(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】低多孔性であり、官能基化された炭素マイクロ粉末
(51)【国際特許分類】
C01B 32/00 20170101AFI20221027BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221027BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221027BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20221027BHJP
【FI】
C01B32/00
C08L101/00
C08K3/04
C01B32/05
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511295
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(85)【翻訳文提出日】2022-04-14
(86)【国際出願番号】 US2020046933
(87)【国際公開番号】W WO2021034900
(87)【国際公開日】2021-02-25
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522065783
【氏名又は名称】シーティーアイ コンサルティング,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】クラウス,アレン ディ.
【テーマコード(参考)】
4G146
4J002
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA17
4G146AB01
4G146AB08
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC17A
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4G146CB35
4J002AA001
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4J002AA021
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4J002FD016
(57)【要約】
本発明は、天然の糖から誘導される、新規であり、低多孔性であり、官能基化された炭素マイクロ粉末、および前記炭素マイクロ粉末を製造するための方法を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特性の1つ以上を有することを特徴とする、酸素官能基化炭素マイクロ粉末:
a)重量基準で、65%~95%の炭素含有量および35%~5%の酸素含有量;
b)500m
2/g未満の比表面積(BET法);
c)5%~75%のパーセント結晶化度(XRD法);
d)前記粒子は、5:1より大きいアスペクト比を有する小板形態を有する;
e)前記粒子は、平面でないように有意な湾曲を有する;および
f)前記粒子は、SEMによる1,000倍の拡大で、滑らかで無孔の外観を有する。
【請求項2】
前記粉末が、特性a)~f)の2つ以上を有する、請求項1に記載の酸素官能基化炭素マイクロ粉末。
【請求項3】
前記粉末が、特性a)~f)の3つ以上を有する、請求項1に記載の酸素官能基化炭素マイクロ粉末。
【請求項4】
前記粉末が、特性a)~f)の4つ以上を有する、請求項1に記載の酸素官能基化炭素マイクロ粉末。
【請求項5】
前記粉末が、特性a)~f)の5つ以上を有する、請求項1に記載の酸素官能基化炭素マイクロ粉末。
【請求項6】
前記粉末が、特性a)~f)を有する、請求項1に記載の酸素官能基化炭素マイクロ粉末。
【請求項7】
以下の工程を含む方法により、天然に発生する糖を脱水することによって製造される酸素官能基化炭素マイクロ粉末:
a)前記糖を濃強酸と混合し、主に炭素材料の部分脱水をもたらす工程;
b)前記炭素材料を水ですすぎ、前記酸を除去する工程;
c)前記材料を乾燥させ、遊離水を除去する工程;および
d)前記炭素材料を粉砕またはひいて粉にし、マイクロ粉末を得る工程。
【請求項8】
前記糖が、天然に発生するヘキソースである、請求項7に記載の炭素マイクロ粉末。
【請求項9】
前記ヘキソースが、フルクトース、グルコース、およびガラクトースからなる群から選択される、請求項8に記載の炭素マイクロ粉末。
【請求項10】
前記糖が、天然に発生する二糖類である、請求項7に記載の炭素マイクロ粉末。
【請求項11】
前記二糖類が、スクロースおよびラクトースからなる群から選択される、請求項10に記載の炭素マイクロ粉末。
【請求項12】
前記濃酸が、濃硫酸および濃リン酸からなる群から選択される、請求項7に記載の炭素マイクロ粉末。
【請求項13】
前記糖が、結晶性糖である、請求項7に記載の炭素マイクロ粉末。
【請求項14】
前記糖結晶は、その最小寸法が、100ミクロンより大きい、請求項13に記載の炭素マイクロ粉末。
【請求項15】
前記方法が、前記マイクロ粉末を100℃を超える温度に加熱して、前記酸素含有量を減少させる追加の工程を含む、請求項7に記載の炭素マイクロ粉末。
【請求項16】
前記炭素マイクロ粉末が、5%~35%の酸素含有量を有する、請求項15に記載の炭素マイクロ粉末。
【請求項17】
前記炭素マイクロ粉末が、5%~75%のパーセント結晶化度(XRD法)を有する、請求項16に記載の炭素マイクロ粉末。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の炭素マイクロ粉末の1つ以上と、熱硬化性ポリマーまたは熱可塑性ポリマーとを含むポリマー複合体。
【請求項19】
前記複合体が、1%~60%の炭素マイクロ粉末を含む、請求項18に記載のポリマー複合体。
【請求項20】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シアノアクリレート樹脂またはシリコーン樹脂である、請求項18に記載のポリマー複合体。
【請求項21】
前記熱硬化性ポリマーが、最初は液状樹脂であり、前記樹脂を硬化させる(固める)前に、前記炭素マイクロ粉末が前記液状樹脂中に分散される、請求項18に記載のポリマー複合体。
【請求項22】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(エチレンテレフタレート)ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ(メチルメタクリレート)またはポリアクリロニトリルである、請求項18に記載のポリマー複合体。
