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特表2022-546022ヒドロキシアセトンの存在下でビスフェノールA(BPA)を作製するプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-02
(54)【発明の名称】ヒドロキシアセトンの存在下でビスフェノールA(BPA)を作製するプロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/20 20060101AFI20221026BHJP
   C07C 39/16 20060101ALI20221026BHJP
   C07C 37/84 20060101ALI20221026BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
C07C37/20
C07C39/16
C07C37/84
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022512721
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(85)【翻訳文提出日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 EP2020073592
(87)【国際公開番号】W WO2021037777
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】19193680.6
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520204744
【氏名又は名称】コベストロ・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・アンド・コー・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウイ ジェリコ ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】スライツ エリック
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC25
4H006AD15
4H006BA72
4H006DA64
4H006FC52
4H006FE13
4H039CA19
4H039CL25
(57)【要約】
本発明は、イオン交換樹脂触媒と硫黄含有助触媒とを含む触媒系を被毒することなく、ヒドロキシアセトンの存在下でビスフェノールAを作製するプロセスであって、硫黄含有助触媒の少なくとも一部がイオン交換樹脂触媒と化学的に結合していない、プロセスに関する。さらに、本発明は、ポリカーボネートを作製するプロセス、及びビスフェノールAと、ビスフェノールAの製造において形成される少なくとも1つの特定の不純物とを含む組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)触媒系の存在下で、原料フェノールと原料アセトンとを縮合させる工程であって、
該触媒系が、イオン交換樹脂触媒と硫黄含有助触媒とを含み、硫黄含有助触媒の少なくとも75モル%がイオン交換樹脂触媒と化学的に結合していない、工程、
を含む、オルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAを作製するプロセスであって、
工程(a)において存在するヒドロキシアセトンの量が、前記原料フェノールと前記原料アセトンとの総重量に対して、1.2ppm超であることを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
工程(a)において存在するヒドロキシアセトンの量が、前記原料フェノールと前記原料アセトンとの総重量に対して、1.2ppm超、かつ、5000ppm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
(b)工程(a)の後に得られた混合物を、オルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAの少なくとも1つを含むビスフェノールA画分と、フェノール画分とに分離する工程であって、
前記フェノール画分は、未反応のフェノールと、工程(a)においてヒドロキシアセトンが存在するために形成された少なくとも1つの不純物とを含む、工程を追加的に含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
工程(b)における前記分離を、結晶化法を用いて行うことを特徴とする、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
(c)工程(b)において得られた前記フェノール画分の少なくとも一部を、工程(a)において抽出物として使用する追加の工程であって、
前記フェノール画分の少なくとも一部が、該フェノール画分の総重量に対して、1ppm以下のヒドロキシアセトンを含む、工程を含むことを特徴とする、請求項3又は4に記載のプロセス。
【請求項6】
工程(a)においてヒドロキシアセトンが存在するために形成された前記少なくとも1つの不純物が、4-(2,2,4-トリメチル-4-クロマニル)フェノール、2,4,4-トリメチル-2-(4-ヒドロキシフェニル)クロマン、化合物M362、化合物M434、及びこれらの混合物(ここで、化合物M362は、362g/molの分子量を有し、3つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、M434は、434g/molの分子量を有し、2つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、ここで、前記ガスクロマトグラフィーは、25m×0.2mm×0.33μmのサイズのAgilent J&W VF-1MSカラムを使用して、80℃で0.10分間保持し、10℃/分で280℃まで加熱し、この温度で10.00分間保持する温度プロファイルを用いて、250℃で、10/1のスプリットで1μlの試料を注入して行い、ここで、流量は24.45psi(1.685768bar)の初期圧力で1ml/分であり、質量分析計ではmz35~mz700をスキャンする)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項3~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
