(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-02
(54)【発明の名称】高温荷重下での耐食性が向上したオーステナイト鋼合金およびそれから管状体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20221026BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20221026BHJP
C21D 9/08 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D9/08 E
C21D9/08 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513608
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(85)【翻訳文提出日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2020073877
(87)【国際公開番号】W WO2021037926
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】102019123174.4
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522075298
【氏名又は名称】マンネスマン・ステンレス・チューブス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MANNESMANN STAINLESS TUBES GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】シュピーゲル,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】シュラフェン,パトリック
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA06
4K042AA24
4K042BA06
4K042BA14
4K042CA07
4K042CA09
4K042CA11
4K042DA03
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
(57)【要約】
本発明は、オーステナイト鋼合金に関する。本発明の目的は、600℃超および800℃までの高温荷重下で優れた耐食性を有するオーステナイト鋼合金を提供することである。この目的を達成するために、C:0.01~0.10、Si:最大0.75、Mn:最大2.00、P:最大0.03、S:最大0.03、Cr:23~27、Ni:17~23、Nb:0.2~0.6、N:0.15~0.35、残部はFeおよび溶融関連不純物から本質的になる化学組成(重量%)とすることが提案される。本発明はまた、この鋼合金から作製された管状体、この管状体から作製された太陽光発電設備の太陽熱集熱器の吸収パイプ、この吸収パイプを含む太陽熱集熱器、およびこの鋼合金から管状体を製造する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
C:0.01~0.10
Si:最大0.75
Mn:最大2.00
P:最大0.03
S:最大0.03
Cr:23~27
Ni:17~23
Nb:0.2~0.6
N:0.15~0.35
残部が鉄および溶融起因不純物
である化学組成で実質的に構成されており、少なくとも600℃~800℃の運転温度用のオーステナイト鋼合金。
【請求項2】
重量%で、
C:0.04~0.10、有利には0.05~0.08
Si:最小0.1
Mn:最小0.6
Cr:23~25
Ni:最小20、有利には最小21
N:0.20~0.30
を有する、請求項1に記載の鋼合金。
【請求項3】
重量%で、
0.3<Nb/(C+N)<3.8
を有する、請求項1または2に記載の鋼合金。
【請求項4】
重量%で、
0.4<Nb/(C+N)<2.5
を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の鋼合金。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の鋼合金から製造される、管状体。