【請求項23】
前記複合体の前記バルク熱伝導率が、0.27W/m-Kより大きく、前記複合体の前記電気抵抗率が1.0E10オーム-cmより大きい、請求項18に記載のポリマー複合体。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明分野〕
本発明は、天然の糖から誘導される、新規であり、低多孔性であり、官能基化された炭素マイクロ粉末(micro-powder)、および前記炭素マイクロ粉末を製造するための方法を含む。
【0002】
〔発明の背景〕
グラファイト、カーボンブラック、ならびに活性炭マイクロ粉末および活性炭ナノ粉末は、電池およびウルトラキャパシタ電極(ultracapacitor electrode)を含む広範囲の用途において有用であり、また、高められた機械的特性、熱安定性、障壁特性、電気伝導率および熱伝導率を提供するための、ポリマーにおける機能性充填剤(functional fillers)として有用である。しかしながら、ポリマーにおける機能性充填剤として、すべてのこれらの炭素粉末は、最も望ましい性能特性の多くにおいて、有意な性能トレードオフ(trade-off)または制限をもたらす構造特性を有する。
【0003】
例えば、グラフェン基礎構造に基づく平面構造を有するグラファイト[文献1-文献2]は、非常に高い弾性率(modulus)ならびに高い電気伝導率および熱伝導率を示す高アスペクト比の小板として利用可能である。しかしながら、グラフェンの積み重ねられた滑り面(slip plane)からなる、グラファイトの平面構造は、一般的に、ポリマーマトリックス(polymer matrice)中のグラファイト粉末の凝集および不十分な分散をもたらし、不規則かつ比較的不安定なポリマーグラファイト界面(interface)により構造欠陥および損なわれた(compromised)機械的特性をもたらす。熱伝導率のような、機械的特性があまり重要でない用途においては、グラファイト粉末は、電気伝導率を同時に高めることなく熱伝導率を高めることができないが、これは、熱伝導材料(thermal interface material)が電気的に絶縁性である必要がある、電子工学(electronics)における多くの熱界面用途(thermal interface application)にとって望ましくない。
【0004】
カーボンブラックマイクロ粉末およびカーボンブラックナノ粉末[文献3~文献5]は、最も一般的には、グラファイトのような平面の小板ではなく、球状の一次粒子(primary particle)からなる。球状粒子は、小板または針のような高アスペクト比の粒子と比較して、機能性充填剤として本質的に効率が低く、これらの球状粒子はまた、錯体クラスター(complex clusters)に凝集する傾向が高く、ポリマーマトリックス中の分散もまた制限し、機械的特性を損なう不規則かつ不安定な界面、および欠陥をもたらす。カーボンブラック粉末は、電気伝導率に対する熱的伝導率の独自の向上を許さないという制限をも受ける。
【0005】
活性炭粉末は、典型的にはセルロース出発材料[文献6]から誘導され、一般的に、広範囲の形状および孔径を有することができる多孔質性の高い粒子からなる。これらの材料は、孔径範囲に従って、マクロポーラス(直径50nmを超える細孔)、メソポーラス(直径2nm~50nmの範囲の細孔)、およびミクロポーラス(直径2nm未満の細孔)として分類される。活性炭粉末は、高い表面積および高い空隙容量を有し、その結果、活性炭粉末は濾過および吸着用途において非常に有用であるが、活性炭粉末の、乏しい構造的完全性(structural integrity)、非常に不規則な形状、およびポリマーとの乏しい界面適合性のために、ポリマー中の機能性充填剤としては一般的に有用ではない。
【0006】
2-D層状平面構造であり、主に結晶性であるグラファイトとは対照的に、カーボンブラックおよび活性炭は複雑な3-D構造を有し、主に非晶質(amorphous)である。最近まで、これらの材料の炭素原子の結合および詳細な構造は、十分に理解されていなかったが、これらの材料の湾曲(curvature)、多孔性および3-D構造が、グラファイト中に存在する6員環芳香環とは対照的に、いくつかの5および7員芳香環の存在から生じることは今や十分に確立されている[文献7-文献11]。それらは、5員環および6員環が交互に存在するために、閉じた球形および楕円形構造を有するフラーレンに構造的に関連している。
【0007】
〔発明の概要〕
本発明は、天然の糖から誘導される、新規であり、低多孔性であり、官能基化された炭素マイクロ粉末、および前記炭素マイクロ粉末を製造するための方法を含む。
【0008】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、以下の特性の1つ以上を有することを特徴とする酸素官能基化炭素マイクロ粉末を提供する:a)重量基準で、65%~95%の炭素含有量および35%~5%の酸素含有量;b)500m2/g未満の比表面積(BET法);c)5%~75%のパーセント結晶化度(XRD法);d)前記粒子は、5:1より大きいアスペクト比を有する小板形態を有する;e)前記粒子は、平面でないように有意な湾曲を有する;およびf)前記粒子は、SEMによる1,000倍の拡大で、滑らかで無孔の外観を有する。いくつかの好ましい実施形態において、前記粉末は、特性a)~f)の2つ以上を有する。いくつかの好ましい実施形態において、前記粉末は、特性a)~f)の3つ以上を有する。いくつかの好ましい実施形態において、前記粉末は、特性a)~f)の4つ以上を有する。いくつかの好ましい実施形態において、前記粉末は、特性a)~f)の5つ以上を有する。いくつかの好ましい実施形態において、前記粉末は、特性a)~f)を有する。
【0009】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明は、以下の工程を含む方法により、天然に発生する糖を脱水することによって製造される酸素官能基化炭素マイクロ粉末を提供する:a)前記糖を濃強酸と混合し、主に炭素材料の部分脱水をもたらす工程;b)前記炭素材料を水ですすぎ、前記酸を除去する工程;c)前記材料を乾燥させ、遊離水を除去する工程;およびd)前記炭素材料を粉砕(grind)またはひいて粉にし(mill)、マイクロ粉末を得る工程。他の好ましい実施形態において、本発明は、工程a)~d)を含む、酸素官能基化炭素マイクロ粉末の製造方法を提供する。
【0010】
