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特表2022-546061ショック症治療のための治療法の誘導および/または治療法の監視
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-02
(54)【発明の名称】ショック症治療のための治療法の誘導および/または治療法の監視
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20221026BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221026BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221026BHJP
   A61P 9/02 20060101ALI20221026BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20221026BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C12Q1/37 ZNA
A61K45/00
A61K38/22
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P9/00
A61P9/02
G01N33/68
G01N33/573 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513298
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(85)【翻訳文提出日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2020074134
(87)【国際公開番号】W WO2021038078
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】19194729.0
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19201098.1
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518370644
【氏名又は名称】4ティーン4 ファーマシューティカルズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ベルクマン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA20
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ36
4B063QR16
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS36
4B063QX01
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA17
4C084BA23
4C084CA18
4C084DB01
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZA43
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085EE01
(57)【要約】
本発明の主題は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であり、該方法は、
・前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度を測定する工程;および
・前記測定されたDPP 3の濃度を所定の閾値と比較する工程を含み、
前記対象は、前記DPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に難治性ショック症に陥っている、または発症していると予知される。
さらに主題は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはそれらの前駆体、DPP 3活性の阻害剤、および抗ADM抗体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、前記方法は
・前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度を測定する工程
・前記測定されたDPP 3の濃度を所定の閾値と比較する工程を含み、
ここで前記対象は、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に、難治性ショック症に陥っていると予知される、または難治性ショック症を患っていると診断される、方法。
【請求項2】
前記ショック症は、循環血液量減少性ショック症、心原性ショック症、血管閉塞性ショック症、および血液分布異常性ショック症、特に心原性ショック症または敗血症性ショック症を含む群から選択される、請求項1に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法。
【請求項3】
前記ショック症は昇圧剤耐性ショック症である、請求項1または2に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法。
【請求項4】
・心原性ショック症の場合には、前記対象は、急性冠状動脈症候群(例えば急性心筋梗塞)を患いうる、若しくは前記対象は、心不全(例えば急性非代償性心不全)、心筋炎、不整脈、心筋症、心臓弁膜症、急性大動脈弁狭窄を伴う大動脈解離、外傷性腱索断裂、若しくは広範型肺塞栓症を患っている、または、
・循環血液量減少性ショック症の場合には、前記対象は、胃腸出血、外傷、血管病因(例えば、腹部大動脈瘤の破裂、主要血管への腫瘍の侵食)、および抗凝血剤の使用環境での自発出血を含む出血性疾患、若しくは嘔吐、下痢、腎性喪失、皮膚喪失/無自覚の損傷(例えば火傷、熱射病)、若しくは膵炎、肝硬変、腸閉塞、外傷の環境でのサードスペースの損失を含む非出血性疾患を患いうる、または、
・血管閉塞性ショック症の場合には、患者は、心タンポナーデ、緊張性気胸症、肺塞栓症、若しくは大動脈弁狭窄症を患いうる、または、
・血液分布異常性ショック症の場合には、患者は、敗血症性ショック症、神経原性ショック症、アナフィラキシーショック症、若しくは副腎クリーゼによるショック症を患いうる、
請求項1~3に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法。
【請求項5】
前記方法は、治療の開始および/または終了および/または層別化および/または誘導に使用される、請求項1~4に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法。
【請求項6】
治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に開始および/または維持および/または保留および/または終了する、請求項1~5のいずれか一項に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法。
【請求項7】
前記治療は、昇圧剤、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体、DPP 3活性の阻害剤、および抗アドレノメデュリン抗体または抗アドレノメデュリン抗体断片の群から選択される、請求項6に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法。
【請求項8】
DPP 3タンパク質の濃度および/または活性DPP 3の濃度のいずれかを測定して所定の閾値と比較し、前記DPP 3の濃度を、DPP 3に特異的に結合する捕捉結合剤と前記体液試料とを接触させて測定する、請求項1~7のいずれか一項に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法。
【請求項9】
アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/若しくはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/若しくは継続し、並びに/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/若しくは終了する、請求項1~8のいずれか一項に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法。
【請求項10】
昇圧剤による治療を、前記試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/若しくは継続し、並びに/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/若しくはその前駆体および/若しくはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/若しくは終了する、請求項1~9に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法。
【請求項11】
さらにプロアドレノメデュリン若しくはその断片の濃度を測定し、抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリン若しくはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/若しくは継続し、並びに/または抗ADM抗体若しくは抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリン若しくはその断片の濃度が所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する、請求項9に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法。
【請求項12】
抗ADM抗体若しくは抗ADM抗体断片および/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超え、かつ前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定のDPP 3の閾値を超える場合に開始および/または継続する、請求項9に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法。
【請求項13】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤であって、前記対象は、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって測定される場合に、所定の閾値を下回るDPP 3の濃度を前記対象の体液試料中に有する、昇圧剤。
【請求項14】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、ここで前記対象は、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって測定される場合に、所定の閾値を超えるDPP3濃度を前記対象の体液試料中に有し、ここで前記DPP 3活性の阻害剤は抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片または抗DPP 3非Ig足場を含む群から選択される、阻害剤。
【請求項15】
前記阻害剤は、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体と組み合わせて投与される、請求項14に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤。
【請求項16】
前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体は、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、アンジオテンシンIII、アンジオテンシンIVを含む群から選択され、特にアンジオテンシンIIである、請求項15に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤。
【請求項17】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、前記方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、ここで前記対象は、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって測定される場合に、所定の閾値を下回るDPP 3の濃度を前記対象の体液試料中に有する、方法。
【請求項18】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、前記方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、ここで前記対象は、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって測定される場合に、所定の閾値を超えるDPP 3の濃度を前記対象の体液試料中に有する、方法。
【請求項19】
前記方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、ここで前記阻害剤は、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体と組み合わせにおいて投与される、請求項18に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法。
【請求項20】
前記方法は、前記対象にアンジオテンシン受容体作動薬および/若しくはその前駆体および/若しくはDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、ここで前記アンジオテンシン受容体作動薬および/若しくはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記対象の試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/若しくは継続し、並びに/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/若しくは終了する、請求項17~18に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法。
【請求項21】
前記方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記昇圧剤による治療を、前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/若しくは継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/若しくはその前駆体および/若しくはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/若しくは終了する、請求項17~18に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法。
【請求項22】
前記方法は、前記対象にアンジオテンシン受容体作動薬および/若しくはその前駆体および/若しくはDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/若しくは継続し、並びに/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/若しくは終了する、請求19に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法。
【請求項23】
前記方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/若しくは継続し、並びに/または抗ADM抗体若しくは抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリン若しくはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/若しくは終了する、請求20に記載のショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法。
【請求項24】
前記方法は、前記対象に抗ADM抗体または抗ADM抗体断片を投与することを含み、さらにプロアドレノメデュリン若しくはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体若しくは抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリン若しくはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/若しくは継続し、並びに/または抗ADM抗体若しくは抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリン若しくはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/若しくは終了する、請求項21および22に記載のショック症に陥った対象若しくはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法。
【請求項25】
難治性ショック症を発症した対象での有害事象の結果および/またはリスクを予後判定する方法であって、
・前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度を測定する工程;
・前記測定されたDPP 3の濃度を所定の閾値と比較する工程、
・前記DPP 3の濃度を、前記対象での前記有害事象のリスクと関連付ける工程であって、特定の閾値を超える濃度上昇は、前記有害事象のリスクの増大を予知する工程、
・前記DPP 3の濃度を、前記対象での治療または介入の成功と関連付ける工程であって、特定の閾値を下回る濃度は、治療または介入の成功を予知する工程、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性のショック症を予知または診断する方法、およびショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に用いる血圧昇圧剤、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体、DPP 3の阻害剤、および抗ADM抗体、ならびに前記ショック症または難治性ショック症を治療する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
ジペプチジルペプチダーゼ3は、ジペプチジルアミノペプチダーゼIII、ジペプチジルアリールアミダーゼIII、ジペプチジルペプチダーゼIII、エンケファリナーゼB、または赤血球アンジオテンシナーゼ(略称:DPP3、DPP III)としても知られているが、エンケファリンやアンジオテンシンなどの生理活性ペプチドからジペプチドを除去するメタロペプチダーゼである。
【0003】
DPP3は、1967年にEllis & Nuenkeによって精製されたウシ下垂体前葉の抽出物中で最初に同定され、その活性が測定された。EC 3.4.14.4として記載されているこの酵素は、約83kDaの分子量を持ち、原核生物および真核生物中に高濃度に保持されている(Prajapati & Chauhan 2011)。ヒト変異体のアミノ酸配列は、配列番号1に示されている。ジペプチジルペプチダーゼIIIは、広範に発現される主に細胞質ゾルのペプチダーゼである。シグナル配列は欠如しているが、いくつかの研究では膜における活性が報告されている(Lee & Snyder 1982)。
【0004】
DPP3は、ペプチダーゼファミリーM49に属する亜鉛依存性エキソペプチダーゼである。これは、種々の組成の3または4~10個のアミノ酸のオリゴペプチドに対して広範な基質特異性を有し、かつプロリンの後で切断できる。DPP3は、アンジオテンシンII、III、及びIV;ロイシン-およびメチオニン-エンケファリン;エンドモルフィン1および2などのその基質のN末端からジペプチドを加水分解することが知られている。メタロペプチダーゼDPP3は、8.0~9.0のpHで最適な活性を持ち、Co2+やMg2+などの2価の金属イオンの添加によって活性化できる。
【0005】
DPP3の構造分析によると、触媒モチーフHELLGH(hDPP3 450~455)およびEECRAE(hDPP3 507~512)、ならびに基質結合および加水分解に重要な以下のアミノ酸が明らかになっている:Glu316、Tyr318、Asp366、Asn391、Asn394、His568、Arg572、Arg577、Lys666、およびArg669(Prajapati & Chauhan 2011; Kumar et al. 2016;番号はヒトDPP3の配列を指す。配列番号1を参照)。基質の結合と加水分解に関与する全ての既知のアミノ酸または配列領域を考慮すると、ヒトDPP3の活性部位を、アミノ酸316と669との間の領域と決定することができる。
【0006】
DPP3の最も顕著な基質は、レニン-アンジオテンシン系(RAS)の主なエフェクターであるアンジオテンシンII(Ang II)である。RASは、心血管疾患(Dostal et al. 1997. J Mol Cell Cardiol;29:2893-902; Roks et al. 1997. Heart Vessels. Suppl 12:119-24)、敗血症、および敗血症性ショック症(Correa et al. 2015. Crit Care 2015;19:98)で作動する。特にAng IIは、血圧の制御および心臓の修復を含む多くの心血管機能を調節することが分かっている。
【0007】
細胞生理学でのDPP3の正確な生物学的機能は解明されていないが、最新の知見では、タンパク質代謝だけでなく、疼痛調節や炎症過程でのその役割が示されている(Prajapati & Chauhan 2011)。さらにDPP3は、心拍数を変えることなくAng IIを注入した高血圧のマウスの血圧を低下させた(PAng et al. 2016)。但し正常血圧のマウスは、DPP3を注射しても血圧の変化は無かった。
【0008】
Ang IIを注入したマウスにおけるアンジオテンシン受容体拮抗薬とともにDPP3の投与による血圧低下は、DPP3単独での注射またはアンジオテンシン受容体拮抗薬単独での注射による血圧低下に類似していた(Pang et al. 2016. Hypertension 68:630-41)。
【0009】
アンジオテンシンII(Ang II)は、血管収縮およびナトリウムの再吸収を介して血圧を調節する、体内で自然に産生されるペプチドホルモンである。Ang II投与の血行動態的な効果は、多くの臨床研究における対象となっていて、全身の血流かつ腎臓の血流に顕著な効果があることを示している(Harrison-Bernard 2009. Adv. Physiol Edu. 33(4): 270)。
【0010】
Ang IIによる治療は、血管拡張性ショック症および敗血症性ショック症でのその有益な効果について現在検討されている(Khanna, A. et al., 2017; Antonucci, E. et al. 2017, Tumlin, J.A. et al. 2018)。アンジオテンシンIIにより治療された(敗血症性ショック症の内の80%である)血管拡張性ショック症の患者は、28日間に亘って生存できる可能性が高く、低血圧の顕著な改善が示されている(Khanna, A. et al., 2017; Tumlin, J.A. et al. 2018)。
【0011】
アンジオテンシン変換酵素(ACE)は、ショック症の患者で顕著に調節不全となってアンジオテンシンI/II比の変化を引き起こし、アンジオテンシンIIの注入で、そのような調節不全を補いうると想定される(Tumlin, J.A. et al. 2018)。
【0012】
最近、ヒト体液(例えば、血液、血漿、血清)中のDPP3を特異的に検出するために以下の2種の測定法が生み出され、評価され、そして検証されている:DPP3タンパク質濃度を検出する発光免疫測定法(LIA)および特定のDPP3活性を検出する酵素捕捉活性測定法(ECA)(Rehfeld et al. 2019 JALM 3(6):943-953)。これらの両方の方法の洗浄工程では、DPP3タンパク質または活性の実際の検出が行われる前に全ての干渉物質を除去する。どちらの方法も非常に特異的であり、そして血液試料中のDPP3の再現性のある検出が可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に用いる昇圧剤、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体、DPP3の阻害剤、および抗ADM抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の主題は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であり、該方法は、
・前記対象の体液試料中のDPP3の濃度を測定する工程;
・前記測定されたDPP3の濃度を所定の閾値と比較する工程を含み、
前記測定されたDPP3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に、前記対象は難治性ショック症に陥っていると予知される、または難治性ショック症を患っていると診断される。
【0016】
本発明の主題は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であり、該方法は、
・前記対象の体液試料中のDPP3の濃度を測定する工程、そして
・前記測定されたDPP3の濃度を所定の閾値と比較する工程、そして
・前記対象の体液試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定する工程、そして
・前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を所定の閾値と比較する工程を含み、
前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度および/または前記DPP3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に、前記対象は難治性ショック症に陥っていると予知される、または難治性ショック症を患っていると診断される。
【0017】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の特定の実施態様では、前記ショック症は、循環血液量減少性ショック症、心原性ショック症、血管閉塞性ショック症、および血液分布異常性ショック症を含む群から選択される。
【0018】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の別の特定の実施態様では、前記ショック症は、循環血液量減少性ショック症、心原性ショック症、血管閉塞性ショック症、および血液分布異常性ショック症を含む群から選択され、特に心原性または敗血症性ショック症である。
【0019】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の特定の実施態様では、前記ショック症は、心原性ショック症、循環血液量減少性ショック症、血管閉塞性ショック症、および血液分布異常性ショック症を含む群から選択され、
