レベルであり)、その一方で、正常細胞由来のDNAは、これらの両極端の間の異なるメチル化パターンを有し、より適度にメチル化される傾向があることを意味している。がんDNAのこれらの性質は、がんの物理化学的試験の基礎として使用されている(Sinaらの文献、2018)。
【0015】
これらのctDNA分析方法の全てに関連する主な問題は、がん患者におけるcfDNAの変異アレル分率(MAF-特定のゲノムの部位での変異体であるアレルの比率)が低いことである。この方法のctDNA分析対象は、より多い量の造血系起源の循環cfDNA中に希釈されている。これは、腫瘍由来ctDNAによって構成されるcfDNAの割合が低く、全てのctDNA分析方法に対して制限を課していることを意味する。このため、患者試料のMAFを増加させることが、ctDNA分野の研究者の目標となっている。cfDNA断片のMAFは、サイズ依存的であり、長さが90~150bpのサイズのcfDNA断片は、より大きなcfDNA断片よりも、高いMAF及び、従って、高いctDNA分率を有する。
【0016】
Mouliereらの文献、2018により、より小さなcfDNA断片に関する試料の濃縮が、より高いMAF、より高いctDNA分率、及びctDNA検出/分析結果の向上、並びにがんの検出の臨床結果の向上に繋がることが示された。ctDNAのサイズ選択が、254名の患者に対してインシリコ法で行われた。しかしながら、物理的なゲルベースの方法を用いてctDNAに関して物理的に濃縮するために35名の患者に対して行われたインビトロのサイズ選択方法では、認められたctDNA濃縮は、より良好なものであり、がん検出の臨床結果は向上した。しかしながら、この方法は、臨床でのルーチンの使用に適していない。
【0017】
がん患者は、健康な対象よりも高いcfDNAレベルを有していると報告されている。本分野の研究者は、健康な対象について最大で100ng/ml(平均30ng/ml)のcfDNAの範囲及びがんの対象に対して最大で1000ng/ml(平均180ng/ml)のcfDNAの範囲を報告している(Schwarzenbachらの文献、2011)。循環cfDNAは、長さが最高で20,000bpのさまざまなサイズのDNA分子からなる(Zhouらの文献、2012)。ctDNAが、主に、モノヌクレオソームとして循環するという仮説と一致して、循環中の無細胞ヌクレオソームの測定されるレベルは、DNAレベルと同様に、健康な対象でよりもがん患者で高い(Holdenriederらの文献、2001)。しかしながら、上昇した循環ヌクレオソームのレベルそれ自体が、がんのバイオマーカーとして臨床的に用いられることはない。これは、ヌクレオソームが、細胞死の非特異的な産物であり、上昇したレベルが、急性の外傷などの細胞死の増加を伴う多くの状態で認められるためである(Holdenrieder及びStieberの文献、2009)。細胞死の産物として、循環ヌクレオソームレベルも、細胞傷害性の薬物での治療や放射線療法の際に顕著に上昇することがある。しかしながら、ヌクレオソームも、循環から除去されるために、レベルは、治療に伴って急増し、その後、低下し得る(Holdenriederらの文献、2001)。
【0018】
循環無細胞ヌクレオソームのレベルそれ自体は、がんにおける血液ベースのバイオマーカーとして臨床実践に用いられていないが、そのヒストン修飾、ヒストンバリアント、DNA修飾、及び付加物の含量(adduct content)の観点からの循環無細胞ヌクレオソームのエピジェネティックな組成が、がんにおける血液ベースのバイオマーカーとして調査されている(WO2005/019826;WO2013/030577;WO2013/030579;WO2013/084002を参照されたい)。
【0019】
血液、血清、又は血漿からcfDNAを抽出するのに利用可能な種々の方法が存在し、それらが、抽出されたDNAの収率に関して及び異なる長さのDNA断片の抽出の効率に関して比較されている。フェノール-クロロホルム及びヨウ化ナトリウム抽出法は、最も高い収率を提供し、長さが200bp未満の小さいDNA断片を抽出する。試験された他の方法(市販の方法を含む)は、より低いDNA抽出収率を有すると報告されており、長さが200bp未満の小さいDNA断片を抽出しそこなうこともある(Fongらの文献、2009)。
【0020】
ctDNAの分析のための血液、血清、又は血漿からのcfDNAの抽出は、通常、市販のDNA抽出製品を用いて行われる。そのような抽出法は、循環DNAの高い回収率(>50%)を主張しており、一部の製品(例えば、Qiagen製のQIAamp Circulating Nucleic Acidキット)は、小さいサイズのDNA断片を抽出すると主張されている。用いられる典型的な試料の体積は、1~5mLの血漿の範囲である。
【0021】
いくつかの制限のために、よく見られるがんの検出又は診断用の普及したルーチンに使用されるctDNAベースの試験は現在のところない。方法に関する主な制限は、高品質のDNAを必要とすることである。現行のctDNA採取方法では、試料の性質のために劣った品質のctDNA試料となる。主な問題点は、すべてのctDNAの分析を複雑化する循環中の大量の非腫瘍cfDNAの存在にある。さまざまな研究者による評価はばらつくが、循環中に存在するctDNAの分率は、検出するには低すぎることもある。大部分のがん患者にとって、ctDNA分率は、cfDNAのわずかな部分のみを構成する。例えば、最近の研究で、ctDNA分率が、治療前の肺がん患者において腫瘍サイズとともに増加することが報告されている。認められた最高のレベルは、大きな腫瘍負荷を有する患者における3.2%であったが、大部分の患者は、0.1%未満のctDNA分率を有していることが分かった(Newmanらの文献、2014)。これは、多くの患者試料では、非常に低いレベルのctDNAを、それよりもはるかに高いレベルの非腫瘍由来のcfDNAの存在下で分析しなければならないことを意味する。さらに、この非腫瘍由来のcfDNAは、同一の対象由来であり、従って、類似の配列のものであり、ctDNAの定量化又は分析のためのどの方法においても干渉するであろう。
【0022】
がん患者におけるcfDNAのレベルは、多くの場合、上昇しているが、ctDNA分率は低く、総ctDNAレベルは、認められるcfDNAの増加よりも低いこともある。これは、cfDNAの増加の少なくとも一部が、がん関連DNA変異を含む悪性がん細胞に直接由来するというよりも、むしろ腫瘍関連であり、恐らく、腫瘍環境又は間質に関連しているであろうことを示し得る。
【0023】
低いMAF又は低い腫瘍関連もしくは腫瘍由来分率の類似の問題が、がんのバイオマーカーとしての循環無細胞ヌクレオソーム及び/又は循環ヌクレオソームのエピジェネティックな組成の測定に生じる。ヌクレオソームそれ自体は、細胞死の指標であり、身体の正常細胞ターンオーバープロセスの一部として、及び自己免疫疾患、卒中、敗血症、外傷後、熱傷、心筋梗塞、脳卒中、臓器移植後の移植片拒絶反応の間、及び激しい運動後などの細胞死のレベルの上昇と関連する状態において放出される。これは、腫瘍起源のヌクレオソームが、さまざまな細胞及び組織起源の他の非腫瘍ヌクレオソームと一緒になって循環すること、及び全ての循環ヌクレオソームのうちのほんの一部を構成し得ることを意味する。非腫瘍ヌクレオソームは、腫瘍関連ヌクレオソームの又は腫瘍起源のヌクレオソームの定量又はエピジェネティック分析のための全ての方法において干渉するであろう。類似の作用が、他の体液で生じ得る。例えば、大便は、健康な結腸又は直腸細胞に起源をもつヌクレオソームと一緒に、結腸直腸がん細胞起源のヌクレオソーム及び関連DNAを含有することがある。痰は、健康な肺細胞に起源をもつヌクレオソームと一緒に、肺がん細胞起源のヌクレオソーム及び関連DNAを含有することがある。類似の作用が、他の体液においても生じるであろう。
【0024】
従って、体液試料由来の腫瘍由来又は腫瘍関連DNA及びヌクレオソームの濃縮のためのより良好な方法が強く必要とされている。また、がん疾患の状態の検出の向上のために腫瘍循環無細胞ヌクレオソームと非腫瘍循環無細胞ヌクレオソームとを区別する分析方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0025】
(発明の概要)
本発明の第1の態様により、生体液試料由来のリンカーDNAを含む循環無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を:
(a)ヌクレオソーム関連リンカーDNA;
(b)リンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質;又は
(c)リンカーDNAに関連するコアヌクレオソームの特徴
に結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0026】
本発明のさらなる態様により、生体液試料由来のリンカーDNAを含まない循環無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を:
(a)ヌクレオソーム関連リンカーDNA;
(b)リンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質;又は
(c)リンカーDNAに関連するコアヌクレオソームの特徴
に結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0027】
本発明のさらなる態様により、生体液試料由来のリンカーDNAを含まない循環無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を、ヒストンテールの全て又は一部が存在しないクリッピングされたヒストン分子(clipped histone molecule)に結合する結合剤と接触させる工程:
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0028】
本発明のさらなる態様により、生体液試料由来の精製された循環腫瘍DNA(ctDNA)を単離するための方法であって:
(i)本明細書で規定される方法を行う工程;及び
(ii)前記単離されたヌクレオソームから該DNAを抽出する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0029】
本発明のさらなる態様により:
(i)本明細書で規定される方法を行って、患者から得た生体試料由来の循環腫瘍ヌクレオソームを単離すること;及び
(ii)該単離された循環腫瘍ヌクレオソーム及び/又は関連DNAを分析すること
を含むがんを診断する方法が提供される。
【0030】
本発明のさらなる態様により、疾患起源の無細胞ヌクレオソームに優先的に結合する抗体又は他の結合剤を得るための方法であって:
(i)約150塩基対以下のDNAを含むヌクレオソームを、それに対して抗体又は他の結合剤を生じさせる抗原として用いる工程;
(ii)工程(i)で得た該抗体又は他の結合剤を、約165塩基対以上のDNAを含むヌクレオソームに提示する工程;及び
(iii)工程(i)の該ヌクレオソームに結合するが、工程(ii)の該ヌクレオソームには結合しない該抗体又は他の結合剤を選択する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0031】
本発明のさらなる態様により、非疾患起源の無細胞ヌクレオソームに優先的に結合する抗体又は他の結合剤を得るための方法であって:
(i)約165塩基対以上のDNAを含むヌクレオソームを、それに対して抗体又は他の結合剤を生じさせる抗原として用いる工程;
(ii)工程(i)で得た該抗体又は他の結合剤を、約150塩基対以下のDNAを含むヌクレオソームに提示する工程;及び
(iii)工程(i)の該ヌクレオソームに結合するが、工程(ii)の該ヌクレオソームには結合しない該抗体又は他の結合剤を選択する工程
を含む、前記方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
(図面の簡単な説明)
【
図1】
図1. 腫瘍起源及び非腫瘍起源の循環ヌクレオソームに又はクロマチン断片に関連する循環DNA断片のサイズ分布(bp)の図。腫瘍由来のDNA断片の大部分は、長さが150bp未満であり、非腫瘍由来のDNA断片の大部分は、長さが150bp超である。
【
図2】
図2. H1タンパク質を用いてヌクレオソームを結合させた結果。H1タンパク質(組換えH1及び仔ウシ胸腺由来H1タンパク質の双方)は、リンカーDNAを含むポリヌクレオソームに結合するが、リンカーDNAを含まないモノヌクレオソーム(147bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソーム)には結合しない。ヌクレオソームの結合は、H2A、H2B、H3、又はH4ヒストンタンパク質では認められなかった。
【
図3】
図3. MBD2タンパク質を用いてヌクレオソームを結合させた結果。ビーズ上にコーティングされたMBD2タンパク質は、高レベルのメチル化DNAを含むポリヌクレオソーム及びヌクレオソームに結合する。
【
図4】
図4. MECP2タンパク質を用いてヌクレオソームを結合させた結果。MECP2(MBDタンパク質)は、リンカーDNAを含むヌクレオソーム(HeLaポリ)に結合するが、リンカーDNAを含まないヌクレオソーム(147bpのDNAを含むモノヌクレオソーム)には結合しない。
【
図5】
図5. MBDタンパク質を用いて臨床試料中のヌクレオソームを結合させたELISAアッセイの結果。MBDを、ELISAアッセイにおいて28点のヒト血漿試料中で結合剤として試験した。結果は、タンパク質が、臨床試料中のヌクレオソームを検出する結合剤として用いられ得ることを示している。
【
図6】
図6. リンカーDNAを含むヌクレオソームを結合させる抗体の作製。抗体は、167bp又は187bpのDNAを含むモノヌクレオソームに対してより高い(かつほぼ等しい)親和性を有するが、147bpのDNAを含むヌクレオソームに対してはかなり低い親和性を有する。
【
図7】
図7. クリッピングされたヒストンを含むヌクレオソームのイムノアッセイの結果。(A)ヒストンH3のテールの末端付近のエピトープを標的とするアッセイ(抗体ペア1)は、インタクトなヒストンH3を含むヌクレオソームに対して強いシグナルを示すが、いくつかのテールが、カテプシン消化によって除去されている(クリッピングされている)ヌクレオソームに対しては減少したシグナルを示す。そのような作用は、インタクトなヒストンH3又はクリッピングされたヒストンH3のいずれかを含むヌクレオソーム中に存在するエピトープを標的とするアッセイ(抗体ペア2)では生じない。(B)クリッピングされたヒストンH3を含むヌクレオソームのみを検出するように設計されたアッセイは、インタクトなヒストンH3を含むヌクレオソームに対してシグナルを与えなかったが、カテプシン処理ヌクレオソームに対しては強いシグナルを与えた。
【
図8】
図8. 化学発光標識化抗体を用いて分析されたヒストンH1.0タンパク質を用いた結果。ヒストン1.0に結合したさまざまなヌクレオソーム部位に結合した化学発光標識化抗ヒストンH3.1抗体によって生じさせた相対発光単位(RLU)での光シグナル。この結果は、磁気ビーズに連結されたH1.0タンパク質が、Helaポリヌクレオソーム、及びHelaモノヌクレオソーム、及び167bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソームに結合するが、147bpのDNAを含む(すなわち、リンカーDNAを含まない)組換えモノヌクレオソームには結合しないことを示している。
【
図9】
図9. ウエスタンブロットによって分析されたヒストンH1タンパク質を用いた結果。磁気ビーズに連結されたヒストンH1タンパク質に結合したタンパク質に対する標識化抗ヒストンH3.1抗体を用いて顕出させた(developed)タンパク質のバンド。結果は、Helaポリヌクレオソーム、Helaモノヌクレオソーム、及び167bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソームに曝露させた磁気ヒストンH1のバンドを示しているが、147bpのDNAを含む(すなわち、リンカーDNAを含まない)組換えモノヌクレオソームのバンドは観察されなかった。
【
図10】
図10. ヒストンH1.0タンパク質を用いる市販のHela細胞モノヌクレオソーム製剤中のリンカーDNAを伴う又は伴わないモノヌクレオソームの分離の結果。(a)市販のHela細胞クロマチンモノヌクレオソーム製剤のDNA断片サイズプロファイル。(b)磁気ビーズに連結されたヒストンH1.0への曝露後の同一のモノヌクレオソーム製剤の磁気的H1.0結合及び非結合DNA断片画分のDNA断片サイズプロファイル。
【
図11】
図11. 市販のHela細胞モノヌクレオソーム製剤中のリンカーDNAを伴う又は伴わないモノヌクレオソームの分離。ヒストンH1.0タンパク質でコーティングされたMyOneトシル活性化磁気ビーズを、ヒストンH1.0融合タンパク質を用いてHela細胞モノヌクレオソーム製剤に曝露させた。バイオアナライザの結果は、H1被覆磁気ビーズでの試料の処理後に上清中に残った非結合DNA画分が、H1結合ヌクレオソームに関連するより長いDNAに対応するピークから明確に分離された約147bpのDNAサイズに対応するバイオアナライザピークを与えたことを示している。未処理のHelaヌクレオソーム製剤から抽出されたDNAは、結合画分と非結合画分との間の中間サイズにピークを有していた。結果は、秒で表された時間に対する蛍光単位(FU)で示されている。
【
図12】
図12. H1被覆磁気ビーズを用いる、3名の結腸直腸がん患者から採取された血漿試料中のリンカーDNAを伴う又は伴わないモノヌクレオソームの分離。未処理のDNA血漿試料の塩基対サイズプロファイル、並びにH1被覆磁気ビーズでの3つの結腸直腸がん血漿試料の処理後に、H1被覆磁性粒子に結合したDNA画分又は上清中に残ったDNA画分のプロファイルを示すバイオアナライザの結果。この結果は、上清中の非結合ヌクレオソームが、約167bpの、H1被覆磁気ビーズに結合したヌクレオソームに関連するより長いDNAに対応するピークから明確に分離された約147bpのDNAサイズに対応するバイオアナライザピークを与えたことを示している。
【
図13】
図13. H1被覆磁気ビーズを用いる、3名の結腸直腸がん患者から採取された血漿試料中のリンカーDNAを伴う又は伴わないモノヌクレオソームの分離。H1被覆磁気ビーズでの3つの結腸直腸がん血漿試料の処理後のH1被覆磁性粒子に結合したDNA画分又は上清中に残ったDNA画分の塩基対サイズプロファイルを示すバイオアナライザの結果。6例全てにおいて、結果は、上清中の非結合ヌクレオソームが、約167bpの、H1被覆磁気ビーズに結合したヌクレオソームに関連するより長いDNAに対応するピークから明確に分離された約147bpのより短いDNAサイズに対応するバイオアナライザピークを与えたことを示している。
【
図14】
図14. H1被覆磁気ビーズを用いる、2名の健康な志願者から採取された血漿試料中のリンカーDNAを伴う又は伴わないモノヌクレオソームの分離。H1被覆磁気ビーズでの2つの健康な血漿試料の処理後の、H1被覆磁性粒子に結合したDNA画分又は上清中に残ったDNA画分の塩基対サイズプロファイルを示すバイオアナライザの結果(関心のあるDNA断片サイズ分布を説明するために拡大されている)。この結果は、健康な対象における未処理、結合、及び非結合ヌクレオソーム画分が、がん患者のそれよりも、その関連DNA断片のサイズに関してばらつきが少ないことを示している。
【
図15】
図15. HMGB1被覆磁気ビーズを用いる、3名のがん患者から採取された血漿試料中のリンカーDNAを伴う又は伴わないモノヌクレオソームの分離。HMGB1被覆磁気ビーズでの2つの肺がん血漿試料及び1つのCRC血漿試料の処理後の、HMGB1被覆磁気ビーズに結合したDNA画分又は上清中に残ったDNA画分の塩基対サイズプロファイルを示すバイオアナライザの結果。この結果は、上清中の非結合ヌクレオソームが、約167bpのHMGB1被覆磁気ビーズに結合したヌクレオソームに関連するより長いDNAに対応するピークから明確に分離された約147bpのDNAサイズに対応するバイオアナライザピークを与えたことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(発明の詳細な説明)
本発明者らは、疾患の診断のための血液及び他の体液中の無細胞ヌクレオソームのエピジェネティック分析のための方法を以前報告している(WO2013/030577、WO2013/030578、WO2013/030579、WO2013/084002を参照されたい)。本明細書に記載されるように、疾患起源の無細胞ヌクレオソームは、循環中に放出されるが、これらは、正常な(健康な)細胞ターンオーバーのために既に循環中に存在する無細胞ヌクレオソームで希釈される。非疾患起源の任意のそのようなヌクレオソームは、疾患細胞から放出されるヌクレオソームの遺伝子分析又はエピジェネティック分析において干渉するであろう。体液試料由来の非疾患(すなわち、健康な)起源の無細胞ヌクレオソームの分離及び除去は、疾患起源の無細胞ヌクレオソームのより高い純度に繋がり、試料中の疾患由来のヌクレオソーム又はクロマチン断片の分析の結果の向上を提供するであろう。
【0034】
生細胞内の染色体中の各ヌクレオソームは、8つの高度に保存されたコアヒストン(ヒストンH2A、H2B、H3、及びH4の各1組を含む)のタンパク質複合体からなる。この複合体の周囲に、約145~147塩基対(bp)のDNAが巻きつけられている。別のヒストンであるH1は、コアヒストンの外部のヌクレオソーム上に位置し得るとともに、さらなる20bpのDNAに結合して、約165bpのDNAを含むヌクレオソーム(又はクロマトソーム)を生じる。このさらなるDNAは、本技術分野において、「リンカーDNA」と称される。すなわち、このDNAは、あるヌクレオソームを別のヌクレオソームに繋げている。染色体中の2つのヌクレオソームを分離しているこのDNAは、20bpよりも長いことがあり、例えば、隣接するヌクレオソームが双方ともH1を含む場合には、長さが80bpに至ることもある。
【0035】
本発明者らは、腫瘍起源の無細胞ヌクレオソームが、健康な細胞に起源をもつヌクレオソームよりも低頻度でヒストンH1を含むことを以前報告している(WO2017/068371を参照されたい)。この差は、H1に対する抗体結合剤を用いてヒストンH1を含む又は含まないヌクレオソームを分離する疾患関連又は由来ヌクレオソームの免疫親和性濃縮に活用され得る。
【0036】
ここで、本発明者らは、ヌクレオソームを、別の手段で分離することができることを報告する。これらの手段は、リンカーDNAの存在又は非存在に関連するヌクレオソームの特徴に基づくヌクレオソームの分離を利用する。Underhillらは、ラットにおけるヒトがん異種移植片によって生じるctDNA断片のサイズ範囲を、健康なラットcfDNAのサイズ範囲と比較して研究している。
図1に示されるように、循環DNA断片は、長さが最高で約230bpのサイズの範囲内で存在する。健康な対象において、循環cfDNAは、主として造血性起源のものであり、循環オリゴヌクレオソームに対応するより少ない量のより大きいDNA断片と一緒に、長さが約150~230bpで異なるさまざまな断片サイズを有する。健康な造血性cfDNAの最もよくみられるサイズは、長さが約167bpであり、ごく低い割合の断片のみが、150bpよりも小さい。また、造血性のcfDNAは、がん及び妊娠などの状態の対象中にも存在するが、追加の約120~150bpのより短い循環DNA断片も存在する。ctDNA断片サイズは、ヌクレオソームのDNAらせん周期に関連する10bpの周期を示し、最もよくみられるサイズは、長さが134bp及び144bpである。従って、健康なcfDNAの大部分は、長さが160bpを超え、ctDNAの大部分は、長さが150bp未満である。理論に縛られることはないが、本発明者らは、大部分の非腫瘍(かつ非胎児)起源の循環無細胞ヌクレオソームを、リンカーDNAを含んでいるとみなすことができ、腫瘍起源の循環無細胞ヌクレオソームを、リンカーDNAを含んでいないとみなすことができると判断している。
【0037】
同様に、短い約150bpのDNA(特に、約145bpのDNA)ヌクレオソームは、非妊娠中の健康な対象においてよりも妊娠中の女性において総循環無細胞ヌクレオソームのうちでより高い割合を占めており、胎児又は胎盤起源のものと考えられている。
