(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】チオフィリック金属をドープしたアルジロダイト
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20221027BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221027BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20221027BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20221027BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20221027BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20221027BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/133
H01M4/134
C01B25/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022509675
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(85)【翻訳文提出日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 US2020070412
(87)【国際公開番号】W WO2021035243
(87)【国際公開日】2021-02-25
(32)【優先日】2019-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519030084
【氏名又は名称】ブルー カレント、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルーペルト、ベンジャミン
【テーマコード(参考)】
5G301
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA14
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA27
5G301CA30
5G301CD01
5H050AA12
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA10
5H050GA16
5H050HA02
(57)【要約】
本明細書においては、イオン伝導性を有し、かつ電気化学的に安定な固体材料が提供される。かかる固体材料の実施形態は、高いイオン伝導性を有するアルジロダイト型組成物である。この組成物は、チオフィリック金属を少量含んでいるが、その二元硫化物が'水と反応して硫化水素(H2S)にならない。そのため、H2Sの放出は最小限に抑えられるか、あるいは排除される。また、この材料の作製方法、ならびにこの材料を含む電池および電池部品をも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオフィリック金属をドープしたアルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体を含む組成物であって、
前記チオフィリック金属は、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、水銀(Hg)、モリブデン(Mo)、およびそれらの組み合わせから選択される、組成物。
【請求項2】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、少なくとも1:120である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、少なくとも1:50である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、1:4以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、1:20以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、またはカリウム(K)である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記アルカリ金属は、リチウムである、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体は、次の式で表される組成物であって、
A
7-x-(z*y)M
z
yPS
6-xHal
x
ここで、
Aは、アルカリ金属であり、
Mは、チオフィリック金属であり、
Halは、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)から選択され、
zは、金属の酸化状態であり、
0<x≦2、および
0<y<(7-x)/zである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
z>+1である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
z=+2である、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
1≦x≦1.6である、請求項8から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
0.1≦y≦2-xである、請求項8から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、少なくとも1:120である、請求項8から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、少なくとも1:50である、請求項8から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体は、次の式で表される組成物であって、
A
7-x+n-(z*y)M
z
yPS
6-xHal
x+n
ここで、
Aは、アルカリ金属であり、
Mは、チオフィリック金属であり、
Halは、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)から選択され、
zは、金属の酸化状態であり、
0.05≦n≦0.9、
-3.0x+1.8≦n≦-3.0x+5.7、
0≦y<(7-x)/z、および
0<x≦2である、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
z>+1である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
z=+2である、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、少なくとも1:120である、請求項15から17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、少なくとも1:50である、請求項15から17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体は、単相材料である、請求項1から19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項に記載のアルジロダイトをポリマー内に含む粒子の複合体膜を備える、組成物。
【請求項22】
前記ポリマーは、疎水性ポリマーである、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記ポリマーは、イオン伝導性ではない、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
前記ポリマーは、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、およびイソプレンゴム(IR)である、請求項21に記載の組成物。
【請求項25】
前記複合体膜は、0.5重量%~60重量%のポリマーからなる、請求項21から24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記複合体膜は、5重量%~30重量%のポリマーからなる、請求項21から24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
電気化学的活物質と、請求項1から19のいずれか一項に記載のアルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体と、カーボン導電性粒子と、有機ポリマーとを含む、組成物。
【請求項28】
前記電気化学的活物質は、遷移金属酸化物を有する、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記電気化学的活物質は、前記組成物の65重量%~88重量%である、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体は、前記組成物の10重量%~33重量%である、請求項28または29に記載の組成物。
【請求項31】
