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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-01
(54)【発明の名称】レーザー装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/094 20060101AFI20221025BHJP
   H01S 3/0959 20060101ALI20221025BHJP
   H01S 3/097 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01S3/094
H01S3/0959
H01S3/097
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513358
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(85)【翻訳文提出日】2022-04-25
(86)【国際出願番号】 CN2019128717
(87)【国際公開番号】W WO2021036133
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】201910808165.4
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515291465
【氏名又は名称】中国科学院上海微系統与信息技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】喬 山
(72)【発明者】
【氏名】曽 志男
(72)【発明者】
【氏名】梁 暁燕
【テーマコード(参考)】
5F071
5F172
【Fターム(参考)】
5F071AA02
5F172AD02
5F172AG00
5F172DD01
5F172EE12
5F172EE18
5F172EE23
5F172EE24
(57)【要約】
レーザー装置であって、エネルギーの低い方から順に基底状態、中間状態及び励起状態を有する媒質(2)と、媒質(2)における電子を基底状態から中間状態に励起するための励起システム(3,4,5)と、前記媒質(2)において異なる空間位置にある中間状態の電子を一定の位相関係で誘導放出過程によって基底状態に脱励起し、相対的に波長がより短いレーザーを発生させるための励起レーザー(1)と、を含む。励起レーザー(1)を使って電子を中間状態から遷移させるため、誘導放出で生成された光子がコヒーレンスを有することにより、レーザー光を形成する。励起システム(3,4,5)による第1回のポンピングと波長が相対的に長い励起レーザー(1)による第2回のポンピングとを結合することによって波長が相対的に短いレーザーを発生させることにより、構造が簡単でコンパクトな短波長のレーザー装置を容易に実現することができ、短波長のレーザー装置のコストを低減させ、より短い波長を有するレーザー装置を実現することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒質、励起システム及び励起レーザーを少なくとも含むレーザー装置であって、
前記媒質は、エネルギーの低い方から順に基底状態、中間状態及び励起状態を有し、前記励起状態が一つ、複数または連続的なエネルギー準位であり、
前記励起システムは、前記媒質における電子を前記基底状態から前記中間状態に励起するために用いられ、
前記励起レーザーは、前記媒質において異なる空間位置にある前記中間状態の電子を一定の位相関係で誘導放出過程によって前記基底状態に脱励起してコヒーレント光子を発生させることにより、レーザー光を形成するために用いられ、前記誘導放出過程は、前記中間状態の電子を前記励起状態に励起して前記基底状態に脱励起する第1のルートと、前記中間状態から直接前記基底状態に脱励起する第2のルートとの二つのルートを含むことを特徴とするレーザー装置。
【請求項2】
前記レーザー装置は、深紫外レーザー装置であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー装置。
【請求項3】
前記中間状態は、準安定状態であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー装置。
【請求項4】
前記媒質は、気体、液体または固体を含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザー装置。
【請求項5】
前記媒質は、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスまたはキセノンガスを含むことを特徴とする請求項4に記載のレーザー装置。
