(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】非線形のスペクトルの拡幅およびデコヒーレンスに対してのファイバ増幅器システムの抵抗力(resistance)
(51)【国際特許分類】
H01S 3/10 20060101AFI20221027BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20221027BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H01S3/10 D
H01S3/067
G02F1/01 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511209
(86)(22)【出願日】2020-08-13
(85)【翻訳文提出日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 US2020046126
(87)【国際公開番号】W WO2021045880
(87)【国際公開日】2021-03-11
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520128820
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100173565
【氏名又は名称】末松 亮太
(72)【発明者】
【氏名】グッドノ,グレゴリー・ディー
【テーマコード(参考)】
2K102
5F172
【Fターム(参考)】
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD10
2K102DC08
2K102EA25
2K102EB08
2K102EB16
2K102EB20
5F172AM08
5F172DD06
5F172NN05
5F172NN22
5F172NP02
5F172NR03
(57)【要約】
ファイバ・レーザ増幅器システムにおいての非線形周波数シフトを低減し、誘導ブリルアン散乱(SBS)を抑制するための方法。方法は、特定の波長を有する少なくとも1つのシード・ビームを提供することと、シード・ビームをスペクトル拡幅するように、RF波形を用いてシード・ビームを周波数変調することとを含み、RF波形は大きい変調度を有する比較的低速の波形である。方法はまた、周波数変調されたシード・ビームを、大きい非線形位相シフトを有し且つ周波数変調(FM)から振幅変調(AM)への変換を示す増幅器を用いて増幅することを含み、変調度は増幅器の非線形位相シフトよりもかなり大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバ・レーザ増幅器システムにおいての非線形周波数シフトを低減し、誘導ブリルアン散乱(SBS)を抑制するための方法であって、
特定の波長を有する少なくとも1つのシード・ビームを提供するステップと、
前記少なくとも1つのシード・ビームをスペクトル拡幅するために、RF波形を用いて前記シード・ビームを周波数変調するステップであって、前記RF波形は大きい変調度を有する比較的低速の波形である、ステップと、
変調された前記シード・ビームを、大きい非線形位相シフトを有し且つ周波数変調(FM)から振幅変調(AM)への変換を示す増幅器を用いて増幅するステップであって、前記変調度は前記非線形位相シフトよりもかなり大きい、ステップと
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に係る方法であって、RF波形を用いて前記少なくとも1つのシード・ビームを周波数変調する前記ステップは、区分的放物線状RF波形を用いて前記少なくとも1つのシード・ビームを周波数変調するステップを含む、方法。
【請求項3】
請求項1に係る方法であって、RF波形を用いて前記少なくとも1つのシード・ビームを周波数変調する前記ステップは、シングル・トーンRF波形を用いて前記少なくとも1つのシード・ビームを周波数変調するステップを含む、方法。
【請求項4】
請求項3に係る方法であって、前記シングル・トーンRF波形の周波数は100MHzである、方法。
【請求項5】
請求項1に係る方法であって、周波数変調された前記シード・ビームを、複数の分割および周波数変調されたシード・ビームへと分割するステップと、位相コントローラを用いて、分割された各シード・ビームの位相を制御するステップと、各増幅器が大きい非線形位相シフトを有し且つFM-AM変換を示すものである複数の増幅器により、周波数変調された分割されたシード・ビームを増幅するステップとを更に含み、前記方法は、増幅した前記シード・ビームを合成するコヒーレント・ビーム合成光学系へ、増幅した前記ビームを提供するステップを更に含むものである、方法。
【請求項6】
請求項5に係る方法であって、クロック信号により前記RF波形を同期させるステップと、前記クロック信号を用いて、分割された前記シード・ビームの位相誤差を同期的に検出するステップと、互いに同位相の増幅された前記ビームをロックするように、検出された前記位相誤差を前記位相コントローラへ印加するステップとを更に含む方法。
【請求項7】
請求項1に係る方法であって、前記少なくとも1つのシード・ビームは、異なる波長を有する複数のシード・ビームであり、比較的低速の波形および大きい変調度を有し且つ変調された前記シード・ビームを複数の増幅器により増幅するRF波形により、各シード・ビームは周波数変調されており、各増幅器は、大きい非線形位相シフトを有し且つFM-AM変換を示すものであり、前記方法は、増幅された前記シード・ビームをスペクトル的に合成するスペクトル・ビーム合成光学系へ、増幅された前記ビームを提供するステップを更に含むものである、方法。
【請求項8】
請求項1に係る方法であって、増幅される前に前記少なくとも1つのシード・ビームの偏波解消を行うテップを更に含む方法。
【請求項9】
請求項8に係る方法であって、前記シード・ビームの偏波解消を行う前記ステップは、前記シード・ビームを2つのシード・ビームに分割するステップと、分割した前記シード・ビームのうちの1つを遅延させるステップと、分割して遅延させた前記シード・ビームと、分割された他方のシード・ビームとを合成するステップとを含み、前記遅延は、周波数変調された前記シード・ビームの光学コヒーレンス時間よりもかなり小さい値に設定される、方法。
【請求項10】