前記電気化学的活物質は、グラファイト系材料およびシリコン含有材料のうちの1つまたは複数を有する、請求項27に記載の組成物。
【請求項32】
シリコンは、前記組成物の15重量%~50重量%含まれる、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記グラファイト系材料は、前記組成物の5重量%~40重量%含まれる、請求項31または32に記載の組成物。
【請求項34】
前記アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体は、前記組成物の10重量%~50重量%含まれる、請求項27に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[参照による組み込み]
PCT要求フォームは、本出願の一部として本明細書と同時に提出される。同時に提出されたPCT要求フォームで特定されるように、本出願が利益または優先権を主張する各出願は、その全体およびすべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
固体電解質は、液体電解質に比べて、二次電池にとって様々な利点を備えている。例えば、リチウムイオン電池では、無機固体電解質は従来の液体有機電解質よりも燃えにくい可能性がある。また、固体電解質はデンドライトの生成を抑制することにより、リチウム金属電極の使用を容易にすることもできる。固体電解質の使用は、伝導性が低く、電気化学的安定性に劣るという課題がある。
【発明の概要】
【0003】
本明細書においては、イオン伝導性を有し、かつ電気化学的に安定な固体材料が提供される。かかる固体材料の実施形態は、高いイオン伝導性を有するアルジロダイト型組成物である。この組成物は、チオフィリック金属を少量含んでいるが、その二元硫化物が水と反応して硫化水素(H2S)にならない。そのため、H2Sの放出は最小限に抑えられるか、あるいは排除される。また、この材料の製造方法、ならびにこの材料を含む電池および電池部品をも提供される。
【0004】
本開示の一態様は、チオフィリック金属をドープしたアルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体を含む組成物に関する。チオフィリック金属は、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、水銀(Hg)、モリブデン(Mo)、およびそれらの組み合わせから選択されるチオフィリック金属であり得る。様々な実施形態によれば、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、少なくとも1:120である。いくつかの実施形態では、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、少なくとも1:50である。
【0005】
いくつかの実施形態では、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、1:1以下である。いくつかの実施形態では、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、1:4以下である。
【0006】
いくつかの実施形態では、アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、またはカリウム(K)のうちの1つである。いくつかの実施形態では、アルカリ金属は、リチウムである。いくつかの実施形態では、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体は、次の式で表される。A7-x-(z*y)Mz
yPS6-xHalxここで、Aは、アルカリ金属であり、Mは、チオフィリック金属であり、Halは、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)から選択され、
zは、金属の酸化状態であり、
0<x≦2、および
0<y<(7-x)/zである。
【0007】
いくつかの実施形態では、z>+1である。いくつかの実施形態では、z=+2である。いくつかの実施形態では、1≦x≦1.6である。いくつかの実施形態では、0.1≦y≦2-xである。いくつかの実施形態では、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体は、次の式で表される。
A7-x+n-(z*y)Mz
yPS6-xHalx+n
ここで、Aは、アルカリ金属であり、Mは、チオフィリック金属であり、Halは、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)から選択され、
zは、金属の酸化状態であり、
0.05≦n≦0.9、
-3.0x+1.8≦n≦-3.0x+5.7、
0≦y<(7-x)/z、および
0<x≦2である。
【0008】
いくつかの実施形態では、z>+1である。いくつかの実施形態では、z=+2である。いくつかの実施形態では、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、少なくとも1:120である。いくつかの実施形態では、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、少なくとも1:50である。いくつかの実施形態では、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体は、単相材料である。
【0009】
他の態様は、ポリマー中にチオフィリック金属をドープしたアルジロダイトを含む粒子の複合体膜に関する。アルジロダイトは、本明細書にて記載されているように、任意のチオフィリック金属をドープしたアルジロダイト硫化物系イオン伝導体であり得る。いくつかの実施形態では、ポリマーは、疎水性ポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーは、イオン伝導性ではない。いくつかの実施形態では、ポリマーは、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、およびイソプレンゴム(IR)である。
【0010】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、可塑性共重合体セグメントと弾性共重合体セグメントとを有する共重合体である。いくつかの実施形態では、複合体膜は、0.5重量%~60重量%のポリマー、1重量%~40重量%のポリマー、または5重量%~30重量%のポリマーからなる。
【0011】
本開示の他の態様は、1つまたは複数の溶媒、ポリマー、本明細書に記載のチオフィリック金属をドープしたアルジロダイトを含むイオン伝導性粒子を有する、スラリー、ペースト、または溶液に関する。いくつかの実施形態では、ポリマーは、疎水性ポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーは、イオン伝導性ではない。いくつかの実施形態では、ポリマーは、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、およびイソプレンゴム(IR)である。いくつかの実施形態では、ポリマーは、可塑性共重合体セグメントと弾性共重合体セグメントとを有する共重合体である。
【0012】
本開示の他の態様は、遷移金属酸化物活物質と、本明細書に記載のチオフィリック金属をドープしたアルジロダイトと、有機ポリマーとを含む組成物に関する。いくつかの実施形態では、ポリマーは、疎水性ポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーは、イオン伝導性ではない。いくつかの実施形態では、ポリマーは、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、およびイソプレンゴム(IR)である。いくつかの実施形態では、ポリマーは、可塑性共重合体セグメントと弾性共重合体セグメントとを有する共重合体である。いくつかの実施形態では、組成物はさらに導電性添加剤を含む。この組成物と当該組成物に埋め込まれたメッシュ集電体とを備える電池が提供され得る。
【0013】
本開示の他の態様は、シリコン含有活物質と、グラファイト系活物質と、本明細書に記載のチオフィリック金属をドープしたアルジロダイトと、有機ポリマーとを含む組成物に関する。いくつかの実施形態では、ポリマーは、疎水性ポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーは、イオン伝導性ではない。いくつかの実施形態では、ポリマーは、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、およびイソプレンゴム(IR)である。いくつかの実施形態では、ポリマーは、可塑性共重合体セグメントと弾性共重合体セグメントとを有する共重合体である。いくつかの実施形態では、組成物はさらに導電性添加剤を含む。これらの実施形態または他の実施形態では、アルジロダイトは、式Iまたは式IIに従って表され得る。この組成物と当該組成物に埋め込まれたメッシュ集電体とを備える電池が提供され得る。
【0014】
これら態様および他の態様は、図を参照して以下にさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】アルジロダイト型Li
6PS