【請求項6】
前記媒質はヘリウムガスであり、前記中間状態のエネルギーは20.616eVであることを特徴とする請求項5に記載のレーザー装置。
【請求項7】
前記励起システムは、電磁界励起システムまたは電子銃励起システムを含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザー装置。
【請求項8】
前記電磁界励起システムは、静電磁界励起システム、パルス電磁界励起システム、交流電磁界励起システムまたはマイクロ波励起システムを含むことを特徴とする請求項7に記載のレーザー装置。
【請求項9】
前記励起レーザーは、可視光連続レーザー、可視光パルスレーザー、赤外線連続レーザー、赤外線パルスレーザー、紫外線連続レーザーまたは紫外光パルスレーザーを含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザー装置。
【請求項10】
前記励起レーザーの波長は、329.86nm、335.60nm、344.90nm、361.52nm、396.67nm、501.6nm、2058.7nmまたは311.23nm以下の波長を含むことを特徴とする請求項9に記載のレーザー装置。
【請求項11】
少なくとも1段目のレーザー装置及び後続のN-1段のレーザー装置を含むN段のカスケードレーザー装置であって、
前記1段目のレーザー装置は、請求項1~10のいずれか一項に記載のレーザー装置であり、
後続のi段目のレーザー装置は、i段目の媒質、i段目の励起システム、及びi段目の励起レーザーを含み、
前記i段目の媒質は、エネルギーの低い方から順に基底状態、中間状態及び励起状態を有し、その中、前記励起状態は、一つ、複数または連続的なエネルギー準位であり、
前記i段目の励起システムは、前記i段目の媒質における電子を前記基底状態から前記中間状態に励起するために用いられ、
前記i段目の励起レーザーは、i-1段目のレーザー装置であり、前記i段目の励起レーザーにより発生したレーザー光は、前記i段目の媒質において異なる空間位置にある前記中間状態の電子を一定の位相関係で誘導放出過程によって前記基底状態に脱励起してコヒーレント光子を発生させることにより、i段目のレーザー光を形成するために用いられ、前記誘導放出過程は、前記中間状態の電子を前記励起状態に励起して前記基底状態に脱励起する第1のルートと、前記中間状態から直接前記基底状態に脱励起する第2のルートとの二つのルートを含み、
Nは2以上の整数であり、iは2以上かつN以下の整数であることを特徴とするN段のカスケードレーザー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー装置の分野に属し、特に長波長の励起レーザーによって短波長のレーザー光を発生させるレーザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
世界初の赤外吸収スペクトルに属するレーザー装置が登場して以来、科学者たちが波長のより短いレーザー装置を開発することに努力してきた。現在、レーザー技術の発展に伴い、レーザー装置の波長が深紫外域まで伸びた。紫外レーザー装置は、科学研究、工業及び医療に重要な応用があり、現在のレーザー市場において急速に成長しており、そのほかナノ微細レーザー加工、超高エネルギー分解能の光電子分光装置及び光電子顕微鏡などの現代化設備の発展に伴い、深紫外コヒーレント光源の研究も非常に差し迫っている。深紫外光の光子のエネルギーが3eVより大きく、共振空胴材料に強く吸収されることにより、一般的な共振空胴の方式によってレーザー光を形成することができないため、現在の深紫外レーザーの多くは、低エネルギー光子を有する基本周波数レーザー光の非線形の周波数逓倍によって取得する。周波数逓倍が発生する確率が低いため、高出力の基本周波数レーザー光が必要であり、レーザー装置の大きなサイズ及び高い製造コストをもたらす。さらに周波数逓倍の制限により、現在の高単色性の深紫外レーザー装置の最小光子波長が114nmにしか達することができない。一方、電磁界励起システムが現在光源技術に広く応用されており、例えば我々が通常使っている21.2eVの紫外光子を生成可能なヘリウムランプは、電磁界とヘリウム原子との相互作用によってヘリウム原子を1s2の基底状態から1s2p(1P1)の状態に励起し、1s2p(1P1)の状態から基底状態までの脱励起過程によって21.2eVの紫外光子が生成されることができる。しかし電磁界励起システムを使用したヘリウムランプで発生した脱励起過程は、ランダムの自発的な脱励起過程であるため、生成された光子にコヒーレンスがなく、レーザー光を形成することができない。