工程(a)を行った後、工程(a)で得られた混合物におけるヒドロキシアセトンの量が、工程(a)で得られた混合物の総重量に対して、1ppm未満であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
工程(a)において、化合物M362又は化合物M434が存在する(ここで、化合物M362は、362g/molの分子量を有し、3つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、M434は、434g/molの分子量を有し、2つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、ここで、前記ガスクロマトグラフィーは、25m×0.2mm×0.33μmのサイズのAgilent J&W VF-1MSカラムを使用して、80℃で0.10分間保持し、10℃/分で280℃まで加熱し、この温度で10.00分間保持する温度プロファイルを用いて、250℃で、10/1のスプリットで1μlの試料を注入して行い、ここで、流量は24.45psi(1.685768bar)の初期圧力で1ml/分であり、質量分析計ではmz35~mz700をスキャンする)ことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記硫黄含有助触媒が、メルカプトプロピオン酸、硫化水素、エチルスルフィド等のアルキルスルフィド、及びこれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
工程(a)において存在するヒドロキシアセトンは、前記原料アセトン及び/又は前記原料フェノールにおける不純物として、プロセス工程(a)に導入されるものであることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
(i)請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセスに従って、オルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAを得る工程と、
(ii)ポリカーボネートを得るために、工程(i)において得られたオルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAを、任意で少なくとも1つの更なるモノマーの存在下で重合する工程と、
を含むポリカーボネートを作製するプロセス。
【請求項12】
前記プロセス工程(i)が、工程(a)においてヒドロキシアセトンが存在するために形成された少なくとも1つの不純物の量を低減するために、前記オルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAを精製する工程を更に含むことを特徴とする、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
工程(a)においてヒドロキシアセトンが存在するために形成された前記少なくとも1つの不純物が、オルト,パラ-ビスフェノールA、4-(2,2,4-トリメチル-4-クロマニル)フェノール、2,4,4-トリメチル-2-(4-ヒドロキシフェニル)クロマン、化合物M362、化合物M434、及びこれらの混合物(ここで、化合物M362は、362g/molの分子量を有し、3つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、M434は、434g/molの分子量を有し、2つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、ここで、前記ガスクロマトグラフィーは、M362/M434の同定のために質量分析と組み合わせて、25m×0.2mm×0.33μmのサイズのAgilent J&W VF-1MSカラム(100%ジメチルポリシロキサン)を使用して、80℃で0.10分間保持し、10℃/分で280℃まで加熱し、この温度で10.00分間保持する温度プロファイルを用いて、250℃で、10/1のスプリットで1μlの試料を注入して行い、ここで、流量は24.45psi(1.685768bar)の初期圧力で1ml/分であり、質量分析計ではmz35~mz700をスキャンする)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
オルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAと、化合物M362又は化合物M434とを含む組成物であって、ここで、化合物M362は、362g/molの分子量を有し、3つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、M434は、434g/molの分子量を有し、2つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、前記ガスクロマトグラフィーは、M362/M434の同定のために質量分析と組み合わせて、25m×0.2mm×0.33μmのサイズのAgilent J&W VF-1MSカラム(100%ジメチルポリシロキサン)を使用して、80℃で0.10分間保持し、10℃/分で280℃まで加熱し、この温度で10.00分間保持する温度プロファイルを用いて、250℃で、10/1のスプリットで1μlの試料を注入して行い、ここで、流量は24.45psi(1.685768bar)の初期圧力で1ml/分であり、質量分析計ではmz35~mz700をスキャンする、組成物。