5Clの立方結晶構造を示す。
【0016】
【
図2】複合体膜の形成方法における特定の操作を示すプロセスフロー図である。
【0017】
【
図3】複合電解質の作製方法における特定の操作を示すプロセスフロー図である。
【0018】
【
図4】液相支援焼結を用いた複合体の形成方法における特定の操作を示すプロセスフロー図である。
【0019】
【
図5A】チオフィリック金属をドープしたアルジロダイト含有組成物を含むセルの模式図の例を示す。
【
図5B】チオフィリック金属をドープしたアルジロダイト含有組成物を含むセルの模式図の例を示す。
【
図5C】チオフィリック金属をドープしたアルジロダイト含有組成物を含むセルの模式図の例を示す。
【0020】
【
図6】Cuドープのアルジロダイト型Li
5.4Cu
0.1PS
4.6Cl
1.4の粉末回折パターンであり、アルジロダイト型Li
6PS
5Clからの基準線を重ねて示す。
【0021】
【
図7】Cuドープのアルジロダイト型Li
5.8Cu
0.1PS
5Clの粉末回折パターンであり、アルジロダイト型Li
6PS
5Clからの基準線を重ねて示す。
【0022】
【
図8】各種チオフィリック金属をドープしたアルジロダイト硫化物系イオン伝導体およびその化合物のH
2S放出量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書においては、イオン伝導性を有し、かつ電気化学的に安定な固体材料が提供される。これら材料は、高いイオン伝導性を有し、かつ処理しやすいアルジロダイト型組成物である。この組成物は、チオフィリック金属を少量含んでいるが、その二元硫化物が水と反応して硫化水素(H2S)にならない。そのため、H2Sの放出は最小限に抑えられるか、あるいは排除される。また、この材料の作製方法、ならびにこの材料を含む電池および電池部品をも提供される。
【0024】
[序論]
アルジロダイト鉱物であるAg8GeS6は、Ag4GeS4と2当量のAg2Sとの共結晶と考えることができる。この結晶は、様々なイオンの全体的な空間配置を同じに保持し続けながら、カチオンとアニオンの両方において置換することができる。Li7PS6では、PS4
3-イオンは元の鉱物中のGeS44-が占めていた結晶学的位置に存在し、一方、S2-イオンは元の位置を保持し、Li+イオンは元のAg+イオンの位置をとることになる。Li7PS6は元のAg8GeS6に比べてカチオンの数が少ないため、いくつかのカチオン部位が空になる。このような元のアルジロダイト鉱物の構造類似物も、同様にアルジロダイトと称することとする。
【0025】
Ag8GeS6およびLi7PS6のいずれも、室温では斜方晶であるが、高温になると立方晶系への相転移が起こる。さらに1当量のLi2Sを1当量のLiClに置換すると、Li6PS5Cl材料が得られ、これは未だアルジロダイト型構造を保持するが、室温以下で斜方晶から立方晶への相転移を生じ、著しく高いリチウムイオン伝導性を有する。この材料においてもカチオンおよびアニオンの全体的な配置は同じく維持されているため、一般的にアルジロダイトと称される。したがって、この全体的な構造をも保持する更なる置換物もまたアルジロダイトと称され得る。アルカリ金属のアルジロダイトは、より一般的には、アルカリ金属が元のアルジロダイト構造内のAg+部位を占め、元の鉱物中に見つかるアニオンの空間配置を保持する、伝導性結晶の分類のいずれかである。
【0026】
一実施例では、この鉱物種のリチウム含有例であるLi
7PS
6において、PS
4
3-イオンが元の鉱物中のGeS
4
4-が占めていた結晶学的位置に存在し、一方、S
2-イオンが元の位置を保持し、Li
+イオンが元のAg
+イオンの位置をとることになる。Li
7PS
6は、元のAg
8GeS
6に比べてカチオンの数が少ないため、いくつかのカチオン部位が空になる。上述したように、1当量のLi
2Sを1当量のLiClでさらに置換することで、Li
6PS
5Cl材料を得ることになり、これは未だアルジロダイト型構造を保持している。
図1に、立方晶のアルジロダイト型Li
6PS
5Clを示す。
図1の実施例では、Li
+がアルジロダイト鉱物のAg
+部位を占め、PS
4
3-が元の鉱物のGeS
4
4-部位を占め、S
2-とCl
-が1対1の割合で元の2つのS
2-部位を占めている。
【0027】
アルジロダイトの全体構造を保持するように置換がなされるには様々な方法がある。例えば、元の鉱物は、2当量のS2ーを有するのだが、これらは、O2-、Se2-、Te2-などのカルコゲンイオンで置換可能である。S2-のかなりの部分は、ハロゲンで置換可能である。例えば、2当量のS2-のうち約1.6までが、Cl-、Br-およびI-で置換することができ、正確な量は系内の他のイオンに依存する。Cl-はS2-と大きさが類似しているが、電荷が2個ではなく1個であり、結合性および反応性が実質的に異なる。他の置換を行ってもよく、場合によっては、例えば、S2-の一部をハロゲン(例えば、Cl-)で置換し、残りをSe2-で置き換えることができる。同様に、GeS4
3-の部位に対して多様な置換を行ってもよい。GeS4
3-の代わりにPS4
3-で置き換えられてもよいし、また、PO4
3-、PSe4
3-、SiS4
3-などで置き換えられてもよい。これらはすべてカルコゲン原子を4個有する四面体イオンであり、全体としてS2-より大きく、3価または4価に帯電している。
【0028】
他の実施例では、上記のLi6PS5Clアルジロダイト型構造と比較して、Li6PS5BrおよびLi6PS5Iは、塩化物の代わりにより大きなハロゲン化物で置換しており、例えば、Li6PO5Clに対するLi6PO5Brも同様である。Z.Anorg.Allg.Chem.,2010,636,1920-1924は、特定のアルジロダイトを説明する目的で本明細書に参照として組み込まれ、例えば、S2-およびPS4
3-イオンの両方で構造中のすべての硫黄原子を酸素に交換するとともに、記載されたハロゲン化物置換を含んでいる。リチウム含有アルジロダイトのほとんどの例で見られるPS4
3-イオン中のリン原子は、部分的または全体的に置換可能であり、例えば、Li7+xMxP1-xS6(M=Si、Ge)系列は広い範囲のxでアルジロダイト型構造を形成する。J.Mater. Chem.A,2019,no.7,2717-2722を参照のこと。この文献は、特定のアルジロダイトを説明する目的で本明細書に参照として組み込まれる。Pの置換はハロゲンを取り込みながら行うことも可能である。例えば、Li6+xSixP1-xS5Brは、x=0から約0.5まで安定である。J.Mater.Chem.A,2017,no.6,645-651を参照のこと。この文献は、特定のアルジロダイトを説明する目的で本明細書に参照として組み込まれる。PS4
3-の代わりにSbS4
3-とMS4
4-の混合物で置換され、Cl-の代わりにI-を用いたLi7+xMxSb1-xS6(M=Si、Ge、Sn)系の化合物を調製し、アルジロダイト型構造を形成することが見出されている。J.Am.Chem.Soc.,2019,no.141,19002-19013を参照のこと。この文献は、特定のアルジロダイトを説明する目的で本明細書に参照として組み込まれる。また、リチウム(または銀)以外の他のカチオンをカチオン部位に置換することも可能である。Cu6PS5Cl、Cu6PS5Br、Cu6PS5I、Cu6AsS5Br、Cu6AsS5I、Cu7.82SiS5.82Br0.18、Cu7SiS5I、Cu7.49SiS5.49I0.51、Cu7.44SiSe5.44I0.56、Cu7.75GeS5.75Br0.25、Cu7GeS5I、およびCu7.52GeSe5.52I0.48はすべて合成され、アルジロダイト型結晶構造を有する。特定のアルジロダイトを説明する目的で本明細書に参照として組み込まれる、Z.Kristallogr,2005,no.220,281-294を参照のこと。これらの実施例から、アルジロダイト型構造の様々な部分のいずれかにおいて単体元素の置換が可能なだけでなく、置換の組み合わせによっても、しばしばアルジロダイト型構造が得られることがわかる。これらには、米国特許公開第20170352916号に記載されたアルジロダイトが含まれ、このアルジロダイトは、xおよびyが式0.05≦y≦0.9および-3.0x+1.8≦y≦-3.0x+5.7を満たす、Li7-x+yPS6-xClx+yを含む。
【0029】
ここに記載されたアルジロダイトは、アニオンの実質的な(少なくとも20%、しばしば少なくとも50%)部分が硫黄(例えば、S
2-およびPS
4
3-)を含有する硫化物系イオン伝導体である。硫化物系リチウムアルジロダイト材料は、高いLi
+移動度を示し、リチウム電池の材料として注目されている。上述したように、この系統の材料の一例としては、Li
3PS
4、Li
2S、およびLiClの三元共結晶である、Li
6PS
5Clがある。本明細書に記載のアルジロダイトの様々な実施形態は、アルジロダイト結晶構造中のリチウムカチオン部位を占め得るチオフィリック金属を有する。
図1に示すアルジロダイトでは、各カチオンはPS
4
3-アニオンのメンバーである2つの硫黄、1つのS
2-硫黄アニオン、および2つの塩化物アニオンに配位している。チオフィリック金属は、これらのリチウムカチオン部位の一部分を占めている。チオフィリック金属は、同様に、他のアルカリ金属アルジロダイトをドープするのに用いてもよい。
【0030】
