(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-01
(54)【発明の名称】心不全治療におけるアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト代謝産物とNEP阻害剤との複合体の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20221025BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20221025BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221025BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20221025BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20221025BHJP
A61K 31/41 20060101ALI20221025BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/10
A61P43/00 121
A61K9/48
A61K9/20
A61K31/41
A61K31/216
A61P43/00 116
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513095
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(85)【翻訳文提出日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 CN2020116023
(87)【国際公開番号】W WO2021052441
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】201910890853.X
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010901984.6
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512301868
【氏名又は名称】シェンヅェン サルブリス ファーマシューティカルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN SALUBRIS PHARMACEUTICALS CO., LTD
【住所又は居所原語表記】37F, Main Tower, Lvjing Plaza, Che Gong Miao No. 6009 Shennan Road, Futian District Shenzhen, Guangdong 518040 China
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】スン、ジンチャオ
(72)【発明者】
【氏名】ジン、シャオロン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC11
4C076CC29
4C076FF01
4C084AA18
4C084MA02
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA52
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA371
4C084ZA372
4C084ZC171
4C084ZC172
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC62
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA37
4C086ZC17
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA13
4C206GA28
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA37
4C206ZC17
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、医薬用途技術分野に属し、心不全治療におけるアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト代謝産物とNEP阻害剤との複合体の使用に関し、特に、駆出率が低下した心不全(HFrEF)用医薬の調製における前記複合体の使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆出率が低下した心不全用医薬の調製における、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト代謝産物とNEP阻害剤との複合体の使用であって、
前記複合体の構造単位は、
(aEXP3174・bAHU377)・xCa・nA
