(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-01
(54)【発明の名称】薬物組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/704 20060101AFI20221025BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20221025BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221025BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221025BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
A61K31/704
A61P9/10
A61P9/00
A61P43/00 121
A61K31/343
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513868
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(85)【翻訳文提出日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 CN2020112258
(87)【国際公開番号】W WO2021037244
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】201910808817.4
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511076044
【氏名又は名称】中国科学院上海薬物研究所
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI INSTITUTE OF MATERIA MEDICA, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】555 Zu Chong Zhi Road Zhang Jiang Pudong Shanghai 201203 China
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】姜 宝▲紅▼
(72)【発明者】
【氏名】王 琳琳
(72)【発明者】
【氏名】王 小玉
(72)【発明者】
【氏名】付 瑶
(72)【発明者】
【氏名】▲辺▼ 慧▲ミャオ▼
(72)【発明者】
【氏名】▲シン▼ 蓉蓉
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA06
4C086EA19
4C086GA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA23
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA52
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA06
4C086ZA36
4C086ZC75
(57)【要約】
薬物組成物およびその使用で、具体的に、前記薬物組成物は、第一活性成分としてサルビアノリン酸B、および第二活性成分としてジンセノサイドRg1を含み、そして、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比は5:(1-4.5)である。当該薬物組成物は、既存技術よりも優れた活性成分の配合比を有し、虚血性疾患、組織・臓器の虚血再灌流障害の予防および/または治療においてより優れた治療効果があり、そして異なる組織・器官の虚血および/または虚血再灌流障害の治療に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物組成物であって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、サルビアノリン酸Bを含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、ジンセノサイドRg1を含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第二活性成分、ならびに
(c)薬学的に許容される担体を含み、
かつ、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
ことを特徴とする薬物組成物。
【請求項2】
前記第一活性成分と前記第二活性成分の重量比が5:(1-4.0)、好ましくは5:(1.2-3.8)、より好ましくは5:(1.5-3.5)であることを特徴とする請求項1に記載の薬物組成物。
【請求項3】
前記第一活性成分と前記第二活性成分の重量比5:(1.8-3.2)、好ましくは5:(1.9-3.1)、より好ましくは5:(2-3)、最も好ましくは5:2であることを特徴とする請求項1に記載の薬物組成物。
【請求項4】
第一活性成分はサルビアノリン酸Bで、第二活性成分はジンセノサイドRg1であることを特徴とする請求項1-3のいずれかに記載の薬物組成物。
【請求項5】
前記薬物組成物の剤形は、液体製剤(たとえば溶液、乳液、懸濁液)、固体製剤(たとえば凍結乾燥製剤)、気体剤形、半固体剤形からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の薬物組成物。
【請求項6】
前記剤形は、注射剤(たとえば注射液または粉末注射剤)、経口投与製剤(たとえばカプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、シロップ、経口投与液またはチンキ剤)、トローチ製剤、気道投与製剤、皮膚投与製剤、粘膜投与製剤からなる群から選ばれ、好ましくは、前記剤形は注射剤であることを特徴とする請求項5に記載の薬物組成物。
【請求項7】
活性成分の組成であって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、サルビアノリン酸Bを含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、ジンセノサイドRg1を含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる活性成分を含み、
かつ、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
ことを特徴とする活性成分の組み合わせ。
【請求項8】
薬物キットであって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、サルビアノリン酸Bを含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、ならびに薬学的に許容される担体を含む、第一薬物組成物、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、ジンセノサイドRg1を含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第二活性成分、ならびに薬学的に許容される担体を含む、第二薬物組成物を含み、
かつ、前記第一薬物組成物および第二薬物組成物は併用され、ここで、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
ことを特徴とする薬物キット。
【請求項9】
請求項7の活性成分の組み合わせ、それを含む薬物組成物または薬物キットの使用であって、(i)虚血性疾患の予防および/または治療、(ii)虚血再灌流障害の予防および/または治療、ならびに/あるいは(iii)乳酸脱水素酵素の抑制に使用される、薬物または薬物キットを製造するためであることを特徴とする使用。
【請求項10】
前記虚血性疾患は、組織および血管原発性病変による組織・器官虚血損傷、ならびに/あるいは継発性原因による虚血性病変、たとえば外傷による血管離断、炎症による血管閉塞、腫瘍による血管圧迫からなる群から選ばれることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記虚血性疾患は、虚血性心臓疾患、虚血性脳卒中、肺塞栓、虚血性肝臓損傷、虚血性腎臓疾患、虚血性神経損傷、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれることを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記虚血性心臓疾患は、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心筋線維化、心不全、またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記の虚血再灌流障害は再灌流による組織・器官損傷であることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項14】
前記組織・器官は、心臓、脳、肝臓、脾臓、肺臓、腎臓、筋肉、神経、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれることを特徴とする請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記組織・器官損傷は手術後再灌流障害および/または血栓溶解治療後の再灌流障害で、好ましくは、前記手術は、動脈バイパス術、血栓除去療法、経皮的冠動脈形成術、人工心肺下心臓手術、急性心停止後の心臓、肺および/または脳蘇生、切断肢再接着または器官移植からなる群から選ばれることを特徴とする請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野に関し、具体的に、薬物組成物ならびに虚血性疾患および/または虚血再灌流障害などの疾患の予防および/または治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血管は全身の組織・器官に血液を供給する役割を担い、組織・器官、特に心臓、脳などの血液の酸素供給の需要が高い組織・器官は、血液供給が不足すると、疾患につながる。また、ショック時の微小循環の閉塞解消、冠状動脈痙攣の緩和、動脈バイパス術、血栓溶解療法、経皮的冠動脈形成術、心臓外科人工心肺、心・肺・脳蘇生、切断肢再接着や器官移植などの方法の確立および普及・応用につれ、多くの組織・器官は虚血後、血液供給が復旧(すなわち、再灌流)できるようになってきた。しかし、このような虚血後の再灌流では、組織・器官の機能が回復せず、逆に組織・器官の機能障害および構造損傷が重篤化する場合もある。このような虚血の上に、血流が回復した後、組織の損傷が逆に重篤化し、ひいては不可逆的損傷が生じる現象は、虚血再灌流障害と呼ばれる。
【0003】
