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特表2022-546306エポキシ樹脂ベースの塗料ベース成分を含む水性コーティング組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂ベースの塗料ベース成分を含む水性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20221027BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20221027BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20221027BHJP
   C09D 179/02 20060101ALI20221027BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20221027BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20221027BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20221027BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20221027BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D7/61
C09D7/40
C09D179/02
C09D5/02
C08G59/50
C08G59/20
B32B27/38
B05D7/24 303E
B05D7/24 302U
B05D7/24 303A
B05D7/24 301E
B05D7/24 301U
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511246
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(85)【翻訳文提出日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2020072236
(87)【国際公開番号】W WO2021032505
(87)【国際公開日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】19192480.2
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】コントラット,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ローカムプ,ベアテ
(72)【発明者】
【氏名】ニーンハウス,エグベルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーファー,カリン
(72)【発明者】
【氏名】レセル,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】プルツィビラ,ジルケ
(72)【発明者】
【氏名】フェーゲリンク,ティム
(72)【発明者】
【氏名】シェプス,ジビレ
(72)【発明者】
【氏名】ティッゲマン,モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ゴシェガー,スフェン
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J036
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AE03
4D075AE05
4D075AE06
4D075BB01X
4D075BB02X
4D075BB02Z
4D075BB03X
4D075BB16X
4D075BB24Z
4D075BB25Z
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4D075BB65X
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4D075EC11
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4J036CB16
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4J038MA13
4J038NA03
4J038NA12
4J038PA07
4J038PA19
4J038PC02
(57)【要約】
本発明は、エポキシ樹脂ベースの塗料ベース成分(1)と、ポリアミンベースの硬化成分(2)とを含む特定の水性2成分コーティング組成物に関するものであり、塗料ベース成分(1)が、少なくとも1種の顔料(P)及び/又はフィラー(F)の少なくとも1種の水性分散体を少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)中に含み、少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)が、(i)1時間あたり17500マイクロメートル以下の最大沈降速度、及び0℃未満のガラス転移温度、又は(ii)1時間あたり少なくとも12500マイクロメートルの最大沈降速度、及び少なくとも0℃のガラス転移温度を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) エポキシ樹脂ベースの塗料ベース成分、及び
(2) ポリアミンベースの硬化成分
を含む水性2成分コーティング組成物であって、
前記塗料ベース成分(1)は、少なくとも1種の顔料(P)及び/又はフィラー(F)の少なくとも1種の水性分散体を、少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)中に含み、
そして前記少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)は、
(i) 1時間あたり17500マイクロメートル以下の最大沈降速度(光学キュベット遠心分離機で2050gの加速度、水で30%に希釈した固体で測定)、及び0℃未満のガラス転移温度(動的示差熱量によって測定、昇温速度10K/分、2回目測定時)、又は
(ii) 1時間あたり少なくとも12500マイクロメートルの最大沈降速度、及び少なくとも0℃のガラス転移温度
を有する、コーティング組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)が、
(i) 1時間あたり2500~17500マイクロメートルの最大沈降速度、及び-30℃~0℃未満のガラス転移温度、又は
(ii) 1時間あたり12500~30000マイクロメートルの最大沈降速度、及び0℃~20℃のガラス転移温度
を有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)が、500g/モル未満、好ましくは250g/モル未満、又は100~500g/モル、好ましくは150~250g/モルのエポキシ当量を有する、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記分散体が、前記コーティング組成物中に用いられるあらゆる顔料及び/又はフィラーを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記分散体が、前記少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)以外の他のエポキシ樹脂を含まない、請求項1から4のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記硬化成分(2)が、50~500g/モルのN-H当量を有するポリアミン成分を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記ポリアミン成分が、少なくとも1種のジ-及び/又は多官能性モノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)、及び第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多官能性ポリマー有機アミンを含む樹脂成分(R)を含む少なくとも1種の水性樹脂分散体(AD)を含み、前記樹脂成分(R)が150~400g/モルのNH当量を有し、そしてジ-及び/又は多官能性モノマー有機アミン(M)の質量割合が5~15質量%である、請求項6に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記硬化成分(2)中の前記ポリアミン成分のN-H官能基と、前記塗料ベース成分(1)中の前記エポキシ樹脂中のエポキシ基とのモル比が、0.7:1~0.95:1である、請求項1から7のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のコーティング組成物を基材に施与し、その後硬化させる、基材上に硬化したコーティングを製造する方法。
【請求項10】
硬化を20~80℃の温度で行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか1項に記載のコーティング組成物の施与及び硬化後に、ベースコート及びクリアコートの施与及びその後の同時の硬化又は別々の硬化により多層塗装系を製造する、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか1項に記載のコーティング組成物を欠陥の領域に施与し、前記コーティング組成物を硬化させて硬化したコーティング層を生成し、それから前記硬化したコーティング層を研摩することを含む、欠陥を有するマルチコート塗装系を補修する方法。
【請求項13】
前記硬化したコーティング層の研摩後に、ベースコート及びクリアコートの施与及びその後の共同の硬化又は別々の硬化により多層塗装系を製造する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項9から11のいずれか1項に記載の方法により製造されたコーティング。
【請求項15】
請求項12又は13に記載の方法により製造されたコーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のエポキシ樹脂ベースの塗料ベース成分と、ポリアミンベースの硬化成分とを含む水性コーティング組成物に関するものである。コーティング組成物は、水性研摩サーフェイサー又はプライマーサーフェイサーとしての適性に優れたものである。よって、基材に施与した後、続いて硬化させることによって、優れた接着性及び耐食性を有するサーフェイサー層を得ることが可能である。しかしながらとりわけ、得られるものは、優れた表面品質を有し、そして特に、例えば穴などの視覚的欠陥がほとんどないか、又はそのような欠陥が全くないサーフェイサー層である。このようにして、対応して優れた光学的品質を有する塗装系構造の全体を得ることが最終的に可能である。さらに、サーフェイサー層は優れた研摩性を有し、そしてそれ故、特に補修分野において非常に良好な使用性を有する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ-アミンの組み合わせに基づいて硬化性があり、そしてこのようにして腐食安定性のあるサーフェイサー層又はプライマーサーフェイサー層を形成することができる、水性サーフェイサー及びプライマーサーフェイサーが、原則として知られている。その特性のプロファイルは非常に複雑であり、そして既に述べた腐食安定性、及び鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、電着被覆及び古い塗装系などの様々な基材への良好な接着性という特定の特徴を有する。
