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特表2022-545957フルオロポリマーを含むハイブリッド複合電解質
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  • 特表-フルオロポリマーを含むハイブリッド複合電解質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-01
(54)【発明の名称】フルオロポリマーを含むハイブリッド複合電解質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221025BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20221025BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20221025BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20221025BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221025BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20221025BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20221025BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08L45/00
H01M10/056
H01M4/139
H01M10/052
H01B1/10
H01B1/06 A
C08L27/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513612
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(85)【翻訳文提出日】2022-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2020074174
(87)【国際公開番号】W WO2021043698
(87)【国際公開日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】19194856.1
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ビーソ, マウリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】リベラーレ, フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】フィンシー, フィンセント
(72)【発明者】
【氏名】メルロ, ルカ
【テーマコード(参考)】
4J002
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4J002BD121
4J002BD131
4J002BD141
4J002BD151
4J002BD161
4J002BK001
4J002DG026
4J002FD206
4J002GQ00
5G301CA05
5G301CA14
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA23
5G301CA27
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ01
5H029AJ11
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029CJ22
5H029DJ08
5H029HJ02
5H050AA01
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA10
5H050EA02
5H050EA03
5H050EA09
5H050EA10
5H050GA22
5H050HA02
(57)【要約】
本発明は、アモルファスフッ素化バインダー中に分散された硫化物ベースの固体電解質粒子を含む固体電解質膜に関し、前記固体電解質膜は、改善されたイオン伝導性、改善された耐酸化性、及び優れた機械的特性によって特徴付けられる。本発明は、更に、前記固体電解質膜の製造方法、及び固体電池におけるその使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体電解質と;
ii)少なくとも1種のパーフルオロアモルファスポリマー[ポリマー(A)]と;
を含む固体電池用複合固体電解質膜。
【請求項2】
前記少なくとも1種の硫化物ベースの固体電解質が以下からなる群から選択される、請求項1に記載の複合固体電解質膜:
- Li10SnP12などのリチウムスズリン硫化物(「LSPS」)材料;
- 式(LiS)-(P(x+y=1且つ0≦x≦1)、Li11、LiPS、Li、Li9.612、及びLiPSのもののガラス、結晶、又はガラスセラミックなどのリチウムリン硫化物(「LPS」)材料;
- LiCuPS、Li1+2xZn1-xPS(0≦x≦1)、Li3.33Mg0.33、及びLi4-3xSc(0≦x≦1)などのドープされたLPS;
- 式LixPySzO(0.33≦x≦0.67、0.07≦y≦0.2、0.4≦z≦0.55、0≦w≦0.15)のリチウムリン硫化物酸素(「LPSO」)材料;
- Li10GeP12及びLi10SiP12などの、XがSi、Ge、Sn、As、AlであるXを含むリチウムリン硫化物材料(「LXPS」);
- XがSi、Ge、Sn、As、Alである、Xを含むリチウムリン硫化物酸素(「LXPSO」);
- リチウムケイ素硫化物(「LSS」)材料;
- LiBS及びLiS-B-LiIなどのリチウムホウ硫化物材料;
- Li0.8Sn0.82、LiSnS、Li3.833Sn0.833As0.166、LiAsS-LiSnS4、Geで置換されたLiAsSなどの、リチウムスズ硫化物材料及びリチウムヒ化物材料;並びに
- 式LiPSY(YはCl、Br、又はIである)の硫銀ゲルマニウム鉱型硫化物材料、この化合物は硫黄、リチウム、又はハロゲンが不足している場合があり(例えばLi6-xPS5-xCl1+x(0≦x≦0.5))、又はヘテロ原子がドープされている場合がある。
