(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】センサレス単相電気モータの起動方法およびセンサレス単相電気モータ
(51)【国際特許分類】
H02P 6/22 20060101AFI20221027BHJP
H02P 1/46 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H02P6/22
H02P1/46
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022510940
(86)(22)【出願日】2019-08-21
(85)【翻訳文提出日】2022-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2019072405
(87)【国際公開番号】W WO2021032302
(87)【国際公開日】2021-02-25
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515069336
【氏名又は名称】ピアーブルグ パンプ テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Pierburg Pump Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Alfred-Pierburg-Strasse 1, 41460 Neuss, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サリオ,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】ヴュッベルス,フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】ボスコフスキー,ミソ
(72)【発明者】
【氏名】フィンゲル,オリバー
【テーマコード(参考)】
5H001
5H560
【Fターム(参考)】
5H001AA02
5H001AB01
5H001AC02
5H001AD05
5H001AE02
5H560BB02
5H560BB12
5H560DA12
5H560DC12
5H560HA09
5H560UA10
5H560XA12
(57)【要約】
本発明はセンサレス単相電気モータ(10)の起動方法に関し、電気モータ(10)は、永久磁石モータ回転子(24)と、固定子コイル(16)を有する電磁モータ固定子(12)と、固定子コイル(16)に通電するパワーエレクトロニクス(26)と、固定子コイル(16)に流れる電流(I)を測定する電流センサ(32)と、電流センサ(32)に接続され、パワーエレクトロニクス(26)を制御する制御エレクトロニクス(28)と、を備え、前記方法は、交流駆動電圧(Vd)によって、固定子コイル(16)に通電するステップ、駆動電圧(Vd)によって、固定子コイル(16)に発生する駆動電流(Id)を監視するステップ、駆動電流(Id)が所定の正の電流閾値(Itp)または所定の負の電流閾値(Itn)に達するたびに、駆動電圧(Vd)を転流するステップ、を含んで構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサレス単相電気モータ(10)の起動方法であって、
前記電気モータ(10)は、
永久磁石モータ回転子(24)と、
固定子コイル(16)を有する電磁モータ固定子(12)と、
前記固定子コイル(16)に通電するパワーエレクトロニクス(26)と、
前記固定子コイル(16)に流れる電流(I)を測定する電流センサ(32)と、
前記電流センサ(32)に接続され、前記パワーエレクトロニクス(26)を制御する制御エレクトロニクス(28)と、
を備え、
前記方法は、
交流駆動電圧(Vd)によって、前記固定子コイル(16)に通電するステップ、
前記駆動電圧(Vd)によって、前記固定子コイル(16)に発生する駆動電流(Id)を監視するステップ、
前記駆動電流(Id)が所定の正の電流閾値(Itp)または所定の負の電流閾値(Itn)に達するたびに、前記駆動電圧(Vd)を転流するステップ、
を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記駆動電圧(Vd)は、パルス幅変調駆動信号(PWM)に基づいて生成され、前記駆動信号(PWM)のデューティ比(D)は、ランプ位相(R)の間、所定の設定デューティ比(Ds)まで連続的に増加する、
