(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】芳香族ニトロ化合物を水素化する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/36 20060101AFI20221027BHJP
B01J 37/18 20060101ALI20221027BHJP
B01J 23/72 20060101ALI20221027BHJP
B01J 27/224 20060101ALI20221027BHJP
C07C 211/46 20060101ALI20221027BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221027BHJP
【FI】
C07C209/36
B01J37/18
B01J23/72 Z
B01J27/224 Z
C07C211/46
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022512745
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(85)【翻訳文提出日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2020073991
(87)【国際公開番号】W WO2021037990
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(71)【出願人】
【識別番号】520204744
【氏名又は名称】コベストロ・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・アンド・コー・カーゲー
(71)【出願人】
【識別番号】522070101
【氏名又は名称】ランクセス ドイチュラント ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サンドブリンク レナート
(72)【発明者】
【氏名】ペンネマン ベルント
(72)【発明者】
【氏名】ジルンギーブル エバーハルト
(72)【発明者】
【氏名】ゲルディナンド マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】クエラ ハンス―ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ウルリッヒ ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ マルク
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA26A
4G169BB01A
4G169BB01B
4G169BB01C
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB16A
4G169BB16C
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BD01C
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD05A
4G169BD05B
4G169BD06C
4G169BE08C
4G169BE44A
4G169CB02
4G169CB77
4G169DA06
4G169FA08
4G169FB13
4G169FB30
4G169FB44
4G169FC07
4G169FC08
4G169FC09
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC52
4H006BA05
4H006BA46
4H006BA55
4H006BC10
4H006BC16
4H006BE20
4H039CA71
4H039CB40
(57)【要約】
本発明は、以下の工程を含む、芳香族ニトロ化合物の水素化によって芳香族アミンを調製する方法に関する:(I)水素化触媒として、支持体上に金属又は金属酸化物を含む銅テトラミン塩ベースの含浸触媒、特にインシピエントウェットネス法によって得られる含浸触媒を準備する工程。少なくとも金属銅又は酸化銅(特にCuO)が存在し、存在する全ての金属に対するCuのモル分率が0.75~1の範囲であり、支持体が二酸化ケイ素成形体又は炭化ケイ素成形体を含む;(II)任意に、芳香族ニトロ化合物の非存在下にて水素で処理することによって水素化触媒を活性化する工程;及び(III)任意に活性化された水素化触媒の存在下にて芳香族ニトロ化合物と水素とを反応させ、芳香族アミンを得る工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)支持体上に金属又は金属酸化物を含み、かつ担体が成形二酸化ケイ素体又は成形炭化ケイ素体を含む、テトラアンミン銅塩ベースの含浸触媒を、水素化触媒として準備する工程と;
ただし、前記含浸触媒に、少なくとも金属銅又は酸化銅が存在し、存在する全ての金属に対するCuのモル比が0.75~1の範囲であり、
(II)任意に、芳香族ニトロ化合物の非存在下にて水素で処理することによって前記水素化触媒を活性化する工程と;
(III)任意に活性化された前記水素化触媒の存在下にて芳香族ニトロ化合物と水素とを反応させ、芳香族アミンを得る工程と;
を含む、芳香族ニトロ化合物を水素化することによって芳香族アミンを調製する方法。
【請求項2】
工程(II)を行い、水素による処理が180℃~240℃の範囲の温度で達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(III)を、
160℃~500℃の範囲の温度で断熱的に、又は、
180℃~550℃の範囲の温度で等温的に行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(III)を、
10~200の範囲の水素とニトロ基とのモル比で断熱的に、又は、
3~100の範囲の水素とニトロ基とのモル比で等温的に行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(I)において準備される前記水素化触媒中の金属Cuとして算出される銅化合物の質量比が、その全質量に対して3%~35%の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
使用される前記水素化触媒が炭酸テトラアンミン銅ベースの含浸触媒である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
使用される前記水素化触媒が、炭酸テトラアンミン銅/炭酸アンモニウムベースの含浸触媒又は炭酸テトラアンミン銅/酢酸アンモニウムベースの含浸触媒である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記含浸触媒が、水による飽和度によって決定される前記支持体の最大吸収率を超えないように、前記支持体をテトラアンミン銅塩の水溶液に含浸させるプロセスによって得られる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(I)が:
(a)銅塩をアンモニア水に溶解し、アンモニア性銅塩溶液を得ることと;
(b)前記支持体を、(a)において得られる前記アンモニア性銅塩溶液に含浸させ、続いてこのようにして得られる含浸支持体を乾燥させ、触媒前駆体を得ることと;
(c)(c)において得られる前記触媒前駆体を焼成し、テトラアンミン銅ベースの含浸触媒を形成することと;
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
含浸に使用される前記アンモニア性銅塩溶液が7.0~14の範囲のpH(20℃)を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
式:
【化1】
(式中、R1及びR2は独立して水素、メチル又はエチルであり、ここで、R2はさらにNO
2であってもよい)の芳香族ニトロ化合物を水素化する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)における前記支持体を、水による飽和度によって決定される前記支持体の最大吸収率を超えないように、(a)において得られる前記アンモニア性銅塩溶液に含浸させる、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記支持体の最大吸収率を5%以下下回る、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記最大吸収率を少なくとも2%下回る、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
工程(III)における任意に活性化された前記水素化触媒が固定触媒床に配置される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(I)少なくとも金属銅又は酸化銅(特にCuO)が存在し、存在する全ての金属に対するCuのモル比が0.75~1の範囲であり、担体が成形二酸化ケイ素体又は成形炭化ケイ素体を含む、支持体上に金属又は金属酸化物を含むテトラアンミン銅ベースの含浸触媒、特にインシピエントウェットネス法(incipient wetness method)によって得られる含浸触媒を水素化触媒として準備する工程と、(II)任意に、芳香族ニトロ化合物の非存在下にて水素で処理することによって水素化触媒を活性化する工程と、(III)任意に活性化された水素化触媒の存在下にて芳香族ニトロ化合物と水素とを反応させ、芳香族アミンを得る工程とを含む、芳香族ニトロ化合物を水素化することによって芳香族アミンを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトロ芳香族化合物を水素により対応する芳香族アミンに水素化することは、以前から知られており、工業的に非常に重要である。代表的な例は、アニリンへのニトロベンゼンの水素化である。全世界で製造されるアニリンの大半が、ジフェニルメタン系のジアミン及びポリアミン(MDA)の製造に使用され、これらが重要なジフェニルメタン系のジイソシアネート及びポリイソシアネート(MDI)の製造の中間体となる。
【0003】
水素化は、液相又は気相において、等温又は断熱条件下で行うことができる。等温及び断熱反応レジームの組合せも知られている。この目的で一連の触媒が文献に記載されている。ここで特筆すべきは、パラジウム及び銅ベースの触媒系である。
【0004】
例えば、セラミック支持体上のパラジウムベースの触媒の使用が知られている。特許文献1は、冷却管型反応器内でパラジウム含有三成分担持触媒の存在下にてニトロ化合物を還元する方法を記載している。好ましい実施の形態においては、触媒は、1Lのα-Al2O3につき1g~20gのパラジウム、1g~20gのバナジウム及び1g~20gの鉛を含有する。同様であるが、Mo、Re又はWを付加的にドープした触媒が特許文献2にも記載されている。特許文献3は、かかる三成分担持触媒に硫黄又はリン含有、好ましくはリン含有化合物(例えば、リンの酸素酸又はそのアルカリ金属塩、例えば、特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カリウム、又は次亜リン酸ナトリウム等)を付加的にドープすることが有利であると開示している。特許文献4は、形成されるアニリンのフェノール含量に対する触媒のカリウムドーピングの有利な効果を記載している。
【0005】
特にニトロベンゼンの水素化への銅ベースの触媒の使用は、以前から知られている(特許文献5及び特許文献6を参照されたい)。触媒活性材料に使用された支持体は、ケイ酸塩及びナトリウムを主成分として含有する天然石の軽石であった。
【0006】
アニリンへのニトロベンゼンの水素化のための二酸化ケイ素支持体上の銅触媒の使用も同様に以前から知られている(例えば、1950年代の特許文献7又は特許文献8)。どちらの特許にも、触媒前駆体化合物としての銅-アンミン錯体の使用が記載されている。触媒の調製のために、ケイ酸ナトリウム溶液を酸性化することによってヒドロゲルを沈殿させ、これを濾過及び洗浄後に銅-アンミン錯体と混合する。このように処理されたヒドロゲルを濾別し、洗浄し、乾燥させ、還元雰囲気にて焼成する。銅-アンミン錯体によるヒドロゲルの処理が含浸と記載されているが、記載の手法は、担体の微細性(新たに沈殿したヒドロゲルの形態であるため、銅粒子を取り込み得る細孔を全く有しない)のために、ヒドロゲルへの銅粒子の単純な沈着に近い。
【0007】
十分に試行され、よく用いられている水素化触媒の調製方法は、金属塩溶液による含浸であり、使用される支持体は、金属塩溶液を吸収する細孔を有する。この目的で、支持体をその吸水能の最大飽和まで金属塩溶液で湿らせるか(「インシピエントウェットネス」法と呼ばれる)、又は上澄み液中で処理する。含浸法は例えば、以下で論考する特許出願の特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12及び特許文献13に記載されている。
【0008】
特許文献9は、SiO2支持体上の銅含有触媒を用いて芳香族アミン、特にアニリンを調製する方法を記載している。この方法は、SiO2が湿式粉砕に続く噴霧乾燥によって製造されていることを特に特徴とする。湿式粉砕プロセスにより、マイクロメートルオーダーの大きさ、特に1μm~35μmの範囲の直径を有する二酸化ケイ素粒子が得られる。このように製造された触媒は、ミリメートル範囲のサイズを有する、肉眼で認められる成形体では実行することさえできない流動床触媒の形態で使用されるため、記載の方法にはこのように小さな触媒の直径も必要とされる。触媒活性金属の用途については、例えばアンモニア性炭酸塩溶液を用いた上澄み液からの含浸が記載されている。
【0009】
特許文献10は、対応するニトロ芳香族化合物を気相中にて固定床触媒上で水素化することによって芳香族アミンを調製する方法を記載している。触媒は、含浸によって調製され得る支持体上に水素化活性金属を含有する。使用される水素化触媒は特に、1Lのα-Al2O3につき1g~100gのPdを含有する、好ましくはシェルの形態で沈殿した、α-Al2O3上にパラジウムを含有する触媒であり、触媒はバナジウム及び鉛を付加的に含有していてもよい。アンミン錯体をベースとした触媒については記載されていない。
