(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-02
(54)【発明の名称】硫化物ベースの固体複合電解質膜
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20221026BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20221026BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221026BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221026BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514005
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(85)【翻訳文提出日】2022-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2020070530
(87)【国際公開番号】W WO2021043493
(87)【国際公開日】2021-03-11
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フィンシー, ヴァンセント
(72)【発明者】
【氏名】ガウシー, フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】メルロ, ルカ
(72)【発明者】
【氏名】ブライダ, マルク-ダヴィド
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA08
5G301CA16
5G301CA19
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ06
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ14
(57)【要約】
本発明は、a)(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、(ii)少なくとも1種のテトラフルオロエチレン(TFE)(コ)ポリマーとを混合してペーストを形成する工程、並びにb)ペーストをカレンダー加工又は押出して膜を製造する工程、を含む、自立型固体複合電解質膜を製造するための方法に関する。本発明は、(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーとを含む自立型固体複合電解質膜であって、(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーが、膜の総重量を基準として1.0~20.0重量%、好ましくは2.0~15.0重量%、より好ましくは3.0~10.0重量%である自立型固体複合電解質膜にも関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と(ii)少なくとも1種のテトラフルオロエチレン(TFE)(コ)ポリマーとを混合してペーストを形成する工程、及び
b)ペーストをカレンダー加工又は押出して膜を製造する工程、
を含む自立型固体複合電解質膜を製造するための方法であって、
工程a)混合が、a1)(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーとの混合物を均質化して粉末にすること、及びa2)粉末をブレンドしてペーストにすることを含む、方法。
【請求項2】
前記a1)均質化が19℃以下の温度で行われ、前記a2)ブレンドが30℃以上の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程b)カレンダー加工又は押出が30℃~150℃の温度で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ペーストを形成するために、a2)ブレンドにおいて(iii)少なくとも1種の潤滑剤が任意選択的に添加される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
c)前記工程b)から得られた前記膜を乾燥させて前記潤滑剤を除去する工程を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
d)カレンダー加工を行う追加の工程を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーの量が、前記混合物の総重量に対して1.0~20.0重量%、好ましくは2.0~15.0重量%、より好ましくは3.0~10.0重量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーが、TFEホモポリマーであるか、TFEモノマーとは異なる少なくとも1種のパー(ハロ)フルオロオレフィンに由来する繰り返し単位を前記TFEコポリマーの繰り返し単位の総モルに対して0.01~0.25モル%、好ましくは0.05~0.175モル%の量で含むTFEコポリマーであるか、これらのブレンドである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
TFEモノマーとは異なる前記少なくとも1種のパー(ハロ)フルオロオレフィンがヘキサフルオロプロピレンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子が、結晶の、ガラスセラミックの、及びガラス化されたLi
3PS
4、Li
7P
3S
11、Li
7PS
6、Li
9.6P
3S
12、Li
4P
2S
6、及びLi
2S-P
2S
5の系の他のガラス、硫銀ゲルマニウム鉱型のLi
6PS
5X(X=Cl、Br、又はI)、(Li
2S)x-(P
2S
5)y(x+y=1且つ0≦x≦1)、Li
10SnP
2S
12、Li
10GeP
2S
12、Li
10SiP
2S
12、Li
0.8Sn
0.8S
2、Li
2S-P
2S
5-SiS
2、Li
2S-P
2S
5-SiS
2-LiCl、Li
2S-P
2S
5-SnS、Li
2S-SiS
2-P
2S
5、Li
2S-SiS
2-P
2S
5-LiI、Li
2S-SiS
2-LiI、Li
2S-SiS
2、Li
9.54Si
1.74P
1.44S
11.7Cl
0.3、ドープされたLi-P-S、ドープされたLi-P-S-X、Li
