(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-02
(54)【発明の名称】がんの予防および治療に使用するためのレバミピド
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4704 20060101AFI20221026BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221026BHJP
A61P 1/04 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
A61K31/4704
A61P35/00
A61P1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513871
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(85)【翻訳文提出日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 EP2020074494
(87)【国際公開番号】W WO2021043840
(87)【国際公開日】2021-03-11
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521470984
【氏名又は名称】スクエア パワー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ダンネック イバン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA31
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA60
4C086NA14
4C086ZA68
4C086ZB26
(57)【要約】
腸管透過性上昇を有する人、または、例えば家族の既往症のために、もしくは腸管透過性上昇を誘発する条件もしくは物質に曝露されているために、腸管透過性上昇のリスクがある人におけるがんの予防および/または治療の方法に使用するためのレバミピドを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸管透過性上昇を有する人または腸管透過性上昇のリスクがある人におけるがんの予防および/または治療の方法に使用するためのレバミピド。
【請求項2】
前記がんが食事に関連するがんである
請求項1に記載のレバミピド。
【請求項3】
前記食事に関連するがんが、小腸がん、結腸がん、結腸直腸がん、膵臓がん、肝がん、および胆管がんから選択される腸管悪性腫瘍である
請求項2に記載のレバミピド。
【請求項4】
前記食事に関連するがんが、口腔がん、咽頭がん、唾液腺がん、食道がん、胃がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、膀胱がん、肺がん、皮膚がん、血管がん、造血器がん、B細胞リンパ腫、および甲状腺がんから選択される腸管以外の悪性腫瘍である
請求項2に記載のレバミピド。
【請求項5】
前記腸管透過性上昇のリスクがある人が、ストレス、バランスの悪い食事、細菌、ウイルス、または寄生虫感染を有する人である
請求項1ないし4のいずれかに記載のレバミピド。
【請求項6】
前記腸管透過性上昇のリスクがある人が、非ステロイド系抗炎症薬、アルコール、ニコチン、食品添加物、化学療法薬、および抗生物質から選択される少なくとも1つの物質に曝露されている人である
請求項1ないし4のいずれかに記載のレバミピド。
【請求項7】
レバミピドを、非ステロイド系抗炎症薬、化学療法薬、または抗生物質と同時または連続的に併用投与する
請求項6に記載のレバミピド。
【請求項8】
薬物、好ましくはアルコールおよびニコチンから選択される薬物を乱用する人にレバミピドを投与する
請求項6に記載のレバミピド。
【請求項9】
前記腸管透過性上昇のリスクがある人が、ストレス性胃炎、食中毒、コール酸の不均衡、胃のHClおよびペプシン分泌、非感染性下痢、放射線療法、化学療法、GIT粘膜の感染性もしくは感染後障害、微生物異常から選択される少なくとも1つの状態を有する人または少なくとも1つの状態に曝露されている人である
請求項1ないし4のいずれかに記載のレバミピド。
【請求項10】
前記腸管透過性上昇を有する人が、腸壁の軽度の炎症を含む慢性腸炎を有する人である
請求項1または2に記載のレバミピド。
【請求項11】
前記がんが、結腸直腸がん、小腸腺がん、腸管リンパ腫、肛門がん、および胆管がんからなる群から選択される
請求項10に記載のレバミピド。
【請求項12】
前記がんが結腸直腸がんである
請求項11に記載のレバミピド。
【請求項13】
