(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-02
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20221026BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20221026BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20221026BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/62
A61K6/70
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513669
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(85)【翻訳文提出日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2020025386
(87)【国際公開番号】W WO2021037396
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517264281
【氏名又は名称】デンツプライ シロナ インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】522076181
【氏名又は名称】デンツプライ デトレイ ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クレー,ヨアキム,イー.
(72)【発明者】
【氏名】スジラット,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】キルシュナー,ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】ラレヴィー,ジャック
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA10
4C089BA15
4C089BA17
4C089BC02
4C089BC05
4C089BC10
4C089BD01
4C089BD06
4C089BE01
4C089CA08
4C089CA10
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの重合性モノマーと、400nm~800nmの範囲の吸収極大を有する光増感剤、および共開始剤としての少なくとも1つのCH-酸性化合物を含むラジカル開始剤系とを含む歯科用組成物に関する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの重合性モノマー
を含む、歯科用組成物であって、前記歯科用組成物が、
b)ラジカル開始剤系であって、
i.400nm~800nmの範囲の吸収極大を有する光増感剤と、
ii.共開始剤としての少なくとも1つのCH-酸性化合物と
を含むラジカル開始剤系
をさらに含むことを特徴とする、歯科用組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、以下の式(I):
【化1】
(式中、
R
7、R
10=C
1~C
8アルコキシ、C
1~C
8アルキル、ヒドロキシ、チオール、アミン、または-OCH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分、好ましくは、メトキシ、エトキシ、ヒドロキシ、アミン、メチル、または-OCH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分であり、
R
8、R
9=水素、C
1~C
8アルキル、またはアセチル部分、好ましくは、水素、メチル、またはアセチル部分であり、ただし、少なくともR
8またはR
9は水素部分である)
に係る化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、以下の式(Ia)および(Ib):
【化2】
(式中、
R
8、R
9=水素、C
1~C
8アルキル、またはアセチル部分、好ましくは、水素、メチル、またはアセチル部分であり、ただし、少なくともR
8またはR
9は水素部分であり、
R
11、R
12=水素、C
1~C
8アルキル、または-CH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分、好ましくは、水素、メチル、エチル、または-CH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分である)
【化3】
(式中、
R
7=C
1~C
8アルコキシ、C
1~C
8アルキル、ヒドロキシ、チオール、アミン、または-OCH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分、好ましくは、メトキシ、エトキシ、ヒドロキシ、アミン、メチル、または-OCH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分であり、
R
8、R
9=水素、C
1~C
8アルキル、またはアセチル部分、好ましくは、水素、メチル、またはアセチル部分であり、ただし、少なくともR
8またはR
9は水素部分であり、
R
12=水素、C
1~C
8アルキル、または-CH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分、好ましくは、水素、メチル、エチル、または-CH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分である)
の1つに係る化合物であり、
好ましくは、前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、2-メチルアセト酢酸エチル(HD-3)、ジアセト酢酸エチル(HD-5)、またはアセト酢酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル(HD-10)である
ことを特徴とする、請求項2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、以下の式(II):
