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特表2022-546068SEW骨格型のアルミニウム含有モレキュラーシーブの合成
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  • 特表-SEW骨格型のアルミニウム含有モレキュラーシーブの合成 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-02
(54)【発明の名称】SEW骨格型のアルミニウム含有モレキュラーシーブの合成
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/02 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
C01B39/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513353
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(85)【翻訳文提出日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 IB2020053926
(87)【国際公開番号】W WO2021038310
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】16/554,697
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルー、クリストファー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン、カート オーウェン
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA63
4G073BB44
4G073CZ50
4G073FB30
4G073FB36
4G073GA03
4G073GB10
4G073UA06
(57)【要約】
SEW骨格型のアルミニウム含有モレキュラーシーブをゼオライト転換によって直接合成するための方法が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEW骨格型のモレキュラーシーブを合成する方法であって、
(a)
(1)FAU骨格型ゼオライト、
(2)第1族または第2族の金属(M)源、
(3)1,6-ビス(N-シクロヘキシルピロリジニウム)ヘキサンジカチオンを含む構造指向剤(Q)、
(4)水酸化物イオン源、
(5)水、及び
(6)SEW骨格型モレキュラーシーブの種晶
を含む、反応混合物を調製することと、
(b)前記反応混合物を、前記FAU骨格型ゼオライトをSEW骨格型のモレキュラーシーブに転換するのに十分な結晶化条件に供することと、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記反応混合物が、モル比で、以下の組成を有する、請求項1に記載の方法。
【表1】
【請求項3】
前記反応混合物が、モル比で、以下の組成を有する、請求項1に記載の方法。
【表2】
【請求項4】
前記FAU骨格型ゼオライトが、ゼオライトYを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1族または第2族の金属がナトリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記反応混合物における種晶/SiOの重量比が0.001~0.3の範囲内であるような量で種晶が存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記反応混合物における種晶/SiOの重量比が0.05~0.2の範囲内であるような量で種晶が存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記結晶化条件が125℃~200℃の温度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記FAU骨格型ゼオライトが、前記反応混合物において唯一のシリカ及びアルミニウム源である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記SEW骨格型のモレキュラーシーブがSSZ-82である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゼオライト転換を介したSEW骨格型モレキュラーシーブのアルミニウム含有形態の直接合成に関する。
【背景技術】
【0002】
