(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】大麻のイン・ビトロ光独立栄養繁殖
(51)【国際特許分類】
A01H 1/00 20060101AFI20221027BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20221027BHJP
A01H 6/28 20180101ALI20221027BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A01H1/00 Z
A01H5/00 Z
A01H6/28
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511299
(86)(22)【出願日】2020-08-17
(85)【翻訳文提出日】2022-04-18
(86)【国際出願番号】 US2020046645
(87)【国際公開番号】W WO2021034755
(87)【国際公開日】2021-02-25
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522065853
【氏名又は名称】ノード ラブズ,インク.
【氏名又は名称原語表記】Node Labs, Inc.
【住所又は居所原語表記】205 Deer Creek Lane, Petaluma, CA 94952, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー リービット
【テーマコード(参考)】
2B030
4B029
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB02
2B030AD20
2B030CA28
2B030CB02
4B029AA01
4B029AA08
4B029BB12
4B029CC07
4B029GA08
4B029GB09
(57)【要約】
光独立栄養ゲル系を用いた植物組織の繁殖体への成長を促進するための植物繁殖システム、プロセスおよび方法を提供する。植物繁殖システムは、ガスの受動拡散を可能にする通気蓋を備える滅菌成長容器を含む。プロセスは、1つ以上の滅菌発根外植片を用いて開始され、これを続いて通気蓋を備える大型容器内で光独立栄養培養し、エクス・ビトロ成長条件を模倣する。次いで、これらの結節外植片を通気蓋容器内で光独立栄養発根寒天ゲルに発根させ、続いてエクス・ビトロ成熟成長に最適な基質に移植することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物組織のイン・ビトロ繁殖の方法であって、
a.植物の第1の節断片を、半透過性容器に入った低糖ゲル培地に置くこと、
b.前記容器を光環境に曝露すること、
c.前記第1の節断片の光合成成長を促進するのに十分な時間にわたって前記容器からガスを受動拡散させ、前記光合成成長の結果として、前記第1の節断片が1つ以上の節断片を含む繁殖体へと繁殖すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記低糖ゲル培地が、5g未満の可溶性炭水化物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記可溶性炭水化物が、スクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトースおよびマルトースからなる群から選択される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記光環境が、弱光環境である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記光環境が、100μmol/m
-2/s
-1未満の流束を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記弱光環境が、30μmol/m
-2/s
-1未満である、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記十分な時間が、10~40日である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記第1の節断片が、少なくとも1cmの長さである、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記第1の節断片が、滅菌クローン母植物の茎切片を解離させることによって得られる、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上の節断片を解離させて、複数の節断片を生成するとともに、工程(a)~(c)を繰り返す工程をさらに含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記容器が、光合成成長のためのガスの前記受動拡散を可能にする通気蓋を備える、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記通気蓋が、0.2ミクロンの細孔径を有する、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記植物が、カンナビス・サティバ(Cannabis sativa)、カンナビス・インディカ(Cannabis indica)およびカンナビス・ルデラリス(Cannabis ruderalis)からなる群から選択される、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記繁殖体が、1つ以上のひげ根を含む、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記低糖ゲル培地が、サイトカイニンおよび/またはオーキシンを含有する、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
植物組織のイン・ビトロ増殖の方法であって、
a.請求項1から15までのいずれか1項記載の繁殖体を、半透過性容器に入った液体栄養溶液で増強させた固体基質または凝集体に置くこと、
b.前記容器を光環境に曝露すること、
c.第1の節断片の光合成成長を促進するのに十分な時間にわたって前記容器からガスを受動拡散させ、前記光合成成長の結果として、前記第1の節断片が1つ以上の節断片へと繁殖すること
を含む、方法。
【請求項17】
前記光環境が、中光環境である、請求項1から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記中光環境が、66μmol/m
-2/s
-1未満の流束を有する、請求項1から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記十分な時間が、10~40日である、請求項1から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記十分な時間が、7~10日である、請求項1から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記容器が、蓋をさらに備える、請求項1から20までのいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
前記蓋が、通気蓋である、請求項1から21までのいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
前記通気蓋が、前記容器への病原微生物の侵入を防止する、請求項1から22までのいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
前記通気蓋が、前記容器とその周辺環境との間のガス交換および水蒸気交換を促進する、請求項1から23までのいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
前記通気蓋が、スパンボンドまたは不織ポリプロピレン膜または布地を含む、請求項1から24までのいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
前記布地が、0.01~0.2ミクロンの範囲の細孔径を有する、請求項1から25までのいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
開口上部を有する成長容器に取り付けられる蓋であって、前記成長容器が光独立栄養植物成長に適し、前記蓋が前記成長容器の前記開口上部を密閉するように構成され、前記蓋が、成長容器内外へのガスおよび水蒸気の自由交換を可能にすることができる膜によって覆われる開口部を含み、前記膜が前記成長容器への微生物病原体の侵入を防止する、蓋。
【請求項28】
開口部のサイズが、2.5cm~7cmの範囲である、請求項27記載の蓋。
【請求項29】
前記膜が、0.01~0.2ミクロンの範囲の細孔径を有する、請求項27または28記載の蓋。
【請求項30】
蓋の直径が、5~50cmの範囲である、請求項27から29までのいずれか1項記載の蓋。
【請求項31】