2CuPS
4、Li
1+2xZn
1-xPS
4(0≦x≦1)、Li
3.33Mg
0.33P
2S
6、Li
4-3xSc
xP
2S
6(0≦x≦1)、Li
2S-GeS
2-ZnS、Li
2S-SiS
2-Al
2S
3、Li
3SbS
4、Ge置換Li
3AsS
4、Li
3.833Sn
0.833As
0.166S
4、Li
3AsS
4-Li
4SnS
4、Na
3PS
4、Na
10SnP
12S
12、Na
11Sn
2PS
12、これらのオキシ硫化物、並びにこれらのブレンドを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記(iii)少なくとも1種の潤滑剤が、イソパラフィン系炭化水素化合物及び石油留分からなる群から選択される、請求項4~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(iii)少なくとも1種の潤滑剤の量が、i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーと、(iii)少なくとも1種の潤滑剤との前記混合物の総重量に対して5.0~35.0重量部(pbw)、好ましくは10.0~30.0pbw、より好ましくは15.0~25.0pbwである、請求項4~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、
(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーと、
を含む自立型固体複合電解質膜であって、
前記(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーが、前記膜の総重量を基準として1.0~20.0重量%、好ましくは2.0~15.0重量%、より好ましくは3.0~10.0重量%である、自立型固体複合電解質膜。
【請求項14】
前記(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーが、ノードと、ノードを相互接続するフィブリルと、フィブリルとノードとの間の自由空間とからなる三次元(3-D)構造を有しており、前記(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子が、前記自由空間の内部に配置されている、請求項13に記載の自立型固体複合電解質膜。
【請求項15】
前記(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーが、TFEホモポリマーであるか、TFEモノマーとは異なる少なくとも1種のパー(ハロ)フルオロオレフィンに由来する繰り返し単位をTFEコポリマーの繰り返し単位の総モルに対して0.01~0.25モル%、好ましくは0.05~0.175モル%の量で含むTFEコポリマーであるか、これらのブレンドである、請求項13又は請求項14に記載の自立型固体複合電解質膜。
【請求項16】
前記膜の厚さが10~150μm、好ましくは15~100μm、より好ましくは20~60μmである、請求項13~15のいずれか一項に記載の自立型固体複合電解質膜。
【請求項17】
請求項13~16のいずれか一項に記載の自立型固体複合電解質膜を含む固体電池。
【請求項18】
イオン伝導性及び機械的特性を改善するための、固体電池における請求項13~16のいずれか一項に記載の自立型固体複合電解質膜の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月3日出願の欧州特許出願第19195191.2号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、a)(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、(ii)少なくとも1種のテトラフルオロエチレン(TFE)ポリマーとを混合してペーストを形成する工程、並びにb)ペーストをカレンダー加工又は押出して膜を製造する工程、を含む、自立型固体複合電解質膜を製造するための方法に関する。本発明は、(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、(ii)少なくとも1種のTFEポリマーとを含む自立型固体複合電解質膜であって、(ii)少なくとも1種のTFEポリマーの量が、膜の総重量を基準として1.0~20.0重量%、好ましくは2.0~15.0重量%、より好ましくは3.0~10.0重量%である自立型固体複合電解質膜にも関する。
【背景技術】
【0003】
Liイオン電池は、軽量であり、適度なエネルギー密度を有し、且つ良好なサイクル寿命を有することなどの多くの利点のため、20年以上にわたり、充電式エネルギー貯蔵デバイスの市場で支配的な地位を維持してきた。それにもかかわらず、現在のLiイオン電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、グリッドエネルギー貯蔵などの高電力用途で要求されるエネルギー密度に関して、安全性が低く、エネルギー密度が比較的低いという問題を依然として抱えている。これは、そのような欠点の基になる液体電解質の存在である。
【0004】
従来のLiイオン電池では、有機カーボネート系の液体電解質が主に使用されているため、Liイオン電池は、本質的に漏れを起こして可燃性の揮発性ガス種を生成する傾向がある。
【0005】
そのため、固体電池(SSB)は、液体電解質システムを備えた従来のLiイオン電池よりも高いエネルギー密度を提供し、安全であることから、次世代のエネルギー貯蔵デバイスであると考えられている。SSBでは、引火性の高い液体電解質が固体電解質に置き換えられるため、発火及び/又は爆発のあらゆるリスクが実質的に排除される。
【0006】
固体電解質には、(i)固体高分子電解質、(ii)無機電解質、及び(iii)複合電解質の3つのタイプが存在する。
【0007】
(i)固体高分子電解質は、優れた機械的特性及び加工性を示すものの、イオン伝導性が低いという欠点を有する。先行技術のポリマー系の導体、例えばLi塩が溶解している高分子量のポリ(エチレンオキシド)は、2つの主な欠点を有する。第1に、ポリマーの結晶性のため、十分な導電性は溶融温度を超える温度でしか得られず、そのため、その利用可能性は高温用途のみに限定される。第2に、そのような固体高分子電解質は、塩を組み込むことによってかなり可塑化されるため、機械的特性が悪くなる。
【0008】