出願番号CN2011102229806の中国出願では、心臓虚血再灌流障害に治療効果がある、化合物のサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1を含む薬物組成物が公開されている。しかし、両者の配合使用の研究はまだ不十分で、様々な組織・器官の虚血再灌流障害に治療効果がある薬物組成物を提供するには、処方配合のさらなる研究が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、組織・器官の虚血、ならびに虚血再灌流障害などの疾患を予防および/または治療するための薬物組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の側面では、薬物組成物であって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、サルビアノリン酸Bを含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、ジンセノサイドRg1を含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第二活性成分、ならびに
(c)薬学的に許容される担体を含み、
かつ、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
薬物組成物を提供する。
【0007】
もう一つの好適な例において、前記の第一活性成分はサルビアノリン酸Bまたはその薬学的に許容される塩の精製産物を含む。
【0008】
もう一つの好適な例において、前記の精製産物では、サルビアノリン酸Bで計算すると、前記精製産物の総重量に対して、純度が≧90%、好ましくは≧95%、より好ましくは98%または99%である。
【0009】
もう一つの好適な例において、前記の第一活性成分はサルビアノリン酸Bの含有量C1が≧30wt%のサルビアノリン酸抽出物を含み、ここで、前記含有量C1はサルビアノリン酸の重量に対して計算する。
【0010】
もう一つの好適な例において、前記抽出物では、抽出物の乾燥重量に対して、サルビアノリン酸Bの含有量C1が≧70%、好ましくは≧80%、より好ましくは≧90%または≧95%である。
【0011】
もう一つの好適な例において、前記の第二活性成分はジンセノサイドRg1の含有量C2が≧30wt%の全サポニン抽出物を含み、ここで、前記含有量C2は全サポニンの重量に対して計算する。
【0012】
もう一つの好適な例において、前記抽出物では、抽出物の乾燥重量に対して、ジンセノサイドRg1の含有量C2が≧70%、好ましくは≧80%、より好ましくは≧90%または95%である。
【0013】
もう一つの好適な例において、前記第一活性成分と前記第二活性成分の重量比が5:(1-4.0)、好ましくは5:(1.2-3.8)、より好ましくは5:(1.5-3.5)である。
【0014】
もう一つの好適な例において、前記第一活性成分と前記第二活性成分の重量比5:(1.8-3.2)、好ましくは5:(1.9-3.1)、より好ましくは5:(2-3)、最も好ましくは5:2である。
【0015】
もう一つの好適な例において、第一活性成分はサルビアノリン酸Bで、第二活性成分はジンセノサイドRg1である。
【0016】
もう一つの好適な例において、前記薬物組成物の剤形は、液体製剤(たとえば溶液、乳液、懸濁液)、固体製剤(たとえば凍結乾燥製剤)、気体剤形、半固体剤形からなる群から選ばれる。
【0017】
もう一つの好適な例において、前記剤形は、注射剤(たとえば注射液または粉末注射剤)、経口投与製剤(たとえばカプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、シロップ、経口投与液またはチンキ剤)、トローチ製剤、気道投与製剤、皮膚投与製剤、粘膜投与製剤からなる群から選ばれ、好ましくは、前記剤形は注射剤である。
【0018】
本発明の第二の側面では、活性成分の組み合わせであって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、サルビアノリン酸Bを含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、ジンセノサイドRg1を含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる活性成分を含み、
かつ、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
活性成分の組み合わせを提供する。
【0019】
もう一つの好適な例において、前記の活性成分の組み合わせ医は、(a)第一活性成分および(b)第二活性成分からなる。
【0020】
本発明の第三の側面では、薬物キットであって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、サルビアノリン酸Bを含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、ならびに薬学的に許容される担体を含む、第一薬物組成物、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、ジンセノサイドRg1を含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第二活性成分、ならびに薬学的に許容される担体を含む、第二薬物組成物を含み、
かつ、前記第一薬物組成物および第二薬物組成物は併用され、ここで、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
薬物キットを提供する。
【0021】
もう一つの好適な例において、前記第一薬物組成物と第二薬物組成物は異なる(または独立した)薬物化合物、あるいは同様の薬物組成物である。
【0022】
本発明の第四の側面では、本発明の第一の側面に記載の薬物組成物、本発明の第二の側面に記載の活性成分の組み合わせ、または本発明の第三の側面に記載の薬物キットの使用であって、(i)虚血性疾患の予防および/または治療、(ii)虚血再灌流障害の予防および/または治療、(iii)乳酸脱水素酵素の抑制に使用される、薬物または薬物キットを製造するための使用を提供する。
【0023】
もう一つの好適な例において、前記薬物または薬物キットは、(i)虚血性心臓疾患の予防および/または治療、(ii)虚血再灌流障害の予防および/または治療、(iii)乳酸脱水素酵素の抑制、ならびに/あるいは(iv)虚血性疾患の予防および/または治療に使用される。
【0024】
もう一つの好適な例において、前記虚血性疾患は、急性虚血による組織・器官損傷および/または慢性虚血による組織・器官損傷からなる群から選ばれる。
【0025】
もう一つの好適な例において、前記虚血性疾患は、組織および血管原発性病変による組織・器官虚血損傷、ならびに/あるいは継発性原因による虚血性病変、たとえば外傷による血管離断、炎症による血管閉塞、腫瘍による血管圧迫からなる群から選ばれる。
【0026】
もう一つの好適な例において、前記虚血性疾患は、虚血性心臓疾患、虚血性脳卒中(たとえば急性脳梗塞)、虚血性肝臓損傷、肺塞栓、虚血性腎臓損傷、虚血性神経損傷、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0027】
もう一つの好適な例において、前記虚血性心臓疾患は、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心筋線維化、心不全、またはこれらの組み合わせを含む。
【0028】
もう一つの好適な例において、前記の虚血再灌流障害は再灌流による組織・器官損傷である。
【0029】
もう一つの好適な例において、前記組織・器官は、心臓、脳、肝臓、脾臓、肺臓、腎臓、筋肉、神経、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。もう一つの好適な例において、前記の組織・器官は、肝臓、脾臓、肺臓、腎臓、脳、神経、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0030】
もう一つの好適な例において、前記組織・器官は、心臓、脳、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0031】
もう一つの好適な例において、前記の薬物または薬物キットは、さらに、肺塞栓による心筋肥大の改善に使用される。もう一つの好適な例において、前記の薬物または薬物キットは、さらに、再灌流障害の心臓の拡張機能の改善に使用され、好ましくは、前記の心臓の拡張機能は心臓の拡張速度を含む。
【0032】
もう一つの好適な例において、前記の薬物または薬物キットは、さらに、心臓の収縮機能(たとえば心臓の収縮速度)に使用される。
【0033】
もう一つの好適な例において、前記薬物または薬物キットは、腎臓の再灌流障害の改善に使用され、好ましくは、腎臓構造の改善を含む。
【0034】
もう一つの好適な例において、前記組織・器官損傷は手術後再灌流障害で、好ましくは、前記手術は、動脈バイパス術、血栓除去または溶解療法、経皮的冠動脈形成術、人工心肺下心臓手術、急性心停止後の心臓、肺および/または脳蘇生、切断肢再接着または器官移植、あるいはほかの重大手術による再灌流障害からなる群から選ばれる。
【0035】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、心筋梗塞の動物モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1の心臓梗塞面積に対する減少効果を示す。(A)は心臓切片のTTC染色の代表的な図で、(B)は梗塞面積の定量(心臓全体に占める梗塞領域の面積百分率)である。
【
図2】
図2は、心筋梗塞の動物モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1の血中乳酸脱水素酵素含有量に対する影響を示す。
【
図3】
図3は、心筋梗塞の動物モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1の心臓組織構造に対する保護作用を示す。
【
図4】
図4は、心筋虚血再灌流障害の動物モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)群対サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(2:5)群で、明らかに心臓梗塞面積を減少させ、かつ心臓構造を改善することを示す。(A)は心臓切片のTTC染色の代表的な図で、(B)は梗塞面積の定量(心臓全体に占める梗塞領域の面積百分率)で、(C)は心臓組織のHE染色の代表的な図である。
【
図5】
図5は、心筋虚血再灌流障害の動物モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(2:5)群およびサルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)群のラットの血流動態学(最大拡張速度と最大収縮速度)の検出結果を示す。「*」はサルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(2:5)群とP<0.05で比較することを表す。
【
図6】