【請求項3】
前記少なくとも1種のパーフルオロアモルファスポリマー[ポリマー(A)]が以下からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の複合固体電解質膜:
- 下記のもの由来の繰り返し単位を含むポリマー(A-1):
・下記式(I):
【化1】
(式中、R1、、R、及びRは互いに同じ又は異なり、独立して-F、任意選択的に1つ以上の酸素原子を含むC~Cフルオロアルキル基からなる群から選択される)のパーフルオロジオキソール;
・以下からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素化モノマー:
- テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィン;
- フッ化ビニル(VF1)、1,2-ジフルオロエチレン、及びトリフルオロエチレン(VF3)などのC~C水素化フルオロオレフィン;並びに
- クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン;
- 下記のもの由来の繰り返し単位を含むポリマー(A-2):
・テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィン;
・以下からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素化モノマー:
- 式CF=CFORf1’のパーフルオロアルキルビニルエーテル(式中、Rf1’はC~Cパーフルオロアルキル基である);
- 式CF=CFOXのパーフルオロオキシアルキルビニルエーテル(式中、Xはパーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基などの1つ以上のエーテル基を含むC~C12パーフルオロオキシアルキル基である);及び
・任意選択的な、フッ化ビニル(VF1)、1,2-ジフルオロエチレン、及びトリフルオロエチレン(VF3)などのC~C水素化フルオロオレフィンに由来する繰り返し単位;
- 式CR=CROCR(CR1o11(O)CR12=CR1314(式中、各R~R14は、互いに独立に、-F及びC~Cフルオロアルキル基から選択され、aは0又は1であり、bは0又は1であり、ただし、aが1の場合はbは0である)の少なくとも1種の環化重合可能なモノマー由来の繰り返し単位を含む、ポリマー(A-3);
- 下記のものを含むポリマー(A-4):
・テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィンに由来する繰り返し単位;及び
・フッ化ビニリデン(VDF)、フッ化ビニル(VF1)、1,2-ジフルオロエチレン、及びトリフルオロエチレン(VF3)などのC~C水素化フルオロオレフィンに由来する繰り返し単位。
【請求項4】
ポリマー(A-1)が、式(I)の少なくとも1種のパーフルオロジオキソール(式中、R=R=R=-Fであり、R=-OCFであるか、又は式中、R=R=-Fであり、R=R=-CFである)に由来する繰り返し単位と、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位とを含む、請求項3に記載の複合固体電解質膜。
【請求項5】
ポリマー(A-2)が、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位と、式CF=CFOCFのパーフルオロメチルビニルエーテルに由来する繰り返し単位と、フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位とを含む、請求項3に記載の複合固体電解質膜。
【請求項6】
ポリマー(A-4)が、フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位とヘキサフルオロプロペン(HFP)に由来する繰り返し単位とを含む、請求項3に記載の複合固体電解質膜。
【請求項7】
i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体電解質と;
ii)少なくとも1種のパーフルオロアモルファスポリマー[ポリマー(A)]と;
iii)少なくとも1種のパーフルオロ溶媒(S)と、
を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の複合固体電解質膜を作製するために適した組成物(C)。
【請求項8】
前記少なくとも1種のパーフルオロ溶媒(S)が、(パー)フルオロポリエーテル、パーフルオロアルカン、ヒドロフルオロエーテル、及びそれらの混合物から選択される、請求項7に記載の組成物(C)。
【請求項9】
I)請求項7又は8に記載の組成物(C)を加工して複合固体電解質の湿潤膜を形成する工程と、
(II)工程(I)で得られた前記湿潤膜を乾燥させる工程と、
を含む、固体電池用の複合固体電解質膜の製造方法。
【請求項10】
工程(II)で得られた前記乾燥膜に対して圧縮工程を行う工程(III)を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
A)
- 請求項7又は8に記載の組成物(C)と、
- 少なくとも1種の電極活物質(AM)と、
- 任意選択的な少なくとも1種の導電性添加剤と、
を含有する電極形成組成物を準備する工程;
B)少なくとも1つの表面を有する金属基材を準備する工程;
C)工程A)で得られた前記電極形成組成物を工程B)で得られた前記金属基材の少なくとも1つの表面に塗布し、それにより、前記組成物(C)で少なくとも1つの表面がコーティングされた金属基材を含むアセンブリを得る工程;
D)工程C)で得られた前記アセンブリを乾燥させる工程;
を含む、固体電池用電極の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により得られる固体電池用電極。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか一項に記載の複合固体電解質膜を含む固体電池。
【請求項14】
