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特表2022-546229菌糸体産生真菌を使用して組織状基質を結合する方法及びそれから形成される食品
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  • 特表-菌糸体産生真菌を使用して組織状基質を結合する方法及びそれから形成される食品 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】菌糸体産生真菌を使用して組織状基質を結合する方法及びそれから形成される食品
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/22 20060101AFI20221027BHJP
   A23J 3/20 20060101ALI20221027BHJP
   A23L 13/00 20160101ALN20221027BHJP
【FI】
A23J3/22
A23J3/20
A23L13/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508755
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(85)【翻訳文提出日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 US2020045886
(87)【国際公開番号】W WO2021030412
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】62/885,392
(32)【優先日】2019-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521554594
【氏名又は名称】テラミノ インク.
【氏名又は名称原語表記】TERRAMINO INC.
【住所又は居所原語表記】2940 7th Street, Berkeley, California 94710 The United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(74)【代理人】
【識別番号】100137903
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 亨
(72)【発明者】
【氏名】リー キンバリー
(72)【発明者】
【氏名】ニクソン ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】ヤン マリサ
(72)【発明者】
【氏名】フレルカ ジョン
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AD36
4B042AK16
(57)【要約】
本明細書に記載されているのは、菌糸体産生真菌を使用して組織状基質を結合する方法の様々な実施形態である。この方法は、概して、組織状基質の内側、外側、又は内側及び外側での菌糸体成長の促進を助けるために使用される、様々な前処理工程に供されても供されなくてもよい、組織状タンパク質基質等の組織状基質を提供することと、組織状基質に菌糸体産生真菌を接種することと、組織状基質を結合するように、組織状基質の内側、外側、又は内側及び外側に菌糸体を成長させることとを含む。結合組織状基質は、代替肉、肉類似物、又は海産食物類似物等の高タンパク質食物として使用することができる。いくつかの実施形態では、菌糸体産生真菌は、複数の組織状基質を結合して、より大きな複合食品を形成するために使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織状基質に少なくとも1種の菌糸体産生真菌を接種することと、
前記組織状基質の内側、外側、又は内側及び外側に菌糸体のマトリックスを形成するように前記菌糸体形成真菌を成長させることと
を含む、結合組織状基質を形成する方法。
【請求項2】
前記組織状基質が、組織状タンパク質基質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組織状基質が、真菌バイオマス基質である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組織状基質が、処理された真菌発酵組成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種の菌糸体産生真菌が、Rhizopus属又はAspergillus属から選択される真菌を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