・心原性ショック症の場合には、前記対象は、急性冠状動脈症候群(例えば急性心筋梗塞)または心不全(例えば急性非代償性心不全)、心筋炎、不整脈、心筋症、心臓弁膜症、急性大動脈弁狭窄を伴う大動脈解離、外傷性腱索断裂、または広範型肺塞栓症を患っている、または
・循環血液量減少性ショック症の場合には、前記対象は、胃腸出血、外傷、血管病因(例えば、腹部大動脈瘤の破裂、主要血管への腫瘍の侵食)、および抗凝血剤の使用環境での自発出血を含む出血性疾患、または嘔吐、下痢、腎不全、腎性喪失、皮膚喪失/不感損失(例えば火傷、熱射病)、または膵炎、肝硬変、腸閉塞、外傷の環境でのサードスペースの損失を含む非出血性疾患を患っている可能性がある、または
・血管閉塞性ショック症の場合には、患者は、心タンポナーデ、緊張性気胸症、肺塞栓症、または大動脈弁狭窄症を患っている可能性がある、または
・血液分布異常性ショック症の場合には、患者は、敗血症性ショック症、神経原性ショック症、アナフィラキシーショック症、または副腎クリーゼによるショック症を患っている。
【0020】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の別の実施態様では、該方法は、治療の開始および/または終了および/または層別化および/または誘導に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】低DPP 3濃度(40.5 ng/mL未満)および高DPP 3濃度(40.5 ng/mL以上)に関連するカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)生存率であり、(A)DPP 3血漿濃度に対する敗血症患者の7日間の生存率;(B)DPP 3血漿濃度に対する心原性ショック症患者の7日間の生存率;(C)DPP 3血漿濃度に対する敗血症性ショック症患者の7日間の生存率を示す。
【0022】
図2】ヒト赤血球溶解物から精製された天然hDPP 3の勾配ゲル(4~20%)でのSDS-PAGEである。分子量マーカーを矢印で示す。
【0023】
図3】動物モデルにおける天然DPP 3の影響に関する実験条件である。
【0024】
図4図4(A)はDPP 3注射が収縮率の低下を引き起こし、それにより心機能を悪化させることを示し、図4(B)は、さらに腎機能の低下が腎抵抗指数の上昇により観察されることを示す。
【0025】
図5】Octetを用いるAK1967-DPP 3結合分析での会合および解離曲線を示す。AK1967を負荷したバイオセンサーを、組換えGSTタグ付きヒトDPP 3の希釈系列(100、33.3、11.1、3.7 nM)中に浸して、会合および解離を測定した。
【0026】
図6】血液細胞溶解物の希釈液のウエスタンブロット、および一次抗体としてAK1967を用いたDPP 3の検出を示す。
【0027】
図7】阻害性抗体であるAK1967による血液細胞からの天然DPP 3の阻害曲線である。特定の抗体によるDPP 3の阻害は濃度依存であり、15 ng/mLのDPP 3に対して解析した場合のIC50は約15 ng/mLであることを示す。
【0028】
図8】敗血症誘発性の心不全でのプロシズマブの効果に関する実験条件である。
【0029】
図9】プロシズマブが敗血症誘発性の心不全ラットで(A)収縮率および(B)死亡率を劇的に改善することを示す。
【0030】
図10】マウスへのイソプロテレノール誘発性の心臓ストレスの付与、その後の(B)プロシズマブによる治療、および(A)対照の実験条件を示す。
【0031】
図11】イソプロテレノール誘発性の心不全マウスで、プロシズマブの投与後1時間以内およおび6時間以内にそれぞれ、(A)収縮率が改善したこと、かつ(B)腎抵抗指数が低下したことを示す。
【0032】
図12図12(A)(左図)は、DPP 3血漿濃度に対する敗血症性ショック症患者での昇圧剤による治療を必要とする日数を示す。≧7は7日以上の昇圧剤治療または7日以内の死亡;*は1~4日の群に対する事後比較でp<0.05であることを示す。図12(B)(右図)は、DPP 3血漿濃度に対する敗血症性ショック症患者での昇圧剤による治療の必要性を示す。最大5日間(≦5)の昇圧剤治療を受けた患者、および5日より長い昇圧剤治療を受けた患者または7日以内に死亡した患者(>5)を同時に群化した。
【0033】
図13】DPP 3が難治性ショック症に関連することを示す。心原性ショック症患者の高DPP 3血漿濃度は、DPP 3血漿濃度が特定の閾値を下回る患者に比較して、難治性心原性ショック症の高発症リスクに関連することが示される。
【0034】
図14】カプラン・マイヤー生存率であり、(A)bio-ADM血漿濃度に関連する敗血症性ショック症患者の4週間に亘る生存率;(B)DPP 3血漿濃度に関連する敗血症性ショック症患者の4週間に亘る生存率;および(C)bio-ADMおよびDPP 3血漿濃度に関連する敗血症性ショック症患者の4週間に亘る生存率を示す。それぞれの血漿濃度値は四分位に群化されていて、閾値は、それぞれのマーカーの測定血漿濃度の第3四分位に基づいて決定され、低DPP 3は48.4 ng/mL未満;低bio-ADMは213 pg/mL未満;高bio-ADMは213 pg/mL以上;高DPP 3は48.4 ng/mL以上である。
【0035】
図15】入院時のDPP 3およびbio-ADM血漿濃度に従って群化された、昇圧剤を必要とする患者を示す。1~7日間に亘って昇圧剤を投与される患者の比率が白黒諧調で示され、明るい色はより長い治療期間を表す。閾値は、両方の血漿濃度に対してQ3(測定値の最高25%)に基づいて割り当てられ、低DPP 3は48.4 ng/mL未満;低bio-ADMは213 pg/mL未満;高bio-ADMは213 pg/mL以上;高DPP 3は48.4ng/mL以上であり、かつ7は昇圧剤の7日以上の投与または7日以内の死亡を示す。
【0036】
図16図16(A)は、0.5 μg/kg/分以下(n=186)および0.5 μg/kg/分を超える(n=95)昇圧剤であるノルアドレナリンを必要とする敗血症性の難治性ショック症の患者の血漿DPP 3濃度を示す(p<0.001)。図16(B)は、カプラン・マイヤー生存率であり、DPP 3血漿濃度に対する敗血症性の難治性ショック症患者の4週間に亘る生存率を示し、血漿濃度値は四分位に群化されている。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書で使用される用語「治療法の誘導」または「治療の誘導」は、1種以上のバイオマーカーおよび/または臨床パラメータおよび/または臨床スコアの数値に基づく特定の治療法または医学的介入の応用を意味する。
【0038】
本発明の環境での用語「治療法の監視」は、例えば、治療の有効性に関するフィードバックを取得することによって、前記患者の治療を監視および/または調節することを意味する。
【0039】
用語「治療の層別化」は、特に患者を群化すなわち種々の群に分類することを指し、例えばこれらの群は、分類に応じて治療手段を受けるまたは受けない治療群である。
【0040】
用語「予知」は、結果の見込みを検体の測定で得られた結果と関連付けることを意味する。この例としては、試料中のDPP3などの特定のマーカーの測定であり、その測定濃度を、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象が難治性ショック症を発症する確率と関連付ける。
【0041】
本発明はまた、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を短期に予知する方法を含み、ここで短期とは、14日以内、好ましくは7日以内、より好ましくは3日以内、最も好ましくは48時間以内を指す。
【0042】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の別の実施態様では、前記治療を、前記測定されたDPP3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に、開始および/または維持および/または保留および/または終了する。
【0043】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の別の実施態様では、前記治療を、前記測定されたDPP3および/またはプロアドレノメデュリンおよび/またはその断片の濃度が前記所定の閾値を超える場合に、開始および/または維持および/または保留および/または終了する。
【0044】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の好ましい実施態様では、前記治療は、昇圧剤、アンジオテンシン受容体作動薬またはその前駆体、および/またはDPP3活性の阻害剤の群から選択される。
【0045】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の別の好ましい実施態様では、前記治療は、昇圧剤、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体、DPP3活性の阻害剤および抗アドレノメデュリン抗体または抗アドレノメデュリン抗体断片の群から選択される。
【0046】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の別の実施態様では、DPP3タンパク質の濃度および/または活性DPP 3の濃度のいずれかを測定して、所定の閾値と比較する。
【0047】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の別の実施態様では、DPP3の濃度を、体液の前記試料をDPP3に特異的に結合する捕捉結合剤と接触させて測定する。
【0048】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の別の好ましい実施態様では、DPP3の濃度を測定するための前記捕捉結合剤は、抗体、抗体断片、または非IgG足場から選択されてもよい。
【0049】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の特定の実施態様では、前記捕捉結合剤は抗体である。
【0050】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の別の特定の実施態様では、前記捕捉結合剤はモノクローナル抗体である。
【0051】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の別の実施態様では、体液の前記試料は、全血、血漿、および血清の群から選択される。
【0052】
ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する該方法の特定の実施態様では、診断または予知する該方法は、少なくとも2回実行される。
【0053】
ショック症は、酸素送達の減少および/または酸素消費の増加または不十分な酸素利用が細胞および組織での低酸素症に繋がることを特徴とする。このショック症は、循環不全で生命を脅かす状態であり、最も一般的には低血圧(90 mm Hg未満の収縮期血圧、または65 mm Hg未満のMAP;平均動脈圧)として現れる。ショック症は、根本的な原因に基づいて4種の主要な形態に区分できる:循環血液量減少性、心原性、血管閉塞性、および血液分布不均衡性の各ショック症(Vincent and De Backer 2014. N. Engl. J. Med. 370(6): 583)。
【0054】
循環血液量減少性ショック症は、血管内容量の減少を特徴とし、大きくは出血性と非出血性の2種の部分型に区分できる。出血性の循環血液量減少性ショック症の一般的な原因には、胃腸出血、外傷、血管病因(例えば、腹部大動脈瘤の破裂、主要血管への腫瘍の侵食)、および抗凝血剤の使用環境での自発出血が挙げられる。非出血性の循環血液量減少性ショック症の一般的な原因には、嘔吐、下痢、腎不全、腎性喪失、皮膚喪失/不感損失(例えば火傷、熱射病)、または膵炎、肝硬変、腸閉塞、外傷の環境でのサードスペースの損失が挙げられる。総説として、Koya and Paul 2018. Shock. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2019-2018 Oct 27を参照。
【0055】
心原性ショック症(CS)は、心拍出量の低下による重大な臓器内の血流低下の状態として定義される。特にCSは、軽度の血流低下から重度のショック症までの範囲で形成される。CSの診断のための確立された基準は以下のとおりである:(i)30分より長くに亘り収縮期血圧が90 mmHg以下、または90 mmHg以上の血圧に到達するために昇圧剤が必要;(ii)肺うっ血または左心室の充満圧の上昇;(iii)以下の基準のうちの少なくとも1つを伴う臓器灌流障害の兆候:(a)精神状態の変化;(b)冷たく湿った肌;(c)乏尿(0.5 mL/kg/時未満または30mL/時未満);(d)血清中乳酸の増加(Reynolds and Hochman 2008. Circulation 117: 686-697)。急性心筋梗塞(AMI)とそれに続く心室機能障害は、症例の約80%を占めるCSの最も頻繁な原因である。心室中隔破裂(4%)または自由壁破裂(2%)および急性の重度の僧帽弁逆流(7%)などの力学的合併症は、AMI後のCSの原因としてはそれ程頻繁ではない(Hochman et al. 2000. J Am Coll Cardiol 36: 1063-1070)。AMIに関連しないCSは、不均質な治療の選択肢による代償不全の心臓弁膜症、急性心筋炎、不整脈などによって引き起こされる可能性がある。このCSには、米国では年間4万~5万人の患者、欧州では6万~7万人の患者が相当している。主に早期の血行再建術による治療の進歩およびその後の死亡率の低下にもかかわらず、CSは依然としてAMIでの主要な死因であり、最近の戸籍調査や無作為調査によると、死亡率は依然として40~50%に迫っている(Goldberg et al. 2009. Circulation 119: 1211-1219)。
【0056】
血管閉塞性ショック症は、大血管または心臓自体の物理的閉塞によるものである。いくつかの症状によりこの形態のショック症が引き起こされる可能性がある(例えば、心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症、大動脈弁狭窄症)。総説として、Koya and Paul 2018. Shock. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2019-2018 Oct 27を参照。
【0057】
原因に従えば、血液分布異常性ショック症には以下の4種が存在する:神経原性ショック症(交感神経刺激の低下による血管緊張の低下);アナフィラキシーショック症;敗血症性ショック症;および副腎不全によるショック症。敗血症に加えて、膵炎、火傷、または外傷などの感染以外の病状による全身性炎症反応症候群(SIRS)によって血液分布異常性ショック症が引き起こされる可能性がある。その他の原因として、毒性ショック症候群(TSS)、アナフィラキシー(突然の重度のアレルギー反応)、副腎機能不全(慢性副腎機能不全の急激な悪化、副腎の破壊または切除、外因性ステロイドによる副腎機能の抑制、下垂体機能低下症、およびホルモン産生の代謝障害)、薬物または毒素への反応、重金属中毒、肝機能不全、および中枢神経系への損傷が挙げられる。総説として、Koya and Paul 2018. Shock. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2019-2018 Oct 27を参照。
【0058】
一般に難治性ショック症には、適度の蘇生術以外にも1分間当たり0.5 μg/kgを超えるノルアドレナリンの注入が必要要件として規定されてきた。これらの患者の死亡率は94%の高率にもなる可能性があり、そしてこれらの患者の評価と管理には、生存のためには遥かに積極的な手法が必要とされる。用語「難治性ショック症」は、初期の是正措置(例えば昇圧剤)を使用しても組織への灌流を回復できない場合に用いられ、それにより「高昇圧剤依存性」または「昇圧剤耐性」ショック症と呼ばれる場合もある(Udupa and Shetty 2018. Indian J Respir Care 7: 67-72)。難治性ショック症の患者は、低血圧(平均動脈血圧が65 mmHg未満)、頻脈、末梢部の冷え、毛細血管再充填時間の遅延、そして低酸素症及びアシドーシスに起因する頻呼吸などの不十分な灌流の特徴を有しうる。敗血症性ショック症では発熱が見られる場合がある。また、感覚異常、高乳酸血症、及び乏尿などの他の低灌流の兆候も見られる場合がある。これらの周知のショック症の症候は、問題がポンプ(心臓)か回路(血管や組織)のいずれにあるのかを特定するのには役立たない。高用量の昇圧剤に対する非応答性から明らかなように、様々な種類のショック症が共存する可能性があり、あらゆる形態のショック症が難治性となる可能性がある(Udupa and Shetty 2018. Indian J Respir Care 7: 67-72)。
【0059】
本発明の特定の実施態様では、前記難治性ショック症は、昇圧剤耐性であり、それは、高用量昇圧剤(例えば、0.5 μg/kg/分を超えるノルアドレナリン)に対する患者の非応答性によって規定する。
【0060】
対象が昇圧剤耐性の難治性ショック症に陥っている、または昇圧剤耐性の難治性ショック症と診断されるとの診断または予知の結果として、アンジオテンシンII阻害剤および/またはDPP3阻害剤の投与などの治療を実施する場合がある。さらに別の結果として、昇圧剤を保留する場合がある。
【0061】
ショック症に陥っている可能性のある対象の難治性ショック症、特に昇圧剤耐性ショック症を予知する該方法の好ましい実施態様では、前記対象が難治性ショック症、特に昇圧剤耐性ショック症に陥っているか否かを、試料が採取された時点から14日以内、特に10日以内、特に7日以内、特に5日以内、特に48時間以内、特に24時間以内、特に24~48時間の間に予知する。
【0062】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法に関し、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のDPP3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/または終了する。
【0063】
本発明の別の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法に関し、昇圧剤による治療を、前記試料中のDPP3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
【0064】
本発明のさらなる実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法に関し、昇圧剤による治療を、前記試料中のDPP3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP3の濃度が前記特定の閾値を下回る場合に保留および/または終了し、かつプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
【0065】
本発明のさらなる実施態様は、本発明に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法に関し、
・前記対象は、(心原性ショック症の場合に)急性冠動脈症候群(例えば急性心筋梗塞)を患っている可能性がある、または前記対象は、心不全(例えば急性非代償性心不全)、心筋炎、不整脈、心筋症、心臓弁膜病、急性大動脈弁狭窄症を伴う大動脈解離、外傷性腱索断裂、または広範型肺塞栓症を患っている、または
・前記対象は、(循環血液量減少性ショック症の場合に)胃腸出血、外傷、血管病因(例えば、腹部大動脈瘤の破裂、主要血管への腫瘍の侵食)および抗凝血剤の使用環境での自発出血を含む出血性疾患、または嘔吐、下痢、腎不全、腎性喪失、皮膚喪失/不感損失(例えば火傷、熱射病)、または膵炎、肝硬変、腸閉塞、外傷の環境でのサードスペースの損失を含む非出血性疾患を患っている可能性がある、または
・前記対象は、(血管閉塞性ショック症の場合に)心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症、または大動脈弁狭窄症を患っている可能性がある、または
・前記対象は、(血液分布異常性ショック症の場合に)敗血症性ショック症、神経原性ショック症、アナフィラキシーショック症、または副腎不全によるショック症を患っている可能性がある。
【0066】
本発明のさらなる実施態様は、本発明に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法に関し、該方法は、治療の開始および/または終了および/または層別化および/または誘導に用いられる。
【0067】
本発明のさらなる実施態様は、本発明に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法に関し、前記測定されたDPP3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に、治療を開始および/または維持および/または保留および/または終了する。
【0068】
本発明の主題は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予防または治療する方法で使用するための昇圧剤、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはそれらの前駆体、DPP3活性の阻害剤、および/または抗アドレノメデュリン抗体または抗アドレノメデュリン抗体断片であり、前記難治性ショック症の前記予知および/または診断は、本発明によるショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法によって決定される。前述の方法の一実施態様では、DPP3タンパク質の濃度および/または活性DPP3の濃度のいずれかを測定しかつ所定の閾値と比較し、このDPP3の濃度は、体液の前記試料をDPP3に特異的に結合する捕捉結合剤と接触させて測定する。
【0069】
本発明の主題は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予防または治療する方法で使用するためのアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体およびDPP 3活性の阻害剤であり、前記難治性ショック症の前記予知および/または診断は、本発明によるショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法によって決定され、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/または終了する。
【0070】
本発明の主題は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予防または治療する方法で使用するためのアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体およびDPP 3活性の阻害剤であり、前記難治性ショック症の前記予知および/または診断は、本発明によるショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法によって決定され、昇圧剤による治療を、前記試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
【0071】
本発明の主題は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予防または治療する方法で使用するための抗ADM抗体または抗ADM抗体断片であり、前記難治性ショック症の前記予知および/または診断は、本発明によるショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法によって決定され、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
【0072】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法に関し、抗ADM抗体または抗ADM抗体断片および/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超え、かつ前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定のDPP 3の閾値を超える場合に開始および/または継続する。
【0073】
本発明の主題は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予防または治療する方法で使用するための抗ADM抗体または抗ADM抗体断片および/またはDPP 3活性の阻害剤であり、前記難治性ショック症の前記予知および/または診断は、本発明によるショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法によって決定され、抗ADM抗体または抗ADM抗体断片および/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片が特定の閾値を超え、かつ前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定のDPP 3の閾値を超える場合に開始および/または継続する。
【0074】
本発明の特定の実施態様では、血漿DPP 3の閾値は、20~200 ng/mL、好ましくは25~150 ng/mL、さらにより好ましくは30~100 ng/mL、さらにより好ましくは35~75 ng/mLである閾値範囲内にあり、最も好ましくは50 ng/mLの閾値を用いる。
特に前記患者の難治性ショック症は、昇圧剤耐性ショック症である。
【0075】
ペプチドアドレノメデュリン(ADM)は、ヒト褐色細胞腫から単離された、52個のアミノ酸を含む新規の降圧ペプチドとして説明されている(Kitamura et al. 1993. Biochemical and Biophysical Research Communications 192 (2): 553-560)。プレプロアドレノメデュリン(pre-proADM)からの21個のアミノ酸のN末端シグナル配列の切断は、前駆体ペプチドであるプロアドレノメデュリン(pro-ADM)(配列番号31)をもたらす。Pro-ADMはさらにPAMP(配列番号32)、MR-proADM(配列番号33)、ADM-Gly(配列番号35)、およびCT-proADM(配列番号36)に切断される。成熟アドレノメデュリンペプチドは、アミド化ペプチド(ADM-NH2)であり、これは52個のアミノ酸を含み(配列番号34)、かつpre-proADMのアミノ酸95~146を含み、そこからタンパク質分解切断によって生成される。成熟ADM、bio-ADM、およびADM-NH2は本出願の全体を通して同義語として用いられ、配列番号34に従う分子である。
【0076】
本発明の主題の一実施態様では、プロアドレノメデュリンの前記断片は、PAMP(配列番号32)、MR-proADM(配列番号33)、アミド化ADM(配列番号34)、ADM-Gly(配列番号35)、およびCT-proADM(配列番号36)を含む群から選択される。
【0077】
ADMは多機能調節ペプチドと見做してもよい。このADMは、グリシンによって伸長された不活性な形態で部分的に循環器内に放出される(Kitamura et al. 1998. Biochem. Biophys. Res. Commun. 244(2): 551-555)。ADMに特異的であり、かつおそらくADMの効果を同様に調節する結合タンパク質(Pio et al. 2001. The Journal of Biological Chemistry 276(15): 12292-12300)もまた存在する。