特定の実施形態では、複数のLiカチオンは、チオフィリックカチオンで置き換えられる。これにより、さもなければ大気中の水分とS
2-アニオンが反応して発生する硫化水素の発生を抑制する。
図1のような理想化された、あるいは理想に近い構造では、各チオフィリックカチオン部位は、1つのS
2-硫黄アニオンにのみ直接配位してその反応を阻止する。しかしながら、ハロゲン含有アルジロダイトでは、硫黄とハロゲンの部位が著しい乱れを示し、チオフィリックなドーパント原子が1、2、または3個のS
2-中心に配位可能となる。
【0031】
二硫化水素の抑制は、二硫化水素が有毒で可燃性であるため有利であり、またケーシングが開いてエンドユーザーが暴露する可能性のあるデバイスの故障モードにおいて特に深刻な危険要因を防ぐことができる。
【0032】
[組成物]
本明細書では、チオフィリック金属でドープしたアルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体が提供される。チオフィリック金属は、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、水銀(Hg)、およびモリブデン(Mo)、またはこれらの組み合わせであってもよい。代替の実施形態では、他のチオフィリック元素を使用してもよい。チオフィリック金属の量は、イオン伝導性を維持しながら硫化水素を制限するように制御し得る。チオフィリック金属が少なすぎると、硫化水素の発生量が多くなることがある。チオフィリック金属が多すぎると、イオン伝導性が低下する場合がある。いくつかの実施形態では、ドーピング量は、アルジロダイト中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率によって特徴付けられる。いくつかの実施形態では、アルカリ金属硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、少なくとも1:120である。いくつかの実施形態では、少なくとも1:50である。いくつかの実施形態では、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、1:1以下であり、また、いくつかの実施形態では、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体中の硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の比率は、1:4以下である。いくつかの実施形態において、1:20の比率は、より高い比率のものと比べて、結果的に十分すぎる硫化水素を発生し、イオン伝導性の減少を少なくする可能性がある。硫黄原子に対するチオフィリック金属原子の範囲としては、例えば、1:120~1:1、1:120~1:4、1:120~1:20、1:50~1:1、1:50~1:4、および1:50~1:20を挙げることができる。(なお、S2-アニオンとの配位により硫化水素の発生は防がれるが、上記の比率はアルジロダイト中の全硫黄原子に対するものである。)
【0033】
チオフィリック金属のドーパント原子の上限は酸化状態に依存し、+1の酸化状態においてのみ1:1の比率を達成できる。このようなアルジロダイトとしては、例えば、LiCu5PS5Cl、Li1.1Cu5.9PS5.9Cl0が挙げられる。1:4の比率では、例えば、Li3.5Cu1.25PS5Cl、Li3.5Ni1.25PS5Cl(+2の酸化状態)、およびLi3.5Fe0.833PS5Cl(+3の酸化状態)が挙げられる。
【0034】
ドーピングは、代替的に、硫黄原子に対するチオフィリック原子のモル%として特徴付けられ得る。いくつかの実施形態では、アルジロダイトは、硫黄原子に対して少なくとも0.83モル%のチオフィリック金属原子を含む。いくつかの実施形態では、アルジロダイトは、硫黄原子に対して少なくとも2モル%のチオフィリック金属原子を含む。硫黄に対して2モル%のCuを含むアルジロダイト(Li5.8Cu0.1PS5Cl)では、著しい硫化水素抑制効果が測定された。いくつかの実施形態では、アルジロダイトは、硫黄原子に対して5モル%以下のチオフィリック金属原子を含む。この範囲としては、例えば、硫黄原子に対して0.8~5モル%のチオフィリック金属原子や、硫黄原子に対して0.8~2モル%のチオフィリック金属原子が挙げられる。
【0035】
本明細書に記載のチオフィリック金属がドープされたアルジロダイトは、粉末X線回折(XRD)によって、試料の相当部分がアルジロダイト型構造を有することが示されることで特徴付けられるとともに、ICP-MS、ICP-AESなどの元素分析技術を用いて、ドープされた金属(複数可)の同定や金属/硫黄モル比を決定することができる。
【0036】
いくつかの実施形態において、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体は、式Iに従うものである。
A7-x-(z*y)Mz
yPS6-xHalx (式I)
ここで、Aは、アルカリ金属であり、Mは、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、水銀(Hg)、およびモリブデン(Mo)から選択される金属であり、Halは、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)から選択され、
z は、金属の酸化状態であり、
0<x≦2、および
0<y<(7-x)/zである。
【0037】
酸化状態は、金属ドーパントに依存する。様々な実施形態によれば、次の酸化状態が用いられ得る。Mn、z=+2、+3、+4、+6、または+7Fe、z=+2、+3、または+4 Co、z=+2、または+3Ni、z=+1、+2、+3、または+4Cu、z=+1、または+2Zn、z=+2Hg、z=+1、または+2Mo、z=+2、+3、+4、+5、または+6
【0038】
いくつかの実施形態では、チオフィリック金属ドーパントは、+1よりも高い酸化状態で、特定の実施形態では、+2の酸化状態で取り込まれる。+1の酸化状態で取り込まれることで、取り込まれた+1の金属の移動度により、バッテリーなどのデバイスに金属がめっきされる場合がある。例えば、電池の負極にめっきがされると、電池容量が低下したり、不要な反応を起こしたり、ドーパントの硫化水素抑制効果がなくなり得る。酸化状態がより高いと、材料中のリチウムイオン濃度が低下することで、イオン伝導性の低下につながる可能性がある。
【0039】
アルジロダイトに含まれるハロゲンの量はxで決定される。いくつかの実施形態では、1≦x≦1.6である。x<1の場合、伝導率は一般に室温で低くなる。x<1のある値では、使用するアルカリ金属およびハロゲンによって、アルジロダイト型構造は、斜方晶系の低対称性結晶構造に変化する。チオフィリック金属をドープすると、x<1で立方晶構造が安定化し、伝導率のステップ関数的な低下は起こらないと予想される。x>1のアルジロダイトは、一般に伝導率が高く、硫黄含有量が少ないため、この安定化効果にもかかわらず、有利であると未だ予想されている。xを1より大きくすると、x≧1.6付近でアルジロダイト型構造が安定しなくなるまで、伝導率が上昇する。x>1.6の場合、アルジロダイトはいくらか不安定になり、その組成物は、硫化リチウム、ハロゲン化リチウム、チオリン酸リチウムなど他の相との混合物になる可能性がある。金属ドーパントの添加により、組成物が安定化し、より多くのハロゲンを使用可能となる。
【0040】
チオフィリック金属ドーパントの量はyで特徴付けられ、ほとんどの実用的な用途では、0.1≦y≦(2-x)/zであり、yが低すぎると硫化水素抑制が十分でない場合があり、高すぎるとイオン伝導性が望ましくないほど低くなる場合がある。高濃度でチオフィリック金属を取り込むことにより、電子伝導性を誘発する場合があり、望ましくない場合がある。式Iによる組成物は、少なくとも1:120または少なくとも1:50のM:S比を有し得る。いくつかの実施形態では、M:S比は1:20以下である。
【0041】
式Iの組成物には、混合金属を有するもの(すなわち、アルジロダイトが複数の金属でドープされている)および/または混合ハロゲン化物を有するもの(すなわち、アルジロダイトがハロゲン部位にそれぞれCl、BrおよびIのうちの2つ以上を含む)が含まれる。混合ハロゲン化物の場合、Halxは全ハロゲン量を指し、例えばBr.9Cl.7の場合、xは1.6となる。混合金属の場合、Mは2種類以上の金属を指し、M1、M2などとする。各金属の酸化状態および濃度は異なる可能性もあり、M1の場合、酸化状態がz1で、存在する金属の量がy1となる。M2金属の場合、酸化状態がz2で、濃度がy2などとなる。A7-x-(z*y)Mz
yPS6-xHalxの式の混合金属の場合、全金属濃度がy=y1+y2となり、電荷zは系内の金属の濃度加重平均電荷を指し、z=((z1*y1)+(z2*y2))/(y1+y2)で定義される。
【0042】
上述したように、任意のアルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体は、硫化水素の発生を抑制するためにチオフィリック金属でドープされ得る。これらは、米国特許20170352916号に記載されているように、アルジロダイトを含むことができ、xおよびyが式0.05≦y≦0.9および-3.0x+1.8≦y≦-3.0x+5.7を満たす、Li7-x+yPS6-xClx+yが記載される。いくつかの実施形態では、アルカリ金属アルジロダイト硫化物系イオン伝導体は、次の式により表される。