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
先行する請求項のいずれか一項に記載の方法であって、
前記方法は、回転子の最初の向きを検出する手順を有し、
前記手順は、
正の電気的極性を有する正の検出電圧パルス(Vp)によって、前記固定子コイル(16)に通電するステップ、
負の電気的極性を有する負の検出電圧パルス(Vn)によって、前記固定子コイル(16)に通電するステップ、
前記正の検出電圧パルス(Vp)によって、前記固定子コイル(16)に発生している正の検出電流パルス(Ip)を測定するステップ、
前記負の検出電圧パルス(Vn)によって、前記固定子コイル(16)に発生している負の検出電流パルス(In)を測定するステップ、
前記正の検出電流パルス(Ip)を評価することによって、第1検出パラメータ(P1)を判定するステップ、
前記負の検出電流パルス(In)を評価することによって、第2検出パラメータ(P2)を判定するステップ、
前記第1検出パラメータ(P1)を前記第2検出パラメータ(P2)と比較することによって、静止している前記モータ回転子(24)の磁気配向(RP1,RP2)を判定するステップ、
を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
前記固定子コイル(16)は、少なくとも3つの正の検出電圧パルス(Vp)と、少なくとも3つの負の検出電圧パルス(Vn)とで通電され、少なくとも3つの正の検出電流パルス(Ip)と少なくとも3つの負の検出電流パルス(In)が測定され、前記第1検出パラメータ(P1)は、全ての前記正の検出電流パルス(Ip)の最大絶対値を加算することによって判定され、前記第2検出パラメータ(P2)は、全ての前記負の検出電流パルス(In)の最大絶対値を加算することによって判定される、
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の方法であって、
前記駆動電圧(Vd)には、静止している前記モータ回転子(24)において判定された前記磁気配向(RP1、RP2)に基づいて定められる初期電気極性が与えられる、
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
永久磁石モータ回転子(24)と、
固定子コイル(16)を有する電磁モータ固定子(12)と、
前記固定子コイル(16)に通電するパワーエレクトロニクス(26)と、
前記固定子コイル(16)に流れる電流(I)を測定する電流センサ(32)と、
前記電流センサ(32)に接続され、前記パワーエレクトロニクス(26)を制御する制御エレクトロニクス(28)と、
を備え、
前記制御エレクトロニクス(28)は、先行する請求項のうち一項に記載の方法を実行するように構成される、
ことを特徴とするセンサレス単相電気モータ(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサレス単相電気モータの起動方法およびセンサレス単相電気モータに関する。
【背景技術】
【0002】
センサレス単相電気モータは、例えばホールセンサのように、モータ回転子の現在の位置を検出する位置センサを備えていない。したがって、回転子の現在の位置は、例えば、回転する永久磁石モータ回転子によって生じる逆起電力(CEMF)の極性の遷移を解析することによって、間接的に検出しなければならない。しかし、当該技術分野における公知のセンサレス回転子の位置の間接的な検出方法では、典型的には、回転子位置を確実に検出するために、少なくとも最低速度でモータ回転子を回転させる必要がある。したがって、特定の加速手順により、最低速度までモータ回転子を加速させることが求められる。
【0003】