【請求項15】
組成物の総重量に対して、1ppm未満のヒドロキシアセトンを含むことを特徴とする、請求項14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノールAを作製するプロセス、ポリカーボネートを作製するプロセス、及びビスフェノールAと、ビスフェノールAの製造において形成される少なくとも1つの特定の不純物とを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールA、すなわち、BPAは、ポリカーボネート又はエポキシ樹脂の製造において重要なモノマーである。BPAは、通常、パラ,パラ-BPA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェノール)プロパン;p,p-BPA)の形態で使用されるが、BPAの製造においては、オルト,オルト-BPA(o,o-BPA)及び/又はオルト,パラ-BPA(o,p-BPA)も形成され得る。BPAについて言及する場合、原則的には、パラ,パラ-BPAのことを指すが、少量のオルト,オルト-BPA及び/又はオルト,パラ-BPAも含まれる。
【0003】
現行の技術水準に従うと、BPAは、酸触媒の存在下で、フェノールとアセトンとを反応させて、ビスフェノールを得ることによって製造される。以前は、縮合反応の商業的なプロセスにおいて塩酸(HCl)が使用されていた。現在では、BPAの製造のための不均一系連続プロセスがイオン交換樹脂触媒の存在下で使用されており、ここで、イオン交換樹脂は、架橋した酸官能化ポリスチレン樹脂を含む。最も重要な樹脂は、スルホン酸基により架橋したポリスチレンである。特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4、又は非特許文献1に記載されているように、ジビニルベンゼンが架橋剤として最も使用されている。
【0004】
高い選択性を達成するために、フェノールとアセトンとの反応を好適な助触媒の存在下で行うことができるが、この触媒は時間とともに失活することが知られている。失活は、例えば、特許文献5、特許文献6、特許文献7に記載されている。製造プロセスの主な目的の1つは、触媒系の性能及び滞留時間を最大限にすることである。したがって、この目的に対応するために、潜在的な被毒物質、副生成物、抽出物(educts)の不純物等を特定する必要がある。
【0005】
特許文献8では、ヒドロキシアセトンが約1ppm未満の材料をフェノール反応物として使用することによって、ビスフェノールの製造を改善することができ、ビスフェノール縮合触媒の寿命を延ばすことができることが教示されている。ここで、触媒系は、イオン交換樹脂触媒と硫黄含有助触媒とを含み、助触媒はイオン交換樹脂触媒と化学的に結合している。
【0006】
特許文献9では、イオン交換樹脂触媒と硫黄含有助触媒とを含む特定の触媒系であって、助触媒がイオン交換樹脂触媒と化学的に結合している、触媒系の使用が教示されており、また、かかる特定の触媒系を使用したフェノールとケトンとの縮合反応を触媒するプロセスも教示されている。さらに、特許文献9には、イオン交換樹脂触媒と化学的に結合していないバルク促進剤を利用せずに、フェノールとケトンとの縮合反応を触媒するプロセスが開示されている。
【0007】
よって、従来技術では、イオン交換樹脂触媒と、化学的に結合した硫黄含有助触媒とを含む触媒系が、ヒドロキシアセトンによる被毒を受け易いと明確に述べている。したがって、従来技術では、触媒被毒を回避するために、原料フェノール及び原料アセトンにおける不純物としてのヒドロキシアセトンの濃度を可能な限り低くする必要があることが教示されている。
【0008】
しかしながら、原料フェノール及び/又は原料アセトンからのヒドロキシアセトンの除去には時間とお金がかかり、これにより、原料フェノール及び/又は原料アセトンがより高価になる。最終的には、ビスフェノールA及びこのビスフェノールAから調製される各ポリマーのコストが増加する。さらに、原料フェノール及び/又は原料アセトンにおけるヒドロキシアセトンの濃度は、供給元及びこれらの原料の精製プロセスによって変化する。これは、様々な原料品質に対応する必要があることを意味し(例えば、仕様が或る特定の閾値を超える場合は、別の精製工程を行う必要がある)、プロセス及び原料供給元の選択における柔軟性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】英国特許出願公開第849965号
【特許文献2】米国特許第4427793号
【特許文献3】欧州特許出願公開第0007791号
【特許文献4】欧州特許出願公開第0621252号
【特許文献5】欧州特許出願公開第0583712号
【特許文献6】欧州特許出願公開第10620041号
【特許文献7】独国特許出願公開第14312038号
【特許文献8】米国特許第5,414,151号
【特許文献9】国際公開第2012/150560号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Chemistry and properties of crosslinked polymers, edited by Santokh S. Labana, Academic Press, New York 1977
【発明の概要】
【0011】
よって、本発明は、フェノールとアセトンとの縮合を介して、オルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAを作製するプロセスであって、従来技術のプロセスよりも経済的なプロセスを提供することを目的としていた。さらに、本発明は、フェノールとアセトンとの縮合を介して、オルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAを作製するプロセスであって、原料フェノール及び/又は原料アセトンの品質の選択において、より柔軟性が高い及び/又はより高い柔軟性を許容するプロセスを提供することを目的としていた。この柔軟性は、原料フェノール及び/又は原料アセトンにおける不純物としてのヒドロキシアセトンの濃度に対して提供されることが好ましい。