前記人が、以前の治療後に完全寛解または部分寛解している
請求項1ないし12のいずれかに記載のレバミピド。
【請求項14】
前記人ががんの初期または早期にある
請求項1ないし13のいずれかに記載のレバミピド。
【請求項15】
レバミピドをがんの予防方法に使用する
請求項1ないし14のいずれかに記載のレバミピド。
【請求項16】
レバミピドを、好ましくは、錠剤、カプセル剤、糖衣剤、顆粒剤、微粒剤、口内分散性錠剤もしくはフィルム、舌下錠、粉砕錠、内用液、内用懸濁液、シロップ、うがい薬、口腔洗浄液から選択される経口剤形、または、好ましくは、座剤および浣腸から選択される直腸剤形で投与する
請求項1ないし15のいずれかに記載のレバミピド。
【請求項17】
前記経口剤形が、腸溶性放出、好ましくは、腸溶性徐放または腸溶性制御放出の形態である
請求項16に記載のレバミピド。
【請求項18】
前記剤形が、レバミピドと、充填剤、結合剤、潤滑剤、流動化剤、崩壊剤または膨潤剤、可溶化剤、腸溶放出剤、粘膜付着性成分、徐放剤、防腐剤、コーティング、および着色剤から選択される少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む
請求項16または17に記載のレバミピド。
【請求項19】
レバミピドを、1~5000mg、より好ましくは50~2500mg、さらにより好ましくは100~1000mg、および最も好ましくは300~500mgの1日用量で投与する
請求項1ないし18のいずれかに記載のレバミピド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に腸管透過性上昇を有する、またはそのリスクがある人における、がんの予防および/または治療の方法に使用するレバミピドに関する。
【背景技術】
【0002】
がんは世界中で主要な死因の1つであり、欧州では死亡の25%を占める。これは遺伝子変化に起因する疾患で、散発性または遺伝性のいずれかの可能性があり、制御不能な細胞増殖や腫瘍形成を引き起こす。大半のがんは、環境、生活習慣、または行動上の曝露に関連している。がんの一因となる一般的な環境要因に、紫外線、X線、ガンマ線などの高エネルギー放射線、タバコの煙、アルコール飲料、一部の微生物や寄生虫、および多様な化学化合物など、さまざまな発がん性物質がある。
【0003】
食事はがんの病因に大きく関与していると考えられており、何らかの食習慣ががんのリスクを高めるという証拠が増えている。いくつか例を挙げると、血糖負荷の高い食事、脂肪分の多い食事、抗酸化物質をあまり含まない食事などである。さらに、ある種の食品には、がんの発生を促すことが知られている物質が含まれている。これらには、天然物もあれば、混入物として存在する、または保存料、着色料、香料などとして意図的に食品に添加された人工化学物質もある。
【0004】
慢性炎症は、たとえ軽度であっても、がん発生のもう1つの重要な危険因子である。さまざまな免疫細胞、上皮細胞、間質細胞、サイトカイン、およびケモカインからなる炎症性微小環境は、がんの微小環境と類似点が多く、慢性炎症とがん発生の両方を促す類似の炎症性メディエーターと機序が示唆されている。炎症細胞によって産生されるこれらのメディエーターに、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、IL-1、6、12、13、17、22、および23がある。炎症からがんへの移行の根底にある正確な分子機序は完全には理解されていない。現在の一連の証拠から、がんの発生には、免疫反応、がん遺伝子の活性化、がん抑制因子の阻害、正常なマイクロRNA発現パターンの変化、エピジェネティックランドスケープの変化、ならびに常在腸内微生物叢およびこれに対応する上皮細胞の炎症反応など複数の要因が関与していることが示唆されている。
【0005】
がん治療薬の開発には数多くの資源が活用されているものの、これまでに有効な治療法は見つかっていない。そのため、がんの治療または予防に使用できる新たな薬剤に対しては、高い医療ニーズがある。
【0006】
レバミピド(化学名:2-[(4-クロロベンゾイル)アミノ]-3-(2-オキソ-1H-キノリン-4-イル)プロパン酸)は、急性および/または慢性胃炎や胃十二指腸潰瘍の治療に用いられる。その作用機序は、粘膜の防御、フリーラジカルの捕捉、およびシクロオキシゲナーゼ-2をコードする遺伝子の一時的な活性化に関係している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sequeira I.R.et al.(2014)PLoS One;9(6):e99256