【0038】
さらに、ヒストンH1を含むヌクレオソームを、免疫吸着剤として固体の担体上に固定化された抗ヒストンH1抗体を用いて血液試料から単離できたことが以前に示されている(WO2017/068371)。
【0039】
驚くべきことに、本発明者らは、ここで、免疫吸着剤として固体の担体上に固定化されたタンパク質ヒストンH1(それ自体)を、血漿試料由来のリンカーDNAを含むヌクレオソームを結合させ除去するのに使用することができることを示している。加えて、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合する他の結合タンパク質も、類似のやり方で、血清もしくは血漿又は他の体液試料由来のリンカーDNAを含むヌクレオソームを結合させ除去するのに使用することができる。リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合する分子に結合するように仕向けられた抗体又は他の結合剤も、類似のやり方で、血清もしくは血漿又は他の体液試料由来のリンカーDNAを含むヌクレオソームを結合させ除去するのに使用することができる。
【0040】
(リンカーDNAを含むヌクレオソーム)
本発明者らは、分離を、(i)リンカーDNAに結合するヒストンの特徴(例えば、H1)の使用、(ii)リンカーDNAに結合する(非ヒストン)クロマチン結合タンパク質の使用、(iii)リンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質に結合する抗体又は他の結合剤の使用、又は(iv)リンカーDNAに関連するヌクレオソームの特徴に結合する抗体又は他の結合剤の使用によって行うことができることを見出だしている。
【0041】
従って、本発明の第1の態様により、生体液試料由来のリンカーDNAを含む循環無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を:
(a)ヌクレオソーム関連リンカーDNA;
(b)リンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質;又は
(c)リンカーDNAに関連するコアヌクレオソームの特徴
に結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0042】
第1の態様の方法を、リンカーDNAを含むヌクレオソームを除去し、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームを単離するための負の選択方法において使用することができることが理解されるであろう。従って、本発明の第2の態様により、生体液試料由来のリンカーDNAを含まない循環無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を:
(a)ヌクレオソーム関連リンカーDNA;
(b)リンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質;又は
(c)リンカーDNAに関連するコアヌクレオソームの特徴
に結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0043】
一実施態様において、前記ヌクレオソーム関連リンカーDNAに結合する結合剤が、ヒストンH1、macroH2A又はそれらの断片もしくは操作された類似物から選択されるヒストンタンパク質である。
【0044】
一実施態様において、前記ヌクレオソーム関連リンカーDNAに結合する結合剤は、ヒストンH1、又はそれらの断片もしくは操作された類似物である。従って、本発明のさらなる態様により、生体液試料由来のリンカーDNAを伴わない無細胞ヌクレオソームからリンカーDNAを伴う無細胞ヌクレオソームを(例えば、アフィニティー精製によって)分離するための方法であって:
(i)該試料をヒストンH1と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)でヒストンH1に結合した該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0045】
本発明の方法を、ヒストンH1、又はそれらの断片もしくは操作された類似物を用いて行い得ることが理解されるであろう。ヒストンH1は、当技術分野において公知であるいくつかのアイソフォームを有する。一実施態様において、ヒストンH1は、ヒストンH1.0である。
【0046】
本明細書に記載される分離の方法を、リンカーDNAの非存在が原因の疾患(又は胎児)起源のヌクレオソームを単離するのに用いてもよい。従って、一実施態様において、生体液試料由来の疾患又は胎児起源の循環無細胞ヌクレオソームを(例えば、アフィニティー精製によって)単離するための方法であって:
(i)該試料をヒストンH1と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)でヒストンH1に結合しなかった該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0047】
いくつかのエピジェネティックなヌクレオソームの特徴は、ヌクレオソーム関連リンカーDNA及び/又はヒストンH1と相互作用するか又は、ヌクレオソーム関連リンカーDNA及び/又はヒストンH1の安定性に影響を及ぼす。例えば、ヒストンアイソフォームmacroH2A(「mH2A」とも称される)の塩基性リンカーは、ヌクレオソームの入口/出口部位でリンカーDNAを安定化する(Bowerman及びWereszczynskiの文献、2016)。また、macroH2Aの存在は、インビボでのヒストンH1のクロマトソームへの天然の結合を置き換える。このため、macroH2Aは、リンカーDNAに結合するエレメント又はドメインを含むリンカーDNAの内部ヌクレオソーム結合剤とみなされることがある。従って、一実施態様において、macroH2A、又はmacroH2AのドメインであるリンカーDNA結合性配列、もしくはその操作された類似物が、ヌクレオソーム関連リンカーDNAに結合する高親和性結合剤として有用であり得る。
【0048】
一実施態様において、前記ヌクレオソーム関連リンカーDNAに結合する結合剤は、macroH2A、又はそれらの断片もしくは操作された類似物である。従って、本発明のさらなる態様により、生体液試料由来のリンカーDNAを伴わない無細胞ヌクレオソームからリンカーDNAを伴う無細胞ヌクレオソームを(例えば、アフィニティー精製によって)分離するための方法であって:
(i)該試料を、macroH2A、又はそれらの断片もしくは操作された類似物と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)でmacroH2Aに結合した該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0049】
ヒストンタンパク質と同様に、多くの(非ヒストン)クロマチン結合タンパク質が、リンカーDNAに結合するのに用いられ得る。そのようなタンパク質としては、限定するものではないが、クロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質(CHD)、DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ(DNMT)、高移動度群又は高移動度群ボックスタンパク質(HMG又はHMGB)、ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ(PARP)、メチル-CpG-結合ドメイン(MBD)を含むタンパク質、例えば、MECP2、及び非配列依存的な様式でヌクレオソームのリンカーDNAに結合する、転写因子p53などのある種の転写因子が挙げられる。
【0050】
一実施態様において、結合剤は、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合するクロマチン結合タンパク質に結合する。リンカーDNAの存在下でヌクレオソームに結合する「クロマチン結合タンパク質」への言及は、無細胞ヌクレオソームのリンカーDNA部分に結合するタンパク質(すなわち、付加物(adduct))を指す。従って、リンカーDNAの存在下でのみ優先的に又は選択的にのいずれかで結合するクロマチン結合タンパク質は、リンカーDNAが、無細胞ヌクレオソーム中に存在するかどうかを決定するマーカーとして用いられ得る。限定するものではないが、そのようなタンパク質としては、MBD、CHD、DNMT、及びPARPファミリーのタンパク質が挙げられる。これらのタンパク質ファミリーが、複数の成員を含むことが理解されるであろう。例えば、少なくとも9つのCHDファミリーの成員CHD1~CHD9が存在する。「クロマチン」という用語が、DNAが細胞内にパッケージングされたときにDNA及びヒストンタンパク質で形成される複合体を指すことが理解されるであろう。従って、ヒストンは、クロマチンの構成要素であり、「クロマチン結合タンパク質」という用語は、ヒストンタンパク質自体は含まない。このように、ヒストンタンパク質、例えば、H1、H2A、H2B、H3、及びH4は、クロマチン結合タンパク質ではなく、すなわち、クロマチン結合タンパク質は、ヒストンタンパク質ではない。
【0051】
クロマチン結合タンパク質は、インビボでその機能を発揮するためにリンカーDNAという文脈においてヌクレオソームに結合するDNA結合ドメインを含む。例えば、CHD1は、C-末端DNA結合ドメインを介してリンカーDNAに結合し、ATP加水分解に由来するエネルギーを用いてクロマチンをリモデリングする。認められるATP加水分解活性は、201bpのDNA断片を含むヌクレオソームにCHD1を添加する場合には高いが、遊離DNA又は147bpのDNA断片を含むヌクレオソームに添加する場合には低いか又は存在しない。DNA結合ドメインが存在しない切断型のCHD1タンパク質は、ヌクレオソームやDNAに結合せず、ATP加水分解活性をほとんど有しないか、又は全く有しない(Ryanらの文献、2011)。
【0052】
HMGタンパク質は、ヒストンH1に対する類似のヌクレオソームリンカーDNA結合性を有する。さらに、これは、リンカーDNA及びヌクレオソーム入口/出口ダイアドへの結合に関してヒストンH1と競争し、また、リンカーDNAをヌクレアーゼ消化から保護する(Nalabothulaらの文献、2014)。
【0053】
また、DNMT1は、少なくとも20bpのリンカーDNAを含むヌクレオソームに結合し、リンカーDNAを優先的にメチル化するが、リンカーDNAを含まないヌクレオソームには結合しない(Schraderらの文献、2015)。
【0054】
同様に、MBDタンパク質MECP2は、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合し、ヒストンH1結合と類似の様式で該リンカーDNAをヌクレアーゼ消化から保護するが、約11bp(ヒストンH1の場合の約20bpとは対照的に)のリンカーDNAのみを保護する(Dhasarathy及びWadeの文献、2008)。
【0055】
PARP-1は、露出した二本鎖切断を有するリンカーDNAを含むヌクレオソームに結合する。生細胞においては、PARP-1の結合は、タンパク質のコンフォメーション変化を誘導し、これは、そのDNA依存的活性化及びコアヒストンを含む標的タンパク質のポリ(ADP)-リボシル化をもたらす(Sultanovらの文献、2017)。
【0056】
これらのタンパク質は、リンカーDNAを含むモノヌクレオソームに結合するので、本発明者らは、そのような分子をリンカーDNAを伴うモノヌクレオソームを分離、精製、又は濃縮するのに直接用いられ得ると判断した。
【0057】
従って、一実施態様において、前記ヌクレオソーム関連リンカーDNAに結合する結合剤は、クロマチン結合タンパク質又はその断片もしくは操作された類似物である。本発明のさらなる態様により、生体液試料由来のリンカーDNAを伴わない無細胞ヌクレオソームからリンカーDNAを伴う循環無細胞ヌクレオソームを(例えば、アフィニティー精製によって)分離するための方法であって:
(i)該試料を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合するクロマチン結合タンパク質(又はその断片もしくは操作された類似物)と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)で該クロマチン結合タンパク質に結合した該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0058】
一実施態様において、生体液試料由来の疾患又は胎児起源の循環無細胞ヌクレオソームを(例えば、アフィニティー精製によって)単離するための方法であって:
(i)該試料を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合するクロマチン結合タンパク質と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)で該クロマチン結合タンパク質に結合しなかった該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0059】
一実施態様において、リンカーDNAに結合する前記クロマチン結合タンパク質は:
(a)クロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質;
(b)DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ;
(c)高移動度群ボックスタンパク質;
(d)ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ;
(e)メチル-CpG-結合ドメインタンパク質;又は
(f)転写因子
から選択される。
【0060】
一実施態様において、リンカーDNAに結合する前記クロマチン結合タンパク質は:
(a)クロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質;
(b)DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ;
(c)高移動度群ボックスタンパク質;
(d)ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ;又は
(e)メチル-CpG-結合ドメインタンパク質
から選択される。
【0061】
一実施態様において、リンカーDNAに結合する前記クロマチン結合タンパク質は:
(a)クロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質1(CHD1);
(b)DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ1(DNMT1);
(c)高移動度群ボックス1タンパク質(HMGB1);
(d)ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ1(PARP1);
(e)MBD1、MBD2、MBD3、MBD4、及びメチルCpG結合タンパク質2(MECP2)から選択されるメチル-CpG-結合ドメインタンパク質;又は
(f)p53
から選択される。
【0062】
一実施態様において、リンカーDNAに結合する前記クロマチン結合タンパク質は:
(a)クロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質1(CHD1);
(b)DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ1(DNMT1);
(c)高移動度群ボックス1タンパク質(HMGB1);
(d)ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼ1(PARP1);又は
(e)MBD1、MBD2、MBD3、MBD4、及びメチルCpG結合タンパク質2(MECP2)から選択されるメチル-CpG-結合ドメインタンパク質
から選択される。
【0063】
クロマチン部位CHD1、DNMT1、HMGB1、PARP1、MBD、及びp53は、リンカーDNAの結合剤である。
【0064】
本明細書に明示的に列挙されるクロマチン結合タンパク質は、当技術分野において公知である。これらタンパク質の天然配列は、公的に利用可能なデータベース、例えば、ユニバーサルタンパク質リソース(The Universal Protein Resource)「UniProt」(CHD1 UniProt ID: O14646; DNMT1 UniProt ID: P26358; HMGB1 UniProt ID: P09429; PARP1 UniProt ID: P09874; MBD1 UniProt ID: Q9UIS9; MBD2 UniProt ID: Q9UBB5; MBD3 UniProt ID: O95983; MBD4 UniProt ID: O95243; MECP2 UniProt ID: P51608)に見つけることができる。
【0065】
ヒストンH1タンパク質、又はリンカーDNAを含むヌクレオソームに結合する任意のクロマチン結合タンパク質もしくはタンパク質ドメインを、より高い結合親和性、もしくは向上した特異性(例えば、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームの結合を最小化すること)、又は双方を有するタンパク質又はペプチドを生じるように再設計し得る。従って、本発明の一実施態様において、クロマチン結合タンパク質は、リンカーDNAを含むヌクレオソームにより強力に結合しかつ/又はリンカーDNAを伴わないヌクレオソームにより弱く結合する変化させたアミノ酸配列を有する遺伝学的に再設計されたタンパク質である。タンパク質を再設計するための方法、例えば、(Wiesler及びWeinzierlの文献、2010)の方法は、当技術分野において周知である。好ましい実施態様において、遺伝子操作されたタンパク質は、H1の操作された類似物、すなわち、再設計されたH1部位である。
【0066】
一実施態様において、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合するクロマチン結合タンパク質は、CHD、DNMT、HMGB、MBD、及びPARPファミリーのタンパク質から選択される。本発明の文脈において対象となるタンパク質ドメインが、主にDNA結合ドメインであり、任意の他のドメイン(例えば、任意の酵素ドメイン又はクロマチンリモデリングドメイン)が、必須ではないことがあることが当業者には明らかであろう。従って、本明細書で開示される結合タンパク質の断片を用いてもよい。従って、別の実施態様において、結合タンパク質は、ヌクレオソームの文脈においてリンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質のDNA結合ドメインを含む。
【0067】
好ましい実施態様において、ヒストンH1タンパク質又はクロマチン結合タンパク質は、セファロース、セファデックス、プラスチック、又は磁気ビーズなどの固体の担体上にコーティングされる。一実施態様において、該固体の担体は、多孔質材料を含む。別の実施態様において、ヒストンH1タンパク質又はクロマチン結合タンパク質は、該ヒストンH1又はクロマチン結合タンパク質を、タグに結合するように誘導体化されている適当な担体に取りつけるのに使用することができるタグ又はリンカーを含むように誘導体化される。多くのそのようなタグ及び担体が、当技術分野において公知である(例えば、Sortag、クリックケミストリー、ビオチン/ストレプトアビジン、his-タグ/ニッケル又はコバルト、GST-タグ/GSH、抗体/エピトープタグ、及び他多数)。使用の容易さのために、ヒストンH1タンパク質又はクロマチン結合タンパク質でコーティングされた担体は、装置、例えば、マイクロ流体装置の内部に含まれていてもよい。
【0068】
一実施態様において、ヌクレオソームに結合したリンカーDNAと誘導体化ヒストンH1又はクロマチン結合タンパク質との間の結合は、液相で生じ得る(すなわち、固体の担体に誘導体化ヒストンH1又はクロマチン結合タンパク質を結合させる前に)。次に、誘導体化ヒストンH1又はクロマチン結合タンパク質の固体の担体への結合が、リンカー反応を用いて同時に又はそれに続き達成され得る。
【0069】
本発明のさらなる態様により、アフィニティー精製によって生体液試料由来のリンカーDNAを伴わない無細胞ヌクレオソームからリンカーDNAを伴う循環無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合するクロマチン結合タンパク質に結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0070】
本発明の本態様において、リンカーDNAを介するヌクレオソームの結合は、リンカーDNAを介してヌクレオソームに(直接)結合するタンパク質の結合によって間接的に生じる。
【0071】
一実施態様において、アフィニティー精製によって血液、血清、又は血漿試料から疾患又は胎児起源の循環無細胞ヌクレオソームを単離するための方法であって:
(i)該試料を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合するクロマチン結合タンパク質に結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0072】
一実施態様において、クロマチン結合タンパク質に結合する結合剤は、抗体(もしくはその結合性断片)、アフィマー、又はアプタマーから選択される。さらなる実施態様において、結合剤は、抗体である。
【0073】
クロマチン結合タンパク質に関して既に記載した実施態様は(直接的なヌクレオソーム結合剤として使用される場合には)、該クロマチン結合タンパク質を対象とする結合剤が用いられる本発明の本態様にも適用されることが理解されるであろう(すなわち、ヌクレオソーム結合の間接的な方法として)。
【0074】
一実施態様において、結合剤は、クロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質、DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼ、ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼタンパク質、及び/又はp53に結合するように仕向けられる。一実施態様において、結合剤は、高移動度群ボックスタンパク質に結合するように仕向けられていない。さらなる実施態様において、結合剤は、メチル-CpG-結合ドメインタンパク質に結合するように仕向けられていない。
【0075】
本発明のさらなる態様により、リンカーDNAに関連するコアヌクレオソームの特徴に結合する結合剤が提供される。リンカーDNAに関連する「コアヌクレオソームの特徴」への言及は、リンカーDNAを含むヌクレオソーム中でのみ生じるか又は主にその中で生じるコアヌクレオソーム粒子の特徴(例えば、H2A、H2B、H3、又はH4などのコアヒストンタンパク質のうちの1つ(それらの翻訳後修飾及びアイソフォームを含む))を指す。場合によっては、ヌクレオソームの特徴は、リンカーDNAに結合し、リンカーDNAを安定化し、又はリンカーDNAをヌクレアーゼ消化から保護し得る。
【0076】
ヒストンアイソフォームmacroH2Aを含むヌクレオソームは、リンカーDNAを安定化すると考えられている(Bowerman及びWereszczynskiの文献、2016)。本発明者らは、このタイプのヒストンアイソフォームが、リンカーDNAを含む無細胞ヌクレオソームとより優先的に関連し、従って、生体試料由来の健常起源のヌクレオソームを分離するマーカーとして用いられ得ることを見出だしている。従って、一実施態様において、リンカーDNAに関連するコアヌクレオソームの特徴は、ヒストンアイソフォームmacroH2Aである。
【0077】
従って、本発明のさらなる態様により、アフィニティー精製によって生体液試料由来のリンカーDNAを伴わない無細胞ヌクレオソームからリンカーDNAを伴う無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を、macroH2A又はその断片に結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0078】
