(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-01
(54)【発明の名称】熱分解法により製造されたジルコニウム含有酸化物を含有するリチウム遷移金属混合酸化物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20221025BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20221025BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221025BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/505
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513407
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(85)【翻訳文提出日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 EP2020073841
(87)【国際公開番号】W WO2021037904
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル エスケン
(72)【発明者】
【氏名】マーツェル ヘアツォーク
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
リチウム電池における正極活物質として有用なリチウム遷移金属混合酸化物の製造方法であって、i) 遷移金属酸化物および/または遷移金属水酸化物および/または遷移金属オキシ水酸化物と、熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび/または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物とを、電動混合ユニットを用いて乾式混合して、被覆された前駆体化合物を得て、ここで前記混合ユニットは、前記被覆された前駆体化合物1kgあたり0.05~1.5kWの比電力を有し、ii) 前記被覆された前駆体化合物をリチウム含有化合物と混合し、且つiii) 前記被覆された前駆体化合物と前記リチウム含有化合物との混合物を、温度500~1400℃で加熱して、リチウム遷移金属混合酸化物を得る、前記方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム電池における正極活物質として有用なリチウム遷移金属混合酸化物の製造方法であって、以下の段階:
i) 遷移金属酸化物および/または遷移金属水酸化物および/または遷移金属オキシ水酸化物と、熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび/または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物とを、電動混合ユニットを用いて乾式混合して、被覆された前駆体化合物を得る段階であって、ここで前記混合ユニットは、前記被覆された前駆体化合物1kgあたり0.05~1.5kWの比電力を有する、前記段階、
ii) 前記被覆された前駆体化合物をリチウム含有化合物と混合する段階、
iii) 前記被覆された前駆体化合物と前記リチウム含有化合物との混合物を、温度500~1400℃で加熱して、リチウム遷移金属混合酸化物を得る段階
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記遷移金属が、ニッケル、マンガン、コバルトおよびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属混合酸化物を製造するために使用される二酸化ジルコニウムおよび/またはジルコニウムを含む混合酸化物のBET表面積が5~200m
2/gであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属混合酸化物を製造するために使用される二酸化ジルコニウムおよびジルコニウムを含む混合酸化物が、透過型電子顕微鏡(TEM)で特定して、一次粒子の数平均直径5~100nmを有する強凝集した一次粒子の形態であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属混合酸化物を製造するために使用される二酸化ジルコニウムおよび/またはジルコニウムを含む混合酸化物の粒子の平均粒子サイズd
50が、5質量%の前記粒子と95質量%の0.5g/Lのピロリン酸ナトリウム水溶液とからなる混合物を25℃で60秒、超音波処理した後に静的光散乱(SLS)によって特定して10~150nmであることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属混合酸化物を製造するために使用される二酸化ジルコニウムおよび/またはジルコニウムを含む混合酸化物の粒子のスパン(d
90-d
10)/d
50が、5質量%の前記粒子と95質量%の0.5g/Lのピロリン酸ナトリウム水溶液とからなる混合物を25℃で60秒、超音波処理した後に静的光散乱(SLS)によって特定して0.4~1.2であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ジルコニウムを含む混合酸化物が、リチウム、および任意にランタンおよび/またはアルミニウムの少なくとも1つをさらに含むことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記遷移金属水酸化物が一般式M(OH)
2の化合物であり、ここでMはニッケル、マンガン、コバルトからなる群から選択される少なくとも1つの遷移金属であり、且つ前記遷移金属水酸化物が酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、オキシ水酸化ジルコニウムおよびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物で任意にドープされていることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記遷移金属オキシ水酸化物が一般式MOOHの化合物であり、ここでMはニッケル、マンガン、コバルトからなる群から選択される少なくとも1つの遷移金属であり、且つ前記遷移金属オキシ水酸化物が酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、オキシ水酸化ジルコニウムおよびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物で任意にドープされていることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
