(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】脳癌型の識別
(51)【国際特許分類】
G01N 21/552 20140101AFI20221027BHJP
G01N 21/3577 20140101ALI20221027BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
G01N21/552
G01N21/3577
G01N33/49 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514006
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(85)【翻訳文提出日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2020074391
(87)【国際公開番号】W WO2021043787
(87)【国際公開日】2021-03-11
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521154420
【氏名又は名称】ディーエックスカバー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】マシュー ジェイ ベイカー
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス キャメロン
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
【Fターム(参考)】
2G045AA14
2G045AA26
2G045BB10
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB17
2G045DA20
2G045FA14
2G045FA25
2G045JA01
2G059AA06
2G059BB04
2G059BB13
2G059CC16
2G059DD04
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE12
2G059HH01
2G059HH06
2G059MM01
2G059MM05
2G059MM10
(57)【要約】
本発明は、脳腫瘍を有する疑いのある被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定する方法に関する。本発明はまた、脳腫瘍を有する疑いのある被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定するための診断キット、および、脳腫瘍を有する疑いのある被検体のための治療の選択を促進する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳腫瘍を有する疑いのある被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定する方法であって、
前記被検体から単離された血液サンプル(またはその成分)に分光分析を行って、前記血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを得ることであって、前記分光分析は、減衰全反射FTIR(ATR-FTIR)である、ことと、
前記得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを用いて、前記被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャが、400~4000cm
-1のスペクトルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャが、900~1800cm
-1のスペクトルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャが、1400~1800cm
-1のスペクトルである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記リンパ腫が、中枢神経系(CNS)リンパ腫を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
シリコン内部反射要素が、分光分析中に前記血液サンプル(またはその成分)を支持する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
「ATR結晶」が、分光分析中に前記血液サンプル(またはその成分)を支持する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記神経膠腫が、多形性神経膠芽腫である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャの少なくとも一部が対照分光学的シグニチャの少なくとも一部よりも低い場合、前記被検体は前記神経膠腫を有すると判定され、前記得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャの少なくとも一部が対照分光学的シグニチャの少なくとも一部よりも高い場合、前記被検体は前記リンパ腫を有すると判定される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対照分光学的シグネチャが、神経膠腫またはリンパ腫の判定との相関を導き出すために、データベース(例えば、「トレーニングセット」)に保存された複数の事前相関シグネチャを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを用いて前記被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定することが、事前相関分析のデータベースの(例えば、パターン認識アルゴリズムを介した)「トレーニング」によって開発された予測モデルに基づいて、前記得られた分光学的シグネチャを神経膠腫またはリンパ腫の判定と相関させることを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを用いて前記被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定することが、前記被検体の治療の決定を促進する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記血液サンプルまたはその成分中の1つまたは複数の生物学的マーカーの状態を検出することをさらに含む、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記1つまたは複数の生物学的マーカーの状態の検出が、前記マーカーが変異を含むか、あるいは野生型として存在するかを検出することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記血液サンプルまたはその成分中の前記1つまたは複数の生物学的マーカーの状態が、前記血液サンプルまたはその成分から得られたサイズ分画されたサンプルに対して行われる、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記サイズ分画された血液サンプルまたはその成分が、前記サンプルの遠心濾過によって得られたものである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記1つまたは複数の生物学的マーカーが、IDHを含む、請求項13~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記被検体が前記神経膠腫を有すると判定された場合、前記被検体の少なくとも1つの治療の決定が促進され、前記被検体が前記リンパ腫を有すると判定された場合、前記被検体の少なくとも1つの他の異なる治療の決定が促進される、請求項12~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記被検体が前記リンパ腫を有すると判定された場合、化学療法および/または放射線療法による治療が選択され、前記被検体が前記神経膠腫を有すると判定された場合、外科手術による治療が選択され、任意で、生物学的マーカーの状態が、行うべき切除の程度を外科医が決定するのに役立つ、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記血液サンプルが、血清または血漿である、請求項1~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
脳腫瘍を有する疑いのある被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定するための診断キットであって、
前記被検体から血液サンプル(またはその成分)を受け取り、前記被検体の血液サンプル(またはその成分)に分光分析を行って前記血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャを作成するように構成される装置と、
前記得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャを用いて、前記被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定する装置とを含み、
前記分光分析が、減衰全反射FTIR(ATR-FTIR)である、
診断キット。
【請求項22】
前記血液サンプル(またはその成分)に分光分析を行う装置が、前記被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定する装置と同一である、請求項21に記載の診断キット。
【請求項23】
前記被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定する装置が、コンピュータを含むか、コンピュータと通信し、前記コンピュータには、被検体の血液サンプルの分光学的シグニチャに基づいて神経膠腫およびリンパ腫に関する判定を行うように前記コンピュータを動作させるように構成されたコンピュータソフトウェアがインストールされる、