モレキュラーシーブSSZ-82は、ユニークな二次元12/10環員チャンネルシステムを有する単結晶相の材料である。SSZ-82の骨格構造は、国際ゼオライト学会の構造委員会によりSEWの3文字コードが付与されている。
【0003】
SSZ-82の組成及び特徴的な粉末X線回折パターンは、米国特許第7,820,141号に開示されており、当該特許には、1,6-ビス(N-シクロヘキシルピロリジニウム)ヘキサンジカチオンの存在下におけるモレキュラーシーブの合成についても記載されている。
【0004】
SSZ-82は、通常、ホウケイ酸塩の形態で合成されている。ホウケイ酸塩は、商業的に関心のある多くの炭化水素変換反応を触媒するには一般的に酸強度が弱すぎる酸点を含有している。S.I.Zones et al.(J.Am.Chem.Soc.2014,136,1462-1471)は、SSZ-82などのホウケイ酸塩を、かなり強い酸強度を持つアルミノケイ酸塩に転換するための方法を記載している。
【0005】
SSZ-82をアルミノケイ酸塩の形態で直接合成し、それにより、合成後にアルミニウムを挿入することによる追加の改変を必要としない方法が依然として求められている。
【0006】
本開示によれば、アルミノケイ酸塩SSZ-82を、FAU骨格型ゼオライトからのゼオライト転換(すなわち、あるゼオライト構造から別の構造への転換)によって直接合成できることが見出された。
【発明の概要】
【0007】
一態様において、SEW骨格型のモレキュラーシーブを合成する方法であって、(a)(1)FAU骨格型ゼオライト、(2)第1族または第2族の金属(M)源、(3)1,6-ビス(N-シクロヘキシルピロリジニウム)ヘキサンジカチオンを含む構造指向剤(Q)、(4)水酸化物イオン源、(5)水、及び(6)SEW骨格型モレキュラーシーブの種晶を含む、反応混合物を調製することと、(b)反応混合物を、FAU骨格型ゼオライトをSEW骨格型のモレキュラーシーブに転換するのに十分な結晶化条件に供することと、を含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】例1の合成されたままの状態のモレキュラーシーブ生成物(上のパターン)及び例2の合成されたままの状態のモレキュラーシーブ生成物(下のパターン)の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義
「ゼオライト」という用語は、アルミナ及びシリカから構成される(すなわち、SiOとAlOの四面体単位が繰り返される)骨格構造を有する、合成アルミノケイ酸塩モレキュラーシーブを意味する。
【0010】
本明細書で使用される「骨格型」という用語は、“Atlas of Zeolite Framework Types” by Ch.Baerlocher,L.B.McCusker and D.H.Olson(Elsevier,Sixth Revised Edition,2007)に記載されている意味を有する。
【0011】
「合成されたままの状態」という用語は、結晶化後の、構造指向剤を除去する前の形態のモレキュラーシーブを指す。
【0012】
「無水」という用語は、物理的に吸着された水と化学的に吸着された水の両方が実質的にないモレキュラーシーブを指す。
【0013】
本明細書で使用される場合、周期表の族の番号付けスキームは、Chem.Eng.News 1985,63(5),26-27に開示されるとおりである。
【0014】
モレキュラーシーブの合成
SEW骨格型のモレキュラーシーブは、(a)(1)FAU骨格型ゼオライト、(2)第1族または第2族の金属(M)源、(3)1,6-ビス(N-シクロヘキシルピロリジニウム)ヘキサンジカチオンを含む構造指向剤(Q)、(4)水酸化物イオン源、(5)水、及び(6)SEW骨格型モレキュラーシーブの種晶を含む、反応混合物を調製することと、(b)反応混合物を、FAU骨格型ゼオライトをSEW骨格型のモレキュラーシーブに転換するのに十分な結晶化条件に供することと、によって合成することができる。
【0015】
反応混合物は、モル比で、表1に記載される範囲内の組成を有し得る。

【表1】

組成変数のM及びQは、本明細書で上記されるとおりである。
【0016】
FAU骨格型ゼオライトは、10~500のシリカ/アルミナ比を有し得る。FAU骨格型ゼオライトは、異なるシリカ/アルミナ比を有する2種以上のFAUゼオライトを含み得る。FAU骨格型ゼオライトは、ゼオライトYであり得る。FAU骨格型ゼオライトは、SSZ-82を形成するための唯一のシリカ及びアルミニウム源となり得る。
【0017】