【0010】
特許文献11は、ケトン、カルボン酸エステル及びニトロ化合物の水素化に使用される銅クロマイト触媒の改良に関する。この目的で、ここで互いに反応する塩基性アンモニウム-クロム酸銅(II)の前駆体の反応によって塩基性アンモニウム-クロム酸銅(II)を無機酸化支持体材料の細孔内に形成させ、次いで支持体材料を約250℃~500℃の温度に約0.1時間~20時間加熱して、塩基性アンモニウム-クロム酸銅(II)を銅クロマイトに変換させることを特に特徴とする、支持体に適用された銅クロマイト触媒を調製する方法が提案される。特許文献11によると、銅クロマイトは、「xCuO,Cr2O3」として表されることが多い。これが単に化学量論比の説明であり、触媒の実際の構造に関していかなる情報も与えないことは当業者であればすぐに分かる。75mol%以上のCuのモル比を有する触媒は開示されていない。
【0011】
特許文献12は、液相中にて高温及び高圧での対応するカルボニル化合物の接触水素化によるアルコールの調製に関する。この目的で、SiO2含有支持体材料を熱的に「容易に」(すなわち350℃未満)分解可能な様々な銅塩、例えば硝酸銅、炭酸銅、ギ酸銅、シュウ酸銅及びそれらの易水溶性アミン(アンミン)錯体等に含浸させることによって得られる銅触媒が記載される。
【0012】
特許文献13は同様に、カルボニル化合物の水素化によるアルコールの調製に関する。使用される水素化触媒は、支持体材料と少なくとも1つの水素化活性金属とからなり、支持体材料は、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素又はそれらの混合酸化物をベースとし、水素化活性金属は、銅、コバルト、ニッケル、クロムの群からの少なくとも1つの元素を含有し、支持体材料がバリウム元素を更に含む。記載の一例は、約14%の炭酸テトラアンミン銅溶液を用いた酸化アルミニウム上での銅含有含浸触媒の調製である。
【0013】
触媒合金、例えば既知のラネー触媒は、含浸触媒とは全く異なる。特許文献14は、0.05ml/g~1ml/gの細孔容積を有し、焼結微細触媒合金と、任意に促進剤とからなる外側の活性化シェルを有する成形活性化固定床金属触媒を開示しており、触媒合金は、合金の調製によって生じる金属相領域を含み、体積の点で最大の相は、0.5μm-1超の比界面密度を有する。
【0014】
特許文献15は、メチルベンジルアルコールへのアセトフェノンの水素化のための触媒に関する。触媒は、炭酸テトラアミン銅の溶液及びクロム酸アンモニウムの溶液、又はそれらの混合物を用いた二酸化ケイ素支持体の、特に噴霧を意味すると理解される含浸に続く乾燥によって調製される。
【0015】
特許文献16は、1炭素原子少ないオレフィンの触媒的ヒドロホルミル化(オキソ法とも称される)に続く、形成されるアルデヒドの水素化による高級アルコール、特に炭素数8~13のアルコールの調製に使用される銅、クロム及び/又はニッケル含有水素化触媒の再生に関する。
【0016】
特許文献17は、還元酸化銅及び少量の非還元酸化銅、更には「アルカリ金属酸化物」を含有する触媒を用いたアルデヒド及びケトンへのアルコールの脱水素化に関する。触媒は、テトラアンミン銅錯体を加熱し、続いて水素下で加熱することによって調製される。
【0017】
特許文献18は、オキソ法アルデヒドの不均一系水素化のためのクロム及びニッケルを含まない触媒に関する。触媒は、銅のみを含有するが、使用する支持体材料を二酸化ケイ素とし、活性触媒中のCu及びSiO2の含量を非常に狭い範囲内に正確に制限する必要がある。
【0018】
銅化合物は、様々な異なる反応の触媒として使用されるのに加え、他の多くの分野に、例えば殺菌剤としても用いられている(例えば、特許文献19を参照されたい)。
【0019】
様々な用途での銅触媒の研究も非特許文献の様々な論文で取り上げられている。例としては、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3及び非特許文献4が挙げられる。
【0020】
パラジウム又は銅ベースの触媒の使用に加えて、両方の金属を含有する触媒の使用も知られている。この一例は、特許文献20に記載されている。特許文献20には、0.5%~25%の銅及び0.01%~3%のパラジウムを含有する、自動車の排ガスの処理のための触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】独国特許出願公開第2849002号
【特許文献2】独国特許出願公開第19715746号
【特許文献3】欧州特許出願公開第1882681号
【特許文献4】国際公開第2013/030221号
【特許文献5】米国特許第1,207,802号
【特許文献6】米国特許第3,136,818号
【特許文献7】英国特許第823,026号
【特許文献8】米国特許第2,891,094号
【特許文献9】国際公開第2010/130604号
【特許文献10】欧州特許出願公開第0696573号
【特許文献11】独国特許第2311114号
【特許文献12】国際公開第95/32171号
【特許文献13】国際公開第2009/027135号
【特許文献14】国際公開第98/53910号
【特許文献15】独国特許出願公開第3933661号
【特許文献16】独国特許出願公開第102010029924号
【特許文献17】英国特許第825,602号
【特許文献18】欧州特許出願公開第3320969号
【特許文献19】米国特許第3,900,504号
【特許文献20】英国特許第961,394号
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Chem. Lett. 1980, 1197-1200
【非特許文献2】Appl. Catal. 1982, 3, 381-388
【非特許文献3】Appl. Catal. 1987, 31, 309-321
【非特許文献4】Procedia Engineering 2013, 51, 467-472
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
ニトロ芳香族化合物、特にニトロベンゼンの水素化について記載されている従来技術の触媒は、原則としてこの目的に適しているが、依然として選択性及び長期安定性に関して改善の可能性がある。ここでは既知のパラジウムベースの触媒と比較してより安価な銅ベースの触媒を重視した。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の点を考慮して、本発明は、
(I)少なくとも金属銅又は酸化銅(特にCuO)が存在し、存在する全ての金属に対するCuのモル比が0.75~1、好ましくは0.90~1の範囲であり、担体が成形二酸化ケイ素体又は成形炭化ケイ素体を含む、支持体上に金属又は金属酸化物を含むテトラアンミン銅塩ベースの含浸触媒、特にインシピエントウェットネス法によって得られる(好ましくは調製される)含浸触媒を水素化触媒として準備する工程と、
(II)任意に(かつ好ましくは)、芳香族ニトロ化合物の非存在下にて水素で処理することによって水素化触媒を活性化する工程と、