前記蓋が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレンおよびガラスからなる群から選択される材料から作製される、請求項27から30までのいずれか1項記載の蓋。
【請求項32】
前記膜が、ポリプロピレン、セルロースおよびナイロンから選択される材料から作製される、請求項27から31までのいずれか1項記載の蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、光独立栄養条件下での植物組織の無菌イン・ビトロ繁殖に関する。
【0002】
相互参照
本願は、2019年8月19日に出願された米国特許出願第62/888,853号明細書の優先権を主張し、その内容全体を参照により本明細書に援用するものとする。
【0003】
背景
大麻は、カンナビス・インディカ(Cannabis indica)、カンナビス・サティバ(Cannabis sativa)およびカンナビス・ルデラリス(Cannabis ruderalis)の3つの種からなり、多数の交配種が存在する。カンナビス・サティバL.(Cannabis sativa L.)は一般に、農学的使用と関連する栽培化された大麻を表すために使用される。その農学的価値は、カンナビジオール(CBD)およびテトラヒドロカンナビノール(THC)等の精神活性化学物質または治療用化学物質を含有する品種と、主にそれらの繊維および他の産物について重用される麻品種とに分かれる。大麻は雌雄異株植物であり、雄性生殖器および雌性生殖器を別々の植物に有するが、雌性植物のみが有益なカンナビノイドを十分に含有する花をつけ、商業的に価値がある。大麻の育種により、無性生殖のみによって生殖し得る多くの独特の品種が生み出されている。したがって、得られる全ての植物が雌性かつ純種であることを確実にするために、無性クローニングが好ましい繁殖方法として従来用いられる。
【0004】
エクス・ビトロクローニング、すなわち従来のクローニングは、大麻植物の数枚の葉を有する4~6インチの長さの茎切片を解離させ、IBA(インドール-3酪酸)等の発根ホルモンに浸漬し、土壌、ピートまたはロックウール等の湿った基質に入れるプロセスを指す。好適な湿度条件下では、これらの切断茎が根を発達させ、小型の植物となる。しかしながら、このプロセスには欠点がある。主な欠点は、繁殖させた植物がその親と同じ疾患、昆虫侵入および/またはウイルスを有することである。
【0005】
加えて、母植物は度重なる操作により、切り傷から感染し得る病原体に曝露される。フサリウム(Fusarium)およびフハイカビ(Pythium)は、非常に一般的であり、ストレスを受けたクローン母に感染し、それが生じるクローンに組織的に感染することが知られる2つの植物病原体である。クローン母植物が重度に感染すると、クローニングプロセスが著しく損なわれ、生じる内因性汚染が、生産が意図される作物の収量および品質に影響を及ぼす可能性がある。概して、クローン苗床では、長期の植物病原体予防に苦心している。この問題は、大麻栽培に限ったことではなく、アボカド、バナナ、ラン、ダイズおよび液果類等の植物の栽培においても同様の問題が報告されている。多くの場合、苗床では、感染を抑えるために大量の抗生物質および殺真菌剤の使用に頼っているが、これによるコストの増大、環境への影響および繁殖体の品質の低下から、有機栽培生産者にとって魅力のないものとなっている。
【0006】
微細繁殖は、無菌組織培養法を用いて遺伝学的に同一の小植物を生産する方法である。成長容器内の二酸化炭素濃度、光合成光量子束、相対湿度および気流が、小植物の成長および発育に影響を与える最も重要な環境要因の一部であり、これらの要因の制御には、温室および園芸工学の知識および技術、ならびにイン・ビトロ小植物の生理学の知識が必要とされる。微細繁殖は、疾患および害虫のない系統の均一な小植物の急速な繁殖を可能にする。
【0007】
いずれの大麻育種プログラムの遺伝的進歩も、種の他殖(交雑)性のために選択された遺伝子型を圃場または温室条件下で維持することが困難であることから限られている。したがって、エリート品種/クローンを種子によって維持することは不可能または困難である。種子の貯蔵は、非常に変わりやすく、有効性が低い遺伝子型を生じる(Meijer et al. 1992; Meijer E. P. M.; van dr Kamp H. J.; van Eeuwijk F. A. Characterisation of Cannabis accessions with regard to cannabinoid content in relation plant characters. Euphytica 62: 187-200;1992.)。植物再生プロトコルが種々の大麻遺伝子型および外植片源について開発されており(Loh et al. 1983; Loh W. H. T.; Hartsel S. C.; Robertson W. Tissue culture of Cannabis sativa L. and in vitro biotransformation of phenolics. Z. Pflanzenphsiol 111: 395-400; 1983、Richez-Dumanois et al. 1986; Richez-Dumanois C.; Braut-Boucher F.; Cosson L.; Paris M. Multiplication vegetative in vitro du chanvre (Cannabis sativa L.) application a la conservation des clones selectionnes. Agronomie 6: 487-495; 1986、Mandolino and Ranalli 1999, Mandolino G.; Ranalli P. Advances in biotechnological approaches for hemp breeding and industry. In: Ranalli P. (ed) Advances in hemp research. Haworth, New York, pp 185-208; 1999.、Slusarkiewicz-Jarzina et al. 2005; Slusarkiewicz-Jarzina A.; Ponitka A.; Kaczmarek Z. Influence of cultivar, explant source and plant growth regulator on callus induction and plant regeneration of Cannabis sativa L. Acta Biol. Crac. Ser. Bot. 472: 145-151; 2005、Bing et al. 2007, Bing X.; Ning, L.; Jinfeng T.; Nan G. Rapid tissue culture method of Cannabis sativa for industrial uses. CN 1887043 A 20070103 Patent (p. 9); 2007.)、培養の応答および形態形成経路において相当な変動が報告されている。Fisse et al.による報告(Fisse J.; Braut F.; Cosson L.; Paris M. Etude in vitro des capacities organogenetiques de tissues de Cannabis sativa L. Effet de differentes substances de croissance. Planta Med. 15: 217-223; 1981.)では、器官発生が評価されているが、外植片上での任意の直接的な器官形成は観察されず、大麻カルスは容易に根を生じるが、シュート形成への感受性が弱いことが報告されている。Mandolino and Ranalli(Mandolino G.; Ranalli P. Advances in biotechnological approaches for hemp breeding and industry. In: Ranalli P. (ed) Advances in hemp research. Haworth, New York, pp 185-208; 1999)は、カルスからの偶発的シュート再生を報告している。Feeney and Punja(Feeney M.; Punja Z. K. Tissue culture and agrobacterium-mediated transformation of hemp (Cannabis sativa L.). In Vitro Cell. Dev.Biol. Plant 39: 578-585; 2003.)は、カルスまたは懸濁培養物から直接または間接的に麻小植物を再生することができなかった。
【0008】