いくつかの好ましい実施形態において、前記糖は、天然に発生するヘキソースである。いくつかの好ましい実施形態において、ヘキソースは、フルクトース、グルコース、およびガラクトースからなる群から選択される。いくつかの好ましい実施形態において、前記糖は、天然に発生する二糖類である。いくつかの好ましい実施形態において、前記二糖類は、スクロースおよびラクトースからなる群から選択される。いくつかの好ましい実施形態において、前記濃酸は、濃硫酸および濃リン酸(concentrated sulfuric and phosphoric acid)からなる群から選択される。いくつかの好ましい実施形態において、前記糖は、結晶性糖である。いくつかの好ましい実施形態において、前記糖結晶は、その最小寸法が、100ミクロンより大きい。いくつかの好ましい実施形態において、前記方法は、前記マイクロ粉末を100℃を超える温度に加熱して、前記酸素含有量を減少させる追加の工程を含む。いくつかの好ましい実施形態において、前記炭素マイクロ粉末は、5%~35%の酸素含有量を有する。いくつかの好ましい実施形態において、前記炭素マイクロ粉末は、5%~75%のパーセント結晶化度(XRD法)を有する、および/または任意に、上で列挙した(a)~(e)の特性の1つ、2つ、3つ、4つ、または5つを有する。
【0011】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明は、上述した炭素マイクロ粉末の1つ以上と、熱硬化性ポリマーまたは熱可塑性ポリマーと、を含むポリマー複合体を提供する。いくつかの好ましい実施形態において、前記複合体は、1%~60%の炭素マイクロ粉末を含む。いくつかの好ましい実施形態において、前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シアノアクリレート樹脂またはシリコーン樹脂である。いくつかの好ましい実施形態において、前記熱硬化性ポリマーは、最初は液状樹脂であり、前記樹脂を硬化させる(固める)前に、前記炭素マイクロ粉末が前記液状樹脂中に分散される。いくつかの好ましい実施形態において、前記熱可塑性ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(エチレンテレフタレート)ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ(メチルメタクリレート)またはポリアクリロニトリルである。いくつかの好ましい実施形態において、前記複合体の前記バルク熱伝導率は、0.27W/m-Kより大きく、前記複合体の前記電気抵抗率が1.0E10オーム-cm(Ohm-cm)より大きい。
【0012】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、結晶性フルクトースの脱水から調製された、炭素マイクロ粉末の走査型電子顕微鏡写真(SEM)画像を示す。
【0013】
図2は、結晶性フルクトースの脱水から調製された炭素マイクロ粉末の熱重量分析のグラフである。
【0014】
図3は、結晶性フルクトースから誘導される様々な段階の炭素マイクロ粉末を含むエポキシ樹脂複合体のバルク熱伝導率を比較する棒グラフを示し、前記マイクロ粉末は、異なる熱処理履歴を有する。
【0015】
図4は、エポキシ樹脂対照試料(control sample)の温度の関数(function)として、貯蔵弾性率(E’)、損失値弾性率(E’’)およびtanδを示すプロット(plot)である。
【0016】
図5は、20%炭素/エポキシ樹脂複合体試料の温度の関数として、貯蔵弾性率(E’)、損失値弾性率(E’’)およびtanδを示すプロットである。
【0017】
図6は、40%炭素/エポキシ樹脂複合体試料の温度の関数として、貯蔵弾性率(E’)、損失値弾性率(E’’)およびtanδを示すプロットである。
【0018】
図7は、結晶性フルクトースから誘導される炭素マイクロ粉末から調製した30%炭素/ポリ(塩化ビニル)(PVC)複合体試料の写真を示す。3時間の蒸発時間後の空洞(cavity)の型内における試料、および、24時間後に型から取り出された試料を示す。
【0019】
〔発明の詳細な説明〕
上記で議論された炭素粉末の全ての既知のタイプによって共有される制限は、炭素粉末の疎水性の性質が、多くのポリマー(例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリ(塩化ビニル)等)との不十分な界面結合をもたらし、結果として、炭素粒子とポリマーとの間の比較的高エネルギーで不安定な界面が生じる。これらのより極性のポリマーを用いて高度に安定な複合体を形成し、最適な性能特性を達成するために、極性酸素含有官能基を用いて外表面上をある程度官能基化された炭素粒子を有することが望ましい。グラファイトに対して酸素官能基化を導入するために使用されてきた1つの方法は、グラファイトを強力な酸化剤で処理し(それによって、グラファイトをグラファイト酸化物に変換し)、続いて部分還元して、所望の程度の酸素官能基化を達成することである[文献15~文献17]。しかしながら、このような処理は複雑で、費用がかかり、かつ、一般的にグラファイトと比較して、最も望ましい性能特性(例えば、強度、弾性率、電気伝導率、熱伝導率)の著しい損失をもたらす。炭素粉末の表面を官能基化するために多くの他の方法が開示されてきたが、それらの方法は、一般的に、複雑さ、高い費用、および/または性能特性の損失という制限を受ける。
【0020】
本発明は、天然の糖から誘導される、新規であり、低多孔性であり、官能基化された炭素マイクロ粉末、および前記炭素マイクロ粉末を製造するための方法を含む。これらの炭素粉末は、天然の再生可能な植物を基にした糖から誘導されるので、再生不能な資源から誘導されるカーボンブラック粉末および合成グラファイトに対して、特有の環境的持続可能性の利点を有する。天然の糖から誘導されるよく特徴付けられた炭素粉末材料の公表された例は相対的にほとんどなく、本発明の炭素粉末とは異なり、報告された例は、セルロース系出発材料から誘導される公知の活性炭粉末に、より密接に関連する高度に多孔性の材料である[文献12-文献14]。Whitener[文献15]によって報告された関連するが明確に異なる結果では、グルコースを濃硫酸で脱水して、水に滴下すると水の表面にナノスケールの厚さの炭素膜を形成する炭素質懸濁液を得ることによって、非晶質炭素膜が製造された。
【0021】