(III)任意に活性化された水素化触媒の存在下にて芳香族ニトロ化合物と水素とを反応させ、芳香族アミンを得る工程と、
を含む、芳香族ニトロ化合物、特にニトロベンゼンを水素化することによって芳香族アミン、特にアニリンを調製する方法を主題とする。
【0025】
本発明の専門用語において、支持体上に金属又は金属酸化物を含むテトラアンミン銅塩ベースの含浸触媒は、支持体をテトラアンミン銅塩(すなわち、CuIIのテトラアンミン錯体[CuII(NH3)4]2+をカチオンとして含有する塩)の水性、特にアンモニア性溶液に含浸させ、続いて(好ましくは酸素含有雰囲気にて)乾燥及び焼成することによって得られた触媒を意味すると理解される。支持体は、テトラアンミン銅塩の水性、特にアンモニア性溶液と混合することによって(支持体をテトラアンミン銅塩溶液に投入するか、又は溶液を支持体上に注ぐことによって)含浸させる。支持体の性質及びテトラアンミン銅塩の水性、特にアンモニア性溶液の量は、
支持体(成形体に関する更に下の項も参照されたい)の細孔が収容し得るよりも多くのテトラアンミン銅塩溶液が存在するか(すなわち、上澄み液への含浸)、
又は最大で支持体の細孔が収容し得るのと全く同じだけの(好ましくは幾らか少ない、特に2%~5%少ない)テトラアンミン銅塩溶液が存在する(すなわち、好ましい方法であるインシピエントウェットネス法)ように、ここでは互いに適合させる。
【0026】
このような支持体の含浸に関して、本発明の専門用語においては、含浸という用語が上記のような含浸に限定され、例えば様々な専門文献の場合のように、支持体上の水素化活性物質の実質的にあらゆる種類の適用の総称とはならないことに留意されたい。
【0027】
したがって、含浸触媒は特に、言及したインシピエントウェットネス法によって得られるもの(好ましくは、この方法によって実際に製造されたもの)である。すなわち、言い換えると、含浸触媒の製造プロセスにおいて、水による飽和度によって決定される支持体の最大吸収率を超えず、好ましくはこれを5%以下、更に好ましくは少なくとも2%下回るように、支持体をテトラアンミン銅塩の水性、特にアンモニア性溶液に含浸させるのが好ましい。水による飽和度によって決定される支持体の最大吸収率を決定する手段は、専門分野において既知である。実施例の冒頭の「支持体の最大吸収率の決定」の項に記載される方法が本発明の目的で極めて重要である。
【0028】
本発明によると、支持体は、成形二酸化ケイ素又は炭化ケイ素体を含み、本文脈における成形体は、支持体が、特に1.0mm~15mmの範囲、好ましくは4.0mm~10mmの範囲の平均直径を有する離散(すなわち肉眼で認められる)粒子の形態であることを意味すると理解される。例としては、特に成形円筒体及び成形球体が挙げられ、成形円筒体の場合、底面の直径が本文脈における直径とみなされ、成形円筒体の長さは常に直径よりも長い。成形円筒体の場合、個々の円筒を組み合わせて、複数の円筒を含む集合体を形成し、特に三葉形(長手方向に互いに連結した3つの円筒から形成される集合体)を得ることもできる。このような円筒の集合体の場合、直径は、相互に連結した円筒の底面を囲む理論上の円の直径と考えられる。
【0029】
かかる成形体は、不定形の構造(粉塵又はヒドロゲル等)及び一体構造のどちらとも異なる。成形二酸化ケイ素又は炭化ケイ素体は、テトラアンミン銅塩の水溶液が浸透する細孔を有する。本発明の専門用語において使用される二酸化ケイ素(SiO2)は、英語の文献においては一般にシリカと称される。
【0030】
存在する全ての金属に対するCuのモル比(すなわちx(Cu))は、いずれの場合にも金属自体をベースとし、すなわち、
x(Cu)=Cuのモル量/存在する全ての金属のモル量の合計である。触媒上に存在する金属の質量比(proportions by mass)は、調製により既知であり、それから銅のモル比x(Cu)を容易に算出することができる。銅以外に他の金属が存在しない場合(これが好ましい)、x(Cu)は1である。
【0031】
初めに、本発明の考え得る様々な実施の形態の概要を以下に示すが、実施の形態の列挙は、包括的でないとみなすべきである。
【0032】
他の全ての実施の形態と組み合わせることができる本発明の第1の実施の形態においては、工程(II)を行い、水素による処理は、180℃~240℃の範囲の温度で達成される。
【0033】
他の全ての実施の形態と組み合わせることができる本発明の第2の実施の形態においては、工程(III)を、
160℃~500℃、好ましくは180℃~450℃、より好ましくは200℃~400℃の範囲の温度で断熱的に、又は、
180℃~550℃、好ましくは200℃~500℃、より好ましくは220℃~450℃の範囲の温度で等温的に行う。
【0034】
他の全ての、特に第2の実施の形態と組み合わせることができる本発明の第3の実施の形態においては、工程(III)を、
10~200、好ましくは20~150、より好ましくは60~120の範囲の水素とニトロ基とのモル比で断熱的に、又は、
3~100、好ましくは6~60、より好ましくは10~30の範囲の水素とニトロ基とのモル比で等温的に行う。
【0035】
他の全ての実施の形態と組み合わせることができる本発明の第4の実施の形態においては、(I)において準備される水素化触媒の金属Cuとして算出される銅化合物の質量比は、その全質量に対して3%~35%、好ましくは7%~30%、より好ましくは11%~25%の範囲である。
【0036】
成形二酸化ケイ素体を支持体として含む限りにおいて他の全ての実施の形態と組み合わせることができる本発明の第5の実施の形態においては、成形二酸化ケイ素体を含む支持体は、100m2/g~350m2/g、好ましくは100m2/g~300m2/gの範囲の比表面積、0.3cm3/g~1.5cm3/gの範囲、好ましくは0.3cm3/g~1.4cm3/gの範囲の細孔容積、及び40N~500Nの範囲、好ましくは40N~350Nの範囲の側面破砕強度(side crushing strength)を有する。
【0037】
他の全ての実施の形態と組み合わせることができる本発明の第6の実施の形態においては、使用される水素化触媒は、炭酸テトラアンミン銅ベースの含浸触媒である。
【0038】
第6の実施の形態の特定の構成である本発明の第7の実施の形態においては、使用される水素化触媒は、炭酸テトラアンミン銅/炭酸アンモニウムベースの含浸触媒又は炭酸テトラアンミン銅/酢酸アンモニウムベースの含浸触媒、好ましくは炭酸テトラアンミン銅/炭酸アンモニウムベースの含浸触媒である。
【0039】
他の全ての実施の形態と組み合わせることができる本発明の第8の実施の形態においては、工程(I)は、
(a)銅塩をアンモニア水に溶解し、アルカリアンモニア性銅塩溶液を得ることと、
(b)支持体を、(a)において得られるアルカリアンモニア性銅塩溶液に含浸させ、続いてこのようにして得られる含浸支持体を乾燥させ、触媒前駆体を得ることと、
(c)(c)において得られる触媒前駆体を焼成し、テトラアンミン銅ベースの含浸触媒を形成することと、
を含む。
【0040】
第8の実施の形態の特定の構成である本発明の第9の実施の形態においては、銅塩は塩基性炭酸銅を含む。
【0041】
第8の実施の形態及び第9の実施の形態の特定の構成である本発明の第10の実施の形態においては、工程(I)(a)において銅塩に加えて炭酸アンモニウムもアンモニア水に溶解する。