請求項8に係る方法であって、前記シード・ビームの偏波解消を行う前記ステップは、前記シード・ビームを複屈折偏波保持(PM)ファイバへ提供するステップを含み、前記複屈折偏波保持(PM)ファイバは、入力PMファイバに対して45度でスプライスされ、それにより、等しいパワーが前記PMファイバの低速軸と高速軸とのそれぞれへ放たれて複屈折遅延を引き起こさせるものであり、前記複屈折遅延は、前記PMファイバの長さおよび複屈折率を選択することにより、変調された前記シード・ビームの光学コヒーレンス時間よりもかなり小さい値に設定される、方法。
【請求項11】
ファイバ・レーザ増幅器システムにおいての非線形周波数シフトを低減し、誘導ブリルアン散乱(SBS)を抑制するための方法であって、
特定の波長を有する少なくとも1つのシード・ビームを提供するステップと、
前記少なくとも1つのシード・ビームをスペクトル拡幅するために、RF波形を用いて前記シード・ビームを周波数変調するステップであって、前記RF波形は大きい変調度を有する比較的低速の波形である、ステップと、
周波数変調された前記シード・ビームを、増幅器を用いて増幅するステップと
を含む方法。
【請求項12】
請求項11に係る方法であって、RF波形を用いて前記少なくとも1つのシード・ビームを周波数変調する前記ステップは、区分的放物線状RF波形を用いて前記少なくとも1つのシード・ビームを周波数変調するステップを含む、方法。
【請求項13】
請求項11に係る方法であって、周波数変調された前記シード・ビームを、複数の分割および周波数変調されたシード・ビームへと分割するステップと、位相コントローラを用いて、分割された各シード・ビームの位相を制御するステップと、各増幅器が大きい非線形位相シフトを有し且つ周波数変調(FM)から振幅変調(AM)への変換を示すものである複数の増幅器により、周波数変調された分割されたシード・ビームを増幅するステップとを更に含み、前記方法は、増幅した前記シード・ビームを合成するコヒーレント・ビーム合成光学系へ、増幅した前記ビームを提供するステップを更に含むものである、方法。
【請求項14】
請求項11に係る方法であって、前記少なくとも1つのシード・ビームは、異なる波長を有する複数のシード・ビームであり、比較的低速の波形および大きい変調度を有し且つ変調された前記シード・ビームを複数の増幅器により増幅するRF波形により、各シード・ビームは変調されており、各増幅器は、大きい非線形位相シフトを有し且つ周波数変調(FM)から振幅変調(AM)への変換を示すものであり、前記方法は、増幅された前記シード・ビームをスペクトル的に合成するスペクトル・ビーム合成光学系へ、増幅された前記ビームを提供するステップを更に含むものである、方法。
【請求項15】
請求項11に係る方法であって、増幅される前に前記少なくとも1つのシード・ビームの偏波解消を行うテップを更に含む方法。
【請求項16】
ファイバ・レーザ増幅器システムにおいての非線形周波数シフトを低減し、誘導ブリルアン散乱(SBS)を抑制するためのシステムであって、
特定の波長を有する少なくとも1つのシード・ビームを提供する手段と、
前記少なくとも1つのシード・ビームをスペクトル拡幅するために、RF波形を用いて前記シード・ビームを周波数変調する手段であって、前記RF波形は比較的低速の波形であり大きい変調度を有するものである、手段と、
周波数変調された前記少なくとも1つのシード・ビームを増幅する手段であって、前記増幅する手段は、大きい非線形位相シフトを有し、周波数変調(FM)から振幅変調(AM)への変換を示すものであり、前記変調度は、前記非線形位相シフトよりもかなり大きいものである、手段と
を含むシステム。
【請求項17】
請求項16に係るシステムであって、周波数変調された前記シード・ビームを、複数の分割され変調されたシード・ビームへと分割する手段と、分割された前記シード・ビームの位相を制御する手段とを更に含み、周波数変調された前記シード・ビームを増幅する前記手段は、分割された前記シード・ビームの全てを増幅し、前記システムは、増幅した前記シード・ビームを合成するためのコヒーレント・ビーム合成手段を更に含むものである、システム。
【請求項18】
請求項17に係るシステムであって、前記RF波形をクロック信号と同期させるため、および前記クロック信号を用いて、分割された前記シード・ビームの位相誤差を同期的に検出するため、および互いに同位相の増幅された前記ビームをロックするように、検出された前記位相誤差を、前記位相を制御する手段へ印加するための手段を更に含むシステム。
【請求項19】
請求項16に係るシステムであって、少なくとも1つのシード・ビームを提供する前記手段は、異なる波長を有する複数のシード・ビームを提供し、前記少なくとも1つのシード・ビームを周波数変調する前記手段は、各シード・ビームを周波数変調し、周波数変調された前記シード・ビームを増幅する前記手段は、前記シード・ビームの全てを増幅し、前記システムは、増幅された前記シード・ビームを合成するためのスペクトル・ビーム合成手段を更に含むものである、システム。
【請求項20】
請求項16に係るシステムであって、増幅される前に前記少なくとも1つのシード・ビームの偏波解消を行う手段を更に含むシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] この開示は、一般に、ファイバ・レーザ増幅器システムにおける、周波数変調(FM)から振幅変調(AM)への変換により駆動される非線形周波数シフトを低減する方法に関し、より具体的には、FM-AM変換(FM-to-AM conversion)により駆動される非線形周波数シフトを低減し、ファイバ・レーザ増幅器システムにおける誘導ブリルアン散乱(SBS)を抑制する方法に関し、この方法は、低速で大きい変調度のRF波形を用いてシード・ビームを変調してビーム幅を拡げる。
【背景技術】
【0002】
[0002] 高パワーレーザ増幅器には、工業、商業、軍事などを含む多くの応用がある。これら及び他の応用のために、レーザ増幅器の設計者は、レーザ増幅器のパワーを増加させる方法を継続的に研究している。1つの既知の型のレーザ増幅器はファイバ・レーザ増幅器であり、これは、シード・ビームと、シード・ビームを増幅して高パワー・レーザ・ビームを生成するポンプ・ビームとを受け取るドープされたファイバを用い、このファイバは、約10-20μmまたはこれより大きいアクティブ・コア径を有する。ファイバ・レーザ増幅器は、その高効率、高パワーのスケーラビリティ、および優れたビーム品質ゆえに、指向性エネルギ兵器のためのエネルギ源として有用である。
【0003】