US 2014/0111127 A1に開示のセンサレス単相電気モータの起動方法では、まず、定められた位置決め電流で固定子コイルに通電することによって、モータ回転子を定められた静止位置へ移動させる。続いて、加速駆動モードでモータ回転子を加速させる。このとき、固定子コイルは、所定のデューティ比が与えられたパルス状の交流電流で通電され、パルス状の電流のオフ相のとき、すなわち固定子コイルが通電されていないときに、CEMFを解析する。しかし、必要とされるパルス状の駆動電流のオフ位相では、固定子コイルへの実効的な駆動エネルギーが制限されてしまうため、パルス状の駆動電流により、モータ回転子は比較的ゆっくりと加速させられる。さらに、モータ回転子の最初の位置決めを比較的ゆっくりと行うことで、電気モータの起動はさらに遅くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高速で確実に起動するセンサレス単相電気モータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有するセンサレス単相電気モータの起動方法、および請求項6に記載の特徴を有するセンサレス単相電気モータによって達成される。
【0006】
本発明によるセンサレス単相電気モータは、永久磁石モータ回転子を備えている。モータ回転子は、永久磁化されたモノリシックな回転子本体、あるいは、少なくとも1つの永久磁石が取り付けられた一般的な強磁性回転子本体のいずれであってもよい。通常、単相電気モータのモータ回転子には、2つの正反対の磁極が設けられている。
【0007】
また、本発明によるセンサレス単相電気モータは、固定子コイルを有するモータ固定子を備えている。好ましくは、モータ固定子は、2つの逆の磁極が定められた実質的にU字型の強磁性固定子本体を備える。通常、単相電気モータは、U字型固定子本体の開放端部に対向して位置する単一の固定子コイルを備えている。好ましくは、モータ固定子は積層された固定子本体を備え、すなわち、固定子本体は強磁性金属シートの積層体から構成される。
【0008】
永久磁石モータ回転子と強磁性固定子の相互作用によって、モータ固定子が通電されない場合には、モータ回転子は定められた2つの静止位置のうちの1つに移動する。定められた電圧で固定子コイルが通電されると、モータ回転子は、固定子の磁界の磁気配向に応じて、さらに、その結果として提供される電圧の極性に応じて、2つの駆動位置のうちの1つに向かって加速される。
【0009】
本発明によるモータ固定子およびモータ回転子は、モータ回転子の2つの静止位置が、2つの駆動位置とは異なる回転位置に位置するように設計されている。これにより、静止しているモータ回転子を確実に起動することができる。
【0010】
さらに、本発明によるセンサレス単相電気モータは、定められた供給電圧で固定子コイルに通電するパワーエレクトロニクスを備えている。典型的には、パワーエレクトロニクスは、供給電圧を転流させる複数の半導体スイッチを含む。
【0011】
さらに、本発明によるセンサレス単相電気モータには、固定子コイルに流れる電流を測定する電流センサが設けられている。好ましくは、電流センサは、固定子コイルと電気的に直列に接続されたシンプルなセンサ抵抗体を備える。一方で、電流センサは、固定子コイルに流れる現在の電流を測定可能に構成されていれば任意の手段を用いてよい。
【0012】
さらに、本発明によるセンサレス単相電気モータは、パワーエレクトロニクスを制御する制御エレクトロニクスを備えている。制御エレクトロニクスは電流センサと電気的に接続されているため、電流センサが測定している電流を制御エレクトロニクスにより評価することができる。典型的には、制御エレクトロニクスはマイクロコントローラを備える。
【0013】
本発明による、センサレス単相電気モータの起動方法は、
交流駆動電圧によって、固定子コイルに通電するステップ、
駆動電圧によって、固定子コイルに発生する駆動電流を監視するステップ、
駆動電流が所定の正の電流閾値または所定の負の電流閾値に達するたびに、駆動電圧を転流するステップ、
を含む。
【0014】
固定子コイルは、定められた実効電圧振幅が与えられた交流駆動電圧によって通電される。通電された固定子コイルは、固定子に磁界を発生させる。この固定子の磁界により、モータ回転子は、駆動電圧の現在の電気的極性に応じて、静止位置から2つの駆動位置のうちの1つに向かって加速させられる。2つの駆動位置では、永久磁石回転子の磁界が固定子の磁界と平行、すなわち、モータ回転子の北極がモータ固定子の南極に隣接して位置し、モータ回転子の南極はモータ固定子の北極に隣接して位置する。
【0015】
固定子コイルに発生した駆動電流は、固定子の磁界に対するモータ回転子の磁気配向、すなわち、永久磁石回転子の磁界の配向に依存する。モータ回転子の北極がモータ固定子の南極に隣接して配置され、モータ回転子の南極がモータ固定子の北極に隣接して位置する場合、永久磁石回転子の磁界は固定子の磁界と平行になるため、永久磁石回転子の磁界により、固定子の全有効磁界が強められる。これにより、比較的高い駆動電流が生成されて固定子の磁界が増強され、結果として、駆動電流は駆動位置で最大となる。よって、モータ回転子が駆動位置に向かって移動すると、固定子電流は連続的に増加する。