【0012】
上述の課題の少なくとも1つ、好ましくはこれらの課題の全てが本発明によって解決された。驚くべきことに、イオン交換樹脂触媒と硫黄含有助触媒とを含み、硫黄含有助触媒の少なくとも一部がイオン交換樹脂触媒と化学的に結合していない触媒系が、ヒドロキシアセトンによる触媒被毒の影響を受けにくいことが分かった。従来技術では、化学的に結合した硫黄含有助触媒を含む触媒系が、かかる被毒を受け易いことが示唆されているため、これは驚くべきことである。さらに、従来技術では、原料アセトン及び/又は原料フェノールにおけるヒドロキシアセトンの量を可能な限り低くする必要があることが教示されている。本発明の特定の触媒系はこの不純物によって影響を受けないため、触媒の寿命が短くなるリスクなく、より安価な原料アセトン及び/又は原料フェノールを使用することができる。これにより、全体的なプロセスの費用効果がより高くなる。また、原料を精製するために必要なエネルギーがより小さくなるため、プロセスは環境保護的により有利になる。さらに、プロセスは、原料フェノール及び/又は原料アセトンの品質の選択において、特に、これらの原料におけるヒドロキシアセトンの濃度に対してより高い柔軟性を許容する。
【0013】
したがって、本発明は、
(a)触媒系の存在下で、原料フェノールと原料アセトンとを縮合させる工程であって、
該触媒系が、イオン交換樹脂触媒と硫黄含有助触媒とを含み、硫黄含有助触媒の少なくとも一部、好ましくは75モル%がイオン交換樹脂触媒と化学的に結合していない、工程、
を含む、オルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAを作製するプロセスであって、
工程(a)において存在するヒドロキシアセトンの量が、原料フェノールと原料アセトンとの総重量に対して、1.2ppm超であることを特徴とする、プロセスを提供する。
【0014】
本発明によると、「原料フェノール」及び/又は「原料アセトン」について言及する。「原料」という用語は、BPAを作製するプロセスにおいて適用された、特に添加された未反応の抽出物に対して使用される。特に、この用語は、(原料フェノールとして)反応に新たに添加されるフェノールと、BPAを作製するプロセスにおいてリサイクルしたフェノール(リサイクルフェノール)とを区別するために使用される。かかるリサイクルフェノールは、追加のヒドロキシアセトンをプロセスに添加する可能性はない。(原料アセトンとして)反応に新たに添加されるアセトンと、BPAを作製するプロセスにおいてリサイクルしたアセトン(リサイクルアセトン)についても同様である。フェノール及び/又はアセトンについて言及する場合、特に明示しない限り、化学的化合物自体、又は原料フェノール及びリサイクルフェノールの両方及び/又は原料アセトン及びリサイクルアセトンの両方のいずれかの合計を意味することが好ましい。
【0015】
ヒドロキシアセトンは、BPAの反応の両方の原料における不純物である。原料フェノール及び原料アセトンは、両方とも、ヒドロキシアセトン不純物を含有する可能性がある。例えば、アセトン又はフェノールの製造経路は、Arpe, Hans-Juergen, Industrielle Organische Chemie, 6. Auflage, Januar 2007, Wiley-VCHに記載されている。特に、フェノールを作製するプロセスは、ウルマン産業化学事典、フェノール及びフェノール誘導体の章に記載されている。Hock法としても知られるクメンの酸化は、圧倒的に主要なフェノールの合成経路である。フェノールの製造中に形成される被毒物質の中には、ヒドロキシケトン、特にヒドロキシアセトンがある。
【0016】
本発明のプロセスは、工程(a)において存在するヒドロキシアセトンの量が、原料フェノールと原料アセトンとの総重量に対して、1.2ppm超、好ましくは1.3ppm超、より好ましくは1.4ppm超、更に好ましくは1.5ppm超、更に好ましくは2ppm超、更に好ましくは5ppm超、更に好ましくは10ppm超、最も好ましくは50ppm超であることを特徴とする。さらに、工程(a)において存在するヒドロキシアセトンの量が、原料フェノールと原料アセトンとの総重量に対して、1.2ppm超、かつ、5000ppm以下、より好ましくは4500ppm以下、更に好ましくは4000ppm以下、更に好ましくは3500ppm以下、更に好ましくは3000ppm以下、更に好ましくは2500ppm以下、最も好ましくは2000ppm以下であることが好ましい。原料フェノール及び/又は原料アセトンにおけるヒドロキシアセトンの量を求める方法は当業者に知られている。例えば、原料フェノールにおけるヒドロキシアセトンの量は、ASTM D6142-12(2013)に従って求めることができる。原料アセトンにおけるヒドロキシアセトンの量は、ガスクロマトグラフィーによって求めることができる。以前は、アセトンの純度は、例えば、ASTM D1154によって求められていたが、現在は廃止されている。
【0017】
本発明によると、「ppm」は、好ましくは重量部に対して言及されている。
【0018】
好ましくは、本発明のプロセスは、
(b)工程(a)の後に得られた混合物を、オルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAの少なくとも1つを含むビスフェノールA画分と、フェノール画分とに分離する工程であって、
フェノール画分は、未反応のフェノールと、工程(a)においてヒドロキシアセトンが存在するために形成された少なくとも1つの不純物とを含む、工程を追加的に含むことを特徴とする。
【0019】