【化4】
(式中、
R
13=水素、C
1~C
8アルキル、カルボン酸、アセチル、または-CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分であり、前記C
1~C
8アルキル部分は、少なくともニトリル基、ヒドロキシ基、またはカルボン酸基で置換され得、
好ましくは、メチル、-CH
2OH、-COOH、-CH
2COOH、-CH
2CN、アセチル、または-CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分である)
に係る化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、以下の式(IIa)および(IIb):
【化5】
(式中、
R
14=水素、C
1~C
8アルキル、またはヒドロキシ部分、好ましくは、メチルまたはヒドロキシ部分である)
【化6】
(式中、
R
15=水素、ヒドロキシ、カルボン酸、ニトリル、または-OC(O)C(CH
3)CH
2部分である)
の1つに係る化合物であることを特徴とする、請求項4に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、以下の式(III):
【化7】
(式中、
R
16=水素、C
1~C
18アルキル、またはC
1~C
18シクロアルキル部分であり、前記C
1~C
8アルキルまたはシクロアルキル部分では、少なくとも1つの炭素原子は窒素で置換され得、前記C
1~C
8アルキルまたはシクロアルキル部分は、少なくとも二重結合酸素原子、芳香族、および/またはヘテロ芳香族基で置換され得る)
に係る化合物であり、
好ましくは、前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、N-(ジフェニルメチレン)グリシンエチルエステル(HD-1)、2-オキソシクロペンタンカルボン酸エチル(HD-2)、または2-エチル-2-メチルアセト酢酸エチル(HD-4)である
ことを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、以下の式(IV):
【化8】
(式中、
R
17、R
18=水素またはC
1~C
8アルキル部分である)
に係る化合物であり、
好ましくは、前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、1,4-シクロヘキサンジオン-2,5-ジカルボン酸ジメチル(HD-6)である
ことを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、以下の式(V):
【化9】
(式中、
R
19、R
20=水素またはC
1~C
8アルキル部分である)
に係る化合物であり、
好ましくは、前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、デヒドロ酢酸(HD-7)である
ことを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、以下の式(VI):
【化10】
(式中、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6=水素、C
1~C
8アルキル、カルボン酸、アセチル、または-OC(O)CHCH
2部分であり、ただし、少なくともR
1、R
2、R
5、またはR
6、好ましくはR
5またはR
6は、水素部分である)
に係る化合物であり、
好ましくは、前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、以下の式(VIa):
【化11】
(式中、
R
3、R
4、R
6=水素、C
1~C
8アルキル、カルボン酸、アセチル、または-OC(O)CHCH
2部分である)
に係る化合物であり、
より好ましくは、前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、α-アセチルブチロラクトン(HD-8)、または(R)-α-アクリロイルオキシ-β,β-ジメチル-γ-ブチロラクトン(HD-9)である
ことを特徴とする、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
前記歯科用組成物が、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、およびスルホニウム塩から選択される添加剤をさらに含み、好ましくは、前記添加剤はヨードニウム塩であることを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
前記添加剤が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて0.01~5重量パーセントの量で存在することを特徴とする、請求項10に記載の歯科用組成物。
【請求項12】
前記光増感剤が、1,2-ジケトン化合物であり、好ましくは、前記光増感剤が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて0.01~5重量パーセントの量で存在することを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項13】
前記ラジカル開始剤系が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて0.1~10重量パーセントの量で存在することを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項14】
前記少なくとも1つのCH-酸性化合物が、前記歯科用組成物の総重量に基づいて0.01~5重量パーセントの量で存在することを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【請求項15】
