(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】DNA損傷応答のコンジュゲート阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/407 20060101AFI20221027BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20221027BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20221027BHJP
A61K 31/4523 20060101ALI20221027BHJP
A61K 31/497 20060101ALI20221027BHJP
A61K 31/5025 20060101ALI20221027BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20221027BHJP
A61K 31/551 20060101ALI20221027BHJP
C07D 487/04 20060101ALI20221027BHJP
C07D 403/04 20060101ALI20221027BHJP
C07D 231/56 20060101ALI20221027BHJP
C07D 413/04 20060101ALI20221027BHJP
C07D 471/06 20060101ALI20221027BHJP
C07D 237/32 20060101ALI20221027BHJP
C07D 491/052 20060101ALI20221027BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20221027BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221027BHJP
A61K 31/77 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A61K31/407
A61K31/55
A61K31/4184
A61K31/4523
A61K31/497
A61K31/5025
A61K31/496
A61K31/551
C07D487/04 150
C07D403/04 CSP
C07D231/56 Z
C07D413/04
C07D471/06
C07D237/32
C07D487/04 151
C07D491/052
C07D487/04 137
A61K47/60
A61P35/00
A61K31/77
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513556
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(85)【翻訳文提出日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 US2020048608
(87)【国際公開番号】W WO2021041964
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】510340997
【氏名又は名称】プロリンクス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】フォンテーヌ,ショーン ディ
(72)【発明者】
【氏名】ハーン,ブライアン アール
(72)【発明者】
【氏名】サンティ,ダニエル ブイ
【テーマコード(参考)】
4C050
4C063
4C065
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050AA02
4C050AA07
4C050BB04
4C050BB08
4C050CC04
4C050CC10
4C050CC11
4C050CC18
4C050DD01
4C050EE02
4C050EE04
4C050FF02
4C050FF05
4C050GG03
4C050HH01
4C050HH04
4C063AA01
4C063BB01
4C063CC26
4C063CC51
4C063DD03
4C063DD34
4C063EE01
4C065AA07
4C065AA18
4C065BB09
4C065CC09
4C065DD03
4C065EE02
4C065HH03
4C065JJ04
4C065KK05
4C065LL02
4C065PP02
4C065PP09
4C076CC27
4C076EE23
4C076FF31
4C076FF67
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC37
4C086BC39
4C086BC41
4C086BC67
4C086CB03
4C086CB09
4C086CB11
4C086CB22
4C086FA02
4C086FA06
4C086GA07
4C086GA09
4C086GA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA07
4C086NA12
4C086NA13
4C086NA15
4C086ZB26
(57)【要約】
本明細書において、疾患の治療において治療剤として使用するために好適なDNA損傷応答の阻害剤である放出可能なコンジュゲートを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
M-(Z
*-L-D)
y
[式中、Mは、高分子担体であり;
yは、Mに結合したリンカー-薬剤L-Dの数を示す数字であり;
Z
*は、連結基であり;
Lは、放出可能なリンカーであり;および
Dは、DNA損傷応答阻害剤である]
である、コンジュゲート。
【請求項2】
Dが、PARP阻害剤、ATM阻害剤またはATR阻害剤である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
式:
【化1】
[式中、
Z
*は、連結基であり;n=0~6であり;R
1およびR
2は、各々独立して、H、CNまたはSO
2R
5であって、ここでR
5は、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールまたはN(R
6)
2であるか、またはN(R
6)
2が、4~8員環を形成しており、ここで各R
6は、独立して、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールであり;各R
4は、独立して、HまたはC
1-C
3アルキルであるか、または一緒になって3~6員環を形成し;Yは、存在しないか、または式:N(R
7)CH
2であって、式中のR
7は、所望により置換されていてもよいC
1-C
4アルキルまたは所望により置換されていてもよいアリールである;但し、R
1およびR
2の少なくとも1つは、H以外のものである]
である、請求項1または2に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
Yが、存在せず、Dが、Dの第1級または第2級アミン窒素原子へのカルバメート結合を介してリンカーLに連結されている、請求項3に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
Dが、ルカパリブ、ベリパリブ、ニラパリブまたはベルゾセルチブである、請求項1~4のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項6】
Yが、式:N(R
7)CH
2であり、Dが、Dの非塩基性窒素原子とのアルキル結合を介してリンカーLに連結されている、請求項1~3のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項7】
Dが、タラゾパリブ、オラパリブ、タミパリブ、E7016またはCEP-9722である、請求項6に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
Mが、分子量1000~100,000ダルトンのPEGであって、y=1~8である、請求項1~7のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項9】
Mが、5~50nmの流体力学的半径を有する、請求項1~8のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項10】
Mが、不溶性高分子担体である、請求項1~7のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項11】
Z
*が、カルボキサミド、カルバメート、尿素、オキシム、チオエーテルまたは1,2,3-トリアゾールである、請求項1~10のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項12】
R
1およびR
2が、pH7.4、37℃において、Dの放出半減期が100~1000時間となるように選択される、請求項3~10のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項13】
式:
【化2】
[式中、Mは、高分子担体であり;n=0~6であり;Z
*は、連結基であり;R
1およびR
2は、各々独立して、H、CNまたはSO
2R
5であって、ここでR
5は、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールまたはN(R
6)
2であるか、またはN(R
6)
2が、4~8員環を形成しており、ここで各R
6は、独立して、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールであり;各R
4は、独立して、HまたはC
1-C
3アルキルであるか、または一緒になって3~6員環を形成しており;R
7は、所望により置換されていてもよいC
1-C
3アルキルまたは所望により置換されていてもよいアリールであり;y=1~8である;但し、R
1およびR
2の少なくとも1つは、H以外のものである]
である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項14】
Mが、40kDaの4本アーム型PEGであり、y=4である、請求項13に記載のコンジュゲート。
【請求項15】
Z
*が、カルボキサミド、カルバメート、オキシム、チオエーテルまたはトリアゾールである、請求項13または14に記載のコンジュゲート。
【請求項16】
式:
【化3】
[式中、Mは、高分子担体であり;n=0~6であり;Z
*は、連結基であり;R
1およびR
2は、各々独立して、H、CNまたはSO
2R
5であって、ここでR
5は、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールまたはN(R
6)
2あるか、またはN(R
6)
2が、4~8員環を形成しており、ここで各R
6は、独立して、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールであり;各R
4は、独立して、HまたはC
1-C
3アルキルであるか、または一緒になって3~6員環を形成しており;ならびに、y=1~8である;但し、R
1およびR
2の少なくとも1つは、H以外である]
である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項17】
Mが、40kDaの4本アーム型PEGであり、y=4である、請求項16に記載のコンジュゲート。
【請求項18】
式:
【化4】
[式中、Zは、連結基であり;n=0~6であり;R
1およびR
2は、各々独立して、H、CNまたはSO
2R
5であって、ここでR
5は、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールまたはN(R
6)
2あるか、またはN(R
6)
2が、4~8員環を形成しており、ここで各R
6は、独立して、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールであり;各R
4は、独立して、HまたはC
1-C
3アルキルであるか、または一緒になって3~6員環を形成し;Yは、存在しないか、または式N(R
7)CH
2であり、式中のR
7は、所望により置換されていてもよいC
1-C
4アルキルまたは所望により置換されていてもよいアリールであり;および、Dは、DNA損傷応答の阻害剤である;但し、R
1およびR
2の少なくとも1つは、H以外のものである]
のリンカー-薬剤。
【請求項19】
癌の治療における、請求項1~17のいずれか一項に記載のコンジュゲートの使用。
【請求項20】
DNA損傷応答のコンジュゲート阻害剤の製造方法であって、請求項18のリンカー-薬剤を、連結基Z
*が形成されるような条件下で、官能基Zと反応することができる同族体基Z'を含む活性高分子担体に接触させて、適宜コンジュゲートを単離する工程を特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国仮特許出願第62/893,075号(2019年8月28日出願)の優先権を主張し、その全体が引用によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
DNAは、活性酸素、紫外線および電離放射線などの作用により、各細胞周期中に何度も損傷を受ける。DNA損傷応答(DDR)は、損傷の性質に応じて様々な形態で行われる。一本鎖切断(ニック)は、ミスマッチ修復(MMR)、ヌクレオチド除去修復(NER)または塩基除去修復(BER)により修復され得る。一本鎖DNA切断が、DNA複製(細胞分裂に先行する必要がある)の前に修復されない場合、毒性の高い二本鎖DNA切断が複製過程で形成される可能性がある。細胞は、1日に約50個の二本鎖切断を蓄積すると推定され、その殆どは活性酸素種によって誘発される。二本鎖切断の修復には、主に2つの経路がある。S期後半からG2期にかけて、姉妹染色分体が存在する場合、相同組換え修復(HRR)によりエラーがない修復が行われる。姉妹染色分体が存在しない場合は、非相同末端結合(NHEJ)が、鋳型なしで直接切断末端を結合し、頻繁に遺伝情報のエラーおよび損失を引き起こす。
【0003】
酵素(例えば、BRCA1、BRCA2およびPALB2)は、エラーがない相同組換え修復(HRR)の過程による前記二本鎖DNA切断の修復にとって重要である。これらのタンパク質の変異は、がんに対する感受性を高めて、乳癌、卵巣癌および前立腺癌において最も多い。
【0004】
多くのがんは、1つ以上の各修復経路に欠陥があり、そのため、残りの機能的経路への依存度が高いことを考えると、DNA損傷応答(DDR)の阻害は、がんの治療にとって価値ある治療法としての可能性がある。遺伝毒性療法に対する耐性は、DDRシグナル伝達の増加と関連している可能性があり、前記シグナル伝達の阻害は、放射線療法および遺伝毒性療法を増強する可能性がある。
【0005】
PARP阻害剤は、DNA修復、ゲノム安定性およびプログラムされた細胞死に関与するタンパク質ファミリーであるポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)という酵素の作用を阻害する。PARPは、化学物質および放射線などによるDNAの一本鎖切断を検出し、ポリ(ADP-リボース)の合成によって修復反応を開始し、DNA鎖切断の修復に関与する酵素へのシグナルとして作用する。従って、PARP阻害剤は、二本鎖DNA切断の蓄積を引き起こし、最終的にBRCA1、BRCA2またはPALB2などの変異を持つHRR欠損細胞を死滅させる。同様に、腫瘍抑制因子PTENが欠損している細胞は、HRR成分であるRad51のダウンレギュレーションにより、PARP阻害に感受性であり得る。
【0006】
いくつかのPARP阻害剤は、癌、例えば、オラパリブ(生殖細胞系BRCA変異型進行性卵巣癌患者)、ルカパリブ(BRCA変異型卵巣癌)、ニラパリブ(上皮癌、卵管癌および原発性腹膜癌)およびタラゾパリブ(生殖細胞系BRCA変異型乳癌)の治療のために承認されている。その他のPARP阻害剤は、例えば、ベリパリブ(進行性卵巣癌、トリプルネガティブ乳癌および非小細胞肺癌)、パミパリブ、CEP-9722(非小細胞肺癌)およびE7016(メラノーマ)が臨床試験中である。
【0007】