図6は、心筋虚血再灌流障害の動物モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(2:5)群およびサルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)群のラットの血流動態学(末梢拡張圧と平均動脈圧)の検出結果を示す。
【
図7】
図7は、腎臓虚血再灌流障害モデルにおける、偽手術群、腎臓虚血再灌流モデル群、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(2:5)群およびサルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)群のラット腎臓のHE染色の結果を示す。
【
図8】
図8は、腎臓虚血再灌流障害モデルにおける、偽手術群、腎臓虚血再灌流モデル群、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(2:5)群およびサルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)群のラットの過ヨウ素酸シッフ染色(PAS)の結果を示す。
【
図9】
図9は、肺塞栓モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)の肺塞栓に対する治療効果を示す。(A)左肺指数で、(B)右肺指数で、(C)は肺臓のHE染色の代表的な図で、(D)肺間質面積の定量結果で、(E)は心臓のHE染色の代表的な図で、(F)は肺臓における好中球の平均光密度である。
【
図10】
図10は、肺塞栓モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)が肺塞栓によって誘導される心筋肥大の発生を低下させることを示す。(A)は心臓のHE染色の代表的な図で、(B)は心筋細胞の断面積の定量の図である。
【
図11】
図11は、急性脳梗塞モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)が顕著に梗塞面積を低下させることを示す。(A)は大脳のTTC染色の代表的な図で、(B)は梗塞面積の定量結果である。
【
図12】
図12は、急性脳梗塞モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)が脳梗塞後のラットの行動学の採点結果を改善させることを示す。
【
図13】
図13は、急性脳梗塞モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)の大脳皮質の神経細胞に対する保護作用を示す。(A)は大脳皮質のHE染色の代表的な図で、(B)はHE染色の神経細胞数の定量結果で、(C)は大脳皮質のニッスル染色の代表的な図で、(D)は大脳皮質のニッスル小体数の定量結果である。
【
図14】
図14は、急性脳梗塞モデルにおける、海馬体CA1、CA2、CA3のHE染色の代表的な図を示す。
【
図15】
図15は、急性脳梗塞モデルにおける、海馬体CA1、CA2、CA3のネッスル染色の代表的な図およびその定量結果を示す。
【
図16】
図16は、脳虚血再灌流障害モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)が再灌流障害の脳梗塞面積を低下させることを示す。(A)は脳組織のTTC染色の代表的な図で、(B)は梗塞面積の定量結果である。
【
図17】
図17は、脳虚血再灌流障害モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)が脳虚血再灌流後のラットの行動学の採点を改善させることを示す。
【
図18】
図18は、脳虚血再灌流障害モデルにおける、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1の大脳皮質の神経細胞に対する保護作用を示す。Aは大脳皮質のHE染色で、Bは大脳皮質のニッスル染色である。
【
図19】
図19は、ラット脳虚血再灌流障害モデルにおける、海馬体CA1、CA2、CA3のHE染色の代表的な図を示す。
【
図20】
図20は、ラット脳虚血再灌流障害モデルにおける、海馬体CA1、CA2、CA3のニッスル染色の代表的な図を示す。
【
図21】
図21は、ラット肝臓虚血再灌流障害モデルにおける、肝臓組織のHE染色の代表的な図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
具体的な実施形態
本発明者は、幅広く深く研究したところ、大量のスクリーニングおよびテストにより、サルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1を活性成分として含む薬物組成物を提供するが、既存技術と比べ、本発明の薬物組成物は、虚血性疾患、組織・臓器の虚血再灌流障害に対してより優れた改善・治療効果を示し、そして、驚くことに、本発明の組成物は、心臓のみならず、脳、肝臓、そして腎臓などの器官の虚血再灌流障害にも治療効果があり、多くの組織・器官の虚血再灌流障害に使用可能である。これに基づき、本発明を完成させた。
【0038】
用語
別途に定義しない限り、本明細書で用いられるすべての技術用語および科学用語はいずれも本発明が属する分野当業者が通常理解する意味と同様である。
【0039】
本明細書で用いられるように、用語「含む」、「含める」、「含有」は入れ替えて使用することができ、閉鎖式の定義のみならず、半閉鎖式、および開放式の定義も含む。言い換えれば、前記用語は「・・・からなる」、「基本的に・・・からなる」を含む。
【0040】
本明細書で用いられるように、用語「立体異性体」とはすべての異性体の様態の形態(たとえばエナンチオマー、ジアステレオマーや幾何異性体(または配座異性体))のことで、たとえば不斉中心を有するR、S配置、二重結合の(Z)、(E)異性体などを含む。そのため、本発明の活性成分の単独の立体異性体またはそのエナンチオマー、ジアステレオマーまたは幾何異性体(または配座異性体)の混合物はいずれも本発明の範囲に含まれる。
【0041】
本発明の活性成分は無定形、結晶形またはその混合物でもよい。
【0042】
本明細書で用いられるように、用語「薬学的に許容される塩」とは本発明の活性成分の化合物と酸または塩基とで形成される、薬物として適切な塩である。薬学的に許容される塩は無機塩と有機塩を含む。一種類の好適な塩は、本発明の活性成分の化合物と酸とで形成される塩である。塩の形成に適切な酸は、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、プロパン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、フェニルメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸、およびアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸を含むが、これらに限定されない。一種類の好適な塩は、本発明の活性成分の化合物と塩基とで形成される塩である。塩の形成に適切な塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウムなどの無機塩基、アンモニア水、トリエチルアミン、ジエチルアミンなどの有機塩基を含むが、これらに限定されない。もう一種類の好適な塩は、本発明の活性成分の化合物と金属イオンとで形成される塩で、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩などを含むが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書で用いられるように、「薬学的に許容されるエステル」とは、本発明の活性成分の化合物と酸またはアルコールとで形成される、薬物に適するエステルである。一種類の好適なエステルは、本発明の活性成分の化合物の一つまたは複数のヒドロキシ基と酸とで形成されるエステルで、エステルの形成に適する酸は、リン酸、ギ酸、酢酸、プロパン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などを含むが、これらに限定されない。もう一種類の好適なエステルは、本発明の活性成分の化合物のカルボキシ基とアルコールとで形成されるエステルで、エステルの形成に適するアルコールは、C1-C6アルキル-OH、たとえばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールなどを含むが、これらに限定されない。
【0044】
特別に説明しない限り、薬物組成物において、前記重量比はサルビアノリン酸BとジンセノサイドRg1の元の化合物の形態で計算する。
【0045】
本発明に記載の「予防」および「治療」は、疾患の進行の遅延および終止、あるいは疾患の解消を含み、100%の抑制、消滅および逆転ではなくてもよい。一部の実施形態において、本発明に記載の組成物または薬物組成物が存在しない場合に観察されるレベルと比べ、本発明に記載の組成物または薬物組成物は、虚血再灌流障害をたとえば少なくとも約10%、少なくとも約30%、少なくとも約50%、または少なくとも約80%予防、軽減、抑制および/または逆転する。
【0046】
本明細書で用いられるように、用語「SalB」と「サルビアノリン酸B」は入れ替えて使用することができ、用語「Rg1」と「ジンセノサイドRg1」は入れ替えて使用することができる。
【0047】
第一活性成分
本発明において、第一活性成分は、サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、サルビアノリン酸Bを含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【化1】
【0048】
もう一つの好適な例において、前記の第一活性成分はサルビアノリン酸Bまたはその薬学的に許容される塩の精製産物を含む。
【0049】
もう一つの好適な例において、前記の精製産物では、サルビアノリン酸Bで計算すると、前記精製産物の総重量に対して、純度が≧90%、好ましくは≧95%、より好ましくは98%または99%である。
【0050】
もう一つの好適な例において、前記の第一活性成分はサルビアノリン酸Bの含有量C1が≧30wt%のサルビアノリン酸抽出物を含み、ここで、前記含有量C1はサルビアノリン酸の重量に対して計算する。
【0051】
もう一つの好適な例において、前記抽出物では、抽出物の乾燥重量に対して、サルビアノリン酸Bの含有量C1が≧70%、好ましくは≧80%、より好ましくは≧90%または≧95%である。
【0052】
第二活性成分
本発明において、第二活性成分は、ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、ジンセノサイドRg1を含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【化2】
【0053】
もう一つの好適な例において、前記の第二活性成分はジンセノサイドRg1の含有量C2が≧30wt%の全サポニン抽出物を含み、ここで、前記含有量C2は全サポニンの重量に対して計算する。
【0054】
もう一つの好適な例において、前記抽出物では、抽出物の乾燥重量に対して、ジンセノサイドRg1の含有量C2が≧70%、好ましくは≧80%、より好ましくは≧90%または95%である。