【0042】
第8の実施の形態~第10の実施の形態の特定の構成である本発明の第11の実施の形態においては、工程(I)(a)における溶解を0.0℃~10.0℃、好ましくは1.0℃~5.0℃の範囲の温度で行う。
【0043】
第8の実施の形態~第11の実施の形態の特定の構成である本発明の第12の実施の形態においては、工程(I)(b)における乾燥を80℃~150℃の範囲、好ましくは90℃~130℃の範囲、より好ましくは100℃~120℃の範囲の温度で行う。
【0044】
第8の実施の形態~第12の実施の形態の特定の構成である本発明の第13の実施の形態においては、工程(I)(c)における焼成を300℃~600℃の範囲、好ましくは350℃~550℃の範囲、より好ましくは400℃~500℃の範囲の温度で行う。
【0045】
第8の実施の形態~第13の実施の形態の特定の構成である本発明の第14の実施の形態においては、含浸に使用されるアルカリアンモニア性銅塩溶液は、7.0~14、好ましくは8.0~12、より好ましくは9.0~11の範囲のpH(20℃)を有する。
【0046】
他の全ての実施の形態と組み合わせることができる本発明の第15の実施の形態においては、成形二酸化ケイ素体又は成形炭化ケイ素体は、1.0mm~15mmの範囲、好ましくは4.0mm~10.0mmの範囲の平均直径を有する。
【0047】
成形二酸化ケイ素体を支持体として含む限りにおいて他の全て、特に第15の実施の形態と組み合わせることができる本発明の第16の実施の形態においては、成形二酸化ケイ素体は、
(i)二酸化ケイ素をケイ酸塩溶液から沈殿させるとともに、沈殿した二酸化ケイ素を単離すること、
(ii)二酸化ケイ素を乾燥させること、
(iii)乾燥させた二酸化ケイ素を加工して、成形体を得ること、
(iv)成形体を、好ましくは500℃~1000℃の範囲の温度で焼成すること、
によって得られる。
【0048】
他の全ての実施の形態と組み合わせることができる本発明の第17の実施の形態においては、式:
【化1】
(式中、R1及びR2は独立して水素、メチル又はエチルであり、ここで、R2はさらにNO
2であってもよい)の芳香族ニトロ化合物を水素化する。
【0049】
他の全ての実施の形態と組み合わせることができる本発明の第18の実施の形態においては、ニトロベンゼンをアニリンへと水素化する。
【0050】
工程(b)を含む全ての実施の形態と組み合わせることができる本発明の第19の実施の形態においては、工程(b)において、水による飽和度によって決定される支持体の最大吸収率を超えないように、支持体を(a)において得られるアンモニア性銅塩溶液に含浸させる(すなわち、インシピエントウェットネス法)。
【0051】
第19の実施の形態の特定の構成である本発明の第20の実施の形態においては、支持体の最大吸収率を5%以下下回る。
【0052】
第18の実施の形態及び第19の実施の形態の特定の構成である本発明の第21の実施の形態においては、支持体の最大吸収率を少なくとも2%下回る。
【0053】
他の全ての実施の形態と組み合わせることができる本発明の第22の実施の形態においては、任意に活性化された水素化触媒は、工程(III)において固定触媒床に配置される。
【0054】
上で簡潔に概説した実施の形態及び本発明の考え得る更なる構成を以下で詳細に説明する。文脈から逆のことが当業者に明らかでない限り、様々な実施形態を所望により互いに組み合わせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0055】
水素化を行うための触媒の準備
本発明の方法の工程(I)は、支持体としての成形二酸化ケイ素体上のCuOを含むテトラアンミン銅塩ベースの含浸触媒を準備することを含む。かかる触媒は、保存及び輸送に安定しているため、触媒の調製を実際の水素化から完全に切り離し、例えば異なる場所で達成することができる。
【0056】
支持体の製造
支持体として適した成形二酸化ケイ素体は、当業者に既知の方法によって製造することができ、市販されている。
【0057】
成形二酸化ケイ素体は、微細二酸化ケイ素をケイ酸塩水溶液から沈殿させることによって得るのが好ましい(ゲルの製造)。沈殿させた微細二酸化ケイ素を単離し、乾燥させて、二酸化ケイ素粉末を得る。二酸化ケイ素粉末から成形二酸化ケイ素体を製造するために、二酸化ケイ素粉末を当業者に既知の方法において成形体へと更に加工し、好ましくは押出又は造粒する。成形体は、異なる三次元形態において、例えば円筒(上述の三葉形等の円筒の集合体を含む)又は球として得ることができる。理想的な円筒又は球の形状からの任意の僅かな相違の存在は、当然ながら本発明の範囲から外れるものではない。
【0058】
支持体として適した成形炭化ケイ素体は、当業者に既知の方法によって製造することができ、市販されており、材料の純度が異なる場合がある。メソポーラス形態の(すなわち、2nm~50nmの範囲の細孔径を有する)β-炭化ケイ素が特に好適である。本発明の文脈において使用される「メソポーラス」の定義は、対応するIUPAC勧告に従う(Pure & Appl. Chem., 1994, 66, 1739-1758を参照されたい)。
【0059】
成形二酸化ケイ素又は炭化ケイ素体を得るための加工に続いて、好ましくは300℃~1000℃の範囲の温度で焼成工程を行うのが好ましい。焼成は、酸素含有雰囲気(特に空気)、水素雰囲気又は不活性雰囲気(特に窒素又は希ガス雰囲気)にて行うことができる。酸素含有雰囲気での焼成が好ましい。
【0060】
円筒の形態の成形体(実施する場合には焼成後)は、3.0mm~18mmの範囲、好ましくは6.0mm~14mmの範囲の平均長及び1.0mm~15mmの範囲、好ましくは4.0mm~10mmの範囲の平均直径を有するのが好ましい。これは、押出時に適切な条件を確立することによって達成し、簡単な測定(例えばキャリパーゲージを用いる)によって検証することができる。
【0061】
好ましくは、球形の成形体(実施する場合には焼成後)は、1.0mm~15mmの範囲、より好ましくは4.0mm~10.0mmの範囲の平均粒径(すなわち、成形体の平均サイズ=平均直径)x50,3を有する。これは、造粒時に適切な条件を確立すること及び/又は篩分によって達成することができる。所望の平均粒径が実際に存在するかは、粒径分析によって検証することができる。本発明の文脈において、この点で極めて重要な試験法は篩分析である。ここで用いられる平均粒径は、質量ベースの値(「x50,3」)である。平均粒径を決定する手順は、粒子(すなわち、成形体)の代表的なサンプルを初めに篩分析に供し、結果を質量ベースで評価することである。篩分析は、振動篩分機(例えば、RetschのAS 200 digitモデル)を用いて達成され、ここでは分析篩をメッシュサイズが小さいものから重ねて配置し、篩セットを形成する。分析篩の選択(直径及びメッシュサイズ)は、主に篩分される材料の量及び予想される粒径分布によって決まる(予備試験が必要な場合もある)。篩の数及び公称開口幅の等級(graduations)は、サンプルの全粒子スペクトルが可能であれば分割されるように選択する必要がある。篩分析を行う際に、篩分される材料の最大通過(篩分の最適品質)が達成されるのを確実にする必要がある。必要に応じて(例えば、未だ操作歴がない新たな粒子を使用する場合)、予備試験において好適な篩分時間及び振幅を実験的に確認する必要がある。振幅の最初の指標は、篩分される材料の運動の観察から見出される。運動は、弱すぎても強すぎてもいけない。最適篩分時間は、1分以内に篩を通過する材料の質量が適用量の0.1%未満しか変化しない場合に得られた(DIN 66165、1987年4月版)。当業者は、ここで簡潔にしか概説していない方法に精通している。篩分析の結果が、分析される粒子の粒径分布である。結果は、棒グラフの個々の画分の質量比(「p3」)及び累積百分率曲線(「Q3」)を公称篩開口幅(x)に対してプロットすることによりグラフとして提示するのが好ましい。当業者であれば、中央粒径x50,3(すなわち、粒子の50質量%が対応する値xよりも小さい)を、手動で又は好ましくはコンピューターによる評価プログラムを用いて容易に算出することが可能である。