植物の生存、成長および生産性は、エネルギー交換、蒸散における水蒸気の喪失、および光合成における二酸化炭素の取込み等のプロセスを通じて大気環境と密接に関連している(Stoutjesdijk and Barkman 1992; Stoutjesdijk P. H.; Barkman J. J. Microclimate, vegetation and fauna. Opulus, Sweden; 1992)。水蒸気交換速度は、葉のエネルギー収支および蒸散、ならびに結果として植物全体の生理に影響を与える(Chandra and Dhyani 1997; Chandra S.; Dhyani P. P. Diurnal and monthly variation in leaf temperature, water vapour transfer and energy exchange in the leaves of Ficus glomerata during summer. Physiol. Mol. Biol. Plants 3: 135-147; 1997)。
【0009】
大麻系統を成長させるための多くの微細繁殖プロトコルが発表されている(Casano S, Grassi G (2009) Valutazione di terreni di coltura per la propagazione in vitro della canapa (Cannabis sativa). Italus Hortus 16:109-112、Lata H, Chandra S, Khan IA, ElSohly MA (2016a) In vitro propagation of Cannabis sativa L. and evaluation of regenerated plants for genetic fidelity and cannabinoids content for quality assurance. Methods in molecular biology. Springer, Clifton, pp 275-28)。しかしながら、これらのプロトコルの多くは、再現が困難であり、多くの系統が従属栄養組織培養に対して不寛容であり、従属栄養組織培養において過水状態、クロロシス、壊死および過度のカルス化等の負の症状を示す。本発明は、完全光独立栄養増殖サイクルを用いて母株(stock)またはクローン母植物と同一の所望の遺伝的特徴を有する頑強な小植物を生じさせる、信頼性および生産性の高い微細繁殖方法を提供することを目的とする。
【0010】
発明の概要
本発明は、病原性汚染のない高品質のクローン母および繁殖体を作製する、光独立栄養条件下での植物組織の無菌イン・ビトロ繁殖のためのシステム、方法および装置を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、植物組織のイン・ビトロ繁殖の方法であって、
a.植物の第1の節断片を、半透過性容器に入った低糖ゲル培地に置くこと、
b.容器を光環境に曝露すること、
c.第1の節断片の光合成成長を促進するのに十分な時間にわたって容器からガスを受動拡散させ、光合成成長の結果として、第1の節断片が1つ以上の節断片を含む繁殖体へと繁殖すること
を含む、方法を提供する。
【0012】
本発明の或る特定の実施形態では、低糖ゲル培地は、5g未満の可溶性炭水化物を含み、可溶性炭水化物はスクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトースおよびマルトースからなる群から選択される。幾つかの実施形態では、低糖ゲル培地は、サイトカイニンおよび/またはオーキシンを含有する。
【0013】
本発明の或る特定の実施形態では、光環境は弱光環境である。幾つかの実施形態では、光環境は、100μmol/m-2/s-1未満の流束を有する。幾つかの実施形態では、弱光環境は、30μmol/m-2/s-1未満である。
【0014】
本発明の或る特定の実施形態では、十分な時間は10~40日である。幾つかの実施形態では、十分な時間は10~40日である。他の実施形態では、十分な時間は7~10日である。
【0015】
本発明の或る特定の実施形態では、第1の節断片は、少なくとも1cmの長さである。幾つかの実施形態では、第1の節断片は、滅菌クローン母植物の茎切片を解離させることによって得られる。幾つかの実施形態では、方法は、上記1つ以上の節断片を解離させて、複数の節断片を生成するとともに、工程(a)~(c)を繰り返す工程をさらに含む。
【0016】
本発明の幾つかの実施形態では、容器は、光合成成長のためのガスの上記受動拡散を可能にする通気蓋を備える。幾つかの実施形態では、通気蓋は、0.2ミクロンの細孔径を有する。
【0017】
或る特定の実施形態では、植物はカンナビス・サティバ(Cannabis sativa)、カンナビス・インディカ(Cannabis indica)およびカンナビス・ルデラリス(Cannabis ruderalis)からなる群から選択される。或る特定の実施形態では、繁殖体は、1つ以上のひげ根を含む。
【0018】
本発明は、植物組織のイン・ビトロ増殖の方法であって、
a.繁殖体を、半透過性容器に入った液体栄養溶液で増強させた固体基質または凝集体に置くこと、
b.容器を光環境に曝露すること、
c.第1の節断片の光合成成長を促進するのに十分な時間にわたって容器からのガスの受動拡散を可能にし、光合成成長の結果として、第1の節断片が1つ以上の節断片へと繁殖すること
を含む、方法を提供する。
【0019】
或る特定の実施形態では、光環境は中光環境である。幾つかの実施形態では、中光環境は、66μmol/m-2/s-1未満の流束を有する。
【0020】
本発明の或る特定の実施形態では、十分な時間は10~40日である。幾つかの実施形態では、十分な時間は10~40日である。他の実施形態では、十分な時間は、7~10日である。
【0021】
或る特定の実施形態では、成長容器は蓋をさらに備える。幾つかの実施形態では、蓋は通気蓋である。幾つかの実施形態では、通気蓋は、成長容器への病原微生物の侵入を防止する。幾つかの実施形態では、通気蓋は、容器とその周辺環境との間のガス交換および水蒸気交換を促進する。幾つかの実施形態では、通気蓋は、スパンボンド(spun bound)または不織ポリプロピレン膜または布地を含む。幾つかの実施形態では、布地は、0.01~0.2ミクロンの範囲の細孔径を有する。
【0022】
本発明はまた、開口上部を有する成長容器に取り付けられる蓋であって、上記成長容器が光独立栄養植物成長に適し、上記蓋が上記成長容器の上記開口上部を密閉するように構成され、上記蓋が、成長容器内外へのガスおよび水蒸気の自由交換を可能にすることができる膜によって覆われる開口部を含み、上記膜が上記成長容器への微生物病原体の侵入を防止する、蓋を提供する。幾つかの実施形態では、開口部のサイズは、2.5cm~7cmの範囲である。幾つかの実施形態では、膜は0.01~0.2ミクロンの範囲の細孔径を有する。幾つかの実施形態では、蓋の直径は、5~50cmの範囲である。幾つかの実施形態では、蓋はポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレンおよびガラスからなる群から選択される材料から作製される。幾つかの実施形態では、膜はポリプロピレン、セルロースおよびナイロンから選択される材料から作製される。
【0023】
一態様では、本発明は、植物組織のイン・ビトロ繁殖の方法であって、a.植物の第1の節断片を、半透過性容器に入った低糖ゲル培地に置くこと、b.容器を光環境に曝露すること、c.第1の節断片の光合成成長を促進するのに十分な時間にわたって容器からガスを受動拡散させ、上記光合成成長の結果として、第1の節断片が1つ以上の節断片を含む繁殖体へと繁殖することを含む、方法を提供する。別の態様では、低糖ゲル培地は5g未満の可溶性炭水化物を含み、可溶性炭水化物はスクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトースおよびマルトースからなる群から選択される。別の態様では、低糖ゲル培地は、サイトカイニンおよび/またはオーキシンを含有する。別の態様では、光環境は弱光環境である。幾つかの態様では、光環境は、100μmol/m-2/s-1未満の流束を有する。幾つかの態様では、弱光環境は、30μmol/m-2/s-1未満である。別の態様では、十分な時間は10~40日である。別の態様では、十分な時間は10~40日である。他の態様では、十分な時間は、7~10日である。別の態様では、第1の節断片は、少なくとも1cmの長さを有する。別の態様では、第1の節断片は、滅菌クローン母植物の茎切片を解離させることによって得られる。別の態様では、方法は、上記1つ以上の節断片を解離させて、複数の節断片を生成するとともに、工程(a)~(c)を繰り返す工程をさらに含む。別の態様では、容器は、光合成成長のためのガスの上記受動拡散を可能にする通気蓋を備える。別の態様では、通気蓋は、0.2ミクロンの細孔径を有する。別の態様では、植物はカンナビス・サティバ(Cannabis sativa)、カンナビス・インディカ(Cannabis indica)およびカンナビス・ルデラリス(Cannabis ruderalis)からなる群から選択される。別の態様では、繁殖体は、1つ以上のひげ根を含む。一態様では、本発明は、植物組織のイン・ビトロ増殖の方法であって、a.繁殖体を、半透過性容器に入った液体栄養溶液で増強させた固体基質または凝集体に置くこと、b.容器を光環境に曝露すること、c.第1の節断片の光合成成長を促進するのに十分な時間にわたって容器からのガスの受動拡散を可能にし、光合成成長の結果として、第1の節断片が1つ以上の節断片へと繁殖することを含む、方法を提供する。別の態様では、光環境は中光環境である。別の態様では、中光環境は、66μmol/m-2/s-1未満の流束を有する。別の態様では、十分な時間は10~40日である。別の態様では、十分な時間は10~40日である。他の実施形態では、十分な時間は7~10日である。別の態様では、成長容器は蓋をさらに備える。一態様では、蓋は通気蓋である。一態様では、通気蓋は、成長容器への病原微生物の侵入を防止する。一態様では、通気蓋は、容器とその周辺環境との間のガス交換および水蒸気交換を促進する。一態様では、通気蓋は、スパンボンドまたは不織ポリプロピレン膜または布地である。別の態様では、布地は、0.01~0.2ミクロンの範囲の細孔径を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】成長プロセスおよびその様々な段階の概略図である。