DDR経路におけるその他の主要な標的は、ATMキナーゼおよびATRキナーゼであって、これらは細胞周期の停止を誘導し、CHK1およびCHK2などの下流の標的を通じてDNA損傷修復を促進する。ATMキナーゼおよびATRキナーゼは、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)活性を低下させるように作用し、その結果、G1-S期、S期、G2-M期の細胞周期チェックポイントにおける細胞周期進行の減退および停止をもらし、複製または有糸分裂前にDNA損傷を修復できる時間を増加させる。ATMおよびATRは、さらに、DNA修復タンパク質の転写を誘導し、翻訳後修飾によりその活性化を促進する。
【0008】
DNA修復に対する効果により、DNA損傷応答の阻害剤は、DNA損傷化学療法剤、特にDNA複製および転写中に起こるトポイソメラーゼ-1/DNA切断複合体のトラップを介してDNA鎖切断を引き起こすトポイソメラーゼ阻害剤(カンプトテシン、イリノテカン、トポテカン、SN-38、エトポシドおよび類似化合物);白金錯体(オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン)などのDNA鎖架橋剤;および放射線、ブレオマイシンおよびエネディインなどの一本鎖切断誘導剤の効果と相乗効果をもたらす可能性もある。
【0009】
一本鎖DNA損傷は、化学療法剤による治療により開始される可能性があるため、癌の治療においてPARP阻害剤と相乗的に作用することもできる。残念ながら、これらの薬剤の望ましくない毒性も相乗的であるのが一般的であるため、これらの組み合わせによる治療能力は大きく制限される。望ましくない毒性は、正常組織(すなわち、非腫瘍)において高いレベルで2つの薬剤が併存することに起因するため、腫瘍への同時曝露を提供しながらも化学療法剤およびPARP阻害剤が同時に全身曝露されない方法が必要である。この事を達成するための1つの方法は、2019年1月11日に出願された係属中のPCT特許出願PCT/US19/13314“Synergistic Cancer Treatment”に開示されている。この内容は、2019年1月11日に出願された係属中のPCT出願PCT/US19/13306“Protocol for Minimizing Toxicity of Combination Dosages and Imaging Agent for Verification”に開示されており、増強された透過性および保持(EPR)効果により腫瘍組織中に蓄積するトポイソメラーゼ阻害剤の放出可能なPEGコンジュゲートを使用する方法である。この方法においては、化学療法剤は、約10nmの流体力学的半径を有する大きなポリエチレングリコール担体に放出可能な形態でコンジュゲートされている。正常組織と比較して腫瘍組織のリンパ球排出が損なわれているため、そのようなナノ粒子コンジュゲートは、全身循環血および正常組織から排出される。一方でコンジュゲートは腫瘍組織中で捕捉された状態で、化学療法剤を放出し、腫瘍細胞に取り込まれ、DNA損傷を引き起こす。コンジュゲートが全身循環から排除されると、コンジュゲートされた化学療法剤が腫瘍に存在し、かつ正常組織には存在しない期間に、DNA損傷修復阻害剤が提供される。
【0010】
別の方法として、DNA修復阻害剤はまた、腫瘍蓄積性コンジュゲートとして提供されてもよく、それによって腫瘍組織における蓄積を増幅し、DNA損傷修復剤への正常組織の曝露を最小にすることが可能である。本発明は、そのようなDNA損傷修復に関するコンジュゲートを提供する。
【発明の詳細な説明】
【0011】
本発明は、疾患の治療における治療薬として使用するのに適したDNA損傷応答阻害剤を放出出来るコンジュゲートを提供するものである。可溶性コンジュゲートが腫瘍組織において蓄積する傾向および腫瘍内注射による不溶性コンジュゲートの腫瘍組織への直接投与の可能性を考えると、これらのコンジュゲートは、全身曝露を最小としながら腫瘍におけるDNA損傷応答阻害剤の高い局所濃度を提供するため、全身的な毒性を改善することが期待される。
【0012】
一態様において、本発明は、従って、式(I):
M-(Z*-L-D)y (I)
(式中、Mは、高分子担体であり;yは、Mに結合したリンカー-薬剤であるL-Dの数を示す数字であり;Z*は、連結基であり;Lは、放出可能なリンカーであり;および、Dは、DNA損傷応答阻害剤である)
であるDNA損傷応答に関するコンジュゲート阻害剤を提供する。いくつかの実施形態において、Mは、可溶性高分子担体であり、y=1~8である。いくつかの実施形態では、Mは、分子量が1,000~100,000ダルトンの可溶性高分子担体であり、y=1~8である。他の実施形態では、Mは、不溶性高分子担体であり、yは、Mに対するDの濃度を示す重複度である。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明は、式(I)のコンジュゲート(式中、Dは、放出可能なカルバメート基を介してリンカーLと結合した第1級または第2級アミンを含んでいる)を提供する。別の態様では、本発明は、式(I)のコンジュゲート(式中、Dは、カルバモイルメチレン基を介してリンカーLと結合したアシルヒドラゾンを含んでいる)を提供する。
【0014】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の化合物の製造方法および疾患の治療におけるその使用方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、様々なDNA損傷応答阻害剤の構造を示す。
【
図2】
図2は、Z
*がトリアゾールであるPARP阻害剤タラゾパリブ(TLZ)の放出可能なPEGコンジュゲートおよびその製造方法に関する一形態を示す。
【
図3】
図3は、Z
*がカルボキサミドであるPARP阻害剤タラゾパリブ(TLZ)の放出可能なPEGコンジュゲートおよびその製造方法に関する第二形態を示す。
【
図4】
図4は、PARP阻害剤ルカパリブの放出可能なPEGコンジュゲートおよびその製造方法に関する一形態を示す。
【
図5】
図5は、MX-1マウス異種移植に対する放出可能なPEG-タラゾパリブ(PEG-TLZ)の有効性を示す。パネルAは、放出可能なPEG-TLZ(5、10、20または30μmol TLZ/kg)の単回IP投与による治療後の腫瘍体積と、遊離TLZ(0.25または0.4μmol/kg TLZ)の毎日の経口投与による治療後の腫瘍体積を示している。また、放出不可能なPEG化TLZも示したが、これは有効ではなかった。
【
図6】
図6は、
図5に要約された実験毎の個々の腫瘍体積を示す。
【
図7】
図7は、
図5に要約された実験毎の無イベント生存率のデータを示す。
【
図8】
図8は、pH9.4(●)、pH8.4(■)、pH7.4(▲)、pH5.0(▼)およびpH1.1(◆)における放出可能なPEG-タラゾパリブコンジュゲートの安定性を示す。
【
図9】
図9Aは、放出不可能なアシル化タラゾパリブコンジュゲート(Mod=H)の安定性を示す。
図9Bは、放出可能なアシル化タラゾパリブコンジュゲート(R
1=SO
2Me)の放出速度および安定性を示す。
【
図10】
図10は、タラゾパリブ(BMN-673)の放出可能なコンジュゲート(R
7=置換アリール)を、種々の緩衝液(パネルA:pH9.0;パネルB:pH7.4)に置いた時のマンニッヒ塩基R
7-CH
2-TLZ(R
7=置換されたアリール)の形成を示す。
【
図11】
図11は、マウスにおける、放出不可能なPEG-タラゾパリブコンジュゲート(点線、白丸)および実施例11の放出可能なPEG-タラゾパリブコンジュゲート(黒丸)ならびに放出可能なコンジュゲート(三角)から放出された遊離タラゾパリブの薬物動態試験の結果を示す。
【
図12】
図12は、KT-10(パネルA、B)、MX-1(パネルC、D)、TC-71(パネルE、F)、DLD-1 BRCA2
-/-(パネルG、H)およびDLD-1 BRCA2
wt/wt(パネルI、J)マウス異種移植に対する、遊離タラゾパリブを経口投与として28日間毎日投与したものと比べて、単回投与として0日目に投与された放出可能なPEG-タラゾパリブコンジュゲートの効力を示す。
【実施態様の詳細な説明】
【0016】
本発明は、式(I):
M-(Z*-L-D)y (I)
[式中、Mは、高分子担体であり;yは、Mに結合したリンカー-薬剤L-Dの数を示す数字(例えば、1以上の複数値)であり;Z*は、連結基であり;Lは、放出可能なリンカーであり;および、Dは、DNA損傷応答阻害剤である]
であるコンジュゲート型DNA損傷応答阻害剤を提供する。いくつかの実施形態では、y=1~複数値である。いくつかの実施形態では、Mは、可溶性高分子担体であり、y=1~8である。いくつかの実施形態では、Mは、分子量1,000~100,000ダルトンの可溶性高分子担体であり、y=1~8である。別の実施形態では、Mは、不溶性高分子担体であり、yは、Mに対するDの濃度を示す重複度である。
【0017】
本発明のリンカーは、阻害剤を、放出可能な様に担体に連結させる。適切な条件下で、リンカーは、開裂して遊離の阻害剤を放出する。本発明の実施形態では、リンカー-薬剤は、式(II):
【化1】
[式中、
Zは、リンカー-薬剤と高分子担体を連結させ得る連結基であり;n=0~6であり;R
1およびR
2は、各々独立して、H、CNまたはSO
2R
5であって、ここでR
5は、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールまたはN(R
6)
2であるか、またはN(R
6)
2が、4~8員環を形成しており、ここで各R
6は、独立して、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールであり;各R
4は、独立して、HまたはC
1-C
3アルキルであるか、または一緒になって3~6員環を形成しており;Yは、存在しないか、または式:N(R
7)CH
2であって、式中のR
7は、所望により置換されていてもよいC
1-C
4アルキルまたは所望により置換されていてもよいアリールである;但し、R
1およびR
2の少なくとも1つは、H以外のものである]に示されるものであり、例えば、米国特許第8,680,315号および第8,754,190号(いずれも参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているように、非加水分解性のβ-脱離反応を介して薬剤を放出させる。いくつかの実施形態において、Zは、リンカー-薬剤を高分子担体に連結することを可能にする連結基であり;n=1~4であり;R
1およびR
2は、各々独立して、H、CNまたはSO
2R
5であって、ここでR
5は、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールまたはN(R
6)
2であるか、またはN(R
6)
2が、4~8員環を形成しており、ここで各R
6は、独立して所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリールまたは所望により置換されていてもよいヘテロアリールであり;各R
4は、独立して、HまたはC
1-C
3アルキルであるか、または一緒になって3~6員環を形成し;および、Yは、存在しないか、または式:N(R
7)CH
2であって、式中のR
7は、所望により置換されていてもよいC
1-C
4アルキルであり;但し、R
1およびR
2の少なくとも1つは、H以外のものである。
【0018】
用語「アルキル」は、1~20個、1~12個、1~8個、1~6個または1~4個の炭素原子の直鎖、分枝または環状の飽和炭化水素基を含むことが理解される。いくつかの実施形態では、アルキルは、直鎖状または分枝状である。直鎖状または分岐状のアルキル基の例としては、限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシルおよび同様のものが含まれる。いくつかの実施形態において、アルキルは、環状である。環状アルキル基の例としては、限定されないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンタジエニル、シクロヘキシルなどが挙げられる。
【0019】
用語「アルコキシ」は、酸素と結合したアルキル基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、シクロプロポキシ、シクロブトキシを含むことが理解される。
【0020】
用語「アルケニル」は、炭素-炭素の二重結合および2~20個、2~12個、2~8個、2~6個または2~4個の炭素原子を含む非芳香族不飽和炭化水素を含むことが理解される。
【0021】
用語「アルキニル」は、炭素-炭素の三重結合および2~20個、2~12個、2~8個、2~6個または2~4個の炭素原子を含む非芳香族不飽和炭化水素を含むことが理解される。
【0022】
用語「アリール」は、炭素数6~18、好ましくは炭素数6~10の芳香族炭化水素基、例えば、フェニル、ナフチルおよびアントラセニルなどの基を含むことが理解される。用語「ヘテロアリール」は、少なくとも1つのN、OまたはS原子を含む炭素数3~15、好ましくは少なくとも1つのN、OまたはS原子を含む炭素数3~7を含む芳香環、例えば、ピロリル、ピリジル、ピリミジニル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、キノリル、インドリル、インデニルなどの基を含む。
【0023】
ある実施態様では、アルケニル、アルキニル、アリールまたはヘテロアリール基は、アルキル結合を介して分子の残余部と結合されていてもよい。その場合の環境下において、該置換基は、アルケニルアルキル、アルキニルアルキル、アリールアルキルまたはヘテロアリールアルキルとして示され、該アルキレン基は、アルケニル、アルキニル、アリールまたはヘテロアリール基と、該アルケニル、該アルキニル、該アリールまたは該ヘテロアリールが結合されている分子の間に存在することを示す。
【0024】
用語「ハロゲン」または「ハロ」は、ブロモ、フルオロ、クロロおよびヨードを含むことが理解される。
【0025】
用語「複素環」または「ヘテロシクリル」は、少なくとも1つのN、OまたはS原子を含む3~15員の芳香族環または非芳香族環を意味すると理解される。例示としては、以下のものに限定されないが、ピペリジニル、ピペラジニル、テトラヒドロピラニル、ピロリジンおよびテトラヒドロフラニルが挙げられ、また上記の用語「ヘテロアリール」として示された例示の基が挙げられる。いくつかの実施形態において、複素環またはヘテロシクリルは、非芳香族である。いくつかの実施形態では、ヘテロ環またはヘテロシクリルは、芳香族である。
【0026】
「所望により置換されていてもよい」とは、別段の指定がない限り、その基は、非置換であってもよく、または1つ以上(例えば、1、2、3、4または5)の同一または相違であり得る置換基で置換されていてもよいことを意味することが理解される。置換基の例としては、以下のものに限定されないが、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、-CN、-ORaa、-SRaa、-NRaaRbb、-NO2、-C=NH(ORaa)、C(O)Raa、-OC(O)Raa、-C(O)ORaa、-C(O)NRaaRbb、-OC(O)NRaaRbb、-NRaaC(O)Rbb、-NRaaC(O)ORbb、-S(O)Raa、-S(O)2Raa、-NRaaS(O)Rbb、-C(O)NRaaS(O)Rbb、NRaaS(O)2Rbb、-C(O)NRaaS(O)2Rbb、-S(O)NRaaRbb、-S(O)2NRaaRbb、-P(O)(ORaa)(ORbb)、ヘテロシクリル、ヘテロアリールまたはアリールが挙げられ、ここで該アルキル、該アルケニル、該アルキニル、該シクロアルキル、該へテロシクリル、該ヘテロアリールおよび該アリールは、各々独立して、Rccで所望により置換されていてもよく、ここで、
RaaおよびRbbは、各々独立して、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロシクリル、ヘテロアリールまたはアリールであるか、あるいは
RaaおよびRbbは、それらが結合する窒素原子と一緒になって、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシまたは-CNによって所望により置換されていてもよいヘテロシクリルを形成しており、