請求項21または2に記載の診断キット。
【請求項24】
血液サンプルを受け取るように構成された前記装置が、必要な厚さおよび乾燥度の血液サンプル(またはその成分)を自動的に調製するように構成される、請求項21~23のいずれかに記載の診断キット。
【請求項25】
請求項23に記載のコンピュータソフトウェアを含む、コンピュータ可読媒体。
【請求項26】
脳腫瘍を有する疑いのある被検体のための治療の選択を促進する方法であって、
前記被検体から単離された血液サンプル(またはその成分)に分光分析を行って、前記血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャを得ることであって、前記分光分析は、減衰全反射FTIR(ATR-FTIR)である、ことと、
前記得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャを用いて前記被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定することと、前記神経膠腫またはリンパ腫の判定に基づいて治療を選択することと含む、方法。
【請求項27】
前記被検体が前記リンパ腫を有すると判定された場合、化学療法および/または放射線療法による治療が選択され、前記被検体が前記神経膠腫を有すると判定された場合、外科手術による治療が選択される、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳腫瘍を有する疑いのある被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定する方法に関する。本発明はまた、脳腫瘍を有する疑いのある被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定するための診断キット、および、脳腫瘍を有する疑いのある被検体のための治療の選択を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳腫瘍罹患率は1990年代初頭から増加しており、イギリスだけでも34%増加している。患者生存の改善にもかかわらず、診断後10年以上生存する患者はわずか14%であり、平均余命の20年の短縮は全ての癌の中で最も高い。腫瘍型の迅速かつタイムリーな診断および判定は、管理と患者の転帰とを促進する上で重要である。
【0003】
脳腫瘍に最も頻繁に関連する症状は、頭痛など非特異的症状である。こういった一般的な症状がある患者のうちのどの患者に脳腫瘍の可能性が最も高く脳撮像を早期に行うべきかを特定することは、医師にとって課題である。結果として、診断までに患者は一般開業医(general practitioner:GP)を何度も訪問することが多く、患者の3分の2近くは、悪化してから救急科で診断されることになる。既存の紹介ガイドラインは感度および特異度に欠けており、一次医療から緊急の脳撮像を紹介された患者のうち脳腫瘍を有するものはわずか1.6%であり、多くの脳スキャンが不要であることを示唆している。
【0004】
脳腫瘍は、磁気共鳴画像法(MRI)やコンピュータ断層撮影法(CT)の脳撮像で診断されるが、その基となる起始細胞に応じてさまざまな種類がある。撮像だけでは腫瘍型を確実に特定することはできないということは重大な問題である。異なる脳腫瘍型、例えば、中枢神経系(central nervous system:CNS)リンパ腫および神経膠芽腫(膠芽腫)(glioblastoma:GBM)は、MRIで類似の外観を示し得るが、治療オプションは大きく異なる。また、神経膠腫の状態は、必要とされる手術の程度に影響し得る。例えば、最大限安全な外科的切除の試みは、IDH1変異型神経膠腫の患者にとってはより理にかなっているが、IDH1野生型神経膠腫の患者には、より限局的な切除の方がより適切であるかもしれない。
【0005】
脳腫瘍型には、外科手術による治療が最も一般的なものもあれば、放射線療法および/または化学療法を用いた治療が最も一般的なものもある。異なる脳腫瘍型を明確に区別するための検査がない場合、医師は、腫瘍型が判明することを期待して、および、もし腫瘍が外科手術で治療できる型であれば腫瘍を除去することを期待して、ファーストパスとして外科手術を採用することが多い。しかし、脳外科手術には、脳卒中や死亡などの深刻なリスクが伴う。一般的に外科手術で治療されない腫瘍型であることが判明した患者にとっては、不要なリスクに曝されることになる。また、化学療法および/または放射線療法などのより適した治療の開始が遅れることにもなる。
【0006】
最近、血液中のさまざまなバイオマーカーが特定の疾患の有用な指標として同定されている。例えば、サイトカイン、ケモカイン、および成長因子は、さまざまな生理学的反応を媒介する細胞シグナル伝達タンパク質であり、さまざまな疾患に関連する。このような分子は、一般に生物学的検定または免疫学的検定によって検出されるが、一度に1つの検体しか分析できない場合が多いため、どちらも時間がかかる可能性がある。
【0007】
より最近では、振動分光法に基づく分析手法が疾患診断の分野で登場している。特にフーリエ変換赤外分光法(Fourier-transform infrared spectroscopy:FTIR)は、医学研究においてどんどん普及している。FTIR分光法では、生体サンプルに赤外線(IR)光を照射する。この光の吸光度は、サンプル内において分子振動および遷移を引き起こし、生化学的指紋を表すIRスペクトルを生じ、存在するタンパク質、脂質、炭水化物、および核酸のレベルを特性化および定量化することができる。これらの生体分子成分の不均衡は、疾患状態の目安となり得る。
【0008】
脳外科手術を要さずに脳腫瘍型を正確かつ迅速に区別できる方法が明らかに必要である。本発明は、上記の問題の1つまたは複数に対処することを目的とする。
【発明の概要】
【0009】
広義には、本開示は、被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかの判定における、被検体からのサンプルに対する減衰全反射FTIRの使用に関する。
【0010】
第1の態様によれば、脳腫瘍を有する疑いのある被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定する方法が提供される。本方法は、被検体から単離された血液サンプル(またはその成分)に分光分析を行って、血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを得ることを含む。ここで、分光分析は、減衰全反射FTIR(ATR-FTIR)である。本方法はさらに、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを用いて被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定することを含む。
【0011】
神経膠腫やリンパ腫などの異なる脳腫瘍型を区別することは非常に難しい。2つの脳腫瘍型を区別しようとするMRIなどの現行の方法は、不正確であることが多く、コストも高い。脳外科手術などの他の方法は、患者に侵襲的であり、高リスクである。また、これらの方法は、時間がかかる。その結果、患者の治療の開始が遅れる可能性がある。脳腫瘍の深刻さを考えると、時間は極めて重要であり、不必要な遅延は被検体の生存率にかかわる。本発明は、患者の神経膠腫とリンパ腫とを区別するための迅速な検査を提供する。これにより、医師や臨床医は、被検体に最も適切な治療を迅速に選択して開始できるため、時間の遅れを軽減し、被検体が治療に反応する可能性を高めることができる。加えて、本方法は、脳外科手術と比較して非侵襲的であり、分析に必要なのは被検体からの血液サンプルのみである。こうして、有利なことに、被検体が脳外科手術の深刻なリスクに不必要にさらされることがなくなる。この検査はまた、神経膠腫とリンパ腫との区別においてかなり高い精度を有し、脳腫瘍型を判定する現行の方法よりも安価である。
【0012】
実施形態において、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを用いた被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかの判定は、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを分析して、被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを示す分析を得ることを含む。
【0013】
得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャの分析は、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを1つまたは複数の対照分光学的シグネチャと比較することを含んでいてもよい。
【0014】
有利なことに、分析によって、被検体は、リンパ腫を有する被検体または神経膠腫を有する被検体に分類される。分析は、通常、臨床医の判断を促進するために臨床医に提示される。これにより、臨床医によるユーザーエラーの可能性が低下し、判定の精度が向上し、臨床医の負担が軽減される。
【0015】
本発明者らは、得られた分光学的シグネチャに1つまたは複数のアルゴリズムを適用することによって得られた分光学的シグネチャを分析できることを見出した。したがって、実施形態において、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャの分析は、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャにアルゴリズムを適用することを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャへのアルゴリズムの適用は、(さらに)、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを1つまたは複数の対照分光学的シグネチャと比較することを含む。