〔式中、a:b=1:0.25~4であり、xは、0.5~3の数値であり、Aは、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、酢酸エチル、メチル-tert-ブチルエーテル、アセトニトリル、トルエン、ジクロロメタンを指し、nは、0~3の数値である。〕
である使用。
【請求項2】
前記医薬の単回投与形態は、60mgから500mgの前記複合体を含有することを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記医薬の単回投与形態は、60、120、180、240、300、360、420、480mgの前記複合体を含有することを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記医薬は、経口投与に適した固形製剤であり、好ましくは経口錠剤又はカプセルであることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項5】
a:bの値は、1:0.25、1:0.5、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:3、1:3.5、1:4から選ばれることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記複合体の構成単位は、
(EXP3174・AHU377)・xCa・nH
2O、又は
【化1】
〔式中、xは、0.5~2の数値であり、nは、0~3の数値である。〕
であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
xは、0.5、1、1.5、2から選ばれることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記複合体の構成単位は、
(EXP3174・AHU377)・1.5Ca・nH
2O、又は
(EXP3174・AHU377)・2Ca・nH
2Oであり、
〔式中、nは、1~3の任意の数値である。〕
であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
nは、0.5、1、1.5、2、2.5、3から選ばれることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記複合体は、
(EXP3174・AHU377)1.5Ca・1H
2O、
(EXP3174・AHU377)1.5Ca・1.5H
2O、
(EXP3174・AHU377)1.5Ca・2H
2O、
(EXP3174・AHU377)1.5Ca・2.5H
2O、
(EXP3174・AHU377)1.5Ca・3H
2O、
(EXP3174・AHU377)・2Ca・1H
2O、
(EXP3174・AHU377)・2Ca・1.5H
2O、
(EXP3174・AHU377)2Ca・2H
2O、
(EXP3174・AHU377)2Ca・2.5H
2O、
(EXP3174・AHU377)2Ca・3H
2O
から選ばれることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬用途技術分野に属し、心不全治療におけるアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト代謝産物とNEP阻害剤との複合体の使用に関し、特に、駆出率が低下した心不全用医薬の調製における前記複合体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全は、様々な心臓病の重篤な症状又は進行期であり、死亡率及び再入院率は高いままである。先進国の心不全の有病率は1.5%~2.0%であり、70歳以上の人々の有病率は10%以上である。2003年の疫学調査によると、我が国35~74歳の成人の心不全の有病率は0.9%であった。我が国人口の高齢化が進み、冠状動脈性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満などの慢性疾患の発症が増加傾向にあり、医療水準の向上により、心臓疾患患者の生存期間が延長されることで、我が国心不全の有病率が継続的に上昇する傾向にある。国内10714例の入院心不全患者の調査によると、1980年、1990年、2000年の心不全患者の入院中の死亡率は、それぞれ15.4%、12.3%及び6.2%であり、主な死因は、順に左心不全(59%)、不整脈(13%)及び心臓突然死(13%)であった。China-HF研究によると、入院心不全患者の死亡率が4.1%である。
【0003】
WO2007/056546A1には、バルサルタン(Valsartan)-サクビトリル(Sacubitril)のナトリウム塩複合体(LCZ696)及びその調製方法が開示されており、2017年に中国での販売が承認され、商品名は、諾欣妥(登録商標/Entresto)であり、心不全のために用いられる。その分子構造単位は、
【化1】
である。
【0004】
また、WO2017/125031A1には、アンジオテンシン受容体アンタゴニスト代謝産物(EXP3174)とNEP阻害剤(Sacubitril)との一連の複合体が開示されており、駆出率が保持された心不全HFpEFに対して一定の効果を示し、その分子構造単位は、
【化2】