【0078】
現時点までの検討ではADMならびにPAMPの最も重要なこれらの生理学的効果は、血圧に及ぼす影響であった。従ってADMは効果的な血管拡張剤となる。循環器およびその他の体液中で測定できるADMの濃度は、多くの病理形態において、健常対照者に見出される濃度を大幅に上回っていることが分かっている。従って、うっ血性心不全、心筋梗塞、腎臓病、高血圧障害、真性糖尿病を患う対象、ショック症の急性期ならびに敗血症および敗血症性ショック症にある対象のADM濃度は、程度に差はあるものの顕著に増加している。PAMP濃度はまた、いくつかの前記病理状態において増加しているが、血漿での濃度はADMに比較して減少している(Eto et al. 2001. Peptides 22: 1693-1711)。
【0079】
さらに、異常な高濃度のADMが敗血症または敗血症性ショック症で観察されることが知られている(Eto et al. 2001. Peptides 22: 1693-1711; Hirata et al. 1996. Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 81(4): 1449-1453; Ehlenz et al.1997. Exp Clin Endocrinol Diabetes 105: 156-162; Tomoda et al. 2001. Peptides 22: 1783-1794; Ueda et al. 1999 Am. J. Respir. Crit. Care Med.160: 132-136; Wang et al. 2001. Peptides 22: 1835-1840)。この所見は、敗血症および他の重度の症候群、例えばSIRSを患う患者での疾患の経過の典型的な現象として知られている典型的な血行動態変化に関連している。アドレノメデュリンは、敗血症の発症(Wang, Shock 1998, 10(5):383-384; Wang et al. 1998. Archives of surgery 133(12): 1298-1304)中に、ならびに多数の急性および慢性疾患(Parlapiano et al. 1999. European Review for Medical and Pharmacological Sciences 3:53-61; Hinson et al. 2000 Endocrine Reviews 21(2):138-167)で重要な役割を担う。
【0080】
MR-proADMは、種々の程度の臓器不全を患う敗血症患者の死亡リスクを層別化できる予後マーカーとして特定されている。これは、敗血症の早期発見および個々のリスク評価に役立つ可能性があり、さらに敗血症と敗血症性ショック症のその後の臨床管理を円滑にすることができる(総説はOnal et al. 2018. Healthcare 6: 110を参照)。
【0081】
ADMの循環濃度を測定する、すなわちその同族の前駆体ペプチドのより安定な断片を決定してADMを直接的にまたは間接的に測定するいくつかの方法が説明されている。最近一つの方法が発表されていて、それは循環する成熟ADMを測定する方法を述べている(Weber et al. 2017. JALM 2: 222-233)。
【0082】
ADM前駆体に由来する断片を定量するその他の方法、例えばMR-proADM(Morgenthaler et al. 2005. Clin Chem 51(10):1823-9)、PAMP(Washimine et al. 1994. Biochem BiopHys Res Commun 202(2):1081-7)、およびCT-proADMの測定(EP 2 111 552)による方法が説明されている。完全な自動化システムで血漿中のMR-proADMを測定する市販の均一時間分解蛍光免疫測定法が利用可能である(BRAHMS MR-proADM KRYPTOR; BRAHMS GmbH, Hennigsdorf, Germany)(Caruhel et al. 2009. Clin Biochem 42(7-8):725-8)。これらのペプチドは同一の前駆体から化学量論比で生成されるので、それらの血漿濃度にある程度相関している。
【0083】
抗ADM抗体の生成は当技術分野では既知である(例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO 2013072512号およびWO 2019057992号)。
【0084】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する抗ADM抗体または抗ADM抗体断片に関し、前記抗体または断片または足場は、成熟ADM:YRQSMNNFQGLRSFGCRFGTC(配列番号37)のN末端部分(aa 1~21)に結合する。
【0085】
別の好ましい実施態様では、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片は、ADMのN末端(aa 1)を認識して結合する。N末端は、配列番号34および35の「Y」であるアミノ酸1が抗体結合に必須であることを意味している。前記抗体または断片または非Ig足場は、N末端伸長ADMまたはN末端修飾ADMまたはN末端分解ADMのいずれにも結合しないと思われる。
【0086】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する抗ADM抗体または抗ADM抗体断片に関し、前記抗体または断片は、成熟ADM(配列番号37)またはその抗体断片のN末端領域(aa 1~21)に結合するヒトモノクローナル抗体または断片である。
【0087】
ここで重鎖は、GYTFSRYW(CDR1:配列番号38)、ILPGSGST(CDR2:配列番号39)、TEGYEYDGFDY(CDR3:配列番号40)の配列を含み、かつ軽鎖は、QSIVYSNGNTY(CDR1:配列番号41)、RVS(CDR2)、FQGSHIPYT(CDR3:配列番号42)の配列を含む。
【0088】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する抗ADM抗体または抗ADM抗体断片に関し、前記抗体は、重鎖として以下の配列を含むモノクローナル抗体であり:
【表1】
(配列番号43)
このモノクローナル抗体は、軽鎖として以下の配列を含む:
【表2】
(配列番号44)
【0089】
ショック症、特に敗血症性ショック症を発生するような内皮機能障害は、いくつかの疾患プロセスから生じ、かつ/またはそれらプロセスに寄与する可能性がある。敗血症/敗血症性ショック症モデルの前臨床実験から、抗ADM抗体の投与は血漿bio-ADM濃度の増加を誘発し、これにより生存率の上昇が同時に起こることが知られている(Struck et al. 2013. Intensive Care Med Exp 1(1):22)。この効果の根底にあるメカニズムは、2018年にGeven らによって説明されている(Geven et al. 2018. SHOCK 50 (2): 132-140)。簡潔に言えば、この抗体は、静脈内投与された場合に、そのサイズのために内皮障壁を通過して間質に入ることはできないが、血液循環内には留まっている。対照的に、小さなペプチドのようなADMは、内皮障壁を通過して自由に拡散できる。従ってこの抗体は、内因性ADMに対して過大なモル過剰で投与されると血漿中の実質的に全てのADMに結合し、単純に結合平衡に到達する結果として間質から血液循環へのADMの移行を誘導する。細胞間に位置するADMは、血管平滑筋細胞に結合でき弛緩を誘発して血管拡張を引き起こす。これは抗体の投与によって低減される。一方、血漿中のADMは内皮細胞に結合し、それによって血管の完全性を安定化または回復させる。従ってこの機能は、非中和抗体である抗体の投与の結果として血漿ADM濃度が増加すると増強される。結果として抗体がADMに結合すると、ADMのタンパク質分解の減衰が低減される。纏めると、抗ADM抗体であるアドレシズマブは、ショック症時に、例えば敗血症性ショック症時に、内皮機能を回復させることができる。
【0090】
プロアドレノメデュリンまたはその断片の前記濃度が特定の閾値濃度を超える場合には、ADMに結合する抗ADM抗体または抗ADM抗体断片を治療行為として投与する。
【0091】
これは、本発明の特定の実施態様の主題では、ADMに結合する前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片は治療用となることを意味し、ここで前記患者から採取された体液試料は、少なくとも5個のアミノ酸を有するproADMおよび/またはその断片が特定の閾値を超える高濃度であることを示している。従って前記proADMおよび/または断片を用いる診断方法は、コンパニオン診断法として機能する。
【0092】
本発明の特定の実施態様では、血漿ADM-NH2の閾値は、50~250 pg/mL、好ましくは55~200 pg/mL、さらにより好ましくは60~150 pg/mL、さらにより好ましくは65~100 pg/mLである閾値範囲内にあり、最も好ましくは70 pg/mLの閾値を用いる。
【0093】
本発明の特定の実施態様では、血漿MR-proADMの閾値は、0.5~3 nmol/L、好ましくは0.6~2 nmol/L、さらにより好ましくは0.7~1 nmol/Lである閾値範囲内にあり、最も好ましくは0.8 nmol/Lの閾値を用いる。
【0094】
本発明の特定の実施態様では、血漿CT-proADMの閾値は、85~500 pmol/L、好ましくは90~350 pmol/L、さらにより好ましくは95~250 pmol/L、さらにより好ましくは100~200 pmol/Lの閾値範囲内にあり、最も好ましくは150 pmol/Lの閾値を用いる。
【0095】
本発明のADM-NH2濃度またはproADMまたはその断片の濃度はそれぞれ、実施例に概説されるように、説明のADM-NH2測定法(またはそれぞれproADMまたはその断片の測定法)を用いて測定された(Weber et al. 2017. JALM 2(2):1-4)。本発明のDPP 3濃度は、実施例に概説されるように、説明のDPP 3測定法を用いて測定された。上述の閾値は、これらが本発明で使用される測定システムとは異なって較正されている場合には、別の測定法では異なることがある。従って上述の閾値は、較正での差異を考慮して、それに応じてそのような種々に較正された測定法に適合されるようにすべきである。較正での差異を定量する1つの可能性は、両法を用いて試料中のそれぞれのバイオマーカー(例えば、bio-ADM、DPP 3)を測定して、当該の測定法を本発明で使用されるそれぞれのバイオマーカー測定法と比較分析(相関)する方法にある。別の可能性は、この試験に十分な分析感度がある場合には、代表的な正規母集団のバイオマーカー濃度の中央値を当該の測定法により決定し、その結果を文献に記載されるバイオマーカー濃度の中央値と比較し、かつこの比較によって得られた差異に基づいて較正を再計算することにある。本発明で使用する較正によって、正常な(健康な)対象からの試料が測定され、血漿bio-ADM(成熟ADM-NH2)の中央値は24.7 pg/mL、最低値は11 pg/mL、99百分位は43 pg/mLであった(Marino et al. 2014. Critical Care 18:R34)。本発明で使用する較正によって、5,400人の正常な(健康な)対象(スウェーデンの単一施設での予期人口に基づく研究(MPP-RES))からの試料が測定されて、血漿DPP 3の中央値(四分位範囲)は14.5 ng/mL(11.3 ng/mL~19 ng/mL)であった。
【0096】
正常な(健康な)対象での血漿MR-proADM濃度の中央値は、Caruhelらが述べるMR-proADMの検出のために自動サンドイッチ蛍光測定法(Caruhel et al. 2009. Clin Biochem 42:725-8)を用いて、0.41(四分位範囲0.23~0.64)nmol/Lであった(Smith et al. 2009. Clin Chem 55:1593-1595)。
【0097】
正常で健康な対象(n=200)でのCT-proADMの血漿濃度の中央値は、77.6 pmol/L(最小値:46.6 pmol/L、最大値:136.2 pmol/L)であり、95百分位は113.8 pmol/Lであった(EP 2 111 552 B1号)。
【0098】
本発明の特定の実施態様では、血漿ADM-NH2の閾値は、正常で健康な集団の中央値濃度の5倍、好ましくは中央値濃度の4倍、より好ましくは中央値濃度の3倍、最も好ましくは中央値濃度の2倍である。
【0099】
本発明の特定の実施態様では、血漿MR-proADMの閾値は、正常で健康な集団の中央値濃度の5倍、好ましくは中央値濃度の4倍、より好ましくは中央値濃度の3倍、最も好ましくは中央値濃度の2倍である。
【0100】
本発明の特定の実施態様では、血漿CT-proADMの閾値は、正常で健康な集団の中央値濃度の5倍、好ましくは中央値濃度の4倍、より好ましくは中央値濃度の3倍、最も好ましくは中央値濃度の2倍である。
【0101】
本発明の実施態様では、それを必要とする患者の治療に用いる抗ADM抗体または抗ADM抗体断片は、少なくとも0.5 mg/Kg体重、詳しくは少なくとも1.0 mg/Kg体重、より詳しくは、1.0~20.0 mg/Kg体重、例えば、2.0~10 mg/Kg体重、2.0~8.0 mg/Kg体重、または2.0~5.0 mg/kg体重の用量で投与されてもよい。
【0102】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤に関し、前記対象は、本発明に従って難治性ショック症を予知または診断する方法のいずれかによって決定される場合に、前記対象の体液試料中に所定の閾値を下回るDPP3の濃度を有する。
【0103】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤に関し、前記昇圧剤は、ドーパミン、ノルエピネフリン、ノルエピネフリン同等物、エピネフリン、フェニレフリン、およびバソプレッシンを含む群から選択される。
【0104】
本発明の別の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤に関し、前記昇圧剤は、医薬製剤として前記対象に投与される。
【0105】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤に関し、前記対象の血圧は65 mm Hg以下である。
【0106】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤に関し、前記対象は、前述の実施形態に説明の方法によって決定される場合に、前記対象の体液試料中に所定の閾値を超えるDPP3濃度を有する。
【0107】
本発明の別の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤に関し、DPP 3活性の阻害剤は、抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片または抗DPP 3非Ig足場を含む群から選択される。
【0108】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤に関し、前記阻害剤は、10-7 M以下のDPP 3に対する最小結合親和性を有する。
【0109】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤に関し、DPP 3活性の阻害剤は抗体である。
【0110】
本発明の別の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤に関し、前記阻害剤はモノクローナル抗体である。
【0111】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤に関し、前記阻害剤はモノクローナル抗体であり、その重鎖内の相補性決定領域(CDR)は、配列番号7、配列番号8、および/または配列番号9の配列を含み、軽鎖内の相補性決定領域(CDR)は、配列番号10、KVS、および/または配列番号11の配列を含む。
【0112】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤に関し、前記阻害剤は、ヒト化モノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体断片であり、その重鎖は配列番号12を含み、その軽鎖は配列番号13を含む。
DPP 3活性の前記阻害剤は、吸入によって投与されてもよい。
【0113】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤に関し、前記阻害剤を、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体と組み合わせて投与する。
【0114】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤に関し、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体は、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、アンジオテンシンIII、アンジオテンシンIVを含む群から選択され、特にアンジオテンシンIIである。
【0115】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤に関し、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記対象の試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/または終了する。
【0116】
本発明の別の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤に関し、前記昇圧剤による治療を、前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
【0117】
本発明の別の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤に関し、前記昇圧剤による治療を、前記対象の体液試料のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了し、かつプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
【0118】
本発明の別の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤に関し、前記昇圧剤による治療を、前記対象の体液試料中のDPP3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了し、かつプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
【0119】
本発明の別の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する抗ADM抗体または抗ADM抗体断片に関し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片および/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超えかつ前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定のDPP 3の閾値を超える場合に開始および/または継続する。
【0120】
前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定しかつ前記試料中のDPP 3の濃度を測定する場合に、前記測定を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度およびDPP 3の濃度の両方の測定試験を提供する臨床現場即時装置によって実施してもよい。
【0121】
アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体による治療を、患者が体液試料中に所定の閾値濃度を超えるDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性を有する場合に開始する。
【0122】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記対象は、前述の実施態様に説明の方法によって測定される場合に、前記対象の体液試料中に所定の閾値を下回るDPP 3の濃度を有する。
【0123】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記昇圧剤は、ドーパミン、ノルエピネフリン、ノルエピネフリン同等物、エピネフリン、フェニレフリン、およびバソプレシンを含む群から選択される。
【0124】
本発明の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記昇圧剤は、医薬製剤として前記対象に投与される。
【0125】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記対象の血圧は65 mm Hg以下である。
【0126】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記対象は、前述の実施態様に説明の方法によって測定される場合に、前記対象の体液試料中に所定の閾値を超えるDPP 3の濃度を有する。
【0127】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記DPP 3活性の阻害剤は、抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片または抗DPP 3非Ig足場を含む群から選択される。
【0128】
本発明の別の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記阻害剤は10-7 M以下のDPP 3への最小結合親和性を有する。
【0129】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記DPP 3活性の阻害剤は抗体である。
【0130】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記阻害剤はモノクローナル抗体である。
【0131】
本発明の特定の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記阻害剤はモノクローナル抗体であり、その重鎖の相補性決定領域(CDR)は、配列番号7、配列番号8、および/または配列番号9の配列を含み、その軽鎖の相補性決定領域(CDR)は、配列番号10、KVS、および/または配列番号11の配列を含む。
【0132】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記阻害剤は、ヒト化モノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体断片であり、その重鎖は配列番号12の配列を含み、その軽鎖は配列番号13の配列を含む。
【0133】
本発明の別の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記阻害剤をアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体と組み合わせて投与する。
【0134】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体は、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、アンジオテンシンIII、アンジオテンシンIVを含む群から選択され、特にアンジオテンシンIIである。
【0135】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象にアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記対象の試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/または終了する。
【0136】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記昇圧剤による治療を、前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
【0137】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象にアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記対象の試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/または終了し、かつプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
【0138】
本発明の特定の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記昇圧剤による治療を、前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了し、かつプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
【0139】
本発明の別の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象に抗ADM抗体または抗ADM抗体断片を投与することを含み、かつプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了し、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記対象の試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/または終了する。
【0140】
本発明の別の特定の実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法に関し、該方法は、前記対象に抗ADM抗体または抗ADM抗体断片を投与することを含み、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片および/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超えかつ前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定のDPP 3の閾値を超える場合に開始および/または継続する。
【0141】
作動薬とは、受容体に結合しその受容体を活性化して生体応答性を引き起こす化学物質を意味する。受容体は、(ホルモンや神経伝達物質などの)内因性作動薬または(薬物などの)外因性作動薬のいずれかによって活性化されて生体応答性を引き起こす。完全作動薬は、受容体に結合して作動薬が受容体で誘発できる最大の応答性とともに受容体を活性化する。部分作動薬は、特定の受容体に結合して活性化する薬剤であるが、完全作動薬に比較して受容体に対し部分的な効力しか持たない。力価は、所望の応答性を誘発するのに必要な作動薬の量である。作動薬の力価はそのEC50値に反比例する。このEC50は、特定の作動薬において、作動薬の最大の生体反応の半分を誘発するのに必要な作動薬の濃度を決定することによって測定できる。EC50値は、薬剤の力価を類似の生体効果を生み出す類似の効力と比較するのに役に立つ。EC50値が小さいほど、作動薬の力価は高くなり、最大の生体応答性を誘発するのに必要な薬物の濃度は低くなる。