(ii)無機電解質は、高いイオン伝導性を示すものの、機械的特性が不十分であるため、脆い。ガーネット型のLiイオン伝導性材料、例えばLi7La3Zr2O12(LLZO)などの酸化物ベースの無機電解質は、粒界伝導性が低いという問題を有する。これは、Liイオン輸送が酸化物無機粒子間の粒界及び固体電解質と電極との間の界面で大きく妨げられるためである。したがって、これらの材料は、粒子を融合させてその後導電経路を構築するために焼結プロセスに依存する。ホットプレスのみが焼結時間の短縮に成功したものの、これには特殊且つ費用がかかる装置を要し、このことは、商業スケールでの大量生産の大きな障害になる。更に、ホットプレスによる薄膜成形の可能性は、依然として実証されていない。逆に、硫化物ベースの無機電解質は、室温で10-4Scm-1を超える高い導電率を示し、硫化物粒子の粒子間接触抵抗は、従来のコールドプレスによって簡単に除去することができる。特に、焼結もホットプレスも必ずしも必要ではない。それにもかかわらず、硫化物ベースの無機電解質は依然として脆く、商業規模でのコールドプレスによる薄膜形成性はまだ実証されていないままである。
【0009】
(iii)複合電解質、例えばポリマーマトリックス中に分散された硫化物粒子からなる複合電解質は、無機電解質の高いイオン伝導性とポリマーの優れた機械的特性及び加工性とを組み合わせる可能性を提供する。したがって、これらの複合電解質は、工業スケールで最も有望な解決手段であると考えられる。
【0010】
硫化物ベースの複合電解質は、他の固体電解質、特に(複合)酸化物電解質、及び興味深いイオン伝導性と機械的特性とを備えた高分子電解質の欠点を解決する可能性を提供するものの、硫化物ベースの複合電解質の高い溶媒反応性などのいくつかの欠点は克服されていないままである。
【0011】
言い換えると、硫化物ベースの固体複合電解質が解決手段として研究されたものの、硫化物ベースの複合電解質内のポリマーバインダー及び硫化物系材料の表面化学を操作/設計することは予想よりもはるかに複雑であることが分かっている。硫化物ベースの固体電解質の溶媒適合性が非常に低く、最終的にバインダーの選択が制限されることがこの問題の原因である。
【0012】
そのため、硫化物ベースの固体複合電解質の欠点を克服するために複数の試みが行われてきた。
【0013】
Journal of The Electrochemical Society,164(9) A2075-A2081(2017)(“Selection of Binder and Solvent for Solution-processed All-Solid-State-Battery”)の中で、Leeらは、溶媒とバインダーとの様々な組み合わせを試しており、Li3PS4(75Li2S-25P2S5)と、バインダーとしてのニトリルブタジエンゴム(NBR)と、溶媒としてのp-キシレンとを含む固体複合電解質を使用して、室温で約0.4mScm-1のイオン伝導率を達成することに成功した。
【0014】
イオン伝導率に対するバインダーの種類の影響、機械的に安定なシートを得るのに必要とされるバインダーの最小量、並びに得られる固体電解質膜の均一性、密度、及び柔軟性を理解するために、ポリイソブテン(PIB)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(エチレン酢酸ビニル)(PEVA)、及び水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)を含む様々な非導電性バインダーを含むLSPS(Li10SnP2S12)複合材料も、Journal of the Electrochemical Society,165(16)A3993-A3999(2018)(“Slurry-based Processing of Solid Electrolytes:A comparative Binder Study”)の中でRiphausらによって試された。その結果、彼らは、バインダーの分布パターンに応じて、イオン伝導率が程度の差はあれバインダーの量によって影響を受けると結論付けた。一般的に、バインダーの含有量によってイオン経路が次第に制限されるため、バインダーの重量分率が低いほどイオン伝導率が高くなる。ただし、これは固体電解質の粒子間の適切な接着を確保するためにバインダーとして十分なポリマーが存在する場合にのみあてはまる。とりわけ、Riphausらは、硫化物ベースの複合電解質のスラリーベースの処理にのみ焦点を当てている。
【0015】
米国特許第9,300,011B2号明細書(Toyota Jidosha Kabushiki Kaisha)には、Li2SとP2S5とから製造された硫化物電解質材料を含み、10mol%以下のS3P-S-PS3単位の架橋硫黄及びバインダーとしての疎水性ポリマー、特にSBRやスチレン-エチレン-ブタジエンゴム(SEBR)などの炭化水素系ポリマーを有する固体電解質層が開示されている。その目的は、硫化物材料の劣化による抵抗の増加が抑制された硫化物ベースの固体複合電解質を得ることである。更に、これは固体電解質のみのスラリーベースの処理にも焦点を当てている。
【0016】
そのため、先行技術の硫化物ベースの固体複合電解質は、主に湿式キャスティングプロセスによって製造されており、その中で、固体イオン伝導性無機粒子は、スラリーを形成するようにバインダーと溶媒との溶液中に配置され、これはその後に支持体上にキャスティングされ、次いで乾燥されて溶媒が除去される。 通常、そのような湿式プロセスは、スラリーを製造するために大量の溶媒を必要とし、その結果、溶媒の蒸発及びそのリサイクルは、最終的に複雑な処理及び製造コストの大幅な増加をもたらす。これらの問題に加えて、硫化物ベースの複合電解質中の硫化物材料と高分子バインダーの両方と適合性を有する溶媒を見つけることには別の難しさがある。
【0017】
したがって、最小量の溶媒を使用して、更には溶媒の存在なしで、硫化物ベースの複合電解質を製造する方法が、この分野で継続的に求められている。
【0018】
Inadaらは、Solid State Ionics,158(2003)275-280(“Fabrication and properties of composite solid-state electrolytes”)の中で、イオン伝導性無機粒子としてのチオ-LISICON(リチウムゲルマニウムチオホスフェート、Li3.25Ge0.25P0.75S4)と高分子バインダーとしてのSBRコポリマーとを含む複合無機固体電解質を、乾式及び湿式プロセスによって製造し、乾式プロセスによって製造されたSBRを含む複合無機固体電解質が、湿式プロセス(0.35・10-4Scm-1)によって製造されたものよりも高い導電率(5.74・10-4Scm-1)を示すことを実証した。その結果としての1つの結論は、乾式プロセス中に形成されたポリマーの粒状ドメイン構造が、より高いイオン伝導を持つのにより適しているということある。しかしながら、この文献で使用されている乾式プロセスは、電池に必要とされる大きくて薄い固体電解質膜の大量生産に関して依然として欠点を有している。