各Rccは、独立して、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、アリール、-CNまたは-NO2である。
【0027】
本明細書における使用のために、別段の指示が明確にない限り、用語「a」、「an」等の使用は、1つまたは複数を意味する。
【0028】
脱離速度は、基R1およびR2によって主に制御され、そのうちの少なくとも1つは、CN、C1-C6アルキルスルホン、アリールスルホンまたはヘテロアリールスルホンまたはスルホンアミドなどの電子吸引基であり、これら各々は所望により置換されていてもよい。適切な電子吸引基の説明は、米国特許第8,680,315号および第8,754,190号に見出し得る。いくつかの実施形態において、R1およびR2の少なくとも1つは、-CN、-SO2N(CH3)2、-SO2CH3、-SO2Ph、-SO2PhCl、-SO2N(CH2CH2)2O、-SO2CH(CH3)2、-SO2N(CH3)(CH2CH3)または-SO2N(CH2CH2OCH3)2である。いくつかの実施形態では、R1およびR2のうちの一方は、SO2R5であり、他方はHである。いくつかの実施形態では、R1およびR2のうちの一方は、-SO2CH3であり、他方はHである。特定の実施態様において、R1およびR2は、pH7.4、37℃で、100~1000時間の間にDの放出半減期を提供するように選択される。基R4は、Hまたは所望により置換されていてもよいC1-C3アルキルであってもよいか、または両方のR4が、一緒になって、3~6員環を形成してもよい。いくつかの実施形態では、各R4は、独立して、HまたはC1-C3アルキルである。いくつかの実施形態では、各R4は、独立して、Hまたはメチルである。いくつかの実施形態では、R4は、Hである。Zは、同族体基Z'との反応により、リンカーを高分子担体Mに連結することを可能にする官能基である。Zの典型的な例には、ハロゲン、アジド、アルケン、アルキン、チオール、マレイミド、カルボニル、カルボン酸、アミンおよびアミノオキシ基が挙げられ、Z'が以下に記載された基の場合、M-Z*-Lの連結をもたらし、ここでXは、エーテル、チオエーテル、1,2,3-トリアゾール、オキシムまたはカルボン酸アミド(カルボキサミド)である。
【0029】
いくつかの実施形態において、Yは存在しないか、またはN(R7)CH2である。いくつかの実施形態では、Yは存在しない。いくつかの実施形態では、YはN(R7)CH2である。いくつかの実施形態では、R7は所望により置換されていてもよいC1-C6アルキルである。いくつかの実施形態では、R7は、C1-C6アルコキシまたは-OHで所望により置換されていてもよいC1-C6アルキルである。いくつかの実施形態では、R7は、-CH2CH2OCH3または-CH3である。いくつかの実施形態では、R7は、所望により置換されていてもよいアリールである。いくつかの実施形態では、R7は、所望により置換されていてもよいフェニルである。いくつかの実施形態では、R7は、-C(O)NRaaRbbによって所望により置換されていてもよいフェニルである。
【0030】
DNA損傷応答阻害剤とは、DNA鎖切断が修復される1つまたは複数のプロセスを妨害する化合物を意味する。一般的なDNA損傷応答阻害剤は、PARP、ATRまたはATMのようなDNA修復酵素の活性を阻害する。
【0031】
本発明において有用なDNA損傷応答阻害剤は、一般的に、2つの構造クラスに分類される。一実施形態では、阻害剤は、塩基性アミン基を含んでおり、これにより薬剤が、カルバメート基を介するリンカーLとの結合によってコンジュゲートされる。これらの阻害剤は、例として、ベリパリブ、ニラパリブ、ルカパリブおよびベルゾセルチブ(VX-970、VE-822)である。このような阻害剤は、Yが存在せず、かつDが塩基性窒素を介して結合している式のリンカー-薬剤をもたらす。
【0032】
別の実施形態では、DNA損傷応答阻害剤は、塩基性アミン基を含んでおらず、むしろアシルヒドラゾンを含んでおり、フタラゾン(または、フタラジン-1(2H)-オン)または関連する多環式2,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピリド[4,3,2-de]フタラジン-3-オンの形態で存在することが多い。これらの阻害剤は、米国特許第8,754,190号に開示されているものと同様のN-(クロロメチル)カルバメートを用いてアシルヒドラゾンのNHをアルキル化して、連結基Y=N(R8)CH2を提供することにより、コンジュゲートさせることができる。これらの阻害剤の例には、タラゾパリブ(TLZ、BMN673)、オラパリブ、ベリパリブ、CEP-9722およびE7016が挙げられる。このような阻害剤は、Yが、式N(R7)CH2である、式(II)のリンカー-薬剤を提供する。いくつかの実施形態では、Yは、式N(R7)CH2であり、Dは、Dの非塩基性窒素原子へのアルキル結合を介してリンカーLに連結される。米国特許第8,754,190号のチオールおよびフェノールコンジュゲートとは対照的に、典型的なフタラゾンのpKaは12であり、β脱離から生じる中間体のマンニッヒ塩基Y-Dの分解速度を適切にするために、R8=Hまたは所望により置換されていてもよいC1-C4アルキルが必要とされる。これらのリンカー-薬剤は、薬剤および強塩基(例えば、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、またはナトリウム、リチウムまたはカリウムHMDSなどの金属ヘキサメチルジシラジド)の反応によって形成される薬剤のアニオン形態と、(N-クロロメチル)-カルバメートとの反応によって以下の実施例に記載される通りに製造され得る。非アルキル化グアニジン塩基として、例えば7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(MTBD)を使用することもできる。N-(クロロメチル)カルバメートは、リンカークロロホルメートと所望により置換されていてもよいアミンR7-NH2との反応によって形成されるリンカー-カルバメートを用いて、米国特許第8,754,190号に記載されている方法と同様に製造することができる。
【0033】
特定の実施形態では、DNA損傷応答阻害剤は、塩基性窒素基および非塩基性窒素基の両方を含んでおり、この場合、得られる最終的なリンカー-薬剤は、生成物を形成するために使用される反応条件によって決まる。例えば、タラゾパリブは、塩基性および非塩基性窒素の両方を含んでいる。タラゾパリブを、リンカークロロホルメートを用いてアシル化して、Yが存在しない式(II)のリンカー-薬剤を提供することは可能であるが、これらのアシル化タラゾパリブのコンジュゲートは、加水分解を受けやすいことが判明した。そのため、アシルヒドラゾンを含んでいるDDRの阻害剤としては、Y=N(R7)CH2である式(II)の化合物が好ましい。
【0034】
一実施形態では、式(II)のリンカー-薬剤は、可溶性高分子担体Mと連結させて、コンジュゲートを提供する。Mの好適な例は、合成ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)および天然ポリマー(例えば、デキストラン、ヒアルロン酸ならびにランダム配列タンパク質および抗体などのタンパク質)である。Mの1つの機能としては、発達が不完全なリンパドレナージュに基づくEPR(enhanced permeability and retention)効果により、コンジュゲートされた薬剤の蓄積を腫瘍組織中に誘導して、急速に増殖している腫瘍組織中にナノ粒子を取り込ませることである。このメカニズムにより、抗腫瘍薬を腫瘍組織に重点的に送達して、非腫瘍組織への薬物曝露を最小にすることが可能となり、望ましくない毒性を改善することができる。PCT出願番号PCT/US2019/13306;PCT国際公開番号WO2019/140271において実証されているように、5~50nmの流体力学的半径のコンジュゲートが、特に有効であると予想され、平均分子量約40,000ダルトンの複数のアームを持ったポリエチレングリコールを用いて製造したコンジュゲートが、腫瘍組織おける高い蓄積および寿命を示した。特定の実施形態において、Mは、5~50nmの流体力学的半径を有し、平均分子量が20,000~60,000ダルトンのポリエチレングリコールである。ある実施形態では、y=1~4である。最も好ましくは、Mは、4~8本のアーム(y=4~8)を持ち、かつ約40,000ダルトンの平均分子量を有する複数アーム型ポリエチレングリコールである。いくつかの実施形態において、Mは、平均分子量が1,000~100,000ダルトンのポリエチレングリコールである。いくつかの実施形態において、Mは、5~50nmの流体力学的半径を有する。高分子のポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、デキストラン、ヒアルロン酸などは、通常、多分散性であることが理解される;それらは、存在するモノマー単位数の範囲に起因して、平均分子量について分子量範囲を有するタイプの混合物を含んでいる。モノマー含量(従って、分子量)におけるこのような多分散性は、通常、約±15%、10%または5%であり、本発明で使用するためのポリマーの実用性に影響を与えない。したがって、平均分子量40,000のポリエチレングリコールが特定された場合、これは、900±100のエチレンオキシド単位を有する個々のポリマーを含む約40,000±5,000ダルトンの多分散系ポリマーを示すものである。
図2および
図3では、各アームが、z個のエチレンオキシドモノマー単位を含む4本アーム型ポリマーを示しており、ポリマーの平均分子量が約40,000ダルトンの場合、zは227±25である。
【0035】
別の実施形態では、式(II)のリンカー-薬剤は、非循環型コンジュゲートを提供するために不溶性担体Mと結合される。不溶性Mの好適な例としては、バルク材料として、またはミクロスフェアなどの微粒子懸濁液としてのハイドロゲルデポーが挙げられる。この実施形態では、Mが、極めて高い分子量の架橋ポリマーである場合、yは、不溶性のMマトリックスに結合したリンカー-薬剤の濃度を記述する重複度である。例えば、Mが、4本アーム型ポリマーを架橋して形成される場合、1、2、3または4つのリンカー-薬剤を、各ポリマー-ポリマー単位に結合させることができる。したがって、リンカー-薬剤とMを適切な比率で反応させることにより、所望の重複度を達成することができる。このようにして、Mに対して適切な薬剤濃度を達成することができる。さらに、Mにおけるポリマー-ポリマー単位の密度は、ポリマーの分子量を選択することによって変更され得る:例えば、平均分子量20kDaを有する架橋した4本アーム型PEGからなるハイドロゲルは、ハイドロゲル1ml当たり最大5μmolの薬剤を結合させることができ、一方で、10kDaPEGからなるハイドロゲルは、ハイドロゲル1ml当たり最大10μmolの薬剤を結合させることができる。典型的な値は、ハイドロゲルMの1ml当たりの結合したリンカー-薬剤が、0.1~50μmol、好ましくは0.1~10μmolである。この実施形態において、Mは、好ましくは、Dが放出された後に不溶性担体を排出することができる分解可能な架橋を含んでいる。このようなハイドロゲル材料および該材料とリンカー-薬剤を結合するための方法の例示は、例えば、米国特許第9,649,385号に見出すことができる。
【0036】
Mは、リンカーの薬剤上の基Zと、M上の同族体基Z'との反応により形成された官能基Z*を介してリンカー-薬剤に連結される。Z/Z'の典型的な例は、一方がアジドであり、他方がアルキンまたはシクロオクチンである場合、Z*=1,2,3-トリアゾールを提供する;一方がアミンであり、他方がカルボン酸または活性エステルである場合、Z*=カルボキサミドを提供する;一方がクロロホルメートまたは活性化カーボネートであり、他方がアミンである場合、Z*=カルバメートを提供する;一方がアルコールであり、他方がイソシアネートである場合、Z*=カルバメートを提供する;一方がイソシアネートであり、他方がアミンである場合、Z*=尿素を提供する;一方がケトンまたはアルデヒドであり、他方がアミノオキシである場合、Z*=オキシムを提供する;および、一方がチオールであり、他方がマレイミドまたはハロカルボニルである場合、Z*=チオエーテルを提供する。特定の実施形態において、Z*は、アジドとシクロオクチン(例えば、アザジベンゾシクロオクチン(DBCO)、ビシクロ[6.1.0]ノン4-イン(BCN)または5-ヒドロキシシクロオクチン(5HCO))との環化付加により得られるトリアゾールである。いくつかの実施形態では、DNA損傷応答のコンジュゲート阻害剤(例えば、式(III)のコンジュゲート)の製造方法が提供され、この方法は、式(II)のリンカー-薬剤を、連結基Z*が形成されるような条件下で、官能基Zと反応することができる同族体基Z'を含む活性高分子担体に接触させて、適宜コンジュゲートを単離する工程を特徴とする。
【0037】
いくつかの実施形態において、式(I)のコンジュゲートは、式(III):
【化2】
[式中、M、Z
*、D、n、R
1、R
2、R
4、Yおよびyは、式(I)または(II)に関して本明細書に開示される通りである]のコンジュゲートである。いくつかの実施形態では、Z
*は連結基であり;n=0~6であり;R
1およびR
2は、各々独立して、H、CNまたはSO
2R
5であって、ここでR
5は、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールまたはN(R
6)
2であるか、またはN(R
6)
2は4~8員環を形成しており、ここで各R
6は、独立して、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールである;各R
4は、独立して、HまたはC
1-C
3アルキルであるか、または一緒になって3~6員環を形成しており;および、Yは存在しないか、または式N(R
7)CH
2であって、式中のR
7は所望により置換されていてもよいC
1-C
4アルキルまたは所望により置換されていてもよいアリールである;但し、R
1およびR
2の少なくとも1つは、H以外のものである。いくつかの実施形態では、nは1~4であり、R
7は所望により置換されていてもよいC
1-C
4アルキルである。
【0038】
いくつかの実施形態において、式(I)のコンジュゲートは、式(IV):
【化3】
[式中、M、Z
*、n、R
1、R
2、R
4、R
7およびyは、式(I)または(II)に関して本明細書に開示されるとおりである]のコンジュゲートである。いくつかの実施形態において、Mは、40kDaの4本アーム型PEGである。いくつかの実施形態では、nは4である。いくつかの実施形態では、Z
*は、カルボキサミド、カルバメート、オキシム、チオエーテルまたはトリアゾールである。いくつかの実施形態では、yは4である。いくつかの実施形態では、Mは40kDaの4本アーム型PEGであり;nは4であり;Z
*は、カルボキサミド、カルバメート、オキシム、チオエーテルまたはトリアゾールであり;および、yは4である。いくつかの実施形態では、Mは40kDaの4本アーム型PEGであり;nは1であり;各R
4はアルキルであり;R
7は所望により置換されていてもよいアルキルであり;Z
*は、カルボキサミド、カルバメート、オキシム、チオエーテルまたはトリアゾールであり;および、yは4である。
【0039】
いくつかの実施形態において、式(I)のコンジュゲートは、式(V):
【化4】
[式中、M、Z
*、n、R
1、R
2、R
4およびyは、式(I)または(II)に関して本明細書に開示されるとおりである]のコンジュゲートである。いくつかの実施形態において、Mは、40kDaの4本アーム型PEGである。いくつかの実施形態では、nは4である。いくつかの実施形態では、Z
*は、カルボキサミド、カルバメート、オキシム、チオエーテルまたはトリアゾールである。いくつかの実施形態では、yは4である。いくつかの実施形態では、Mは40kDaの4本アーム型PEGであり;nは4であり;Z
*は、カルボキサミド、カルバメート、オキシム、チオエーテルまたはトリアゾールであり;および、yは4である。いくつかの実施形態では、Mは、40kDaの4本アーム型PEGであり;nは1であり;各R
4はアルキルであり;R
7は、所望により置換されていてもよいアルキルであり;Z
*は、カルボキサミド、カルバメート、オキシム、チオエーテルまたはトリアゾールであり;および、yは4である。
【0040】