菌糸体のマトリックスを形成するように前記菌糸体形成真菌を成長させることが、液体状態発酵工程を含む第1段階及び固体状態発酵工程を含む第2段階の2段階発酵工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記液体状態発酵工程、前記固体状態発酵工程又は両方が、酸素富化環境で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
菌糸体のマトリックスを形成するように前記菌糸体形成真菌を成長させる前に、前記方法が、
前記組織状基質を圧縮すること、通気すること、又は圧縮すること及び通気することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
菌糸体のマトリックスを形成するように前記菌糸体形成真菌を成長させる前に、その間に、又はその前及びその間に、
脂肪、油及び炭水化物、又はそれらの任意の組み合わせが、前記菌糸体形成真菌が成長して前記組織状基質を結合するための供給原料として機能するように、前記方法が、前記脂肪、油、及び炭水化物の任意の組み合わせを前記組織状基質に添加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
菌糸体のマトリックスを形成するように前記菌糸体形成真菌を成長させる前に、その間に、又はその前及びその間に、
着色料及び香料、又はこれらの任意の組み合わせが、真菌によって吸収され、成長中に菌糸体の一部となるように、前記方法が、前記組織状基質に前記着色料及び香料の任意の組み合わせを添加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
菌糸体のマトリックスを形成するように前記菌糸体形成真菌を成長させる前に、前記方法が、
前記組織状基質を滅菌することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
菌糸体のマトリックスを形成するように前記菌糸体形成真菌を成長させる間に、前記方法が、
前記組織状基質の一部若しくは全部、成長した前記菌糸体の一部若しくは全部、又はその両方を圧縮すること、通気すること、又は圧縮すること及び通気することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
菌糸体のマトリックスを形成するように前記菌糸体形成真菌を成長させた後に、前記方法が、
前記組織状基質の一部若しくは全部、成長した前記菌糸体の一部若しくは全部、又はその両方を圧縮することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記組織状基質が第1の組織状基質であり、前記方法が、
第2の組織状基質を提供することを更に含み、
菌糸体のマトリックスを形成するように前記菌糸体形成真菌を成長させることが、前記第1の基質及び前記第2の基質を結合させるように、前記菌糸体形成真菌を前記第1の組織状基質及び前記第2の組織状基質の内側、外側、又は内側及び外側の両方に成長させることを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの組織状基質と、
前記組織状基質の内側、外側、又は内側及び外側の両方に成長した真菌菌糸体のマトリックスとを含む、
結合組織状タンパク質基質。
【請求項16】
前記組織状基質が、組織状タンパク質基質である、請求項15に記載の結合組織状タンパク質基質。
【請求項17】
前記組織状基質が、真菌バイオマス基質である、請求項15に記載の結合組織状タンパク質基質。
【請求項18】
前記組織状基質が、処理された真菌発酵組成物である、請求項15に記載の結合組織状タンパク質基質。
【請求項19】
前記真菌菌糸体が、Rhizopus属又はAspergillus属から選択される真菌を含む、請求項15に記載の結合組織状タンパク質基質。
【請求項20】
前記結合組織状タンパク質基質が圧縮されている、請求項15に記載の結合組織状タンパク質基質。
【請求項21】
前記結合組織状タンパク質基質が、2つ以上の組織状タンパク質基質を含み、前記真菌菌糸体のマトリックスが、前記2つ以上の組織状タンパク質基質の内側、外側、又は内側及び外側に成長して、前記2つ以上の組織状タンパク質基質を結合している、請求項15に記載の結合組織状タンパク質基質。
【請求項22】
前記2つ以上の組織状タンパク質基質が、層の形態であり、前記層が、サンドイッチ構成で結合されている、請求項21に記載の結合組織状タンパク質基質。
【請求項23】
