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特表2022-546205銀ナノ粒子を含む固定色を有する水性ゲルインクの調製のプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】銀ナノ粒子を含む固定色を有する水性ゲルインクの調製のプロセス
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20221027BHJP
   C09D 11/16 20140101ALI20221027BHJP
   C09C 3/00 20060101ALI20221027BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C09D11/00
C09D11/16
C09C3/00
C09D17/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506358
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(85)【翻訳文提出日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2020074156
(87)【国際公開番号】W WO2021038087
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】19306050.6
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501436665
【氏名又は名称】ソシエテ ビック
【氏名又は名称原語表記】SOCIETE BIC
(71)【出願人】
【識別番号】521172561
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ デ オート アルサス
(71)【出願人】
【識別番号】521174152
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ ルシェルシュ サイエンティフィーク(シー.エヌ.アール.エス.)
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルベンジ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】メティロン,ロメイン
(72)【発明者】
【氏名】ムギン,カリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラル,フェリエル
(72)【発明者】
【氏名】スパンゲンベルグ,アルノー
【テーマコード(参考)】
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
4J037AA04
4J037DD05
4J037FF04
4J039BA06
4J039BE01
4J039BE16
4J039BE19
4J039BE23
4J039EA14
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】
本発明は、固定色を有する水性ゲルインクを調製するためのプロセスに関し、(i)水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、(ii)銀塩を、-水、-少なくともクエン酸塩のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、好ましくはアルカリクエン酸塩と、アルカリ金属水素化物、好ましくはNaBH4と、の混合物、-さらなる還元剤、好ましくはアスコルビン酸、-および酸化剤、好ましくは過酸化水素H、と混合することにより、固定色を有する銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するステップと、(iii)ステップ(ii)において取得された銀ナノ粒子の水性懸濁液を撹拌しながらステップ(i)において取得された水性インクのゲルベースのマトリックスに添加して、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定色を有する水性ゲルインクを調製するためのプロセスであって、
(i)水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)銀塩を、
-水、
-少なくともクエン酸塩のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、好ましくはクエン酸ナトリウムなどのアルカリクエン酸塩と、アルカリ金属水素化物、好ましくは水素化ホウ素ナトリウムNaBHと、の混合物、
-さらなる還元剤、好ましくはアスコルビン酸、
-および酸化剤、好ましくは過酸化水素H2,、と混合することによって固定色を有する銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するステップと、
(iii)ステップ(ii)において取得された前記銀ナノ粒子の水性懸濁液を、ステップ(i)において取得された前記水性インクのゲルベースのマトリックスに撹拌しながら添加して、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む、プロセス。
【請求項2】
ステップii)が、
-クエン酸塩の前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、好ましくはアルカリ土類クエン酸塩から選択され、好ましくはアルカリ土類クエン酸塩から選択され、より好ましくは、前記アルカリ金属水素化物を有するクエン酸ナトリウム、好ましくはNaBHから選択される、を、前記酸化剤を用いて混合する第1のステップii.a)、
-続いて、前記さらなる還元剤の添加を含む、第2のステップii.b)、