本発明の炭素マイクロ粉末は、既知の炭素粉末では示されなかった構造特性および性能特性の独特の組み合わせを示す。本発明の炭素マイクロ粉末は、有意な程度の結晶化度、硬度、および非常に低い多孔性を有する構造的完全性を示す。前記粒子は、グラファイトのような平坦な小板で生じる小板の凝集または「積み重ね」を抑制する、低度の無原則な(random)湾曲を有する、非平坦な小板である。酸素官能基化の程度は、約100℃~600℃の温度範囲で粉末を単に加熱することによって容易に制御することができ、それにより、酸素含有量を約35重量%~5重量%未満に変化させることができ、それによって、得られる複合体の最適な安定性および性能特性のために、粉末の表面極性をホストポリマー(host polymer)の極性に調整することを可能にすることができる。
【0022】
本発明の粉末は、簡単な一段階の脱水反応、続いて、すすぎ、ろ過および乾燥工程によって天然の糖から誘導され、これにより当該粉末を安価に大規模で製造することができる。好ましい出発材料は、フルクトース、グルコース、ガラクトースを含む一般的な結晶性のヘキソース糖、および結晶性の二糖類、すなわちスクロースおよびラクトースである。本発明は、新規な炭素マイクロ粉末、それらを製造する方法、およびこれらの材料の有用な用途の例、特に、熱安定性、熱伝導性、および機械的特性を高めるための熱硬化性および熱可塑性ポリマーのための機能性充填剤としての例を開示している。
【0023】
本発明の出発材料として有用である、結晶性ヘキソース糖および二糖類は、それらの結晶状態において、環状ヘミアセタールまたは環状ヘミケタール、5員環構造(フラノース)または6員環構造(ピラノース)として存在する。これらの結晶性糖は濃酸で処理されると急速に脱水し、脱水反応中に形成される炭素固体として蒸気が逃げるため、ミリメートル~センチメートルの大きさの範囲の非常に大きな孔および空隙を含む、層状の灰の様なマクロ構造を有する、黒色で、主に炭素の材料が形成される。得られた炭素材料は、薄片状の(flakey)固体にまで容易に破砕され、当該固体は、蒸留水で繰り返しすすがれ、酸を除去するために濾過され、その後、可溶性の有機不純物を除去するために、有機溶媒(例えばアセトン)で洗浄される。風乾後、得られた炭素材料を粗粉にまで破砕した後、微粉にまで粉砕する。粉砕は、小規模(small scale)では乳鉢および乳棒を用いて、または、大規模(large scale)では様々な型のミル(例えば、ボールミル、ハンマーミル等)を用いて、効果的に実施することができる。次いで、得られた炭素マイクロ粉末を、マイクロスクリーンふるい(micro screen sieve)を用いてふるいにかけて(screen)、特定の用途のための所望の粒径範囲(例えば、<50ミクロン、50~150ミクロン等)を単離する。
【0024】
主に非晶質であり、高度に多孔性または複雑で、不規則な形態および一般的に500m2/gより大きい表面積を有する、既知の活性炭粉末またはカーボンブラック粉末とは対照的に、本発明の炭素粉末の一次粒子は、平滑で非多孔性の表面、一貫した小板形態、低いが有意な程度の無原則な湾曲、および500m2/g未満の表面積(BET法)を有する。
【0025】
本発明によって供給されるマイクロ粉末は、高性能特性を有するポリマー複合体を製造するための熱硬化性および熱可塑性ポリマーにおける機能性充填剤として有用である。本発明によって供給されるマイクロ粉末は、広範囲のポリマーに容易に分散可能であり、粒径および酸素官能基化の程度は、充填材を含まないポリマーによって示される性能特性を超える、様々な特有の機械的、電気的、熱的、および他の性能特性を提供するように粉末を最適化するために、広範囲にわたって変化させることができる。例えば、約30%の酸素官能基化を含む、本発明のマイクロ粉末は、5重量%~60重量%の充填レベルでエポキシ樹脂中に容易に分散可能であり、硬化(curing)後、室温での弾性率の有意な増大、および高温での弾性率の優れた維持を示す。高温での弾性率の維持の改良と一致して、本発明のエポキシ樹脂複合体は、炭素マイクロ粉末を含まない対応する硬化エポキシ樹脂に対して、有意に高いガラス転移温度を示す。ガラス転移温度の増加は、ポリマー鎖と炭素粒子との間の良好な結合相互作用が、非常に安定な界面をもたらすことを示している。
【0026】
本発明の炭素マイクロ粉末を用いて改善することができる、熱硬化性および熱可塑性ポリマーの他の重要な性能特性には、引張強度、圧縮強度、寸法安定性、および難燃性が含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
当該技術は、ポリマー-マイクロ炭素粉末複合材料を製造するために使用される樹脂については限定されない。いくつかの実施形態では、ポリマーが熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、および/またはエラストマーポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーは液体熱硬化性ポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーは不飽和ポリエステルポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーはエポキシポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーはビニルエステルポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーは熱硬化性ポリウレタンポリマーである。いくつかの実施態様において、ポリマーは、アルキルシアノアクリレートポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーはプロピレンポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマーは、エステルポリマー、アミドポリマー、スチレンポリマー、ビニルポリマー(例えば、塩化ビニルポリマー)、イミドポリマー、ジメチルシロキサンポリマー、オレフィンポリマー、カーボネートポリマー、ニトリルゴムポリマー、スチレン-co-アクリル酸ポリマー、ウレタンポリマー、シリコンポリマー、エチレン-co-酢酸ビニルポリマー、メチルメタクリレートポリマー、ブチルゴムポリマー、アクリルゴムポリマー、N-ビニルピロリドンポリマー、エチレンオキシドポリマー、エチレン-プロピレン-ジエンモノマーポリマー、スチレンブタジエンゴムポリマー、エチレン-co-オクテンポリマー、ハロブチルゴムポリマー、シリル化スルホン化エーテルケトンポリマー、ベンズイミジゾールポリマー、フッ素化ベンズイミジゾールポリマー、スルホン化スチレンエチレンブチレンスチレンポリマー、ヒドロキシル化モノマーポリマー、高分岐(hyperbranched)モノマーポリマー、スルホン化エーテルケトンポリマー、スルホン化ベンズイミダゾール共重合体ポリマー、リン酸ドープベンズイミダゾールポリマー、スルホン化アリール-エンチオエーテル-スルホンポリマー、スルホン化ベンズイミダゾールポリマー、フェニレン-ビニレンポリマー、チオペンポリマー、フルオレンポリマー、アニリンポリマー、ピロールポリマー、アミドアミンデンドリマーポリマー、アクリルアミドポリマー、ビニルエステルポリマー、不飽和エステルポリマー、またはスチレンブタジエンポリマーである。さらに、当該技術は、アミノ酸、糖、およびヌクレオチド(デオキシヌクレオチドおよびリボデオキシヌクレオチド)などのモノマーと共に使用されることを見つける。
