(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】マルチゾーンるつぼ装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/24 20060101AFI20221027BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20221027BHJP
H05B 6/44 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
H05B6/24
C23C14/24 B
H05B6/44
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513379
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(85)【翻訳文提出日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 GB2020052021
(87)【国際公開番号】W WO2021038208
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500024469
【氏名又は名称】ダイソン・テクノロジー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100205833
【氏名又は名称】宮谷 昂佑
(72)【発明者】
【氏名】マイケル エドワード レンダル
【テーマコード(参考)】
3K059
4K029
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB15
3K059AC33
3K059AD03
4K029AA09
4K029AA11
4K029AA24
4K029BA06
4K029BA41
4K029BA43
4K029CA01
4K029DA03
4K029DB05
4K029DB19
4K029EA02
4K029EA07
4K029EA09
(57)【要約】
本発明は、るつぼと、るつぼの周りに配置された1つまたは複数の誘導コイルとを備えるるつぼ装置に関する。1つまたは複数の誘導コイルに電力が印加されると、るつぼの少なくとも第1部分に第1熱ゾーンが生成され、るつぼの少なくとも第2部分に第2熱ゾーンが生成され、第1熱ゾーンの第1熱的特性は、第2熱ゾーンの第2熱的特性と異なる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
るつぼ装置であって、
るつぼと、
前記るつぼの周りに配置された1つまたは複数の誘導コイルであって、電力が印加されると、前記るつぼの少なくとも第1部分に第1熱ゾーンが生成され、前記るつぼの少なくとも第2部分に第2熱ゾーンが生成されるような1つまたは複数の誘導コイルと
を備え、
前記第1熱ゾーンの第1熱的特性は、前記第2熱ゾーンの第2熱的特性と異なる、るつぼ装置。
【請求項2】
前記第1熱ゾーンは、前記るつぼの基部と前記るつぼの前記第2部分との間に位置付けられ、
前記第1熱的特性は、前記第1熱ゾーンの第1温度であり、
前記第2熱的特性は、前記第2熱ゾーンの第2温度であり、
前記第2温度は、前記第1温度より高い、請求項1のるつぼ装置。
【請求項3】
前記1つまたは複数の誘導コイルは、
前記るつぼの前記第1部分の周りに配置された第1誘導コイルと、
前記るつぼの前記第2部分の周りに配置された第2誘導コイルであって、前記第1誘導コイルに第1電力が印加でき、前記第2誘導コイルに前記第1電力と異なる第2電力が印加できるような第2誘導コイルと
を備える、請求項1または請求項2のるつぼ装置。
【請求項4】
前記第1誘導コイルを冷却するように配置された第1冷却システムと、
前記第2誘導コイルを冷却するように配置された第2冷却システムと
を備える、請求項3のるつぼ装置。
【請求項5】
前記第1冷却システムまたは前記第2冷却システムの少なくとも1つは、水冷システムである、請求項4のるつぼ装置。
【請求項6】
前記1つまたは複数の誘導コイルと前記るつぼとの間に配置された絶縁体を備える、請求項1乃至5のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項7】
前記1つまたは複数の誘導コイルの周りに少なくとも部分的に配置された耐火物を備える、請求項1乃至6のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項8】
前記1つまたは複数の誘導コイルに前記電力を印加すると、前記るつぼ内で少なくとも部分的に物質を加熱するために、前記るつぼの加熱が誘導されるように配置される、請求項1乃至7のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項9】
使用の際、
前記第1熱的特性または前記第2熱的特性の少なくとも1つの測定を代表する測定データを受信し、
前記測定データに基づいて前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される前記電力を制御する
ように配置された制御システムを備える、請求項1乃至8のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項10】
前記測定データを取得するように配置された温度センサーを備え、前記第1熱的特性は、前記第1熱ゾーンの第1温度であり、前記第2熱的特性は、前記第2熱ゾーンの第2温度である、請求項9のるつぼ装置。
【請求項11】
前記第1熱的特性は、前記第1熱ゾーンの第1温度であり、前記制御システムは、使用の際、前記第1温度が、使用の際、前記るつぼ装置により加熱される物質を融解させるための第1温度閾値を満たす、または超えるように前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される前記電力を制御するように配置される、請求項9または請求項10のるつぼ装置。
【請求項12】
前記第2熱的特性は、前記第2熱ゾーンの第2温度であり、前記制御システムは、使用の際、前記第2温度が、使用の際、前記るつぼ装置により加熱される物質が蒸発するための第2温度閾値を満たす、または超えるように前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される前記電力を制御するように配置される、請求項9乃至11のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項13】
前記るつぼと前記るつぼ装置の基部との間に配置されたチャンバーを備える、請求項1乃至12のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項14】
前記チャンバーを冷却するように配置された第3冷却システムを備える、請求項13のるつぼ装置。
【請求項15】
蒸発堆積プロセスで使用するために配置される、請求項1乃至14のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項16】
エネルギー蓄積装置の製造で使用するために配置される、請求項1乃至15のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項17】
誘導加熱を経てるつぼの熱的特性を制御する方法であって、
前記るつぼの周りに配置された1つまたは複数の誘導コイルに電力を印加し、前記るつぼの第1部分に第1熱ゾーンを、前記るつぼの第2部分に第2熱ゾーンを生成する工程を含み、
前記第1熱ゾーンの第1熱的特性は、前記第2熱ゾーンの第2熱的特性と異なる、方法。
【請求項18】
前記第1熱ゾーンは、前記るつぼの基部と前記るつぼの前記第2部分との間に位置付けられ、
前記第1熱的特性は、第1熱ゾーンの第1温度であり、
前記第2熱的特性は、第2熱ゾーンの第2温度であり、
前記第2温度は、前記第1温度より高い、請求項17の方法。
【請求項19】
前記1つまたは複数の誘導コイルに前記電力を印加する工程は、
前記1つまたは複数の誘導コイルの第1誘導コイルに第1電力を印加する工程と、
前記1つまたは複数の誘導コイルの第2誘導コイルに前記第1電力と異なる第2電力を印加する工程と
を含む、請求項17または請求項18の方法。
【請求項20】
前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される電流、電圧または周波数の少なくとも1つを制御する工程を含む、請求項17乃至19のいずれか一項の方法。
【請求項21】
前記電力を印加する工程は、
前記るつぼの前記第1部分において物質の第1部分を融解させ、
前記るつぼの前記第2部分において前記物質の第2部分を蒸発させる、請求項17乃至20のいずれか一項の方法。
【請求項22】
前記電力を印加する工程は、前記るつぼ内の物質を誘導加熱させ、前記物質の蒸気を生成し、前記方法は、基板上に前記蒸気を堆積させる工程を含む、請求項17乃至21のいずれか一項の方法。
【請求項23】
前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される前記電力を制御し、前記基板上に堆積された前記蒸気の密度または前記基板上に前記蒸気を堆積させる速度の少なくとも1つを制御する工程を含む、請求項22の方法。
【請求項24】