-続いて、銀塩のさらなる添加を含む、第3のステップii.c)を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ステップ(ii)において添加される前記クエン酸塩の総量が、前記水性懸濁液の総重量に基づいて、0.02~0.1重量%の範囲である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
ステップ(ii)において添加される銀塩の総量が、前記水性懸濁液の総重量に基づいて、0.0001~5重量%、具体的には0.0001~3重量%、より具体的には0.0001~0.005重量%の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
ステップ(ii)において添加されるアルカリ金属水素化物の量が、前記水性懸濁液の総重量に基づいて、0.0005~0.002重量%の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
ステップ(ii)において添加される酸化剤の量が、前記水性懸濁液の総重量に基づいて、0.001~0.005重量%の範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記さらなる還元剤が、アスコルビン酸であり、および/またはステップ(ii)において添加される前記さらなる還元剤の量が、前記水性懸濁液の総重量に基づいて、0.002~0.01重量%の範囲である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
内部に分散された銀ナノ粒子を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセスによって取得可能な固定色を有する銀ナノ粒子の水性懸濁液。
【請求項9】
内部に分散された銀ナノ粒子を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセスによって取得可能な固定色を有する水性ゲルインク。
【請求項10】
アルカリ金属塩をさらに含み、より具体的には、アルカリ金属塩の量が、少なくとも0.002重量%であり、特に前記水性ゲルインクまたは前記水性懸濁液の総重量に基づいて、0.002~0.16重量%の範囲である、請求項9に記載の水性ゲルインクまたは請求項8に記載の水性懸濁液。
【請求項11】
前記銀ナノ粒子が、1~200nm、具体的には2~100、より具体的には10~100nm、および具体的には20~50nmの範囲の平均粒子サイズを有する、請求項9もしくは10に記載の水性ゲルインクまたは請求項8~10のいずれか一項に記載の水性懸濁液。
【請求項12】
銀ナノ粒子の量が、前記水性ゲルインクまたは前記水性懸濁液の総重量に対して、0.0001~3重量%の範囲であり、より具体的には0.0001~0.005重量%の範囲である、請求項9~11のいずれか一項に記載の水性ゲルインクまたは請求項8もしくは10もしくは11のいずれか一項に記載の水性懸濁液。
【請求項13】
水の量が、前記水性ゲルインクまたは前記水性懸濁液の総重量に対して、50~95重量%の範囲である、請求項9~12のいずれか一項に記載の水性ゲルインクまたは請求項8もしくは10~12のいずれか一項に記載の水性懸濁液。
【請求項14】
-前記水性ゲルインクの総重量に対して、具体的には5~35重量%の範囲の量の助溶剤、および/または
-前記水性ゲルインクの総重量に対して、具体的には0.01~0.5重量%の範囲の量の抗菌剤、
-および/または前記水性ゲルインクの総重量に対して、具体的には0.05~1重量%の範囲の量の腐食防止剤、
-および/または前記水性ゲルインクの総重量に対して、具体的には0.05~1重量%の範囲の量の消泡剤、
-および/または前記水性ゲルインクの総重量に対して、具体的には0.08~2重量%の範囲の量のレオロジー改質剤、をさらに含む、請求項9~13のいずれか一項に記載の水性ゲルインク。
【請求項15】
筆記具であって、
-請求項9~14のいずれか一項に記載の固定色を有する水性ゲルインクを含有する軸方向バレルと、
-前記軸方向バレル内に貯蔵された請求項9~14のいずれか一項に記載の水性ゲルインクを送出する、ペン本体と、を含み、
より具体的には、前記筆記具が、ゲルペン、フェルトペン、修正液、マーカからなる群から選択され、具体的にはゲルペンである、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定色を有する水性ゲルインクを調製するためのプロセス、および本発明のプロセスに従って取得可能な銀ナノ粒子を含む固定色を有する水性ゲルインクに関する。本発明はまた、本発明による固定色を有する水性ゲルインクを含む筆記具に関する。
【0002】
本発明の主な目的のうちの1つは、高価であり、かつ高い製造コストを引き起こすという欠点を有する、水性ゲルインク中に通常存在するすべてのタイプの染料および顔料を置き換えることである。
【0003】
本発明の別の目的は、例えば、皮膚および眼などの生体膜を刺激するという欠点を有し、アレルギーを引き起こし得る、水性ゲルインク中に通常存在するすべてのタイプの染料および顔料を置き換えることである。
【0004】
本発明者らは、驚くべきことに、ナノ粒子ベースを含有する新しい水性インクはまた、UV光に耐性があり、それにより、経時的な光安定性を改善することを見出した。
【0005】
さらに、銀ナノ粒子は、抗菌特性を有し、したがって、他の抗菌剤の量を低下させることができる。
【0006】
この目的のために、本発明者らは、染料および顔料を含有する従来の水性インクを、ナノ粒子ベースの新しいものと置き換えることにより、書き込み時に固定色を有する新しい水性インクを取得することが可能である具体的なプロセスを開発した。本発明の枠組み内で開発されたプロセスはまた、水性媒体中で実施されるという利点を示し、したがって「グリーンプロセス」である。さらに、本発明のプロセスは、低温範囲で実施され、生態学的に実行可能な方法で機能し、また生態学的要件も考慮に入れる。
【0007】
それゆえ、本発明は、固定色を有する水性ゲルインクを調製するためのプロセスに関し、