正極と負極とを含む固体電池であり、前記負極又は前記正極のうちの少なくとも1つが請求項12に記載の電極である、請求項13に記載の固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月2日出願の欧州特許出願第19194856.1号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、アモルファスフッ素化バインダー中に分散された硫化物ベースの固体電解質粒子を含む固体電解質膜に関し、前記固体電解質膜は、改善されたイオン伝導性、改善された耐薬品性、及び優れた機械的特性によって特徴付けられる。本発明は、更に、前記固体電解質膜の製造方法、及び固体電池におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
Liイオン電池は、軽量であり、適度なエネルギー密度を有し、且つ良好なサイクル寿命を有することから、20年超にわたり、充電式エネルギー貯蔵デバイスの市場で支配的な地位を維持してきた。それにもかかわらず、現行のLiイオン電池は、安全性が低く、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、及びグリッドエネルギー貯蔵などの高電力用途に必要とされるエネルギー密度が低すぎるという問題を抱えている。これらの欠点の根拠となっているものは、液体電解質の存在である。従来のLiイオン電池の液体電解質は、漏れを起こし、揮発性のガス種を生成し、且つ可燃性である有機カーボネートに基づいている。
【0004】
固体電池(SSB)は、より高いエネルギー密度を提供し、より安全であることから、次世代のエネルギー貯蔵デバイスであると考えられている。SSBでは、引火性の高い液体電解質が固体電解質に置き換えられるため、発火及び/又は爆発のあらゆるリスクが事実上排除される。
【0005】
固体電解質には、無機、高分子、及び複合の固体電解質の3つのタイプが存在する。
【0006】
硫化物Li導電性材料などの無機電解質は、高いイオン伝導性を有するが、機械的特性が不十分である。これらの材料は、高圧高緻密化プロセスに依存している。加圧による薄膜の成形性はまだ実証されておらず、このことが商業スケールでの大量生産を妨げている。
【0007】
高分子電解質は、優れた機械的特性及び加工性を示すものの、イオン伝導性が低いという欠点を有する。
【0008】
ポリマーマトリックス中に分散された固体無機イオン(Li)導電性粒子(SIC)から構成される複合電解質は、高いイオン伝導性と優れた機械的特性とを組み合わせる可能性を提供する。
【0009】
硫化物固体電解質材料は、複合電解質中の固体粒子として使用されており、高いLiイオン伝導性を有し、且つ電池のより高い出力を達成するために有用であることが知られている。
【0010】
例えば、特開2010-212058号公報では、ケイ素ポリマーバインダーと混合されたLiS-P硫化物系電解質材料が、固体リチウム二次電池の固体電解質層を作製するために使用されている。
【0011】
先行技術の複合電解質は、通常湿式キャスティング法によって製造される。この方法では、SIC粉末は溶剤中のバインダーの溶液に分散されることでスラリーを形成し、これが担体上にキャストされ、続いて乾燥されて使用された溶剤が除去される。
【0012】
しかしながら、硫化物系の固体電解質は、溶剤適合性が非常に低く、使用できるバインダーの数が制限される。その結果、先行技術の硫化物系の複合電解質では、非導電性の優先的に水素化されたバインダーが使用されている。更に、バインダーを溶剤に溶解させてスラリーを形成する必要があるため、非導電性バインダーを使用すると、硫化物系の固体電解質粒子の上に分離層が形成され、複合材料のイオン伝導性が大幅に低下することになる。
【0013】
いくつかの報告は硫化物複合材料にフッ素化バインダーを使用することを示唆しているものの、典型的なフッ素化バインダーは、硫化物と適合性のある溶剤に可溶化させることが困難である。
【0014】
欧州特許第3467846号明細書及び特開2017-157300号公報には、フッ素化バインダー中に分散されたリチウム-リン-硫化物ガラス粒子を含む複合固体電解質が開示されており、前記粒子は、炭化水素溶媒と共に2つの成分を含む液体組成物から調製される。
【0015】
中国特許第109786845号明細書には、硫化物に基づくガラスと、半結晶性フッ化ビニリデン(VDF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)であるフルオロポリマーとを含むハイブリッド電解質組成物が開示されており、前記複合材料は、炭化水素系溶剤に基づく液体組成物から調製される。
【0016】
同様に、Proceedings of the National Academy of Sciences,vol 113,pages 52-57,2015には、ハイブリッド電解質組成物が開示されており、前記組成物は、硫化物に基づくガラスとPFPEフルオロポリマーとを含み、組成物は乾式法によって調製される。
【0017】
そのため、得られる複合電解質のイオン伝導性への悪影響が少なく、酸化に対する改善された耐性を特徴とし、且つ硫化物と適合性を有する製造プロセスによる固体電解質層の製造において使用することができる、硫化物系の固体電解質のための非導電性バインダーが大いに必要とされている。
【発明の概要】
【0018】
出願人は、今回、驚くべきことに、従来の湿式キャスティング法においてバインダーとしてアモルファスパーフルオロポリマーを使用することにより、イオン伝導性に対するバインダーの悪影響が大幅に低下することを見出した。アモルファス全フッ素化バインダーを含む複合固体電解質のイオン伝導率は、同じ体積パーセントの水素化ポリマーを含む複合電解質と比較してはるかに高い。
【0019】
したがって、本発明の目的は、
i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体電解質と;
ii)少なくとも1種のパーフルオロアモルファスポリマー[ポリマー(A)]と、
を含む固体電池用の複合固体電解質膜である。
【0020】
別の目的では、本発明は、
i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体電解質と;
ii)少なくとも1種のパーフルオロアモルファスポリマー[ポリマー(A)]と;
iii)少なくとも1種のパーフルオロ溶媒(S)と、
を含む上で定義した複合固体電解質膜を作製するために適した組成物(C)を提供する。