【非特許文献2】Eberhart CE et al.Up-regulation of cyclooxygenase 2 gene expression in human colorectal adenomas and adenocarcinomas.Gastroenterology.1994;107(4):1183-8
【非特許文献3】Gupta RA and Dubois RN.Colorectal cancer prevention and treatment by inhibition of cyclooxygenase-2.Nat Rev Cancer.2001;1(1):11-21
【非特許文献4】Marnett LJ and Dubois RN.COX-2:a target for colon cancer prevention.Annu Rev Pharmacol Toxicol.2002;42:55-80
【非特許文献5】Ogino S et al.Cyclooxygenase-2 expression is an independent predictor of poor prognosis in colon cancer.Clin Cancer Res.2008;14(24):8221-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の枠組みにおいて、レバミピドが、腸管透過性上昇に関連するがんを予防および/または治療できることが見いだされた。正常な生理的条件下では、腸壁はバリアとして有効に機能し、栄養素を吸収する一方で、有害な分子や微生物が腸内から体内に入るのを防いでいる。しかしながら、何らかの理由でバリアが損傷すると、適切に機能しなくなり、通常であれば腸管腔内にとどまる物質が生体に入り込めるようになる。人間の食事には、栄養素だけでなく、食品の焦げ、加工肉、または赤身肉に生じる発がん可能性のある物質も含まれているため、腸管透過性上昇はがん発生の重大なリスク因子となる。さらに、望ましくない異物が腸粘膜や体内に入ると、免疫系の活性化や炎症メディエーターの分泌が起こり、慢性腸炎(無症状性であることが多い)が引き起こされることで、腸管透過性とがんの発生がさらに助長される。
【0009】
おそらくレバミピドの作用機序は、腸内でムチン産生を促進し、炎症を抑制し、さらに上皮細胞のタイトジャンクション機能を回復させることで、腸壁の透過性を低下させるという能力に基づいていると推定される。これにより、腸が回復し、腸の免疫バリアが修復されることで、消化管内に存在する毒素や病原体によるさらなる組織の損傷を防ぐことができ、結果的に、消化管内や体内の他の場所における慢性炎症およびそれに続く悪性腫瘍の発生を防ぐことができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって本発明は、腸管透過性上昇を有する人、または、例えば家族の既往症のために、もしくは腸管透過性上昇を誘発する条件もしくは物質に曝露されているために、腸管透過性上昇のリスクがある人におけるがんの予防および/または治療の方法に使用するためのレバミピドを提供する。好ましい実施形態では、レバミピドは、特に食事または腸炎に関連する場合に、がんの予防方法に使用される。
【0011】
本明細書で使用する「レバミピド」は、無水物形態、水和物形態、または溶媒和形態(例えば半水和物形態)、結晶形態など、この活性成分のあらゆる形態、および薬学的に許容されるこれらの塩を含むものとする。
【0012】
本明細書で使用する「がん」は、体の他の部分に浸潤または拡散する可能性のある異常な細胞増殖を伴う一群の疾患である。本発明は、特に、消化管に存在する発がん性物質が体内に侵入できるようになることで悪性腫瘍発生の一因となる状態である腸管透過性の上昇に関連するがんに関する。これらの発がん性物質は、腸および/または周辺組織だけでなく、さらに離れた器官や組織でもがん性増殖を直接的に引き起こし得る。この事象の基本的な機序は、発がん性物質が血流を介して体内の離れた場所にも拡散する能力にある。
【0013】
「発がん性物質」は、体内に入った後に、がん発生につながる過程を引き起こすことができる物質およびそれらの混合物である。これは、ゲノムを損傷したり細胞の代謝過程を妨害したりする能力に起因し得る。異種群からなるこれらの物質は、国際がん研究機関(IARC)によって、発がん性の証拠の強さに基づいていくつかのグループに分類されている。発がん性物質には、それ自体が発がん性であるものもあれば、腸内または体内の他の場所で代謝された後にのみ発がん性を示すものもある。本発明は、好ましくは、正常な生理的条件下では腸壁を通過できないか、または通過する割合が比較的低いものの、腸管透過性が上昇している人では、体内への侵入が大幅に増加する発がん性物質に関する。
【0014】