本明細書の記載において、ある部分のあらゆる記載、変形、実施形態または態様は、その他の部分のあらゆる記載、変形、実施形態または態様と組み合わされてもよく、また各々記載された組み合わせは、具体的かつ個別に記載されている内容と同じように理解される。例えば、式(I)のMに関して、本明細書で提供されるあらゆる説明、変形、実施形態または態様は、Z*、L、Dおよびyのあらゆる説明、変形、実施形態または態様と、各々および全ての組み合わせが具体的かつ個別に列挙されているかのように組み合わせることができる。また、該当する場合、式(I)、(II)、(III)または(IV)のような任意の式のすべての記載、変形、実施形態または態様は、本明細書に詳述するその他の式にも同様に適用され、すべての式について、各々およびすべての記載、変形、実施形態または態様が、単独で、また個別に記載されているかのように記載されていると理解される。例えば、式(II)の全ての記載、変形、実施形態または態様は、適用可能な場合、本明細書に詳述される式(I)、(III)および(IV)のような式のいずれにも等しく適用され、各々および全ての記載、変形、実施形態または態様が、全ての式について単独および別個に記載されているかのように記載されている。
【0041】
本発明のコンジュゲートは、当技術分野において既知の標準的な方法を用いて製剤化することができる。最適な安定性は、通常、pH3~6、好ましくはpH4~5の製剤において観察される。製剤用緩衝液は、所望により、浸透圧、イオン強度、無菌性および安定性を管理するために、当技術分野において公知の賦形剤を含んでいてもよい。製剤は、注射用の水溶液として、または溶解用の凍結乾燥物として提供されてもよい。
【0042】
本発明のコンジュゲートは、そのような治療を必要とするヒトまたは動物のいずれかの対象において様々な疾患または症状を治療するために使用することができる。いくつかの実施形態では、疾患が癌である。いくつかの実施形態では、疾患は、乳癌、卵巣癌または膵臓癌である。
【0043】
遺伝子変異によりDNA損傷応答における欠陥を起こさせるがんの治療におけるPARP阻害の有用性、即ち「合成致死」と呼ばれる概念は、十分に確立されている(例えば、Nijman, FEBS Letts 2011 Jan 3; 585(1):1-6およびその引用文献を参照)。遺伝子変異の主要な例は、BRCA1、BRCA2およびPTEN遺伝子の変異であり、DNA損傷修復にとってPARPに対する前記変異細胞の依存度が高いことから、PARP阻害剤による治療について高感受性となることが判っている。PARP阻害剤は、そのような変異遺伝子の背景における乳癌、卵巣癌および膵臓癌の治療において、特に成功を収めている(Zhu et al., Mol Cancer 19, 49(2020);https://doi.org/10.1186/s12943-020-01167-9)。本発明のコンジュゲートは、PARP阻害剤の長期的な放出および曝露を提供するため、DNA損傷応答においてこのような遺伝子欠損を有する癌の治療にも有効であると期待される。
【0044】
PARP阻害剤は、他の薬剤と組み合わせて使用した場合にも有効であることが判っている。併用薬剤の非限定的な例としては、DNA損傷剤、例えばカンプトテシン類(例えば、イリノテカン、エキサテカン、SN-38)およびそのコンジュゲート(例えば、米国特許第7,462,627号;同第7,744,861号;同第8,906,353号;同第9,855,261号;同第10,653,689号;同第10,016,411号;および同第10,729,782号ならびにPCT公開公報WO2015/155976に記載のようなもの);テモゾロマイドおよびその他のアルキル化剤;免疫療法剤(例えば、デュルバルマブ、ペムブロリズマブおよびイボルマブ);キナーゼ阻害剤(例えば、イパタセルチブ、ベルゾセルチブ、ダクトリシブ、AZD6738、VE-821およびVE-822などのATM、ATRおよびAKT阻害剤);血管新生剤(例えば、セジラニブ);アンドロゲン受容体リガンド(例えば、エンザルタミドおよびアビラテロン);および放射線療法などである。例えば、C. Pezaro, Ther Adv Med Oncol. 2020; 12: 1758835919897537を参照されたい。遺伝子変異がない場合、PARP阻害剤は、エピジェネティック修飾剤(例えば、ジヌクレオシド代謝拮抗薬グアデシタビンなどのDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤)との併用が有効であることがわかっている(Pulliam et al., Clin Cancer Res. 2018; 24(13):3163-75)。本発明のコンジュゲートが、前記薬剤と組み合わせて、がんの治療において有用性を見出すことが同様に期待される。
【0045】
PARP阻害剤は、PARPの過剰な活性化により、パータナトス(Parthanatos)と呼ばれる特定形態のプログラム細胞死が生じる場合の様々な神経変性疾患に対して活性を示す(Wang et al., Sci Signal. 2011 Apr 5; 4(167):ra20)。神経変性疾患(例えば、網膜色素変性症(Sahaboglu et al., Sci. Rep. 2016;6:39537)、緑内障性網膜症および視神経網膜症(米国特許第6,444,676号)、アルツハイマー病(Gao et al., J. Enzyme Inhibition and Med Chem 2019, 34:1, 150-162))においてPARP阻害剤の活性を挙げることができる。
【0046】
コンジュゲートの投与は、あらゆる経路(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、頭蓋内および眼窩内)によるものであってよい。
【0047】
以下に、代表的な特定の実施形態を示す:
実施形態1.式:
M-(Z
*-L-D)y
[式中、
Mは、可溶性高分子担体であり;
y=1~8であり;
Z
*は、連結基であり;
Lは、放出可能なリンカーであり;および
Dは、DNA損傷応答阻害剤である]
である、コンジュゲート。
実施形態2.Dが、PARP阻害剤、ATM阻害剤またはATR阻害剤である、実施形態1に記載のコンジュゲート。
実施形態3.式:
【化5】
[式中、Z
*は連結基であり;n=1~4であり;R
1およびR
2は、各々独立して、H、CNまたはSO
2R
5であって、ここでR
5は、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールまたはN(R
6)
2であるか、またはN(R
6)
2が4~8個の原子で環を形成しており、ここで各R
6は、独立して、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールである;各R
4は、独立して、HまたはC
1-C
3アルキルであるか、または一緒になって3~6員環を形成し;および、Yは、存在しないか、または式N(R
7)CH
2であって、式中のR
7は、所望により置換されていてもよいC
1-C
4アルキルである;但し、R
1およびR
2の少なくとも1つは、H以外である]
である、実施形態1に記載のコンジュゲート。
実施形態4.Yは、存在せず、Dは、Dの第1級または第2級アミン窒素原子とのカルバメート結合を介してリンカーLに連結される、実施形態3に記載のコンジュゲート。
実施形態5.Dは、ルカパリブ、ベリパリブ、ニラパリブまたはベルゾセルチブである、実施形態4に記載のコンジュゲート。
実施形態6.Yは、式N(R
7)CH
2であって、Dは、Dの非塩基性窒素原子とのアルキル結合を介してリンカーLに連結される、実施形態3に記載のコンジュゲート。
実施形態7.Dは、タラゾパリブ、オラパリブ、タミパリブ、E7016またはCEP-9722である、実施形態6に記載のコンジュゲート
実施形態8.Mは、分子量1000~100,000のPEGであって、y=1~8である、実施形態1に記載のコンジュゲート。
実施形態9.Mの流体力学的半径が、5~50nmを有する、実施形態1に記載のコンジュゲート。
実施形態10.Z
*が、カルボキサミド、カルバメート、尿素、オキシム、チオエーテルまたは1,2,3-トリアゾールである、実施形態1に記載のコンジュゲート。
実施形態11.R
1およびR
2が、pH7.4、37℃において、Dの放出半減期が100~1000時間となるように選択される、実施形態1に記載のコンジュゲート。
実施形態12.式:
【化6】
[式中、Mは、高分子担体であり;n=1~4であり;Z
*は、連結基であり;R
1およびR
2は、各々独立して、H、CNまたはSO
2R
5であって、ここでR
5は、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールまたはN(R
6)
2であるか、またはN(R
6)
2は4~8員環を形成しており、ここで各R
6は、独立して、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールであり;各R
4は、独立して、HまたはC
1-C
3アルキルであるか、または一緒になって3~6員環を形成しており;R
7は、所望により置換されていてもよいC
1-C
3アルキルであり;および、y=1~複数である;但し、R
1およびR
2の少なくとも1つは、H以外のものである]
である、実施形態1に記載のコンジュゲート。
実施形態13.Mが、40kDaの4本アーム型PEGであって、y=4である、実施形態12に記載のコンジュゲート。
実施形態14.Mが、40kDaの4本アーム型PEGであり;n=4であり;Z
*がカルボキサミド、カルバメート、オキシム、チオエーテルまたはトリアゾールであり;および、y=4である、実施形態12に記載のコンジュゲート。
実施形態15.式:
【化7】
[式中、Mは、高分子担体であり;n=1~4であり;Z
*は、連結基であり;R
1およびR
2は、各々独立して、H、CNまたはSO
2R
5であって、ここでR
5は、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールまたはN(R
6)
2であるか、またはN(R
6)
2は4~8員環を形成しており、ここで各R
6は、独立して、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールである;各R
4は、独立して、HまたはC
1-C
3アルキルであるか、または一緒になって3~6員環を形成し;および、y=1~複数であり;但し、R
1およびR
2の少なくとも1つはH以外である]
である、実施形態1に記載のコンジュゲート。
実施形態16.Mが、40kDaの4本アーム型PEGであり;y=4であり;Z
*が、カルボキサミド、カルバメート、オキシム、チオエーテルまたはトリアゾールであり;および、y=4である、実施形態15に記載のコンジュゲート。
実施形態17.式:
【化8】
[式中、Zは、連結基であり;n=1~4であり;R
1およびR
2は、各々独立して、H、CNまたはSO
2R
5であって、ここでR
5は、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールまたはN(R
6)
2であるか、またはN(R
6)
2は、4~8員環を形成しており、ここで各R
6は、独立して、所望により置換されていてもよいC
1-C
6アルキル、所望により置換されていてもよいアリール、所望により置換されていてもよいヘテロアリールであり;各R
4は、独立して、HまたはC
1-C
3アルキルであるか、または一緒になって3~6員環を形成し;および、Yは、存在しないか、または式:N(R
7)CH
2であって、式中のR
7は、所望により置換されていてもよいC
1-C
4アルキルであり;および、Dは、DNA損傷応答の阻害剤であり;但し、R
1およびR
2の少なくとも1つは、H以外のものである]
のリンカー-薬剤。
【0048】
以下の実施例は、本発明を例示するが、本発明を限定するものではない。
製造例A
リンカーのアルコール類、クロロホルメート類およびスクシンイミジルカーボネート類の合成
特定のリンカーアルコール類、クロロホルメート類およびスクシンイミジルカーボネート類の合成は、例えば、米国特許第8,680,315号および第8,754,190号、ならびにSanti et al.(2012) Proc Natl Acad Sci USA 109:6211-6において、以前に説明されている。追加のリンカーは、以下の方法に従って製造した。
【化9】
(1)4-アジド-1-シアノ-3,3-ジメチル-2-ブタノール(n=1、R
1
=CN、R
2
=H、R
4
=CH
3
、Z=N
3
)
【0049】
3-アジド-2,2-ジメチルプロピオン酸メチル(Kim, Synthetic Communicationsに従って製造;300mg,1.9mmol)およびアセトニトリル(0.365mL, 7.0mmol)/THF(7mL)の溶液に、-30℃で、1M カリウムtert-ブトキシド/THF (3.5mL, 3.5mmol)の溶液を加えた。この混合物を、-30℃で30分間撹拌した後、1時間かけて周囲温度まで昇温させ、さらに30分間撹拌した。混合物を、氷上で冷却し、6N HCl(0.62mL, 3.7mmol)を加えてクエンチし、EtOAcおよび水の間に分配した。水相を、EtOAcで2回抽出し、有機相を合わせて、ブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させて、濾過して濃縮し、粗ケトンを得た。
【0050】
メタノール(7mL)中の粗ケトン(300mg,約1.75mmol)溶液に、水素化ホウ素ナトリウム(33mg,0.88mmol)を添加した。混合物を、15分間撹拌し、6N HCl(0.7mL)を加えてクエンチし、EtOAcおよび水の間に分配した。水相をEtOAcで2回抽出し、有機相を合わせて、ブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥し、濾過して濃縮し、粗アルコールを得た。SiO2(20~40% EtOAc/ヘキサン)上で精製して、4-アジド-1-シアノ-3,3-ジメチル-2-ブタノール(142mg,0.85mmol)を得た。
1H-NMR (CDCl3, 300 MHz) d 3.83-3.92 (m,1H), 3.43 (d, J=12.1 Hz,1H), 3.21 (d, J=12.1 Hz, 1H), 2.41-2.62 (m,3H), 0.97 (s,3H), and 0.96 (s,3H).
【0051】
(2)4-アジド-1-シアノ-3,3-ジメチル-2-ブチル クロロホルメート(n=1、R
1
=CN、R
2
=H、R
4
=CH
3
、Z=N
3
)
氷上で冷却したTHF(8mL)中の4-アジド-1-シアノ-3,3-ジメチル-2-ブタノール(142mg,0.85mmol)およびトリホスゲン(425mg,1.44mmol)の溶液に、ピリジン(136uL, 1.7mmol)を滴加した。得られた懸濁液を、周囲温度にまで昇温させて、15分間撹拌した後、濾過して濃縮し、クロロホルメートを得た。
【0052】
(3)4-アジド-1-シアノ-3,3-ジメチル-2-ブチルスクシンイミジルカーボネート(n=1、R
1
=CN、R
2
=H、R
4
=CH
3
、Z=N
3
)
上記から得たクロロホルメートを、THF(8mL)に溶解し、氷上で冷却し、N-ヒドロキシスクシンイミド(291mg,2.5mmol)およびピリジン(204uL, 2.53mmol)で処理した。得られた懸濁液を、周囲温度に昇温し、15分間撹拌した後、EtOAcおよび5%KHSO4間に分配した。水相を、EtOAcで2回抽出し、有機相を合わせて、ブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥し、濾過して濃縮し、粗スクシンイミジルカーボネートを得た。SiO2(20~40% EtOAc/ヘキサン)上での精製により、4-アジド-1-シアノ-3,3-ジメチル-2-ブチルスクシンイミジルカーボネート(174mg,0.56mmol)を得た。1H-NMR (CDCl3, 300 MHz) d 5.03 (dd,J=7.0,5.1,1H), 3.27-3.41 (m,6H), 3.43 (d, J=12.1 Hz,1H), 3.21 (d, J=12.1 Hz, 1H), 2.41-2.62 (m,3H), 0.97 (s,3H), and 0.96 (s,3H).
【0053】