【0003】
従って、励起システムと長波長のレーザー装置による両ポンピング過程を結合して短波長の光子を生成するレーザー装置を設計することが実に必要である。
【発明の概要】
【0004】
以上の前記従来技術の欠点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、従来技術における短波長のレーザー装置、特に深紫外レーザー装置の周波数逓倍の効率が低いことによる大きな空間体積、高いコスト及び光子のエネルギーが低いなどといった問題を解決するためのレーザー装置を提供することである。
【0005】
上記課題及び他の関連課題を解決するために、本発明は、媒質、励起システム及び励起レーザーを少なくとも含むレーザー装置を提供し、前記媒質は、エネルギーの低い方から順に基底状態、中間状態及び励起状態を有し、前記励起状態が一つ、複数または連続的なエネルギー準位であり、前記励起システムは、前記媒質における電子を前記基底状態から前記中間状態に励起するために用いられ、前記励起レーザーは、前記媒質において異なる空間位置にある前記中間状態の電子を一定の位相関係で誘導放出過程によって前記基底状態に脱励起してコヒーレント光子を発生させることにより、レーザー光を形成するために用いられ、前記誘導放出過程は、前記中間状態の電子を前記励起状態に励起して前記基底状態に脱励起する第1のルートと、前記中間状態から直接前記基底状態に脱励起する第2のルートとの二つのルートを含む。
【0006】
選択的に、前記レーザー装置は、深紫外レーザー装置である。
【0007】
選択的に、前記中間状態は、準安定状態である。
【0008】
選択的に、前記媒質は、気体、液体または固体を含む。
【0009】
さらに、前記媒質は、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスまたはキセノンガスを含む。
【0010】
さらに、前記媒質はヘリウムガスで、前記中間状態のエネルギーは20.616eVである。
【0011】
選択的に、前記励起システムは、電磁界励起システムまたは電子銃励起システムを含む。
【0012】
さらに、前記電磁界励起システムは、静電磁界励起システム、パルス電磁界励起システム、交流電磁界励起システムまたはマイクロ波励起システムを含む。
【0013】
選択的に、前記励起レーザーは、可視光連続レーザー、可視光パルスレーザー、赤外線連続レーザー、赤外線パルスレーザー、紫外線連続レーザーまたは紫外光パルスレーザーを含む。
【0014】
さらに、前記励起レーザーの波長は、329.86nm、335.60nm、344.90nm、361.52nm、396.67nm、501.6nm、2058.7nmまたは311.23nm以下の波長を含む。
【0015】
本発明は、少なくとも1段目のレーザー装置及び後続のN-1段のレーザー装置を含むN段のカスケードレーザー装置を提供し、前記1段目のレーザー装置は、上記いずれか一項に記載のレーザー装置であり、後続のi段目のレーザー装置は、i段目の媒質、i段目の励起システム、及びi段目の励起レーザーを含み、前記i段目の媒質は、エネルギーの低い方から順に基底状態、中間状態及び励起状態を有し、前記励起状態が一つ、複数または連続的なエネルギー準位であり、前記i段目の励起システムは、前記i段目の媒質における電子を前記基底状態から前記中間状態に励起するために用いられ、前記i段目の励起レーザーは、i-1段目のレーザー装置であり、前記i段目の励起レーザーにより発生したレーザー光は、前記i段目の媒質において異なる空間位置にある前記中間状態の電子を一定の位相関係で誘導放出過程によって前記基底状態に脱励起してコヒーレント光子を発生させることにより、i段目のレーザー光を形成するために用いられ、前記誘導放出過程は、前記中間状態の電子を前記励起状態に励起して前記基底状態に脱励起する第1のルートと、前記中間状態から直接前記基底状態に脱励起する第2のルートとの二つのルートを含み、Nは2以上の整数であり、iは2以上かつN以下の整数である。
【0016】
上記のように、本発明のレーザー装置は、励起レーザーによって電子を中間状態から基底状態に脱励起するため、誘導放出により生成された光子がコヒーレンスを有することにより、レーザー光を形成する。励起システムによる第1回のポンピングと波長が相対的に長い励起レーザーによる第2回のポンピングとを結合することによって波長が相対的に短いレーザー光を発生させることにより、構造が簡単でコンパクトな短波長のレーザー装置を容易に実現することができ、短波長のレーザー装置のコストを低減させ、より短い波長を有するレーザー装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明実施例1のレーザー装置の構造模式図であり、その中、励起システムが平行板電励起システムである。