【請求項6】
前記管状体が、継目無管であることを特徴とする、請求項5に記載の管状体。
【請求項7】
前記管状体が、溶接管であることを特徴とする、請求項4に記載の管状体。
【請求項8】
液体熱媒体、特に溶融塩を輸送するための、請求項5から7のいずれか1項に記載の管状体から製造される、太陽光発電所の太陽熱集熱器の吸収管。
【請求項9】
外面に塗布された熱吸収コーティングを特徴とする、請求項8に記載の吸収管。
【請求項10】
前記コーティングが、ラッカー塗布またはゾルゲルコーティングであることを特徴とする、請求項9に記載の吸収管。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載の吸収管を備える、太陽熱集熱器。
【請求項12】
請求項1から4のいずれか1項に記載の鋼合金から、管状体を製造する方法において、
少なくとも2μm、有利には少なくとも5μmおよび最大でも20μmの厚さを有する被覆層がアニーリング中に管状体上に生成されるように、管状体を、酸素および/または窒素を含む雰囲気中にて、800℃から900℃の間のアニーリング温度で、0.1時間~24時間、好ましくは2~4時間のアニーリング時間でアニーリングすることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも600℃~800℃の運転温度用のオーステナイト鋼合金に関する。また本発明は、この鋼合金からなる管状体、この管状体からなる太陽光発電所(solar power plant)の太陽熱集熱器(solar receiver)の吸収管(absorber tube)、およびそのような吸収管を含む太陽熱集熱器に関する。本発明はまた、この鋼合金から管状体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽熱発電所(solar thermal power plant)の開発およびエネルギー革命による化石火力発電所の衰退に伴い、ある程度高度に専門化されたアプリケーションポートフォリオを備えた新しい市場への需要や、対応する材料を提供する必要性が存在している。これらのシナリオの1つは、溶融塩をベースにした太陽熱発電所であり、ここでは、蒸気発電所と同様の方法で管が設置され、熱が輸送される。輸送は、特にタワー型集熱器(tower receiver)と呼ばれる太陽熱発電所の設計においては、太陽放射によって加熱された溶融塩を介して行われる。この場合、太陽放射は、一面に広がる個別に追尾する複数の鏡(ヘリオスタット)によってタワーの上部へと集中される。この構想では、タワーの上部で1000℃を超える温度が達成できる。タワーの上部には、放射を熱に変換して熱を熱伝達媒体に出力する太陽熱集熱器が配置されており、熱を従来の発電所プロセスに供給する。
【0003】
太陽熱集熱器は、管束で太陽放射を受け取るものである。この管束には、場合により、放射をより良好に吸収するために黒色のコーティングが施されている。管内を流れるものは、熱を伝達して貯蔵する、例えば硝酸塩混合物等の溶融塩である。熱交換器では、溶融塩からの熱が蒸気回路に伝達され、次いで蒸気回路がカルノープロセスを介して電気を生成する。溶融塩の温度は、一般に約620℃までであり、吸収管の特定の部分はさらに高温になる場合がある。
【0004】
このような分野に適用するための鋼は、高腐食および熱応力に耐えなければならない。時間依存および温度依存のクリープ損傷、同様に周期的熱荷重による機械的疲労荷重を重ねることによる熱機械的な疲労に対する高い機械的安定性も必要である。これには、対応する高レベルの微細構造の安定性が必要である。温度および時間の関数として起こる変化は、転位配列、粒子構造、および析出に実質的に関連している。
【0005】
Ni含有量が高いために非常にコストの高いニッケルベースのオーステナイト鋼に加え、この用途のためのオーステナイトCr-Ni鋼は、例えば国際公開第2016/116227号に開示されている。太陽熱発電所の吸収管の鋼組成は、重量基準で、0%~0.025%のC、0.05%~0.16%のN、2.4%~2.6%のMo、0.4%~0.7%のSi、0.5%~1.63%のMn、0%~0.0375%のP、0%~0.0024%のS、17.15%~18.0%のCr、12.0%~12.74%のNi、0.0025%~0.0045%のBを含み、残部としてFeおよび場合によっては典型的な不純物を含む。この鋼は、吸収管で580℃までの温度範囲用に設計されている。
