(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-01
(54)【発明の名称】停止していない鼓動している心臓への薬物灌流
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20221025BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20221025BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221025BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20221025BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221025BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221025BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20221025BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20221025BHJP
【FI】
A61M1/36 100
A61P9/04
A61P9/00
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/763
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513602
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(85)【翻訳文提出日】2022-04-18
(86)【国際出願番号】 IB2020000692
(87)【国際公開番号】W WO2021038291
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522075221
【氏名又は名称】ディーエヌエークゥオー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(72)【発明者】
【氏名】ホルツマイスター,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】リコティ,バレリア
【テーマコード(参考)】
4C077
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C077AA03
4C077AA25
4C077DD05
4C077EE01
4C077HH03
4C077HH15
4C077JJ03
4C077JJ16
4C077KK30
4C084AA13
4C084MA66
4C084NA10
4C084ZA36
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA10
4C086ZA36
4C087AA01
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA10
4C087ZA36
(57)【要約】
患者の停止していない鼓動している心臓に薬物を灌流させることにより心臓状態を治療する方法が開示される。閉じた回路は、患者の右冠動脈に配置された第1の薬物送達カテーテル、患者の左冠動脈主幹部に配置された第2の薬物送達カテーテル、冠静脈洞に配置された薬物収集カテーテル、冠動脈、冠静脈系、ならびに静脈枝および動脈枝の間に差し挟まれた外的な膜型人工肺を用いて形成されてもよい。心臓状態を治療するための薬物が、閉じた回路を通じて灌流させられてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の停止していない鼓動している心臓中で薬物を灌流させる方法であって、
前記心臓の右冠動脈に第1の薬物送達カテーテルを配置すること、
前記心臓の左冠動脈主幹部に第2の薬物送達カテーテルを配置すること、
前記心臓の冠静脈洞に薬物収集カテーテルを配置することであって、前記第1の薬物送達カテーテル、前記第2の薬物送達カテーテル、および前記薬物収集カテーテルが、前記心臓の冠動脈、前記心臓の冠静脈系、および膜型人工肺デバイスと共に、閉じた回路を形成する、前記配置すること、ならびに
前記閉じた回路を通じて前記薬物を灌流させることであって、前記閉じた回路が、前記患者の全身循環から前記患者の冠動脈循環を分離する、前記灌流させること
を含む、方法。
【請求項2】
前記薬物収集カテーテルに陰圧を適用することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記陰圧が約-100mmHg~0mmHgの範囲内である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の薬物送達カテーテル、前記第2の薬物送達カテーテル、または前記薬物収集カテーテルのうちの1つまたは複数が経皮的に導入される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の薬物送達カテーテルおよび/または前記第2の薬物送達カテーテルが順行性の挿管法を介して配置される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の薬物送達カテーテルおよび/または前記第2の薬物送達カテーテルが、大腿大動脈および/または橈骨大動脈にアクセスすることにより前記患者の大動脈を介して配置される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記薬物収集カテーテルが、前記患者の大静脈を介して前記冠静脈洞に配置される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記薬物収集カテーテルが、前記患者の頸静脈または大腿静脈を介して配置される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記膜型人工肺デバイスが、前記収集カテーテルならびに前記第1の薬物送達カテーテルおよび前記第2の薬物送達カテーテルのうちの1つまたは複数の間に配置される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記閉じた回路を通じて血液を循環させることをさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記血液が、自己血液、ドナーからの適合した血液、またはこれらの組合せを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
血液成分、例えば血清または血漿が、1つまたは複数のパラメーターに従って選択され、前記1つまたは複数のパラメーターが、選択された抗体の存在または非存在を含む、請求項10~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
約1000mL、約800mL、約600mL、約400mL、約200mL、約100mL、または約50mLの血液が、前記閉じた回路を通じて循環させられる、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記灌流が、約5分~約5時間、約15分~約4時間、約30分~約3時間、または約1時間~約2時間の持続期間にかけて行われる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記灌流が少なくとも60分間行われる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記灌流が、約75mL/分~約750mL/分、約150mL/分~約500mL/分、または約200mL/分~約300mL/分の流速で行われる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記薬物が、心臓状態の治療のために好適なものである、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記心臓状態が心不全である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記心臓状態が、遺伝学的に決定される心臓疾患である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記遺伝学的に決定される心臓疾患が、遺伝学的に決定される心筋症である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記薬物が治療用ポリヌクレオチド配列を含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記治療用ポリヌクレオチド配列が1つまたは複数のウイルスベクター中に存在する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記1つまたは複数のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ウシパピローマウイルス、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、ポリオーマウイルス、センダイウイルス、オルトミクソウイルス、パラミクソウイルス、パポバウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス、これらのバリエーション、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記AAVが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、これらのバリエーション、およびこれらの組合せのうちの1つまたは複数である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記治療用ポリヌクレオチド配列が、心臓状態の治療用のタンパク質をコードする核酸配列を含む、請求項21~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記タンパク質が、ヒト心臓中で発現される遺伝子に対応する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記タンパク質が、SERCA2、MyBPC3、MYH7、PKP2、ジストロフィン、FKRP、またはこれらの組合せもしくはバリエーションのうちの1つまたは複数である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記治療用ポリヌクレオチド配列がプロモーターを含む、請求項21~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
約20%v/vよりも低い、約15%v/vよりも低い、約10%v/vよりも低い、約5%v/vよりも低い、約4%v/vよりも低い、約3%v/vよりも低い、約2%v/vよりも低い、約1%v/vよりも低い、約0.5%v/vよりも低い、または実質的に0%v/vの、前記閉じた回路を通じて循環させられる血液が、前記閉じた回路の外側に漏出する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
約20%v/vよりも低い、約15%v/vよりも低い、約10%v/vよりも低い、約5%v/vよりも低い、約4%v/vよりも低い、約3%v/vよりも低い、約2%v/vよりも低い、約1%v/vよりも低い、約0.5%v/vよりも低い、または実質的に0%v/vの、前記閉じた回路を通じて灌流させられる薬物が、前記閉じた回路の外側に漏出する、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の薬物送達カテーテル、前記第2の薬物送達カテーテル、または前記薬物収集カテーテルのうちの1つまたは複数がバルーンカテーテルである、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
患者の心臓中の閉じた回路を通じた灌流液の灌流を維持する方法であって、前記心臓が前記灌流の間に停止しておらずかつ鼓動しており、前記方法が、
前記心臓の右冠動脈に第1のカテーテルを配置すること、
前記心臓の左冠動脈主幹部に第2のカテーテルを配置すること、
前記心臓の冠静脈洞に収集カテーテルを配置することであって、前記第1のカテーテル、前記第2のカテーテル、および前記収集カテーテルが、冠動脈、冠静脈系、および膜型人工肺デバイスと共に、前記心臓を通じた前記閉じた回路を形成する、前記配置すること、ならびに
前記第1のカテーテルおよび前記第2のカテーテルを介して前記心臓に前記灌流液を導入することにより前記閉じた回路を通じて前記灌流液を流すことおよび前記収集カテーテルを介して前記灌流液を収集することであって、前記閉じた回路が、前記患者の全身循環から前記患者の冠動脈循環を分離する、前記流すことおよび前記収集すること
を含む、方法。
【請求項34】