【
図2】従属栄養条件下で成長させた植物繁殖プロセスの順化段階の植物の写真である。
【
図3A】光独立栄養条件下で成長させた植物繁殖プロセスの根誘導段階の植物の写真である。
【
図3B】光独立栄養条件下で成長させた植物繁殖プロセスの根誘導段階の植物の下面の写真である。
【
図4】光独立栄養条件下で成長させた植物繁殖プロセスの順化段階の植物の写真である。
【
図5】光独立栄養条件下にて無菌で成長させた健常な広がった(turgid)葉を有する大型滅菌クローン母の写真である。
【
図6】0.2ミクロン細孔径のフィルターを有する通気蓋の写真例である。
【
図7】通気および密閉成長チャンバーにおいて光独立栄養条件下で成長させた植物の比較を示す写真である。
【
図8】通気蓋の作製プロセスを示す図である。
図8Aは、換気口が作られる前のプラスチック蓋の代表例を示す。
図8Bは、スパンボンドまたは不織ポリプロピレン布地から作製されたガスおよび水分が透過可能な膜を示す。
図8Cは、蓋の開口部および開口部を覆うために使用される透過性膜の作製を示す。
図8Dは、蓋の開口部にガスおよび水分が透過可能な膜を接着剤によって貼り付け、成長容器用の通気蓋の代表例を作製することを示す。
【
図9】超音波溶接機を用いてガスおよび水分が透過可能な膜を蓋の開口部に貼り付けた通気蓋を示す図である。
【0025】
発明の詳細な説明
本論が例示的な実施形態のみを説明し、本発明のより広い態様を限定することを意図したものではないことが当業者には理解される。
【0026】
本発明は概して、植物組織の繁殖体への成長を促進するための植物繁殖システム、プロセスおよび装置に関する。植物繁殖システムは、ガスの受動拡散を可能にする通気蓋を備える滅菌成長容器を含む。プロセスは、1つ以上の滅菌発根外植片を用いて開始され、これを続いて通気蓋を備える大型容器内で光独立栄養培養し、エクス・ビトロ成長条件を模倣する。次いで、これらの結節外植片を通気蓋容器内で光独立栄養発根寒天ゲルに発根させ、続いてエクス・ビトロ成熟成長に最適な基質に移植することができる。
【0027】
定義
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解するものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様または同等の任意の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、例示的な方法および材料を記載する。本明細書で使用される場合、以下の用語のそれぞれが本節における意味と関連する意味を有する。
【0028】
冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法的対象の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書で使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0029】
本明細書で定義される場合、「従属栄養繁殖」という用語は、イン・ビトロ植物が、そのエネルギーの20%超または全てを、ゲルまたは液体培地を介して直接送達されるスクロース等の炭水化物源から得るプロセスを指す。
【0030】
本明細書で定義される場合、「光独立栄養繁殖」という用語は、イン・ビトロ植物が、そのエネルギーの80%超または全てを光合成から得るプロセスを指す。
【0031】
本明細書で定義される場合、「光合成成長」という用語は、栄養素および好適な光環境に曝露された切断植物切片からの1つ以上の葉の成長を指す。光条件は30~100μmol/m-2/s-1の範囲の流束を有して変化させることができ、栄養素は滅菌低強度液体水耕栽培培地の形態で供給することができる。
【0032】
本明細書で定義される場合、「十分な時間」という用語は、植物が所望の光合成成長を達成するのに要する期間を指し、概して、この期間は7~30日、好ましくは10~21日、より好ましくは10~14日である。
【0033】
本明細書で定義される場合、「クローン母」または「母株」という用語は、その固有の表現型、例えばテトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)との間の濃度比、葉の色および形状、香り、樹脂産生、開花サイクル、高さ等で選ばれる単一系統に由来する例示的な植物を指す。クローン母は概して、商業的繁殖を容易にするために、根茎が保存され、同一の所望される形質を有する繁殖体を生成するように成長させる。通例、クローン母は5~25センチメートルの高さまで成長し、少なくとも5つの葉節点を有する。所望の高さおよび所望の葉節点数に達した後、クローン母を用いて、後に繁殖体へと成長する切断切片を生成することができる。
【0034】
本明細書で定義される場合、「イン・ビトロクローン母」という用語は、滅菌環境において成長させたクローン母植物(上で定義される)を指し、それから成長して繁殖体を生成する。
【0035】
本明細書で定義される場合、「分裂組織」という用語は、重さが0.1~2ミリグラムの範囲であり、1ミリメートル以下の長さを有する頂端分裂組織からなる植物細胞の微視的クラスターを指す。
【0036】
本明細書で定義される場合、「茎頂」という用語は、重さが1~5ミリグラムの範囲であり、0.5~5ミリメートルの範囲の長さを有する体細胞分裂組織を含む芽からなる植物から採取された解離物(dissection)を指す。
【0037】
本明細書で定義される場合、「流束」という用語は、光の測定単位を指す。
【0038】
本明細書で定義される場合、「節または節断片」という用語は、1~5センチメートルの範囲(両端含む)の長さを有する茎切片であり、体細胞分裂組織を含む芽である植物部分を指し、葉および葉柄を含んでいても、または含まなくてもよい。
【0039】
本明細書で定義される場合、「ゲル」という用語は、固体としての形状を維持するアガロース、ゲランガムまたはゼラチン等のゲル化剤を用いた溶液懸濁液を指す。
【0040】
本明細書で定義される場合、「順化」という用語は、イン・ビトロ植物が容器外および外界での成長と関連する、より高い光レベル、気動および栄養素濃度に耐えるように移行させるプロセスを指す。ここで使用される順化は、植物が長時間曝される栄養素、空気ガス含有量および気動、ならびに露光量に応じて24~48時間、10~30日および/または1~4週間の期間にわたって起こり得る。
【0041】
本明細書で定義される場合、「スポンジキューブ」という用語は、1~500立方センチメートルの体積を有するポリウレタンまたは他のポリマーに由来する連続気泡発泡体を指す。
【0042】
本明細書で定義される場合、「繁殖体」または「小植物」という用語は、成熟して新たな植物を生じる、より大きな植物から採取された解離物を指す。本明細書で使用される「小植物」は、根およびシュートを有する若いまたは小さな植物を指す。本発明の幾つかの実施形態では、小植物は、高さ0.5~10センチメートルである。本明細書で使用される「繁殖体」は、植物の繁殖に使用され、土壌または他の植え付け培地に移植する準備ができている、長さ0.5~10センチメートルの植物および小植物を指す。
【0043】
本明細書で定義される場合、「ソマクローナル変異」という用語は、イン・ビトロで培養した体細胞から再生された植物の子孫の間で観察される遺伝的変異である。
【0044】
本明細書で定義される場合、「低糖培地」という用語は、5グラム未満の可溶性炭水化物を含む成長培地を指し、幾つかの実施形態では、可溶性炭水化物はスクロースである。低糖ゲル培地は、5グラム未満の可溶性炭水化物とともにアガロースをさらに含む成長培地を指す。
【0045】
本明細書で定義される場合、「高糖培地」という用語は、少なくとも15グラムの可溶性炭水化物を含む成長培地を指し、幾つかの実施形態では、可溶性炭水化物はスクロースである。高糖ゲル培地は、少なくとも15グラムの可溶性炭水化物とともにアガロースをさらに含む成長培地を指す。
【0046】
本明細書で定義される場合、「中糖培地」という用語は、5~15グラムの可溶性炭水化物を含む成長培地を指し、幾つかの実施形態では、可溶性炭水化物はスクロースである。中糖ゲル培地は、5~15グラムの可溶性炭水化物とともにアガロースをさらに含む成長培地を指す。
【0047】