異なる材料が、前記2つ以上の組織状タンパク質基質のうちの少なくとも2つに使用されている、請求項21に記載の結合組織状タンパク質基質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスリファレンス
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれ、2019年8月12日に出願された米国仮特許出願第62/864,946号に対する米国特許法第119条(e)による優先権を請求している。
【0002】
本出願は、真菌菌糸体成長を使用して、組織状タンパク質基質等の組織状基質(textured substrate)を結合する方法に関する。本明細書に記載の方法によって形成される結合組織状基質は、代替肉、肉類似物、又は海産食物類似物等の高タンパク質食物として使用することができる。
【背景技術】
【0003】
肉及び海産食物代替物の形成では、ガム及び/又はゲル化剤が、食品のベース成分(例えば、タンパク質成分)をつなぎ合わせるためにしばしば使用される。例えば、一部の肉代替物では、ゲル化剤としてジャガイモ及び卵白タンパク質を使用し、他の肉代替物では、結合剤としてデンプン又はガムを使用している。タンパク質が豊富でない食物では、結合剤としてしばしば糖を使用する。
【0004】
しかし、肉及び海産食物代替物にガム及び/又はゲル化タンパク質を使用すると、いくつかの不利益が生じる可能性がある。例えば、ガム及び/又はゲル化タンパク質の使用は、より多くの原料を含む食品をもたらし、限られた原料及び/又は最小限の加工食品を求めている消費者に問題を提起する可能性がある。これらの付加原料の使用はまた、製造プロセスを複雑にしかねないので、生産コストが増加する。更に、ガム及び/又はゲル化剤は、ベース成分の結合に最小限の有効性しか提供しない。その上、ガム及び/又はゲル化剤は、一般に食品の全体的なタンパク質含有量を増加させないが、代わりにあまり望ましくない炭水化物を添加する。
【0005】
したがって、改善された結合成分及び改善された結合成分を使用して食品を製造する改善された方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載されているのは、菌糸体産生真菌を使用して組織状基質を結合する方法の様々な実施形態である。この方法は、概して、組織状基質の内側、外側、又は内側及び外側での菌糸体成長の促進を助けるために使用される、様々な前処理工程に供されても供されなくてもよい、組織状タンパク質基質等の組織状基質を提供することと、組織状基質に菌糸体産生真菌を接種することと、組織状基質を結合するように組織状基質の内側、外側、又は内側及び外側に菌糸体を成長させることとを含む。結合組織状基質は、代替肉、肉類似物、又は海産食物類似物等の高タンパク質食物として使用することができる。いくつかの実施形態では、菌糸体産生真菌は、複数の組織状基質を結合して、より大きな複合食品を形成するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本明細書に記載の様々な実施形態に従って、結合組織状基質を形成する方法を例示する流れ図である。
図1B】本明細書に記載の様々な実施形態に従って、結合組織状基質を形成する方法を例示する流れ図である。
図1C】本明細書に記載の様々な実施形態に従って、結合組織状基質を形成する方法を例示する流れ図である。
図1D】本明細書に記載の様々な実施形態に従って、結合組織状基質を形成する方法を例示する流れ図である。
図1E】本明細書に記載の様々な実施形態に従って、結合組織状基質を形成する方法を例示する流れ図である。
図2】本明細書に記載の様々な実施形態に従って、2つ以上の組織状基質を結合させる方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1を参照すると、結合組織状基質を形成する方法100は、概して、組織状基質を提供する工程110と、組織状基質に菌糸体産生真菌を接種する工程120と、基質を結合するように組織状基質の内部及び/又は周囲に菌糸体を成長させる工程130とを含む。一般的に言えば、方法100は、局所的なレベルで組織状にされたタンパク質基質等の基質を得て、基質内及び/又は周囲に菌糸体を成長させることを通して基質を結合し、それによって基質の内部及び/又は周囲にマトリックスを作製する手段を提供する。基質内及び/又は周囲に作製されたマトリックスは、基質を結合し、マクロレベルで組織化を作製する。基質内及び/又は周囲で菌糸体が成長する方法は、例えば、組織化、安定性、及び次元性に関して所望の最終的な結果を達成するために制御され得る。方法100は、概してタンパク質を多く含み、例えば代替肉として機能することができる食品の作製を可能にする一方で、改善された結合性、安定性、組織、及びより広い範囲のサイズ及び形状を有する食品も提供する。