【0006】
また、国際公開第2015/014592号には、吸収管での580℃までの温度範囲用のために、重量基準で、0.08%未満のC、0%~0.18%のN、0%~3.0%のMo、0%~1.0%のSi、0%~1.0%のMn、0%~0.035%のP、0%~0.015%のS、16.0%~19.0%のCr、9.0%~14.0%のNi、0.0015%~0.005%のB、0%~0.23%のCu、0%~0.007%のAl、0%~0.013%のNb、0%~0.12%のV、0%~0.19のCo、およびTi/Cが少なくとも6とTiが0.24%~0.64%の条件のうち少なくとも1つを満たすTi、および残部としてFeおよび場合によっては典型的な不純物を含む合金組成を有しするオーステナイト鋼について記載されている。
【0007】
公知の鋼種における欠点は、吸収管での少なくとも600℃~約800℃の運転温度用に設計されておらず、太陽光発電所、特に溶融塩ベースの太陽光発電所の経済効率を大幅に向上させることができないことである。
【0008】
また、650℃以上の温度で作動する蒸気タービンの部品は、欧州特許出願公開第1502966号明細書にて公知であり、いずれも重量%で、C:0.45以下、Si:1.0以下、Mn:2.0以下、Cr:19.0~25.0、Ni:18.0~45.0、Mo:2.0以下、Nb:0.1~0.4、W:8.0以下、Ti:0.6以下、Al:0.6以下、B:0.01以下、N:0.25以下、残部が鉄および不可避不純物である化学組成を有するオーステナイト耐熱鋼合金から製造されている。
【0009】
また、オーステナイト鋼は、特開昭62-199753号公報に記載されており、それぞれ重量%で、C:<0.03、Si:<0.6、Mn:<5.0、P:<0.04、S:<0.03、Cr:23.0~30.0、Ni:5.0~18.0、N:0.25~0.45の化学組成を有し、またはさらにMo:0.1~3.0、Nb:0.05~2.0、Ti:0.02~0.5、Cu:0.2~5、B:<0.01、Ce:<0.05およびCa:<0.1の元素の1つまたは複数を有する化学組成を有する。この鋼はまた、式:Ni+0.5×Mn+30×(C+N)≧20を満たす。この鋼は、製紙でソーダを回収するための加熱装置における管に使用され、荷重容量および粒界腐食に対する耐性が向上している。
【発明の概要】
【0010】
このように、本発明の目的は、太陽光発電所、特に溶融塩ベースの太陽光発電所において使用するための、600℃より高く800℃までの高温応力で優れた耐食性を有するオーステナイト鋼合金を提供することにある。さらに、この鋼合金からなる管状体、この管状体からなる太陽光発電所の太陽熱集熱器の吸収管、同様にこの吸収管を有する太陽熱集熱器が提供される。
【0011】
オーステナイト鋼合金のために、この目的は、請求項1の特徴によって達成される。さらなる有利な発展については、従属請求項に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の開示によれば、オーステナイト鋼合金は、重量%で、C:0.01~0.10、Si:最大0.75、Mn:最大2.00、P:最大0.03、S:最大0.03、Cr:23~27、Ni:17~23、Nb:0.20~0.6、N:0.15~0.35、残部が鉄および溶融起因不純物(melt-induced impurity)である化学組成から実質的になり、特にこの化学組成からなり、少なくとも600℃~800℃の運転温度において高い耐食性および熱機械的な疲労に対する機械的安定性を有し、太陽光発電所、特に溶融塩ベースの太陽光発電所における経済効率を大幅に向上させる。
【0013】
本発明に係るオーステナイト鋼合金は、少なくとも600℃~800℃の高い運転温度において、従来の鋼合金と比較してそれを超えるまたはより改善された腐食特性と、公知の合金と比較してより十分なクリープ破断挙動を有する。
【0014】
合金元素のクロム23~27重量%とニッケル17~23重量%の本発明の組み合わせは、有利には運転条件下で腐食を低減する被覆層の形成を達成する。