リンカー(n=2~6)は、対応する同族体ハロエステルから順に製造される
5-アジド-1-シアノ-3,3-ジメチル-2-ペンチルスクシンイミジルカーボネート(n=2、R
1
=CN、R
2
=H、R
4
=CH
3
、Z=N
3
)
(a) エチル4-クロロ-2,2-ジメチルブタノエート
スターラーバー、ゴム製セプタム、窒素導入口および熱電対プローブを備えた、ヒートガンで乾燥させた500mL丸底フラスコに、iPr2NH(5.30mL, 37.4mmol, 1.1等量, 終濃度0.27M)およびTHF(100mL)を入れた。内部温度が+10℃を超えない速度にて、シリンジを介してnBuLi(ヘキサン中で1.28M, 27.8mL, 35.7mmol, 1.05等量, 終濃度0.26M)の溶液を滴加しながら、反応混合物を0℃で冷却した(~10分)。反応混合物を、0℃で15分間撹拌し、-78℃に冷却し、THF(5mL)中のイソ酪酸エチル(4.6mL, 4.0g, 34mmol, 1.0等量, 終濃度0.24M)の溶液を、シリンジを介して内部温度が-65℃(~5分間)を超えない速度で滴加した。反応混合物を-78℃で45分間撹拌した後、1-ブロモ-2-クロロエタン(2.8mL, 34mmol, 1.0等量, 終濃度0.24M)/THF(5mL)の溶液を、内部温度が-68℃を超えない速度で滴加した。反応混合物を、-78℃で15分間撹拌し、0℃に昇温させて、0℃で15分間撹拌した。反応混合物を、EtOAc(100mL)および5%KHSO4(100mL)で希釈した。水相を分離し、EtOAc(3x50mL)で抽出した。水相を分離し、EtOAc(3x50mL)で抽出した。有機相を合わせて、ブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥し、濾過し、トルエン(10mLx2)から濃縮して、所望の塩化物[4.85g(27mmol, 79%)]を淡黄色油状物として得た。
1H NMR (CDCl3, 300 MHz) δ 4.14 (q, J=7.2 Hz, 2 H), 3.43 - 3.57 (m, 2 H), 1.94 - 2.19 (m, 2 H), 1.27 (t, J=7.1 Hz, 3 H), 1.22 (s, 6 H)
【0054】
(b)エチル4-アジド-2,2-ジメチルブタノエート
【化10】
スターラーバー、ゴム製セプタム、窒素導入口を備えた、100mL丸底フラスコに、4-クロロ-2,2-ジメチルブタン酸エチル(2-1)(4.85g, 27mmol, 1.0等量, 終濃度0.54M)、DMSO(50mL)およびアジ化ナトリウム(2.28g, 35mmol, 1.3等量, 0.70M)を入れた。反応混合物を、70℃で18時間ブラストシールドの後ろで撹拌した。反応混合物を、周囲温度まで冷却し、EtOAc(200mL)およびH
2O(100mL)で希釈した。有機相を分離し、H
2O(3×100mL)およびブライン(100mL)で洗浄し、MgSO
4上で乾燥し、濾過して濃縮した。カラムクロマトグラフィー(40gシリカゲルカートリッジ;段階的なグラジエント溶出:0%、5%、10%、20% EtOAc/ヘキサン)により精製し、目的のアジド[4.33g(23.3mmol, 87%)]を、淡黄色油状物として得た。
1H NMR (CDCl3, 300 MHz) δ 4.15 (q, J=7.1 Hz, 2 H), 3.22 - 3.35 (m, 2 H), 1.81 - 1.96 (m, 2 H), 1.27 (t, J=7.2 Hz, 3 H), 1.15 - 1.24 (m, 6 H)
【0055】
(c)5-アジド-1-(メチルスルホニル)-3,3-ジメチル-2-ペンタノン
【化11】
スターラーバー、3つのゴム製セプタム、熱電対プローブおよび窒素導入口を備えた500mLの3つ首丸底フラスコに、ジメチルスルホン(5.59g, 59.4mmol, 2.2等量, 終濃度0.42M)およびTHF(100mL)を入れた。混合物を周囲温度で15分間撹拌し、0℃で冷却しながら、n-BuLi(42mL, 54mmol, 2.0等量, 終濃度0.39M)の溶液を、内部温度が+5℃を超えない速度で滴加した(添加には約10分間を要した)。反応混合物を0℃で15分間撹拌した後、-78℃で冷却し、エステル(5.0g, 27.0mmol, 1.0等量, 終濃度0.19M)/THF(10mL)の溶液を、内部温度が-70℃(添加には約5分間を要した)を超えない速度でカニューレを介して滴加した。反応混合物を-78℃で10分間攪拌し、0℃に昇温させて(浴を取り外して)、0℃で30分間攪拌した。反応の進行をTLCで分析して、出発物質よりも極性が高い生成物への変換が示された。反応混合物を0℃で冷却しながら、1M HClを加え、反応混合物をH
2O(100mL)およびEtOAc(200mL)でさらに希釈した。水相を分離し、EtOAc(3x100mL)で抽出した。有機相を合わせて、ブラインで洗浄し、MgSO
4上で乾燥させ、濾過して濃縮し、黄色の油状物を得た。カラムクロマトグラフィー(120g シリカゲルカートリッジ;段階的グラジエント溶出30%, 40%, 50% EtOAc/ヘキサン)による精製により、所望の生成物[3.49g(15.0mmol, 55%収率)]を、白色の固体として得た。
【0056】
(d)5-アジド-1-(メチルスルホニル)-3,3-ジメチル-2-ペンタノール
【化12】
ゴム製セプタム、スターラーバーおよび窒素導入口を備えた200mLの収集フラスコに、5-アジド-1-(メチルスルホニル)-3,3-ジメチル-2-ペンタノン(3.44g, 14.8mmol, 1.0等量, 終濃度0.25M)およびメタノール(60mL)を入れた。溶液を、0℃で冷却しながら、NaBH
4(279mg,7.37mmol, 0.5等量, 終濃度0.12M)を、固体として少量ずつ加えた。反応混合物を、0℃で30分間撹拌した。反応混合物を、酢酸エチル(EtOAc)(100mL)、5%KHSO
4(100mL)および水(100mL)で希釈した。水相を分離し、EtOAc(3x100mL)で抽出した。有機相を合わせて、ブラインで洗浄し、MgSO
4上で乾燥させ、濾過して濃縮し、白色の半固体を得た。カラムクロマトグラフィーによる精製(120gシリカゲルカートリッジ;段階的なグラジエント溶出:40%、50% EtOAc/ヘキサン)により精製し、所望のアルコール(3.4g)(13.7mmol, 93%収率)を、白色固体として得た。
【0057】
(e)5-アジド-1-(メチルスルホニル)-3,3-ジメチル-2-ペンチル スクシンイミジルカーボネート
【化13】
【0058】
スターラーバー、ゴム製セプタムおよび窒素導入口を備えた100mLの丸底フラスコに、5-アジド-1-(メチルスルホニル)-3,3-ジメチル-2-ペンタノール(2.00g, 8.50mmol, 1.0等量, 終濃度0.25M)、DCM(35mL)およびトリホスゲン(0.93g, 3.1mmol, 0.37等量)を入れて、0℃で冷却した。ピリジン(0.72mL, 8.9mmol)をシリンジで滴加し、反応混合物を0℃で5分間撹拌し、10分かけて周囲温度まで昇温させて、周囲温度で45分間撹拌した。反応の進行は、TLCでモニタリングし、クロロホルメートへの完全な変換が示された。N-ヒドロキシスクシンイミド(1.17g, 10.2mmol, 1.2等量)を、固体として一度に加え、その後ピリジン(0.82mL, 10.20mmol, 1.2等量)を滴加した。反応混合物を、周囲温度で30分間攪拌した。反応の進行をTLCでモニタリングし、クロロギ酸塩から目的のスクシンイミジルカーボネートへの完全な変換が示された。反応混合物を、ジクロロメタン(DCM)(30mL)および5%KHSO4(30mL)で希釈した。水相をDCM(2x30mL)で抽出した。有機相を合わせて、飽和NaHCO3(30mL)およびブライン(30mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、濾過して、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(80g, シリカゲルカートリッジ;段階的グラジエント40、50、60%EtOAc/ヘキサン)による精製により、所望のスクシンイミジルカーボネート(2.36g)(6.27mmol, 74%収率)を、無色油状物として得た。
【0059】
これらの手順に従って、それらから製造される追加のアルコールおよびクロロホルメートおよびスクシンイミジルカーボネート化合物は、n=1~3であり、R2=Hであり、各R4=Meであり、およびR1=MeSO2、PhSO2、(4-クロロフェニル)SO2、(4-メチルフェニル)SO2、イソプロピルSO2、N,N-ジメチルアミノSO2、(4-メチルピペリジニル)SO2、モルホリノSO2、チオモルホリノSO2、N-エチル-N-メチルアミノSO2およびN,N-ビス(2-メトキシエチル)アミノ-SO2である化合物が挙げられる。
【0060】
実施例1
PEG-タラゾパリブコンジュゲート(ここで、R
7=置換されたアルキルである)の合成
【化14】
PEG-タラゾパリブコンジュゲートの合成は、R
1=MeSO
2であり、R
2および各R
4がHであり、n=4であり、R
7が2-メトキシエチルであり、Z
*がトリアゾールであるコンジュゲートの製造により説明される。異なるR
1または他の基を有する類似のコンジュゲートを、適切なクロロホルメートまたはスクシンイミジルカーボネートから開始する同じ方法に従って製造することができる(製造例A)。
【0061】
N-(クロロメチル)カルバメートの合成
スターラーバーおよびスクリューキャップを付けた20mLのシンチレーションバイアルに、7-アジド-1-(メチルスルホニル)-2-ヘプチルスクシンイミジルカーボネート(560mg,1.49mmol, 1.0等量, 終濃度0.23M)(Santi et al, 2012 Proc Natl Acad Sci USA 109:6211-6)、MeCN(6mL)、メトキシエチルアミン(143μL, 1.64mmol, 1.1等量, 終濃度0.25M)およびiPr2NEt(0.39mL, 2.29mmol, 1.5等量, 終濃度0.35M)を入れた。反応混合物を周囲温度で30分間攪拌した。反応混合物を、EtOAc(30mL)および5%KHSO4水溶液(30mL)で希釈した。水相を分離し、EtOAc(3x30mL)で抽出した。有機相を合わせて、ブライン(30mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、濾過して濃縮した。カラムクロマトグラフィー(80SiO2;段階的グラジエント溶出:50%、60%、70%、100% EtOAc/ヘキサン)による精製により、カルバメート[318mg(0.948mmol, 63%)]を、無色油状物として得た。1H NMR (CDCl3, 300 MHz) δ 5.14 - 5.23 (m, 1 H), 5.04 - 5.13 (m, 1 H), 3.43 - 3.50 (m, 2 H), 3.32 - 3.41 (m, 6 H), 3.28 (t, J=6.8 Hz, 2 H), 3.15 (m, J=4.9 Hz, 1 H), 3.00 (s, 3 H), 1.78 (br. s., 2 H), 1.51 - 1.69 (m, 2 H), 1.42 (d, J=4.3 Hz, 4 H). LCMS (ESI) m/z [M+Na]+ C12H24N4O5Sとしての計算値:337.2;実測値:337.1.
【0062】
スターラーバーおよびスクリューキャップを付けた20mLのシンチレーションバイアルに、カルバメート(150mg,0.445mmol, 1.0等量, 終濃度0.1M)、1,2-ジクロロエタン(4.5mL)、パラホルムアルデヒド(27mg,0.892mmol, 2等量, 0.2M)およびTMSCl(0.23mL, 1.8mmol, 4等量, 0.40M)を入れた。反応混合物を、50℃で24時間加熱した。反応の進行を、C18 HPLC(ELSD, 0~100%B)でモニタリングして、出発物質(RT=8.92分)が極性の低い生成物(RT=10.89分)に変換されることを確認した。反応混合物を周囲温度まで冷却し、濾過して濃縮し、50% EtOAc/ヘキサン(10mL)に溶解した。得られた濁った溶液を、0.2μmシリンジフィルターでろ過し、得られたろ液を濃縮して、175mg(約0.45mmol, quant収率)を得た。生成物のN-(クロロメチル)カルバメートを、直ぐにTHF(1.8mL)に溶解し、更なる精製をせずに使用した。
【0063】
Z=アジド、n=2、R
1=MeSO
2、R
2=H、各R
4=MeおよびY=N(R
7)CH
2(式中、R
7=2-メトキシエチル)である、N-(クロロメチル)カルバメートを、製造例Aの対応するリンカーのスクシンイミジルカーボネートから開始して同様に製造した。スターラーバー、ゴム製セプタムおよび窒素注入口を備えた25mLの丸底フラスコに、スクシンイミジルカーボネート(1.0g, 2.7mmol, 1.0等量, 終濃度0.23M)、アセトニトリル(10.8mL)およびメトキシエチルアミン(0.28mL, 3.2mmol, 1.2等量)を入れた。iPr
2NEt(0.71mL, 4.1mmol, 1.5等量)をシリンジで滴加しながら、反応混合物を周囲温度で撹拌した。反応混合物を、周囲温度で30分間撹拌した。TLC分析により、炭酸塩から新規生成物への完全な変換が確認された。反応混合物を、EtOAc(30mL)および5%KHSO
4(20mL)で希釈した。水相を分離し、EtOAc(3x20mL)で抽出した。有機相を合わせて、ブラインで洗浄し、MgSO
4上で乾燥させ、濾過して濃縮した。カラムクロマトグラフィー(40gシリカゲル;40、50、80% EtOAc/ヘキサンで段階的にグラジエント溶出)による精製により、目的物[828mg(2.71mmol, 91%収率)]を無色油として得た。スターラーバーおよびスクリューキャップを付けた20mLのシンチレーションバイアルに、カルバメート(153mg,0.45mmol, 1.0等量, 終濃度0.10M)、DCE(4.5mL)、パラホルムアルデヒド(55mg,1.82mmol, 4.0等量)およびTMSCl(230μL, 1.82mmol, 4等量)を入れた。バイアルを、プラスチック製スクリューキャップにより密封して、反応混合物を50℃で24時間攪拌した。反応の進行は、5mM iPr
2NEt/ブタノール(200μL)に希釈した反応混合物のアリコート(2μL)をC18 HPLC/ELSD(0~100%B)によりモニタリングすることで、カルバメート(R
T=8.56分)が、極性の低い生成物(R
T=10.64min)に完全に変換されたことが確認された。反応混合物を周囲温度まで冷却し、綿栓でろ過し、濃縮し、50%EtOAc/ヘキサン(5mL)に再溶解し、ろ過して濃縮し、淡黄色の油状物とした。粗生成物を、THFに溶解して、更なる精製をせずに直ちに使用した。
【化15】
【0064】
放出可能なリンカー-タラゾパリブの合成(式(II):D=タラゾパリブである)
スターラーバー、ゴム製セプタムおよび窒素導入用ニードルを備えた10mLのヒートガンで乾燥させた丸底フラスコに、タラゾパリブ(100mg, 0.263mmol, 1.0等量, 終濃度65mM)およびTHF(2.5mL)を入れた。溶液を、-78℃で冷却しながら、NaHMDS(THF中で1M, 0.26mL, 0.263mmol, 1.0等量, 終濃度65mM)の溶液を、シリンジでゆっくりと滴加した。反応混合物を、-78℃で5分間撹拌した後、N-(クロロメチル)カルバメートの溶液(THF中で0.26M, 1.3mL, 0.342mmol, 1.3等量, 終濃度84mM)を、シリンジでゆっくりと滴加した。反応混合物を、-78℃で15分間撹拌し、15分かけて0℃まで昇温させ、0℃で30分間撹拌した。反応の進行を、C18 HPLC(0~100%B, 310nm)でモニタリングして、タラゾパリブ(RT=8.55分)が、極性の低い生成物(RT=10.67分)に変換されていることを確認した。反応混合物をEtOAc(10mL)および10%クエン酸(10mL)で希釈した。水相を分離して、EtOAc(3x10mL)で抽出した。有機相を合わせて、ブライン(10mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、濾過して濃縮し、黄色残留物を得た。C18 分取HPLC(35~70%B TFA含まず)による精製により、95mg(0.130mmol,50%)の所望の生成物[式(II)のリンカー-薬剤:Z=アジド、n=4、R1=MeSO2、R2および各R4=H、Y=N(R7)CH2、R7=2-メトキシエチルおよびD=タラゾパリブ]を、白色固体として得た。LCMS(ESI) m/z [M+H]+, C32H38F2N10O6Sについての計算値:729.3;実測値:729.2. C18 HPLCを310nmでモニターした:91%(0~100%B,RT=9.95分)。アルキル化の位置化学は、2D-NMR相関によって決定した。