【0009】
工程110では、組織状基質が提供される。食品に使用するのに好適な、菌糸体成長を受け入れるための好適な構造を有する任意の組織状基質を使用することができる。いくつかの実施形態では、組織状基質は、組織状タンパク質基質である。好適な組織状タンパク質基質の1つの非限定的な例は、組織状植物タンパク質(TVP)であり、他の非限定的な例としては、植物ベースの組織状基質が挙げられる。TVPは、加圧溶融タンパク質混合物が押し出され、繊維状の海綿状マトリックスへの急速な膨張を引き起こす押出し法を使用して形成される。したがって、TVPは、一般に多孔質ネットワークを有し、その中に菌糸体が成長してTVP内及び周囲にマトリックスを形成し、TVP基質の全体的な結合を改善することができる。TVPがTVP基質に組織化(texturing)を提供する、繊維状の海綿状マトリックスを形成するために使用される押出し法、及び同様の又は他の処理方法を使用して、他の種類の基質に組織を提供することができる。一般的に言えば、基質を記述する際の組織状という用語は、本明細書では、概して、組織化が処理によって得られるTVPの組織と同様の組織を有するか、又は基質内(天然繊維状材料等)で自然に生じ得るTVPと同様の組織化、又は菌糸体成長自体によって提供されるTVPと同様の組織化を有することを意味する。
【0010】
いくつかの実施形態では、組織状基質は、真菌ベースである。例えば、組織状基質は、真菌バイオマスであることができる。組織状基質はまた、処理された真菌発酵組成物でもよい。本明細書では、「真菌発酵組成物」という用語は、概して、食物又は飲料組成物を製造する過程で、食物又は飲料組成物の1つ又は複数の原料を発酵させるために真菌を使用する任意の食物又は飲料組成物を含む。「真菌発酵組成物」への言及は、アルコール性及び非アルコール組成物の両方を含む。真菌発酵飲料の非限定的な例としては、これらに限定されないが、日本酒、みりん、焼酎、ソジュ(Soju)、タンスル(Dansul)、酒醸(Jiuniang)、チョンジュ(Cheongju)、甘酒、泡盛、濁酒、紹興酒、タクチュ(Takju)、ヤクチュ(Yakju)、マッコリ、サムス(Samsu)、タパイ(Tapai)、タプイ(Tapuy)、タイ米酒、ルヒ(Ruhi)、パワイ(Pachwai)、及びブレムバリ(Brem Bali)が挙げられる。より一般的には、真菌発酵飲料は、糸状菌を含む副産物が生成される前記糸状菌を用いて植物材料を糖化することによって製造される任意のアルコール飲料であり得る。真菌発酵食物の非限定的な例としては、これらに限定されないが、醤油、テンペ及び味噌が挙げられる。組織状基質として機能する真菌発酵組成物は、完成品の状態(すなわち、販売、流通、食用等に好適である)でも、未完成品の状態(すなわち、組成物が販売、分配、消費等される前に、更なる処理工程が行われる)でもよく、又は別の組成物の製造中に形成される副産物であってもよい。例えば、真菌発酵組成物は、酒粕そのまま、真菌材料の濃度を高めることを目的とした処理を施した酒粕、又は酒粕から分離された真菌バイオマスとしてのいずれかの酒粕から得ることができる。処理された又は成長させた基質の形態の真菌タンパク質バイオマスも使用することができる。粉砕又は磨砕されたキノコ等の粉砕又は磨砕された真菌材料はまた、基質材料として使用することができる。
【0011】
工程110で提供される基質のサイズ及び形状は、概して限定されない。いくつかの実施形態では、基質は、ブロック、薄片、チャンク、ナゲット、ストリップ等の形態である。工程110で提供される基質のサイズは、概して、ベース基質の内部及び/若しくは周囲にマトリックスを形成するか、又は2つ以上の基質を結合して複合材料にすることによって、以下でより詳細に説明する菌糸体成長工程130を介して増加する。
【0012】
工程120では、工程110で提供された組織状基質に菌糸体産生真菌を接種する。接種工程120は、概して、菌糸体を成長させ、基質の内部及び/又は周囲にマトリックスを形成するために後続の工程を行うことができるように、組織状基質に菌糸体産生真菌を添加する任意の方法を含む。一般的に言えば、菌糸体産生真菌は、基質の中に、及び/又は基質の上に胞子を添加することを通して基質に添加されるが、菌糸体を直接基質に添加することもできる。いくつかの実施形態では、接種は、菌糸体形成真菌が基質全体に、基質の内部(すなわち、基質内の孔及び空隙の内部)及び基質の表面上の両方に位置するように行われる。代替として、胞子が基質の特定の区域又は領域にのみ導入されるように選択的接種を使用することもできる。
【0013】