【0021】
したがって、本発明の更なる目的は、
I)上記で定義される組成物(C)を加工して複合固体電解質の湿潤膜を形成する工程と;
II)工程(I)で得られた湿潤膜を乾燥させる工程と、
を含む、固体電池用の複合固体電解質膜を製造するための方法である。
【0022】
また、組成物(C)は、固体電用の電極の作製における使用にも適している。
【0023】
したがって、本発明の更なる目的は、
A)
- 上で定義した組成物(C)と、
- 少なくとも1種の電極活物質(AM)と、
- 任意選択的な少なくとも1種の導電性添加剤と、
を含有する電極形成組成物を準備する工程;
B)少なくとも1つの表面を有する金属基材を準備する工程;
C)工程A)で準備した電極形成組成物を工程B)で準備した金属基材の少なくとも1つの表面に塗布し、それにより、前記組成物(C)で少なくとも1つの表面がコーティングされた金属基材を含むアセンブリを得る工程;
D)工程C)で得たアセンブリを乾燥させる工程;
を含む、固体電池用電極の製造方法である。
【0024】
別の目的では、本発明は、上で定義した方法によって得られる固体電池用の電極を提供する。
【0025】
更に別の目的において、本発明は、本発明の複合固体電解質膜及び/又は少なくとも1つの電極を含む固体電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】膜のイオン伝導率を測定するためにSolvay内で開発されたACインピーダンス分光法の圧力セルの断面図を示す。圧力セルにおいて、インピーダンス測定中に膜が2つのステンレス鋼電極間でプレスされる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書及び以下の特許請求の範囲内で使用される、例えば「ポリマー(P)」等のような表現における、式を特定する記号又は数字の周りの括弧の使用は、本文の残りから記号又は数字をより良く区別するという目的を有するに過ぎず、これ故に、前記括弧は、省略することもできる。
【0028】
本発明の文脈においては、「重量%」(wt%)という用語は、成分の重量と混合物の総重量との間の比として計算される、混合物における特定成分の含有量を示す。ポリマー/コポリマーにおける特定のモノマーに由来する繰り返し単位を意味する場合、重量%(wt%)は、ポリマー/コポリマーの総重量に対するこのようなモノマーの繰り返し単位の重量の間の比を示す。
【0029】
本発明において、「複合固体電解質膜」という用語は、支持体なしで室温で自立型の形状を有し、且つ折り畳み可能で可撓性を有する自立膜の形態とすることができる、リチウムイオン伝導性の複合材料膜を指す。本発明による複合固体電解質膜は、その容器の形状をとるように流動することも、又は利用可能な容積全体を満たすように膨張することもない。他方では、本発明による複合固体電解質は、その可撓性のために様々な方法で成形することができ、したがってリチウム電池の充電及び放電中に起こり得る体積又は形状のいずれかの変化に対応することができる。
【0030】
本明細書で使用される「硫化物ベースの固体電解質」という語句は、Liイオンを伝導するが実質的に電子的に絶縁性である無機固体状態の材料を指す。
【0031】
本発明において、「硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子」という用語は、それが分子構造又は組成物中に硫黄原子を含む固体電解質材料である限り、特に限定されない。
【0032】
硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子は、好ましくは、Liイオン伝導性を高めるために、Li、X(Xは、P、Si、Sn、Ge、Al、As、又はBである)、及びSを含む。
【0033】
本発明による硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子は、より好ましくは、以下からなる群から選択される:
- Li10SnP12などのリチウムスズリン硫化物(「LSPS」)材料;
- 式(LiS)-(P(x+y=1且つ0≦x≦1)、Li11、LiPS、Li、Li9.612、及びLiPSのもののガラス、結晶、又はガラスセラミックなどのリチウムリン硫化物(「LPS」)材料;
- LiCuPS、Li1+2xZn1-xPS(0≦x≦1)、Li3.33Mg0.33、及びLi4-3xSc(0≦x≦1)などのドープされたLPS;
- 式LixPySzO(0.33≦x≦0.67、0.07≦y≦0.2、0.4≦z≦0.55、0≦w≦0.15)のリチウムリン硫化物酸素(「LPSO」)材料;
- Li10GeP12及びLi10SiP12などの、XがSi、Ge、Sn、As、AlであるXを含むリチウムリン硫化物材料(「LXPS」);
- XがSi、Ge、Sn、As、AlであるXを含むリチウムリン硫化物酸素(「LXPSO」);
- リチウムケイ素硫化物(「LSS」)材料;
- LiBS及びLiS-B-LiIなどのリチウムホウ硫化物材料;
- Li0.8Sn0.82、LiSnS、Li3.833Sn0.833As0.166、LiAsS-LiSnS4、Geで置換されたLiAsSなどの、リチウムスズ硫化物材料及びリチウムヒ化物材料;並びに
- 式LiPSY(YはCl、Br、又はIである)の硫銀ゲルマニウム鉱型硫化物材料、この化合物は硫黄、リチウム、又はハロゲンが不足している場合があり(例えばLi6-xPS-xCl1+x(0≦x≦0.5))、又はヘテロ原子がドープされている場合がある。
【0034】
特に好ましい硫化物固体電解質は、リチウムスズリン硫化物(「LSPS」)材料(例えばLi10SnP12)及び硫銀ゲルマニウム鉱型硫化物材料(例えばLiPSCl)である。
【0035】
本発明のパーフルオロアモルファスポリマー(A)は、典型的には以下からなる群から選択される:
- 下記のもの由来の繰り返し単位を含むポリマー(A-1):
・下記式(I)のパーフルオロジオキソール:
【化1】
(式中、R、R、R、及びRは互いに同じ又は異なり、独立して、-F、任意選択的に1つ以上の酸素原子を含んでいてもよいC~Cフルオロアルキル基からなる群から選択される)のパーフルオロジオキソール;
・以下からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素化モノマー:
- テトラフルオロエチレン(TFE)やヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィン;
- フッ化ビニル(VF1)、1,2-ジフルオロエチレン、及びトリフルオロエチレン(VF3)などのC~C水素化フルオロオレフィン;並びに
- クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン;
- 下記のもの由来の繰り返し単位を含むポリマー(A-2):
・テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィン;
・以下からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素化モノマー:
- 式CF=CFORf1’のパーフルオロアルキルビニルエーテル(式中、Rf1’はC~Cパーフルオロアルキル基である);
- 式CF=CFOXのパーフルオロオキシアルキルビニルエーテル(式中、Xはパーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基などの1つ以上のエーテル基を含むC~C12パーフルオロオキシアルキル基である);及び
- 任意選択的な、フッ化ビニル(VF1)、1,2-ジフルオロエチレン、及びトリフルオロエチレン(VF3)などのC~C水素化フルオロオレフィンに由来する繰り返し単位;
- 式CR=CROCR(CR1011(O)CR12=CR1314(式中、各R~R14は、互いに独立に、-F及びC~Cフルオロアルキル基から選択され、aは0又は1であり、bは0又は1であり、ただし、aが1の場合はbは0である)の少なくとも1種の環化重合可能なモノマー由来の繰り返し単位を含む、ポリマー(A-3);
- 下記のものを含むポリマー(A-4):
・テトラフルオロエチレン(TFE)やヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィンに由来する繰り返し単位;及び
・フッ化ビニリデン(VDF)、フッ化ビニル(VF1)、1,2-ジフルオロエチレン、及びトリフルオロエチレン(VF3)などのC~C水素化フルオロオレフィンに由来する繰り返し単位。
【0036】
ポリマー(A-1)は、より好ましくは、式(I)の少なくとも1種のパーフルオロジオキソール:
【化2】
(式中、R、R、R及びRは、互いに同じ又は異なり、独立に-F、C~Cパーフルオロアルキル基(例えば-CF、-C、-C)、及び任意選択的に酸素原子を含んでいてもよいC~Cパーフルオロアルコキシ基(例えば-OCF、-OC、-OC、-OCFCFOCF)からなる群から選択され、好ましくは、式中、R=R=-F及びR=Rは、C~Cパーフルオロアルキル基であり、好ましくはR=R=-CFであるか、式中、R=R=R=-Fであり、Rは、C~Cパーフルオロアルコキシ(例えば-OCF、-OC、-OC)である)、及びテトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位からなる群から選択される。
【0037】
ポリマー(A-1)は、より好ましくは上で定義された通りの式(I)の少なくとも1種のパーフルオロジオキソール(式中、R=R=R=-Fであり、R=-OCFであるか、又は式中、R=R=-Fであり、R=R=-CFである)に由来する繰り返し単位と、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位とを含む。
【0038】
好適なポリマー(A-1)の非限定的な例としては、特には、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から商標名HYFLON(登録商標)ADとして市販されているもの、及びE.I.Du Pont de Nemours and Co.からTEFLON(登録商標)AFとして市販されているものが挙げられる。
【0039】
ポリマー(A-2)は、好ましくはテトラフルオロエチレン(TFE)由来の繰り返し単位と、少なくとも1.5重量%、好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも7重量%の、TFEとは異なる少なくとも1種のフッ素化モノマー由来の繰り返し単位とを含む。
【0040】
ポリマー(A-2)は、好ましくはテトラフルオロエチレン(TFE)由来の繰り返し単位と、最大30重量%、好ましくは最大25重量%、より好ましくは最大20重量%のTFEとは異なる少なくとも1種のフッ素化モノマー由来の繰り返し単位とを含む。
【0041】
好適なポリマー(A-2)の非限定的な例には、特に、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.Aから、商標名HYFLON(登録商標)PFA Pシリーズ及びMシリーズ、並びにHYFLON(登録商標)MFAとして市販されているものが含まれる。
【0042】
適切なポリマー(A-2)は、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位、式CF=CFOCFのパーフルオロメチルビニルエーテル、式CF=CFOCのパーフルオロエチルビニルエーテル、及び式CF=CFOCのパーフルオロプロピルビニルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテルに由来する繰り返し単位、並びに少なくとも1種のC~C水素化フルオロオレフィンに由来する繰り返し単位、を含むポリマーでもある。特に適切なポリマー(A-2)は、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位、式CF=CFOCFのパーフルオロメチルビニルエーテルに由来する繰り返し単位、及びフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位を含むポリマーである。
【0043】
ポリマー(A-2)は、より好ましくは、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位、ヘキサフルオロプロペン(HFP)に由来する繰り返し単位、及びフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位を含む。
【0044】