【0062】
成形二酸化ケイ素体を含む支持体(実施する場合には焼成後)は、100m2/g~350m2/gの範囲、より好ましくは100m2/g~300m2/gの範囲の比表面積(F. M. Nelsen and F. T. Eggertsen, Analyt. Chem. 1958, 30, 1387-1392に従って決定される)、0.3cm3/g~1.4cm3/gの範囲、好ましくは0.3cm3/g~1.4cm3/gの範囲の細孔容積(S. W. Sing, Adsorption, Surface Area and Porosity, London 1982, chs. 2 and 6に従って決定される)、及び40N~500Nの範囲、好ましくは40N~350Nの範囲の側面破砕強度(2016年11月版のDIN 50 106に従って決定される;金属材料について記載されたこの方法は、本発明に関する支持体にも適している)を有するのが好ましい。本発明に従って使用可能なメソポーラス成形β-炭化ケイ素体を含む支持体については、BET表面積を除いて同等の値が当てはまる。ここでのBET表面積は、通例より低く、好ましくは20m2/g~30m2/gの範囲である。
【0063】
テトラアンミン銅塩の溶液の調製
テトラアンミン銅塩を調製する方法は、原則として従来技術において既知である。好ましい手順を以下に概説する。
【0064】
使用される出発銅塩は、塩基性炭酸銅であるのが好ましい。しかしながら、水酸化銅及び酢酸銅等の他の銅塩も使用可能である。銅塩の混合物を使用することも可能である。銅塩をアンモニア水に溶解し、アンモニア性銅塩溶液を得る。アンモニア水は、15%~30%の範囲、より好ましくは20%~30%の範囲、最も好ましくは25%~30%の範囲のアンモニアの質量比を有するのが好ましい。
【0065】
pH(20℃)を7.0~14の範囲、好ましくは8.0~12の範囲、より好ましくは9.0~11の範囲に維持することによってテトラアンミン銅錯体を安定化させることが望ましい。したがって、錯体形成に必要とされるアンモニアの一部を炭酸アンモニウム又は酢酸アンモニウム、好ましくは炭酸アンモニウムの形態で添加し、それによりpHの上昇を抑えることが好ましい(緩衝)。銅塩の添加及び錯体形成後に所望のpHを達成するのに十分な量の炭酸アンモニウム又は酢酸アンモニウムを添加することが好ましい。続いて、アンモニア水の添加によって混合後にpHを上昇させることが可能である。テトラアンミン銅塩の溶液は、アンモニアのガス放出を防ぐために低温で調製する。0.0℃~10.0℃の範囲、好ましくは1.0℃~5.0℃の範囲の温度が有用であることが見出されている。
【0066】
手順は、より好ましくは以下の通りである:
銅塩、炭酸アンモニウム及び算出されたアンモニア溶液の80%を初めに5.0℃で混合する。撹拌しながら、9.2のpH(Hartinger, Handbuch Abwasser und Recyclingtechnik [Handbook of Wastewater and Recycling Technology]; Figure 2.25; p. 85; 2017; Guenter Dietrichも参照されたい)が達成されるまで更なるアンモニア溶液(5.0℃に冷却)を添加する。
【0067】
支持体及びテトラアンミン銅塩の溶液からの触媒の調製
最初の工程として必要とされる支持体の含浸は、原則として既知の方法によって達成することができる。上記のインシピエントウェットネス法及び上澄み液への含浸のいずれを用いることもできる。インシピエントウェットネス法を、特に、含浸工程において(すなわち、複数回の含浸工程の場合、含浸工程のそれぞれにおいて)、上で決定された支持体の最大吸収率(最大吸収率の決定については実施例の項を参照されたい)を僅かに(例えば、2%~5%)下回る量の含浸溶液のみで支持体を処理する変形形態にて用いることが好ましい。特に高い銅含量を達成することを目的とする場合には複数回の工程における含浸も可能である。しかしながら、2回以下の含浸工程を行うことが好ましい。含浸に続いて乾燥(特に80℃~150℃の範囲、好ましくは90℃~130℃の範囲、より好ましくは100℃~120℃の範囲の温度)を行う。これにより、水素化触媒の前駆体が得られる。
【0068】
この前駆体を用いて、焼成により成形二酸化ケイ素体又は成形炭化ケイ素体を含む支持体上のテトラアンミン銅ベースの含浸触媒を得る。焼成は、特に300℃~600℃の範囲、好ましくは350℃~550℃の範囲、より好ましくは400℃~500℃の範囲の温度で達成される。焼成は、酸素含有雰囲気(特に空気)、水素雰囲気又は不活性雰囲気(特に窒素又は希ガス雰囲気)にて行うことができる。酸素含有雰囲気での焼成が好ましい。焼成条件により、触媒上に銅が存在する形態が決まる。酸化条件下での焼成の場合、銅が主に完全に酸化性、特にCuOとなり、還元条件下での焼成の場合、銅が主に完全に金属性となる。
【0069】
含浸工程の回数及びテトラアンミン銅塩の溶液の濃度は、焼成後の水素化触媒が、その全質量に対して、3%~35%、好ましくは7%~30%、より好ましくは11%~25%の範囲の、金属Cuとして算出される銅化合物(水素化触媒中に全体として存在する)の質量比を有するように互いに適合させるのが好ましい。
【0070】
水素化手順
ニトロ芳香族化合物
本発明の方法は原則として、工業的に関連する全てのニトロ芳香族化合物を対応する芳香族アミンへと水素化するのに適している。より好ましくは、以下の式:
【化2】
(式中、R1及びR2は独立して水素、メチル又はエチルであり、ここで、R2はさらにNO
2であってもよい)のニトロ芳香族化合物を水素化する。アニリンへのニトロベンゼン(R1=R2=H)の水素化が特に好ましい。
【0071】
触媒の活性化(任意に別工程とする)