基質に菌糸体産生真菌の胞子を接種する任意の方法を使用することができる。いくつかの実施形態では、胞子は懸濁液中にあり、この懸濁液は基質の中及び上に導入されて基質の異なる部分に胞子を送達する。基質に行う場合がある前処理工程に関して、以下でより詳細に説明するように、基質に穴を開けるために使用されるスピア(spear)を介して胞子を基質に導入することができる。このような実施形態では、スピアが基質に貫通する際に、胞子が基質の内部部分に導入されるように、スピアを胞子で被覆することができる。基質内又は基質上への乾燥胞子の散布を使用することもできる。
【0014】
真菌材料が、基質を結合するのに役立つ菌糸体を成長させることができる限り、任意の真菌材料を工程120で使用することができる。使用できる真菌の例示的ではあるが非限定的な例としては、真菌のRhizopus属、Aspergillus属、又はPleurotus属に由来するものが挙げられる。使用できる真菌の種の具体例としては、これらに限定されないが、Rhiszopus oligosporus、Rhizopus oryzae及びAspergillus oryzaeが挙げられる。他の糸状微生物及び真菌も使用してもよい。いくつかの実施形態では、基質を結合するために選択された真菌は、成長過程が単純化されるように、発酵中に脂肪(炭水化物ではなく)を消費する株のものである。例えば、このような実施形態では、菌糸体成長前に基質に炭水化物を添加する必要がない可能性があり、これによって低炭水化物食品の場合に成長プロセスがより単純になる。
【0015】
組織状基質が真菌バイオマス、処理された真菌タンパク質、又は他のいくつかの真菌ベースの基質材料である場合、基質に接種される真菌胞子は、基質と同じ真菌でも異なる真菌でもよい。基質材料に関係なく、基質に1種の真菌又は複数種類の真菌を接種することができる。
【0016】
工程130では、基質内及び周囲にマトリックスを形成して基質を結合するように、菌糸体を成長させる。より具体的には、菌糸体は、それ自体及び基質の材料に結合するネットワークで成長する。菌糸体成長は、概して工程120で基質に接種された真菌材料の発酵を介して行われる。したがって、工程130は、概して酸素環境を提供すること、及び/又は炭水化物を提供すること、及び/又は脂肪を提供すること等の、真菌材料の発酵を促進する条件下で行われる。例えば、菌糸体成長を促進するために、酸素富化環境を提供することができる。いくつかの実施形態では、酸素富化環境は、より高密度な真菌菌糸体成長を生み出すのに役立ち、これによってより高いタンパク質濃度を有するより強い結合材料を作製することができる。以下でより詳細に説明するように、基質の前処理は、発酵の条件を改善するために及び/又は発酵を促進するために行うこともできる。
【0017】
工程130で菌糸体が成長するにつれて、基質内及び周囲に形成された菌糸体のマトリックスを介して基質のサイズが増加する。更に、工程130での菌糸体の成長は、概して拡大した基質が同様の、ただしマクロスケールでの組織化を有するように、局所的な組織化を進めることができる。以下でより詳細に説明するように、菌糸体成長は、2つ以上の基質を結合するために行うこともできる。
【0018】
図1Aは、基質を菌糸体と結合させる全体的な方法100を例示しているが、この方法は、図1に示す方法の間に行われる様々な追加処理工程を介して変更及び改善することができる。例えば、図1Bに関しては、追加の基質前処理工程115を、菌糸体成長を促進することができる方法で基質を整えるために行うことができる。基質前処理工程115は、概して限定されず、菌糸体成長を改善するために基質を処理するか又は整える任意の方法を含んでもよい。
【0019】
いくつかの実施形態では、基質前処理工程115は、基質に接種する前に基質を圧縮することを含む。基質を圧縮する任意の方法を使用することができる。接種前に基質を圧縮する目的は、基質を高密度化し、基質内の繊維を整列させ、及び/又は真菌の成長の微小形態を形作り且つ導くことであり得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、基質は、基質を通る酸素の流れを改善するために通気され、したがって工程130で発酵の改善を促進することができる。基質を通気する任意の方法を使用することができる。いくつかの実施形態では、基質は、スピア、針等を用いて異なる場所を繰り返し突かれる。基質を選択的に突くことによって、発酵の増進及び/又は改善が所望される基質の特定の区画又は区域に酸素を送ることができる。封入酸素を作製するための基質の改変(すなわち、基質内部の空隙内に酸素を閉じ込める)も、前処理工程115の一部として行うことができる。
【0021】