前記灌流が少なくとも60分間維持される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記灌流が少なくとも120分間維持される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記収集カテーテルに陰圧を適用することをさらに含み、前記陰圧が約-100mmHg~0mmHgの範囲内である、請求項33~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記第1のカテーテル、前記第2のカテーテル、または前記収集カテーテルのうちの1つまたは複数が経皮的に導入される、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記膜型人工肺デバイスが、前記収集カテーテルならびに前記第1の薬物送達カテーテルおよび前記第2の薬物送達カテーテルのうちの1つまたは複数の間に配置される、請求項33~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記閉じた回路を通じて血液を循環させることをさらに含み、前記血液が、自己血液、ドナーからの適合した血液、またはこれらの組合せを含む、請求項33~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
約1000mL、約800mL、約600mL、約400mL、約200mL、約100mL、または約50mLの血液が、前記閉じた回路を通じて循環させられる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記灌流が、約75mL/分~約750mL/分、約150mL/分~約500mL/分、または約200mL/分~約300mL/分の流速で行われる、請求項33~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
約20%v/vよりも低い、約15%v/vよりも低い、約10%v/vよりも低い、約5%v/vよりも低い、約4%v/vよりも低い、約3%v/vよりも低い、約2%v/vよりも低い、約1%v/vよりも低い、約0.5%v/vよりも低い、または実質的に0%v/vの、前記閉じた回路を通じて循環させられる血液が、前記閉じた回路の外側に漏出する、請求項33~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記第1のカテーテル、前記第2のカテーテル、または前記収集カテーテルのうちの1つまたは複数がバルーンカテーテルである、請求項33~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
患者の心臓に流体連結された場合に前記心臓内での局所領域灌流を行うためのシステムであって、
前記心臓の右冠動脈への挿入のために適合された第1のカテーテル、
前記心臓の左冠動脈主幹部への挿入のために適合された第2のカテーテル、
前記心臓の冠静脈洞への挿入のために適合された収集カテーテル、
前記第1のカテーテル、前記第2のカテーテル、前記収集カテーテル、および酸素供給源に流体連結される膜型人工肺デバイスであって、前記第1のカテーテル、前記第2のカテーテル、前記収集カテーテル、および前記膜型人工肺デバイスが一緒になって、前記第1のカテーテルが前記右冠動脈に挿入され、前記第2のカテーテルが前記左冠動脈主幹部に挿入され、かつ前記収集カテーテルが前記冠静脈洞に挿入された場合に、前記患者の全身循環から分離された、前記心臓を通じた閉じた回路を形成する、前記膜型人工肺デバイス、ならびに
前記第1のカテーテルおよび前記第2のカテーテルを通じた流体流れを駆動するように構成されたポンプ
を含む、システム。
【請求項45】
局所領域灌流システムであって、
患者の心臓の右冠動脈に挿入される第1のカテーテル、
前記心臓の左冠動脈主幹部に挿入される第2のカテーテル、
前記心臓の冠静脈洞に挿入される収集カテーテル、ならびに
前記第1のカテーテル、前記第2のカテーテル、前記収集カテーテル、および酸素供給源に流体連結される膜型人工肺デバイスであって、前記第1のカテーテル、前記第2のカテーテル、前記収集カテーテル、および前記膜型人工肺デバイスが、前記心臓の冠動脈および冠静脈系と共に、前記患者の全身循環から分離された、前記心臓を通じた閉じた回路を形成する、前記膜型人工肺デバイス、ならびに
前記第1のカテーテルおよび前記第2のカテーテルを介する前記心臓へのおよび前記収集カテーテルを介する前記心臓の外への流体流れを駆動するように構成されたポンプ
を含む、局所領域灌流システム。
【請求項46】
前記膜型人工肺デバイスが、灌流の間に前記閉じた回路に薬物を注入するために構成されたリザーバーを含む、請求項44または請求項45のいずれか一項に記載の局所領域灌流システム。
【請求項47】
前記ポンプが、約-100mmHg~0mmHgの陰圧範囲を生成するように構成されている、請求項44~46のいずれか一項に記載の局所領域灌流システム。
【請求項48】
前記第1の薬物送達カテーテル、前記第2の薬物送達カテーテル、または前記薬物収集カテーテルのうちの1つまたは複数が経皮的に導入される、請求項44~47のいずれか一項に記載の局所領域灌流システム。
【請求項49】
前記第1の薬物送達カテーテルおよび/または前記第2の薬物送達カテーテルが順行性の挿管法を介して配置される、請求項44~48に記載の局所領域灌流システム。
【請求項50】
前記薬物収集カテーテルが、前記患者の大静脈を介して前記冠静脈洞に配置される、請求項44~49に記載の局所領域灌流システム。
【請求項51】
請求項1~43に記載の方法のいずれかを行うように構成された、請求項44または請求項45のいずれか一項に記載の局所領域灌流システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年8月27日に出願された米国仮特許出願第62/892,164号の優先権の利益を主張し、該出願の開示は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、心臓疾患の治療に関し、特に、患者の心臓への治療剤の局在化された送達に関する。
【背景技術】
【0003】
様々な心臓状態、例えば心不全の治療における薬理学上の進歩にもかかわらず、死亡率、および罹病率は依然として許容できない程度に高い。さらには、ある特定の治療アプローチは多くの患者(例えば、他の併存疾患と関連付けられる進行した心不全状態を有する患者)のために好適でない。代替的なアプローチ、例えば遺伝子療法および細胞療法は、目的に特有に合わせられ、かつ多くの心臓疾患の病理発生の根本的な原因への対処において有効である潜在能力に起因して益々注目を集めている。
【0004】
それにもかかわらず、ベクター効率、用量、特異性、および安全性を含めて、送達に関する問題が依然として存在する。そのため、有効であり、忍容性良好であり、最小の侵襲性でもある、様々な心臓状態の治療のために好適な、薬物のより標的化された、均質な送達を達成する方法に向けられたさらなる研究に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最小の侵襲性の方式で患者の停止していない鼓動している心臓中で薬物を灌流させる方法を提供することが本発明の目的である。
【0006】
灌流液が患者の全身循環から分離されるように患者の停止していない鼓動している心臓を通じて灌流液(血液または薬物のうちの1つまたは複数を含有してもよい)を循環させる方法を提供することが本発明の目的である。
【0007】
薬理遺伝子療法の局所領域送達を提供することが本発明の目的である。
【0008】
心臓状態を治療するために患者に送達される薬物の全体的な用量を低減させることが本発明の目的である。
【0009】
心臓状態の治療のために好適な薬物の投与に対するリスクおよび/または有害な免疫応答を低減させることが本発明の目的である。
【0010】
薬理遺伝子療法薬物を与えるための好適でない候補であったであろう中和抗体を有する患者にそのような薬物を再投薬および/または投薬することを可能とすることが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的およびその他は、ある特定の実施形態において、患者の停止していない鼓動している心臓中で薬物を灌流させる方法に向けられた本発明により叶えられる。一部の実施形態において、方法は、心臓の右冠動脈に第1の薬物送達カテーテルを配置することを含む。方法は、心臓の左冠動脈主幹部(left main coronary artery)に第2の薬物送達カテーテルを配置することをさらに含む。方法は、心臓の冠静脈洞に薬物収集カテーテルを配置することをさらに含む。一部の実施形態において、第1の薬物送達カテーテル、第2の薬物送達カテーテル、および薬物収集カテーテルは、心臓の冠動脈、心臓の冠静脈系、および膜型人工肺デバイス(membrane oxygenation device)と共に閉じた回路を形成する。方法は、患者の全身循環から患者の冠動脈循環を分離する閉じた回路を通じて薬物を灌流させることをさらに含む。
【0012】
一部の実施形態において、方法は、薬物収集カテーテルに陰圧を適用することをさらに含む。一部の実施形態において、陰圧は約-100mmHg~0mmHgの範囲内である。
【0013】
一部の実施形態において、閉じた回路は、薬物収集カテーテルに負の吸引圧をさらに適用して、テベシウス静脈を通じた閉じた回路を通じて循環させられる血液および/または薬物の漏出を予防および/または最小化することを可能とする1つまたは複数の吸引機構をさらに含んでもよい。
【0014】
一部の実施形態において、第1の薬物送達カテーテル、第2の薬物送達カテーテル、または薬物収集カテーテルのうちの1つまたは複数は経皮的に導入される。一部の実施形態において、第1の薬物送達カテーテルおよび/または第2の薬物送達カテーテルは順行性の挿管法を介して配置される。一部の実施形態において、第1の薬物送達カテーテルおよび/または第2の薬物送達カテーテルは、大腿大動脈および/または橈骨大動脈(aorta radialis)にアクセスすることにより患者の大動脈を介して配置される。一部の実施形態において、薬物収集カテーテルは、患者の大静脈を介して冠静脈洞に配置される。一部の実施形態において、薬物収集カテーテルは、患者の頸静脈または大腿静脈を介して配置される。一部の実施形態において、膜型人工肺デバイスは、収集カテーテルならびに第1の薬物送達カテーテルおよび第2の薬物送達カテーテルのうちの1つまたは複数の間に配置される。一部の実施形態において、第1の薬物送達カテーテル、第2の薬物送達カテーテル、または薬物収集カテーテルのうちの1つまたは複数は、漏出を低減させまたは予防するためにバルーンによりシールされる。
【0015】
一部の実施形態において、方法は、閉じた回路を通じて血液を循環させることをさらに含む。一部の実施形態において、血液は、自己血液、ドナーからの適合した血液、またはこれらの組合せを含む。一部の実施形態において、血液成分、例えば血清または血漿は、1つまたは複数のパラメーターに従って選択される。一部の実施形態において、1つまたは複数のパラメーターは、選択された抗体の存在または非存在を含む。一部の実施形態において、約1000mL、約800mL、約600mL、約400mL、約200mL、約100mL、または約50mLの血液が、閉じた回路を通じて循環させられる。
【0016】
一部の実施形態において、灌流は、約5分~約5時間、約15分~約4時間、約30分~約3時間、または約1時間~約2時間の持続期間にかけて行われる。一部の実施形態において、灌流は少なくとも60分間行われる。一部の実施形態において、灌流は、約75mL/分~約750mL/分、約150mL/分~約500mL/分、または約200mL/分~約300mL/分の流速で行われる。
【0017】
一部の実施形態において、薬物は、心臓状態の治療のために好適なものである。一部の実施形態において、心臓状態は心不全である。一部の実施形態において、心臓状態は、遺伝学的に決定される心臓疾患である。一部の実施形態において、遺伝学的に決定される心臓疾患は、遺伝学的に決定される心筋症である。
【0018】
一部の実施形態において、薬物は治療用ポリヌクレオチド配列を含む。一部の実施形態において、治療用ポリヌクレオチド配列は1つまたは複数のウイルスベクター中に存在する。一部の実施形態において、1つまたは複数のウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ウシパピローマウイルス、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、ポリオーマウイルス、センダイウイルス、オルトミクソウイルス、パラミクソウイルス、パポバウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス、これらのバリエーション、およびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0019】
一部の実施形態において、ウイルスベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。一部の実施形態において、AAVは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、これらのバリエーション、およびこれらの組合せのうちの1つまたは複数である。
【0020】