【0142】
アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体による治療は、患者の体液試料中のDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性が所定の閾値濃度を超えている限り継続してもよい。
【0143】
DPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性は、少なくとも24時間毎に、好ましくは12時間毎に、より好ましくは8時間毎に、さらにより好ましくは6時間毎に、さらにより好ましくは4時間毎に、さらにより好ましくは2時間毎に、さらにより好ましくは1時間毎に、最も好ましくは30分毎に測定する。
【0144】
アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体による治療は、患者の体液試料中のDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性が所定の閾値濃度を下回る場合には中止してもよい。
アンジオテンシン療法:
【0145】
プロアンジオテンシンとも呼ばれるアンジオテンシンIは、アンジオテンシノーゲンに対しレニンが作用して生成される。レニンは、アンジオテンシノーゲンのロイシン(Leu)残基とバリン(Val)残基の間のペプチド結合を切断して、デカペプチド(10個のアミノ酸)(des-Asp)アンジオテンシンIを生成する。アンジオテンシンIは、酵素であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)によって、主に肺内の(内皮細胞、腎臓上皮細胞、および脳にも存在する)ACEを介して、2個のC末端残基が除去されてアンジオテンシンIIに変換される。
【0146】
アンジオテンシンII、アンジオテンシンIII、およびアンジオテンシンIVは、血管収縮およびナトリウム再吸収を介して血圧を調節する、体内で自然に産生されるペプチドホルモンである。アンジオテンシンIIの投与の血行力学的な効果は、多くの臨床研究の対象となっていて、全身血流および腎血流に対して顕著な効果を示している(Harrison-Bernard, L.M., The renal renin-angiotensin system. Adv PHysiol Educ, 33(4): 270 (2009))。
【0147】
アンジオテンシンIIは、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)によって産生されるホルモンであり、血管平滑筋の緊張と細胞外液の恒常性の調節を介して血圧を調節する。アンジオテンシンIIは、血管収縮とナトリウム貯留を誘発して血管構造に及ぼす影響を媒介し、それにより高血圧の多くの治療法の目標となる。その全身効果に加えて、アンジオテンシンIIは腎臓の輸出細動脈に顕著な効果があり、血流が減少した際に糸球体濾過を維持する。アンジオテンシンIIはまた、近位尿細管内のNa+/H+交換体を刺激し、かつアルドステロンとバソプレッシンの放出を誘導して、腎臓でのナトリウム再吸収を調節する(Harrison-Bernard 2009. The renal renin-angiotensin system. Adv PHysiol Educ, 33(4):270)。
【0148】
本開示の組成物および方法に使用できるアンジオテンシンII治療薬は、5-イソロイシンアンジオテンシンIIとも呼ばれるAsp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe(配列番号13)である。配列番号13は、ヒト、およびウマ、ブタなどの他の種に天然に存在するオクタペプチドである。イソロイシンをバリンで置換して、5-バリンアンジオテンシンII、すなわちAsp-Arg-Val-Tyr-Val-His-Pro-Phe(配列番号14)を生成できる。[Asn1-Phe4]-アンジオテンシンII(配列番号15)、ヘキサペプチドVal-Tyr-Ile-His-Pro-Phe(配列番号16)、ノナペプチドAsn-Arg-Val-Tyr-Tyr-Val-His-Pro-Phe(配列番号17)、[Asn1 Ile5 Ile8]-アンジオテンシンII(配列番号18)、[Asn1-lle5-Ala8]-アンジオテンシンII(配列番号19 )、および[Asn1-ジヨードTyr4-Ile5]-アンジオテンシンII(配列番号20)などの他のアンジオテンシンII類似体もまた使用されうる。アンジオテンシンIIは、例えば固相ペプチド合成によって合成して、C末端アミド化などの修飾を組み込んでもよい。用語「アンジオテンシンII」は、さらなる特異性を含まずに、これらの様々な形態のいずれか、ならびにそれらの組合せを指すことを意図している。
【0149】
ある側面においては、アンジオテンシンIIを含む組成物は、5-バリンアンジオテンシンII、5-バリンアンジオテンシンIIアミド、5-L-イソロイシンアンジオテンシンII、および5-L-イソロイシンアンジオテンシンIIアミド、またはその医薬的に許容可能な塩から選択され、好ましくは現行医薬品適正製造基準(cGMP)の下で製造されている。ある側面においては、この組成物は、種々の形態のアンジオテンシンIIを種々の比率で含んでもよく、例えば、ヘキサペプチドとノナペプチドのアンジオテンシンII混合物であってもよい。アンジオテンシンIIを含む組成物は、非経口投与、例えば、注射または静脈内注入に適する可能性がある。
【0150】
本明細書に開示される組成物および方法に用いられるアンジオテンシンIIの配列は、上述のアンジオテンシンIIの配列と相同であってもよい。特定の側面では、本発明は、配列番号13、14、15、16、17、18、19、および/または20に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、または100%同一である単離、合成、または組換えアミノ酸配列を含む。前述の段落での説明のように、アンジオテンシンIIの代わりに、このような任意の変異体配列を用いてもよい。
【0151】
全ての配列での配列同一性は、以下の方法に従って決定される:百分率で表す同一性を、対における一致数に100を掛け、かつ間隙を含む整列領域の長さで割って計算する(同一性%=[一致数×100]/[間隙を含む]整列領域の長さ)。
【0152】
アンジオテンシンIIIは、アンジオテンシンIIの代謝物であり、アンジオテンシンIIの約40%の活性を有する。本開示の組成物および方法に使用できるアンジオテンシンIII治療薬は、Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe(配列番号21)であってもよい。配列番号21は、ヒト、およびウマ、ブタなどの他の種に天然に存在するヘプタペプチドである。イソロイシンをバリンで置換して、Arg-Val-Tyr-Val-His-Pro-Phe(配列番号22)を生成できる。[Phe3]-アンジオテンシンIII(配列番号23)、[Ile4-Ala7]-アンジオテンシンIII(配列番号24)、および[ジヨードTyr3-Ile4]-アンジオテンシンIII(配列番号25)などの他のアンジオテンシンIII類似体もまた使用してもよい。アンジオテンシンIIIは、例えば固相ペプチド合成によって合成されて、C末端アミド化などの修飾を組み込んでもよい。用語「アンジオテンシンIII」では、さらなる特異性を含まずに、これらの様々な形態のいずれか、ならびにそれらの組合せを指すことを意図している。
【0153】
ある側面において、アンジオテンシンIIIを含む組成物は、4-バリンアンジオテンシンIII、4-バリンアンジオテンシンIIIアミド、4-L-イソロイシンアンジオテンシンIII、および4-L-イソロイシンアンジオテンシンIIIアミド、またはその医薬的に許容される塩から選択されてもよく、これらは、好ましくは現行医薬品適正製造基準(cGMP)の下で製造されている。アンジオテンシンIIIを含む組成物は、非経口投与、例えば、注射または静脈内注入に適する可能性がある。
【0154】
本明細書に開示される組成物および方法に用いられるアンジオテンシンIIIの配列は、上述のアンジオテンシンIIIの配列と相同であってもよい。特定の側面では、本発明は、配列番号21、22、23、24、および/または25に対し少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、または100%同一である単離、合成、または組換えアミノ酸配列を含む。前述の段落での説明のように、アンジオテンシンIIの代わりに、このような任意の変異体配列を用いてもよい。
【0155】
アンジオテンシンIVは、アンジオテンシンIIよりも活性が低いアンジオテンシンIIIの代謝産物である。本開示の組成物および方法に使用できるアンジオテンシンIV治療薬は、Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe(配列番号26)であってもよい。配列番号26は、ヒトおよび他の種に天然に存在するヘキサペプチドである。イソロイシンをバリンで置換して、Val-Tyr-Val-His-Pro-Phe(配列番号27)を生成できる。[Phe2]-アンジオテンシンIII(配列番号28)、[Ile3-AIa6]-アンジオテンシンIV(配列番号29)、および[ジヨードTyr2-Ile3]-アンジオテンシンIV(配列番号30)などの他のアンジオテンシンIV類似体もまた使用してもよい。アンジオテンシンIVは、例えば固相ペプチド合成によって合成されて、C末端アミド化などの修飾を組み込んでもよい。用語「アンジオテンシンIV」では、さらなる特異性を含まず、これらの様々な形態のいずれか、ならびにそれらの組合せを指すことを意図している。
【0156】
ある側面において、アンジオテンシンIVを含む組成物は、3-バリンアンジオテンシンIV、3-バリンアンジオテンシンIVアミド、3-L-イソロイシンアンジオテンシンIV、および3-L-イソロイシンアンジオテンシンIVアミド、またはその医薬的に許容される塩から選択されてもよく、これらは、好ましくは現行医薬品適正製造基準(cGMP)の下で製造されている。アンジオテンシンIVを含む組成物は、非経口投与、例えば、注射または静脈内注入に適する可能性がある。
【0157】
本明細書に開示される組成物および方法に用いられるアンジオテンシンIVの配列は、上述のアンジオテンシンIVの配列と相同であってもよい。特定の側面では、本発明は、配列番号25、26、27、28、29、および/または30に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、または100%同一である単離、合成、または組換えアミノ酸配列を含む。前述の段落での説明のように、アンジオテンシンIVの代わりに、このような任意の変異体配列を用いてもよい。
【0158】
アンジオテンシンII、アンジオテンシンIII、またはアンジオテンシンIVの各治療薬は、(参照により組み込まれる)米国特許公開2011/0081371号に開示されるペプチドまたは共役体のペグ化形態を含む上述のペプチドの任意の適切な塩(例えば酢酸塩)、脱保護形態、アセチル化形態、脱アセチル化形態、および/またはプロドラッグ形態として用いられてもよい。用語「プロドラッグ」は、生体条件下で上述のペプチドを生成または放出できる任意の前駆体化合物を指す。そのようなプロドラッグまたは前駆体は、本発明のペプチドを生成するために選択的に切断されるより大きなペプチドであってもよい。例えばある側面において、プロドラッグまたは前駆体は、特定の内因性または外因性の酵素の作用によってアンジオテンシンIIを生成できるアンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI、またはその相同体であってもよい。さらなるプロドラッグまたは前駆体には、保護されたアミノ酸を有するペプチド、例えば1つ以上のカルボン酸および/またはアミノ基に保護基を有するペプチドが含まれる。アミノ基の適切な保護基には、ベンジルオキシカルボニル、t-ブチルオキシカルボニル(BOC)、フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)、ホルミル、およびアセチルまたはアシルの各基が含まれる。カルボン酸基の適切な保護基には、ベンジルエステルまたはt-ブチルエステルなどのエステルが含まれる。本発明はまた、アンジオテンシンII、アンジオテンシンIII、アンジオテンシンIV、および/またはアミノ酸の置換、欠失、付加を有する前駆体ペプチドの使用を想定し、これら置換および付加には、標準のDおよびLアミノ酸、ならびに例えばアミド化およびアセチル化アミノ酸などの修飾アミノ酸を含み、塩基性ペプチド配列の治療活性は、薬理学的に有用な濃度に維持されている。
【0159】
好ましい実施態様では、アンジオテンシンIIは、アンジオテンシンII酢酸塩である。アンジオテンシンII酢酸塩は、L-アスパルチル-L-アルギニル-L-バリル-L-チロシル-L-イソロイシル-L-ヒスチジル-L-プロリル-L-フェニルアラニン酢酸塩である。対イオン酢酸塩は非化学量論比で存在する。アンジオテンシンII酢酸塩の分子式はC50H71N13O12・(C2H4O2)n(nは酢酸塩分子の数;理論上のnは3)であり、平均分子量は(遊離塩基として)1046.2である。
【0160】
本発明の一実施態様は、対象での疾患の治療に使用するためのアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体であり、前記対象は、体液試料中に所定の閾値を超えるDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性を有し、体液試料中のDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性の測定値を、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体による前記治療のための治療法の誘導および/または治療法の監視に用いる。
【0161】
本発明の一実施態様では、体液試料中のDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性を、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体による対象の治療前に測定する。本発明の一実施態様では、体液試料中のDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性を、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体による対象の治療中に測定し、治療中に少なくとも1回、好ましくは治療中に少なくとも2回、または好ましくは治療中に1日に少なくとも1回測定する。本発明の一実施態様では、体液試料中のDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性を、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体による対象の治療後に測定する。本発明の一実施態様では、体液試料中のDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性を、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体による対象の治療前および/または治療中および/または治療後に測定する。
【0162】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するためのアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体であり、前記対象は、体液試料中に所定の閾値を超えるDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性を有し、前記対象の前記体液試料は、全血、血漿、および血清から選択される。
【0163】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するためのアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体であり、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体は、医薬製剤として前記対象に投与される。
【0164】
用語「医薬製剤」は、少なくとも1種の医薬的に許容可能な賦形剤と組み合わせた医薬(活性)成分を意味する。
【0165】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するためのアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体であり、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体はアンジオテンシンIIであり、前記医薬製剤は溶液であり、好ましくは即時使用可能な溶液である。別の実施態様では、本発明の主題はさらに、本発明による医薬製剤であり、前記医薬製剤は乾燥状態にあり、使用前に水溶液にされる。
【0166】
本明細書に開示される医薬製剤はまた、当技術分野で周知の希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤、およびその他の材料を含んでもよい。用語「医薬的に許容可能な担体」は、本発明の(アンジオテンシンIIなどの)治療有効物質とともに患者に投与できる非毒性の担体を指し、この担体は治療有効物質の薬理学的活性を破壊しない。用語「医薬的に許容可能」は、有効成分の生体活性の有効性を妨げない非毒性材料を意味する。
【0167】
担体の特性は、投与経路に依存する。用語「賦形剤」は、薬学的に活性な成分ではない製剤または組成物中の添加剤を指す。
【0168】
用語「医薬(有効)成分」は、医薬製剤または剤形を提供するように、必要に応じて医薬的に許容可能な賦形剤と組合せることができる治療用組成物を意味する。
【0169】
当業者なら、任意の1種の賦形剤の選択が任意の他種の賦形剤の選択に影響を及ぼす可能性があることを分かっている。例えば特定の賦形剤の選択では、賦形剤の組合せが望ましくない効果を生み出すことがあるので、1種以上の追加の賦形剤の使用を排除してもよい。本発明の賦形剤には、限定はされないが、共溶媒、可溶化剤、緩衝剤、pH調整剤、増量剤、界面活性剤、封入剤、等張性調節剤、安定化剤、保護剤、および粘度調整剤が挙げられる。
【0170】
ある側面において、本明細書に開示の組成物中に医薬的に許容可能な担体を含むことが有益な場合がある。
【0171】
ある側面において、本発明の組成物中に可溶化剤を含むことが有益な場合がある。可溶化剤は、治療有効物質(例えば、アンジオテンシンII、アンジオテンシンIII、またはアンジオテンシンIV)または賦形剤を含む製剤または組成物の任意の成分の溶解度を高めるのに有用な場合がある。本明細書に説明の可溶化剤では、完全な一覧表を構成するという意図ではなく、本発明の組成物に使用可能な例示的な可溶化剤のみを示している。特定の側面では、可溶化剤として、限定はされないが、エチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、メチルパラベン、プロピルパラベン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、および任意のその医薬的に許容可能な塩、および/またはそれらの組合せが挙げられる。
【0172】
ある側面において、本発明の組成物中にpH調整剤を含有させて、組成物のpHを調整することが有益な場合がある。製剤または組成物のpHを変更することは、例えば治療有効物質の安定性または可溶性に有益な効果をもたらし、または非経口投与に適する製剤または組成物を作製するのに有用な場合がある。pH調整剤は当技術分野で周知である。従って本明細書に説明のpH調整剤では、完全な一覧表を構成するという意図ではなく、本発明の組成物に使用可能な例示的なpH調整剤のみを示している。pH調整剤には、例えば、酸および塩基を含んでもよい。ある側面において、pH調整剤には、限定はされないが、酢酸、塩酸、リン酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、およびそれらの組合せを含んでもよい。
【0173】
本明細書に開示の組成物のpHは、製剤または組成物に望ましい特性を提供する任意のpHであってもよい。望ましい特性には、例えば、治療有効物質(例えば、アンジオテンシンII、アンジオテンシンIII、またはアンジオテンシンIV)の安定性、異なるpHにある組成物に比較して治療的有効物質の保持量の増加、および濾過効率の改善を含んでもよい。ある側面において、本発明の組成物のpHは、約3.0~約9.0、例えば、約5.0~約7.0であってもよい。特定の側面では、本発明の組成物のpHは、5.5±0.1、5.6±0.1、5.7±0.1、5.8±0.1、5.9±0.1、6.0±0.1、6.1±0.1、6.2±0.1、6.3±0.1、6.4±0.1、または6.5±0.1であってもよい。
【0174】
ある側面において、1種以上の緩衝剤を組成物に含有させてpHを緩衝することが有益な場合がある。特定の態様では、緩衝剤のpKaは、例えば、約5.5、約6.0、または約6.5であってもよい。当業者なら、そのpKaおよび他の特性に基づいて、本発明の組成物に含有させるために適切な緩衝剤を選択できることを分かっている。
【0175】
緩衝剤は当技術分野では周知である。従って本明細書に説明の緩衝剤では、完全な一覧表を構成するという意図ではなく、本発明の組成物に使用可能な例示的な緩衝剤のみを示している。特定の側面では、緩衝剤は、トリス、トリスHC1、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸ナトリウムおよびリン酸カリウムの組合せ、トリス/トリスHC1、重炭酸ナトリウム、アルギニンリン酸塩、アルギニン塩酸塩、ヒスチジン塩酸塩、カコジル酸塩、コハク酸塩、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸塩(MES)、マレイン酸塩、ビストリス、リン酸塩、炭酸塩、および任意の医薬的に許容可能な塩および/またはそれらの組合せのうちの1種以上を含んでもよい。
【0176】
ある側面において、本発明の組成物に界面活性剤を含むことが有益な場合がある。一般的に界面活性剤は、液状組成物の表面張力を低下させる。これにより、濾過容易性の改善などの有益な特性が得られる場合がある。界面活性剤はまた、乳化剤および/または可溶化剤として作用できる。界面活性剤は当技術分野では周知である。従って、本明細書に説明の界面活性剤では、完全な一覧表を構成するという意図ではなく、本発明の組成物に使用可能な例示的な界面活性剤のみを示している。界面活性剤として、限定はされないが、ポリソルベート(例えばポリソルベート20およびポリソルベート80)などのソルビタンエステル、リポ多糖類、ポリエチレングリコール(例えばPEG 400およびPEG 3000)、ポロキサマー(すなわちPluronics)、エチレンオキシドおよびポリエチレンオキシド(例えばトリトンX-100)、サポニン、リン脂質(例えばレシチン)、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0177】
ある側面において、本発明の組成物に等張性調節剤を含むことが有益な場合がある。液体組成物の等張性は、例えば、非経口投与によって組成物を患者に投与する場合の重要な考慮事項である。従って、等張性調節剤を用いて投与に適する製剤または組成物を作製するのに役立てることができる。等張性調節剤は当技術分野では周知である。従って本明細書に説明の等張性調節剤では、完全な一覧表を構成するという意図ではなく、本発明の組成物に使用可能な例示的な等張性調節剤のみを示している。等張性調節剤は、イオン性または非イオン性であってもよく、限定はされないが、無機塩、アミノ酸、炭水化物、糖、糖アルコール、および炭水化物を含んでもよい。例示的な無機塩として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、および硫酸カリウムが含まれてもよい。例示的なアミノ酸はグリシンである。例示的な糖として、グリセリン、プロピレングリコール、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、およびマンニトールなどの糖アルコールが含まれてもよい。
【0178】
ある側面において、本発明の組成物に安定化剤を含むことが有益な場合がある。安定化剤は、本発明の組成物中の治療有効物質の安定性を向上させるのに役立つ。この向上は、例えば治療有効物質の分解を低減するかまたは凝集を防止して引き起こされる。理論に拘束されることを望まないが、安定性を向上するメカニズムには、溶媒から治療有効物質を保護すること、またはアントラサイクリン化合物のフリーラジカルの酸化を阻害することを含む可能性がある。安定化剤は当技術分野では周知である。従って本明細書に記載の安定化剤では、完全な一覧表を構成するという意図ではなく、本発明の組成物に使用可能な例示的な安定化剤のみを示している。安定化剤には、限定はされないが、乳化剤および界面活性剤が含まれてもよい。
【0179】
本明細書に開示の組成物は、従来からの種々の方法で投与できる。ある側面において、、本発明の組成物は非経口投与に適する。これらの組成物は、例えば、腹腔内に、静脈内に、腎内に、髄腔内に、または吸入によって投与してもよい。ある側面において、本発明の組成物は、静脈内注射される。当業者なら、本発明の治療有効物質の製剤または組成物を投与する方法が、治療を受ける患者の年齢、体重、および体調、ならびに治療を受ける疾患または病状などの要因に依存することを分かっている。従って当業者は、適宜個別に患者に最適な投与方法を選択できる。
【0180】
アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体は、任意の適切な方法で投与できるが、典型的には連続注入によって投与される。従って投与速度の増減は、静脈内点滴の流量の変更、静脈内点滴中の薬剤濃度の変更などによって達成できる。但し投与速度を変更する手法は、治療薬の投与方式により異なる。治療薬を経粘膜的にまたは経皮的に投与する場合には、その速度を、例えば高放出速度の貼付剤または経皮組成物への変更によって上昇させてもよい。治療薬を経口投与する場合には、その速度を、例えば高用量の形態への切替、追加用量の投与、または高放出速度を備える徐放性剤形の投与によって上昇させてもよい。
【0181】
治療薬を吸入によって投与する場合には、その速度を、例えば追加のボーラス、高濃度のボーラス、または高速放出のボーラスを投与して上昇させてもよい。(皮下注射ポンプ、坐剤などを介する)他の投与様式では類似の手法で調節でき、投与速度の低減は、治療薬の投与速度を上昇させる行為を逆方向に実施して達成できる。
【0182】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症治療に使用するアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体であり、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体は、アンジオテンシンIIであり、0.1~200 ng/kg/分、好ましくは1~100 ng/kg/分、より好ましくは2~80 ng/kg/分、さらにより好ましくは5~60 ng/kg/分、さらにより好ましくは10~50 ng/kg/分、さらにより好ましくは15~40 ng/kg/分、最も好ましくは20 ng/kg/分の量で投与される。
【0183】
本開示の特定の実施態様では、アンジオテンシンIIの開始時用量(初期量)は、連続静脈内注入により、80 ng/kg/分、より好ましくは40 ng/kg/分、最も好ましくは20 ng/kg/分である。