遷移金属酸化物および/または遷移金属水酸化物および/または遷移金属オキシ水酸化物と二酸化ジルコニウムおよび/またはジルコニウムを含む混合酸化物との使用される混合物の総質量に対する、二酸化ジルコニウムおよび/またはジルコニウムを含む混合酸化物の割合が、0.05質量%~5質量%であることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記リチウム遷移金属混合酸化物が、リチウム・コバルト酸化物、リチウム・マンガン酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン酸化物またはそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記リチウム含有化合物が、酸化リチウム、水酸化リチウム、リチウムアルコキシド、炭酸リチウムまたはそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
リチウム電池内の正極活物質として有用であり、数平均粒子サイズd
50 10nm~150nmを有する熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび/または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物を含有する、リチウム遷移金属混合酸化物。
【請求項14】
リチウム遷移金属混合酸化物のための被覆された前駆体化合物であって、被覆された前駆体表面上で数平均粒子サイズd
50 10nm~150nmを有する熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび/または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物を含有する、前記前駆体化合物。
【請求項15】
請求項13に記載のリチウム遷移金属混合酸化物を含む、リチウム電池用の正極活物質。
【請求項16】
請求項13に記載のリチウム遷移金属混合酸化物を含む、リチウム電池。
【請求項17】
リチウム電池の正極活物質としての、請求項13に記載のリチウム遷移金属混合酸化物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池における正極活物質として有用な、熱分解法により製造されたジルコニウム含有酸化物を含有するリチウム遷移金属混合酸化物の製造方法、この方法によって得られるリチウム遷移金属混合酸化物、およびかかるリチウム遷移金属混合酸化物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なエネルギー貯蔵技術が近年、非常に人々の注目を集めており、産業界および学術界において集中的な研究開発の主題となっている。エネルギー貯蔵技術が機器、例えば携帯電話、カムコーダー、およびノートPC、およびさらには電気自動車に広がるにつれ、そのような機器の電力供給源として使用される高エネルギー密度の電池についての需要が高まっている。リチウム二次電池は、現在使用されている最も重要な電池の種類の1つである。
【0003】
リチウム二次電池は通常、炭素材料またはリチウム金属合金製のアノード、リチウム金属酸化物製のカソード、およびリチウム塩が有機溶剤中に溶解された電解質で構成される。リチウム電池のセパレータは、充放電過程の間の正極と負極との間のリチウムイオンの通路を提供する。
【0004】
カソード材料に伴う1つの一般的な問題は、それらのエージングが速く、ひいてはサイクリングの間の性能の損失が速いことである。この現象は特に、高いニッケル含有率を有するニッケル・マンガン・コバルト混合酸化物(NMC)に該当する。正極材料の失活は、いくつかの電気化学的な劣化機構によって生じる。表面の変質、例えば高度な脱リチウム化状態および酸素損失におけるNi4+の還元、並びに遷移金属の再配列に起因するNiO様相の形成が結晶構造を不安定にする。この相転移は、カソード粒子表面で見られる初めのクラックおよび引き続く粒子の崩壊と関連付けられている。さらに電解質はNMCの反応性表面で分解し、その電解質の分解生成物はカソード材料の界面で堆積し、それが抵抗の増加をみちびく。さらには、一般に液体電解質において使用される伝導塩LiPF6が、全ての市販の配合物中に存在する微量のH2Oと反応してHFを形成する。この高反応性の化合物は、カソード材料において、カソード材料表面から電解質中への遷移金属イオンの溶出によって格子歪みを引き起こす。全てのそれらの劣化機構は、容量、性能およびサイクル寿命の低下をもたらす。
【0005】
リチウム遷移金属混合酸化物粒子をいくつかの金属酸化物で被覆することは、電解質と電極材料との望ましくない反応を抑制し、ひいてはリチウム電池の長寿命安定性を改善できることが知られている。
【0006】
国際公開第2000/70694号(WO00/70694)は、Zr、Al、Zn、Y、Ce、Sn、Ca、Si、Sr、MgおよびTiの酸化物または混合酸化物で被覆された遷移金属混合酸化物を開示している。それらは、未被覆の粒子を有機溶剤中に懸濁させ、その懸濁液を加水分解性の金属化合物の溶液および加水分解溶液と混合し、次いでろ過して取り出し、被覆された粒子を乾燥させてか焼することによって得られる。
【0007】
米国特許出願公開第2015/0340689号明細書(US2015/0340689 A1)は、遷移金属酸化物のコアと、二酸化ジルコニウムを含む被覆層とを含む、リチウム電池用のカソード活物質(CAM)を開示している。そのような被覆されたCAMは、典型的にはリチウム遷移金属酸化物、例えばLiNi
0.84Co
0.15Al
0.01O
2を、平均粒子サイズ1μm未満を有するオキシ硝酸ジルコニウム(IV)と混合し、そのように得られた混合物を700℃でか焼してZrO
2で被覆されたCAMを形成することによって製造される。代替的な実施態様(比較例5)は、遷移金属前駆体と、Aldrich社によって供給された平均粒径1μm未満を有する二酸化リチウム(IV)とを混合し、生じる被覆されたCAMを700℃でか焼することを示す。SEM顕微鏡法によるそれらの材料の解析は、被覆内に存在するZrO
2粒子の粒子サイズが約400nmであることを示す(
図2、分析例1)。
【0008】
米国特許出願公開第2016/0204414号明細書(US2016/0204414 A1)は、遷移金属酸化物コアを含み、このコアの表面上にジルコニウム化合物が存在している非水性電解質を含む電池用のCAMを記載している。実施例は平均粒子サイズ1μmの二酸化ジルコニウムをCAMの被覆のために使用することを示している。
【0009】