【0017】
実施形態において、対照分光学的シグネチャは、リンパ腫および/または神経膠腫の被検体からのものであると以前に判定された1つまたは複数の事前相関シグネチャを含む。対照分光学的シグネチャは、神経膠腫またはリンパ腫の判定との相関を導き出すためにデータベース(例えば、「トレーニングセット」)に保存された複数の事前相関シグネチャを含んでもよい。例えば、本方法は、当該データベースを使用するかまたは当該データベースから少なくとも部分的に開発されたアルゴリズムを適用することを含んでいてもよい。1つまたは複数の対照分光学的シグネチャのさらなる詳細については後述する。
【0018】
得られた分光学的シグネチャに1つまたは複数のアルゴリズムを適用することにより、被検体を、神経膠腫を有する恐れのある被検体またはリンパ腫を有する恐れのある被検体に分類することができる。得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを用いて被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定するこの能力は、神経膠腫を有する被検体から得られる分光学的シグネチャとリンパ腫の被検体から得られる分光学的シグネチャとの間の違いがわずかであるかほとんどないことから鑑みて、とりわけ驚くべきものである。
【0019】
アルゴリズムは、予測モデルを含んでもよい。予測モデルは、事前相関シグネチャのデータベースを(例えば、パターン認識アルゴリズムを介して)「トレーニング」することによって開発されてもよい。このように、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャを用いた被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかの判定は、予測モデルを使用して得られた分光学的シグネチャを神経膠腫またはリンパ腫の判定と相関させることを含んでいてもよい。
【0020】
「事前相関シグニチャ」は、神経膠腫またはリンパ腫の判定と相関するとすでに判定されたシグニチャを指す。例えば、事前相関シグネチャは、リンパ腫または神経膠腫を有することが知られている被検体から単離された血液サンプル(またはその成分)から得られたものであってもよい。このように、いくつかの実施形態において、本方法はさらに、神経膠腫またはリンパ腫を有することがすでに知られている被検体から単離された血液サンプル(またはその成分)から分光学的シグネチャを得ることによって事前相関シグネチャのデータベースをまとめることを含む。
【0021】
事前相関シグネチャのデータベースのトレーニングは、事前相関分光学的シグネチャに分類モデルを適用することを含んでいてもよい。こうして、分類モデルを用いて得られたパターン認識アルゴリズムなどのアルゴリズムを、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグネチャに適用して、被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定することができる。
【0022】
適した分類モデルには、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、および部分最小二乗判別分析が含まれるが、これらに限定されない。本発明者らは、これらのモデルのそれぞれが、被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定することができることを見出した。いくつかの実施形態において、分類モデルは、部分最小二乗判別分析を含む。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、部分最小二乗判別分析が、被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかの判定において特に正確であると考える。これは、本発明者にとって全く予想外である。
【0023】
いくつかの実施形態において、分類モデルはさらに、1つまたは複数の非バイアス法を含む。非バイアス法は、例えば、リンパ腫を有する被検体に対して神経膠腫を有する被検体のサンプル数が多いなど、トレーニングセットまたはサンプルセットが一方向にバイアスされている場合に、バイアスがないようにするのに役立つ。
【0024】
適した非バイアス方法には、アップサンプリング、ダウンサンプリング、および合成マイノリティオーバーサンプリング手法(synthetic minority over-sampling technique:SMOTE)が含まれるが、これらに限定されない。アップサンプリングは、マイノリティクラスを繰り返しサンプリングしてサンプル数を増やすことを含む(Simafore et al.,2019)。ダウンサンプリングでは、マジョリティクラスのサブセットをランダムに選択し、余分なサンプルを削除してマイノリティクラスと同じサイズにする。SMOTEでは、データを人為的に混合して「新しい」サンプルを作成し、よりバランスの取れたデータセットを実現する(Chawla et al.,2002)。
【0025】
いくつかの実施形態において、分類モデルはさらに、アップサンプリングまたはSMOTEを含む。分類モデルはさらに、SMOTEを含んでもよい。
【0026】
いくつかの実施形態において、分類モデルは、SMOTEおよびランダムフォレスト、サポートベクターマシン、および部分最小二乗判別分析のうちの1つを含む。
【0027】
実施形態において、分類モデルは、ランダムフォレストおよびSMOTE、部分最小二乗判別分析およびSMOTE、またはサポートベクターマシンおよびアップサンプリングを含む。
【0028】
いくつかの実施形態において、予測モデル、事前相関シグニチャのデータベース、および/またはアルゴリズムを提供する。
【0029】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法はさらに、血液サンプルまたはその成分中の1つまたは複数の生物学的マーカーの状態を検出することを含んでいてもよい。1つまたは複数の生物学的マーカーの状態の検出において、該1つまたは複数のマーカーが変異を含むか、あるいは野生型として存在するかを検出してもよい。バイオマーカーの状態の検出は、当技術分野で既知の任意の手段によって行われてもよいが、本発明者らは、ATR-FITRを使用してバイオマーカーの状態を判定できることを有利に発見した。このように、本開示は、いくつかの実施形態において、血液サンプルまたはその成分にATR-FITRを用いて被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを識別する方法を提供するだけでなく、ATR-FITRを用いたバイオマーカーの状態に基づいて神経膠腫の型または悪性度(grade)を提供する。
【0030】
いくつかの実施形態において、血液サンプルまたはその成分中の1つまたは複数の生物学的マーカーの状態を検出する方法は、本開示に従って神経膠腫を有すると特定された被検体に対して行われる。あるいは、いくつかの実施形態において、血液サンプルまたはその成分中の1つまたは複数の生物学的マーカーの状態を検出する方法は、被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかの検出と同時にまたは並行して行われてもよい。
【0031】
血液サンプルまたはその成分中の1つまたは複数の生物学的マーカーの状態を検出する方法は、血液サンプルまたはその成分から得られたサイズ分画されたサンプルに対して行われてもよい。サイズ分画により、通常は遠心分離によって、異なる分子量の生体分子を異なる画分に分離することができる。例えば、市販の超遠心濾過装置(例えば、Amicon Ultra)によって、高分子量の物質が濃縮液内に保持され低分子量の物質がフィルタを通過して濾液内に維持されるようにサンプルを遠心分離することができる。高分子量の物質を低分子量の物質から分離するために、分子量カットオフ値の異なる遠心濾過装置が利用可能である。高分子量物質から特定のバイオマーカーを分離するために、20、15、10、5、または3kDa未満の物質を濾過できる濾過装置を使用してもよい。
【0032】
一実施形態において、マーカーは、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)である。ヒトサイトゾルイソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)遺伝子の体細胞変異は、神経膠腫で頻繁に観察される特徴である。IDH1変異は、神経膠腫形成の初期段階で発生する傾向がある。これは、低悪性度神経膠腫、びまん性星状細胞腫、乏突起膠腫で最も一般的に見られる一方、神経膠芽腫(GBM)が以前に診断されたびまん性または退形成星状細胞腫から発生する場合を除いて(>80%)、悪性神経膠腫、神経膠芽腫(GBM)ではそれほど一般的ではない(10%)。結果として、IDH1変異は、組織病理学的分析だけでは区別がつきにくいが治療法と予後プロファイルが異なる腫瘍実体の分化を支援することによって、貴重な診断マーカーとして機能する。
【0033】
IDH1と同様に、他のバイオマーカーも異なる悪性度や型の神経膠腫に関連することが知られており、そのようなバイオマーカーの状態を検出することで、被検体が持つ可能性のある神経膠腫の型をさらに区別できる可能性がある。以下の表は、主要な神経膠腫の亜型に関連する一般的な遺伝子および染色体異常を示している。
【0034】
【0035】
NF1:神経線維腫症1型;FGFR1:線維芽細胞成長受容体1;IDH2:イソクエン酸デヒドロゲナーゼ2;TP53:腫瘍抑制タンパク質53;ATRX:アルファサラセミア/精神遅滞症候群X連鎖変異;LOH17p:17番染色体上のヘテロ接合性の喪失;TERT:テロメラーゼ逆転写酵素;PTEN:ホスファターゼおよびテンシンホモログ;MGMT:O(6)-メチルグアニン-DNA-メチルトランスフェラーゼ;EGFR:上皮成長因子受容体。