【0184】
本発明の別の特定の実施態様では、アンジオテンシンIIの用量設定のために、血圧応答性(例えば平均動脈圧;MAP)を監視する。アンジオテンシンIIの用量設定を、60分毎に、より好ましくは45分毎に、さらにより好ましくは30分毎に、さらにより好ましくは15分毎に、さらにより好ましくは10分毎に、最も好ましくは5分毎に実施してもよい。アンジオテンシンIIの用量設定を、必要に応じて最大40 ng/kg/分、より好ましくは最大20 ng/kg/分、最も好ましくは15 ng/kg/分ずつ増量させて実施し、最大目標血圧を達成または維持してもよい。別の好ましい実施態様では、アンジオテンシンIIの用量は、治療の最初3時間は80 ng/kg/分を超えてはならない。最も好ましくは、維持用量は40 ng/kg/分を超えてはならず、また低くとも1.25 ng/kg/分の用量を用いる。
【0185】
実施態様によっては、患者の初期平均動脈圧(MAP)は、この組成物を投与する前に、約40 mm Hg、約45 mm Hg、約50 mm Hg、55 mm Hg、約60 mm Hg、約65 mm Hg、約70 mm Hg、または約75 mm Hg以下である。この方法は、患者の平均動脈血圧を測定し、かつ平均動脈血圧が約40 mm Hg、約45 mm Hg、約50 mm Hg、55 mm Hg、約60 mm Hg、約65 mm Hg、約70 mm Hg、または約75 mm Hg未満の場合にアンジオテンシンIIの投与量を増やすことを含んでもよい。
【0186】
一実施態様では、患者に、昇圧剤(例えば、ノルエピネフリン、ノルエピネフリン同等物、エピネフリン、ドーパミン、フェニレフリンなどのカテコールアミン)またはそれらの組合せを投与してもよい。実施態様によっては、昇圧剤は、バソプレッシン(例えば、テルリプレシン、アルジプレシン、デスモプレシン、フェリプレシン、リプレシン、またはオルニプレシン)である。
【0187】
本発明の一実施態様は、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症治療に使用するアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体であり、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体、特にアンジオテンシンIIを、DPP 3の阻害剤と組み合わせて投与する。
【0188】
本発明の一実施態様は、DPP 3の阻害剤と組み合わせて、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症治療に使用するアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体であり、前記DPP 3の阻害剤は、抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片または抗DPP 3非Ig足場を含む群から選択される。
【0189】
本発明に従って、「抗DPP 3抗体」は、DPP 3に特異的に結合する抗体であり、「抗DPP 3抗体断片」は、前記抗DPP 3抗体の断片であり、前記断片は、DPP 3に特異的に結合する。「抗DPP 3非Ig足場」は、DPP 3に特異的に結合する非Ig足場である。
【0190】
本発明の一実施態様は、DPP 3の阻害剤と組み合わせて、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症治療に使用するアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体であり、前記DPP 3の阻害剤は、配列番号1に結合する、特に配列番号2に結合する抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片または抗DPP 3非Ig足場である。
【0191】
本発明の一実施態様は、DPP 3の阻害剤と組み合わせて、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症治療に使用するアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体であり、前記DPP 3の阻害剤は、10-7 M以下のDPP 3への最小結合親和性を示す抗体または断片または足場である。
【0192】
本発明に従って、当業者なら、本明細書に開示のDPP 3結合剤のDPP 3への結合親和性を当技術分野では既知の様々な適切な測定法によって測定できることを十分に分かっている。それぞれの例を以下に示すが、これらは、本明細書に開示のDPP 3結合剤のDPP 3への結合親和性を測定する可能性を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0193】
例えば、DPP 3結合剤のエピトープへの結合親和性を測定してもよい。結合測定法を実施して、例えばそれぞれの結合剤の免疫化ペプチドへの抗体の結合を検出および/または定量してもよい。例えばこの免疫化ペプチドは、固相に固定してもよい。(抗体溶液などの)試験試料を固定免疫化ペプチドを通過させて、結合した抗体を検出できる。本説明の目的のための用語「固相」は、測定がその内部でまたはその表面で実施されてもよい任意の材料または容器を含むように用いられてもよく、限定はされないが、多孔質材料、非多孔質材料、試験管、ウェル、スライド、磁気ビーズなどである。
【0194】
例示的な検出方法を以下に示す:
・固相と接触する前に抗体を標識し、それぞれの標識(蛍光、化学発光、酵素などの各標識)を検出する方法;
・試料抗体の特定のFc部分に対して標識された二次抗体を使用し、固相結合抗体を二次抗体(例えば、抗ヒトIgG、抗マウスIgG)と培養し、それぞれの標識(蛍光、化学発光、酵素などの各標識)を検出する方法;
・固相結合の競合物質として標識抗体(例えば標識AK1967)を使用する方法;および
・信号の減少により結合親和性を定量する方法。
【0195】
DPP 3に対する抗体の親和性を測定する別の方法として、DPP 3の固定化抗体への結合の動力学を、Biacore 2000システム(GE Healthcare Europe社、Freiburg, Germany)を用いる非標識表面プラズモン共鳴によって測定してもよい。抗体の可逆性の固定を、CM5センサー表面に高密度で共有結合した抗マウスFc抗体(マウス抗体捕捉キット;GE Healthcare社)を用いて実行してもよい(Lorenz et al. 2011. Antimicrob Agents Chemother. 55(1): 165-173)。
【0196】
本発明の一実施態様は、DPP 3の阻害剤と組み合わせて、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するためのアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体であり、前記DPP 3の阻害剤は、単一特異性である抗体または断片または足場であり、一実施態様では、前記DPP 3の阻害剤は、モノクローナル抗体または断片または足場である。
【0197】
本発明による単一特異性の抗体または断片または非Ig足場は、全てが同じ抗原に対して親和性を持つ抗体または断片または非Ig足場である。モノクローナル抗体は単一特異性であるが、単一特異性抗体は、一般的な生殖細胞からそれらを産生する以外の手段によっても生成できる。
【0198】
特定の実施態様では、全長DPP 3に結合する前記捕捉結合剤は、液相測定法で50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは30%のDPP 3活性を特異的に阻害する。液相測定法の定義ついては上述を参照のこと。DPP 3の阻害を防ぐための特定の一実施態様では、捕捉結合剤は、活性中心および基質結合領域(配列番号1のアミノ酸316~669)の周りの領域ではDPP 3に結合してはならない。
【0199】
本発明の一実施態様は、DPP 3の阻害剤と組み合わせて、ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症治療に使用するアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体であり、前記DPP 3の阻害剤は、全長DPP 3に結合し、かつ少なくとも10%、または少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%のDPP 3活性、さらにより好ましくは70%を超える、さらにより好ましくは80%を超える、さらにより好ましくは90%を超える、さらにより好ましくは95%を超えるDPP 3活性を阻害する抗体または断片または足場である。
【0200】
結合剤による液相測定法でのDPP 3活性の阻害は、以下のように決定できる:可能性のあるDPP 3捕捉結合剤を、液相測定法では組換えまたは精製された天然DPP 3基質および特定のDPP 3基質と共に培養する。好ましくは、酵素捕捉活性測定法(ECA)の捕捉結合剤として、阻害能力が最も低い結合剤を選択する。捕捉結合剤は、50%未満、好ましくは40%未満、好ましくは30%未満のDPP 3活性を阻害する必要がある。実用可能な捕捉結合剤の阻害能力を決定する特定の液相DPP 3活性測定法は、以下の工程を含む:
・25 ng/mLの天然ヒトDPP 3を5 μg/mLのそれぞれの捕捉結合剤、50 mMのトリスHCl緩衝制御剤(pH 7.5)、および100μMのZnCl2とともに室温で1時間培養する工程;
・蛍光発生基質であるArg-Arg-βNA(20μL、2 mM)を添加する工程;
・37°Cで培養しかつTwinkle LB 970マイクロプレート蛍光光度計(Berthold Technologies社)で遊離βNAの生成を1時間に亘って監視する工程;ここでβNAの蛍光は、340 nmで励起し410 nmでの発光を測定して検出する;および
・種々の試料での蛍光増分の傾き(RFU/分)を計算する工程;ここで緩衝制御剤による天然ヒトDPP 3の傾きを100%活性として指定する。実用可能な捕捉結合剤の阻害能力を、前記捕捉結合剤との培養による天然ヒトDPP 3活性の減少分として%で定義する。
【0201】
液相測定法では、体液試料を直接的に蛍光発生基質(例えばArg-Arg-β-NA)に供する。血漿中には多くの異なるアミノペプチダーゼが存在する(Sanderink et al. 1988)ので、用いた基質がDPP 3以外のペプチダーゼによって切断される可能性がある。この問題を回避するために、酵素捕捉活性測定法の活用が特定のDPP 3活性を検出する好ましい一手法となる。
【0202】
特定の一実施態様では、酵素捕捉測定法での活性DPP 3の測定は、以下の工程を含む:
・前記試料を、完全長のDPP 3に結合するが液相測定法では50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは30%にDPP 3活性を阻害する捕捉結合剤と接触させる工程;ここでDPP 3の阻害を防ぐために、捕捉結合剤は、活性中心および基質結合領域(配列番号1のアミノ酸316~669)周りの領域ではDPP 3に結合してはならない。
・前記捕捉結合剤に結合したDPP 3を体液試料から分離する工程;
・DPP 3の基質を前記分離されたDPP 3に添加する工程;および
・DPP 3の基質の変換を測定してDPP 3活性を定量する工程。
【0203】
本発明による「抗体」は、抗原に特異的に結合する免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる1種以上のポリペプチドを含むタンパク質である。認知されている免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α (IgA)、γ (IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、δ (IgD)、ε (IgE)、μ (IgM)の各定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。完全長の免疫グロブリン軽鎖は、一般に約25 kDaまたは長さが214個のアミノ酸である。
【0204】
全長免疫グロブリン重鎖は、一般に約50 kDaまたは長さが446個のアミノ酸である。軽鎖には、NH2末端の可変領域遺伝子(長さ約110個のアミノ酸)およびCOOH末端のκまたはλ定常領域遺伝子がコードされている。重鎖には、可変領域遺伝子(長さは約116個のアミノ酸)および他の定常領域遺伝子のうちの1種が同様にコードされている。
【0205】
抗体の基本的な構造単位は、一般に同じ二対の免疫グロブリン鎖からなる四量体であり、各対は1個の軽鎖および1個の重鎖を有する。各対では、軽鎖および重鎖の可変領域は抗原に結合し、定常領域はエフェクター機能を媒介する。免疫グロブリンはまた、例えば、Fv、Fab、およびF(ab’)2、ならびに二機能性ハイブリッド抗体および一本鎖を含む様々な他の形態で存在している(例えばLanzavecchia et al., Eur. J. Immunol. 17:105,1987; Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85:5879-5883, 1988; Bird et al., Science 242:423-426, 1988; Hood et al., Immunology, Benjamin, N.Y., 2nd ed., 1984; Hunkapiller and Hood, Nature 323:15-16,1986)。
【0206】
免疫グロブリンの軽鎖または重鎖可変領域は、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる3種の超可変領域によって中断されるフレームワーク領域を含む(Sequences of Proteins of Immunological Interest, E. Kabat et al., U.S. Department of Health and Human Services, 1983を参照)。上記のように、CDRは主に抗原のエピトープへの結合に関与している。免疫複合体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体などの抗体、または抗原に特異的に結合した機能的抗体断片である。
【0207】
「キメラ抗体」は、異なる種に属する免疫グロブリン可変および定常領域遺伝子から、典型的には遺伝子操作によってその軽鎖遺伝子および重鎖遺伝子が構築された抗体である。例えば、マウスモノクローナル抗体からの遺伝子の可変区画は、κおよびγ1またはγ3などのヒト定常区画に結合できる。従って一例では、治療用キメラ抗体は、マウス抗体からの可変ドメインまたは抗原結合ドメインおよびヒト抗体からの定常ドメインまたはエフェクタードメインから構成されるハイブリッドタンパク質であるが、他の哺乳動物種も使用でき、または可変領域を分子技術によっても生成できる。キメラ抗体を作製する方法は当技術分野で周知であり、例えば米国特許第5,807,715号を参照のこと。「ヒト化」免疫グロブリンは、ヒトフレームワーク領域および(マウス、ラット、または合成などの)非ヒト免疫グロブリンからの1種以上のCDRを含む免疫グロブリンである。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンを「供与体」と呼び、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンを「受容体」と呼ぶ。
【0208】
本発明の一実施態様では、全てのCDRは、ヒト化免疫グロブリン中の供与体免疫グロブリンに由来する。定常領域は存在する必要はないが、存在する場合には、それらはヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一、すなわち少なくとも約85~90%、例えば約95%以上同一である必要がある。従って、できる限りCDRを除いたヒト化免疫グロブリンの全部分は、天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。
【0209】
本発明に従う「ヒト化抗体」は、ヒト化軽鎖免疫グロブリンおよびヒト化重鎖免疫グロブリンを含む抗体である。ヒト化抗体は、CDRを提供する供与体抗体と同一の抗原に結合する。ヒト化免疫グロブリンまたは抗体の受容体フレームワークは、供与体フレームワークから採取されたアミノ酸による限られた数の置換を有してもよい。ヒト化抗体またはその他のモノクローナル抗体は、抗原結合または他の免疫グロブリン機能に実質的に影響を及ぼさない追加の保存的アミノ酸置換を持っていてもよい。保存的置換の例としては、gly、ala;val、ile、leu;asp、glu;asn、gln;ser、thr;lys、arg;およびphe、tyrなどの置換である。ヒト化免疫グロブリンは、遺伝子操作によって構築できる(例えば米国特許第5,585,089号を参照)。ヒト抗体は、軽鎖および重鎖の遺伝子がヒト由来である抗体である。ヒト抗体は、当技術分野で既知の方法を用いて生成できる。ヒト抗体は、目的の抗体を分泌するヒトB細胞を不死化して生成できる。不死化を、例えばEBV感染によって、またはヒトB細胞を骨髄腫細胞またはハイブリドーマ細胞と融合させて達成して、トリオーマ細胞を生成できる。ヒト抗体は、ファージディスプレイ法(例えば、DowerらのPCT出願WO 91/17271号;McCaffertyらのPCT出願WO 92/001047号;およびWinterのPCT出願WO 92/20791号を参照)によっても生成でき、またはヒト組合せモノクローナル抗体ライブラリー(MorpHosysウェブサイトを参照)から選択できる。ヒト抗体はまた、ヒト免疫グロブリン遺伝子を保有する遺伝子組換え動物(例えば、LonbergらのPCT出願WO 93/12227号;およびKucherlapatiのPCT出願WO 91/10741号を参照)を用いて調製できる。
【0210】
従って、本発明に従う抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片は、当技術分野で既知の形式を有してもよい。それらの例としては、限定はされないが、ヒト抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、またはそれらの抗体断片である。
【0211】
本発明の特定の実施態様では、抗DPP 3抗体は、モノクローナル抗体またはその断片である。本発明の一実施態様では、抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片は、ヒト抗体またはヒト化抗体であるか、またはそれらに由来する。特定の一実施態様では、1種以上の(マウス)CDRは、ヒト抗体または抗体断片に移植される。
【0212】
好ましい実施態様では、本発明による抗体は、例えば、IgG、典型的な完全長免疫グロブリン、または少なくとも重鎖および/または軽鎖のF可変ドメインを含む抗体断片のような組換え的に生成された抗体;例えば、限定はされないが、Fabミニボディ、一本鎖Fab抗体、Fab-V5Sx2などのエピトープタグを有する一価Fab抗体を含むFab断片を含む化学的に結合された抗体(断片抗原結合);CH3ドメインで二量体化された二価Fab(ミニ抗体);例えばFab-dHLX-FSx2などのdHLXドメインの二量体化を介して、例えば異種ドメインの助けを借りて多量体化を介して形成された二価Fabまたは多価Fab;F(ab’)2断片、scFv断片、多量体化された多価および/または多重特異性scFv断片、二価および/または二重特異性抗体、BITE(登録商標)(二重特異性T細胞エンゲージャー)、例えばGとは異なる部類からの三官能性抗体、多価抗体;ラクダや魚の免疫グロブリンなどに由来するナノボディなどの単一ドメイン抗体;および多数のその他の抗体である。
【0213】
抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片に加えて、他の生体高分子足場、いわゆる非Ig足場は、標的分子を複合化することが当技術分野では周知であり、高度に標的特異的な生体高分子の生成に用いられてきた。例としては、アプタマー、シュピーゲルマー、アンチカリン、コノトキシンがある。
【0214】
本発明の環境での非Ig足場は、タンパク質足場であってもよく、それらがリガンドまたは抗原に結合できるように抗体模倣物として用いてもよい。非Ig足場は、テトラネクチン系非Ig足場(例えばUS 2010/0028995号に開示);フィブロネクチン足場(例えばEP 1266 025号に開示);リポカリン系足場(例えばWO 2011/154420号に開示);ユビキチン足場(例えばWO 2011/073214号に開示);移動足場(例えばUS 2004/0023334号に開示);プロテインA足場(例えばEP 2231860号に開示)、アンキリン反復系足場(例えばWO 2010/060748号に開示);微小タンパク質(好ましくは、シスチンノットを形成する微小タンパク質)足場(例えばEP 2314308号に開示);Fyn SH3ドメイン系足場(例えばWO 2011/023685号に開示);EGFR-Aドメイン系足場(例えばWO 2005/040229号に開示);およびクニッツドメイン系足場(例えば、EP 1941867号に開示)を含む群から選択されてもよい。非Ig足場は、ペプチドまたはオリゴヌクレオチドアプタマーであってもよい。アプタマーは通常、大型の無作為配列の集合物から選択して形成され、オリゴヌクレオチドの短鎖(DNA、RNA、またはXNA;Xu et al. 2010, Deng et al. 2014)またはタンパク質足場に結合した短鎖可変ペプチドドメイン(Li et al. 2011)のいずれかであってもよい。
【0215】
別の実施態様では、抗DPP 3抗体形式は、Fv断片、scFv断片、Fab断片、scFab断片、F(ab)2断片、およびscFv-Fc融合タンパク質を含む群から選択される。別の好ましい実施態様では、抗体形式は、scFab断片、Fab断片、scFv断片、およびPEG化断片などのそれらの生体利用能を最適化した共役体を含む群から選択される。
【0216】
本発明の環境での用語「抗体」は、一般にモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体ならびにそれらの結合断片、特にFc断片ならびにいわゆる「一本鎖抗体」(Bird et al. 1988)、キメラヒト化抗体、特にCDR移植抗体、および二重特異性抗体または四重特異性抗体(Holliger et al. 1993)を含む。また、例えば試料中に含まれる目的の分子に特異的に結合するためのファージディスプレイを含む技術によって選択される免疫グロブリン様タンパク質も含まれる。本環境での用語「特異的結合」は、目的の分子またはその断片に対して育成された抗体を指す。抗体は、目的の分子またはその前述の断片に対する親和性が、目的の分子を含有する試料中に含まれる他の分子に対する親和性よりも少なくとも好ましくは50倍高く、より好ましくは100倍高く、最も好ましくは少なくとも1000倍高い場合に特異的であると見做される。抗体を作製する方法および所定の特異性を有する抗体を選択する方法は、当技術分野では周知である。
【0217】
本発明の特定の実施態様では、配列番号2に従うエピトープに結合する前記抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片において、前記エピトープは、DPP 3タンパク質中に含まれるか、またはその機能的誘導体は、モノクローナル抗体またはそのモノクローナル抗体断片である。本発明の一実施態様では、抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片は配列番号2に従うエピトープに結合し、前記エピトープは、DPP 3タンパク質中に含まれるか、またはその機能的誘導体は、ヒト抗体またはヒト化抗体でありまたはそれに由来し、またはヒト化抗体断片でありまたはそれに由来している。
【0218】
ある特定の態様において、1種以上の(マウス)CDRはヒト抗体または抗体断片に移植される。
【0219】
本発明の別の側面では、提供する主題は、配列番号2に従うエピトープを対象としかつそのエピトープに結合しているヒトCDR移植抗DPP 3抗体またはその抗DPP 3抗体断片であり、前記エピトープは、DPP 3タンパク質またはその機能的誘導体内に含まれ、そして前記ヒトCDR移植抗DPP 3抗体またはその抗DPP 3抗体断片は、配列番号4を含む抗体重鎖可変領域(H鎖)を含み、かつ/または配列番号5を含む抗体軽鎖可変領域(L鎖)をさらに含む。
【0220】
別の側面での本発明のさらなる主題は、配列番号2に従うエピトープを対象としかつそエピトープに結合しているヒトCDR移植抗DPP 3抗体またはその抗DPP 3抗体断片であり、前記エピトープは、DPP 3タンパク質またはその機能的誘導体内に含まれ、前記ヒトCDR移植抗DPP 3抗体またはその抗DPP 3抗体断片は、配列番号11を含む抗体重鎖可変領域(H鎖)を含み、かつ/または配列番号12を含む抗体軽鎖可変領域(L鎖)をさらに含む。
【0221】
本発明の特定の態様において、本発明の主題は、配列番号2に従うエピトープを対象としかつそのエピトープに結合しているヒトCDRモノクローナル抗DPP 3抗体またはモノクローナル抗DPP 3抗体断片であり、前記エピトープは、DPP 3タンパク質またはその機能的誘導体内に含まれ、その重鎖は、配列番号6、配列番号7、または配列番号8のうちの少なくとも1種のCDRを含み、その軽鎖は、配列番号9、KVS、または配列番号10のうちの少なくとも1種のCDRを含む。
【0222】
前記対象の体液試料中のDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性を、種々の方法、例えば免疫測定法、活性測定法、質量分光測定法などによって測定してもよい。
【0223】
前記対象の体液試料中のDPP 3タンパク質の量および/またはDPP 3活性を、例えば、以下に詳述する方法のうちの1種によって測定してもよい。
【0224】
1.DPP 3タンパク質濃度を定量するための発光免疫測定法(LIA)(Rehfeld et al. 2019 JALM 3(6):943-953)。
LIAは、固相として白色の高結合ポリスチレン製マイクロタイタープレートを用いる一工程による化学発光サンドイッチ免疫測定法である。これらのプレートを、モノクローナル抗DPP 3抗体であるAK2555(捕捉抗体)により被覆する。トレーサー抗DPP 3抗体であるAK2553を、MA70-アクリジニウム-NHS-エステルで標識し、ウェル当たり20 ngの濃度で使用する。20 μLの試料(例えば、患者の血液に由来する血清、ヘパリン血漿、クエン酸血漿、またはEDTA血漿)と検量試料を、被覆された白色のマイクロタイタープレート内にピペットで入れる。トレーサー抗体であるAK2553を加えた後に、マイクロタイタープレートを室温かつ600 rpmで3時間培養する。次に未結合のトレーサーを4回の洗浄工程(ウェル当たり350 μL)で除去する。残留物の化学発光を、マイクロタイタープレート照度計を用いてウェル当たり1秒間で測定する。DPP 3の濃度を、6点の検量線を用いて決定する。検量試料と試料を並行して測定するのが好ましい。
【0225】
2.DPP 3活性を定量するための酵素捕捉活性測定法(ECA)(Rehfeld et al. 2019 JALM 3(6):943-953)。