【0015】
被覆層の形成は、有利には適切な前処理によって達成することができ、これによって、初期の腐食速度が大幅に減少し、耐用年数が増加する。
【0016】
本発明によれば、これは、本発明に係る鋼合金から管状体を製造する方法によって達成され、この方法では、少なくとも2μm、有利には少なくとも5μm、最大でも20μmの厚さの被覆層がアニーリング中に管状体の上に生成されるように、管状体を、酸素および/または窒素を含む雰囲気中にて、800℃から900℃の間のアニーリング温度で、0.1時間~24時間、好ましくは2~4時間アニーリングする。本発明の合金組成を使用することによってまたは適切な前処理をすることによって形成された腐食抑制被覆層は、永久的であり、機械的に損傷した場合にはそれ自体で回復する。
【0017】
被覆層は、例えば酸化物もしくは窒化物、またはこれらの組み合わせの層が形成されるように、運転による使用の前の前処理の過程で、例えば酸素、窒素または他の気体を含む好適な雰囲気下にてアニーリングすることにより、コンディショニングすることができる。
【0018】
なお、アニーリングはまた、管製造の主要材料に、部材自体(吸収管)に、または部材の最終的な組み立て状態において直接実施することができる。
【0019】
アニーリング温度は、有利には800℃から900℃の間であり、800℃でのアニーリング時間は、約3時間である。得られる被覆層は、それによって初期の高腐食速度を低減するために、少なくとも2μm、有利には少なくとも5μmの厚さを有する。より高いアニーリング温度に対応して、より短いアニーリング時間にすることで、それに対応して被覆層が最小の厚さで生成される。一方で、アニーリングの最高温度は900℃を超えるべきではない。さらに、アニーリングによる前処理の場合、被覆層が剥がれるのを防ぐために、被覆層は20μmの厚さを超えるべきではない。また、Al含有コーティングを加える前処理を行うことで、耐食性をさらに向上できる。
【0020】
一方、本発明に係る合金はまた、熱疲労に対する高い耐性、すなわちより多くの温度変化後における高い耐性を達成することができる。
【0021】
クリープ損傷に対する必要な耐性、すなわち一定の荷重下での低時間依存および低温度依存の塑性変形は、M23C6型またはNb(C、N)の炭化物を析出させることによって達成される。この目的のために、必要なNbの最小含有量は、下記式(1):
式(1):0.3<Nb/(C+N)<3.8
に従って、溶解中の鋼に存在するCおよびN含有量に応じて決定される。
【0022】
重量%で、C:0.04~0.10、特に有利には0.05~0.08、Si:最小0.1、Mn:最小0.6、Cr:23~25、Ni:最小20、特に有利には最小21、N:0.20~0.30のオーステナイト鋼合金の合金含有量は、腐食および機械的性質に有利な効果をもたらすことが証明されている。
【0023】
下記式(2)に従ってNb、C、およびNの制限を遵守することは、必要な性質の組み合わせに特に好ましいことが証明されている。
式(2):0.4<Nb/(C+N)<2.5
【0024】
クリープ損傷に対する必要な耐性は、M23C6型またはNb(C、N)の炭化物を析出させることにより達成される。この目的のために、合金元素CおよびN、ならびにNbおよびCrが必要である。TiおよびVなどの他の特殊な炭化物または窒化物の形成元素(carbide or nitride formers)と比較して、Nbの合金化による添加はさらに結晶粒微細化効果を有し、同様により微細な結晶粒によって耐食性が増す。
【0025】
本発明に係る鋼合金は、例えば、ストリップもしくはシートなどの平坦な鋼製品または継目無管または溶接管としての管状体を製造するために有利に使用することができる。溶接管は、それに対応して形成されたストリップまたはシートから有利に製造される。継目無管は、典型的な管製造法である「マンネスマン法」を使用して、または例えば押出によって製造できる。
【0026】
本発明に係る鋼合金からなる管状体の有利な用途は、液体熱媒体、特に溶融塩を輸送するための太陽光発電所の太陽熱集熱器の吸収管としてである。
【0027】