A7-x+n-(z*y)Mz
yPS6-xHalx+n (式II)
ここで、Aは、アルカリ金属であり、Mは、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、水銀(Hg)、およびモリブデン(Mo)から選択される金属であり、Halは、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)から選択され、
zは、金属の酸化状態であり、
0.05≦n≦0.9、
-3.0x+1.8≦n≦-3.0x+5.7、
0≦y<(7-x)/z、および
0<x≦2である。
【0043】
酸化状態は、金属ドーパントに依存する。様々な実施形態によれば、次の酸化状態が用いられ得る。Mn、z=+2、+3、+4、+6、または+7Fe、z=+2、+3、または+4Co、z=+2、または+3Ni、z=+1、+2、+3、または+4Cu、z=+1、または+2Zn、z=+2Hg、z=+1、または+2Mo、z=+2、+3、+4、+5、または+6
【0044】
いくつかの実施形態では、-3.0x+1.8≦n≦-3.0x+5である。
【0045】
いくつかの実施形態では、チオフィリック金属ドーパントは、+1よりも高い酸化状態で、特定の実施形態では、+2の酸化状態で取り込まれる。+1の酸化状態で取り込まれることで、取り込まれた+1の金属の移動度により、バッテリーなどのデバイスに金属がめっきされる場合がある。例えば、電池の負極にめっきがされると、電池容量が低下したり、不要な反応を起こしたり、ドーパントの硫化水素抑制効果がなくなったりし得る。より高度な酸化状態であると、イオン伝導性の低下につながる可能性がある。
【0046】
チオフィリック金属ドーパントの量はyで特徴付けられ、ほとんどの実用的な用途では、0.1≦y≦(2-x)/zであり、yが低すぎると硫化水素抑制が十分でない場合があり、高すぎるとイオン伝導性が望ましくないほど低くなる場合がある。高濃度でチオフィリック金属を取り込むことにより、電子伝導性を誘発する場合があり、望ましくない場合がある。式IIによる組成物は、少なくとも1:120または少なくとも1:50のM:S比を有し得る。いくつかの実施形態では、M:S比は1:20以下である。式IIは、混合金属系および/または混合ハロゲン化物系を含んでもよく、これらは式Iに関して上記のように処理される。
【0047】
[合成]
アルジロダイトを合成する際に、金属硫化物や金属ハロゲン化物を使用してアルジロダイトをドーピングしてもよい。金属硫化物または金属ハロゲン化物は、LiCl、Li2S、およびP2S5などのアルジロダイト前駆体や、HalがClであるLiClおよびLi3PS4と混合されてもよい。チオフィリック金属でドープしたアルジロダイトは、高エネルギーボールミリング(メカノケミカル合成)、高温固体状態合成または熱合成、および溶液合成の3つの主要な合成方法のいずれかを用いて合成し得る。
【0048】
高エネルギーボールミリングでは、機械的エネルギーを印加してアルジロダイト前駆体間の化学反応を誘発し、高アモルファス粒子を形成する。追加的にアニール工程を用いて、高アモルファスなボールミリングされたアルジロダイトの結晶性、および伝導性を高めることができる。ボールミリングされたアルジロダイトを、完全または部分的に反応させた複合体に取り込んで、アニール前または後に用いることができる。
【0049】
固体状態合成では、アルジロダイト試薬をあらかじめ混ぜ合わせ、熱反応させて、アルジロダイト相を形成する。ボールミリングとは異なり、固体状態反応はアニール温度に近い高温で行われるため、結晶性の高い材料が得られる。ポリマーの存在下で直接反応を生じさせることもできるが、高温だとポリマーの分解につながり、低温だと出発物質を完全に反応させるには不十分となる可能性がある。また、固体状態合成は完全に完成するまで推し進めることも、または停止してアルジロダイトと前駆体や中間体との混合物を形成することも可能である。この反応は合成時間や合成温度を調整することにより制御することができ、このようなアルジロダイトはポリマーと直接混合して複合体を形成することが可能である。
【0050】
アルジロダイト溶液合成では、試薬、中間体、および/または生成物を完全または部分的に溶解可能とするアルジロダイト溶媒中に、反応物質を混合させる。このアプローチでは、多段階の溶媒除去を用いて、純粋なアルジロダイトが得られる。まず、通常、100℃以下の低温でバルク溶媒を除去すると、アルジロダイトとアルジロダイト前駆体との混合物となり、この前駆体は出発物質と複雑な中間化合物とを含む。このようなアルジロダイト混合物は複合体に取り込むことができ、アルジロダイト相に結合した残留溶媒は熱処理時の焼結助剤として機能することができる。熱処理時に残留溶媒が蒸発し、前駆体がアルジロダイト相に変化し、それと同時に液相焼結により無機粒子の焼結が助長される。液相焼結は、焼結のための圧力および温度要件を低減するのに役立ち、それと同時に、低気孔率および高密度化につながる。アルジロダイト結合溶媒の第2の除去工程は、複合体に取り込む前に行って、処理温度と時間に依存した結晶化度と結晶子径を有するアルジロダイトを得ることができる。このようなアルジロダイトは、複合体に取り込むことが可能である。
【0051】
[チオフィリック金属をドープしたアルジロダイトを含む複合体]
いくつかの実施形態では、チオフィリック金属をドープしたアルジロダイトは、適合材料と混合されて複合固体イオン伝導体を形成してもよい。適合材料は、参照により本明細書に組み込まれる、例えば、米国特許第9,926,411号および第9,972,838号、ならびに米国特許出願第16/241,784号に記載されるように、有機相であってもよい。有機ポリマー相は、1つまたは複数の種類のポリマーを含んでいてもよく、イオン伝導性無機粒子と化学的に相溶性があるものである。いくつかの実施形態では、有機相は実質的にイオン伝導性を有さず、「非イオン伝導性」と称される。本明細書には、0.0001S/cm未満のイオン伝導率を有する非イオン伝導性ポリマーが記載されている。
【0052】
いくつかの実施形態では、有機相は、比較的高分子量のポリマーである、ポリマーバインダを含む。ポリマーバインダは、少なくとも30kg/molの分子量を有し、少なくとも50kg/mol、または100kg/molであってよい。いくつかの実施形態では、ポリマーバインダは、非極性骨格を有する。非極性ポリマーバインダとしては、例えば、スチレン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、およびブチレンを含むポリマーまたは共重合体が挙げられる。ポリスチレンブロックとゴムブロックとを含むスチレン系ブロック共重合体を用いてもよく、ゴムブロックとしては、例えば、ポリブタジエン(PBD)やポリイソプレン(PI)が挙げられる。ゴムブロックは、水素添加されていてもよいし、されていなくてもよい。ポリマーバインダの具体例としては、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリスチレン(PSt)、PBD、ポリエチレン(PE)、およびPIが挙げられる。非極性ポリマーは、無機粒子を被覆しないため、伝導性の低下につながる可能性がある。
【0053】
分子量のより小さいポリマーを用いて、例えば、処理温度や圧力を下げて、SEBSのような分子量のより大きいポリマーの加工性を向上させ得る。これらは、例えば、50g/mol~30kg/molの分子量を有することができる。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリブタジエン(PBD)、およびポリスチレンが挙げられる。いくつかの実施形態では、第1成分は、環状オレフィンポリマー(COP)であり、第1成分は、シアノ基、チオール基、アミド基、アミノ基、スルホン酸基、エポキシ基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基から選択される末端基を有するポリアルキル、ポリアロマチック、またはポリシロキサンポリマーである。
【0054】
有機相の高分子成分の主鎖または骨格は、無機相と相互作用しない。骨格としては、例えば、飽和または不飽和のポリアルキル、ポリアロマティック、およびポリシロキサンが挙げられる。無機相と強く相互作用しすぎる可能性のある骨格としては、例えば、ポリアルコール、ポリ酸、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミン、ポリアミドなどの強い電子供与基を持つものが挙げられる。酸素や他の求核基の結合強度を低下させる他の部分を有する分子を用いてもよいことが理解される。例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)骨格のパーフルオロ化特性は、エーテル酸素の電子密度を非局在化し、特定の実施形態での使用を可能にする。
【0055】
いくつかの実施形態では、可塑性共重合体セグメントと弾性共重合体セグメントの両方を有する疎水性ブロック共重合体が使用される。例えば、SEBS、SBS、SIS、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)などのスチレン系ブロック共重合体やイソプレンゴム(IR)が挙げられる。
【0056】