第1族または第2族の金属(M)は、任意のM含有化合物であり得、結晶化プロセスに有害ではないものを使用することができる。第1族または第2族の金属は、ナトリウムまたはカリウムであり得る。第1族または第2族の金属源には、水酸化金属、酸化金属、ハロゲン化金属、硫酸金属、硝酸金属、及びカルボン酸金属が含まれる。本明細書で使用される場合、「第1族または第2族の金属」という文言は、第1族の金属及び第2族の金属が二者択一で使用されることを意味するのではなく、1つ以上の第1族の金属が単独で、または1つ以上の第2族の金属との組み合わせで使用され得ること、及び1つ以上の第2族の金属が単独で、または1つ以上の第1族の金属との組み合わせで使用され得ることを意味する。
【0018】
構造指向剤(Q)は、以下の構造(1)によって表される1,6-ビス(N-シクロヘキシルピロリジニウム)ヘキサンジカチオンを含む。
【化1】
【0019】
Qの好適な供給源は、ジ第四級アンモニウム化合物の水酸化物及び/または他の塩である。
【0020】
反応混合物はまた、SSZ-82などのSEW骨格型モレキュラーシーブの種晶を含有する。反応混合物における種晶/SiOの重量比は、0.001~0.30(例えば、0.001~0.25、0.001~0.20、0.001~0.15、0.01~0.30、0.01~0.25、0.01~0.20、0.01~0.15、0.05~0.30、0.05~0.25、0.05~0.20、または0.05~0.15)の範囲内であり得る。種晶添加は、完全な結晶化が起こるのに必要な時間を短縮するのに有利であり得る。加えて、種晶添加は、任意の望ましくない相に対して、SSZ-82の核形成及び/または形成を促進することによって、得られる生成物の純度を向上させることができる。
【0021】
反応混合物は、バッチ式または連続式のいずれかで調製することができる。本明細書に記載されるモレキュラーシーブの結晶サイズ、モルホロジー及び結晶化時間は、反応混合物の性質及び結晶化条件によって変わり得る。
【0022】
上記反応混合物からの所望のモレキュラーシーブの結晶化は、例えば、ポリプロピレンジャーまたはテフロン(登録商標)ライニングもしくはステンレス鋼のオートクレーブなどの好適な反応容器中、125℃~200℃(例えば、140℃~180℃)の温度で、使用される温度で結晶化が起こるのに十分な時間、例えば、約5~50日間、静置、タンブルまたは攪拌のいずれかの条件下で実施することができる。結晶化は、通常、反応混合物に自己圧力がかかるように、オートクレーブで加圧下で実施される。
【0023】
所望のモレキュラーシーブ結晶が形成されたら、遠心分離または濾過などの標準的な機械的分離技術によって、反応混合物から固体生成物を分離することができる。結晶を水洗いした後、乾燥させることで、合成されたままの状態のモレキュラーシーブ結晶を得ることができる。乾燥工程は、高温(例えば、75℃~150℃)で数時間(例えば、4~24時間)、実施することができる。乾燥工程は、真空下または大気圧で実施することができる。
【0024】
結晶化プロセスの結果として、回収される結晶性モレキュラーシーブ生成物は、その細孔内に、合成で使用された構造指向剤の少なくとも一部を含有している。
【0025】
合成されたままの状態のモレキュラーシーブは、合成で使用された構造指向剤の一部または全部を除去するための処理に供され得る。構造指向剤の除去は、合成されたままの状態のモレキュラーシーブを構造指向剤の一部または全部を除去するのに十分な温度で加熱する、熱処理(例えば、焼成)によって実施され得る。熱処理には大気圧以下を使用してもよいが、利便性の理由から大気圧が望ましい。熱処理は、少なくとも370℃の温度で、少なくとも1分間、一般に20時間以内(例えば、1~12時間)で実施され得る。熱処理は、925℃までの温度で実施することができる。例えば、熱処理は、400℃~600℃の温度で、酸素含有ガスの存在下、およそ1~8時間、実施され得る。付加的または代替的に、構造指向剤は、オゾンでの処理によって除去することができる。
【0026】
モレキュラーシーブ内の任意の骨格構造外の第1族及び/または第2族の金属カチオンは、当該技術分野においてよく知られている技術に従って(例えば、イオン交換によって)、他のカチオンに置換されてもよい。カチオンの置換には、金属イオン(例えば、希土類金属及び周期表の第2族~第15族の金属)、水素イオン、水素前駆体イオン(例えば、アンモニウムイオン)、及びこれらの組み合わせが含まれ得る。
【0027】
本開示のモレキュラーシーブは、結合剤及び/またはマトリックス材料などの他の材料と組み合わせることによって、触媒組成物に配合することができ、これらの他の材料は、完成した触媒に更なる硬度または触媒活性を付与する。そのような成分とブレンドされる場合、本発明のモレキュラーシーブとマトリックスの相対的な割合は大きく変化し得、本発明のモレキュラーシーブの含量は触媒全体の1~90重量%(例えば、2~80重量%)の範囲である。
【0028】
モレキュラーシーブの特性評価
本明細書の本発明のモレキュラーシーブは、合成されたままの状態及び無水形態で、以下の表2に記載される範囲のモル関係を含む化学組成を有し得る。

【表2】