ビスフェノールA画分は、生成物として回収するか、及び/又は更に精製することが好ましい。高純度のビスフェノールを提供するために、製造プロセスには幾つかのバリエーションが存在する。この高純度は、ポリカーボネートの製造におけるモノマーとしてのBPAの使用において特に重要である。国際公開第0172677号には、ビスフェノールとフェノールとの付加物の結晶、及びこの結晶を製造し、最終的にビスフェノールを作製する方法が記載されている。付加物の結晶化によって、高純度のパラ,パラ-BPAを得ることができることが分かった。欧州特許出願公開第1944284号には、ビスフェノールを製造するプロセスであって、結晶化が連続懸濁結晶化装置を含む、プロセスが記載されている。BPAの純度に対する要求が高まっていること、及び開示された方法によって、99.7%超の非常に純粋なBPAを得ることができることが述べられている。国際公開第2005075397号には、ビスフェノールAを製造するプロセスであって、反応の際に生成する水を蒸留によって除去する、プロセスが記載されている。この方法によると、未反応のアセトンが回収され、リサイクルされ、経済的に有利なプロセスが得られる。
【0020】
本発明のプロセスは、工程(b)における分離を、結晶化法を用いて行うことを特徴とすることが好ましい。工程(b)における分離を、少なくとも1つの連続懸濁結晶化装置を用いて行うことが更に好ましい。
【0021】
母液サイクルを利用することが更に記載されていた。BPAは、反応後に、結晶化及び濾過によって溶媒から取り出す。母液は、典型的には、未反応のフェノールに溶解した5%~20%のBPAと副生成物とを含有する。さらに、反応の際に水が形成されるが、この水は脱水セクションにおいて母液から除去する。未反応のフェノールを含む画分は、更なる反応のためにリサイクルすることが好ましいが、これは、好ましくは、母液をリサイクルすることを意味する。この画分は、BPAを得るために、アセトンとの反応において未反応のフェノールとして再利用される。母液の流れは、常法に従い反応ユニットに再循環することが好ましい。
【0022】
典型的には、母液中の副生成物は、例えば、o,p-BPA、o,o-BPA、置換インデン、ヒドロキシフェニルインダノール、ヒドロキシフェニルクロマン、置換キサンテン、及びより高縮合の化合物である。また、アセトンの自己縮合及び原料中の不純物との反応の結果として、アニソール、メシチルオキシド、メシチレン、及びジアセトンアルコール等の更なる二次化合物が形成される可能性がある。
【0023】
母液のリサイクルにより、副生成物が循環流に蓄積し、触媒系の更なる失活につながる可能性がある。これは、触媒を長期間使用する場合、抽出物における初期不純物の影響と同様に、フェノールとアセトンとの反応又は不純物の1つの反応のいずれかからの反応自体で生じ得る副生成物の影響を考慮する必要があることを意味する。
【0024】
本発明の更なる態様においては、プロセス工程(a)(フェノールとアセトンとの反応)においてヒドロキシアセトンが存在すると、新たな副生成物又は不純物の形成につながることが分かった。ヒドロキシアセトンは、本発明のプロセス中に反応し、それに続くプロセス工程ではもはや検出することができないことが分かった。したがって、本発明のプロセスは、工程(a)を行った後、工程(a)で得られた混合物におけるヒドロキシアセトンの量が、工程(a)で得られた混合物の総重量に対して、1ppm未満、好ましくは0.00001ppm~0.9ppm、更に好ましくは0.0001ppm~0.5ppm、最も好ましくは0.001ppm~0.1ppmであることを特徴とすることが好ましい。しかしながら、工程(a)においてヒドロキシアセトンが存在するために形成されたと考えられる、後述する新たな化合物が特定された。
【0025】
したがって、本発明のプロセスは、
(c)工程(b)において得られたフェノール画分の少なくとも一部を、工程(a)において抽出物として使用する追加の工程であって、
フェノール画分の少なくとも一部が、フェノール画分の総重量に対して、1ppm以下、好ましくは0.00001ppm~0.9ppm、更に好ましくは0.0001ppm~0.5ppm、最も好ましくは0.001ppm~0.1ppmのヒドロキシアセトンを含む、工程を含むことを特徴とすることが好ましい。
【0026】
工程(a)においてヒドロキシアセトンが存在するために形成される副生成物及び/又は不純物の蓄積を回避するために、系には幾つかの選択肢が存在する。1つはパージ流であり、例えば、母液の一部が排出される。別のアプローチは、固液分離後並びに水及び残留アセトンの除去の前又は後に、循環流の全量の一部を、例えば、酸イオン交換体を充填した転位ユニットを通過させることを含む。この転位ユニットでは、BPAの調製からの副生成物の一部が異性化されて、p,p-BPAが得られる。プロセス工程(a)においてヒドロキシアセトンが存在するために形成される新たな不純物は、パージ流によって除去することができることが分かった。したがって、工程(b)において得られたフェノール画分の少なくとも一部を、工程(a)において抽出物として使用し、この流れの少なくとも一部をパージすることが好ましい。工程(b)において得られたフェノール画分の50体積%超を、工程(a)において抽出物として使用することが好ましい(ここで、体積%は、フェノール画分の総体積に対するものである)。
【0027】
好ましくは、本発明のプロセスは、工程(a)においてヒドロキシアセトンが存在するために形成された少なくとも1つの不純物が、4-(2,2,4-トリメチル-4-クロマニル)フェノール、2,4,4-トリメチル-2-(4-ヒドロキシフェニル)クロマン、化合物M362、化合物M434、及びこれらの混合物(ここで、化合物M362は、362g/molの分子量を有し、3つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、M434は、434g/molの分子量を有し、2つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、ここで、ガスクロマトグラフィーは、M362/M434の同定のために質量分析と組み合わせて、25m×0.2mm×0.33μmのサイズのAgilent J&W VF-1MSカラム(100%ジメチルポリシロキサン)を使用して、80℃で0.10分間保持し、10℃/分で280℃まで加熱し、この温度で10.00分間保持する温度プロファイルを用いて、250℃で、10/1のスプリットで1μlの試料を注入して行い、ここで、流量は24.45psi(1.685768bar)の初期圧力で1ml/分であり、質量分析計ではmz35~mz700をスキャンする)からなる群より選択されることを特徴とする。