一実施態様において、アフィニティー精製によって血液、血清、又は血漿試料から疾患又は胎児起源の循環無細胞ヌクレオソームを単離するための方法であって:
(i)該試料を、macroH2A又はその断片に結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0079】
本明細書に記載されるように、リンカーDNAを伴う又は伴わないヌクレオソームは、ヌクレオソームの周囲に巻きつけられたDNAの長さによって定義され得る。従って、本発明のさらなる態様により、生体液試料由来のリンカーDNAを伴わない無細胞ヌクレオソームからリンカーDNAを伴う無細胞ヌクレオソームを(例えば、アフィニティー精製によって)分離するための方法であって:
(i)該試料を、長さが150塩基対を超えるDNAを含むヌクレオソームに選択的に結合するように操作された結合剤と接触させる工程であって、該結合剤が、リンカーDNAを伴うヌクレオソームに関連するヌクレオソームの特徴に結合する、前記工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0080】
一実施態様において、アフィニティー精製によって血液、血清、又は血漿試料から疾患又は胎児起源の循環無細胞ヌクレオソームを単離するための方法であって:
(i)該試料を、長さが150塩基対を超えるDNAを含むヌクレオソームに選択的に結合するように操作された結合剤と接触させる工程であって、該結合剤が、リンカーDNAを伴うヌクレオソームに関連するヌクレオソームの特徴に結合する、前記工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0081】
これらのさまざまな特徴に基づく分離によって生じさせるヌクレオソームのサブセットは、異なるものであり得、研究目的の種々の応用及び臨床的応用に有用となり得る。例えば、ヌクレオソームの構造は、健康な細胞と比較してがん細胞では異なることがある。健康な細胞に由来するヌクレオソーム中よりもがん細胞に由来するヌクレオソーム中によくみられる(又は逆もまた同様である)これらの特徴のうちの1つ以上に結合するように仕向けられた抗体又は他の結合剤の使用は、正又は負の選択のいずれかによる、細胞起源の混合物を有する無細胞ヌクレオソームを含有する生体試料中の腫瘍起源の無細胞ヌクレオソームの分離を可能とする。本発明の応用としては、腫瘍由来のヌクレオソームの分離、妊娠中の女性から採取された試料中の母体及び胎児ヌクレオソームの分離、正常循環ヌクレオソームからの疾患由来のヌクレオソームの分離、メチル化された又はメチル化されていないDNAを含むヌクレオソームの分離、及び研究や他の目的に有用なヌクレオソームの種々のサブセットの分離が挙げられる。
【0082】
一実施態様において、長さが約150塩基対以上のDNAを含むヌクレオソームは、リンカーDNAを保持しているヌクレオソームを指す。ヌクレオソームコア粒子(すなわち、ヒストンH2A、H2B、H3、及びH4をそれぞれ1組含むヒストンオクタマー)は、145~150bpの間のDNA、特に、147bpのDNAなどの約150bpのDNAからなる。従って、150bpを超えるDNA(155bp、160bp、又は165bpを超えるDNAなど)を含むヌクレオソームは、リンカーDNAを含む。一実施態様において、結合剤は、少なくとも165塩基対のDNAからなるヌクレオソームに結合する。一実施態様において、結合剤は、約150bp以下のDNAを含むヌクレオソームに結合しない、すなわち、結合剤は、リンカーDNAを含むヌクレオソームに選択的に結合する。
【0083】
一実施態様において、結合剤は、リンカーDNA内の領域に結合する。この実施態様においては、結合剤は、ヒストン(コア)オクタマーと接触していないDNAの領域、すなわち、リンカーDNAに(直接)結合する。
【0084】
本明細書に記載される方法を、疾患起源の循環無細胞ヌクレオソームを、特に、健常起源の循環無細胞ヌクレオソームから単離、濃縮、及び/又は精製するのに用いてもよい。本明細書における「疾患起源」への言及は、疾患(例えば、異常な又は不健康な)細胞起源のヌクレオソーム及びクロマチン断片を指す。本明細書における、「健常起源」への言及は、健康な(例えば、正常な又は非疾患の)細胞起源のヌクレオソーム及びクロマチン断片を指す。
【0085】
結合剤が、リンカーDNAに関連する特徴に結合するよう仕向けられている場合、これを、試料由来の健常起源のヌクレオソームに結合(及びそれを除去)するように用いてもよいことが当業者により理解されるであろう。すなわち、疾患起源のヌクレオソームは、該試料の結合していない部分に得られる。このことは、従って、負の選択方法と呼ばれる。正又は負どちらの選択方法が用いられるかに応じて、どちらのヌクレオソーム画分が単離されるかを決定するであろう(すなわち、正の選択方法では結合した画分、負の選択方法では遊離の/溶出した画分)。
【0086】
一実施態様において、循環無細胞ヌクレオソームは、腫瘍起源のものである。従って、本方法は、試料を腫瘍起源の循環無細胞ヌクレオソームについて濃縮する方法としての特定の用途がある。次いで、濃縮された試料は、後続の分析のため、及び、例えば、診断法における使用のために使用され得る。
【0087】
ヌクレオソームの分離に用いられ得るリンカーDNAを含むヌクレオソーム(すなわち、「約165bp又はそれよりも長いDNAヌクレオソーム」又は「長いヌクレオソーム」を含むヌクレオソーム)に関連する特徴としては、ヒストンH1、macroH2A、及びリンカーDNAに結合するクロマチン結合タンパク質が挙げられる。一実施態様において、リンカーDNAの結合剤(例えば、ヒストンH1、CHD、DNMT、HMGB、PARP、及びmacroH2A、又はそのようなタンパク質のDNA結合ドメイン)を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに直接結合させそれを単離するのに用いてもよい。
【0088】
本発明の別の態様において、リンカーDNAを含むヌクレオソームは、macroH2A、CHD、DNMT、HMGB、及びPARPに対する結合剤などのこれらの特徴に対する抗体又は他の結合剤を用いて単離され得る。この実施態様において、リンカーDNAの結合剤をさらに含むリンカーDNAを含むヌクレオソームが、単離される。リンカーDNAを含みそのような特徴又は結合剤を含まないヌクレオソーム、例えば、「遊離の」リンカーDNAを含むヌクレオソームはいずれも、単離されない。一実施態様において、試料を、種々の異なる特徴に対する結合剤の混合物(例えば、固相基板上に固定化されたもの)に曝露して、任意の数の異なるリンカーDNAに関連するヌクレオソームの特徴を組み入れたリンカーDNAを含むヌクレオソームを単離してもよい。別の実施態様において、試料を、リンカーDNAに関連する異なるヌクレオソームの特徴に対する複数の結合剤に連続的に曝露させてもよい。
【0089】
発明の実施態様を、双方ともがH1、CHD、DNMT、HMGB、PARP、又はmacroH2Aなどの特徴をさらに含むか又は含まないリンカーDNAを含むヌクレオソームに結合するように組み合わせて用いてもよいことが理解されるであろう。この組み合わせは、試料を、複数の抗体及び/又はリンカーDNA結合タンパク質に連続的に又は同時に曝露させることを伴い得る。
【0090】
本明細書において必要に応じて試料由来のヌクレオソームを接触させかつ単離する方法は、当技術分野において周知であり、任意の適当な分離法を用い得る。例えば、分離法としては、アフィニティークロマトグラフィー又は磁気抗体ビーズが挙げられる。アフィニティーカラムクロマトグラフィー構成を用いる場合、例えば、試料を、必要とされる結合剤(複数可)を含むアフィニティーカラムに通してもよいことが理解されるであろう。固相に結合したヌクレオソーム又は通過画分(すなわち、非結合ヌクレオソーム)のいずれかを、本明細書に記載される正又は負の選択方法のいずれが採用されるかに応じて、さらなる分析のために集めてもよい。
【0091】
本発明の結合剤を、標的ヌクレオソームが、リンカーDNAの結合剤を既に含んでいるか否かにかかわらず用いてもよいことが理解されるであろう。そのような(すなわち、リンカーDNAが、別の分子に既に結合している)場合、単離は、ヌクレオソームに初めに結合していた結合剤と比較して、本発明の結合剤の高い相対濃度及び/又は高い相対的結合親和性に起因する、例えば、平衡及び速度論的理由による、本発明で用いられる結合剤への結合によるリンカーDNAの該結合剤の置換に基づく。
【0092】
特に、より高い結合親和性のタンパク質が、過剰に存在する場合には、より高い結合親和性のタンパク質が、より低い結合親和性のタンパク質をヌクレオソーム上のそれの位置から追い出すことは明らかである。この追い出しが生じる速度は、相対的な親和性、濃度、及び(現在)結合している部位の解離速度(off-rate)次第で決まるであろう。一実施態様において、H1を、結合剤として使用する。H1は、リンカーDNAを含むヌクレオソームに対して高い結合親和性を有しているという理由で、結合剤として有用である。
【0093】
一実施態様において、腫瘍ヌクレオソーム及び循環腫瘍DNA(ctDNA)の単離は、結合剤、例えば、CHD、DNMT、HMGB、PARP、MBD、又はmacroH2Aを対象とする結合剤を採用する免疫学的アフィニティー精製方法によって行われる。必要とされる標的に特異的に結合することができる任意の結合剤を、本発明のアフィニティー精製方法に使用し得ることは当業者には明らかであろう。そのような結合剤としては、限定するものではないが、抗体、アプタマー、アフィマー、又は結合タンパク質(例えば、ヌクレオソーム結合タンパク質)が挙げられる。
【0094】
抗体は、免疫化及びファージディスプレイなどのライブラリー法などの当技術分野において公知の種々の方法によって産生させ得る。免疫応答が、対象となる部位又は抗原に対して誘導され得るか、又はライブラリーが、対象となる部位又は抗原に対する結合に関して選択され得る。例えば、CHD1、DNMT1、HMGB1、PARP1、MBD、又はmacroH2Aに結合するよう仕向けられている抗体を、全タンパク質アミノ酸配列などの種々のそのような部位に対して産生させ得、これは、任意に、さらなるヒストン翻訳後修飾(PTM)を有していてもよい。タンパク質は、生細胞から精製され得るか、又は合成的に製造され得る。あるいは、該アミノ酸配列の一部を代表するペプチド配列を用いてもよく、これも、任意にヒストン翻訳後修飾を有していてもよい。必要とされる標的の任意の部分、又はそれの全てに結合するように仕向けられた結合剤が、本発明の方法で採用され得ることが当業者には明らかであろう。
【0095】
(リンカーDNAを伴わないヌクレオソーム)
短い150bp(又はそれよりも少ない)DNAヌクレオソームに優先的に又は選択的に関連する特徴も、ヌクレオソームの種類の分離のために同様に使用され得る。長さが約150塩基対未満のDNAを含むヌクレオソームが、リンカーDNAを失っているヌクレオソームを指すことが理解されるであろう。ヌクレオソームコア粒子(すなわち、ヒストンH2A、H2B、H3、及びH4のそれぞれの1組を含むヒストンオクタマー)は、145~150bpのDNA、特に、147bpのDNAなどの約150bpのDNAからなる。従って、約150bp未満のDNA(149bp未満、148bp未満、147bp未満、146bp未満、又は145bp未満のDNAなど)を含むヌクレオソームは、リンカーDNAを含まない。一実施態様において、結合剤は、149bp未満、148bp未満、147bp未満、146bp未満、又は145bp未満のDNAなどの150bp未満のDNAを含むヌクレオソームに選択的に結合する。一実施態様において、結合剤は、147bp未満のDNAからなるヌクレオソームに結合する。一実施態様において、結合剤は、150bpを超えるDNAを含むヌクレオソームに結合しない。すなわち、結合剤は、リンカーDNAを有さないヌクレオソームに選択的に結合する。
【0096】
本方法は、正の選択を用いて、リンカーDNAを含まないヌクレオソームへの結合によって疾患起源のヌクレオソームを分離(すなわち、精製)する。そのような特徴としては、例えば、限定するものではないが、コアヒストンテールのクリップピング及び三次フォールディングパターン並びに/又はヒストンアイソフォームH2AZの含有が挙げられる。ヒストンH2AZは、ヌクレアーゼ活性からのヌクレオソーム関連DNAの保護の減少と関連し(Bonischらの文献、2012)、ヒストンH2AZのレベルの上昇は、いくつかの悪性のがんと関連する(Yangらの文献、2018)。従って、一実施態様において、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームに関連するヌクレオソームの特徴は、ヒストンアイソフォームH2AZである。同様に、クロマチンタンパク質H2Abdb(ヒストンH2Aのアイソフォーム)及びCENP-A(ヒストンH3のアイソフォーム)は、ヌクレアーゼ活性からのヌクレオソーム関連DNAの保護の減少と関連する。H2Abdbは、より緩くDNA末端に結合することが示されており(Baoらの文献、(2004))、CENP-Aを含むヌクレオソームは、標準的なH3を含むヌクレオソームよりも容易に分解することが示されている(Conde e Silvaらの文献、(2007))。従って、さらなる実施態様において、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームに関連するヌクレオソームの特徴は、ヒストンアイソフォームH2Abdb又はCENP-Aである。
【0097】
上述の本発明のこれまでの態様は、リンカーDNAを含むヌクレオソームに対する結合剤を含む。ここで、本発明者らは、リンカーDNAを含まないヌクレオソーム(すなわち、約150bp以下のDNAを含むヌクレオソーム)に対する結合剤を説明する。従って、本発明のさらなる態様により、リンカーDNAを有さない短いDNA断片を含むヌクレオソームの特徴のみに結合する又はそれに優先的に結合する結合剤が提供される。(i)「クリッピングされたヒストン」の結合剤、(ii)コアヒストンアイソフォームH2AZの結合剤、及び(iii)リンカーDNAを有さない短いDNA断片を含むヌクレオソームに優先的に結合するように特異的に操作された結合剤を含む少なくとも3種類のそのような結合剤が存在する。
【0098】
従って、本発明のさらなる態様により、生体液試料由来のリンカーDNAを含まない循環無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を、クリッピングされた(すなわち、ヒストンテールの全て又は一部が存在しない)ヒストン分子に結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程.
を含む、前記方法が提供される。
【0099】
球状ドメインに加えて、コアヒストンH2A、H2B、H3、及びH4は、ヌクレオソームの外側に突き出るヒストンテールを含む。ヒストンテールは、メチル化、アセチル化、プロピオニル化、ブチル化、クロトニル化、2-ヒドロキシイソブチル化、マロニル化、スクシニル化、ホルミル化、ユビキチン化、シトルリン化、リン酸化、O-GlcNアシル化、及びADPリボシル化を含む種々の翻訳後修飾(PTM)を受けることがある。クロマチン内部の多様なヒストン修飾は、協調的な様式で遺伝子転写を調節するように働く。ヒストンの化学的PTMは、通常、ヒストン修飾酵素によるヒストン修飾の選択的な酵素による付加又は除去によって生じる。しかしながら、複数の既存のPTMも、ヒストンテールの調節されたタンパク質分解、又はクリップピングによって同時に物理的かつ不可逆的に除去され得る。ヒストンH3上で、クリップピングが、アミノ酸位置21の周囲で生じることが報告されている(Yi及びKimの文献、2018)。
【0100】
本明細書で使用される「クリッピングされたヒストン」という用語は、ヒストンテールの全て又は一部が除去されているヒストン分子を指す。ヌクレオソームは、ヒストンテールが除去された場合に球状構造を保持するが、ヌクレオソーム内のヒストンクリップピングは、関連DNAを、ヌクレアーゼ酵素による分解をますます受けやすくする(Dhaenensらの文献、2014)。従って、クリッピングされたヌクレオソームの結合剤を、リンカーDNAを含まないヌクレオソームに結合する手段として使用することができる。
【0101】
従って、本発明のさらなる態様により、生体液試料由来の無細胞ヌクレオソームを(例えば、アフィニティー精製によって)単離するための方法であって:
(i)該試料を、ヒストンテールの全て又は一部が除去されているヒストン分子を含むヌクレオソームに結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0102】
本発明の本態様を、リンカーDNAを伴わないヌクレオソーム(すなわち、結合剤に結合されたクリッピングされたヒストン)からリンカーDNAを伴うヌクレオソーム(すなわち、非結合ヌクレオソーム)を分離するのに用いてもよい。
【0103】
一実施態様において、生体液試料由来の疾患又は胎児起源の循環無細胞ヌクレオソームをアフィニティー精製によって単離するための方法であって:
(i)該試料を、ヒストンテールの全て又は一部が除去されているヒストン分子を含むヌクレオソームに結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0104】
一実施態様において、クリッピングされたヒストン分子を含むヌクレオソームは、155塩基対未満のDNAを含む。さらなる実施態様において、クリッピングされたヒストン分子を含むヌクレオソームは、150塩基対未満、例えば、148塩基対未満のDNA又は147塩基対未満のDNAを含む。
【0105】
一実施態様において、結合剤は、クリッピングされたヒストンH3タンパク質に結合する。さらなる実施態様において、結合剤は、アミノ酸残基30の後のエピトープ、すなわち、アミノ酸残基30~33のエピトープでヒストンH3に結合する。
【0106】
あるいは、ヒストンテールに結合する結合剤を、クリッピングされたヒストンを検出/単離するための負の選択方法において用いてもよい。従って、本発明のさらなる態様により、生体液試料由来の無細胞ヌクレオソームを(例えば、アフィニティー精製によって)単離するための方法であって:
(i)該試料を、ヌクレオソームのヒストンテールに結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0107】
本発明の本態様を、リンカーDNAを伴うヌクレオソーム(結合剤に結合されたヒストンテールを含むヌクレオソーム)からリンカーDNAを伴わないヌクレオソーム(すなわち、非結合ヌクレオソーム)を分離するのに用いてもよい。
【0108】
一実施態様において、結合剤は、ヒストンH3のヒストンテールに結合する。さらなる実施態様において、結合剤は、アミノ酸残基30の前のエピトープ、例えば、アミノ酸残基4~8のエピトープでヒストンH3に結合する。
【0109】
ヒストンアイソフォームH2AZは、ヌクレオソームの不安定性及びヌクレアーゼ活性からのヌクレオソーム関連DNAの保護の減少と関連する。ヒストンアイソフォームH2AZ2.2.を組み込んだヌクレオソームは、DNA消化に対して特に脆弱であり(Bonischらの文献、2012)、従って、ヒストンH2AZの結合剤は、長さが約150bp未満の短いDNA断片を含みリンカーDNAを含まないヌクレオソームに結合する手段として使用することができる。従って、一実施態様において、結合剤は、ヒストンH2AZに結合する。好ましい実施態様において、H2AZ分子は、H2AZ2.2である。
【0110】
従って、本発明のさらなる態様により、アフィニティー精製によって生体液試料由来のリンカーDNAを伴わない無細胞ヌクレオソームからリンカーDNAを伴う無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を、ヒストンH2AZ分子を含むヌクレオソームに結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0111】
一実施態様において、生体液試料由来の疾患又は胎児起源の循環無細胞ヌクレオソームをアフィニティー精製によって単離するための方法であって:
(i)該試料を、ヒストンH2AZ分子を含むヌクレオソームに結合する結合剤と接触させる工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0112】
結合剤は、リンカーDNAを有さない短いDNA断片を含むヌクレオソームに結合する一方で、リンカーDNAを含むヌクレオソーム(又はクロマトソーム)に結合しないか又は弱く結合するように特異的に操作され得る。そのような結合剤は、リンカーDNAを伴わない結合したヌクレオソームの単離によって、生体試料を腫瘍関連ヌクレオソーム又は胎児ヌクレオソームについて濃縮するのに使用し得る。同様に、結合剤は、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合する一方で、リンカーDNAを有さない短いDNA断片を含むヌクレオソームに結合しないか又は弱く結合するように特異的に操作され得る。そのような結合剤も、リンカーDNAを伴わない非結合ヌクレオソームの単離によって、生体試料を腫瘍関連ヌクレオソーム又は胎児ヌクレオソームについて濃縮するために使用することができる。好ましい実施態様において、抗体結合剤は、正及び負の選択が関与するライブラリー選択法によって、例えば、ファージディスプレイライブラリー抗体開発によって操作される。正の選択は、ファージ抗体ライブラリーを、リンカーDNAを伴わないヌクレオソーム(例えば、コアヒストンタンパク質及び145bpのDNAの断片から組み立てられる合成ヌクレオソーム)に曝露することによって行われる。リンカーDNAを伴わないヌクレオソームに強く結合する抗体はいずれも、この第1の工程における候補として選択される。次いで、正の抗体を発現しているファージに対して、それらがリンカーDNAを含むヌクレオソーム(例えば、コアヒストンタンパク質及び約167bp又は187bpのDNAの断片から組み立てられる合成ヌクレオソーム)に曝露される第2の負の選択工程を行う。リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合する抗体はいずれも、この第2工程において不合格とされる。リンカーDNAを有さないヌクレオソームに結合するがリンカーDNAを含むヌクレオソームには結合しない残りの抗体は、本発明における使用に適当な抗体結合剤として選択される。そのような抗体は、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームに特異的なコンフォメーション構造のためにこれらのヌクレオソームのみに存在するヌクレオソームエピトープ及び/又はリンカーDNAの存在下では(例えば、立体的な理由で)結合に利用可能ではないが、リンカーDNAが存在しない場合にはヌクレオソーム内で剥き出しとなるヌクレオソームエピトープに結合するように仕向けられ得る。
【0113】
本発明のさらなる態様により、アフィニティー精製によって生体液試料由来のリンカーDNAを伴わない無細胞ヌクレオソームからリンカーDNAを伴う無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を、長さが約150塩基対未満のDNAを含むヌクレオソームに選択的に結合するように操作された結合剤と接触させる工程であって、該結合剤が、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームに関連するヌクレオソームの特徴に結合する、前記工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0114】
一実施態様において、アフィニティー精製によって血液、血清、又は血漿試料から疾患又は胎児起源の循環無細胞ヌクレオソームを単離するための方法であって:
(i)該試料を、長さが約150塩基対未満のDNAを含むヌクレオソームに選択的に結合するように操作された結合剤と接触させる工程であって、該結合剤が、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームに関連するヌクレオソームの特徴に結合する、前記工程;及び
(ii)工程(i)の該結合剤に結合している該試料由来のヌクレオソームを単離する工程.