図2図2は、本発明実施例2、実施例4及び実施例5のレーザー装置の構造模式図であり、その中、励起システムがマイクロ波励起システムである。
図3図3は、本発明実施例3のレーザー装置の構造模式図であり、その中、励起システムが電子銃励起システムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下は特定の具体的な実例によって本発明の実施形態を説明し、当業者が本明細書に開示された内容によって簡単に本発明の他の利点及び効果を理解することができる。本発明は、さらに別の異なる発明を実施するための形態によって実施または応用されてもよく、異なる観点及び応用に基づき、本明細書における各詳細は、本発明の精神から逸脱しない条件で様々に修飾または変更されてもよい。
【0019】
図1から図3を参照されたい。説明すべき点として、本実施例で提供する図面は、本発明の基本思想を概略的に説明するものにすぎない。よって、図面には本発明に関連するアセンブリのみを示しており、実際に実施する際のアセンブリの数、形状及びサイズで記載しているわけではない。実際に実施する際の各アセンブリの形態、数及び比率は任意に変えてもよく、かつ、アセンブリの配置形態がより複雑になる場合もある。
【0020】
本発明は、媒質、励起システム及び励起レーザーを少なくとも含むレーザー装置を提供する。前記媒質は、エネルギーの低い方から順に基底状態、中間状態及び励起状態を有し、前記励起状態が一つ、複数または連続的なエネルギー準位である。前記励起システムは、前記媒質における電子を前記基底状態から前記中間状態に励起するために用いられる。前記励起システムは、前記媒質において異なる空間位置にある前記中間状態の電子を一定の位相関係で誘導放出過程によって前記基底状態に脱励起してコヒーレント光子を発生させることにより、レーザー光を形成するために用いられ、前記誘導放出過程は、前記中間状態の電子を前記励起状態に励起して前記基底状態に脱励起する第1のルートと、前記中間状態から直接前記基底状態に脱励起する第2のルートとの二つのルートを含む。
【0021】
本発明のレーザー装置がレーザー光を発生させる過程は、前記励起システムが前記媒質における電子を前記基底状態から前記中間状態に励起し、前記励起レーザーが前記媒質において異なる空間位置にあって前記中間状態に励起された電子を一定の位相関係で誘導放出過程によって前記基底状態に脱励起することである。前記誘導放出過程は、前記中間状態の電子を前記励起状態に励起して前記基底状態に脱励起する第1のルートと、前記中間状態から直接前記基底状態に脱励起する第2のルートとの二つのルートを含む。異なる空間位置で発生した前記誘導放出過程の励起光子が一定の位相関係を有するため、異なる空間位置にある電子が前記中間状態から誘導放出過程によって基底状態に脱励起されたとき、コヒーレント光子を生成し、即ちレーザー光を形成する。
【0022】
本発明は、励起レーザーを使って電子を中間状態から基底状態に脱励起するため、誘導放出過程により生成された光子がコヒーレンスを有することにより、レーザー光を形成し、また、励起システムによる第1回のポンピングと波長が相対的に長い励起レーザーによる第2回のポンピングとを結合することによって波長が相対的に短いレーザー光を発生させることにより、構造が簡単でコンパクトな短波長のレーザー装置を容易に実現することができ、短波長のレーザー装置のコストを低減させ、より短い波長を有するレーザー装置を実現することができる。
【0023】
一例として、本発明のレーザー装置は、容易に深紫外レーザー装置として作製される。好ましくは、前記媒質の中間状態が準安定状態であり、前記励起システムが前記媒質における電子を該準安定状態に励起する。一般的には、準安定状態を有する媒質として、気体、液体または固体を選択してもよい。準安定状態を有する媒質として気体を選択したとき、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスまたはキセノンガスなどの不活性気体が特に好ましい。
【0024】
一例として、前記励起システムは、電磁界励起システムまたは電子銃励起システムを含む。好ましくは、前記電磁界励起システムは、静電磁界励起システム、パルス電磁界励起システム、交流電磁界励起システムまたはマイクロ波励起システムを含む。
【0025】
一例として、前記励起レーザーは、可視光連続レーザー、可視光パルスレーザー、赤外線連続レーザー、赤外線パルスレーザー、紫外線連続レーザーまたは紫外光パルスレーザーを含む。好ましくは、前記励起レーザーの波長は、329.86nm、335.60nm、344.90nm、361.52nm、396.67nm、501.6nm、2058.7nmまたは311.23nm以下の波長を含む。