【0028】
したがって、いくつかの実施形態では、当該技術は、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、および/またはエラストマーポリマー中に炭素マイクロ粉末を含むポリマーを製造する。さらに、いくつかの実施形態では、炭素マイクロ粉末を含むポリマーは、不飽和ポリエステルポリマーである。いくつかの実施形態では、炭素マイクロ粉末を含むポリマーは、エポキシポリマーである。いくつかの実施形態では、炭素マイクロ粉末を含むポリマーは、ポリプロピレンである。いくつかの実施形態では、炭素マイクロ粉末を含むポリマーは、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリビニル(例えば、ポリ塩化ビニル)、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ニトリルゴム、ポリ(スチレン-co-アクリル酸)、ポリウレタン、シリコーン、ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)、ポリ(メチルメタクリレート)、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(エチレンオキシド)、エチレン-プロピレン-ジエンモノマーゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリ(エチレン-co-オクテン)、ハロブチルゴム、シリル化-スルホン化ポリ(エーテルケトン)、ポリ(ベンズイミジゾール)、フッ素化ポリ(ベンズイミジゾール)、スルホン化ポリスチレンエチレンブチレンポリスチレン、ヒドロキシル化ポリマー、高分岐ポリマー、架橋スルホン化ポリ(エーテルケトン)、スルホン化ポリベンズイミダゾール、リン酸ドープポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリアリール-エンチオエーテル-スルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾール、ポリ(フェニレン-ビニレン)、ポリチオペン、ポリフルオレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリアクリルアミド、ビニルエステル、不飽和ポリエステルまたはポリスチレンブタジエンである。さらに、当該技術は、タンパク質、DNA、RNA、脂質、糖、および結晶性セルロースなどの生体分子と共に使用されることを見つける。
【0029】
上述したような高い酸素含有量(例えば30%)を有する本発明の炭素マイクロ粉末を含むエポキシ樹脂複合体は、充填材を含まないエポキシ樹脂と比較して、電気伝導率または熱伝導率のいずれにおいてもほとんど向上を示さない;しかしながら、より低い酸素含有量(例えば<25%)を有する本発明の炭素マイクロ粉末を含む同様のエポキシ樹脂複合体は、無視し得るほどの電気伝導率の向上と共に、向上した熱伝導率を示す。この結果は驚くべきものであり、一般的に電気伝導率と熱伝導率との間に強い相関関係を示す既知の炭素マイクロ粉末およびナノ粉末と対照的に、他方の特性の同時の向上なしに一方の特性の有意な向上を妨げる。したがって、既知の炭素粉末充填剤は、一般に、高い熱伝導率を必要とするが、非常に低い電気伝導率を必要とする電子機器用途のための熱伝導材料として有用ではないが、本発明の低い酸素含有量の炭素粉末はこれらの用途に有用である。
【0030】
有意に低い酸素含有量(例えば<25%)を有する本発明の炭素粉末は、より高い酸素含有量の粉末の熱活性化によって製造される。例えば、高い酸素含有量の粉末を、500℃で短く(大気中で約15分間)加熱すると、25%未満の酸素含有量を有する粉末が得られる。不活性雰囲気下でのより長い加熱は、25%~5%未満の範囲の酸素含有量を有する粉末を供給する。
【0031】
理論に縛られるものではないが、本発明の粉末の表面官能基化は、弾性率、熱安定性およびTgの関連する増加を伴って、エポキシ樹脂またはポリアミド樹脂のような比較的極性のポリマーとの好ましい界面相互作用をもたらすが、酸素官能基化が高すぎる場合、(例えば>25%)酸素基は炭素構造の構造秩序および結晶化度を低下させ(以下の実施例のXRD解析結果を参照)、振動フォノンの移動を抑制し、その結果、例えば、官能基化されていないグラファイトと比較して、熱伝導率が非常に低くなるようである。非晶質の炭素粉末は、結晶性のグラファイト粉末と比較して、非常に低い装填(loading)でポリマー複合体中で高度に電気伝導性であり得るので、結晶化におけるこのような差異は熱伝導率と相関することが知られているが、必ずしも電気伝導率と相関するわけではない。したがって、本発明の炭素粉末の表面の酸素含有量が、振動フォノンのより効率的な移動を可能にするのに十分に低下する(例えば<25%)と、(既知の炭素粉末と比較して)電気伝導率に対する熱伝導率の比類なく高い比率が観察される。
【0032】
部分的に還元されたグラファイト酸化物の電気伝導率および熱伝導率の研究[文献15-文献17]は、これらの特性が酸素含有量によって強く影響され、これらの特性が酸素含有量を変化させることによってある程度「調整」され得るという証拠を提供する;しかしながら、必要とされる酸化および還元反応は、本発明で用いられる簡単な脱水反応よりもはるかに複雑かつ費用がかかり、グラファイト酸化物の熱伝導率の大きな増加が、電気伝導率の対応する増加なしに達成され得ることは実証されていない。
【0033】
〔実施例〕
(結晶性フルクトースからの官能基化炭素材料の調製)