[0003] ファイバ・レーザ増幅器の設計における改善により、そのファイバの出力パワーは、その実際的なパワーおよびビーム品質の限界に近づくように増加された。ファイバ増幅器の出力パワーを更に増加させるために、幾つかのファイバ・レーザ・システムは、複数のファイバ・レーザ増幅器を用い、増幅されたビームを何らかの形で合成して高いレーザ・ビーム・パワーを生成する。この型のファイバ・レーザ増幅器システムについての設計における挑戦は、複数のファイバ増幅器からの複数のビームを合成することであり、複数のビームが1つの合成されたビーム出力を提供するような形にして、そのビームが小さい焦点へ焦点合わせ可能なようにすることである。長距離(ファーフィールド)で合成ビームを小さい点へ焦点合わせすることは、ビームの品質を限定する(define)。
【0004】
[0004] コヒーレント・ビーム・コンバイニング(CBC)と呼ばれる1つの既知の複数ファイバ増幅器の設計では、マスタ発振器(MO)がシード・ビームを生成し、これは、それぞれが共通の波長を有する複数の分割されたシード・ビームへと分けられ、各シード・ビームは増幅される。増幅されたそれらのシード・ビームは、その後、回折光学素子(DOE)または他の光学系へ向けられ、これが、コヒーレントの増幅された複数のビームを1つの出力ビームへと合成する。DOEは、素子において形成された周期的構造を有し、そのため、それぞれが僅かに異なる角方向を有する個々の増幅されたビームがその周期的構造により向きを変えられたとき、それらのビームの全てはDOEから同じ方向へ回折される。各シード・ビームに関しては、増幅された出力ビームのサンプルから導き出された誤差信号が位相変調器へ提供され、これは、ビームの位相を制御して、全シード・ビームの位相がコヒーレントに維持されるようにする。CBCファイバ増幅器システムに関しての主な要求は、高いビーム・コヒーレンスであり、これは、ビームの狭いスペクトル線幅ということに等しい。スペクトルの広いイッテルビウム(Yb)でドープされたファイバ増幅器を用いるCBCレーザ・システムに関しては、ファイバのパス長(飛行時間)は、レーザ・コヒーレンス長の小さい小部分(small fraction)内となるように正確に一致させなければならなず、これは、広い線幅への技術的な挑戦である。即ち、位相制御帯域についての制限および波面誤差は、コヒーレントに合成できる増幅されたビームの数を制限し、これはファイバ・レーザ増幅器システムの出力パワーを制限する。
【0005】
[0005] スペクトラル・ビーム・コンバイニング(SBC)と呼ばれる別の既知の複数ファイバ増幅器設計では、複数のマスタ発振器(MO)が複数の異なる波長の複数のシード・ビームを生成し、各シード・ビームが増幅される。複数の増幅されたシード・ビームは、その後、回折格子または他の波長選択素子へ向けられ、これが、異なる波長のファイバ・ビームを1つの合成出力ビームへと合成する。回折格子は、格子において形成された周期的構造を有し、そのため、それぞれが僅かに異なる波長および角方向を有する個々の増幅されたビームがその周期的構造により向きを変えられたとき、それらのビームの全ては回折格子から同じ方向へ回折される。SBCシステムに関する主な要求は、狭いスペクトル線幅である。スペクトルの広いYbドープ・ファイバ増幅器を用いるCBCレーザ・システムに関しては、合成出力ビームのビーム品質は、回折格子からの角分散により低下させられ得る。ファイバ増幅器が狭い線幅を有することを維持することにより、より多くの波長チャンネルが増幅器チューニング範囲内にパックされることが可能にされ、高パワーへのスケーリングが可能にされる。しかし、スペクトルの明るさの制限のため、波長合成できるファイバ・ビームの数が制限され、従って、ファイバ・レーザ増幅器システムの出力パワーが制限される。
【0006】
[0006] これらの制限を克服してレーザ・ビーム・パワーを更に増加させるために、複数のマスタ発振器を提供して様々な周波数でシード・ビームを生成することができ、その場合、個々の波長のシード・ビームのそれぞれは、複数のシード・ビームへと分割され、各グループのシード・ビームは同じ波長を有し、相互にコヒーレントであるので、CBCとSBCとのハイブリッド・ファイバ・レーザ増幅器システムを提供する。それぞれの波長のコヒーレントのシード・ビームの各グループは、最初に、DOEまたは他の光学系によりコヒーレントに合成されて、そのグループのビームが、コヒーレントに合成されたビームのグループとして共に伝播するようにされ、次に、コヒーレントに合成されたビームの各グループが、僅かに異なる角度でSBCの回折格子へ向けられ、それが、それらのビームを、複数波長の1つの合成ビームとして、同じ方向へ回折する。SBCの回折格子はまた、異なる波長のビームを合成するための周期的構造を含む。
【0007】
[0007] 細い線幅のYbドープ・ファイバ増幅器のパワー・スケーリングは、現在、2つの別個の非線形の光学的な欠陥、具体的には、誘導ブリルアン散乱(SBS)と自己位相変調(SPM)とにより制限されており、主な非線形の欠陥はSBSである。SBSは非線形的な効果であり、これは、レーザの電場が、電気歪みによりファイバ・コアに位相格子を生成し、順方向伝播するビームの幾らかの小部分を反射する。その格子の実効反射率が大きくなりすぎる場合、ファイバ増幅器からの出力パワーは低減され、その損失したパワーは上流側の低パワー・コンポーネントへと逆向きに反射されて、最終的に壊滅的な被害をもたらす。SBSのスレッショルドはスペクトルの明るさ(~パワー/線幅)に比例するので、SBSは、単一周波数のファイバ・レーザから使用可能なパワーを数百ワットに制限する。SBSのスレッショルド・パワーを増加させるために、位相変調、または最終的には周波数変調(FM)を用いて、ファイバ・レーザの入力シードのスペクトルを数GHzドメインへと拡げるのが一般的な方法である。これは、光コヒーレンス長を低減し、従って、SBS利得を低減する。Ybドープ・ファイバ増幅器のパワーが数kWレベルへと増加すると、または、デリバリ・ファイバの長さが増加すると、SBSを抑制するために、より広いFM線幅が必要とされる。典型的には、線幅は、Ybドープ・ファイバ増幅器に関しては約(~)10-20GHz/kWのオーダーのパワーと共にほぼ線形的に増加する。SBSで制限される線幅を低減させる、即ち、SBSで制限されるファイバのスペクトルの明るさを増加させることにより、ビーム合成型のファイバ・レーザ・システムのスケーリングを、より高いパワーにすることが可能となり得る。
【0008】