中国特許出願公開第105161710号明細書(CN105161710 A)は、遷移金属混合酸化物コアと、粒子サイズ5~100nmを有するアルミナまたはジルコニアを含有する被覆層とを含むCAMを開示している。従って、実施例4においては、粒子サイズ3μmを有する式LiNi0.5Co0.2Mn0.3Mg0.02O2の前駆体が、粒子サイズ20nmを有するZrO2とボールミルによって混合された。生じる被覆されたCAMは580℃でか焼された。
【0010】
特開2013-235666号公報(JP2013235666 A)は、遷移金属酸化物コアと、大部分は単斜晶構造を有するZrO2粒子を含有する層とを含むCAMを記載している。従って、実施例1において、平均粒子サイズD50=10μmを有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子を、平均粒子サイズD50=27nmを有するZrO2粒子と、回転速度4000rpmで混合し、次いで800℃でか焼している。
【0011】
後者の2つの文献は平均粒子サイズ20~30nmを有するナノ構造化ZrO2粒子に関しているのだが、さらなる詳細、例えばそのような粒子の製造方法または原料については提供されていない。おそらく、所定の平均粒子サイズはZrO2の粒一次粒子に関している。そのような小さな一次粒子は通常、強凝集および弱凝集して、遙かに大きなμm範囲の粒子を形成する。
【0012】
Journal of the Chinese Institute of Engineers、Vol.28、No.7、1139~1151ページ(2005)では、LiCoO2粉末を、平均粒子サイズ500~600nmを有するZrO2で被覆でき、ゾルゲル法またはメカノサーマル法を使用して噴霧熱分解によって製造されることが開示されている。後者の方法においては、LiCoO2粉末を30分間、エタノール中のZrO2分散液と共に音波処理し、続いてその溶剤を50℃でゆっくりと蒸発させて、450℃で10時間か焼する。
【0013】
ジルコニウムを含むいくつかの混合金属酸化物をリチウム電池において使用することも報告されている。
【0014】
米国特許出願公開第2017/179544号明細書(US2017179544 A)は、ジルコニウムに基づく混合金属酸化物でドープされたリチウム正極材料の製造を開示している。従って、実施例1において、金属塩を混合し、その混合物を1200℃で10時間焼結し、続いてリチウム遷移金属混合酸化物Li(Li10/75Ni18/75Co9/75Mn38/75)O2と乾式混合し、引き続き900℃で20時間加熱して、リチウム正極材料を形成することによって、Li7La3Zr2Al0.07O12.0105が製造された。この製造手順から、大きなサイズの焼結粒子のLi7La3Zr2Al0.07O12.0105のみをこの例において使用できたことは明らかである。
【0015】
最終的な電極活物質のリチウム遷移金属混合酸化物を金属酸化物層で被覆する代わりに、金属酸化物被覆またはドーパントを電極活物質の相応の前駆体に添加し、続いてそれを熱処理して、ドープされたリチウム遷移金属混合酸化物を得ることも可能である。
【0016】
国際公開第2012/022618号(WO2012022618)は、リチウム電池における正極活物質として有用な、アルミニウムドープされた遷移金属酸化物粉末を生産するための粒子状の前駆体化合物の製造を開示しており、ここでは前駆体化合物の各々の粒子は(a)遷移金属水酸化物または遷移金属オキシ水酸化物のコアと、(b)前記コアを覆う非晶質ではない酸化アルミニウム被覆層とを含む。
【0017】
米国特許出願公開第2013/0136985号明細書(US20130136985 A1)は、リチウム電池において使用するためのリチウム複合酸化物の製造を記載しており、ここでそれらの複合酸化物はジルコン酸リチウム(Li2ZrO3)でドープされている。従って、実施例1、15および16においては、炭酸リチウム、酸化コバルト(Co3O4)、ジルコン酸リチウムおよびリン酸リチウムを一緒に混合し、生じる混合物を空気中、900℃で焼成してZrドープされたリチウム複合酸化物をもたらしている。そのようなドープされた複合酸化物のSEM/EDX解析は、Zr粒子が複合粒子の表面上だけでなく、粒子内部にも存在することを示す。
【0018】
この種類のドーピング/被覆は、相応の電極の表面被覆と比較する場合、改善されたサイクリング性能に関するさらなる利点を有することがある。
【0019】
リチウム電池のカソード材料を金属酸化物、例えばAl2O3、TiO2およびZrO2で被覆してサイクリング性能を改善することは公知である。しかしながら、電池の長期寿命を改善するための実際の方法は限られていることが多い。従って、二酸化ジルコニウムの場合、市販のナノサイズのZrO2粒子の使用は、コアのカソード材料表面上での不均質な分布および大きな弱凝集ZrO2粒子をもたらすことが多く、その結果、被覆されていないカソード材料と比較して、サイクリング性能における最小限の改善または改善されないことが観察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】国際公開第2000/70694号
【特許文献2】米国特許出願公開第2015/0340689号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2016/0204414号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第105161710号明細書
【特許文献5】特開2013-235666号公報
【特許文献6】米国特許出願公開第2017/179544号明細書
【特許文献7】国際公開第2012/022618号
【特許文献8】米国特許出願公開第20130136985号明細書
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Journal of the Chinese Institute of Engineers、Vol.28、No.7、1139~1151ページ(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明が取り組む課題は、リチウム電池において使用するためのカソード活物質としての、特に高ニッケルNMC型の改質されたリチウム遷移金属混合酸化物を製造するための改善された方法を提供することである。そのような改質されたカソード材料は、改質されていない材料よりも高いサイクリング安定性を提供するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
徹底的な実験の間に、意外なことに、熱分解法で製造された二酸化ジルコニウム、または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物を、リチウム遷移金属混合酸化物の合成前駆体、例えば遷移金属酸化物、遷移金属水酸化物、または遷移金属オキシ水酸化物の被覆のために好適に使用できることが判明した。そのような前駆体から製造されるリチウム遷移金属混合酸化物は、非常に均質なジルコニウム酸化物の粒子分布、およびジルコニウム酸化物粒子の非常に小さい粒子サイズを特徴とし、そのことにより、リチウム電池における正極活物質として非常に有用となる。