前記歯科用組成物が、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まない、ラジカル開始剤系を含むことを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の歯科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの重合性モノマーと、400nm~800nmの範囲の吸収極大を有する光増感剤、および共開始剤としての少なくとも1つのCH-酸性化合物を含むラジカル開始剤系とを含む歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の修復は通常、フリーラジカル重合性樹脂を含有する光硬化性歯科用組成物を含む。歯科用組成物の光硬化は、可視光への曝露時にフリーラジカルを発生させる光開始剤系を含む。従来、任意選択で第三級芳香族アミンと組み合わされたカンファーキノン(CQ)などの光増感剤が、光開始剤系としてしばしば使用される。
【0003】
しかしながら、(メタ)アクリレート含有組成物中のアミンの存在は、結果として生じる光硬化組成物の黄変を引き起こし得る。第三級芳香族アミンの別の欠点は、それらの変色傾向および強酸性媒体に対するそれらの感受性である。さらに、第三級芳香族アミンは、酸素ラジカルと反応する。したがって、一方ではその使用が粘着性表面を回避するという有益性があるが、他方では、CQなどのそれぞれの光増感剤での化学量論的要求より多くの芳香族アミンが、開始に必要である。歯科用組成物に共開始剤として使用するための第三級芳香族アミンは、硬化組成物から浸出し得、これは毒性学的懸念を引き起こし得る。特に、第三級芳香族アミンについての毒性学的懸念は、歯科用材料におけるCQなどの光増感剤のための新規共開始剤の開発を必要とする。
【0004】
本発明の目的
先行技術を考慮すると、既知の先行技術の歯科用組成物の前述の欠点を示さない開始剤系を含む、新規歯科用組成物を提供することが、したがって本発明の目的であった。
【0005】
具体的には、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まない開始剤系を含む歯科用組成物を提供することが、本発明の目的であった。
【0006】
したがって、必要なものは、歯科用組成物におけるカンファーキノンなどの一般的な光増感剤のための新規共開始剤を提供する方法であって、共開始剤がアミンを含まない方法である。
【0007】
さらに、光増感剤とCH-酸性化合物である少なくとも1つの共開始剤との組み合わせを含有するラジカル開始剤系を含む歯科用組成物を提供することが、本発明の目的であり、そのような本発明の歯科用組成物は、要求される生体適合性を同時に改善しながら、浸出問題および一般に使用される第三級芳香族アミンに基づく共開始剤の毒性学的懸念を低減するか、または理想的には回避もしくは排除することができる。
【発明の概要】
【0008】
これらの目的、および明記されていないが、前置きとして本明細書で論じられた関係から直ちに導出または認識することができるさらなる目的も、請求項1に記載のすべての特徴を有する歯科用組成物によって達成される。歯科用組成物の適切な変更は、従属請求項2~15で保護される。
【0009】
本発明はしたがって、
a)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの重合性モノマー
を含む、歯科用組成物であって、歯科用組成物が、
b)ラジカル開始剤系であって、
i.400nm~800nmの範囲の吸収極大を有する光増感剤と、
ii.共開始剤としての少なくとも1つのCH-酸性化合物と
を含むラジカル開始剤系
をさらに含むことを特徴とする、歯科用組成物を提供する。
【0010】
したがって、予測不可能な方法で、既知の先行技術の歯科用組成物の前述の欠点を示さない開始剤系を含む、新規歯科用組成物を提供することが可能である。
【0011】
具体的には、本発明は、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まないラジカル開始剤系を含む歯科用組成物を提供する。
【0012】
それにより、本発明は、歯科用組成物におけるカンファーキノンなどの一般的な光増感剤のための新規共開始剤であって、アミンを含まない共開始剤を提供する。
【0013】
さらに、光増感剤とCH-酸性化合物である少なくとも1つの共開始剤との組み合わせを含有するラジカル開始剤系を含む歯科用組成物が提供され、そのような本発明の歯科用組成物は、要求される生体適合性を同時に改善しながら、浸出問題および一般に使用される第三級芳香族アミンに基づく共開始剤の毒性学的懸念を低減するか、または理想的には回避もしくは排除することができる。
【0014】
共開始剤として少なくとも1つのCH-酸性化合物を含む歯科用組成物は、芳香族アミンの浸出問題を引き起こさずに、良好な変換を含む改善された重合効率を提供する。本発明のCH-酸性化合物であるそのような共開始剤は、強酸性媒体に安定であり、それにより、接着剤およびセルフエッチング製剤などの歯科用途に適している。本発明のそのような共開始剤は、そのような歯科用組成物に組み込まれると、良好な貯蔵安定性を同時に示しながら、低い変色傾向を有する。
【0015】
CH-酸性化合物である少なくとも1つの共開始剤は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する1つ以上の重合性モノマーの重合を開始することによって作用する。本発明の共開始剤は、そのような歯科用組成物に組み込まれると、構成成分の放出が低減された生体適合性を提供する。
【0016】
本発明のより完全な理解のために、添付の図面と併せて考慮される以下の発明を実施するための形態を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(1)CQ(0.5%wt)または(2)CQ/ラクトン(HD-8)(0.5/3%w/w)または(4)CQ/DMABE(0.5/1%w/w)または(3)CQ/ラクトン(HD-8)/Speedcure 938(0.5/3/1%w/w)の存在下、Smartlite Focus(300mW/cm
2)への曝露下、試料厚さ1.4mm、大気下での、メタクリレート官能基(TPH3)の光重合プロファイルを示す。
【
図2】(1)CQ(1.5%w/w)または(2)CQ/Speedcure 938(1.5/0.75%w/w)または(3)CQ/アセチルブチロラクトン(HD-8)/ヨードニウムスルホネート(1.5/1.2/0.75%w/w)または(4)CQ/アセチルブチロラクトン(HD-8)/Speedcure938(1.5/1.2/0.75%w/w)の存在下、またはSmartLite Focus(300mW/cm