[0008] レーザ・チェーンのためのマスタ発振器のシード・ビームのソースは、典型的には、単一周波数レーザ・ソースである。シード・ビーム・ソースの光学的な線幅は、典型的には、後続の高パワーファイバ増幅器チェーンにおけるSBSを抑制するために、RF波形により駆動される電気光学位相変調器(EOM)を用いてシード・ビームへFMを課すことにより、拡げられる。拡げられた光学的な線幅は、典型的には、FM変調度に比例し、それは、印加されるRF波形の電圧の振幅に比例する。ここで用いてる「大きい変調度のRF波形」という用語は、EOMを駆動する際に用いられたときに高い変調度の位相シフトをもたらす十分に高い電圧を持つRF波形を指すことに、留意されたい。
【0009】
[0009] SBSを抑制するためにレーザ・シード・ビームの線幅を拡げるためにFMを印加するためのEOMの駆動に用いられる様々なRF波形の影響を研究する多くの公有文書がある。一般に、既知の技術の目的は、SBSのスレッショルドを、所与の光学的スペクトル線幅に関して、可能なかぎり高く上げることである。SBSの抑制のためにFMを印加するためにEOMを駆動するために用いられる2つの一般的なRF波形は、ホワイト・ノイズと擬似ランダム・ビット・シーケンス(PRBS)とである。別の技術は、区分的放物線状RF波形(piecewise parabolic RF waveform)をEOMへ適用してシード・ビーム・ソースを統合し、その光周波数は時間とともに反復的にチャープ・アップおよびチャープ・ダウンされる。この技術が予言するのは、反復的にチャープされるシード・ビーム・ソースが、ノイズ変調されたシードよりも~1.9x良いSBS抑制を提供でき、、かつPRBSより~1.2x良いものを提供できる、ということである。チャープされたシード・ビームは、改善されたSBS性能を有するが、それは、その平らでウイングの無いスペクトルによるものであり、また、チャープ・レートおよびチャープ期間を、ファイバにおける実効SBS相互作用長(the effective SBS interaction length)を最適に一致するように、調節可能に適合させる能力によるものである。コンパクトなチャープされたスペクトルは、合成格子からの角分散により広いスペクトル・ウイングが合成ビーム品質を劣化させることとなるPRBSまたはノイズ・スペクトルよりも、高密度のSBCに対してより良く適合する。
【0010】
[0010] 光学的欠陥のSPMは、Bインテグラル(B-integral)、即ち、非線形位相シフトによりパラメータ表記され、制御されていないAMの低いレベルを位相ノイズへと変換することによりビーム・コヒーレンスを低下させ得る。この非線形の効果は、CBCの効率またはSBCのビーム品質を制限し得るものであり、従って、ファイバ・レーザ・システムの性能を低減する。特定的には、スペクトルの明るさの損失や、光コヒーレンスの損失がある。これらの影響を避ける又は減らすために、一般的には、ファイバ増幅器にシードを与えるシード・ビームを伝播する相対強度雑音(RIN)としても知られているAMの量を、制限することが望ましい。振幅変調を提供せずに周波数変調を提供するようにシード・ビームのスペクトルを拡げる技術を、ファイバ増幅器でインプリメントすることができ、その場合において、シード・ビームが周波数変調のみされる場合は、SPMを駆動するカー非線形性は問題を生じさせず、即ち、シード・ビームの非時間依存の非線形の位相シフトである。しかし、FM-AM変換により慎重にであれ不注意にであれAMが課された場合、SPMは、ファイバ増幅器から発せられたビームの非線形スペクトル拡幅がなされる原因となり得、これはSBCの間のビーム品質を低下させ得る。
【0011】
[0011] 一般に、コヒーレントにビームを合成するファイバ・レーザ・システムにおいて、ストレール比で定められたビーム品質の低下を1%より下に維持するために、非線形SPM位相変動をB*RIN<0.1ラジアンのように維持することが望ましい。Bインテグラルが10ラジアンの典型的な1.5-2kWのファイバ増幅器に関して、これは、RIN<1%を維持する要求を暗示する。SBCファイバ・レーザ・システムにおいてSPMからの非線形のビーム品質の低下を避けるために、元のFMシード・ビームの線幅の小部分に対しての何れの非線形周波数シフトも抑制する必要がある。従って、AMを僅かに有するか全く有さない、即ち、一定のパワー対時間を持つFMシード・ビーム・ソースを用いることは、工業標準的なことである。しかし、制御されていないAMへとFMをなおも部分的に変換する多くの効果が観察されており、これは、SPMを通しての非線形の劣化の原因となり得る。これらの効果は、偏波ミキシング(polarization mixing)、色分散、スペクトル・フィルタリング、または、一般的に、多経路干渉(MPI)の効果を含む。ファイバ・コンポーネントまたはファイバ・ベースのシステムにおけるMPI効果の典型的なシグネチャは、周期的変調パターンを示すスペクトル依存の伝導(transmission)である。
【0012】
[0012] ファイバ増幅器システムのコンポーネントにおける多経路干渉の効果は、FMを、制御されていないAMへと部分的に変換(FM-AM変換)することが観察されており、これは、SPMを介しての非線形の低下の原因となり得る。多くの種々の物理的効果がFM-AM変換の原因であり、それらは、分散、コンポーネント面または継ぎ目(splices)の間でのエタロニング、偏波ミキシングおよび空間モード混合を含む。FM-AM変換の効果は、ファイバ増幅器の測定されたスペクトル伝導(spectral transmission)から推測できる。測定されたスペクトル伝導が強く周波数に依存する場合、シード・ビームへ課されたFMに起因してレーザの瞬間的周波数が時間と共に変化すると、ファイバ増幅器の伝導も変化して、時間依存のパワーの変化(AM)が生じる。FM-AM変換は干渉法的現象なので、コンポーネントのレベルで取り除くのは難しい。SBSで制限されたFMシード・ビーム線幅がパワー(典型的には~10-20GHz/kW)と共に増加すると、AMは大きくなる。SPMは、AMとファイバのBインテグラルとの積として大きさが変更され、これはまたパワー(市販のファイバ・アンプに関しては、典型的には~5ラジアン/kW)と共に増加するので、SPMで駆動されるスペクトルの拡幅は、パワーと共に速く増大することができ、複数kWファイバの合成性(combinability)を制限する支配的な機構となる。
【0013】