ポリマー(A-3)は、好ましくは式CR=CROCR1011(CR1213(O)CR14=CR1516(式中、各R~R16は互いに独立に-Fであり、a=1及びb=0である)の少なくとも1種の環化重合可能なモノマー由来の繰り返し単位を含む。
【0045】
好適なポリマー(A-3)の非限定的な例としては、特には、Asahi Glass Companyから、商標名CYTOP(登録商標)として市販されているものが挙げられる。
【0046】
ポリマー(A-4)は、好ましくは、フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、ヘキサフルオロプロペン(HFP)などの少なくとも1種のC~Cパーフルオロオレフィンに由来する繰り返し単位とを含む。
【0047】
好適なポリマー(A-4)の非限定的な例としては、特には、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から商標名TECNOFLON(登録商標)FKMとして市販されているものが挙げられる。
【0048】
ポリマー(A)は、典型的には懸濁重合法又は乳化重合法によって製造される。
【0049】
ポリマー(A-1)、(A-2)、(A-3)、及び(A-4)のうちの1種以上のコモノマーの量は、アモルファスパーフルオロポリマーが得られるような量でなければならない。この分野の当業者は、そのようなコモノマーの量を容易に決定することができる。
【0050】
本発明で好ましく使用される構造(I)を有するパーフルオロジオキソールの分類は、欧州特許第633256号明細書に記載されており、更に好ましくは2,2,4-トリフルオロ-5-トリフルオロメトキシ-1,3-ジオキソール(TTD)が使用される。
【0051】
用語「アモルファス」は、本明細書では、ASTM D-3418-08にしたがって10℃/分の加熱速度で示差走査熱量測定(DSC)によって測定される、5J/g未満、好ましくは3J/g未満、より好ましくは2J/g未満の融解熱を有するポリマー(A)を意味することが意図されている。
【0052】
本発明の複合固体電解質膜は、ポリマー(A)が非導電性であるにもかかわらず高いイオン伝導性を有することを特徴とする。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、イオン伝導率に対する限定的な悪影響は、固体電解質膜中のパーフルオロポリマー(A)のアモルファス特性に起因すると考えている。
【0053】
上で定義された複合固体電解質膜の作製に適した組成物(C)は、
i)上で定義された少なくとも1種の硫化物ベースの固体電解質と;
ii)上で定義された少なくとも1種のパーフルオロアモルファスポリマー[ポリマー(A)]と;
iii)少なくとも1種のパーフルオロ溶媒(S)と、
を含む。
【0054】
溶媒(S)は、ポリマー(A)を可溶化することができるが硫化物ベースの固体電解質を可溶化することができない溶媒から選択される。
【0055】
溶媒(S)は実質的に水を含まず、含水量は好ましくは100ppm以下である。硫化物ベースの固体電解質は、実際には水と反応して硫化水素を生成する可能性があり、これは有毒且つ有害であり、また電解質のイオン伝導率を低下させたり、電池の構成要素を攻撃したりする可能性がある。
【0056】
本発明での使用に適したパーフルオロ溶媒(S)は、好ましくは、ポリマー(A)の化学式とは異なる化学式を有する(パー)フルオロポリエーテル(商品名Galden(登録商標)でSolvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から商業的に入手可能なものなど)、パーフルオロアルカン(パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン等など)、ヒドロフルオロエーテル、及びそれらの混合物から選択される。
【0057】
溶媒は、ポリマー(A)を均一に溶解させることにおいて役割を果たす。
【0058】
組成物(C)の総質量が100重量%である場合、組成物(C)中の少なくとも1種の溶媒(S)の量は35~90重量%であることが好ましい。溶媒量が35質量%未満である場合、溶媒等の含有率が小さすぎ、パーフルオロアモルファスポリマーは溶媒に溶解しない。他方で、溶媒量が90重量%を超える場合には、溶媒の含有率が高く過ぎるため、組成物(C)を膜へと加工することが困難になる場合がある。組成物(C)中の少なくとも1種の溶媒(S)の量は、より好ましくは40~80重量%である。
【0059】
当業者は、少なくとも1種の溶媒(S)の沸点に応じて、パーフルオロアモルファスポリマー[ポリマー(A)]の溶解を実現するために、及び固体電池用の固体電解質膜又は電極を製造するプロセスで組成物(C)が使用される場合のその適切な蒸発を実現するために、組成物(C)中の前記溶媒(S)の適切な量を選択するであろう。
【0060】
組成物(C)は、当該技術分野で公知の任意の方法により、ポリマー(A)と、硫化物ベースの固体電解質材料と、溶媒(S)とを混合することを含むプロセスによって適切に調製することができる。好ましい実施形態では、組成物(C)は、ポリマー(A)を溶媒(S)に可溶化し、その後硫化物ベースの固体電解質材料を添加し、得られた混合物を混合することを含むプロセスによって調製される。
【0061】
組成物(C)中のポリマー(A)の量は、好ましくは、ポリマー(A)と硫化物ベースの固体電解質材料との総重量に対して2~30重量%、好ましくは4~25重量%、より好ましくは5~20重量%の範囲の量のポリマー(A)を含む複合固体電解質が得られるような量である。
【0062】
ポリマー(A)の量が2重量%未満である場合、複合固体電解質膜中の硫化物ベースの固体電解質材料の凝集は不十分であろう。他方で、ポリマー(A)の量が30重量%を超える場合には、複合固体電解質膜のイオン伝導率が影響を受ける。
【0063】
別の目的では、本発明は、
I)複合固体複合電解質の湿潤膜を形成するために上で定義した組成物(C)を加工する工程;
II)工程(I)で得られた湿潤膜を乾燥させる工程と;
を含む、固体電池用の複合固体電解質膜の製造方法に関する。
【0064】