【0024】
本発明は、リチウム電池における正極活物質として有用なリチウム遷移金属混合酸化物の製造方法であって、以下の段階:
i) 遷移金属酸化物、および/または遷移金属水酸化物、および/または遷移金属オキシ水酸化物と、熱分解法で製造された二酸化ジルコニウム、および/または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物とを、混合ユニットを用いて乾式混合して、被覆された前駆体化合物を得る段階であって、ここで前記混合ユニットは、被覆された前駆体化合物1kgあたり0.05~1.5kWの比電力を有する、前記段階、
ii) 前記被覆された前駆体化合物をリチウム含有化合物と混合する段階、
iii) 前記被覆された前駆体化合物と前記リチウム含有化合物との混合物を、温度500~1400℃で加熱して、リチウム遷移金属混合酸化物を得る段階
を含む、前記方法を提供する。
【0025】
本発明に関して「電動混合ユニット」との用語は、電気エネルギーの供給によって動作する任意の混合装置に関する。
【0026】
電力は、電気エネルギーが電気回路によって伝達される単位時間当たりの割合である。本発明に関して「比電力」との用語は、混合工程の間に電動混合ユニットによって供給される、リチウム遷移金属混合酸化物1kgあたりの電力に関する。
【0027】
乾式混合は、混合工程の間に液体が添加されないかまたは使用されないこと、つまり例えば実質的に乾燥粉末が一緒に混合されることを意味すると理解される。しかしながら、微量の湿分または水以外の液体が混合原料中に存在すること、またはそれらが結晶水を含むことが可能である。好ましくは、遷移金属酸化物および/または遷移金属水酸化物および/または遷移金属オキシ水酸化物と、熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび/または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物との混合物は、5質量%未満、より好ましくは3質量%未満、より好ましくは1質量%未満の水および/または他の液体を含有する。
【0028】
本発明の乾式混合工程は、湿式の被覆を必要とする混合工程、例えば金属酸化物を含有する分散液を用いる被覆に対していくつかの利点を有する。そのような湿式の被覆工程は必然的に溶剤の使用が避けられず、それを被覆工程の完了後に蒸発させなければならない。従って、本発明の乾式被覆工程は、従来技術から公知の湿式被覆工程より単純であり且つより経済的である。他方で、意外なことに、本発明の乾式混合工程が、ジルコニウムを含有する金属酸化物粒子の、リチウム遷移金属混合酸化物の表面上でのより良好な分布も提供することが判明した。
【0029】
使用される比電力が、被覆された前駆体化合物1kgあたり0.05kW未満である場合、これは二酸化ジルコニウムまたはジルコニウムを含む混合酸化物の不均質な分布をもたらし、それは被覆された前駆体化合物のコア材料にしっかりと結合されることができない。
【0030】
被覆された前駆体化合物1kgあたり1.5kWを上回る比電力は、より粗悪な電気化学特性をもたらす。さらに、被覆が脆くなり、割れやすくなるリスクがある。
【0031】
混合ユニットの公称電力は広い範囲、例えば0.1kW~1000kWで変化し得る。従って、公称電力0.1~5kWを有する研究室規模の混合ユニット、または公称電力10~1000kWを有する生産規模の混合ユニットを使用することが可能である。前記公称電力は、混合ユニットの銘板の最大絶対電力である。
【0032】
混合ユニットの容積を広い範囲、例えば0.1L~2.5m3で変化させることも可能である。従って、容積0.1~10Lを有する研究室規模の混合ユニット、または容積0.1~2.5m3を有する生産規模用の混合ユニットを使用することが可能である。
【0033】
好ましくは、本発明による方法において、高速混合器具を備えた強力ミキサーの形態での強制ミキサーを使用する。混合器具の速度5~30m/秒、より好ましくは10~25m/秒が最良の結果をもたらすことが判明した。本発明の方法のためによく適している市販の混合ユニットは、例えばヘンシェルミキサーまたはアイリッヒミキサーである。
【0034】
混合時間は、好ましくは0.1~120分、より好ましくは0.2~60分、非常に好ましくは0.5~10分である。
【0035】
前記の混合に続いて混合物の熱処理を行うことができる。そのような処理はリチウム遷移金属混合酸化物粒子への被覆の結合を改善し得る。しかしながらこの処理は本発明による方法において必ずしも必要ではなく、なぜならこの方法においては、熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムまたはジルコニウムを含む混合酸化物は、リチウム遷移金属混合酸化物に充分な固さで付着するからである。従って、本発明による方法の好ましい実施態様は、混合後にいかなる熱処理も含まない。
【0036】
被覆された前駆体化合物へのジルコニウム酸化物の付着に関する最良の結果は、二酸化ジルコニウムおよびジルコニウムを含む混合酸化物がBET表面積5m2/g~200m2/g、より好ましくは10m2/g~150m2/g、および最も好ましくは15~100m2/gを有する場合に得られることが判明している。BET表面積はDIN 9277:2014に準拠して、ブルナウアー・エメット・テラーの手順による窒素吸着によって特定できる。
【0037】
本発明による方法において使用される二酸化ジルコニウムおよびジルコニウムを含む混合酸化物は熱分解法により製造され、それは「フュームド」法としても知られる熱分解的な方法を意味する。
【0038】
そのような「熱分解」または「フュームド」法は、金属酸化物を形成するための酸水素炎中での火炎加水分解または火炎酸化における相応の金属前駆体の反応を必要とする。この反応はまず高度に分散したほぼ球状の金属酸化物一次粒子を形成し、それが反応のさらなる過程で合体して強凝集体を形成する。次いで、この強凝集体が集まって弱凝集体になり得る。エネルギーの導入によって一般には比較的容易に前記強凝集体へと分離され得る弱凝集体とは対照的に、強凝集体は、もしそうであるとしてもエネルギーの強い導入によってのみさらに破壊される。前記の金属酸化物粉末は、適した粉砕によって部分的に破壊されて、本発明にとって有利なナノメートル(nm)範囲の粒子に変換され得る。
【0039】
熱分解二酸化ジルコニウムの製造は欧州特許出願公開第717008号明細書(EP717008 A)および国際出願2009/053232号(WO2009053232 A1)内にさらに記載されている。