結晶性フルクトース(30.107g、0.167モル)に対して、150mLビーカー中の濃硫酸(38.0mL、0.699モル)を添加した。混合物をガラス撹拌棒で約90秒間撹拌し、その結果、結晶性糖の大部分が強い発熱反応を伴って溶解し、色が急速に暗くなり、最初に琥珀色になり、次いで茶色から黒色になり、続いて、ビーカーの上端部を越えて十分に膨張した、高度に多孔性の炭素の柱(pillar)が急速に形成された。生成物を室温で5分間冷却し、その後、それを300mLの脱イオン水を含む600mLビーカーに移した。生成物を粉砕し、ガラス撹拌棒を用いて水中に分散させ、それを水中に懸濁固体として分散させた。この懸濁液をWhatman#1定性濾紙を用いてブフナー漏斗を通して吸引濾過した。濾過した固体を300mLの脱イオン水に再懸濁させ、3回以上吸引濾過し、結果として、4回目の洗浄により透明で無色の水濾液が得られた。次いで、固体を200mLのアセトンで2回懸濁させ、吸引濾過して有機不純物を除去した。次いで、固体を600mLビーカーに移し、一晩中、空気に開放した中で乾燥させた。室温で一晩中風乾させた後の生成物の収量は22.310グラムであった。
【0034】
(炭素マイクロ粉末を製造するための官能基化炭素材料の粉砕とふるい分け)
上記による生成物を乳鉢および乳棒を用いて粉砕し、標準的な45ミクロン(325メッシュ)ポリアミド篩を用いてふるい分けをし、45ミクロン未満の最大直径を有する粒径分布を有する粉末画分を分離し、単離した。
【0035】
(結晶性フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末の走査型電子顕微鏡法)
走査電子顕微鏡(SEM)画像をZeiss LEO 1550VP走査電子顕微鏡を用いて得た。
図1は、濃硫酸を用いた結晶性フルクトースの脱水から誘導された本発明の炭素マイクロ材料のうちの1つの、4つの異なった拡大度でのSEM画像を示す。微細なマイクロ粉末に粉砕した後、画像で示される粒径範囲を、45ミクロン(325メッシュ)の標準的なポリアミド篩を通してふるい分けすることによって、単離した。粒子は、滑らかで非多孔性の表面と、50ミクロン未満(単離手順と一致する)の最大直径および低度の無原則な湾曲を有する小板形態と、を示す。小板の厚さはかなり様々であるが、一般的に幅寸法(すなわち、0.5ミクロン~5ミクロン)より大きさが1桁~2桁小さいため、粒子のアスペクト比は10~100の範囲となる。画像において明らかな粒子の積み重ねまたは凝集の証拠はない。
【0036】
(結晶フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末の元素分析)
結晶性フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末の試料を、恒量が達成されるまで、150℃の乾燥器(oven)(開放空気雰囲気(open air atmosphere))中で乾燥させた。全重量損失は28.4%であった。当該試料の元素分析は、以下の結果を与えた:炭素:67.11%、水素:2.69%、酸素:28.99%、硫黄:0.082%
(結晶性フルクトースから調製した炭素マイクロ粉末の熱重量分析(TGA))
TGA分析は、TA Instruments Q500感熱機を用いて窒素雰囲気下で行った。試料を室温で空気乾燥させ、TGAを動かす前にマイクロ粉末に粉砕した。製造された試料のTGAは、
図2に示されるグラフであり、
図2からは室温から500℃までの全重量減少が40%であることが示される。約77℃の変曲点以外の重量減少(おそらく遊離水の減少)が、残りの温度範囲ではかなり継続していることから、ヒドロキシル(アルコール)官能基を含む脱離反応による脱水反応の進行が示唆される。
【0037】
(結晶フルクトースから誘導され、500℃に加熱することにより活性化された炭素マイクロ粉末の元素分析)
元素分析試料について上述したように、150℃で乾燥させた結晶性フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末の試料を、34℃/分の加熱速度で、25℃から500℃まで、加熱炉(開放空気雰囲気)内で加熱することにより活性化した。温度が500℃に達したとき(14分)、試料を直ちに加熱炉から取り出し、室温まで冷却させた。試料は31.7%の重量損失を示した。当該試料の元素分析(Galbraith Laboratories、ノックスビル、TN)により、以下の結果が得られた:炭素:73.65%、水素:2.68%、酸素:22.69%。
【0038】
(結晶性フルクトースから誘導され、かつ500℃で加熱活性化された炭素マイクロ粉末の比表面積分析(BET法))
結晶性フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末の試料を、恒量が達成されるまで、150℃の乾燥器(開放空気雰囲気)中で乾燥させた。次いで、粗い粉末を330rpmで2.0時間ボールミル粉砕(乾燥、直径1cmのセラミックボール)することにより、約50μmの最大粒径を有する微細なマイクロ粉末を得た。マイクロ粉末を、毎分34℃の加熱速度で500℃まで2回加熱することによって活性化し、その都度、試料が500℃に達したときに加熱を中止し、直ちに室温まで冷却させた。総重量損失は37.7%であった。試料の比表面積分析(BET法、Particle Technology Labs、ダウナーズグローブ、IL)は、325.08m2/gの表面積を示した。
【0039】
(市販のグラファイトに対する、結晶性フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末のX線粉末回折(XRD)分析)
XRD分析は、Bruker D8 Discover XRD機器を用いて行った。元素分析試料のために上述のように調製した、本発明の2つの炭素マイクロ粉末を分析して、それらのパーセント結晶化度を決定した。試料のうち1つは、さらなる熱処理なしで、150℃で恒量まで乾燥させた一方で、他方の試料は、500℃に加熱することによってさらに活性化させた。XRD分析は、2つの試料についてそれぞれ9.2%および27.7%のパーセント結晶化度を示した。この結果は、酸素含有量が加熱処理によって減少するにつれて、結晶化度が有意に増加することを示している。比較のために、市販のグラファイト粉末試料についてXRD分析を行った。予想通り、グラファイトは高度に結晶性(95.4%)であった。
【0040】
(結晶性フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末を用いた20%炭素/エポキシ樹脂複合体試験試料の調製)