【0019】
二フッ化ビニリデン(VDF)系ポリマーなどのフッ素化ポリマーは、その優れた耐酸化性ためバインダーとして使用されており、主にリチウムイオン電池におけるカソード配合物中で利用されている。いくつかの報告は硫化物複合材料にフッ素化バインダーを使用することを示唆しているものの、典型的なフッ素化バインダーは、硫化物材料と適合性のある溶媒に可溶化するのが困難である。
【0020】
TFEポリマーは、その不溶性のため、典型的にはカレンダー加工や冷間押出などの技術を使用して、室温より数度高い温度(35~55℃)でペーストとして加工される。カレンダー加工及び冷間押出にせん断を加えることにより、TFEポリマー粒子はフィブリル化され、ノードと、ノードを相互接続するフィブリルと、フィブリルとノードとの間の自由空間とからなる3次元(3-D)構造を形成する。更に、TFEポリマーは、硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と適合性を有しており、固体複合電解質における酸化に対して優れた耐性を示す。
【0021】
米国特許公開第2014/0238576A1号明細書(Linda Zhong)には、TFEポリマーのフィブリル化の特徴を使用することによる、電極、特にカソードを製造するための乾式プロセスが記載されている。しかし、他の解決手段の中でも特にこの乾式プロセスでは、他の粒子を支持して電極膜を形成し、十分な密度の強い電極を製造するためには大量のバインダーを使用するという問題を解決できなかった。大量のバインダーが活物質の表面積をブロックし、電池のエネルギー密度を一段と低下させ、更にこれが活物質粒子間の電気の流れをブロックする可能性がある。その結果、粒子間の抵抗が増加し、電池のエネルギー密度が減少する。結果として、米国特許公開第2014/0238576A1号明細書では、最終的に、電極を製造するために乾式プロセスではなく湿式プロセスが特許請求された。
【0022】
近年、Hippaufらは、Energy Storage Materials(2019年5月24日現在オンラインで入手可能)(“Overcoming binder limitations of sheet-type solid-state cathodes using a solvent-free dry-film approach”)の中で、バインダーの量を最小限に抑える一方でスラリーベースのバインダーをTFEポリマーに置き換えた乾式プロセスによる固体カソードの製造を示した。また、同じプロセスを適用して、バインダー含有量が0.30重量%の「自立型」固体電解質膜を製造したことも記載されている。バインダー含有量を低くするとイオン伝導性は確実に高くなるものの、得られる膜の機械的特性は、薄い自立膜を得るには低すぎるため、そのような膜は実用が困難である。更に、ペーストが硬すぎて加工できないことから、Hippaufらは、得られる膜の機械的特性を増加させる目的で、プロセスにおいてPTFE含有量を1重量%を超えて増やすことに成功できなかった。
【0023】
したがって、この分野では、TFEポリマーの加工性と共に高いイオン伝導性と優れた機械的特性を維持しながらも、より薄い自立型の硫化物ベースの固体複合電解質膜を製造するための乾式プロセスが継続的に必要とされている。
【発明の概要】
【0024】
本発明の第1の目的は、
a)(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と(ii)少なくとも1種のテトラフルオロエチレン(TFE)ポリマーとを混合してペーストを形成する工程、及び
b)ペーストをカレンダー加工又は押出して膜を製造する工程、
を含む自立型固体複合電解質膜を製造するための方法であって、
工程a)混合が、a1)(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と(ii)少なくとも1種のTFEポリマーとの混合物を均質化して粉末にすること、及びa2)粉末をブレンドしてペーストにすること、を含む方法を提供することである。
【0025】
本発明の第2の目的は、(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、(ii)少なくとも1種のTFEポリマーとを含む自立型固体複合電解質膜であって、(ii)少なくとも1種のTFEポリマーの量が、膜の総重量を基準として1.0~20.0重量%、好ましくは2.0~15.0重量%、より好ましくは3.0~10.0重量%である、自立型固体複合電解質膜である。
【0026】
本発明の第3の目的は、上述した自立型固体複合電解質膜を含む固体電池である。
【0027】
本発明の第4の目的は、イオン伝導性及び機械的特性を改善するための、上述した自立型固体複合電解質膜の固体電池における使用である。
【0028】
驚くべきことに、本発明による自立型固体複合電解質膜の製造方法が、必ずしも溶媒の存在を必要とせずに、優れた加工性を有する薄い自立型の膜を提供し得ることが発明者によって見出された。加えて、本発明による自立型固体複合電解質膜は、特性、例えば優れたイオン伝導性及び機械的特性の特に有利な組み合わせを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】膜のイオン伝導性を測定するためにSolvay内で開発されたACインピーダンス分光法の圧力セルの断面図である。圧力セルにおいて、インピーダンス測定中に膜が2つのステンレス鋼電極間でプレスされる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
本明細書の全体にわたり、文脈が他に必要としない限り、「備える(comprise)」又は「含む(include)」という語又は変形形態、例えば「備える(comprises)」、「備えている(comprising)」、「含む(includes)」、「含んでいる「including)」は、記載された要素若しくは方法の工程又は要素若しくは方法の工程の群を包含するが、任意の他の要素若しくは方法の工程又は要素若しくは方法の工程の群を排除するものではないことを意味すると理解される。好ましい実施形態によれば、「含む(「備える(comprise及び「含む(include)」という単語、及びそれらの変形形態は、「のみからなる」を意味する。