更に、前述したように、基質を通気するために使用されるスピア、針等は、前処理工程115が少なくとも接種工程120の一部としても機能するように、菌糸体産生真菌胞子で被覆することができる。基質内の特定の区域への酸素の流れ用の経路を作製するために、基質を選択的に突くのと同様に、基質に接種するためのスピア、針等の使用も、基質内の特定の区画内に特定の胞子の配置を確実にするため、選択的に行うことができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、前処理工程115の一部として、脂肪及び/又は油成分が基質に添加される。脂肪及び/又は油成分を基質に添加する任意の方法を使用することができ、例えば注入を介する。脂肪及び/又は油成分を、基質全体に、又は基質内の特定の区画に選択的に添加することができる。基質に添加されると、脂肪及び/又は油成分は基質に吸着することができる。脂肪及び/又は油成分は、結果として得られる基質から形成された食品に、所望の成分を添加するために添加することができる。
【0023】
前の段落と同様に、前処理工程115は、基質に炭水化物を添加することを含んでもよい。基質に炭水化物を添加する任意の方法を使用することができる。炭水化物を、基質全体に、又は基質内の特定の区画に選択的に添加することができる。基質に炭水化物を添加する目的は、真菌に追加のエネルギーを提供して成長期の間に成長させることであり得る(基質内に天然に存在し得る炭水化物に加えて)。いくつかの実施形態では、基質に添加される炭水化物の量は、真菌の成長工程後に基質に炭水化物がまったくかほとんど残らないように、菌糸体成長に必要な正確な量であるように事前に決定された特定の量である。
【0024】
いくつかの実施形態では、窒素源、例えばタンパク質若しくはアミノ酸又はアンモニア化合物は、例えばタンパク質単離物の形態で、前処理工程115の一部として基質に添加される。基質にタンパク質を添加する任意の方法を使用することができる。タンパク質を、基質全体に、又は基質内の特定の区画に選択的に添加することができる。タンパク質成分は、結果として得られる基質から形成された食品に、所望の成分を添加するために添加することができる。
【0025】
香料及び/又は着色料も、前処理工程115の一部として基質に添加してもよい。任意の種類及び組み合わせの香料及び/又は着色料を、注入を含む任意の好適な方法を使用して基質に添加することができる。香料及び/又は着色料は、基質全体に、又は基質の特定の区画に選択的に添加することができる。次いで成長中に、真菌は着色料及び/又は香料を取り込み、この場合、このような着色料及び/又は香料が成長した菌糸体の一部となる。
【0026】
いくつかの実施形態では、前処理工程115は、接種及び菌糸体成長の前に基質を滅菌することを含んでもよい。
【0027】
前処理工程115として行ってもよい上記の処理は、個別に、又は任意の組み合わせ及び任意の順序で行うことができる。
【0028】
ここで図1Cを参照すると、方法100は、菌糸体成長工程130と同時に行う処理工程135を追加することによって、図1Aに示すベースの方法100から改変することもできる。内方成長処理工程(in-growth processing step)135は、菌糸体成長工程130全体を通して、菌糸体成長工程130の間の特定の時間で、又は菌糸体成長工程130の間の異なる間隔で行うことができる。内方成長処理工程135の目的は、例えば、継続的な菌糸体成長を促進すること及び/又は食品としてのその後の使用のために基質を整えることであり得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、内方成長処理工程135は、菌糸体成長中に基質を圧縮することを含む。圧縮中に菌糸体成長が起こるので、元の基質及び圧縮の時点で成長した任意の菌糸体の両方を圧縮するのに役立つ。基質を圧縮する任意の方法を使用することができる。いくつかの実施形態では、圧縮は、菌糸体成長全体を通して連続的に、又は菌糸体成長中の間隔で行われる。菌糸体成長中に基質を圧縮する目的は、全体的な質量を高密度化し、マクロ組織を肉及び他の食品により似せるようにすることである。例えば、圧縮は、基質内の繊維を整列させるか、又は明確な層状パターンを作製するために行うことができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、内方成長処理工程135の一部として、脂肪及び/又は油成分が基質に添加される。工程115と同様に、菌糸体成長中に脂肪及び/又は油成分を基質に添加する任意の方法を使用することができ、例えば注入を介する。脂肪及び/又は油成分を、基質全体に、又は基質内の特定の区画に選択的に添加することができる。基質に添加されると、脂肪及び/又は油成分は基質に吸着することができる。脂肪及び/又は油成分は、結果として得られる基質から形成された食品に、所望の成分を添加するために添加することができる。