いくつかの実施形態では、有機相は実質的に非イオン伝導性であり、非イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、PDMS、PBD、および上記の他のポリマーが挙げられる。ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの、LiIなどの塩を溶解または解離するためイオン伝導性を発揮するイオン伝導性ポリマーとは異なり、非イオン伝導性ポリマーは塩が存在してもイオン伝導性にならない。これは、塩を溶かさなければ、伝導する移動イオンが存在しないためである。いくつかの実施形態では、これらのうちの1つ、または別のイオン伝導性ポリマーが使用されてもよい。上記で言及され、参照により本明細書に組み込まれる、Compliant glass-polymer hybrid single ion-conducting electrolytes for lithium ion batteries, PNAS, 52-57, vol.113, no.1 (2016)に記載のPFPEは、イオン伝導性であり、リチウム用の単一イオン伝導体であり、いくつかの実施形態で使用され得る。
【0057】
いくつかの実施形態では、有機相は、架橋を含んでもよい。いくつかの実施形態では、有機相は、架橋ポリマーネットワークである。架橋ポリマーネットワークは、in-situで、すなわち、無機粒子をポリマーまたはポリマー前駆体と混合して複合体を形成した後に、架橋させることができる。in-situ架橋を含む、ポリマーのin-situ重合は、米国特許第10,079,404号に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
本明細書に記載の複合材料は、膜や、複合体膜を作製するために使用され得るスラリーまたはペーストを含む様々な形態をとり得る。様々な実施形態によれば、複合体は、以下のいずれかを含み得る。
1)アルジロダイトを含まないアルジロダイト前駆体、および有機ポリマー
2)アルジロダイト前駆体、アルジロダイト、および有機ポリマー
3)実質的に前駆体を有しないアルジロダイト、および有機ポリマー
【0059】
いくつかの実施形態では、複合体は、本質的にこれらの構成要素からなる。いくつかの他の実施形態では、以下でさらに説明するように、追加の成分が存在してもよい。上述したように、いくつかの実施形態では、複合体は、固体膜として提供される。固体膜は、特定の組成物およびこれまでの処理に応じて、さらなる処理なしにデバイスに提供されてもよく、またはデバイスに組み込む準備がされてもよく、もしくは上記のようにアルジロダイトをin-situで処理する準備がされた状態で提供されてもよい。後者の場合、自立型膜として提供されてもよいし、あるいは処理装置に組み込まれた状態で提供されてもよい。
【0060】
ハイブリッド組成物中のポリマーマトリックス配合は、いくつかの実施形態において比較的高くてもよく、例えば、少なくとも2.5重量%~30重量%である。様々な実施形態によれば、ポリマーマトリックスは、0.5重量%~60重量%のポリマー、1重量%~40重量%のポリマー、または5重量%~30重量%のポリマーからなってもよい。複合体は、連続膜を形成する。
【0061】
有機ポリマーは、一般に、上記のような非極性な疎水性ポリマーである。特定の実施形態では、重合および/または架橋のためにin situにおいても処理されるポリマー前駆体(モノマー、オリゴマー、またはポリマー)であってもよい。このような処理は、アルジロダイトのin-situでの処理時に行われてよいし、その前または後に行われてもよい。
【0062】
いくつかの実施形態では、アルジロダイトおよび/またはその前駆体は、膜の40重量%~95.5重量%を構成する。残りは、いくつかの実施形態では、有機ポリマーであってもよい。他の実施形態では、1つまたは複数の追加成分が存在する。他の成分は、リチウムイオン塩、ナトリウムイオン塩、およびカリウムイオン塩を含む、アルカリ金属イオン塩を含むことができる。例えば、LiPF6、LiTFSI、LiBETI等が挙げられる。いくつかの実施形態では、固体組成物は、実質的に添加された塩を含まない。「実質的に添加された塩がない」とは、微量以上の塩を含まないことを意味する。いくつかの実施形態では、塩が存在する場合、それはイオン伝導率に0.05mS/cmまたは0.1mS/cmを超える寄与をしない。いくつかの実施形態では、固体組成物は、1つまたは複数の伝導性促進剤を含んでもよい。いくつかの実施形態では、電解質は、Al2O3などのセラミックフィラーを含む1つまたは複数のフィラー材料を含んでもよい。フィラーは、使用される場合、特定の実施形態に応じてイオン伝導体であってもなくてもよい。いくつかの実施形態では、複合体は、1つまたは複数の分散剤を含んでもよい。さらに、いくつかの実施形態では、固体組成物の有機相は、特定の用途に望ましい機械的特性を有する電解質の製造を容易にするために、1つまたは複数の追加の有機成分を含んでもよい。
【0063】
以下でさらに議論されるいくつかの実施形態では、固体組成物は、電極に組み込まれるか、あるいは電極に組み込まれる準備がなされ、電気化学的活物質、ひいては任意に電子伝導性添加剤を含む。以下、アルジロダイトを含む電極の構成要素および組成物の例を示す。
【0064】
いくつかの実施形態では、電解質は、電極の表面にパッシベーション層を形成するのに使用することができる電極安定化剤を含んでもよい。電極安定化剤の例は、米国特許9,093,722号に記載されている。いくつかの実施形態では、電解質は、上記のような伝導性促進剤、フィラー、または有機成分を含んでもよい。
【0065】
いくつかの実施形態では、複合体はスラリーまたはペーストとして提供される。このような場合、組成物は、後に蒸発させる溶媒を含む。さらに、組成物は、保存安定性のための1つまたは複数の成分を含んでもよい。このような化合物としては、アクリル樹脂を挙げることができる。一旦処理の準備ができると、スラリーまたはペーストは、適宜、基板上に鋳造されまたは広げて、乾燥させ得る。その後、上記のようにin situ処理を行い得る。
【0066】
[複合体におけるチオフィリック金属をドープしたアルジロダイトのin situでの処理]
いくつかの実施形態では、複合体に組み込まれた後の無機導体粒子内の相転移は、有機相の成分を劣化させることなく熱処理によって誘発される。
図2は、複合体膜を形成する操作を示すプロセスフロー図である。チオフィリック金属をドープしたアルジロダイトおよび/またはその前駆体をポリマーに含む複合体膜が提供される。焼結を目的として無機物を有機材料中に設ける方法とは異なり、操作202におけるポリマーは、最終的な複合材料(またはその前駆体)に含まれるポリマーである。ポリマーの例については前述したとおりである。上述したように、無機相は、チオフィリック金属をドープしたアルジロダイトおよび/またはその前駆体を含んでもよい。いくつかの実施形態では、202における無機相は、アルジロダイトを含まず、アルジロダイト前駆体(例えば、MCl
x、LiCl、Li
2S、およびP
2S
5、またはLi
6-x-(z*y)M
z
yPS
5-xHal
1+xを作成するためのMCl
x、LiCl、MS
xおよびLi
3PS
4)だけを含んでいる。いくつかの実施形態では、202における無機相は、アルジロダイトおよびアルジロダイト前駆体(例えば、Li
6-x-(z*y)M
z
yPS
5-xHal
1+x、LiCl、MCl、Li
2S、およびP
2S
5)を含んでいる。また、いくつかの実施形態では、202における無機相は、未反応の前駆体を実質的に有しないアルジロダイトを含む。204では、この複合体膜を加圧下で加熱し、アルジロダイトを含む複合体膜を形成する。
【0067】
圧力としては、例えば、1MPa~600MPa、または1MPa~100MPaのオーダーの圧力が挙げられる。操作204時には、以下のうちの1つまたは複数が生じる。すなわち、アルジロダイト反応が完了するまで行われる、アルジロダイトが全体的または部分的に結晶化する、ならびにアルジロダイト粒子が焼結されて焼結粒子が形成される。高分子相の熱劣化を防ぐために、温度は十分に低いものとする。上述したように、これはポリマーを燃焼させながらポリマー中の粒子を焼成する高温で行われる焼成操作とは異なる。このような操作では、ポリマーを埋め込んで複合体を形成し得る。
【0068】
図3は、本明細書で提供する複合電解質を作製する方法における特定の操作を示すプロセスフロー図である。
図3の方法は、
図2による方法の一例である。
図3の方法では、操作302において、チオフィリック金属をドープしたアルジロダイトのメカノケミカル合成が行われる。上で論じたように、これはアルジロダイト前駆体の高エネルギーボールミリングを含み得る。様々な実施形態によれば、反応を完結させてもよいし、一部のアルジロダイト前駆体を意図的に未反応のまま残してボールミリングを停止させてもよい。
【0069】
いくつかの実施形態では、チオフィリック金属をドープしたアルジロダイトは、次に、外部でアニールされ、その後、ポリマーと混合されて複合体膜を形成する。アニールは、未反応の前駆体を反応に導くこと、結晶化を開始すること、および結晶子を成長させることの1つまたは複数を行い得、結晶子が粒子にわたって成長する場合には次に融合を含むことができる。いくつかの実施形態では、アルジロダイト(および存在する場合には未反応の前駆体)をポリマーと混合して、アニールなしで複合体膜を形成する。
【0070】
304において、複合体膜は、