【0031】
本明細書において使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、複数形の態様を含む。用語「及び/又は」は、「及び」、「又は」の意味及びまた、この用語に関連する要素の他の可能な組み合わせも全て包含する。
【0032】
用語「と~との間」は、限界点を含むと理解されるべきである。
【0033】
本明細書で使用される「アルキル」基には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどの直鎖アルキル基;シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチルなどの環状アルキル基(又は「シクロアルキル」又は「脂環式」又は「炭素環式」基);イソプロピル、tert-ブチル、sec-ブチル、及びイソブチルなどの分岐鎖アルキル基;並びにアルキル置換シクロアルキル基及びシクロアルキル置換アルキル基などのアルキル置換アルキル基;を含む、1つ以上の炭素原子を有する飽和炭化水素が含まれる。
【0034】
用語「脂肪族基」は、1~18個の間の炭素原子を典型的に有する、直鎖又は分岐鎖を特徴とする有機部分が含まれる。複雑な構造においては、鎖は分岐又は橋かけしていてもよく、或いは架橋していてもよい。脂肪族基には、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基が含まれる。
【0035】
本明細書で使用される有機基に関する専門用語「(Cn~Cm)」(式中、n及びmはそれぞれ整数である)は、この基が、基当たりn個の炭素原子からm個の炭素原子を含み得ることを表す。
【0036】
比、濃度、量及び他の数値データは、本明細書において範囲形式で示される場合がある。このような範囲形式は、単に便宜上及び簡潔さのために使用され、範囲の限界点として明示的に列挙される数値を包含するだけでなく、それぞれの数値及び部分範囲が明示的に列挙されるかのようにその範囲内に包含される全ての個々の数値又は部分範囲を包含するように柔軟に解釈されるものと理解すべきである。例えば、約120℃~約150℃の温度範囲は、約120℃~約150℃の明示的に列挙された限界点を包含するだけでなく、125℃~145℃、130℃~150℃等の部分範囲、並びに例えば122.2℃、140.6℃、及び141.3℃など、小数量などの明記した範囲内の個々の量をも包含するように解釈されるべきである。
【0037】
本発明による自立型固体複合電解質膜の製造方法及び自立型固体複合電解質膜の構成要素について、以降で詳細に説明する。前述の概要及び以下の詳細な説明の両方は、例示的であり、特許請求される本発明の更なる説明を提供することを意図していることが理解されるべきである。したがって、本明細書に記載される様々な変更形態及び修正形態は、当業者に明らかであろう。更に、明確且つ簡潔にするために、周知の機能及び構造の説明は、省略されている場合がある。
【0038】
本発明は、
a)(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、(ii)少なくとも1種のテトラフルオロエチレン(TFE)(コ)ポリマーとを混合してペーストを形成する工程、及び
b)ペーストをカレンダー加工又は押出して膜を製造する工程、
を含む自立型固体複合電解質膜を製造するための方法であって、
工程a)混合が、a1)(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーとを均質化して粉末にすること、及びa2)粉末をブレンドしてペーストにすること、を含む方法を提供する。
【0039】
本発明において、「自立型固体複合電解質膜」という用語は、支持体なしで室温で自立型の形状を有し、且つ折り畳み可能で可撓性を有する自立膜の形態とすることができる、リチウムイオン伝導性の複合材料膜を指す。本発明による固体複合電解質膜は、その容器の形状をとるように流動することも、又は利用可能な容積全体を満たすように膨張することもない。他方では、本発明による固体複合電解質は、その可撓性のために様々な方法で成形することができ、したがってリチウム電池の充電及び放電中に起こり得る体積又は形状のいずれかの変化に対応することができる。
【0040】
本発明において、「ペースト」という用語は、流動しない乾燥又は湿った擬塑性固体であるが、十分な応力が加えられると様々な形状に成形することができる物質を指す。
【0041】
硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子
本発明において、「硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子」という用語は、それが分子構造又は組成物中に硫黄原子を含む固体電解質材料である限り、特に限定されない。
【0042】
硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子は、好ましくは、Liイオン伝導性を高めるために、Li、X(Xは、P、Si、Sn、Ge、Al、As、又はBである)及びSを含む。
【0043】
本発明による硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子は、より好ましくは、以下からなる群から選択される:
- Li10SnP2S12などのリチウムスズリン硫化物(「LSPS」)材料;
- 式(Li2S)x-(P2S5)y(x+y=1且つ0≦x≦1)、Li7P3S11、Li7PS6、Li4P2S6、Li9.6P3S12、及びLi3PS4のもののガラス、結晶、又はガラスセラミックなどのリチウムリン硫化物(「LPS」)材料;
- Li2CuPS4、Li Li1+2xZn1-xPS4(0≦x≦1)、Li3.33Mg0.33P2S6、及びLi4-3xScxP2S6(0≦x≦1)などのドープされたLPS;
- 式LixPySzO(0.33≦x≦0.67、0.07≦y≦0.2、0.4≦z≦0.55)のリチウムリン硫化物酸素(「LPSO」)材料;
- Li10GeP2S12及びLi10SiP2S12などの、XがSi、Ge、Sn、As、又はAlであるXを含むリチウムリン硫化物材料(「LXPS」);
- XがSi、Ge、Sn、As、又はAlであるXを含むリチウムリン硫化物酸素(「LXPSO」);