【0040】
ジルコニウムを含むいくつかの熱分解混合酸化物の製造は国際出願2015/173114(WO2015173114 A1)内にさらに記載されている。
【0041】
熱分解法で、特に火炎加水分解で製造された二酸化ジルコニウム粉末およびジルコニウムを含む他の混合金属酸化物を、Zr前駆体としてのジルコニウムハロゲン化物、好ましくはジルコニウム塩化物から出発して製造できる。ZrCl4および適宜他の金属前駆体を蒸発させることができ、生じる蒸気を単独またはキャリアガス、例えば窒素と一緒に、混合ユニット内で、他のガス、つまり空気、酸素、窒素および水素を用いてバーナー内で混合する。前記ガスは閉じられた燃焼チャンバ内の火炎中で互いの反応を引き起こして、二酸化ジルコニウム(または混合ジルコニウム酸化物)と廃ガスとを生成する。次いで、熱い廃ガスおよび金属酸化物を熱交換ユニットで冷却し、廃ガスを金属酸化物から分離して、得られた金属酸化物に付着しているハロゲン化物の残留物を、加湿された空気を用いて熱処理することによって除去する。
【0042】
二酸化ジルコニウム、またはジルコニウムを含む混合金属酸化物を製造するために適した火炎噴霧熱分解(FSP)法は、以下の段階:
1) ジルコニウム前駆体を含有する溶液を、例えば空気または不活性ガスによって、好ましくは多物質ノズルを使用して噴霧する段階、および
2) 燃焼ガス、好ましくは水素および/またはメタンと、空気とを混合する段階、および
3) その混合物を火炎中で燃焼させて、ケーシングによって取り囲まれている反応チャンバに入れる段階、
4) その熱いガスおよび固体の生成物を冷却し、次いで固体の生成物をガスから取り出す段階
を含み得る。
【0043】
火炎噴霧熱分解法によって、二酸化ジルコニウム、およびジルコニウムを含む混合酸化物を製造するために使用される好ましいZr金属前駆体は、カルボン酸ジルコニウム、特に6~9個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸のカルボン酸ジルコニウム、例えば2-エチルヘキサン酸ジルコニウムである。
【0044】
ジルコニウム混合金属酸化物を製造するために必要な他の金属前駆体は、無機、例えば硝酸塩、塩化物、または有機化合物、例えばカルボキシレートのいずれかであってよい。
【0045】
使用される金属酸化物前駆体を、水中または有機溶剤中に溶解して噴霧化できる。適した有機溶剤は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、2-プロパノン、2-ブタノン、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、C1~C8-カルボン酸、酢酸エチル、トルエン、石油、およびそれらの混合物を含む。
【0046】
従って、本発明による方法において使用される熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物は強凝集した一次粒子の形態であり、好ましくは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって特定して、一次粒子の数平均直径5~100nm、より好ましくは10~90nm、さらにより好ましくは20~80nmを有する。この数平均直径は、TEMによって解析された少なくとも500個の粒子の平均サイズを計算することによって特定できる。
【0047】
熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物の強凝集体の平均直径は通常、約10~1000nmであり、前記弱集合体の平均直径は通常、1~2μmである。それらの平均の数値を、適した分散液、例えば水性分散液中で、静的光散乱(SLS)法によって特定できる。弱集合体および部分的に強集合体を、例えば粒子を粉砕または超音波処理することによって破壊して、より小さな粒子サイズを有する粒子をもたらすことができる。
【0048】
好ましくは、二酸化ジルコニウムおよび/またはジルコニウムを含む混合酸化物の平均粒径d50は、5質量%の前記粒子と95質量%の0.5g/Lのピロリン酸ナトリウム水溶液とからなる混合物を25℃で60秒、超音波処理した後に静的光散乱(SLS)によって特定して10~150nm、より好ましくは20~130nm、さらにより好ましくは30~120nmである。
【0049】
従って、本発明の方法において使用される熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物は、好ましくは高い分散性、つまり、穏やかな超音波処理下で比較的小さな粒子を形成する能力を特徴とする。そのような穏やかな条件下での分散は、乾式被覆法の間の条件と相関すると考えられる。これは、ジルコニウム酸化物の弱集合体が本発明の混合工程において超音波処理下と同じように破壊されて、遷移金属酸化物の均質な被覆を形成できることを意味する。
【0050】
二酸化ジルコニウムの、および/またはジルコニウムを含む混合酸化物の粒子のスパン(d90-d10)/d50は、5質量%の前記粒子と95質量%の0.5g/Lのピロリン酸ナトリウム水溶液とからなる混合物を25℃で60秒、超音波処理した後に静的光散乱(SLS)によって特定して、好ましくは0.4~1.2、より好ましくは0.5~1.1、さらにより好ましくは0.6~1.0である。
【0051】
従って、本発明の方法において使用される熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物は、好ましくは比較的狭い粒子サイズ分布を特徴とする。これは、遷移金属酸化物の表面上での高品質のジルコニウム酸化物被覆を達成することを助ける。
【0052】
d値のd10、d50およびd90は所定の試料の累積粒径分布を評価するために一般的に使用される。例えば、d10直径は試料の体積の10%がd10より小さい粒子で構成される直径であり、d50は試料の体積の50%がd50より小さい粒子で構成される直径である。d50は「体積メジアン直径」としても知られており、なぜならそれは試料を体積によって等しく分割するからであり、d90は、試料の体積の90%がd90よりも小さい粒子で構成される直径である。
【0053】
二酸化ジルコニウムおよびジルコニウムを含む混合酸化物は、好ましくは親水性の性質であり、つまり、熱分解工程によるそれらの合成後に疎水性の試薬、例えばシランによってさらに処理されない。そのように製造された粒子は通常、少なくとも96質量%、好ましくは少なくとも98質量%、より好ましくは少なくとも99質量%の純度を有する。ジルコニウムを含む金属酸化物は、ハフニウム化合物を二酸化ハフニウムの形態で含み得る。二酸化ハフニウムの割合は、ZrO2に対して1~4質量%であってよい。本発明の方法において使用される二酸化ジルコニウムおよびジルコニウムを含む混合酸化物は、好ましくはCd、Ce、Fe、Na、Nb、P、Ti、Znの元素を<10ppmの割合で、およびBa、Bi、Cr、K、Mn、Sbの元素を<5ppmの割合で含有し、ここでそれらの元素の全ての割合の合計は<100ppmである。塩化物の割合は好ましくは、金属酸化物粉末の質量に対して0.5質量%未満、より好ましくは0.01~0.3質量%である。炭素の割合は好ましくは、金属酸化物粉末の質量に対して0.2質量%未満、より好ましくは0.005質量%~0.2質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~0.1質量%である。