2)への曝露下、試料厚さ17μm、大気下での、C=C二重結合(PrimeBond Active)の光重合プロファイルを示す。
【
図3】光開始剤としてのカンファーキノンの存在下(大気下、厚さ=1.4mm、SmartLite Focus 300mW/cm
2)での、メタクリレート官能基(TPH3)の光重合プロファイルを示す:(1)CQ/HD-1/SC938(0.5/3/1%w/w)、(2)CQ/HD-2/SC938(0.5/3/1%w/w)、(3)CQ/HD-3/SC938(0.5/3/1%w/w)、(4)CQ/HD-4/SC938(0.5/3/1%w/w)、(5)CQ/HD-5/SC938(0.5/3/1%w/w)、(6)CQ/HD-6/SC938(0.5/3/1%w/w)、(7)CQ/HD-7/SC938(0.5/3/1%w/w)、(8)CQ/HD-8/SC938(0.5/3/1%w/w)、(9)CQ/HD-10/SC938(0.5/3/1%w/w)、(10)CQ/DMABE(0.5/0.5%w/w)、(11)CQ(0.5%w/w)。照射はt=5秒で開始する。
【
図4】光開始剤としてのカンファーキノンの存在下(大気下、厚さ=1.4mm、SmartLite Focus 300mW/cm
2)での、メタクリレート官能基(TPH3)の光重合プロファイルを示す:(1)CQ/TPH3(0.5/100%w/w)、(2)CQ/HD-9/TPH3(0.5/5/95%w/w)、(3)CQ/HD-9/SC938/TPH3(0.5/5/1/100%w/w)、(4)CQ/DMABE/TPH3(0.5/0.6/100%w/w)、(5)CQ/DMABE/HD-9/TPH3(0.5/0.6/5/95%w/w)。照射はt=5秒で開始する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
「アルキル」という用語は、特に定めがない限り、1~18個の炭素原子を有するモノラジカルの分岐鎖状または非分岐鎖状飽和炭化水素鎖を指す。この用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-デシル、ドデシル、およびテトラデシルなどの基によって例示することができる。
【0019】
「アルコキシ基」という用語は、特に定めがない限り、1~18個の炭素原子を有するモノラジカルの分岐鎖状または非分岐鎖状飽和炭化水素鎖を指し、そのようなアルコキシ基の少なくとも1個の炭素原子は、1個の酸素原子で置換されている。そのようなアルコキシ基は、前述の少なくとも1個の酸素原子によって化合物の炭素原子に結合している。この用語は、メトキシおよびエトキシなどの基によって例示することができる。つまり、「アルコキシ基」という用語は、本発明の文脈では、化学者が一般的な化学的知識に基づいて理解するものとして定義される。
【0020】
「アルキレン」という用語は、特に定めがない限り、1~4個の炭素原子を有する直鎖状の飽和二価の炭化水素ラジカル、または3~4個の炭素原子を有する分岐鎖状の飽和二価の炭化水素ラジカル、例えばメチレン、エチレン、2,2-ジメチルエチレン、プロピレン、2-メチルプロピレン、およびブチレンなど、好ましくはメチレン、エチレン、またはプロピレンを指す。
【0021】
「アリール」という用語は、C6~C10員環の芳香族、複素環式、縮合芳香族、縮合複素環式、二芳香族、または二複素環式の環系を指す。広く定義される「アリール」は、本明細書で使用される場合、例えば、ベンゼン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、およびピリミジンなどの、0~4個のヘテロ原子を含んでいてもよい5、6、7、8、9および10員環の単環芳香族基を含む。環構造中にヘテロ原子を有する「アリール」基を、「ヘテロアリール」または「複素環」または「ヘテロ芳香族」と呼ぶ場合もある。芳香環は、1つ以上の環位置において、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ(または四級化アミノ)、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホン酸、リン酸、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族もしくはヘテロ芳香族部分、--CF3、--CN、およびそれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない1つ以上の置換基で置換され得る。
【0022】
「シクロアルキル」という用語は、単環式もしくは多環式シクロアルキルラジカルを指す。単環式アシクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが挙げられる。多環式シクロアルキルラジカルの例としては、例えば、アダマンチル、ノルボルニル、デカリニル、7,7-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル、およびトリシクロ[5.2.1.02,6]デシルなどが挙げられる。
【0023】
「(メタ)アクリレート」という用語は、本開示の文脈では、アクリレートおよび対応するメタクリレートを指すことが意図されている。
【0024】
「(メタ)アクリルアミド」という用語は、本開示の文脈では、アクリルアミドおよびメタクリルアミドを含むことが意図されている。
【0025】
「重合性モノマー」という用語は、本開示の文脈では、ラジカル重合することができる任意のモノマーを意味する。重合性モノマーは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む。少なくとも1つのエチレン性不飽和基は、ビニル、アリル、アクリル、メタクリル、およびスチリルを含む。
【0026】
「少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合性モノマー」および「エチレン性不飽和モノマー」という用語は、交換可能に使用されてもよい。
【0027】
「ラジカル開始剤系」という用語は、本開示の文脈では、熱または光および/または環境レドックス条件によって活性化されるとフリーラジカルを形成し、それにより重合性モノマーの重合が開始する、増感剤および少なくとも1つの共開始剤を含む任意の系を意味する。
【0028】