本明細書で定義される場合、「弱光環境」という用語は、30μmol/m-2/s-1未満の流束を有する光環境を指す。
【0048】
本明細書で定義される場合、「強光環境」という用語は、100μmol/m-2/s-1超の流束を有する光環境を指す。
【0049】
本明細書で定義される場合、「中光環境」という用語は、30~100μmol/m-2/s-1の流束を有する光環境を指す。
【0050】
本明細書で定義される場合、「滅菌」という用語は(「滅菌クローン母」または「滅菌植物」等)は、細菌、真菌およびウイルス等の病原性汚染がない植物、繁殖体および切断切片を指す。細菌、真菌またはウイルス等の1つ以上の病原生物に起因する感染は、植物およびそれを成長させた培地の目視検査によって決定することができる。植物感染の一般的な症状には、うどんこ病、黄斑病または褐斑病の発生、および培地での真菌または細菌のコロニーによるコロニー形成が含まれ得る。
【0051】
本明細書で定義される場合、「滅菌成長培地」という用語は、病原生物を含まないスポンジキューブ、ロックウール、バーミキュライト、パーライトまたはクレイペレット等の一般に使用される滅菌成長培地を指す。
【0052】
本明細書で定義される場合、「滅菌繁殖体」という用語は、病原性汚染がなく、多くの場合、滅菌クローン母植物から生成される繁殖体を指す。
【0053】
本明細書で定義される場合、「オーキシン」という用語は、オーキシンまたはオーキシン様活性を有する任意の化合物を指す。「オーキシン様活性」は、オーキシンによる処理の結果として植物において観察される典型的な活性を指す。このため、オーキシン様活性を有する化合物は、高濃度で外植片における未組織細胞塊の形成を促進し、頂芽優勢を促進し、単独でまたはサイトカイニンの存在下で細胞増殖を維持し、かつ/またはシュート挿し木における根発達を誘導する。
【0054】
本明細書で定義される場合、「サイトカイニン」という用語は、サイトカイニンまたはサイトカイニン様活性を有する任意の化合物を指す。「サイトカイニン様活性」は、サイトカイニンによる処理の結果として植物において観察される典型的な活性を指す。このため、サイトカイニン様活性を有する化合物は、細胞培養物からのシュート再生を促進し、補助シュート成長を促進し、かつ/またはオーキシンの存在下で細胞増殖を維持する。
【0055】
本明細書で定義される場合、「環境条件に対する耐性の向上」という用語は、同じ種の野生型植物にとって通常は危険または有害である有害環境条件に耐える植物の能力を意味する。
【0056】
本明細書で使用される場合、「継代培養」または「継代」という用語は、或る培養容器から別の培養容器への細胞の移動を指し、通常は増殖中の細胞培養物の細分を伴う。このため、「継代培養」は、組織または外植片を細分した後、新たな培養培地に移すプロセスである。
【0057】
本明細書で使用される場合、初代培養工程に有用な「培地」(すなわち、初代培地)という用語は、植物組織培養に使用される任意の基礎培地であり得る。かかる培地は、当業者に既知である。一実施形態では、初代培地は、少なくとも1つの植物ホルモン(すなわち、植物成長調節因子)が添加/増強される。好適な植物ホルモンの例としては、オーキシンおよびサイトカイニンが挙げられる。オーキシンには、オーキシン様活性を有する任意の化合物が含まれる。このため、オーキシンとしては、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、ピクロラムおよびインドール酪酸(IBA)、ならびにそれらの組合せを挙げることができるが、これらに限定されない。また、サイトカイニンには、サイトカイニン様活性を有する任意の化合物が含まれる。このため、サイトカイニンとしては、チジアズロン、ゼアチン、ベンジルアデニン、カイネチン、アデニンヘミスルフェートおよびジメチルアリルアデニン、ならびにそれらの組合せを挙げることができるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、初代培地に少なくとも1つのオーキシンおよび少なくとも1つのサイトカイニンを添加する。
【0058】
本明細書で使用される場合、「可溶性炭水化物」という用語は、当業者に既知の炭素源を指し(Slater et al. Plant Biotechnology, the Genetic Manipulation of Plants, Oxford University Press, 368 pp., (2003))、スクロース、フルクトース、フコース、グルコース、マルトース、ガラクトースおよびソルビトール等のような糖が含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
本明細書で使用される場合、「1つ以上の節断片」という用語は、葉および葉柄を含んでいてもよい、体細胞分裂組織を含む1つ以上の芽を含む茎切片の形成を指す。
【0060】
本明細書で使用される場合、「固体基質」という用語は、それ自体は液体ではないが、栄養溶液を任意に注入することができる能力を有する任意の滅菌かつ不活性の成長培地を指し、固体基質の一般例としては、ウレタン、ロックウール、スポンジキューブ基質、コココイア、パーライト、バーミキュライト、火山性溶岩が挙げられ、ブロンドピートおよびブラックピートの混合物、繊維質ピート、樹皮、パーライト、ならびにミミズ腐植土(worm humus)を使用することもできる。
【0061】
本明細書で使用される場合、「固体凝集体基質」という用語は、クレイペレット、ロックウール、スポンジキューブ基質、コココイア、パーライト、バーミキュライト、火山性溶岩、ピート、繊維質ピート、樹皮、パーライトおよびミミズ腐植土等の1つ以上の成長培地の複合混合物を指す。
【0062】
本明細書で使用される場合、「非ゲル固体基質」という用語は、その組成にアガロースを含まない任意の成長培地を指す。
【0063】
本明細書で使用される場合、「容器」という用語は、植物を成長させるために使用される小型の密閉された携帯可能な入れ物を指す。容器は鉢、正方形または長方形の箱、桶またはフラスコの形を取ることができる。概して、これらの成長容器は、高密度ポリエチレン(HDPE)または低密度ポリエチレン(LDPE)またはポリプロピレン(PP)またはポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチックから作製される。幾つかの実施形態では、成長容器は、ガラスまたはテラコッタから作製することができる。容器のサイズは、その中で成長させる植物の成長プロセスの段階、サイズおよび数に応じて0.2リットル(8オンス)~15リットル(550オンス)の範囲である。
【0064】
本明細書で使用される場合、「半透過性容器」という用語は、ガス交換に対して透過性であるが、真菌、細菌またはウイルスの侵入に対しては不透過性の蓋を取り付けた成長容器を指す。
【0065】
本明細書で使用される場合、「通気蓋」という用語は、成長容器を覆い、濾紙で覆われた開口を有する蓋を指す。濾紙の細孔径が小さいほど、成長容器内外のガスの受動的交換が容易となるが、病原生物および胞子の侵入が阻止されるため、成長容器は半透過性となる。概して、通気蓋の濾紙の細孔径は、0.01~0.2ミクロンの範囲である。通気蓋の一例を
図6に示す。
【0066】
本明細書で使用される場合、「高い成功率」という用語は、成長プロセスの根誘導段階において根を発達させた植物切片のパーセンテージを指す。概して、切片の植物の発根は、従来の繁殖において最も困難な局面と考えられ、平均して切断切片の40~50%のみが根を発達させる。切断切片の90%超が成長プロセスの根誘導段階において1つ以上のひげ根を発達させた場合、その成長プロセスは高い成功率を有するとみなされる。
【0067】
本明細書で使用される場合、「超音波溶接」という用語は、高周波の超音波音響振動を、加圧下で一緒に保持されたワークピースに局所的に加え、固相溶接を行う産業技術を指す。超音波溶接は、プラスチックおよび金属に対して、特に異種材料の接合に一般に使用される。超音波溶接においては、材料を結合するために連結ボルト、釘、はんだ付け材料または接着剤は必要とされない。超音波溶接機は、超音波溶接を行うための装置であり、一般例としては、Sonitek(商標)のハンドヘルド溶接機が挙げられる。
【0068】
本明細書で使用される場合、「過水状態」という用語は、組織培養により生成された植物の過度の水分補給、低い木質化、気孔機能の障害、および機械的強度の低下を引き起こす生理学的形成異常を指す。植物組織培養における過水状態の主要因としては、酸化ストレス、高い塩濃度、高い相対湿度、低い光強度、瓶の雰囲気中のガス蓄積、および継代培養間の時間間隔の長さが挙げられる。
【0069】
本明細書で使用される場合、「クロロシス」という用語は、クロロフィルの欠乏による葉組織の黄変を指す。クロロシスは、ウイルスによる感染;必須無機質または酸素の欠乏;アルカリ、肥料、大気汚染または低温による損傷;昆虫、ダニまたは線虫による摂食等のためにクロロフィルが発達しないことに起因する。罹患した葉は、緑色のままである葉脈を除いて黄色に変わる。重症例では、茎葉が褐色に変化し、枯れることがある。
【0070】