一部の実施形態において、治療用ポリヌクレオチド配列は、心臓状態の治療用のタンパク質、アンチセンスRNA、ncRNA、またはmiRNAをコードする核酸配列を含む。一部の実施形態において、タンパク質は、ヒト心臓中で発現される遺伝子に対応する。一部の実施形態において、タンパク質は、SERCA2、MyBPC3、MYH7、PKP2、ジストロフィン、FKRP、またはこれらの組合せもしくはバリエーションのうちの1つまたは複数である。一部の実施形態において、治療用ポリヌクレオチド配列はプロモーターを含む。
【0021】
一部の実施形態において、約20%v/vよりも低い、約15%v/vよりも低い、約10%v/vよりも低い、約5%v/vよりも低い、約4%v/vよりも低い、約3%v/vよりも低い、約2%v/vよりも低い、約1%v/vよりも低い、約0.5%v/vよりも低い、または実質的に0%v/vの、閉じた回路を通じて循環させられる血液が、閉じた回路の外側に漏出する。一部の実施形態において、約20%v/vよりも低い、約15%v/vよりも低い、約10%v/vよりも低い、約5%v/vよりも低い、約4%v/vよりも低い、約3%v/vよりも低い、約2%v/vよりも低い、約1%v/vよりも低い、約0.5%v/vよりも低い、または実質的に0%v/vの、閉じた回路を通じて灌流させられる薬物が、閉じた回路の外側に漏出する。
【0022】
一部の実施形態において、第1の薬物送達カテーテル、第2の薬物送達カテーテル、または薬物収集カテーテルのうちの1つまたは複数はバルーンカテーテルである。
【0023】
上記の目的およびその他は、ある特定の実施形態において、灌流の間に停止しておらずかつ鼓動している患者の心臓中の閉じた回路を通じた灌流液の灌流を維持する方法に向けられた本発明によりさらに叶えられる。一部の実施形態において、方法は、心臓の右冠動脈に第1のカテーテルを配置することを含む。一部の実施形態において、方法は、心臓の左冠動脈主幹部に第2のカテーテルを配置することをさらに含む。一部の実施形態において、方法は、心臓の冠静脈洞に収集カテーテルを配置することをさらに含む。一部の実施形態において、第1のカテーテル、第2のカテーテル、および収集カテーテルは、冠動脈、冠静脈系、および膜型人工肺デバイスと共に、心臓を通じた閉じた回路を形成する。一部の実施形態において、方法は、第1のカテーテルおよび第2のカテーテルを介して心臓に灌流液を導入することにより閉じた回路を通じて灌流液を流すことならびに収集カテーテルを介して灌流液を収集することをさらに含む。一部の実施形態において、閉じた回路は、患者の全身循環から患者の冠動脈循環を分離する。
【0024】
一部の実施形態において、灌流は少なくとも60分間維持される。一部の実施形態において、灌流は少なくとも120分間維持される。
【0025】
一部の実施形態において、方法は、収集カテーテルに陰圧を適用することをさらに含み、陰圧は約-100mmHg~0mmHgの範囲内である。
【0026】
一部の実施形態において、第1のカテーテル、第2のカテーテル、または収集カテーテルのうちの1つまたは複数は経皮的に導入される。
【0027】
一部の実施形態において、膜型人工肺デバイスは、収集カテーテルならびに第1の薬物送達カテーテルおよび第2の薬物送達カテーテルのうちの1つまたは複数の間に配置される。
【0028】
一部の実施形態において、方法は、閉じた回路を通じて血液を循環させることをさらに含み、血液は、自己血液、ドナーからの適合した血液、またはこれらの組合せを含む。一部の実施形態において、約1000mL、約800mL、約600mL、約400mL、約200mL、約100mL、または約50mLの血液が、閉じた回路を通じて循環させられる。
【0029】
一部の実施形態において、灌流は、約75mL/分~約750mL/分、約150mL/分~約500mL/分、または約200mL/分~約300mL/分の流速で行われる。一部の実施形態において、約20%v/vよりも低い、約15%v/vよりも低い、約10%v/vよりも低い、約5%v/vよりも低い、約4%v/vよりも低い、約3%v/vよりも低い、約2%v/vよりも低い、約1%v/vよりも低い、約0.5%v/vよりも低い、または実質的に0%v/vの、閉じた回路を通じて循環させられる血液が、閉じた回路の外側に漏出する。
【0030】
一部の実施形態において、第1のカテーテル、第2のカテーテル、または収集カテーテルのうちの1つまたは複数はバルーンカテーテルである。
【0031】
上記の目的およびその他は、ある特定の実施形態において、患者の心臓に流体連結された場合に前記心臓内での局所領域灌流を行うためのシステムに向けられた本発明によりさらに叶えられる。一部の実施形態において、システムは、心臓の右冠動脈への挿入のために適合された第1のカテーテル;心臓の左冠動脈主幹部への挿入のために適合された第2のカテーテル;心臓の冠静脈洞への挿入のために適合された収集カテーテル;第1のカテーテル、第2のカテーテル、収集カテーテル、および酸素供給源に流体連結される膜型人工肺デバイス;ならびに第1のカテーテルおよび第2のカテーテルを通じた流体流れを駆動するように構成されたポンプを含む。一部の実施形態において、第1のカテーテル、第2のカテーテル、収集カテーテル、および膜型人工肺デバイスは一緒になって、第1のカテーテルが右冠動脈に挿入され、第2のカテーテルが左冠動脈主幹部に挿入され、かつ収集カテーテルが冠静脈洞に挿入された場合に、患者の全身循環から分離された、心臓を通じた閉じた回路を形成する。
【0032】
上記の目的およびその他は、ある特定の実施形態において、局所領域灌流システムであって、患者の心臓の右冠動脈に挿入される第1のカテーテル;心臓の左冠動脈主幹部に挿入される第2のカテーテル;心臓の冠静脈洞に挿入される収集カテーテル;第1のカテーテル、第2のカテーテル、収集カテーテル、および酸素供給源に流体連結される膜型人工肺デバイス;ならびに第1のカテーテルおよび第2のカテーテルを介する心臓へのおよび収集カテーテルを介する心臓の外への流体流れを駆動するように構成されたポンプを含む、前記局所領域灌流システムに向けられた本発明によりさらに叶えられる。一部の実施形態において、第1のカテーテル、第2のカテーテル、収集カテーテル、および膜型人工肺デバイスは、心臓の冠動脈および冠静脈系と共に、患者の全身循環から分離された、心臓を通じた閉じた回路を形成する。
【0033】
一部の実施形態において、膜型人工肺デバイスは、灌流の間に閉じた回路に薬物を注入するために構成されたリザーバーを含む。
【0034】
一部の実施形態において、ポンプは、約-100mmHg~0mmHgの陰圧範囲を生成するように構成されている。
【0035】
一部の実施形態において、第1のカテーテル、第2のカテーテル、または収集カテーテルのうちの1つまたは複数は経皮的に導入される。一部の実施形態において、第1のカテーテルおよび/または第2のカテーテルは順行性の挿管法を介して配置される。一部の実施形態において、収集カテーテルは、患者の大静脈を介して冠静脈洞に配置される。
【0036】
上記の目的およびその他は、ある特定の実施形態において、上述の方法のいずれかを行うように構成された局所領域灌流システムに向けられた本発明によりさらに叶えられる。
【0037】
本開示の上記および他の特徴、それらの性質、ならびに様々な利点は、添付の図面と組み合わせて解釈される、以下の詳細な説明を考慮することでより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1A】本開示の実施形態による例示的な局所領域灌流システムを描写する。
【
図1B】本開示の実施形態による例示的な局所領域灌流デバイスの図式である。
【
図2】停止していないブタ心臓の局所領域灌流の間に捕捉されたラジオグラフであり、左冠動脈主幹部カテーテル、右冠動脈カテーテル、および冠静脈洞バルーンの位置を示す。
【
図3】局所領域灌流の間に測定されたポンプ速度、流速、および圧力のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
定義
本明細書において使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に他に指し示さなければ、複数への言及を含む。そのため、例えば、「薬物」(a drug)への言及は、単一の薬物の他に2つまたはそれより多くの異なる薬物の混合物を含み、「ウイルスベクター」(a viral vector)への言及は、単一のウイルスベクターの他に2つまたはそれより多くの異なるウイルスベクターの混合物を含む、などである。
【0040】
また、本明細書において使用される場合、「約」は、測定される量との繋がりで使用される場合、測定の実行ならびに測定の目的および測定機器の精度に見合う注意レベルの発揮において当業者に予期されるような、その測定される量における通常のばらつきを指す。ある特定の実施形態において、「約」という用語は、記載される数±10%を含み、その結果、「約10」は9~11を含む。
【0041】
また、本明細書において使用される場合、「ポリヌクレオチド」は、当該技術分野におけるその通常のおよび習慣的な意味を有し、任意のポリマー核酸、例えばDNAまたはRNA分子の他に、当業者に公知の化学的誘導体を含む。ポリヌクレオチドは、治療用タンパク質をコードするものを含むだけでなく、当該技術分野における公知の技術を使用して標的化された核酸配列の発現を減少させるために使用され得る配列(例えば、アンチセンス、干渉、または小分子干渉核酸)を含む。ポリヌクレオチドはまた、心臓血管系の細胞内での標的化された核酸配列の発現または標的化されたタンパク質の産生を開始または増加させるために使用され得る。標的化された核酸およびタンパク質としては、標的化された組織中に通常見出される核酸およびタンパク質、そのような天然に存在する核酸もしくはタンパク質の誘導体、標的化された組織中に通常見出されない天然に存在する核酸もしくはタンパク質、または合成核酸もしくはタンパク質が挙げられるがこれらに限定されない。1つまたは複数のポリヌクレオチドは、1つまたは複数の標的化された核酸配列またはタンパク質を増加および/または減少させるために組合せで使用され、同時におよび/または逐次的に投与され得る。
【0042】
また、本明細書において使用される場合、「灌流」、「灌流させられる」、および「灌流させる」は、当該技術分野におけるそれらの通常のおよび習慣的な意味を有し、「注射」または「ボーラス注射」の当該技術分野で認識される期間(典型的には分より短い)よりも実質的に長い期間(典型的には分またはより長い)にわたる投与を指す。灌流の流速は、少なくとも部分的に、投与される体積に依存する。
【0043】
また、本明細書において使用される場合、「外因性」核酸または遺伝子は、核酸移入のために利用されるベクターにおいて天然に存在しない、例えば、ウイルスベクターにおいて天然に見出されないものであるが、該用語は、患者または宿主において天然に存在するタンパク質またはポリペプチドをコードする核酸を除外することは意図されない。
【0044】
また、本明細書において使用される場合、「心臓細胞」は、心臓の構造の維持または機能の提供に関与する心臓の任意の細胞、例えば心筋細胞、心臓血管系の細胞、または心臓弁中に存在する細胞を含む。心臓細胞としては、心筋細胞(正常および異常の両方の電気的特性を有する)、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、通導組織の細胞、心臓ペースメーカー細胞、ならびにニューロンが挙げられる。
【0045】
また、本明細書において使用される場合、「分離された」、「実質的に分離された」、「大きく分離された」、およびそれらのバリアントは、冠静脈循環、心臓循環、体静脈循環、または全身循環の完全なまたは絶対的な分離を要求しない用語であり、むしろそれらは、指定される循環の大部分、好ましくは主要な部分またはさらには実質的に全てが分離されていることを意味することが意図される。また、本明細書において使用される場合、「部分的に分離された」は、指定される循環の任意の些細でない部分が分離されていることを指す。
【0046】
また、本明細書において使用される場合、「非天然に制限された」は、血管を通じた流体の流れを制限する任意の方法、例えば、バルーンカテーテル、縫合などを含むが、天然に存在する制限、例えば、プラーク蓄積(狭窄)を含まない。非天然の制限としては、例えば、冠動脈循環の、実質的なまたは全体的な分離が挙げられる。
【0047】
また、本明細書において使用される場合、「最小の侵襲性の」は、心臓または心臓と密接に関連付けられる血管への解放外科的アクセスを要求しない任意の手順を含むことが意図される。そのような手順としては、心臓にアクセスするための内視鏡手段、そしてまた大動脈および静脈を介するアクセスに依拠するカテーテルベースの手段の使用が挙げられる。
【0048】
また、本明細書において使用される場合、「アデノ随伴ウイルス」または「AAV」は、全てのサブタイプ、血清型、およびシュードタイプの他に、天然に存在するおよび組換えの形態を包含する。様々なAAV血清型および株が当該技術分野において公知であり、供給元、例えばATCCおよび学術的なまたは商用の供給元から公開されている。代替的に、刊行されたかつ/または様々なデータベースから利用可能なAAV血清型および株からの配列は、公知の技術を使用して合成されてもよい。
【0049】
また、本明細書において使用される場合、「血清型」は、定義された抗血清とのカプシドタンパク質反応性により同定され、かつ該反応性に基づいて他のAAVから区別される、AAVを指す。AAV1~AAV12を含めて、ヒトAAVの少なくとも12の公知の血清型があるが、追加の血清型が発見され続けており、新たに発見された血清型の使用が想定される。
【0050】