である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/056546A1
【特許文献2】WO2017/125031A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
駆出率が低下した心不全に対して高い治療効果を有する標的薬を見つけることが非常に重要であることがわかる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来技術に存在する技術的問題に鑑み、本発明によれば、駆出率が低下した心不全用医薬の調製におけるアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト代謝産物とNEP阻害剤との複合体(又は「超分子錯体」という)の使用が提供され、前記複合体の構造単位は、(aEXP3174・bAHU377)・xCa・nAである。
【0008】
具体的には、前記駆出率が低下した心不全は、「中国の心不全の診断と治療に関するガイドライン」2018-心不全の分類と診断基準表1に定義されるように、HFrEFを指す。
【0009】
本発明の好適態様として、前記医薬は、前記駆出率が低下した心不全の患者に適用されることを意味する。本発明の実験結果及び前駆体薬物の投与量の推定によれば、前記医薬の単回投与形態は、(aEXP3174・bAHU377)の総質量で計算すると約60mgから500mgの前記複合体を含有することを意味し、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mg、200mg、210mg、220mg、230mg、240mg、250mg、260mg、270mg、280mg、290mg、300mg、310mg、320mg、330mg、340mg、350mg、360mg、370mg、380mg、390mg、400mg、410mg、420mg、430mg、440mg、450mg、460mg、470mg、480mg、490mg、500mgを含むが、これらに限定されない。
【0010】
本発明のより好適態様として、前記医薬の単回投与形態は、60、120、180、240、300、360、420、480mgの前記複合体を含有する。
【0011】
一実施形態において、単回投与形態は、60mg/日~500mg/日を含有する前記複合体を患者に投与する一日用量形態を意味する。前記投与回数は、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回などを含むが、これらに限定されない。前記用量は、医薬用途の開始用量又は維持用量であり、高血圧の用途では、通常、開始用量は維持用量よりも低い。前記用量は、特殊な状況における難治性高血圧患者を対象としており、使用用量を適宜高めることができる。
【0012】
具体的には、前記推定方法は、前駆体医薬の一日用量に基づいて計算されることを含む。EXP3174はアリサルタンイソプロキシルの体内代謝物であり、市販されている医薬の一般名はアリサルタンイソプロキシル錠であり、英語名はAllisartan Isoproxil Tabletsであり、商品名は信立坦であり、使用用量は240mg/日である。
【0013】
ここで、アリサルタンイソプロキシルは、分子式がC27H29ClN6O5であり、分子量が553である。EXP3174は分子式がC22H21ClN6O2であり、分子量が約436.9である。AHU377は分子式がC24H29NO5であり、分子量が約411.5である。複合体の一日用量はアリサルタンイソプロキシルの使用の一日用量に相当する必要があるため、前述の複合体の単回投与形態が推定される。
【0014】
駆出率が低下した犬の心不全モデルデータにより、ヒトの有効用量は100mg/日であり、用量の使用範囲は60mg/日~500mg/日であると推測される。
【0015】
前記医薬は、経口投与に適した固形製剤であり、経口錠剤又はカプセルであることが好ましく、医薬の総量が60mg~500mgである複数の錠剤及び複数のカプセルであってもよい。
【0016】
前記医薬の前記複合体は、従来技術における公知の方法により得ることができ、ここで、WO2017125031A1に開示された複合体及びその調製方法は、本発明に組み入れられる。
【0017】
本発明のより好適態様として、a:bの値は、1:0.25、1:0.5、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4から選ばれる。
【0018】
本発明のより好適態様として、前記複合体の構成単位は、(EXP3174・AHU377)・xCa・nH
2O、又は
【化3】
〔式中、xは、0.5~2の数値であり、nは、0~3の数値である。〕
である。
【0019】
本発明のより好適態様として、xは、0.5、1、1.5、2から選ばれる。
【0020】
本発明のより好適態様として、前記複合体の構成単位は、
(EXP3174・AHU377)・1.5Ca・nH2O、又は
(EXP3174・AHU377)・2Ca・nH2O
〔式中、nは、1~3の任意の数値である。〕
である。
【0021】
本発明のより好適態様として、nは、0.5、1、1.5、2、2.5、3から選ばれる。
【0022】