一実施形態では、本発明は食事に関連するがんの予防および/または治療の方法に使用するためのレバミピドを提供する。食事に関連するがんは、食品に存在する発がん性物質に起因する悪性腫瘍であり、こうした発がん性物質は天然に、もしくは混入物として存在するか、または意図的に食品添加物として添加されている。腸管透過性上昇を有する、またはそのリスクがある人は、食品の焦げ、加工肉、または赤身肉に生じるものなど、さまざまな食品由来の発がん性物質に対して感受性が高い。
【0015】
加工肉とは、塩漬け、保存処理、発酵、燻製などの加工によって変化させ、風味や保存性を向上させた食肉を指す。IARCは加工肉を、ヒトに対して発がん性があるとするグループ1の発がん性物質に分類している。赤身肉は、牛肉、子牛肉、豚肉、子羊肉、成羊肉、馬肉、およびヤギ肉など哺乳動物の筋肉すべてを指し、ヒトに対しておそらく発がん性があるとするグループ2Aの発がん性物質に分類されている。現在の研究からわかっている、これらの食品に添加物や天然由来成分として含まれている発がん性物質には、アクリルアミド、多環芳香族炭化水素(PAH)、例えばベンゾ[a]ピレン、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[b]フルオランテン、およびクリセン;複素環芳香族アミン(HCA)、例えば2-アミノ-3-メチルイミダゾ[4,5-f]キノリン(IQ)、2-アミノ-3,4-ジメチルイミダゾ[4,5-f]キノリン(MeIQ)、2-アミノ-3,8-ジメチルイミダゾ[4,5-f]キノキサリン(MeIQx)、2-アミノ-1-メチル-6-フェニルイミアゾ[4,5-b]ピリジン(PhIP);ならびにN-ニトロソアミン、例えばN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、N-ニトロソジ-N-ブチルアミン、N-ニトロソジエチルアミン(DEN)、N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)、N-ニトロソピペリジン、N-ニトロソピロリジン、およびN-ニトロソサルコシンがある。
【0016】
消化管に入り、食事に関連するがんを引き起こすこの他の発がん性物質は、食品の微生物汚染に由来し、これらは、アフラトキシン、オクラトキシン、およびフモニシンのようなマイコトキシンなど、発がん性であることの多いさまざまな毒素の産生に関与している。さらに、消化管に存在する特定の微生物は、in situでニトロソアミンなどさまざまな発がん性化合物を産生、放出することがある。
【0017】
さらに食品には、残留農薬、芳香族化合物、例えばベンゼン、ポリ塩化およびポリ臭化ジベンゾジオキシン、ジベンゾフランおよびビフェニル、例えば2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン、重金属、例えば鉛、ヒ素、カドミウムおよびこれら化合物、包装材から放出される化合物、例えばホルムアルデヒド、塩化ビニル、またはビスフェノールAなど、直接的または間接的にがんを発生させる可能性のある他の多くの化合物が混入していることがある。
【0018】
本発明に従って治療されるがんには、腸管と腸管以外の悪性腫瘍の両方が含まれる。腸管悪性腫瘍は、小腸、結腸、直腸、および肛門に発生するがん群であり、腺がん、扁平上皮細胞がん、カルチノイド腫瘍、腸管リンパ腫、消化管間質腫瘍、平滑筋肉腫、およびメラノーマを含む。しかしながら、膵臓、肝臓、および胆嚢などの隣接する組織が冒されることもある。好ましい実施形態では、腸がんは、小腸がん、結腸がん、結腸直腸がん、膵臓がん、肝がん、および胆管がんから選択される。腸管以外の悪性腫瘍に、口腔がん、咽頭がん、唾液腺がん、食道がん、胃がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、膀胱がん、肺がん、皮膚がん、血管がん、造血器がん、B細胞リンパ腫、甲状腺がんがある。
【0019】
本明細書で使用する「腸管透過性上昇」という用語は、腸壁の無症状の慢性炎症(軽度の炎症)に起因するものなど、わずかな腸壁欠損を指す。こうした腸壁欠損は、例えば慢性便秘や胃不全麻痺を呈することがある。腸管透過性上昇は、ラクツロース・マンニトール試験(LAMA試験、例えば非特許文献1)、A-1-AT試験、またはゾヌリン試験などの特定の試験を用いて診断し得る。通常、腸管透過性上昇とは、半径が4オングストロームより大きい粒子に対する腸壁の透過性をいう。
【0020】