【0036】
被検体の生物学的マーカーの状態(例:IDH1状態)を理解することによって、予後の指標が与えられるため、切除の範囲を限定する方法や外科手術に対する積極性の観点から外科医に情報を提供することができる。例えば、最大限安全な外科的切除の試みは、IDH1変異型神経膠腫の患者にとってはより理にかなっているかもしれないが、IDH1野生型神経膠腫には、より限局的な切除の方がより適切であるかもしれない。
【0037】
本明細書において、血液サンプルの「成分」は、血漿または血清などの血液サンプルの成分を指す。本明細書において、「血漿」は、通常、全血中の血球を懸濁状態に保持する血液のわら色/淡黄色の液体成分を指す。これは、総血液量の約55%を占める。これは、細胞外液(細胞外の全ての体液)の血管内液部分である。主に水(93体積%)であり、溶解したタンパク質(主要なタンパク質は、フィブリノーゲン、グロブリン、およびアルブミンである)、グルコース、凝固因子、ミネラルイオン(Na+、Ca”、Mg”、HCO3 CI-など)、ホルモン、および二酸化炭素(血漿は排泄物輸送の主な媒体である)を含む。なお、血漿サンプルには、EDTA血漿とクエン酸血漿の両方が適している。また、ヘパリン血漿も適している。本発明の文脈において、「血清」は、血球(血清は白血球や赤血球を含まない)でも凝固因子でもない成分を指す。これは、フィブリノーゲンが除去された血漿である。
【0038】
従来、ATR-FTIR分光計には、内部反射要素(internal reflection element:IRE)と呼ばれる分析ポイントがある。分光分析時に、赤外線ビームは、サンプルが支持されているIREを通過する。ビームはIREで内部反射され、IREとサンプルとの界面でエバネッセント波を形成する。このエバネッセント波は、定義された侵入深さでサンプルを照合する。ビームまたは「エバネッセント波」がIREを出ると、ビームまたはエバネッセント波は赤外線検出器に受信される。エバネッセント波によるサンプルの各照合は、スキャンとも呼ばれる。
【0039】
よって、「分光分析」は、本明細書では赤外線分析とも呼ばれる。
【0040】
分光分析は、血液サンプル(またはその成分)の少なくとも1回のスキャンを含んでもよい。いくつかの実施形態において、分光分析は、血液サンプル(またはその成分)の複数回のスキャンを含む。複数回のスキャンは、血液サンプル(またはその成分)の少なくとも2回、少なくとも4回、少なくとも6回、少なくとも8回、少なくとも10回、少なくとも12回、少なくとも14回、少なくとも16回、少なくとも18回、または少なくとも20回のスキャンを含んでもよい。いくつかの実施形態において、分光分析は、血液サンプル(またはその成分)の少なくとも30回、少なくとも40回、少なくとも50回、または少なくとも100回のスキャンを含む。実施形態において、分光分析は、少なくとも2回および100回以下のスキャン、任意に少なくとも30回および100回以下のスキャンを含む。実施形態において、分光分析は、少なくとも10回および40回以下のスキャン、任意に少なくとも10回および30回以下のスキャンを含む。いくつかの実施形態において、分光分析は、16回のスキャンを含む。実施形態において、分光分析は、32回のスキャンを含む。スキャン数は、データコンテンツとデータ取得時間を最適化するために適切に選択される。
【0041】
本発明の文脈において、「分光学的シグニチャ」は、血液サンプル(またはその成分)から得られる赤外スペクトルを指す。赤外スペクトルをグラフで視覚化して、赤外光吸収度または放射率を示すことができる。このように、実施形態において、得られた分光学的シグニチャは、赤外光吸収度を示すためにグラフで視覚化された血液サンプル(またはその成分)の赤外スペクトルを指す。
【0042】
当業者が理解するように、赤外線スペクトルのセクションの吸光度のレベルを使用して、血液サンプル(またはその成分)に存在する分子の種類および割合を示すことができる。これは、血液サンプル(またはその成分)の各分子が1つまたは複数の振動周波数を有するためである。赤外線放射の周波数が振動周波数と一致すると、吸光度が発生する。赤外線放射の周波数の典型的な単位はcm-1である。
【0043】
実施形態において、血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャは、4000~400cm-1のスペクトルである。4000~400cm-1のスペクトルは、4000~400cm-1の赤外線放射で得られる赤外線スペクトルを指す。
【0044】
実施形態において、血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャは、3000~500cm-1のスペクトルである。任意に、血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャは、2000~600cm-1のスペクトル、任意に900~1800cm-1のスペクトルである。900~1800cm-1のスペクトルは、900~1800cm-1の赤外線放射で得られる赤外線スペクトルを指す。
【0045】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、900~1800cm-1のスペクトルは、神経膠腫を有する被検体とリンパ腫を有する被検体との間で異なる分子の種類および比率を示すと考える。これらの違いはわずかかもしれないが、本発明者らは、得られた分光学的シグニチャのさらなる分析によって、これらの違いに基づいて被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定できることを有利に見出した。
【0046】
いくつかの実施形態において、血液サンプルに特徴的な分光学的シグニチャは、900、1000、1100、1200、1300、または1400から1500、1600、1700、または1800cm-1のスペクトルである。いくつかの実施形態において、血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャは、1400~1800cm-1のスペクトルである。血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャは、1500~1700cm-1のスペクトルであってもよく、任意に1550~1700cm-1のスペクトルであってもよい。1500~1700cm-1のスペクトルは、アミドIおよびアミドII領域を含む。アミドIおよびアミドII領域は、血液サンプル(またはその成分)中のタンパク質の吸光度または放射率に関連することが当該技術分野で知られているスペクトルの領域である(Barth et al.およびGlassford et al.)。本発明者らは、アミドIおよび/またはアミドII領域が、神経膠腫の被検体とリンパ腫の被検体との間の差異を含むことを発見した。したがって、例えば、アミドIおよび/またはアミドII領域を、1つまたは複数のアルゴリズムを使用して有利に分析して、被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定することができる。
【0047】
1150~1000cm-1のスペクトルは、核酸物質、グリコーゲン、および炭水化物の吸光度または放射率に関連している。
【0048】
分光学的シグニチャは、血液サンプルから得られたスペクトルの一部を含むか、または当該一部からなっていてもよい。よって、実施形態において、血液サンプル(またはその成分)から得られるスペクトルは、5000~100cm-1、4000~400cm-1
、または4000~450cm-1の範囲にあってもよい。そして、分光学的シグニチャは、この得られた範囲の一部、例えば、900、1000、1100、1200、1300、または1400から1500、1600、1700、または1800cm-1のスペクトルを含んでもよい。分光学的シグニチャは、被検体の生化学的指紋として効果的に機能する。
【0049】
スペクトルの分解能は、10cm-1以下、5cm-1以下、または4cm-1以下であってもよい。実施形態において、スペクトルの分解能は、1~4cm-1であってもよい。
【0050】
実施形態において、「ATR結晶」は、分光分析中に血液サンプル(またはその成分)を支持する。ATR結晶は、固定IREである。ATR結晶は、ダイヤモンド、セレン化亜鉛、またはゲルマニウムで形成されてもよい。実施形態において、ATR結晶は、単一の反射ダイヤモンド結晶を含むか、単一の反射ダイヤモンド結晶からなる。
【0051】
実施形態において、シリコン内部反射要素(IRE)は、分光分析中に血液サンプル(またはその成分)を支持する。シリコンIREは、ATR結晶よりも安価である。便利なことに、シリコンIREは使い捨てである(したがって、ATR結晶のように固定されていない)ため、複数のサンプリング点の高スループット分析が可能である。シリコンIREでは、バッチ分析、および必要に応じて分析を繰り返すオプションも可能である。
【0052】
血液サンプルの容量は、約0.1~10μLであってもよく、任意に約0.1~5μLであってもよい。いくつかの実施形態において、血液サンプルの容量は、約3μLである。
【0053】
本方法はさらに、分光分析の前に血液サンプル(またはその成分)をATR結晶またはシリコンIREの表面に塗布することを含んでいてもよい。ATR結晶またはシリコンIREの表面に塗布した後、血液サンプルを分光分析の前にある期間、任意に5分~2時間乾燥させてもよい。いくつかの実施形態において、分光分析の前に、血液サンプルを30分~90分、任意に1時間乾燥させてもよい。乾燥は、20℃以上40℃以下、好ましくは30℃以上37℃以下の温度で行ってもよい。
【0054】
血液サンプルがATR結晶またはシリコンIREの表面で乾燥したものは、血液サンプルフィルムとも呼ばれる。血液サンプルフィルムは、+/-40μm以下の誤差で実質的に均一な厚さであってもよい。