【0016】
本発明によれば、駆動電流が予め定められた正または負の電流閾値に達するたびに、駆動電圧は転流、すなわち、駆動電圧の電気的極性は反転される。正および負の電流閾値は共に、モータ回転子が2つの駆動位置のうちの1つに位置するときに固定子コイルに発生する最大駆動電流よりも低く定められる。結果として、駆動電圧は、モータ回転子が駆動位置に到達する前に常に転流され、転流点におけるモータの特定の向きは、電流閾値によって定めることが可能になる。典型的には、正の電流閾値と負の電流閾値とは等しい。ただし、モータ回転子やモータ固定子が完全に対称でない場合には、2つの電流閾値を異なるように定めることもできる。いずれにせよ、正および負の電流閾値は、駆動電圧が実質的に対称に転流されて、モータ回転子が効率的に起動するように定められる。
【0017】
本発明による方法では、回転子の位置を直接的にフィードバックすることなく、回転子位置制御転流を行うことができる。さらに、本発明による方法では、現在の回転子の位置を判定するための相当量のオフ時間を必要とせずに、固定子コイルを実質的に連続して通電することができる。その結果、本発明による方法によれば、効率的、迅速、そして確実にセンサレス単相電気モータを起動することが可能になる。
【0018】
典型的には、駆動電圧は、パルス幅変調駆動信号に基づいて生成される。すなわち、駆動電圧は、定められたスイッチング周波数で絶えずオン・オフされる。ここで、実効駆動電圧振幅は、パルス幅変調駆動信号のデューティ比、すなわちオン時間比率によって定められる。パルス幅変調により、固定子コイルに供給される有効駆動エネルギーは比較的簡単に調整することができる。好ましくは、駆動信号のデューティ比は、ランプ位相の間、所定の設定デューティ比まで連続的に増加される。その結果、実効駆動エネルギーは、電流閾値に基づく転流によって、駆動電圧交流周波数の連続的な増加が発生するランプ位相の間、連続的に増加する。永久磁石モータ回転子は、発生した固定子の磁界に「追従」するため、結果として、電気モータの確実な起動が保証される。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、上記の起動方法は、回転子の最初の向きを検出する手順を有する。この手順は、
正の電気的極性を有する正の検出電圧パルスによって、固定子コイルに通電するステップ、
負の電気的極性を有する負の検出電圧パルスによって、固定子コイルに通電するステップ、
正の検出電圧パルスによって、固定子コイルに発生している正の検出電流パルスを測定するステップ、
負の検出電圧パルスによって、固定子コイルに発生している負の検出電流パルスを測定するステップ、
正の検出電流パルスを評価することによって、第1検出パラメータを判定するステップ、
負の検出電流パルスを評価することによって、第2検出パラメータを判定するステップ、
第1検出パラメータを第2検出パラメータと比較することによって、静止しているモータ回転子の磁気配向を判定するステップ、
を含む。
【0020】
上述した通り、回転子の磁界が固定子の磁界に平行である場合、すなわち、磁気回転子の各磁極が、磁気固定子において逆の極性を有する磁極に隣接して位置する場合、永久磁石回転子の全有効磁界は強められる。これにより、比較的高い固定子電流が生じる。これに対して、回転子の磁界が固定子の磁界に対して反平行である場合、すなわち、磁気回転子の各磁極が、磁気固定子において同一の極性を有する磁極に隣接して位置する場合、永久磁石回転子の全有効磁界は弱められる。これにより、比較的低い固定子電流が生じる。
【0021】
本発明によれば、その後、固定子コイルは、正の検出電圧パルスと、負の検出電圧パルスとで通電される。正の検出電圧パルスは正の固定子の磁界を生成し、負の検出電圧パルスは逆の磁気配向を持つ負の固定子の磁界を生成する。正および負の検出電圧パルスは共に、静止しているモータ回転子が2つの検出電圧パルスによって大きく動かされないように、低くかつ短く設けられる。
【0022】
検出電圧パルスのそれぞれについて、固定子コイルに生成されている検出電流パルスを測定する。正の検出電流パルスを評価することによって第1検出パラメータを判定し、負の検出電流パルスを評価することによって第2検出パラメータを判定する。例えば、検出パラメータは、それぞれの検出電流パルスの最大値、平均値、または積分値とすることができる。