【0031】
炭水化物も、処理工程135の一部として菌糸体の成長中に添加してもよい。注入を介する等、菌糸体成長中に炭水化物を添加する場合、炭水化物は、成長中の間隔で、又は菌糸体成長工程全体を通して連続的に添加することができる。
【0032】
香料若しくは着色料、又は香料及び着色料の両方を、処理工程135の一部として菌糸体の成長中に添加してもよい。香料及び/又は着色料は、例えば、注入を介して、食品として使用するために菌糸体によって結合される基質を調製することを目的として、基質に添加することができる。真菌は着色料又は香料を取り込み、この場合、着色料及び/又は香料が成長した菌糸体の一部となる。
【0033】
タンパク質も、処理工程135の一部として菌糸体の成長中に添加してもよい。タンパク質は、後に食品として使用され得る基質に所望の成分を添加することを目的として、任意の好適な方法で基質に添加することができる。
【0034】
ここで図1Dを参照すると、方法100は、菌糸体成長工程130の後に行う後処理工程145を追加することによって、図1Aに示すベースの方法100から改変することもできる。後処理工程135の目的は、例えば、食品としてのその後の使用のために基質を整えることであり得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、内方成長処理工程135は、菌糸体成長後に基質を圧縮することを含む。菌糸体成長は完了しているため、圧縮は元の基質並びに基質の内部及び周囲にマトリックスを形成した成長した菌糸体の両方を圧縮するのに役立つ。基質を圧縮する任意の方法を使用することができる。菌糸体成長後に基質を圧縮する目的は、より多くの栄養素及びより好ましい組織を有し、したがって、例えば代替肉として使用することができる食物消費のためのより高密度な材料を作製することである。
【0036】
いくつかの実施形態では、脂肪及び/又は油成分が、後処理工程145の一部として基質に添加される。工程115及び135と同様に、菌糸体成長後に脂肪及び/又は油成分を基質に添加する任意の方法を使用することができ、例えば注入を介する。脂肪及び/又は油成分を、基質全体に、又は基質内の特定の区画に選択的に添加することができる。基質に添加されると、脂肪及び/又は油成分は基質に吸着し、且つ/又は作製された真菌マトリックスに吸着することができる。脂肪及び/又は油成分は、結果として得られる基質から形成された食品に、所望の成分を添加するために添加することができる。
【0037】
香料及び/又は着色料も、処理工程145の一部として菌糸体の成長後に添加してもよい。香料及び/又は着色料は、例えば、注入を介して、食品として使用するために菌糸体によって結合された基質を調製することを目的として、基質に添加することができる。
【0038】
図1A~1Dは、概して包括的な組織状基質が提供される工程110を利用しているが、図1A~1Dに示される方法は、提供された基質が、処理工程115、135、及び145で説明される一部又はすべての処理を達成するように既に改変された実施形態を含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、工程110で提供される組織状基質が、そこに1種又は複数種の接種材料、脂肪、油、炭水化物、タンパク質、着色料及び香料を既に組み込んでいるように、組織状基質が作られる方法は、接種材料、脂肪、油、炭水化物、タンパク質、着色料、及び/又は香料を、組織状基質へと処理される材料に組み込むことを含む。
【0039】
上記のように、菌糸体成長が行われる図1A~1Dの工程130に関して、発酵は真菌、より具体的には、真菌菌糸体を成長させるために使用される。図1Eを参照すると、図1Aの全体的な方法100への改変は、液体状態発酵128(その間に基質が成長している)を介して菌糸体成長の一部を行い、その後、液体が除去される濾過工程129を行い、次いで更なる菌糸体成長のために固体状態発酵130が行われることである。この実施形態では、濾過は、液体発酵工程128の間に成長した基質から液体を除去するために行われる。濾過工程を介して真菌が殺されない限り、液体を濾過する具体的な方法は限定されない。真菌は濾過工程129の後も生きたままであるため、菌糸体の成長を継続するために工程130で更なる固体状態発酵を行うことができる。この固体状態発酵工程130を更に促進するために、この濾過は、基質に真菌の成長を継続するために必要な栄養素を残すように行ってもよい。更に、又は代替的に、固体状態で真菌の成長を継続するために、追加の栄養素(例えば、油、脂肪、炭水化物等)を提供することも有用であり得る。代替の実施形態では、液体状態発酵後に基質に新しい種又は再び同じ種が導入され、この接種材料が固体状態発酵を行うために使用される。この代替策の利点は、最初の真菌(すなわち、液体状態発酵を担う真菌)が濾過後に生きたままであることを確実にするための工程をもはや行う必要がないことである。いずれの実施形態でも、液体状態及び固体状態発酵が菌糸体成長の一部として行われるプロセスは、真菌が互いに近接して成長することを確実にするのを助けることができ、それによって、密集した高密度な菌糸体ネットワークによって結合された基質を作製する。