【0055】
ATR結晶またはシリコンIREの表面全体の血液サンプル(またはその成分)(あるいは、少なくとも分光分析にさらされるその一部)の平均膜厚は、0.1~200μm、任意に1~100μm、任意に2~50μmであってもよい。ATR結晶またはシリコンIREの表面全体の血液サンプル(またはその成分)(あるいは、少なくとも分光分析にさらされるその一部)の最大膜厚(すなわち、最大厚さ点)は、1~200μm、任意に2~100μmであってもよい。実施形態において、最大膜厚は、5~50μm、任意に2~8μmである。ATR結晶またはシリコンIREの表面全体の血液サンプル(またはその成分)(あるいは、少なくとも分光分析にさらされるその一部)の最小膜厚(すなわち、最小厚さ点)は、0~40μm、任意に1~20μm、さらに任意に2~10μmであってもよい。
【0056】
白色光干渉法による得られたフィルムの分析は、適切な膜厚を検証するようにATR結晶またはシリコンIREの表面全体の膜厚を示すことができる。本発明者らは、適切な厚さのフィルムを作成することにより、サンプル調製に関連するシグネチャの変動を低減でき、観測される血液サンプル間のシグニチャの変動を、サンプル調製におけるばらつきよりも、相違する組成により確実に帰することができることを見出した。
【0057】
実施形態において、血液サンプル(またはその成分)は、被検体から単離されたバルク血液サンプルの一部を含む。こうして、バルク血液サンプルの他の部分は、後にさらなる分光分析に使用でき、結果の検証を支援することができる。各血液サンプルに、少なくとも2つ、任意に少なくとも3つの分光分析を行ってもよい。任意に、個々の分光分析を同じサンプルで少なくとも2回、好ましくは少なくとも3回繰り返して、結果の検証に役立てる。
【0058】
得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャを用いた被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかの判定は、臨床医によって実施されてもよい。実施形態において、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャを用いた被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかの判定は、自動化される。自動化は、例えば、コンピュータまたはコンピュータ用媒体にインストールされたコンピュータソフトウェアによる計算であってもよい。
【0059】
実施形態において、得られた分光学的シグニチャへの1つまたは複数のアルゴリズムの適用は、自動化される。例えば、得られた分光学的シグニチャへの1つまたは複数のアルゴリズムの適用は、コンピュータソフトウェアによるものであってもよい。コンピュータソフトウェアは、コンピュータまたはコンピュータ用媒体にインストールされてもよい。
【0060】
本発明者らは、驚くべきことに、得られた分光学的シグニチャの少なくとも一部が、被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかによって異なることを見出した。これは、神経膠腫の被検体とリンパ腫の被検体のサンプルの光吸収が異なるためである。したがって、得られた分光学的シグニチャが赤外光吸収を示すためにグラフに表示された血液サンプル(またはその成分)の赤外スペクトルを参照する実施形態において、神経膠腫の被検体の得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャの少なくとも一部は、リンパ腫の被検体の得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャの対応する部分よりも低い赤外光吸収度を示し得る。同様に、リンパ腫の被検体の得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャの少なくとも一部は、神経膠腫の被検体の血液サンプル(または成分)に特徴的な得られた分光学的シグニチャの対応する部分よりも高い赤外光吸収度を示し得る。得られた分光学的シグニチャの少なくとも一部は、1400~1800cm-1のスペクトル、任意に1500~1700cm-1のスペクトル、または任意に1550~1700cm-1のスペクトルを参照してもよい。
【0061】
得られた分光学的シグニチャの部分は、1400~1800cm-1の血液サンプル(またはその成分)から得られたスペクトルを含むか、または該スペクトルからなってもよく、任意に、1500~1700cm-1または1550~1700cm-1の血液サンプル(またはその成分)から得られたスペクトルを含むか、または該スペクトルからなってもよい。
【0062】
例えば、得られた分光学的シグニチャの部分が、1400~1800cm-1の血液サンプル(またはその成分)から得られたスペクトルを含むかまたは該スペクトルからなる場合、得られた分光学的シグニチャの「対応する部分」は、1400~1800cm-1のスペクトルを含むかまたは該スペクトルからなる。
【0063】
実施形態において、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャの少なくとも一部が対照分光学的シグニチャの少なくとも一部よりも低い場合、被検体は神経膠腫を有すると判定される。得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャの少なくとも一部が対照分光学的シグニチャの少なくとも一部よりも高い場合、被検体はリンパ腫を有すると判定されてもよい。このような実施形態において、比較できるように、血液サンプルから得られた分光学的シグニチャおよび対照分光学的シグニチャの両方が赤外光吸収度に関わるか、あるいは赤外光放射率に関わるものであるとよい。
【0064】
得られた分光学的シグニチャは、血液サンプル(またはその成分)に特徴的な得られた前処理分光学的シグニチャを用いて被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定する前に、前処理されてもよい。
【0065】
前処理技術は、当業者に周知である。前処理は、得られた分光学的シグニチャの正規化、得られた分光学的シグニチャのベースライン補正、得られた分光学的シグニチャのデータ削減、および/または、得られた分光学的シグニチャのビニングのうちの1つまたは複数を含んでもよい。正規化は、健康な被検体または脳腫瘍でないことが知られている被検体からの1つまたは複数の分光学的シグニチャに対する、得られた分光学的シグニチャの正規化を含んでもよい。
【0066】
前処理は、コンピュータにインストールされたコンピュータソフトウェアを使用して行ってもよい。実施形態において、前処理コンピュータソフトウェアは、コンピュータソフトウェアRStudioを含む。前処理は、RStudioコンピュータソフトウェアのPRFFECTツールボックスを使用して行ってもよい。有利なことに、前処理によって、スペクトルの不要な分散が低減される。
【0067】
ビニングは、2、4、6、8、または10倍であってもよい。実施形態において、ビニングは8倍である。
【0068】
本明細書において、「リンパ腫」は、リンパ球の癌を定義する。リンパ腫の発症は、一般的にリンパ節および/またはリンパ系の臓器で発生する。リンパ腫は、中枢神経系(CNS)リンパ腫、任意に原発性CNSリンパ腫または続発性CNSリンパ腫であってもよい。リンパ腫は、脳にあってもよい。
【0069】
悪性神経膠腫の3つの主な種類は、星状細胞腫、上衣腫、および乏突起膠腫である。本発明は、これらの種類の神経膠腫のうちの1つまたは複数に関係し得る。3つの主な種類の神経膠腫にある組織学的特徴の混合を有する腫瘍は、混合神経膠腫として知られており、本発明はまた、これをリンパ腫と区別してもよい。以下の[表1]は、高悪性度および低悪性度神経膠腫の亜型を示す。
【0070】
【0071】
実施形態において、神経膠腫は、低悪性度神経膠腫である。あるいは、神経膠腫は、高悪性度神経膠腫であってもよい。神経膠腫は、毛様細胞性星状細胞腫、乏突起膠腫、星状細胞腫、退形成星状細胞腫、乏突起膠腫、多形性神経膠芽腫の亜型のうちの1つまたは複数を含んでもよい。
【0072】
実施形態において、神経膠腫は、悪性度IIIまたは悪性度IVの神経膠腫である。神経膠腫は、多形性神経膠芽腫であってもよい。
【0073】
磁気共鳴画像(MRI)などの被検体の脳を以前に撮影した画像によって、被検体は脳腫瘍を有する疑いがあるとしてもよい。いくつかの実施形態において、本方法は、被検体の脳を撮像する予備ステップを含み、撮像は、任意に、MRIスキャナを用いた被検体の脳の撮像を含む。
【0074】
脳腫瘍の症状には、頭痛、吐き気、および/または、嘔吐、錯乱、記憶喪失、人格変化、バランス困難、尿失禁、視力喪失、言語障害、および発作のうちの1つまたは複数が含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0075】
したがって、被検体が上記の症状のうちの1つまたは複数を示す場合、被検体は脳腫瘍を有する疑いがあるとしてもよい。
【0076】
被検体は、動物、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物には、馬、犬、猫、鳥、およびヒトが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、被検体は、ヒト被検体である。
【0077】
実施形態において、血液サンプルは、血清または血漿である。いくつかの実施形態において、血液サンプルは、血清である。
【0078】
実施形態において、血清は、全血清であり、最も好ましくは全ヒト血清である。全血清は、分光分析に直接使用してもよい。あるいは、血清サンプルは、分光器の要件(例えば、感度)および分析されるサンプルに必要な均一性に応じて希釈されてもよい。
【0079】