前記電力を印加する工程は、前記るつぼ内の液体に動きを生じさせる、請求項17乃至23のいずれか一項の方法。
【請求項25】
前記第1熱的特性または前記第2熱的特性の少なくとも1つの測定を代表する測定データを受信する工程と、
前記測定データに基づいて前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される前記電力を制御する工程と
を含む、請求項17乃至24のいずれか一項の方法。
【請求項26】
請求項17乃至25のいずれか一項の方法により製造されたエネルギー蓄積装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の誘導加熱のための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
るつぼ内に含まれる物質は、誘導加熱を経て加熱されてよく、それにより、電力は、るつぼの周りに配置された1つまたは複数の誘導コイルに印加される。電力の印加により、物質内または物質を取り囲んでいる導電体内に渦電流が誘導され、次に物質が加熱される。物質を加熱することにより、物質を融解および蒸発させてよい。物質を効率的に蒸発させることが望ましい。
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1態様によれば、るつぼと、るつぼの周りに配置された1つまたは複数の誘導コイルとを備えるるつぼ装置が提供される。1つまたは複数の誘導コイルに電力が印加されると、るつぼの少なくとも第1部分に第1熱ゾーンが生成され、るつぼの少なくとも第2部分に第2熱ゾーンが生成され、第1熱ゾーンの第1熱的特性は、第2熱ゾーンの第2熱的特性と異なる。異なる熱的特性でるつぼに第1熱ゾーンおよび第2熱ゾーンを生成することにより、るつぼの熱ゾーンを独立的に制御する能力を提供してよい。熱ゾーンを独立的に制御することにより、1つのゾーン、例えば、第2熱ゾーンを、より高温で構成できるようにしてよい。るつぼ装置は、実施例によっては、更なる加熱システム、例えば、電子銃システムを必要とすることなく、るつぼ内の物質を2000℃を超えて保持できるようにする単純で効率的な手段を提供してよい。そのような構成は、るつぼ内の物質の高圧蒸気流動を生成する効率的な方法を提供しうる。
【0004】
第1熱ゾーンは、るつぼの基部とるつぼの第2部分との間に位置付けられてよい。第1熱的特性は、第1熱ゾーンの第1温度であってよく、第2熱的特性は、第2熱ゾーンの第2温度であってよい。第2温度は、第1温度より高くてよい。第2熱ゾーンの高温の下に第1熱ゾーンの低温を構成することにより、るつぼ内に含まれる物質の吐き出しおよび跳ね上げが最小限に抑えられてよい。これは、第1熱ゾーンの物質が第2熱ゾーンの物質よりゆっくりした速度で加熱されるという事実による。
【0005】
1つまたは複数の誘導コイルは、るつぼの第1部分の周りに配置された第1誘導コイルと、るつぼの第2部分の周りに配置された第2誘導コイルとを備えてよい。第1電力は、第1誘導コイルに印加されてよく、第2電力は、第2誘導コイルに印加されてよい。第1電力は、第2電力と異なってよい。第1および第2誘導コイルに異なる電力を印加することにより、るつぼの第1および第2熱ゾーンが異なる熱的特性、例えば、異なる温度を有することができるようになる。誘導コイルに印加される電力を独立的に制御すること、ひいては熱ゾーンの熱的特性を独立的に制御することにより、るつぼ内の物質の加熱をより大きく制御できるようにしてよい。
【0006】
第1冷却システムは、第1誘導コイルを冷却するように配置されてよい。同様に、第2冷却システムは、第2誘導コイルを冷却するように配置されてよい。誘導コイルを冷却することにより、誘導コイルへの過熱およびダメージを防いでよい。第1冷却システムおよび/または第2冷却システムは、水冷システムであってよい。水冷システムを使用することにより、熱エネルギーを誘導コイルから離して移動させるより効率的な方法が提供されてよい。第1冷却システムおよび第2冷却システムを有することにより、冷却システムを独立的に制御できるようにしてよい。これにより、それら自体が異なる温度でありうる第1および第2誘導コイルに異なる冷却量を適用する能力が提供される。
【0007】
絶縁体は、1つまたは複数の誘導コイルとるつぼとの間に配置されてよく、るつぼからの熱エネルギーの移動を阻止または別の方法により制限してよい。るつぼからの熱エネルギーの移動を制限することにより、るつぼの熱から誘導コイルを保護してよい。絶縁体は、膨張黒鉛絶縁体であってよい。耐火物は、1つまたは複数の誘導コイルの周りに少なくとも部分的に配置されてよい。同様に、耐火物は、るつぼからの熱エネルギーの移動を制限してよく、それにより、るつぼの熱から誘導コイルを保護する。
【0008】
るつぼ装置は、1つまたは複数の誘導に電力を印加すると、るつぼの加熱が誘導され、それにより、るつぼ内で少なくとも部分的に物質を加熱するように、配置されてよい。るつぼ内の物質を加熱することにより、物質が蒸発でき、物質が基板上に堆積できるようにしてよい。
【0009】
制御システムは、るつぼ装置を使用しているとき、第1熱的特性または第2熱的特性の少なくとも1つの測定を代表する測定データを受信するように配置されてよい。制御システムは、更に、るつぼ装置を使用しているとき、測定データに基づいて1つまたは複数の誘導コイルに印加される電力を制御するように配置されてよい。第1および/または第2熱的特性の測定データを受信することにより、誘導コイルに印加される電力を制御する効率的な方法が提供されてよい。測定データをフィードバックループの一部として使用して、人手を介す必要なく、自動的に第1および/または第2熱的特性を維持するようにしてよい。
【0010】
第1熱的特性が第1熱ゾーンの第1温度であり、第2熱的特性が第2熱ゾーンの第2温度であるとき、温度センサーは、測定データを取得するように配置されてよい。制御システムは、そのため、第1および/または第2熱ゾーンの温度を制御可能であってよい。第1熱ゾーンの物質の場合、これにより、るつぼ内の物質が所望の速度、例えば、一定の速度で加熱されるように、第1熱の温度を維持する能力が提供されてよい。第2熱ゾーンの物質の場合、これにより、るつぼ内の物質が所望の速度、例えば、一定の速度で蒸発するように、第2熱ゾーンの温度を維持する能力が提供されてよい。
【0011】
第1熱的特性が第1熱ゾーンの第1温度であるとき、制御システムは、るつぼ装置を使用しているとき、第1温度がるつぼ装置により加熱される物質を融解させるための第1温度閾値を満たす、または超えるように、1つまたは複数の誘導コイルに印加される電力を制御するように配置されてよい。
【0012】
第2熱的特性が第2熱ゾーンの第2温度であるとき、制御システムは、るつぼ装置を使用しているとき、第2温度がるつぼ装置により加熱される物質が蒸発するための第2温度閾値を満たす、または超えるように、1つまたは複数の誘導コイルに印加される電力を制御するように配置されてよい。
【0013】
チャンバーは、るつぼとるつぼ装置の基部との間に配置されてよい。チャンバーは、万一るつぼが割れた場合には、るつぼ装置に保護を与えてよい。チャンバーを使用して、るつぼから漏れ出る物質を集めてよく、物質が堆積チャンバーへと漏れ出ること、および/またはるつぼ装置の近くの他のコンポーネントが汚れることを防いでよい。
【0014】
第3冷却システムは、チャンバーを冷却するように配置されてよい。第3冷却システムは、るつぼ装置の基部への熱エネルギーの移動を防いでよい、または他の方法で制限してよい。
【0015】
るつぼ装置は、蒸発堆積プロセスで使用するために配置されてよい。るつぼ装置は、基板上に物質を堆積させる効率的な方法を提供してよい。物質を加熱、蒸発、および堆積させるための高温が実現されてよい。さらに、1つまたは複数の誘導コイルへの電力の印加の制御を使用して、第1および第2熱ゾーンの熱的特性、および結果的に、基板上への物質の堆積の特性が制御できる。例えば、第1および第2熱ゾーンの特性を独立的に制御する能力は、基板上への物質の堆積の厚さおよび/または密度、基板上への物質の堆積の速度(例えば、物質の蒸気流動)、堆積の質(例えば、物質の蒸気流動の均一性)などの制御を提供してよい。1つまたは複数の誘導コイルに印加される電力を調整することにより、基板上に堆積する物質の高圧蒸気流動を作り出す可能性がもたらされてよい。
【0016】
るつぼ装置は、エネルギー蓄積装置の製造で使用するために配置されてよい。エネルギー蓄積装置の製造は、薄いフィルムの代わりに比較的厚い層またはフィルムの堆積を伴ってよい。厚いフィルムを堆積させるためには、本発明のるつぼ装置などの、高度な再現性および制御を有する堆積源が望ましい。
【0017】
本発明の第2態様に従って、誘導加熱を経てるつぼの熱的特性を制御する方法が提供される。本方法は、るつぼの周りに配置された1つまたは複数の誘導コイルに電力を印加し、るつぼの第1部分に第1熱ゾーンを、るつぼの第2部分に第2熱ゾーンを生成する工程を含み、第1熱ゾーンの第1熱的特性は、第2熱ゾーンの第2熱的特性と異なる。異なる熱的特性でるつぼに第1熱ゾーンおよび第2熱ゾーンを生成することにより、るつぼの熱ゾーンを独立的に制御する能力が提供されてよい。熱ゾーンを独立的に制御することにより、1つのゾーン、例えば、第2熱ゾーンがより高温で構成できるようにしてよい。るつぼ装置は、実施例によっては、更なる加熱システム、例えば、電子銃システムを必要とすることなく、るつぼ内の物質を2000℃を超えて保持できるようにする単純で効率的な手段を提供してよい。そのような構成は、るつぼ内の物質の高圧蒸気流動を生成する効率的な方法を提供しうる。