腸管透過性上昇を誘発する物質に、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、例えばアセチルサリチル酸、イブプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、ジクロフェナク、ケトロラク、エトドラク、インドメタシン、トルメチン、ピロキシカム、メロキシカム、ならびに選択的COX-2阻害薬、例えばセレコキシブおよびエトリコキシブ、アルコール、ニコチン、食品添加物、抗生物質、ならびに化学療法薬などがある。したがって、レバミピドと、非ステロイド系抗炎症薬、化学療法薬、もしくは抗生物質との同時または連続併用投与は腸壁損傷を防ぎ、それにより腸管透過性上昇に関連するがんの発症を予防する、または遅延させる。また、レバミピドの予防的使用も、アルコール、ニコチン、または腸壁を損傷することが知られている他の薬物を乱用する人に有益であり得る。本明細書で使用する「乱用する」という用語は、医学的な理由で必要な消費ではなく、依存状態および/または腸壁の軽度の炎症などの健康障害をもたらす任意の消費を含む意味がある。
【0021】
腸管透過性上昇などの状態は、ストレス、バランスの悪い食事、アレルギー、細菌、ウイルス、または寄生虫感染、およびさまざまな薬物治療に関係する。そのような状態には、具体的には、ストレス性胃炎、食中毒、コール酸の不均衡、胃のHClおよびペプシン分泌、非感染性下痢、放射線療法、化学療法、GIT粘膜の感染性または感染後障害、(例えば抗生剤治療によって誘発される)微生物異常(dysmicrobia)などがある。
【0022】
一実施形態では、本発明は、腸壁の軽度の炎症を含む慢性腸炎を有する人における、がんの予防および/または治療の方法に使用するためのレバミピドを提供する。好ましくは、がんは、結腸直腸がん、小腸腺がん、腸管リンパ腫、肛門がん、および胆管がんから選択される。最も好ましくは、がんは結腸直腸がんである。
【0023】
「予防」または「予防的使用」は、本明細書において、例えば外科的治療、化学療法、放射線療法、または免疫療法の後に完全寛解または部分寛解した患者における再発を含む、疾患の発症を予防すること、または遅延させることと理解されるものとする。疾患の進行を予防する、または遅延させることを含むことも意図されている。このような場合、次の病期への進行を予防する、または遅延させるために、疾患の初期または早期にある患者にレバミピドを投与して治療する。レバミピドの予防効果は、発がん性物質およびその他の毒素が体内に入るのを防ぎ、それによりがん発生を引き起こす事象を防ぐ能力にある。
【0024】
「治療」は、本明細書において、疾患を遅延させる、停止させる、抑制する、または逆転させることができる療法と理解されるものとする。また、疾患の臨床症状の軽減や緩和も含むことも意図される。疾患を「遅延させる」は、疾患の進行を抑制しながらも、完全に停止または逆転させることができないことを意味するのに対し「疾患を停止させる」は、疾患の進行を完全に止められることを意味する。
【0025】
さらに本発明は、こうした治療を必要とする被験者に、薬学的に有効な量のレバミピドまたはその医薬組成物を投与することによる、腸管透過性上昇を有する人または腸管透過性上昇のリスクがある人におけるがんの予防および/または治療の方法を提供する。被験者は、好ましくはヒト被験者であり、がんは、好ましくは食事または腸炎に関連している。さらに本発明は、腸管透過性上昇を有する人または腸管透過性上昇のリスクがある人におけるがんの予防および/または治療のための薬剤を製造するためのレバミピドの使用も含む。
【0026】
本発明に記載する治療適応において、レバミピドは、好ましくは、錠剤、カプセル剤、糖衣剤、顆粒剤、微粒剤(サシェ)、口内分散性錠剤もしくはフィルム、舌下錠、粉砕錠、内用液、内用懸濁液、シロップ、うがい薬、または口腔洗浄液などの経口剤形で使用し得る。別法として、座薬や浣腸などの直腸剤形で使用することができる。好ましくは、錠剤、カプセル剤、糖衣剤、および顆粒剤などの経口剤形は、腸溶性徐放または腸溶性制御放出などの腸溶性放出形態である。
【0027】
剤形は、充填剤、結合剤、潤滑剤、流動化剤、崩壊剤/膨潤剤、可溶化剤、腸溶放出剤、粘膜付着性成分、徐放剤、防腐剤、コーティング、着色剤から選択される少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含み得る。このような賦形剤は、医薬製剤の技術分野で知られており、当業者であれば、関連する剤形に好適な賦形剤を選択できる。
【0028】
剤形および組成物を調製する好適な方法には、活性成分を補助物質および成分と一緒に湿式造粒もしくは乾式造粒する工程、または活性成分を補助物質および成分と一緒に直接ホモジナイズする工程がある。
【0029】
充填剤は、好ましくは、糖アルコール(マンニトール、ソルビトール、キシリトールなど)、乳糖、デンプン、α化デンプン、セルロース、ケイ化セルロース、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ショ糖、および硫酸カルシウムから選択し得る。充填剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して5~90重量%の量で存在し得る。