「共開始剤」という用語は、本開示の文脈では、UV放射線または可視光での曝露時に本質的には吸収しないが、本開示に従って使用される増感剤とともにフリーラジカルを形成する化合物を意味する。
【0029】
「増感剤」という用語は、本開示の文脈では、曝露時に400~800nmの範囲の波長の放射線を吸収することができるが、単独、すなわち共開始剤の添加なしではフリーラジカルを形成することはできない。本開示で使用される増感剤は、本開示で使用される共開始剤と相互作用することができなければならない。
【0030】
本開示は、歯科用組成物に関する。歯科用組成物は、歯科用接着剤、歯科用コンポジット、根管充填組成物、歯科用シーラント、および歯科用セメントから選択される。
【0031】
本開示の歯科用組成物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する1つ以上の重合性モノマーを含む。
【0032】
重合性モノマーは、アクリレート、メタクリレート、エチレン性不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和モノマー、(メタ)アクリル酸のC2~8ヒドロキシルアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC1~24アルキルエステルもしくはシクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のC2~18アルコキシアルキルエステル、オレフィンもしくはジエン化合物、モノエステル/ジエステル、モノエーテル、付加物、ビニルモノマー、スチリルモノマー、TPH樹脂、SDR樹脂、PBA樹脂、および/またはBPA非含有樹脂であってもよい。
【0033】
ラジカル開始剤系
本開示の歯科用組成物は、ラジカル開始剤系を含む。ラジカル開始剤系は、光開始剤を含み得る。好適な光開始剤は、2成分系または3成分系の形態であり得る。2成分系は、光増感剤、および共開始剤としてのCH-酸性化合物を含み得る。3成分系は、追加でヨードニウム、スルホニウム、またはホスホニウム塩をさらに含み得る。
【0034】
本発明の文脈では、「CH-酸性化合物」という表現は、「α-CH-酸性化合物」を指す。最後のこの定義は、明確に理解可能である(「Organikum」のような有機化学の一般的な教科書も参照)。
【0035】
そのようなCH-酸性化合物は、少なくとも1つの重合性モノマーとして重合プロセスに参加することを可能とする、少なくとも1つのエチレン性不飽和基などのさらなる官能性を含むことができる。
【0036】
これは、そのような特定の共開始剤を使用することのさらなる利点であり得、有毒なアミンベースの共開始剤を置き換えるのに適しているだけでなく、成長するポリマー鎖に組み込まれる可能性も提示する。
【0037】
一実施形態では、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、以下の式(I):
【化1】
(式中、
R
7、R
10=C
1~C
8アルコキシ、C
1~C
8アルキル、ヒドロキシ、チオール、アミン、または-OCH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分、好ましくは、メトキシ、エトキシ、ヒドロキシ、アミン、メチル、または-OCH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分であり、
R
8、R
9=水素、C
1~C
8アルキル、またはアセチル部分、好ましくは、水素、メチル、またはアセチル部分であり、ただし、少なくともR
8またはR
9は水素部分である)
に係る化合物である。
【0038】
その好ましい実施形態では、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、以下の式(Ia)および(Ib):
【化2】
(式中、R
8、R
9=水素、C
1~C
8アルキル、またはアセチル部分、好ましくは、水素、メチル、またはアセチル部分であり、ただし、少なくともR
8またはR
9は水素部分であり、
R
11、R
12=水素、C
1~C
8アルキル、または-CH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分、好ましくは、水素、メチル、エチル、または-CH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分である)
【化3】
(式中、
R
7=C
1~C
8アルコキシ、C
1~C
8アルキル、ヒドロキシ、チオール、アミン、または-OCH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分、好ましくは、メトキシ、エトキシ、ヒドロキシ、アミン、メチル、または-OCH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分であり、
R
8、R
9=水素、C
1~C
8アルキル、またはアセチル部分、好ましくは、水素、メチル、またはアセチル部分であり、ただし、少なくともR
8またはR
9は水素部分であり、
R
12=水素、C
1~C
8アルキル、または-CH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分、好ましくは、水素、メチル、エチル、または-CH
2CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分である)
の1つに係る化合物であり、
好ましくは、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、2-メチルアセト酢酸エチル(HD-3)、ジアセト酢酸エチル(HD-5)、またはアセト酢酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル(HD-10)である。
【0039】
1つの代替の実施形態では、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、以下の式(II):
【化4】
(式中、
R
13=水素、C
1~C
8アルキル、カルボン酸、アセチル、または-CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分であり、C
1~C