【0003】
これらの系のさらなる重要な特性は、自動車の再仕上げ分野で構築されるサーフェイサー層が、中程度の温度で硬化した後であっても、及び塗装場において慣例の処理時間内であっても、許容可能な研摩性(sandability)を有することである。この研摩性は、ベースコート及びそれに続くクリアコートなどの層に均質な表面を作り出し、且つ塗装表面の審美的に高品質な外観を最終的に可能にするために、塗装の処理順序において大変重要である。
【0004】
しかしながら、この審美的外観のためには、サーフェイサー層自体に穴などの視覚的欠陥が非常に実質的にないことがさらに重要であることに留意されたい。先行技術の系が弱点を通常有するのは、まさにここである。
【0005】
WO97/49749A1には、硬化剤として特定のエポキシ-アミノウレタン付加物を含む水性エポキシ系をベースとするコーティング組成物が開示されている。これらは、非常に特定のアミノウレタン化合物をエポキシ化合物と反応させることによって得られる。このエポキシ化合物は、ポリアルキレンポリエーテルを1個以上のアミノ基と反応させることによって得られる。これらの付加物は、水性の2成分塗料、特に自動車用塗料に使用される。それらから製造された塗料又は塗料被覆は、良好な研摩性を有する。EP0387418A2に記載されている塗料は、その研摩性に関して不利な点があると述べられている。
【0006】
EP0387418A2には、エポキシ化合物用の硬化剤と、コーティング及びカバーリングの製造のためのその使用が開示されている。この硬化剤は、ポリアルキレンポリエーテルアミンを、化学量論的に過剰なジ-及び/又はポリエポキシ化合物と反応させ、次いで前記付加物を化学量論的に過剰なアミンと反応させることによって調製される。これらの硬化剤を用いて製造されたコーティング組成物は、良好な貯蔵安定性及び良好な硬化特性を有する。再仕上げについては言及されておらず、コーティングの研摩性についても、サーフェイサーにおける硬化剤の使用についても、言及されていない。
【0007】
EP0610787A2には、ポリエポキシド及びポリアルキレンポリエーテルポリオールの付加物(A)を、アミンとエポキシドとの反応生成物と反応させるか、又はアミン及びそれに続きエポキシドと反応させることによって得られる、水性エポキシ樹脂分散体用の硬化剤が記載されており、アミンはそれぞれの場合において化学量論的に過剰に使用される。対処される課題は、例えば、サーフェイサーを含むコーティング組成物において、良好な結合性及び硬度を得ることである。
【0008】
EP0523610A1は、塗布後、滑らかで欠陥のない表面を生成するエポキシド/アミンベースのコーティング組成物を記載している。これは、コーティング組成物中にポリウレタン樹脂を使用することによって達成される。
【0009】
US2006/0003166A1は、同様にエポキシド/アミンベースのプライマー及び/又はサーフェイサーを製造するための組成物を記載している。この組成物の使用は、垂れに対する良好な耐性を有するコーティング層の構築を可能にする。これは、特定のポリアミン成分の使用によって達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO97/49749A1
【特許文献2】EP0387418A2
【特許文献3】EP0610787A2
【特許文献4】EP0523610A1
【特許文献5】US2006/0003166A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって本発明が対処する課題は、先行技術の欠点を排除すること、及び施与及び硬化後に、特に自動車の再仕上げにおいて、良好な結合性、防食特性及びことにより研摩特性を有し、そしてさらに穴などの表面欠陥のない優れた表面品質を有する、水性コーティング組成物を提供することである。よってこの組成物は、サーフェイサー及びプライマーサーフェイサーとして、又はマルチコート塗装系におけるサーフェイサー層の製造にとって、特に良好な適合性を有することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的は、
(1) エポキシ樹脂ベースの塗料ベース成分、及び
(2) ポリアミンベースの硬化成分
を含む新規の水性2成分コーティング組成物によって達成されることが見出され、
前記塗料ベース成分(1)は、少なくとも1種の顔料(P)及び/又はフィラー(F)の少なくとも1種の水性分散体を、少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)中に含み、
そして少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)は、
(i) 1時間あたり17500マイクロメートル以下の最大沈降速度(光学キュベット遠心分離機で2050gの加速度、水で30%に希釈した固体で測定)、及び0℃未満のガラス転移温度(動的示差熱量によって測定、昇温速度10K/分、2回目測定時)、又は
(ii) 1時間あたり少なくとも12500マイクロメートルの最大沈降速度、及び少なくとも0℃のガラス転移温度
を有する。
【0013】
新規の水性2成分(2K)コーティング組成物は、本発明の主題であり、且つ本発明のコーティング組成物とも呼ばれる。本発明はまた、コーティング組成物を用いて基材上に硬化したコーティングを製造する方法を提供する。本発明は同様に、コーティング組成物を用いて欠陥を有する多層塗装系を補修するための方法を提供する。本発明はまた、上記のようにして製造されたコーティング層及び被覆された基材を提供する。
【0014】
驚くべきことに、顔料及び/又はフィラーを分散させるための塗料ベース成分中に、特定のエポキシ樹脂(E)を使用するだけで、標準的な分散及び粉砕手段を使用して適切に製造することができる(すなわち、特にミル内のレオロジー的分解(rheological degradation)プロセスなしで(もしあったとしても、処理が困難でしかない塗料がもたらされる))コーティング組成物が得られ、そして施与及び硬化後に、優れた性能特性を有し且つさらに非常に実質的に穴のない塗料層が得られることが分かった。他のエポキシ樹脂を使用すると、いくつかの場合では必要な分散によって塗料ベース成分を適切に製造できないことさえあり、或いは、分散が可能であった場合には、性能特性の非常に悪い塗料がもたらされる。塗料ベース成分中に分散させるために、エポキシ樹脂に対応する必要なポリアミン成分を使用することにより、原理的には許容できる特性を有する塗料が得られるが、この塗料は多数の微細孔を有するという欠点がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
好ましく使用される水性樹脂分散体(AD)
本発明のコーティング組成物は、好ましくは、樹脂成分(R)を含む特定の水性分散体(AD)を含有する。
【0016】
分散体、例えば樹脂分散体、相、或いは水性コーティング組成物に関連する「水性」という用語は、原則として知られている。意味することは、溶媒としてかなりの割合の水を含有する分散体又は混合物である。代替的に、水性の系が、例えば、特定の構成成分、例えば樹脂、顔料又は添加剤などを安定化させるための乳化剤の機能を備えた共溶媒として、少なくとも少量の有機溶媒を含有するのも可能であることが理解されよう。本発明における「水性」とは、好ましくは、問題の系、特に分散体が、各場合において存在する溶媒(すなわち、水及び有機溶媒)の合計量に基づいて、少なくとも40質量%、好ましくは少なくとも50質量%、さらにより好ましくは少なくとも60質量%の水の割合を有することを意味すると理解されるべきである。そして好ましくは、水の割合は、各場合において存在する溶媒の合計量に基づいて、50質量%~99質量%、特に60質量%~98質量%である。
【0017】
樹脂又は樹脂成分も同様に、原則として知られている定義に従って、有機構成成分、すなわち有機反応生成物、オリゴマー及び/又はポリマー、そして適切であれば、樹脂成分(R)のように、モノマーも含有する生成物を意味するものと理解される。樹脂は、多かれ少なかれモル質量の分布が広く、そして一般にコーティング組成物においてバインダーとして使用できる。よって樹脂は、硬化後に存在するコーティング層のポリマーネットワークの少なくともある割合を形成する。
【0018】
樹脂成分(R)は、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)、すなわち、第一級及び第二級アミノ基の群から選択される少なくとも2つのアミノ基を含む少なくとも1種のモノマーアミンを含有する。無論、第三級アミノ基がさらに存在することも不可能ではない。
【0019】
樹脂成分(R)において、全体的に使用され、それ故水性分散体(AD)中に存在するアミン(M)が、少なくとも65モル%程度まで、アミノ基と炭化水素単位とからなるアミンからなることが必須である。よってこれが意味するのは、特に他の官能基、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基又はニトリル基などが少量しか存在しないということである。アミン(M)の少なくとも75モル%程度、より好ましくは少なくとも90モル%程度が、アミノ基と炭化水素単位とからなるアミンからなることが好ましい。最も好ましくは、これらのアミンの割合は、100モル%である。
【0020】
対応するアミンの割合は、基本的には使用するアミンの量から自明である。しかし市販品などの製品を使用する場合には、製品(製品中でアミンが既に部分的に又は完全に互いに共有結合していることもある)を分析することにより、対応するアミンの割合を、上述の条件が満たされていることが直接明らかになる程度に決定することも、同様に可能である(例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析(MS)による分析)。
【0021】
好適なアミン(M)の例は、当業者に原則として既知のモノマーの脂肪族アミン、芳香族アミン及び脂肪芳香族(混合された脂肪族-芳香族)アミンである。
【0022】
二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミンの例には、以下が含まれる:エチレンジアミン、プロピレン-1,2-ジアミン、プロピレン-1,3-ジアミン、ブタン-1,4-ジアミン、オクタン-1,8-ジアミン、1,3-ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ネオペンタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、2,2,4-(2,4,4-)トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、ビス(ヘキサメチレンジアミン)、N,N-ジメチルアミノジプロピレントリアミン、ラウリルプロピレンジアミン、1,2-及び1,3-(m)-キシリレンジアミン、及び1,4-ビス(アミノメチル)ベンゼン。さらなるアミンには、アミノエチルエタノールアミンか、或いは複素環ポリアミン、例えばアミノエチルピペラジン及びビス(アミノプロピル)ピペラジンが含まれる。