【0030】
結合剤は、好ましくは、デンプン、α化デンプン、ポビドン、コポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、セルロースから選択し得る。結合剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して1~20重量%の量で存在し得る。
【0031】
潤滑剤は、好ましくは、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ポリエチレングリコール、およびフマル酸ステアリルナトリウムから選択し得る。潤滑剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して最大5重量%の量で存在し得る。
【0032】
流動化剤は、好ましくは、シリカ、タルク、およびラウリル硫酸ナトリウムから選択し得る。流動化剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して0.5~10重量%の量で存在し得る。
【0033】
崩壊剤および/または膨潤剤は、好ましくは、クロスポビドン、コポビドン、ポビドン、クロスカルメロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デンプン、α化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウムから選択し得る。崩壊剤および/または膨潤剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して1~50重量%の量で存在し得る。
【0034】
可溶化剤は、好ましくは、ポロクサマー、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート、ポリオキシル化(polyoxylated)オレイン酸グリセリド、グリセロールモノステアレート、およびシクロデキストリンから選択し得る。可溶化剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して最大30重量%の量で存在し得る。
【0035】
腸溶放出剤は、好ましくは、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ(メタクリル酸-co-メタクリル酸メチル)、酢酸フタル酸セルロース、ポリ(酢酸フタル酸ビニル)、アロイリット酸のエステルから選択し得る。腸溶放出剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して2~40重量%の量で存在し得る。
【0036】
粘膜付着性成分は、好ましくは、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、ポビドン、およびコポビドンから選択し得る。粘膜付着性成分は、好ましくは、組成物の総重量に対して5~70重量%の量で存在し得る。
【0037】
徐放剤は、好ましくは、セルロースおよびセルロースエーテル、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリ酢酸ビニル、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム、ポリメタクリル酸塩、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン、ヒマシ油、ミツロウ、カルナウバロウ、パルミトステアリン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、ベヘン酸グリセロール、ステアリルアルコール、ポリアクリル酸から選択し得る。徐放剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して5~70重量%の量で存在し得る。
【0038】
経口医薬組成物は、いくつかの実施形態では、胃液と接すると二酸化炭素を発生する可能性のある薬学的に許容される成分をさらに含み、このような成分は、好ましくは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩および炭酸水素塩から選択し得、また好ましくは、組成物の総重量に対して1~50重量%の範囲の量で存在し得る。
【0039】
レバミピドの通常の1日用量は、平均的なヒト(体重70kg)で1~5000mg、より好ましくは50~2500mg、さらにより好ましくは100~1000mg、および最も好ましくは300~500mgに及び得る。ヒトの体重に関して1日用量を計算すると、通常用量は、15μg/kg/日~70mg/kg/日、より好ましくは750μg/kg/日~35mg/kg/日、さらにより好ましくは1.5~15mg/kg/日、および最も好ましくは4~7mg/kg/日となる。