8アルキル部分は、少なくともニトリル基、ヒドロキシ基、またはカルボン酸基で置換され得、
好ましくは、メチル、-CH
2OH、-COOH、-CH
2COOH、-CH
2CN、アセチル、または-CH
2OC(O)C(CH
3)CH
2部分である)
に係る化合物である。
【0040】
その好ましい実施形態では、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、以下の式(IIa)および(IIb):
【化5】
(式中、
R
14=水素、C
1~C
8アルキル、またはヒドロキシ部分、好ましくは、メチルまたはヒドロキシ部分である)
【化6】
(式中、
R
15=水素、ヒドロキシ、カルボン酸、ニトリル、または-OC(O)C(CH
3)CH
2部分である)
の1つに係る化合物である。
【0041】
別の代替の実施形態では、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、以下の式(III):
【化7】
(式中、
R
16=水素、C
1~C
18アルキル、またはC
1~C
18シクロアルキル部分であり、C
1~C
8アルキルまたはシクロアルキル部分では、少なくとも1つの炭素原子は窒素で置換され得、C
1~C
8アルキルまたはシクロアルキル部分は、少なくとも二重結合酸素原子、芳香族、および/またはヘテロ芳香族基で置換され得る)
に係る化合物であり、
好ましくは、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、N-(ジフェニルメチレン)グリシンエチルエステル(HD-1)、2-オキソシクロペンタンカルボン酸エチル(HD-2)、または2-エチル-2-メチルアセト酢酸エチル(HD-4)である。
【0042】
別の代替の実施形態では、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、以下の式(IV):
【化8】
(式中、
R
17、R
18=水素またはC
1~C
8アルキル部分である)
に係る化合物であり、
好ましくは、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、1,4-シクロヘキサンジオン-2,5-ジカルボン酸ジメチル(HD-6)である。
【0043】
別の代替の実施形態では、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、以下の式(V):
【化9】
(式中、
R
19、R
20=水素またはC
1~C
8アルキル部分である)
に係る化合物であり、
好ましくは、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、デヒドロ酢酸(HD-7)である。
【0044】
別の代替の実施形態では、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、以下の式(VI):
【化10】
(式中、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6=水素、C
1~C
8アルキル、カルボン酸、アセチル、または-OC(O)CHCH
2部分であり、ただし、少なくともR
1、R
2、R
5、またはR
6、好ましくはR
5またはR
6は、水素部分である)
に係る化合物であり、
好ましくは、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、以下の式(VIa):
【化11】
(式中、
R
3、R
4、R
6=水素、C
1~C
8アルキル、カルボン酸、アセチル、または-OC(O)CHCH
2部分である)
に係る化合物であり、
より好ましくは、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、α-アセチルブチロラクトン(HD-8)、または(R)-α-アクリロイルオキシ-β,β-ジメチル-γ-ブチロラクトン(HD-9)である。
【0045】
式(VIa)では、R1、R2、およびR5は、それぞれ水素部分である。
【0046】
結論として、本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、上に定義された式(I)、(Ia)、(Ib)、(II)、(IIa)、(IIb)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、および(VIa)の1つに係る化合物である。
【0047】
2つ以上のCH-酸性化合物が本発明のラジカル開始剤系によって含まれる場合、すべての含まれるCH-酸性化合物は、同じ式(I)、(Ia)、(Ib)、(II)、(IIa)、(IIb)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、または(VIa)に係る化合物であり得る。
【0048】
あるいは、2つ以上のCH-酸性化合物が本発明のラジカル開始剤系によって含まれる場合、含まれるCH-酸性化合物の各々は、式(I)、(Ia)、(Ib)、(II)、(IIa)、(IIb)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、または(VIa)に係る化合物であり得、2つのCH-酸性化合物が、同じ式(I)、(Ia)、(Ib)、(II)、(IIa)、(IIb)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、または(VIa)に係る化合物であることは決してない。
【0049】
さらなる代替として、2つ以上のCH-酸性化合物が本発明のラジカル開始剤系によって含まれる場合、含まれるCH-酸性化合物の少なくとも2つは、同じ式(I)、(Ia)、(Ib)、(II)、(IIa)、(IIb)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、または(VIa)に係る化合物であり得る。
【0050】
一実施形態では、歯科用組成物は、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、およびスルホニウム塩から選択される添加剤をさらに含み、好ましくは、前述の添加剤はヨードニウム塩である。
【0051】
その1つの好ましい実施形態では、添加剤は、歯科用組成物の総重量に基づいて0.01~5重量パーセントの量で存在する。