【0028】
本発明によると、ヒドロキシアセトンは、クロマン及びより高分子量の分子の形成をもたらすことが分かった。この化合物の構造は不明であり、その分子量は362g/mol又は434g/molのいずれかであり得る。これらの化合物を、M362及びM434と称する。M362及びM434の正確な構造は不明であるが、上述のように及び実施例で説明するように、ガスクロマトグラフィー分析を使用して、容易に、再現性よく検出することができる。分析のために化合物はシリル化されている。この化合物がシリル化可能なOH基を3つ有するか、又は2つ有するかによって、その分子量は362g/mol又は434g/molのいずれかとなる。
【0029】
このガスクロマトグラフィーを、M362及びM434の同定のために質量分析と組み合わせ、上述のように行う。
【0030】
化合物M362又は化合物M434は、とりわけ、ガスクロマトグラフィーによって求められる保持時間によって定義される。この保持時間は非常に正確に与えられる。しかしながら、本発明に関して与えられた正確な方法に従った場合であっても、わずかな変動が起こり得ることは当業者に知られている。そのため、シグナルが特定の化合物に明確に起因し得る限り、これらの変動は本発明によって包含される。
【0031】
更に好ましくは、本発明のプロセスは、工程(a)において、化合物M362又は化合物M434が存在する(ここで、化合物M362は、362g/molの分子量を有し、3つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、M434は、434g/molの分子量を有し、2つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、ここで、ガスクロマトグラフィーは、上述のように質量分析と組み合わせる)ことを特徴とする。これは、プロセス工程(a)におけるヒドロキシアセトンの存在により、ヒドロキシアセトンが化合物M362又は化合物M434を形成するため、これらの不純物もプロセス工程(a)に強制的に存在せざるを得ないことを意味する。しかしながら、触媒の失活は観察されなかったため、これらの不純物は少なくとも少量では触媒を被毒しないと考えられる。さらに、工程(b)のフェノール画分をプロセス工程(c)においてリサイクルする場合、これらの不純物はプロセス工程(a)において存在する可能性がある。これらの不純物の蓄積は、好ましくは、上述のようにパージ流を使用することによって回避することができる。
【0032】
本発明のプロセスにおいて使用することができる触媒系は当業者に知られている。触媒系は、好ましくは、酸性イオン交換樹脂である。かかるイオン交換樹脂は、2%~20%、好ましくは3%~10%、最も好ましくは3.5%~5.5%の架橋を有することができる。酸性イオン交換樹脂は、好ましくは、スルホン化スチレンジビニルベンゼン樹脂、スルホン化スチレン樹脂、フェノールホルムアルデヒドスルホン酸樹脂、及びベンゼンホルムアルデヒドスルホン酸からなる群より選択することができる。さらに、イオン交換樹脂は、スルホン酸基を含有することができる。触媒床は、固定床又は流動床のいずれかとすることができる。
【0033】
さらに、本発明の触媒系は、硫黄含有助触媒を含み、硫黄含有助触媒の少なくとも一部がイオン交換樹脂触媒と化学的に結合していない。硫黄含有助触媒は、1つの物質又は少なくとも2つの物質の混合物とすることができる。この助触媒は、プロセス工程(a)の反応溶液に溶解させることが好ましい。助触媒は、プロセス工程(a)の反応溶液に均一に溶解させることが更に好ましい。本発明のプロセスは、硫黄含有助触媒が、メルカプトプロピオン酸、硫化水素、エチルスルフィド等のアルキルスルフィド、及びこれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とすることが好ましい。最も好ましくは、硫黄含有助触媒は3-メルカプトプロピオン酸である。
【0034】
本発明の触媒系は、硫黄含有助触媒を含み、硫黄含有助触媒の全てが、イオン交換樹脂触媒と化学的に結合していないことが好ましい。これは、好ましくは、硫黄含有助触媒の全てをプロセス工程(a)に添加することを意味する。本発明によると、「化学的に結合していない」という表現は、プロセス工程(a)の開始時に、イオン交換樹脂触媒と硫黄含有助触媒との間に共有結合もイオン結合も存在しない触媒系を指す。ただし、これは、硫黄含有助触媒の少なくとも一部が、イオン結合又は共有結合を介して不均一系触媒マトリックスに固定される可能性があることを意味するものではない。いずれにしても、プロセス工程(a)の開始時に、硫黄含有助触媒のそのようなイオン結合又は共有結合は存在せず、それらが仮に形成されるとしても、時間とともに形成されていく。したがって、硫黄含有助触媒をプロセス工程(a)に添加することが好ましい。「添加」という用語は、アクティブなプロセス工程を表す。これは、上述のように、助触媒をプロセス工程(a)の反応溶液に溶解させることが好ましいことを意味する。追加的に、助触媒は、別の任意のプロセス工程で添加してもよく、又はプロセス工程(a)で2回以上添加してもよい。さらに、硫黄含有助触媒の大部分がイオン交換樹脂触媒と化学的に結合していないことが好ましい。これは、硫黄含有助触媒の少なくとも75モル%、更に好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%がイオン交換樹脂触媒と化学的に結合していないことを意味する。ここで、モル%は、プロセス工程(a)において存在する助触媒の合計に関連する。
【0035】