図2の操作204に関して上述したように加圧下で加熱される。様々な実施形態によれば、操作204および304は、結晶子が成長する焼結を含み得るものであり、離散粒子の融合を含むことができる。焼結時に、粒子状の成形体(グリーン体)が多結晶のモノリシック体に変化する。
【0071】
融合粒子は、複数の粒子が互いに融合してなるネック部や狭窄領域を有することにより特徴付けられ得る。例えば、ボールミリングされた粒子は、名目上円形である得るが、焼結されると、粒子同士が融合し、より大きく、円形でない粒子を形成する。焼結し合った粒子は、複合体において粒子ネットワークを形成し、特定の複合体が複数の粒子ネットワークを含んでいる。融合した粒子は、膜の平面(x-y平面)内の寸法がz方向よりもはるかに大きいことにより特徴付けられ得る。例えば、粒子のアスペクト比(z:xまたはz:y寸法)は、0.8未満、0.5未満、または0.1未満であってもよい。
【0072】
焼結は、粒子間のネック部を介して粒子から粒子へのバルク拡散を含み、このプロセスを行うために、温度を粒子の溶融温度の1/2~3/4程度まで上げる。酸化物導電体の場合、その温度は1000℃を超える範囲にあるため、材料の集積度、相安定性、他の材料との相性、および加工費などに著しい制約が生じる可能性がある。本明細書に記載のアルジロダイト型イオン伝導体の場合、処理温度はせいぜい500℃~550℃程度であるため、酸化物よりもはるかに処理しやすい。アルジロダイトの形成は150℃という低い温度で生じ、300℃で粒子が成長し始める。
【0073】
いくつかの実施形態では、液相支援焼結が行われる。液相支援焼結は、低温、例えば、350℃以下または300℃以下で行われ得る。アルジロダイトはエタノールに完全溶解し、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、プロピオン酸エチルなどの溶媒に部分溶解する。一般的な溶媒への溶解性は、それらの材料の液相支援焼結に利用することで、さらに処理を容易にすることができる。
図4は、液相支援焼結を含む複合体の形成方法における操作を示すプロセスフロー図である。操作402において、アルジロダイトは、ポリマーと混合され、溶媒中で焼結される。
【0074】
操作402の前にまたは一部として、アルジロダイトを溶媒アプローチによりin-situで合成することができる。ポリマーは、合成中または合成後に添加することができ、溶液またはスラリーの形態で混合物が鋳造されグリーン複合体膜を形成することができる。複合体スラリーには、少量のアルジロダイト系溶媒(例えば、エタノール、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、またはプロピオン酸エチルなど)を添加することができる。溶媒は、例えば、主溶媒として、共溶媒、スラリー添加剤、溶媒含有無機粉末、複合体の蒸気への暴露、浸漬などの様々な方法で複合体膜に取り込ませることができる。処理時には、溶媒によって粒子の潤滑性が向上し、液相を介して材料が粒子間移動することが可能となり、一方、蒸発時には溶解したアルジロダイトが固体に変化するとともに、粒子間接触が向上し、気孔率が減少し、材料の伝導性や機械的強度が向上する。液相支援焼結は、圧力、温度、(可能であれば)時間などの処理要件を低減するのに役立つ可能性がある。一旦焼結が行われると、複合体膜は伝導性を向上させるために、操作404で加圧下にて加熱される。
【0075】
[装置]
本明細書に記載の複合体は、これらに限定されないが電池や燃料セルなどのイオン伝導体を使用する任意のデバイスに組み込み得る。例えば、リチウム電池において、複合体は電解質セパレータとして使用し得る。いくつかの実施形態では、それは電極のうちの1つまたは複数にドープされていないアルジロダイトを有する電解質セパレータに使用されてもよい。いくつかの実施形態では、それは、例えば、金属ドーパントを還元する可能性を考慮し、負極に使用しなくてもよい。
【0076】
いくつかの実施形態では、ハイブリッド固体組成物は、添加塩を含まない。リチウム塩(例えば、LiPF6、LiTFSI)、カリウム塩、ナトリウム塩などは、イオン伝導性粒子間の接触のため、必要でない場合がある。いくつかの実施形態では、固体組成物は、イオン伝導性無機粒子と有機ポリマーマトリックスとから本質的に構成される。ただし、代替的な実施形態では、1つまたは複数の追加の成分がハイブリッド固体組成物に添加されてもよい。
【0077】
電極組成物は、さらに電極活物質、および任意で導電性添加剤を含む。正極および負極の組成物の例を以下に示す。
【0078】
正極の組成物については、下表に組成物の例を示す。
【表1】
【0079】
様々な実施形態によれば、正極活物質は遷移金属酸化物であり、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNiCoMnO2、またはNMC)が一例である。NMCとしては、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2(NMC-622)、LiNi0.4Mn0.3Co0.3O2(NMC-4330)などの種々の形態のものを使用し得る。重量%の範囲の下限は、エネルギー密度によって設定され、65重量%未満の活物質を有する組成物は、エネルギー密度が低く、有効でない場合がある。
【0080】
アルジロダイトとしては任意の適当なものを使用し得る。高いイオン伝導性を保持し、硫化水素を抑制するアルジロダイトの一例としては、Li5.4Cu0.1PS4.6Cl1.4が挙げられる。10重量%未満のアルジロダイトを有する組成物は、Li+伝導性が低い。
【0081】
電子伝導性添加剤は、NMCのように、電子伝導率が低い活物質に対して有効である。カーボンブラックはこのような添加剤の一種の例であるが、他種のカーボンブラック、活性炭、炭素繊維、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)を含む他の炭素系添加剤を使用してもよい。1重量%未満では、電子伝導性を向上させるのに十分ではない場合があり、一方、5%を超えるとエネルギー密度の低下や活物質-アルジロダイト間の接触の阻害につながる。
【0082】
任意の適切な有機相を使用しても良い。特定の実施形態では、可塑性共重合体セグメントおよび弾性共重合体セグメントの両方を有する疎水性ブロック共重合体が使用される。例えば、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)といったスチレン系ブロック共重合体やイソプレンゴム(IR)等が挙げられる。1重量%未満では、所望な機械特性を実現するのに十分ではない場合があり、一方、5%を超えると、エネルギー密度の低下や活物質-アルジロダイト-炭素間の接触の阻害につながる。
【0083】
負極の組成物については、下表に組成物の例を示す。
【表2】
【0084】
グラファイトは、Si負極の初期クーロン効率(ICE)を向上させるために二次活物質として使用される。Siは、NMCや他の正極のICEよりも低いICE(例えば、場合によっては、80%未満)を被り、最初のサイクルで不可逆的な容量損失を引き起こす。グラファイトはICEが高く(例えば、90%超)、フル容量で利用可能である。Siとグラファイトとを活物質として利用するハイブリッド負極は、グラファイトの含有量が多いほどICEが高くなり、これはSi/グラファイト比を調整することで負極のICEを正極のICEに合わせることができ、最初のサイクルでの不可逆的な容量損失を防止することを意味する。ICEは処理によって変化可能であるため、特定の負極とその処理によって、比較的広い範囲の黒鉛含有量を得ることができる。さらに、グラファイトは、電子伝導性を向上させ、負極の高密度化に役立ち得る。
【0085】
アルジロダイトとしては任意の適当なものを用い得る。アルジロダイトとしては任意の適当なものを用い得る。高いイオン伝導性を保持し、硫化水素を抑制するアルジロダイトの一例としては、Li5.4Cu0.1PS4.6Cl1.4が挙げられる。10重量%未満のアルジロダイトを有する組成物は、Li+伝導性が低い。上記のように、いくつかの実施形態では、ドープされたアルジロダイトは、セパレータに用いられてもよいが、負極には使用されないか、または限定される。
【0086】
いくつかの実施形態では、高表面積な電子伝導性添加剤(例えば、カーボンブラック)が使用されてもよい。Siは電子伝導率が低く、またこのような添加剤は、グラファイト(優れた電子伝導体であるが表面積が小さい)に加えて有用となることが可能である。ただし、Si合金の電子伝導率は適度に高く、いくつかの実施形態では、添加剤の使用を必要としない場合があり得る。また、Super Cの代わりに他の高表面積な炭素(カーボンブラック、活性炭、グラフェン、カーボンナノチューブ)をも使用することが可能である。
【0087】
任意の適切な有機相を使用しても良い。特定の実施形態では、可塑性共重合体セグメントおよび弾性共重合体セグメントの両方を有する疎水性ブロック共重合体が使用される。例えば、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)といったスチレン系ブロック共重合体やイソプレンゴム(IR)等が挙げられる。1重量%未満では、所望な機械特性を実現するのに十分ではない場合があり、一方、5%を超えるとエネルギー密度の低下や活物質-アルジロダイト-炭素間の接触の阻害につながる。
【0088】