【0023】
二官能の第一級及び/又は第二級アミン(M)が好ましく、そしてさらに、二官能の第一級アミンが好ましい。イソホロンジアミン及びm-キシリレンジアミンが非常に特に好ましく、そして樹脂成分は、より好ましくは、前述の2種のジアミンの混合物を含有する。よってつまり、アミン(M)は、イソホロンジアミン及びm-キシリレンジアミンの混合物である。
【0024】
少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)の割合は、樹脂成分(R)に基づいて、5質量%~15質量%、好ましくは6質量%~14質量%、より好ましくは7質量%~13質量%である(試験方法については実施例の項を参照)。
【0025】
以下でさらに詳細に記載する段階(A)及び(B)の合成方法から明らかなように、段階(A)では、上述の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)(段階(A)では成分(Ib)と呼ばれる)を、エポキシ官能性樹脂混合物(Ia)との反応のための反応物として、部分的に反応させ、段階(B)では、水相中でさらなるエポキシ化合物(IIB)とさらに反応させる。そして最終的に得られる樹脂成分(R)は、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)の上記の割合を含有する。よって樹脂成分(R)中のモノマーアミン(M)の割合は、反応の段階(A)で最初に使用されたアミン(M)の残留割合であることが明らかである。
【0026】
樹脂成分(R)は、第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多官能のポリマー有機アミンも含有する。既に記載したモノマーアミンからの画定として、これらは具体的には、各分子について一定である分子当たり個別の数のアミノ基を有する低分子量化合物ではなく、ポリマー特性を有する付加物又は反応生成物であり、分子当たりのアミノ基の数は、平均によってのみ記述することができる。
【0027】
この点でも、ここで記載した成分の構造、すなわち第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多官能のポリマー有機アミンの構造は、本明細書中以下でさらに詳細に記載する段階(A)及び(B)の合成方法から明らかである。樹脂成分(R)の調製のための記載した出発化合物は、ここで述べた多官能のアミンがどのような種類の構造単位を有しているかを示す。
【0028】
樹脂成分(R)は、150~400g/モル、好ましくは160~350g/モル、より好ましくは170~250g/モルのN-H当量を有する(決定方法については実施例の項を参照)。
【0029】
樹脂成分(R)を含む水性分散体(AD)は、二段階プロセス(A+B)により調製することができる。パラメータに基づく構造的特徴及び/又は分散体の特徴を純粋に介した分散体の適切な記述が非常に困難であることは、当業者には直ちに明らかであり、そしてこの目的のためには、反応工程及びその順序を特定するのが賢明である。それ故このことから、以下に詳細に説明する反応順序が樹脂成分(R)の構造、ひいては分散体(AD)に直接影響を及ぼすことも明らかである。
【0030】
段階A
反応順序の第一段階(A)では、2つの出発成分(Ia)及び(Ib)、すなわち、エポキシ官能性樹脂混合物(Ia)と、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)を含有する成分(Ib)とを互いに反応させる。これにより、アミノ官能性樹脂混合物(I)が得られる。このように、成分(Ia)及び(Ib)の量は互いに釣り合っていて、成分(Ib)のN-H当量が成分(Ia)のエポキシ基に対してモル過剰となっていることが明白である。
【0031】
エポキシ官能性樹脂混合物(Ia)は、本明細書中以下に記載する2つの成分(Ia1)及び(Ia2)を相互反応した形態で含有する。樹脂混合物(Ia)は、好ましくは、これらの2つの成分からなる、すなわち、これらの2つの成分のみの反応によって調製される。
【0032】
成分(Ia1)は、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能の有機エポキシ化合物である。
【0033】
有用な成分(Ia1)はこのように、原則として既知のエポキシ樹脂である。使用するこれらのエポキシ化合物は、400g/モル未満の平均エポキシ当量質量を有することが好ましい。これに対応してこの成分の平均エポキシ当量質量が低く、それ故エポキシ官能性が高いと、最終的に製造されるサーフェイサー層において、より良好な研摩性が得られることが見出された。より好ましくは、平均エポキシ当量質量は350g/モル未満、好ましくは300g/モル未満、より好ましくは250g/モル未満である。平均エポキシ当量質量は、使用するあらゆるエポキシ化合物のエポキシ当量を決定し(試験方法は実施例の項を参照)、そしてエポキシ化合物の合計質量におけるその質量割合を加重することによって得ることができる。同様に、市販品などの既存の製品(製品中でエポキシ化合物が既に共有結合していることがある)を使用する場合には、製品の分析により、平均エポキシ当量質量を、これが上述の上限値未満であることが直ちに明白である程度に決定することも可能である(例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析(MS)による分析)。
【0034】
エポキシ樹脂は、ベースの分子中に統計的平均で1個を超えるエポキシ基を含有する重縮合樹脂であることが知られている。これは例えば、ビスフェノールA又はビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合によって調製したエポキシ樹脂である。これらの化合物は、鎖に沿ってヒドロキシル基を含有し、そして末端にエポキシ基を含有する。エポキシ樹脂の鎖長に応じて、エポキシ基を介した架橋能に変化がある。それは、正確には、エポキシ基を介した架橋能が、鎖長/モル質量の増加と共に低下するからである。当業者にそれ自体が既知である任意のエポキシ樹脂を使用することが最終的に可能であるが、それらが上述のエポキシ当量質量の範囲内であるのが条件である。例えば、有機溶媒又は水中の溶液又は分散体として得ることができる、さらに以下に後述する市販のエポキシ樹脂を用いることが可能である。
【0035】
そのようなエポキシ樹脂は、例えば、100%の系としてか、或いは有機溶媒又は水中の溶液又は分散体として、例えばAllnex社からBeckopox EPの商品名で(又はHuntsmanグループのHexion/Araldite社からEpikote/EPI-REZの商品名で)得ることができる。
【0036】
成分(Ia1)が平均で二官能であるエポキシ化合物であることが好ましい。なぜなら、これが上述の標準的な合成においてエピクロロヒドリンを介して形成されるものであるからである。
【0037】
さらに、エポキシ化合物(Ia1)が、ビスフェノールAベースのエポキシ化合物、すなわち、ビスフェノールAの使用により調製されたエポキシ化合物であることが好ましい。より具体的には、これは、エポキシ化合物が、合成により導入された如何なるビスフェノールFも含有しないということを意味する。そしてこの結果、最終的に製造されるサーフェイサー層の研摩性に良い影響がもたらされることが見出された。
【0038】
成分(Ia2)は、少なくとも1種の化合物X-Rであり、式中、Xはエポキシ基に対して反応性のある官能基であり、そしてRはポリオキシアルキレン単位を含有し、且つ如何なるさらなるX基も含有しない有機ラジカルである。成分(Ia2)として、厳密に1種の化合物X-Rを使用することが好ましい。
【0039】
X基は、当業者に既知の基、例えば、第一級又は第二級アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基又はチオール基である。
【0040】
化合物X-Rがちょうど1つのX基を有することは極めて重要である。そうでない場合、最終的に製造されるべきサーフェイサー層の研摩性に悪影響が見られる。
【0041】
好ましいX基はアミノ基であり、そしてその中でも好ましくは第一級アミノ基である。アミノ基とエポキシ基との良好な反応性の他に、第一級アミンはN-H当量2を有し、それ故エポキシドへの連結部位を有する。このようにして、化合物X-Rを、分子の側鎖位置へ組み込むことができる。そしてこの全体的な結果は、サーフェイサー層の研摩性に有利となる。
【0042】
R基は、ポリオキシアルキレン単位を含有する有機ラジカルであり、特に好ましくは、ポリエチレン又はポリプロピレン単位、又は混合ポリエチレン/ポリプロピレン単位である。有機Rラジカルは、合成の結果生じる任意の分子単位とは別に、ポリオキシアルキレン単位からなることが好ましい。簡略化のために、そのようなR基はポリオキシアルキレン基とも呼ぶ。合成の結果生じる分子単位は、例えば、ポリオキシアルキレン鎖の形成の開始時に使用される分子の有機ラジカルであり、例えば、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドの重合の開始に用いられるスターターアルコールである。好ましくは、R基は、ポリエチレン基、ポリプロピレン基、又は混合ポリエチレン/ポリプロピレン基である。
【0043】
化合物(Ia2)の質量平均分子量は、大きく変化してよく、例えば、800~2200g/モルの範囲である(サイズ排除クロマトグラフィーと光散乱とを組み合わせた手段によって決定される)。
【0044】
言及した化合物X-Rは、それ自体を調製するか、或いは商業的に入手してもよい。例えば、明らかに好ましいポリオキシアルキレンモノアミンは、Huntsman社から「Jeffamine」の商品名で購入することができる。
【0045】
エポキシ官能性樹脂混合物(Ia)は、2つの成分(Ia1)及び(Ia2)を相互反応した形態で含有する。よって成分(Ia1)のエポキシ基と成分(Ia2)のX基が、互いに反応する。対応する反応体制及び条件は当業者に知られており、これ以上言及する必要はない。
【0046】
成分(Ia)は、エポキシ官能性樹脂混合物である。よって記載した原料から、成分(Ia1)及び(Ia2)は、成分(Ia1)のエポキシ基が、X基の反応性単位に対してモル化学量論的過剰になるように使用されることが明白である。反応性単位の数とは、各エポキシ基の潜在的な連結部位の数を意味する。ヒドロキシル基又は第二級アミノ基の場合、例えば、X基あたり1つの反応性単位がある。第一級アミノ基の場合、2つの反応性単位(2つのN-H官能)がある。好ましくは、化合物(Ia1)のエポキシ基及び成分(Ia2)のX基のエポキシ反応性単位のモル比は、10~1.1、より好ましくは5~1.5、特に好ましくは3.5~1.8である。
【0047】
成分(Ia1)のエポキシ基の量は、目的に応じて既知の方法で、エポキシ当量質量を決定することにより、適切に得ることができる、又は調整することができる。X基中の反応性単位の量は、官能性X基の量を決定するためのそれ自体既知の試験方法から、例えば、アミン価、OH価又は酸価の決定(DIN53176:2002-11、DIN53240-3:2016-03、DIN EN ISO2114修正1:2006-11)から分かる。