【0023】
永久磁石回転子の磁界が、固定子の正の磁界に平行な成分を有する場合、第1検出パラメータは第2検出パラメータの値よりも高くなる。また、永久磁石回転子の磁界が、反対の固定子の負の磁界に対して平行な成分を有する場合、第1検出パラメータは第2検出パラメータの値よりも高くなる。
【0024】
このように、第1検出パラメータを第2検出パラメータと比較することにより、静止しているモータ回転子の磁気配向、すなわち静止しているモータ回転子の現在の静止位置をシンプルな方法で判定することができる。
【0025】
本発明による磁気配向検出手順によれば、比較的短い検出電圧パルスでも、現在の磁気配向を確実に検出することができる。結果として、本発明による磁気配向検出手順によれば、センサレス単相電気モータを非常に高速且つ確実に起動することが可能になる。
【0026】
上述の回転子の向きの検出手順は、その後のモータ回転子を駆動するために用いられる方法からは独立して、モータ回転子の現在の磁気配向を判定するために用いることができる。したがって、上述の回転子の向きの検出手順は、独立した発明を表す。
【0027】
正の検出電流パルスと負の検出電流パルスの差は、典型的には比較的小さい。したがって、固定子コイルは、少なくとも3つの正の検出電圧パルスと、少なくとも3つの負の検出電圧パルスとで通電されることが好ましい。検出電圧パルスは、それぞれ実質的に同じ実効振幅および持続時間を有する。全ての検出電圧パルスは低く、発生した固定子の磁界によってモータ回転子が大きく動かされない程度に短いものである。正および負の検出電圧パルスは、正および負の検出電圧パルスによって生じる回転子のわずかな動きが互いに補償されるように、固定子コイルに交互に供給されることが好ましい。
【0028】
検出電圧パルスのそれぞれに対して、結果として生じる検出電流パルスを測定することで、少なくとも3つの正の検出電流パルスと少なくとも3つの負の検出電流パルスとが測定される。第1検出パラメータは、すべての正の検出電流パルスの最大絶対値を加算することによって判定し、第2検出パラメータは、すべての負の検出電流パルスの最大絶対値を加算することによって判定する。そのため、第1検出パラメータと第2検出パラメータとの間の差は、2つの反対の検出電圧パルスのみを評価する場合と比較して、著しく強調される。同じ技術的効果は、例えば、検出電圧極性のそれぞれについて測定された検出電流パルスの平均値または積分値を加算することによっても得られる。このように構成することで、静止しているモータ回転子の磁気配向を非常に正確に検出することが可能になる。
【0029】
本発明の好ましい実施形態では、駆動電圧には、定められた初期電気極性が与えられる。初期電気極性は、静止しているモータ回転子において判定された磁気配向に基づいて定められる。例えば、モータ回転子が第1静止位置に静止している場合には、駆動電圧には正の初期極性が与えられ、モータ回転子が第2静止位置に静止している場合には、駆動電圧には負の初期極性が与えられる。いずれにせよ、初期電気極性は、モータ回転子が、現在の磁気配向からは独立して、定められた回転方向で確実に加速されるように与えられる。これにより、電動モータを、定められた回転方向で確実に起動させることができる。
【0030】
また、本発明の目的は、上述のセンサレス単相電気モータによって達成され、制御エレクトロニクスは、本発明による方法のうちの1つを実行するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明によるセンサレス単相電気モータの概略図であり、モータ回転子が第1静止位置を向いている状態を示す。
【
図2】回転子の最初の向きを検出する手順における、a)供給電圧、b)供給電流、c)第1検出パラメータおよび第2検出パラメータ、の経時変化を示す。
【
図3】回転子が加速する手順における、a)供給電圧、b)供給電流、の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
添付の図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0033】