また、本明細書において使用される場合、「シュードタイプ」AAVは、1つの血清型からのカプシドタンパク質ならびに異なるまたは異種の血清型の5’および3’逆末端反復(ITR)を含むウイルスゲノムを含有するAAVを指す。シュードタイプ組換えAAV(rAAV)は、カプシド血清型の細胞表面結合特性およびITR血清型と合致する遺伝学的特性を有することが予期される。シュードタイプrAAVは、カプシドタンパク質がITRの血清型に対して異種の血清型である限り、VP1、VP2、およびVP3カプシドタンパク質を含めて、AAVカプシドタンパク質、ならびにAAV1~AAV12の任意の霊長動物AAV血清型を含めて、任意の血清型AAVからのITRを含んでもよい。シュードタイプrAAVにおいて、5’および3’ ITRは同一または異種であってもよい。シュードタイプrAAVは、当該技術分野において記載される標準的な技術を使用して製造される。
【0051】
また、本明細書において使用される場合、「キメラ」rAAVベクターは、異種カプシドタンパク質を含むAAVベクターを包含し、すなわち、rAAVベクターは、そのカプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3に関してキメラであってもよく、その結果、VP1、VP2、およびVP3は全て同じ血清型AAVのものではない。キメラAAVは、本明細書において使用される場合、以下に限定されないが例えば、AAV1およびAAV2からのカプシドタンパク質を含めて、カプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3が血清型において異なるAAVを包含し;他のパルボウイルスカプシドタンパク質の混合物であり、または他のウイルスタンパク質もしくは他のタンパク質、例えば、所望の細胞もしくは組織にAAVの送達を標的化するタンパク質などを含む。キメラrAAVはまた、本明細書において使用される場合、キメラ5’および3’ ITRを含むrAAVを包含する。
【0052】
また、本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される賦形剤または担体」は、製剤中の活性剤と合わせられる組成物中の任意の不活性成分を指す。薬学的に許容される賦形剤としては、炭水化物(例えばグルコース、スクロース、またはデキストラン)、抗酸化剤(例えばアスコルビン酸またはグルタチオン)、キレート剤、低分子量タンパク質、高分子量ポリマー、ゲル形成剤、または他の安定化剤および添加剤を挙げることができるがこれらに限定されない。薬学的に許容される担体の他の例としては、湿潤剤、乳化剤、分散剤、または防腐剤が挙げられ、防腐剤は、微生物の増殖または作用を予防するために特に有用である。様々な防腐剤が周知であり、例えば、フェノールおよびアスコルビン酸が挙げられる。担体、安定化剤または佐剤の例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, Pa., 17th ed. (1985)において見出すことができる。
【0053】
また、本明細書において使用される場合、「患者」は、治療の必要性を示唆する1つもしくは複数の特定の症状の臨床的な徴候を示した、状態に対して予防的に処置される、または治療されるべき状態を有すると診断された、対象、特にはヒト(但し非ヒトを包含し得る)を指す。
【0054】
また、本明細書において使用される場合、「対象」は、「患者」という用語の定義を包含し、さもなければ健康な個体を除外しない。
【0055】
また、本明細書において使用される場合、「治療」および「治療する」は、状態、例えば、心臓疾患の重症度を減少させまたは該状態を予防することを意図した薬物の投与を含む。
【0056】
また、本明細書において使用される場合、「予防」および「予防する」は、状態、例えば、心臓疾患の開始の回避を含む。
【0057】
また、本明細書において使用される場合、「状態」(condition)または「状態」(conditions)は、対象への有効量の薬物の投与により治療、軽減、または予防され得る医学的状態、例えば心臓疾患を指す。
【0058】
また、本明細書において使用される場合、「有効量」は、有益なまたは所望の効果を、そのような効果の検出のために一般的に使用される方法により容易に検出可能なレベルで生じさせるために十分な薬物の量を指す。一部の実施形態において、そのような効果は、薬物が投与されない場合の基礎レベルの値からの少なくとも10%の変化を結果としてもたらす。他の実施形態において、変化は、基礎レベルから少なくとも20%、50%、80%、またはよりいっそう高いパーセンテージである。以下に記載されるように、薬物の有効量は、対象の年齢、全般的健康状態、治療されている状態の重症度、および投与される特定の薬物などに依存して対象毎に変動し得る。任意の個々の症例における適切な「有効」量は、関連するテキストおよび文献を参照することによりかつ/またはルーチンの実験を使用することにより、当業者により決定され得る。
【0059】
また、本明細書において使用される場合、「活性剤」は、その目的のために政府機関によって承認されているか否かによらず、治療的な、予防的な、または他の意図される効果を生じさせることが意図される任意の材料を指す。
【0060】
本明細書における値の範囲の記載は、本明細書において他に指し示されなければ、範囲内に入る各別々の値を個々に参照する簡略化された方法として役立つことが単に意図され、各別々の値は、それが本明細書において個々に記載されたかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の全ての方法は、本明細書において他に指し示されなければ、または他に文脈に明確に矛盾しなければ、任意の好適な順序で行うことができる。本明細書において提供される任意および全ての例、または例示的な表現(例えば、「例えば」、「など」)の使用は単に、ある特定の材料および方法に光を当てることが意図され、範囲に対する限定を課さない。本明細書中のいかなる表現も、開示される材料および方法の実施にとって必須であるとして任意の主張されない要素を指し示すとして解釈されるべきではない。
【0061】
詳細な説明
本発明は、最小の侵襲性の方式で心臓状態を治療する方法に向けられている。方法は、患者の全身循環から患者の冠動脈循環を分離すること、および流体、例えば薬物含有流体を、患者の分離されたまたは実質的に分離された冠動脈循環に灌流させることを含んでもよい。灌流は、患者の停止していない鼓動している心臓に行われてもよい。患者の冠動脈循環の分離は、
図1Aおよび
図1Bを参照して以下においてより詳細に記載される。
【0062】
冠動脈循環は、心臓の組織への血液供給を提供する。多数の冠動脈が存在する。通常、4つの主な冠動脈が、酸素供給された血液を、心臓組織の全体を通じた分布のために心臓に提供する:左冠動脈主幹部および右冠動脈、左前下行動脈、および左回旋動脈。酸素枯渇血液が冠静脈洞を通じて流れる。
【0063】
本明細書に開示される実施形態は、第1の薬物送達カテーテル、第2の薬物送達カテーテル、薬物収集カテーテル、冠動脈、冠静脈系、および外的な膜型人工肺を含む(からなるまたはから本質的になる)閉じた回路を形成させることにより患者の全身循環から患者の冠動脈循環を分離するまたは実質的に分離することを想定する。本開示は、ある特定の実施形態において、上記の閉じた回路を用いて患者の全身循環から患者の冠動脈循環を実質的に分離しながら心臓状態の治療のために好適な薬物を心筋に灌流させることをさらに想定する。一部の実施形態において、本明細書に開示される方法は、心臓内の分離された領域ではなく心筋の全体に薬物を送達する。本明細書に開示される方法を用いて心筋に送達された薬物は、心臓の全体を通じて均質に分布されてもよい。
【0064】
心臓状態を治療する場合に患者の全身循環から患者の冠動脈循環を分離することには多数の利点がある。これらの利点としては、(1)薬物の局所領域送達、他の臓器への薬物の最小の漏出、全体的な薬物用量の低減;(2)標的化された薬物用量の増加;(3)リスクおよび副作用の低減;ならびに(4)選択患者への再投薬またはある特定の療法(例えばウイルスベクターに対する抗体を有する患者へのウイルスベクターを用いる遺伝子療法)のための好適な療法候補でなかった患者集団への投薬の可能性が挙げられるがこれらに限定されない。
【0065】
図1Aは、本開示の実施形態による例示的な局所領域灌流(LRP)システム100を描写する。LRPシステム100は、心臓110と共に閉じた回路構成で示されている(明確性のために前方視野110Aおよび後方視野110Bの両方が示される)。LRPシステム100は、膜型人工肺デバイス120、血液気体分析(BGA)モニター130、および圧力モニター140を含む。LRPシステム100は、心臓110の右冠動脈112に第1のカテーテル122を配置し、心臓110の左冠動脈主幹部114に第2のカテーテル114を配置し、心臓の冠静脈洞116に収集カテーテル126を配置することにより組み立てられてもよい。第1のカテーテル122、第2のカテーテル124、および収集カテーテル126は、冠動脈、冠静脈系、膜型人工肺デバイス120、および1つまたは複数の任意選択的な追加の構成要素と共に、閉じた回路を形成する。この閉じた回路は、患者の全身循環から患者の冠動脈循環を分離または実質的に分離してもよい。
【0066】
第1のカテーテル122、第2のカテーテル124、および収集カテーテル126は、経皮的におよび最小の侵襲性の方式で導入されてもよい。一部の実施形態において、第1のカテーテル122および/または第2のカテーテル124は、順行性の挿管法を介して導入されてもよい。他の実施形態において、第1のカテーテル122および/または第2のカテーテル124は、逆行性の挿管法を介して導入されてもよい。カテーテルが心臓への薬物送達のために使用される場合に、第1のカテーテル122および第2のカテーテル124は本明細書において「薬物送達カテーテル」と称されることがあり、収集カテーテル126は本明細書において「薬物収集カテーテル」と称されることがある。
【0067】
第1のカテーテル122および/または第2のカテーテル124は、任意選択的に標準的なガイドワイヤおよび注入ポンプを含んでもよい、標準的な注入カテーテルであってもよい。各カテーテルは、心臓110に灌流液を送達することができ、灌流液は、例えば、局所領域灌流の間に心臓110に送達されるべき薬物を含有してもよい。
【0068】
第1のカテーテル122および/または第2のカテーテル124は、例えば、大腿大動脈および/または橈骨大動脈にアクセスすることにより、患者の大動脈を介して配置されてもよい。1つの実施形態において、第1のカテーテル122は、大腿大動脈にアクセスすることにより患者の大動脈を介して配置されてもよい。別の実施形態において、第1のカテーテル122は、橈骨大動脈にアクセスすることにより患者の大動脈を介して配置されてもよい。1つの実施形態において、第2のカテーテル124は、大腿大動脈にアクセスすることにより患者の大動脈を介して配置されてもよい。別の実施形態において、第2のカテーテル122は、橈骨大動脈にアクセスすることにより患者の大動脈を介して配置されてもよい。
【0069】
収集カテーテル126はバルーンカテーテルであってもよく、その結果、バルーンは、冠静脈洞116内で膨張して、閉じた回路を通じて循環させられる全ての血液が収集カテーテル126を通じて流れることを確実にしてもよい。バルーンカテーテルは、Fogarthy(登録商標)カテーテル、または当業者に認められるような本明細書において議論される意図される目的のために好適な任意の他のカテーテルであってもよい。ある特定の実施形態において、収集カテーテル126は、患者の大静脈を介して配置されてもよい。1つの実施形態において、収集カテーテル126は、患者の頸静脈を介して配置されてもよい。別の実施形態において、収集カテーテル126は、患者の大腿静脈を介して配置されてもよい。一部の実施形態において、第1のカテーテル122、第2のカテーテル124、収集カテーテル126、またはこれらの組合せはそれぞれ、漏出の低減を助けるためのバルーンカテーテルであってもよい。
【0070】
LRPシステム100は、1つまたは複数の追加の構成要素、以下に限定されないが例えば、1つまたは複数のポンプ、1つまたは複数の吸引機構、1つまたは複数の灌流液、およびこれらの組合せをさらに含んでもよい。例えば、LRPシステム100は、一部の実施形態において、膜型人工肺デバイス120に作動可能に連結された、またはその部分である、圧力モニター140を含むとして描写される。圧力モニター140は、冠動脈圧力を連続的にモニターすることにより灌流速度(すなわち、流速)を制御して安全性を確実にするために使用されてもよい。第1の圧力センサー142および第2の圧力センサー144は、例えば、右冠動脈内および左冠動脈主幹部内の圧力をそれぞれ測定するためにそれぞれ第1のカテーテル112および第2のカテーテル114と共に挿入されてもよい。LRPシステム100は、BGAモニターを含むとしてさらに描写され、BGAモニターは、例えば、第1のカテーテル122および第2のカテーテル124を介する灌流の前にまたは灌流液が収集カテーテル126により収集された後に灌流液中の気体濃度(例えば、灌流液が血液を含有する場合)を測定するために、膜型人工肺デバイス120に作動可能に連結される。膜型人工肺デバイス120および1つまたは複数の追加の構成要素は、収集カテーテル126および第1のカテーテル122または第2のカテーテル124のうちの1つまたは複数の間に置かれてもよい。
【0071】