他の実施形態において、血清は、遠心濾過された血清であり、特定の分子量を超える分子が除去されている。例えば、血清を遠心濾過して、100kDa(キロダルトン)を超える分子量を有する成分を除去してもよい。他の実施形態において、血清を遠心濾過して、10kDaを超える分子量を有する成分を除去してもよい。他の実施形態において、血清を遠心濾過して、3kDaを超える分子量を有する成分を除去してもよい。上記の遠心濾過された血清のいずれかまたは全ては、分光分析に直接使用してもよい。あるいは、遠心濾過された血清サンプルは、分光器の要件(例えば、感度)および分析されるサンプルに必要な均一性に応じて希釈されてもよい。
【0080】
血液サンプルが血清である場合、血清サンプルは、抽出された血液サンプルを、適切には室温で、適切には25分から1時間10分の間、最初に凝固させることによって適切に調製される。次に、血清を適切に遠心分離または濾過して、沈殿物のサンプルを取り除く。遠心分離は、9000~20000rpm、適切には10000~15000rpm、適切には5~20分間、適切には2~8℃で適切に行われる。血清サンプルの濾過には、機器の目詰まりを防ぐために0.8/0.22pmのデュアルフィルタで濾過することが適切に含まれる。続いて、血清を直ちにアッセイ(測定)するか、あるいはアリコートして血清サンプルを-70℃で使い捨てアリコートに保存する必要がある。適切には、アッセイ前に、血清サンプルを適切なサンプル希釈剤で希釈する。適切には、1容量の血清サンプルを2~5容量のサンプル希釈剤で、適切には3容量のサンプル希釈剤で希釈してもよい。血清は、1:50または1:100で希釈されてもよい。
【0081】
いくつかの実施形態において、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャを用いて被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定することによって、被検体の治療の決定が促進される。例えば、被検体が神経膠腫を有すると判定された場合、被検体の少なくとも1つの治療の決定が促進され得る。被検体がリンパ腫を有すると判定された場合、被検体の少なくとも1つの他の異なる治療の決定が促進され得る。リンパ腫および神経膠腫の一般的な治療法はさまざまである。例えば、被検体に神経膠腫を有する疑いがある場合、腫瘍を除去するための脳外科手術による治療が選択され得る。また、被検体にリンパ腫を有する疑いがある場合、化学療法および/または放射線療法などの非外科的介入がより適していると考えられる。このように、本方法によって、医師は、被検体に適切な治療を迅速かつ正確に選択できる。適切な治療を迅速かつ正確に選択することで、被検体の回復の可能性が高まる。また、被検体がリンパ腫を有すると判定された場合の不必要な脳外科手術を防ぐ。
【0082】
実施形態において、被検体がリンパ腫を有すると判定された場合、化学療法および/または放射線療法による治療が選択され、被検体が神経膠腫を有すると判定された場合、外科手術による治療が選択される。外科手術は、被検体の脳から神経膠腫を取り除くことを目的とした脳外科手術を指す。
【0083】
第2の態様によれば、脳腫瘍を有する疑いのある被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定するための診断キットが提供される。本キットは、被検体から血液サンプル(またはその成分)を受け取り、被検体の血液サンプル(またはその成分)に分光分析を行って血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャを作成するように構成される装置と、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャを用いて、被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定する装置とを含み、分光分析は、減衰全反射FTIR(ATR-FTIR)である。
【0084】
実施形態において、血液サンプル(またはその成分)に分光分析を行う装置は、被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定する装置と同一である。
【0085】
被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定する装置は、コンピュータを含むか、コンピュータと通信していてもよい。コンピュータには、被検体の血液サンプルの分光学的シグニチャに基づいて神経膠腫およびリンパ腫に関する判定を行うようにコンピュータを動作させるように構成されたコンピュータソフトウェアがインストールされてもよい。
【0086】
実施形態において、血液サンプルを受け取るように構成される装置は、ATR結晶を含む。他の実施形態において、血液サンプルを受け取るように構成される装置は、シリコンIREを含む。
【0087】
血液サンプルを受け取るように構成される装置は、必要な厚さおよび乾燥度の血液サンプル(またはその成分)を自動的に調製するように構成されてもよい。
【0088】
本明細書で詳しく説明するように、キットは、低分子量物質から高分子量物質を分離できる遠心フィルタ装置を含んでもよい。
【0089】
第3の態様によれば、得られた被検体の血液サンプルの分光学的シグニチャに基づいて神経膠腫およびリンパ腫に関する判定を行うようにコンピュータを動作させるように構成されたコンピュータソフトウェアを含むコンピュータ可読媒体が提供される。
【0090】
第4の態様によれば、脳腫瘍を有する疑いのある被検体の治療の選択を促進する方法が提供される。本方法は、被検体から単離された血液サンプル(またはその成分)に分光分析を行って、血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャを得る。分光分析は、減衰全反射FTIR(ATR-FTIR)である。本方法はさらに、得られた血液サンプル(またはその成分)に特徴的な分光学的シグニチャを用いて被検体が神経膠腫を有するかまたはリンパ腫を有するかを判定し、神経膠腫またはリンパ腫の判定に基づいて治療を選択する。
【0091】
被検体がリンパ腫を有すると判定された場合、化学療法および/または放射線療法による治療が選択されてもよい、被検体が神経膠腫を有すると判定された場合、外科手術による治療が選択されてもよい。
【0092】
実施形態において、本方法はさらに、選択した治療を被検体に行う。例えば、被検体がリンパ腫を有すると判定された場合、被検体は、化学療法および/または放射線療法で治療されてもよい。被検体が神経膠腫を有すると判定された場合、被検体は脳外科手術で治療されてもよい。
【0093】
本明細書に記載される全ての特徴(付随する特許請求の範囲、要約、および図面を含む)は、特に明記しない限り、上記の態様のいずれかと任意に組み合わせてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0094】
詳細説明
次に、以下の添付図面を参照して、本発明の実施形態を、実施例により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【
図1】
図1は、前処理の例を示す。(a)は生データ、(b)前処理済みデータである。
【
図2】
図2は、リンパ腫(黒)および神経膠芽腫(赤)の平均スペクトルを示すRF分析のジニ(Gini)重要度プロットを示す。青はタンパク質、黄色は脂質、緑は核酸、オレンジは炭水化物である。
【
図3】
図3は、リンパ腫(黒)対GBM(赤)のPLSスコアプロットを示す。
【
図4】
図4は、生物学的割り当てとともにリンパ腫対GBM分類の第2PLS成分の負荷プロットを示す。
【
図5】
図5は、リンパ腫対GBM患者のデータセットに必要な十分な数のリサンプルを決定するブートストラップ分析を示す。(a)は感度、(b)は特異度である。
【
図6】
図6は、リンパ腫患者対GBM患者のSVM+アップサンプリング(up-sampling)分類の感度と特異度との間のトレードオフを表示するROC曲線を示す。
【
図7】
図7は、全血清(下)、HMW濃縮液(中央)、およびLMW濾液(上)スペクトルの例を示す。明確にするために、生スペクトルをオフセットする。
【
図8】
図8は、a)PLS-DA(青)、SVM(赤)、およびRF(緑)分類器を表示する全血清データセット、および、b)フルスペクトル(4000~800cm
-1、青)、指紋領域(1800~1000cm
-1、赤)、および拡張指紋領域(1800~800cm
-1、緑)の、検査された濾液画分のそれぞれについて最高性能モデルのための、単一モデル受信者動作特性(ROC)グラフを示す。
【
図9】
図9は、a)IDH1変異型(黒)およびIDH1野生型(赤)<3kDa血清濾液(4000~800cm
-1)データセットのPLS1とPLS2との間のPLSスコアプロット、および、b)第2PLS成分の負荷を示す。
【0096】
実施例1 リンパ腫対神経膠芽腫
概要
神経科医は、原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫と高侵襲性IV期腫瘍である多形性神経膠芽腫(GBM)との区別にとりわけ関心がある。血清診断は、2つの理由で有益である。第一に、磁気共鳴画像法(MRI)などの脳スキャンではこれらを区別することが難しい場合が多い。第二に、腫瘍が外科的に切除されるかどうかを判定する。MRIスキャンで患者がGBMであることが示唆されると、患者は緊急切除の対象となる。一方、腫瘍がリンパ腫であると考えられる場合、すぐに患者に外科手術を行わず、患者は化学療法や放射線療法で治療される。脳スキャンの曖昧さのため、神経科医が最良の方針を効果的に決定することは非常に困難である。
【0097】
方法
サンプルの採集と準備
血清サンプルを、Walton Center NHS Trust(リバプール、イギリス)、Royal Preston Hospital(プレストン、イギリス)、および商用ソースのTissue Solutions Ltd(グラスゴー、イギリス)の3つのソースから取得した。各ソースから得た血清サンプルの数を[表2]に示す。この研究は倫理審査により承認されたものである(Walton Research Bank and BTNW/WRTB 13_01/BTNW Application #1108)。