【0040】
上記で簡単に説明したように、本明細書に記載の方法は、組織状タンパク質の基質を結合するか、又は2つ以上の組織状タンパク質の基質を結合するために使用することができる。図2を参照すると、複数の基質210、220、230を結合する概略図が示されている。各基質210、220、230は、菌糸体産生真菌を別々に接種されてもよく、その後、菌糸体成長が行われて各基質を個別に結合する。図2に示すように、基質210、220、230は、次いで重層化することができ、その後、更なる接種材料が複合構造体240に添加され、更なる菌糸体成長が行われる。この2回目の菌糸体成長は、基質210、220、230が複合構造体240へと結合されるように、すべての基質210、220、230の周囲に形成されるマトリックスをもたらす。図2は基質層構成を示しているが、基質は任意の型の接触配置に配置することもできる。
【0041】
図2は、次いでサンドイッチ型構成で結合されたシートの形態の、3つの基質210、220、230を示しているが、この方法を使用して任意の数の基質を結合することができ、結合される基質は任意の形状及びサイズを有することができる。一代替例では、基質は砕片の形態であり、結合されて凝集体となる。その上、複合体に結合された基質は、比較的均一なサイズ及び/又は形状を有することができるか、又は複合体は、それぞれ異なるサイズ及び/又は形状を有する基質を含むことができる。
【0042】
図2は、3つの基質を接合すること、及び3つの基質すべてを同時に結合するようにスタックに接種することを示している。図2に示す実施形態の代替策では、基質210及び220は、ともに積み重ねられ、接種されて基質210及び220の間の菌糸体成長によって結合され、複合スタック210/220を形成する。続いて、基質230を複合スタック210/220の上に積み重ねることができ、続いて基質に接種し、複合スタック210/220が基質230と結合するように菌糸体を成長させる。この方法は、各基質について1つずつ、以前の複合スタックに添加される一連の接種及び成長工程を介して複合体を形成する方法と考えることができる。
【0043】
図2に示す方法は、結合複合材料を調製する際に高度な多様性を可能にする。例えば、スタックに使用される各基質は、異なる組成を有することができる。一実施形態では、3つの基質が結合すると、場合によっては異なる香料、栄養含有量、着色料/着色、原料(脂肪、油等)及び/又は組織を有するサンドイッチ型構成を形成するように、基質210及び230は組織状植物性タンパク質の基質であることができ、一方、基質220は、真菌バイオマスの基質である。一部の基質は処理工程115、135、145の1つ又は複数を受け、他の基質は処理工程115、135、145のいずれも受けないか、又は異なるバージョンの処理工程115、135、145を受ける場合等、各基質は他とは別に調製することもできる。最終的には、非均質な組み合わせの基質を作製することができ、この非均質な組み合わせがより複雑なマクロ組織を有する。
【0044】
図2はまた、より小さな基質単位からより大きな食品が製造され得る方法を明確に例示している。本明細書に記載の結合技術を使用して、これらのより大きな複合製品は安定性を有し、例えば、肉又は魚の切り身にそれらのサイズが類似することに基づいて、肉又は海産食物製品を模倣するのにより適し得る食品を提供する。
【0045】
複合材料が形成されると、例えば図2及び上記に例示した方法を介して、更なる処理を行い、これまで達成できなかった更に複雑な組織を達成することができる。例えば、砕片製品は、本明細書に記載の方法を使用して小さな基質を結合し、その後、より大きな複合製品を磨砕、粉砕、又は引き離して砕片又は細断を形成することによって作製することができる。
【0046】
前述から、本発明の具体的な実施形態は、例示の目的で本明細書に記載されているが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な改変がなされ得ることが理解されるであろう。したがって、本発明は、添付の「特許請求の範囲」による以外に限定されるものではない。

図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
【国際調査報告】