図1Bは、膜型人工肺デバイス120の図式であり、膜型人工肺デバイス120は、灌流液に酸素供給し、灌流液を他の成分(例えば、薬物)と混合し、灌流液から二酸化炭素を除去し、かつ/または第1のカテーテル122(右冠動脈112中)および/もしくは第2のカテーテル124(左冠動脈主幹部114中)のうちの1つもしくは複数に灌流液を押し入れるために使用されてもよい。膜型人工肺デバイス120は、酸素と血液中に含有される二酸化炭素を交換するための任意の商業的に入手可能な体外膜型人工肺(ECMO)デバイスであってもよい。
【0072】
図1Bに図示されるように、膜型人工肺デバイス120は様々な構成要素を含み、該構成要素としては、熱交換器156(出口152を離れ、第1のカテーテル122および第2のカテーテル124に入る前に灌流液が通る)、送達ポンプ158、リザーバー160(成分、例えば血液および/または薬物を、入口154を通じて収集カテーテル126を通じて戻ってくる灌流液に加えるため)、閉じた回路の様々なステージにおけるセンサー162および164(例えば、圧力および/または血液気体含有量を測定するため)、ならびに膜型人工肺166が挙げられる。一部の実施形態において、脱酸素された血液は膜型人工肺166に入り、酸素に富んだ気体と混合される。酸素に富んだ気体は気体ブレンダー168から供給されてもよく、気体ブレンダー168は、酸素を様々な比で二酸化炭素および窒素気体と混合してもよく、気体調節器170により調節される。
【0073】
灌流液は、血液(もしくはその成分、例えば血漿もしくは血清)および/または心臓状態の治療のために好適な薬物および/または媒体、例えば食塩水もしくはデキストロース溶液のうちの1つまたは複数を含んでもよい。送達ポンプ158は、灌流液を第1のカテーテル122および/または第2のカテーテル124に送達してもよい。一部の実施形態において、灌流液は、IVバッグまたはシリンジ中に含有されてもよく、送達ポンプ158を用いてまたは用いずに第1のカテーテル124および/または第2のカテーテル124に直接的に投与されてもよい。
【0074】
吸引機構を使用して収集カテーテル126に負の吸引圧を適用することでテベシウス静脈系を通じた血液および/または薬物漏出を最小化してもよい。負の吸引圧は、約-150mmHg、約-100mmHg、約-50mmHg、約-20mmHg、約-15mmHg、約-10mmHg、約-5mmHg、0mmHg、またはこれらの点のいずれかにより定義される部分範囲内であってもよい。
【0075】
閉じた回路を通じて循環させられる血液は、自己血液、ドナーからの適合した血液、またはこれらの組合せであってもよい。一部の実施形態において、血液成分、例えば血清または血漿は、1つまたは複数のパラメーターに従って選択される。パラメーターのうちの1つは、選択された抗体の存在または非存在であってもよい。例えば、薬物が治療用核酸配列を包含する1つまたは複数のウイルスベクターである場合、患者の自己血液をスクリーニングして、1つまたは複数のウイルスベクターに対する抗体が存在するかどうかを決定してもよい。患者の自己血液中の抗体の存在は、治療の有効性を低減および/もしくは完全に無化させることがあり、かつ/または望ましくない免疫応答を結果としてもたらすことがある。そのため、患者の自己血液をドナーからの血清反応陰性の適合した血液で希釈しまたは置き換え、それにより、薬物に対する患者の免疫応答を低減させかつ薬物の有効性を増強することが可能であり得る。
【0076】
図1Bに図示される様々な構成要素は、膜型人工肺デバイス120の部分であるまたはそれとは別々の構成要素を示すが、この図式は単に実例的なものであり、構成要素のうちの1つまたは複数は膜型人工肺デバイス120中にまたはそれとは別々(外的)に含まれてもよいことが理解されるべきである。
【0077】
LRPシステム100は、以下のようにセットアップおよび作動されてもよい:(1)収集カテーテル126が冠静脈洞116中に慎重に置かれ、緊密にシールされて、心臓静脈の(脱酸素された)血液のみの収集を可能にする;(2)第1のカテーテル122および第2のカテーテル124がシールされた様式で右冠動脈(RCA)および左冠動脈主幹部(RCA)に置かれる;(3)カテーテルが次に標準的なチューブを使用して膜型人工肺デバイス120の動脈系および静脈系に接続される;(4)LRPシステム100の作動が開始され、冠動脈が、酸素供給された血液で順行性に灌流され、それと同時に戻ってくる脱酸素血液が穏やかな陰圧を使用して収集カテーテル126を介して静脈心臓系から収集される;(5)血液が次にリザーバー160に向けられ、その後に膜型人工肺166により酸素供給され、第1のカテーテル122および第2のカテーテル124を介して心臓に順行性に再注入される(送達ポンプ160により駆動される)。薬物(例えば、ベクター)が投与される場合、これは、血液または血漿でのプライムの後にリザーバー160を介して灌流液に加えることができ、血液試料を採取することができ、または薬物を全体的な灌流プロセスの間にリザーバー160を介して適用することができる。
【0078】
一部の実施形態において、ドナーからの血清反応陰性の適合した血液での患者の抗体含有自己血液の希釈は、有害な免疫応答の低減および/または薬物有効性の向上を結果としてもたらし得る。例えば、患者の免疫応答という逆境は、自己血液の希釈または置換えなしでの患者の免疫応答と比較してドナーからの血清反応陰性の適合した血液での自己血液の希釈または置換えで、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%低減されてもよく、または完全に軽減されてもよい。投与される薬物の有効性は、自己血液の希釈または置換えなしでの患者における薬物の有効性と比較してドナーからの血清反応陰性の適合した血液での自己血液の希釈または置換えで、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約150%、約200%、約300%、約400%、または約500%増加されてもよい。
【0079】
一部の実施形態において、灌流液の血液部分は、約5mL~約5000mL、約50mL~約2500mL、約100mL~約1000mL、約150mL~約500mL、約50mL、約75mL、約100mL、約125mL、約150mL、約175mL、約200mL、約225mL、約250mL、約275mL、約300mL、約325mL、約350mL、約375mL、約400mL、約425mL、約450mL、約475mL、約500mL、約550mL、約600mL、約650mL、約700mL、約750mL、約800mL、約850mL、約900mL、約950mL、または約1000mLの範囲内であってもよい。
【0080】
閉じた回路を通じて循環させられる血液中のドナーからの適合した血液に対する自己血液の比は、必要に応じて、薬物に対して最も受容性であり、かつ薬物の導入で最小の免疫応答を生成する、血液混合物を得るように調整されてもよい。一部の実施形態において、比は、約1:100~約100:1、約1:80~約80:1、約1:50~約50:1、約1:30~約30:1、約1:20~約20:1、約1:10~約10:1、約1:8~約8:1、約1:5~約5:1、約1:3~約3:1、または約1:2~約2:1の(自己血液の体積):(ドナーからの適合した血液の体積)の範囲内であってもよい。
【0081】
閉じた回路を通じた灌流液の流速は、患者の血流速度に適合するように調整されてもよい。当業者に認められるように、血流速度は患者毎に変動し、任意の所与の患者について、1日の全体を通じて変動する。よって、閉じた回路を通じて循環させられる灌流液の流速はin situで調整されてもよい。流速は、閉じた回路にかけて測定されてもよい。ある特定の実施形態において、流速は、遷音速プローブ(transonic probe)(例えばチュービングにかけてのクランプ)を用いて測定されてもよい。一部の実施形態において、灌流の間の任意の所与の時点における灌流液の流速は、mL/分の単位に基づいて、患者の血流速度の約20%以内、約15%以内、約10%以内、約8%以内、約5%以内、約3%以内、約2%以内、約1%以内、または約0.5%以内であってもよい。閉じた回路を通じて循環させられる灌流液の流速は、虚血を回避するためにかつ/または灌流下で患者自身の血流速度から著しく逸脱しないことが重要である。
【0082】
閉じた回路を通じて循環させられる灌流液の例示的な流速は、非限定的に、約75mL/分~約750mL/分、約100mL/分~約650mL/分、約125mL/分~約600mL/分、約150mL/分~約500mL/分、約175mL/分~約400mL/分、約200mL/分~約300mL/分、約150mL/分、約175mL/分、約200mL/分、約225mL/分、約250mL/分、約275mL/分、約300mL/分、約325mL/分、または約350mL/分の範囲内であってもよい。
【0083】
灌流液は、非限定的に、約5分~約5時間、約15分~約4時間、約30分~約3時間、または約1時間~約2時間の範囲内の持続期間で閉じた回路を通じて循環させられてもよい。一部の実施形態において、治療持続期間は、日のスパン、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、および7日などにかけて行われてもよい。
【0084】
本明細書に開示されるシステムを用いることで、一部の実施形態において、それなしで全身送達を通じて安全に投与され得るであろう薬物よりも高い用量が、心臓に直接的におよび心臓のみに投与され得る。一部の実施形態において、(全身循環に供されたまたは冠動脈循環の部分的に過ぎない分離に供されたより大きい用量で達成されるものと)同じ治療効果を達成するために薬物のより低い全体的な用量が要求されることがあり、その理由は、心臓の外側および/またはテベシウス静脈系への灌流液の漏出が実質的に存在しない可能性があるためである。
【0085】
一部の実施形態において、約50%v/vよりも低い、約40%v/vよりも低い、約30%v/vよりも低い、約20%v/vよりも低い、約15%v/vよりも低い、約10%v/vよりも低い、約5%v/vよりも低い、約4%v/vよりも低い、約3%v/vよりも低い、約2%v/vよりも低い、約1%v/vよりも低い、約0.5%v/vよりも低い、または実質的に0%v/vの、閉じた回路を通じて循環させられる灌流液(例えば、血液および/または薬物)が、灌流プロセスの間に閉じた回路の外側に漏出する。
【0086】
(当該技術分野において開示される他の方法と比較した)閉じた回路の外側への灌流液漏出の低減は、閉じた回路内および閉じた回路中で利用される各個々の構成要素内に形成される緊密なシールに起因し得る。
【0087】
ある特定の実施形態において、閉じた回路からの何らかの灌流液漏出が残存してもよい。例えば、最大で約0.5%v/v、約1%v/v、約2%v/v、約3%v/v、約4%v/v、約5%v/v、約10%v/v、約15%v/v、約20%v/v、約30%v/v、約40%v/v、または約50%v/vの、閉じた回路を通じて循環させられる灌流液が、閉じた回路の外側に漏出し得る。灌流液の漏出を通じて喪失される任意の薬物量は、算出される曝露時間にかけて一定の心臓への薬物曝露を保つために灌流液中で置き換えられてもよい。算出される曝露時間は、ある特定の実施形態において、約5分~約5時間、約15分~約4時間、約30分~約3時間、約1時間~約2時間の範囲内、またはこれらの間の任意の部分的範囲内であってもよい。
【0088】
治療用組成物
心臓状態の治療のために好適な薬物(すなわち、灌流液中に含まれる薬物)は治療用ポリヌクレオチド配列を含んでもよい。一部の実施形態において、治療用ポリヌクレオチド配列は、心臓状態の治療用のタンパク質をコードしてもよい。心臓状態の治療用のタンパク質は、ヒト起源であってもよく、または異なる種(例えば、非限定的に、マウス、ネコ、ブタもしくはサル)に由来してもよい。一部の実施形態において、治療用ポリヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質は、ヒト心臓中で発現される遺伝子に対応してもよい。
【0089】
例示的なタンパク質は、非限定的に、SERCA2、MYBPC3、MYH7、PKP2、MYL3、MYL2、ACTC1、TPM1、TNNT2、TNNI3、TTN、FHL1、ALPK3、ジストロフィン、FKRP、これらのバリアント、またはこれらの組合せのうちの1つまたは複数を含んでもよい。使用される1つまたは複数のタンパク質はまた、本明細書において言及されるタンパク質の機能的なバリアントであってもよく、元々のタンパク質と比較して著しいアミノ酸配列同一性を呈してもよい。例えば、アミノ酸同一性は、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%であってもよい。この文脈において、「機能的なバリアント」という用語は、タンパク質のバリアントが、天然に存在する対応するタンパク質の機能を部分的にまたは完全に遂行できることを意味する。タンパク質の機能的なバリアントは、例えば、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、または付加によりそれらの天然に存在する対応物とは異なるタンパク質を含んでもよい。
【0090】