を含む、前記方法が提供される。
【0115】
一実施態様において、ヌクレオソームは、長さが約145塩基対のDNAなどの、長さが約147塩基対のDNAを含む。
【0116】
(結合剤)
必要とされる標的に特異的に結合することができる任意の結合剤を、本発明の方法に用い得ることは当業者に明らかであろう。そのような結合剤としては、限定するものではないが、抗体、アフィマー、アプタマー、又は結合タンパク質(例えば、ヌクレオソーム結合タンパク質)が挙げられる。一実施態様において、結合剤は、抗体(もしくはその断片)、アフィマー、又はアプタマー、特に、抗体から選択される。
【0117】
いくつかの実施態様において、ヒストンH1、macroH2A、又はクロマチン結合タンパク質(リンカーDNAに優先的に結合するもの)自体が、本発明の方法において結合剤として使用される。本発明者らは、驚くべきことに、そのようなタンパク質が、結合剤として直接用いられ得ることを見出している。理論に縛られることはないが、これらの別の結合タンパク質は、以前は、ヒストンH1がリンカーDNA(すなわち、本明細書に記載されるクロマチン結合タンパク質と同じ領域)に結合するものと理解されており、従って、別の結合剤を用い得ることが予期できないものであったという事実を踏まえれば特に驚くべきである。さらに、本発明の方法を、異なるエピジェネティックマーカーを用いるヌクレオソームへの結合によって、試料から異なるヌクレオソームの種類を単離するのに用いてもよい。
【0118】
結合剤の組み合わせを、すなわち、異なる種類のヌクレオソームについて濃縮するための一連の結合剤を調製するために本発明の方法で用いてもよいことが理解されるであろう。従って、一実施態様において、試料を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合する2種類以上の結合剤と接触させる。
【0119】
(ヌクレオソーム及びDNA分析)
本発明の方法によって単離されたヌクレオソーム及び/又は関連DNAは、イムノアッセイ、質量分析、DNAシークエンシング(すなわち、関連DNAを特定の遺伝子配列又はメチル化された遺伝子配列に関して分析すること)、エピジェネティックシグナル構成(epigenetic signal structure)、又は他の特性によって分析され得る。
【0120】
ヌクレオソーム画分(特に、疾患(例えば、腫瘍)起源について濃縮されたヌクレオソーム画分)が単離されてしまえば、ヌクレオソーム関連DNAは、例えば、遺伝子又はDNA配列マーカーに関して分析され得る。従って、一実施態様において、本方法は:
(i)本明細書で規定される方法を用いて疾患起源のヌクレオソームを単離すること(すなわち、濃縮すること);及び
(ii)工程(i)で単離された該ヌクレオソームに関連するDNAを分析すること
を含む。
【0121】
好ましい実施態様において、血漿試料は、がんが疑われる又はがんと診断された対象から採取される。血漿試料中のリンカーDNAを伴わないヌクレオソームが、本明細書に記載される方法によって単離又は濃縮される。腫瘍起源について濃縮されたヌクレオソームに関連するDNAを抽出して、長さが約150bp未満のサイズ選択されたDNA断片ライブラリーを生じさせる。DNAを、がん関連変異異常及び/又は変異アレル分率及び/又は遺伝子メチル化異常に関して分析する。
【0122】
限定するものではないが、次世代シークエンシング(ターゲット又は全ゲノム)及びメチル化DNAシークエンシング分析などのDNAシークエンシング、ビーミング、デジタルPCR及びcold PCR(低変性温度PCRでの共増幅)などのPCR、等温増幅、ハイブリダイゼーション、MIDI活性化加ピロリン酸分解(MAP)、又は再配列末端の個別化分析(PARE)などの任意のDNA分析方法が採用され得る。
【0123】
DNA分析は、ヌクレオチド置換、ヌクレオチド挿入、ヌクレオチド欠失、メチル化されたDNA配列、又は他のDNA配列変異などの任意の遺伝子DNAマーカーに関する分析を含み得る。そのような分析において調査され得る典型的ながん関連DNA異常としては、限定するものではないが、点変異、転座、遺伝子コピー数変異、マイクロサテライト異常、DNA鎖完全性、及び遺伝子メチル化状態が挙げられる。
【0124】
多数の遺伝子が、がん患者において一般的に変異型であることが分かっているが、任意の特定の変異は、がん患者のほんの一部にのみで生じていそうである。しかしながら、全てのがん患者は、いくつかの変異を有しており、従って、任意の特定の患者において少なくとも1つの変異を検出する確率は、可能性のある試験される変異の数とともに増加する。このため、一連の遺伝子変異に関して試験をすることが普通である。そのようなパネルは、限定するものではないが、ABL1、ACVR1、ACVR1B、ACVR2A、AJUBA、AKT1、AKT2、AKT3、ALB、ALK、AMER1、APC、APEX1、APLNR、APOB、AR、ARAF、ARHGAP35、ARID1A、ARID2、ARID5B、ATF7IP、ATM、ATP11B、ATR、ATRX、ATXN3、AURKA、AXIN1、AXIN2、B2M、BAP1、BCL2、BCL2L1、BCL2L11、BCL9、BCOR、BIRC2、BIRC3、BRAF、BRCA1、BRCA2、BRD7、BTG2、BTK、CARD11、CASP8、CBL、CCND1、CCND2、CCND3、CCNE1、CD44、CD70、CD79B、CDH1、CHD3、CHD8、CDK12、CDK2、CDK4、CDK6、CDKN2A、CDKN2B、CEBPA、CHD4、CHEK2、COL5A1、CREBBP、CSF1R、CSNK2A1、CTNNB1、CTNND1、CUL1、CUL3、CYP2C19、CYP2D6、DACH1、DCUN1D1、DDR2、DICER1、DNMT3A、DPYD、EEF2、EGFR、ELF3、EP300、EPHA2、EPHA3、EPHA5、ERBB2、ERBB3、ERBB4、ERCC2、ESR1、EZH2、FANCA、FANCC、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCI、FANCL、FAS、FAT1、FBXW7、FGF3、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、FLCN、FLT1、FLT3、FLT4、FOXA1、FOXA2、FOXQ1、GAS6-AS1、GATA1、GATA2、GATA3、GATA6、GNA11、GNAQ、GNAS、H3F3A、H3F3C、HGF、HIST1H3B、HNF1A、HRAS、IDH1、IDH2、IGF1R、IL6、IL6ST、IL7R、INSR、JAK1、JAK2、JAK3、KDM6A、KDR、KEAP1、KIT、KNSTRN、KRAS、KMT2A、KMT2B、KMT2C、KMT2D、LYN、MAGOH、MAP2K1、MAP2K2、MAP2K4、MAP3K1、MAP3K4、MAPK1、MDM2、MDM4、MECOM、MED12、MEN1、MET、MGA、MLH1、MPL、MRE11A、MSH2、MSH3、MSH6、MTOR、MUC6、MYC、MYCL、MYCN、MYD88、MYO18A、NCOR1、NF1、NF2、NFE2L2、NKX2-1、NKX2-8、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH3、NPM1、NRAS、NSD1、NTRK1、NTRK2、NTRK3、NUP133、NUP93、PALB2、PAX5、PBRM1、PD-1、PDGFRA、PDGFRB、PD-L1、PD-L2、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CG、PIK3R1、PIK3R2、PIM1、POLD1、POLE、PPP2R1A、PPP6C、PRKAR1A、PRKCI、PRKDC、PSIP1、PMS2、PTCH1、PTEN、PTMA、PTPDC1、PTPN11、PTPRC、PTPRD、RAC1、RAD21、RAD50、RAD51、RAD51B、RAD51C、RAD51D、RAF1、RARA、RASA1、RB1、RBM10、RET、RFC1、RHEB、RHOA、RHOB、RICTOR、RNF43、ROS1、RPS6KA3、RPS6KB1、RPTOR、RQCD1、RRAS2、RUNX1、RUNX1T1、RXRA、SCAF4、SETBP1、SETD2、SF1、SF3B1、SIN3A、SLX4、SMAD2、SMAD4、SMARCA1、SMARCA4、SMARCB1、SMC1A、SMC3、SMO、SOS1、SOX17、SOX2、SOX9、SPOP、SPTA1、SPTAN1、SRC、SRSF2、STAG2、STAT3、STK11、TAF1、TBL1XR1、TBX3、TCEB1、TCF12、TCF7L2、TET2、TGFBR2、TGIF1、THRAP3、TLR4、TMSB4X、TNFAIP3、TOP1、TOP2A、TP53、TPMT、TRAF3、TSC1、TSC2、TSHR、TXNIP、U2AF1、UGT1A1、UNCX、USP9X、VHL、WHSC1、WT1 XPO1、及びZFHX3遺伝子における1つ以上の変異を含む。
【0125】
同様に、多くの遺伝子が、がんにおける示差的シトシンメチル化状態のマーカーとして調査されている。それらのうちの一部は、SEPTIN-9、APC、DAPK、GSTP1、MGMT、p16、RASSF1A、TIG1、BRCA1、ERα、PRB、TMS1、MLH1、HLTF、CDKN2A、SOCS1、SOCS2、PAX5、PGR、PTGS2、及びRARβ2である。
【0126】
さらに、本発明の別の態様により、生体液試料由来の精製された循環腫瘍DNA(ctDNA)を単離するための方法であって:
(i)本明細書で規定される方法を行う工程;及び
(ii)前記単離されたヌクレオソーム由来の該DNAを分析する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0127】
本発明の本態様は、リンカーDNAを伴わないヌクレオソーム(すなわち、本発明の第2の態様において単離されたもの)を分析するという特定の用途を見出す。これは、そのようなヌクレオソームが、疾患起源であると予測されるためである。任意に、単離されたヌクレオソームに関連するDNAは、分析の前に抽出される。多くの抽出されたDNAの分析方法が、当技術分野において公知である。あるいは、DNAは、直接、すなわち、抽出を必要とすることなく分析される。
【0128】
単離された無細胞ヌクレオソームが、腫瘍起源のものである場合、元の(未処理の)試料中に存在するヌクレオソームの比率として検出される単離された腫瘍ヌクレオソームのレベルを、試料中の循環腫瘍DNA(ctDNA)を含むDNAの比率の指標として用い得る。さらに、反対のレベルは、該試料中の健常起源のDNAの比率である。従って、本明細書に記載される方法を、試料中のctDNAのレベル/比率又はそのようなレベルの経時的な変化を検出するのに用いてもよい。そのような測定は、ctDNAにおけるがん関連変異の変異アレル分率測定に類似し、腫瘍負荷及び療法への反応の測定として用いられ得る。
【0129】
また、疾患(例えば、腫瘍)起源について濃縮されたヌクレオソームを、エピジェネティックマーカー(「エピジェネティックエピトープ」)に関して分析してもよく、該ヌクレオソームに対して、さらなる濃縮方法を行ってもよい。従って、一実施態様において、本方法は:
(i)疾患起源の無細胞ヌクレオソームを本明細書で規定される方法によって単離すること(すなわち、濃縮すること);
(ii)工程(ii)で単離された該無細胞ヌクレオソームを分析すること
を含む。
【0130】
一実施態様において、分析工程は、前記単離された無細胞ヌクレオソームを、以下:ヒストンの種類(例えば、H1、H2A、H2B、H3、H4ヒストン)、ヒストン翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム、特定のヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド(例えば、メチル化、ヒドロキシルメチル化、もしくは他のヌクレオチド修飾)、又はそれらの組み合わせから選択されるエピジェネティックなヌクレオソームの特徴に関して、又は該ヌクレオソームに付加した他のタンパク質の存在に関して分析することを含む。
【0131】
検出された、修飾ヌクレオチド、ヒストン翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム、又はヌクレオソーム-タンパク質付加物を含む、濃縮された疾患起源の無細胞ヌクレオソームの存在又はレベルを、疾患の状態、疾患の予後、疾患のモニタリング、治療のモニタリング、微小残存病変、又は特定の治療に対する疾患感受性の指標として、又は他の臨床的応用のために用い得る。
【0132】
単離された疾患起源のヌクレオソームの分析は、それらのうちの多くが当技術分野において公知である任意の適当な分析方法を伴い得る。これらの方法としては、限定するものではないが、DNAなどのよくあるヌクレオソームエピトープに対するか、又はヒストン修飾、ヒストンバリアント、DNA修飾、又はヌクレオソームに付加された他の分子などの対象となるエピジェネティックな構造に対する抗体又は他の結合剤を用いるイムノアッセイによる分析が挙げられる。これらの方法には、引用により本明細書に組み込まれているWO2005/019826、WO2013/030577、WO2013/030579、及びWO2013/084002に記載される方法の全てが含まれる。限定するものではないが、これらの方法のうちのいずれかが、本発明と組み合わせて採用され得る。また、これらの方法は、疾患起源の循環ヌクレオソーム中に存在する複数のエピトープの分析のための多重方法を含む。
【0133】
また、本発明の方法によって単離された疾患起源のヌクレオソームの分析は、限定するものではないが、電気泳動法、クロマトグラフ法などの当技術分野において公知の任意のプロテオミクス法、並びにクロマトグラフィー及び質量分析、及び/又は安定同位体標識質量分析、及び/又は質量分析による同定及び/又は定量のためのペプチドを生成するタンパク質消化が関与する方法、又は任意の他の方法との任意の組み合わせ質量分析法が関与する方法などの質量分析が関与する任意の方法を伴い得る。
【0134】
一実施態様において、エピトープは、ヒストン修飾(例えば、ヒストン翻訳後修飾[PTM])、修飾されたヌクレオチド、ヒストンバリアントもしくはアイソフォーム、又はヌクレオソーム付加物もしくはそのバリアントから選択される。さらなる実施態様において、修飾されたヌクレオチドは、5-メチルシトシンを含む。
【0135】
種々のエピジェネティックに修飾されたヌクレオチドが、文献に記載されており、DNA及び/又はDNAヌクレオチド残基におけるエピジェネティックな修飾パターンが、がんにおいて変化していることが知られている。これらのうちで最もよく記述されているものは、シトシンの5位でのメチル化、すなわち、「5-メチルシトシン」を含む。5-メチルシトシンを含むDNAは、多くの場合、「メチル化DNA」と呼ばれる。がん細胞におけるDNAのメチル化は、健康な細胞のDNAと比較して約50%減少すると推定されている(Guerrero-Prestonらの文献、2007;Soaresらの文献、1999)。しかしながら、循環ヌクレオソームのレベルのがんに関連する増加は、数倍となることもある(Holdenriederらの文献、2001及びSchwarzenbachらの文献、2011)。
【0136】
さらなるエピジェネティックエピトープに関するアッセイを、分離して又はアッセイパネルの一部として行ってもよい。
【0137】
一実施態様において、本明細書に記載される方法によって得た単離されたヌクレオソーム試料に対して、さらなる濃縮工程を行う。従って、一実施態様において、本発明の方法は、該単離されたヌクレオソームを、ヒストンH3.1及び/又はH3.2及び/又はH3t結合剤と接触させることをさらに含む。ヒストン3アイソフォーム、H3.1、H3.2、及びH3tを、ctDNA濃縮に用い得ることは、既に示されている。
【0138】
(結合剤を得る方法)
本明細書に記載されるヌクレオソーム関連DNA断片サイズの差を利用して、本発明における使用のための結合剤を設計し入手してもよい。短い、例えば、150bp未満のDNAのヌクレオソームに優先的に結合する結合剤又は抗体を得るための方法の1つは、それに対して抗体を産生させる抗原として、約147bpのDNAを含む組換え又は合成ヌクレオソームを用いることである。この方法の好適な態様において、短いDNAのヌクレオソームに結合する抗体又は結合剤も、負の選択を目的としてより長い約167bpのDNAのヌクレオソームに対する結合に関して試験される。この方法によって、短いDNAのヌクレオソームに結合するが長いDNAのヌクレオソームには結合しない抗体を、短いDNAのヌクレオソームの濃縮又は精製のための試薬として選択しかつ生成させることができる。
【0139】
本発明のさらなる態様により、疾患起源の無細胞ヌクレオソームに優先的に結合する抗体又は他の結合剤を得るための方法であって:
(i)約150塩基対以下のDNAを含むヌクレオソームを、それに対して抗体又は他の結合剤を生じさせる抗原として用いる工程;
(ii)工程(i)で得た該抗体又は他の結合剤を、約165塩基対以上のDNAを含むヌクレオソームに提示する工程;及び
(iii)工程(i)の該ヌクレオソームに結合するが、工程(ii)の該ヌクレオソームには結合しない(又は弱く結合するのみである)該抗体又は他の結合剤を選択する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0140】
本発明のさらなる態様により、非疾患起源の無細胞ヌクレオソームに優先的に結合する抗体又は他の結合剤を得るための方法であって:
(i)約165塩基対以上のDNAを含むヌクレオソームを、それに対して抗体又は他の結合剤を生じさせる抗原として用いる工程;
(ii)工程(i)で得た該抗体又は他の結合剤を、約150塩基対以下のDNAを含むヌクレオソームに提示する工程;及び
(iii)工程(i)の該ヌクレオソームに結合するが、工程(ii)の該ヌクレオソームには結合しない(又は弱く結合するのみである)該抗体又は他の結合剤を選択する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0141】
一実施態様において、抗原として使用されるヌクレオソームは、組換え又は合成ヌクレオソームである。短いヌクレオソームの結合剤の作製又は試験における使用のためのヌクレオソームは、約150塩基対以下、例えば、147塩基対以下又は145塩基対以下などを含んでいてもよい。リンカーDNAを含むヌクレオソームの結合剤の作製又は試験における使用のためのヌクレオソーム(又はオリゴヌクレオソームもしくは他のクロマチン断片)は、約155塩基対以上、例えば、160塩基対以上、又は165塩基対以上、又は167塩基対以上などを含んでいてもよい。
【0142】
本方法の好ましい実施態様において、ファージディスプレイライブラリー抗体選択が、抗体を特定するのに用いられる。例えば、ファージディスプレイライブラリーを、長いDNAのヌクレオソームに結合するファージ系統(phage line)の負の選択と共に、短いDNAのヌクレオソームに結合するファージ系統の正の選択に用い得る。従って、一実施態様において、本方法は、ファージディスプレイライブラリー抗体選択を含む。
【0143】
本発明のさらなる態様により、リンカーDNAを含むヌクレオソームに選択的に結合する一方で、短いDNA断片を含むヌクレオソーム(すなわち、リンカーDNAを伴わないヌクレオソーム)に結合しないか又は弱く結合する結合剤の製造のための方法であって:
(i)結合剤ライブラリーをヌクレオソームと接触させる工程;
(ii)工程(i)で約165塩基対を超えるDNAを含むヌクレオソームに結合する結合剤を単離する工程;
(iii)工程(ii)で単離された結合剤を、長さが約150塩基対未満のDNAを含むヌクレオソームと接触させる工程;及び
(iv)工程(iii)で長さが約150塩基対未満のDNAを含むヌクレオソームに結合しないか又は弱く結合する結合剤を単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0144】
従って、本発明のさらなる態様により、短いDNA断片(すなわち、リンカーDNAを伴わないヌクレオソーム)を含むヌクレオソームに選択的に結合する一方で、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合しないか又は弱く結合する結合剤の製造のための方法であって:
(i)結合剤ライブラリーをヌクレオソームと接触させる工程;
(ii)工程(i)で150塩基対未満のDNAを含むヌクレオソームに結合する結合剤を単離する工程、
(iii)工程(ii)で単離された結合剤を、長さが165塩基対を超えるDNAを含むヌクレオソームと接触させる工程;及び
(iv)工程(iii)で長さが165塩基対を超えるDNAを含むヌクレオソームに結合しないか又は弱く結合する結合剤を単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0145】