【0054】
ジルコニウムを含む混合酸化物はリチウム、および任意にランタンおよび/またはアルミニウムの少なくとも1つをさらに含み得る。ジルコニウムを含む以下の混合金属酸化物が特に好ましい: LiZrO3、および一般式LixLa3Zr2MyO8.5+0.5x+z
[式中、6.5≦x≦8、好ましくは7.0≦x≦7.5、
0≦y≦0.5、好ましくは0≦y≦0.2、
M=Hf、Ga、Ge、Nb、Si、Sn、Sr、TaおよびTiについてz=2y、
M=Al、Sc、VおよびYについてz=1.5y、
M=Ba、Ca、MgおよびZnについてz=y]
の混合酸化物、最も好ましくはLi7La3Zr2O12。
【0055】
本発明に関する「遷移金属」との用語は以下の元素を含む: Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au。好ましくは、遷移金属はニッケル、マンガン、コバルトおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0056】
本発明の方法において使用される遷移金属酸化物は、好ましくは一般式MO、M2O3、M3O4またはMO2の化合物であり、ここでMは少なくとも1つの遷移金属であり、好ましくはニッケル、マンガン、コバルトからなる群から選択される1つであり、前記遷移金属酸化物は酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、オキシ水酸化ジルコニウムおよびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物で任意にドープされている。
【0057】
本発明の方法において使用される遷移金属水酸化物は、好ましくは一般式M(OH)2の化合物であり、ここでMは少なくとも1つの遷移金属であり、好ましくはニッケル、マンガン、コバルトからなる群から選択される1つであり、且つ前記遷移金属水酸化物は酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、オキシ水酸化ジルコニウムおよびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物で任意にドープされている。
【0058】
前記遷移金属オキシ水酸化物は、一般式MOOHの化合物であり、ここでMは少なくとも1つの遷移金属であり、好ましくはニッケル、マンガン、コバルトからなる群から選択される1つであり、且つ前記遷移金属オキシ水酸化物は酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、オキシ水酸化ジルコニウムおよびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物で任意にドープされている。
【0059】
本発明による方法において好ましく製造されるリチウム遷移金属混合酸化物は、リチウム・コバルト酸化物、リチウム・マンガン酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン酸化物またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0060】
前記リチウム遷移金属混合酸化物は、好ましくは一般式LiMO2を有し、ここでMはニッケル、コバルト、マンガンから選択される少なくとも1つの遷移金属であり、より好ましくはM=CoまたはNixMnyCozであり、ここで0.3≦x≦0.9、0≦y≦0.45、0≦z≦0.4である。
【0061】
一般式LiMO2のリチウム遷移金属混合酸化物を、他の金属酸化物で、特に酸化アルミニウムおよび/または酸化ジルコニウムでさらにドープできる。
【0062】
前記リチウム遷移金属混合酸化物は、好ましくは数平均粒径2~20μmを有する。数平均粒径は、ISO 13320:2009に準拠してレーザー回折粒子サイズ解析によって特定できる。
【0063】
遷移金属酸化物および/または遷移金属水酸化物および/または遷移金属オキシ水酸化物と二酸化ジルコニウムおよび/またはジルコニウムを含む混合酸化物との使用される混合物の総質量に対する、二酸化ジルコニウムおよび/またはジルコニウムを含む混合酸化物の割合は0.05質量%~5質量%である。
【0064】
二酸化ジルコニウムおよび/またはジルコニウムを含む混合酸化物の割合が0.05質量%未満であると、被覆の有益な効果は通常まだ観察できない。5質量%を上回る場合、5質量%を上回るジルコニウム被覆のさらなる品質の有益な効果は通常観察されない。
【0065】
被覆された前駆体化合物は好ましくは、TEM解析によって特定して、10~200nmの被覆層厚を有する。
【0066】
本発明による方法の段階ii)において使用されるリチウム含有化合物は、好ましくは酸化リチウム、水酸化リチウム、リチウムアルコキシド、炭酸リチウムまたはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0067】
本発明の方法の段階iii)において、被覆された前駆体化合物とリチウム含有化合物との混合物を好ましくは500℃~1350℃、より好ましくは550℃~1300℃、さらにより好ましくは600℃~1250℃、なおもより好ましくは650℃~1200℃の温度で加熱して、リチウム遷移金属混合酸化物を得る。
【0068】
本発明はさらに、リチウム電池内の正極活物質として有用であり、数平均粒子サイズd50 10nm~150nm、好ましくは20nm~130nm、より好ましくは30nm~120nmを有する熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび/または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物を含有するリチウム遷移金属混合酸化物を提供する。被覆されたリチウム遷移金属混合酸化物中の熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび/または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物の数平均粒子サイズd50は、透過型電子顕微鏡(TEM)解析によって特定でき、且つ、本発明の方法において使用される熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび/または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物についての、5質量%の前記粒子と95質量%の0.5g/Lのピロリン酸ナトリウム水溶液とからなる混合物を25℃で60秒、超音波処理した後に静的光散乱(SLS)によって特定できる平均粒子サイズd50に相応する。