アミノ酸置換は保存的または非保存的なものであることができる。置換は、保存的置換、すなわち、機能的な同等物として作用する類似した極性のアミノ酸によるアミノ酸残基の置換であることが好ましい。好ましくは、代用物として使用されるアミノ酸残基は、置換されるアミノ酸残基と同じ群のアミノ酸から選択される。例えば、疎水性残基は別の疎水性残基で置換することができ、または極性残基は、同じ電荷を有する別の極性残基で置換することができる。保存的置換のために使用されてもよい、機能的に同種のアミノ酸は、例えば、非極性アミノ酸、例えばグリシン、バリン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、およびトリプトファンを含む。非荷電性極性アミノ酸の例は、セリン、スレオニン、グルタミン、アスパラギン、チロシンおよびシステインを含む。荷電性極性(塩基性)アミノ酸の例は、ヒスチジン、アルギニン、およびリジンを含む。荷電性極性(酸性)アミノ酸の例は、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含む。
【0091】
1つまたは複数(例えば、2、3、4、5、10、または15)の追加のアミノ酸により天然に存在する対応物とは異なるタンパク質もまたバリアントと考えられる。これらの追加のアミノ酸は、元々のタンパク質のアミノ酸配列内に(すなわち、挿入として)存在してもよく、またはそれらは、タンパク質の1つもしくは両方の末端に付加されてもよい。基本的に、アミノ酸の付加が、治療される対象において天然に存在するタンパク質の機能を遂行するポリペプチドの能力を損なわない場合に、挿入は任意の位置で起こることができる。さらに、タンパク質のバリアントはまた、元々のポリペプチドと比較して1つまたは複数のアミノ酸が欠失しているタンパク質を含む。そのような欠失は、タンパク質の正常な機能を遂行する能力を損なわない限り、任意のアミノ酸位置に影響してもよい。
【0092】
最後に、心臓サルコメアタンパク質のバリアントはまた、構造的修飾、例えば修飾アミノ酸により天然に存在するタンパク質とは異なるタンパク質を指す。修飾アミノ酸は、天然プロセス、例えばプロセシングもしくは翻訳後修飾、または当該技術分野において公知の化学修飾プロセスのいずれかにより修飾されたアミノ酸である。典型的なアミノ酸修飾は、リン酸化、グリコシル化、アセチル化、O結合型N-アセチルグルコサミン化、グルタチオン化、アシル化、分枝化、ADPリボース化、架橋、ジスルフィドブリッジ形成、ホルミル化、ヒドロキシル化、カルボキシル化、メチル化、脱メチル化、アミド化、環化、および/またはホスファチジルイノシトール、フラビン誘導体、リポタイコ酸、脂肪酸、もしくは脂質への共有もしくは非共有結合を含む。
【0093】
標的タンパク質をコードする治療用ポリヌクレオチド配列は、遺伝子療法ベクター、すなわち、外因性核酸の発現を提供するために要求される他の配列、例えばプロモーター、kozak配列、およびポリAシグナルなどの近くに、翻訳および終止コドンを含めて、コーディング配列を含む、核酸構築物の形態で、治療されるべき対象に投与されてもよい。
【0094】
例えば、遺伝子療法ベクターは哺乳動物発現系の部分であってもよい。有用な哺乳動物発現系および発現構築物は商業的に入手可能である。また、いくつかの哺乳動物発現系は異なる製造者により配給されており、本発明において用いることができ、これは例えば、プラスミドまたはウイルスベクターベースのシステム、例えば、LENTI-Smart(商標)(InvivoGen)、GenScript(商標) Expression vectors、pAdVAntage(商標)(Promega)、ViraPower(商標) Lentiviral、Adenoviral Expression Systems(Invitrogen)、およびアデノ随伴ウイルス発現系(Cell Biolabs)である。
【0095】
本発明の外因性治療用ポリヌクレオチド配列を発現するための遺伝子療法ベクターは、例えば、細胞に外因性治療用ポリヌクレオチド配列を、前記核酸によりコードされるタンパク質のその後の発現のために導入するために好適なウイルスまたは非ウイルス発現ベクターであることができる。発現ベクターは、エピソームベクター、すなわち、宿主細胞内で自律的に自己複製できるもの、または組込みベクター、すなわち、細胞のゲノムに安定的に組み込まれるものであることができる。宿主細胞中での発現は、構成的または調節性(例えば、誘導性)であることができる。
【0096】
ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはウイルス発現ベクターである。本発明における使用のためのウイルスベクターは、ウイルスの感染力を破壊することなく異種ポリヌクレオチドを導入するためにネイティブな配列の部分が欠失されたウイルスゲノムを含んでもよい。ウイルス成分および宿主細胞受容体の間の特異的相互作用に起因して、ウイルスベクターは、標的細胞への遺伝子の効率的な移入のために高度に好適である。哺乳動物細胞への遺伝子移入を促すための好適なウイルスベクターは、異なる種類のウイルス、例えば、AAV、アデノウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ウシパピローマウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオーマウイルス、センダイウイルス、オルトミクソウイルス、パラミクソウイルス、パポバウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス、または遺伝子療法のために好適な任意の他のウイルスシャトル、これらのバリエーション、およびこれらの組合せに由来することができる。
【0097】
「アデノウイルス発現ベクター」または「アデノウイルス」は、(a)治療用ポリヌクレオチド配列構築物のパッケージングをサポートするため、ならびに/または(b)その中にクローニングされた組織および/もしくは細胞特異的な構築物を最終的に発現するために十分なアデノウイルス配列を含有する構築物を含むことが意味される。本発明の1つの実施形態において、発現ベクターは、遺伝子操作された形態のアデノウイルスを含む。36キロ塩基(kb)の直鎖状二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝学的編成の知識は、7kbまでの外来配列でのアデノウイルスDNAの大きい部分の置換を可能とする。
【0098】
アデノウイルスの増殖およびマニピュレーションは当業者に公知であり、in vitroおよびin vivoで広い宿主範囲を呈する。この群のウイルスは、高い力価、例えば、1mL当たり109~1011のプラーク形成単位で得ることができ、高度に感染性である。アデノウイルスのライフサイクルは、宿主細胞ゲノムへの組込みを要求しない。アデノウイルスベクターにより送達される外来遺伝子はエピソーム性であり、したがって、宿主細胞に対して低い遺伝毒性を有する。野生型アデノウイルスでのワクチン接種の研究において副作用は報告されておらず、in vivo遺伝子移入ベクターとしてのそれらの安全性および/または治療的な潜在能力を実証している。
【0099】
レトロウイルス(「レトロウイルスベクター」とも称される)は、それらの遺伝子を宿主ゲノムに組み込み、大量の外来遺伝材料を移入し、広範な種および細胞種に感染し、ならびに特別な細胞株中でパッケージングされるそれらの能力に起因して遺伝子送達ベクターとして選択されてもよい。
【0100】
レトロウイルスゲノムは、3つの遺伝子、gag、pol、およびenvを含有し、これらはカプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素、およびエンベロープ成分をそれぞれコードする。gag遺伝子の上流に見出される配列は、ビリオンへのゲノムのパッケージングのためのシグナルを含有する。2つの長鎖末端反復(LTR)配列がウイルスゲノムの5’および3’端に存在する。これらは強いプロモーターおよびエンハンサー配列を含有し、これらもまた宿主細胞ゲノムへの組込みのために要求される。
【0101】
レトロウイルスベクターを構築するために、関心対象の遺伝子をコードする核酸が、ある特定のウイルス配列の場所でウイルスゲノムに挿入されて、複製欠陥性のウイルスが製造される。ビリオンを製造するために、gag、pol、および/またはenv遺伝子を含有するがLTRおよび/またはパッケージング成分を有しないパッケージング細胞系が構築される。レトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と共にcDNAを含有する組換えプラスミドが(例えばリン酸カルシウム沈殿により)この細胞系に導入される場合、パッケージング配列により組換えプラスミドのRNA転写物はウイルス粒子にパッケージングされ、これは次に培養培地に分泌される。組換えレトロウイルスを含有する培地は次に収集され、任意選択的に濃縮され、遺伝子移入のために使用される。レトロウイルスベクターは、広い種類の細胞種に感染することができる。しかしながら、組込みおよび安定発現は宿主細胞の分裂を要求する。
【0102】
レトロウイルスは任意のサブファミリーに由来することができる。例えば、マウス肉腫ウイルス、ウシ白血病、ウイルスラウス肉腫ウイルス、マウス白血病ウイルス、ミンク細胞病巣誘導性ウイルス、細網内皮症ウイルス、またはトリ白血病ウイルスからのベクターを使用することができる。当業者は、異なるレトロウイルスに由来する部分、例えばLTR、tRNA結合部位、およびパッケージングシグナルを組み合わせて組換えレトロウイルスを得ることができる。これらのレトロウイルスは次に、通常、形質導入コンピテントレトロウイルスベクター粒子を製造するために使用される。この目的のために、ベクターは好適なパッケージング細胞系に導入される。レトロウイルスはまた、キメラインテグラーゼ酵素をレトロウイルス粒子に組み込むことにより宿主細胞のDNAへの部位特異的組込みのために構築することができる。
【0103】
単純ヘルペスウイルス(HSV)は向神経性であるので、神経系障害の治療においてかなりの関心を持たれてきた。さらに、宿主細胞染色体に組み込まれることも、他に宿主細胞の代謝を変更することもなく、非分裂性ニューロン細胞中での潜伏感染を確立するHSVの能力は、潜伏の間に活性のプロモーターの存在と共に、HSVを魅力的なベクターとしている。大きな注目はHSVの向神経性応用に集中しているが、このベクターはまた、その広い宿主範囲を考慮して他の組織のために活用することができる。
【0104】
HSVを魅力的なベクターとする別の要因はゲノムのサイズおよび編成である。HSVは大きいので、複数の遺伝子または発現カセットの組込みが、他のより小さいウイルスシステムにおけるよりも問題とならない。追加的に、種々の性能(時間的、強度など)を有する異なるウイルス制御配列の利用可能性により、それは、他のシステムにおけるよりも大きい程度で発現を制御することが可能である。ウイルスが相対的に少ないスプライシングされるメッセージを有し、遺伝子マニピュレーションをさらに容易にすることもまた利点である。
【0105】
HSVはまた、マニピュレートが相対的に容易であり、高い力価に増殖させることができる。そのため、十分な多重感染度(MOI)を達成するために必要とされる体積、および繰返しの投薬に対する減少された必要性の両方の観点で、送達がより問題とならない。HSVの非病原性バリアントが開発されており、遺伝子療法の文脈における使用のために容易に利用可能である。
【0106】
レンチウイルスは複雑なレトロウイルスであり、共通のレトロウイルス遺伝子gag、pol、およびenvに加えて、調節的または構造的機能を有する他の遺伝子を含有する。より高い複雑性は、潜伏感染の経過におけるように、ウイルスがそのライフサイクルをモジュレートすることを可能にする。レンチウイルスの一部の例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1、HIV-2)および類人猿免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。倍加によりHIV病原性遺伝子を弱毒化することによりレンチウイルスベクターが生成されており、例えば、遺伝子env、vif、vpr、vpu、およびnefが欠失されて、ベクターは生物学的に安全なものとされている。
【0107】
レンチウイルスベクターは、プラスミドベースまたはウイルスベースであり、外来核酸を組み込むため、選択のため、および宿主細胞への核酸の移入のための必須の配列を有するように構成されている。関心対象のベクターのgag、polおよびenv遺伝子もまた当該技術分野において公知である。そのため、関連する遺伝子が、選択されたベクターにクローニングされ、次に関心対象の標的細胞を形質転換するために使用される。
【0108】
ワクシニアウイルスベクターは、構築の容易さ、得られる発現の相対的に高いレベル、広い宿主範囲およびDNAを保有する大きい容量のために大規模に使用されている。ワクシニアは、著明な「A-T」選好性を呈する約186kbの直鎖状の二本鎖DNAゲノムを含有する。約10.5kbの逆末端反復がゲノムに隣接する。必須遺伝子の大部分は、ポックスウイルスの間で最も高度に保存された中心領域内にマッピングされるようである。ワクシニアウイルス中の概算されるオープンリーディングフレームの数は150~200である。両方の鎖がコーディング性であるが、リーディングフレームの大規模なオーバーラップは一般的でない。
【0109】