(i)水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)銀塩を、
-水、
-少なくともクエン酸塩のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、好ましくはアルカリクエン酸塩と、アルカリ金属水素化物、好ましくはNaBHと、の混合物、
-さらなる還元剤、好ましくはアスコルビン酸、
-および酸化剤、好ましくは過酸化水素H、と混合することにより、固定色を有する銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するステップと、
(iii)ステップ(ii)において取得された銀ナノ粒子の水性懸濁液を、ステップ(i)において取得された水性インクのゲルベースのマトリックスに撹拌しながら添加して、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。
【0008】
本発明の好ましい実施形態によれば、固定色を有する水性ゲルインクを調製するためのプロセスは、
(i)水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)銀塩を、
-水、
-少なくともアルカリクエン酸塩と、NaBHと、の混合物、
-アスコルビン酸、
-および過酸化水素Hと混合することによって固定色を有する銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するステップと、
(iii)ステップ(ii)において取得された銀ナノ粒子の水性懸濁液を、ステップ(i)において取得された水性インクのゲルベースのマトリックスに撹拌しながら添加して、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。
【0009】
本発明はまた、ステップ(i)において水性インクのマトリックスを調製する、水性インクを調製するためのプロセスに関する。本発明はまた、そのようなプロセスを通じて取得可能な水性インクに関する。水性ゲルインクの調製のプロセスに関して、およびこのプロセスを通じて取得することができる水性ゲルインクに関して、本明細書に記載の様々な実施形態は、特に成分の性質および/または含有量に関して、水性インクの調製のプロセス、およびそのように取得された水性インクについても同様に考慮することができる。水性インクに関するこれらの実施形態、その調製プロセスもまた、本発明の一部である。
【0010】
本発明の意味において、「固定色」という用語は、目視観察による水性ゲルインクの色が、具体的には紙、段ボールまたは織物の吸収性支持体上への塗布前と、吸収性支持体上への塗布後とで、7暦日(1週間)以内同じであることを意味することを意図する。
【0011】
本発明の目的のために、「インク」という用語は、筆記具、特にペンで使用されることを意図された「筆記用インク」を意味することを意図している。筆記用インクは、印刷機で使用され、同じ技術的制約、したがって同じ仕様を有しない「印刷用インク」と混同してはならない。実際、筆記用インクは、筆記具のチャネルよりも大きいサイズの固体粒子を含んではならず、これは、必然的に不可逆的に筆記が停止されることになる、筆記具の詰まりを回避するためである。さらに、使用される筆記具に好適なインク流量、特に100~500mg/200mの筆記流量、具体的には150~400mg/200mの筆記流量を可能にしなければならない。また、筆記媒体を汚すことを回避するために、十分に急速に乾く必要がある。また、経時的な移染(出液)の問題を回避する必要がある。したがって、本発明によるインクは、それが意図される筆記具、特にペンに好適であろう。
【0012】
さらに、「筆記用インク」は、筆記中の漏出を回避するために、流動性が高すぎてはならない。しかしながら、筆記動作の流れを容易にするために、十分に流動的である必要がある。
【0013】
本発明の特定の場合では、筆記用インクは、より具体的に「ゲルインク」(したがってチキソトロピー性インクに相当する)であり得、特に20℃で、静止状態(0.01s-1のせん断速度)で測定された粘度は、例えば、60mmの円錐および1°の角度を有するMalvern KINEXUSなどのコーンプレート型レオメータなどの同じレオメータを使用して、20℃で100s-1のせん断速度で測定された粘度とは異なり、特により高くなる。特定の実施形態では、これらの条件下で測定されたゲルインクの粘度は、1s-1のせん断速度では、1,000~7,000mPa.s、具体的には2,000~5,000mPa.s、より具体的には2,500~3,500mPa.sの範囲であり、5,000s-1のせん断速度では、具体的には5~50mPa.s、より具体的には7~40mPa.s、さらにより具体的には10~20mPa.sである。具体的には、そのような粘度は、40℃および20%の相対湿度で少なくとも3ヶ月の間の貯蔵中安定的であり、特に粘度は、50%超で減少することはない。より具体的には、筆記後数分での静的漏出を回避するために、せん断後の静止時の粘度への復帰は、非常に迅速であり、具体的には最大で数分である。
【0014】
本発明によるプロセスは、水性インク組成物を取得することを可能にし、より具体的には、このプロセスによって取得された組成物は、プラズモン効果(プラズモニック効果とも呼ばれる)を呈する。したがって、使用される成分の含有量に応じて、組成物の異なるプラズモニック色が、取得され得る。
【0015】
実際、プラズモニック色は、銀ナノ粒子による光吸収および/または材料内のそれらの間の間隔の両方に起因する。
【0016】
それらのサイズ、形状、および距離に応じて、溶液の色(またはそれらが内部に存在する材料)、ならびにその特性は、変化し得る。これは、プラズモン共鳴に起因し、金属ナノ粒子(銀)の場合によく存在する。
【0017】
銀粒子を特定の周波数の波にさらすと、電子が特定の場所に集まり、銀粒子の形状およびサイズに応じて変化する。この電子の凝集は、粒子の異方性を生成し得、それが、次いで光の吸収および散乱の変化につながり、具体的な色をもたらす。