【0048】
成分(Ia)は、好ましくは500~1500g/モル、より好ましくは600~1200g/モルのエポキシ当量質量を有する。
【0049】
成分(Ia)と反応させる成分(Ib)は、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)を含む。好ましくは、成分(Ib)は、少なくとも1種のそのようなアミン(M)からなる。
【0050】
好適なアミン(M)の例は、樹脂成分(R)の構成成分として既に上述したとおりである。上記の事項及び好ましい変形例はすべて、成分(Ib)のアミンにも対応して適用できる。
【0051】
樹脂混合物(I)は、アミノ官能性樹脂混合物であり、よってその調製には、互いに反応させる成分(Ia)及び(Ib)の官能基に関連して、モル過剰のN-H当量が必要である。具体的には、樹脂混合物(I)のNH当量は、50~140g/モル、好ましくは70~130g/モルである(決定方法については実施例の項を参照)。さらに、樹脂混合物(I)は、17.5質量%~40質量%、好ましくは25質量%~35質量%の割合の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)、すなわち成分(Ib)を含む。両方の基準は、2つの成分のモル量の好適な選択によって、そして、それ自体既知の条件及び反応体制下でエポキシ基とN-H官能基の定量的な変換があるという知識の下で、当業者が調整することができる。さらに、以下の例では、より具体的な概要を再度示す。可能な反応体制及び対応する条件は、当業者に既知であり、これ以上の言及は必要ない。好ましくは、樹脂混合物(I)は、その製造後、水中に分散た状態であり、その場合は水性分散体の状態である。
【0052】
樹脂混合物(I)は、そのものとして上記のように製造することができ、それ故水性分散体で得ることができる。同様に、樹脂混合物(I)の水性分散体を商業的に購入することも可能である(例えば、Beckopox VEH2849w/80WA(Allnex社製)として)。
【0053】
段階B
反応順序の第二段階(B)では、2つの出発成分(IIa)及び(IIb)を水相中で互いに反応させる。すなわち、アミノ官能性樹脂混合物(I)を含有する成分(IIa)と、平均エポキシ当量質量が400g/モル未満、好ましくは350g/モル未満、より好ましくは250g/モル未満の少なくとも1種の二官能及び/又は多官能の有機エポキシ化合物を含有する成分(IIb)とを反応させる。場合により、使用した有機溶媒を除去した後、これによって、樹脂成分(R)を含む水性分散体(AD)が得られる。上記で既に詳細に記載した樹脂成分(R)の特性から、成分(IIa)及び成分(IIb)の量は互いに釣り合っていて、成分(IIa)のN-H当量が成分(IIb)のエポキシ基に対してモル過剰となっていることが明白である。
【0054】
成分(IIa)として、段階(A)からの直接反応生成物に、単に場合により溶媒又は乳化剤などの助剤を補ったものを使用することが好ましい。なぜなら、樹脂混合物(I)が段階(A)の後に水性分散体として得られ、よって水相で行われる段階(B)で直接使用することができるからである。成分(IIa)は、好ましくは、前述の反応生成物以外に、成分(IIb)と反応することができる如何なるさらなる構成成分も含有しない。
【0055】
成分(IIb)は、好ましくは、上記の前提条件を満たすエポキシ当量質量を有する少なくとも1種、好ましくは厳密に1種の二官能性及び/又は多官能性有機エポキシ化合物からなる。好適なエポキシ化合物の例は、成分(Ia1)として既に上述したものである。上記の事項及び好ましい変形例はすべて、成分(IIb)中のエポキシ化合物にも対応して適用できる。
【0056】
水性分散体(AD)は、例えば、25質量%~45質量%の固形分含量を有する(試験方法については実施例の項を参照)。
【0057】
水性分散体(AD)の製造方法
上記の記載は明らかに、水性分散体(AD)の製造方法ももたらす。上に記載したプロセス体制の必須且つ好ましい特徴のすべては、この製造方法にも明らかに適用可能である。
【0058】
水性2成分(2K)コーティング組成物
本発明の水性コーティング組成物は、2成分コーティング組成物である。
【0059】
既知のように、このような2K組成物とは、以下にさらに詳細に定義する成分(1)(塗料ベース成分)及び以下に定義する成分(2)(硬化成分)を、互いに別々に調製及び保存し、そして施与直前まで化合させないことを意味する。処理時間又はポットライフ(すなわち、コーティング組成物を室温(15~25℃、特に20℃)で処理しても、室温での対応する架橋反応の結果、粘度が上昇せず、例えばもはや適用が不可能となるほど固く(severe)ならない時間)は、既知のように、成分(1)及び(2)で使用される構成成分に依存する。本発明において、コーティング組成物の処理時間は、好ましくは少なくとも2分から最大で60分まで、より好ましくは少なくとも5分から60分までである。このような2成分コーティング組成物の特に有利な点は、特に、硬化のために高温を必要としないことである。本発明のコーティング組成物を基材に適用した後、80℃以下、特に好ましくは65℃以下で硬化させることが好ましい。
【0060】
硬化とは、当業者に既知のプロセスを意味し、言い換えれば、フィルムとして基材に適用されたコーティング組成物を、すぐに使用できる状態、従って言い換えれば、該コーティングが提供された基材をその意図された使用に供することができる状態に変換することを意味する。再仕上げに同様に関連し、且つ本発明の文脈で扱ってきた課題、すなわち良好な研摩性を得ることに関連して、まさにその研摩性及びそれに続くオーバーコート性(overcoatability)は無論、意図された使用のための条件である。硬化は特に、コーティング組成物の異なる成分(1)及び(2)に存在するバインダー構成成分の反応性官能基の化学反応によって行われる。よって本発明において特に言及すべきであるのは、本発明の2Kコーティング組成物の、ポリアミンベースの硬化成分(2)中のポリアミン成分のアミノ基又はN-H官能基と、塗料ベース成分(I)中の少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)のエポキシ基との反応である。これらの架橋反応と、これに並行して、存在する任意の有機溶媒及び/又は水が蒸発する結果、コーティングフィルムが形成される、すなわち、硬化したコーティング層(硬化コーティング)が生成される。反応の活性化は熱エネルギーによって可能であるが、本発明の場合、高温を必要としないという上述の利点がある。
【0061】
用語「バインダー」又は「バインダー構成成分」とは、本明細書において、関連するDIN EN ISO4618に準拠して、顔料及びフィラーを除く、コーティング材料の不揮発性画分を指す。この文脈における具体的なバインダー構成成分は、エポキシ樹脂(E)だけでなく、既に上述したポリアミン成分か、或いはコーティング添加剤である。
【0062】
しかしながら、単に明確化のために、「バインダー」という用語は、塗料ベース成分(1)の樹脂成分、すなわち、フィルム形成に関与する特にエポキシ樹脂(E)に主に関連して使用され、一方で、硬化成分(2)中に存在するポリアミン成分は、主として硬化剤か、或いは架橋剤と呼ばれる。
【0063】
同様に知られているのは、塗料ベース成分(1)は普通、バインダー及び溶媒だけでなく、組成物のさらなる機能性構成成分、例えば顔料、フィラー及び添加剤のすべて又は大部分を含有する一方で、硬化成分(2)は、存在する溶媒及び任意の添加剤の他に、架橋を目的とした成分のみを含有するということである。2Kコーティング組成物に関連する「塗料ベース成分」及び「硬化成分」という用語は当業者に既知であり、そして本質的に特徴的であり、そしてそれ故、或る構成の範囲内で特徴を画定する。本発明に関連して、塗料ベース成分は、顔料及びフィラー、好ましくは、それぞれのコーティング組成物に使用されるあらゆる顔料及びフィラーを含有することが必須である。
【0064】
無論、2Kコーティング組成物を完成させるために、少なくとも1種のさらなる追加の主成分があってもよい。これは、塗料ベース成分(1)及び硬化成分(2)だけでなく、溶媒又は添加剤などのさらなる構成成分を、少なくとも1種のさらなる主成分に、例えば2つの主成分(1)及び(2)が添加された後に添加してもよいことを意味する。しかしながらそれにもかかわらず、この組成物は、フィルム形成に関与する互いに架橋する構成成分を含有する成分の数が2つであるので、定義上は2Kコーティング組成物である。
【0065】
2Kコーティング組成物は、サーフェイサー及びプライマーサーフェイサーとしての適合性が優れており、そしてサーフェイサー及びプライマーサーフェイサーとして使用できる。よって2Kコーティング組成物は、好ましくはサーフェイサー又はプライマーサーフェイサーである。サーフェイサー及びプライマーサーフェイサーの機能、構成及び使用分野は、当業者には原則として既知であり、その点において画定された特性を有する。サーフェイサーは一般的に、自動車のOEM仕上げにおいて、(先に硬化した電着被覆の)中間層として適用され、別々に硬化され、それからベースコート及びクリアコートでオーバーコートされる。プライマーサーフェイサーは、特に自動車の再仕上げ分野で使用され、元の塗装系の局所的な損傷区域を埋め、基材に適切な接着性と確実な腐食防止とをもたらす役割を果たす。
【0066】
2Kコーティング組成物は、少なくとも1種の顔料(P)及び/又はフィラー(F)の少なくとも1種の水性分散体を、少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)中に含む。無論、塗料ベース成分は、前記分散体からなるものであってよい。
【0067】
原則として知られているのは、顔料及びフィラーは、分散体の形態でコーティング組成物中に使用されるということである。このことは、コーティング組成物の製造が、顔料又はフィラーを、樹脂及び一般的には水などの溶媒で、高い剪断力を導入してミル又は溶解機中で分散させ、それにより分散体に変換する工程を含むことを意味する。ここでの樹脂は、分散又は乳化効果を有し、そして顔料又はフィラーの安定化を促進するのみである。分散のさらなる支援のために、さらなる添加剤を使用することも無論可能である。同様に、分散体の製造は、塗料ベース成分に導入されるあらゆる塗料構成成分の添加を含み、それ故塗料ベース成分は、最終的に分散体からなることが可能である。
【0068】
よって分散体は、少なくとも(必ずしもそれだけではないが)樹脂と、顔料及び/又はフィラーとを互いに分散した形態で含有する混合物である。
【0069】
本発明においては、分散体が、分散体に用いる樹脂成分として特定のエポキシ樹脂を含有することが必須である。このようにしてのみ、原則として達成されるべき特性、例えば結合及び耐食性だけでなく、施与及び硬化後に、穴などの視覚的欠陥のないコーティング層を可能とする2Kコーティング組成物が得られる。とりわけ、ポリアミン成分において従来技術のように分散操作を行っても、この優れた光学的品質はもたらされないことが分かった。さらにより驚くべきことに、この目的は、特定のエポキシ樹脂(E)でしか達成できなかった。これは、異なるエポキシ樹脂中の分散体の製造が、技術的観点から全く不可能であった(なぜなら、分散させる混合物の不可逆的な増粘又は固化がレオロジー的分解の結果として生じ、コーティング組成物の製造がもはや不可能になった)ためか、或いは、劣化プロセスにより塗料が配合できたが、施与及び硬化後の性能特性が非常に悪いものであったためである。さらに、このシナリオでは、分散ユニットの洗浄が極めて困難であったので、このプロセスは工業的に使用できなかった。