【0026】
本発明はさらにN段のカスケードレーザー装置を提供し、該N段のカスケードレーザー装置は、前記レーザー装置に基づいてカスケードを行い、即ち前記構造で形成されたレーザー装置を1段目のレーザー装置とし、前記レーザー装置の構造を用いて2段目のレーザー装置を形成し、該1段目のレーザー装置を2段目のレーザー装置の励起レーザーとし、続いて前記レーザー装置の構造を用いて3段目のレーザー装置を形成し、該2段目のレーザー装置を3段目のレーザー装置の励起レーザーとし、その他はこれに準じて類推されて任意の2段以上のレーザー装置の構造を形成することができ、具体的には、該N段のカスケードレーザー装置は、1段目のレーザー装置及び後続のN-1段のレーザー装置を含む。前記1段目のレーザー装置は、前記レーザー装置であり、後続のi段目のレーザー装置は、i段目の媒質、i段目の励起システム、及びi段目の励起レーザーを含む。前記i段目の媒質は、エネルギーの低い方から順に基底状態、中間状態及び励起状態を有し、前記励起状態が一つ、複数または連続的なエネルギー準位である。前記i段目の励起システムは、前記i段目の媒質における電子を前記基底状態から前記中間状態に励起するために用いられる。前記i段目の励起レーザーは、i-1段目のレーザー装置であり、前記i段目の励起レーザーにより発生したレーザー光は、前記i段目の媒質において異なる空間位置にある前記中間状態の電子を一定の位相関係で誘導放出過程によって前記基底状態に脱励起してコヒーレント光子を発生させることにより、i段目のレーザー光を形成するために用いられ、前記誘導放出過程は、前記中間状態の電子を前記励起状態に励起して前記基底状態に脱励起する第1のルートと、前記中間状態から直接前記基底状態に脱励起する第2のルートとの二つのルートを含み、Nは2以上の整数であり、iは2以上かつN以下の整数である。
【0027】
次に、図面及び具体的な実施例を参照し、本発明のレーザー装置について詳細に説明し、説明すべき点として、下記の実施例において深紫外レーザー装置及び極紫外レーザー装置を例として説明するが、本発明のレーザー装置は紫外レーザー装置のみであることを意味しておらず、本発明には、他の極紫外光子よりも波長が短いレーザー装置が構築されてもよい。
【0028】
実施例1
図1は、本実施例のレーザー装置の構造模式図であり、前記媒質2は、ヘリウムガスであり、前記励起システムは、二つの平行板及び電源からなる平行板電励起システム3であり、前記励起レーザー1は、波長が2058.69nmの赤外レーザー装置である。電界の作用下で、電子が前記平行板電励起システム3の平行板陰極から電界放出過程によって生成され、電界の作用で平行板陽極へ加速運動し、電子の運動過程においてヘリウム原子と衝突してヘリウム原子をイオン化することによって、より多い電子及びイオンが生成され、電子、イオン及び原子の衝突により、最終的にヘリウム原子における電子は、基底状態からエネルギーが20.616eVである1s2s(1S0)中間状態に励起される。該中間状態は、準安定状態であり、電子が双極子遷移によって基底状態に脱励起されることはない。前記平行板電励起システム3の作用下で、最終的に多くのヘリウム原子が20.616eVの準安定状態にある。このとき、波長が2058.69nmの赤外レーザー光をヘリウムガス媒質に入射させ、これらの準安定状態にあるヘリウム原子がエネルギー21.218eVの1s2p(1P1)励起状態に励起され、基底状態に脱励起されることによって21.218eVの深紫外レーザー光が発せられる。
【0029】
実施例2
図2は、本実施例のレーザー装置の構造模式図であり、前記媒質2は、ヘリウムガスであり、前記励起システムは、マイクロ波励起システム4であり、前記励起レーザー1は、波長が501.57nmの可視光レーザー装置である。前記マイクロ波励起システム4は、マイクロ波を前記媒質2に供給し、マイクロ波電磁界の作用下で、ヘリウム原子における電子が基底状態からエネルギーが20.616eVである1s2s(1S0)準安定状態に励起される。このとき、波長が501.57nmの可視光レーザー光をヘリウムガス媒質に入射させ、これらの準安定状態にあるヘリウム原子がエネルギー23.087eVの1s3p(1P1)励起状態に励起され、基底状態に脱励起されることによって23.087eVの深紫外レーザー光が発せられる。
【0030】
実施例3