本発明のより好適態様として、前記複合体は、
(EXP3174・AHU377)1.5Ca・1H2O、
(EXP3174・AHU377)1.5Ca・1.5H2O、
(EXP3174・AHU377)1.5Ca・2H2O、
(EXP3174・AHU377)1.5Ca・2.5H2O、
(EXP3174・AHU377)1.5Ca・3H2O、
(EXP3174・AHU377)・2Ca・1H2O、
(EXP3174・AHU377)・2Ca・1.5H2O、
(EXP3174・AHU377)2Ca・2H2O、
(EXP3174・AHU377)2Ca・2.5H2O、
(EXP3174・AHU377)2Ca・3H2O
から選ばれる。
【0023】
当業者は、超分子錯体(複合体)の単位結晶細胞において、前記アリサルタンイソプロキシル代謝産物(EXP3174)、AHU377、カルシウムイオン(Ca2+)及び溶媒分子は、いくつかの構造単位の形で充填される。
【0024】
本発明に係る前記超分子錯体(複合体)は、二つの活性成分の単純な物理的混合によって得られる混合物とは異なる。得られた超分子錯体(複合体)のXRDスペクトルは、EXP3174及びAHU377カルシウム塩のXRDスペクトルとは明らかに異なり、様々な溶媒(例えば、水、エタノール、エタノール-水など)における溶解性能にも明らかな違いが存在し、例えば、吸湿性、融点、赤外線スペクトルなど、他の様々な理化学的性質にはいずれも明らかな違いが存在する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、従来技術に対して、以下の利点及び効果を有する。
1.本発明によれば、アリサルタンイソプロキシル代謝産物(EXP3174)とエンケファリナーゼ阻害剤(AHU377)との二重作用を有する一連の超分子錯体(複合体)の駆出率が低下した心不全用医薬における使用が提供され、LZ696の使用に対して同じ用量で明らかにより良い効果を有する。
2.本発明の複合体は、駆出率が低下した犬モデルにおける効果が、駆出率が保持された犬モデルにおける効果よりも優れていることから、本発明の医薬組成物は、駆出率が低下した心不全に対して特異的な選択性を有し、従来技術に基づいて予測することが困難であることがわかる。
3.本発明の複合体は、EXP3174+AHU377物理的混合物に対してより良い効果を有し、複合体の使用が医薬の物理的組み合わせの使用に対して明らかな利点を有することを十分に示している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】「中国の心不全の診断と治療に関するガイドライン」2018-心不全の分類と診断基準表。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施例及び図面を参照しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、発明の実施形態はこれに限定されない。
【0028】
以下の実施例において、
X線粉末回折は、鋭影(Empyrean)X線回折装置を使用して検出され、検出条件は、CuターゲットKα線、電圧40KV、電流40mA、発光スリット1/32°、散乱防止スリット1/16°、散乱防止スリット7.5mm、2θ範囲:3°-60°、ステップ幅0.02°、ステップあたりの滞留時間40秒である。
示差走査熱量測定スペクトルは、ドイツNETZSCH社のDSC204F1示差走査熱量装置を使用して検出され、検出条件は、雰囲気:N2、20mL/分、走査プログラム:室温から10℃/分で250℃まで昇温し、昇温曲線を記録することである。
水分含有量は、ドイツNETZSCH社のTG209熱重量分析装置を使用して検出され、検出条件は、雰囲気:N2、20mL/分、走査プログラム:室温-700℃、昇温速度:10℃/分である。
実施例に用いられるEXP3174は、純度98.3%の自社製である。
実施例に用いられるAHU377カルシウム塩は、純度99.4%の自社製である。
【実施例】
【0029】
実施例1
AHU377遊離酸の調製
2.1gのAHU377カルシウム塩、40mLの酢酸イソプロピルを250mLの単口フラスコに加え、室温で2mol/Lの塩酸4.5mLを加え、攪拌して溶解する。分液し、有機層を回収し、20mLの水で有機層を2回洗浄し、35℃で減圧により沈殿させることで、AHU377遊離酸が得られる。
【0030】
実施例2
複合体の調製(WO2017125031A1の実施例2に従って調製した)
【化4】
【0031】
室温で、実施例1の方法に従って得られたAHU377遊離酸2.36g、2gのEXP3174及び40mLのアセトンを250mLの三口フラスコに加え、溶解し、室温でAHU377に対して1.3当量の水酸化カルシウム固体と1mLの水を加え、室温で10時間攪拌し、40mLのアセトンを追加で加え、さらに8時間反応させ、窒素保護下でブフナー漏斗によって吸引ろ過し、固体をアセトンで溶脱することで、白色固体が得られ、35℃で8時間真空乾燥させることで、固体3.5gの(EXP3174・AHU377)3-・1.5Ca2+・2.5H2Oが得られ、HPLC検査純度は99%である。十分な薬効試験量を得るために試験を繰り返す。
【0032】
実施例3