[0013] スペクトル変調のフリー・スペクトラル・レンジ(FSR)よりもかなり小さいFM線幅に関して、シード・ビームの相対波長およびスペクトル伝導ピークに応じてFM-AM変換の大きさが大きく変化し得ることは、技術的に知られている。ファイバにおけるFM-AM変換は、ビーム波長が伝導スペクトルのピークまたはヌルとアライメントされたとき最小になり、また、ビーム波長がピークとヌルとの間のときに最大になる。その理由は、FM信号の瞬間的周波数が時間とともに変化するからであり、従って、その伝導振幅もまた時間と共に変化するからであり、それが時間変化する出力パワー、即ち、AMを生じさせる。AM-FM変換の大きさは、ビーム帯域にわたってスペクトル伝導が可能なかぎり均一にされるときに最小にされ、これは伝導のピークまたはヌルの近くで生じる。
【発明の概要】
【0014】
[0014] SPMを低減させるためのこの技術における様々な技術を紹介した。1つのそのような技術は、Ybドープ・ファイバ増幅器の非均一なスペクトル伝導を補償するために入力シード光のスペクトル整形を適用することと、関連する。スペクトル整形器は、ファイバ増幅器により課せられるスペクトル伝導の逆のものを印加するために、低パワー・シード・ビーム・ファイバへ挿入される。これはAMと結果的なSPM駆動のスペクトル拡幅とを取り除くものであると知られていた。その欠点は、スペクトル検出器、アクチュエータ、およびアクティブ制御システムを付加する必要性に起因して、複雑性とハードウェアとが増すことである。別の技術は、Ybドープ・ファイバ増幅器におけるFM-AM変換を部分的に補償するために、入力シード・ビームの偏波を制御することと関連する。これは、FM-AM変換プロセスが偏波ミキシング効果により駆動される場合には作用する。しかし、FM-AM変換の他の原因に関しては効果が低くなり、また、付加的な検出器、アクチュエータ、およびコントローラを必要とすることで複雑性を加える。これらの努力にもかかわらず、付加的な検出器やアクチュエータや制御システムを必要とせずSPM駆動の非線形のスペクトル拡幅を軽減する技術が、必要とされている。
【0015】
[0015] 偏波解消されたシード・ソース(depolarized seed source)が、SBCベースのレーザ武器システムには望ましいものであり得るが、その理由は、それが、偏波されたシードと比較して更なるSBS抑制を提供するからであり、従って、より狭いビーム線幅を可能にするからである。偏波されたシード・ソースと比較して、偏波解消されたシード・ビームは、FM-AM変換に特に影響されやすいが、その理由は、軸がデポラライザ(depolarizer)の軸と整合されない部分的ポラライザ(partial polarizer)として働くファイバ増幅器チェーンの何れのコンポーネントも、以前に直交の偏波状態(previously orthogonal polarization states)のミキシングの原因となり得、大きいAMを生じさせるからである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、増加させたビーム線幅を提供するために、シード・ビームを変調する低速で大きい変調度のRF波形を用いる、非線形周波数シフトを低減するため及びSBSを抑制するための方法を用いるファイバ・レーザ増幅器システムの概略的ブロック図である。
【
図2】
図2は、増加させたビーム線幅を提供するために、シード・ビームを変調する低速で大きい変調度のRF波形を用いる、非線形周波数シフトを低減するため及びSBSを抑制するための方法を用いるSBCファイバ・レーザ増幅器システムの概略的ブロック図である。
【
図3】
図3は、増加させたビーム線幅を提供するため及びスプリット・ビーム時間遅延を用いてシード・ビームの偏波解消を提供するために、シード・ビームを変調する低速で大きい変調度のRF波形を用いる、非線形周波数シフトを低減するため及びSBSを抑制するための方法を用いるファイバ・レーザ増幅器システムの概略的ブロック図である。
【
図4】
図4は、増加させたビーム線幅を提供するため及び45度のスプライスされた偏波を維持するファイバ(45° spliced polarization maintaining fiber)を用いてシード・ビームの偏波解消を提供するために、シード・ビームを変調する低速で大きい変調度のRF波形を用いる、非線形周波数シフトを低減するため及びSBSを抑制するための方法を用いるファイバ・レーザ増幅器システムの概略的ブロック図である。
【
図5】
図5は、アクティブ位相制御を用いて、FM-AM変換により駆動される非線形周波数シフトから生じるデコヒーレンスを低減するCBCファイバ・レーザ増幅器システムの概略的ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[0021] 増加させたビーム線幅を提供するために、シード・ビームを変調する低速で大変調度のRF波形を用いる、非線形周波数シフトを低減するため及び誘導ブリルアン散乱(SBS)を抑制するための様々な方法を用いるファイバ・レーザ増幅器システムに関するこの開示の実施形態の下記の検討は、本質的に単なる例であり、この開示やその応用や使用を限定することを全く意図していない。
【0018】
[0022] 後に詳細に検討されるが、この開示は、スペクトル的にかつコヒーレントにビーム合成される、例えば、レーザ武器システムのために用いられる複数kWのファイバ・レーザ増幅器における非線形の欠陥の影響を低減するための様々なアーキテクチャおよび技術を説明する。アーキテクチャは、レーザ・ビーム線幅を拡幅するために既知のシステムで用いられる高速(高周波数)電気的RF波形を、低速(低周波数)大変調度RF波形に置換することを含む。既知の高速電気的RF波形に関しては、典型的に、SBSを抑制するために必要な光学線幅の量に基づいて、RF波形の周波数を相対的に高く設定することが望ましかったが、その理由は、電気的波形の周波数コンテンツが望ましい光学線幅に近いほど、その線幅を提供するために増幅される必要のある電気的波形が少ないからである。従って、望ましい光学線幅を得るために、高周波数で低振幅、即ち、低電圧の電気的波形を生成することが、平易で技術的に簡単である。低周波数、即ち、低速のRF波形が、現在はレーザ・スケーリングを制限する非線形スペクトル拡幅に対しての抵抗力を提供することを、計算が示している。FM-AM変換から生じるAMダイナミクス(AM dynamics)は、RF電気的波形のダイナミクスを追従する傾向がある。それ故に、AMダイナミクスに駆動されるSPMに起因する非線形周波数シフトも、RF電気的波形のダイナミクスを追従する傾向がある。従って、所与の光学線幅に関して、高速RF波形は、出力線幅へ複数のRF波形を付加する非線形スペクトル拡幅を提供し、これは、元の線幅と比べると重大なことである。同じ光学線幅を与える低速であるが高電圧、即ち、高変調度のRF波形に関して、非線形スペクトル拡幅は低い周波数の倍数であり、これは、元の光学線幅と比べると、無視可能である。従って、高速RF波形に関しては、光学線幅は望ましい線形よりも拡幅し、低速RF波形に関しては、光学線幅は大きくは変わらない。