【0098】
【0099】
この研究の対象となる癌患者は、病理学的に確認された原発性リンパ腫または神経膠芽腫の脳腫瘍でなければならず、また、採集時に化学療法や放射線療法を受けていてはならない。血液サンプルを血清採集チューブに採集し、最大1時間凝固させた。チューブを2200gで15分間室温で遠心分離した後、分離した血清成分をアリコートし、-80℃の冷凍庫に保存した。
【0100】
スペクトル分析前に、凍結血清サンプルを保管場所から取り出し、室温(18~25℃)で平均15~20分間解凍した。マイクロピペットを使用して、一人の患者からの3μLの血清を光学サンプルスライドの3つのサンプルウェル(ウェル1、2、および3)のそれぞれに沈着させた一方、ウェル0をバックグラウンド採集のために清潔に保った(ClinSpec Diagnostics Ltd、イギリス)。薄い血清フィルムを生成しより均一な沈着のためにIRE全体を覆うために、ピペットチップを用いて血清液滴をウェル全体に広げた。準備されたスライドを、バッチ乾燥を可能にするように設計された3Dプリントポリ乳酸(PLA)スライドホルダに積み重ねた。その後、積み重ねたスライドを乾燥ユニットインキュベータ(ThermoFisher(商標)Heratherm(商標)、ドイツ)に35℃で1時間保存した。このステップにより、血清液滴の制御乾燥ダイナミクスのために熱と空気の流れが均一になり、滑らかで平らな均質サンプリング表面が得られた。
【0101】
スペクトル収集
この研究では、スペクトル収集にPerkin Elmer Spectrum 2 FTIR分光計(Perkin Elmer、イギリス)を使用した。Specac Quest ATRアクセサリユニットに鏡面反射パック(Specac Ltd、イギリス)を取り付け、SIRE(シリコンIRE)を開口部の上に配置して従来の固定ダイヤモンドIREを置き換えることができた。スライドインデックスユニット(ClinSpec Diagnostic Ltd、イギリス)は、鏡面反射パックに亘る正確で再現性のある動きを可能にし、サンプルウェル間の光学スライドにインデックスを付けた。最初のウェルがバックグラウンドとして機能し、3つのサンプルウェルが生物学的繰り返しを提供する。各ウェルを3度分析し、患者ごとに9つのスペクトルを得た。スペクトルは、4000~450cm-1の範囲で、4cm-1の解像度で、1cm-1のデータ間隔と16回の共追加スキャンで得られた。
【0102】
スペクトル前処理
分光分析のためにRStudioソフトウェア内のPRFFECTツールボックスを使用した。これは、スペクトル前処理およびスペクトル分類の2つの部分に分けることができる。前処理ステップは、データセットの不要な分散を低減するため、分光学的研究で一般的に適用される。ベースライン補正と、正規化と、データ削減との組み合わせにより、重要な生物学的情報を強調し、分類性能を向上させることができる。最適な前処理プロトコルを、試行錯誤の段階的手法によって決定した。PRFFECTツールボックスは、ビニング、平滑化、正規化、数値微分などのさまざまな前処理方法を提供する。このオープンソースプログラムの使用の詳細については、Smith et al(2)を参照されたい。
図1は、データの前処理の例を示す。(a)は未処理データセット全体の平均プロットであり、(b)は、ベースライン補正とベクトル正規化とが適用されスペクトル変動が大幅に低減した、指紋領域(分光シグニチャ)にカットされたスペクトルを示す。
【0103】
最適な前処理パラメータは(順に)次の通りであることが分かった:拡張乗法信号補正(extended multiplicative signal correction:EMSC)、指紋領域(1800~1000cm-1)へのスペクトルカット、ミニマックス正規化、およびビニング係数8。
【0104】
スペクトル分析
分類ステップは、実際の病気予測からなる。この手法の目的は、既知の患者コホートからバイオシグニチャ(生命存在指標)を特定して、トレーニングされた分類モデルを開発し、この情報を用いて未知の集団における疾患の存在を予測することである。
【0105】
分類モデルをトレーニングするために、患者をランダムに70:30でトレーニングセットと検査セットとに分けた。よりロバストな予測のために、これらの部分のうちの2つ以上に1人の患者が含まれることはない。モデルをトレーニングセット(70%)に調整した後、5分割のk交差検証を使用しながら、モデルを用いて検査セット(30%)のスペクトルを予測した。各患者について分析された9つのスペクトル間のコンセンサス投票を、診断結果(GBMまたはリンパ腫)として報告した。
【0106】
モデルの性能は、感度、特異度、カッパ、およびバランス精度(balanced accuracy)の観点から報告される。感度および特異度(式1および2)は、外部検査セットの正しい予測と誤った予測の数に基づく。感度は、一般に、疾患のある患者を正しく識別する検査の能力を指し、特異度は、疾患のない患者を正しく選ぶ能力を表す傾向がある(Lalkhen et al.)。しかし、この場合、感度はGBMに適用し、特異度はリンパ腫を識別する能力を指す。この分析では、真陽性は、収集された9つのスペクトルのうちの5つ以上のスペクトルが正しく識別されたGBMの患者から生じ、真陰性は、9つのスペクトルのうちの少なくとも5つのスペクトルが正しく識別されたリンパ腫の患者を指す。偽陽性は、5つ以上のスペクトルが誤ってGBMと識別されたリンパ腫患者から生じ、偽陰性は、5つ以上のスペクトルが誤ってリンパ腫と分類されたGBM患者から生じる。
【0107】
感度=真陽性/(真陽性+偽陰性) (1)
特異度=真陰性/(真陰性+偽陽性) (2)
【0108】
診断モデルの信頼性を理解するために、カッパ値κは、オブザーバ間の一致の大きさの定量的尺度を与えることができる。
【0109】
【0110】
ここで、poは相対的な観測された一致であり、peは偶然一致の仮想確率である。κの値は、0~1の範囲であり、一致レベルに相当する。κが≦0では一致はなく、0.01~0.20ではわずかな一致であり、0.21~0.40ではそれなりの一致であり、0.41~0.60では適度な一致であり、0.61~0.80では実質的な一致であり、0.8~1.00ではほぼ完全な一致である(Viera et al.,McHugh)。
【0111】
トレーニングデータに対してn分割交差検定(n=5)を行い、調整パラメータの最適値を求めた。GBM(71人の患者)とリンパ腫(41人の患者)との違いを調べる際のわずかなクラス不均衡のため、モデル内にバイアスが存在しないことを確認するべくこの研究全体でアップサンプリング、ダウンサンプリング、および合成マイノリティオーバーサンプリング手法(SMOTE)といったさまざまなサンプリング方法を用いた。アップサンプリングでは、マイノリティクラスを繰り返しサンプリングしてサンプル数を増やす。ダウンサンプリングでは、マジョリティクラスのサブセットをランダムに選択し、余分なサンプルを削除してマイノリティクラスと同じサイズにする(Simafore)。SMOTEは、データを人為的に混合して「新しい」サンプルを作成しよりバランスの取れたデータセットを実現する点で独特である(Chawla et al.)。
【0112】
ランダムフォレスト
RFは、分類およびClassification and Regression Trees(CART)アルゴリズム(Breiman et al.)を用いてトレーニングデータから決定木のアンサンブルを構築するロバスト機械学習手法である。RF分析では、真陽性、偽陽性、真陰性、偽陰性の数に基づいて統計値を抽出し、分類の精度と信頼性との両方を判断できる。さらに、スペクトルの重要度の結果を、ジニプロットの形式でグラフィカルに表示できる。波数に対するジニ係数の平均減少の合計から生成されるジニ不純度メトリックを使用して、RFは、どの波数が2つのクラスを最も区別するかなど、スペクトルの特徴を重要度の順にランク付けできる(Smith et al.(1))。
【0113】
部分最小二乗判別分析
部分最小二乗判別分析(PLS-DA)は、PLS回帰(PLSR)と線形判別分析(LDA)とを組み合わせた教師あり(supervised)機械学習法である。この手法では、次元を減らしてデータ内の隠れたパターンを明らかにすることにより、複雑なデータセットから重要な情報を抽出できる。この手法は、データ空間を2つの異なる領域に分割する直線を探すことによってクラスを分離する(Ballabio et al.)。データポイントは、ディスクリミネータ(Lee et al.)と呼ばれる線に垂直に投影される。ディスクリミネータからの距離は、ディスクリミネータスコアと呼ばれる(Brereton et al.)。この情報は、PLS成分と呼ばれる新しい変数の形で提供される。ここで、第1PLS成分(PLS1)はデータセットの最大の変動を表し、PLS2は次に大きな変動を表す。以降も同様である。PLSスコアプロットは、大きなデータセット内の一般的な不整合の概要を示し、負荷プロットは、どのスペクトル領域が最も高い差異を表しているかなど、最も変動しやすい領域がどこにあるかを示唆することにより、分散をさらに説明する。
【0114】
サポートベクターマシン
サポートベクターマシン(SVM)は、分類目的で一般的に使用される教師ありアルゴリズムである(Cortes et al.)。SVMは、既知のデータから、超平面と呼ばれるデータの分離に最適な次元を出力する。サポートベクターは個々の観測の座標であり、超平面を用いて新しいサンプルを分類できる(de Boves Harrington)。SVMチューニングパラメータの最適化により、分類効率を劇的に変えることができる。コストCは、ペナルティパラメータと呼ばれ、滑らかな境界間のトレードオフとデータを分類する能力に関与する。ガンマパラメータ?は、適合レベルに関与する。モデルがデータに過剰適合しないようにすることが重要であり、これは、グリッド検索を用いて最適な分類性能を特定することで実現される(Ben-Hur et al.)。