複合体の調製(WO2017125031A1の実施例3に従って調製した)
【化5】
【0033】
室温で、実施例1の方法に従って得られたAHU377遊離酸2.36g、2gのEXP3174及び40mLのアセトンを250mLの三口フラスコに加え、溶解し、室温でAHU377に対して1.6当量の水酸化カルシウム固体と0.6mLの水を加え、35℃で6時間攪拌し、40mLのアセトンを追加で加え、さらに8時間反応させ、窒素保護下でブフナー漏斗によって吸引ろ過し、固体をアセトンで溶脱することで、白色固体が得られ、50℃で8時間真空乾燥させることで、固体3.1gの(EXP3174・AHU377)3-・1.5Ca2+・2H2Oが得られる。十分な薬効試験量を得るために試験を繰り返す。
【0034】
実施例4
犬の慢性心不全モデルにおける複合体の薬効研究-駆出率の低下
4.1 方法:動物が施設に到着した後、適応飼育、心エコー図検査及び心電検査の後にランダムに群分けしてから試験を開始する。手術当日、シュタイ(5mg/kg)の筋肉内注射により動物を麻酔し、麻酔した犬の気管を人工呼吸器に接続し、仰臥位に固定し、第3と第4肋骨の間で胸を開き、冠動脈左前下行枝を結紮して胸腔を閉じ、皮膚を縫合する。動物が術後3日間回復した後、胃内注入により4週間連続で1日1回、治療薬を投与する。実験中、動物の生活状態を毎日観察し、異常な状態を記録する。42日間投薬した後、心エコー図検査を行う。
【0035】
4.2 造型:手術の前日、動物を一晩断食させる。手術当日、麻酔導入のためにシュタイ(用量:5mg/kg)を筋肉内注射すると同時に、硫酸アトロピン注射液(用量:0.5mg/犬)を筋肉内注射する。動物を麻酔した後に左胸部毛を剃り、気管挿管を速やかに行い、人工呼吸器をオンにして人工呼吸を提供し、麻酔状態を維持するために1.5%のイソフルランガスを供給すると同時に、血中酸素飽和度、心拍数、心電図、体温及び呼吸頻度などを監視するためにモニターを使用する。前肢皮膚に70%のアルコールを用いて消毒した後、頭静脈を見つけ、静脈挿管を行うとともに静脈内投薬経路を留置する。ヨードフォア及び70%のアルコールを用いて左胸部皮膚を消毒無菌処理し、無菌手術用ホールタオルを敷き、無菌メスを用いて第4と第5肋骨の間に沿って皮膚を切開し、止血後に電気ナイフを用いて皮下組織、筋肉層を層ごとに切開するとともに適時に止血する。胸腔膜を慎重に開き、肺組織への損傷を避けるように肺組織を露出させ、第4肋骨の下縁に沿って手術視野を20~25cmに徐々に拡大し、エキスパンダを用いて手術窓を拡大する。温生理食塩水で浸漬した無菌ガーゼを用いて左心耳を推移させ、左心室と左心房の間を慎重に露出させるとともに鈍性直角鉗子を用いて冠動脈左前下行枝を遊離させ、4番絹糸で当該動脈を通し、遊離と糸通し中に動脈を引っ張らないようにする。絹糸で冠動脈左前下行枝を結紮し、結紮中に動物の血中酸素飽和度、心拍数、心電図、体温及び呼吸を注意深く観察し、動物に心室細動などの異常が生じた場合は直ちに手術を中止し、頭静脈を介してリドカイン注射治療(10mg/kg)を速やかに与える。胸腔内に出血がないことを確認した後、保護用ガーゼを取り出し、7番縫合糸で第4及び第5肋骨を通して胸腔を縫合し、人工押圧法を用いて肺を動員する。組織及び皮膚を層ごとに縫合する。術後、動物を保温し、生理食塩水を適切に補充し、血中酸素飽和度、心拍数、心電図、体温及び呼吸変化を注意深く観察し、ガス麻酔器をシャットダウンし、動物が自律呼吸を完全に回復した後に気管挿管を抜き取る。術後、痛みを止めるためにモルヒネ(メロキシカム、0.67mg/kg)を筋肉内注射し、抗感染のために20mg/kgのアンピシリンナトリウムを筋肉内注射する。
【0036】
4.3 群分けと投薬:群分けする前の各犬は、心エコー図検査と心電監視を行い、駆出率に基づいて5つの群(各群に4~6匹の動物)にランダムに分け、動物が造型されてから3日後、各群の犬には、胃内注入により6週間連続で1日1回、対応する医薬を投与する。全手術は、実験のために6つのバッチに分かれ、各バッチは4~5匹の動物があり、各群は0~1匹がある。各群の状況を表1に示す。
【表1】
【0037】
4.4 実験結果:慢性心不全の重要な症状は、左心室収縮機能の低下であり、慢性心不全の主要な臨床的検出エンドポイントである。心エコー図検査により、モデル群犬左室駆出率(LVEF)は造型後に顕著に低下し(<40%)、偽の手術群と比較してP<0.001であり、ヒト臨床駆出率が低下した慢性心不全を良好にシミュレートできる。表2から明らかなように、LCZ696群の犬のエンドポイントLVEFは46.45%であり、モデル群(P<0.001)より顕著に高い。本発明の複合体及び物理的混合群は、いずれもLVEFを上昇させることができ、モデル群と比較していずれも統計的有意性を有する(P<0.001)。一方、100mpk(mg/kg)の本発明の複合体は、LCZ696などのモル用量群がLVEFに与える影響よりも薬効がより優れている。具体的には、次の表に示す。
【0038】
【0039】
以上の結果から明らかなように、本発明によって提供される二重作用の超分子錯体(複合体)の駆出率が低下した心不全用医薬における使用は、同じ用量でLCZ696 100mpkの使用に対して明らかにより良い効果を有する。
【0040】