【0069】
本発明のリチウム遷移金属混合酸化物は、好ましくは本発明による方法によって得られる。
【0070】
本発明はさらに、リチウム遷移金属混合酸化物のための被覆された前駆体化合物であって、被覆された前駆体表面上で数平均粒子サイズd50 10nm~150nmを有する熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび/または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物を含有する前記前駆体化合物を提供する。
【0071】
本発明による方法の好ましい実施態様において上述された、リチウム遷移金属混合酸化物のさらに好ましい特徴、被覆された前駆体化合物のさらに好ましい特徴、熱分解法で製造された二酸化ジルコニウムおよび/または熱分解法で製造されたジルコニウムを含む混合酸化物のさらに好ましい特徴、および遷移金属酸化物、水酸化物およびオキシ水酸化物のさらに好ましい特徴は、その製造方法とは独立して、本発明によるリチウム遷移金属混合酸化物、被覆された前駆体化合物、正極活物質、およびリチウム電池に関して相応する材料の好ましい特徴でもある。
【0072】
本発明はさらに、本発明によるリチウム遷移金属混合酸化物を含む、リチウム電池用の正極活物質を提供する。
【0073】
リチウム電池の活性な正極、カソードは通常、集電体と、前記集電体上に形成されたカソード活物質層とを含む。
【0074】
集電体はアルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、導電性金属で被覆されたポリマー基材、またはそれらの混合物であってよい。
【0075】
正極活物質はリチウムイオンを可逆的に挿入/脱離できる材料を含むことができ、当該技術分野ではよく知られている。そのようなカソード活物質は、遷移金属酸化物、例えばNi、Co、Mn、Vまたは他の遷移金属および任意にリチウムを含む混合酸化物を含み得る。ニッケル、マンガンおよびコバルト(NMC)を含むリチウム遷移金属混合酸化物が特に好ましい。
【0076】
本発明はさらに、本発明のリチウム遷移金属混合酸化物を含むリチウム電池を提供する。
【0077】
本発明のリチウム電池は、カソードの他、アノード、任意にセパレータ、およびリチウム塩またはリチウム化合物を含む電解質を含有し得る。
【0078】
リチウム電池のアノードは、リチウム二次電池内で一般的に使用され、リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離できる任意の適した材料を含み得る。それらの典型的な例は、結晶炭素、例えば板状、フレーク、球状または繊維タイプのグラファイトの形態での天然または人工グラファイト、アモルファス炭素、例えばソフトカーボン、ハードカーボン、メソフェーズピッチカーバイド、燃焼コークスなど、またはそれらの混合物を含む炭素質材料である。さらに、リチウム金属または変換材料(例えばSiまたはSn)をアノード活物質として使用できる。
【0079】
リチウム電池の電解質は液体、ゲルまたは固体も形態であることができる。
【0080】
リチウム電池の液体電解質は、リチウム電池において一般的に使用される任意の有機溶剤、例えば無水の炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸プロピレン、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、γ-ブチロラクトン、ジメトキシエタン、炭酸フルオロエチレン、炭酸ビニルエチレンまたはそれらの混合物を含み得る。
【0081】
ゲル電解質はゲル化ポリマーを含む。
【0082】
リチウム電池の固体電解質は、酸化物、例えばリチウム金属酸化物、硫化物、リン酸塩、または固体ポリマーを含み得る。
【0083】
リチウム電池の電解質は通常、リチウム塩を含有する。そのようなリチウム塩の例は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、リチウムビス2-(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、テトラフルオロほう酸リチウム(LiBF4)、Li2SiF6、リチウムトリフレート、LiN(SO2CF2CF3)2およびそれらの混合物を含む。
【0084】
本発明はさらに、リチウム電池の正極活物質としての、本発明によるリチウム遷移金属混合酸化物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【
図1】フュームドZrO
2の粒子サイズ分布を示す図である。
【
図2】「ナノZrO
2」の粒子サイズ分布を示す図である。
【
図3】フュームドZrO
2を使用して製造された、ZrO
2被覆Ni
0.8Mn
0.1Co
0.1(OH)
2(例1)上のZrのSEM-EDXマッピングを示す図である。
【
図4】
図4は「ナノZrO
2」で被覆されたNi
0.8Mn
0.1Co
0.1(OH)
2(比較例1)の解析結果を示す図である。
【
図5】フュームドZrO
2でドープされたNMC 811、市販の「ナノZrO
2」でドープされたNMC 811、および参照としてのドープされていないNMC 811のサイクリング性能を示す図である。
【実施例】
【0086】
出発材料
比表面積(BET)40~60m2/gを有するフュームドZrO2を、国際公開第2009/053232号WO2009053232 A1)の例1に従って火炎噴霧熱分解によって製造した。
【0087】
BET表面積≧35m2/gを有する市販の「ナノZrO2」粉末(粒子サイズ20~30nm)は、ChemPUR Feinchemikalien und Forschungsbedarf GmbHによって供給された。
【0088】
BET表面積0.35~0.65m2/g、中央粒径d50=11.0±2μm(静的レーザー散乱法によって特定)を有する市販のリチウムニッケルマンガンコバルト混合水酸化物粉末Ni0.8Mn0.1Co0.1(OH)2は、Linyi Gelon LIB Co.によって供給された。
【0089】
種々のZrO2タイプの粒子サイズ分布
フュームドZrO2の試料または市販の「ナノZrO2」粉末(5質量%)を、蒸留水中のピロリン酸ナトリウム溶液(0.5g/L)中に分散させて、25℃で1分間、外部の超音波浴(160W)中で処理した。