【0018】
1つまたは複数の誘導コイルに印加される電力は、1つまたは複数の誘導コイルに印加される電流、電圧および/または周波数のいずれかを制御することにより制御されてよい。1つまたは複数の誘導コイルに印加される電力は、るつぼの第1部分において物質の第1部分を融解させ、るつぼの第2部分において物質の第2部分を蒸発させてよい。電力を印加することにより、るつぼ内の物質を誘導加熱させ、物質の蒸気を生成してよい。さらに、蒸気は、基板上に堆積されてよい。物質の第1部分が融解され、物質の第2部分が蒸発するように電力を印加することにより、物質の吐き出しおよび跳ね上げが最小限に抑えられてよい。これは、物質の第1部分が物質の第2部分よりゆっくりした速度で加熱されるという事実による。
【0019】
1つまたは複数の誘導コイルに印加される電力を制御することにより、基板上に堆積された蒸気の密度、および/または基板上に蒸気を堆積させる速度を制御する能力が提供されてよい。
【0020】
電力を印加することにより、るつぼの液体に動きを生じさせてよい。るつぼの液体の動きは、液体の撹拌を生じさせ、それにより、熱エネルギーのより均一な分布がもたらされ、るつぼ内の物質にホットスポットまたはコールドスポットがない、またはほとんどない、例えば、熱エネルギーが比較的均質に分布するようにしてよい。
【0021】
本発明の第3態様に従って、本発明の第2態様に従った方法により製造されるエネルギー蓄積装置が提供される。
【0022】
更なる特徴は、添付の図面を参照してなされる、ほんの1例として与えられる、以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】更なる実施例によるるつぼ装置において第1熱ゾーンおよび第2熱ゾーンを生成する模式図である。
【
図3】更なる実施例によるるつぼ装置において第1熱ゾーンおよび第2熱ゾーンの熱的特性を測定する模式図である。
【
図4】更なる実施例によるるつぼ装置の模式図である。
【
図5】誘導加熱を経てるつぼの熱的特性を制御する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施例による方法およびシステムの詳細は、図面を参照して、以下の説明から明らかになる。本記載においては、説明のため、特定の実施例の多数の具体的詳細が示される。本明細書における「実施例」または類似する言葉への言及は、実施例に関連して記載される特定の特徴、構造、または特性が少なくともその1つの実施例には含まれるが、必ずしも他の実施例には含まれないことを意味する。特定の実施例は、実施例の根底にある概念の説明および理解を簡単にするために省略および/またはやむを得ず単純化された特定の特徴により概略的に記載されていることに更に留意されたい。
【0025】
図1は、るつぼ装置100の模式図である。本実施例において、るつぼ装置100は、るつぼ110と、るつぼ110の周りに配置された1つまたは複数の誘導コイル130とを備える。るつぼは、例えば、加熱される物質を含むための器または容器である。るつぼ内の物質は、物質が溶融され、例えば、液体状態に変化するような温度まで加熱されてよい。るつぼは、制限されないが、黒鉛、磁器、陶磁器、アルミナまたは金属などの、耐熱材料から製造されてよい。るつぼの耐熱材料を選択して、るつぼ内の物質を融解させるのに必要な温度に耐えるようにしてよい。るつぼの材料および寸法(例えばサイズおよび/または形状)は、るつぼの使用の要件に基づいて選択できる。
【0026】
るつぼ110は、1つまたは複数の誘導コイル130を使用してるつぼ110内の物質120を加熱するために使用されてよい。物質120を加熱することにより、物質120の熱エネルギーが増加するため、物質の温度が上昇する。物質120を加熱することにより、結果的に、1つまたは複数の誘導コイル130に電力が印加されてよい。
【0027】
誘導コイルは、複数の巻き数のワイヤを有しうる連続して巻いたワイヤを備えてよい。ワイヤは、導電性物質、例えば銅から製造されても、導電性物質、例えば銅を含んでもよい。そのため、そのようなワイヤは、誘導コイルを通して電流を伝えることができる。複数の巻き数のワイヤは、中心軸の周りに配置された連続的なループまたは円のワイヤとして構成されてよい。実施例によっては、複数の巻き数のワイヤは、半径が次第に大きくなる円の中心軸の周りに配置される。他の実施例において、複数の巻き数のワイヤは、円の中心が直線上にあるような同一の半径を有する円の中心軸の周りに配置される。単一の長さのワイヤが、上述したように、1つの誘導コイルと見なされてよい。電力は、単独の誘導コイルに印加されてよい。例えば、互いに電気的に切断された、2つまたはそれ以上の別々の長さのワイヤが、2つまたはそれ以上の単独の誘導コイルと見なされてよい。電力は、例えば、第1誘導コイルに印加される第1電力および第2誘導コイルに印加される第2電力により、各誘導コイルに独立的に印加されてよい。るつぼ110の周りの1つまたは複数の誘導コイル130の存在により、誘導加熱を経てるつぼ110内の物質120を加熱できる。誘導コイルに交流電流(AC)を流すことにより、渦電流が、誘導コイルに取り囲まれた物質内に誘導されてよい。渦電流は、例えば、交番磁界の存在のため導電体内に誘導される電流の1つまたは複数の閉ループを含んでよい。電流は、誘導コイルを通過し、磁界を生成することができる。誘導コイルを通過する電流を交互に入れ替えることにより、渦電流を作り出す磁界が交互に入れ替えられることになる。
【0028】
渦電流は、物質を加熱する熱エネルギーを生成する。導電性の物質の場合、このプロセスにより、物質が加熱される。そのような導電性物質は、誘導サセプターとして既知であるかもしれない。導電率が低い物質の場合、コイルの内側のるつぼは、導電性の低い物質を含みうる、黒鉛などの、誘導サセプターから製造されてもよいし、そうでなければ誘導サセプターを含んでもよい。よって、るつぼは、誘導的に加熱されてよく、るつぼ内に含まれた物質は、伝導的に加熱されてよい。
【0029】
るつぼ装置100は、るつぼ110内に初めは固体または液体状態である物質120を含んでよい。誘導加熱を経てるつぼ110内の物質120を加熱すると、物質は、融解状態と呼ばれうる液体状態に変化してよい。更に加熱することにより、融解された物質120が蒸発し、例えば、融解された物質120から蒸発する、蒸気とも呼ばれる気体状態に変化してよい。蒸発した物質は、基板上に堆積され、堆積物の層を作り出してよい。
【0030】
本明細書に記載のシステムおよび方法を文脈に入れるため、物質を基板に堆積させるための、蒸発堆積源としてのるつぼ装置100の使用を、実施例として提供する。しかしながら、本明細書に記載のシステムおよび方法は、様々な他のプロセスで使用されてもよく、これは実施例にすぎないことに留意されたい。例えば、本明細書に記載のシステムおよび方法は、他の目的のために物質を加熱するために使用されてもよく、必ずしも物質の気化または物質の基板への堆積を伴わなくてもよい。
【0031】
堆積は、物質が基板上に供給されるプロセスである。物質が堆積しうる基板は、例えば、ガラスまたはポリマーであり、硬くても柔らかくてもよく、典型的に平面である。基板に層のスタックを置くことにより、個体電池などのエネルギー蓄積装置が作られてよい。層のスタックは、典型的に、第1電極層と、第2電極層と、第1電極層と第2電極層との間の電解質層とを含む。
【0032】
第1電極層は、正電流コレクター層として機能してよい。そのような実施例において、第1電極層は、(スタックを含むエネルギー蓄積装置のセルの放電中のカソードと一致しうる)正極層を形成してよい。第1電極層は、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウムまたはアルカリ金属ポリスルフィド塩などの、安定した化学反応によってリチウムイオンを保存するのに適した物質を含んでよい。
【0033】
代替的な実施例において、第1電極層と基板との間に位置付けられうる別個の正電流コレクター層があってよい。これらの実施例において、別個の正電流コレクター層は、ニッケルはくを含んでよいが、アルミニウム、銅または鋼などの任意の好適な金属、またはポリエチレンテレフタラート(PET)上のアルミニウムなどの金属化プラスチックを含む金属化物質が使用できることが理解される。
【0034】
第2電極層は、負電流コレクター層として機能してよい。第2電極層は、そのような場合、(スタックを含むエネルギー蓄積装置のセルの放電中のアノードと一致しうる)負極層を形成してよい。第2電極層は、リチウム金属、黒鉛、シリコンまたはインジウムスズ酸化物(ITO)を含んでよい。第1電極層に関して、他の実施例において、スタックは、第2電極層上にありうる別個の負電流コレクター層を含んでよく、第2電極層は、負電流コレクター層と基板との間にある。負電流コレクター層が別個の層である実施例において、負電流コレクター層は、ニッケルはくを含んでよい。しかし、負電流コレクター層に、アルミニウム、銅または鋼などの任意の好適な金属、またはポリエチレンテレフタラート(PET)上のアルミニウムなどの金属化プラスチックを含む金属化物質が使用できることが理解される。
【0035】
第1および第2電極層は、典型的に導電性である。電流は、そのため、第1および第2電極層を通るイオンまたは電子の流れのため、第1および第2電極層を流れてよい。