上述のように結晶性フルクトースから調製した炭素マイクロ粉末(1.298g、<45ミクロン)を、25,000rpmで10分間の混合時間作動するS25N-8G(直径8mm)マイクロミキシングヘッド(micro mixing head)を有するIKA T 25オーバーヘッド固定子-回転子分散機(overhead stator-rotor disperser)を使用して、4.422gのエポキシ樹脂(ビスフェノールA樹脂)中に分散させた。当該混合物を、発泡が静まり、ならびに、分散液の表面が滑らか、かつ、気泡がないように見えるまで、真空下で脱気した。ジエチレントリアミン硬化剤(1.0g)を添加し、混合物をへら(spatula)で5分間穏やかに撹拌し、次いで空洞の型に注ぎ、動的機械分析のための試験片を作製した。当該試験片を室温で2日間硬化させ、次いで150℃で1.0時間加熱硬化させた。
【0041】
(結晶性フルクトースから誘導され、500℃で加熱活性化された炭素マイクロ粉末を20%および40%含む、炭素/エポキシ樹脂複合体試料の電気伝導率測定)
結晶性フルクトースから誘導され、500℃で活性化された炭素マイクロ粉末から調製された、20%および40%炭素/エポキシ樹脂試験試料の抵抗率(電動率の逆数)測定を行った。測定は、Static Solutions Ohm-Stat RT-1000装置を用いて行った。20%および40%炭素装填(loaded)複合体試料は、それぞれ1.23E13オーム-cmおよび9.81E12オーム-cmの抵抗率を示し、非常に低い電気伝導率(すなわち、高い絶縁性)を示した。
【0042】
(結晶フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末を含有する炭素/エポキシ樹脂複合体試料の熱伝導率測定)
熱伝導率測定は、ThermTest TPS 2500 S Analyzerを用いて、ThermTest Inc.(フレデリックトン、NB、カナダ)により実施した。
図3は、結晶性フルクトースから誘導された、様々な段階の炭素マイクロ粉末を含むエポキシ樹脂複合体のバルク熱伝導率を比較する棒グラフを示す。上側のグラフは、150℃で恒量になるまで乾燥させ、さらなる熱活性化を行わない炭素マイクロ粉末のデータを示しているが、下側のグラフは、150℃で恒量になるまで乾燥させ、次いで500℃まで加熱することによってさらに活性化させた炭素マイクロ粉末のデータを示している。さらなる加熱活性化を行わずに150℃で乾燥させた炭素マイクロ粉末は、炭素充填剤を含まないエポキシ樹脂対照に対して、統計的に有意であるが、非常に小さなバルク熱伝導率の向上を示した(例えば、+.0035W/m-K、エポキシ樹脂対照に対して1.3%の増加、20%の装填)。対照的に、500℃に加熱することによってさらに加熱活性化された炭素マイクロ粉末は、エポキシ樹脂対照に対して、はるかに大きいバルク熱伝導率の向上を示した(例えば、+0.0162W/m-K、エポキシ樹脂対照に対して6.0%の増加、20%の装填)。
【0043】
(20%および40%炭素/エポキシ樹脂試料の動的機械分析(DMA))
20%および40%の炭素/エポキシ樹脂試料を、エポキシ樹脂対照試料と共に、TA Instruments RSA III Dynamic Mechanical Analyzerを用いてDMAによって分析した。分析は、5℃/分の加熱速度および1Hzの振動数での温度傾斜研究として、3点曲げモードで約25mm×10mm×2mmの寸法を有する試験片で行った。
図4、5および6は、それぞれ、エポキシ樹脂対照、20%および40%炭素/エポキシ樹脂試料についてのDMA結果のプロットを示す。各プロットは、温度の関数として貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)およびtanδを示す。
【0044】
図4はエポキシ樹脂対照試料のプロットであり、30℃での初期の貯蔵弾性率が2.9GPaを示し、これは、温度の上昇に伴い次第に低下して78℃で1.0GPaになり、次いで、温度が上昇し続けるにつれて急速に低下する。ガラス転移温度(Tg)は、3つのパラメータE’、E’’またはtanδのそれぞれから、E’の変化率(すなわち、二次導関数)が最大に達する温度、またはE’’が最大値に達する温度、またはtanδが最大値に達する温度として推定することができる。E’およびE’’の推定値は共に、エポキシ樹脂対照のTgが約80℃であることを示す一方で、tanδの最大値は、Tgが約87℃であることを示す(注:tanδからの推定値がより高いことは典型的である)。
【0045】
図5は、20%炭素/エポキシ樹脂複合体試料のプロットであり、30℃での初期の貯蔵弾性率が3.9GPa(すなわち、エポキシ樹脂対照に対して35%増加)を示し、これは、温度の上昇に伴い次第に低下して93℃(すなわち、エポキシ樹脂対照の対応する温度よりも15度高い)で1.0GPaになり、次いで、温度が上昇し続けるにつれて急速に低下する。E’またはE’’から推定されるTgは、約95℃(すなわち、エポキシ樹脂対照よりも15度高い)である一方で、tanδから推定されるTgは約102℃(Tgもまたエポキシ樹脂対照よりも15度高い)である。
【0046】
図6は、40%炭素/エポキシ樹脂複合体試料のプロットであり、30℃での初期の貯蔵弾性率が3.7GPa(すなわち、エポキシ樹脂対照に対して28%の増加)を示し、これは、温度の上昇に伴い次第に低下して100℃(すなわち、エポキシ樹脂対照の対応する温度よりも22度高い)で1.0GPaになり、次いで、温度が上昇し続けるにつれて急速に低下する。E’またはE’’から推定されるTgは、約100℃(すなわち、エポキシ樹脂対照より20度高い)である一方で、tanδから推定されるTgは約105℃(エポキシ樹脂対照より18度高い)である。
【0047】
(結晶性フルクトースから誘導され、窒素雰囲気下で500℃に加熱することによって活性化された炭素マイクロ粉末の元素分析)
150℃(上述のように開放空気雰囲気)で恒量になるまで乾燥させた、結晶性フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末の試料を、窒素雰囲気下加熱炉で、約30℃/分の加熱速度で、25℃から500℃まで加熱することによって活性化した。温度が500℃(15分)に達したとき、温度を500℃でさらに10分間保持し、その後、窒素雰囲気下で室温までゆっくりと冷却し戻した。試料は、13.4%の重量損失を示した。当該試料の元素分析(Galbraith Laboratories、ノックスビル、TN)により、以下の結果が得られた:炭素:75.57%、水素:2.42%、酸素:19.66%。
【0048】
(結晶性フルクトースから誘導され、窒素雰囲気下で600℃に加熱することによって活性化された炭素マイクロ粉末の元素分析)