少なくとも25kbをワクシニアウイルスゲノムに挿入することができる。原型的なワクシニアベクターは、相同組換えを介してウイルスチミジンキナーゼ遺伝子に挿入される導入遺伝子を含有する。ベクターは、tk表現型に基づいて選択される。脳心筋炎ウイルスの非翻訳リーダー配列を含めることは、従来のベクターよりも高い発現のレベルを結果としてもたらし、導入遺伝子は24時間中に感染細胞のタンパク質の10%またはより多くで蓄積する。
【0110】
パポバウイルス、例えばマウスポリオーマウイルスの空カプシドは、遺伝子移入のための可能なベクターとして注目されている。空ポリオーマの使用は、ポリオーマDNAおよび精製された空カプシドが無細胞系においてインキュベートされた場合に最初に記載された。新たな粒子のDNAは膵臓DNaseの作用から保護された。再構成された粒子は、形質転換性ポリオーマDNA断片をラットFIII細胞に移入するために使用された。空カプシドおよび再構成された粒子は、ポリオーマカプシド抗原VP1、VP2、およびVP3の3つ全てからなる。
【0111】
AAVは、デペンドウイルス属に属するパルボウイルスである。それらは、小さい、非エンベロープの、一本鎖DNAウイルスであり、複製するためにヘルパーウイルスを要求する。機能的に完全なAAVビリオンを形成するためにヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはワクシニアウイルス)との重感染が必要である。in vitroにおいて、ヘルパーウイルスとの重感染の非存在下で、AAVは潜伏状態を確立し、潜伏状態においてウイルスゲノムはエピソーム形態で存在するが、感染性ビリオンは産生されない。ヘルパーウイルスによるその後の感染はゲノムを「レスキュー」し、それによりゲノムは複製され、ウイルスカプシドにパッケージングされ、それにより感染性ビリオンが再構成される。in vivoで野生型AAVおよび組換えAAVの両方は大きいエピソーム性コンカテマーとして主に存在することを最近のデータは指し示す。1つの実施形態において、本明細書において使用される遺伝子療法ベクターはAAVベクターである。AAVベクターは、精製された、複製インコンピテント、シュードタイプrAAV粒子であってもよい。
【0112】
AAVは、いかなる既知のヒト疾患とも関連付けられておらず、一般に病原性とは考えられず、組込みで宿主細胞の生理学的特性を変更しないようである。AAVは、非分裂細胞を含めて、広範囲の宿主細胞に感染することができ、異なる種からの細胞に感染することができる。細胞性応答および液性応答の両方により急速にクリアランスまたは不活性化される一部のベクターとは対照的に、AAVベクターは、in vivoにおいて様々な組織中で持続性の導入遺伝子発現を誘導することが示されている。in vivoにおける非分裂細胞中での組換えAAV媒介性導入遺伝子の持続は、ネイティブなAAVウイルス遺伝子の欠如およびエピソーム性コンカテマーを形成するベクターのITR関連能力に帰せられ得る。
【0113】
AAVは、エピソーム性コンカテマーとして高い頻度の持続を有し、かつ心筋細胞を含めて、非分裂細胞に感染することができるため、例えば、組織培養およびin vivoにおける、哺乳動物細胞への遺伝子の送達のために有用であることから、本発明の細胞形質導入における使用のための魅力的なベクターシステムである。
【0114】
典型的には、rAAVは、2つのAAV末端反復により隣接される関心対象の遺伝子を含有するプラスミドおよび/または末端反復を有しない野生型AAVコーディング配列を含有する発現プラスミド、例えばpIM45を共トランスフェクトすることにより作られる。細胞はまた、AAVヘルパー機能のために要求されるアデノウイルス遺伝子を有するアデノウイルスおよび/またはプラスミドを用いて感染および/またはトランスフェクトされる。そのような様式で作られるrAAVのストックはアデノウイルスが夾雑しており、それは(例えば、塩化セシウム密度遠心分離またはカラムクロマトグラフィーにより)rAAV粒子から物理的に分離されなければならない。代替的に、AAVコーディング領域を含有するアデノウイルスベクターならびに/またはAAVコーディング領域および/もしくはアデノウイルスヘルパー遺伝子のうちの一部もしくは全てを含有する細胞系が使用され得る。組み込まれたプロウイルスとしてrAAV DNAを有する細胞系もまた使用することができる。
【0115】
AAVの複数の血清型が天然に存在し、少なくとも12の血清型(AAV1~AAV12)がある。高い程度の相同性にもかかわらず、異なる血清型は異なる組織に対するトロピズムを有する。トランスフェクションで、AAVは宿主中で(あったとしても)軽微な免疫反応のみを誘発する。したがって、AAVは、遺伝子療法アプローチのために高度に適する。
【0116】
本開示は、一部の実施形態において、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、ANC AAV、これらから誘導されたキメラAAV、これらのバリエーション、および関心対象の組織中での高い効率の形質導入のためによりいっそう好適なものであるこれらの組合せのうちの1つまたは複数であるAAVベクターを含む薬物に向けられたものであり得る。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型1のベクターである。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型2のベクターである。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型3のベクターである。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型4のベクターである。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型5のベクターである。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型6のベクターである。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型7のベクターである。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型8のベクターである。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型9のベクターである。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型10のベクターである。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型11のベクターである。ある特定の実施形態において、遺伝子療法ベクターはAAV血清型12のベクターである。
【0117】
ヒトのためのAAVの好適な用量は、約1×108vg/kg~約3×1014vg/kg、約1×108vg/kg、約1×109vg/kg、約1×1010vg/kg、約1×1011vg/kg、約1×1012vg/kg、約1×1013vg/kg、または約1×1014vg/kgの範囲内であり得る。ウイルス粒子またはDRPの総量は、約、少なくとも、少なくとも約、多くて、もしくは多くて約、5×1015vg/kg、4×1015vg/kg、3×1015vg/kg、2×1015vg/kg、1×1015vg/kg、9×1014vg/kg、8×1014vg/kg、7×1014vg/kg、6×1014vg/kg、5×1014vg/kg、4×1014vg/kg、3×1014vg/kg、2×1014vg/kg、1×1014vg/kg、9×1013vg/kg、8×1013vg/kg、7×1013vg/kg、6×1013vg/kg、5×1013vg/kg、4×1013vg/kg、3×1013vg/kg、2×1013vg/kg、1×1013vg/kg、9×1012vg/kg、8×1012vg/kg、7×1012vg/kg、6×1012vg/kg、5×1012vg/kg、4×1012vg/kg、3×1012vg/kg、2×1012vg/kg、1×1012vg/kg、9×1011vg/kg、8×1011vg/kg、7×1011vg/kg、6×1011vg/kg、5×1011vg/kg、4×1011vg/kg、3×1011vg/kg、2×1011vg/kg、1×1011vg/kg、9×1010vg/kg、8×1010vg/kg、7×1010vg/kg、6×1010vg/kg、5×1010vg/kg、4×1010vg/kg、3×1010vg/kg、2×1010vg/kg、1×1010vg/kg、9×109vg/kg、8×109vg/kg、7×109vg/kg、6×109vg/kg、5×109vg/kg、4×109vg/kg、3×109vg/kg、2×109vg/kg、1×109vg/kg、9×108vg/kg、8×108vg/kg、7×108vg/kg、6×108vg/kg、5×108vg/kg、4×108vg/kg、3×108vg/kg、2×108vg/kg、もしくは1×108vg/kgであり、またはこれらの値の任意の2つにより定義される範囲内に入る。上記の列記される投薬量は、心臓組織1kg当たりのvgの単位である。
【0118】
本明細書に開示されるシステムおよび方法を用いることで、一部の実施形態において、それなしで全身送達を通じて安全に投与され得るよりも高用量の薬物が心臓に直接的におよび心臓のみに投与され得るが、その理由は、心臓の外側および/またはテベシウス静脈系への灌流液の漏出が実質的に存在しないためである。限定として解釈されるものではないが、AAV毒性は、全身性の効果、例えば肝毒性、血小板活性化および喪失、ならびに補体活性化および喪失に起因し得ると考えられる。これらの毒性およびその他の全てが、本明細書に開示される方法およびシステムに記載の局所領域灌流液適用を介して低減、最小化、または完全に回避され得る。そのため、心臓組織1kg当たり約5×1015vgまでの用量は忍容性良好であり得る。ある特定の実施形態において、心臓組織1kg当たりのvgとして表される、心臓に対するAAV用量は、約2~約200、約5~約150、約10~約100、またはこれらにおける任意の部分的範囲の係数で最も高い全身に投与される用量を上回ってもよい。
【0119】
ウイルスベクター以外に、非ウイルス発現構築物もまた、患者の細胞に標的タンパク質またはその機能性バリアントもしくは断片をコードする遺伝子を導入するために使用されてもよい。標的細胞中でのタンパク質のin vivo発現を許容する非ウイルス発現ベクターとしては、例えば、プラスミド、修飾RNA、cDNA、アンチセンスオリゴマー、DNA-脂質複合体、ナノ粒子、エクソソーム、遺伝子療法のために好適な任意の他の非ウイルスシャトル、これらのバリエーション、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0120】
ウイルスベクターおよび非ウイルス発現ベクター以外に、ヌクレアーゼシステムもまた、患者の細胞に入り、標的タンパク質またはその機能性バリアントもしくは断片をコードする遺伝子をそこに導入するために、ベクターおよび/またはエレクトロポレーションシステムと組み合わせて、使用されてもよい。例示的なヌクレアーゼシステムとしては、非限定的に、clustered regularly interspaced short palindromic repeats(CRISPR)、DNA切断酵素(例えば、Cas9)、メガヌクレアーゼ、TALEN、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、遺伝子療法のために好適な任意の他のヌクレアーゼシステム、これらのバリエーション、およびこれらの組合せを挙げることができる。例えば、1つの実施形態において、1つのウイルスベクター(例えば、AAV)はヌクレアーゼ(例えば、CRISPR)のために使用されてもよく、別のウイルスベクター(例えば、AAV)はDNA切断酵素(例えば、Cas9)のために使用されてもよく、それにより両方(ヌクレアーゼおよびDNA切断酵素)が標的細胞に導入される。
【0121】
治療用遺伝子をコードする治療用ポリヌクレオチド配列を細胞に送達するために用いられ得る他のベクター送達システムは受容体媒介性送達媒体である。これらは、ほぼ全ての真核細胞中での受容体媒介性エンドサイトーシスによる高分子の選択的な取込みを利用する。様々な受容体の細胞種特異的な分布のため、送達は高度に特異的であり得る。受容体媒介性の遺伝子標的化媒体は、2つの成分:細胞受容体特異的リガンドおよびDNA結合剤を含んでもよい。
【0122】
標的細胞への非ウイルスベクターの移入のための好適な方法は、例えば、リポフェクション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法ならびにマイクロガラスチューブ、超音波、およびエレクトロポレーションなどを使用する直接的なDNA導入法である。ベクターの導入の前に、心筋細胞は、透過処理剤、例えばホスファチジルコリン、ストレプトリジン、カプリン酸ナトリウム、デカノイルカルニチン、酒石酸、リゾレシチン、およびTriton X-100などで処理されてもよい。エクソソームもまた、ネイキッドDNAまたはAAVカプシド被包DNAを移入するために使用されてもよい。
【0123】