【0052】
そのようなヨードニウム化合物は、以下の式(C):
R21-I+-R22A- 式(C)
(式中、
R21およびR22は、互いに独立しており、有機部分を表し、
A-は、アニオンである)
を含み得る。
【0053】
実施形態では、ヨードニウム化合物としては、ジフェニルヨードニウム(DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジ-(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(Irgacure(登録商標)250、BASF SEから入手可能な市販品)、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムテトラフルオロボレート、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、および4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムボレートが挙げられる。
【0054】
さらなる実施形態によれば、ヨードニウム化合物は、ジ-(4-t-ブチルフェニル)-ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)ヘキサフルオロホスフェート、またはビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムp-トルエンスルホネートである。
【0055】
さらなる実施形態によれば、光開始剤は、以下の式(D):
R23R24R25S+A- 式(D)
(式中、
R23、R24、およびR25は、互いに独立しており、有機部分を表すか、またはR23、R24、およびR25のいずれか2つは、それらが結合している硫黄原子とともに環状構造を形成し、
A-は、アニオンである)
のスルホニウム化合物を含み得る。
【0056】
トリアリールスルホニウム塩は、以下:
【化12】
のS-(フェニル)チアントレニウムヘキサフルオロホスフェートであり得る。
【0057】
さらなる実施形態によれば、光開始剤は、以下の式(E):
R26R27R28R29P+A- 式(E)
(式中、
R26、R27、R28、およびR29は、互いに独立しており、有機部分を表し、
A-は、アニオンである)
のホスホニウム化合物を含み得る。
【0058】
式(E)のホスホニウム塩は、テトラアルキルホスホニウム塩、テトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウム(THP)塩、またはテトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウムヒドロキシド(THPOH)塩であり得、テトラアルキルホスホニウム塩のアニオンは、ギ酸、酢酸、リン酸、硫酸、フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物からなる群から選択される。
【0059】
フリーラジカル光重合性組成物を重合させるための他の好適な光開始剤としては、典型的には約380nm~約1200nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドのクラスが挙げられ得る。約380nm~約450nmの機能的波長範囲を有するさらなる好適なホスフィンオキシドフリーラジカル開始剤は、アシルおよびビスアシルホスフィンオキシドである。
【0060】
一実施形態では、光増感剤は、1,2-ジケトン化合物であり、好ましくは、光増感剤は、歯科用組成物の総重量に基づいて0.01~5重量パーセントの量で存在する。
【0061】
アルファ-ジケトン増感剤化合物は、カンファーキノン、1,2-ジフェニルエタン-1,2-ジオン(ベンジル)、1,2-シクロヘキサンジオン、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオン、3,4-ヘキサンジオン、2,3-ヘプタンジオン、3,4-ヘプタンジオン、グリオキサール、ビアセチル、3,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサンジオン、3,3,7,7-テトラメチル-1,2-シクロヘプタンジオン、3,3,8,8-テトラメチル-1,2-シクロオクタンジオン、3,3,18,18-テトラメチル-1,2-シクロオクタデカンジオン、ジピバロイル、フリル、ヒドロキシベンジル、2,3-ブタンジオン、2,3-オクタンジオン、4,5-オクタンジオン、および1-フェニル-1,2-プロパンジオンから選択され得る。
【0062】
一実施形態では、ラジカル開始剤系は、歯科用組成物の総重量に基づいて0.1~10重量パーセントの量で存在する。
【0063】
一実施形態では、少なくとも1つのCH-酸性化合物は、歯科用組成物の総重量に基づいて0.01~5重量パーセントの量で存在する。
【0064】
一実施形態では、歯科用組成物は、アミン、特に第三級アミン、さらに特に第三級芳香族アミンを少なくとも実質的に含まず、好ましくは完全に含まないラジカル開始剤系を含む。
【0065】
本発明はしたがって、改良された開始剤系を含む本発明の歯科用組成物を提供する問題に取り組む。
【0066】
以下の非限定的な例は、本発明の実施形態を例示し、発明の理解を容易にするために提供されるが、本明細書に添付された特許請求の範囲により定義される発明の範囲を限定することを意図していない。
【0067】
本発明の実験および比較実験に使用された化合物を以下に示す:
【化13】
【0068】
本明細書では、「SC938」は、「speedcure 938」を指す。
【0069】
実施例1:TPH3樹脂(メタクリレート樹脂)の重合のための共開始剤としての(R)-α-アシロイル-γ-ブチロラクトン(HD-8)の使用
(1)CQ(0.5%wt)または(2)CQ/ラクトン(HD-8)(0.5/3%w/w)または(4)CQ/DMABE(0.5/1%w/w)または(3)CQ/ラクトン(HD-8)/Speedcure 938(0.5/3/1%w/w)の存在下、Smartlite Focus(300mW/cm
2)への曝露下、試料厚さ1.4mm、大気下での、メタクリレート官能基(TPH3)の光重合プロファイル(
図1に示す)。TPH3におけるCQ/ラクトン(HD-8)/Speedcure 938の良好な反応性が観察された。これは、CQ/DMABEと同様であるが、アミン非含有の系である。