量、持続時間等の測定可能な値に言及する際に本明細書で使用される「約」は、指定の値から±20%または±10%、或る特定の実施形態では±5%、或る特定の実施形態では±1%、或る特定の実施形態では±0.1%の変動を、かかる変動が開示の方法を行うために適切な場合に包含することが意図される。
【0071】
範囲:本開示全体を通して、本発明による様々な態様が範囲形式で提示されることがある。範囲形式での記載は、単に便宜および簡潔さのためのものであり、本発明による範囲の融通性のない限定としてとして解釈すべきでない。したがって、範囲の記載は、考え得る全ての部分範囲だけでなく、その範囲内の個々の数値を具体的に開示していると考えるべきである。例えば、1~6等の範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数値、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3および6を具体的に開示していると考えるべきである。これは、範囲の広さに関わらずに適用される。
【0072】
実施例
本発明の植物繁殖システムおよび方法は、以下の実施例を参照することで、よりよく理解され得る。各実施例に成長プロセスにおける単一の工程または段階を示す。成長プロセスの様々な段階の概要を
図1に概略的に示す。実施例1には、従属栄養条件下で行われる植物組織培養の段階を記載する。実施例2~4には、光独立栄養条件下で行われる根誘導/増殖、順化およびクローン母の生成の段階を記載する。実施例2~4に記載される段階は、光独立栄養微細繁殖期と総称される。
【0073】
本発明の幾つかの実施形態では、従属栄養条件下で行われる工程は任意である。本発明の幾つかの実施形態では、成長プロセスは、従属栄養条件下で行われる1つ以上の工程と、光独立栄養条件下で行われる1つ以上の工程とを含む。本発明の幾つかの実施形態では、成長プロセスは、繁殖体の増殖を確実にするために数回繰り返される従属栄養条件下の1つ以上の工程を含む。本発明の幾つかの実施形態では、成長プロセスは、繁殖体の増殖を確実にするために数回繰り返される光独立栄養条件下の1つ以上の工程を含む。
【0074】
他に指定のない限り、下記の先行する(preceding below)実施例において使用される全ての成長容器は、ガンマ放射線を用いて滅菌されている。バーミキュライト、スポンジ基質およびロックウール等の固体の多孔質成長培地は、オートクレーブ内で専用の通気容器を用いて滅菌されている。全ての栄養溶液、緩衝液および水もオートクレーブを用いて滅菌し、植物組織の切除は、全ての成長段階での無菌環境を確実にするためにラミナーフローフード内で行われる。これらの植物の切断切片および小植物または繁殖体は全て、同様の環境条件下に保ち、1段に2つの13ワットのLEDライト(Hort Americas,TX)を備えるラック上の様々な容器において成長させた。自動電気タイマーを用いて、人工昼夜サイクルを18時間の明期で調節した。成長室の温度および相対湿度を、それぞれほぼ25~35℃および60%に保った。幾つかの実施形態では、最適な成長を促進するために温度を30℃に維持した。成長プロセスに対する光の影響を決定するために、人工光源(モデルLI-6400-02;発光シリコンダイオード;LI-COR)を用いて葉を異なる光合成光量子束密度(PPFD)、すなわち0、5、10、15、20、25、30、35、40、50、55、60、70、80、90および100μmol/m-2/s-1に曝露した。
【0075】
実施例1:従属栄養組織培養
繁殖プロセスの最初の段階は、従来の組織培養から小植物を得ることである。このプロセスは開始、伸長/増殖、発根および順化の4つの工程からなる。このプロセスは、Lata et al., 2009に記載されている。消毒した鋏を用いて、望ましい形質を有する健常な母植物から節断片または枝を得る。幾つかの実施形態では、母植物は、(ガスクロマトグラフィー-質量分析を用いて、その化学的プロファイルに基づいて選択される)屋内栽培施設において成長させた多収性C.サティバ(C. sativa)品種である。幾つかの実施形態では、母植物は、対象の系統の繁殖に関心を持っている農家によって提供される。幾つかの実施形態では、母植物をHarborside,Oakland,CA等の植物薬局から得る。
【0076】
切断切片を漂白剤等の酸化溶液および洗浄剤溶液で洗浄し、害虫を駆除し、あらゆる真菌、昆虫および細菌汚染を除去する。切断切片を15%漂白剤および0.1%Tween 20溶液の入った瓶に入れる。振盪機を用いて瓶を15分間振盪し、全ての切断切片が十分に消毒されることを確実にする。切断切片を滅菌蒸留水でさらに洗浄し、洗浄を3回繰り返して、酸化溶液および洗浄剤を完全に除去する。幾つかの実施形態では、0.5%NaOCl(15%(v/v)漂白剤)および0.1%Tween 20を用いて切断切片を20分間表面消毒した。切片を培地に接種する前に滅菌蒸留水で5分間、3回洗浄した(Lata et. Al. 2009, Thidiazuron-induced high-frequency direct shoot organogenesis of Cannabis sativa L., In Vitro Cell.Dev.Biol.-Plant, 45:12-19)。
【0077】
次いで、無菌環境を確実にするために滅菌切断切片をラミナーフローフード内の滅菌表面上に置く。滅菌鉗子およびメスを用いて、切断切片を節断片、茎頂または分裂組織外植片にさらに区分けする。次いで、高スクロース含量、オーキシンおよびサイトカイニンを含むゲル培地の入った成長容器に外植片を入れる。幾つかの実施形態では、ゲル培地(ムラシゲスクーグ培地;Murashige T.; Skoog F. A revised medium for rapid growth and bioassays with tobacco tissue cultures. Physiol Plant 15: 473-497; 1962.)は、様々な濃度のサイトカイニンであるベンジルアデニン(BA)、カイネチン(Kn)およびチジアズロン(TDZ)を添加した、またはpH5.7に調整したジベレリン酸と組み合わせた、3%(w/v)スクロース、0.8%(w/v)寒天タイプE(Sigma Chemical Co.,St. Louis,MO)を含む。次いで、
図2に示すような成長容器を40~60μmol/m
-2/s
-1の強度の光条件に10~14日間にわたって曝露する。この段階で植物が伸長し、任意に植物を解離させ、同じ処方のゲル培地上に戻すことによって増殖させることができる。
【0078】
小植物が発育した後、それらを根誘導ゲルに入れる。小植物を開始ゲル培地から取り出し、初代根誘導ゲル培地の入った成長容器に入れる。根誘導ゲル培地は、1リットルのバッチについて500mg/lの活性炭および2.5μM IBAを添加した1/2MS培地を用いて作製される。次いで、成長容器を14~21日間、または必要に応じてそれ以上の期間にわたって40~60μmol/m-2/s-1の強度の光条件に曝露する。21日後に切断切片を検査して、新たなひげ根が形成されているかを確認し、新たな根が形成された後、切片を順化段階に移す(Lata et. Al. 2009, Thidiazuron-induced high-frequency direct shoot organogenesis of Cannabis sativa L., In Vitro Cell.Dev.Biol.-Plant, 45:12-19)。
【0079】
順化段階においては、発根した小植物または繁殖体を根誘導培地から取り出し、ロックウールまたはバーミキュライト等の任意の非ゲル固体または凝集体基質に入れ、Clonex Clone Solution等の当該技術分野で一般に知られている幾つかの他の栄養溶液を、新たな繁殖体に対して推奨濃度で使用することができる。次いで、
図2に示すような成長容器を、流束40~60μmol/m
-2/s
-1の光条件下に5~10日間置いた後、100~150μmol/m
-2/s
-1のより強い光へと移動させる。これらの異なる光レベルからの移動は、植物の好ましい成長形態に応じ、また成熟度および成長速度に従って調節することができる。所望の成長レベルが得られた後、解離物をこの滅菌成熟植物から採取し、安定した微細繁殖および容易な順化のために光独立栄養増殖/根誘導ゲル段階(実施例2)に移行させることができる。
【0080】
上記の従属栄養組織培養プロトコルは、光独立栄養微細繁殖のために滅菌順化小植物を得るのに必要であるが、独立したプロセスとしては依然として幾つかの問題がある。概して、従属栄養ゲル培地中の植物は、正常な形態および活発な成長を欠き、過水状態、過度のカルス成長、クロロシスおよび壊死等の負の症状を示すことが多い。多くの植物は、このプロセスを切り抜けられず、大麻の或る特定の系統は完全に不適合である。小植物を光独立栄養サイクルに移行させることで、より良好な植物形態、80%の発根成功および95%の順化成功、ならびに極めて安定した無期限の成長サイクルがもたらされる。
【0081】
実施例2:光独立栄養増殖/根誘導ゲル