【0040】
レバミピドの即放性製剤を投与する際、1日用量は通常、複数の用量に分割し、これを別々に投与する。1日用量は2~6回分の用量に分割し、1日2回または1日3回または1日4回または1日5回または1日6回投与し得る。好ましい実施形態では、1日用量を3回分の用量に分割し、1日3回投与、例えば100mg用量を1日3回投与する。別法として、1日用量すべてを1回で投与することができ、特に、徐放性製剤の形態である場合には、例えば300mg用量を1日1回投与する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
腸管透過性上昇、結腸炎症、およびがん発生に対するレバミピドの効果を調べるために、DSSモデルとPhIP処理を組み合わせて用いた。試験では、雄CD-1マウスをA~Cの3群に分けて用いた。最初に全群のマウスに、発がん可能性を有する、調理済みの肉に存在する複素環式アミン(HCA)、PhIP(2-アミノ-1-メチル-6-フェニルイミアゾ[4,5-b]ピリジン)を単回胃内投与(200mg/kg体重)した。続いて、全マウスに2%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を含む飲料水を7日間与えて炎症性傷害を引き起こした後、2~4週間の回復期間を設け、この間は未処理の水を与えた。このサイクルを最大4回くり返して腸管透過性上昇を促し、体重減少と血性下痢を伴う重度の結腸炎を引き起こした。その後、大部分のマウスに多発性結腸腫瘍が生じた。
【0042】
マウスにDSS(デキストラン硫酸ナトリウム)を投与すると、結腸に存在する中鎖脂肪酸と結合することによって腸管透過性上昇が促され、その結果、炎症と結腸炎が引き起こされる。それに加え、DSS投与によって異形成が長期的に発生し、投与を受けたマウスの一部では結腸がんにまで至る。PhIP投与によりこの過程が加速され、結腸腫瘍の発生率がさらに上昇する。プロトコルにPhIPを用いるもう1つの利点は、これによりマウスへのDSS投与量を減らすことができ、DSSに伴う急性結腸炎による死亡率が低下することである。
【0043】
DSS/PhIP方式の発がん過程では、正常な腸陰窩から、陰窩分裂を伴う異常陰窩を有する病巣の形成、最終的には微小腺腫の出現という病理学的な進行を示す。これらの段階は、腸管透過性上昇と炎症から異形成を経てがんに至るという、ヒトにおける結腸直腸がん形成の一連の流れを再現するものである。
【0044】
レバミピド治療は、発がん性物質投与の4週間前に開始し、試験期間を通じて継続した。A群とB群は、それぞれレバミピド50mg/kg/日と350mg/kg/日の投与を受けた。レバミピドは、標準日常食に混ぜて、必要に応じて強制経口投与によって与えた。治療は20週間継続した。対照群Cのマウスには、レバミピドもその他のいかなる保護治療も与えなかった。
【0045】
【0046】
以下のパラメーターを観察した。
・腫瘍の数と大きさ
・腫瘍の組織学的評価
・体重減少
・結腸炎の重症度評価
・腸管透過性
・サイトカインおよび関連マーカー(IL-6、IL-10、IL-1b、TNFα、iNOS、IL-23p19、MCP1、MIP2、CXCL1)
・細胞間接着タンパク質(クローディン1、βカテニン)
・標的遺伝子の発現
【0047】
DSS/PhIP処置によって、結腸粘膜が急速に破壊され、激しい炎症が生じ、その後結腸腺がんが発生した。興味深いことに、試験から得られた予備結果では、対照群とレバミピド投与群の間に有意差が認められた。A群とB群のマウスは、DSS処理からの回復が早く、試験完了時の腫瘍の発生率も低く、腫瘍の大きさも小さかった。
【0048】
レバミピドは、結腸直腸腺腫の約50%、腺がんの85%で上昇が認められ(非特許文献2~4)、かつ結腸直腸がん患者の生存不良に関連している(非特許文献5)シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)の発現を誘発することが知られていることから、この観察結果は驚くべきである。大多数の結腸直腸腫瘍で生じるCOX-2の異常発現は、結腸直腸がんの発生において重要な役割を果たすと考えられている。
【0049】
本試験で得られた結果から、レバミピドの投与は、消化管粘膜の透過性を低下させる腸管バリアの再生を促すことにより発がん性物質の生体への侵入を防ぎ、腸の炎症を抑制することで、未治療動物と比べて、食事および炎症に関連するがんの代表である結腸がんの症状やマーカーを予防する、または少なくとも発生を遅延させることが示された。
【国際調査報告】