【0055】
薬物組成物、活性成分の組み合わせ、薬物キット
【0056】
本発明は、薬物組成物であって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、サルビアノリン酸Bを含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、ジンセノサイドRg1を含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第二活性成分、ならびに
(c)薬学的に許容される担体を含み、
かつ、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
薬物組成物を提供する。
【0057】
もう一つの好適な例において、前記第一活性成分と前記第二活性成分の重量比が5:(1-4.0)、好ましくは5:(1.2-3.8)、より好ましくは5:(1.5-3.5)である。
【0058】
もう一つの好適な例において、前記第一活性成分と前記第二活性成分の重量比5:(1.8-3.2)、好ましくは5:(1.9-3.1)、より好ましくは5:(2-3)、最も好ましくは5:2である。
【0059】
もう一つの好適な例において、第一活性成分はサルビアノリン酸Bで、第二活性成分はジンセノサイドRg1である。
【0060】
前記薬物組成物の剤形は、液体製剤(たとえば溶液、乳液、懸濁液)、固体製剤(たとえば凍結乾燥製剤)からなる群から選ばれる。
【0061】
もう一つの好適な例において、前記剤形は、注射剤(たとえば注射液または粉末注射剤)、経口投与製剤(たとえばカプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、シロップ、経口投与液またはチンキ剤)からなる群から選ばれ、好ましくは、前記剤形は注射剤である。
【0062】
本発明の薬物組成物において、第一活性成分および第二活性成分はそれぞれ製剤にしてもよく、混合して製剤にしてもよい。
【0063】
本発明の薬物組成物は、安全有効量の範囲内の第一活性成分および/または第二活性成分を含む。ここで、「安全有効量」とは、活性成分の量が病状の顕著な改善に充分で、重度な副作用が生じないことをいう。通常、薬物組成物は、1単位製剤あたりに、1~2000 mg、好ましくは10~500 mgの本発明の活性成分を含む。好ましくは、前記の「1単位製剤」は、一つのカプセル、錠、粉末注射剤である。
【0064】
本発明において、「薬学的に許容される担体」とは、ヒトに適用でき、かつ十分な純度および充分に低い毒性を持たなければならない、1つまたは複数の相溶性固体または液体フィラーまたはゲル物質をいう。「相溶性」とは、組成物における各成分が本発明の第一活性成分および/または第二活性成分と互いに配合することができ、第一活性成分および/または第二活性成分の効果を顕著に低下させないことをいう。薬学的に許容される担体の例の一部として、セルロースおよびその誘導体(たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースナトリウム、セルロースアセテートなど)、ゼラチン、タルク、固体潤滑剤(たとえばステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム)、硫酸カルシウム、植物油(たとえば大豆油、ゴマ油、落花生油、オリーブオイルなど)、多価アルコール(たとえばプロピレングリコール、グリセリン、マンニトール、ソルビトールなど)、乳化剤(たとえばツイン(登録商標))、湿潤剤(たとえばドデシル硫酸ナトリウム)、着色剤、調味剤、安定剤、酸化防止剤、防腐剤、発熱性物質除去蒸留水などがある。
【0065】
また、本発明は、活性成分の組み合わせであって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、サルビアノリン酸Bを含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、ジンセノサイドRg1を含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる活性成分を含み、
かつ、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
活性成分の組み合わせを提供する。
【0066】
もう一つの好適な例において、前記の活性成分の組み合わせ医は、(a)第一活性成分および(b)第二活性成分からなる。
【0067】
前記の活性成分の組み合わせにおいて、第一活性成分と第二活性成分は互いに独立したものでもよく、組み合わせて共に活性成分の組成物の形態で存在してもよい。
【0068】
また、本発明は、薬物キットであって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、サルビアノリン酸Bを含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、ならびに薬学的に許容される担体を含む、第一薬物組成物、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される塩もしくはエステル、ジンセノサイドRg1を含む抽出物、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第二活性成分、ならびに薬学的に許容される担体を含む、第二薬物組成物を含み、
かつ、前記第一薬物組成物および第二薬物組成物は併用され、ここで、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
薬物キットを提供する。
【0069】
もう一つの好適な例において、前記の薬物キットは、さらに、説明書を含む。
【0070】
もう一つの好適な例において、前記第一薬物組成物と第二薬物組成物は異なる(または独立した)薬物化合物、あるいは同様の薬物組成物である。
【0071】
もう一つの好適な例において、前記の第一薬物組成物および第二薬物組成物は施用時に同時に投与しても、それぞれ投与しても、順番に投与してもよい。
【0072】
本発明の薬物組成物、活性成分の組み合わせ、薬物キットは、いずれも通常の方法および設備で製造することができる。
【0073】
用途および施用方法
本発明は、本明細書に記載の薬物組成物、活性成分の組み合わせまたは薬物キットの使用であって、(i)虚血性疾患の予防および/または治療、(ii)虚血再灌流障害の予防および/または治療、ならびに/あるいは(iii)乳酸脱水素酵素の抑制に使用される、薬物または薬物キットを製造するための使用を提供する。
【0074】
本発明において、前記虚血性疾患とは、組織または器官の虚血による損傷または病変である。前記「虚血」とは、組織または器官の供血が正常値よりも低下すること、特に組織または器官に供給される血液が前記組織または器官の新陳代謝の需要に満足できないことである。
【0075】
本発明の活性成分は、虚血性疾患に明らかな治療効果がある。よく見られる虚血性疾患は、虚血性心臓疾患、虚血性脳卒中、虚血性肝臓損傷、虚血性肺損傷、虚血性腎臓損傷、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0076】
本発明において、前記の虚血性心臓疾患は冠動脈循環の変化による心筋虚血、酸欠によって起こる心臓疾患である。よく見られる虚血性心臓疾患は、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、心筋線維化、狭心症、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0077】
本発明において、前記の虚血再灌流障害は再灌流による組織・器官損傷を含む。前記組織・器官は、心臓、肝臓、脾臓、肺臓、腎臓、脳、筋肉、神経、またはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。前記組織・器官損傷は、さらに、手術後再灌流障害を含むが、前記手術は、動脈バイパス術、血栓溶解療法、経皮的冠動脈形成術、人工心肺下心臓手術、急性心停止後の心臓、肺および/または脳蘇生、切断肢再接着または器官移植を含むがこれらに限定されない。前記再灌流障害は、さらに、ショック後の微小循環の閉塞解消後の再灌流障害、冠状動脈痙攣の緩和後の再灌流障害を含む。
【0078】
本発明において、前記虚血性疾患の予防および/または治療、虚血再灌流障害の予防および/または治療などの使用は、予防的な使用も、事後の改善的な使用も含む。たとえば、再灌流障害について、再灌流の前、中、および/または後で本発明の薬物組成物、活性成分の組み合わせまたは薬物キットを施用することにより、再灌流障害後の組織・器官に対して保護、修復あるいは機能の改善または増強を行うことを含む。
【0079】
本発明の薬物組成物、活性成分の組み合わせまたは薬物キットにおいて、第一活性成分および第二活性成分はほかの薬学的に許容される化合物と併用して投与してもよいが、前記ほかの薬学的に許容される化合物は、血圧降下薬、脂質降下薬、血糖降下薬、抗血小板凝集薬などを含むが、これらに限定されない。
【0080】
本発明の薬物組成物、活性成分の組み合わせ、薬物キットは、さらに、乳酸脱水素酵素の抑制に使用することができる。乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase、LDH)は、糖を細胞のエネルギーに転換させる過程に必要な一つの酵素で、全身の多くの器官および組織、たとえば、肝臓、心臓、膵臓、腎臓、骨格筋、リンパ組織および血球に存在する。乳酸脱水素酵素はピルビン酸が乳酸に転換される解糖の最終工程に関与し、正常組織では、通常、酸素の供給が不足する場合のみ、解糖が使用されるが、癌組織では、有酸素解糖に大いに依存し、酸素供給レベルに関係しないため、LDH阻害剤は酸化的リン酸化から解糖までの代謝転換の病理に使用され、たとえば、酸化的リン酸化から解糖までの代謝転換が現れる癌、線維化またはほかの病症に罹った患者の治療に使用することができるが、これらに限定されない。同時に、乳酸脱水素酵素は肝臓および膵臓のミトコンドリア/ペルオキシソームのグリシン代謝経路におけるグリオキシル酸からシュウ酸への転換を果たす酵素で、LDHの抑制は、慢性腎臓疾患、たとえば高シュウ酸尿症の治療に使用することができる。本発明の薬物組成物は、血液におけるLDH濃度の低下および/またはLDHの活性の抑制をさせることができ、LDH阻害剤として有用である。
【0081】
本発明の薬物組成物、活性成分の組み合わせまたは薬物キットにおいて、第一活性成分および第二活性成分は使用時に同時に投与しても、それぞれ投与しても、順番に投与してもよい。
【0082】
本発明の薬物組成物、活性成分の組み合わせまたは薬物キットにおいて、第一活性成分および第二活性成分の施用様態は、特に限定されないが、代表的な施用様態は、経口投与、直腸、胃腸外(静脈内、筋肉内、または皮下)投与、および局部投与を含むが、これらに限定されない。
【0083】