【0090】
図1はフュームドZrO
2の粒子サイズ分布を示し、
図2は「ナノZrO
2」の粒子サイズ分布を示す(レーザー回折粒子サイズアナライザ(HORIBA LA-950)を使用して、静的レーザー回折法(SLS)によって解析)。フュームドZrO
2について、単峰性で且つ非常に狭い粒子サイズ分布(d
10=0.06014μm、d
50=0.07751μm、d
90=0.11406μm、スパン=(d
90-d
10)/d
50=0.7)が検出された一方で、ChemPURの「ナノZrO
2」については広く広がった二峰性の分布が検出され、分散されていない大きな粒子を示した(d
10=0.10769μm、d
50=3.16297μm、d
90=5.80804μm、スパン=(d
90-d
10)/d
50=1.8)。
【0091】
例1
Ni0.8Mn0.1Co0.1(OH)2粉末(217.8g)を2.2g(1.0質量%)のフュームドZrO2粉末と、研究室用強力ミキサー(0.5Lの混合ユニットを備えたSomakonミキサーMP-GL)内でまずは1分間、500rpmで混合し(比電力: 350W/1kgのNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)2)、2つの粉末を均質に混合した。その後、混合強度を2000rpmに高め(比電力: 800W/1kgのNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)2、混合ユニット内の混合器具の先端速度: 10m/秒)、その混合を5分間継続して、ZrO2によるNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)2粒子の乾式被覆を達成する。
【0092】
比較例1
「ナノZrO2」粉末をフュームドZrO2の代わりに使用したこと以外、例1の手順を正確に繰り返した。
【0093】
ZrO
2被覆された遷移金属混合水酸化物のSEM-EDXによる分析
図3はフュームドZrO
2を使用して製造された、ZrO
2被覆Ni
0.8Mn
0.1Co
0.1(OH)
2(例1)上のZrのSEM-EDXマッピング(白)を示し、
図4は「ナノZrO
2」で被覆されたNi
0.8Mn
0.1Co
0.1(OH)
2(比較例1)の解析結果を示す。
図3および4の軸は、x軸=粒子の直径、左のy軸=体積[%]、右のy軸=累積体積[%]を示す。フュームドZrO
2で乾式被覆されたNi
0.8Mn
0.1Co
0.1(OH)
2は、全てのNi
0.8Mn
0.1Co
0.1(OH)
2粒子の完全且つ均質なZrO
2での被覆を示す。より大きなZrO
2弱集合体は検出されず、ナノ構造化フュームドZrO
2の良好な分散性を示す。さらに、Ni
0.8Mn
0.1Co
0.1(OH)
2粒子の近くに、取り付けられていない遊離したZrO
2粒子は見られず、被覆と基材(Ni
0.8Mn
0.1Co
0.1(OH)
2)との間の強い付着性を示す。対照的に
図5は、「ナノZrO
2」の微細なZrO
2粒子のみがNi
0.8Mn
0.1Co
0.1(OH)
2粒子の表面に取り付けられていることを示す。より大きなZrO
2粒子は分散されておらず、従って取り付けられておらず、Ni
0.8Mn
0.1Co
0.1(OH)
2粒子の近くに位置している。その結果、Ni
0.8Mn
0.1Co
0.1(OH)
2粒子はジルコニウム酸化物によって完全には被覆されていない。
【0094】
リチウム遷移金属混合酸化物の製造
リチウム遷移金属混合酸化物(NMC)を製造するために、ドープされていないLiNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)2をLi2CO3と、モル比1:0.54で混合した。その混合物を600℃で7時間予熱し、さらに870℃で15時間アニールして、リチウム遷移金属混合酸化物を得た。
【0095】
ドープされていないLiNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)2の代わりに「ナノZrO2」ドープされた、および「フュームドZrO2」ドープされたLiNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)2粉末を使用したこと以外、前記の手順を正確に繰り返した。
【0096】
電極の製造
90質量%のNMCを5質量%のポリフッ化ビニリデン結合剤(PVDF 5130、製造元: Solef)および5質量%の導電性カーボンブラック(Super PLi、製造元: Timcal)と、不活性ガス雰囲気中でブレンドすることにより、電気化学的測定のための電極を製造した。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤として使用した。そのスラリーをアルミニウム箔上に流延し、120℃で20分間、加熱プレート上、空気下で乾燥させた。その後、その電極シートを真空炉内、120℃で2時間乾燥させた。直径12mmを有する円形電極をより大きな片から打ち出し、次いで2つのローラーの間で、圧力90psiで、平らにして、真空炉内、120℃で12時間、再度乾燥させて、残留水およびNMPを除去した。
【0097】
リチウム電池の組み立て
サイクリング試験用のリチウム電池のセルをCR2032型のコインセル(MTI Corporation)として、アルゴン充填グローブボックス内(Glovebox Systemtechnik GmbH)で組み立てた。リチウム金属(Rockwood Lithium GmbH)をアノード材料として使用した。Celgard 2500をセパレータとして使用した。エチレンカーボネートおよびエチルメチルカーボネート(50:50質量/質量; Sigma-Aldrich)中のLiPF6の1M溶液25μLを電解質として使用した。セルをクリンパ(MTI)で固定した。
【0098】
定電流サイクリング試験
組み立てられたリチウムイオン電池の定電流サイクル性能を25℃で、MACCOR電池サイクラーを使用して、カットオフ電圧3.0~4.3Vで測定した。該セルを0.5C/0.5Cでサイクリングし、長期安定性を試験した(0.5Cレートは電流密度0.7mAh/cm2に相応)。
【0099】
容量および比電流の計算については、活物質の質量のみを考慮した。
【0100】
フュームドZrO
2(Evonik)でドープされたNMC 811のサイクリング性能を、市販の「ナノZrO
2」でドープされたNMC 811、および参照としてのドープされていない(初期状態の)NMC 811と比較した。結果(
図5)から、フュームドZrO
2ドーピングがNMCの安定性およびサイクル寿命を著しく改善することが明らかである。「ナノZrO
2」でドープされたNMCを用いたセルは、著しく悪いサイクリング性能を示す。
【国際調査報告】