- リチウムケイ素硫化物(「LSS」)材料;
- Li3BS3及びLi2S-B2S3-LiIなどのリチウムホウ硫化物材料;
- Li0.8Sn0.8S2、Li4SnS4、Li3.833Sn0.833As0.166S4、Li3AsS4-Li4SnS4、Geで置換されたLi3AsS4などの、リチウムスズ硫化物材料及びリチウムヒ化物材料;並びに
- 式Li6PS5Y(YはCl、Br、又はIである)の硫銀ゲルマニウム鉱型硫化物材料、この化合物は硫黄、リチウム、又はハロゲンが不足している場合があり(例えばLi6-xPS5-xCl1+x(0≦x≦0.5))、又はヘテロ原子がドープされている場合がある。
【0044】
特に好ましい硫化物固体電解質は、リチウムスズリン硫化物(「LSPS」)材料(例えばLi10SnP2S12)及び硫銀ゲルマニウム鉱型硫化物材料(例えばLi6PS5Cl))である。
【0045】
TFE(コ)ポリマー
本発明によるTFE(コ)ポリマーは、TFE(テトラフルオロエチレン)ホモポリマー、TFEモノマーの繰り返し単位と、TFEモノマーとは異なる繰り返し単位とを含むTFEコポリマー、又はそれらのブレンドである。
【0046】
本発明によるTFEコポリマーは、溶融加工可能なTFEコポリマーとは区別され、得られるTFEコポリマーがその固有のフィブリル化特性を維持する範囲内で、TFEモノマーとは異なる少量の繰り返し単位で変性されたTFEポリマーを表すことが通常意図されている。
【0047】
本発明によるTFEコポリマーを溶融加工可能なTFEコポリマーと区別するための有用な基準は、特にR.E.MOYNIHANによりJournal American Chemical Society,1959,vol.81,p.1045-1050(“The Molecular Structure of Perfluorocarbon Polymers:Infrared Studies on Polytetrafluoroethylene”)の中に記載されているアモルファス指数(A.I.)である。約778cm-1を中心とするIR吸収帯の強度と約2367cm-1を中心とする別のIR吸収帯の強度との比は、TFEコポリマー中のアモルファス相の割合と適切且つ確実に相関することが示されている。言い換えると、このIR強度比は、ポリマー鎖のコンフォメーションの不規則性の含有量に正比例することが分かっている。
【0048】
本発明のTFEコポリマーは、TFEモノマーの繰り返し単位と、パー(ハロ)フルオロオレフィン由来の繰り返し単位などのTFEモノマーとは異なる繰り返し単位とを含み得る。パー(ハロ)フルオロオレフィンは、水素原子を含まず、フッ素とは異なる1つ以上のハロゲン原子、特には塩素又は臭素を含む場合があるエチレン性不飽和フッ素化オレフィンである。好ましくは、パー(ハロ)フルオロオレフィンモノマーは、ヘキサフルオロプロピレンなどのC3~C8パーフルオロオレフィンである。
【0049】
特定の実施形態では、TFEコポリマーは、TFEコポリマーの繰り返し単位の総モル数に対して0.01~0.25モル%、好ましくは0.05~0.175モル%の量でTFEモノマーとは異なる少なくとも1種のパー(ハロ)フルオロオレフィン由来の繰り返し単位を含む。
【0050】
好ましい実施形態では、TFEモノマーとは異なる少なくとも1種のパー(ハロ)フルオロオレフィンはヘキサフルオロプロピレンである。
【0051】
別の特定の実施形態では、TFEコポリマーは、TFEコポリマーの繰り返し単位の総モル数に対して0.005~0.025モル%の量で、式CF2=CF-O-Rf(式中、RfはC1~C6パーフルオロアルキルであり、1つ以上のエーテル性酸素原子を含み得る)の少なくとも1種のパーフルオロ(オキシ)アルキルビニルエーテルに由来する繰り返し単位を含む。
【0052】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1種のパーフルオロ(オキシ)アルキルビニルエーテルはパーフルオロプロピルビニルエーテルである。
【0053】
一実施形態では、(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーは、赤外分光法によって決定され、約778cm-1を中心とする波長帯の強度と約2367cm-1を中心とする波長帯の強度との間の比として定義される、0.22以下、好ましくは0.017以下、より好ましくは0.012以下のA.I.を有する。
【0054】
実際には、約10トンの圧力下のプレスで製造したTFEコポリマーの圧縮錠剤に対し、4000~400cm-1のスペクトル範囲を有する分光光度計を使用してFT-IR分析が行われる。約778cm-1(OD778)を中心とする吸収帯の光学密度又は強度が決定され、2367cm-1(OD2367)を中心とする複合帯の光学密度に対して正規化される。その結果、A.I.は以下の通りに決定される:
A.I=(OD778)/(OD2367)。
【0055】
TFEコポリマー内のコモノマーとして適切な繰り返し単位の中でも、以下のものを挙げることができる:
- C
3~C
8パーフルオロオレフィン、例えばヘキサフルオロプロペン(HFP)及びヘキサフルオロイソブテン;
- 式CF
2=CF-O-R
fのパーフルオロアルキルビニルエーテル(式中、R
fは、C
1~C
3パーフルオロアルキル、例えば-CF
3、-C
2F
5、又は-C
3F
7から選択される)、すなわちパーフルオロメチルビニルエーテル(式CF
2=CFOCF
3のもの)、パーフルオロエチルビニルエーテル(式CF
2=CFOC
2F
5のもの)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(式CF
2=CFOC
3F
7のもの)、及びそれらの混合物;
- 式CF
2=CF-O-Xのパーフルオロ(オキシ)アルキルビニルエーテル(式中、Xは1個以上のエーテル基を有するC
1~C
12パーフルオロ(オキシ)アルキルである)、例えば式CF
2=CF-O-CF
2-O-R
f1のパーフルオロメトキシビニルエーテル(式中、R
f1は、直鎖又は分岐のC
1~C
6パーフルオロアルキル基、環状C
5~C
6パーフルオロアルキル基、直鎖若しくは分岐C
2~C
6パーフルオロオキシアルキル基であり、好ましくは、R
f1は、-CF
3、-CF
2CF
3、又はCF
2CF
2OCF
3である)、例えばパーフルオロプロピルビニルエーテル;並びに
- 以下の式:
【化1】
(式中、X
1及びX
2は、互いに等しいか又は異なり、F及びCF
3から選択され、好ましくはFである)