経口投与に用いられる固体剤形は、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤および顆粒剤を含む。これらの固体剤型において、活性成分は通常、少なくとも一種の不活性賦形剤(又は担体)、たとえばクエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウムと混合されるが、或いは、(a)フィラー又は相溶剤、例えば、でん粉、乳糖、ショ糖、グルコース、マンニトールやケイ酸、(b)バインダー、例えば、ヒドロメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ショ糖やアラビアゴム、(c)保湿剤、例えば、グリセリン、(d)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、馬鈴薯澱粉やタピオカ澱粉、アルギン酸、ある複合ケイ酸塩や炭酸ナトリウム、(e)溶液遅延剤、例えばパラフィン、(f)吸収促進剤、例えば、アンモニウム化合物、(g)湿潤剤、例えばセタノール、グリセリンモノステアレート、(h)吸着剤、例えば、カオリン、また(i)潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ドデシル硫酸ナトリウム、又はこれらの混合物、のような成分と混合される。カプセル剤、錠剤および丸剤において、剤形に緩衝剤を含んでもよい。
【0084】
固体剤形、たとえば錠剤、ピル、カプセル剤、丸剤や顆粒剤は、コーディングやシェル剤、たとえば、腸衣および他の本分野で公知の材料で製造することができる。不透明剤を含んでもよく、且つこのような組成物において、活性成分の放出は遅延の様態で消化管のある部分で放出してもよい。使用できる包埋成分の実例として、重合物質やワックス系物質が挙げられる。必要な場合、活性成分も上記賦形剤のうちの一種または複数種とマイクロカプセルの様態に形成してもよい。
【0085】
経口投与に用いられる液体剤形は、薬学的に許容される乳液、溶液、懸濁液、シロップまたはチンキ剤を含む。活性成分の他、液体剤型は、本分野で通常使用される不活性希釈剤、たとえば、水または他の溶媒、相溶剤および乳化剤、たとえば、エタノール、イソプロパノール、炭酸エチル、酢酸エチル、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジメチルホルムアミドおよび油、特に、綿実油、落花生油、コーン油、オリーブ油、ヒマシ油やゴマ油またはこれらの物質の混合物などを含んでもよい。
【0086】
これらの不活性希釈剤の他、組成物は助剤、たとえば、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、甘味料、矯味剤や香料を含んでもよい。
【0087】
活性成分の他、懸濁液は、懸濁剤、例えば、エトキシ化イソオクタデカノール、ポリオキシエチレンソルビトールやソルビタンエステル、微晶質セルロース、メトキシアルミニウムや寒天またはこれらの物質の混合物などを含んでもよい。
【0088】
胃腸外注射用組成物は、生理的に許容される無菌の水含有または無水溶液、分散液、懸濁液や乳液、および再溶解して無菌の注射可能な溶液または分散液にするための無菌粉末を含む。適切な水含有または非水性担体、希釈剤、溶媒または賦形剤は、水、エタノール、多価アルコールおよびその適切な混合物を含む。
【0089】
局所投与のための本発明の活性成分の剤形は、軟膏剤、散剤、湿布剤、噴霧剤や吸入剤を含む。活性成分は、無菌条件で生理学的に許容される担体および任意の防腐剤、緩衝剤、または必要よって駆出剤と一緒に混合される。
【0090】
本発明の薬物組成物、活性成分の組み合わせまたは薬物キットにおいて、サルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1の総量で計算すると、活性成分の治療有効量の一般的な範囲は、約1-2000 mg/日、約10-約1000 mg/日、約10-約500 mg/日、約10-250 mg/日、約10-約100 mg/日、または約10-約80 mg/日である。治療有効量は、一つまたは複数の投与量で投与する。しかしながら、もちろん、任意の特定の患者に対する本発明の活性成分の特定の投与量は、多くの要素、たとえば、治療される患者の年齢、性別、体重、一般健康状況、飲食、個体反応、投与時間、治療される疾患の重篤度、剤形、使用形態および併用する薬物によって決まる。状況によって決まる治療有効量は、通常の実験によって測定することができ、臨床の医者または医師の能力および判断の範囲内である。いずれの場合においても、前記活性成分は患者の個体状況に基づいて複数の投与量で治療有効量が送達するように投与する。
【0091】
本発明の主な利点は以下の通りである。
1.既存技術と比べ、本発明の薬物組成物はより優れた活性成分の配合比を有し、虚血性疾患、虚血再灌流障害の治療により良い治療効果(たとえば優れた梗塞面積の減少効果、組織・臓器機能の改善効果)がある。
2.本発明の薬物組成物は、心臓のみならず、脳、肝臓、肺臓および腎臓などの様々な器官の再灌流障害にも治療効果があり、幅広く多くの組織・器官の虚血再灌流障害に応用することができる。
3.本発明の薬物組成物は、さらに、乳酸脱水素酵素を抑制する効果を有し、迅速に血中乳酸脱水素酵素含有量および/または活性を低下させることができ、乳酸脱水素酵素阻害剤として、乳酸脱水素酵素に関連する疾患に使用することができる。
【0092】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例において、具体的な条件が記載されていない実験方法は、通常、通常の条件、あるいはメーカーの薦めの条件で行われた。特に説明しない限り、百分率および部は重量百分率および重量部である。
【0093】
一.試薬と材料
1.1 動物
クリーングレードの雄Wistarラット134匹で、体重220±10 gで、そのうち、56匹は異なる配合比の組み合わせ薬物の心筋梗塞のラット心臓に対する保護作用の研究に、16匹は組み合わせ薬物の虚血再灌流の心臓に対する保護作用の研究に、32匹は組み合わせ薬物の虚血再灌流の腎臓に対する保護作用の研究に、30匹は組み合わせ薬物の肺塞栓およびその合併症に対する予防・治療効果の評価に使用された。
【0094】
クリーングレードの雄SDラット96匹で、体重220±10 gで、そのうち、30匹は組み合わせ薬物の虚血性脳梗塞に対する保護作用の研究に、50匹は組み合わせ薬物の脳虚血再灌流障害に対する保護作用の研究に、16匹は組み合わせ薬物の虚血再灌流の肝臓に対する保護作用の研究に使用された。
【0095】
WistarおよびSDラットは中国科学院上海実験動物センターによって提供され、中国科学院上海薬物研究所実験動物センターSPFグレード動物室で飼育され、恒温22±2℃、12h光照明で、標準飲食で、自由に水を飲ませた。
投与形態:特別に説明しない限り、実施例における投与形態は尾静脈注射である。
【表1】
【表2】
【0096】
1.4 共通実験方法
血液の分離と処理
ペントバルビタールナトリウム(40 mg/kg)麻酔薬を腹腔注射してラットを麻酔し、仰向きに板に固定する。ハサミで正中線に沿って腹部を切り、腹腔の内容物を取り出し、乾燥綿球で腹腔内の液体を拭き取り、腹大動脈を5 mL注射器で血液を2 mlエッペンドルフ管に取る。 血液を氷上で0.5時間静置した後、4℃、8000 r/minの条件において採取した血液を10 min遠心し、上清液を取り、そして血清を0.5 mlエッペンドルフ管内に分け、-80℃冷蔵庫で保存し、使用に備える。
【0097】
TTC染色
0.5 gのTTC粉末を100 mlのPBSに溶解させ、光を避けて保存し、使用直前に調製する。新鮮な組織を横に複数の切片に切り、蓋付きの箱に置いてTTC溶液を入れ、液体入れの箱で光を避け、37℃恒温インキュベーターで20 minインキュベートし、その間に組織が均一に染色液に触れるように数回覆し、20 min後、取り出して写真を取る。
【0098】
サンプルの固定、脱水、パラフィン包埋、切片
ホルムアルデヒド100 ml、リン酸二水素ナトリウム4 g、リン酸水素二ナトリウム6.5 gを900 mLの蒸留水に溶解させ、体積比が10%のパラホルムアルデヒド固定液に調製した。組織をパラホルムアルデヒド固定液で72 h固定した後、水道水で2 h洗浄し、脱水装置にセットしてプログラム自動脱水を設定し、順に75%エタノールで1.5 h、95%エタノールで1.5 h、100%エタノールで1.5 h、キシレンで1.5 h、パラフィンで1.5 h処理した。2 h前にパラフィン包埋装置をつけてパラフィンを溶かし、温度を60℃に制御した。パラフィンを溶かした後、脱水後の組織をパラフィンで包埋し、包埋ボックスに注ぎ、加熱したピンセットでパラフィンに浸かった組織塊を包埋フレーム内に入れ、気を付けてコールドテーブルに移し、パラフィンが固まったらパラフィン塊を取って切片を用意する。切片前に、パラフィン塊を冷蔵庫に入れて予め冷凍し、冷却した後、切片装置で連続して厚さ5μmのパラフィン切片に切る。切片を伸展装置において38℃温水で伸展させ、ポリリジンがコーティングされたスライドガラスに切片を載せ、自然乾燥して後の病理組織学染色に使用する。
【0099】
HE染色
組織切片を65℃の乾燥装置で60 min乾燥し、迅速にキシレンに入れて15 minパラフィンを除去し、順に100%、95%、75%のエタノールに5 min浸漬し、流水で5 min洗浄した後、ヘマトキシリン染色液に15 min置き、水で5 min洗浄し、さらに1%塩酸エタノール分化液(調製:3 mLの濃塩酸を300 mLの75%エタノールに入れ、均一に撹拌して得られる)に3 s置き、流水で5 min青に戻し、1%エオジン溶液に10 min置き、快速に余分なエオジン染色液を流した後、75%エタノールに移して4 min浸漬し、95%エタノールで4 min、100%エタノールで5 min、キシレンで15 min透明にし、最後にキシレン中性バルサムで封止し、バルサムが自然乾燥したら、実体顕微鏡で全体図を、BX51顕微鏡で局所拡大図を撮る。
【0100】
PAS染色
組織切片を65℃の乾燥装置で60 min乾燥し、迅速にキシレンに入れて15 minパラフィンを除去し、順に95%、70%、30%のエタノールに5 min浸漬し、蒸留水に2 min浸漬し、調製した試薬一応用染色液をスライドガラスにおけるサンプルにサンプル全体を覆うように滴下し、気を付けて当該スライドガラスを平らに染色ホルダーに置き、室温で光を避けて8-15 minインキュベートする。染色スライドガラスを取り出し、水道水の流水でゆっくりスライドガラスを3-5 min洗浄する。スライドガラスが完全に乾燥する前に、試薬二応用液をスライドガラスにおけるサンプルに滴下し、サンプル全体を覆うようにブロアーで染色液を均一に吹き、さらに室温で8-15 minインキュベートする。インキュベート終了後、染色スライドガラスを取り出し、水道水の流水でゆっくりスライドガラスを30-60秒洗浄し、自然乾燥する。試薬三の二次染色液で20-30秒染色した後、流水で洗浄し、乾燥したら封止材で封止し、封止材が自然乾燥したら、実体顕微鏡で全体図を、BX51顕微鏡で局所拡大図を撮る。
【0101】
生化学指標の検出
LDH検出は、乳酸脱水素酵素測定キット(乳酸基質法、シスメックス生物科技(無錫)有限公司、ロット番号:R8004)に従い、全自動生化分析装置(JCA-BM6010/C、シスメックス医用電子(上海)有限公司)でラット血清を検出する。
【0102】
血流動態学的検出