【0018】
プラズモン共鳴はまた、該銀粒子の結合に起因する粒子間の距離により影響を受ける場合がある。実際、銀粒子が近いほど、さらにそれらは互いに相互作用し、プラズモン効果とも呼ばれる、それらの結合効果を増加させる。
【0019】
同様に、形状はプラズモン共鳴に影響を与える。
【0020】
特に、そのようなプラズモニック効果は、UV(紫外線)-可視-NIR(近赤外)吸収分光法によって特徴付けることができる。
【0021】
本発明では、ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスは、50~95重量%、具体的には60~90重量%、より好ましくは70~85重量%の水を含み得る。
【0022】
ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスはまた、助溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー改質剤などの古典的なゲルインク原料を含み得る。ステップ(i)の水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するために使用されるゲルインク成分は、本発明の固定色を有する水性ゲルインクの主題に関連して、以下に大部分は説明される。
【0023】
水性インクのゲルベースのマトリックスは、その原料の単純な混合によってなど、当業者に周知の方法によって調製される。
【0024】
特定の実施形態では、水性インクのゲルベースのマトリックスは、着色剤を含有しない。したがって、いかなる染料および顔料も含有しない。この場合、水性インクのゲルベースのマトリックスは、透明である。
【0025】
別の特定の実施形態では、水性インクのゲルベースのマトリックスは、いかなる還元剤またはいかなる酸化剤も含有しない。
【0026】
別の特定の実施形態では、水性インクのゲルベースのマトリックスは、いかなるポリビニルピロリドンも含有しない。
【0027】
本発明では、銀塩は、具体的には、AgNO、AgClO、AgSO、AgCl、AgBr、AgOH、AgO、AgBF、AgIO、AgPF、およびそれらの混合物などの銀(I)塩であり、より具体的には硝酸銀AgNOである。特に、銀塩は、硝酸銀の水溶液の形態である。
【0028】
具体的な実施形態では、ステップ(ii)において添加される銀塩の総量は、水性懸濁液の総重量に基づいて、0.0001~0.005重量%、具体的には0.0006~0.005重量%の範囲である。
【0029】
銀塩を還元剤および酸化剤と接触させるとき、銀ナノ粒子が形成される。
【0030】
本発明では、少なくともクエン酸塩のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、好ましくはクエン酸アルカリ塩およびアルカリ金属水素化物、好ましくはNaBHが、ステップ(ii)における色の原因である。
【0031】
本発明では、クエン酸塩のアルカリ金属は、クエン酸リチウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ルビジウム、クエン酸セシウム、およびクエン酸フランシウム、好ましくはクエン酸ナトリウムまたはクエン酸カリウム、より好ましくはクエン酸ナトリウムから選択される。
【0032】
本発明の具体的な実施形態では、クエン酸塩のアルカリ金属塩は、クエン酸ナトリウムである。
【0033】
本発明では、クエン酸塩のアルカリ土類金属塩は、クエン酸ベリリウム、クエン酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、クエン酸ストロンチウム、クエン酸バリウム、およびクエン酸ラジウム、好ましくはクエン酸マグネシウムまたはクエン酸カルシウム、より好ましくはクエン酸カルシウムから選択される。
【0034】
本発明の特定の実施形態では、アルカリ土類金属は、クエン酸カルシウムである。
【0035】
本発明では、アルカリ金属水素化物は、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBHCN、水素化ホウ素ナトリウムトリアセトキシ(NaHB(OAc))、水素化トリ-sec-ブチルホウ素ナトリウム、水素化トリ-sec-ブチルホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化トリ-sec-ブチルホウ素リチウム、水素化ホウ素ニッケル、アルミン酸水素化リチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシアルミニウムナトリウムの中から選択される。
【0036】
本発明の具体的な実施形態では、アルカリ金属水素化物は、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)である。
【0037】
本発明の好ましい実施形態によれば、クエン酸ナトリウムと、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)と、の混合物が、着色ステップ(ii)の原因である。
【0038】
具体的な実施形態では、ステップ(ii)において添加される該クエン酸塩の量は、水性懸濁液の総重量に基づいて、0.02~0.1重量%、具体的には0.05~0.1重量%の範囲である。
【0039】
具体的な実施形態では、ステップ(ii)において添加されるアルカリ金属水素化物の量は、水性懸濁液の総重量に基づいて、0.0005~0.002重量%、具体的には0.0008~0.002重量%の範囲である。
【0040】
本発明では、ステップ(ii)は、
-クエン酸塩の該アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、好ましくはアルカリ土類クエン酸塩から選択され、好ましくはアルカリ土類クエン酸塩から選択され、より好ましくは、該アルカリ金属水素化物を有するクエン酸ナトリウム、好ましくはNaBHから選択される、を、該酸化剤を用いて混合する第1のステップii.a)、