本発明の有利な一実施形態において、吸収管は、吸収器の性能を向上させるために、外面に塗布された熱吸収黒色コーティングを有する。これは、後に、例えばラッカーとして塗布することができ、または熱プロセスの助けを借りて前駆体から製造することができる。後者は、例えば、管に塗布した後、日光にさらされることによって硬化するゾルゲル層であってもよい。
【0028】
このように、本発明に係るオーステナイト鋼合金から製造された管状体の有利な使用として、液体熱媒体、特に溶融塩を輸送するための太陽熱集熱器の吸収管として使用することを提供する。したがって、太陽熱集熱器は、本発明に係るオーステナイト鋼合金の管状体からなる吸収管を有利に備える。
【0029】
試験によれば、600℃以上という吸収管に必要な運転温度では、腐食応力が高いため、クロム含有量を少なくとも23重量%に、ニッケル含有量を少なくとも17重量%に増やす必要があることが示された。
【0030】
複数の合金元素が、一般に、特定の性質に的を絞って影響させるために鋼に添加されている。ある合金元素は、異なる鋼に対しては異なる特性に影響を与えることができる。効果および相互作用は、概して、量、さらなる合金元素の存在、および材料中の溶液状態に大きく依存する。相関関係は多様で複雑である。本発明に係る合金中の合金元素の効果を、以下でより詳細に議論する。また以下で、本発明に従って使用される合金元素の正の効果について記載する。
【0031】
炭素C:炭素は、炭化物を形成し、オーステナイトを安定させ、強度を増加させるために必要である。Cの含有量が多いと、溶接特性が損なわれ、伸びおよび靭性特性が損なわれるため、0.1重量%未満の最大含有量が設定される。炭化物の微細な析出を達成するために、0.01重量%の最小添加が必要である。特にNとの相互作用における機械的性質および溶接能力の最適な組み合わせのために、C含有量は、有利には0.04~1重量%、特に有利には0.05~0.08重量%に設定される。
【0032】
窒素N:窒素は、通常、鉄鋼生産の関連元素である。窒化物の形での窒素の結合は、Nbの合金化による添加によって有利である。炭化クロムと共に、これは強度のさらなる増加につながる。したがって、本発明に係る合金は、0.15重量%の最小含有量を有し、これは、NbおよびCとの相互作用において、強度増加Nb(C、N)の形成をもたらす。溶解窒素はオーステナイトを安定化し、高濃度では粒界の脆化を引き起こす。したがって、本発明に係る合金では、窒素含有量は、最大0.35重量%に制限される。0.20~0.30重量%のN含有量が有利であることが証明されている。
【0033】
クロムCr:クロムは、強度を増加させ、腐食速度を低下させ、炭化物を形成する。一方で、これは、オーステナイトにおいて脆化する金属間化合物シグマ相(Fe、Cr)の形成を引き起こす可能性があり、このために、27重量%の上限、有利には最大でも25重量%が定義される。本発明に係る合金の本発明の高温使用における強度維持および腐食保護のために、23重量%の最小含有量が必要である。
【0034】
ニッケルNi:ニッケルは、オーステナイトに低温での安定をもたらすため、オーステナイト構造の形成に必要である。これは、例えば腐食保護のためにより多くのクロムが必要とされる場合にはなおさらである。クロム含有量が増加するにつれて脆化効果を有し析出するシグマ相の危険性は、ニッケルによって低減されるため、クロム含有量が23から27重量%の間の場合、本発明の合金には17~23重量%のニッケル含有量が必要である。より高いニッケル含有量は、本発明に係る用途にとって不経済な構想につながる。この背景に対して、少なくとも20、有利には少なくとも21重量%のNi含有量が明らかになった。
【0035】
ニオブNb:ニオブは、Nb(C、N)の析出によって強度を増加させるような方法で、本発明の合金において炭化物形成元素として作用する。ニオブの含有量は、CおよびNの含有量と整合していなければならないため、Nb(C、N)の一次析出、すなわち溶融プロセスの間までに形成される析出の発生を防止しなければならず、このために、0.6重量%の最大含有量が規定される。二次Nb(C、N)の所望の含有量を析出させるために、本発明に係る合金において、少なくとも0.2重量%の含有量が規定される。
【0036】