(抗体結合剤を用いる方法)
さらなる実施態様において、本明細書に記載される方法は、工程(i)で結合させた前記試料を、ヌクレオソーム又はその構成要素に結合する第2の結合剤と接触させることをさらに含んでもよい。従って、本方法は、2つの結合剤と共に用いられて、本明細書に記載される方法によって単離されたヌクレオソームの内容(the content of the nucleosomes)を決定し得る。
【0146】
リンカーDNAを含むヌクレオソームへの結合に選択的な又はリンカーDNAを伴わないヌクレオソーム選択的な抗体を、本発明のイムノアッセイ方法で、そのようなヌクレオソームの直接の指標(measure)として用いてもよい。本発明のさらなる態様により、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームの検出又は測定のためのイムノアッセイであって:
(i)該試料を、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームに選択的に結合する抗体結合剤と接触させる工程;
(ii)工程(i)で結合させた前記試料を、ヌクレオソーム又はその構成要素に結合する第2の結合剤と接触させる工程;及び
(iii)該試料中の該ヌクレオソームに対する該第2の結合剤の結合を検出又は測定する工程;及び
(iv)そのような結合の存在又は度合いを、該試料中のリンカーDNAを伴わない無細胞ヌクレオソームの指標として用いる工程
を含む、前記イムノアッセイが提供される。
【0147】
本発明のさらなる態様により、リンカーDNAを含むヌクレオソームの検出又は測定のためのイムノアッセイであって:
(i)該試料を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに選択的に結合する抗体結合剤と接触させる工程;
(ii)工程(i)で結合させた前記試料を、ヌクレオソーム又はその構成要素に結合する第2の結合剤と接触させる工程;及び
(iii)該第2の結合剤の該試料中の該ヌクレオソームへの結合を検出又は測定する工程;及び
(iv)そのような結合の存在又は度合いを、該試料中のリンカーDNAを含む無細胞ヌクレオソームの指標として用いる工程
を含む、前記方法が提供される。
【0148】
また、リンカーDNAを含むヌクレオソームへの結合に選択的であるか又はリンカーDNAを伴わないヌクレオソームに選択的である抗体は、本発明の濃縮方法にも用いられ得る。
【0149】
(非抗体結合剤を用いるイムノアッセイ方法)
本発明者らは、驚くべきことに、ヌクレオソームに結合するタンパク質を、無細胞ヌクレオソームの分離及び検出方法に直接使用することができることを見出している。そのような方法は、抗体を産生させる必要性を回避して、代わりに、天然のタンパク質を利用することができる。従って、さらなる態様により、体液試料からの無細胞ヌクレオソームの単離のための結合タンパク質の使用が提供される。
【0150】
本発明のさらなる態様により、生体液試料中の無細胞ヌクレオソームを検出するイムノアッセイ方法であって:
(i)該試料を、ヒストンH1、macroH2A、クロマチン結合タンパク質、又はそれらの断片、類似物、もしくは操作された誘導体から選択される第1の結合剤と接触させる工程;
(ii)工程(i)で結合させた前記試料を、ヌクレオソーム又はその構成要素に結合する第2の結合剤と接触させる工程;及び
(iii)該試料中の該ヌクレオソームへの該第2の結合剤の結合を検出又は測定する工程;及び
(iv)そのような結合の存在又は度合いを、該試料中の無細胞ヌクレオソームの指標として用いる工程
を含む、前記イムノアッセイ方法が提供される。
【0151】
別の態様において、生体液試料中の無細胞ヌクレオソームを検出するイムノアッセイ方法であって:
(i)該試料を、ヌクレオソーム又はその構成要素に結合する第1の結合剤と接触させる工程;
(ii)工程(i)で結合させた前記試料を、ヒストンH1、macroH2A、クロマチン結合タンパク質、又はそれらの断片、類似物、もしくは操作された誘導体から選択される第2の結合剤と接触させる工程;及び
(iii)該試料中の該ヌクレオソームへの該第2の結合剤の結合を検出又は測定する工程;及び
(iv)そのような結合の存在又は度合いを、該試料中の無細胞ヌクレオソームの指標として用いる工程
を含む、前記イムノアッセイ方法が提供される。
【0152】
一実施態様において、クロマチン結合タンパク質は、リンカーDNAと関連する。さらなる実施態様において、クロマチン結合タンパク質は、以下:MBD、HMGB、CHD、DNMT、及びPARPから選択される。
【0153】
さらなる態様により、生体液試料中の無細胞ヌクレオソームを検出するイムノアッセイ方法であって:
(i)該試料を、ヌクレオソーム又はその構成要素に結合する第1の結合剤と接触させる工程;
(ii)工程(i)で結合させた前記試料を、以下:CHD、DNMT、PARP、及びMBDから選択されるクロマチン結合タンパク質に結合する第2の結合剤と接触させる工程;及び
(iii)該試料中の該クロマチン結合剤への該第2の結合剤の結合を検出又は測定する工程;及び
(iv)そのような結合の存在又は度合いを、該試料中の無細胞ヌクレオソームの指標として用いる工程
を含む、前記イムノアッセイ方法が提供される。
【0154】
さらなる態様により、生体液試料中の無細胞ヌクレオソームを検出する方法であって:
(i)該試料を、以下:CHD、DNMT、PARP、及びMBDから選択されるクロマチン結合タンパク質に結合する第1の結合剤と接触させる工程;
(ii)工程(i)で結合させた前記試料を、ヌクレオソーム又はその構成要素に結合する第2の結合剤と接触させる工程;及び
(iii)該試料中の該ヌクレオソームへの該第2の結合剤の結合を検出又は測定する工程;及び
(iv)そのような結合の存在又は度合いを、該試料中の無細胞ヌクレオソームの指標として用いる工程
を含む、前記方法が提供される。
【0155】
(循環細胞外小胞)
血液は、DNA、ヌクレオソーム、及び/又は他のタンパク質-核酸複合体を含有するか又はそれらに結合しているいくつかの細胞外小胞(ECV)を含有している。エキソソームは、ヌクレオソーム及び/又はDNA及び/又は他のクロマチン断片を含み得るECVの一例である。リンカーDNAを含むヌクレオソームなどの、エキソソーム又は他のECVに関連するヌクレオソームは、クロマチンタンパク質又は他の結合剤への結合から保護されているか又はその影響をより受けにくいことがあり、従って、これらの部位が本発明の方法で用いられる場合、結合していないままであることもある。本明細書に記載される方法を用いてタンパク質に結合されないリンカーDNAを含む任意のそのようなECV関連ヌクレオソームは、上清にとどまるであろう。この作用は、試料からのエキソソーム及び/又は他のECVの除去によって防止し得る。
【0156】
従って、本発明のさらなる態様により、アフィニティー精製によって生体液試料由来のリンカーDNAを伴わない無細胞ヌクレオソームからリンカーDNAを伴う無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料からエキソソーム又は他のECVを除去する工程;
(ii)該試料を、ヌクレオソーム関連リンカーDNAに結合する結合剤と接触させる工程;及び
(iii)工程(ii)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0157】
上記工程(i)及び工程(ii)を、任意の順番で又は並行して行ってもよいことが当業者には分かるであろう。
【0158】
ECVに対する多くの結合剤が、当技術分野において公知であり、試料由来のECVに結合させ除去する目的のために用いられ得る。試料からのエキソソーム及び他のECVの単離のための市販の製品も、利用可能である。レクチンは、大部分の又は全てのエキソソームに結合することが知られているタンパク質である。従って、一実施態様において、エキソソーム又は他のECVは、レクチンを用いて試料から除去される。本発明の好ましい実施態様において、レクチンタンパク質が、固相担体に取り付けられ、試料中に存在するエキソソーム及び他のECVに結合するのに用いられる。レクチンタンパク質への曝露後には、試料上清のエキソソーム/ECVは枯渇しており、従って、リンカーDNAを含むエキソソーム又はECV関連ヌクレオソームはすべて枯渇している。
【0159】
従って、本発明の一実施態様において、アフィニティー精製によって生体液試料由来のリンカーDNAを伴わない無細胞ヌクレオソームからリンカーDNAを伴う無細胞ヌクレオソームを分離するための方法であって:
(i)該試料を、レクチン部位と接触させる工程;
(ii)該試料を、ヌクレオソーム関連リンカーDNAに結合する結合剤と接触させる工程;及び
(iii)工程(ii)の該結合剤に結合していない該試料由来のヌクレオソームを単離する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0160】
上記工程(i)及び工程(ii)を、任意の順番で又は並行して行ってもよいことが当業者には分かるであろう。好ましい実施態様において、試料は、血漿試料である。
【0161】
(がんの検出及び治療の方法)
本発明のさらなる態様により、体液中のリンカーDNAほとんど又は全く含まないヌクレオソームの存在及び/又はレベルを測定又は検出し、検出されたレベルを、限定するものではないが、疾患の臨床診断、疾患のタイプ又はサブタイプの示差的診断、又は疾患の予後、又は疾患の再発、又は治療計画に対する対象の感受性の診断などの、対象の疾患の状態のバイオマーカーとして(単独で、一連の試験の1つとしてのいずれかで)用いることにより疾患の存在を検出又は診断するためのアッセイ方法が提供される。診断試験に使用される体液としては、限定するものではないが、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液、及び他の体液が挙げられることが当業者には分かるであろう。好ましい実施態様において、試料として選択される体液は、血液、血清、又は血漿である。体液中の単離されたリンカーDNAをほとんど又は全く含まないヌクレオソームは、質量分析やイムノアッセイなどの種々の方法によって測定され得る。あるいは、ヌクレオソーム関連DNAは、限定するものではないが、クロマトグラフィー、電気泳動、PCR、及びDNAシークエンシング法などの物理的又は化学的方法で測定され得る。
【0162】
体液中のリンカーDNAをほとんど又は全く含まないヌクレオソームのアッセイでの反応、レベル、濃度、又は量は、絶対的な見地又は相対的見地で、例えば、限定するものではないが、存在する総ヌクレオソームレベルの割合として、又は別のヌクレオチドもしくはヒストンバリアントもしくはヒストンPTMのレベルに対する比率もしくは総DNAのレベルに対する比率として表され得る。一実施態様において、試料中のリンカーDNAを含む又は含まないヌクレオソームの比率が、がんのマーカーとして使用される。従って、高い[リンカーDNAを伴わないヌクレオソーム]/[リンカーDNAを伴うヌクレオソーム]比は、がんであることを表す。同様に、[長さが150bp未満のDNA断片]/[長さが150bp超のDNA断片]の量又は濃度の比率を決定してもよく、又は変異アレル分率を決定してもよい。DNA断片サイズについての150bpのカットオフは、例としてここで用いられている。他のカットオフを用いてもよい。
【0163】
本明細書に記載される方法を、診断の方法と併用してもよい。例えば、試料を、本明細書に記載される方法を用いて濃縮してDNA又は腫瘍起源の無細胞ヌクレオソームを単離してもよく、次いで、濃縮した試料を、疾患と関連するさらなるエピジェネティックマーカーを検出することによる診断の方法に用いてもよい。
【0164】
従って、本発明のさらなる態様により:
(i)本明細書で規定される方法を行って、患者から得た生体試料由来の循環腫瘍ヌクレオソームを単離すること;及び
(ii)該単離された循環腫瘍ヌクレオソーム及び/又は関連DNAを分析すること
を含むがんを診断する方法が提供される。
【0165】
一実施態様において、工程(ii)は、単離された循環腫瘍ヌクレオソームを、以下:ヒストンの種類(例えば、H2A、H2B、H3、H4ヒストン)、ヒストン翻訳後修飾、ヒストンアイソフォーム、特定のヌクレオチドもしくは修飾されたヌクレオチド(例えば、メチル化、ヒドロキシルメチル化、もしくは他のヌクレオチド修飾)、該ヌクレオソームに付加されたタンパク質、又はそれらの組み合わせから選択されるエピジェネティックなヌクレオソームの特徴に関して分析することを含む。
【0166】
一実施態様において、関連DNAは、DNAシークエンシング、例えば、次世代シークエンシング(ターゲット又は全ゲノム)及びメチル化DNAシークエンシング分析から選択されるシークエンシング法、ビーミング、デジタルPCR及びcold PCR(低変性温度PCRでの共増幅)などのPCR、等温増幅、ハイブリダイゼーション、MIDI活性化加ピロリン酸分解(MAP)、又は再配列末端の個別化分析(PARE)を用いて分析される。
【0167】
本発明のさらなる態様により、動物又はヒト対象においてがんを診断又は検出する方法であって:
(i)本明細書で規定される方法を行う工程;
(ii)工程(i)で得られた腫瘍起源の単離された前記ヌクレオソームを、腫瘍由来のヌクレオソームのエピジェネティックエピトープ(「バイオマーカー」)に結合するさらなる結合剤と接触させる工程;
(iii)該さらなる結合剤の該エピトープへの結合を検出及び/又は定量化する工程;及び
(iv)該エピトープの該測定されたレベルを、該対象におけるがんの存在を示すものとして用いる工程
を含む、前記方法が提供される。
【0168】
検出及び/又は定量化することは、精製又は濃縮されたヌクレオソーム試料に対して直接的に行われてもよく、又はそれからの抽出物やその希釈物に対して間接的に行われてもよい。試料中に存在するバイオマーカーの量を定量化することは、該試料中に存在する該バイオマーカーの濃度を決定することを含み得る。本明細書に記載される本発明による使用並びに検出する方法、モニタリングする方法、及び診断の方法は、疾患の存在の確認、発症及び進行の評価による疾患の推移のモニタリング、又は疾患の改善又は退縮の評価に有用である。また、使用並びに検出する方法、モニタリングする方法、及び診断の方法は、臨床的なスクリーニング、予後の評価、療法の選択、治療的利益の評価のための方法に、すなわち、医薬品スクリーニング及び医薬品開発に有用である。
【0169】
本明細書に記載される診断の方法は、生体試料中に存在する第2の結合剤のレベルを、1つ以上の対照と比較することをさらに含んでいてもよい。一実施態様において、1つ以上の対照由来の生体試料は、健康な(又は「正常な」)患者及び/又は関連する良性の疾患の患者から採取される。さらなる実施態様において、1つ以上の対照由来の生体試料は、健康な患者から採取される。
【0170】
本発明のさらなる態様により:
(a)本発明の方法によって対象から得られる体液試料中のリンカーDNAを伴わないヌクレオソームのレベルを測定する工程;及び
(b)工程(a)で測定された該ヌクレオソームの該レベルを、該患者ががんであるかどうかを決定するのに用いる工程
を含む、がんを診断する方法が提供される。
【0171】
本発明のさらなる態様により:
(a)本発明の方法によって対象から得られる体液試料中のリンカーDNAを伴わないヌクレオソームとリンカーDNAを伴うヌクレオソームとの比率を測定する工程;及び
(b)工程(a)で測定された該比率を、該患者ががんであるかどうかを決定するのに用いる工程
を含む、がんを診断する方法が提供される。
【0172】
本発明の一態様において、本明細書に記載される方法を、がんの再発の進行に関して患者をモニタリングするのに用いてもよい。別の態様において、本明細書に記載される方法を、患者に適した療法を選択するのに用いてもよい。例えば、単離されたヌクレオソームと関連するDNAを分析することは、患者を特定の療法に対してより高反応性又は低反応性とすることのある患者のがんの遺伝子型を決定することができる。本発明の一態様において、本明細書に記載される方法を、微小残存病変(MRD)をモニタリングするのに、すなわち、治療が完了している患者に残存する悪性細胞の存在を確認するのに用いてもよい。MRDの検出は、治療が不完全であることを示している。
【0173】
本発明のさらなる態様により:
(a)患者から試料を得る工程;
(b)本発明の方法によって該試料中の長さが約150bp未満の短いDNA断片を含むヌクレオソームのレベルを測定する工程;
(c)工程(b)で測定された該ヌクレオソームの該レベルを、該患者ががんであるかどうかを決定するのに用いる工程;及び
(d)工程(c)で該患者が、がんであると決定された場合に、治療を実施する工程
を含む、がんを治療する方法が提供される。
【0174】
本発明のさらなる態様により:
(a)患者から試料を得る工程;
(b)本発明の方法によって該試料中の長さが約150bp未満及び150bp超の短い及び長いDNA断片を含むヌクレオソームの比率を測定する工程;
(c)工程(b)で測定された該ヌクレオソームの比率を、該患者ががんであるかどうかを決定するのに用いる工程;及び
(d)工程(c)で該患者が、がんであると決定された場合に、治療を実施する工程
を含む、がんを治療する方法が提供される。
【0175】
一実施態様において、本発明の方法は、試料中の短い又は長い(すなわち、それぞれ、長さが約150bp未満及び150bp超の)DNA断片を含むヌクレオソームのレベルを測定するのに用いられ、本明細書に記載される本発明のイムノアッセイ方法である。
【0176】
本発明のさらなる態様により:
(a)患者から試料を得る工程;
(b)本発明の方法によって該試料中の約150bp以下のDNA断片を単離する工程;
(c)工程(b)で単離されたDNA断片のレベルを、該患者ががんであるかどうかを決定するのに用いる工程;及び
(d)工程(c)で該患者が、がんであると決定された場合に、治療を実施する工程
を含む、がんを治療する方法が提供される。
【0177】
本発明の方法の重要な態様は、ctDNAの検出及び分析のための向上した方法によってがん疾患の向上した検出及び治療を容易にすることである。発明の背景ですでに概要を示したctDNA分析の5つのアプローチのうちの4つは、DNA断片のシークエンシング及び/又はメチル化DNA断片のシークエンシングを必要とする。しかしながら、これらの方法は、分析される試料中のctDNAのレベルが低いために苦労して行われる。
【0178】
一実施態様において、工程(c)は、DNA断片の変異アレル分率を決定することを含む。さらなる又は別の実施態様において、工程(c)は、DNA断片をシークエンシングすることを含む。次いで、ヌクレオチド配列を、患者ががんであるかどうかを決定するのに用いてもよく、例えば、既に本明細書に記載したようなヌクレオチド置換、ヌクレオチド挿入、ヌクレオチド欠失、メチル化DNA配列、又は他のDNA配列変異などの任意の遺伝子DNAマーカーに関して分析する。
【0179】
一実施態様において、実施される治療は、以下:外科手術、放射線療法、化学療法、免疫療法、ホルモン療法、及び生物学的療法から選択される。
【0180】
(キット)
本発明のさらなる態様により、以下:(i)ヒストンH1、macroH2A、又はクロマチン結合タンパク質、及び(ii)ヌクレオソーム又はその構成要素に特異的に結合する結合剤を、任意に、該キットを本明細書で規定される方法に従って使用するための説明書と一緒に含むヌクレオソームを検出又は単離又は測定するためのキットが提供される。
【0181】
本発明のさらなる態様により、以下:(i)クロマチン結合タンパク質に結合するよう仕向けられた抗体又は他の結合剤、及び(ii)ヌクレオソーム又はその構成要素に特異的に結合する結合剤を、任意に、該キットを本明細書で規定される方法に従って使用するための説明書と一緒に含む、ヌクレオソームを検出又は単離又は測定するためのキットが提供される。
【0182】
あるいは、又はさらに、本発明のキットは、ヌクレオソーム関連DNA断片の単離及び/又は分析のための試薬を含み得る。本発明のさらなる態様により、以下:(i)ヒストンH1、macroH2A、又はクロマチン結合タンパク質;及び(ii)ヌクレオソーム関連DNA断片の単離及び/又は分析のための試薬を、任意に、該キットを本明細書で規定される方法に従って使用するための説明書と一緒に含むキットが提供される。
【0183】
さらなる態様により、がんの診断のための本明細書で規定されるようなキットの使用が提供される。
【0184】
(本発明の全般的特徴)
以下の実施態様が、本明細書に記載される本発明の態様に適用され得る。
【0185】
一実施態様において、ヌクレオソームは、無細胞のモノヌクレオソーム又はオリゴヌクレオソームである。本明細書で使用される「ヌクレオソーム」という用語が、モノヌクレオソーム及びオリゴヌクレオソーム、並びに液体の媒体中で分析することができる任意のそのようなクロマチン断片を含むことが意図されるのは明らかであろう。さらなる実施態様において、無細胞ヌクレオソームは、モノヌクレオソーム、オリゴヌクレオソーム、又は他の染色体断片である。