【0036】
電解質層は、イオン伝導性であるがリチウムリン酸窒化物(LiPON)などの電気絶縁体でもある任意の好適な物質を含んでよい。上述したように、電解質層は、例えば、固体層であり、高速イオン伝導体と呼ばれてよい。固体電解質層は、例えば、正規構造が欠け、自由に動きうるイオンを含む液体電解質の構造と、結晶性固体の構造との間の中間構造を有してよい。結晶物質は、例えば、正規構造を有し、2次元または3次元格子として配置されうる規則正しい原子配置を有する。結晶物質のイオンは、典型的に不動であり、そのため、物質中を自由に動くことができない。
【0037】
スタックは、例えば、基板上に第1電極層を堆積させることにより製造されてよい。電解質層が、続いて、第1電極層上に堆積され、第2電極層が、続いて、電解質層上に堆積される。スタックの少なくとも1つの層は、本明細書に記載のシステムまたは方法を使用して堆積されてよい。
【0038】
るつぼ110内に供給された物質120は、基板上に堆積される層に応じて選択できる。例えば、第1物質が、初めに、るつぼ110内に配置または別の方法で供給されてよい。第1物質は、コバルト酸リチウムなどの導電性物質であってよく、例えば、基板上に堆積され、エネルギー蓄積装置のための第1電極層を形成する。第1物質が基板上に所望の厚さまで堆積されると、るつぼ110内の第1物質は、第2物質に置き換えられてよい。第2物質は、イオン伝導性だが、リチウムリン酸窒化物(LiPON)などの電気絶縁物質であってよく、例えば、第1電極層上に堆積され、エネルギー蓄積装置のための電解質層を形成する。一旦、第2物質が基板上に所望の厚さまで堆積されると、るつぼ110内の第2物質は、第3物質に置き換えられてよい。第3物質も、リチウム金属などの導電性物質であってよく、例えば、電解質層上に堆積され、エネルギー蓄積装置のための第2電極層を形成する。第3物質が基板上に所望の厚さまで堆積されると、堆積された層のスタックに更なる処理が施され、エネルギー蓄積装置が作り出されてよい。
【0039】
典型的に、個体電池などのエネルギー蓄積装置の製造は、(例えば、ナノメートルオーダーの)薄いフィルムの代わりに、(例えば、時にはミクロンと呼ばれるマイクロメーターオーダーの)比較的厚い層またはフィルムの堆積を伴ってよい。この厚さのフィルムを堆積するためには、高度な再現性および制御を有する堆積源が望ましい。
【0040】
図1のるつぼ装置100を振り返ると、本実施例において、るつぼ110は、第1部分110aと第2部分110bとを備える。1つまたは複数の誘導コイル130に電力を印加すると、るつぼ110の少なくとも第1部分110aに第1熱ゾーン140が生成され、るつぼ110の少なくとも第2部分110bに第2熱ゾーン150が生成される。第1熱ゾーン140は、第1熱的特性を有してよく、第2熱ゾーン150は、第2熱的特性を有してよいが、第1熱的特性が第2熱的特性と異なるようにする。
【0041】
実施例によっては、第1および第2熱ゾーン140、150の熱的特性は、第1および第2熱ゾーン140、150の温度であってよい。言い換えれば、1つまたは複数の誘導コイル130に電力を印加すると、第1熱ゾーン140は、第2熱ゾーン150の温度と異なる温度を有してよい。他の実施例において、第1および第2熱ゾーン140、150の熱的特性は、第1および第2熱ゾーン140、150の熱伝導率、熱伝導抵抗または温度勾配の少なくとも1つなどの、温度と異なる熱的特性であってよい。
【0042】
図1において、第1熱ゾーン140は、第2熱ゾーン150と別れた、異なるものとして示されるが、1つまたは複数の誘導コイル130に電力を印加すると、るつぼ110において第1および第2熱ゾーン140、150が別れず、異ならないかもしれないことを理解されたい。第1および第2熱ゾーン140、150は、
図1の破線により示された領域に制限されなくてよい。
【0043】
代わりに、第1および第2熱ゾーン140、150は、平均的に、所与の熱的特性を有するるつぼ110の一部であると考えられてよい。例えば、第1熱ゾーン140内で平均的に、第1熱ゾーン140は、第1温度を有してよい。同様に、第2熱ゾーン150内で平均的に、第2熱ゾーン150は、第2温度を有してよい。第1温度および第2温度は、同一であっても同一でなくてもよい。第1温度および第2温度が同一なとき、第1および第2熱ゾーン140、150は、それにもかかわらず、例えば、異なる温度勾配、温度分布または温度プロフィールのため、異なる熱的特性を有してよい。
【0044】
実施例によっては、熱ゾーンは、るつぼの一部に存在してよい。熱ゾーンは、熱ゾーンがるつぼ材料が存在する場所に制限されるように、るつぼの一部の材料内に存在すると見なされてよい。言い換えれば、熱ゾーンは、るつぼ材料の外側に広がらなくてよい。例えば、第1熱ゾーン140は、るつぼ110の部分110aの材料に制限されると見なされてよい。他の実施例において、熱ゾーンは、るつぼの一部に存在してよく、るつぼ材料の外側に広がってもよい。熱ゾーンは、るつぼの一部の材料内およびるつぼの空洞の一部内に存在すると見なされてよい。言い換えれば、熱ゾーンは、るつぼ材料の外側に広がり、加熱される物質120を含むるつぼの空洞を包含してよい。
【0045】
るつぼ110の第1部分110aに対応する第1熱ゾーン140は、るつぼ110の基部110cとるつぼ110の第2部分110bとの間に位置付けられてよい。るつぼ110の基部110cは、るつぼ110の底と呼ばれてよい。第1熱ゾーン140は、るつぼ110の底部に位置付けられると見なされてよい。るつぼ110の第2部分110bに対応する第2熱ゾーン150は、るつぼ110の第1部分110aとるつぼ110の上端110dとの間に位置付けられてよい。第2熱ゾーン150は、るつぼ100の最上部に位置付けられると見なされてよい。
【0046】
実施例によっては、るつぼ110の第1部分110aおよびるつぼ110の第2部分110bは、第1部分110aおよび第2部分110bの両方に共通するるつぼ110の一部を含んでよい。従って、第1熱ゾーン140および第2熱ゾーン150は、第1熱ゾーン140および第2熱ゾーン150の両方に共通するるつぼ110の一部を含んでよい。言い換えれば、第1熱ゾーン140および第2熱150は、るつぼ110内で部分的に重なってよい。
【0047】
実施例によっては、るつぼ110の第1および第2部分110a、110bは、第1および第2熱ゾーン140、150の生成を可能にする異なる物理的特性を有してよい。るつぼ100の第1部分110aとるつぼ110の第2部分110bとの間のインターフェースは、インターフェースライン110eにより
図1に示される。るつぼ110の第1部分110aは、るつぼ110のインターフェースライン110eを通過するとき、るつぼ110の物理的特性が変化するように、るつぼの第2部分110bと異なる物理的特性を有してよい。
【0048】
1実施例において、るつぼ110の第1部分110aは、るつぼ110の第2部分110bと異なる電気抵抗率を有してよい。例えば、第2部分110bは、第1部分110aより高い電気抵抗率を有してよい。所与の電力が、るつぼ110の第1および第2部分110a、110bを取り囲むまたは別の方法でるつぼ110の第1および第2部分110a、110bの周りに配置された単独の誘導コイルに印加されるとき、るつぼ110の第2部分110bは、第2部分110bの高い電気抵抗率のため、るつぼ110の第1部分110aよりも高熱になってよい。これにより、第1熱ゾーン140より高温の第2熱ゾーン150が作り出されてよい。上述したように、単独の誘導コイルは、1つの誘導コイルと見なされてよい。誘導コイルは、複数の巻き数のワイヤを有しうる連続して巻いたワイヤを備えてよい。
【0049】
他の実施例において、るつぼ装置100は、るつぼ110全体に渡って同一または類似の物理的特性を有するるつぼ110を備えてよい。第1熱ゾーン140および第2熱ゾーン150を生成するため、そのような場合、2つまたはそれ以上の誘導コイル130が使用されてよい。第1誘導コイルを使用して、第1熱ゾーン140を生成してよく、第2誘導コイルを使用して、第2熱ゾーン150を生成してよい。第1電力が第2電力と異なるとき、第1誘導コイルに第1電力を、第2誘導コイルに第2電力を印加すると、第1熱ゾーンは、第2熱ゾーンと異なる熱的性質を有してよい。例えば、第2誘導コイルに第1誘導コイルより高い電力を印加することにより、第1熱ゾーンと比較して第2熱ゾーンに高温が生成されてよい。
【0050】
図2は、るつぼ装置200において第1熱ゾーン240および第2熱ゾーン250を生成する模式図である。
図1の対応する特徴と類似している
図2の特徴には、同一の参照番号が付けられているが、100ずつ増やされている。対応する記載は、特に明記しない限り、適用されると見なされる。
【0051】
るつぼ装置200は、第1誘導コイル230aと第2誘導コイル230bとを備える。第1電源260aは、第1電力、例えば、交流電力を生成するように構成されてよい。第1電力は、1つまたは複数の電気接続262a、264aを経由して第1誘導コイル230aに印加されてよい。るつぼ210の一部の周りに第1誘導コイル230aを配置することにより、るつぼ210に第1熱ゾーン240が生成される。第2電源260bは、第2電力、例えば、交流電力を生成するように構成されてよい。第2電力は、1つまたは複数の電気接続262b、264bを経由して第2誘導コイル230bに印加されてよい。るつぼの一部の周りに第2誘導コイル230を配置することにより、るつぼ210に第2熱ゾーン250が生成される。