マンガンMn:マンガンは、オーステナイトを安定化させるため、ニッケル含有量の代替として使用できる。この目的のために、0.6重量%の最小含有量が場合により必要である。なお、Mnは、ニッケルと比較して耐食性を減少させるため、その含有量は最大2重量%に制限される。
【0037】
ケイ素Si:ケイ素の添加は、一般に、Cr2O3層の形成を促進することによって耐食性を増加させる。この目的のために、0.1重量%の最小含有量が合金化によって場合により添加される。ケイ素含有量が高いと、金属間化合物シグマ相の析出速度が加速し、溶接プロセスがより困難になる。したがって、ケイ素含有量は最大0.75重量%に制限される。
【0038】
リンP:リンは、鉄鉱石の微量元素または関連元素であり、置換型原子として鉄格子に溶解している。リン含有量は、拡散速度が遅く、靭性のレベルを大幅に低下させるため、特に偏析の傾向を強く示すので、一般的に可能な限りリン含有量を下げる試みがなされている。リンが粒界に付着すると、熱間圧延中に粒界に沿って亀裂が発生する可能性がある。これらの理由により、リン含有量は、0.03重量%未満の値に制限される。
【0039】
硫黄S:硫黄は、リンと同様に、鉄鉱石に微量元素または関連元素として結合しているか、または溶鉱炉ルートを介する製造中にコークスによって取り込まれる。鋼では、広範囲に偏析する傾向を示し、非常に脆化効果を有し、これによって伸びおよび靭性の特性が損なわれるため、一般に望ましいものではない。したがって、可能な限り低い溶融物中の硫黄の量を達成する試みがなされている(例えば、深度脱硫によって)。これらの理由により、硫黄含有量は0.03重量%未満の値に制限される。
【0040】
本発明の新規の鋼合金の合金組成により、600℃以上の高い運転温度での太陽熱システムの分野において非常に経済的な用途が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】比較合金1~4および発明合金1の試験結果を示す棒グラフである。
【
図2】発明合金1からなるサンプルの熱疲労挙動を示すグラフである。
【実施例】
【0042】
下記表1は、試験した材料の化学組成を重量%で示している(抜粋)。
【0043】
【0044】
オーステナイト鋼合金に課せられる技術的要求は、一方では、運転条件下での被覆層の形成のためにまたはコンディショニングのために低腐食速度を可能とし、他方では、必要な機械的特性、すなわち熱疲労に対する高い耐性を可能とする、合金元素の組み合わせを必要とするものである。経済的な観点から、Ni含有量は可能な限り低くするべきである。
【0045】
このような条件は、本発明に係る合金組成で完全に満たされる。比較鋼2、3および4は、非常に高いNi含有量またはNiベースの合金を有するが、比較鋼1および発明鋼1は、著しく低いNi含有量を有する。必要な特性に関連して、発明鋼1は、低Ni含有量の経済的観点から最良の結果を生み出した。これらの合金のそれぞれのサンプルシートを、700℃、660℃、640℃、600℃、および570℃の温度でKNO
3-NaNO
3の溶融塩中で1000時間の腐食試験にかけた。
図1に、試験した比較合金1~4および発明合金1(
図1では、Comp.1、Comp.2、Comp.3、Comp.4およびInv.1として明示している)の試験結果を、各合金について棒グラフの形で示す。図中、各合金において、左から右に、溶融塩の700℃、660℃、640℃、600℃、および570℃の温度の結果を示す5つの縦棒を示している。腐食試験中に形成された腐食層の厚さは、腐食攻撃の尺度として解釈されるμm単位のy軸にプロットしている。本発明の鋼2への腐食攻撃は、比較的穏やかであり、より低い合金コストに対して測定した場合に最適である。
【0046】
図2のグラフは、発明鋼1(Inv.1)からなるサンプルの熱疲労挙動を示すものである。値Δεを、試験の開始と終了の間のサンプルの伸びとして0.2~2.0パーセントでy軸にプロットし、x軸には、値が10
2から10
5の間である5%N
A5の荷重降下基準(LW)で、初期亀裂サイクルの数としての荷重サイクル数をプロットしている。R
ε=-1は、疲労試験中の交互応力を示している。発明鋼1(Inv.1)は、交互応力下で優れた安定性を示し、温度からほぼ独立していた。このような特性は、太陽光発電所の温度サイクルが比較的頻繁なものであるため、運転条件下で特に重要である。
【国際調査報告】