-続いて、該さらなる還元剤の添加を含む第2のステップii.b)、
-続いて、銀塩のさらなる添加を含む第3のステップii.c)を含む。
【0041】
銀イオンの還元によるコロイド溶液の形成メカニズムは、核形成および成長の2つのステップからなる。核形成ステップは、高い活性化エネルギーを必要とする一方で、成長ステップは、低い活性化エネルギーを必要とする。
【0042】
本発明の好ましい実施形態によれば、固定色を有する銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するためのプロセス(ii)は、
-最初に銀塩を水、および少なくともクエン酸塩のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、好ましくはアルカリクエン酸塩と、アルカリ金属水素化物、NaBHとの混合物、および酸化剤、好ましくは過酸化水素Hと混合するステップ(ステップ:核形成)と、
-上述の組成物を銀塩およびさらなる還元剤、具体的にはアスコルビン酸と混合するステップ(ステップ:成長)と、を含む。
【0043】
具体的な実施形態では、銀塩と、少なくともクエン酸塩のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、好ましくはアルカリクエン酸塩と、アルカリ金属水素化物との混合物との間のモル比は、0.005:1~0.20:1、具体的には0.01:1~0.15:1の範囲である。
【0044】
本発明では、ステップ(ii)において添加されるさらなる還元剤は、好ましくは、ヒドロキシルアミン(NHOH)、アスコルビン酸、シュウ酸、ギ酸、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、置換ヒドラジン、例えば、1,1-ジメチルヒドラジン、または1,2-ジメチルヒドラジン、ハイドロサルファイトナトリウム、トリブチルスタンナン、水素化トリブチルスズ、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスファイト、トリクロロシラン、トリエチルシラン、トリス(トリメチルシリル)シラン、またはポリメチルヒドロキシリザン、およびそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくはアスコルビン酸である。
【0045】
具体的な実施形態では、ステップ(ii)において添加されるさらなる還元剤は、アスコルビン酸である。
【0046】
還元剤は、銀塩を銀元素(すなわち、酸化状態:0)に還元する。
【0047】
具体的な実施形態では、ステップ(ii)において添加されるさらなる還元剤の量は、水性懸濁液の総重量に基づいて、0.002~0.01重量%、具体的には0.004~0.008重量%の範囲である。
【0048】
具体的な実施形態では、銀塩とさらなる還元剤との間のモル比は、5~100%、具体的には8~80%の範囲である。
【0049】
本発明では、酸化剤は、C-Cアルキルペルオキシ酸、例えば、過酢酸、アセチルシクロヘキサンスルホニルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、tert-アミルペルネオデカノエート、tert-ブチルペルネオデカノエート、tert-ブチルペルピバレート、tert-アミルペルピバレート、ビス(2,4-ジクロロベンゾイル)ペルオキシド、ジイソノナノイルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジオクタノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ビス(2-メチルベンゾイル)ペルオキシド、ジコハク酸ペルオキシド、ジアセチルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペル-2-エチルヘキサノエート、ビス(4-クロロベンゾイル)-ペルオキシド、tert-ブチルペリソブチレート、tert-ブチルペルマレイネート(permaleinate)、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルペリソノナオエート、2,5-ジメチルヘキサン2,5-ジベンゾエート、tert-ブチルペルアセテート、tert-アミルペルベンゾエート、tert-ブチルペルベンゾエート、2,2-ビス(tert-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2ビス(tert-ブチルペルオキシ)プロパン、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジ-tert-ブチルペルオキシド、3-tert-ブチルペルオキシ3-フェニルフタリド、ジ-tert-アミルペルオキシド、α,α’-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、3,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,5-ジメチル1,2-ジオキソラン、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジ-tert-ブチルペルオキシド、および3,3,6,6,9,9-ヘキサメチル-1,2,4,5-テトラオキサシクロノナン、過酸化水素H、ならびにそれらの混合物から選択される。
【0050】
過酸化水素(H)は、その分解が最終的に水および酸素の形成につながるという点で、「グリーン」試薬と見なされ得る。
【0051】
本発明の好ましい実施形態によれば、酸化剤は、過酸化水素Hである。
【0052】
具体的な実施形態では、ステップ(ii)において添加される酸化剤の量は、水性懸濁液の総重量に基づいて、0.001~0.005重量%、具体的には0.002~0.005重量%の範囲である。
【0053】