を有するパーフルオロジオキソール。
【0056】
本発明によるTFE(コ)ポリマーは、約19℃及び30℃で2つの転移温度を有する。19℃未満では、TFE(コ)ポリマー粒子は、その同一性を維持しながら、互いに簡単にすり抜ける。しかしながら、19℃を超えると、TFE(コ)ポリマー粒子の構造が緩くなり、特に転移温度の19℃を超えると、機械的せん断に対してより影響を受けやすくなる。したがって、せん断は、TFEポリマーの結晶構造をほどき、いわゆるフィブリル化現象を開始する、つまり、ノードと、ノードを相互接続するフィブリルと、フィブリルとノードとの間の自由空間とからなる3D構造を形成することができる。フィブリル化は、粒子が表面をこすり、フィブリルがTFE(コ)ポリマー粒子の表面から引き出されるときに発生する。30℃を超える温度では、より高度なフィブリル化が継続される。
【0057】
特定の実施形態では、a1)均質化は、19℃以下、好ましくは10℃~19℃の温度で行われる。
【0058】
別の特定の実施形態では、a2)ブレンドは、30℃以上、好ましくは30℃~150℃、より好ましくは35℃~120℃、更に好ましくは40℃~80℃の温度で行われる。
【0059】
一実施形態では、工程b)カレンダー加工又は押出は、30℃~150℃、好ましくは35℃~120℃、より好ましくは40℃~100℃の温度で行われる。
【0060】
本発明では、ペーストを形成するために、工程a)に(iii)少なくとも1種の潤滑剤が追加的に存在していてもよい。iii)少なくとも1種の潤滑剤の例としては、限定するものではないが、脂肪族炭化水素、特にイソパラフィン系炭化水素化合物及び石油留分、より具体的にはスクアレンが挙げられる。好ましい石油留分は、ガソリン(C4~C10)、ナフサ(C4~C11)、及び石油/パラフィン(C10~C16)、並びにこれらの混合物である。
【0061】
好ましい実施形態では、(iii)少なくとも1種の潤滑剤は、イソパラフィン系炭化水素化合物及び石油留分からなる群から選択される。
【0062】
より好ましい実施形態では、(iii)少なくとも1種の潤滑剤はスクアレンである。
【0063】
一実施形態によれば、(iii)少なくとも1種の潤滑剤の量は、(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーと、(iii)少なくとも1種の潤滑剤との混合物の総重量に対して、5.0~35.0重量部(pbw)、好ましくは10.0~30.0pbw、より好ましくは15.0~25.0pbwである。
【0064】
本発明の第2の目的は、(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子と、(ii)膜の総重量を基準として1.0~20.0重量%、好ましくは2.0~15.0重量%、より好ましくは3.0~10.0重量%の量の少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーとを含む、自立型固体複合電解質膜である。
【0065】
一実施形態では、(ii)少なくとも1種のTFE(コ)ポリマーは、ノードと、ノードを相互接続するフィブリルと、フィブリルとノードとの間の自由空間とからなる三次元(3-D)構造を有しており、(i)少なくとも1種の硫化物ベースの固体イオン伝導性無機粒子が、本発明による自立型固体複合電解質膜の自由空間の内部に配置される。
【0066】
特定の実施形態では、本発明による自立型固体複合電解質膜の厚さは、10~150μm、好ましくは15~100μm、より好ましくは20~60μmである。
【0067】
本発明の第3の目的は、上で詳述した本発明の自立型固体複合電解質膜を含む固体電池に関する。本発明の固体電池は、正極と負極を含む。
【0068】
本発明の更に別の目的は、イオン伝導性及び機械的特性を改善するための、上述した自立型固体複合電解質膜の固体電池における使用である。
【0069】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0070】
本発明は、これから以下の実施例を参照してより詳細に説明されるが、その目的は、単に例証的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0071】
原材料
硫化物ベースの固体無機粒子:
- LSPS(Li10SnP2S12)(NANOMYTE(登録商標)SSE-10)、NEI Corporationから市販)
- LPSCl(Li6PS5Cl)、NEI Corporationから市販)
TFE(コ)ポリマー:Algoflon(登録商標)DF132F(TFEホモポリマー)及びAlgoflon(登録商標)DF681F(TFEコポリマー)(共にSolvay Specialty Polymers Italy S.p.Aから入手可能)
SEBS:Tuftec(商標)N504(Asahi Kasei Chemicals Corporationから入手可能)
潤滑剤:スクアレン(Sigma Aldrichから入手可能)及びIsopar(商標)K(ExxonMobil Chemicalから入手可能)
【0072】
イオン伝導率
膜のイオン伝導率は、社内で開発された圧力セルを用いたACインピーダンス分光法によって測定した。その際、膜は、インピーダンス測定中に2つのステンレス鋼電極間でプレスされる。圧力セルの断面図を
図1に示す。
【0073】
実施例1による固体複合電解質のインピーダンススペクトルは、83MPaの圧力及び20℃の温度で決定した。
【0074】
固体複合電解質膜の抵抗Rは、インピーダンススペクトルの低周波拡散テールの準線形部分を(線形モデルで)外挿することによって得た。抵抗Rは、外挿した曲線がX軸と交差する場所とみなした。これに基づいて、イオン伝導率σは、σ=d/(R×A)の式を使用して得た。ここで、dは、膜の厚さであり、Aは、ステンレス鋼電極の面積である。
【0075】
イオン伝導率のSI単位はシーメンス毎メートル(S/m)であり、Sはohm-1である。
【0076】
機械的特性
機械的特性は、ある形式で、すなわち膜がi)支持体なしで自立するかどうか、ii)可撓性であるかどうか、即ち破損又は亀裂の形成なく繰り返し曲げることができるかどうか、及びiii)変形に対して機械的耐性を有するかどうかを、肉眼で評価した。これは、これが膜の厚さ/空隙率を低下させることになるプレス/カレンダー工程の物理的応力に耐えることができる必要があり、またロールツーロール又はスタッキングプロセスと適合性を有する必要があることを意味する。