【0019】
[0023] 上記で検討したように、SPM駆動のスペクトル拡幅を軽減するための発明的概念は、FM線幅拡幅のために用いられる既知の高速で低変調度のRF波形を、低速で高変調度のRF波形に置換することである。ファイバ増幅器における制御されていないFM-AM変換に起因して生じるAMは、一般に、印加されたRFのダイナミクスを追従する。それ故に、SPMにより生成される非線形の周波数は小さく、スペクトル拡幅は最小にされる。
【0020】
[0024] この概念は、利益の粗い概算をもたらすために概略的にパラメータ化することができる。ファイバ・レーザ増幅器システムは、単一周波数RF変調ソースと、レーザ・ビーム光学線幅にわたってゆっくりと変化するスペクトル伝導関数とを有する、と想定される。下記で参照される変数は、RF変調周波数としてのfmod(Hz)と、FM変調度としてのβ(ラジアン)と、ファイバ増幅器により課される非線形SPM位相シフトとしてのB(ラジアン)と、レーザ光学線幅としてのΔν(Hz)と、SPMに起因する非線形周波数シフトとしてのδνSPM(Hz)とを含む。
【0021】
[0025] 一定の前因子(pre-factor)を無視しての光学線幅は、ほぼ、
δν = βfmod
である。
【0022】
[0026] ゆっくりと変化する(大きいフリー・スペクトラル・レンジの)スペクトル伝導関数を伴うと、FM-AM変換から作られるAM周波数は、印加されるRF変調周波数fmodと同じくらい小さいオーダーである。最悪の場合のシナリオ(100%AM)では、SPMに起因する最大非線形周波数シフトは、
δνSPM = Bfmod
となる。
【0023】
[0027] 従って、上限の概算は、入力スペクトルが小部分
δνSPM/Δν = B/β
により非線形的に拡幅される、ということである。
【0024】
[0028] これは、β>>Bに関して、非線形的スペクトル拡幅は小さいべきであることを意味し、これは、所与のSBS制限された光学線幅に関して、小さい周波数fmodおよび大きい変調度βを提供するRF変調波形を伴う設計が、非線形的スペクトル拡幅に対して最大の抵抗力を提供することを、示唆する。
【0025】
[0029]
図1は、先に検討したように、FM-AM変換により駆動される非線形周波数シフトを低減するような形でFM線幅拡幅を提供し、かつSBS抑制を提供するファイバ・レーザ増幅器システム10の、簡素化したブロック図である。システム10は、特定の波長でファイバ16上にシード・ビームを生成するマスタ発振器(MO)14を有する単一の増幅チャンネル12を含む。シード・ビームはRF電気光学変調器(EOM)18へ提供され、これは、RFソース20からRF波形を受け取ってシード・ビームを変調してスペクトル拡幅を提供し、このRFソース20は、RF波形を増幅するための増幅器22を含む。しかし、ホワイト・ノイズや擬似ランダム・ビット・シーケンス(PRBS)などのような、既知のファイバ増幅器システムで行われていたように高速で低振幅のRF信号を提供するかわりに、RFソース20は、100MHzなどのような低速の、100ラジアンなどのような大変調度のRF波形を提供して、100ラジアン×100MHz=10GHzなどのような、望ましい光学線幅拡幅を達成する。別の実施形態では、RF波形は、例えば、瞬間的レーザ周波数が周期的チャープを示すようにする区分的放物線状RF波形とすることができ、これは、所与の光学線幅についてのスペクトル・ウイングにおいて少ないパワーを持つFM光スペクトルを生成する。EOM18は、システム10のシード・ビームが増幅される前の任意の適切な位置に配することができることに、留意されたい。
【0026】
[0030] スペクトル拡幅されたシード・ビームは、次に、非線形ファイバ増幅器24へ送られ、これは、複数のファイバ増幅段とすることができ、各段が、シード・ビームを増幅して増幅されたビームを提供するために、ポンプ・ビーム・ソースと、10-20μmのコアを有しイッテルビウム(Yb)でドープされた或る長さのファイバなどのような、或る長さのドープされたファイバとを含むことができる。複数のファイバ増幅段のそれぞれは、光アイソレータ、タップ・カプラ、ポンプ信号コンバイナ、ファイバ・ピグテイル、光フィルタなどのような、連続するコンポーネント(示さず)を含む。これらのコンポーネントとドープ・ファイバ段とは、スペクトル拡幅されたシード・ビームへFM-AM変換を課す。RF波形は大きい変調度βを有し、増幅器24は大きい非線形位相シフトB>>1を有し、システム10はβ>>Bとなるように構成され、SPM駆動されるスペクトル拡幅を避けるようにされる。増幅されたビームは、出力ファイバ26上に提供される。
【0027】
[0031]
図2は、上述のように、FM-AM変換により駆動される非線形周波数シフトを低減し且つSBS抑制を提供するような形でFM線幅拡幅を提供するSBCファイバ・レーザ増幅器システム30の簡素化したブロック図であり、システム10と同様のエレメントは同じ参照番号で特定される。システム30は複数のシステム・チャンネル12を含み、各チャンネルは、ファイバ16上にシード・ビームを生成するMO14を有するが、異なるチャンネルのMO14は異なる波長でシード・ビームを生成する。チャンネル12の増幅器24のそれぞれからの増幅されたビームは、内部に形成された周期的構造を有する格子(示さず)を含むSBC合成光学系32へ送られ、それにより、それぞれが少し異なる波長および角方向を有する個々の増幅されたビームがその周期的構造により向きを変えられたとき、それらのビームの全ては、回折格子から、合成出力ビーム34と同じ方向へ回折される。
【0028】
[0032] 上記の分析は、偏波されたシード・ビームには有効である。コヒーレンス時間1/Δνのオーダー又はこれより大きい複屈折時間遅延を引き起こすデポラライザと組み合わせて既知のFMを用いて生成された偏波解消されたビーム(depolarized beam)に関しては、後続の偏波ミキシング(FM-AMミキシング(FM-to-AM mixing))により作られるAM周波数は光学線幅と似たものであり、従って、SPMに起因する非線形周波数シフトは、