実際の水素化を開始する前に、水素化触媒を、特に180℃~240℃の範囲の温度にて水素で還元することで、その「活性型」へと変換することが好ましい(触媒の活性化;本発明の方法の工程(II))。実際の水素化においても触媒が還元条件に曝されるため、活性化が実際の水素化の上流の別工程として絶対に必要とされるというわけではない。しかしながら、上流の工程(II)を行うことで、水素化の開始時の瞬間選択性が改善される。活性化は、好ましくは不活性ガス(特に窒素)による反応器の不活性化(inertization)の後に、1.0バール(絶対)~3.0バール(絶対)の範囲、例えば1.5バール(絶対)の圧力の水素流を用いて行われ、活性化による触媒上の温度の上昇が水素の段階的添加によって30℃を超えないものとする。100%の水素の添加後に発熱反応が観察されなくなるまで活性化を行う。この工程は、実際の水素化が想定される反応器において直接行うのが好ましい(下記を参照されたい)。
【0072】
水素化
本発明の方法の工程(III)である、芳香族アミンを得るための、好ましくは活性化された水素化触媒の存在下での芳香族ニトロ化合物と水素との反応(すなわち、水素化)は、原則として従来技術により既知であるように達成することができる。
【0073】
水素化は、この目的が想定される装置、水素化反応器又は略して反応器において達成される。好適な反応器は、当業者には十分に知られている。
【0074】
芳香族ニトロ化合物の水素化は、連続的に行うのが好ましい。水素を超化学量論量にて使用する場合、未変換の水素を反応に再利用するのが好ましい。反応は、液相及び気相において達成することができる。反応を気相において行うことが好ましい。
【0075】
水素化は、断熱的又は等温的に行うことができる。断熱モードの操作の場合、特別な熱の供給又は熱の除去は行われない。したがって、好ましくは反応器の断熱によって最小限に抑えられる不可避の熱損失は別として、反応のエンタルピーは、反応混合物と生成物混合物との間の温度差(断熱温度ジャンプ)に定量的に反映される。一方、等温モードの操作においては、不可避の局所的な「ホットスポット」は別として、温度が外部間接冷却によって一定に保たれる。本発明の方法においても用いることができる考え得る反応レジームは、欧州特許出願公開第0944578号(等温モードの操作)、並びに欧州特許出願公開第0696574号、特許文献10及び特許文献3(断熱モードの操作)に記載されている。特に気相における反応に有用であることが見出されている以下の条件を遵守することが特に好ましい:工程(III)を、
160℃~500℃、好ましくは180℃~450℃、より好ましくは200℃~400℃の範囲の温度で断熱的に、又は、
180℃~550℃、好ましくは200℃~500℃、より好ましくは220℃~450℃の範囲の温度で等温的に行う。
【0076】
水素とニトロ基とのモル比に関しては、ニトロ芳香族化合物の完全な変換を達成するためには、少なくとも化学量論的、すなわち少なくとも3(すなわち3:1)でなくてはならないことが明らかである。しかしながら、水素を超化学量論量にて使用すること、概して断熱モードにおいては、相当な反応熱がこの過剰な水素によって吸収されるように、化学量論よりも特に高度に過剰となるように選択することが有用であると見出されている。したがって、本発明は特に、工程(III)を、
10~200、好ましくは20~150、より好ましくは60~120の範囲の水素とニトロ基とのモル比で断熱的に、又は、
3~100、好ましくは6~60、より好ましくは10~30の範囲の水素とニトロ基とのモル比で等温的に行う方法にも関する。
【0077】
等温的に操作される反応器に好ましい反応器は、サーモスタット管型反応器又はシェルアンドチューブ反応器である。かかる反応器の好適な実施形態は、例えば独国特許出願公開第2201528号、独国特許出願公開第2207166号、独国特許出願公開第19806810号、欧州特許出願公開第1439901号、欧州特許出願公開第1569745号、欧州特許出願公開第1590076号、欧州特許出願公開第1587612号、欧州特許出願公開第1586370号、欧州特許出願公開第1627678号又は独国実用新案第202006014116号に記載されている。
【0078】
断熱的に操作される反応器に好ましい反応器は、独国特許出願公開第102006035203号の段落[0030]~[0033]に記載されているものである。
【0079】
操作モード(等温又は断熱)にかかわらず、工程(III)において水素化触媒を固定触媒床に配置することが好ましい。すなわち、成形体は、使用される反応器の定位置にあり、例えばサーモスタット反応管内(等温的に操作される管型反応器及びシェルアンドチューブ反応器)、又は支持格子上、特に2つの支持格子間(触媒床を有する断熱的に操作される反応器)に配置される。かかる固定床反応器の対極にあるのが、非常に微細な触媒粒子(マイクロメートル範囲の平均サイズ)を旋回運動させる流動床反応器(例えば特許文献9において使用される)である。
【0080】
以下で実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0081】
一般的方法
支持体の最大吸収率の決定
最大吸収率は、後述のように吸水の前後に成形体を秤量することによって決定する。この目的で、支持体材料を秤量し、目視観察が可能な容器(例えば、ガラスのビーカー)内で脱塩水をかけて、気泡が上昇しなくなるまで(容器を動かさずに)静置する。上澄み水をデカントし、湿った状態の成形体の表面を乾燥させる。これは、表面に付着した水分を濾紙で吸収することによって行われ、成形体の形状に応じて、濾紙上に転がすか又は濾紙で軽くたたくことによって行うことができる。この乾燥工程により、表面に付着した水が除去されるが、支持体の細孔に吸収された水は除去されない。内容物を秤量し、出発重量を減算することによって、使用される成形体の最大吸収率に相当するグラム単位の吸水量が得られる。
【0082】
全ての触媒調製例において、含浸に使用される金属塩溶液の量は、最大吸収率を2%下回るように調整した(インシピエントウェットネス法)。
【0083】
出発材料
20℃での密度が1.48g/ml、Cu含量が(14.5±0.5)質量%、pHが3.5±0.5(20℃~25℃の常温で測定)のPoletto AldoのCu(NO3)2溶液
3mm×5mmの円筒、吸収率1.13ml/g、嵩密度417g/lの成形二酸化ケイ素体
【0084】
実施例1:比較用触媒としての硝酸銅ベースの含浸触媒の調製
100mlの二酸化ケイ素支持体をCu(NO3)2溶液に含浸させた。この際、液体が支持体材料によって完全に吸収されるまで混合物を撹拌する必要があった。含浸させた成形体を120℃で一定質量まで乾燥させた後、空気雰囲気にて450℃で4時間焼成した。触媒は、金属銅として算出される銅化合物の質量比が約24.0%であった。
【0085】
実施例2:実施例1の触媒(比較)を用いたニトロベンゼンの水素化
実施例1の触媒を酸化状態で固定床反応器に移し、残存酸素が追い出されるまで窒素を通した。温度を200℃~240℃の範囲の値に調整し、水素を計量添加(metering)することによって活性化を開始した。反応による発熱を可能な限り低く維持する必要がある。活性化の終了時に、窒素を触媒に通して過剰な水素を除去した。反応のために、ニトロベンゼン(NB)を活性化触媒に計量添加し、ニトロベンゼンの量を連続的に増加させ、0.9gNB/mlcat/時間の標的投入量に調整した。水素:ニトロベンゼンのモル比は10:1とした。反応はポリトロピックに(polytropically)行い、反応時に発生する熱を熱媒体によって除去した。いずれの場合にもニトロベンゼンのブレイクスルーが観察されるまで水素化を行った。