図3は、本実施例のレーザー装置の構造模式図であり、前記媒質2は、ヘリウムガスであり、前記励起システムは、電子銃励起システム5であり、前記励起レーザー1は、波長が266nmの紫外レーザー装置である。前記電子銃励起システム5から放出された電子による衝撃で、ヘリウム原子における電子が基底状態からエネルギーが20.616eVである1s2s(1S0)準安定状態に励起される。このとき、波長が266nmの紫外レーザー光をヘリウムガス媒質に入射させ、これらの準安定状態にあるヘリウム原子がエネルギー25.277eVの連続励起状態に励起され、基底状態に脱励起されることによって25.277eVの深紫外レーザー光が発せられる。
【0031】
実施例4
図2は、本実施例のレーザー装置の構造模式図であり、前記媒質2は、ヘリウムガスであり、前記励起システムは、マイクロ波励起システム4であり、前記励起レーザー1は、波長が515nmの可視光レーザー装置である。前記マイクロ波励起システム4は、マイクロ波を前記媒質2に供給し、マイクロ波電磁界の作用下で、ヘリウム原子における電子が基底状態からエネルギーが20.616eVである1s2s(1S0)準安定状態に励起される。このとき、波長が515nmの可視光レーザー光をヘリウムガス媒質に入射させ、これらの準安定状態にあるヘリウム原子が誘導放出過程によって基底状態に脱励起されることによって23.024eVの深紫外レーザー光が発せられる。
【0032】
実施例5
図2に示すようなレーザー装置をカスケードした構造を採用し、波長がより短い極紫外レーザー光を発生させることができる。1番目のレーザー装置において、前記媒質2は、ヘリウムガスであり、前記励起システムは、マイクロ波励起システム4であり、前記励起レーザー1は、波長が2058.6nmの赤外レーザー装置であり、実施例1に記載のように、21.218eVの深紫外レーザー光を発生させることができる。第1のレーザー装置の後部に2番目の図2に示すようなレーザー装置の構造を直列に接続する。第2のレーザー装置において、前記媒質2は、ヘリウムガスであり、前記励起システムは、マイクロ波励起システム4であり、前記励起レーザー1のレーザー光は、1番目のレーザー装置により発生した波長58.44nm(光子エネルギーが21.218eV)の深紫外レーザー光である。前記マイクロ波励起システム4は、マイクロ波を前記媒質2に供給し、マイクロ波電磁界の作用下で、ヘリウム原子における電子が基底状態からエネルギーが20.616eVである1s2s(1S0)準安定状態に励起される。このとき、波長が58.44nmの深紫外レーザー光をヘリウムガス媒質に入射させ、これらの準安定状態にあるヘリウム原子が誘導放出過程によって基底状態に脱励起されることによって41.834eVの極紫外レーザー光が発せられる。より多くの図2に示すようなレーザー装置の構造をカスケードすれば、62.45eV、83.066eV、103.682eV及び124.298eVの極紫外レーザー光を発生させることができる。
【0033】
上記より、本発明は、媒質、励起システム及び励起レーザーを少なくとも含むレーザー装置を提供する。前記媒質は、エネルギーの低い方から順に基底状態、中間状態及び励起状態を有し、前記励起状態が一つ、複数、または連続的なエネルギー準位である。前記励起システムは、前記媒質における電子を前記基底状態から前記中間状態に励起するために用いられる。前記励起レーザーは、前記媒質において異なる空間位置にあって前記中間状態に励起された電子を一定の位相関係で誘導放出過程によって前記基底状態に脱励起するために用いられる。励起レーザーを使って電子を中間状態から基底状態に脱励起するため、誘導放出で生成された光子がコヒーレンスを有することにより、レーザー光を形成する。本発明は、励起システムによる第1回のポンピングと波長が相対的に長い励起レーザーによる第2回のポンピングとを結合することによって波長が相対的に短いレーザー光を発生させることにより、構造が簡単でコンパクトな短波長のレーザー装置を容易に実現することができ、短波長のレーザー装置のコストを低減させ、より短い波長を有するレーザー装置を実現することができる。従って、本発明は、従来技術における各種欠点を効果的に克服することによって高度の産業利用価値を有する。
【0034】
上記の実施例は、本発明の原理と効果を例示的に説明するものにすぎず、本発明を制限するものではない。本技術を熟知するものであれば、本発明の精神及び範疇を逸脱しないことを前提に、上記の実施例を補足または変形することが可能である。従って、当業者が本発明で開示する精神及び技術思想を逸脱することなく完了するあらゆる等価の補足または変形は、依然として本発明の特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
1 励起レーザー
2 媒質
3 平行板電励起システム
4 マイクロ波励起システム
5 電子銃励起システム

図1
図2
図3
【国際調査報告】