【0065】
放出可能なリンカー-タラゾパリブ[D=タラゾパリブである式(II)]も、以下に示す手順に従い製造した。スターラーバー、ゴム製セプタム、窒素導用ニードルおよび熱電対プローブを備えた10mLのヒートガンで乾燥させた丸底フラスコに、TLZ(100mg,0.263mmol,1.0等量,終濃度0.1M)およびTHF(2.6mL)を入れた。NaHMDS(THF中で1M, 0.26mL, 0.26mmol,1.0等量, 終濃度0.1M)の溶液を、内部温度が-72℃を超えないように(約2分かけて)滴加しながら、混合物を-78℃に冷却した。反応混合物を-78℃で5分間撹拌した後、リンカー-クロロメチルカルバメートの溶液(THF中で0.5M,0.68mL, 0.34mmol, 1.3等量, 終濃度0.1M)を、内部温度が-72℃を超えないような速度で滴加した。反応混合物を-78℃で5分間撹拌し、15分間かけて0℃に昇温させて、0℃で1時間撹拌した。反応の進行を、C18 HPLC(10分かけて0~100%, 310nm)でモニターし、TLZ(RT=8.43分)が極性の低い生成物(RT=7.64分)に変換されたことが確認された。次に、反応混合物を-78℃に冷却し、0.1M Tris(pH7.5, 3mL)を、内部温度が-50℃を超えないようにゆっくりと添加した。得られた混合物を、一旦可能な限り激しく攪拌しながら周囲温度まで昇温させた(冷浴を外す)(水層を溶解させねばならない)。その後、この混合物を、EtOAc(30mL)および0.1M Tris(pH7.5,30mL)間に分配した。有機層を分離し、EtOAc(3x30mL)で抽出した。有機相を合わせて、ブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、濾過して濃縮し、黄色の油状物を得た。分取C18 HPLC(15分かけて35~70%B, 310nm)による精製により、90mg(0.141mmol, 54%収率)の所望のコンジュゲートを、黄色のガラス様油状物として得た。
【0066】
同様の方法を用いて、式(II)のリンカー-ドラッグ(式中、Z=アジド、n=2、R1=MeSO2、R2=H、各R4=Me、Y=N(R7)CH2、R7=2-メトキシエチルおよびD=タラゾパリブである)を製造した。スターラーバー、セプタムスクリューキャップおよび窒素注入口を備えた4mLバイアルに、TLZ(22mg,0.06mmol,1等量, 終濃度50mM)およびTHF(0.6mL)を入れた。グアニジン塩基7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(MTBD)(11μL, 0.080mmol, 1.3等量)を加え、反応混合物を1~2分間撹拌した後に、クロロメチルカルバメートの溶液[THF中の100mM(0.78mL, 0.080mmol, 1.3等量)]を添加した。反応混合物を、周囲温度で1時間撹拌した。反応アリコート(2μL)を、5mMiPr2NEt/ブタノール(200μL)に希釈してクエンチし、C18 HPLCにより、反応の進行をモニターした。HPLC分析では、約53%の全転換率(15分~1時間の変換が5%変化)にて、TLZ(RT=8.53分)がより極性の低い生成物(10.07分)に変換されることが示された。反応混合物を、-78℃で冷却し、2mLの0.1N Tris(pH7.5)を滴加した。得られた混合物を、可能な限り一度激しく攪拌しながら周囲温度まで昇温させた。反応混合物を、EtOAc(10mL)および0.1NTris(pH7.5)(10mL)で希釈した。水相を分離して、EtOAc(3x5mL)で抽出した。有機相を合わせて、MgSO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮した。分取HPLC(35~70%B TFAを含まない)による精製で、14mg(0.02mmol, 32%収率)の所望のリンカーTLZが得られた。純度は、310nmでモニターしてC18 HPLCで測定した:98%(0~100%B、RT=10.00分)。
【0067】
同じ方法を用いて、式(II)の別のリンカー-薬剤を製造した:式中、
Z=アジド、n=4、R1=MeSO2、R2=H、各R4=H、Y=N(R7)CH2、R7=2-メトキシエチルおよびD=オラパリブである;
Z=アジド、n=4、R1=MeSO2、R2=H、各R4=H、Y=N(R7)CH2、R7=4-(N,N-ジエチルカルボキサミド)フェニルおよびD=タラゾパリブである;
Z=アジド、n=2、R1=チオモルホリン-SO2、R2=H、各R4=Me、Y=N(R7)CH2、R7=2-メトキシエチルおよびD=タラゾパリブである。
【0068】
放出可能なPEG-タラゾパリブのコンジュゲートの合成
20mLのシンチレーションバイアルに、PEG40kDa-[5HCO]4(MeCN中で24.5mM,4.1mL,0.1mmol,1.0等量,終濃度25mM)および式(II)のアジド-リンカー-タラゾパリブ(式中、Z=アジド、n=4、R1=MeSO2、R2および各R4=H、Y=N(R7)CH2、R7=2-メトキシエチルおよびD=タラゾパリブ)(95mg,0.130mmol, 1.3等量, 終濃度32mM)であった。反応混合物を、37℃で24時間加熱した。反応の進行を、C18 HPLC(0~100%B, 310nm)でモニターし、リンカー-タラゾパリブ(RT=9.95分)がより極性の高い生成物(RT=9.17分)に変換されていることを確認した。反応混合物を、400mLのMeOHに対して18時間透析した(12,000~14,000MWCO)。保持液を濃縮して、THF(10mL)に再溶解して、激しく撹拌しているMTBE(100mL)にゆっくりと加えて沈殿させた。得られた固体を、焼結ガラス製漏斗で真空濾過して回収して、MTBE(3x100mL)で洗浄し、高真空下で乾燥させて、700mg(0.064mmol TLZ, 64%収率)のPEGコンジュゲートを、無色の残留物として得た。C18 HPLCを、310nmでモニターした:90%(0~100%B、RT=9.17分)。
【0069】
上記した手順に従って製造した放出可能なPEG-TLZコンジュゲートのサンプルを、pH9.0または9.4のいずれかの緩衝液に溶解し、37℃に保持した。HPLC分析から、遊離タラゾパリブは放出されて、半減期が各々3.40時間および1.69時間を示し、pH7.4での半減期は168~135時間と推定された。対照的に、類似の安定なコンジュゲート(R1がHである)は、18時間にわたり、pH5.0、7.4または9.4で遊離タラゾパリブを放出しないことが確認された。
【0070】
上記に示した手順に従って製造した放出可能なPEG-TLZコンジュゲート[式(III):式中、Z
*=トリアゾール、n=4、R
1=MeSO
2、R
2および各R
4=H、Y=N(R
7)CH
2、R
7=2-メトキシエチル、y=4およびD=タラゾパリブ]の溶液を、pH9.4、8.4、7.4、5.0およびpH1.1の緩衝液中で、37℃で加熱した。各溶液に放出されたTLZ画分の量を測定し、その結果を
図8に示した。水酸化物触媒作用による放出が、pH7.4~9.4にかけて観察された。挿入図は、m=1.00, R
2=0.9980のTLZ放出についてのpH-log
obsdプロットを示す。
【0071】
式(III)(式中、Z*=トリアゾール、n=2、R1=MeSO2、R2=H、各R4=Me、Y=N(R7)CH2、R7=2-メトキシエチル、y=1およびD=タラゾパリブ)と同様のコンジュゲートは、20kDaPEG-DBCOを用いて同様に製造され、pH7.4で半減期が300時間を提示するタラゾパリブを放出した。
【0072】
実施例2
アシル化タラゾパリブコンジュゲートの製造および安定性試験
【化16】
【0073】
アシル化による「放出不可能な」PEG-タラゾパリブ
スターラーバー、ゴム製セプタムおよび窒素注入口を備えた10mLのヒートガンで乾燥させた丸底フラスコに、タラゾパリブ(15mg,39μmol,1.0当量)およびTHF(1mL)を入れて、次に-78℃に冷却した。NaHMDS(THF中で1.0M,39μL,39μmol,1.0当量)の溶液を、シリンジを介して滴加し、反応混合物を-78℃で5分間攪拌した。リンカークロロホルメート1-1の溶液(THF中で0.5M,94μL,47μmol,1.2当量)を、シリンジを介して滴加し、反応混合物を-78℃で5分間撹拌し、20分かけて0℃まで昇温させて、0℃で45分間撹拌した。反応の進行を、C18 HPLC(0~100%B, 310nm)でモニターし、タラゾパリブ(RT=8.36分)が極性の低い生成物(RT=10.78分)へと変換していることが確認された。反応混合物を、EtOAc(10mL)および10%クエン酸(10mL)間に分配した。水相を分離し、EtOAc(3x10mL)で抽出した。有機相を合わせて、ブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、濾過して濃縮した。この粗生成物をMeCN(2mL)に溶解し、更なる精製をせずに使用した。LCMS(ESI)m/z[M+H]+ C26H25F2N9O3についての計算値:550.2;実測値:550.1を得た。C18 HPLCを310nmでモニターした:90%(10%TLZ;0~100%B、RT=10.78分)。
【0074】
1.5mLの遠心管に、PEG
20kDa-DBCO(4.4mM,1.0mL,4.4μmol,1.0当量)および上記の安定なリンカー-タラゾパリブ(MeCN中で23mM, 240μL, 5.5μmol, 1.3等量)の溶液を入れた。反応混合物を、37℃で1時間加熱した。反応の進行をC
18 HPLC(0~100%B, 310nm)でモニターし、N
3-L(St)-タラゾパリブ(R
T=10.78分)およびPEG-DBCO(R
T=9.20分)が、中間の極性の生成物へと変換(R
T=9.36分)していることが確認できた。反応混合物を周囲温度に冷却し、400mLのMeOHで24時間透析(12,000~14,000MWCO)した。保持液を濃縮して黄色残渣とし、これをMeCN(2mL)に溶解させた。C
18 HPLCを310nmでモニターした:83%(0~100%B, R
T=9.36分)。
【化17】
【0075】
アシル化による「放出可能な」PEG-タラゾパリブ
スターラーバー、ゴム製セプタムおよび窒素注入口を備えた10mLのヒートガンで乾燥させた丸底フラスコに、タラゾパリブ(8mg,20μmol,1.0当量)およびTHF(1mL)を入れて、その後-78℃に冷却した。NaHMDS(THF中で1.0M,21μL,21μmol,1.0当量)の溶液を、シリンジを介して添加し、反応混合物を-78℃で10分間攪拌した。リンカークロロホルメート1-4の溶液(THF中で400mM,63μL,25μmol,1.2当量)を、シリンジを介して滴加し、反応混合物を-78℃で5分間撹拌し、20分かけて0℃まで温めて、0℃で45分間撹拌した。反応混合物を、EtOAc(10mL)およびH2O(10mL)間に分配した。水相を分離し、EtOAc(3x10mL)で抽出した。有機相を合わせて、ブラインで洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮した。この粗生成物をさらに精製することなく使用した。LCMS(ESI)m/z C28H29F2N9O5Sについての計算値:642.2;実測値:642.1;C18HPLCを310nmでモニターした:50%(50:50 生成物:TLZ;0~100%B,RT=10.21分)。
【0076】
4mLのガラス製バイアルにおいて、粗製リンカー-TLZ(MeOH中で12mM,417μL,5.0μmol,1.0当量)の溶液を、PEG20kDa-DBCO(MeCN中で4.3mM,1.8mL,7.7μmol,1.5当量)の溶液に加えた。反応混合物を、37℃で1時間加熱した。400mLのMeOHに対して16時間、透析(12,000~14,000MWCO)により精製し、保持液を濃縮して、目的の化合物を得た。C18 HPLCを310nmでモニターした:93%(0~100%B、RT=9.28分)。
【0077】
コンジュゲート1-3(Mod=H)の安定性を、pH9.4、7.4および5.0にて37℃で評価し、その結果を
図9Aに示す。コンジュゲートは、pH5.0にて適度に安定であり、11時間の間に2%が損失した。しかし、pH9.4および7.4では、pH依存性の不安定性が認められ、各々95%および75%のコンジュゲートの損失が見られた。コンジュゲート1-6の安定性を、pH9.0および5.0において37℃で評価し、その結果を
図9Bに示した。放出可能なコンジュゲート(R
1=SO
2Me)は、pH9.4でコンジュゲートが急速に消失されたことを示しただけでなく、pH5にて有意な排除を示した。
【0078】
実施例3
タラゾパリブの放出可能なコンジュゲート(R
7=置換アリールである)
米国特許第8,754,190号のリンカー(即ち、R
7=アリール)を用いて、上記実施例1に記載の方法に従って、タラゾパリブのコンジュゲートを製造した。リンカー-クロロメチルカルバメートで処理する前に、NaHMDSでタラゾパリブを脱プロトン化すると、50~80%の変換率で変換が進行した。安定にアルキル化されたタラゾパリブのコンジュゲートは、37℃でpH9.4、7.4および5.0で約15時間にわたり、消失は観察されず、優れた安定性を実証した。
図10に示すように、放出可能なコンジュゲートを、緩衝液中に置くと、pH9.0および7.4の両方で中間体の蓄積が見られられた。この中間体は、LCMSによってマンニッヒ塩基R
7-CH
2-TLZであることが同定された。pH7.4でのPEG-コンジュゲートの半減期は約88時間であり、マンニッヒ塩基のTLZ放出に対する推定t
1/2は、11.73時間であった。
【化18】
【0079】
実施例4
リンカー-オラパリブの製造および安定性試験
【化19】
ステップ1
6-アジドヘキシル N-(2-メトキシエチル)-N-クロロメチルカルバメート
パラホルムアルデヒド(37mg,1.2mmol)およびクロロトリメチルシラン(311μL, 2.46mmol)を、6-アジドヘキシルN-(2-メトキシエチル)カルバメート(150mg,0.615mmol, 終濃度0.1M)/1,2-ジクロロエタン(6mL)の溶液に連続的に添加した。攪拌反応混合物を、50℃の油浴に入れて、C
18 HPLCでモニターした。24時間後、反応が完了したと判断した。反応混合物を濃縮乾固し、得られた残留物を1:1のEtOAc:ヘキサン(10mL)で処理した。懸濁液を0.2μmシリンジフィルターで濾過し、濾液を濃縮乾固させて、粗製表題化合物(187mg)を無色液体として得て、これを更なる精製をせずに使用した。
【0080】
ステップ2
6-アジドヘキシルN-(2-メトキシエチル)-N-(メチレン-オラパリブ)カルバメート
ヒートガン/真空にて乾燥させた丸底フラスコにおいて、オラパリブ(10.8mg,24.9μmol,終濃度0.02M)を、N2下でTHF(1.0mL)に懸濁させた。懸濁液を、-78℃のアセトン/ドライアイス浴で冷却し、NaHMDS(30μL, 30μmol)/THFの1.0M溶液を加えた。-78℃で5分間撹拌した後、5分間空気で温めている間に反応混合物はオレンジ色になった。-78℃に再度冷却した後、6-アジドヘキシル N-(2-メトキエチル)-N-クロロメチルカルバメート(108μL, 32.4μmol)/THFの0.3M溶液を加えた。冷却浴を取り外して、オレンジ色の反応混合物を、空気で温めた。20分以内で、色は橙色から明るい黄色に変化した。2時間後、反応混合物を、1:1のEtOAc:H2O(20mL)間に分配した。層を分離して、有機相を:H2Oおよびブライン(各10mL)で洗浄した。次に、有機層を分離して、MgSO4上で乾燥させ、濾過し、ロータリーエバポレーションにより濃縮した。粗製濃縮物を、SiliaSepカラム(4g)にロードし、生成物をアセトン/ヘキサンの段階的グラジエントで溶出した(0%、20%および40%;各30mL、その後60%および80%;各40mL)。精製後の生成物含有画分を合わせ、濃縮乾固させて、表題化合物(6mg,9μmol, 37%収率)を無色のフィルム状物として得た。C18 HPLCの純度は、280nmで測定した:92.1%(RV=10.56mL)。LC-MS(m/z):計算値691.3;実測値691.4[M+H]+。