【0186】
一実施態様において、生体液(すなわち、体液)試料は、血液、血清、又は血漿試料から選択される。
【0187】
一実施態様において、生体液試料は、対象から入手され、該試料中の無細胞ヌクレオソームが、本明細書に記載される疾患関連又は疾患由来のヌクレオソームについて濃縮される。この流体試料は、限定するものではないが、脳脊髄液(CSF)、全血、血清、血漿、月経血、子宮内膜液、尿、唾液、又は他の体液(大便、涙液、滑液、痰)、呼気(例えば、凝縮させた呼気として、又はそれからの抽出物もしくは精製物として、又はその希釈物として)などの、対象から採取される任意の生体液(又は体液)試料であり得る。また、生体試料は、生きている対象由来の又は死後に採取した検体を含む。試料を、調製し、例えば、必要に応じて、希釈又は濃縮し、通常のやり方で保管することができる。特定の実施態様において、体液は、血液、血清、及び血漿から選択される。
【0188】
生体試料の採取方法は、当技術分野において周知であり、任意のそのような採取方法が、本明細書に記載される方法との使用に適していることが理解されるであろう。
【0189】
一実施態様において、対象は、ヒト、ウマ、イヌ、もしくはマウスなどのヒト又は動物である。「対象」又は「患者」に対する言及は、本明細書において互換的に使用される。
【0190】
本明細書に記載されるイムノアッセイ方法は、抗ヌクレオソーム抗体もしくは結合剤、又はヌクレオソーム内に存在するエピトープに結合する抗体もしくは他の結合剤に関連する。そのような結合剤が、ヌクレオソーム又はクロマチン断片内に存在する任意のエピトープに結合するように仕向けられ得ることが当業者には明らかであろう。そのようなエピトープとしては、限定するものではないが、ヒストンタンパク質(特に、コアヒストンタンパク質)、ヒストンアイソフォーム、修飾されたヒストン(例えば、ヒストン翻訳後修飾)、ヌクレオソームに関連するDNA(例えば、ヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド)、立体構造エピトープ、又はヒストン付加物(すなわち、ヌクレオソームに付加されたタンパク質)が挙げられる。
【0191】
好ましい実施態様において、結合剤は、セファロース、セファデックス、プラスチック、又は磁気ビーズなどの固体の担体の上にコーティングされる。一実施態様において、該固体の担体は、多孔質材料を含む。別の実施態様において、結合剤は、タグに結合するように誘導体化されている適当な担体に該結合剤を取りつけるのに使用することができるタグ又はリンカーを含むように誘導体化される。多くのそのようなタグ及び担体が、当技術分野において公知である(例えば、Sortag、クリックケミストリー、ビオチン/ストレプトアビジン、his-タグ/ニッケル又はコバルト、GST-タグ/GSH、抗体/エピトープタグ他多数)。使用の容易さのために、コーティングされた担体は、装置、例えば、マイクロ流体装置の内部に含まれていてもよい。
【0192】
一実施態様において、疾患(単離された循環無細胞ヌクレオソームが起源とするもの)は、がん、自己免疫疾患、又は炎症性疾患から選択される。さらなる実施態様において、疾患は、がんである。さらなる実施態様において、自己免疫疾患は、以下:全身性エリテマトーデス(SLE)及び関節リウマチから選択される。さらなる実施態様において、炎症性疾患は、以下:クローン病、大腸炎、子宮内膜症、及び慢性閉塞性肺障害(COPD)から選択される。
【0193】
疾患ががんである場合、単離されたヌクレオソームは、「腫瘍由来」又は「腫瘍関連」ヌクレオソームと呼ばれることもある。ctDNA及び循環ヌクレオソームは、調査された全てのがん疾患種の特徴であるため、本発明の方法は、全てのがん疾患における使用に適している。一実施態様において、腫瘍由来又は腫瘍関連の無細胞ヌクレオソームは、以下:乳がん、膀胱がん、結腸直腸がん、皮膚がん(黒色腫など)、卵巣がん、前立腺がん、肺がん、膵臓がん、腸がん、肝臓がん、子宮内膜がん、リンパ腫、口腔がん、頭頸部がん、白血病、及び骨肉腫から選択されるがんを起源とする。
【0194】
本開示は、ヌクレオソームに特異的に結合することができる天然に存在する又は化学的に合成された化合物などのリガンド又は結合剤を提供する。リガンド又は結合剤は、ヌクレオソームに特異的に結合することができるプラスチック抗体、又はアプタマー、又はアフィマー、又はオリゴヌクレオチドなどの、ペプチド、抗体もしくはその断片、又は合成リガンドを含み得る。抗体は、ヌクレオソームに特異的に結合することができるモノクローナル抗体又はその断片とすることができる。リガンド又は結合剤(例えば、本明細書に記載されるクロマチン結合剤、又はヌクレオソーム又はその構成要素を対象とする結合剤)を、発光、蛍光、酵素、又は放射活性マーカーなどの検出可能なマーカーを用いて標識し得る。あるいは、又はさらに、リガンドを、親和性タグ、例えば、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、又はHis(例えば、ヘキサ-His)タグを用いて標識し得る。あるいは、リガンド結合を、標識を用いない技術、例えば、ForteBio社のものを用いて決定してもよい。
【0195】
本明細書に記載される方法は、特定の標的を用いてヌクレオソームを単離する。次いで、該単離されたヌクレオソームを、特定のバイオマーカーに関してさらに分析してもよい。「バイオマーカー」という用語は、プロセス、事象、又は状態の特有の生物学的指標又は生物学的に誘導された指標を意味する。バイオマーカーは、診断の方法、例えば、臨床的なスクリーニング、及び予後評価に、及び療法の結果のモニタリング、特定の治療的処置に反応する可能性が最も高い対象の特定、医薬品のスクリーニング及び開発に使用することができる。そのようなバイオマーカーとしては、例えば、無細胞ヌクレオソームそれ自体のレベル(すなわち、本発明の方法によって単離されたヌクレオソームのレベル)又は該単離された無細胞ヌクレオソームのエピジェネティックな特徴のレベルが挙げられる。
【0196】
診断又はモニタリング用キットが、本発明の方法を行うために提供される。そのようなキットは、好適には、本明細書に記載される標的又はバイオマーカーの検出及び/又は定量化のためのリガンド、及び/又はバイオセンサー、及び/又はアレイを、任意に、該キットの使用のための説明書と一緒に含むであろう。本発明のさらなる態様は、疾患状態の存在を検出するためのキットであって、本明細書で規定されるバイオマーカーのうちの1つ以上を検出及び/又は定量化することができるバイオセンサーを含む前記キットである。
【0197】
本明細書で使用される「検出する」及び「診断する」という用語は、疾患状態の識別、確認、及び/又は特性評価を包含する。本発明による検出する方法、モニタリングする方法、及び診断の方法は、疾患の存在の確認、発症及び進行を評価することによる疾患の推移のモニタリング、又は疾患の改善又は退縮の評価に有用である。また、検出する方法、モニタリングする方法、及び診断の方法は、臨床的なスクリーニング、予後の評価、療法の選択、治療的利益の評価のための方法に、すなわち、医薬品スクリーニング及び医薬品開発に有用である。
【0198】
効率的な診断及びモニタリング方法は、正しい診断を確立し、最も適切な治療の特定を可能とし(従って、有害な薬物副作用への不必要な曝露を軽減し)、かつ再発率を低下させることによって、向上した予後の可能性がある非常に強力な「患者向けソリューション(patient solution)」を提供する。
【0199】
増加した細胞のターンオーバー、細胞死、及びアポトーシスが、無細胞ヌクレオソームの循環レベルの増加を招くことが知られている(Holdenriederらの文献、2001)。循環無細胞ヌクレオソームレベルは、非特異的な指標であり、炎症性疾患、多種多様な良性及び悪性の状態、自己免疫疾患、及び外傷又は虚血後などの種々の状態で生じる(Holdenriederらの文献、2001)。本発明が、循環ヌクレオソームが対象において見つかっている種々の疾患分野に適用されるであろうことが当業者には明らかであろう。これらとしては、限定するものではないが、外傷(例えば;重篤な損傷又は外科手術)、極端な運動(例えば、マラソンを走ること)、卒中及び心臓発作、敗血症、又は他の重篤な感染症及び子宮内膜症などが挙げられる。
【0200】
本発明のイムノアッセイには、酵素検出法(例えば、ELISA)を採用する免疫測定アッセイ、蛍光標識免疫測定アッセイ、時間分解(time-resolved)蛍光標識免疫測定アッセイ、化学発光免疫測定アッセイ、免疫比濁アッセイ、微粒子標識免疫測定アッセイ、及び免疫放射線測定アッセイ、並びに放射活性標識、酵素標識、蛍光標識、時間分解蛍光標識、及び微粒子標識などの種々の標識種を用いる標識化抗原及び標識化抗体競合的イムノアッセイ方法などの競合的イムノアッセイ方法が含まれる。これらのイムノアッセイ方法はすべて、当技術分野において周知であり、例えば、Salgameらの文献、1997及びvan Nieuwenhuijzeらの文献、2003を参照されたい。
【0201】
DNA断片長を測定する方法(例えば、クロマトグラフィー又は電気泳動)などの、任意の物理的又は化学的なDNA分析方法が、本発明の方法に採用され得る。また、Sinaらの文献、2018に記載されているものなどの、任意の物理的又は化学的方法が、さらなるDNA分析に採用され得る。同様に、任意のDNAシークエンシング法を採用してもよく、次世代シークエンシング(ターゲット又は全ゲノム)及びメチル化DNAシークエンシング分析、ビーミング、デジタルPCR及びcold PCR(低変性温度PCRでの共増幅)などのPCR、等温増幅、ハイブリダイゼーション、MIDI活性化加ピロリン酸分解(MAP)、又は再配列末端の個別化分析(PARE)などが挙げられる。
【0202】
DNA分析は、ヌクレオチド置換、ヌクレオチド挿入、ヌクレオチド欠失、メチル化DNA配列、又はDNA配列変異などの、任意の遺伝子DNAマーカーに関する分析を含み得る。そのような分析において調査され得る典型的ながん関連DNA異常としては、限定するものではないが、点変異、転座、遺伝子コピー数変異、マイクロサテライト異常、DNA鎖完全性、及び遺伝子メチル化状態が挙げられる。
【0203】
一実施態様において、本発明の方法は、複数の機会に繰り返される。本実施態様は、検出結果を、ある期間にわたりモニタリングするのを可能とするという利点を提供する。そのような取り決めは、疾患状態の治療の有効性をモニタリングする又は評価するという利益を提供するであろう。そのような本発明のモニタリング方法は、発症、進行、安定化、改善、再発、及び/又は寛解をモニタリングするのに使用することができる。
【0204】
従って、本発明は、そのような疾患であることが疑われる対象における疾患状態に対する療法の有効性をモニタリングする方法であって、該対象由来の生体試料中に存在するバイオマーカーを検出及び/又は定量化することを含む、前記方法も提供する。モニタリング方法において、被験試料は、2回以上の機会に採取され得る。本方法は、被験試料中に存在するバイオマーカーのレベルを、1つ以上の対照と及び/又は以前に、例えば、療法の開始の前に同一の被験対象から採取された及び/又は療法の以前のステージで同一の被験対象から採取された1つ以上の以前の被験試料と比較することをさらに含んでいてもよい。本方法は、異なる機会に採取された被験試料中のバイオマーカーの性質又は量の変化を検出することを含み得る。
【0205】
同一の被験対象から以前に採取された以前の被験試料中のバイオマーカーのレベルと比較した被験試料中のバイオマーカーのレベルの変化は、障害又は疑われる障害に対する該療法の有益な作用、例えば、安定化又は向上の指標となり得る。さらに、治療が完了したら、疾患の再発に関してモニタリングするために、本発明の方法を定期的に繰り返してもよい。
【0206】
療法の有効性をモニタリングするための方法を、ヒト対象における及び非ヒト動物における(例えば、動物モデルにおける)既存の療法及び新たな療法の治療有効性(therapeutic effectiveness)をモニタリングするのに使用することができる。これらのモニタリング方法を、新たな原薬及び物質の組み合わせのスクリーニングに組み込むことができる。
【0207】
さらなる実施態様において、速効性の療法によるより急速な変化のモニタリングを、数時間又は数日のより短い間隔で実施し得る。
【0208】
特定すること及び/又は定量化することは、患者由来の生体試料又は生体試料の精製物もしくは抽出物又はその希釈物中の特定のタンパク質の存在及び/又は量を特定するのに適した任意の方法によって行うことができる。本発明の方法で試験され得る生体試料としては、本明細書ですでに規定したものが挙げられる。試料を、調製し、例えば、必要に応じて、希釈又は濃縮し、通常のやり方で保管することができる。
【0209】
本発明の方法を、本明細書に記載される標的の断片、例えば、C末端のトランケーションを有するか又はN末端のトランケーションを有する断片の検出によって行ってもよい。断片は、好適には、長さが4アミノ酸を超え、例えば、長さが5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20アミノ酸である。そのような断片は、結合性断片であってもよく、すなわち、これらは、完全なタンパク質の標的に結合する能力を保持している。特に、ヒストンテールの配列と同一又は関連する配列のペプチドが、ヒストンタンパク質の特に有用な断片であることが留意される。バイオマーカーは、例えば、SELDI又はMALDI-TOFによって直接検出され得る。あるいは、バイオマーカーは、該バイオマーカーに特異的に結合することができる抗体もしくはそのバイオマーカー結合性断片、又は他のペプチド、又はリガンド、例えば、アプタマー、アフィマー、もしくはオリゴヌクレオチドなどの、リガンド(単数)又はリガンド(複数)との相互作用を介して直接的に又は間接的に検出され得る。リガンド又は結合剤は、発光標識、蛍光標識、もしくは放射活性標識などの検出可能な標識及び/又は親和性タグを有していてもよい。
【0210】
例えば、検出及び/又は定量化することは、以下:SELDI(-TOF)、MALDI(-TOF)、1-Dゲルベースの分析、2-Dゲルベースの分析、質量分析(Mass spec)(MS)、逆相(RP)LC、サイズ透過(ゲル濾過)、イオン交換、親和性、HPLC、UPLC、及び他のLC又はLC MS-ベースの技術からなる群から選択される1種以上の方法によって行うことができる。適当なLC MS技術としては、ICAT(登録商標)(Applied Biosystems、CA、USA)、又はiTRAQ(登録商標)(Applied Biosystems、CA、USA)が挙げられる。液体クロマトグラフィー(例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)又は低圧液体クロマトグラフィー(LPLC))、薄層クロマトグラフィー、NMR(核磁気共鳴)分光法も、使用することができるであろう。
【0211】
本発明による診断又はモニタリングする方法は、試料を分析して、バイオマーカーの存在又はレベルを検出することを含み得る。これらの方法も、臨床的なスクリーニング、予後、療法の結果のモニタリング、特定の治療的処置に反応する可能性が最も高い患者の特定に適しており、医薬品のスクリーニング及び開発並びに薬物治療のための新たな標的の特定に適している。
【0212】
特定すること及び/又は定量化することは、前記バイオマーカーに特異的に結合することができる抗体又はその断片が関与する免疫学的な方法を用いて行い得る。適当な免疫学的な方法としては、分析対象のバイオマーカーの検出が分析対象のバイオマーカー上の異なるエピトープを認識する2つの抗体を用いて行われるサンドイッチELISAなどのサンドイッチイムノアッセイ;ラジオイムノアッセイ(RIA)、直接的、間接的、又は競合的な酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、エンザイムイムノアッセイ(EIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、ウエスタンブロット法、免疫沈降、及び任意の粒子ベースのイムノアッセイ(例えば、金、銀、もしくはラテックス粒子、磁性粒子、又はQ-dotを用いるもの)が挙げられる。免疫学的な方法は、例えば、マイクロタイタープレート又はストリップの形式で行ってもよい。
【0213】
特定及び/又は定量化が関与する方法は、実験台上の機器で行うことができるか、又は検査室ではない環境で、例えば、診察室や患者のベッドサイドで使用することができる使い捨ての診断用又はモニタリング用プラットフォームに組み込むことができる。本発明の方法を行うのに適したバイオセンサーは、光学的又は音響学的読み取り装置を備えた「クレジット」カードを含む。バイオセンサーは、集められたデータが解釈のために医師に電子的に送信されるのを可能とするように構成することができ、従って、イーメディシン(e-medicine)の基盤を形成することができる。本明細書で使用される場合、「バイオセンサー」という用語は、標的の存在を検出することができる任意のものを意味する。
【0214】
疾患状態の存在の診断及びモニタリング用の診断キットが、本明細書に記載される。一実施態様において、キットは、バイオマーカーを特定すること及び/又は定量化することができるバイオセンサーをさらに含んでいる。好適には、本発明によるキットは、以下の群:バイオマーカー又は該バイオマーカーの構造的な/形状の模倣物に対して特異的なリガンド結合剤又はリガンド、1種以上の対照、1種以上の試薬、及び1種以上の消耗品から選択される1つ以上の構成要素を;任意に、本明細書で規定される方法のいずれかに従って該キットを使用するための説明書と一緒に含んでいてもよい。
【0215】
疾患状態に関するバイオマーカーの特定は、診断手順及び治療計画の統合を可能とする。例えば、バイオマーカーの検出を、対象を、該対象の臨床試験への参加の前にスクリーニングするのに使用することができる。バイオマーカーは、治療への反応、非反応、好ましくない副作用プロファイル、服薬遵守及び適切な血清薬物レベルの達成の度合いを示す手段を提供する。バイオマーカーを、有害な薬物反応の警告を提供するのに用いてもよい。反応の評価を、投薬量を微調整し、処方される薬物の数を最小化し、有効な療法への到達の遅れを減少させ、かつ有害な薬物反応を回避するのに使用することができるために、バイオマーカーは、個別化された療法の開発に有用である。従って、バイオマーカーをモニタリングすることによって、患者のケアを、障害及び患者の薬理ゲノミクスプロファイルによって決定される要求を厳密に満たすように仕立てることができ、従って、バイオマーカーを、最適な用量を設定し、好ましい治療反応を予測し、重篤な副作用のリスクが高い患者を特定するのに用いることができる。
【0216】
バイオマーカーベースの試験は、「新たな」患者の最良の評価(first line assessment)を提供し、現行の尺度を用いて達成できない、正確かつ迅速な診断のための客観的な尺度を提供する。
【0217】
さらに、診断用バイオマーカー試験は、軽度又は無症状の疾患を患っているか又は症候性の疾患を発症するリスクが高い可能性のある家族の一員又は患者を特定するのに有用である。このことは、適切な療法又は予防的対策の開始、例えば、リスク因子を管理することを可能とする。これらのアプローチは、アウトカムを向上するものとして認識され、障害の明白な発症を予防し得る。
【0218】
また、バイオマーカーモニタリング方法、バイオセンサー、及びキットは、医師が、再発が障害の悪化を原因とものであるかどうかを決定するのを可能にする患者モニタリングツールとしてきわめて重要である。薬理学的治療が、不適切であると評価される場合には、療法を、元通りにするか又は増加させることができ;必要に応じて、療法の変更を行うことができる。バイオマーカーは、障害の状態に対して感受性があるので、バイオマーカーは、薬物療法の影響の指標を提供する。
【0219】
ここで、本発明を、以下の非限定的な例を参照して例示する。
【実施例】
【0220】
(実施例)
(実施例1)
本発明者らは、2種のH1タンパク質製品を購入した。一つ目は、Sigma-Aldrichから購入した組換えH1タンパク質(製品番号:H1917-100UG)であった。二つ目は、Merck-Milliporeから購入した仔ウシ胸腺から単離された生物学的H1製剤(製品番号:382150)であった。本発明者らは、これらのH1タンパク質、並びに組換えH2A、H2B、H3、及びH4ヒストンタンパク質(BPS Bioscienceから購入、製品番号:それぞれ、52021、52022、52023、及び52024)を、プラスチックマイクロタイターウェル上に、100μlリン酸バッファー(PBS、製品番号:70011-038)中5μg/mlで、2~8℃で1晩のインキュベーションによってコーティングした。ウェルを、ブロッキングし(wellChampion、Kem-En-Tec、製品番号:4900A)、(i)リンカーDNAを含むモノヌクレオソーム及びポリヌクレオソームの混合物からなる、HeLa細胞から精製されたヒトネイティブポリヌクレオソーム(Epicypher、製品番号:16-0003)、又は(ii)147bpのDNAを含み、従って、リンカーDNAを含まないH3.3モノヌクレオソーム(Epicypher、製品番号:16-0012)のいずれかを含有する溶液を10μl添加した。1晩のインキュベーション後、ウェルを洗浄し、すべての結合したヌクレオソームを、標識化抗ヌクレオソーム抗体の添加によって検出した。結合した標識化抗体を、発色基質反応(colour substrate reaction)を用いて測定し、得られた光学密度(OD)を、結合したヌクレオソームの指標として使用した。