本発明の遺伝子療法ベクターは、標的タンパク質をコードする核酸配列に機能的に連結されたプロモーターを含んでもよい。プロモーター配列は、コンパクトかつ強い発現を確実にするものでなければならない。好ましくは、プロモーターは、遺伝子療法ベクターを用いて治療された患者の心筋において標的タンパク質の発現を提供する。一部の実施形態において、遺伝子療法ベクターは、標的タンパク質をコードする核酸配列に作動可能に連結された心臓特異的プロモーターを含む。本明細書において使用される場合、「心臓特異的プロモーター」は、心臓細胞におけるその活性が任意の他の非心臓細胞種におけるよりも少なくとも2倍高いプロモーターを指す。好ましくは、本発明のベクターにおいて使用するために好適な心臓特異的プロモーターは、非心臓細胞種中でのその活性と比較して少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、または少なくとも50倍高い心臓細胞中での活性を有する。
【0124】
心臓特異的プロモーターは、選択されたヒトプロモーター、または選択されたヒトプロモーターに対して少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%の配列同一性を有する機能的に同等の配列を含むプロモーターであってもよい。使用されてもよい例示的な非限定的なプロモーターは心臓トロポニンTプロモーター(TNNT2)である。プロモーターの他の非限定的な例としては、アルファミオシン重鎖プロモーター、ミオシン軽鎖2vプロモーター、アルファミオシン重鎖プロモーター、アルファ-心臓アクチンプロモーター、アルファ-トロポミオシンプロモーター、心臓トロポニンCプロモーター、心臓トロポニンIプロモーター、心臓ミオシン結合性タンパク質Cプロモーター、および筋小胞体/小胞体Ca2+-ATPアーゼ(SERCA)プロモーター(例えば、このプロモーターのアイソフォーム2(SERCA2))が挙げられる。
【0125】
本発明において有用なベクターは、種々の形質導入効率を有し得る。結果として、ウイルスまたは非ウイルスベクターは、標的化された血管テリトリーの細胞の約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、または100%より高く、それに等しく、またはそれ以上で形質導入を行う。1つより多くのベクター(ウイルスもしくは非ウイルス、またはこれらの組合せ)を同時にまたは順次使用することができる。これを使用して、1つより多くのポリヌクレオチドを移入すること、および/または1つより多くの種類の細胞を標的化することができる。複数のベクターまたは複数の剤が使用される場合、1つより多くの形質導入/トランスフェクション効率が結果としてもたらされ得る。
【0126】
遺伝子療法ベクターを含有する医薬組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかとして調製されてもよい。本発明の医薬組成物は、一般的に使用される薬学的に許容される賦形剤、例えば希釈剤および担体を含むことができる。特に、組成物は、薬学的に許容される担体、例えば、水、食塩水、リンゲル溶液、またはデキストロース溶液を含む。担体に加えて、医薬組成物はまた、乳化剤、pH緩衝化剤、安定化剤、および色素などを含有してもよい。
【0127】
ある特定の実施形態において、医薬組成物は、治療的に有効な遺伝子用量を含み、これは、対象に対して毒性となることなく、対象において心筋症を予防または治療することができる用量である。心筋症の予防または治療は、心筋症と関連付けられる表現型的特徴における変化として評価されてもよく、そのような変化は、心筋症を予防または治療するために有効なものである。そのため、治療的に有効な遺伝子用量は、典型的には、生理学的に許容できる組成物中で投与された場合に、治療される対象において病原性の心臓表現型を改善または予防するために十分なものである。
【0128】
本明細書に開示される方法により治療され得る心臓状態は、非限定的に、遺伝学的に決定される心臓疾患(例えば、遺伝学的に決定される心筋症)、不整脈心臓疾患、心不全、虚血、不整脈、心筋梗塞、鬱血性心不全、移植片拒絶、異常な心臓収縮、非虚血性心筋症、僧帽弁逆流症、大動脈狭窄症または逆流症、異常なCa2+代謝、先天性心臓疾患、原発性または二次性心臓腫瘍、およびこれらの組合せのうちの1つまたは複数を含んでもよい。
【実施例】
【0129】
実例的な実施例
以下の実施例は、本開示の理解を補助するために記載され、当然ながら、本出願において記載およびクレームされる実施形態を特に限定するとして解釈されるべきではない。当業者の認識範囲内にある、公知でありまたは後に開発された全ての同等物の置換を含めて、実施形態のそのようなバリエーション、および製剤における変更または実験設計における軽微な変更は、本明細書に組み込まれる実施形態の範囲内に入ると考えられるべきである。
【0130】
[実施例1]
3匹のブタにおける局所領域灌流の実現可能性の研究
3匹のブタ(sus scrofa domestica)において手順を60分間成功裏に行うことにより確立されたLRPシステムの実現可能性。2匹のブタにおいて、調査目的のために開胸術を行ったが、全てのカテーテルは経皮的に導入した。第3のブタにおいて、開胸術は行わず、全体的なLRP手順を経皮的に行った。
【0131】
図1Aおよび
図1Bに図示され、該図に関して記載されるLRPシステム100を利用して3匹の動物に対してLRPを行った。3匹全ての動物において、いかなる技術的な問題もなく、心臓を自発的に60分間鼓動させながらLRP手順を維持することができた。LRPの間に、全ての動物(n=3)は、変力剤のいかなる必要性もなしに血行力学的に安定であった。LRP後の心臓機能は平凡なものであり、全ての動物についてベースラインと同等であった。冠動脈の全体的な閉塞が許容された:動物1において、LCAは完全には閉塞できず(漏出は軽度と考えられた)、動物2において、RCAは完全には閉塞できず(漏出は微量と考えられた)、動物3において、両方の冠動脈を閉塞することができた。
【0132】
ブタの可変的な解剖学的形態に起因して冠静脈洞(CS)の緊密な閉塞は技術的により困難であり、ブタでは、ヒトとは対照的に、奇静脈は冠静脈洞に直接的に挿入され、ヒトの状況をシミュレートするために閉塞される必要がある。完全な閉塞が動物3において達成され(Reliantバルーンを使用)、部分的な閉塞が動物1および動物2において達成された(ProPledgeカテーテル)。166mL/分~244mL/分の範囲内の60分のLRP手順の間の流速を達成することができた。意図される使用および本開示の実施形態によるLRPシステムにおける使用を含めて、この実施例において使用された補助的デバイスを列記する。
【0133】
図2は、代表的なLRPのin situの装置のラジオグラフであり、冠動脈カテーテルが矢印により指し示され、冠静脈洞バルーン(収集カテーテル)が三角形により指し示される。
【0134】
3匹の動物についてのLRPパラメーター(ポンプ速度、流れ、および圧力)の平均値を
図3に要約する(バーは標準偏差を表す)。
【0135】
表は、それらの意図される使用および本開示の実施形態によるLRPシステムにおける使用を含む。
【0136】
図2は、代表的なLRPのin situの装置のラジオグラフであり、冠動脈カテーテルが矢印により指し示され、冠静脈洞バルーン(収集カテーテル)が三角形により指し示される。
【0137】
3匹の動物についてのLRPパラメーター(ポンプ速度、流れ、および圧力)の平均値を
図3に要約する(バーは標準偏差を表す)。
【0138】
【0139】
【0140】
[実施例2]
2匹のブタにおける局所領域灌流システムの安全性研究
2匹のブタ(sus scrofa domestica)において60分間経皮アプローチを使用してLRP手順を行い、手順後に24時間、動物を麻酔下に保ったまま動物を追跡することによりLRPシステムの安全性を確立した。24時間の期間後に、動物を屠殺し、それらの心臓の肉眼および顕微鏡検査を実行した。追加的に、血液バイオマーカーを得て、心臓の組織損傷を評価した。
【0141】
両方の実験において、いかなる深刻な有害効果もなくLRPを成功裏に行うことができた。動物5について技術的な問題が発生し、ポンプヘッドのチュービング接続が10分後に故障した。LRPを直ちに中止し、全てのカテーテルを脱着および収縮させた。ポンプヘッドを直ちに置き換え、LRPシステムを再接続し、脱気し、再開した。この手技の間に、動物は血行力学的に安定であり、深刻な有害効果は観察されなかった。LRP手順を次に60分間維持し、軽微な機器の故障があっても安全性の有効性が実証された。
【0142】
LRPの開始、再開、および24時間後までを含めて、手順の全体を通じて、動物は変力剤のいかなる必要性もなしに血行力学的に安定であった。
【0143】
両方の動物について左冠動脈主幹部および右冠動脈を完全に閉塞し、冠静脈洞を部分的に閉塞(漏出は中程度であった)しながら、173mL/分の平均LRP流れを達成することができた。術後および24時間の心臓機能は平凡なものであり、ベースラインと同等であった。心臓バイオマーカー(ミオグロビンおよびトロポニン)は、LRP手順の間および直後にわずかにのみ増加したが、24時間のフォローアップの間に直ちにベースライン値に向けて低下した。全体的な手順を通じた動物の連続的な血行動態安定性、深刻な有害効果の非存在、ならびに心臓バイオマーカーの軽微かつ一時的に過ぎない増加の他に、24時間の間の即時の正常化を伴う一時的に過ぎない心電図変化を考慮して、LRP手順は安全であることが実証された。表3は、安全性研究において使用された動物4および動物5における60分のLRP手順にかけての流れおよび圧力の特徴を編纂する。
【0144】
【0145】
動物4および動物5の心臓を屠殺後に巨視的に調べた。
【0146】
動物4の心臓重量は312グラムであった。肉眼的な病理は観察されず、特に心筋虚血の徴候も心筋梗塞の徴候もなかった。動物4の心臓の後部側において、局在化した血腫が右冠動脈の区画に観察されたが、これは手順の間のワイヤー傷害に起因する可能性が最も高い。
【0147】
動物5の心臓重量は293グラムであった。肉眼的な病理は観察されず、特に心筋虚血の徴候も心筋梗塞の徴候もなかった。動物5の心臓の後部側において、局在化した血腫が遠位右冠動脈および遠位左回旋動脈の区画に観察されたが、これは手順の間のワイヤー傷害に起因する可能性が最も高い。
【0148】
心臓組織の生化学的な完全性を確認するために、血清心臓バイオマーカーを得、それを表4に要約する。クレアチンキナーゼ(CK)レベルはLRP手順の間に安定なままであったが、最も高い可能性としては仰臥位に動物が横たわったことに起因して、LRP後に連続的な上昇を示した。ミオグロビンレベルはLRP手順の間に安定なままであり、その後に最小に過ぎない増加を示したが、依然として動物4について参照レベル内、動物5について参照レベルよりもごくわずかに高いに過ぎなかった。トロポニンTはLRP手順の間に最小に増加し、60分でのピークに続いて、フォローアップの間にベースライン値まで低下した。
【0149】
【0150】
以上の記載において、本発明の徹底的な理解を提供するために、多数の特有の詳細、例えば特有の材料、寸法、プロセスパラメーターなどが記載される。特定の構成、構造、材料、または特徴は、1つまたは複数の実施形態において任意の好適な方式で組み合わせられてもよい。「例」または「例示的な」という語は、例、事例、または実例として役立つことを意味するために本明細書において使用される。「例」または「例示的」として本明細書に記載される任意の態様または設計は、他の態様または設計よりも好ましいまたは有利であるとは必ずしも解釈されない。むしろ、「例」または「例示的な」という語の使用は、具体的な様式で概念を提示することが単純に意図される。本出願において使用される場合、「または」という用語は、排他的な「または」ではなく包含的な「または」を意味することが意図される。すなわち、他に指定されなければ、または文脈から明らかでなければ、「XはAまたはBを含む」は、自然な包含的な順列組合せのいずれかを意味することが意図される。すなわち、XがAを含むか、XがBを含むか、またはXがAおよびBの両方を含む場合に、「XはAまたはBを含む」は以上の事例のいずれかの下で満たされる。本明細書の全体を通じて「実施形態」、「ある特定の実施形態」、または「1つの実施形態」への言及は、実施形態との繋がりで記載される特定の構成、構造、または特徴が少なくとも1つの実施形態において含まれることを意味する。そのため、本明細書の全体を通じた様々な場所における「実施形態」、「ある特定の実施形態」、または「1つの実施形態」という語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すものではない。
【0151】
本発明がその特有の例示的な実施形態を参照して記載された。本明細書および図面は、よって、制限的な意味ではなく実例的な意味でみなされるべきである。本明細書に示され、記載されるものに加えて本発明の様々な改変が当業者に明らかとなり、それは添付の請求項の範囲内に入ることが意図される。
【符号の説明】
【0152】
100 LRPシステム
110A 前方視野
110B 後方視野
112 右冠動脈
114 左冠動脈主幹部
116 冠静脈洞
120 膜型人工肺デバイス
122 第1のカテーテル
124 第2のカテーテル
126 収集カテーテル
130 血液気体分析(BGA)モニター
140 圧力モニター
142 第1の圧力センサー
144 第2の圧力センサー
152 出口
154 入口
156 熱交換器
158 送達ポンプ
160 リザーバー
162 センサー
164 センサー
166 膜型人工肺
168 気体ブレンダー
170 気体調節器
【国際調査報告】