本発明の方法の工程(I)において、組成物(C)は、典型的には、キャスティング、スプレーコーティング、回転スプレーコーティング、ロールコーティング、ドクターブレード、スロットダイコーティング、グラビアコーティング、インクジェット印刷、スピンコーティング及びスクリーン印刷、ブラシ、スキージ、泡付与装置(foam applicator)、カーテンコーティング、真空コーティングから選択される技術によって、不活性な可撓性支持体の少なくとも1つの箔に塗布され、キャスティングが好ましい。
【0065】
そのようにして得られた湿潤膜は、典型的には、10μm~400μm、好ましくは50μm~400μmに含まれる厚さを有する。
【0066】
本発明の方法の工程(II)では、組成物(C)は、好ましくは10℃~100℃、好ましくは20℃~80℃に含まれる温度で乾燥される。
【0067】
完全な溶媒除去を実現するために、好ましくは、20℃~100℃、好ましくは30℃~50℃に含まれる温度での真空オーブン中での追加の乾燥工程を適切に行うことができる。
【0068】
当業者は、少なくとも1種の溶媒(S)の沸点に応じて、方法の乾燥工程(II)の適切な継続時間及び温度を選択するであろう。
【0069】
方法の工程(II)で得られる乾燥膜は、典型的には、10μm~150μmに含まれる厚さを有する。
【0070】
複合固体電解質膜を作製するための本発明の方法は、複合固体電解質膜の空隙率を低下させて密度を増加させるために、工程(II)で得られる乾燥膜に対してカレンダー加工や一軸圧縮プロセスなどの圧縮工程を行う、追加の工程(III)を更に含み得る。
【0071】
また、組成物(C)は、固体電池における電極の作製に使用するのにも適している。
【0072】
したがって、本発明の更なる目的は、
A)
- 上で定義した組成物(C)と、
- 少なくとも1種の電極活物質(AM)と、
- 任意選択的な少なくとも1種の導電性添加剤と、
を含有する電極形成組成物を準備する工程;
B)少なくとも1つの表面を有する金属基材を準備する工程;
C)工程A)で準備した電極形成組成物を工程B)で準備した金属基材の少なくとも1つの表面に塗布し、それにより、前記組成物(C)で少なくとも1つの表面がコーティングされた金属基材を含むアセンブリを得る工程;
D)工程C)で得たアセンブリを乾燥させる工程;
を含む、固体電池用電極の製造方法である。
【0073】
方法の工程(A)で使用される電極形成組成物は、粉末状の電極活物質と、導電性付与添加剤及び/又は粘度調整剤などの任意選択的な添加剤とを本発明の組成物(C)に添加及び分散させることによって得ることができる。
【0074】
正極を形成する場合、活物質は、LiMY(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、Al、及びVなどの少なくとも1つの遷移金属種を表し;Yは、O又はSなどのカルコゲンを表す)の一般式で表される金属カルコゲナイド複合体からなる群から選択することができる。これらの中でも、LiMO(式中、Mは、上と同じである)の一般式で表されるリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。これらの好ましい例としては、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1-x(0<x<1)、Lix(Ni0.8Co0.15Al0.05)OLi(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O;Li(Ni0.6Co0.2Mn0.2)O、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O、並びにスピネル構造のLiMn及びLiMn1.5Ni0.5を挙げることができる。これらの活物質は、LiNbOなどの無機又は有機コーティングでコーティングすることができる。
【0075】
別の方法として、更に正極を形成する場合、活性質は、公称式AB(XO1-fのリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電極材料を含み得、この場合、Aはリチウムであり、A金属の20%未満を占める別のアルカリ金属によって部分的に置換されている場合があり、Bは、Fe、Mn、Ni、又はこれらの混合物の中から選択される+2の酸化レベルの主なレドックス遷移金属であり、これは、+1~+5の酸化レベルの1つ以上の更なる金属によって部分的に置換されることができ、35%未満の0を含む主な+2のレドックス金属を表し、XOは、Xが、P、S、V、Si、Nb、Mo、又はこれらの組み合わせのいずれかである任意のオキシアニオンであり、Eは、フッ化物、水酸化物、又は塩化物のアニオンであり、fは、XOオキシアニオンのモル分率であり、一般に0.75~1に含まれる。
【0076】
正極の形成に使用する活物質は、硫黄又はLiSとすることもできる。
【0077】
負極を形成する場合、活物質は、好ましくは炭素系の材料及び/又はケイ素系の材料を含み得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、炭素系材料は、例えば、天然若しくは人工の黒鉛などの黒鉛、グラフェン、又はカーボンブラックであり得る。
【0079】
これらの材料は、単独で又はそれらの2つ以上の混合物として使用され得る。
【0080】
炭素系材料は、好ましくは、黒鉛である。
【0081】
炭素質材料は、好ましくは、約0.5~100μmの平均径を有する粒子の形態で使用され得る。
【0082】
ケイ素系化合物は、クロロシラン、アルコキシシラン、アミノシラン、フルオロアルキルシラン、ケイ素、塩化ケイ素、炭化ケイ素及び酸化ケイ素からなる群から選択される1つ以上であり得る。より具体的には、ケイ素系化合物は、酸化ケイ素又は炭化ケイ素であってよい。
【0083】
存在する場合、少なくとも1つのケイ素系化合物は、活性物質の総重量に対して1~30重量%、好ましくは5~10重量%の範囲の量で活性物質中に含まれる。
【0084】
特に、限定的な導電性を示すLiCoOやLiFePOなどの活物質を使用する場合、本発明の電極形成組成物の塗布及び乾燥によって形成された結果として得られる複合電極膜の導電性を改善するために導電性付与剤が添加され得る。その例としては、カーボンブラック、黒鉛微粉末及び繊維などの炭素質材料、並びにニッケル及びアルミニウムなどの金属の微粉末及び繊維を挙げることができる。
【0085】
本発明は、上で定義した方法によって得られる固体電池用の電極も提供する。
【0086】
更なる目的では、本発明は、上で定義された複合固体電解質膜を含む固体電池を提供する。