【0052】
電源は、パワーサプライと呼ばれてもよい。電源は、例えば、電気負荷、この場合は1つまたは複数の誘導コイルに電力を供給できる電気デバイスまたはシステムである。電源は、典型的に、電源からの電流を所与の電圧、電流および周波数に変換し、誘導コイルに電力を供給するようにする。
【0053】
第1電源260aまたは第2電源260bなどの電源は、制御システム266により制御されてよい。制御システム266は、例えば、1つまたは複数の誘導コイル230a、230bに印加される電力を制御するように配置される。そのような制御は、(後述される)測定データなどの、制御システム266により受信される入力データに基づいてよい。制御システムは、コントローラーと呼ばれてマイクロコントローラーでありうるプロセッサーを備えてよい。プロセッサーは、データおよびコンピュータ読み取り可能命令を処理するための中央処理装置(CPU)であってよい。制御システムは、データおよびコンピュータ読み取り可能命令を保存するための記憶装置を備えてもよい。記憶装置は、Random Access Memory(RAM)などの揮発性メモリーおよびRead Only Memory(ROM)などの不揮発性メモリー、および/または他の種類の記憶装置またはメモリーの少なくとも1つを備えてよい。記憶装置は、プロセッサーにより比較的迅速にアクセスされうるオンチップメモリーまたはバッファーであってよい。記憶装置は、例えば、少なくとも1つのバスにより、プロセッサーに通信可能に結合され、データが記憶装置とプロセッサーとの間を移動できるようにしてよい。このように、本明細書に記載の実施例に従ってるつぼ装置210およびその様々なコンポーネントを制御するためのプロセッサーによる処理のためのコンピュータ読み取り可能命令は、プロセッサーにより実行され、記憶装置に保存されてよい。代替的に、コンピュータ読み取り可能命令のいくつかまたは全ては、ソフトウェアに加えて、またはソフトウェアの代わりに、ハードウェアまたはファームウェアに組み込まれてよい。場合によっては、第1および第2誘導コイル230a、230bは、共通電源と呼ばれうるコンセントを使う電源などの、同一の電源から電力を受信するように配置される。そのような場合、第1および第2電源260a、260bが省略され、制御システム266は、代わりに共通電源から電力を受信し、それぞれ、互いに異なる第1および第2誘導コイル230a、230bにより供給される第1および第2電力を制御してよい。なお更なる場合において、第1電源260aにより供給される第1電力を制御するように配置された第1制御システムおよび第2電源260bにより供給される第2電力を制御するように配置された第2制御システムがあってよく、第1電力は、第2電力と異なるようにする。そのような場合、第1および/または第2制御システムは、制御システム266と類似であってよい。
【0054】
電力は、例えば、少なくとも1つの電源を使用して、例えば、交流電力を印加することにより1つまたは複数の誘導コイル230a、230bに印加されてよい。電力の制御は、例えば、制御システム266を使用して、交流電力の電流、電圧および/または周波数の制御を通じて提供されてよい。実施例によっては、るつぼ装置200は、既定の電圧および電流で動作してよい。既定の電圧および電流を選択して、るつぼ装置200が低真空または中真空に取り囲まれるとき、るつぼ装置200の近くでのプラズマの形成およびるつぼ210内の物質220の消失を防いでよい。
【0055】
実施例によっては、第1誘導コイル230aに印加される第1電力は、第2誘導コイル230bに印加される第2電力260bより高くてよい。より高い電力を印加することにより、より大きな誘導加熱および結果として生じる高温がもたらされる。従って、これらの実施例において、第1誘導コイル230aに対応する第1熱ゾーン240は、第2誘導コイル230bに対応する第2熱ゾーン250より高温を有する。
【0056】
他の実施例において、第2誘導コイル230bに印加される第2電力は、第1誘導コイル230aに印加される第1電力より高くてよい。より高い電力を印加することにより、より大きな誘導加熱および結果として生じる高温がもたらされる。従って、これらの実施例において、第2誘導コイル230bに対応する第2熱ゾーン250は、第2誘導コイル230aに対応する第1熱ゾーン240より高温を有する。
【0057】
第1熱ゾーン240が低温であって、第2熱ゾーン250が高温であるとき、るつぼ210内に含まれる物質220は、第1熱ゾーン240で溶融され、第2熱ゾーン250で蒸発してよい。実施例によっては、制御システム266は、第1温度がるつぼ210内に含まれる物質230を融解させるための第1温度閾値を満たす、または超えるように、1つまたは複数の誘導コイル230a、230bに印加される電力を制御するように配置されてよい。実施例によっては、制御システム266は、第2温度がるつぼ210内に含まれる物質230が蒸発するための第2温度閾値を満たす、または超えるように、1つまたは複数の誘導コイル230a、230bに印加される電力を制御するように配置されてよい。
【0058】
図2に示すように、第1熱ゾーンは、るつぼ210内に含まれる物質220のいくらかまたは大部分を含んでよい。第2熱ゾーン250は、るつぼ210内に含まれる物質220のいくらかまたは少ない部分を含んでよい。そのようなシナリオにおいて、物質220の大部分は、物質220を融解状態にする温度で保持されてよく、物質の少ない部分は、物質220が蒸発する温度で保持されてよい。
【0059】
低温の第1熱ゾーン240を高温の第2熱ゾーン250の下に構成することにより、物質が加熱され、蒸発するにつれてのるつぼ210内の融解物質220の吐き出しおよび跳ね上げが最小限に抑えられてよい。これは、第1熱ゾーン240の物質220が第2熱ゾーン250の物質220よりゆっくりした速度で加熱されるという事実による。
【0060】
上述したように、実施例によっては、るつぼ装置200は、蒸発堆積源として使用されてよい。そのようなシナリオにおいて、るつぼ装置200は、例えば、2000度を超える高温で作動し、物質220を蒸発および堆積させるようにしてよい。2000度を超える高温は、るつぼ210内で物質を加熱する電子銃システムの使用なしで実現されてよい。本明細書のシステムおよび方法は、そのため、既存のシステムより単純であってよい。
【0061】
そのような実施例において、るつぼ装置200は、堆積チャンバー内に設置されてよい。堆積チャンバーは、物質がその上に堆積されうる基板を備えてよい。堆積チャンバー内に存在する(空気、窒素、アルゴンおよび/または任意の他の不活性ガスまたは貴ガスなどの)任意の気体が、堆積チャンバーから排出され、真空状態にされた堆積チャンバーにおける真空圧が既定の真空圧に達するようにしてよい。堆積チャンバーを既定の圧力にする真空排気は、真空ポンプシステムを使用して行われてよい。そのような真空ポンプシステムは、スクロールまたは回転ポンプおよび/またはターボポンプを備え、堆積チャンバー内の気体および/または空気を排出してよい。
【0062】
るつぼ装置200が蒸発堆積源として使用されるとき、1つまたは複数の誘導コイルへの電力の印加の制御を使用して、るつぼの第1および第2熱ゾーン240、250の熱的特性を制御できる。結果的に、第1および第2熱ゾーン240、250の特性により、基板上への物質220の堆積の特性が判定されてよい。例えば、第1および第2熱ゾーン240、250の特性を独立的に制御する能力は、基板上への物質220の堆積の厚さおよび/または密度、基板上への物質220の堆積の速度(例えば、物質の蒸気流動)、堆積の質(例えば、物質の蒸気流動の均一性)などの制御を提供してよい。1つまたは複数の誘導コイルに印加される電力を調整することにより、基板上に堆積する物質の高圧蒸気流動を作り出す可能性がもたらされてよい。
【0063】
実施例によっては、2つまたはそれ以上の熱ゾーン240、250が存在することにより、熱ゾーン間の1つまたは複数の温度勾配が作り出されてよい。温度勾配を作り出すことにより、るつぼ210内の融解物質220に動きが生じ、例えば、るつぼ210内で融解物質220の撹拌が生じてよい。融解物質220は、(るつぼ210の第1部分に生成される)第1熱ゾーン240の領域および(るつぼ210の第2部分に生成される)第2熱ゾーン250の領域に含まれてよい。第1および第2熱ゾーン240、250の領域は、第1および/または第2熱ゾーン240、250のいくらかまたは全てを含んでよい。従って、融解物質220の撹拌は、第1熱ゾーン240と第2熱ゾーン250との間の温度勾配のため、第1熱ゾーン240の領域と第2熱ゾーン250の領域との間にあってよい。
【0064】
融解物質220の撹拌は、熱エネルギーのより均一な分布をもたらし、それにより、例えば、熱エネルギーが比較的均質に分布するように加熱されたとき、るつぼ210内に含まれる物質220にホットスポットまたはコールドスポットがない、またはほとんどないようにしてよい。物質220の誘導加熱により、融解物質220の誘導撹拌が生じてもよい。誘導撹拌は、熱エネルギーのより均質な分布をもたらし、それにより、より均質な融解物質220を供給してもよい。
【0065】
図3は、るつぼ装置300の第1熱ゾーン340および第2熱ゾーン350の熱的特性を測定する模式図である。