【0081】
ステップ3
6-アジドヘキシルN-(2-メトキシエチル)-N-(メチレン-オラパリブ)カルバメート(放出不可能なPEG-オラパリブ)のMeO-PEG
20kDa-DBCOトリアゾール
1.5mLのエッペンドルフチューブに、5mM m-PEG
20kDa-DBCOの溶液(400μL,2.0μmol)を、5mM 6-アジドヘキシルN-(2-メトキシエチル)-N-(メチレン-オラパリブ)カルバメート/MeCNの溶液と混合した(0.42mL, 2.1μmol,終濃度2.5mM)。反応チューブを、37℃の水浴に1時間置いた後、Speed Vacを用いて0.1mLまで濃縮した。残留物を、H
2Oで1.0mLに希釈し、PDMidiTrapカラムで精製した。水で溶出し、1.2mLの標題化合物を水溶液として得た。C
18 HPLCの純度を280nmで測定した:93.6%(RV=9.36mL)。
【化20】
【0082】
ステップ1
7-アジド-1-(メチルスルホニル)-2-ヘプチル N-(2-メトキシエチル)-N-クロロメチルカルバメート
7-アジド-1-(メチルスルホニル)-2-ヘプチル N-(2-メトキシエチル)-N-クロロメチルカルバメート(67mg,0.20mmol, 終濃度0.2M)/1,2-ジクロロエタン(1mL)の溶液に、パラホルムアルデヒド(24mg,0.80mmol)およびクロロトリメチルシラン(101μL, 0.80mmol)を連続して加えた。攪拌した反応混合物を、50℃の油浴におき、HPLCでモニターした。20時間後、反応は完了したと判断された。反応混合物を、濃縮乾固させて、得られた残留物を1:1のEtOAc:ヘキサン(1.5mL)で処理した。懸濁液を0.2μmシリンジフィルターで濾過し、濾液を濃縮乾固させ、粗製表題化合物(80mg)を無色液体として得て、これをさらに精製することなく使用した。
【0083】
ステップ2
7-アジド-1-(メチルスルホニル)-2-ヘプチル N-(2-メトキシエチル)-N-(メチレン-オラパリブ)カルバメート
ヒートガン/真空で乾燥させた丸底フラスコに、オラパリブ(44mg,0.10mmol, 終濃度0.05M)を、N2下でTHF(1.5mL)に懸濁した。懸濁液を、-78℃のアセトン/ドライアイス浴で冷却し、1.0MのNaHMDS(100μL,100μmol)/THFの溶液を加えた。懸濁液は、紫色に変化した。-78℃で5分間攪拌した後、反応溶液を5分間空気により温めた。-78℃に再度冷却した後、0.3M 7-アジド-1-(メチルスルホニル)-2-ヘプチル N-(2-メトキシエチル)-N-クロロメチルカルバメート(0.43mL, 0.13mmol)/THFの溶液を加えた。紫色が直ちに消失し、得られたオレンジ色の反応溶液を空気で温めた。20分以内に、色が、オレンジ色から明るい黄色に変化した。2時間後、反応混合物を、1:1のEtOAc:H2O(40mL)間に分配した。層を分離し、有機相を、H2Oおよびブライン(各20mL)で洗浄した。次いで、有機層を分離して、MgSO4上で乾燥し、濾過し、ロータリーエバポレーションにより濃縮した。粗製濃縮物を、分取HPLCで精製した。精製後の生成物含有画分を合わせて、MeCNを除去するために~50%まで濃縮した。得られた水性濃縮物を、EtOAc(40mL)で抽出し、有機相を、H2O、NaHCO3(飽和aq)およびブライン(各40mL)で洗浄した。次いで、有機層を、MgSO4上で乾燥させて、濾過し、ロータリーエバポレーションにより濃縮乾固させて、表題化合物(20mg,26μmol,26%収率)を、無色油状物として得た。
C18 HPLCの純度を、280nmで決定した:88.0%(RV=9.87mL)
LC-MS(m/z):計算値783.3;実測値783.4[M+H]+
【0084】
ステップ3
7-アジド-1-(メチルスルホニル)-2-ヘプチルN-(2-メトキシエチル)-N-(メチレン-オラパリブ)カルバメート(R1=MeSO2である放出可能なPEG-オラパリブ)のMeO-PEG20kDa-DBCOトリアゾール
1.5mLエッペンドルフチューブにおいて、m-PEG20kDa-DBCOの5mM溶液(0.40mL, 2.0μmol)を、7-アジド-1-(メチルスルホニル)-2-ヘプチルN-(2-メトキシエチル)-N-(メチレンオラパリブ)カルバメート/MeCNの10mM 溶液(0.21mL, 2.1μmol, 終濃度3mM)と混合した。反応チューブを、37℃の水浴に1時間置いた後、Speed Vacを用いて0.1mLに濃縮した。残留物を、H2Oで1.0mLに希釈し、PD MidiTrapカラムで精製した。水で溶出することにより、1.2mLの表題化合物[式(III):式中、Z*=トリアゾール、n=4、R1=MeSO2、R2および各R4=H、Y=N(R7)CH2、R7=2-メトキシエチル、y=1およびD=オラパリブ]を、水溶液として得た。C18 HPLCの純度を、280nmで測定した:97.2%(RV=9.29mL)。
【0085】
オラパリブを安定に連結させたPEGコンジュゲートのインビトロ安定性
1.5mLのガラス製HPLCバイアルにおいて、6-アジドヘキシルN-(2-メトキシエチル)-N-(メチレンオラパリブ)カルバメートのMeO-PEG20kDa-DBCOトリアゾールの水溶液(0.1mL)を、H-Lys(DNP)-OH(DMSO中で10mM、5μL;内部標準)を含めた緩衝液(0.85mL)およびDMSO(45μL)の事前に温めた溶液に加えた。バイアルを、加熱した(37℃)HPLCオートサンプラーに保持し、安定性アッセイを、C18 HPLCで定期的にモニターした。1週間後、遊離オラパリブは観察されなかった。
【0086】
可溶性PEGコンジュゲート(ここで、R1=MeSO2である)からオラパリブの開裂に関するインビトロでの速度
2つの1.5mLのガラス製HPLCバイアルの各々に、PEG化リンカー-オラパリブ水溶液(0.1mL)を、H-Lys(DNP)-OH(DMSO中で10mM,5μL,内部標準)を含む緩衝液(0.85mL)およびDMSO(45μL)の事前に温めた溶液に加えた。バイアルを、加熱した(37℃)HPLCオートサンプラーに保持し、β-脱離反応をC18 HPLCで定期的にモニターした。37℃、pH9.58のホウ酸塩中で観察されたオラパリブの放出半減期は、1.56時間であった。これらのデータを用いると、pH7.4での半減期は、236時間であった。
【0087】
実施例5
4本アーム型PEG-オラパリブコンジュゲートの製造
【化21】
PEG
40kDa-{7-[(カルバモイルオキシ)-4,5,6,7,8,9-ヘキサヒドロ-1H-シクロオクタ[d][1,2,3]トリアゾール-1-イル]-1-(メチルスルホニル)-2-ヘプチル N-(2-メトキシエチル)-N-(メチレン-オラパリブ}
4
10mM 7-アジド-1-(メチルスルホニル)-2-ヘプチル N-(2-メトキシエチル)-N-(メチレン-オラパリブ)カルバメートの溶液(実施例4,2.3mL,23μmol,終濃度7mM)を、PEG
40kDa-[5HCO]
4(21.2mM シクロオクチン,0.94mL,20μmolシクロオクチン;5μmolPEG;ヘニスらのエンジニアリングレポートに従って製造)/MeCNの溶液と混合した。反応バイアルを、Parafilmで密封し、37℃の水浴に入れ、C
18 HPLCで定期的にモニターした。52時間後、反応混合物をMeOHに対して20時間透析した(12~14k MWCO)。保持液を除去し、~0.2mLに濃縮した。濃縮物を、THF(1mL)で希釈し、空荷時で15mLファルコンチューブ中の氷冷MTBE(10mL)に加えた。この混合物を、0℃で20分間保持した後、遠心分離し(2000xg,1分間)、デカンテーションした。固体をMTBE(2x10mL)で洗浄して、上記の通りに単離した。湿性の固体を、高真空下で乾燥させ、表題化合物(191mg,4.31μmol PEG, 86%収率)を、白色固体として得た。C
18 HPLCの純度を、280nmで測定した:97.5%(RV=9.32mL)。
【0088】
実施例6
放出可能なPEG-ルカパリブ(R
1=MeSO
2)の製造
【化22】
アジド-リンカー-ルカパリブの合成
キャップおよびスターラーバーを備えた1.5mLガラス製バイアルに、順に7-アジド-1-(メチルスルホニル)-2-ヘプチルスクシンイミジルカーボネート(18mg,47μmol,1.0等量,終濃度47mM)、MeCN(1mL)、リン酸ルカパリブ(20mg,47μmol,1.0等量,終濃度47mM)、iPr
2NEt(16μL,94μmol,2.0等量,終濃度94mM)およびDMSO(0.5mL)を加えた。反応溶液を、周囲温度で30分間攪拌した。反応の進行を、C
18 HPLC(0~100%B, 355nm)によりモニターし、ルカパリブ(R
T=7.25分)が極性の低い生成物(R
T=10.79分)に変換されていることを示した。反応混合物を、EtOAc(5mL)および10%クエン酸(5mL)間に分配した。水相を分離し、EtOAc(3x5mL)で抽出した。有機相を合わせて、ブラインで洗浄し、MgSO
4上で乾燥させ、濾過し、濃縮した。カラムクロマトグラフィー(4gシリカゲルカートリッジ:50%、75%、100%EtOAc/ヘキサン,10%アセトン/EtOAc)の精製により、目的の生成物[17mg(29μmol,62%)]を得た。LCMS(ESI)m/z[M+H]
+C
28H
33FN
6O
5Sについての計算値:585.2;実測値:585.2.C
18 HPLCを355nmでモニターした:98%(0~100%B,R
T=9.93分)。
【化23】
【0089】
放出可能なPEG-ルカパリブコンジュゲートの合成
1.5mLの遠心管に、PEG20kDa-DBCO溶液(4.9mM,1.0mL,4.9μmol,1.0当量,終濃度4.9mM)およびアジド-リンカー-ルカパリブ溶液(31mM リンカー-ルカパリブ,174μL,5.4μmol,1.1当量,終濃度5.5mM)を入れた。反応混合物を、37℃で16時間加熱した。反応の進行を、C18 HPLC(0~100%B, 355nm)でモニターし、リンカー-ルカパリブ(RT=9.94分)が、より極性の高い生成物(RT=9.23分)に変換されていることを確認した。その後、反応混合物を、400mLに対して18時間透析した(12~14,00MWCO)。保持液を濃縮して、97mgのPEGコンジュゲートを、無色残留物として得た。C18 HPLCを、355nmでモニターした:96%(0~100%B,RT=9.23分)。
【0090】
実施例7
放出可能なPEG-VX970(R
1=MeSO
2)の製造
【化24】
【0091】
アジド-リンカー-VX970(R
1=MeSO
2)
キャップおよびスターラーバーを取り付けた1.5mLのガラス製バイアルに、順に7-アジド-1-(メチルスルホニル)-2-ヘプチルスクシンイミジルカーボネート(15mg,39μmol,0.9等量)、MeCN(0.5mL)、VX970(20mg,43μmol,1.0等量)、iPr
2NEt(10μL,60μmol, 1.5等量)およびDMSO(0.5mL)を添加した。反応溶液を、周囲温度で30分間攪拌した。反応の進行を、C
18 HPLC(0~100%B, 310nm)によりモニターし、VX970(R
T=8.56分)が極性の低い生成物(R
T=10.85分)に変換されていることを確認した。反応混合物を、後処理または更なる精製をせずに使用した。LCMS(ESI)m/z[M+H]
+ C
33H
40N
8O
7S
2についての計算値:725.3;実測値725.3を得た。C
18 HPLCを、310nmでモニターした:90%(0~100%B、R
T=10.85).
【化25】
【0092】
放出可能なPEG-VX-970(R1=MeSO2)
1.5mLの遠心管に、PEG20kDa-DBCO(MeCN中で4.4mM, 1.0mL, 4.4μmol, 1.0等量)の溶液およびアジド-リンカー-VX970(171μL, 4.8μmol, 1.1等量)の溶液を入れた。反応混合物を、37℃で30分間加熱した後、追加のPEG-DBCO(100μL, 0.4μmol, 0.1等量)を添加した。反応混合物を37℃で1時間加熱した。反応の進行を、C18 HPLC(0~100%B, 310nm)でモニターし、リンカーVX970(RT=10.85分)がより極性が高い生成物(RT=9.42分)に変換されたことを確認した。反応混合物を周囲温度まで冷却し、500mLのMeOHに対して18時間透析した(12,000~14,000MWCO)。保持溶液を濃縮して、得られた白色残留物を、10mM NaOAc(pH5)に溶解して無色溶液を得た(約4mM)。C18 HPLCを、310nmでモニターした:>98%以上(0~100%B、RT=9.42分)。
【0093】
実施例8
PEG-タラゾパリブの薬物動態試験
式(III)のコンジュゲート:式中、Z*=トリアゾール、n=4、R1=MeSO2、R2および各R4=H、Y=N(R7)CH2、R7=2-メトキシエチル、y=4およびD=タラゾパリブ
【0094】
雄のCD-1マウス(N=20,平均体重30g)に、等張酢酸緩衝液(pH5)中の実施例1に従って製造した放出可能なPEG-タラゾパリブ(R1=SO2Me)または放出不可能なPEG-タラゾパリブ(30μmol/kg,2.03mM,14.8mL/kg)の溶液を、IP投与した。様々な時点での血液サンプル(N=4匹のマウス,200μL)を採血し、直ちに1Mクエン酸/0.1%Pluronic F68(pH4.5)溶液(得られたサンプル量の10%)で処理し、遠心分離して血漿サンプル(100μL)を得て、これを処理中は氷上に保持し、分析まで-80℃で凍結させた。採血スケジュールは、以下の通りである:マウス1~4は、1時間と24時間、マウス5~8は、2時間と48時間、マウス9~12は、4時間と72時間、マウス13~16は8時間と96時間、マウス17~20は12時間と120時間に採血した。
【0095】
各PKサンプルまたは標準物(10μL)のアリコートを、内部標準として15μM DNP-Lysを含むMeOH/0.5%AcOH(50μL)で処理した。サンプルを、激しくボルテックスし、遠心分離(21,000xg,4℃,10分)し、H
2O/0.5%AcOH(200μL)の入ったHPLCバイアルに移した。サンプルを、C18 HPLCカラムに注入し(220μL)、H
2O/MeCN/0.1%TFAで溶出した(15分かけて0~100%B)。標準曲線は、PEG-タラゾパリブ(PEGに対して1mM タラゾパリブ;0.25mMコンジュゲート)の溶液を、氷上でマウス血清に連続希釈することにより作成した。アリコートを、上記と同様に処理および分析した。ピーク面積を、濃度に対してプロットし、線形方程式に当てはめた。PEG-タラゾパリブのLLOQは、16pmol(10μL血清中で2μM)であると決定された。PKサンプル濃度は、標準曲線に対する内挿ピーク面積に基づいて計算され、時間に対してプロットされ、結果を
図11に示した。吸収および消失半減期は、得られたデータに対して、1/Y
2による重み付き双指数関数にフィッティングさせて算出した。
【0096】
PKパラメータを、以下の表1に示す。
表1.放出可能なPEG-タラゾパリブ(Mod=SO
2Me)
aのPKパラメータ
【表1】
a薬物動態データの双指数関数へのフィッティングから得られるPKパラメータ(y=C
0*((exp(-k
1*t)-exp(-k
2*t)))。
bC
0は、t
1/2,βの外挿により得られ、かつ上記式において計算されたt=0の時点での理論濃度である
cC
maxおよびT
maxは、最高血中濃度および最高血中濃度到達時間である
【0097】
実施例9
マウスMX-1異種移植におけるPEG-タラゾパリブコンジュゲートの有効性
MX-1ヒトのトリプルネガティブ乳癌細胞株を、Charles River Labs(Frederick, Meryland)より入手した。細胞を、RPMI-1640、10%FBSおよび1% 2mM L-グルタミンにおいて、37℃で95%空気/5%CO2雰囲気下で培養した。
【0098】