【0070】
ここに、CQと組み合わせたCH-酸性共開始剤の使用はCQ単独より良好に機能していることが明確に実証される。さらに、3成分系のCH-酸性共開始剤およびヨードニウム化合物を含むCQは、それぞれの同一のCH-酸性共開始剤を含むCQの2成分系よりさらにはるかに良好に機能していることが示される。第三級アミンDMABEを含むCQの比較例は、本発明の3成分系の例と同様の性能を示す。これは、本発明が、環境に有毒な、一般に使用される、共開始剤としての第三級アミンと組み合わせたCQの開始剤系と同じ性能を発揮することができる開始剤系を含む、好適な歯科用組成物を提供することに成功したことを証明する。
【0071】
実施例2:Prime&bond Active樹脂(メタクリレート樹脂)の重合のための共開始剤としての(R)-α-アシロイル-γ-ブチロラクトン(HD-8)の使用
(1)CQ(1.5%w/w)または(2)CQ/Speedcure 938(1.5/0.75%w/w)または(3)CQ/アセチルブチロラクトン(HD-8)/ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムp-トルエンスルホネート(1.5/1.2/0.75%w/w)または(4)CQ/アセチルブチロラクトン(HD-8)/Speedcure938(1.5/1.2/0.75%w/w)の存在下、またはSmartLite Focus(300mW/cm
2)への曝露下、試料厚さ17μm、大気下での、C=C二重結合(PrimeBond Active)の光重合プロファイル(
図2)。
【0072】
PBAにおける、CQ/ラクトン(HD-8)/Speedcure 938およびCQ/ラクトン/ヨードニウムスルホネートの良好な反応性が観察された。これは、アミン非含有の系である。わずかに粘着性のポリマーが得られた。
【0073】
ここに、CH-酸性化合物およびヨードニウム化合物と組み合わせたCQの3成分の本発明の開始剤系の性能は、CQ単独またはCQとヨードニウムイオンの組み合わせより良好であることが明確に実証される。これは、
図1に示す好適な性能が、CH-酸性化合物によるものであることを証明する。ヨードニウム化合物とCQの組み合わせは優れておらず、代替とはならない。しかしながら、CQおよびCH-酸性化合物とともに追加として使用される場合、そのようなヨードニウム化合物の使用は、CQおよびそれぞれのCH-酸性化合物の2成分系の性能をさらに改善するために意義があることを示した。
【0074】
実施例3.CQ単独および第三級アミン(DMABE)と組み合わせたCQとの比較を加えた、CQと組み合わせた複数のCH-酸性化合物の系統的検討
光開始剤としてのカンファーキノンの存在下(大気下、厚さ=1.4mm、SmartLite Focus 300mW/cm
2)での、メタクリレート官能基(TPH3)の光重合プロファイル:(1)CQ/HD-1/SC938(0.5/3/1%w/w)、(2)CQ/HD-2/SC938(0.5/3/1%w/w)、(3)CQ/HD-3/SC938(0.5/3/1%w/w)、(4)CQ/HD-4/SC938(0.5/3/1%w/w)、(5)CQ/HD-5/SC938(0.5/3/1%w/w)、(6)CQ/HD-6/SC938(0.5/3/1%w/w)、(7)CQ/HD-7/SC938(0.5/3/1%w/w)、(8)CQ/HD-8/SC938(0.5/3/1%w/w)、(9)CQ/HD-10/SC938(0.5/3/1%w/w)、(10)CQ/DMABE(0.5/0.5%w/w)、(11)CQ(0.5%w/w)。照射はt=5秒で開始する(
図3に示す)。
【0075】
新規CH-酸性化合物(HD-1~HD-10)を、効率的な共開始剤として、カンファーキノン(CQ)と組み合わせて、メタクリレートのフリーラジカル重合に、大気下および青色歯科用LED(SmartLite Focus-Dentsply Sirona)への曝露下で使用した。注目すべきことに、それらをCQおよびヨードニウム塩と組み合わせて使用することができ、これらのアミン非含有の系は、現在の比較参照系CQ/DMABEおよびCQ単独と比較しても、優れた重合性能を示す。例えば、それぞれ検討された光開始剤系において共開始剤として9つの異なるCH-酸性化合物を使用した、CQ/CH-酸性化合物/SC938の存在下でのTPH3樹脂(メタクリレート樹脂)の重合を、
図3に示す。
【0076】
ここに、CH-酸性化合物およびヨードニウム化合物と組み合わせたCQの3成分の本発明の開始剤系の性能は、CQ単独より良好であるか、またはCQと共開始剤として一般に使用される第三級アミン(DMABE)の組み合わせと少なくとも同様であることが再度証明される。
【0077】
実施例4.共開始剤としての(R)-α-アクリロイルオキシ-β,β-ジメチル-γ-ブチロラクトン(HD-9)の使用
(R)-α-アクリロイルオキシ-β,β-ジメチル-γ-ブチロラクトン(HD-9)を、新規共開始剤としてカンファーキノンと組み合わせて提唱した。例えば、光開始系としてのCQ/HD-9、CQ/HD-9/SC938、およびCQ/DMABE/HD-9の存在下でのTPH3樹脂の重合を、
図4に示す。アミン非含有の系CQ/HD-9/SC938は、参照比較系CQ/DMABEと同様の優れた重合性能を示す。
【0078】
光開始剤としてのカンファーキノンの存在下(大気下、厚さ=1.4mm、SmartLite Focus 300mW/cm
2)での、メタクリレート官能基(TPH3)の光重合プロファイル:(1)CQ/TPH3(0.5/100%w/w)、(2)CQ/HD-9/TPH3(0.5/5/95%w/w)、(3)CQ/HD-9/SC938/TPH3(0.5/5/1/100%w/w)、(4)CQ/DMABE/TPH3(0.5/0.6/100%w/w)。照射はt=5秒で開始する(
図4に示す)。
【0079】
発明の原理が特定の実施形態に関連して説明されたが、明細書を読めばその様々な修正が当業者には明らかになることを理解すべきである。したがって、本明細書に開示された発明は、添付の特許請求の範囲内にあるそのような修正を含めるように意図されていることを理解すべきである。発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【国際調査報告】