【0070】
よって塗料ベース成分が分散体を含有するか又はそれからなるという事実は、分散体を上記のように生成し、その後、塗料ベース成分を生成するためのまだ存在しないさらなる塗料構成成分を用いて(例えば、標準的な攪拌装置を使用して)完成させることか、或いは分散体の生成の場合に、塗料ベース成分のあらゆる構成成分が分散処理に導入され、それ故分散体が塗料ベース成分を構成することを意味する。
【0071】
分散体が水性であるという事実は、それが溶媒として水を含有すること、そして好ましくは、水も実際の分散処理で使用されることを無論意味する。「水性」の正確な定義は、さらに上記で見いだされる。
【0072】
分散体は、コーティング組成物に使用されるあらゆる顔料及び/又はフィラーを含むことが好ましい。分散体は、少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)以外の他のエポキシ樹脂を含まないことが同様に好ましい。エポキシ樹脂(E)が、分散体のバインダー成分の少なくとも90質量%、好ましくは少なくとも95質量%を占めることがやはり好ましい。バインダー成分は、分散体の固形分(不揮発性成分)から顔料及びフィラーの割合を差し引いたものから得られる。
【0073】
2Kコーティング組成物は、塗料ベース成分(1)又は水性分散体中に、少なくとも1種の特定のエポキシ樹脂(E)を含有する。塗料ベース成分(1)、及びそれ故本発明のコーティング組成物もまた、好ましくは、エポキシ樹脂(E)以外の他のエポキシ樹脂を含有しない。エポキシ基は、2つの主成分(1)及び(2)を混合した後、硬化成分(2)中に存在するポリアミン成分のNH官能基と反応してネットワーク構造を形成することができ、そしてこのようにしてコーティング組成物から製造されたコーティング層の硬化に寄与する。
【0074】
エポキシ樹脂は原則として知られており、成分(Ia1)及び(IIb)に関連してさらに上記でも記載している。よってこれらは、ベースの分子に統計的平均で1個を超えるエポキシ基を含有する重縮合樹脂である。例えば、これらはビスフェノールA又はビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合によって調製されたエポキシ樹脂である。これらの化合物は、鎖に沿ってヒドロキシル基を含有し、そして末端にエポキシ基を含有する。対応するエポキシ樹脂は、例えば、有機溶媒又は水中の100%の系又は溶液/分散体として、商業的に入手することができる。
【0075】
エポキシ樹脂(E)に関連して、本発明に必須の特に重要な特徴に留意すべきである。
【0076】
本発明に必須であるのは、エポキシ樹脂(E)が、
(i) 1時間あたり17500マイクロメートル以下の最大沈降速度(光学キュベット遠心分離機で2050gの加速度、水で30%に希釈した固体で測定)、及び0℃未満のガラス転移温度(動的示差熱量によって測定、昇温速度10K/分、2回目測定時)、又は
(ii) 1時間あたり少なくとも12500マイクロメートルの最大沈降速度、及び少なくとも0℃のガラス転移温度
を有することである。
【0077】
驚くべきことに、この特性の組み合わせによってのみ、上述の分散操作を介して、塗料ベース成分(1)、及び最終的には、名前を挙げた特性を互いに組み合わせるコーティング組成物を提供することが可能であり、そして特に、そのコーティング組成物から製造され、穴などの如何なる表面欠陥も含有しないコーティング層の、非常に良好な光学的品質をもたらす。
【0078】
好ましい実施形態において、エポキシ樹脂は、
(i) 1時間あたり2500~17500マイクロメートルの最大沈降速度、及び-30℃~0℃未満のガラス転移温度、又は
(ii) 1時間あたり12500~30000マイクロメートルの最大沈降速度、及び0℃~20℃のガラス転移温度
を有する。
【0079】
特に好ましい変形例は以下の通りである:
1時間あたり10000~17500マイクロメートルの最大沈降速度、及び-30℃~-10℃のガラス転移温度、
1時間あたり10000~17500マイクロメートルの最大沈降速度、及び0℃~20℃のガラス転移温度。
【0080】
エポキシ樹脂(E)のエポキシ当量は、500g/モル未満、好ましくは350g/モル未満、より好ましくは300g/モル未満、及び特に好ましくは250g/モル未満(試験方法は実施例の項を参照)であることが好ましい。これらのうち好ましい範囲は、100~500g/モルであり、より好ましくは150~250g/モルである。
【0081】
エポキシ樹脂は、場合により割合の小さい有機共溶媒をさらに含有する水性分散体の形態で使用されることが好ましい。このようなエポキシ樹脂分散体は、例えば、市販されている(実施例も参照)。
【0082】
少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)の割合は、コーティング組成物中の固形分含量に基づいて、例えば15~40質量%、より好ましくは20~30質量%である。例えば、少なくとも1種のエポキシ樹脂を分散体の形態で用いる場合、用いる分散体の量は、分散体の固形分を考慮して、所望の樹脂の量に応じて調整する。
【0083】
2Kコーティング組成物は、必須構成成分として、ポリアミンベースの硬化成分(2)、すなわちポリアミン成分を含有する硬化成分を含有する。このようなポリアミン成分、及びエポキシ/アミンベースの2Kコーティング組成物におけるそれらの使用は、原則として知られている。これらは、第一級及び/又は第二級アミノ基を含有し、存在するN-H官能基を介して、同様に存在するエポキシ樹脂(ここでは、少なくともエポキシ樹脂(E))のエポキシ基と共に架橋反応に入ることができる、ポリマー及び場合によりモノマーのポリアミンの混合物である。
【0084】
このようなポリアミン成分は、例えば、50~500g/モル、好ましくは100~400g/モル、より好ましくは150~300g/モルのN-H当量を有する(定量方法については実施例の項を参照)。
【0085】
原則として、本発明において、この関連で当業者に既知のポリアミン成分の任意を使用することが可能である。本発明に必須ではないが好ましい本発明の変形例では、さらに上記でより詳細に記載した特定のポリアミン成分、すなわち水性分散体(AD)中に存在する樹脂成分(R)を、硬化成分(2)中に用いる。
【0086】
好ましくは、樹脂成分(2)中のポリアミン成分のN-H官能基と、塗料ベース成分(1)中のエポキシ樹脂中のエポキシ基とのモル比は、0.7:1~0.95:1、例えば0.9:1である。
【0087】
2Kコーティング組成物は水性である、すなわち、溶媒として少なくとも水を含有する。「水性」の厳密な定義は、既に上述したとおりである。
【0088】
2Kコーティング組成物は、顔料及びフィラーをさらに含有する。
【0089】
好ましい顔料は、黒色及び/又は白色顔料である。よってプライマーは、好ましくは、少なくとも1種の黒色顔料、又は少なくとも1種の白色顔料、又は少なくとも1種の白色顔料及び1種の黒色顔料を含有する。これは、本発明のプライマーが、好ましくは、黒、白、又は(様々なグラデーションの)灰色を有することを意味する。無論、さらなる顔料も存在することは、不可能ではない。
【0090】
好ましい黒色顔料は、粉末の形態で市販されているような典型的な有機及び無機の、特に無機の黒色顔料である。特に言及すべきは、顔料ブラック(カーボンブラック)、典型的な合成酸化鉄(例えば、Lanxess社からBayferroxの商品名で入手可能)などの酸化鉄(Fe3O4)顔料、マンガンブラック又はスピネルブラックなどの混合酸化物顔料である。顔料ブラック(カーボンブラック)及び酸化鉄顔料が非常に特に好ましい。
【0091】
好ましい白色顔料は、典型的な無機白色顔料、例えば二酸化チタン(例えばKronos社製の商品名Kronosで知られるルチル顔料)、酸化亜鉛、硫化亜鉛又は三酸化アンチモンである。二酸化チタン、特にそのルチル修飾したものが非常に特に好ましい。
【0092】
さらに好ましい顔料は、「防食顔料」という包括的な用語で知られる顔料である。ここでは、リン酸亜鉛が特に好ましい。リン酸亜鉛は白色を呈するが、白色顔料には分類されず、その防食効果から防食顔料に分類される。
【0093】
顔料の割合は、各場合においてコーティング組成物の固形分含量に基づいて、好ましくは15~25質量%、特に20質量%である。
【0094】
好ましく存在するフィラーは、それ自体既知であり、当業者に周知のあらゆる無機及び有機フィラー、好ましくは無機フィラーである。よってフィラーは、コーティング組成物の特定の物理的特性を達成するために、例えば粒状又は粉末状で使用され、それぞれの使用媒体に対して不溶性である、当業者に既知の物質を特に含む。これらには特に、炭酸塩、例えば炭酸カルシウム又は炭酸バリウム、硫酸塩、例えば硫酸カルシウム及び硫酸バリウム、シリケート及びシートシリケート、例えばタルク、パイロフィライト、雲母、カオリン、沈降カルシウムシリケート、アルミニウムシリケート、カルシウム/アルミニウムシリケート、ナトリウム/アルミニウムシリケート及びムライト、シリカ、例えば石英、クリストバライト、沈降シリカ又は特にヒュームドシリカ(例えば、商品名Aerosil(Evonik社製)で入手可能であるもの)、金属酸化物及び水酸化物、例えば水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムが含まれる。
【0095】
フィラーの割合は、好ましくは、各場合においてコーティング組成物の固形分含量に基づいて、30~50質量%、特に30~40質量%である。
【0096】
さらに、コーティング組成物は、少なくとも1種の添加剤も含有してよい。そのような添加剤の例は、光安定剤、酸化防止剤、脱気剤、乳化剤、スリップ添加剤、重合阻害剤、接着促進剤、レベリング剤、フィルム形成補助剤、増粘剤、垂れ制御剤(SCA)又は腐食防止剤である。これらは、慣例且つ既知の量で使用される。同じことが、有機溶媒の可能な使用にも適用されるが、その量はコーティング組成物の水性の特徴を変性させないように選択される。
【0097】
2Kコーティング組成物の固形分含量は、個々の場合の要件に応じて変化させてよいが、好ましくは70~85質量%の範囲である。固形分含量は、主に適用、とりわけスプレー塗布に必要な粘度によって導かれるので、当業者が一般的なその技術知識に基づいて、場合によりいくつかの探索的な試験の助けを借りて調整してよい。
【0098】
2Kコーティング組成物は、撹拌タンク、撹拌ミル、押出機、ニーダー、Ultraturrax、インライン溶解機、静的ミキサー、歯付きリング分散機、膨張ノズル及び/又はマイクロ流動機など、コーティング組成物の製造に慣例且つ既知の混合方法及び混合単位を使用して製造することができる。無論、成分(1)(塗料ベース成分)及び成分(2)(硬化成分)は、上述のように、互いに別々に製造及び保管し、コーティング組成物を基材に適用するほんのわずか前に化合させて混合することに留意すべきである。同様に、塗料ベース成分(1)は、確実に上記のように分散体を含有するか、又は分散体からなるべきである。これが意味するのは、2Kコーティング組成物の製造が、少なくともそのような分散体の製造を含むということである。
【0099】