ECAは、固相として黒色の高結合ポリスチレン製マイクロタイタープレートを用いるDPP 3特異的活性測定法である。これらのプレートを、モノクローナル抗DPP 3抗体であるAK2555(捕捉抗体)により被覆する。20 μLの試料(例えば、血清、ヘパリン血漿、クエン酸血漿、EDTA血漿、脳脊髄液、および尿)および検量試料を、被覆された黒色のマイクロタイタープレート内にピペットで入れる。測定緩衝液(200 μL)を加えた後に、マイクロタイタープレートを22℃かつ600 rpmで2時間培養する。試料中に存在するDPP 3を、捕捉抗体に結合させて固定化する。未結合の試料成分を、4回の洗浄工程(ウェル当たり350 μL)で除去する。固定化されたDPP 3の比活性を、蛍光発生基質であるArg-Arg-β-ナフチルアミド(Arg2-βNA)を反応緩衝液に添加した後に37°Cで1時間培養して測定する。DPP 3は、Arg2-βNAをArg-Argジペプチドと蛍光β-ナフチルアミンに特異的に切断する。蛍光を340 nmの励起波長を用いる蛍光光度計で測定し、発光を410 nmで検出する。DPP 3の活性を、6点の検量線を用いて決定する。検量試料と試料を並行して測定するのが好ましい。
【0226】
3.DPP 3活性を定量するための液相測定法(LAA)(Jones et al., Analytical Biochemistry, 1982から改変)。
LAAは、黒色の非結合ポリスチレン製マイクロタイタープレートを用いてDPP 3活性を測定する液相測定法である。20 μLの試料(例えば、血清、ヘパリン血漿、クエン酸血漿)と検量試料を非結合の黒色マイクロタイタープレート内にピペットで入れる。測定緩衝液(200 μL)中に蛍光基質であるArg2-βNAを加えた後に、初期のβNA蛍光(T=0)を340 nmの励起波長を用いる蛍光光度計で測定し、発光を410 nmで検出する。次にプレートを37℃で1時間培養する。最終の蛍光(T=60)を測定する。最終の蛍光と初期の蛍光の差を計算する。DPP 3の活性を6点の検量線を用いて決定する。検量試料と試料を並行して測定するのが好ましい。
【0227】
様々な免疫測定法が既知であり、かつ本発明の測定法および方法に使用でき、これらの方法には、放射免疫測定法(「RIA」)、均一酵素多重免疫測定法(「EMIT」)、酵素結合免疫吸着測定法(「ELISA」)、アポ酵素再活性化免疫測定法(「ARIS」)、化学発光測定法および蛍光免疫測定法、Luminexに基づくビーズアレイ測定法、タンパク質マイクロアレイ測定法、および即時免疫クロマトグラフィー薄片試験(「計量棒免疫測定法」)および免疫クロマトグラフィー測定法などの迅速試験方式が含まれる。
【0228】
本発明の一実施態様では、このような測定法は、限定はされないが、酵素標識、化学発光標識、電気化学発光標識、好ましくは完全自動測定法を含む任意の種類の検出技術を用いるサンドイッチ免疫測定法である。本発明の一実施態様では、このような測定法は、酵素標識サンドイッチ測定法である。自動化または完全自動化測定法の例には、Roche Elecsys(登録商標)、Abbott Architect(登録商標)、Siemens Centauer(登録商標)、Brahms Kryptor(登録商標)、Biomerieux Vidas(登録商標)、Alere Triage(登録商標)のうちのいずれか1種のシステムに使用できる測定法が含まれる。
【0229】
本発明の一実施態様では、その試験法は、いわゆるPOC試験(臨床現場即時試験)であってもよく、この試験法は、完全に自動化された測定システムを必要とせずに患者の近傍で1時間未満以内に試験を実施することを可能とする試験技術である。この技術の一例は、免疫クロマトグラフィー試験技術である。
【0230】
本発明の特定の実施態様では、前記POC試験は、同時に複数の検体の測定を組み合わせる。本発明の別の特定の実施態様では、前記検体は、DPP 3およびプロアドレノメデュリンまたはそれらの断片の群から選択される。本発明のさらに特定の実施態様では、前記POC試験は、DPP 3と成熟ADMの測定を組み合わせる。
【0231】
本発明の一実施態様では、検出のために結合剤のうちの少なくとも1つを標識する。
【0232】
好ましい実施態様では、前記標識は、化学発光標識、酵素標識、蛍光標識、放射性ヨウ素標識を含む群から選択される。
【0233】
測定法は、同種または異種の測定、競合型および非競合型の測定法であってもよい。一実施態様では、この測定法は、非競合型免疫測定法であるサンドイッチ測定法の一形態であり、検出および/または定量される分子は、一次抗体および二次抗体に結合される。一次抗体は、ビーズ、ウェルまたは他の容器の表面、小片または薄片などの固相に結合してもよく、二次抗体は、色素、放射性同位元素、または反応性または触媒活性部分により標識された抗体である。次に検体に結合した標識抗体の量を適切な方法により測定する。「サンドイッチ測定法」に関連する標準的な組成物および手順は十分に確立されており、当業者に知られている(The Immunoassay Handbook, Ed. David Wild, Elsevier LTD, Oxford; 3rd ed. (May 2005), ISBN-13: 978-0080445267; Hultschig C et al., Curr Opin Chem Biol. 2006 Feb;10(1):4-10. PMID: 16376134)。
【0234】
別の実施態様では、測定法は、2個の捕捉分子、好ましくは両方とも液体反応混合物中に分散物として存在する抗体を含み、第1の標識成分は第1の捕捉分子に付着し、前記第1の標識成分は蛍光発光または化学発光の消光または増幅に基づく標識システムの一部であり、および前記マーキングシステムの第2の標識成分は第2の捕捉分子に付着し、その結果、両方の捕捉分子が検体に結合すると、測定可能な信号が生成されて試料を含む溶液中の形成されたサンドイッチ複合体の検出が可能になる。
【0235】
別の実施態様では、前記標識システムは、蛍光色素または化学発光色素、特にシアニン型の色素と組み合わせた希土類クリプテートまたは希土類キレートを含む。
【0236】
本発明の環境では、蛍光に基づく測定法は、色素の使用を含み、この色素は、例えば、FAM(5または6-カルボキシフルオレセイン)、VIC、NED、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)、IRD-700/800、CY3、CY5、CY3.5、CY5.5、Cy7などのシアニン色素、キサンテン、6-カルボキシ-2’,4’,7’,4,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、TET、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトジフルオレセイン(JOE)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、5-カルボキシローダミン-6G(R6G5)、6-カルボキシローダミン-6G(RG6)、ローダミン、ローダミングリーン、ローダミンレッド、ローダミン110、BODIPY TMRなどのBODIPY色素、オレゴングリーン、ウンベリフェロンなどのクマリン、ヘキスト33258などのベンズイミド、テキサスレッドなどのフェナントリジン、ヤキマイエロー、アレクサフルオロ、PET、臭化エチジウム、アクリジニウム色素、カルバゾール色素、フェノキサジン色素、ポルフィリン色素、ポリメチン色素などを含む群から選択されてもよい。
【0237】
本発明の環境で、化学発光に基づく測定法は、(参照により本明細書に組み込まれるKirk-Othmer, Encyclopedia of chemical technology, 4th ed., executive editor, J. I. Kroschwitz; editor, M. Howe-Grant, John Wiley & Sons, 1993, vol.15, p. 518-562、p. 551-562の引用を含む)内の化学発光材料について説明された物理原理に基づく色素の使用を含む。好ましい化学発光色素はアクリジニウムエステルである。
【0238】
本明細書に述べるように、「測定法」または「診断測定法」は、診断の分野に適合するいずれの形態の測定法であってもよい。そのような測定法は、特定の親和性を備える1種以上の捕捉プローブへの検出検体の結合に基づいてもよい。捕捉分子と標的分子すなわち目的の分子との間の相互作用に関して、親和定数は好ましくは108 M-1より大きい。
【0239】
DPP 3活性は、DPP 3特異性基質の切断産物を検出して測定できる。
【0240】
既知のペプチドホルモン基質には、ロイシンエンケファリン、メチオニンエンケファリン、エンドモルフィン1および2、バロルフィン、β-カソモルフィン、ダイノルフィン、プロクトリン、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)、およびMSH(メラノサイト刺激ホルモン;Abramic et al. 2000, Barsun et al. 2007, Dhanda et al. 2008)が含まれる。前記ペプチドホルモンならびに他のタグなしオリゴペプチド(例えば、Ala-Ala-Ala-Ala、Dhanda et al. 2008)の切断は、それぞれの切断産物を検出することで監視できる。検出法には、限定はされないが、HPLC分析(例えばLee & Snyder 1982)、質量分析(例えばAbramic et al. 2000)、H1-NMR分析(例えばVandenberg et al. 1985)、キャピラリーゾーン電気泳動(CE;例えばBarsun et al. 2007)、薄層クロマトグラフィー(例えばDhanda et al. 2008)、または逆相クロマトグラフィー(例えばMazocco et al. 2006)が含まれる。
【0241】
DPP 3による蛍光発生基質の加水分解による蛍光の検出は、DPP 3活性を監視するための標準的な手順である。これらの基質は、蛍光体に結合した特定のジペプチドまたはトリペプチド(Arg-Arg、Ala-Ala、Ala-Arg、Ala-Phe、Asp-Arg、Gly-Ala、Gly-Arg、Gly-Phe、Leu-Ala、Leu-Gly、Lys-Ala、Phe-Arg、Suc-Ala-Ala-Phe)である。蛍光体には、限定はされないが、β-ナフチルアミド(2-ナフチルアミド、βNA、2NA)、4-メトキシ-β-ナフチルアミド(4-メトキシ-2-ナフチルアミド)、および7-アミド-4-メチルクマリン(AMC、MCA;Abramic et al. 2000, Ohkubo et al. 1999)が含まれる。これらの蛍光発生基質の切断は、それぞれ蛍光β-ナフチルアミンまたは7-アミノ-4-メチルクマリンの放出に繋がる。液相測定法では、ECA基質およびDPP 3を例えば96ウェルプレート形式で培養し、蛍光を蛍光検出器(Ellis & Nuenke 1967)を用いて測定する。さらにDPP 3を保持する試料は、電気泳動によるゲル、蛍光基質(Arg-Arg-βNAなど)およびファストガーネットGBCで染色されたゲルに固定かつ分割でき、蛍光タンパク質帯を蛍光読込器(Ohkubo et al. 1999)によって検出する。同一のペプチド(Arg-Arg、Ala-Ala、Ala-Arg、Ala-Phe、Asp-Arg、Gly-Ala、Gly-Arg、Gly-Phe、Leu-Ala、Leu-Gly、Lys-Ala、Phe-Arg、Suc-Ala-Ala-Phe)は、p-ニトロアニリド二酢酸塩などの発色団に結合できる。発色性基質の加水分解による色変化の検出を使用して、DPP 3活性を監視できる。
【0242】
DPP 3活性を検出するための別の選択肢は、(Promega社より市販されている)Protease-Glo(商標)測定法である。前記方法のこの実施態様では、DPP 3特異的ジペプチドまたはトリペプチド(Arg-Arg、Ala-Ala、Ala-Arg、Ala-Phe、Asp-Arg、Gly-Ala、Gly-Arg、Gly-Phe、Leu-Ala、Leu-Gly、Lys-Ala、Phe-Arg、Suc-Ala-Ala-Phe)は、アミノルシフェリンに結合している。DPP 3によって切断されると、アミノルシフェリンが放出され、検出可能な発光を放射する結合ルシフェラーゼ反応の基質として機能する。
【0243】
好ましい実施態様では、DPP 3活性を、蛍光発生基質であるArg-Arg-βnaを添加して蛍光の即時監視によって測定する。
【0244】
対象の体液試料中の活性DPP 3を測定する前記方法の特定の実施態様では、DPP 3に反応する前記捕捉結合剤を固相に固定する。
【0245】
試験試料を固定した結合剤を通して、DPP 3が存在する場合は結合剤に結合し、かつそれ自体を検出のために固定する。次に基質を添加してもよく、反応生成物を検出して試験試料中のDPP 3の存在または量を検出できる。本明細書の目的のための用語「固相」には、測定をその内部またはその表面で実施できる任意の材料または容器を含むように用いてもよく、限定はされないが、多孔質材料、非多孔質材料、試験管、ウェル、スライド、アガロース樹脂(例えば、GE Healthcare Life Sciences社のセファロース)、磁性粒子(例えば、Thermo Fisher Scientific社のDynabeads(商標)またはPierce(商標)磁気ビーズ)などを含む。
【0246】
タンパク質またはペプチド起源の結合剤(例えば、抗体、抗体断片、非Ig足場)は、(例えば静電相互作用または疎水性相互作用による)物理的吸着、生体親和性の固定(例えば、アビジン-ビオチン、プロテインA/G/L、Hisタグ、およびNi2+-NTA、GSTタグおよびグルタチオン、DNAハイブリッド化、アプタマー)、共有結合(例えばアミンおよびN-ヒドロキシスクシンイミド)、または前記固定方法の組合せ(Kim & Herr 2013)を含む方法によって固相に固定される。オリゴヌクレオチド由来の結合剤(例えばアプタマー)は、(ストレプト)アビジン-ビオチン系(Muller et al. 2012, Deng et al. 2014)を利用して固相に固定してもよい。
【0247】
対象の体液試料中のDPP 3活性を測定する前記方法の特定の実施態様では、前記分離工程は、捕捉されたDPP 3から前記捕捉結合剤に結合していない試料の成分を除去する洗浄工程である。その分離工程は、前記捕捉結合剤に結合したDPP 3を前記体液試料の成分から分離する他の任意の工程であってもよい。
【0248】
対象の体液試料中のDPP 3活性を測定する前記方法の特定の実施態様では、固定化DPP 3による前記DPP 3基質の変換を、蛍光発生基質の蛍光(例えば、Arg-Arg-βNA、Arg-Arg-AMC)、発色性基質の色変化、アミノルシフェリンに結合した基質の発光(Promega社のProtease-Glo(商標)測定法)、質量分析、HPLC/FPLC(逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー)、薄層クロマトグラフィー、キャピラリーゾーン電気泳動、ゲル電気泳動それに続く活性染色(固定化された活性DPP 3)またはウエスタンブロット(切断産物)を含む群から選択される方法によって測定(検出)する。
【0249】
対象の体液試料中のDPP 3活性を測定する前記方法の特定の実施態様では、前記基質は、ロイシンエンケファリン、メチオニンエンケファリン、エンドモルフィン1および2、バロルフィン、β-カソモルフィン、ダイノルフィン、プロクトリン、ACTHおよびMSH、または蛍光体、発色団またはアミノルシフェリン(Promega社のProtease-Glo(商標)測定法)に結合したジペプチドおよびトリペプチドを含む群から選択されてもよい。DPP 3によって切断されるジペプチドまたはトリペプチドには、限定はされないが、Arg-Arg、Ala-Ala、Ala-Arg、Ala-Phe、Asp-Arg、Gly-Ala、Gly-Arg、Gly-Phe、Leu-Ala、Leu-Gly、Lys-Ala、Phe-Arg、Suc-Ala-Ala-Pheが含まれる。蛍光体には、限定はされないが、β-ナフチルアミド(2-ナフチルアミド、βNA、2NA)、4-メトキシ-β-ナフチルアミド(4-メトキシ-2-ナフチルアミド)および7-アミド-4-メチルクマリン(AMC、MCA;Abramic et al. 2000, Ohkubo et al. 1999)が含まれる。これらの蛍光発生基質の切断は、それぞれ蛍光β-ナフチルアミンまたは7-アミノ-4-メチルクマリンの放出に繋がる。発色団には、限定はされないが、p-ニトロアニリド二酢酸塩(pNA)が含まれる。発色基質内のペプチド-pNA結合の加水分解により、pNAが放出され色が変化する。従って、吸光度の変化(DA/分)は酵素活性に正比例する。Promega社のProtease-Glo(商標)測定法を使用すると、DPP 3による切断時にアミノルシフェリンが放出され、かつ検出可能な発光を放射する結合ルシフェラーゼ反応の基質として機能する。
【0250】
本発明の主題はまた、難治性ショック症を発症した対象での有害事象の結果および/またはリスクを予後判定する方法であり、該方法は、
・前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度を測定する工程;
・測定されたDPP 3の前記濃度を所定の閾値と比較する工程、
・前記DPP 3の濃度を、前記対象での前記有害事象のリスクと関連付ける工程であって、特定の閾値を超える濃度上昇は、前記有害事象のリスクの増大を予知する工程、又は、
・前記DPP 3の濃度を、前記対象での治療または介入の成功と関連付ける工程であって、特定の閾値を下回る濃度は、治療または介入の成功を予知する工程
を含む。
【0251】
本発明の文脈中の用語「予後」は、患者の病状が如何に進行するかを予知することを指す。この用語は、回復の見込みまたは前記患者の有害事象の見込みの推定を含みうる。有害事象は、臓器機能障害または死亡率として定義される。臓器機能障害は、腎機能低下、心機能障害、または肝機能障害として定義される。
【0252】
本発明のさらなる実施態様は、以下に示す通りである。
1.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、該方法は、
・前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度を測定する工程
・前記測定されたDPP 3の濃度を所定の閾値と比較する工程、を含み、
前記対象は、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に、難治性ショック症に陥っていると予知される、または難治性ショック症を患っていると診断される。
2.実施態様1に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、前記ショック症は、循環血液量減少性ショック症、心原性ショック症、血管閉塞性ショック症、および血液分布異常性ショック症、特に心原性ショック症または敗血症性ショック症を含む群から選択される。
3.実施態様1および2に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、
・心原性ショック症の場合には、前記対象は、急性冠状動脈症候群(例えば急性心筋梗塞)を患っている可能性がある、または前記対象は、心不全(例えば急性非代償性心不全)、心筋炎、不整脈、心筋症、心臓弁膜症、急性大動脈弁狭窄を伴う大動脈解離、外傷性腱索断裂、または広範型肺塞栓症を患っている、または
・循環血液量減少性ショック症の場合には、前記対象は、胃腸出血、外傷、血管病因(例えば、腹部大動脈瘤の破裂、主要血管への腫瘍の侵食)、および抗凝血剤の使用環境での自発出血を含む出血性疾患、または嘔吐、下痢、腎不全、腎性喪失、皮膚喪失/無自覚の損傷(例えば火傷、熱射病)、または膵炎、肝硬変、腸閉塞、外傷の環境でのサードスペースの損失を含む非出血性疾患を患っている可能性がある、または
・血管閉塞性ショック症の場合には、前記患者は、心タンポナーデ、緊張性気胸症、肺塞栓症、または大動脈弁狭窄症を患っている可能性がある、または
・血液分布異常性ショック症の場合には、前記患者は、敗血症性ショック症、神経原性ショック症、アナフィラキシーショック症、または副腎クリーゼによるショック症を患っている可能性がある。
4.実施態様1~3に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、該方法は、治療の開始および/または終了および/または層別化および/または誘導に使用される。
5.実施態様1~4のいずれかに従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に開始および/または維持および/または保留および/または終了する。
6.実施態様5に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、前記治療は、昇圧剤、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体、DPP 3活性の阻害剤、および抗アドレノメデュリン抗体または抗アドレノメデュリン抗体断片の群から選択される。
7.実施態様1~6のいずれかに従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、DPP 3タンパク質の濃度および/または活性DPP 3の濃度のいずれかを測定して、所定の閾値と比較する。
8.実施態様1~7のいずれかに従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、DPP 3の濃度を、DPP 3に特異的に結合する捕捉結合剤と前記体液試料を接触させて測定する。
9.実施態様8に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、DPP 3の濃度を測定するための前記捕捉結合剤は、抗体、抗体断片、または非IgG足場の群から選択されてもよい。
10.実施態様8~9に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、前記捕捉結合剤は抗体である。
11.実施態様8~10に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、前記捕捉結合剤はモノクローナル抗体である。
12.実施態様1~11に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、前記体液試料は、全血、血漿、および血清の群から選択される。
13.実施態様1~12に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、診断または予知する該方法は、少なくとも2回実行される。
14.実施態様1~13に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/または終了する。
15.実施態様1~13に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、昇圧剤による治療を、前記試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
16.実施態様14~15に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
17.実施態様14に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、抗ADM抗体または抗ADM抗体断片および/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超え、かつ前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定のDPP 3の閾値を超える場合に開始および/または継続する。
18.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤であって、前記対象は、実施形態1~17のいずれかに従う方法によって測定される場合に、前記対象の体液試料中に所定の閾値を下回るDPP3の濃度を有する。
19.実施態様18に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤であって、前記昇圧剤は、ドーパミン、ノルエピネフリン、ノルエピネフリン同等物、エピネフリン、フェニレフリン、およびバソプレッシンを含む群から選択される。
20.実施態様18または19に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤であって、前記昇圧剤は、医薬製剤として前記対象に投与される。
21.実施態様18~20のいずれかに従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤であって、前記対象の血圧は65 mm Hg以下である。
22.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、前記対象は、実施態様1~17のいずれかに従う方法によって測定される場合に前記対象の体液試料中に所定の閾値を超えるDPP3濃度を有する。
23.実施態様22に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、DPP 3活性の阻害剤は、抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片または抗DPP 3非Ig足場を含む群から選択される。
24.実施態様22および23に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、前記阻害剤は、10-7 M以下のDPP 3に対する最小結合親和性を有する。
25.実施態様22~24のいずれかに従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、DPP 3活性の阻害剤は抗体である。
26.実施態様22~25のいずれかに従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、前記阻害剤はモノクローナル抗体である。
27.実施態様22~26のいずれかに従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、前記阻害剤はモノクローナル抗体であり、その重鎖内の相補性決定領域(CDR)は、配列番号7、配列番号8、および/または配列番号9の配列を含み、その軽鎖内の相補性決定領域(CDR)は、配列番号10、KVS、および/または配列番号11の配列を含む。
28.実施態様22~27のいずれかに従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、前記阻害剤は、ヒト化モノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体断片であり、その重鎖は配列番号12を含み、その軽鎖は配列番号13を含む。
29.実施態様22~28のいずれかに従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、前記阻害剤を、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体と組み合わせて投与する。
30.実施態様29に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体は、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、アンジオテンシンIII、アンジオテンシンIVを含む群から選択され、特にアンジオテンシンIIである。
31.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤であって、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記対象の試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/または終了する。
32.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤であって、前記昇圧剤による治療を、前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