腫瘍異種移植は、MX-1腫瘍細胞(マトリゲルと1:1で混合した無血清培地100μl中で2x106細胞)を、雌性NCrヌードマウスの右脇腹に皮下注射することにより行った。ドナーマウスにおける腫瘍異種移植片が、1000~1500mm3に達した時点で切除し、同じサイズの断片(約2.5×2.5mm)に分断し、マトリゲルに埋め込み、移植されるマウスに、皮下トロッカー移植を行い再度移植した。
【0099】
タラゾパリブの溶液(50μM)は、タラゾパリブ/DMSOの溶液(55mM,454μL)を10%ジメチルアセトアミド、6%ソルトールおよび84%PBSを含む経口投与用緩衝液に加えることにより調製された。タラゾパリブ含有量は、10%ジメチルアセトアミド、6%ソルトールおよび84%PBSにおいて、ε310nm=9872M-1cm-1により決定した。溶液を、0.4~0.9μmol/kgタラゾパリブを送達するために8.5~19mL/kgにて経口(p.o.)投与した。最大8mMのタラゾパリブ(2mM PEG-[タラゾパリブ]4)を含むPEG-タラゾパリブ[実施例1、R1=MeSO2、R7=MeO(CH2)2]の溶液を、等張酢酸緩衝液(pH5)中で調製し、0.2μMシリンジフィルターで無菌ろ過し、TLZ含有量を、10%のジメチルアセトアミド、6%のソルトールおよび84%のPBSにおいて、ε310nm=9872M-1cm-1により定量した。投薬は、15~120μmol薬剤/kgを送達するために、~15mL/kgにてIP送達された。
【0100】
MX-1腫瘍を担持するマウスは、腫瘍が~100~300mm
3のサイズに達した時点で投与される。投与溶液を、上記に示した通りに投与した。腫瘍の体積[ノギス測定、0.5x(長さx幅
2)]および体重を、週2回測定した。データを、時間に対する相対的な腫瘍体積としてプロットし、平均+/-SEMとして表示した。大きな腫瘍を担持するマウスは、腫瘍が1000~3000mm
3に達した時点で投薬された。結果を、以下の
図5~7および表3に示す。
【0101】
個々のマウスにおける疾患を記述するために使用した用語体系は、Houghtonら(Pediatric Blood & Cancer, 2007 49:928-40)によって提案された通りであり、表2にまとめた。進行性疾患(PD)は、イベントまでの日数として計算された腫瘍成長遅延値(TGD)に基づいて、PD1またはPD2に分類される。各マウスについて、TGDは、イベントまでの時間を対照群におけるイベントまでの時間の中央値で割ることによって算出された。PDを示し、かつ処置群においてイベントが生じた個々のマウスについて、TGD値は、マウスのイベントまでの時間を対照群におけるイベントまでの時間の中央値で割ることによって算出された。イベントまでの時間の中央値は、カプラン・マイヤーの無イベント生存率分布に基づいて推定された。
【0102】
表2.個々のマウスの疾患を説明する用語体系
【表2】
【0103】
【0104】
実施例10
マウス異種移植におけるPEG-タラゾパリブコンジュゲートの有効性
実施例1に従って製造した放出可能なPEG-タラゾパリブコンジュゲートの有効性も、実施例9と同様にしてマウスMX-1、KT-10、TC-71、DLD-1 BRCA2
-/-およびDLD-1 BRCA2
wt/wt異種移植において検討した。結果を、
図12に示した。
【0105】
皮下KT-10腫瘍を担持するマウスのコホート(n=5)を、5~40μmol/kgのPEG-タラゾパリブコンジュゲートの単回IP注射により処理した。腫瘍体積を毎週測定し、各群について無イベント生存率(EFS)を算出した(ここで、イベントとは、治療初日の最初の腫瘍体積の4倍と定義した)。PEG-タラゾパリブコンジュゲートを、40μmol/kgで投与すると、7日目に平均~17%の体重減少が生じたが、14日目には全ての動物が回復した。PEG-タラゾパリブコンジュゲートに関する用量依存的な腫瘍増殖反応およびカプラン-マイヤー無イベント生存分布を、
図12Aおよび12Bに示す;対照腫瘍のEFS中央値は11日であった。5μmol/kgのTLZのPEG-タラゾパリブコンジュゲートでは、3匹の腫瘍がわずかに退縮し、EFS中央値は25日であって、全ての腫瘍がイベントに到達した。10μmol/kgでは、全ての腫瘍が>50%退縮し、EFS中央値は48日であって、4/5匹の腫瘍がイベントに達した。20μmol/kgおよび40μmol/kgである高用量PEG-タラゾパリブコンジュゲートでは、全ての腫瘍がEFS>8週間を示した;完全に退縮したが、20μmol/kgで治療した群では5匹中4匹の腫瘍が再度増殖し、40μmol/kgで治療したマウスでは5匹中2匹の腫瘍が再度増殖していた。10μmol/kgのPEG-タラゾパリブコンジュゲート用量のEFS T/Cは4.3であり、この腫瘍に対する高活性の薬剤として適格性が示された。
【0106】
TLZ感受性BRCA1欠損MX-1腫瘍を担持するマウスを、TLZ経口投与およびPEG-タラゾパリブコンジュゲートの単回IP注射により毎日処置した。PEG-タラゾパリブコンジュゲートの用量依存的な腫瘍増殖反応およびカプラン-マイヤー無イベント生存分布を、
図12Cおよび12Dに示す。0.4μmol/kg(0.15mg/kg)のTLZを、毎日投与した場合、全ての腫瘍において最初のサイズの4倍に達しなかった為、イベントの定義を、最初の腫瘍体積の2倍とした(
図12D);対照の腫瘍は、2x-EFSの中央値が7日であり、0.4μmol/kg TLZでは、~3週間の成長抑制があり、その後腫瘍が成長して35日にEFS中央値に達した。明らかに、MX-1腫瘍は、12週間にわたる0.1mg/kg TLZの連日投与により、CRの維持を示したKT-10ほどTLZに感受性が低かった(26)。40μmol/kg TLZでのPEG-タラゾパリブコンジュゲートでは、動物は、8日目までに~9%の体重減少を示し、5匹中2匹が死亡した。残りの3匹のマウスは、最初の体重まで回復し、50日間経過しても腫瘍の進行が見られなかった;打ち切られた死亡マウスでは、信頼できるEFS解析ができなかった。マウスは、体重減少もなく、5~30μmol/kgのPEG-タラゾパリブコンジュゲートの単回投与に耐性であった。13μmol/kgのPEG-タラゾパリブコンジュゲート投与時のEFS中央値は31日であり、0.4μmol(0.15mg)/kg/日の遊離TLZの35日のEFSとほぼ同じであった。13μmol/kgのPEG-タラゾパリブコンジュゲートのEFS T/Cは4.4であって、このような低用量で高い活性があることが示された。
【0107】
TC-71腫瘍を担持するマウスに、TLZを毎日経口投与し、PEG-タラゾパリブコンジュゲートを単回IP注射により投与した。腫瘍の成長は、40μmol/kgという高濃度のPEG-タラゾパリブコンジュゲートにより阻害されず、EFS曲線から、活性が有意では無いことが示された(
図12Eおよび12F)。
【0108】
BRCA2
-/-およびDLD-1 BRCA2
wt/wt腫瘍を担持するマウスに、TLZを毎日経口投与し、PEG-タラゾパリブコンジュゲートを単回IP注射により投与した。BRCA2
-/-では、20μmol/kgのPEG-タラゾパリブコンジュゲートの1回注射は、0.87μmol(0.33mg)/kg/日の21日間の投与と同等の腫瘍増殖抑制効果があった(
図12G)。無イベント生存期間の中央値は、10μmol/kgのPEG-タラゾパリブコンジュゲートにより処置された動物では、~5倍増加し、TLZ×21日の連日投与または20μmol/kgのPEG-タラゾパリブコンジュゲートの単回投与により処置された動物では、各々11または13倍増加した(
図12H)。これに対して、BRCA2repletDLD-1腫瘍は、QD経口TLZまたはIP PEG-TLZのいずれに対しても耐性である(
図12Iおよび12J);ここでは、対照に対して、処置した動物のEFS中央値の増加は見られなかった。
【0109】
実施例11
4本アーム型放出可能なコンジュゲートの製造
【化26】
20mLシンチレーションバイアルに、リンカー-タラゾパリブ[式中、Z=アジドであり、n=5であり、R
1=MeSO
2であり、R
2および各R
4=Hであり、Y=N(R
7)CH
2であり、R
7=2-メトキシエチルであり、およびD=タラゾパリブ(392mg,0.538mmol,1.3等量,終濃度34mM)である]およびPEG
40kDa-[5HCO]
4(15.6mL,0.414mmol,1等量,終濃度27mM)の溶液を添加した。反応混合物を、37℃で48時間加熱した。C
18 HPLC(0~100%B,310nm)による分析では、リンカー-TLZは、より極性が高い生成物に変換されていることが確認された。次いで、反応混合物を、50%MeOH/H
2O(1L)に対して18時間、100%MeOHに対して4時間および100%MeOHに対して4時間透析した。透析保持物を濃縮して、THF(30mL)に溶解し、撹拌しているMTBE(250mL)に添加した。得られた懸濁液を、周囲温度で15分間撹拌し、焼結ガラス製漏斗を用いた真空濾過により固体を回収した。回収した固体を、MTBE(3x100mL)で洗浄し、真空下で乾燥させて、所望の生成物[2.93g(0.264mmol TLZ,64%収率)]である式(III)(式中、Z
*は、トリアゾールであり、n=5であり、R
1はMeSO
2であり、R
2はHであり、各R
4はHであり、YはN(R
7)CH
2であり、R
7は2-メトキシエチルであり、Dはタラゾパリブである)を、白色固体として得た。C
18HPLCの純度を、310nmで測定した:92%(0~100%B、R
T=10.39)。
【0110】
100mg/mLのコンジュゲートを含有する溶液を、PEGおよびTLZ含量についてアッセイした。PEG含量を、改変BaCl2/I2アッセイ(4,5)を用いて測定し、PEG-TLZ含量を、9872M-1cm-1を用いて等張酢酸緩衝液中のA310により測定して、3.6の割合を得た(PEG REGに基づいて95%の理論値)。
【0111】
コンジュゲート含有溶液(~100μM)を、H-Lys(DNP)-OH(10mM DMSO, 10μL, 終濃度100μM)を含有する反応速度アッセイ用緩衝液(100mM ホウ酸塩, pH9.4または9.0, 37℃;100mM バイシン, pH8.4, 37℃;100mM HEPES, pH7.4, 37℃;100mM NaOAc, pH5.0, 37℃)中で、37℃で加熱した。定期的に反応の進行を、反応アリコートを直接注入(10μL)して、H2O/MeCN/0.1% TFAにより溶出し、C18 HPLC(310nm)でモニタリングした。ピーク面積を、時間に対してプロットした。160時間pH7.4でタラゾパリブの放出半減期を決定した。
【0112】
実施例12
コンジュゲート(式中、Z
*=カルボキサミドである)の製造
Z
*=カルボキサミドであるコンジュゲートの製造は、PEG-タラゾパリブコンジュゲート(R
1=MeSO
2)の製造により説明され、関連するコンジュゲートは、上記実施例からの式(II)の適切なリンカー-薬剤を置き換えることにより製造できる。
【化27】
【0113】
式(II)のアジド-リンカー-タラゾパリブ(式中、Z=アジドであり、n=2であり、R1=MeSO2であり、R2=Hであり、各R4=Meであり、Y=N(R7)CH2であり、R7=2-メトキシエチルであり、およびD=タラゾパリブである) (実施例1)を、THFに溶解して、氷上で冷却し、酢酸(2.5Eq)で処理した後、1.0Mトリメチルホスフィン/THF(5.0Eq)で処理した。HPLC分析によりアジドが消失するまで反応させて(~2時間)、次いで水(10Eq)を加えて、中間体のホスフィンイミンを分解する。混合溶液を、周囲温度まで昇温させ、20容量のメチル t-ブチルエーテル(MTBE)を加えて、相を分離させる。水相を収集して、MTBEで洗浄し、真空下で乾燥させて、アンモニウム塩を得て、これを水および0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルを用いた分取逆相HPLCにより精製し、次いで真空下で乾燥させる。乾燥させたアンモニウム塩を、THFに溶解し、N2雰囲気下で4本アーム型40kDa PEG-(スクシンイミジルエステル)4(アンモニウム塩に対してスクシンイミジルエステルの0.9当量)/THFの溶液に加え、次いでN,N-ジイソプロピル-エチルアミン(2Eq)を加えた。反応が完了した後(~1時間)、反応混合物を、5倍容量の撹拌した氷冷MTBEにゆっくりと加えることによって生成物を沈殿させ、濾過により回収して、真空下で乾燥させて、式(III)(式中、Mは40kDaの4本アーム型のPEGであり、Z*はカルボキサミドであり、n=2であり、R1=MeSO2であり、R2=Hであり、各R4=Meであり、Y=N(CH2CH2OMe)CH2であり、D=タラゾパリブおよびy=4)のコンジュゲートを得ることができる。
【0114】
平均分子量10~40kDaの種々のPEG-スクシンイミジルエステルが販売されており、上記方法における使用に適している。これらは、一般式:W-{[CH2CH2O]q(CH2)rCOOSu}y(式中、Wが、コア基またはエンドキャップ基であり、q=上述した通りのPEG鎖当たりのエチレンオキシドモノマー数であり、r=1~6であり、y=1~8である)である。典型的なWコア基としては、ペンタエリスリトール(y=4)、ヘキサグリセロール(y=8)、トリペンタエリスリトール(y=8)、ジペンタエリスリトール(y=6)、ソルビトール(y=6)、グリセロール(y=3)ならびに別のポリオール(複数のPEG鎖を、中心に結合する働きをするもの)が挙げられる。特定の実施形態において、Wはペンタエリスリトールであり、y=4である。典型的なエンドキャップ基Wには、(C1-C6)アルコキシ基および炭水化物基が挙げられる。y=2の場合に、PEGは、式(SuOOC)(CH2)rO[CH2CH2O]q(CH2)rCOOSuを有する。
【0115】
Z*=カルバメートであるコンジュゲートは、PEG-(スクシンイミジルエステル)を活性化PEG-炭酸塩(例えば、PEG-(ニトロフェニル炭酸塩))に置換することにより製造することができる。Z*=尿素であるコンジュゲートは、PEG-(スクシンイミジルエステル)を、PEG-イソシアネートに置き換えることによって製造することができる。
【0116】
実施例13
Mが不溶性高分子担体であるコンジュゲートの製造
β脱離により分解する架橋を含むハイドロゲル担体の製造および注射用マイクロスフィアとしての製造は、例えば、米国特許9,649,385号、PCT公開WO2019/152672およびヘニスらのエンジニアリングレポート(2020年4月7日)e12213において既に説明されている。これらの不溶性高分子担体は、以下のように公知の方法に従って、DNA損傷応答阻害剤のコンジュゲートの製造に使用することができる。一実施形態では、非反応性有機溶媒、例えばアセトニトリルに懸濁した遊離アミノ基を含むハイドロゲルマイクロスフィアの無菌懸濁液を、アミノ基に活性化基Z'を結合させる薬剤を用いて処理する。活性化担体M-Z'を溶媒で洗浄して、過剰量の試薬および副産物を除去した後、式(II)のリンカー-薬剤を、リンカー薬剤上の官能基Zと、活性化担体上のZ'との反応をもたらすのに必要な別の試薬とともに加えて、式(I)のコンジュゲートを形成させる(式中、Mは、不溶性高分子担体であり、yは、M上のL-Dの濃度を表す数字である)。
【0117】
ヘニスら(2020)の手順に従って、アセトニトリル中のハイドロゲルマイクロスフィアの滅菌懸濁液を、シクロオクチン試薬である5-ヒドロキシシクロオクチンスクシンイミジルカーボネートおよびトリエチルアミン(4モル等量)の過剰量(ハイドロゲルアミンに対して1.5モル等量)と反応させる。周囲温度で14時間撹拌した後、懸濁液を排出し、活性化マイクロスフィア:M-(Z')y(Z'=シクロオクチン)を洗浄して、過剰量の試薬および副生成物を除去する。未反応のアミノ基は、無水酢酸で処理することによりキャッピングされる。次に、実施例1のアジド-リンカー-薬剤の1.2等量(対応するシクロオクチン基)を、反応容器に加えて、その後、反応容器を37℃に90時間加熱してコンジュゲートの反応を完了させる。得られたコンジュゲート:M-(Z*-L-D)yを洗浄して、未反応試薬および副生成物を除去し、適宜投与に適した製剤用緩衝液に交換する。
【0118】
本明細書において引用された文書は、参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】