δνSPM = BΔν
により与えられ、部分的スペクトル拡幅(fractional spectral broadening)は、
δνSPM/Δν = B
により与えられる。
【0029】
[0033] それ故に、偏波解消されたビームのスペクトル拡幅は、RF波形に依存することを予期されておらず、光学線幅のみに依存する。複屈折遅延をレーザ・コヒーレンス時間より小さい値へと低減することは、AMダイナミクスを低減し、従って、スペクトル拡幅を低減するが、SBSダイナミクスと関連する約数十ns(~10s of ns)の時間尺度にわたり測定されるレーザ・ビームの偏波度(degree of polarization)(DOP)が増加するというコストがかかり、これは、SBS利得を増加させ、SBSを抑制するために、より広い線幅を要求する。DOPが増加する理由は、低変調度のRF波形を伴い、光学コヒーレンス時間より小さい複屈折遅延を伴うと、πより小さい量だけ複屈折位相が変化する重大な時間窓があり、残留分極(residual polarization)をもたらすからである。
【0030】
[0034] 高速で低変調度の波形の代わりに高い変調度の低速のRF波形が用いられた場合、SBSと関連する数十nsの時間尺度のDOPを増加させずに、複屈折遅延を、レーザ・コヒーレンス時間よりもかなり小さい値へと低減することができる。その理由は、たとえ大きい変調度に起因する小さい複屈折遅延があったとしても、偏波ストークス・ベクトルは、SBSと関連する約数十nsの時間窓にわたって複数回、ポアンカレ球(Poincaire sphere)での完全な回転、即ち、完全2π複屈折位相シフトを描くからである。
【0031】
[0035] 三角波周波数チャープ波形は、チャープの符号において周期的変化を示し、これは周期的減速に対応し、この周期的減速は、それに続いて偏波状態(state of polarization)(SOP)ダイナミクスの方向の反転が生じるものである、ということに留意されたい。これらのSOP減速および反転は、複屈折遅延の2倍の窓を占め、そのため、この遅延が約数十nsのSBSコヒーレンス時間と比べて短いものであるかぎり、それらはSBS抑制に影響しないはずである。この条件は、典型的には~20-100MHzの範囲の、SBS抑制に関しての実際的に関心のあるチャープ・レート関しては、容易に満足させることができる。
【0032】
[0036]
図3は、SBCファイバ・レーザ増幅器システムの1つのチャンネルなどのような、ファイバ・レーザ増幅器システム60の概略的ブロック図であり、これは、上述のように、低速RF波形を用いてのFM-AM変換により駆動される非線形周波数シフトを低減するため、およびシード・ビームが増幅される前に偏波解消アセンブリ62を用いてのシード・ビームの偏波解消を提供するための方法を用い、ここでは、システム10と同様のエレメントは同じ参照番号で特定される。EOM18からの拡幅および偏波されたシード・ビームは、偏波解消アセンブリ62へ送られ、そこで、ビームは50%ビーム・スプリッタ64により分割され、1つの分割ビームは、複屈折時間遅延ビームを提供するために時間遅延デバイス66、即ち、或る長さのファイバへ送られ、ここでは、低周波数で高変調度のRF変調波形が原因で、SBS抑制と関連する時間尺度にわたってDOPを増加させることなく、時間遅延の値を、レーザ・コヒーレンス時間(~1/光学線幅)よりもかなり小さくすることができる。遅延させた分割ビームと、スプリッタ64からの他の分割ビームとは、アセンブリ62の偏波ビーム・スプリッタ68により合成され、それにより、合成ビームの出力偏波状態(SOP)は、光学線幅よりもかなり小さい時間的ダイナミクスを示すが、十分に速い速度であり、そりにより、SBSと関連する時間尺度において、ビームは完全に偏波解消されて現れ、そこでは、時間遅延されたビームは1つの偏波軸に沿って方向付けされ、他のビームは直交する軸に沿って方向付けされる。
【0033】
[0037] SOP時間的ダイナミクスについては、ゼロからレーザ・コヒーレンス時間までの範囲で複屈折遅延の値を選択することにより、DC(~ゼロ周波数)から全光学線幅までの範囲の任意の値を選ぶことができる。複屈折遅延は、それがレーザ・コヒーレンス時間よりかなり小さいものであるが、SBSと関連する時間尺度(約数十ns)と比較してSOPダイナミクスが高速であるような、十分に大きいものであるように、選択することができる。ファイバ増幅器24の後の偏波ミキシング(FM-AM変換)で作られるAM周波数は、SOPダイナミクスに従う。従って、複屈折時間遅延がレーザ・コヒーレンス時間よりもかなり小さい値に設定された場合、結果的に生じるAMダイナミクスは光学線幅よりかなり小さくなり、SPMに起因する非線形周波数シフトもまた光学線幅の小さい小部分となる。それ故に、非線形的スペクトル拡幅は、複屈折時間遅延がレーザ・コヒーレンス時間と似た値に設定されるシステムと比較して、低減される。
【0034】
[0038]
図4は、SBCファイバ・レーザ増幅器システムの1つのチャンネルなどのような、ファイバ・レーザ増幅器システム70の概略的なブロック図であり、このシステムは、FM-AM変換により駆動される非線形周波数シフトを低減するため、および上述のSBS抑制を提供するため、およびシード・ビームが増幅される前に偏波解消アセンブリ72を用いてシード・ビームの偏波解消を提供するための方法を用いるものであり、システム10と同様のエレメントは同じ参照番号により特定される。この実施形態では、偏波解消アセンブリ72は、複屈折偏波保持(PM)ファイバ74を含み、これは入力PMファイバに対して45度でスプライスされ、それにより、等しいパワーがファイバ74の低速軸と高速軸とのそれぞれへ放たれる。複屈折時間遅延は、PMファイバ74の長さへその複屈折率を乗算することにより決定され、典型的には、上述の理由と同様の理由で、レーザ光学コヒーレンス時間よりかなり小さくなるように選択される。
【0035】
[0039] 非線形SPM欠陥の根本的な物理は、CBCおよびSBCに関して同じであるが、システムの影響は異なる。CBCに関して、問題は非線形的スペクトル拡幅自体ではなく、むしろ非線形的位相変動(nonlinear phase fluctuation)であり、これは、時間平均コヒーレンスを低減する位相変化を修正するシステムの能力より速く、従って、CBC合成効率を制限するものであり、これは、1-ΔΦ2として調整を行うことが知られており、ここでのΔΦはラジアンでのRMS位相変動である。例えば、RMS非線形位相誤差が0.1ラジアンである場合、CBC効率は1%低下する。