具体的な実施形態では、ステップ(ii)の水性懸濁液は、いかなる安定剤も含有しない。特に、ポリビニルピロリドンを含有しない。
【0054】
ステップ(ii)において取得された銀ナノ粒子の水性懸濁液は、固定色を有する。その色は、銀塩の量に依存する。例えば、銀塩の量がより高くなるにつれて、色は、黄色からオレンジ色、赤色に変化し得る。
【0055】
ステップ(ii)において取得された水性懸濁液の銀ナノ粒子は、球形状または多面体形状、具体的には多面体形状を有することができる。
【0056】
一態様では、本発明はまた、ステップ(ii)に従って固定色を有する銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するためのプロセス、およびステップ(ii)に従って取得可能な水性懸濁液に関する。
【0057】
プロセスの最後のステップ(ステップ(iii))では、水性インクのゲルベースのマトリックス内に銀ナノ粒子の水性懸濁液を添加すると、取得されるインクの色は、ステップ(ii)において取得される水性懸濁液の色とは異なる。例えば、水性懸濁液が黄色を有する場合、インクの色は、ピンク色で表れ、水性懸濁液がオレンジ色を有する場合、インクの色は、青色で現れ、水性懸濁液が赤色を有する場合、インクの色は黒色で現れる。
【0058】
本発明のプロセスは、広範囲の温度にわたって実施することができる。概して、プロセスは、0~100℃、具体的には5~70℃、より具体的には10~40℃の温度範囲内で実施される。比較的低いプロセス温度は、プロセス効率とプロセス経済性に貢献し、さらに現在の生態学的要求を満たす。実際、本発明のプロセスは水性媒体中で実施され、したがって「グリーンプロセス」である。加えて、低温は、より安定した分散液が取得され、銀ナノ粒子がより優れた再分散性を呈するという利点を有する。本発明はまた、本発明のプロセスによって取得可能な固定色を有する水性ゲルインクに関し、該水性ゲルは、内部に分散された銀ナノ粒子を含む。
【0059】
具体的な実施形態では、銀ナノ粒子は、本発明の水性ゲルインクの唯一の着色剤である。この場合、本発明による水性ゲルインクは、銀ナノ粒子以外のいかなる着色剤も含有しない。
【0060】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、銀ナノ粒子は、球形状または多面体形状、具体的には多面体形状を有することができる。
【0061】
本発明の固定色を有する水性インク、より具体的には固定色を有する水性ゲルインクでは、本発明の銀ナノ粒子は、具体的には1~200nm、およびより具体的には2~100nmの範囲の平均粒子サイズを有する。
【0062】
特に、本発明の固定色を有する水性インク、より具体的には固定色を有する水性ゲルインクでは、本発明の銀ナノ粒子は、具体的には10~100nm、より具体的には20~50nmの範囲の平均粒子サイズを有する。この平均粒子サイズは、規格ISO9001:2015に従って、2D画像(顕微鏡:JEOL ARM 200)の分析によって判定される。
【0063】
特に、本発明の固定色を有する水性インク、より具体的には固定色を有する水性ゲルインクでは、銀ナノ粒子の量は、水性インクの総重量に対して、具体的には0.0001~5重量%、より具体的には0.0001~3重量%、さらにより具体的には0.0002~3重量%の範囲である。
【0064】
特に、本発明の固定色を有する水性インク、より具体的には固定色を有する水性ゲルインクでは、銀ナノ粒子の量は、水性インクの総重量に対して、具体的には0.0001~0.005重量%、より有利には0.0003~0.003重量%の範囲である。
【0065】
本開示の固定色を有する水性インク、特に水性ゲルインクおよびステップ(ii)において取得可能な水性懸濁液は、特にアルカリ金属塩、より具体的にはナトリウム塩を含む。実際、この組成物は、少なくともアルカリ金属水素化物を使用し、またクエン酸塩のアルカリ金属塩を使用し得る、上記のプロセスによって取得され得る。上記のプロセスがクエン酸塩のアルカリ土類金属塩を使用するとき、得られる水性インク組成物およびステップ(ii)において取得可能な水性懸濁液は、アルカリ金属塩に加えてアルカリ土類金属塩を含む。
【0066】
特に、アルカリ金属塩の量は、水性インクの総重量に基づいて、および/または水性懸濁液の総重量に基づいて、少なくとも0.002重量%であり、特に0.002~0.016重量%の範囲である。
【0067】
特に、存在するとき、アルカリ土類金属の量は、少なくとも0.00009重量%であり、より具体的には、水性インクの総重量に基づいて、および/または水性懸濁液の総重量に基づいて、0.00009~0.007重量%の範囲である。
【0068】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、水の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、具体的には50~95重量%、より具体的には60~90重量%、さらにより具体的には70~85重量%の範囲である。
【0069】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクはまた、以下に記載されるように、助溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー改質剤などの古典的なゲルインク原料を含み得る。これらのゲルインク原料は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスに添加される。
【0070】
本発明の水性ゲルインクは、助溶剤を含み得る。使用され得る助溶剤の中で、以下の
-トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレン-グリコール-モノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノールなどのグリコールエーテル、
-アルコール:イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどのC-C15の直鎖または分枝鎖アルコール、
-酢酸エチルまたは酢酸プロピルなどのエステル、
-炭酸プロピレンまたは炭酸エチレンなどの炭酸エステル、
-メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトンまたはシクロヘキサノンなどのケトン、および
-それらの混合物などの水に混和性の極性溶剤が挙げられる。
【0071】
具体的な実施形態では、助溶剤は、少なくともグリコールエーテル、より具体的には、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール-モノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、およびそれらの混合物からなる群から選択されるグリコールエーテルを含む。さらに具体的な実施形態では、助溶剤は、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0072】
具体的には、助溶剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して、5~35重量%、より具体的には7~25重量%、さらにより具体的には12~20重量%の範囲の量で存在する。
【0073】
本発明の水性ゲルインクは、イソチアゾリノン(Thor製のACTICIDE(登録商標))などの、具体的には1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、およびそれらの混合物からなる群から選択される抗菌剤を含み得る。
【0074】
具体的には、抗菌剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して、0.01~0.5重量%、より具体的には0.1~0.2重量%の範囲の量で存在する。
【0075】
本発明の水性ゲルインクは、具体的にはトリトリアゾール、ベンゾトリアゾール、およびそれらの混合物からなる群から選択される腐食防止剤を含み得る。
【0076】
具体的には、腐食防止剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して、0.05~1重量%、より具体的には0.07~0.5重量%、さらにより具体的には0.08~0.15重量%の範囲の量で存在する。
【0077】
本発明の水性ゲルインクは、消泡剤、具体的にはポリシロキサン系消泡剤、より具体的には変性ポリシロキサンの水性エマルジョン(Synthron製のMOUSSEX(登録商標)、Evonik製のTEGO(登録商標)Foamexなど)を含み得る。
【0078】
具体的には、消泡剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して、0.05~1重量%、より具体的には0.1~0.5重量%、さらにより具体的には0.2~0.4重量%の範囲の量で存在する。
【0079】
本発明の水性ゲルインクは、ゲル化効果を生成することができ、特に、粘度がせん断速度の時間に依存するチキソトロピー現象を生成することができる、例えば、キサンタンガム、アラビアガム、およびそれらの混合物などの多糖類からなる群から選択されるレオロジー改質剤を含み得る。
【0080】
具体的には、レオロジー改質剤は、水性ゲルインクの総重量に対して、0.08~2重量%、より具体的には0.2~0.8重量%、さらにより具体的には0.3~0.6重量%の範囲の量で存在する。
【0081】
本発明の固定色を有する水性インクはまた、
-水酸化ナトリウムおよびトリエタノールアミンなどのpH調整剤、
-潤滑剤、
-合体剤、
-架橋剤、
-湿潤剤、
-可塑剤、
-酸化防止剤、および
-UV安定剤などの他の添加剤を含み得る。
【0082】
存在する場合、これらの添加剤は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのマトリックスに添加される。
【0083】
一態様では、本発明は、固定色を有する水性インクを調製するためのプロセスに関し、
(i)水性インクのマトリックスを調製するステップと、
(ii)銀塩を、
-水、
-少なくともクエン酸塩のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、好ましくはアルカリクエン酸塩と、アルカリ金属水素化物、好ましくはNaBHと、の混合物、
-さらなる還元剤、好ましくはアスコルビン酸、
-および酸化剤、好ましくは過酸化水素H、と混合することにより、固定色を有する銀ナノ粒子の水性懸濁液を調製するステップと、
(iii)ステップ(ii)において取得された銀ナノ粒子の水性懸濁液を、ステップ(i)において取得された水性インクのマトリックスに撹拌しながら添加して、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性インクを取得するステップと、を含む。
【0084】
一態様では、本発明はまた、本発明のプロセスによって取得可能な固定色を有する水性インクに関し、該水性インクは、銀ナノ粒子、特に、特に本開示において定義されるような、アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)を含む。それはまた、アルカリ土類金属塩を含み得る。
【0085】
本発明の固定色を有する水性インクはまた、前述のように、助溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー改質剤などの古典的なインク原料を含み得る。これらの原料は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのマトリックスに添加される。
【0086】
一態様では、本発明は、吸収性支持体上に書き込むための、上記で定義された、固定色の、水性インク、より具体的には水性ゲルインクの使用に関する。一実施形態では、吸収性支持体は、多孔質基材、具体的には、紙、段ボール、または織物である。