本発明の複合体は、EXP3174+AHU377物理的混合物に対してより良い効果を有し、複合体の使用が医薬の物理的組み合わせの使用に対して明らかな利点を有することを十分に示している。
【0041】
実施例5
犬の慢性心不全モデルにおける複合体の薬効研究-駆出率の保持
5.1 方法:動物が施設に到着した後、適応飼育、心エコー図検査及び心電検査の後にランダムに群分けしてから試験を開始する。手術当日、シュタイ(5mg/kg)の筋肉内注射により動物を麻酔し、麻酔した犬の気管を人工呼吸器に接続し、仰臥位に固定し、第3と第4肋骨の間で胸を開き、冠動脈左前下行枝を結紮して胸腔を閉じ、皮膚を縫合する。動物が術後3日間回復した後、胃内注入により二週間連続で1日1回、治療薬を投与する。実験中、動物の生活状態を毎日観察し、異常な状態を記録する。14日間投薬した後、心エコー図検査を行う。
【0042】
5.2 造型:手術の前日、動物を一晩断食させる。手術当日、麻酔導入のためにシュタイ(用量:5mg/kg)を筋肉内注射すると同時に、硫酸アトロピン注射液(用量:0.5mg/犬)を筋肉内注射する。動物を麻酔した後に左胸部毛を剃り、気管挿管を速やかに行い、人工呼吸器をオンにして人工呼吸を提供し、麻酔状態を維持するために1.5%のイソフルランガスを供給すると同時に、血中酸素飽和度、心拍数、心電図、体温及び呼吸頻度などを監視するためにモニタを使用する。前肢皮膚に70%のアルコールを用いて消毒した後、頭静脈を見つけ、静脈挿管を行うとともに静脈内投薬経路を留置する。ヨードフォア及び70%のアルコールを用いて左胸部皮膚を消毒無菌処理し、無菌手術用ホールタオルを敷き、無菌メスを用いて第4と第5肋骨の間に沿って皮膚を切開し、止血後に電気ナイフを用いて皮下組織、筋肉層を層ごとに切開するとともに適時に止血する。胸腔膜を慎重に開き、肺組織への損傷を避けるように肺組織を露出させ、第4肋骨の下縁に沿って手術視野を20~25cmに徐々に拡大し、エキスパンダを用いて手術窓を拡大する。温生理食塩水で浸漬した無菌ガーゼを用いて左心耳を推移させ、左心室と左心房の間を慎重に露出させるとともに鈍性直角鉗子を用いて冠動脈左前下行枝を遊離させ、4番絹糸で当該動脈を通し、遊離と糸通し中に動脈を引っ張らないようにする。絹糸で冠動脈左前下行枝を結紮し、結紮中に動物の血中酸素飽和度、心拍数、心電図、体温及び呼吸を注意深く観察し、動物に心室細動などの異常が生じた場合は直ちに手術を中止し、頭静脈を介してリドカイン注射治療(10mg/kg)を速やかに与える。胸腔内に出血がないことを確認した後、保護用ガーゼを取り出し、7番縫合糸で第4及び第5肋骨を通して胸腔を縫合し、人工押圧法を用いて肺を動員する。組織及び皮膚を層ごとに縫合する。術後、動物を保温し、生理食塩水を適切に補充し、血中酸素飽和度、心拍数、心電図、体温及び呼吸変化を注意深く観察し、ガス麻酔器をシャットダウンし、動物が自律呼吸を完全に回復した後に気管挿管を抜き取る。術後、痛みを止めるためにモルヒネ(メロキシカム、0.67mg/kg)を筋肉内注射し、抗感染のために20mg/kgのアンピシリンナトリウムを筋肉内注射する。
【0043】
5.3 群分けと投薬:群分けする前の各犬は、心エコー図検査と心電監視を行い、駆出率に基づいて5つの群(各群に5~6匹の動物)にランダムに分け、動物が造型されてから3日後、各群の犬には、胃内注入により2週間連続で1日1回、対応する医薬を投与する。全手術は、実験のために6つのバッチに分かれ、各バッチは4~5匹の動物があり、各群は0~1匹がある。各群の状況を表3に示す。
【表3】
【0044】
5.4 実験結果:慢性心不全の重要な症状は、左心室収縮機能の低下であり、慢性心不全の主要な臨床的検出エンドポイントである。心エコー図検査により、モデル群犬左室駆出率(LVEF)は造型後に顕著に低下したが依然として50%を超えており、偽の手術群と比較してP<0.001であり、ヒト臨床駆出率が低下した慢性心不全を良好にシミュレートできる。表4から明らかなように、LCZ696群の犬のエンドポイントLVEFは57.98%であり、モデル群(P<0.001)より顕著に高い。本発明の複合体及び物理的混合群は、いずれもLVEFを上昇させることができ、モデル群と比較していずれも統計的有意性を有する(P<0.05)。一方、100mpk(mg/kg)の本発明の複合体は、LCZ696などのモル用量群がLVEFに与える影響と比較して薬効が相当し、物理的混合群よりも顕著に優れている。実験結果を表4に示す。
【0045】
【0046】
以上の結果から明らかなように、本発明の複合体は、駆出率が低下した犬モデルにおける効果が駆出率が保持された犬モデルにおける効果よりも優れており、したがって、本発明の医薬組成物は、駆出率が低下した心不全に対して特異的な選択性を有し、従来技術に基づいて予測することは困難である。
【0047】
上記実施例は、本発明の好適実施形態であるが、本発明の実施形態は、上記実施例によって限定されるものではなく、本発明の精神及び原理から逸脱することなく行われるその他の如何なる変更、修飾、置換、組み合わせ、簡略化は、いずれも同等の置換方式とされるべきであり、いずれも本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【国際調査報告】