本発明はさらに、本発明のコーティング組成物を基材に適用し、そしてその後コーティングフィルムを形成する、基材上にコーティングを製造する方法を提供するものである。コーティング組成物が使用される本発明の方法において、コーティング組成物に関する上述の特定の及び好ましい実施形態が、同様に適用可能であることが理解されよう。
【0100】
本発明のコーティング組成物の基材への適用は、特に、自動車産業で慣例の層厚、例えば、5~200マイクロメートル、好ましくは10~150マイクロメートル、より好ましくは30~70マイクロメートルの範囲で行うことができる。上記の層厚は、後述する硬化後の乾燥したフィルムの層厚とみなすべきである。ここで例えば、スプレー、ナイフコーティング、塗装、流し込み、浸漬、含浸、トリクル又は圧延などの既知の方法が用いられる。スプレー法を用いることが好ましい。
【0101】
本発明の組成物が施与された後、そこからポリマーフィルム又は硬化したコーティングフィルムが形成される。このように施与された組成物を既知の方法で硬化させる。硬化は、例えば、15~120℃、特に20~80℃、最も好ましくは20~65℃の温度で行う。これらの好ましい比較的低い硬化温度は、特にコーティング組成物が(2K)コーティング組成物であるという事実に起因しており、この場合、特に熱架橋には低い硬化温度のみが必要である。硬化の持続時間は個々の場合で著しく異なることがあり、例えば5分~16時間、好ましくは20分~80分である。これらの好ましい比較的短い硬化時間は、特に、本発明の組成物が、比較的短い硬化時間、それにもかかわらず比較的低い温度しか必要とせず、それにもかかわらず硬化したコーティングの研摩が可能となる十分な硬度を有するという事実から生じる。この点で非常に特に好ましい硬化操作は、40~65℃で20~80分間行われる。
【0102】
個々の場合における硬化は、場合により、例えば室温(約15及び25℃)で、例えば1~60分間のフラッシュオフを先行させてもよい。本発明の目的のためのフラッシュオフとは、有機溶媒及び/又は水の蒸発を意味し、この蒸発により、コーティング材料は乾燥するがまだ完全には硬化せず、そして形成されないのは、特に完全に架橋した塗料フィルムである。
【0103】
次いで硬化によって、本発明の被覆された基材が得られ、これも同様に本発明の主題の一部を形成する。本発明は、組成物から製造されたコーティングを提供するものでもある。
【0104】
使用される基材は、例えば、金属基材であり、好ましくは、自動車産業(車両製造)内で使用されるものである。有利には、合金化されていない及び合金化された鋼及び/又は鉄、亜鉛及びアルミニウムの基材及び対応する合金が使用される。
【0105】
しかしながら、組成物を基材に施与すると上述した場合、これは無論、組成物を金属基材に直接施与しなければならないことを意味するものではない。代わりに、金属基材と組成物によって形成される層との間に、少なくとも1つのさらなる層があってもよい。これは例えば、コーティング組成物がOEM仕上げのサーフェイサーとして使用される場合である。なぜならそのような場合、サーフェイサー層と金属基材との間に少なくとも1つの電着被覆層が存在することになるからである。よって言い換えれば、本発明の組成物が施与される基材は、電着被覆層で被覆された金属基材である。
【0106】
しかしながら、上で既に示したように、本発明のコーティング組成物は、再仕上げ分野、特に自動車の再仕上げにおいてプライマーサーフェイサーとして特に有利に使用することができ、そしてその場合、中程度の温度でほんの短時間硬化を行った後に、良好な接着性、腐食防止性、及び研摩性などの特性を有する。
【0107】
このように、本発明の特定の実施形態では、基材は、既に完全に塗装された金属基材、特に自動車用マルチコート塗装系で塗装されたものであり、複数のコーティングそれぞれは局所的な損傷(欠陥)を有する。よってより具体的には、これらは、例えばストーンチップ損傷などのような損傷を有する自動車のボディワーク又はその部分である。損傷を受けた領域では、元の多層コーティングが外部の作用によって少なくとも部分的に剥離している。そして本発明のコーティング組成物は、これらの損傷区域の補修、すなわち再仕上げに、プライマーサーフェイサーとして使用される。一般に、再仕上げ操作では、プライマーの施与に先立って、損傷した元の被覆された基材の洗浄及び研摩が行われる。これによって、存在する元のコーティング及び/又は既に形成された腐食生成物の不十分に付着し部分的に剥離した区域のみを除去し、そして特に金属基材を局所的に露出させる。よってこれは、多種多様な異なる界面を有する複雑な基材表面である。ここでの1つの界面は、完全に露出した金属基材との界面である。損傷を受け、洗浄され、研摩された部位と、これらの部位を囲む傷のない元の塗装系を有する区域にも、さらなる界面及び縁が見られる。これらあらゆる界面において、1つの及び同じコーティング組成物が、適切な接着性を保証しなければならない。よって、この損傷区域においてさえ、それにもかかわらず優れた接着性、耐食性及び研摩性が得られるので、本発明の組成物は大きな利点を提供する。
【0108】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の組成物から硬化したコーティング、特にサーフェイサー又はプライマーサーフェイサー層を製造した後、さらなるコーティング組成物を施与して、マルチコート塗装系を形成する。これらのさらなるコーティング組成物は、特に、標準的なベースコート及びクリアコートである。
【0109】
本発明を実施例によって以下に説明する。
【実施例
【0110】
決定の方法
水性分散体中のモノマーアミンの割合
決定は、DIN51405に準拠したガスクロマトグラフィーによって行った:
試料は、炎イオン化検出器を備えたガスクロマトグラフのスプリットインジェクターに直接注入し、極性相を有するカラム(ポリエチレングリコール;ポリエチレングリコール相を有する50mのフューズドシリカキャピラリーカラム)及び非極性カラム(ポリジメチルシロキサン;ポリジメチルシロキサン相を有する50mのフューズドシリカキャピラリーカラム)を備えたカラムの両方で分離した。評価はISTD%法で行った。
【0111】
約100~500mgの試料(アミン含有量による)を分析天秤で0.1mgまで正確に秤量し、5mLのスナップ式蓋付ボトルに入れた。約5%のISTDジエチレングリコールジメチルエーテルを0.1mgまで正確に秤量して試料に入れた。試料を5mLのTHFで希釈した(THFに溶解しない試料の場合は、実験により好適な溶媒を見出さなければならない)。
【0112】
このようにして調製した試料を、Agilent7890ガスクロマトグラフで分析した。注入はオートサンプラーを用いて行った。
【0113】
ガスクロマトグラフィーの条件:
オーブンプログラム: 40℃(保持時間5分)(3°/分)→100℃(10°/分)→230℃(保持時間5分)
キャリアガス: 水素
分離用カラム: Agilent Innowax:長さ50m、膜厚0.2μm、直径0.2mm、圧力1.0バール HP-1、長さ50m、膜厚0.33μm、直径0.2mm、圧力1.3バール
インジェクター温度: 250℃(必要な場合これより低温)
注入量: 0.3μL(手動注入0.3~0.6μL)
検出器: 炎イオン化検出器
検出器温度: 275℃
スプリットフロー: 15mL/分
【0114】
アミンは、極性カラム及び非極性カラムの保持時間によって同定した(比較例クロマトグラム参照)。未知の成分については、GC/MS分析を行う必要があった。
【0115】
検出されたアミン及び内部標準を、分析用天秤で試料中のおおよその比率に従い0.1mgまで正確に秤量した。較正液全体におけるアミンの濃度は、調製した試料中のアミンの濃度に対応するようにした(アミンの濃度はGC分析器のプログラムで計算した)。その後、較正液を試料と同じ条件で分析し、物質特有の補正係数を確認した。
【0116】
ISTD%法により、GC分析器のプログラムを用いて試料中のアミンの濃度を計算した。
【0117】
エポキシ当量質量
決定は、DIN EN ISO3001に準拠して行った。
【0118】
固形分含量(不揮発性成分)
別段の記載がない限り、固形分含量(固体の割合、固体形態の含有量、不揮発性成分の割合とも呼ぶ)は、DIN EN ISO3251に準拠して、130℃、60分、開始質量1.0gで決定した。
【0119】
水性分散体中のポリマー有機アミン(ポリアミン)の割合
決定は、試料を130℃で(60分ではなく)8時間保持したことを除いて、固形分含量の決定と同様に実施した。このようにして、残っている不揮発性モノマーアミン(M)の割合が無視できるほど小さいことが保証され、測定結果はその結果に割り当てられたパラメータに対応する。
【0120】
水性分散体中の樹脂混合物(I)又は樹脂成分の割合
水性分散体中のモノマーアミンの割合とポリアミンの割合の総合計から、その割合を求めた。
【0121】
樹脂混合物(I)又は樹脂成分(R)中のモノマーアミン又はポリアミンの割合
樹脂混合物(I)又は樹脂成分(R)中のモノマーアミンの割合は、水性分散体中のモノマーアミンの割合を、この水性分散体中のモノマーアミンの割合とポリアミンの割合との総合計で除した値から求めた。ポリアミンの割合は、対応する方法で決定した。
【0122】
N-H当量
樹脂成分(R)及び樹脂混合物(I)のN-H当量は、以下の連続した方法で決定した。
【0123】
a)
まず最初に、水性分散体中に存在する樹脂混合物(I)のN-H当量を決定した。この目的のため、まず最初に、水性分散体中の第一級及び第二級アミノ基の異なる質量割合(それぞれ窒素%として)を、DIN EN ISO9702(1998年10月)に準拠して脂肪族アミンのための方法により決定した。次いで、得られた質量割合を用いて、水性分散体100g中のN-H官能基のモル量を以下の計算により求めた。
【0124】
n(N-H)=(m(第一級アミノ基からのN)/(14g/モル))2+m(第二級アミノ基からのN)/(14g/モル)(式中、「m」はそれぞれの場合に測定された質量割合を表す)。
【0125】
N-H官能基のモル量及び試料の質量(100g)から、最終的に、試料(水性分散体)のN-H当量、すなわちN-H官能基が1モル存在する試料の質量を導き出した。
【0126】
次いで試料の樹脂混合物の割合を決定することで、樹脂混合物(I)のN-H当量を計算することができた:
(N-H当量(樹脂混合物(I))=N-H当量(試料)割合(試料中の樹脂混合物))。
【0127】
試料中の樹脂混合物の割合は、ポリアミンの割合とモノマーアミンの割合との総合計であることが分かった(上記参照)。
【0128】
b)
次に、先に決定した樹脂混合物(I)のN-H当量、段階(B)で用いた樹脂混合物(I)の質量、段階(II)で用いた成分(IIb)の質量、及び成分(IIb)で用いたエポキシ基のモル量から、樹脂成分(R)のN-H当量を計算した(用いた成分(IIb)の質量及びエポキシ当量質量を介して決定した)。これは、エポキシ基とN-H官能基との定量的反応を仮定している。樹脂成分(R)の合計質量は、用いた樹脂混合物(I)の質量と、用いた成分(IIb)の質量との加算により得られた。
【0129】
塗料ベースの貯蔵安定性の決定