図1の対応する特徴と類似している
図3の特徴には、同一の参照番号が付けられているが、200ずつ増やされている。対応する記載は、特に明記しない限り、適用されると見なされる。
【0066】
1つまたは複数の温度センサーが、るつぼ310に結合され、るつぼ310の熱的特性を測定するようにしてよい。第1温度センサー370aは、結合機構372aを経由してるつぼ310の第1熱ゾーン340に結合されてよい。同様に、第2温度センサー370bは、結合機構372bを経由してるつぼ310の第2熱ゾーン350に結合されてよい。温度センサー370a、370bは、熱ゾーン340、350の少なくとも1つについて温度などの熱的特性を測定可能であってよい。
【0067】
結合機構372a、372bは、温度センサーを熱ゾーン340、350に物理的に接続または結合させてよい。実施例によっては、温度センサー370a、370bは、
図3に示すように、所与の熱ゾーン340、350内でるつぼ自体の温度を測定する。例えば、温度センサー370a、370bは、例えば、るつぼの外側またはるつぼの材料内でるつぼ自体に物理的に接続されてよい。他の実施例において、温度センサーは、所与の熱ゾーン内のるつぼの空洞の温度、例えば、るつぼ内に含まれる物質の温度を測定する。例えば、温度センサーは、るつぼの空洞またはるつぼ内に含まれる物質に物理的に接続されてよい。
【0068】
温度センサー370a、370bは、熱電対、サーミスターまたはサーモスタットなどの、物体の温度を測定する任意のそのようなデバイスであってよい。温度センサー370a、370bは、それぞれ、第1または第2熱的特性の少なくとも1つの測定を代表する測定データを取得するように配置されてよい。実施例によっては、第1熱的特性は、第1熱ゾーンの第1温度であり、第2熱的特性は、第2熱ゾーンの第2温度である。
【0069】
実施例によっては、サーモスタットの場合など、第1および/または第2熱ゾーン340、350の温度または別の熱的特性の測定を使用して、誘導コイルに印加される電力を制御、または部分的に制御してよい。誘導コイルに印加される電力は、
図2の制御システム266などの、制御システムにより制御されてよい。制御システムは、温度センサー370a、370bにより取得された測定データを含みうる受信された入力データに基づいて電力を制御するように配置されてよい。
【0070】
例えば、第1および/または第2誘導コイル330a、330bに印加される電力は、第1および/または第2熱ゾーン340、350用の温度センサー370a、370bによる温度測定に少なくとも部分的に基づいているフィードバックループにより制御されてよい。結果的に、第1および/または第2熱ゾーン340、350の温度は、人手を介す必要なく、自動的に維持できる。従って、第2熱ゾーン350において、物質320のほぼ一定の蒸気流動、または既存のシステムより少ない蒸気流動変化を伴う物質320の蒸気流動が実現されてよい。言い換えれば、物質320の気化は、ほぼ一定の速度で生じる。物質の蒸気流動は、蒸気流動がほぼ一定のとき、ほぼ一定であると見なされてよい。例えば、物質の蒸気流動は、測定許容範囲内で、または蒸気流動のプラスまたはマイナス1、5または10パーセント内の蒸気流動変化を伴い、ほぼ一定であってよい。
【0071】
誘導コイルに印加される電力は、
図2の制御システム266などの、制御システムにより制御されてよい。例えば、第1熱ゾーン340の第1温度がるつぼ装置300により加熱される物質を融解させるための第1温度閾値未満であることを表す入力データに応じて、制御システムは、第1誘導コイル330aに印加される第1電力を制御し、第1熱ゾーン340内の温度が第1温度閾値を満たす、または超えるまで、第1熱ゾーン340内の温度を上昇させてよい。同様に、第2熱ゾーン350の第2温度が物質が蒸発するための第2温度閾値未満であることを表す入力データに応じて、制御システムは、第2誘導コイル330bに印加される第2電力を制御し、第2熱ゾーン350内の温度が第2温度閾値を満たす、または超えるまで、第2熱ゾーン350内の温度を上昇させてよい。反対に、制御システムは、第1および/または第2温度が(例えば、所望の使用には高すぎるるつぼ300から蒸発した物質の流動に対応する)更なる第1および/または第2温度閾値を満たす、または超えると判定された場合、第1および/または第2電力を減少させるように同様に配置されてよい。実施例によっては、膨張黒鉛絶縁体などの絶縁体380は、るつぼ310の周り、およびるつぼ310と1つまたは複数の誘導コイル330a、330bとの間に配置されてよい。絶縁体380は、例えば、熱エネルギーの移動を阻止または他の方法で制限できる耐熱材料である。例えば、絶縁体380は、るつぼ310から誘導コイル330a、330bへの熱エネルギーの移動を阻止してよい。誘導コイル330a、330bとるつぼ310との間に絶縁体380を配置することにより、絶縁体380は、るつぼ310からの熱から誘導コイル330a、330bを保護してよい。
【0072】
図4は、るつぼ装置400の模式図である。
図1の対応する特徴と類似している
図4の特徴には、同一の参照番号が付けられているが、300ずつ増やされている。対応する記載は、特に明記しない限り、適用されると見なされる。
【0073】
るつぼ装置400は、上述したように、誘導加熱を経て加熱される物質420を含むためのるつぼ410と、るつぼ410の周りに配置される1つまたは複数の誘導コイル(この場合は、第1および第2誘導コイル430a、430b)とを備えてよい。るつぼ410と第1および第2誘導コイル430a、430bとの間に、絶縁体480が存在し、電力が印加されるとるつぼ410内に生成される熱から第1および第2誘導コイル430a、430bを保護するようにしてよい。
【0074】
実施例によっては、少なくとも1つの誘導コイルは、冷却システムにより冷却されてよい。第1冷却システムは、第1誘導コイル430aを冷却するように配置されてよい。第2冷却システムは、第2誘導コイル430bを冷却するように配置されてよい。第1冷却システムおよび第2冷却システムは、それぞれ、第1誘導コイル430aおよび第2誘導コイル430bに異なる冷却量を適用してよい。
【0075】
実施例によっては、冷却システムの少なくとも1つは、水冷システムである。例えば、少なくとも1つの誘導コイルは、水冷システムによる水冷式であってよい。例えば、第1誘導コイル430aは、第1水冷システムによる水冷式であってよく、この場合、(これは実施例にすぎないが)第1および第2エレメント432aおよび434aを備える。第1および第2エレメント432aおよび434aは、水を流すことができるチューブ、パイプまたは他のそのような中空の容器を備えてよい。第1および第2エレメント432aおよび434aは、熱エネルギーが第1誘導コイル430aから第1および第2エレメント432aおよび434aおよび内部の水まで流れるように、第1誘導コイル430aと熱的接触してよい。
図4において、第1エレメント432aは、第1誘導コイル430aの下縁と平行に伸び、第2エレメント434aは、第1誘導コイル430aの上縁と平行に伸びるが、これは、実施例にすぎない。第1誘導コイル430aの周りを、第1および第2エレメント432aおよび434aを通って流れる水は、第1誘導コイル430aとの熱的接触することにより温まり、熱エネルギーの少なくともいくらかを第1誘導コイルから離して移動させてよい。従って、水は、熱伝達媒体として使用される。第1および第2エレメント432aおよび434aは、銅、金属または他のそのような熱伝導材料から製造されてよい。熱エネルギーを第1誘導コイル430aから離して移動させることにより、第1誘導コイル430aが冷却される。水冷システム432a、434a内の水は、第1エレメント432aを通り、続いて第2エレメント434aを通り、第1誘導コイル430aを冷却するようにしてよい。
【0076】
同様に、第2誘導コイル430bは、第2水冷システムによる水冷式であってよく、本実施例において、(これは実施例にすぎないが)第3および第4エレメント432bおよび434bを備える。第3および第4エレメント432b、434bは、上述した第1および第2エレメント432a、434aと類似していてよいが、第1誘導コイル430aではなく第2誘導コイル430bを冷却するように配置される。
【0077】
第1水冷システム432a、434aおよび第2水冷システム432b、434bは、互いに独立していてもよいし、共に連結されてもよい。1実施例において、第1水冷システム432a、434aおよび第2水冷システム432b、434bが独立しているとき、1つの水冷システムで使用される水は、他のシステム、例えば、並行して動作するシステムで使用される水とは分離している。別の実施例において、第1水冷システム432a、434aおよび第2水冷システム432b、434bが共に連結されているとき、水は、1つの水冷システムから別の、例えば、順番に動作するシステムに再循環される。
【0078】
水の熱伝達媒体としての使用との関連で水冷システムが説明されたが、他の冷却剤が使用されてもよいことに留意されたい。例えば、油、脱イオン水または好適な有機化合物、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコールまたはプロピレングリコールの溶液などの、高熱容量を有する他の液体が、水冷システムで使用されてよい。
【0079】