【0077】
比較例1(Comp.Ex1):
3g(99.85重量%)のLSPSと4.5mg(0.15重量%)のAlgoflon(登録商標)DF132Fとを、15℃で均質化して粉末にし、60℃でブレンドしてペーストにした。TFEポリマーの量が少ないため、ペーストを得るのは非常に困難であった。更に、得られたペーストは非常に壊れやすく、扱いが非常に困難であった。その結果、薄膜を製造するためにカレンダー加工するにはこのペーストの引張強さが低すぎ、プロセスの工業化及び得られる複合電解質膜の実用を妨げた。
【0078】
比較例2(Comp.Ex2):
Comp.Ex2はComp.1と同じ方法で製造したが、LSPS(3g、99.7重量%)及びAlgoflon(登録商標)DF132F(9mg、0.30重量%)の量のみ異なっていた。TFEポリマーの量が少ないため、ペーストを得るのは困難あった。更に、得られたペーストは非常に壊れやすく、扱いが困難であった。その結果、薄膜を製造するためにカレンダー加工するにはこのペーストの引張強さが低すぎ、プロセスの工業化及び得られる複合電解質膜の実用を妨げた。
【0079】
比較例3(Comp.Ex3):
Comp.Ex3はLSPSの代わりにLPSClを使用したことを除いて、Comp.Ex1と同じ方法で製造した。したがって、LPSCl及びTFEポリマーの量を調整した。すなわち、3g(99.7重量%)のLPSCl及び9mg(0.30重量%)のAlgoflon(登録商標)DF132Fであった。
【0080】
比較例4(Comp.Ex4):
0.1g(3重量%)のSEBSを2.5gのキシレンに溶解してポリマー溶液を生成した。3.233g(97重量%)のLSPSをポリマー溶液に添加した。得られたスラリー溶液をテフロン支持体上にキャストし、50℃で乾燥させた。80℃での真空乾燥により、完全な溶媒除去を確実に行った。自立膜が得られた。
【0081】
比較例5~9(Comp.Ex5~9):
Comp.5~9は、LSPSとSEBSの量のみが異なることを除いて、Comp.Ex4と同じ方法で製造した。組成は、イオン伝導率及び機械的特性と共に以下の表1に記載されている。
【0082】
【0083】
実施例1(Ex.1):
3.0g(99.0重量%)のLSPSと30mg(1.0重量%)のAlgoflon(登録商標)DF132Fとを15℃で均質化して粉末にし、60℃でブレンドしてペーストにした。得られたペーストを40℃でカレンダー加工して自立膜を形成した。このようにして得られた膜は、優れた引張強さを示さなかったものの、30μmの薄膜を製造するために更にカレンダー加工するには十分であった。
【0084】
実施例2~7(Ex.2~7)
Ex2~7は、1.0~20.0重量%のTFEポリマー含有量を網羅するためにLSPS及びAlgoflon(登録商標)DF132Fの量を変化させたことを除いて、Ex1と同じ方法で製造した。このようにしてそれぞれEx2~7から得られた自立膜は、良好な引張強さを示したため、厚さを30μmに減らすために容易にカレンダー加工することができた。
【0085】
TFEポリマーの含有量が3.0重量%(Ex2)に到達するとすぐに、機械的特性の大幅な改善が観察された。TFEポリマーの含有量が10.0重量%の場合(Ex5)、ペーストはより硬くなり、そのためペーストを薄い膜へとカレンダー加工するためにより多くのせん断が必要になった。したがって、TFEポリマーの含有量が10.0重量%を超えると、得られるペーストは非常に硬くなり、カレンダー加工にかなりの力を要すると見込まれた。
【0086】
TFEポリマーの含有量が10.0重量%まで増加すると、得られる膜のイオン伝導率は低下し続けた。より正確には、最大10.0重量%(Ex5)まで、0.3mS/cm以上のレベルで優れたイオン伝導性が維持された。ただし、TFEポリマーの含有量が更に高くなると(Ex6及びEx7)、対応するインピーダンス曲線に電荷移動抵抗の特定の兆候が現れた。それにもかかわらず、イオン伝導率は大幅には低下しなかった。20.0重量%のTFEポリマー(Ex7)でも、得られた複合電解質膜は約0.1mS/cmのイオン伝導率を示した。
【0087】
実施例8~13(Ex.8~13):
Ex8~13は、LSPSの代わりにLPSClを使用したことを除いて、Ex2~7と同じ方法で製造した。したがって、LPSCl及びTFEポリマーの量を調整した。このようにしてそれぞれEx8~13から得られた自立膜は、良好な引張強さを示したため、厚さを30μmに減らすために容易にカレンダー加工することができた。
【0088】
実施例14(Ex.14):
3g(95.0重量%)のLSPS及び0.16g(5重量%)のTFEポリマーを15℃で均質化して粉末にした。続いて、0.89g(LSPSとTFEポリマーとスクアレンとの混合物の総重量に対して22pbw)のスクアレンを粉末と一緒にブレンドして、60℃でペーストを形成した。得られたペーストを40℃でカレンダー加工して自立膜にし、その後スクアレンを真空乾燥により除去した。
【0089】
実施例15(Ex.15)
Ex15は、LSPSの代わりにLPSClを使用したことを除いてEx14と同じ方法で製造した。
【0090】
実施例16(Ex.16)
3g(95.0重量%)のLSPS及び0.16g(5重量%)のTFEポリマーを15℃で均質化して粉末にした。続いて、1.7g(LSPSとTFEポリマーとIsopar(商標)Kとの混合物の総重量に対して35pbw)のIsopar(商標)Kを粉末と一緒にブレンドして、60℃でペーストを形成した。得られたペーストを40℃でカレンダー加工して自立膜にし、その後Isopar(商標)Kを真空乾燥により除去した。
【0091】
潤滑剤の添加はフィブリル化を促進し、その結果得られた自立膜は優れた可撓性及び良好な引張強さを有していた。潤滑剤なしで製造された膜(Ex3及びEx9は共に5.0重量%のTFEポリマーを含む)と比較して、イオン伝導率の大きな変化は観察されなかった。
【0092】
実施例17~18(Ex17~18)
Ex17~18は、Algoflon(登録商標)DF132Fの代わりにAlgoflon(登録商標)DF681Fを使用したことを除いて、Ex2~3と同じ方法で製造した。このようにして得られた自立型膜は良好な引張強さを示したため、厚さを30μmに減らすために容易にカレンダー加工することができた。
【0093】
得られたEx1~18の複合材料膜の全ての組成は、イオン伝導率と機械的特性と共に以下の表2に記載されている。
【0094】
【0095】
【0096】
全ての実験は、保護された環境(Ar)下で行った。
【国際調査報告】