Qは、1,6-ビス(N-シクロヘキシルピロリジニウム)ヘキサンジカチオンを含み、Mは、第1族または第2族の金属である。
【0029】
SSZ-82の代表的な粉末XRDパターンは、米国特許第7,820,141号を参照することができる。本明細書で示される粉末XRDパターンは、標準的な技術によって収集された。照射は、CuKα照射であった。ピークの高さ及び位置は、ブラッグ角をθとする2θの関数として、ピークの相対強度から読み取り(バックグラウンドを調整)、記録された線に対応する格子面間隔dを算出することができる。
【0030】
回折パターンのわずかな違いは、特定の試料の骨格種類のモル比が格子定数の変化により変わったことに起因し得る。加えて、結晶が極めて小さい場合は、ピークの形状及び強度に影響し、ピークが著しくブロードになることがある。また、回折パターンのわずかな違いは、調製時に使用された有機化合物の違いからも生じ得る。焼成もまた、XRDパターンにわずかなシフトをもらす場合がある。このようなわずかな変動はあるが、基本的な格子構造は変わることはない。
【0031】

以下の例示的な例は、非限定的であることが意図される。
【0032】
例1
テフロン(登録商標)ライナーに以下の成分を順番に加えた:22.96gの脱イオン水、2.64gの1M NaOH溶液、4.38gの12.6% 1,6-ビス(N-シクロヘキシルピロリジニウム)ヘキサンの水酸化物溶液、0.8gのCBV 720 Y-ゼオライト粉末(Zeolyst International;SiO/Alモル比=30)、及び0.08gのSSZ-82種晶。反応混合物の組成は、モル比で、以下のとおりであった。
SiO:0.033 Al:0.2 NaOH:40 H
次いで、ライナーに蓋をし、Parr鋼製オートクレーブ反応器内に入れた。次いで、オートクレーブをオーブンに置き、43rpmでタンブルしながら160℃で35日間加熱した。冷却した反応器から遠心分離によって固体生成物を回収し、脱イオン水で洗浄し、95℃で乾燥させた。
【0033】
得られた生成物の粉末XRDパターンを図1(上のパターン)に示す。生成物は、純粋なSSZ-82モレキュラーシーブであることと一致する。
【0034】
生成物は、誘導結合プラズマ(ICP)元素分析によって決定すると、32のSiO/Alモル比を有した。
【0035】
例2
CBV 720 Y-ゼオライト粉末の代わりにCBV 760 Y-ゼオライト粉末(Zeolyst International;SiO/Alモル比=60)を使用したことを除き、例1を繰り返した。反応混合物の組成は、モル比で、以下のとおりであった。
SiO:0.0167 Al:0.2 NaOH:40 H
反応混合物は、0.1の種晶/SiOの重量比でSSZ-82の種晶を含有した。次いで、ライナーに蓋をし、Parr鋼製オートクレーブ反応器内に入れた。次いで、オートクレーブをオーブンに置き、43rpmでタンブルしながら160℃で7日間加熱した。冷却した反応器から遠心分離によって固体生成物を回収し、脱イオン水で洗浄し、95℃で乾燥させた。
【0036】
得られた生成物の粉末XRDパターンを図1(下のパターン)に示す。生成物は、純粋なSSZ-82モレキュラーシーブであることと一致する。
【0037】
生成物は、ICP元素分析によって決定すると、48のSiO/Alモル比を有した。
【0038】
例3(比較)
反応混合物に種晶を添加しないことを除いて、例1を繰り返した。
【0039】
生成物を粉末XRDによって分析したところ、SSZ-82以外の相であることが示された。
【0040】
例4(比較)
反応混合物に種晶を添加しないことを除いて、例2を繰り返した。
【0041】
生成物を粉末XRDによって分析したところ、SSZ-82以外の相であることが示された。
【0042】
例5
例1の合成されたままの状態のモレキュラーシーブ生成物をマッフル炉内で1℃/分の速度で550℃まで加熱した空気流下で焼成し、550℃で5時間保持し、冷却した。
【0043】
tプロット法による窒素の物理吸着の解析では、試料が63.05m/gの外表面積、0.1900cm/gのミクロ細孔容積、及び0.2725cm/gの全細孔容積を有することが示された。昇温脱離法によるイソプロピルアミンの解析では、試料が739μmol/gの酸点密度を有することが分かった。
【0044】
例6
例2の合成されたままの状態のモレキュラーシーブ生成物をマッフル炉内で1℃/分の速度で550℃まで加熱した空気流下で焼成し、550℃で5時間保持し、冷却した。
【0045】
tプロット法による窒素の物理吸着の解析では、試料が33.94m/gの外表面積、0.2074cm/gのミクロ細孔容積、及び0.4063cm/gの全細孔容積を有することが示された。昇温脱離法によるイソプロピルアミンの解析では、試料が536μmol/gの酸点密度を有することが分かった。
図1
【国際調査報告】