ラットに40 mg/kgのペントバルビタールナトリウム麻酔薬を腹腔注射して麻酔した後、右総頚動脈を分離してミラーカテーテルを挿入し、Powerlab8/30生理記録装置(ML870、ADINSTRUMENTS)で頚動脈圧、左心室最大収縮速度、左心室最大拡張速度、左心室末梢拡張圧などの血流動態学指標を記録する。
【0103】
左・右肺指数の計算
ラットの体重を秤量した後、30 mg/kgのゾレチルを腹腔注射して麻酔し、左肺、右肺を分離して体重を秤量する。左肺、右肺と体重の比の値からそれぞれ左・右肺指数を計算する。
【0104】
肺間質面積の定量
ヘマトキシリン-エオジン染色した肺組織に対して定量分析を行う。各サンプルから気管、気管支および肺胞などの肺実質を除去し、残りの紫の部分は肺間質を表し、各組織サンプルを同じ倍数で撮影し、肺間質面積を定量する。
【0105】
免疫組織化学染色による好中球の浸潤の考察
パラフィンで包埋した組織を65℃で45-50 min加熱乾燥した後、キシレンで15 min、無水エタノールで5 min、95%エタノールで5 min、75%エタノールで3 min、流水で1 min洗浄し、水相までパラフィンを除去し、マイクロ波の条件において、クエン酸修復液で抗原を修復し、37℃で10%ヤギ血清で30 minインキュベートし、4℃で、CD44抗体で一晩インキュベートし、37℃で、二次抗体で1時間インキュベートし、DAB溶液を入れて40s処理し、ヘマトキシリンで15 min二次染色し、1%塩酸エタノールで5秒分化し、キシレンで透明にし、中性バルサムで切片を封止する。Image Pro Plusソフトで各サンプルの陽性細胞面積および光密度を定量し、平均光密度の値は光密度と陽性細胞面積の比の値から計算する。
【0106】
動物の行動学的検出
手術の2日前および術後1日ですべての実験動物に対してLonga採点、NSS採点およびEBST検出を行う。
a.Longa採点法:0点:正常で、神経機能損傷がない;1点:左側前足が完全に伸びず、軽度の神経機能損傷である;2点:走行時、ラットが左側(片麻痺側)に回り、中度の神経機能損傷である;3点:走行時、ラットの体が左側(片麻痺側)に傾き、重度の神経機能損傷である;4点:自発的に走行できず、意識喪失がある。
b.NSS採点法:0点:神経機能が正常である;1点:軽度の神経機能損傷である(尻尾を吊り上げると、左前肢が屈曲する);2点:中度の神経機能損傷である(走行時、左側に回る);3点:中度の神経機能損傷である(左側に傾く);4点:走行せず、意識が衰退する;5点:虚血に関連する死亡である。
c.持ち上げボディスイング試験(Elevated Body Swing Test):測量時、まず、手でラットの尻尾の付け根部分を、ラットの頭部の平面からの垂直距離が5 cm程度になるように持ち上げ、この時はラットの頭部が左か右に回転し、単側回転の角度が100を超える時を計数基準とし、回転する方法および角度を記録し、1回の試験後、ラットを1 min休ませ、次の試験を行し、20回繰り返し、合計の方向および回数を記録する。
【0107】
データ統計方法
GraphPad Prism 6.0(GraphPadソフト、LA Jolla、CA、米国)によってデータ分析を行い、すべての計量データはいずれも平均値±標準曲線で表示し、平均数間は一元配置分散分析(One-way ANOVA)によって等分散性を確認する。n値が一致する場合、Tukey法で比較し、n値が一致しない場合、Bonferroni法で比較し、P<0.05で統計学的に有意である。
【0108】
二.動物実験
実施例1
1.1 心筋梗塞モデルの構築
ペントバルビタールナトリウム(40 mg/kg)を腹腔注射し、ラットを手術板に固定して胸部を覆う毛を処理し、ペン型静脈留置針を気管に挿入して動物呼吸機に連結した。ヨードチンキで消毒して胸部の左側3-4肋骨間で皮膚を切って筋肉を鈍的切開し、3本目と4本目の肋骨の隙間を開いて固定して心臓の上部を露出させ、心膜を切り、持針器で5-0糸付き縫合針を持って左冠静脈を印とし、左心耳先端、肺動脈円錐および心耳の境界から1 mmで糸を通して結紮し、冠動脈を結紮した後、心筋組織がすぐにきれいな赤から真っ青になった。偽手術動物は、冠動脈左前下行枝を結紮しない以外、残りの手術操作は完全に同様である。
【0109】
1.2 動物の群分けと投与様態
56匹のラットをランダムに偽手術群、虚血モデル群、サルビアノリン酸BとジンセノサイドRg1の併用投与群(それぞれ5:4、5:3、5:2、5:1および2:5の比率で調製された)の7群に、8匹ずつ分けた。二重盲検の様態で投与し、すなわち、手術者が投与に関与せず、データ統計の人員は群分けの情報を知らない。サルビアノリン酸BとジンセノサイドRg1をそれぞれ5:4、5:3、5:2、5:1、2:5で混合し、均一に混合した後、ランダムに番号を付け、溶解後、ミクロポアフィルターでろ過して使用に備えた。偽手術群および心筋梗塞モデル群は体重から等体積で生理食塩水を投与した。手術後、すぐに15 mg/kgで尾静脈注射で1回投与し、24時間後、もう1回投与し、さらに腹大動脈から採血し、そして心臓を収集し、心臓の組織学的検出を行った。
【0110】
1.3 実験結果と分析
1.3.1 SalB/Rg1による心臓梗塞面積の減少
図1に示すように、偽手術群では、梗塞領域がなかった(0%)。虚血モデル群と比べ、2:5群では、梗塞面積が23.4%低下し、5:4群では、梗塞面積が15.3%低下し、5:3群では、梗塞面積が35.2%低下し(P<0.01)、5:2群では、梗塞面積が33.2%低下し(P<0.01)、5:1群では、梗塞面積が25.1%低下した。*は偽手術群に対して、***P<0.001であることを、
#は虚血モデル群に対して、
# P<0.05であることを表す。そして、5:3群および5:2群は2:5群と比べて梗塞面積を低下させる効果が明らかで、梗塞面積が2:5群と比べてそれぞれ1.50倍(5:3)および1.42倍(5:2)低下した。
【0111】
1.3.2 SalB/Rg1による血中LDH含有量の減少
血中LDH含有量の結果は
図2に示すように、虚血モデル群と比べ、2:5群では、LDH含有量が19.7%低下し、5:4群では、LDH含有量が7.5%低下し、5:3群では、LDH含有量が23.0%低下し、5:2群では、LDH含有量が37.9%低下し、5:1群では、LDH含有量が13.7%低下した。*は偽手術群に対して、*P<0.05であることを表す。2:5群と比べ、5:2群では、LDH含有量が1.9倍低下した。
【0112】
1.3.3 SalB/Rg1による心臓構造の改善
さらにSalB/Rg1の心臓組織構造に対する保護を評価するために、それぞれ心臓の梗塞領域(上)、梗塞周縁領域(中)、梗塞遠位領域(下)の心臓構造を分析した(
図3に示す)。虚血モデル群では、心臓梗塞領域は構造破壊がひどく、大量の炎症細胞が浸潤し、心筋細胞に水腫、壊死、細胞核の喪失として現れ、筋線維が柵状で、梗塞周縁領域は、炎症細胞が明らかに浸潤し、心筋線維が長くなって波状になっている。虚血モデル群と比べ、梗塞領域も梗塞周縁領域も、SalB/Rg1は上記損傷のいずれにも異なる程度の改善を現わし、そのうち、5:2群では、ラット心筋の組織構造の改善が最も明らかで、梗塞領域では、炎症細胞の浸潤が明らかに減少し、心筋細胞の水腫、壊死が軽減し、細胞核喪失の数が減少し、筋線維の配列が規則的で、梗塞周縁領域では、炎症細胞の浸潤が減少し、心筋線維の配列が規則的であった。各群の動物の梗塞遠位領域における細胞の配列は順に並んで緻密で規則的で、明らかな差がなかった。
【0113】
上記結果から、虚血モデル群と比べ、SalB/Rg1の併用投与はいずれも梗塞面積の減少効果があり、そして驚くことに、既存技術において公開されたSalB/Rg1の最適な配合比(2:5)と比べ、本発明においてSalB/Rg1が5:3および5:2の群で投与すると、ラット心臓の梗塞面積がより小さく、そして血中LDH含有量の低下および心臓構造の改善においてより優れた治療効果があることが示された。
【0114】
実施例2
SalB/Rg1が5:2の組み合わせおよび既存技術において公開されたSalB/Rg1が2:5の最適な配合比の組み合わせを使用し、心筋虚血再灌流障害モデルにおいてさらに比較した。
【0115】
2.1 心筋虚血再灌流障害モデルの構築
ペントバルビタールナトリウム(40 mg/kg)を腹腔注射し、ラットを手術板に固定し、胸部を覆う毛を処理した。ペン型静脈留置針を気管に挿入して動物呼吸機に連結した。ヨードチンキで消毒して胸部の左側3-4肋骨間で皮膚を切って筋肉を鈍的切開し、3本目と4本目の肋骨の隙間を開いて固定して心臓の上部を露出させ、心膜を切り、持針器で5-0糸付き縫合針を持って左冠静脈を印とし、左心耳先端、肺動脈円錐および心耳の境界から1 mmで糸を通して結紮し、2本の糸が結んだ箇所に1本の2-0番糸を入れて結紮し、冠動脈を結紮した後、心筋組織がすぐにきれいな赤から真っ青になった。心筋虚血40分間後、糸を切り、2-0番糸を取って心筋虚血再灌注を行い、1h後各項目の検出・評価を行った。偽手術動物は、冠動脈左前下行枝を結紮しない以外、残りの手術操作は完全に同様である。
【0116】
2.2 動物の群分けと投与様態
16匹の220g程度のラットをランダムにサルビアノリン酸BとジンセノサイドRg1の併用投与群(ここで、5:2および2:5の比率で調製された)の2群に、8匹ずつ分けた。ラット心筋虚血40分間後、再灌流し、再灌流と同時に15 mg/kgで尾静脈注射して投与し、再灌流1時間後、血流動態学の検出を行い、さらに心臓を収集して心臓の組織学検出を行った。
【0117】
2.3 実験結果
心筋虚血再灌流障害モデルにおいて、実験結果は
図4に示すように、(A)は梗塞面積のTTC染色の代表的な図で、(B)は梗塞面積の定量結果で、(C)はHE染色の代表的な図である。SalB/Rg1(2:5)と比べ、SalB/Rg1(5:2)では、ラット心臓の梗塞面積が15.03%低下した。さらにSalB/Rg1の虚血再灌流障害の心臓組織構造に対する保護を評価するために、それぞれ心臓の梗塞領域(上)、梗塞周縁領域(中)、梗塞遠位領域(下)の心臓構造を分析した(
図C)。SalB/Rg1(2:5)と比べ、SalB/Rg1(5:2)は、梗塞領域および梗塞周縁領域において、より顕著に炎症細胞の浸潤、心筋細胞の壊死、細胞核の喪失などの障害を抑制した。各群の動物の梗塞遠位領域における細胞の配列は順に並んで緻密で規則的で、明らかな差がなかった。
【0118】
図5および
図6は血流動態学の結果を示すが、SalB/Rg1(2:5)と比べ、SalB/Rg1(5:2)は最大拡張速度を18.2%向上させ(P<0.05)、最大収縮速度を11.6%向上させたことから、SalB/Rg1(5:2)はSalB/Rg1(2:5)よりも心臓機能を改善する効果が優れていることが示された。
図6は末梢拡張圧と平均動脈圧に明らかな差がなっかたことが示され、SalB/Rg1(5:2)はSalB/Rg1(2:5)と比べて血圧の調節において不利な効果がないことがわかる。
【0119】
実施例3
SalB/Rg1(5:2)とSalB/Rg1(2:5)は腎臓虚血再灌流障害モデルにおいてさらに比較した。
【0120】
3.1 腎臓虚血再灌流障害モデルの構築