すぐに使用できる状態のプライマー-サーフェイサー(塗料ベース、硬化剤及び水)の流動時間を、DIN4カップによりDIN532111(1987-06-00)に従って測定した。成分を混合した30分後、及び成分を混合した60分後に、流動時間を再び決定した。これらの3つの秒単位の値は、新たに生成された材料(ビーズミルでの塗料ベースの製造後、及び硬化成分の混合から24時間以内)で測定した。その後、塗料ベースの試料を40℃で保管し、8週間後に、完成したサーフェイサーの流動時間を、30分後及び60分後に再度測定した。この目的のため、新しい硬化剤の試料を作成した。試験するのが塗料ベースの貯蔵安定性であるからである。新しい塗料ベースと新しい硬化剤で構成されたすぐに使用できる状態の試料の流動時間値が、新しい硬化剤を含むエージングした塗料ベースのすぐに使用できる状態の試料の流動時間値と5秒未満の差がある場合、塗料ベースは貯蔵安定性ありに分類される。
【0130】
ガラス転移温度
本発明の文脈におけるガラス転移温度Tgは、DIN51005「熱分析(TA)-定義」及びDIN53765「熱分析-動的走査熱量測定(DSC)」に基づく方法において、実験的に決定される。ここで、10mgの試料を試料ボートに量り取り、DSC機器に挿入する。開始温度まで冷却し、その後1回目及び2回目の測定ランを、加熱速度10K/分で50mL/分の不活性ガスパージング(N2)を用いて実施し、測定ラン間の開始温度まで冷却する。測定は慣例的に、予想されるガラス転移温度よりも約50℃低い温度からガラス転移温度よりも約50℃高い温度までの範囲で行われる。本発明において、及びDIN53765、第8.1項に従うガラス転移温度は、比熱容量の変化の半分に達する(0.5デルタcp)2回目の測定ランにおける温度である。それはDSC図(温度に対する熱流のプロット)から確認され、そしてそれはガラス転移の前後に外挿された基線間の中心線と測定曲線との交点の温度である。
【0131】
最大沈降速度
この方法は、分散させた材料の沈降プロセスの特性評価に役立つ。この目的のため、試料は光学キュベット遠心分離機で加速され、このようにして遠心力を受ける。この効果は、分散した試料構成成分を密度に応じて分離することである。この分離プロセスに、時間の関数としてキュベットを続けてよい。得られた速度プロファイルは、沈降(分散粒子の密度が周囲の分散剤の密度よりも大きい場合)又はクリーム化(creaming)(分散粒子の密度が周囲の分散剤の密度よりも小さい場合)のメカニズムを特徴付ける。
【0132】
沈降の場合、沈殿物と透明な上澄みの間の相境界が位置を変える速度は、沈降プロセスの定量化として役立つ。相境界の位置が所定の時間内にほとんど変化しない試料は、相境界が同じ時間内に明確な動きをする試料よりも、はるかに優れた沈降安定性を有する。
【0133】
試料は測定開始前に如何なる遠心力もまだ受けておらず、従って試料の均質性は可能な限り最大のレベルであり、沈降速度は測定の開始時又は測定の少なくとも初期期間内にその最高値となり、そしてその後徐々に低下する。
【0134】
実際の測定は次のように行う:まず最初に、分析するエポキシ樹脂の試料を固形分含量が30%になるように水で調整する。次いで試料を光学キュベット遠心分離機(LUMiSizer651)で、6時間にわたって沈降速度について分析し、この期間内の最大沈降速度を評価する(光路長2mm、測定温度25℃のPAキュベット、波長870nm、2050g)。実験によれば、最大沈降速度は最初の0.5~1.5時間以内に発生するが、一方で沈降は4~6時間後に実質的に又は完全に停止する。
【0135】
コーティング組成物中で用いられるポリアミン成分
水性分散体(AD1)
683.00gのBeckopox VEH2849W(樹脂混合物(I)の水性分散体であり、樹脂混合物は27.5質量%のモノマーアミン(イソホロンジアミン及びキシリレンジアミン)及び72.5質量%のポリアミンを含有し、さらに108g/モルのNH当量を有する)及び1663.77gの脱塩水を反応容器中で化合させ、連続的に撹拌し、そして95℃で1時間保持した。その後、この混合物を70℃に冷却し、そして平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂163.44g、平均エポキシ当量質量が395g/モルのポリプロピレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテルエポキシド39.46g、エトキシプロパノール81.96gの混合物、メチルエチルケトン81.47g及びイソブタノール81.72gを、4時間かけて攪拌しながら連続的に計り入れ、そして混合物を70℃でさらに1時間保持した。こうして得られた反応生成物を45℃に冷却した。生成物の粘度は、25℃で150~250mPasであった。
【0136】
その後のプロセス工程では、プロセス溶媒であるイソブタノール及びメチルエチルケトンを、減圧下での蒸留によって生成物から除去した。得られた水性分散体(AD1)は、0.5%未満のイソブタノール及びメチルエチルケトンの残留含有量を有していた(ガスクロマトグラフィー)。
【0137】
水性分散体中の樹脂成分(R)の含有量は33.4質量%(モノマーアミン2.4質量%、ポリアミン31質量%)であった。よって樹脂成分は、モノマーアミン(M)の含有量が7.2質量%であった。樹脂成分はさらに、171g/モルのアミン当量質量(N-H当量質量)を有していた。
【0138】
水性分散体(AD2)
683.00gのBeckopox VEH2849W(樹脂混合物(I)の水性分散体であり、樹脂混合物は27.5質量%のモノマーアミン(イソホロンジアミン及びキシリレンジアミン)及び72.5質量%のポリアミンを含有し、さらに108g/モルのNH当量を有する)、266.11gのメチルエチルケトン及び1395.96gの(脱塩)水を反応容器中で化合させ、連続的に撹拌し、そして70℃で1時間保持した。その後、平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂163.44g、平均エポキシ当量質量が395g/モルのポリプロピレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテルエポキシド39.46g、エトキシプロパノール81.96gの混合物、メチルエチルケトン81.47g及びイソブタノール81.72gを、4時間かけて攪拌しながら連続的に計り入れ、そして混合物を70℃でさらに1時間保持した。こうして得られた反応生成物を45℃に冷却した。生成物の粘度は、25℃で150~250mPasであった。
【0139】
その後のプロセス工程では、プロセス溶媒であるイソブタノール及びメチルエチルケトンを、減圧下での蒸留によって生成物から除去した。得られた水性分散体(AD2)は、0.5%未満のイソブタノール及びメチルエチルケトンの残留含有量を有していた(ガスクロマトグラフィー)。
【0140】
水性分散体中の樹脂成分(R)の含有量は33質量%(モノマーアミン2.4質量%、ポリアミン31質量%)であった。よって樹脂成分は、モノマーアミン(M)の含有量が7.2質量%であった。樹脂成分はさらに、171g/モルのアミン当量質量(N-H当量質量)を有していた。
【0141】
水性分散体(AD3)
段階(A)
平均分子量が2000g/モルのプロピレンオキシド/エチレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテルモノアミン1000g(Jeffamine M2070、第一級アミン官能基(=2NH官能価))と、平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂448.8gを反応容器内で混合し、次いで内温を130℃で1時間、及び80~90℃でさらに2時間保持した。このようにして得られた生成物は、1035g/モルのエポキシ当量質量を有していた。生成物の粘度は、23℃で6734mPasであった。
【0142】
このようにして得られた反応生成物96.43gを、イソホロンジアミン33.9g及びm-キシリレンジアミン27.12gと反応容器内で混合し、次いで内温を60℃で1時間、及び80~90℃でさらに2時間保持した。これを50℃に冷却した後、水で希釈した(固形分含量80%)。分散体中に存在する樹脂混合物(I)は、アミン当量質量(N-H当量質量)が105g/モルであった。生成物の粘度は、23℃で1540mPasであった。
【0143】
段階(B)
段階(A)からの反応生成物683.00gと、(脱塩)水1663.768gを反応容器中で化合させ、連続的に撹拌し、そして95℃で1時間保持した。その後、この混合物を70℃に冷却し、平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂163.44g、平均エポキシ当量質量が395g/モルのポリプロピレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテルエポキシド39.46g、エトキシプロパノール81.96g、メチルエチルケトン81.47g及びイソブタノール81.72gを、4時間かけて攪拌しながら連続的に計り入れ、そして混合物を約70℃でさらに1時間保持した。こうして得られた反応生成物を45℃に冷却した。生成物の粘度は、25℃で150~250mPasであった。
【0144】
その後のプロセス工程では、プロセス溶媒であるイソブタノール及びメチルエチルケトンを、減圧下での蒸留によって生成物から除去した。得られた水性分散体(AD3)は、0.5%未満のイソブタノール及びメチルエチルケトンの残留含有量を有していた(ガスクロマトグラフィー)。樹脂成分はさらに、177g/モルのアミン当量質量(N-H当量質量)を有していた。
【0145】
ポリアミン成分X2を含有するさらなる水性分散体
平均分子量が1200g/モルのエチレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテル1200g(1.2モル又は2.4OH当量)と、平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂1984.62g(10.67エポキシ当量)を反応容器内で混合し、次いで連続的に撹拌しながら内温を120~130℃に上昇させた。その後、Anchor1040(BF3-モノエチルアミン触媒)6.5gを加え、温度をさらに160℃まで上昇させ、エポキシ当量質量が417g/モルに達するまで160℃でさらに4時間保持した。この後、55℃に冷却し、82.549gのジ-n-プロピルアミンを加えた。EEWが482g/モルに達するまで、55℃で撹拌を続けた。この後、60℃に加熱し、さらに174.11gの(脱塩)水を加えた。
【0146】
1605.22gのイソホロンジアミン(9.4モル又は37.77NH当量に相当)と575.96gのm-キシリレンジアミン(4.2モル又は16.91NH当量に相当)を反応器内で混合し、そして内温60℃まで加熱した。その後、30分かけて、3447.78gの上記反応生成物を連続的に混合しながら加えた。これにより、内温が約75℃に上昇し、そして撹拌をこの温度で90分間続けた。その後、n-ブチルグリシジルエーテルを20分間にわたって撹拌しながら加えた。これにより、内温が約80℃に上昇し、そして撹拌をこの温度で60分間続けた。その後、さらに1374gの(脱塩)水を加え、これにより生成物を40℃に冷却した。
【0147】
反応混合物中に存在する樹脂混合物は、125g/モルのアミン当量質量(N-H当量質量)を有していた。
【0148】
ポリアミン成分X3を含有するさらなる水性分散体