【0036】
[0040] 低速RF波形を用いることは、位相変動ΔΦの大きさや、アクティブ・サーボ・ベースの位相ロック(典型的には約数十kHz)に関連する時間尺度にわたってのコヒーレンスの損失に対して、直接に影響を与えず、ここでは、増幅されたビームは、RF信号の速度にかかわらず、SPMに起因する似たRMS位相ノイズΔΦを示す。しかし、低速RF波形は、コヒーレンスおよびCBC効率を回復するように、SPMの直接的時間ドメイン補償の期待を可能としない。その理由は、関連するAMとSPMとのダイナミクスが低速で周期的であるからであり、これは、比較的低速の検出および低速のコントローラを用いるアクティブな検出およびフィードバック・ベースの制御を実行可能にする。
【0037】
[0041] これらのサブGHz級のダイナミクスは、現代のEOM位相アクチュエータおよび駆動電子装置の能力内で適合させるには良い。SPMダイナミクスは、RF駆動波形と同じ周期性を示し、また、そうでないとしても、本質的に静止しているので、それらは、検出することができ、複数のサイクルにわたって平均することができ、補償のためのフィードバック制御は同様に低速とすることができ、ファイバ・パラメータに対する外部変化の速度により駆動される制御帯域幅を伴い、これは、SPMダイナミクス自体によるものではなく典型的にはHz級であり、例えば、パワーや極性化におけるドリフトである。
【0038】
[0042]
図5は、SPMが直接的に感知され時間ドメインにおいて補償されるCBCファイバ増幅器システム80の概略的なブロック図である。システム80は、FM EOM84へ送られるシード・ビームを生成するMO82を含む。EOM84は、シード・ビーム線幅を拡幅するために用いられるRF波形を反復するための周期性を提供する、例えば、数十MHzの、シード・ビーム・パス90上にクロック88により提供される低速クロック信号により制御される波形発生器86から、低速RF波形を受け取るものであり、クロック信号はまた、基準パスへも提供される。波形発生器86は、高変調度のRF波形を提供するために高電圧RF増幅器を含むことができる。変調されたシード・ビームはスプリッタ94により分割され、分割されたシード・ビームは、複数のCBCチャンネル96と基準パス98とへ送られる。分割され変調されたシード・ビームは、システム80のピストン位相サーボ・アクチュエータ(piston phase servo-actuator)としても働き得る各チャンネル96の制御EOM100へ送られ、次に、スペクトル的に歪める、即ち、FM-AM変換を引き起こす非線形ファイバ増幅器102で高パワーへと増幅される。各チャンネル96の増幅されたビームはコリメート光学系104でコリメートされ、次に、出力レーザ・ビーム108とするように、CBC合成光学系106で他の増幅されたビームと合成される。上記で検討したように、CBC合成光学系106はDOEまたは他の適切な光学系を含み、これは、コヒーレントの増幅されたビームを合成するものであり、DOEは、エレメント内に形成された周期的構造を有し、そのため、それぞれが僅かに異なる角方向を有する個々のビームがその周期的構造により向きを変えられたとき、それらのビームの全てはDOEから同じ方向へ回折される。パス98の基準ビームと共に、位相検出器112へ、合成出力ビーム108のサンプルはビーム・サンプラ110により提供される。基準ビームと各チャンネル96のサンプル・ビームとの間の、位相変動を検出する位相誤差信号は、個別の同期検出および平均デバイス114へ提供されて、パス92上のクロック信号により定められる時間期間にわたっての位相誤差変動が平均され、クロック88は、RFミキサのためのローカル発振器として動作し、平均された誤差信号は、各チャンネルに対しての個別のフィードバック・コントローラ116へ提供され、これは位相制御を提供するためにEOM100を制御する。
【0039】
[0043] システム80の多数の変形、特に、CBCのファイバ・チャンネルのアレイの環境での位相ロックおよびコヒーレンス測定の様々な電子的方法と関連するものが、可能である。特に、SPMを特定するため及び簡素化した制御スキームで修正するために、単に時間平均されたコヒーレンスと関連するメトリック(metrics)を用いることにより、何れのRF級の検出の使用も避ける(帯域幅の要求を、サブGHz級から、Hz級であり得る、外乱周波数の約10倍へと低減する)ことが可能であり得る。更に、位相の検出および/または発動(actuation)ではなく振幅を用いて、SPMダイナミクスを感知および修正すること、即ち、同期出力パワー変動を感知し、対応する反転された位相またはAMをシード入力へ適用することが、可能であり得る。
【0040】
[0044] シングル・トーン変調が、CBCファイバ増幅器の応用に関して理想的なRF駆動波形であり得ることに、留意されたい。シングル・トーンRFを用いることにより、三角波周波数チャープで示される急な転換は取り除かれ、これはまた、SPMのスロープにおける突然の変化を取り除く。シングル・トーンRFに関してのSPMダイナミクスは、RF周波数の基本および第2のハーモニックに制限され、従って、検出および発動の帯域幅の要求を緩和する。例えば、33MHzのRF周波数では、検出および発動の帯域幅は100MHzより小さくでき得る。制御パラメータの数は大幅に低減される。単に、低速RFの最初の1つまたは2つのハーモニックのRFの位相および振幅を調節することが、時間における平らにした位相プロフィール(flattened phase profile)を提供するには十分であり得る。
【0041】
[0045] 更に、全電子パス整合が、上述の低速RF手法を用いて実行可能に見える。低速RF信号を用いることにより、チャンネル間の制御されていない変量を感知すること及びアクティブに補償することができる。RF時間遅延を適用することは、次に、出力でレーザがコヒーレンス・パス整合されることを保証するであろう。
【0042】
[0046] 上記の検討は、単に本開示の例としての実施形態を開示および説明する。当業者は、このような検討から、および添付の図面および請求の範囲から、下記の請求の範囲で定めた本開示の精神および範囲から離れずにその中で様々な、変更、改造、および変形が可能であることを、容易に認識するであろう。
【国際調査報告】