【0087】
本発明の固体電池は、正極と負極とを含み、好ましくは、負極又は正極のうちの少なくとも1つが本発明による電極である。
【0088】
参照により本明細書に援用されるいずれかの特許、特許出願及び刊行物の開示が、それが用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0089】
本発明は、以下の実施例に関連してより詳細に以下で説明されるが、それらは、本発明を単に例示する目的で提供され、本発明の範囲を限定する意図はない。
【0090】
実験の部
材料及び方法
LSPS(Li10SnP12)、NEI CorporationからNANOMYTE(登録商標)SSE-10の商標名で市販
LPSCl(LiPSCl)、NEI Corporationから市販
Hyflon(登録商標)AD-60、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から市販
Hyflon(登録商標)40L、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から市販
Hyflon(登録商標)40H、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から市販
Tecnoflon(登録商標)PFR91、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から市販
Teflon(登録商標)AF1600、Dupontから市販
エトキシ-ノナフルオロブタン(COC)、3Mから商標名Novec(登録商標)7200として市販
Galden(登録商標)D02TS、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.から市販
Asahi Kasei Chemicals CorporationからTuftec(登録商標)N504の商標名で市販されている熱可塑性スチレン系エラストマー
【0091】
実施例1:LSPS-Hyflon(登録商標)AD-60複合材料膜
Arが充填されたグローブボックスの中で、0.3gのHyflon(登録商標)AD-60を8gのNovec(登録商標)7200の中に溶解した。この溶液に3.0gのLSPSを添加し、得られた分散液を、可撓性を有する不活性担体(ECTFEフィルム)上にキャストした。膜を室温で乾燥させた後、40℃で一晩真空乾燥させた。自立膜を得るために、乾燥した膜を支持体から剥がした。
【0092】
実施例2~4:LSPS-Hyflon(登録商標)AD-60複合材料膜
LSPS及びHyflon(登録商標)AD-60及びNovec(登録商標)7200の量を変化させて、実施例1と同じ手順にしたがって、異なる量のHyflon(登録商標)AD-60ポリマーを有する電解質膜を得た。
【0093】
実施例5~10:
実施例5~10については実施例1と同じ手順に従ったが、アモルファス状の全フッ素化ポリマーのタイプを変更した。実施例5はHyflon(登録商標)40Lを用いて行い、実施例6はHyflon(登録商標)40Hを用いて行い、実施例7はTeflon(登録商標)AF1600を用いて行い、実施例8~10はTecnoflon(登録商標)PFR91を用いて行った。
【0094】
実施例11
Novec(登録商標)7200の代わりにGalden(登録商標)D02TSを使用したことを除いて、実施例1と同じ手順に従った。キャスティング前の混合物は、実施例1~10の混合物よりも高い粘度を有していた。
【0095】
乾燥後に得られた膜は、実施例1~10で得られた膜と比較して改善された可撓性を示した。
【0096】
実施例12
Arが充填されたグローブボックスの中で、0.3gのHyflon(登録商標)AD-60を8gのNovec(登録商標)7200に溶解した。この溶液に3.0gのLPSClを添加し、得られた分散液を、可撓性を有する不活性担体(ECTFEフィルム)上にキャストした。膜を室温で乾燥させた後、40℃で一晩真空乾燥させた。自立膜を得るために、乾燥した膜を支持体から剥がした。
【0097】
実施例13
より多量のHyflon(登録商標)AD-60を含む電解質膜を得るために、LPSCl、Hyflon(登録商標)AD-60、及びNovec(登録商標)7200の量を調整したことを除いて、実施例12と同じ手順に従った。
【0098】
実施例1~13で得られた膜の組成を表1に示す。
【0099】
比較例1
0.1gのTuftec(登録商標)N504を、2.5gのキシレンの中に溶解した。3.233gのLSPSをこの溶液に添加し、得られた分散液を可撓性の不活性Teflon支持体にキャストした。膜を50℃で乾燥させた後、80℃で一晩真空乾燥させた。自立膜を得るために、乾燥した膜を支持体から剥がした。
【0100】
比較例1で得られた膜の組成を表1に示す。
【0101】
比較例2~6
表1に詳述されている通り、膜を得るためにLSPSの量を調整したことを除いて、比較例1と同じ手順に従った。
【0102】
加圧下でのイオン伝導率の測定
実施例1~11及び比較例1~6で得られた膜のイオン伝導率は、社内で開発された圧力セルを用いたACインピーダンス分光法によって測定した。その際、膜は、インピーダンス測定中に2つのステンレス鋼電極間でプレスされる。測定に使用した圧力セルの断面図を図1に示す。インピーダンススペクトルは、83MPaの圧力及び20℃の温度で測定した。固体複合電解質の抵抗Rは、インピーダンススペクトルの低周波数拡散テールの直線部分を外挿することによって得た。これに基づいて、イオン伝導率σは、σ=d/(R×A)の式を使用して得た。ここで、dは膜の厚さであり、Aはステンレス鋼電極の面積である。
【0103】
実施例の電解質膜のイオン伝導率を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
結果は、従来技術のポリマーバインダーの存在下では、バインダー含有量の増加でイオン伝導率が著しく減少する一方で、本発明の複合固体電解質は、多量のバインダーであっても高いイオン伝導率を示すことを示している。
【0106】
したがって、本発明の組成物は、驚くほど高いイオン伝導性を維持しながら、従来技術の固体電解質と比較して改善された機械的特性を有する複合固体電解質を得ることができる。
図1
【国際調査報告】