本明細書では、負極、正極、および負極および正極に作動的に関連する上記のような適合固体電解質組成物を含む、アルカリ金属電池およびアルカリ金属イオン電池が提供される。電池は、負極と正極とを物理的に分離するためのセパレータを含んでもよく、これは固体電解質組成物であってもよい。
【0089】
好適な負極としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金、ナトリウム金属、ナトリウム合金、グラファイトなどの炭素質材料、およびそれらの組み合わせで形成される負極が挙げられるが、これらに限定されない。好適な正極としては、例えば、遷移金属酸化物、ドープされた遷移金属酸化物、金属リン酸塩、金属硫化物、リン酸鉄リチウム、硫黄およびそれらの組み合わせで形成された正極が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、正極は、硫黄正極であってもよい。
【0090】
リチウム空気電池、ナトリウム空気電池、カリウム空気電池などのアルカリ金属空気電池では、正極は酸素を透透過し得るもの(例えば、メソポーラスカーボン、多孔質アルミニウムなど)であり、正極は、金属触媒(例えば、マンガン、コバルト、ルテニウム、白金、または銀の触媒、あるいはそれらの組み合わせ)を任意に含むことで、正極においてリチウムイオンおよび酸素で生じる還元反応を強化し得る。
【0091】
いくつかの実施形態では、リチウム金属負極および硫黄含有正極を含む、リチウム-硫黄セルが提供される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の固体複合電解質は、デンドライトの形成を防ぐことによってリチウム金属負極、および放電中に正極で形成される多硫化物中間体を溶解しないことによって硫黄正極の両方を一意に可能にする。
【0092】
また、負極と正極が直接互いに電気的接触をしないように、イオン流を透過する任意の適切な材料で形成されたセパレータを含めることもできる。なお、本明細書に記載の電解質組成物は固体組成物であるため、特にそれらが膜状である場合には、セパレータとして機能させることができる。
【0093】
いくつかの実施形態では、固体電解質組成物は、サイクル中のアルカリイオンのインターカレーションに依存する、アルカリイオン電池の負極と正極との間の電解質として機能する。
【0094】
上記のように、いくつかの実施形態において、固体複合体組成物は、電池の電極に組み込まれてもよい。電解質は、上記のような適合固体電解質であってもよいし、液体電解質を含む任意の他の適切な電解質であってもよい。
【0095】
いくつかの実施形態では、電池は、電極/電解質二重層を含み、各層は、本明細書に記載のイオン伝導性固体複合材料を組み込んでいる。
【0096】
図5Aは、本発明の特定の実施形態によるセルの概略図の一例を示す。このセルは、負極集電体502、負極504、電解質/セパレータ506、正極508、および正極集電体510を含む。負極集電体502および正極集電体510は、銅、鋼、金、白金、アルミニウム、ニッケルなど、任意の適切な電子伝導性材料であってもよい。いくつかの実施形態では、負極集電体502は銅であり、正極集電体510はアルミニウムである。集電体は、シート状、箔状、メッシュ状、発泡体など、任意の適切な形状をとり得る。様々な実施形態によれば、負極504、正極508、および電解質/セパレータ506のうちの1つまたは複数は、上記のようなチオフィリック金属をドープしたアルジロダイトを含む固体複合体である。いくつかの実施形態では、負極504、正極508、および電解質506のうちの2つ以上は、上記のようなチオフィリック金属をドープしたアルジロダイトを含む固体複合体である。
【0097】
いくつかの実施形態では、集電体は、対応する電極に埋め込むことができる多孔質体である。例えば、それはメッシュであってもよい。上記のような疎水性ポリマーを含む電極は、箔状の集電体に対して密着性が良くない場合があるが、メッシュであれば機械的接触が良好である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の2つの複合体膜は、メッシュ集電体に押し付けられて、電極内に埋め込まれた集電体を形成し得る。
【0098】
図5Bは、本発明の特定の実施形態により組み立てられたリチウム金属セルの概略図の一例を示す。組み立てられた状態のセルは、負極集電体502、電解質/セパレータ506、正極508、および正極集電体510を含む。初回充電時にリチウム金属が生成され、負極集電体502にめっきが形成され、負極が形成される。電解質506と正極508の一方または両方は、上記の複合材料であってもよい。いくつかの実施形態では、正極508と電解質506は共に電極/電解質二重層を形成する。
図5Cは、本発明の特定の実施形態に係るセルの概略図の一例を示す。このセルは、負極集電体502、負極504、正極/電解質二重層512、および正極集電体510を含む。二重層内の各層は、アルジロダイトを含んでもよい。このような二重層は、例えば、電解質スラリーを調製し、電極層上に堆積させることによって準備し得る。
【0099】
電池の全ての構成要素は、既知の技術に従って、負極および正極への電気的接続を確立するための外部リードまたは接点を備える適切な剛性または可撓性な容器に含まれるか、またはその中にパッケージ化されることができる。
【0100】
[実施例]
適量のP2S5、Li2S、LiCl、およびCuSをボールミリングしてLi5.4Cu0.1PS4.6Cl1.4を製造した。ボールミリングされた材料の一部を450℃でアニールし、銅が欠如している母材に対して、伝導率や硫化水素放出量を比較した。
【0101】
アニールしたLi5.4Cu0.1PS4.6Cl1.4を同じくアニールした母材Li5.6PS4.6Cl1.4と比較すると、伝導率は、7.86mS/cmに比べて、6.24mS/cmであり、つまり伝導率が79%保持されることが示された。銅をドープした材料における硫化水素放出量は母材の59%に過ぎず、明らかな優位性を示すことがわかった。
【0102】
図6は、Li
5.4Cu
0.1PS
4.6Cl
1.4の粉末回折パターンで、アルジロダイト型Li
6PS
5Clからの基準線を重ねて示す。測定されたパターンと基準線との強い一致は、この新しいCu含有材料がアルジロダイト型構造であることを示唆している。基準線に対応しないピークがないことから、大きな結晶性のコンタミがないことが示唆される。
【0103】
適量のP
2S
5、Li
2S、LiCl、およびCuSをボールミリングしてLi
5.8Cu
0.1PS
5Clを製造した。このボールミリングされた材料の一部を450℃でアニールした。
図7は、Li
5.8Cu
0.1PS
5Clの粉末回折パターンで、アルジロダイト型Li
6PS
5Clからの基準線を重ねて示す。測定されたパターンと基準線との強い一致は、この新しいCu含有材料がアルジロダイト型構造であることを示唆する。また基準線に対応しないピークがないことから、大きな結晶性のコンタミがないことが示唆される。
【0104】
図8は、各種金属をドープした材料と母材について、アルジロダイト1gあたりのH
2Sのmg(mgH
2S/gアルジロダイト)で規格化した、硫化水素ガスの累積放出量を示したものである。これら材料の伝導率は凡例に記載されている。
図8の結果は、1)金属のドーピングは異なるCl濃度でH
2Sを減少させること、2)異なるドーパント金属が(やや異なる程度に)機能すること、3)高いドーピングレベルは、伝導率を多少低下させながらも、硫化水素放出量をより多く抑制すること、を示している。
【0105】
[追加的なチオフィリック金属をドープした硫化物系イオン伝導体]
チオフィリック金属の導入は、このアプローチの有用性が特定の材料の構造に大きく依存するが、他の硫化物系イオン伝導体にも有益であり得る。例えば、ガラス状Li3PS4単独、あるいはLiIなどの他の塩をドープしたものは、リチウムイオン電池のリチウムイオン伝導体として使用されている。チオフィリック金属をこれらのガラスに組み込むことはおそらく可能だが、これら材料はそれ自体では硫化水素放出量が非常に少ないため、したがってすでに比較的劣った導電性材料でリチウムイオン伝導性を低下させることは妥当ではない。一方、Li7P3S11にチオフィリック金属を添加することで、この材料がLi3PS4と比較して硫化水素をより多く放出するようになるため、いくつかの利益が得られる可能性がある。この材料において最も反応性の高い硫黄部位は、この構造のLi3PS3-S-PS3Li3部分の架橋硫黄であり得る。この硫黄はリン原子と2つの共有結合を持ち、リチウム原子とはイオン結合を持たないが、この物質の結晶構造は、構造内のリチウム原子と弱い相互作用の可能性を示している。よって、いくつかの実施形態では、このリチウム原子は、チオフィリック金属に置換されることで、この硫黄中心に関連する硫化水素の放出を抑制し得る。この効果は、さもなければ硫化物型リチウムイオン伝導体で最も反応性の高いタイプの部位である、1つまたは複数のS2-部位に、すべてのチオフィリック金属の中心が強く結合しているアルジロダイトの場合よりも弱いと予想される。Li10GeP2S12などの他のリチウムイオン伝導性硫化物も、本明細書に記載されるようなチオフィリック金属のドーピングから何らかの利益を得ることができるが、Li3PS4の場合と同様に、この系とその誘導体中のすべての硫黄原子が反応性の低い結合環境にあるため、ベースラインの硫化水素の放出がそれほど深刻ではないと予想される。
【国際調査報告】