33.実施態様32に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤であって、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度濃度を測定し、抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
34.実施態様31に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤であって、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
35.実施態様33~34に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する抗ADM抗体または抗ADM抗体断片であって、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体および/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超えかつ前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定のDPP 3の閾値を超える場合に開始および/または継続する。
36.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記対象は、実施態様1~17のいずれかに従う方法によって測定される場合に前記対象の体液試料中に所定の閾値を下回るDPP 3の濃度を有する。
37.実施態様35に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記昇圧剤は、ドーパミン、ノルエピネフリン、ノルエピネフリン同等物、エピネフリン、フェニレフリン、およびバソプレシンを含む群から選択される。
38.実施態様35~36に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記昇圧剤は、医薬製剤として前記対象に投与される。
39.実施態様35~37に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記対象の血圧は65 mm Hg以下である。
40.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記対象は、実施態様1~17のいずれかに従う方法によって測定される場合に前記対象の体液試料中に所定の閾値を超えるDPP 3の濃度を有する。
41.実施態様39に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記DPP 3活性の阻害剤は、抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片または抗DPP 3非Ig足場を含む群から選択される。
42.実施態様39~40に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記阻害剤は10-7 M以下のDPP 3への最小結合親和性を有する。
43.実施態様39~41に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記DPP 3活性の阻害剤は抗体である。
44.実施態様39~42に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記DPP 3活性の阻害剤はモノクローナル抗体である。
45.実施態様39~43に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記阻害剤はモノクローナル抗体であり、その重鎖の相補性決定領域(CDR)は、配列番号7、配列番号8、および/または配列番号9の配列を含み、その軽鎖の相補性決定領域(CDR)は、配列番号10、KVS、および/または配列番号11の配列を含む。
46.実施態様39~44に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記阻害剤は、ヒト化モノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体断片であり、その重鎖は配列番号12の配列を含み、その軽鎖は配列番号13の配列を含む。
47.実施態様39~45に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記阻害剤を、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体と組み合わせて投与する。
48.実施態様39~46に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体は、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、アンジオテンシンIII、アンジオテンシンIVを含む群から選択され、特にアンジオテンシンIIである。
49.実施態様39~47に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記対象の試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/または終了する。
50.実施態様35~38に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記昇圧剤による治療を、前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
51.実施態様49に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
52.実施態様50に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
53.実施態様51および52に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に抗ADM抗体または抗ADM抗体断片を投与することを含み、かつプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
54.実施態様51~53に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に抗ADM抗体または抗ADM抗体断片を投与することを含み、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体および/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超えかつ前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定のDPP 3の閾値を超える場合に開始および/または継続する。
【0253】
上述の内容とともに以下の連続的に付番した実施態様は、本発明のさらなる特定の側面を提供する。
1.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、該方法は、
・前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度を測定する工程、および
・前記測定されたDPP 3の濃度を所定の閾値と比較する工程を含み、
前記対象は、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に、難治性ショック症に陥っていると予知される、または難治性ショック症を患っていると診断される。
2.実施態様1に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、前記ショック症は、循環血液量減少性ショック症、心原性ショック症、血管閉塞性ショック症、および血液分布異常性ショック症、特に心原性ショック症または敗血症性ショック症を含む群から選択される。
3.実施態様1および2に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、
・心原性ショック症の場合には、前記対象は、急性冠状動脈症候群(例えば急性心筋梗塞)を患っている可能性がある、または前記対象は、心不全(例えば急性非代償性心不全)、心筋炎、不整脈、心筋症、心臓弁膜症、急性大動脈弁狭窄を伴う大動脈解離、外傷性腱索断裂、または広範型肺塞栓症を患っている、または
・循環血液量減少性ショック症の場合には、前記対象は、胃腸出血、外傷、血管病因(例えば、腹部大動脈瘤の破裂、主要血管への腫瘍の侵食)、および抗凝血剤の使用環境での自発出血を含む出血性疾患、または嘔吐、下痢、腎不全、腎性喪失、皮膚喪失/無自覚の損傷(例えば火傷、熱射病)、または膵炎、肝硬変、腸閉塞、外傷の環境でのサードスペースの損失を含む非出血性疾患を患っている可能性がある、または
・血管閉塞性ショック症の場合には、前記患者は、心タンポナーデ、緊張性気胸症、肺塞栓症、または大動脈弁狭窄症を患っている可能性がある、または
・血液分布異常性ショック症の場合には、前記患者は、敗血症性ショック症、神経原性ショック症、アナフィラキシーショック症、または副腎クリーゼによるショック症を患っている可能性がある。
4.実施態様1~3に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、該方法は、治療の開始および/または終了および/または層別化および/または誘導に使用される。
5.実施態様1~4のいずれかに従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に開始および/または維持および/または保留および/または終了する。
6.実施態様5に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、前記治療は、昇圧剤、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体、DPP 3活性の阻害剤、および抗アドレノメデュリン抗体または抗アドレノメデュリン抗体断片の群から選択される。
7.実施態様1~6のいずれかに従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、DPP 3タンパク質の濃度および/または活性DPP 3の濃度のいずれかを測定して所定の閾値と比較し、DPP 3の濃度を、DPP 3に特異的に結合する捕捉結合剤と前記体液試料を接触させて測定する。
8.実施態様1~7に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/または終了する。
9.実施態様1~7に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、昇圧剤による治療を、前記試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
10.実施態様8に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
11.実施態様8に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象の難治性ショック症を予知または診断する方法であって、抗ADM抗体または抗ADM抗体断片および/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超え、かつ前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定のDPP 3の閾値を超える場合に開始および/または継続する。
12.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用する昇圧剤であって、前記対象は、実施形態1~10のいずれかに従う方法によって測定される場合に前記対象の体液試料中に所定の閾値を下回るDPP3の濃度を有する。
13.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、前記対象は、実施態様1~10のいずれかに従う方法によって測定される場合に前記対象の体液試料中に所定の閾値を超えるDPP3濃度を有し、DPP 3活性の阻害剤は、抗DPP 3抗体または抗DPP 3抗体断片または抗DPP 3非Ig足場を含む群から選択される。
14.実施態様13に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、前記阻害剤を、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体と組み合わせて投与する。
15.実施態様14に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症の治療に使用するDPP 3活性の阻害剤であって、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体は、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、アンジオテンシンIII、アンジオテンシンIVを含む群から選択され、特にアンジオテンシンIIである。
16.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記対象は、実施態様1~10のいずれかに従う方法によって測定される場合に前記対象の体液試料中に所定の閾値を下回るDPP 3の濃度を有する。
17.ショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記対象は、実施態様1~10のいずれかに従う方法によって測定される場合に前記対象の体液試料中に所定の閾値を超えるDPP 3の濃度を有する。
18.実施態様17に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記阻害剤を、アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体と組み合わせて投与する。
19.実施態様16~17に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、前記アンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記対象の試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または昇圧剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を超える場合に保留および/または終了する。
20.実施態様16~17に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、前記昇圧剤による治療を、前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度が特定の閾値を下回る場合に開始および/または継続し、かつ/またはアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤による治療を、前記測定されたDPP 3の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
21.実施態様18に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象にアンジオテンシン受容体作動薬および/またはその前駆体および/またはDPP 3活性の阻害剤を投与することを含み、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
22.実施態様19に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に昇圧剤を投与することを含み、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
23.実施態様20および21に従ってショック症に陥った対象またはショック症を発症した対象のショック症を治療する方法であって、該方法は、前記対象に抗ADM抗体または抗ADM抗体断片を投与することを含み、さらにプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度を測定し、前記抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記試料中のプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が特定の閾値を超える場合に開始および/または継続し、かつ/または抗ADM抗体または抗ADM抗体断片による治療を、前記測定されたプロアドレノメデュリンまたはその断片の濃度が前記所定の閾値を下回る場合に保留および/または終了する。
24.難治性ショック症を発症した対象での有害事象の結果および/またはリスクを予後判定する方法であって、該方法は、
・前記対象の体液試料中のDPP 3の濃度を測定する工程;
・前記測定されたDPP 3の濃度を所定の閾値と比較する工程;および
・前記DPP 3の濃度を、前記対象での有害事象の前記リスクと関連付ける工程、または
・前記DPP 3の濃度を、前記対象での治療または介入の成功と関連付ける工程を含み、
特定の閾値を超える濃度上昇は、前記有害事象のリスクの増大を予知し、特定の閾値を下回る濃度は、治療または介入の成功を予知する。
【実施例
【0254】
実施例1-DPP 3タンパク質およびDPP 3活性の測定方法
抗体の産生およびDPP 3結合能力の測定について、いくつかのマウス抗体を産生して、それら抗体を特異的結合測定法でDPP 3への結合能力によって選別した(表1を参照)。
【0255】
免疫化のためのペプチド/結合体:
表1に参照される免疫化のためのDPP 3ペプチド(JPT Technologies社、Berlin, Germany)を、ペプチドをウシ血清アルブミン(BSA)に結合させるために(選択したDPP 3配列内にシステインが存在しない場合には)追加のN末端システイン残基を用いて合成した。ペプチドを、Sulfolink結合ゲル(Perbio-science社、Bonn, Germany)を用いてBSAに共有結合させた。結合手順は、Perbio社のマニュアルに従って実施した。組換えGST-hDPP 3を、USBio(United States Biological社、Salem, MA, USA)によって産生した。
【0256】
マウスの免疫化、免疫細胞融合および選別:
Balb/cマウスに対し、0日目に(TiterMax Gold賦形剤中に乳化された)84 μgまたは100μg、14日目に(完全フロイント賦形剤中に乳化された)84 μgまたは100 μg、21日目と28日目に(不完全フロイント賦形剤中に乳化された)42 μgまたは50 μgのそれぞれGST-hDPP 3またはDPP 3-ペプチド-BSA複合体を腹腔内(i.p.)注射した。49日目にその動物は、生理食塩水に溶解した42 μgのGST-hDPP 3または50 μgのDPP 3-ペプチド-BSA複合体の静脈内(i.v.)注射を受けた。その3日後にマウスを殺傷して、免疫細胞の融合を実施した。
【0257】
免疫化されたマウスからの脾臓細胞および骨髄腫細胞株SP2/0の細胞を、1 mLの50%ポリエチレングリコールによって37℃で30秒間融合させた。洗浄後に、これらの細胞を96ウェル細胞培養プレート内に播種した。ハイブリッドクローンを、HAT培地[20%のウシ胎児血清およびHAT補助剤を補充したRPMI1640培地]中で増殖させて選択した。1週間後に、HAT培地を3回の継代のためにHT培地に置換して、その後に通常の細胞培養培地へ戻した。
【0258】
細胞培養上清を、融合の2週間後にまず組換えDPP 3結合IgG抗体のために選別した。それによって、組換えGSTタグ付きhDPP 3(USBiologicals社、Salem, USA)を96ウェルプレートに固定し(100 ng/ウェル)、ウェル当たり50 μLの細胞培養上清とともに室温で2時間培養した。プレートを洗浄した後に、50 μL/ウェルのPOD-ウサギ抗マウスIgGを添加して室温で1時間培養した。次いで洗浄工程の後に、50 μLの色素原溶液(クエン酸/リン酸水素緩衝剤中の3.7 mMのo-フェニレンジアミン、0.012%のH2O2)を各ウェルに添加し、室温で15分間培養して、50 μLの4N硫酸の添加によって発色反応を停止させた。吸光度を490 nmで検出した。
【0259】
陽性検査された微小培養物を、増殖のために24ウェルプレートに移した。再試験後に、選択した培養物をクローン化し、限界希釈手法を用いて再クローン化して、アイソタイプを決定した。
【0260】
マウスモノクローナル抗体の産生
GSTタグ付きヒトDPP 3またはDPP 3-ペプチドに対して生育された抗体を、標準的な抗体産生方法(Marx et al. 1997)により産生し、プロテインAによって精製した。SDSゲル電気泳動分析に基づく抗体純度は90%以上であった。
【0261】
抗体の特性評価-hDPP 3への結合および/または免疫化ペプチド
種々の抗体および抗体クローンによるDPP 3/免疫化ペプチド結合の能力を分析するために、結合測定法を実施した。
【0262】
a)固相
組換えGSTタグ付きhDPP 3(配列番号1)またはDPP 3ペプチド(免疫ペプチド、配列番号2)を、高結合マイクロタイタープレート表面に固定した(96ウェルのポリスチレンマイクロプレート、Greiner Bio-One International AG社、Austria、結合緩衝液[50 mMのトリス、100 mMのNaCl、pH 7.8]中で1 μg/ウェル、室温で1時間)。5%のウシ血清アルブミンで阻止した後にマイクロプレートを真空乾燥した。
b)標識手順(トレーサー)
100 μg(100 μL)の種々の抗DPP 3抗体(検出抗体、PBS中に1 mg/mL、pH 7.4)を10 μLのアクリジニウムNHSエステル(アセトニトリル中に1 mg/mL、InVent社、Germany;EP 0 353 971号)と混合して、室温で30分間培養した。標識された抗DPP 3抗体を、Shodex Protein 5 μm KW-803(昭和電工、日本)のゲル濾過HPLCによって精製した。精製した標識抗体を、測定緩衝液(50 mmol/Lのリン酸カリウム、100 mmol/LのNaCl、10 mmol/LのNa2-EDTA、5 g/Lのウシ血清アルブミン、1 g/LのマウスIgG、1 g/LのウシIgG、50 μmol/Lのアマスタチン、100 μmol/Lのロイペプチン、pH 7.4)中に希釈した。最終濃度は、200μL当たり標識化合物(約20 ngの標識抗体)の約5~7* 106の相対発光量単位(RLU)であった。アクリジニウムエステルの化学発光を、Centro LB 960輝度計(Berthold Technologies社)を用いて測定した。
【0263】
c)hDPP 3結合測定
プレートを200 μLの標識かつ希釈された検出抗体(トレーサー)で満たし、2~8℃で2~4時間培養した。350 μLの洗浄液(20 mMのPBS、pH 7.4、0.1%のトリトンX-100)で4回洗浄して、未結合のトレーサーを除去した。ウェルに結合した化学発光を、Centro LB 960輝度計(Berthold Technologies社)を用いて測定した。
【0264】
抗体の特性評価-hDPP 3阻害分析
種々の抗体および抗体クローンによりDPP 3阻害の能力を分析するために、既知の手順(Jones et al., 1982)を用いるDPP 3活性測定を実施した。組換えGSTタグ付きhDPP 3を測定希釈液(50 mMのpH7.5のトリスHCl中の25 ng/mLのGST-DPP 3および100 μMのZnCl2)中に希釈し、200 μLのこの溶液を10 μgのそれぞれの抗体とともに室温で培養した。1時間の予備培養の後に、蛍光発生基質Arg-Arg-βNA(20 μL、2 mM)をこの溶液に添加して、遊離βNAの生成を、経時的にTwinkle LB 970マイクロプレート蛍光光度計(Berthold Technologies社)を用いて37°Cで監視した。βNAの蛍光を、340 nmで励起し410 nmで発光を測定して検出する。種々の試料の蛍光増分の勾配(RFU/分)を計算する。緩衝液制御によるGST-hDPP 3の勾配を、100%活性と指定する。可能性のある捕捉結合剤の阻害能力を、前記捕捉結合剤との培養によってGST-hDPP 3活性の低下分として%で定義する。
【0265】
以下の表は、得られた抗体の選択および相対発光量単位(RLU)によるそれらの結合率ならびにそれらの相対的阻害能力(%;表1)を示している。以下に示すDPP 3領域に対して生育されたモノクローナル抗体を、組換えDPP 3および/または免疫化ペプチドに結合するそれらの能力、ならびに阻害能力によって選択した。
【0266】
組換えhDPP 3のGSTタグ付き全長形態に対して生育された全ての抗体は、固定されたGSTタグ付きhDPP 3に対し強い結合を示す。また配列番号2のペプチドに対して生育された抗体は、GST-hDPP 3に結合する。配列番号2の抗体はまた、免疫化ペプチドに強く結合する。
【表3】
【0267】
DPP 3タンパク質濃度を定量する発光免疫測定法(DPP 3-LIA)、ならびにDPP 3活性を定量する酵素捕捉活性測定法(DPP 3-ECA)の進展が最近報告されていて(Rehfeld et al. 2018. JALM. in press)、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0268】
実施例2-短期死亡率の予後に対するDPP 3
敗血症/敗血症性ショック症および心原性ショック症を患う患者の血漿中のDPP 3濃度を測定して、患者の短期死亡率に関連付けた。
【0269】
検討集団-敗血症/敗血症性ショック症
重度の敗血症および敗血症性ショック症でのアドレノメデュリンおよびその転帰(AdrenOSS)検討の患者からの574個の血漿試料についてDPP 3を測定した。このAdrenOSSは、敗血症または敗血症性ショック症で集中治療室に入院していた583人の患者を含む、前向きな観察に基づく多国間での検討である(Hollinger et al., 2018)。292人の患者が敗血症性ショック症と診断された。
【0270】
検討集団-心原性ショック症
心原性ショック症と診断された108人の患者からの血漿試料を、DPP 3について検査した。心原性ショック症の発覚から6時間以内に採血した。死亡率を7日間に亘って追跡した。
【0271】
hDPP 3免疫測定法:
ヒト血漿中のDPP 3濃度を測定するために、ヒトDPP 3(LIA)の量またはヒトDPP 3(ECA)の活性のそれぞれを検出する免疫測定法(LIA)または活性測定法(ECA)を用いた。抗体の固定、標識、および培養を、Rehfeldらが説明するように実施した(Rehfeld et al. 2018)。
【0272】
結果
敗血症患者での短期間の患者の生存率は、入院時のDPP 3血漿濃度に関連していた。DPP 3血漿濃度が40.5 ng/mL(第3四分位)を超える患者は、DPP 3血漿濃度がこの閾値を下回る患者と比較して死亡リスクが増加していた(図1A)。この閾値を敗血症性ショック症患者の部分集団に適用すると、高いDPP 3血漿濃度に関連して短期での死亡リスクがさらに顕著になることが明らかになった(図1B)。同一の閾値を心原性ショック症の患者に適用すると、同様にDPP 3が高い患者では7日以内の短期での死亡リスクの増加が観察される(図1C)。
【0273】
実施例3-ヒト天然DPP 3の精製
ヒト赤血球溶解物を合計100 mLのセファロース4B樹脂(Sigma-Aldrich社)に被覆して、通過画分を採取した。樹脂をpH 7.4の合計370 mLのPBS緩衝液で洗浄し、洗浄画分を採取した通過画分と組み合わせて、総量を2370 mLとした。