るつぼ410の下に位置付けられたチャンバー490は、万一るつぼ410が割れた場合に、るつぼ装置400に保護を与えるために設置されてよい。チャンバー490を使用して、例えば、るつぼ410が割れた場合、るつぼ410から漏れ出る物質420を集めてよい。るつぼ410から漏れる物質420を集めることにより、物質420が堆積チャンバーへと漏れ出ること、および/またはるつぼ装置400の近くの他のコンポーネントが汚れることを防いでよい。
【0080】
加えて、チャンバー490は、るつぼ装置400の基部410cへの熱エネルギーの移動を防ぐために水冷式であってよい。第3水冷システム492a~492dは、るつぼ装置400の基部410cを冷却するために存在してよい。水冷システム492a~492d用の水は、第1エレメント492aにおいて水冷システムに入り、第2エレメント492bを通って、第3エレメント492cを通って、第4エレメント492dにおいて水冷システムから出てよい。第1水冷システム432a、434aおよび第2水冷システム432b、434bとの関連で説明したように、第1、第2、第3および第4エレメント492a、492b、492cおよび492dは、水または別の冷却剤を流すことができる連続チューブ、パイプまたは他のそのような中空の容器を備えてよい。
【0081】
実施例によっては、誘導コイル430a、430bは、耐火物494の中に入れられてよい。耐火物494は、例えば、1つまたは複数の誘導コイル430a、430bの周りに少なくとも部分的に配置されてよい。第1水冷システム432a、434aおよび第2水冷システム432b、434bは、耐火物494内に格納されてもよい。耐火物494は、例えば、熱エネルギーの移動を阻止または他の方法で制限できる耐熱材料である。例えば、耐火物494は、るつぼ310から誘導コイル330a、330bへの熱エネルギーの移動を阻止してよい。耐火物494内に誘導コイル330a、330bを入れることにより、耐火物494は、るつぼ310からの熱からのダメージから誘導コイル330a、330bを保護してよい。
【0082】
実施例によっては、るつぼ装置400のサイズおよび/または形状は、基板のサイズおよび/または形状と一致するように構成されてよい。例えば、るつぼ装置は、特定の寸法に製造または選択され、基板の寸法と一致するようにしてよい。言い換えれば、所与の基板に対して、適切なるつぼが選択されてよい。るつぼ装置400のサイズおよび/または形状を基板の外形と一致させることにより、基板上へのるつぼ410内の物質420の堆積を最適化する効率的な方法が提供されてよい。例えば、るつぼ内の物質420は、基板に堆積物を含まない部分がないように、基板の全体に堆積されてよい。
【0083】
実施例によっては、るつぼ装置400のサイズおよび/または形状は、基板を含む堆積チャンバーと一致するように構成されてよい。例えば、るつぼ装置は、特定の寸法に製造または選択され、堆積チャンバーの寸法と一致するようにしてよい。言い換えれば、所与の堆積チャンバーのため、適切なるつぼが選択されてよい。るつぼ装置400のサイズおよび/または形状を堆積チャンバーに一致させることにより、堆積チャンバー内の基板上へのるつぼ410内の物質420の堆積を最適化する効率的な方法が提供されてもよい。るつぼ装置400は、堆積チャンバーの形状および/または寸法と一致する特定の形状および/または寸法に基づいて選択されてよい。そのような選択により、基板上の物質の堆積のサイズを増加させる効率的な方法が提供されてよい。
【0084】
実施例によっては、るつぼ装置400は、堆積チャンバー内に設置される。蒸発物質420を供給するるつぼ410の第1および第2熱ゾーンのため、堆積チャンバーは、蒸発物質を供給する電子銃システムを備える同等の装置より高い真空圧(すなわち低真空)で維持されてよい。そのようなシナリオにおいて、堆積チャンバーを高圧力で維持することにより、堆積チャンバー内の空気または気体を排出するのにかかる時間が削減されてよく、より効率的なプロセスが作り出される。
【0085】
堆積チャンバーを高圧力で維持することにより、堆積プロセス中に反応性堆積を実施する能力が提供されてよい。反応性堆積において、堆積チャンバーに注入されうる堆積チャンバー内の気体は、るつぼ装置400からの蒸発物質420と化学的に反応しうる1つまたは複数の化学元素および/または分子を含んでよい。結果的に、蒸発物質420および元素および/または分子が化学的に反応し、1つまたは複数の産物が生じてよい。産物は、続いて、堆積プロセスの一環として使用されてよい。例えば、産物は、基板上に堆積されてよい。
【0086】
実施例によっては、るつぼ装置400は、連続供給システムを備えてよく、それにより、物質がるつぼ410に連続的に、または他よりも頻繁に供給され、るつぼ410内の物質420の量が減少しない、または特定の閾値より上に留まるようにする。るつぼ装置400内に連続供給システムを備えることにより、るつぼ装置400のスイッチを切る必要をなくし、るつぼ410内に物質420を補充できるようにしてよい。そのようなシナリオにより、るつぼ装置のダウンタイム量が削減され、より効率的なシステムが提供されてよい。
【0087】
図5は、誘導加熱を経てるつぼの熱的特性を制御する方法500を示すフローチャートである。本方法は、上述したシステムを使用して実施されてよい。
【0088】
フローチャート500のブロック510において、電力は、るつぼの周りに配置された1つまたは複数の誘導コイルに印加される。
【0089】
フローチャート500のブロック520において、るつぼの第1部分に第1熱ゾーンが生成され、るつぼの第2部分に第2熱ゾーンが生成され、第1熱ゾーンの第1熱的特性は、第2熱ゾーンの第2熱的特性と異なる。
【0090】
そのような方法により、例えば、基板上の物質の蒸発堆積のために、例えば、るつぼ内の物質の加熱が可能になる。そのような方法により、第1および第2熱的特性が適切に制御され、希望通りにるつぼ内の物質の状態が制御されてよい。物質は、そのため、他よりも安定的な方法で堆積されてよい。さらに、そのような方法により、物質は、他よりも動作の中断が少なく、他よりも効率的に堆積されてよい。例えば、フィードバックループを使用して、第1および第2熱的特性を適切に制御し、例えば、希望通りに物質を加熱してよい。このように、本方法は、例えば、他よりも複雑さを軽減して、物質を基板上に正確で、再現性のある厚さで堆積できる。
【0091】
上記の実施例は、例示の実施例として理解されるものである。更なる実施例が想定される。
【0092】
任意の1実施例との関連で説明された任意の特徴は、単独または説明された他の特徴と組み合わせて使用されてよいこと、および任意の他の実施例の1つまたは複数の特徴と組み合わせて、または任意の他の実施例の任意の組み合わせで使用されてもよいことを理解されたい。さらに、上述されていない均等物および変形例が、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく採用されてもよい。
【手続補正書】
【提出日】2022-04-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
るつぼ装置であって、
るつぼと、
前記るつぼの周りに配置された1つまたは複数の誘導コイルであって、電力が印加されると、前記るつぼの少なくとも第1部分に第1熱ゾーンが生成され、前記るつぼの少なくとも第2部分に第2熱ゾーンが生成されるような1つまたは複数の誘導コイルと
、
前記1つまたは複数の誘導コイルの周りに少なくとも部分的に配置された耐火物と
を備え、
前記第1熱ゾーンの第1熱的特性は、前記第2熱ゾーンの第2熱的特性と異な
り、
使用の際、前記電力を印加することにより、前記るつぼ内の液体に動きを生じさせる、るつぼ装置。
【請求項2】
前記第1熱ゾーンは、前記るつぼの基部と前記るつぼの前記第2部分との間に位置付けられ、
前記第1熱的特性は、前記第1熱ゾーンの第1温度であり、
前記第2熱的特性は、前記第2熱ゾーンの第2温度であり、
前記第2温度は、前記第1温度より高い、請求項1のるつぼ装置。
【請求項3】
前記1つまたは複数の誘導コイルは、
前記るつぼの前記第1部分の周りに配置された第1誘導コイルと、
前記るつぼの前記第2部分の周りに配置された第2誘導コイルであって、前記第1誘導コイルに第1電力が印加でき、前記第2誘導コイルに前記第1電力と異なる第2電力が印加できるような第2誘導コイルと
を備える、請求項1または請求項2のるつぼ装置。
【請求項4】
前記第1誘導コイルを冷却するように配置された第1冷却システムと、
前記第2誘導コイルを冷却するように配置された第2冷却システムと
を備える、請求項3のるつぼ装置。
【請求項5】
前記第1冷却システムまたは前記第2冷却システムの少なくとも1つは、水冷システムである、請求項4のるつぼ装置。
【請求項6】
前記1つまたは複数の誘導コイルと前記るつぼとの間に配置された絶縁体を備える、請求項1乃至5のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項7】
前記1つまたは複数の誘導コイルに前記電力を印加すると、前記るつぼ内で少なくとも部分的に物質を加熱するために、前記るつぼの加熱が誘導されるように配置される、請求項1乃至
6のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項8】
使用の際、