ペントバルビタールナトリウム(40 mg/kg)を腹腔注射し、ラットを手術板に固定し、胸部を覆う毛を処理し、ヨードチンキで消毒し、腹部の真ん中に2.5 cmの切口を入れ、腸管を分離して左側の腎臓を露出させ、腎臓周囲脂肪を分離し、動脈クランプで左側の腎茎(腎動脈、腎静脈、腎を含む)を挟んで40分間腎臓を虚血させ、右側の腎臓と左側の腎臓は同様の操作であった。40分間後、左右両側の腎臓の動脈クランプを取り、24 h後、腎臓虚血再灌流障害が生じ、筋肉および皮膚を縫合した。偽手術動物は、両側の腎茎を挟まない以外、残りの手術操作は完全に同様である。
【0121】
3.2 動物の群分けと投与様態
32匹のラットをランダムに偽手術群、虚血再灌流モデル群、サルビアノリン酸BとジンセノサイドRg1の併用投与群(ここで、5:2および2:5の比率で調製された)の4群に、8匹ずつ分けた。偽手術群および腎臓虚血再灌流モデル群は体重から等体積で生理食塩水を投与した。ラット腎臓虚血40分間後、再灌流し、再灌流と同時に15 mg/kgで1回尾静脈注射して投与し、24時間後、もう1回投与し、さらに腎臓を収集して腎臓の組織学検出を行った。
【0122】
3.3 実験結果
SalB/Rg1の虚血再灌流障害の腎臓組織構造に対する保護を評価するために、腎臓皮質の構造を分析した(
図7に示す)。虚血再灌流モデル群では、腎臓皮質に大量の炎症細胞が浸潤し、血球が大量に浸出し、細胞間隙が増大した。虚血再灌流モデル群と比べ、SalB/Rg1は上記損傷のいずれにも異なる程度の改善を現わし、5:2群はラット腎臓の組織構造の改善が最も明らかで、腎臓皮質の炎症細胞の浸潤も血球の浸出も明らかに減少し、細胞間隙が減少した。
【0123】
SalB/Rg1の虚血再灌流障害の腎臓組織の糖原蓄積に対する作用を評価するために、腎臓皮質の糖原蓄積の状況を分析した(
図8に示す)。虚血再灌流モデル群では、腎臓間膜領域に糖原が集中し、糸球体メサンギウム細胞が増殖し、基質膜が厚くなり、細胞核がなくなった。虚血再灌流モデル群と比べ、SalB/Rg1は上記損傷のいずれにも異なる程度の改善を現わし、2:5群と比べ、5:2群では、ラット腎臓の糖原蓄積が明らかに減少し、糸球体メサンギウム細胞の増殖が改善し、細胞核がなくなった数が減少した。
【0124】
実施例4
サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1の併用(5:2)のラット肺塞栓およびその合併症に対する予防・治療効果
4.1 実験動物およびモデルの構築
30匹の雄Wistarラットをランダムに正常対照群、モデル対照群、サルビアノリン酸B/Rg1群(20mg/kg)の3群に、10匹ずつ分けた。正常対照群では、0、7、14、21日目に、5 ml/kgの投与量で生理食塩水を投与し、ほかの2群では、相応する時点でポリスチレンマイクロスフェアを投与した。ポリスチレンマイクロスフェアの濃度が20万粒/mlで、直径が45μmである。それぞれ0、7、14、21日目に、100万粒/kg(5ml/kg)の投与量で、Wistarラットにポリスチレンマイクロスフェアを尾静脈注射した。
【0125】
ポリスチレンマイクロスフェアを投与した2群は、1群では、7日目から毎日生理食塩水を注射し、モデル対照群とし、連続して28日施用し、もう1群では、7日目から毎日20 mg/kgの投与量でサルビアノリン酸B/Rg1(比率5:2)を腹腔注射し、連続28日投与した。すべての動物は35日目に採取し、心臓、肺臓の組織学検出を行った。
【0126】
4.2 実験結果
4.2.1 サルビアノリン酸B/Rg1(5:2)併用のマイクロスフェアによって誘導された肺塞栓に対する改善
サルビアノリン酸B/Rg1併用はマイクロスフェアによって誘導された肺塞栓を改善することができる。
図9に示すように、モデル群と比べ、サルビアノリン酸B/Rg1は顕著に左肺指数(A)および右肺指数(B)を低下させた。組織染色図からわかるように、サルビアノリン酸B/Rg1は顕著に肺臓の構造を改善し(C)、肺間質の面積を明らかに減少させた(D)ことから、サルビアノリン酸B/Rg1は肺機能に対する改善効果が示された。また、(E)からわかるように、サルビアノリン酸B/Rg1はさらに好中球の肺臓組織への浸潤を抑制し、その抑制効果が顕著に統計学的に有意である(F)ことから、サルビアノリン酸B/Rg1は顕著に肺塞栓の発生を抑制することが示唆された。
【0127】
4.2.2 サルビアノリン酸B/Rg1併用の肺塞栓による心筋肥大に対する改善
肺塞栓の主な合併症は心筋肥大で、HE染色の心筋組織において、肥大した心筋細胞は細胞の断面積の大きさによって評価することができる。
図10に示すように、Aは心臓のHE染色の代表的な図で、Bは心筋細胞の断面積の定量の図で、サルビアノリン酸B/Rg1は顕著に肺塞栓によって誘導された心筋肥大の発生を減少させた。
【0128】
実施例5
サルビアノリン酸B/Rg1併用(5:2)によるラット急性脳梗塞の治療
5.1 実験動物およびモデルの構築
30匹の雄SDラットをランダムに偽手術群、急性脳梗塞モデル群、サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1併用投与群(併用群では、配合比が5:2で、投与量が10 mg/kgである)の3群に、10匹ずつ分けた。ラットを麻酔し、固定し、胸部を覆う毛を処理してヨードチンキで消毒した後、順に筋肉、皮下結合組織、前頚筋肉群を分離し、総頚動脈(CCA)を露出させ、CCA分岐部から4 mmの箇所に小さな切口を入れ、塞栓糸を切口から内頚動脈(ICA)に入れ、血管分岐部から栓を約20 mm推し、中大脳動脈(MCA)を閉塞させて脳梗塞の発生を誘導した。脳梗塞の動物に10 mg/kgのサルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1を投与して治療した(サルビアノリン酸B/Rg1群)。脳梗塞の動物に生理食塩水を投与した(モデル群)。偽手術群の動物は栓を入れない以外、残りの手術操作が完全に同様で、そして同様の時点で生理食塩水を投与した(偽手術群)。
【0129】
5.2 実験結果
5.2.1 サルビアノリン酸B/Rg1による脳梗塞面積の低下
脳梗塞面積はTTC染色によって評価し、
図11に示すように、ここで、
図Aは大脳TTC染色の代表的な図で、梗塞領域は白色に、非梗塞領域は赤色に染色された。
図Bは梗塞面積の定量結果(白色領域の面積/(赤色領域の面積+白色領域の面積)百分率)で、サルビアノリン酸B/Rg1は顕著に梗塞面積を低下させ、モデル群と比べ、サルビアノリン酸B/Rg1群では、梗塞面積を39.42%低下させた。注:***はp<0.001 VS 偽手術群で、&&はp<0.01 VS モデル群である。
【0130】
5.2.2 サルビアノリン酸B/Rg1の脳梗塞後のラットの行動学の採点に対する改善
Longa採点、NSS採点およびEBSTで術前および術後のラットの神経運動機能を評価したが、結果は
図12に示す。3つの採点方法から、3群の動物はいずれも手術前に明らかな行動学の差が見られなかった。脳梗塞モデルの構築後、EBST採点(p<0.001)、Longa採点(p<0.05)およびNSS採点(p<0.05)から、サルビアノリン酸B/Rg1は顕著に神経運動機能を改善した。
【0131】
5.2.3 サルビアノリン酸B/Rg1の大脳皮質の神経細胞に対する保護
大脳皮質は躯体運動を調節、制御する高級中枢である。
図13に示すように、Aは大脳皮質のHE染色の代表的な図で、BはHE染色の一つの画像の視野における神経細胞数の定量結果で、Cは大脳皮質のニッスル染色の代表的な図で、Dは一つの画像の視野における大脳皮質のニッスル小体数の定量結果である。結果から、HE染色でも、ニッスル染色でも、サルビアノリン酸B/Rg1は顕著な神経細胞に対する保護効果を示すことがわかる。注:***はp<0.001 VS 偽手術群で、&&はp<0.01、&&&はp<0.001 VS モデル群である。
【0132】
5.2.4 サルビアノリン酸B/Rg1の海馬神経細胞に対する保護
解剖学の角度から、海馬は通常側脳室下角の一つの内側突起とされ、CA1、CA2、CA3およびCA4の四つの領域からなる。神経細胞の細胞体およびその神経網領域は層状に配列する。
図14は、CA1、CA2、CA3のHE染色図である。偽手術群と比べ、モデル群では、動物に空胞化、ニューロン胞体の収縮、喪失および数の減少が現れた。モデル群と比べ、サルビアノリン酸B/Rg1群では、生存した神経細胞が増多し、神経細胞が規則的に配列し、神経細胞の数が明らかに上昇した。
【0133】
図15は、CA1、CA2、CA3のネッスル染色の代表的な図およびその定量結果である。CA1、CA2およびCA3領域のネッスル染色の代表的な図(A、B、C)で示された細胞数は、HE染色の傾向と一致する。本動物モデルの左脳は損傷部位で、右脳は正常の組織学的構造を示す。左・右脳のグレースケールの差/画像視野は、モデル動物の神経細胞の損害程度を示し、
図B、
図Dおよび
図Fの定量結果はサルビアノリン酸B/Rg1が神経細胞の完全性を保護することを示した。
図15-16から、HE染色でも、ニッスル染色でも、サルビアノリン酸B/Rg1は海馬CA1、CA2、CA3に対する保護効果を示すことがわかる。
【0134】
実施例6
サルビアノリン酸B/Rg1併用(5:2)によるラット脳虚血再灌流障害の治療
6.1 実験動物およびモデルの構築
30匹の雄SDラットをランダムに偽手術群、脳虚血再灌流障害モデル群、エダラボン(国薬グループ国瑞薬業有限公司から購入、ロット番号:1909116)群、ブチルフタリド(石薬グループ恩必普薬業有限公司から購入、ロット番号:6182002117)群、サルビアノリン酸BとRg1併用群(5:2で、投与量が5 mg/kgである)の3群に、10匹ずつ分けた。
【0135】
ラットを麻酔し、固定し、胸部を覆う毛を処理してヨードチンキで消毒した後、順に筋肉、皮下結合組織、前頚筋肉群を分離し、総頚動脈(CCA)を露出させ、CCA分岐部から4 mmの箇所に小さな切口を入れ、塞栓糸を切口から内頚動脈(ICA)に入れ、血管分岐部から栓を約20 mm推し、中2h大脳動脈(MCA)を2 h閉塞させて脳梗塞の発生を誘導し、2 h後、栓を抜き出して脳虚血2h再灌流24hのモデルを構築した。栓抜きの10分前に投与した(尾静脈注射)が、サルビアノリン酸B/Rg1群では、5 mg/kgのサルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1を、エダラボン群では、有効成分で計算すると、5 mg/kgのエダラボンを、ブチルフタリド群では、有効成分で計算すると、5 mg/kgのブチルフタリドを、モデル群では、5 mg/kgの生理食塩水を投与し、偽手術群では、動物に栓を入れない以外、すべての手術操作が完全に同様で、5 mg/kgの生理食塩水を投与した。
【0136】
6.2 実験結果
6.2.1 サルビアノリン酸B/Rg1による再灌流障害の脳梗塞面積の低下
図16に示すように、TTC染色によって脳梗塞面積を評価したが、各群の染色結果の代表的な図は
図Aを、梗塞面積の定量結果は
図Bを参照し、サルビアノリン酸B/Rg1はエダラボン、ブチルフタリドと比べ、梗塞面積を低下させる効果がより顕著であったことがわかる。注:***はp<0.001、*はp<0.1VS 偽手術群で、&&はp<0.01 VS モデル群である。
【0137】
6.2.2 サルビアノリン酸B/Rg1の脳虚血再灌後のラットの行動学の採点に対する改善