【0086】
実施例1に記載される触媒は、60時間の寿命期間及び99.2%の平均アニリン選択性を示した。
【0087】
実施例3:本発明の方法のための水素化触媒としてのテトラアンミン銅ベースの含浸触媒の調製
pH=9.2±1.0でCuの質量比が(12.7±0.5)%の溶液に使用した組成:
炭酸アンモニウム 65.785g
塩基性炭酸銅 74.6g
アンモニア 81.7g
脱塩水 100g
【0088】
初めに、出発材料を冷蔵庫内で5℃未満に冷却した。密閉可能な容器において水及びアンモニアを混合した。固体を皿にまとめて秤量し、冷却アンモニア溶液に迅速に添加し、塩が溶解するまで蓋を閉めて混合した。
【0089】
100mlの二酸化ケイ素支持体を、支持体の吸収率に対応する量のこのように調製した炭酸テトラアンミン銅溶液に含浸させた。この際、液体が支持体材料によって完全に吸収されるまで混合物を撹拌する必要があった。含浸させた成形体を120℃で一定質量まで乾燥させた後、450℃で4時間焼成した。触媒は、金属銅として算出される銅化合物の質量比が約14.8%であった。
【0090】
実施例4:実施例3の触媒(本発明)を用いたニトロベンゼンの水素化
触媒以外は実施例2と同様に実験を行った。寿命期間は295時間、平均アニリン選択性は99.6%であった。
【0091】
実施例5:pH=10での本発明の方法のための水素化触媒としてのテトラアンミン銅ベースの含浸触媒の調製
実施例3から開始して、pH=10で調製される触媒を調製した。以下の量を使用した:
炭酸アンモニウム:15.8g
塩基性炭酸銅:18.18g
アンモニア:32.60g
脱塩水:33.42g
【0092】
初めに、出発材料を冷蔵庫内で5℃未満に冷却した。密閉可能な容器において水及びアンモニアを混合した。固体を皿にまとめて秤量し、冷却アンモニア溶液に迅速に添加し、塩が溶解するまで蓋を閉めて混合した。
【0093】
100mlの二酸化ケイ素支持体を、支持体の吸収率に対応する量のこのように調製した炭酸テトラアンミン銅溶液に含浸させた。この際、液体が支持体材料によって完全に吸収されるまで混合物を撹拌する必要があった。含浸させた成形体を120℃で一定質量まで乾燥させた後、450℃で4時間焼成した。触媒は、Cuの質量比が約12.4%であった。
【0094】
実施例6:実施例5の触媒(本発明)を用いたニトロベンゼンの水素化
触媒以外は実施例2と同様に実験を行った。寿命期間は240時間、平均アニリン選択性は99.6%であった。
【0095】
実施例7:「エージング」を含むpH10での本発明の方法のための水素化触媒としてのテトラアンミン銅ベースの含浸触媒の調製
含浸プロセスにおいて触媒を乾燥前に1週間湿潤状態で静置した以外は実施例5と同様に触媒を調製した。
【0096】
実施例8:実施例7の触媒(本発明)を用いたニトロベンゼンの水素化
触媒以外は実施例2と同様に実験を行った。寿命期間は240時間、平均アニリン選択性の値は99.5%であった。
【0097】
実施例9:多重含浸を伴うpH10での本発明の方法のための水素化触媒としてのテトラアンミン銅ベースの含浸触媒の調製
手順は、より高い銅含量が二重含浸によって達成された以外は実施例5と同様であった。焼成後の金属銅として算出される銅化合物の質量比は、約22%であった。
【0098】
実施例10:実施例9の触媒(本発明)を用いたニトロベンゼンの水素化
触媒以外は実施例2と同様に実験を行った。寿命期間は360時間、平均アニリン選択性は99.6%であった。
【0099】
実施例11:より低い金属濃度における多重含浸を伴うpH9.2での本発明の方法のための水素化触媒としてのテトラアンミン銅ベースの含浸触媒の調製
手順は、含浸溶液の金属含量をより低くして二重含浸を行った以外は実施例5と同様であった。焼成後の金属銅として算出される銅化合物の質量比は、約15.3%であった。
【0100】
実施例12:実施例11の触媒(本発明)を用いたニトロベンゼンの水素化
触媒以外は実施例2と同様に実験を行った。寿命期間は290時間、平均アニリン選択性の値は99.6%であった。
【0101】
実施例13:代替シリカ支持体上のpH9.2での本発明の方法のための水素化触媒としてのテトラアンミン銅ベースの含浸触媒の調製
手順は、80m2/gとより低い比表面積を有する代替シリカ支持体材料を使用した以外は実施例3と同様であった。焼成後の金属銅として算出される銅化合物の質量比は、約12.9%であった。
【0102】
実施例14:実施例13の触媒(本発明)を用いたニトロベンゼンの水素化
触媒以外は実施例2と同様に実験を行った。寿命期間は260時間、平均アニリン選択性の値は99.5%であった。
【0103】
実施例15:「三葉形」成形体上におけるpH10での本発明の方法のための水素化触媒としてのテトラアンミン銅ベースの含浸触媒の調製
手順は、使用する支持体材料をシリカベースの三葉形成形体とした以外は実施例5と同様であった。焼成後の金属銅として算出される銅化合物の質量比は、約11.6%であった。
【0104】
実施例16:実施例15の触媒(本発明)を用いたニトロベンゼンの水素化
触媒以外は実施例2と同様に実験を行った。寿命期間は240時間、平均アニリン選択性は99.7%であった。
【0105】
実施例17:「三葉形」成形体上の多重含浸を伴うpH10での本発明の方法のための水素化触媒としてのテトラアンミン銅ベースの含浸触媒の調製
手順は、使用する支持体材料をシリカベースの三葉形成形体とし、多重含浸を行った以外は実施例5と同様であった。焼成後の金属銅として算出される銅化合物の質量比は、約19.6%であった。
【0106】
実施例18:実施例17の触媒(本発明)を用いたニトロベンゼンの水素化
触媒以外は実施例2と同様に実験を行った。寿命期間は300時間、平均アニリン選択性の値は99.7%であった。
【0107】
実施例19:比較的低い純度(約99.5%のSiC)の炭化ケイ素支持体上の多重含浸を伴うpH10での本発明の方法のための水素化触媒としてのテトラアンミン銅ベースの含浸触媒の調製
手順は、使用する支持体材料を炭化ケイ素支持体(約99.5%のSiC)とし、多重含浸を行った以外は実施例5と同様であった。焼成後の金属銅として算出される銅化合物の質量比は、約10.3%であった。
【0108】
実施例20:実施例19の触媒(本発明)を用いたニトロベンゼンの水素化
触媒以外は実施例2と同様に実験を行った。寿命期間は290時間、平均アニリン選択性の値は99.8%であった。
【0109】
実施例21:実施例19と比較して高い純度(99.85%以上のSiC)の炭化ケイ素支持体上の多重含浸を伴うpH10での本発明の方法のための水素化触媒としてのテトラアンミン銅ベースの含浸触媒の調製
手順は、使用する支持体材料を炭化ケイ素支持体(99.85%以上のSiC)とし、多重含浸を行った以外は実施例5と同様であった。焼成後の金属銅として算出される銅化合物の質量比は、約10.1%であった。
【0110】
実施例22:実施例21の触媒(本発明)を用いたニトロベンゼンの水素化
触媒以外は実施例2と同様に実験を行った。寿命期間は240時間、平均アニリン選択性の値は99.8%であった。
【国際調査報告】