図1は、強磁性固定子本体14と単一の固定子コイル16を有する電磁モータ固定子12を備えるセンサレス単相電気モータ10を示す。固定子本体は、いわゆる積層固定子本体として設計され、すなわち固定子本体14は、強磁性金属シートの積層体から構成される。固定子本体14は、略U字状に設けられており、第1磁極脚部18により第1固定子磁極が規定され、反対側の第2磁極脚部20により第2固定子磁極が規定されている。固定子コイル16は、2つの磁極脚部18,20を機械的かつ磁気的に連結するブリッジ部22に衛星状に配置されている。
【0034】
また、電気モータ10は、回転可能な永久磁石モータ回転子24を備える。モータは径方向に磁化され、それによって、磁北Nと磁南Sとを規定する。
【0035】
また、電気モータ10は、パワーエレクトロニクス26および制御エレクトロニクス28を含む。パワーエレクトロニクス26は、規定された実効供給電圧Vで固定子コイル16に通電するために設けられた固定子接続線30を介して、固定子コイル16と電気的に接続されている。パワーエレクトロニクス26は、パルス幅変調駆動信号PWMを介して制御エレクトロニクス28により制御される。供給電圧Vの実効振幅は、デューティ比D、すなわち駆動信号PWMのオン時間比率を介して制御される。また、制御エレクトロニクス28は、供給電圧Vの電気的極性を制御するように構成される。
【0036】
固定子コイル16が通電されると、モータ回転子24は、モータ回転子24において反対の磁気配向を有する2つの静的静止位置RP1、RP2のうちの1つに移動する。モータ回転子24の2つの静止位置RP1、RP2は、それぞれ、第1静止位置RP1および第2静止位置RP2に対してそれぞれ磁北Nの向きを表す矢印によって、
図1に概略的に示されている。
図1が示す通り、モータ回転子24の北極Nは、第1静止位置RP1において第1磁極脚部18を指し、第2静止位置RP2において第2磁極脚部20を指す。
【0037】
固定子コイル16が正の供給電圧Vで通電されると、正の磁界が生成される。正の磁界では、第1磁極脚部18は磁北を提し、第2磁極脚部20は磁南を提する。固定子コイル16が負の供給電圧Vで通電されると、負の磁界が生成される。負の磁界では、第1磁極脚部18は磁南を提し、第2磁極脚部20は磁北を提する。
【0038】
正の磁界は、モータ回転子24の北極Nが第2磁極脚部20を指す第1駆動位置DP1に向かってモータ回転子24を加速させる。負の磁界は、モータ回転子24の北極Nが第1磁極脚部18を指す第2駆動位置DP2に向かってモータ回転子24を加速させる。2つの駆動位置DP1、DP2は、モータ回転子24の第1駆動位置DP1および第2駆動位置DP2のそれぞれに対して磁北Nの向きを表す矢印によって、
図1に概略的に示されている。
【0039】
また、電気モータ10は、固定子接続線30内に配置され、固定子接続線30を通って固定子コイル16へ流れる供給電流Iを測定する電流センサ32を備える。電流センサ32は、制御エレクトロニクス28による現在の供給電流Iの評価が可能になるように、制御エレクトロニクス28と接続される。
【0040】
モータエレクトロニクス28は、回転子の最初の向きを検出する手順を実行するように構成される。この回転子の向きの検出手順において、パワーエレクトロニクス26は制御エレクトロニクス28により制御され、
図2aに概略的に示すように、固定子コイル16は、3つの正の検出電圧パルスVpと3つの負の検出電圧パルスVnとで交互に通電される。正の検出電圧パルスVpは、それぞれ正の電気的極性を備え、正の検出磁界を生成する。負の検出電圧パルスVnは、それぞれ負の電気的極性を備え、逆の負の検出磁界を生成する。
【0041】
結果として生じる供給電流Iは、電流センサ32を介して制御エレクトロニクス28によって監視される。
図2bに概略的に示すように、3つの正の検出電圧パルスVpは3つの正の検出電流パルスIpを生成し、3つの負の検出電圧パルスVnは3つの負の検出電流パルスInを生成する。正の検出電流パルスIpは、それぞれ約I1の最大絶対値を有し、負の検出電流パルスInは、それぞれI1よりも大きい約I2の最大絶対値を有する。
【0042】
制御エレクトロニクス28は、全ての正の検出電流パルスIpを評価すること、特に、3つの正の検出電流パルスIpの最大絶対値を加算することによって、第1検出パラメータP1を判定する。また、制御エレクトロニクス28は、全ての負の検出電流パルスIpを評価すること、特に、3つの負の検出電流パルスInの最大絶対値を加算することによって、第2検出パラメータP2を判定する。
【0043】