【0221】
結果を、
図2に示しており、この結果は、リンカーDNAを含むモノヌクレオソーム及びポリヌクレオソームが、H1タンパク質(組換えH1及び組織由来H1タンパク質の双方)に結合するが、リンカーDNAを含まないモノヌクレオソームは、H1タンパク質に結合しないことを示している。さらに、ヌクレオソームの結合は、ヒストンH1に特異的であり、ヒストンH2A、H2B、H3、又はH4タンパク質では認められなかった。これらの結果は、H1タンパク質を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合する免疫吸着剤を調製するのに用い得る(が、他のヒストンタンパク質は不可である)ことを示している。また、この結果は、H1タンパク質又はヌクレオソームに結合する任意のタンパク質を、ヌクレオソームに関するイムノアッセイにおいて一般に結合剤として用いることができ、又は該タンパク質が選択的に結合するある特定の種類のヌクレオソームに対する結合剤として用いることができることも示している。
【0222】
(実施例2)
本発明者らは、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズを、Widom 601 DNA配列を含む167bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソームと、組換えビオチン化ヒストンH1の存在下又は非存在下でインキュベーションした。その後、ビーズを、磁石を用いて単離し、洗浄し、プロテイナーゼKで処理して、すべての結合したヌクレオソームDNAを遊離させた。遊離したDNAを抽出し、溶出させ、Widom 601配列特異的プライマーを用いる定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)法によって測定した。H1の存在下で観察されたCt値(信号がバックグラウンドの上の「閾値」を超えるのに必要とされるサイクルの数に関するサイクル閾値)は、H1の非存在下で観察されたCt値の半分未満であった。このことは、ストレプトアビジンビーズに結合した167bpのDNA断片を含む組換えヌクレオソームの結合が、H1の存在下では、それの非存在でよりも400倍超高かったこと、従って、167bpのDNAを含むヌクレオソームが、磁気ビーズ上のH1によって結合されていることを示している。
【0223】
この実験の結果は、H1タンパク質被覆ビーズを、167bpのDNAを含むヌクレオソーム(すなわち、リンカーDNAを含むヌクレオソーム)に結合させ、それを単離するのに使用することができ、特定の構造、性質、又は生物学的起源を有するヌクレオソームに結合する、かつ/又は試料をそのようなヌクレオソームについて濃縮又は枯渇させる本発明の方法における使用のための免疫吸着剤を調製するのに使用することができることを示している。
【0224】
この実験の結果により、固定化されたヒストンH1タンパク質が、167bpのDNA断片を含む組換えヌクレオソームに結合することが示された。実施例1に記載された実験の結果により、固定化されたヒストンH1タンパク質が、147bpのDNA断片を含む組換えヌクレオソームに結合しないことが示された。従って、組み合わせると、実施例1及び2は、ヒストンH1タンパク質を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに選択的に結合させるのに使用することができ、従って、リンカーDNAを含む又は含まないヌクレオソームを濃縮及び/又は分離するための道具として用いることができることを示している。
【0225】
(実施例3)
がんと診断された患者から採取された血漿試料を用いる、実施例2に記載した実験と類似の実験において、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズを、組換えビオチン化ヒストンH1及び該血漿試料とインキュベーションする。その後、ビーズを、磁石を用いて単離し、洗浄し、プロテイナーゼKで処理して、すべての結合したヌクレオソームDNAを遊離させる。遊離したDNAを単離し、洗浄後に、溶出させ、バイオアナライザを用いて分析して、単離されたDNAの断片サイズ分布を測定する。観察された単離DNAのサイズ分布は、2つのバンドからなる。主なバンドは、長さが約150~230bpのところに観察され、
図1に示されるように非腫瘍ピークに対応する約170bpにピークを有する。さらなるより小さいバンドが、ジヌクレオソーム及びトリヌクレオソームに期待されるサイズ範囲に対応する約300~450bpに観察される。
【0226】
図1で約120~150bpのDNAに示される腫瘍バンドは、血漿がん試料中のH1結合ヌクレオソーム断片サイズプロファイルにはまったく存在しない。これは、長さが150bp未満のDNA断片を含むヌクレオソームが、ヒストンH1連結磁気ビーズに結合しないことを示している。
【0227】
この結果は、本発明の方法を、血漿試料由来のリンカーDNAを含むモノヌクレオソーム及びポリヌクレオソームに結合させ、それを血漿試料から取り出すのに使用することができる一方で、リンカーDNAを含まないヌクレオソームは、溶液中にとどまることを示している。従って、液相が分離され、精製され、腫瘍由来の血漿ヌクレオソームについて濃縮される。
【0228】
(実施例4)
ヒストンH1被覆磁気ビーズ試薬を、がん患者から採取された血漿試料とインキュベーションする。磁気ビーズ試薬を、磁石を用いて単離し、液相中に存在する磁気ビーズに結合したDNA及び結合していないDNAの双方を、当技術分野において公知の方法を用いて抽出する。
【0229】
全てのがん関連遺伝子変異の存在を調査し、変異アレル分率を、未処理の試料で及び磁気ビーズ結合及び非結合DNA画分の双方で決定する。非結合画分のMAFは、未処理試料又は結合画分のそれよりも高い。
【0230】
(実施例5)
ヒストンH1被覆磁気ビーズ試薬を、がん患者から採取された血漿試料とインキュベーションする。磁気試薬を、磁石を用いて単離し、液相中に存在するDNAを、当技術分野において公知の方法を用いて抽出する。抽出したDNAを配列決定する。
【0231】
任意のがん関連遺伝子変異の存在を調査し、変異アレル分率を決定する。加えて、DNA配列を、「フラグメントミクス」のアプローチを用いて調査して、血漿試料中のDNA断片の起源となる組織を特定する。試料のMAF及び/又は変異プロファイル及び/又は「フラグメントミクス」プロファイルが、該患者におけるがんの存在を示すのに用いられる。この情報を、該患者に対する適切な治療を選択するのに用いてもよい。
【0232】
また、抽出されたDNAは、適切な方法(例えば、重亜硫酸塩シークエンシング)を用いてメチル化DNAに関して分析される。試料のメチル化DNAの結果は、患者におけるがんの存在、進行、又は再発を示すのに用いられる。
【0233】
(実施例6)
遺伝子操作されたタンパク質を、当技術分野において公知の方法、例えば、(Wiesler及びWeinzierlの文献、2010)の方法を用いて、リンカーDNAを含むヌクレオソームに強く結合するように開発する。該タンパク質は、任意のタンパク質又は任意のタンパク質ドメインに基づいたものであり得る。この例においては、H1タンパク質の変異分析が、系統的なアミノ酸変化を用いて行われ、誘導されたH1変異体が、リンカーDNAを含むヌクレオソームへの結合に関して試験される。最も強い結合を示す変異体を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合する免疫吸着剤における使用のための候補として選択する。その後、候補の変異体タンパク質は、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームへの結合に関して試験される、結合がない又は弱い候補が選択される。開発された操作されたタンパク質は、リンカーDNAを含むヌクレオソームにより強力に結合し、リンカーDNAを有さないものにより弱く結合し得る。そのような操作されたタンパク質又はペプチドは、大量に製造することができ、本発明の方法において結合剤として用いられ得る。
【0234】
(実施例7)
本発明者らは、製造業者の説明書に従い、メチル結合ドメイン2(MBD2)タンパク質を、Dynabeads M280磁気ビーズ(Thermo Fisher Scientific)上にコーティングした。ビーズを、メチル化されていないリンカーDNA(Active Motif、製品番号:31466)、主に、一部がメチル化DNAを含むモノヌクレオソームからなる小球菌ヌクレアーゼを用いて消化された HeLa細胞から精製されたヒトネイティブヌクレオソーム(Diagenode、製品番号:C01030102)、及び全てがメチル化されたリンカーDNAを含む187bpのDNAを有するヘミメチル化された組換えモノヌクレオソーム(EpiCypher、製品番号:SKU:16-2103)を含有する5μg/mlの組換えポリヌクレオソームに曝露した。ビーズを、磁気的に単離し、洗浄し、結合したヌクレオソームを、化学発光標識化抗ヌクレオソーム抗体を用いて測定した。結果を、
図3に示し、この結果は、MBDタンパク質が、リンカーDNAを含むポリヌクレオソームに結合することを示している。さらに、ヌクレオソームの結合は、高レベルのメチル化DNAを含むモノヌクレオソームでより強力であった。
【0235】
(実施例8)
本発明者らは、無細胞ヌクレオソーム用の捕獲タンパク質としてマイクロタイタープレートウェルの表面にコーティングされたMBDタンパク質を利用するELISAアッセイを開発し、該アッセイを、リンカーDNAを含むヌクレオソームのレベルを測定するのに用いた。手短にいうと、MBDタンパク質を、プラスチックマイクロタイターウェル上に、100μlのリン酸バッファー(PBS、製品番号:70011-038)中5μg/mlで、2~8℃で1晩のインキュベーションによってコーティングした。また、対照としての使用のために、ヒストンH4も、類似のやり方でウェル上にコーティングした。ウェルをブロッキングし(wellChampion、Kem-En-Tec、製品番号:4900A)、HeLa細胞から精製された1μg/mLのヒトネイティブポリヌクレオソームを含有する溶液(Epicypher、製品番号:16-0003)又は1μg/mLの147bpを含むH3.3モノヌクレオソーム(Epicypher、製品番号:16-0012)を含有する溶液いずれかの段階希釈物を10μl添加した。1晩のインキュベーション後、ウェルを洗浄し、すべての結合したヌクレオソームを、標識化抗ヌクレオソーム抗体の添加によって検出した。結果を
図4に示し、この結果は、MBDが、リンカーDNAを含むヌクレオソーム(HeLaポリヌクレオソーム)に結合するが、リンカーDNAを含まないヌクレオソーム(H3.3モノヌクレオソーム) には結合しないことを示している。
【0236】
また、本発明者らは、本アッセイを用いて28点のヒト血漿試料を試験した。結果を、HeLa細胞から精製されたヒトネイティブヌクレオソーム(BPS Biosciences、製品番号:52039)の希釈物に基づく標準曲線を含めて
図5に示す。この結果は、MBDを、臨床試料に対してELISAタイプのアッセイにおいて結合剤として用い得ることを示している。
【0237】
(実施例9)
クロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質(CHD)、DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼタンパク質(DNMT)、高移動度群又は高移動度群ボックスタンパク質(HMG又はHMGB)、ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼタンパク質(PARP)、又はp53を、製造業者の説明書に従いDynabeads M280磁気ビーズにコーティングする。ビーズを、147bp、167bp、又は187bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソーム、組換えポリヌクレオソーム(Active Motif、カタログ番号.31466)、HeLa細胞から精製されたヒトネイティブヌクレオソーム、及びヘミメチル化された組換えモノヌクレオソーム(EpiCypher、カタログ番号. SKU:16-2103)を含む種々のヌクレオソームに曝露する。ビーズを、磁気的に単離し、洗浄し、結合したヌクレオソームを、化学発光標識化抗ヌクレオソーム抗体を用いて測定する。結果は、種々のクロマチン結合タンパク質でコーティングされたビーズを、ヌクレオソームを結合させそれを単離するのに使用することができ、特定の構造、性質、又は生物学的起源を有するヌクレオソームに結合させかつ/又はそのようなヌクレオソームについて試料を濃縮する又は枯渇させる本発明の方法における使用のための免疫吸着剤を調製するのに用いることができることを示すのに用いることができる。ヌクレオソーム(特に、磁気ビーズに結合しなかったヌクレオソーム)に関連するDNAを、抽出し分析してもよい。
【0238】
(実施例10)
クロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質(CHD)、DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼタンパク質(DNMT)、高移動度群又は高移動度群ボックスタンパク質タンパク質(HMG又はHMGB)、ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼタンパク質(PARP)、又はp53を、上記実施例9に記載したように、マイクロタイターウェルにコーティングする。各ウェルを、ブロッキングし、試料を添加する。インキュベーション後に、試料を廃棄し、ウェルを洗浄し、結合したヌクレオソームを、標識化抗ヌクレオソーム抗体を用いて測定する。この結果を、CHD、DNMT、HMG、HMGB、又はPARPでコーティングされたウェルを、該ウェルの表面に固定化された特定のタンパク質に関連する特定の構造を有する試料中のヌクレオソームのレベルを測定するイムノアッセイに使用し得ることを示すのに用いることができる。
【0239】
別の実験において、用いられる標識化抗体は、一般の抗ヌクレオソーム抗体ではなく、ヒストンアイソフォーム、ヒストン修飾、又はヌクレオソームに付加されたタンパク質などの、ヌクレオソームの特定のエピジェネティックな特徴に結合するように仕向けられている。
【0240】
(実施例11)
抗体を、167bpのDNAを含むモノヌクレオソームへの結合についての正の選択を用いるライブラリーファージディスプレイ技術を用いて開発する。167bpのDNAを含むモノヌクレオソームへの結合が陽性であると確認されたライブラリー内のファージ結合剤クローンを、さまざまなコーティングレベルで固体の担体上に固定化し、147bp、167bp、又は187bpのDNA断片を含むモノヌクレオソームに曝露させる。結合剤クローンへのヌクレオソームの結合を、標識化抗ヌクレオソーム抗体を用いて検出する。167bp及び/又は187bpのDNAを含むモノヌクレオソーム(すなわち、リンカーDNAを伴うヌクレオソーム)への結合に対して高い親和性を有するが、147bpのDNAを含むモノヌクレオソームへの結合に対して低い親和性を有するクローンを選択し、リンカーDNAを含むヌクレオソームの正の結合選択のための免疫吸着剤の開発に使用する。
【0241】
(実施例12)
抗体を、147bpのDNAを含むモノヌクレオソームへの結合についての正の選択を用いるライブラリーファージディスプレイ技術を用いて開発する。147bpのDNAを含むモノヌクレオソームへの結合が陽性であると確認されたライブラリー内のファージ結合剤クローンを、さまざまなコーティングレベルで固体の担体上に固定化し、147bp、167bp、又は187bpのDNA断片を含むモノヌクレオソームに曝露させる。結合剤クローンへのヌクレオソームの結合を、標識化抗ヌクレオソーム抗体を用いて検出する。147bpのDNAを含むモノヌクレオソーム(すなわち、リンカーDNAを伴わないヌクレオソーム)への結合に対して高い親和性を有するが、167bp又は187bpのDNAを含むモノヌクレオソームへの結合に対しては低い親和性を有するクローンを選択し、リンカーDNAを含まないヌクレオソームの正の結合選択のための免疫吸着剤の開発に使用する。
【0242】
(実施例13)
本発明者らは、AxioMx社のライブラリーファージディスプレイ技術を用い、147bpのDNAを含むモノヌクレオソームへの結合に関するクローンの正の選択を用いて抗体を開発した。
【0243】
製造された3つの抗体を、ビオチン化し、147bp、167bp、又は187bpいずれかのDNAを含む組換えヌクレオソームへのそれらの結合を測定することにより試験した。簡単に述べると、組換えヌクレオソームを、ヌクレオソーム溶液(1μg/ml)を用いるコーティングによってマイクロタイターウェル上に固定化した。ウェルを、市販のブロッキング試薬を用いてブロッキングした。ビオチン化抗体溶液(1μg/ml)を添加し、穏やかに振盪しながら2時間室温でインキュベーションした。その後、抗体溶液をデカンテーションし、ウェルを、洗浄バッファーで3回洗浄した。ストレプトアビジン-ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートを含有する溶液を添加し、15分室温でインキュベーションした。ウェルを再び洗浄し、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン基質を用いて、450nmで生じる光学密度(OD)を測定して、結合したHRPを測定した。結果を、以下の表1に示す。
【0244】
表1. リンカーDNAを含まないか、約20bpのリンカーDNA又は約40bpのリンカーDNAを含むヌクレオソームへの3種の抗体の結合
【表1】
【0245】
結果は、3種すべての抗体に関して、リンカーDNAを含まないヌクレオソームに対するより強い結合を示している。結合は、長さがより長いリンカーDNAを含むヌクレオソームほど弱く、該抗体を、リンカーDNAを含まないヌクレオソームの正の選択及び濃縮に用い得る。
【0246】
モノヌクレオソームへの結合に関して陽性であると確認されたファージ結合剤クローンを、さまざまなコーティングレベルで固体の担体上に固定化し、147bp、167bp、又は187bpのDNA断片を含むモノヌクレオソームに曝露させた。この実験は、ヌクレオソームを固定化し、液相の抗体に曝露させた上述の実験に類似していたが、抗体を固定化させ、液相のヌクレオソームに曝露させた点で反対であった。結合剤クローンへのヌクレオソームの結合を、標識化抗ヌクレオソーム抗体を用いて検出した。1つのクローンの結果を
図6に示し、これは、該クローンが、167bp又は187bpのDNAを含むモノヌクレオソームに対する高い(かつほぼ等しい)親和性を有していたが、147bpのDNAを含むヌクレオソーム(すなわち、リンカーDNAを伴わないヌクレオソーム)に対しては、はるかに低い親和性を有していたことを示している。リンカーDNAを伴わないヌクレオソームに対してよりも、リンカーDNAを含むヌクレオソームに対してより高い親和性を有する結合剤を、リンカーDNAを含むヌクレオソームに(ほとんど排他的に)結合させるのに使用することができることが当業者には明らかであろう(特に、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームよりもはるかに高い濃度で、リンカーDNAを含むヌクレオソームも試料中に存在する場合)。
【0247】
結果は、抗体を、リンカーDNAを伴う又は伴わないヌクレオソーム上に存在するエピトープに選択的に結合するように開発することができることを示している。そのような操作された抗体及び抗体断片は、本発明の方法で、種々の構造、性質、又は生物学的起源を有するヌクレオソームに結合させかつ/又は試料をある構造、性質、又は生物学的起源のヌクレオソームについて濃縮又は枯渇させるのに用いられるべき免疫吸着剤の開発に有用である。例えば、リンカーDNAを含まないヌクレオソームに優先的に結合するように操作された抗体を、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームを含有する試料を(これらのリンカーDNAを含むヌクレオソームへの結合によって)濃縮する正の選択方法で用いてもよい。同様に、リンカーDNAを含むヌクレオソームに優先的に結合するように操作された抗体を、負の選択方法で、リンカーDNAを伴わないヌクレオソームを含有する試料(リンカーDNAを含むヌクレオソームに結合してそれを除去することによって)を濃縮するように用いてもよい。