ヒドロキシアセトンは、原料フェノール及び原料アセトンに共通する不純物であるため、工程(a)において存在するヒドロキシアセトンは、原料アセトン及び/又は原料フェノール中の不純物としてプロセス工程(a)に導入されるものであることが好ましい。このような状況ではあるが、ヒドロキシアセトンの少なくとも一部は、別の理由により、プロセス工程(a)において存在し得る。
【0036】
別の態様において、本発明は、
(i)任意の実施の形態又は好ましい実施の形態において、本発明のプロセスによるオルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAを得る工程と、
(ii)ポリカーボネートを得るために、工程(i)において得られたオルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAを、任意で少なくとも1つの更なるモノマーの存在下で重合する工程と、
を含むポリカーボネートを作製するプロセスを提供する。
【0037】
上で説明したように、本発明のオルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAを製造するプロセスは、より経済的及び/又は環境保護的な方法で得ることができるBPAを提供する。したがって、本発明によるプロセスで得られたこのBPAを使用すると、本発明によるポリカーボネートを作製するプロセスも、より経済的及び/又は環境保護的となる。
【0038】
反応工程(ii)は当業者に知られている。ポリカーボネートは、既知の方法で、BPAと、炭酸誘導体と、任意の連鎖停止剤と、任意の分岐剤とから、相間ホスゲン化又は溶融エステル交換によって調製することができる。
【0039】
相間ホスゲン化においては、アルカリ性水溶液と、有機溶媒と、触媒、好ましくはアミン化合物とを含む二相混合物において、ビスフェノール及び任意の分岐剤をアルカリ性水溶液に溶解し、任意で溶媒に溶解させたホスゲン等の炭酸源と反応させる。反応手順は、複数の段階で行うこともできる。ポリカーボネートを作製するかかるプロセスは、例えば、H. Schnell, Chemistry and Physics of Polycarbonates, Polymer Reviews, Vol. 9, Interscience Publishers, New York 1964 page 33 et seq.及びPolymer Reviews, Vol. 10, "Condensation Polymers by Interfacial and Solution Methods", Paul W. Morgan, Interscience Publishers, New York 1965, chapter VIII, page 325において、原理上は界面プロセスとして知られているため、基本的な条件は当業者によく知られている。
【0040】
代替的には、ポリカーボネートは、溶融エステル交換プロセスによって調製することもできる。溶融エステル交換プロセスは、例えば、高分子科学辞典、10巻(1969)、Chemistry and Physics of Polycarbonates, Polymer Reviews, H. Schnell, Vol, 9, John Wiley and Sons, Inc. (1964)、及び独国特許出願公開第1031512号に記載されている。溶融エステル交換プロセスでは、界面プロセスにおいて既に記載された芳香族ジヒドロキシ化合物が、好適な触媒及び任意の更なる添加剤の援助により、溶融物中で炭酸ジエステルによってエステル交換される。
【0041】
好ましくは、本発明によるポリカーボネートを作製するプロセスは、プロセス工程(i)が、工程(a)においてヒドロキシアセトンが存在するために形成された少なくとも1つの不純物の量を低減するために、オルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAを精製する工程を更に含むことを特徴とする。上述のように、本発明のプロセスにおいては、より安価な原料フェノール及び/又は原料アセトンを使用することができる。しかしながら、これらのより安価な原料においてヒドロキシアセトンが不純物として含まれる場合、別の不純物が形成される。これらの不純物は、重合の前に除去することが好ましい。
【0042】
更に好ましくは、本発明によるポリカーボネートを作製するプロセスは、工程(a)においてヒドロキシアセトンが存在するために形成された少なくとも1つの不純物が、オルト,パラ-ビスフェノールA、4-(2,2,4-トリメチル-4-クロマニル)フェノール、2,4,4-トリメチル-2-(4-ヒドロキシフェニル)クロマン、化合物M362、化合物M434、及びこれらの混合物(ここで、化合物M362は、362g/molの分子量を有し、3つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、M434は、434g/molの分子量を有し、2つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、ここで、ガスクロマトグラフィーは、上述のように質量分析と組み合わせる)からなる群より選択されることを特徴とする。
【0043】
本発明の更に別の態様において、オルト,パラ-ビスフェノールA、オルト,オルト-ビスフェノールA、及び/又はパラ,パラ-ビスフェノールAと、化合物M362又は化合物M434と(ここで、化合物M362は、362g/molの分子量を有し、3つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、M434は、434g/molの分子量を有し、2つのOH基を有し、かつ、ガスクロマトグラフィーにおける保持時間が25.37秒の化合物であり、ここで、ガスクロマトグラフィーは、上述のように質量分析と組み合わせる)を含む組成物が提供される。
【0044】
さらに、本発明の組成物は、組成物の総重量に対して、1ppm未満、好ましくは0.00001ppm~0.9ppm、更に好ましくは0.0001ppm~0.5ppm、最も好ましくは0.001ppm~0.1ppmのヒドロキシアセトンを含むことを更に特徴とすることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0045】