植物は光合成および細胞呼吸の2段階のプロセスを用いて成長のためのエネルギーを生み出している。光合成は、植物の葉の内部の葉緑体において行われ、太陽からのエネルギーを用いて二酸化炭素および水を糖に変換する。次いで、細胞呼吸により、酸素を用いて糖を副産物としての水および二酸化炭素とともにアデノシン三リン酸(ATP)の形態の使用可能なエネルギーへと分解する。植物組織培養では、光合成を完全に妨害し、糖を植物自体に直接送達することで通常は枯れてしまう植物部分の急速な成長が達成される。かかる成長プロセスは、光合成が完全に停止するのではなく、大幅に減少するため、従属栄養組織培養と称される。
【0082】
従属栄養組織培養では、イン・ビトロ植物の細胞内の糖の総量が、光合成全体とゲル培地を介して植物に直接送達される糖の量との組合せであると認識されている。そのため、培養下の植物の葉が大きく、光が明るいほど、細胞内で光合成によって生成する糖が多くなるのは当然である。多くの植物は、過剰な糖の存在下で光合成を「打ち切る」ことができるが、大麻植物が成長段階において葉が発達し始めた後に光合成を打ち切ることができないと判明したのは予期せぬことであった。葉の器官が発達した後、大麻繁殖体は、即座に過水状態、カルス形成および壊死等の細胞内の糖への過剰曝露に特徴的な負の症状を示し始める。
【0083】
従来の方法で組織培養された発根植物を、大きな気動、培地中の炭水化物の完全な欠如、および高い光レベルに完全に耐えるようになるまで徐々に大きくする通気蓋容器を用いた順化プロセスを通じて滅菌状態に保つ。次いで、植物を大きなプラスチック容器に移植し、そこで光独立栄養培養して、通常の組織培養プロセスとは異なる、より正常な植物形態の植物を成長させる。このように成長させた植物を母植物として用い、それから節断片を解離させ、繁殖体を生成した後、光独立栄養発根培地に置く。この成長プロセスは、完全に発根および順化したクローン母を用い、切断切片を光独立栄養培地に直接発根させるため、完全に光独立栄養的な微細繁殖システムである。理論に束縛されることを望むものではないが、糖の存在下で光合成作用を「打ち切る」ことができない、または糖への過剰曝露と関連する症状に対する感受性が高い任意の植物を、このプロセスを用いて繁殖させることができると仮定された。
【0084】
光独立栄養繁殖プロセスの最初の工程は、増殖/根誘導段階を含む。(実施例1のような)従属栄養成長から光独立栄養成長へと移行させた、長さが少なくとも1cmの茎を有し、葉面積が少なくとも0.5cm
2の滅菌小植物を得る。ラミナーフローフード内で滅菌鉗子およびメスを用いて小植物の頂端部から茎切片を切り出す。茎切片は、小植物の遠位端に無傷の節および葉が残るように切断する。補助シュートおよび基底節断片を含む、小植物の任意の部分からの節断片をこのプロセスにおいて使用することができる。茎切片を少なくとも1cmの長さの個々の節断片にさらに解離させ、少なくとも0.5cm
2の葉面積を確実にする。複数の節の切片を使用することもできる。次いで、節を光独立栄養培地の入った成長容器に入れる。光独立栄養培地は、1/2MS塩、6.5g/L寒天、0~5g未満の炭水化物源、好ましくはスクロース、1μgのIBAを1リットルの滅菌蒸留水に溶解することによって調製される。
図3Aおよび
図3Bに示すような成長容器は、直径1.9cmの0.2ミクロン通気蓋を備える。任意に、培地がオーキシンおよび/またはサイトカイニンを含有していてもよい。次いで、ゲル培地に埋め込まれた節の入った成長容器を、10~30日間にわたって強度40~100μmol/m
-2/s
-1の光条件に置く。10~30日後に節を検査し、節に複数の節断片が成長している場合、これらの新たに生成した節を解離させ、異なる容器内の同じタイプのゲル培地に置き、増殖サイクルを生じさせることができる。このプロセスを十分な量の活発に成長する節切片が生成されるまで繰り返す。
【0085】
実施例3:光独立栄養順化
光独立栄養繁殖プロセスの第2の工程は、順化プロセスを含む。発根した小植物または繁殖体を実施例2の根誘導培地から取り出し、150mLの滅菌低強度液体水耕栽培培地の入った成長容器内のスポンジキューブのディブルホール(dibble hole)に入れる。成長容器は、直径3.175センチメートルの0.2ミクロン細孔径の通気蓋で覆われる。順化プロセスは、ロックウールまたはバーミキュライト等の任意の非ゲル固体または凝集体基質、および当該技術分野で一般に知られている幾つかの他の栄養溶液を用いて行うことができる。次いで、
図4に示すような成長容器を、流束40~60μmol/m
-2/s
-1の光条件下に5~10日間置いた後、100~150μmol/m
-2/s
-1のより強い光へと移動させる。これらの異なる光レベルからの移動は、植物の好ましい成長形態に応じ、また成熟度および成長速度に従って調節することができる。所望の成長レベルが得られた後、繁殖体を梱包し、最終顧客への納入のために送るか、または実施例2のような切断切片の供給源となり得るクローン母にまで成長させることができる。
【0086】
成長方法の成功は(a)外植片または切断切片1つ当たりの平均シュート数、(b)平均シュート長、(c)シュートを生じる外植片または切断切片のパーセンテージ、(d)外植片または切断切片1つ当たりの平均根数、(e)平均根長、および(f)発根した小植物のパーセンテージ等の30日間の成長後のパラメーターを評価することによって決定した。概して、観察された平均シュート数は1.5本、平均シュート長は2.5cm、シュートを生じる切断切片のパーセンテージは95%、切断切片1つ当たりの平均根数は2本、平均根長は1cm、発根した小植物のパーセンテージは80%であった。発根した小植物は、移植4週間後に95%生存率を示した。本プロセスによって成長させた順化植物は、正常な発達を示し、肉眼的な形態学的変化は観察されなかった。
【0087】
開示の成長方法およびシステムは、既存の従来の成長方法と比べて独自の利点を有する。従属栄養繁殖と併せた光独立栄養繁殖の使用は、増殖ラウンドから完全に成長させた商業的に納入可能な製品への植物のより急速な移行をより短時間で可能にする。また、このプロセスにより全体的な植物の健康状態が向上し、病原性汚染のリスクが低下するため、高濃度の殺虫剤、抗生物質および殺真菌剤を使用する必要性が減少する。抗生物質、殺虫剤および殺真菌剤の使用の減少は、有機小植物を好む栽培業者にとって非常に望ましい。また、抗生物質の使用の減少により、繁殖コストが削減され、環境への影響が軽減する。また、このプロセスでは、クローン母が箱内で無期限に保管され、従来の成長プロセスで起こり得るソマクローナル変異のリスクが大幅に低下する。クローン母を無期限に維持することができるため、特性を変化させることなく、同じ所望の形質を特徴とする小植物を得ることができる。また、このプロセスでは、ホルモンの使用を減らすことができ、苗床のコストを節約することもできる。
【0088】
さらに、このプロセスでは、従来の繁殖では最も困難な局面である植物切片の発根の成功率が高い。より多くの小植物を生成することができ、単一のイン・ビトロクローン母から25個を超える小植物が生み出された。また、従来の繁殖方法とは異なり、繁殖体を完全な光環境で成長させるため、任意の更なる順化を必要とすることなく、繁殖体を最終顧客に直接送ることができるという追加の利点が得られる。また、このプロセスでは、汚染を有しない滅菌繁殖体を納入することができるため、最終顧客は、苗床から植物を受け取った後に施設内で減菌工程を行う必要がない。このため、前述の成長プロセスは、より急速な成長、より健康な植物、より低いコスト、より少ない抗生物質、殺虫剤および殺真菌剤の使用、ならびに有機商業植物農場にとって理想的な繁殖体を可能とすることから、既存の方法と比べて優れている。密閉蓋および通気蓋を用いて繰り返した実験から、密閉容器と比較して通気蓋容器の結果がより良好であり、より急速な成長およびより健康な植物を示し、葉が多いことが示された。通気対密閉の成長チャンバーにおいて行った光独立栄養成長プロセスの結果を
図7に示す。
【0089】
実施例4:イン・ビトロクローン母の生成
300mLの滅菌バーミキュライト基質および400mLの濾過滅菌した低強度水耕栽培培地を入れ、0.2ミクロン細孔径のフィルターを備える直径3.175センチメートルの通気蓋を付けた
図5に示すような滅菌5リットル成長容器に実施例3の順化植物を入れる。適切に換気される0.5リットル~100Lの範囲のサイズの滅菌容器を使用してもよく、スポンジキューブ、ロックウールまたはパーライト等の任意の滅菌成長培地をクローン母植物の成長に使用することができる。次いで、
図5に示すような成長容器を強度60~200μmol/m
-2/s
-1の光条件下に置き、十分なサイズまで成熟させた後、クローン母を実施例4のような切断切片の採取に使用することができる。
【0090】
実施例5:光独立栄養繁殖のための通気蓋の作製および使用
従属栄養植物組織培養においては、ゲル培地中に存在するスクロースが、細胞呼吸によって植物が代謝する炭素源となる。光独立栄養成長に使用されるゲル培地はスクロースを欠いているため、このスクロース源は、光独立栄養条件下で成長する植物には利用可能でない。したがって、光独立栄養植物組織培養では、スクロースが植物に供給されないため、炭素源として空気中の二酸化炭素を使用する必要がある。植物組織培養では換気が用いられることが多いが、かかる換気の主な役割はガス交換であり、培養容器と培養環境との間のエチレン、二酸化炭素および他のガスの排気による能動的または受動的交換を可能にし、微細繁殖と関連する症状/副作用を軽減することである。当該技術分野で既知であり、植物成長に使用される通気蓋は、種々のプラスチック樹脂の均一な押出によって作製され、水蒸気が膜を越えて拡散するのを許容しないガス交換用の膜を備える。かかる通気蓋は、光独立栄養条件下での植物または植物培養に適していない。