【0248】
そのような抗体の標的エピトープは、さまざまな種類のものであり得る。例えば、標的エピトープは、リンカーDNAを含むヌクレオソーム中にのみ存在する構造の中又はリンカーDNAを含まないヌクレオソーム中にのみ存在する構造の中に存在し得る。例えば、そのような構造は、追加の構造であってもよく(特に、リンカーDNAを含むヌクレオソームの場合)、又はそうでなければ存在する構造の非存在又は除去によって露出されていてもよい(特に、リンカーDNAを含まないヌクレオソームの場合)。また、標的エピトープは、性質が、リンカーDNAの存在又は非存在が、より高い又はより低い親和性でこの目的のために開発された抗体に結合され得る別のヌクレオソームコンフォメーションと関連するような、コンフォメーションに関するものであってもよい。他の標的エピトープも可能である。
【0249】
(実施例14)
実施例3に記載した実験に類似の実験を、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズ試薬を、ヒストンアイソフォームmacroH2Aに結合するように仕向けられたビオチン化抗体と一緒に用いて行う。磁気ビーズ及びビオチン化抗体を、がん患者から採取された血漿試料と共にインキュベーションする。磁気ビーズ試薬を、磁石を用いて単離し、液相中に存在する磁気ビーズに結合したDNA及び結合していないDNAの双方を、当技術分野において公知の方法を用いて抽出する。
【0250】
任意のがん関連遺伝子変異の存在を調査し、変異アレル分率を、磁気ビーズ結合及び非結合DNA画分の双方で決定する。非結合画分のMAFは、結合画分のものよりも高い。
【0251】
(実施例15)
メチル結合ドメイン(MBD)、クロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質(CHD)、DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼタンパク質(DNMT)、高移動度群又は高移動度群ボックスタンパク質タンパク質(HMG又はHMGB)、ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼタンパク質(PARP)などのクロマチン結合タンパク質又はp53に結合するよう仕向けられた抗体を、製造業者の説明書に従いDynabeads M280磁気ビーズにコーティングする。ビーズを、147bp、167bp、又は187bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソーム、組換えポリヌクレオソーム、小球菌ヌクレアーゼを用いて消化されたHeLa細胞から精製されたヒトネイティブヌクレオソーム、及びヘミメチル化された組換えモノヌクレオソームを含む種々のヌクレオソームに曝露させる。ビーズを、磁気的に単離し、洗浄し、結合したヌクレオソームを、化学発光標識化抗ヌクレオソーム抗体を用いて測定する。結果を、クロマチン結合タンパク質を対象とする種々の抗体でコーティングされたビーズを、ヌクレオソームに結合させそれを単離するのに使用することができ、かつ特定の構造、性質、又は生物学的起源を含むヌクレオソームに結合する及び/又は試料をそのようなヌクレオソームについて濃縮もしくは枯渇させる本発明の方法における使用のための免疫吸着剤を調製するのに用いることができることを示すのに用いることができる。
【0252】
(実施例16)
メチル結合ドメイン(MBD)、クロモドメインヘリカーゼDNA結合タンパク質(CHD)、DNA(シトシン-5)-メチルトランスフェラーゼタンパク質(DNMT)、高移動度群又は高移動度群ボックスタンパク質タンパク質(HMG又はHMGB)、ポリ[ADP-リボース]ポリメラーゼタンパク質(PARP)、又はp53などのクロマチン結合タンパク質に結合するよう仕向けられた抗体を、マイクロタイターウェルにコーティングする。各ウェルをブロッキングし、試料を添加する。インキュベーション後に、試料を廃棄し、ウェルを洗浄し、結合したヌクレオソームを、化学発光標識化抗ヌクレオソーム抗体を用いて測定する。結果は、種々の抗体でコーティングされたウェルを、MBD、CHD、DNMT、HMG、HMGB、又はPARPなどのクロマチン結合タンパク質を含むヌクレオソームのイムノアッセイに使用し得ることを示している。
【0253】
別の実験において、用いられる第2の抗体は、一般の抗ヌクレオソーム抗体ではなく、ヒストンアイソフォーム、ヒストン修飾、又はヌクレオソームに付加されたタンパク質などのヌクレオソームの特定のエピジェネティックな特徴に結合するように仕向けられている。
【0254】
(実施例17)
ヒストンアイソフォームH2AZに結合するように仕向けられた抗体を、製造業者の説明書に従いDynabeads M280磁気ビーズにコーティングする。ビーズを洗浄し、試料を添加する。インキュベーション後に、試料を廃棄し、磁気ビーズを再度洗浄する。今固相に結合しているヌクレオソームは、リンカーDNAを含まないヌクレオソームについて濃縮されている。単離された結合したヌクレオソームは、例えば、質量分析によってか又はヌクレオソーム関連DNAのシークエンシングによって分析され得る。
【0255】
(実施例18)
本発明者らは、全般の観察として、ヒストンH3にヒストンテール内のアミノ酸位置4~8のエピトープで結合するよう仕向けられている第1の抗体及び該ヌクレオソーム内のどこか別の所に結合するよう仕向けられている第2の抗ヌクレオソーム抗体を用いて総ヌクレオソームレベルを測定するように設計されたアッセイが、時には、同一の第2の抗体を用いるヒストン修飾H3K36Me3又はH3K27Me3を含むヌクレオソームについてのアッセイよりも患者の試料に対して低い結果を与えたことに気がついた。修飾ヌクレオソームのサブセットの真の濃度が、総ヌクレオソームの真の濃度を超えることはないので、これは、異常な観察結果であった。本発明者らは、この発見は、クリッピングされたヒストンを含むヌクレオソームの存在に起因するものであろうと判断した。そのようなクリッピングされたヌクレオソームは、アミノ酸位置4~8にエピトープを(それが、除去されてしまっているであろうという理由で)含まないが、27及び36位にリジンを含んでいるであろうことが予測された。
【0256】
本発明者らは、H3のヒストンテールをアミノ21の位置で切断するプロテアーゼであるカテプシンに、クリッピングされたヒストンを含まない組換えポリヌクレオソームを曝露させた。この消化の成功を、ウエスタンブロットによって確認した。次いで、本発明者らは、プロテアーゼ処理済及び未処理の組換えポリヌクレオソームを、抗体の2つの異なるペアを用いて分析した。第1の抗体ペア(ペア1)は、上述の、ヒストンテール内のアミノ酸位置4~8のエピトープでヒストンH3に結合するよう仕向けられている抗体を1つと、ヌクレオソーム内のどこか別の所に結合するよう仕向けられている抗ヌクレオソーム抗体からなるものであった。第2の抗体ペア(ペア2)は、アミノ酸位置30~33のエピトープでヒストンH3に結合するよう仕向けられている抗体を1つと、ヌクレオソーム内のどこか別の所に結合するよう仕向けられている同一の抗ヌクレオソーム抗体からなっていた。
【0257】
予想通りに、双方の抗体ペアは、クリッピングされたヒストンを含まない未処理の組換えポリヌクレオソームに対して同等のシグナルを与えた。抗体ペア2は、プロテアーゼ処理済及び未処理のポリヌクレオソームに対して同等のシグナルを与えた。また、これは、クリップピング部位が、抗体結合部位よりも下にあり、従って、すべてのヌクレオソームが、ペア2の双方の抗体に対する結合部位を含んでいたという理由で、期待されるものであった。しかしながら、抗体ペア1は、未処理のポリヌクレオソームに対するよりも低いシグナルをプロテアーゼ処理済ポリヌクレオソームに対して与えた。本発明者らは、これは、クリップピング部位が、アミノ酸位置4~8の抗体結合部位よりも上にあり、従って、該抗体の結合部位が、ヌクレオソームの大部分から除去されていたためであると結論付けた。
【0258】
また、本発明者らは、クリッピングされたヒストンを含むヌクレオソームを測定するように工夫したイムノアッセイを用いて、プロテアーゼ処理済及び未処理のポリヌクレオソームを測定した。本アッセイは、クリッピングされたヒストンH3のみに結合することを標的とする抗体を、ヌクレオソーム内のどこか別の所に結合するよう仕向けられている同一の抗ヌクレオソーム抗体と組み合わせて用いた。本アッセイは、未処理のポリヌクレオソームに対しては負の結果を与え、プロテアーゼ処理済ポリヌクレオソームに対しては正の結果を与えた。
【0259】
これらの結果は、
図7に示されているが、本発明者らが、クリッピングされたヒストンを含むヌクレオソームを選択的に結合させること、これらを固相担体上で分離すること、及びこれらをイムノアッセイ又は質量分析などの任意の方法によって分析することができることを示している。また、固定化されたクリッピングされたヒストンを含むヌクレオソームが、任意の適当なエピジェネティックな特徴に関して分析され得ることも当業者には明らかであろう。同様に、単離されたクリッピングされたヒストンを含むヌクレオソームと関連するDNAは、任意のDNAシークエンシング法などの任意の方法によって分析され得る。
【0260】
(実施例19)
本発明者らは、細菌である大腸菌(Escherichia coli)での発現によってヒストンH1.0タンパク質を製造した。本発明者らは、ヒストンH1のH1.0アイソフォームを用いた。これは、本発明者らが、このアイソフォームが、本発明の方法で上手く働くことを見出していたためである。ヒストンH1.0タンパク質を用いて、市販の磁気ビーズをコーティングし、Hela細胞クロマチンの消化によって製造された市販のHela細胞モノヌクレオソームの製剤を含有する溶液、Hela細胞ポリヌクレオソームを含有する溶液、ヒストンH3.1及び147bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソームを含有する溶液、及びヒストンH3.1及び167bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソームを含有する溶液に添加した。ビーズを磁気的に単離し、洗浄し、結合したヌクレオソームを、化学発光標識化抗ヒストンH3.1抗体を用いて測定した。結果を、
図8に示し、この結果は、磁気ビーズが、ポリヌクレオソーム及びリンカーDNAを含むモノヌクレオソーム(Helaモノヌクレオソーム及び167bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソーム)に結合したが、リンカーDNAを含まないモノヌクレオソーム(147bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソーム)には結合しなかったことを示している。
【0261】
(実施例20)
仔ウシ胸腺ヒストンH1タンパク質でコーティングされたトシル活性化M280磁気ビーズを、上述の実施例19に記載されているように、Hela細胞クロマチンの消化によって製造された市販のHela細胞モノヌクレオソームの製剤を含有する溶液、Hela細胞ポリヌクレオソームを含有する溶液、ヒストンH3.1及び147bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソームを含有する溶液、及びヒストンH3.1及び167bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソームを含有する溶液に曝露させた。ビーズを磁気的に単離し、洗浄し、結合したヌクレオソームを、高モル濃度バッファーを用いて該ビーズから溶出させた。溶出液を、酵素標識化抗ヒストンH3.1抗体を用いて顕出させたウエスタンブロット法によって分析した。結果を、
図9に示す。強力なヒストンH3.1バンドが、Helaポリヌクレオソームに曝露させたビーズからの磁気ビーズ溶出液に対して生じ、より弱いヒストンH3.1バンドが、リンカーDNAを含むモノヌクレオソーム(Helaモノヌクレオソーム及び167bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソーム)に対して生じたが、ヒストンH3.1を含むがリンカーDNAは含まないモノヌクレオソーム(147bpのDNAを含む組換えモノヌクレオソーム)に曝露させたビーズからの溶出液に対するバンドは観察されなかった。
【0262】
(実施例21)
クロマチン消化によって調製された市販のHela細胞モノヌクレオソーム製剤は、147bpのDNA及び167bpのDNAの断片を含むモノヌクレオソームの双方の混合物を含む可能性がある。発明者らは、Hela細胞モノヌクレオソームの市販製剤を購入し、Agilentバイオアナライザを用いて関連DNA断片のサイズに関して該製剤を分析した。本発明者らは、該製剤が、
図10(a)に示されるように約147bpのDNA断片サイズの最大値を有するピークを与えることを観察した。しかしながら、このピークは、対称的ではなく、より長いDNA断片の存在に対応するショルダーを含んでいた。
【0263】
ヒストンH1.0タンパク質でコーティングされた磁気ビーズを、Hela細胞モノヌクレオソーム製剤に曝露させた。ビーズを磁気的に単離し、洗浄した。その後、ビーズ上に単離されたヒストンH1.0結合ヌクレオソーム関連DNA断片画分及び溶液中に残っている非結合ヌクレオソーム関連DNA断片画分を双方とも、遊離循環DNA断片の単離のためにQiagen DNA抽出キットを用いて抽出した。結合及び非結合DNA画分を、Agilentバイオアナライザを用いて塩基対の長さに関して分析した。結果を、
図10(b)に示し、この結果は、非結合画分が、ヌクレオソームの大部分を含んでおり、分析により、約147bpのDNAサイズに対応するバイオアナライザピークが得られたことを示している。しかしながら、未処理の製剤中に存在するより長いDNA断片に対応するショルダーは、認められなかった。ヒストンH1.0ビーズ結合画分の分析では、より長いDNA断片サイズに対応する最大値を有するより小さなDNAピークが得られた。
【0264】
(実施例22)
147bpのDNA及び167bpのDNAの断片を含むモノヌクレオソームを含むクロマチン消化によって調製された市販のHela細胞モノヌクレオソームを、本発明の方法による分離を事前に行って及び行わずに、Agilentバイオアナライザを用いて関連DNA断片のサイズに関して分析した。
【0265】
ヒストンH1.0タンパク質でコーティングされたMyOneトシル活性化磁気ビーズの新鮮な調製物を、モノヌクレオソームに対するビーズの最適化された比率を用いて、Hela細胞モノヌクレオソーム製剤に曝露させた。ビーズを磁気的に単離し洗浄した。その後、DNAを、未処理のHelaヌクレオソーム製剤から、及びビーズ上に単離されたヒストンH1.0結合ヌクレオソーム画分から、及び処理後に上清の溶液中に残っている非結合画分から、遊離循環DNA断片の単離のためのQIAamp(登録商標) Circulating Nucleic Acidキットを用いて抽出した。未処理、ビーズ結合、及び非結合上清DNA画分を、Agilentバイオアナライザを用いて塩基対の長さに関して分析した。バイオアナライザの結果を
図11に示し、この結果は、H1被覆磁気ビーズでの試料の処理後に上清中に残った非結合DNA画分が、H1結合ヌクレオソームに関連するリンカーDNAを含んでいたより長いDNA断片(約167bp)に対応するピークから明確に分離された約147bpのDNAサイズに対応するバイオアナライザピークを与えたことを示している。未処理のHelaヌクレオソーム製剤から抽出されたDNAは、結合画分及び非結合画分の間の中間のサイズにピークを有していた。
【0266】
(実施例23)
結腸直腸がんを患う3名の患者及び2名の健康な志願者から採取された血漿試料を、本発明の方法による分離を事前に行って及び行わずにAgilentバイオアナライザを用いて関連DNA断片のサイズに関して分析した。それに続き、結腸直腸がんを患うさらなる6名の患者から採取された血漿試料を、同様に分析した。
【0267】
ヒストンH1.0タンパク質(Sigmaから購入)でコーティングされたMyOneトシル活性化磁気ビーズを、血漿試料に曝露させた。ビーズを磁気的に単離し洗浄した。その後、DNAを、遊離循環DNA断片の単離のためのQIAamp(登録商標) Circulating Nucleic Acidキットを用いて、未処理の血漿試料から、並びにビーズ上に単離されたヒストンH1.0結合ヌクレオソーム血漿画分から、及び処理後に上清の溶液中に残っている非結合クロマチン血漿画分から抽出した。未処理、ビーズに結合、及び非結合上清DNA画分を、Agilentバイオアナライザを用いて塩基対の長さに関して分析した。始めの3つのがん試料のバイオアナライザの結果を
図12に示し、その次の6つのがん試料の結果を、
図13に示す。健康な対象の結果を、
図14に示す。3名のがん患者の結果は、実施例22においてHelaヌクレオソームに対して認められたものと定性的に類似しており、H1被覆磁気ビーズでの試料の処理後に上清中に残った非結合DNA画分が、約147bpのDNAサイズに対応するバイオアナライザピークを与えたこと、及びこのピークが、H1結合ヌクレオソームに関連するリンカーDNA(約167bp)を含んでいたより長いDNA断片に対応するピークからよく分離されていることを示している。バイオアナライザの結果は、断片サイズプロファイルの分析であり、正確に定量的であるわけではない。それでもなお、がん試料のピーク高さが、50FU未満から約2000FUまで異なることが明らかである。これにもかかわらず、断片サイズプロファイルにおけるピークの分離が、存在するcfDNAレベルにかかわらず全ての場合に生じており、ピークプロファイルが、それらの量にかかわらずがんヌクレオソームに特徴的なものであることを示していた。がん患者の結果とは対照的に、2名の健康な対象の結果は、両対象のcfDNAレベルが低かったことを示しており、3つのピークの間の差がより少ないことを示している。がん患者及び健康な対象におけるH1結合、非結合、及び未処理ピークの高さ及び相対位置は、定性的にも定量的にも異なっており、個別に又は組み合わせで、疾患の検出又は診断のための方法として使用され得ることが明らかである。特に、リンカーDNAを含むヌクレオソームの結合剤での処理後の上清中のかなりの量の長さが約147bpのDNA断片(リンカーDNAを含まないヌクレオソームに関連しており、従って、H1に結合していない)の存在は、疾患の検出又は診断のための方法として用いられ得る。
【0268】
(実施例24)
肺がんを患う2名の患者及び結腸直腸がんを患う1名の患者から採取された血漿試料を、HMGBiotechから購入したHMGB1タンパク質製剤でコーティングされたMyOneトシル活性化磁気ビーズを用いたことを除き実施例23に記載した方法に類似の方法によって事前の分離を行い及び行わずにAgilentバイオアナライザを用いて関連DNA断片のサイズに関して分析した。がん試料のバイオアナライザの結果を、
図15に示す。3名のがん患者の結果は、実施例22においてHelaヌクレオソームについて認められたものと定性的に類似しており、HMGB1被覆磁気ビーズでの試料の処理後に上清中に残った非結合DNA画分が、約147bpのDNAサイズに対応するバイオアナライザピークを与えたこと、及びこのピークが、HMGB1結合ヌクレオソーム(約167bp)に関連するリンカーDNAを含んでいたより長いDNA断片に対応するピークからよく分離されていることを示している。
【0269】
(実施例25)
結腸直腸がんを患う患者から採取された血漿試料を、記載されているようにヒストンH1被覆磁気ビーズを用いて短いDNA断片を含むヌクレオソームについて濃縮した。DNAを、未処理の血漿試料並びにビーズ結合画分及び上清DNA画分から単離し、一本鎖ライブラリーを、次世代シークエンシング用に調製した。ライブラリーを分割して、半分に対して、シークエンシング(全エキソームシークエンシング-WES)の前にエキソーム捕獲を行い、残りを、直接シークエンシングにかけた(全ゲノムシークエンシング-WGS)。シークエンシングは、IlluminaのNova-seqで行い、WECについては約300Xのカバレッジ、WGSについては30Xのカバレッジを得た。市販のキット(Swift 1S Accel及びClaret Bio SRSLY)を用いてライブラリーを作製するのに成功した。ライブラリー作製の前及び後双方での上清画分中にみられるDNA断片サイズ分布は、ビーズ結合画分及び未処理の画分のDNA断片サイズ分布よりも小さかった。より小さいDNA断片を有することに加えて、上清画分は、公知のがん変異の増加した頻度を有していた。例えば、BRAF遺伝子の変異アレル分率は、ビーズ結合DNA画分では42%であり、上清画分では58%であった。未処理血漿の変異アレル分率は、50%であった。
【0270】
【国際調査報告】