Longa採点で術前および術後のラットの神経運動機能を評価したが、結果は
図17に示す。Longa採点方法から、5群の動物はいずれも手術前に明らかな行動学の差が見られなかった。モデル構築後、Longa評価から、サルビアノリン酸B/Rg1はエダラボン、ブチルフタリドよりも優れた神経運動機能を改善する効果を示す。
【0138】
6.2.3 サルビアノリン酸B/Rg1の大脳皮質の神経細胞に対する保護
図18に示すように、Aは大脳皮質のHE染色で、Bは大脳皮質のネッスル染色である。偽手術群と比べ、モデル群では、明らかな空胞化、ニューロン胞体の収縮、喪失、数の減少が見られた。モデル群と比べ、サルビアノリン酸B/Rg1群では、生存した神経細胞がモデル群、エダラボン群およびブチルフタリド群よりも高かった。HE染色でも、ニッスル染色でも、サルビアノリン酸B/Rg1はいずれも神経細胞に対する保護効果を示し、そしてエダラボン、ブチルフタリドよりも優れた治療効果を現わした。
【0139】
6.2.4 サルビアノリン酸B/Rg1の海馬神経細胞に対する保護
図19はCA1、CA2、CA3のHE染色の代表的な図で、
図20はCA1、CA2、CA3のニッスル染色の代表的な図である。HE染色でも、ニッスル染色でも、サルビアノリン酸B/Rg1はいずれも海馬CA1、CA2、CA3に対する保護効果を示し、そしてエダラボン、ブチルフタリドよりも優れた治療効果を現わした。
【0140】
実施例7
サルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1併用(5:2)のラット肝臓虚血再灌流障害に対する保護作用
7.1 実験動物およびモデルの構築
16匹の雄SDラットを、ランダムに2群に分けたが、一方は肝臓虚血再灌流障害モデル群で、もう一方はサルビアノリン酸B/Rg1(5:2)の組み合わせ治療群である。
肝臓虚血再灌流障害モデルの構築方法は以下の通りである。ラットの体重を秤量して麻酔し、腹部を覆う毛を処理し、手術台に固定した。ヨードチンキで消毒し、腹部の真ん中から剣状突起まで縦に5 cmの切口を入れた。順に皮膚、筋肉および腹膜を切り、純文に肝臓および胃腸管を露出させた。肝臓周囲の靭帯を分離した。顕微鏡止血クリップで挟んで肝臓中葉を閉塞させた。左葉門脈、肝動脈および胆管を露出させた。肝臓葉の色が赤色から段々真っ青になったことから、肝臓血流の遮断に成功したことが示された。血流遮断1h後、止血クリップを取り除いた。肝臓葉の色が段々きれいな赤になったことから、肝臓再灌流に成功したことが示された。モデル対照群では、再灌流と同時に生理食塩水を投与した。サルビアノリン酸B/Rg1併用群では、再灌流と同時に10 mg/kgのサルビアノリン酸B/ジンセノサイドRg1(5:2)を投与し、再灌流6時間後、採取し、肝臓の保護効果を評価した。
【0141】
7.2 実験結果
上記肝臓組織に対してHE染色を行った。結果は
図21(上の図は200Xで、下の図は400Xである)に示すように、虚血再灌流6h後、モデル群では、肝小葉の構造が不完全で、肝細胞の配列が乱れ、充血して腫れ、そして明らかに細胞の壊死が見られ、サルビアノリン酸B/Rg1は肝細胞の構造を改善することができるが、効果が心臓、脳ほど明らかではない。
【0142】
検討
既存技術では、実験結果から異なる薬物の梗塞面積を減少する効果が示された。サルビアノリン酸B<ジンセノサイドRg1<<サルビアノリン酸B:ジンセノサイドRg1=2:5投与群であるため(CN2011102229806、
図3を参照する)、ジンセノサイドRg1の心臓梗塞面積を減少する効果がサルビアノリン酸Bよりも良く、併用時にジンセノサイドRg1が占める比率が高いほど効果が良いとされる傾向があるが、驚くことに、既存技術において公開された最適な配合比の組み合わせ(SalB/Rg1が2:5である)と比べ、本発明の薬物組成物(サルビアノリン酸Bの重量>ジンセノサイドRg1)は心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓などの虚血性疾患および心臓、脳虚血再灌流障害の治療(たとえば梗塞面積の減少、組織・臓器の構造、機能の改善)においてより優れた効果を示す。意外なことに、本発明の薬物組成物は、さらに、血液におけるLDH濃度の低下および/またはLDHの活性の抑制をさせることができ、LDH阻害剤として有用である。
【0143】
異なる組織・器官(たとえば、心臓、肝臓、脾臓、肺臓、腎臓、脳および筋肉、神経など)は、その組織の構造、機能、血管分布、および血液に対する需要などによって異なり、薬物が異なる器官の虚血再灌流障害のいずれにも治療作用があるかどうかという結果は予想が困難である。驚くことに、本発明の薬物組成物は、心臓のみならず、脳、腎臓、肝臓などの器官の虚血再灌流障害にも優れた器官機能を改善する効果を示し、幅広く多くの組織・器官の虚血再灌流障害に使用することができる。
【0144】
より意外なことに、SalB/Rg1の併用は心臓、脳の虚血性疾患、虚血再灌流障害にほかの組織・器官よりも優れた治療効果を示し、特に虚血性脳卒中、および虚血性脳卒中後の再灌流障害に対する保護効果がとりわけ意外なもので、顕著に梗塞面積を低下させるのみならず、顕著に動物の行動を改善することから、当該本発明の薬物組成物は心臓疾患および脳疾患に優れた治療の将来性があることが示唆された。
【0145】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物組成物であって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される
塩、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される
塩、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第二活性成分、ならびに
(c)薬学的に許容される担体
からなり、
かつ、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
ことを特徴とする薬物組成物。
【請求項2】
前記第一活性成分と前記第二活性成分の重量比が5:(1-4.0)、好ましくは5:(1.2-3.8)、より好ましくは5:(1.5-3.5)であることを特徴とする請求項1に記載の薬物組成物。
【請求項3】
前記第一活性成分と前記第二活性成分の重量比5:(1.8-3.2)、好ましくは5:(1.9-3.1)、より好ましくは5:(2-3)、最も好ましくは5:2であることを特徴とする請求項1に記載の薬物組成物。
【請求項4】
第一活性成分はサルビアノリン酸Bで、第二活性成分はジンセノサイドRg1であることを特徴とする請求項1-3のいずれかに記載の薬物組成物。
【請求項5】
前記薬物組成物の剤形は、液体製剤(たとえば溶液、乳液、懸濁液)、固体製剤(たとえば凍結乾燥製剤)、気体剤形、半固体剤形からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の薬物組成物。
【請求項6】
前記剤形は、注射剤(たとえば注射液または粉末注射剤)、経口投与製剤(たとえばカプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、シロップ、経口投与液またはチンキ剤)、トローチ製剤、気道投与製剤、皮膚投与製剤、粘膜投与製剤からなる群から選ばれ、好ましくは、前記剤形は注射剤であることを特徴とする請求項5に記載の薬物組成物。
【請求項7】
活性成分の組成であって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される
塩、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される
塩、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる活性成分
からなり、
かつ、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
ことを特徴とする活性成分の組み合わせ。
【請求項8】
薬物キットであって、
(a)サルビアノリン酸B、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される
塩、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第一活性成分、ならびに薬学的に許容される担体
からなる、第一薬物組成物と、
(b)ジンセノサイドRg1、その立体異性体、その結晶形、その薬学的に許容される
塩、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる第二活性成分、ならびに薬学的に許容される担体
からなる、第二薬物組成物
とからなり、
かつ、前記第一薬物組成物および第二薬物組成物は併用され、ここで、前記第一活性成分と第二活性成分の重量比が5:(1-4.5)で、ここで、前記重量比はサルビアノリン酸BおよびジンセノサイドRg1で計算する
ことを特徴とする薬物キット。
【請求項9】
請求項7の活性成分の組み合わせ、それを含む薬物組成物または薬物キットの使用であって、(i)虚血性疾患の予防および/または治療、(ii)虚血再灌流障害の予防および/または治療、ならびに/あるいは(iii)乳酸脱水素酵素の抑制に使用される、薬物または薬物キットを製造するためであることを特徴とする使用。
【請求項10】
前記虚血性疾患は、組織および血管原発性病変による組織・器官虚血損傷、ならびに/あるいは継発性原因による虚血性病変、たとえば外傷による血管離断、炎症による血管閉塞、腫瘍による血管圧迫からなる群から選ばれることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記虚血性疾患は、虚血性心臓疾患、虚血性脳卒中、肺塞栓、虚血性肝臓損傷、虚血性腎臓疾患、虚血性神経損傷、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれることを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記虚血性心臓疾患は、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心筋線維化、心不全、またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記の虚血再灌流障害は再灌流による組織・器官損傷であることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項14】
前記組織・器官は、心臓、脳、肝臓、脾臓、肺臓、腎臓、筋肉、神経、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれることを特徴とする請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記組織・器官損傷は手術後再灌流障害および/または血栓溶解治療後の再灌流障害で、好ましくは、前記手術は、動脈バイパス術、血栓除去療法、経皮的冠動脈形成術、人工心肺下心臓手術、急性心停止後の心臓、肺および/または脳蘇生、切断肢再接着または器官移植からなる群から選ばれることを特徴とする請求項14に記載の使用。
【国際調査報告】