【0087】
本発明はまた、固定色の、水性インク、より具体的には水性ゲルインクで書き込む方法に関し、本発明による固定色を有する水性インクで、吸収性支持体上に書き込むステップを含み、吸収性支持体は、多孔質基材、具体的には、紙、段ボール、または織物である。
【0088】
本発明の固定色の水性インクで吸収性支持体上に書き込んだ後、吸収性支持体上に塗布された水性インク、より具体的には水性ゲルインク内の銀ナノ粒子間の距離は、4μmより低く、具体的には50nm~3μmで変化し、およびより具体的には200nm~2μmで変化する。
最後に、本発明は、筆記具に関し、この筆記具は、
-本発明による水性インク、より具体的には水性ゲルインクを含有する軸方向バレルと、
-軸方向バレル内に貯蔵された水性インクを送出するペン本体と、を含む。
【0089】
本発明の筆記具は、ゲルペン、フェルトペン、修正液、マーカからなる群から選択され得、具体的にはゲルペンである。
【0090】
本発明は、非限定的な方法で与えられる、実施例を参照することにより、よりよく理解されるであろう。
【0091】
実施例1:本発明のプロセスによる、固定色を有する水性ゲルインクの調製
水性インクのゲルベースのマトリックスの調製(ステップ(i))
第1のステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスを、15gのトリエチレングリコール(助溶剤)、4gのポリエチレングリコール(助溶剤)、0.19gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および0.1gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物をホモジナイザミキサで15m.s-1の速度で15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次いで、0.4gのキサンタンガム(レオロジー改質剤)を混合物に添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で15分間35℃の温度で均質化した。80.01gの脱イオン水を、混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次いで、0.3gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物をホモジナイジングミキサで15m.s-1の速度で30分間35℃の温度で均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。
【0092】
固定色を有する銀ナノ粒子の水性懸濁液の調製(ステップ(ii))
第2のステップ(ii)において、固定色を有する銀ナノ粒子の水性懸濁液は、39.3mLの蒸留水、2mLのクエン酸三ナトリウム(75mM)(S1804-500G Sigma Aldrich)、186μLの硝酸銀の溶液(10mM)(9370.1 Cark Roth)および256μLの過酸化水素0.6%(412071 Carlo Erba)を、ホモジナイザミキサで、400rpmの速度で、5分間混合することによって調製される。
次いで、192μLの水素化ホウ素ナトリウム(100mM)(71321-25G Fluka Analytical)を、急速に添加して、還元を開始させ、溶液は、即座に透明から淡黄色に変化した(核形成ステップ)。
【0093】
溶液を、室温で一晩貯蔵した。
【0094】
次いで、200μLのL-アスコルビン酸(5mM)(A92902-100G Sigma Aldrich)を、この混合物に添加し、続いて所望される溶液の色に達するまで硝酸銀(10mM)を滴下して添加した。
【0095】
銀ナノ粒子の水性懸濁液の色は、プロセスのこの段階(成長ステップ)で添加される硝酸銀の量に依存することに留意すべきである。
【0096】
得られた組成物は、プラズモニック効果を呈し、これは、その色が、プラズモン効果に起因する、すなわちナノ粒子分散による光吸収に起因することを意味する。
【0097】
このステップにおける硝酸銀AgNOの2滴(1滴毎100μL)の添加により、黄色の懸濁液を取得する(試験1)。
【0098】
このステップにおける硝酸銀AgNOの4滴(1滴毎100μL)の添加により、オレンジ色の懸濁液を取得する(試験2)。
【0099】
このステップにおける硝酸銀AgNOの7滴(1滴毎100μL)の添加により、赤色の懸濁液を取得する(試験3)。
【0100】
固定色を有する水性ゲルインクの準備(ステップ(iii))
第3のステップ(iii)では、ステップ(ii)において取得された1mLの銀ナノ粒子の水性懸濁液が、ステップ(i)において取得された1mLの水性インクのゲルベースのマトリックスに添加されて、内部に銀ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得する。
【0101】
試験1:水性インクのゲルベースのマトリックスの添加後、最初黄色の色は、即座にピンク色で現れる。
【0102】
試験2:水性インクのゲルベースのマトリックスの添加後、最初オレンジ色の色は、即座に青色で現れる。
【0103】
試験3:水性インクのゲルベースのマトリックスの添加後、最初赤色の色は、即座に黒色で現れる。
【0104】
試験1:取得された固定色を有する水性ゲルインクを、セルロース紙上に書き込んだとき、色は、即座にピンク色が現れ、結局変化しなかった。
【0105】
試験2:取得された固定色を有する水性ゲルインクを、セルロース紙上に書き込んだとき、色は、即座に青色が現れ、結局変化しなかった。
【0106】
試験3:取得された固定色を有する水性ゲルインクを、セルロース紙上に書き込んだとき、色は、即座に黒色が現れ、結局変化しなかった。
【0107】
さらに、この水性ゲルインクの色の視覚的評価が、経時的に実現された(試験1、試験2、および試験3)。
【0108】
表1から見られ得るように、水性ゲルインクの色は、経時的に変化しなかった。
【表1】
【国際調査報告】