前記第1熱的特性または前記第2熱的特性の少なくとも1つの測定を代表する測定データを受信し、
前記測定データに基づいて前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される前記電力を制御する
ように配置された制御システムを備える、請求項1乃至
7のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項9】
前記測定データを取得するように配置された温度センサーを備え、前記第1熱的特性は、前記第1熱ゾーンの第1温度であり、前記第2熱的特性は、前記第2熱ゾーンの第2温度である、請求項
8のるつぼ装置。
【請求項10】
前記第1熱的特性は、前記第1熱ゾーンの第1温度であり、前記制御システムは、使用の際、前記第1温度が、使用の際、前記るつぼ装置により加熱される物質を融解させるための第1温度閾値を満たす、または超えるように前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される前記電力を制御するように配置される、請求項
8または請求項
9のるつぼ装置。
【請求項11】
前記第2熱的特性は、前記第2熱ゾーンの第2温度であり、前記制御システムは、使用の際、前記第2温度が、使用の際、前記るつぼ装置により加熱される物質が蒸発するための第2温度閾値を満たす、または超えるように前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される前記電力を制御するように配置される、請求項
8乃至
10のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項12】
前記るつぼと前記るつぼ装置の基部との間に配置されたチャンバーを備える、請求項1乃至
11のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項13】
前記チャンバーを冷却するように配置された第3冷却システムを備える、請求項
12のるつぼ装置。
【請求項14】
蒸発堆積プロセスで使用するために配置される、請求項1乃至
13のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項15】
エネルギー蓄積装置の製造で使用するために配置される、請求項1乃至
14のいずれか一項のるつぼ装置。
【請求項16】
誘導加熱を経てるつぼの熱的特性を制御する方法であって、
1つまたは複数の誘導コイルの周りに少なくとも部分的に配置された耐火物を提供する工程と、
前記るつぼの周りに配置された
前記1つまたは複数の誘導コイルに電力を印加し、前記るつぼの第1部分に第1熱ゾーンを、前記るつぼの第2部分に第2熱ゾーンを生成する工程
と
を含み、
前記第1熱ゾーンの第1熱的特性は、前記第2熱ゾーンの第2熱的特性と異な
り、
前記電力を印加する工程は、前記るつぼ内の液体に動きを生じさせる、方法。
【請求項17】
前記第1熱ゾーンは、前記るつぼの基部と前記るつぼの前記第2部分との間に位置付けられ、
前記第1熱的特性は、第1熱ゾーンの第1温度であり、
前記第2熱的特性は、第2熱ゾーンの第2温度であり、
前記第2温度は、前記第1温度より高い、請求項
16の方法。
【請求項18】
前記1つまたは複数の誘導コイルに前記電力を印加する工程は、
前記1つまたは複数の誘導コイルの第1誘導コイルに第1電力を印加する工程と、
前記1つまたは複数の誘導コイルの第2誘導コイルに前記第1電力と異なる第2電力を印加する工程と
を含む、請求項
16または請求項
17の方法。
【請求項19】
前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される電流、電圧または周波数の少なくとも1つを制御する工程を含む、請求項
16乃至
18のいずれか一項の方法。
【請求項20】
前記電力を印加する工程は、
前記るつぼの前記第1部分において物質の第1部分を融解させ、
前記るつぼの前記第2部分において前記物質の第2部分を蒸発させる、請求項
16乃至
19のいずれか一項の方法。
【請求項21】
前記電力を印加する工程は、前記るつぼ内の物質を誘導加熱させ、前記物質の蒸気を生成し、前記方法は、基板上に前記蒸気を堆積させる工程を含む、請求項
16乃至
20のいずれか一項の方法。
【請求項22】
前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される前記電力を制御し、前記基板上に堆積された前記蒸気の密度または前記基板上に前記蒸気を堆積させる速度の少なくとも1つを制御する工程を含む、請求項
21の方法。
【請求項23】
前記第1熱的特性または前記第2熱的特性の少なくとも1つの測定を代表する測定データを受信する工程と、
前記測定データに基づいて前記1つまたは複数の誘導コイルに印加される前記電力を制御する工程と
を含む、請求項
16乃至
22のいずれか一項の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
本発明の第1態様によれば、るつぼと、るつぼの周りに配置された1つまたは複数の誘導コイルと、1つまたは複数の誘導コイルの周りに少なくとも部分的に配置された耐火物とを備えるるつぼ装置が提供される。1つまたは複数の誘導コイルに電力が印加されると、るつぼの少なくとも第1部分に第1熱ゾーンが生成され、るつぼの少なくとも第2部分に第2熱ゾーンが生成され、第1熱ゾーンの第1熱的特性は、第2熱ゾーンの第2熱的特性と異なり、電力を印加することにより、るつぼ内の液体に動きを生じさせる。異なる熱的特性でるつぼに第1熱ゾーンおよび第2熱ゾーンを生成することにより、るつぼの熱ゾーンを独立的に制御する能力を提供してよい。熱ゾーンを独立的に制御することにより、1つのゾーン、例えば、第2熱ゾーンを、より高温で構成できるようにしてよい。るつぼ装置は、実施例によっては、更なる加熱システム、例えば、電子銃システムを必要とすることなく、るつぼ内の物質を2000℃を超えて保持できるようにする単純で効率的な手段を提供してよい。そのような構成は、るつぼ内の物質の高圧蒸気流動を生成する効率的な方法を提供しうる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
絶縁体は、1つまたは複数の誘導コイルとるつぼとの間に配置されてよく、るつぼからの熱エネルギーの移動を阻止または別の方法により制限してよい。るつぼからの熱エネルギーの移動を制限することにより、るつぼの熱から誘導コイルを保護してよい。絶縁体は、膨張黒鉛絶縁体であってよい。耐火物は、1つまたは複数の誘導コイルの周りに少なくとも部分的に配置される。同様に、耐火物は、るつぼからの熱エネルギーの移動を制限してよく、それにより、るつぼの熱から誘導コイルを保護する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
本発明の第2態様に従って、誘導加熱を経てるつぼの熱的特性を制御する方法が提供される。本方法は、1つまたは複数の誘導コイルの周りに少なくとも部分的に配置された耐火物を提供する工程と、るつぼの周りに配置された1つまたは複数の誘導コイルに電力を印加し、るつぼの第1部分に第1熱ゾーンを、るつぼの第2部分に第2熱ゾーンを生成する工程とを含み、第1熱ゾーンの第1熱的特性は、第2熱ゾーンの第2熱的特性と異なり、電力を印加する工程は、るつぼ内の液体に動きを生じさせる。異なる熱的特性でるつぼに第1熱ゾーンおよび第2熱ゾーンを生成することにより、るつぼの熱ゾーンを独立的に制御する能力が提供されてよい。熱ゾーンを独立的に制御することにより、1つのゾーン、例えば、第2熱ゾーンがより高温で構成できるようにしてよい。るつぼ装置は、実施例によっては、更なる加熱システム、例えば、電子銃システムを必要とすることなく、るつぼ内の物質を2000℃を超えて保持できるようにする単純で効率的な手段を提供してよい。そのような構成は、るつぼ内の物質の高圧蒸気流動を生成する効率的な方法を提供しうる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
電力を印加することにより、るつぼの液体に動きを生じさせる。るつぼの液体の動きは、液体の撹拌を生じさせ、それにより、熱エネルギーのより均一な分布がもたらされ、るつぼ内の物質にホットスポットまたはコールドスポットがない、またはほとんどない、例えば、熱エネルギーが比較的均質に分布するようにしてよい。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0081
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0081】
実施例によっては、誘導コイル430a、430bは、耐火物494の中に入れられてよい。耐火物494は、1つまたは複数の誘導コイル430a、430bの周りに少なくとも部分的に配置される。第1水冷システム432a、434aおよび第2水冷システム432b、434bは、耐火物494内に格納されてもよい。耐火物494は、例えば、熱エネルギーの移動を阻止または他の方法で制限できる耐熱材料である。例えば、耐火物494は、るつぼ310から誘導コイル330a、330bへの熱エネルギーの移動を阻止してよい。耐火物494内に誘導コイル330a、330bを入れることにより、耐火物494は、るつぼ310からの熱からのダメージから誘導コイル330a、330bを保護してよい。
【国際調査報告】