実施例で使用した材料は以下の通りである:
【0046】
【0047】
カラム反応器は、150gのフェノール湿式触媒を備えていた(反応器におけるフェノール湿式触媒の量:210ml~230ml)。カラム反応器を60℃に加熱した(反応中の触媒床温度:63℃)。フェノールと、アセトン(3.9重量%)と、MEPA(フェノールとアセトンとの質量の合計に対して160ppm)との混合物を調製し、60℃に加温した。この混合物を45g/時の流速でカラム反応器に圧入した。カラム反応器はサンプリングポイントを下部に有していた。サンプリングポイントの開口部を使用して、反応中に様々な試料を採取した。サンプリング時間は1時間とし、1時間ごとに採取する試料の量は45gとした。
【0048】
初回のラン(run)(標準ラン)を52時間行った。48時間後、49時間後、50時間後、及び51時間後のそれぞれで、試料を採取し、GCで分析した。
【0049】
2回目のラン(不純物ラン)を52時間行った。2回目のランの開始時に、(フェノールとアセトンとの質量の合計に対して)2200ppmのヒドロキシアセトンを反応系に投与した。48時間後、49時間後、50時間後、及び51時間後のそれぞれで、試料を採取し、GCで分析した。その後、アセトンと、フェノールと、MEPAとの新たな混合物を使用して、3回目のラン(標準ラン)を52時間行った。48時間後、49時間後、50時間後、及び51時間後のそれぞれで、シリンジを介して試料を採取し、GCで分析した。次いで、4回目のラン(不純物ラン)を52時間行った。4回目のランの開始時に、(フェノールとアセトンとの質量の合計に対して)2200ppmのヒドロキシアセトンを反応系に投与した。48時間後、49時間後、50時間後、及び51時間後のそれぞれで、試料を採取し、GCで分析した。最後に、5回目のラン(標準ラン)を52時間行った。48時間後、49時間後、50時間後、及び51時間後のそれぞれで、試料を採取し、GCで分析した。
【0050】
メタノールのガスクロマトグラフィー(GC)は、50m×0.25mm×0.25μmのサイズのAgilent J&W VF-1MSカラム(100%ジメチルポリシロキサン)を使用して、60℃で0.10分間保持し、12℃/分で320℃まで加熱し、この温度で10.00分間保持する温度プロファイルを用いて、300℃で、10/1のスプリットで1μlの試料を注入して行った。ここで、流量は18.3psi(1.26bar)の初期圧力で2ml/分である。
【0051】
ヒドロキシアセトン、フェノール、パラ,パラ-BPAのガスクロマトグラフィー(GC)は、50m×0.25mm×0.25μmのサイズのAgilent J&W VF-1MSカラム(100%ジメチルポリシロキサン)を使用して、80℃で0.10分間保持し、12℃/分で320℃まで加熱し、この温度で10.00分間保持する温度プロファイルを用いて、300℃で、10/1のスプリットで1μlの試料を注入して行った。ここで、流量は18.3psi(1.26bar)の初期圧力で2ml/分である。
【0052】
M362/M434の同定のために質量分析(MS)と組み合わせたガスクロマトグラフィー(GC)は、25m×0.2mm×0.33μmのサイズのAgilent J&W VF-1MSカラム(100%ジメチルポリシロキサン)を使用して、80℃で0.10分間保持し、10℃/分で280℃まで加熱し、この温度で10.00分間保持する温度プロファイルを用いて、250℃で、10/1のスプリットで1μlの試料を注入して行う。ここで、流量は24.45psi(1.685768bar)の初期圧力で1ml/分であり、質量分析計ではmz35~mz700をスキャンする。
【0053】
標準ランは、触媒及び助触媒の存在下での、アセトンとフェノールとのBPAを形成する反応を表している。標準ランから、各エラーバーを含めたアセトン変換率を推定することができる。この変換率は、不純物が触媒の失活に影響するかどうかを評価するためのベースラインを表すものであった。3回目及び5回目の標準ランにおけるアセトン変換率を、初回の標準ランの値と比較して、触媒に対するヒドロキシアセトンの効果を求めた。アセトン変換率がこの変換率より低い場合、ヒドロキシアセトンがBPA触媒に影響することが示される。この種の評価が触媒被毒の決定に使用することができることを示すために、不純物としてメタノールを使用して参照ランを行った。メタノールは、例えば米国特許第8,143,456号に記載されているが、BPAプロセスにおける触媒に対する既知の被毒物質であることが現行の技術水準から知られている。それぞれ得られた結果を表1に示す。表に示す値は、各ランの際(48時間後、49時間後、50時間後、及び51時間後)に採取した4つの試料から得られた平均値である。
【0054】
【0055】
表1から明確に分かるように、初回、3回目、及び5回目の各標準ランにおいて、アセトン変換率が低下した。これは、触媒がメタノールによって被毒され、触媒活性を低下させる不可逆反応のために変換率を回復することができないことを意味する。
【0056】
以下の表に、不純物としてのヒドロキシアセトンに対する初回のラン(標準ラン)、2回目のラン(不純物ラン)、3回目のラン(標準ラン)、4回目のラン(不純物ラン)、及び5回目のラン(標準ラン)の結果を示す。表に示す値は、各ランの際(48時間後、49時間後、50時間後、及び51時間後)に採取した4つの試料から得られた平均値である。
【0057】
【0058】
表2の結果から分かるように、フェノールとアセトンとのパラ,パラ-BPAへの反応におけるヒドロキシアセトンの添加は、初回、3回目、及び5回目の標準ランにおけるアセトン変換率の低下を引き起こさない。これは、使用した触媒系にとって、ヒドロキシアセトンが被毒物質ではないことを意味する。この効果は、各不純物ラン後に分かる。さらに、不純物ランの際に、ほぼ全てのヒドロキシアセトンが反応することが分かる(ヒドロキシアセトン OUTを検出することができない)。
【国際調査報告】