150℃(上述のように開放空気雰囲気)で恒量になるまで乾燥させた、結晶性フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末の試料を、窒素雰囲気下加熱炉で、約25℃/分の加熱速度で、25℃から600℃まで加熱することによって活性化した。温度が600℃(15分)に達したとき、温度を600℃でさらに10分間保持し、その後、窒素雰囲気下で室温までゆっくりと冷却し戻した。試料は、33.9%の重量損失を示した。当該試料の元素分析(Galbraith Laboratories、ノックスビル、TN)により、以下の結果が得られた:炭素:86.62%、水素:2.55%、酸素:8.81%。
【0049】
(結晶フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末の熱伝導率測定)
熱伝導率測定は、ThermTest TPS 2500 S 分析器を使用して、ThermTest Inc.(Fredericton、NB、カナダ)によって実施した。バルク熱伝導率は、異なる熱処理履歴を有する2つの炭素マイクロ粉末について測定した。第1の測定は、開放空気下150℃で恒量まで乾燥させ、さらなる熱活性化を行わない炭素マイクロ粉末に対して行った。その一方で、第2の測定は、開放空気中150℃で恒量まで乾燥させ、次いで、上述のように窒素雰囲気下600℃まで加熱することによってさらに活性化させた炭素マイクロ粉末に対して行った。150℃で乾燥させ、さらなる熱活性化を行わない炭素マイクロ粉末は、0.1014W/m-K(5回の測定の平均、標準偏差=0.0002W/m-K)のバルク熱伝導率を示した。
150℃で乾燥し、窒素雰囲気下で600℃まで加熱してさらに活性化した炭素マイクロ粉末は、600℃で活性化しなかった試料に対して10%増加した、0.1119W/m-Kのバルク熱伝導率(5回の測定の平均、標準偏差=0.0002)を示した。
【0050】
(結晶性フルクトースから誘導された炭素マイクロ粉末を用いた30%炭素/ポリ(塩化ビニル)(PVC)複合体試料の調製)
上述のように、結晶性フルクトースから調製した炭素マイクロ粉末(1.532g)を、混合ガラス瓶(vial)中で、PVC粉末(3.527g、Aldrich Lot# 13328 TDV)と乾燥混合させ、均一に混合するまでへらを用いて撹拌した。THF溶媒(15mL、実験用試薬等級)を撹拌しながら添加することにより、結果として、粘性であるが流動性を有する懸濁液を得た。混合ガラス瓶を氷浴中で冷却し、懸濁液を、S25N-8G(直径8mm)マイクロミキシングヘッドを有するIKA T 25オーバーヘッド固定子-回転子分散機を用いて混和した。混合RPMは、5分間にわたって25,000まで次第に上昇させ、その後、混合を25,000RPMでさらに5分間継続した。得られた懸濁液を、空洞の型に注ぎ、開放空気中に室温で放置することにより、THFを蒸発させた。3時間後、試料を触れるほどにまで乾燥させ、型から取り出した。それらは軟質ビニルの粘度(consistency)を有していた。24時間後、試料は、堅いが柔軟な粘度を有し、残留THFが蒸発するにつれて硬化し続けた。
図7は、3時間後の空洞の型内の試料の写真、および、24時間後に型から取り出した試料の写真を示す。
【0051】
〔文献〕
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[文献2]Jui, G.; Wilhelm, H.; L’Heureux, J. L.; “High Purity Graphite Powders for High Performance”, Technical Bulletin, Timcal Graphite and Carbon, Timcal Ltd.
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[文献19]Liao, K.; Aoyama, S.; Abdala, A. A.; Macosko, C.; “Does Graphene Change Tg of Nanocomposites?”, Macromolecules, 47, 8311, 2014
上記明細書に記載された全ての刊行物および特許は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。記載された組成物、方法、および本技術の使用の種々の改変および変化は、記載された技術の範囲および精神から逸脱することなく、当業者に明らかである。本技術は特定の例示的な実施形態に関連して説明されてきたが、主張される本発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことは理解されるべきである。実際に、当業者に明らかな、本発明を実施するための記載された形態の種々の改変は、以下の特許請求の範囲の範囲内であることが意図される。
図7は、24時間後の試料の写真を示す。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】結晶性フルクトースの脱水から調製された、炭素マイクロ粉末の走査型電子顕微鏡写真(SEM)画像を示す。
【
図2】結晶性フルクトースの脱水から調製された炭素マイクロ粉末の熱重量分析のグラフである。
【
図3】結晶性フルクトースから誘導される様々な段階の炭素マイクロ粉末を含むエポキシ樹脂複合体のバルク熱伝導率を比較する棒グラフを示し、前記マイクロ粉末は、異なる熱処理履歴を有する。
【
図4】エポキシ樹脂対照試料(control sample)の温度の関数(function)として、貯蔵弾性率(E’)、損失値弾性率(E’’)およびtanδを示すプロット(plot)である。
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図5】20%炭素/エポキシ樹脂複合体試料の温度の関数として、貯蔵弾性率(E’)、損失値弾性率(E’’)およびtanδを示すプロットである。
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図6】40%炭素/エポキシ樹脂複合体試料の温度の関数として、貯蔵弾性率(E’)、損失値弾性率(E’’)およびtanδを示すプロットである。
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図7】結晶性フルクトースから誘導される炭素マイクロ粉末から調製した30%炭素/ポリ(塩化ビニル)(PVC)複合体試料の写真を示す。3時間の蒸発時間後の空洞(cavity)の型内における試料、および、24時間後に型から取り出された試料を示す。
【国際調査報告】