897.41gのc(AD2)と、1868.00gの脱塩水を反応器中で攪拌しながら95℃に加熱した。その後70℃に冷却し、そして平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂163.44g(0.437モル)、平均エポキシ当量質量が395g/モルのポリプロピレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテルエポキシド39.46g、エトキシプロパノール81.96gの混合物、メチルエチルケトン81.47g及びイソブタノール81.72gを2時間かけて計り入れ、そして混合物を約70℃でさらに1時間保持した。
【0149】
こうして得られた反応生成物を45℃に冷却した。生成物の粘度は、25℃で150~500mPasであった。
【0150】
その後のプロセス工程では、プロセス溶媒であるイソブタノール及びメチルエチルケトンを、減圧下での蒸留によって生成物から除去した。得られた水性分散体は、0.5%未満のイソブタノール及びメチルエチルケトンの残留含有量を有していた。
分散体中に存在する樹脂混合物は、203g/モルのアミン当量質量(N-H当量質量)を有していた。
【0151】
ポリアミン成分X6を含有するさらなる水性分散体
分散体X6は、イソホロンジアミン及びm-キシリレンジアミンの混合物ではなく、m-キシリレンジアミンのみを使用したこと以外は、分散体(AD3)の段階(A)と同様に製造した。同じモル量のモノマーアミンを確実に使用するために、m-キシリレンジアミンの割合を対応して増加させた。分散体中に存在する樹脂混合物は、アミン当量質量(N-H当量質量)が100g/モルであった。
【0152】
表Aに、製造したポリアミン成分を含む水性分散体の別の概要を示す。さらに、水性コーティング組成物中にさらに使用された、市販品として購入したさらなる分散体を記載する(以下参照)。
【0153】
【表1】
【0154】
コーティング組成物中に使用されたエポキシ樹脂
表A1に示すエポキシ樹脂を、さらに下記に記載するようにコーティング組成物の製造に使用した。
【0155】
【表2】
【0156】
表1Aに示すデータは、エポキシ樹脂D.E.R.917、EPOTEC Resin TW5001、EPI-REZ5108及びBeckopox EP2384w/57WAのみが、本発明による使用のためのエポキシ樹脂であることを示している。
【0157】
本発明のコーティング組成物及び比較例のコーティング組成物
様々な本発明のコーティング組成物及び比較例のコーティング組成物を、以下の一般的な製造方法によって製造した。
【0158】
コーティング組成物の塗料ベース成分(1)及び硬化成分(2)を、それぞれの構成成分を合わせて密に混合することにより製造した。塗料ベース成分(1)の製造において、塗料ベース成分の個々の構成成分全て又は実質的に全てを使用し、各場合ともビーズミル中で30分間、350mLのビーズ(直径1.6~2.5mmのSilibeads Z)を含有する2つのカップを、2100gのミルベースに対し、均一の回転速度を用いて、水性分散体を製造した。構成成分及びその量は下記の表B~Dに記載されている。
【0159】
このようなコーティング組成物の製造のために、塗料ベース成分をそれぞれ硬化成分及び任意にさらなる水と混合した。組成物は、完成後1時間以内に以下に記載のように使用した。すなわち、基材に適用し、そしてその後硬化させた。
【0160】
【表3】
【0161】
【表4】
【0162】
【表5】
【0163】
【表6】
【0164】
【表7】
【0165】
【表8】
【0166】
【表9】
【0167】
【表10】
【0168】
注意 全ての塗料ベース成分は、製造後(すなわち分散処理後)、良好な貯蔵安定性を有していた(40℃で8週間貯蔵した後の、沈殿物及びDINカップ内の流動時間の変化の試験、試験方法については上記参照)。ビーズミルの洗浄は、水ですすぐことにより難なく可能であった。
【0169】
【表11】
【0170】
注意 塗料ベース成分E8、V9、E10、V13及びV14は、製造後(すなわち分散処理後)、良好な貯蔵安定性を有していた(40℃で8週間貯蔵した後の、沈殿物及びDINカップ内の流動時間の変化の試験、試験方法については上記参照)。ビーズミルの洗浄は、水ですすぐことにより難なく可能であった。塗料ベース成分V8、V11及びE11も同様に、ビーズミルを用いて容易に製造することができ、貯蔵安定性があることが分かった。製造後、ミル内及びミルビーズ表面に若干の粘着性のあるフィルムが残ったが、それでも除去可能であった。塗料ベース成分V10及びV12は、均質な分散体として製造することができなかったが、粉砕工程の過程で不可逆的に分解して、不均質で粘着性のある混合物をもたらした。これらはさらなる使用が不可能であった。
【0171】
【表12】
【0172】
【表13】
【0173】
【表14】
【0174】
コーティング組成物を用いたコーティングの製造
コーティング組成物E1~E11及びV1~V14を用いて、以下の一般的な方法によってマルチコート塗装系を製造した。
【0175】
まず最初に、基材を材料の種類に応じて洗浄した。すなわち、金属基材をGlasurit360-4金属クリーナーで、プラスチック部品をGlasurit541-30プラスチック向け汎用クリーナーで、そして古い塗装又は処理された(works-primed)新しい部品を、Glasurit541-5KHシリコーンとタール除去剤で、洗浄した。
【0176】
これに続き、基材に応じて研摩を行った。鋼板をP80で、亜鉛めっき鋼板を研摩パッドで、アルミニウムをP150で、プラスチックをその領域にわたって研摩パッドで、使用済み塗装又は処理された新しい部品を研摩パッドで研摩した。
【0177】
次の工程において、研摩ダストをクリーナーで除去し、乾燥させた。これは、各基材について以前と同じクリーナーを使用して行った。拭き取り乾燥(rubbing dry)後、プライマー-サーフェイサー施与を開始することが可能であった。
【0178】
この目的のために、塗料ベース及び硬化成分及び脱塩水を、上記のように、スターラーバーを用いて混合し、次いでスプレーガン(2.0バールでのSATA BF100RP1.6)で施与した。中間フラッシオフなしで2回の完全噴霧ランを行った。2回目の噴霧ランの後、プライマー-サーフェイサーを対象温度60℃で40分間乾燥させた。乾燥層の厚さは、各場合とも60~80マイクロメートルの間(Fischer社のデュアルスコープMP40、ED10プローブ)であり、2007年5月のDIN EN ISO2808に準拠していた。
【0179】
乾燥段階及びその後の冷却段階に続いて、研摩を行った。この目的のために、対照の黒色(3M社の09560Black)を被覆された表面に施与した。ストローク5mmの偏心研摩ツール(Festool社のLEX3)及びP400紙やすり(RODIM社の標準)を使用して、表面を平らに研摩した。
【0180】
これに続き、Glasurit700-1クリーナーによる洗浄及びベースコートの施与を行った。
【0181】
この目的のため、Glasurit90-1250漆黒を構成した。成分をスターラーバーを用いて混合し、それから認可されたペイントガン(例えば、2.0バールでのSATA5000HVLP1.3)の1つで施与した。2つの隠蔽スプレーランと1つの効果ランを適用した。各噴霧ランに続き、表面がマットな外観になるまで約5分間、中間又は最終フラッシオフを行った。
【0182】
達成された層厚は、2007年5月のDIN EN ISO2808に準拠して、10~15マイクロメートル(Fischer社のデュアルスコープMP40、ED10プローブ)であった。
【0183】
最後の層としてクリアコートを施与した。この目的のために、Glasurit923-630HS clear superior gloss VOCを以下のように構成した。
【0184】
成分をスターラーバーを用いて混合し、そして次に認可されたペイントガン(例えば、2.0バールでのSATA5000RP1.3)の1つで施与した。この目的のために、2回の噴霧ランを3分間の中間フラッシオフで行い、その後の乾燥を対象物温度60℃で30分間行った。達成された層厚は、2007年5月のDIN EN ISO2808に準拠して、50~60μmの範囲(Fischer社のデュアルスコープMP40、ED10プローブ)であった。
【0185】
多層塗装系の特性及び調査
製造されたあらゆる塗装系の表面品質を調査した。以下の測定を実施した。
【0186】
光沢及びヘイズは、BYK-Gardner社のヘイズ-光沢機器で測定した。光沢は20°の角度で測定した。ヘイズは、DIN EN ISO13803(2015年2月版)「Paints and varnishes-Determination of haze on paint films at 20°」に準拠して測定した。光沢は、DIN EN ISO 2813(2015年2月版)「Paints and varnishes-Determination of gloss value at 20°,60°and 85°」に準拠して測定した。
【0187】
DOI(画像の明瞭度)及びレベリングを、塗装したシート上のBYK-Gardner社の波走査二重機器で測定した。長波(LW)と短波(SW)を決定した。
【0188】
再現性のある光条件下、黒色背景の前で、塗装状態の視覚的評価を行った。検査すべきパネル及び基準試料又は比較すべきパネルは、あらゆる表面欠陥及び特性を検出するために、互いに異なる角度で観察すべきである。塗装状態の視覚的評価は、比較試験片又は標準に対してのみ行うことができる。結果はランク順である。隠蔽塗装表面の外観の明瞭性を評価した。トップコートの状態の違いは、トップコート層の基材から再生される微細構造に起因する。このようにして、アンダーコートの隠蔽性に関するトップコートの評価を行った。ベースコートの「崩壊」は、トップコートの状態のランク降下をもたらす。くぼみ、気泡、ピンホール、流れ、曇りなどの他の表面欠陥は別々に登録され、塗装状態の包括的な用語ではカバーされない。
【0189】
さらに、多層塗装系を穴について視覚的に調査した。この目的のため、金属シートを顕微鏡で調べた。ここで、薄い断面において10倍又は20倍の倍率で視覚的に、すなわち目で知覚できる表面欠陥は、ベースコート及び/又はクリアコートで部分的又は完全に充填されたプライマー-サーフェイサー層の穴であることが見出された。具体的には、実体顕微鏡下で、メスを用いて、複数の薄い断面によって欠陥の中心を露出させた。次に、厚さ約10マイクロメートルのスライスを欠陥領域で連続的に切断し、顕微鏡スライドに適用した。光学顕微鏡による評価のために、浸漬オイル又はグリセロールの液滴を薄切片に施与し、カバースリップで覆った。
【0190】
表面欠陥の定量化のために,塗料系の表面欠陥の数をDIN A4ページの大きさの領域にわたって計数した。
【0191】
表Eに、対応する結果を示す。
【0192】
【表15】
【0193】
結果は、実際に塗布されたコーティング組成物と比較して、試料V8、V9及びV11が極めて悪いトップコート状態をもたらし、従って、それらが測定技術によって評価可能であったとしても、対応して悪い光学特性(DOI、LW、SW)をもたらしたことを示す。対照的に、本発明の系E8~E11はすべて、良好な又は少なくとも依然として許容可能なトップコート状態を有していた。系V13及びV14(塗料ベースとしてのポリアミン分散体)は、良好なトップコート状態を有し、それに対応して、基本的に良好な光学特性を有していた。しかしながら、系V13及びV14は、本発明の系と比較して、有意な表面欠陥として視覚的に明らかな非常に多数の微細孔を示した。
【国際調査報告】