【0274】
免疫親和性精製工程のために、製造業者の手順書(GlycoLink Immobilization Kit、Thermo Fisher Scientific社)に従って、110 mgのモノクローナル抗hDPP 3 mAbであるAK2552を25.5 mLのUltraLinkヒドラジド樹脂(Thermo Fisher Scientific社)に結合させた。結合効率は98%であり、ブラッドフォード法による非結合抗体の定量によって測定した。樹脂-抗体複合体を10総容積の洗浄結合緩衝液(PBS、0.1%のトリトンX-100、pH 7.4)で平衡させ、2370 mLの透明な赤血球溶解物と組み合わせて、4°Cで2時間連続撹拌しながら培養した。その結果、100 mLの培養混合物を10本の15 mLポリプロピレンカラムに展開し、1000 x gで30秒間遠心分離に掛けて通過画分を採取した。この工程を数回繰り返して、カラム毎に2.5 mLのDPP 3を負荷した樹脂が得られた。重力グロー手法を用いて、各カラムを10 mLの洗浄-結合緩衝液で5回洗浄した。DPP 3を、2 mLの中和緩衝液(1 MのトリスHCl、pH 8.0)を含む15 mLのファルコン管内に各カラムを入れて溶出し、続いてカラム毎に10 mLの溶出緩衝液(100 mMのグリシンHCl、0.1%のトリトンX-100、pH 3.5)を加え、かつ1000 x gで30秒間の即時遠心分離に掛けた。この溶出工程を合計3回繰り返して、360 mLの混合溶出液を得た。中和された溶出液のpHは8.0であった。
【0275】
混合溶出液を、Akta Startシステム(GE Healthcare社)の試料ポンプを用いて、IEX緩衝液A1(100 mMのグリシン、150 mMのトリス、pH 8.0)で平衡させた5 mLのHiTrap Q-sephare HPカラム(GE Healthcare社)に載置した。試料を載置した後に、カラムを5倍のカラム容量のIEX緩衝液A2(12 mMのNaH2PO4、pH 7.4)で洗浄して未結合のタンパク質を除去した。DPP 3の溶出を、IEX緩衝液B(12 mMのNaH2PO4、1 MのNaCl、pH 7.4)を用いて、10倍のカラム容量(50 mL)に対して0~1 MのNaCl範囲の塩化ナトリウム勾配を設けて達成した。溶出液を2 mLの画分として採取した。イオン交換クロマトグラフィーに用いた緩衝液を、0.22μMの瓶上蓋フィルターを用いて滅菌濾過した。
【0276】
各精製工程のそれぞれの収率および活性度を含む精製の結果を表2に示す。図2は、ヒト赤血球溶解物から精製された天然hDPP 3の勾配ゲル(4~20%)でのSDS-PAGEを示す。
【表4】
【0277】
実施例4-動物モデルでの天然DPP 3の影響
健康なマウスでの天然のhDPP 3注射の影響を、収縮率と腎抵抗性指数を監視して検討した。
【0278】
野生型の6匹の黒色マウス(8~12週齢、群の規模は表3を参照)を2週間で順応させて、基準値として心エコー検査を実施した。マウスを2つの群のいずれかに無作為に割り当て、続いて天然DPP 3タンパク質またはPBSを眼窩後方注射を介して静脈内注射し、DPP 3タンパク質は600 μg/kgの用量とした。
【0279】
DPP 3またはPBSの注射後に、心機能を心エコー検査(Gao et al. 2011)で評価し、腎機能を、15、60、および120分での腎抵抗指数((Lubas et al., 2014, Dewitte et al, 2012)で評価した。(図3)。
【表5】
【0280】
結果
天然のDPP 3タンパク質で処置されたマウスは、PBSを注射された対照群に比較して、顕著に低下した収縮率を示している(図4A)。WT+DPP 3群はまた、腎抵抗性指数の増加によって観察されるように、腎機能の悪化も示している(図4B)。
【0281】
実施例5-プロシズマブの開発
配列番号2に対して生育された抗体を、より詳細に特性評価した(エピトープマッピング、結合親和性、特異性、阻害能力)。ここには、配列番号2のクローン1967(AK1967;「プロシズマブ」)の結果が例として示されている。
【0282】
DPP 3表面のAK1967エピトープの決定:
AK1967のエピトープマッピングのために、いくつかのN末端またはC末端ビオチン化ペプチドを合成した(PE社、Hennigsdorf, Germany)。これらのペプチドには、完全免疫化ペプチドの配列(配列番号2)またはその断片が含まれ、C末端またはN末端のいずれかから1つのアミノ酸が段階的に除去される(ペプチドの完全な一覧については表5を参照)。
【0283】
高結合96ウェルプレートを、結合緩衝剤(500 mMのトリスHCl、pH 7.8、100 mMのNaCl)中のウェル当たり2 μgのアビジン(Greiner Bio-One international社、Austria)で被覆した。その後にプレートを洗浄し、ビオチン化ペプチドの特定の溶液(10 ng/ウェル;緩衝液-0.5%のBSAを含む1倍のPBS)で満たした。抗DPP 3抗体であるAK1967を、実施例1に従って化学発光標識で標識した。
【0284】
プレートを200 μLの標識かつ希釈された検出抗体(トレーサー)で満たして、室温で4時間培養した。350 μLの洗浄液(20 mMのPBS、pH 7.4、0.1%のトリトンX-100)で4回洗浄して未結合のトレーサーを除去した。ウェルに結合した化学発光をCentro LB 960輝度計(Berthold Technologies社)を用いて測定した。それぞれのペプチドへのAK1967の結合を、相対発光量単位(RLU)の評価によって決定する。AK1967の非特異的結合よりも顕著に高いRLU信号を示すペプチドは、AK1967結合剤として定義される。結合ペプチドと非結合ペプチドの組合せ分析により、AK1967の特定のDPP 3エピトープが明らかになる。
【0285】
Octetを用いる結合親和性の決定:
この実験は、Octet Red96(ForteBio社)を用いて実施された。AK1967を、動力学等級の抗ヒトFc(AHC)バイオセンサーで捕捉した。次に負荷されたバイオセンサーを、組換えGSTタグ付きヒトDPP 3の希釈系列(100、33.3、11.1、3.7 nM)に浸した。会合を120秒間観察し、続いて180秒間で解離を観察した。実験に使用した緩衝液を表4に示す。動力学的解析を1:1の結合モデルと複数応答非線形回帰(global fitting)を用いて実施した。
【表6】
【0286】
AK1967の結合特異性のウエスタンブロット解析:
ヒトEDTA血液由来の血液細胞を洗浄し(PBSで3回)、PBSで希釈し、凍結融解サイクルを繰り返して溶解した。血液細胞の溶解物の総タンパク質濃度は250 μg/mLであり、DPP 3濃度は10 μg/mLであった。血液細胞の溶解物の希釈液(1:40、1:80、1:160、および1:320)および精製された組換えヒトHis-DPP 3(31.25~500 ng/mL)を、SDS-PAGEおよびウエスタンブロットに供した。このブロットを、1)阻止緩衝液(5%の脱脂粉乳を含む1倍のPBS-T)、2)一次抗体溶液(AK1967、阻止緩衝液中に1:2.000)、および3)HRP標識二次抗体(ヤギ抗マウスIgG、阻止緩衝液中に1:1.000)中で培養した。結合した二次抗体を、Amersham ECLウエスタンブロット検出試薬とAmersham Imager 600 UV(どちらもGE Healthcare社製)を用いて検出した。
【0287】
DPP 3阻害測定:
AK1967によるDPP 3阻害の能力を解析するために、既知の手順(Jones et al., 1982)を用いるDPP 3活性測定を実施例1の説明のように実施した。AK1967の阻害能力を、前記抗体との培養によるGST-hDPP3活性の低下分を%として定義する。得られたDPP3活性の低下を、図1Cの阻害曲線に示している。
【0288】
エピトープマッピング:
AK1967が結合するペプチドおよび結合しないペプチドの分析により、AK1967結合に必要なエピトープとしてDPP 3配列INPETG(配列番号3)が明らかになった(表5を参照)。
【表7】
【0289】
結合親和性:
AK1967は、2.2* 10-9 Mの親和性で組換えGST-hDPP 3に結合する(動力学的曲線については図5を参照)。
【0290】
特異性および阻害能力:
血液細胞の溶解物中の一次抗体としてAK1967で検出された唯一のタンパク質は、80 kDaのDPP 3であった(図6)。溶解物の総タンパク質濃度は250μg/mLであったが、推定DPP 3濃度は約10 μg/mLである。溶解物には25倍以上の非特異的タンパク質が存在するが、AK1967はDPP 3に特異的に結合してDPP 3を検出し、他の非特異的結合は起こらない。
【0291】
AK1967は、、特定のDPP 3活性測定では15 ng/mLのDPP 3を阻害し、IC50は約15 ng/mLとなる(図7)。
【0292】
キメラ化/ヒト化:
DPP 3活性を70%まで阻害する能力を有するモノクローナル抗体AK1967(「プロシズマブ」)を見込みのある治療用抗体として選択して、キメラ化およびヒト化のための鋳型としても用いた。
【0293】
マウス抗体のヒト化は、以下の手順に従って実施可能:
マウス起源の抗体をヒト化するために、抗体配列を、フレームワーク領域(FR)と相補性決定領域(CDR)および抗原との構造的相互作用について解析する。構造モデルに基づいて、ヒト由来の適切なFRを選択し、かつマウスCDR配列をヒトFR内に移植する。CDRまたはFRのアミノ酸配列の変化を導入して、構造的相互作用を回復させることができ、この相互作用はFR配列の種の切替えによって無効にされた。構造的相互作用のこの回復は、ファージディスプレイライブラリーを用いる無作為な手法によって、または分子モデルによって導かれる誘導手法によって達成できる(Almagro and Fransson, 2008. Humanization of antibodies. Front Biosci. 13:1619-33)。
【0294】
上述内容に関連して、可変領域を、定常領域の任意の下位分類(IgG、IgM、IgE、IgA)、または単独の足場、Fab断片、Fv、Fab、およびF(ab)2に接続できる。以下の実施例6および7では、IgG2a骨格を有するマウス抗体変異体を使用した。キメラ化とヒト化のために、ヒトIgG1κ骨格を使用した。
【0295】
エピトープ結合では、CDRのみが重要となる。マウス抗DPP 3抗体(AK1967)の重鎖および軽鎖のCDRは、それぞれ重鎖では配列番号6、配列番号7、および配列番号8、ならびに軽鎖では配列番号9、配列KVS、および配列番号10で示される。抗DPP 3抗体(AK1967)の配列決定により、配列番号11による抗体重鎖可変領域(H鎖)および配列番号12による抗体軽鎖可変領域(L鎖)が明らかになった。
【0296】
実施例6-敗血症性ショック症誘発性の心不全でのプロシズマブの効果
この実験では、敗血症が誘発する心不全ラット(Rittirsch et al. 2009)でのプロシズマブ注射の効果を収縮率を監視することによって検討した。
【0297】
敗血症性ショック症の盲腸結紮穿孔(CLP)モデル:
Center d’elevage Janvier(France)からの雄のWistarラット(2~3月齢、300~400 g、群の規模は表6を参照)を3群のうちの1つに無作為に割り当てた。全ての動物を、腹腔内(i.p.)にケタミン塩酸塩(90 mg/kg)およびキシラジン(9 mg/kg)投与して麻酔した。多菌性敗血症を誘発するために、僅かな変更を加えたRittirschの手順を用いてCLPを実行した。盲腸を顕在させるように腹部の正中切開(1.5 cm)を実施した。次に盲腸を回盲弁の直下で結紮し、18番径の針で1回穿刺する。次に腹腔を2層で閉止し、続いて輸液蘇生(3 mL/100 g体重の生理食塩水を皮下注射する)し動物を檻に戻す。対照動物は、盲腸を穿刺することなく手術を受けた。CLP動物を、対照および治療用抗体で無作為に処置した。
【0298】
検討設計:
検討の流れを図8に示す。CLP手術または対照手術の後に、動物を20時間休息させ、水と食物を自由に摂取させた。その後にそれらに麻酔を掛け、気管切開を実施して、動脈ラインと静脈ラインを連結した。CLP手術の24時間後に、AK1967または媒体(生理食塩水)のいずれかを、5 mg/kgでボーラス注射として投与して、続いて7.5 mg/kgを3時間掛けて注入した。安全対策として、血行動態を開始(t=0)から3時間まで侵襲的かつ継続的に監視した。
【0299】
t=0(基準値)では、全てのCLP動物は敗血症性ショック症の状態にあり、心機能の低下(低血圧、低収縮率)を発症した。この時点でプロシズマブまたは媒体(PBS)が注射され(i.v.)、生理食塩水の注入が開始された。以下の表(表6)に纏めるように1個の対照群および2個のCLP群とした。実験の終了時に、動物を安楽死させて、その後の分析のために臓器を採取した。
【表8】
【0300】
侵襲的血圧:
血行力学的な変化を、AcqKnowledgeシステム(BIOPAC Systems社、USA)を用いて取得した。そのシステムは、完全に自動化された血圧解析システムを提供する。カテーテルを、圧力センサーを介してBIOPACシステムに接続する。
【0301】
この手順として、ラットを(ケタミンおよびキシラジンで)麻酔した。動物を加熱パッドに移して、37~37.5°Cの望ましい体温とした。温度帰還プローブを直腸内に挿入した。ラットを仰臥位で手術台に配置した。気管を開いて、頸動脈および迷走神経を損傷することなく、外部人工呼吸器用のカテーテル(16 G)を挿入した。動脈カテーテルを右頸動脈内に挿入した。頸動脈は、結紮前に迷走神経から分離されている。中心静脈カテーテルを左頸静脈を通して挿入し、PCZまたはPBSの投与をできるようにした。
【0302】
手術後に、血行力学的測定に先立ち動物を安定な状態で休息させた。次に基準値の血圧(BP)を記録した。データ採取中に、動脈ラインを介する生理食塩水の注入を停止した。
【0303】
心エコー検査:
動物をケタミン塩酸塩を用いて麻酔した。胸を剃りラットを臥位に配置した。経胸壁心エコー(TTE)検査では、高周波(14 MHz)線形プローブと10 MHzの心臓プローブを備えた市販のGE Healthcare社製のVivid 7超音波システムを使用した。全ての検査をデジタルで記録し、その後のオフライン分析のために保存した。
【0304】
諧調画像を2 cmの深さで記録した。二次元検査を胸骨傍の長軸方向像で開始して、大動脈弁輪の直径および肺動脈の直径を測定した。さらにMモードを、左心室(LV)の寸法を測定し収縮率(FS%)を評価するために用いた。LVFSを、(LV拡張末期直径-LV収縮末期直径)/LV拡張末期直径として計算して%で表した。従って拡張末期の時点をLVの最大直径として定義した。従って収縮末期を同一の心臓周期での最小直径として定義した。全てのパラメータを手動で測定した。測定毎に3回の心臓サイクルを平均した。
【0305】
同一の傍胸骨の長軸像から、肺動脈流を脈波ドップラーを用いて記録した。肺動脈での流出の速度時間積分を測定した。
【0306】
心尖部の五腔像から、僧帽弁での流れを脈波ドップラーを用いて僧帽弁の先端部の高さにより記録した。
【0307】
結果:
PBSで処置された敗血症性ショック症誘発性の心不全ラット(CLP+PBS)は、対照の動物に比較して収縮率の低下を示している(図9A)。CLP+PBS群はまた、高い死亡率を示している(図9B)。対照的に、プロシズマブを敗血症性ショック症誘発性の心不全ラットに投与すると、収縮率が改善され(図9A)、死亡率が劇的に低下する(図9B)。
【0308】
実施例7-心機能および腎機能に対するプロシズマブの効果
マウスのイソプロテレノール誘発性の心不全でのプロシズマブの効果を、収縮率および腎抵抗性指数の監視によって検討した。
マウスでのイソプロテレノール誘発性の心臓ストレス:
【0309】
3ヶ月齢の雄マウスに対して、300 mg/kgのイソプロテレノールすなわち非選択性のβ-アドレナリン作動薬(DL-イソプロテレノール塩酸塩;ISO、Sigma Chemical社)を毎日2回で2日間皮下注射して、急性心不全を誘発した(Vergaro et al, 2016)。ISOの希釈は0.9%のNaClで実施した。ISO処置マウスを無作為に2つの群に割り当て(表7)、標準の心エコー検査(Gao et al., 2011)後にPBSまたはプロシズマブ(10 mg/kg)を静脈内注射し、腎抵抗指数測定(Lubas et al., 2014, Dewitte et al, 2012)を3日目に実施した(図10AおよびB)。
【0310】
心機能を、心エコー検査(Gao et al., 2011)によってかつ腎抵抗指数(Lubas et al., 2014, Dewitte et al, 2012)によって、1時間、6時間、および24時間後に評価した(図10AおよびB)。イソプロテレノールの代わりに媒体(PBS)を注射されたマウス群にはそれ以上の薬理学的処置を施さずに、対照群として機能させた(表7)。
【表9】
【0311】
結果:
イソプロテレノール誘発性の心不全マウスへのプロシズマブの投与は、投与後の最初の1時間以内に心機能を回復させている(図11A)。病気のマウスの腎機能は、プロシズマブ注射の6時間後に顕著な改善を示し、24時間後に対照動物の腎機能と同等になっている(図11B)。
【0312】
実施例8-DPP 3は、昇圧剤の必要性および昇圧剤治療への応答性を示す
敗血症性ショック症患者の血漿中のDPP 3濃度を、hDPP 3免疫測定法を用いて測定して、昇圧剤治療の必要性と関連付けた。
検討集団-敗血症性ショック症
【0313】
AdrenOSS(実施例2を参照)検討からの敗血症性ショック症と診断された292人の患者からの血漿試料を、DPP 3について検査した。ヒトDPP 3を実施例1の説明のように測定した。
【0314】
結果:
5日間を超えて昇圧剤投与の必要性が増加した患者は、DPP 3の血漿濃度が高かった(図12A)。対照的に、昇圧剤の投与に応答して最初の5日以内に昇圧剤投与を中止可能と思われる患者では、血漿DPP 3濃度が大幅に低下していた(図12B)。このことは、難治性ショック症の発症、すなわちこの治療法の応答性の低下による昇圧剤投与の必要性の増加が、敗血症性ショック症患者では高DPP 3血漿濃度に関連付くことを示している。
【0315】
昇圧剤耐性の難治性敗血症性ショック症(0.5 μg/kg/分を超えるノルアドレナリン)の患者は、0.5 μg/kg/分未満のノルアドレナリン用量を必要とする患者に比較して、顕著に高い血漿DPP 3濃度を示す(p<0.001)(図16A)。さらにDPP 3血漿濃度は、昇圧剤耐性の難治性敗血症性ショック症の患者での死亡率と強く関連付いていた(図16B)。
【0316】
実施例9-DPP 3は難治性ショック症に関連する
心原性ショック症患者の血漿中のDPP 3濃度は、hDPP 3免疫測定法を用いて測定され、難治性ショック症の発症に関連していた。
【0317】
検討集団-心原性ショック症
急性心筋梗塞後に心原性ショック症と診断された57人の患者からの血漿試料を、DPP 3について検査した。ヒトDPP 3を実施例1の説明のように測定した。
【0318】
結果
入院時に特定の閾値(59.1 ng/mL;第3四分位)を超えるDPP 3血漿濃度を有する患者は、59.1 ng/mL未満のDPP 3血漿濃度を有する患者(12%)よりも高い頻度(47%)で難治性ショック症を発症した(図13)。
【0319】
実施例10-DPP 3およびbio-ADMは、ショック症での短期死亡を示す
敗血症性ショック症患者の血漿中のDPP 3およびbio-ADM濃度を、hDPP 3およびbio-ADM免疫測定法を用いて測定して、患者の短期死亡率に関連付けた。
検討集団-敗血症性ショック症
【0320】
AdrenOSS検討から敗血症性ショック症と診断された292人の患者からの血漿試料を、DPP 3およびbio-ADMについて検査した。ヒトDPP 3を、実施例1の説明のように測定した。Bio-ADMを、Weberら(Weber et al. 2017. JALM 2(2): 1-4)の説明のように測定した。
【0321】
結果
敗血症性ショック症患者でのbio-ADMおよびDPP 3の血漿濃度を測定した。患者は、それぞれのマーカーの全測定血漿濃度の第3四分位と決定された特定の閾値に従って群に分けた(表8)。同数の患者(15.4%)では、DPP 3のみまたは高bio-ADMのみのいずれかが高かったが、より少ない頻度(9.6%)ではあるがbio-ADMとDPP 3の両方に高い血漿濃度の患者が存在した。
【表10】
【0322】
入院後の最初の4週間以内の死亡率は、入院時のbio-ADM濃度およびDPP 3濃度に関連していた。血漿濃度のbio-ADMのみが高い、またはDPP 3のみが高いそれぞれの患者は、bio-ADM(図14A)またはDPP 3(図14B)のそれぞれの血漿濃度が特定の閾値(第3四分位)未満である患者に比較して、最初の4週間以内に死亡するリスクが大幅に増加していた。bio-ADMが高い患者の生存率は、DPP 3が高い患者の生存率よりも高かった。
【0323】
両方のマーカー、すなわちbio-ADMおよびDPP 3が組み合わされた場合に、両方のマーカーの一方のみの増加に関連する死亡率に比較して、さらに高い短期死亡リスクが確認された(図14C)。bio-ADMとDPP 3の血漿濃度が高い患者のうちの僅か28.6%が、入院後の最初の4週間を生き抜いた。
【0324】
実施例11-DPP 3とbio-ADM DPP 3は、昇圧剤の必要性と昇圧剤治療への応答を示す
敗血症性ショック症患者の血漿中のDPP 3およびbio-ADM濃度を、hDPP 3およびbio-ADM免疫測定法を用いて測定して、昇圧剤治療の必要性と関連付けた。
【0325】
検討集団-敗血症性ショック症
AdrenOSS検討からの敗血症性ショック症と診断された患者からの292人の血漿試料で、DPP 3およびbio-ADM濃度を測定した。ヒトDPP 3は実施例1に説明のように測定した。Bio-ADMはWeberら(Weber et al. 2017. JALM 2(2): 1-4)に説明のように測定した。
【0326】
結果
bio-ADMおよびDPP 3の血漿濃度を敗血症性ショック症患者で測定した。患者を、敗血症性ショック症集団でのそれぞれのマーカーの全測定血漿濃度の第3四分位として決定された特定の閾値に従って群化した(低DPP 3:48.4 ng/ML未満、低bio-ADM:213 pg/mL未満、高bio-ADM:213 pg/ mL以上、高DPP 3:48.4 ng/mL以上)。
【0327】
高DPP 3であるが低bio-ADMの血漿濃度を有する患者は、低DPP 3+低bio-ADMまたは低DPP 3+高bio-ADMのいずれかを有する患者と比較して連続的に昇圧剤を投与する必要性が高かった(図15;表9)。対照的に、入院時に低DPP 3かつ低bio-ADMの血漿濃度を有する患者または低DPP 3であるが高bio-ADM血漿濃度を有する患者では、入院時に高DPP 3の血漿濃度を有する患者よりも早く昇圧剤投与を中止できた(図15;表9)。このことは、高bio-ADMを有する敗血症性ショック症患者の昇圧剤治療を、高DPP 3を有する敗血症性ショック症患者と比較して治療応答性が優れているために早期に中止できることを示している。(高DPP 3の)これらの患者は、応答性がないために昇圧剤によるより長期の治療が必要となる。
【表11】
【0328】
(配列の例)
配列番号1:hDPP 3 aa 1~737
【表12】
配列番号2:hDPP 3 aa 474~493(N-Cys)-追加のN末端システインを含む免疫ペプチド
CETVINPETGEQIQSWYRSGE
配列番号3:hDPP 3 aa 477~482-AK1967のエピトープ
INPETG
配列番号4:重鎖内のマウスAK1967の可変領域
【表13】
配列番号5:軽鎖内のマウスAK1967の可変領域
【表14】
配列番号6:重鎖内のマウスAK1967のCDR1
GFSLSTSGMS
配列番号7:重鎖内のマウスAK1967のCDR2
IWWNDNK
配列番号8:重鎖内のマウスAK1967のCDR3
ARNYSYDY
配列番号9:軽鎖内のマウスAK1967のCDR1
RSLVHSIGSTY
軽鎖内のマウスAK1967のCDR2
KVS
配列番号10:軽鎖内のマウスAK1967のCDR3
SQSTHVPWT
配列番号11:ヒト化AK1967-重鎖配列(IgG1κ骨格)
【表15】
配列番号12:ヒト化AK1967-軽鎖配列(IgG1κ骨格)
【表16】
配列番号13:アンジオテンシンII(別名:5-イソロイシン-アンジオテンシンII)
DRVYIHPF
配列番号14:アンジオテンシンII類似体(5-バリン-アンジオテンシンII)
DRVYVHPF
配列番号15:アンジオテンシンII類似体(Asn1-PHe4
NRVFIHPF
配列番号16:アンジオテンシンIIヘキサペプチド
VYIHPF
配列番号17:アンジオテンシンIIノナペプチド
NRVYYVHPF
配列番号18:アンジオテンシンII類似体([Asn1-Ile5-Ile8]-アンジオテンシンII)
NRVYIHPI
配列番号19:アンジオテンシンII類似体([Asn1-Ile5-Ala8]-アンジオテンシンII)
NRVYIHPA
配列番号20:アンジオテンシンII類似体([Asn1-ジヨードTyr4-Ile5]-アンジオテンシンII
NRVYIHPF
配列番号21:アンジオテンシンIII
RVYIHPF
配列番号22:アンジオテンシンIII類似体(Val4-アンジオテンシンIII)
RVYVHPF
配列番号23:アンジオテンシンIII類似体(PHe3-アンジオテンシンIII)
RVFIHPF
配列番号24:アンジオテンシンIII類似体([Ile4-Ala7]-アンジオテンシンIII)
RVYIHPA
配列番号25:アンジオテンシンIII類似体(ジヨードTyr3-Ile4]-アンジオテンシンIII)
RVYIHPF
配列番号26:アンジオテンシンIV
VYIHPF
配列番号27:アンジオテンシンIV類似体(Val3-アンジオテンシンIV)
VYVHPF
配列番号28:アンジオテンシンIV類似体(PHe2-アンジオテンシンIV)
VFIHPF
配列番号29:アンジオテンシンIV類似体([Ile3-Ala6]-アンジオテンシンIV)
VYIHPA
配列番号30:アンジオテンシンIV類似体([ジヨードTyr2-Ile3]-アンジオテンシンIV)
VYIHPF
配列番号31(proADM):164個のアミノ酸(preproADMの22~185)
【表17】
配列番号32(プロアドレノメデュリン、N-20末端ペプチド、PAMP):preproADMのアミノ酸22~41
ARLDVASEF RKKWNKWALS R
配列番号33(中領域プロアドレノメデュリン、MR-proADM):preproADMのアミノ酸45~92
【表18】
配列番号34(成熟アドレノメデュリン(成熟ADM);アミド化ADM;bio-ADM;hADM):アミノ酸95~146-CONH2
【表19】
配列番号35(アドレノメデュリン1-52-Gly(ADM 1-52-Gly)):preproADMのアミノ酸95~147
【表20】
配列番号36(C末端プロアドレノメデュリン、CT-proADM):preproADMのアミノ酸148~185
【表21】
配列番号37(成熟ADMのN末端部分):成熟ADMのアミノ酸1~21
YRQSMNNFQGLRSFGCRFGTC
配列番号38(CDR1重鎖抗ADM抗体)
GYTFSRYW
配列番号39(CDR2重鎖抗ADM抗体)
ILPGSGST
配列番号40(CDR3重鎖抗ADM抗体)
TEGYEYDGFDY
配列番号41(CDR1軽鎖抗ADM抗体)
QSIVYSNGNTY
配列番号42(CDR3軽鎖抗ADM抗体)
FQGSHIPYT
配列番号43(抗ADM抗体(アドレシズマブ)重鎖)
【表22】
配列番号44(抗ADM抗体(アドレシズマブ)軽鎖)
【表23】
【0329】
参考文献
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
2022546061000001.app
【国際調査報告】