制御エレクトロニクス28は、判定された第1検出パラメータP1と第2検出パラメータP2とを比較して、静止しているモータ回転子24の現在の磁気配向、すなわち静止している回転子の現在の静止位置を判定する。
【0044】
モータ回転子24が第1静止位置RP1に向いている場合、すなわち、磁気回転子の北極Nが第1磁極脚部18に隣接して位置している場合、生成された正の電磁界は弱められ、生成された負の電磁界はモータ回転子24の永久磁界によって強めれている。また、モータ回転子24が第2静止位置RP2に向いている場合、すなわち、磁気回転子の北極Nが第2磁極脚20に隣接して位置している場合、生成された正の電磁界は強められ、生成された負の電磁界はモータ回転子24の永久磁界によって弱められている。したがって、モータ回転子24が第1静止位置RP1に向いている場合には、判定された第2検出パラメータP2は、判定された第1検出パラメータP1の値よりも高く、モータ回転子24が第2静止位置RP2に向いている場合には、判定された第1検出パラメータP1は、判定された第2検出パラメータP2の値よりも高い。
【0045】
図2cに概略的に示されるように、判定された第2検出パラメータP2の値は、判定された第1検出パラメータP1の値と比較して著しく高い。したがって、この場合、静止しているモータ回転子24は、
図1に示すように、第1静止位置RP1に向いている。
【0046】
制御エレクトロニクス28は、続いて加速手順を実行することで、静止しているモータ回転子24を加速させるように構成されている。加速手順において、制御エレクトロニクス28は、パワーエレクトロニクス26を制御して、交流駆動電圧Vdで固定子コイル16に通電する。ここで、駆動電圧の初期電気極性は、静止しているモータ回転子24における判定された磁気配向に基づいて定められる。
【0047】
静止しているモータ回転子24が第1静止位置RP1に向いている場合、駆動電圧Vdには正の初期電気極性が与えられ、その結果、最初に正の電磁界が生成される。これにより、静止しているモータ回転子24は、第1静止位置RP1から第1駆動位置DP1に向けて加速される。また、静止しているモータ回転子24が第2静止位置RP2に向いている場合、駆動電圧Vdには負の初期電気極性が与えられ、その結果、最初に負の電磁界が生成さる。これにより、静止しているモータ回転子24は、第2静止位置RP2から第2駆動位置DP2に向かって加速される。
図3aに示す例では、静止しているモータ回転子24が第1静止位置RP1に向いているため、駆動電圧Vdには正の初期電気極性が与えられている。
【0048】
制御エレクトロニクス28は、電流センサ32を介し、交流駆動電圧Vdによって、固定子コイル16に発生する駆動電流Idを連続的に監視するように構成される。
図3に示す通り、制御エレクトロニクス28は、測定された駆動電流Idが所定の正の電流閾値Itpまたは所定の負の電流閾値Itnに達するたびに、駆動電圧Vdを転流するように構成される。駆動電流Idの実効値は、モータ回転子24の現在の回転位置に依存するので、上述の転流方式により、駆動電圧Vdの間接的な回転子位置制御転流が行われる。
【0049】
また、制御エレクトロニクス28は、
図3aに示す通り、初期ランプ位相Rの間に、パルス幅変調駆動信号PWMのデューティ比Dを所定の設定デューティ比Dsまで連続的に増加させることにより、駆動電圧Vdの実効振幅を所定の設定実効電圧振幅Vsまで連続的に増加させるように構成される。さらに、電流閾値を用いた制御により駆動電圧Vdを転流するため、駆動電圧Vdの連続的に増加する交流周波数を得ることができる。
【符号の説明】
【0050】
10 センサレス単相電気モータ
12 モータ固定子
14 固定子本体
16 固定子コイル
18 第1磁極脚部
20 第2磁極脚部
22 ブリッジ部
24 モータ回転子
26 パワーエレクトロニクス
28 制御エレクトロニクス
30 固定子接続線
32 電流センサ
D デューティ比
DP1 第1駆動位置
DP2 第2駆動位置
Ds 設定デューティ比
I 供給電流
In 負の検出電流パルス
Ip 正の検出電流パルス
Itn 負の電流閾値
Itp 正の電流閾値
N 磁北
P1 第1検出パラメータ
P2 第2検出パラメータ
PWM パルス幅変調駆動信号
R ランプ位相
RP1 第1静止位置
RP2 第2静止位置
S 磁南S
t 時間
V 実効供給電圧
Vd 交流駆動電圧
Vn 負の検出電圧パルス
Vp 正の検出電圧パルス
Vs 設定実効電圧振幅
【国際調査報告】