【0091】
通気蓋は、周囲の外気からの二酸化炭素、エチレン等のガスおよび水蒸気の最適な交換を可能にする。本実施例では、光独立栄養条件下での植物の成長における通気蓋の作製および使用を実証する。また、通気蓋は、成長容器への病原微生物の侵入を防止することで、成長容器内の植物に対する細菌またはウイルスの攻撃を防ぐ。成長容器からの水蒸気の実質的な排出は、湿度を下げ、より高い蒸気圧不足を誘導することで、蒸散および代謝を加速する。このように、通気蓋は、容器内の植物のより急速な成長を促進し、過水状態およびクロロシス等の植物組織培養と関連する負の症状の多くから植物を保護する。
【0092】
通気蓋は、プラスチッククロージャに円形の穴または正方形の開口をレーザー切断することによって製造される。次いで、スパンボンドまたは不織ポリプロピレン布地から作製されるガスおよび水分が透過可能な膜を耐熱接着剤、直火または超音波溶接によって蓋の表面への連続シールで開口部の上に貼り付ける。ポリプロピレン布地の細孔は、0.01~0.2ミクロンの範囲であり、ガスおよび水蒸気の交換を促進するが、病原体は交換されない。布地の細孔のサイズは0.01ミクロン、0.02ミクロン、0.03ミクロン、0.04ミクロン、0.05ミクロン、0.06ミクロン、0.07ミクロン、0.08ミクロン、0.09ミクロン、0.1ミクロン、0.12ミクロン、0.14ミクロン、0.16ミクロン、0.18ミクロンおよび0.2ミクロンであり得る。クロージャおよび膜上の開口部のサイズは、典型的な換気孔よりも顕著に大きく、2.5cm~7.5cmとなる。幾つかの態様では、開口部は2.5cm、3cm、3.5cm、4cm、4.5cm、5cm、5.5cm、6cm、6.5cm、7cmおよび7.5cmであり得る。蓋の直径は、5cm~50cmと様々であり、幾つかの態様では、蓋の直径は5cm、10cm、15cm、20cm、25cm、25cm、30cm、35cm、40cm、45cmおよび50cmであり得る。通気蓋の代表例を
図8および
図9に示す。通気蓋はポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレンおよびガラス等の材料から作製される。通気蓋の開口部を覆う膜または布地は、ポリプロピレン、セルロースおよびナイロンから作製され、0.01~0.2ミクロンの範囲の細孔径を有する。
【0093】
このようにして作製された蓋は、光独立栄養条件下で植物成長の任意の段階にある植物に使用することができる。通例、植物が成熟するにつれ、より多くのガスおよび水蒸気の交換を促進するために蓋のサイズも大きくなり、成熟植物の成長が促進される。
【0094】
他の実施形態
上記の説明から、本明細書に記載される発明を様々な用法および条件に採用するために、大麻の異なる系統、異なる植物品種の使用、温度、栄養溶液、成長容器、糖濃度、換気孔のサイズ、および光束の変動を含む変更および修正を加えることができ、これらが本発明による範囲内にあることが明らかである。本発明による他の実施形態が以下の特許請求の範囲に含まれる。
【0095】
本明細書の変数の任意の定義における要素のリストの記載は、任意の単一の要素または列挙される要素の組合せ(または部分的組合せ)としてのその変数の定義を含む。本明細書における実施形態の記載は、任意の単一の実施形態としての、または任意の他の実施形態もしくはその一部との組合せでのその実施形態を含む。
【0096】
本明細書で言及される全ての刊行物および特許出願は、本発明が属する技術分野の当業者の技能のレベルを示すものである。全ての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願の各々が参照により援用されることが具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照により本明細書に援用される。
【0097】
他の実施形態が以下の特許請求の範囲に含まれる。
【手続補正書】
【提出日】2022-04-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物組織のイン・ビトロ繁殖の方法であって、
a.植物の第1の節断片を、半透過性容器に入った低糖ゲル培地に置くこと、
b.前記容器を光環境に曝露すること、
c.前記第1の節断片の光合成成長を促進するのに十分な時間にわたって前記容器からガスを受動拡散させ、前記光合成成長の結果として、前記第1の節断片が1つ以上の節断片を含む繁殖体へと繁殖すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記低糖ゲル培地が5g未満の可溶性炭水化物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記低糖ゲル培地が、スクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトースおよびマルトースからなる群から選択される
可溶性炭水化物を含む、請求項
1記載の方法。
【請求項4】
前記光環境が、弱光環境である、請求項
1記載の方法。
【請求項5】
前記光環境が、100μmol/m
-2/s
-1未満の流束を有する、請求項
4記載の方法。
【請求項6】
前記十分な時間が、10~40日である、請求項
1記載の方法。
【請求項7】
前記第1の節断片が、少なくとも1cmの長さである、請求項
1記載の方法。
【請求項8】
前記第1の節断片が、滅菌クローン母植物の茎切片を解離させることによって得られる、請求項
1記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の節断片を解離させて、複数の節断片を生成するとともに、工程(a)~(c)を繰り返す工程をさらに含む、請求項
1記載の方法。
【請求項10】
前記容器が、光合成成長のためのガスの前記受動拡散を可能にする通気蓋を備える、請求項
1記載の方法。
【請求項11】
前記通気蓋が、0.2ミクロンの細孔径を有する、請求項
1記載の方法。
【請求項12】
前記植物が、カンナビス・サティバ(Cannabis sativa)、カンナビス・インディカ(Cannabis indica)およびカンナビス・ルデラリス(Cannabis ruderalis)からなる群から選択される、請求項
1記載の方法。
【請求項13】
前記繁殖体が、1つ以上のひげ根を含む、請求項
1記載の方法。
【請求項14】
前記低糖ゲル培地が、サイトカイニンおよび/またはオーキシンを含有する、請求項
1記載の方法。
【請求項15】
植物組織のイン・ビトロ増殖の方法であって、
a.請求項
1記載の繁殖体を、半透過性容器に入った液体栄養溶液で増強させた固体基質または凝集体に置くこと、
b.前記容器を光環境に曝露すること、
c.第1の節断片の光合成成長を促進するのに十分な時間にわたって前記容器からガスを受動拡散させ、前記光合成成長の結果として、前記第1の節断片が1つ以上の節断片へと繁殖すること
を含む、方法。
【請求項16】
前記光環境が、中光環境である、請求項
15記載の方法。
【請求項17】
前記中光環境が、66μmol/m
-2/s
-1未満の流束を有する、請求項
16記載の方法。
【請求項18】
前記十分な時間が、7~10日である、請求項
15記載の方法。
【請求項19】
前記容器が、蓋をさらに備える、請求項
15記載の方法。
【請求項20】
前記蓋が、通気蓋である、請求項
19記載の方法。
【請求項21】
前記通気蓋が、前記容器への病原微生物の侵入を防止する、請求項
20記載の方法。
【請求項22】
前記通気蓋が、前記容器とその周辺環境との間のガス交換および水蒸気交換を促進する、請求項
20記載の方法。
【請求項23】
前記通気蓋が、スパンボンドまたは不織ポリプロピレン膜または布地を含む、請求項
20記載の方法。
【請求項24】
前記布地が、0.01~0.2ミクロンの範囲の細孔径を有する、請求項
23記載の方法。
【請求項25】
開口上部を有する成長容器に取り付けられる蓋であって、前記成長容器が光独立栄養植物成長に適し、前記蓋が前記成長容器の前記開口上部を密閉するように構成され、前記蓋が、成長容器内外へのガスおよび水蒸気の自由交換を可能にすることができる膜によって覆われる開口部を含み、前記膜が前記成長容器への微生物病原体の侵入を防止
し、前記開口部のサイズが、2.5cm~7cmの範囲である、蓋。
【請求項26】
前記膜が、0.01~0.2ミクロンの範囲の細孔径を有する、請求項
25記載の蓋。
【請求項27】
蓋の直径が、5~50cmの範囲である、請求項
25記載の蓋。
【請求項28】
前記蓋が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレンおよびガラスからなる群から選択される材料から作製される、請求項
25記載の蓋。
【請求項29】
前記膜が、ポリプロピレン、セルロースおよびナイロンから選択される材料から作製される、請求項
25記載の蓋。
【国際調査報告】