【0115】
遠心濾過
ATR-FTIR分光法がIDH1変異型を検出できるかどうかを評価するために、血清サンプルの低分子量(LMW)画分の分析を可能にするために遠心濾過を行った。72人の脳腫瘍患者からの全血清を濾過して、より豊富な高分子量(HMW)生体分子を除去した。血清サンプルの分画には、カットオフポイントが3kDaの市販のAmicon Ultra-0.5mL遠心濾過装置(Millipore-Merck、ドイツ)を使用した。血清を、「濾液」および「濃縮液」という2つの画分に分けた。濾液は、3kDaカットオフポイント未満の生体分子成分を占め、濃縮液は、より高いMW血清成分を表す。各患者の血清(0.3mL)を遠心フィルタに入れ、濾過チューブを14000gの速度で30分間遠心分離した。濾液はメンブレンを通過して収集バイアルに入った。その後、フィルタを逆さにし、1000gで2分間遠心分離して、HMW濃縮液を収集した。濾液と濃縮液とを、分析時まで-80℃の冷凍庫に保管した。
【0116】
遠心濾過の研究では、最初に、平均化濾液スペクトルを基準として、スペクトルを拡張乗法信号補正(EMSC)で補正した(例えば、Kohler et al.を参照)。濾過した血清スペクトルには1000~800cm-1に2つの顕著なバンドが存在したため、データセットを800cm-1にカットして、潜在的に重要な生物学的情報が全て保持されるようにした。したがって、4000~800cm-1、1800~800cm-1、および1800~1000cm-1の3つのスペクトルカットを検査した。他の全てのパラメータは、全血清分析から一貫していた。
【0117】
結果
初期のランダムフォレスト(RF)モデルは、リンパ腫患者とGBM患者との間の生化学的差異を提示する。ジニプロット(
図2)は、アミドII領域が重要であり、そのすぐ後にアミドIバンドが続くことを示唆する。1150~1000cm
-1に、核酸物質、グリコーゲン、および炭水化物内の振動に関連するさまざまな重要なバンドがある([表3])。
【0118】
【0119】
PLS-DAスコアプロットは、第2PLS成分(competent)に亘ってリンパ腫患者とGBM患者とを分離することが分かった(
図3)。ここでも、最も高い区別は、負荷プロットのアミドIIバンドおよび低波数領域から生じる(
図4)。リンパ腫対GBMでは、アミドI領域も高い区別を示し、[表3]で前述したRFジニ係数の結果を裏付けている。
【0120】
ブートストラップ分析をリンパ腫対GBMトレーニングセットに行って、許容可能な反復回数を求めた。この場合、51回のリサンプルで十分であることが分かり、この時点で標準誤差が収束した(
図5)。
【0121】
SMOTEがRFおよびPLS-DAに最良のサンプリング手法である一方、アップサンプリングがSVMベースのモデルに最適であることが分かった([表4])。
【0122】
【0123】
この特定のデータセットでは、感度はGBMを検出する能力を指し、特異度はリンパ腫に関する。[表4]に示すように、このデータセットにとって最も効果の低いモデルはRFであった。感度が高いにもかかわらず、特異度は70.8%とかなり低かった。アップサンプリングと組み合わせたSVMは良好に機能し、86.4%のバランス精度を示した。PLS-DA+SMOTE法は、感度90.1%、特異度86.3%、および全3つのモデルの中で最も高いκ値(平均κ=0.76)を有する最適モデルであると考えられた。各手法は、51回の反復のうち少なくとも1回の感度と特異度とについて100%を報告した。感度は比較的安定していたが、リンパ腫の予測はより変動的であった。例えば、RFリサンプルのうちの1つが42%の感度を報告し、最終的に平均値が低下した。とはいえ、SVMベースのモデルのROC曲線は、AUC値が0.92であり、有望な診断機能を示している(
図6)。
【0124】
ATR-FITRIDH分析
星状細胞腫、乏突起膠腫、GBMのいずれかの脳腫瘍患者を、ATR-FTIR血清分光法を用いてIDH1の状態に基づいて分けた。含まれた72人の患者のうち、36人がIDH1変異型であり、36人がIDH1野生型であった。RF、PLS-DA、およびSVMによってそれぞれに100回のリサンプルでデータを分類した。結果を「患者ごと」に[表6]に示す。全血清データセットについて、SVMモデルは75.9%の有望な感度を報告したが、特異度は28%と非常に低かった。各ケースで感度が特異度よりもはるかに高かったため、どのモデルも、検査セットからIDH1変異型血清サンプルを選択するのにより効果的であるようであった。各クラスに同数のサンプルがあることからモデルにバイアスが存在しないはずであるため、この理由は不明である。とはいえ、結果は信頼できるものではなく、バランス精度が低い(~50%)ことから、最終的に正しい予測が偶然行われたと推測できる。
【0125】
【0126】
血清は、より豊富なHMW血清アルブミン(50g/L)からトロポニン(1ng/L)のようなLMWタンパク質に至るまで、何千もの異なるタンパク質を構成している。正常血清サンプルにはさまざまな生体分子が豊富に存在するため、IDH1変異型に関連している可能性のある、血液組成の微妙な変化を特定することは重要な課題であると想定された。血清のLMW画分は疾患固有の情報を含むと考えられており、この画分の分光学的シグニチャが診断に役立つ。したがって、全血清データの分類性能が低いため、遠心濾過を使用することで個別の分子の違いを強調できる可能性があると考えられた。
【0127】
図7は、全血清、>3kDa「HMW」画分、および<3kDa「LMW」画分のIRスペクトルの例を示す。濃縮液は、全血清スペクトルとほぼ同じように見える。特に、アミド領域内に存在する、アルブミンや免疫グロブリンなどのより豊富なタンパク質から非常に類似した吸光度を有する。これらの大きなタンパク質と他のHMW成分とを除去すると、濾液のスペクトルは著しく異なり、指紋領域に少数の明確なピークがある(赤いスペクトル)。検査のために、950cm
-1および850cm
-1付近の2つの明確なピークを含む4000~800cm
-1および1800~800cm
-1と典型的な生物学的指紋領域(1800~1000cm
-1)との3つのスペクトル領域を選択した。分類結果を[表7]に示す。
【0128】
いずれの場合も、IDH1野生型患者の検出において、濾液モデルは、60%を超える特異度値を報告し、全血清モデルよりも優れていた。濾過ステップによる診断能力の向上は、3つの全血清分類器の単一モデルROC曲線(
図8a)および3つの濾液データセットのそれぞれの最良モデル(
図8b)を示す
図8で強調されている。良くない分類結果から想定されるように、全血清モデルのROC曲線は対角線上にある。つまり、行われている予測はランダムな推測に勝るものではなく、報告されたAUC値~0.5は、検査に本質的に診断精度がないことを示唆する。ただし、遠心濾過を含めることで、2つのIDH1クラスを区別できる能力が向上した。
図8bの対応するROC曲線は、AUC値>0.7を報告しており、これは「許容可能な」区別レベルであるとしばしば見なされるものである。
【0129】
【0130】
<3kDaの濾過血清「フルスペクトル」データセット(4000~800cm
-1)は、PLS-DAモデルで分類した場合、69.1%という最高のバランス精度を発揮した。
図9aのPLSスコアプロットは、データセット内の一般的な変動を表す。主な分散は、通常、第1PLS成分(PLS1)によって表される。PLS1の負荷は、~3400cm
-1と~1650cm
-1の大きな差を示唆しているが、スコアプロットではPLS1全体に明らかなクラス分離はない。いくつかの重複はあるが、第2PLS成分がPLS1よりも2つのクラスをより適切に分離していることが分かる。PLS2の負荷は、~1650cm
-1付近の大きなスペクトル差も強調する(
図9b)。興味深いことに、これは正常血清スペクトルにおける大きなアミドIバンドの典型的な位置であり、豊富なタンパク質分子内の結合振動の主要因である。アルブミンや免疫グロブリンなどのサンプルからHMWタンパク質が濾過されたとしても、非常に低分子量(<3kDa)である分子を調べる場合、これは依然として重要な領域であるように思われる。このことは、より小さいタンパク質分子でも診断ポテンシャルがあることを示唆する。
【0131】
一般に、バランス精度は、検査された全てのモデルで60~70%に向上した。遠心濾過ステップにより、よりバランスの取れた感度と特異度が実現され、モデル性能が大幅に向上した。
【0132】
結論
GP設定での脳腫瘍の早期発見のための迅速な血清検査の実施は、患者の生活の質と予後に大きな影響を与え得る。
【0133】
本発明の方法は、脳腫瘍型を区別する能力を有する。とりわけ、ATR-FTIR分光法によるリンパ腫とGBMとの分離は、画像診断の結果が明確でない場合、二次医療環境の神経科医にとって特に興味深い。この原理実証研究には112人の患者が参加し、90.1%の感度と86.3%の特異度を示した。κ値0.76は、この手法が信頼できることを表す。
【0134】
生検前の血清から分子状態を同定することで、一部の患者を代替治療法へ導き得る。当初、全血清分類器の性能は低く、バランス精度は~50%であった。しかし、遠心濾過の導入により、分類性能が大幅に向上し、感度と特異度が約70%に上昇した。これらの方法は、将来の臨床研究においてさらに最適化できる可能性があり、脳腫瘍型を術前に層別化可能な、ATRX喪失、1p/19q同時欠失、および/またはMGWT高メチル化などの他の重要な分子変化を特定するように拡張できる。
【0135】
参考文献
M.J.Baker et al.,‘Using Fourier transform IR spectroscopy to analyse biological materials’,Nature Protocols,vol.9,no.8,pp.1771-1791,Jul.2014.
D.Ballabio and V.Consonni,‘Classification tools in chemistry.Part 1:linear models.PLS-DA’,Analytical Methods,vol.5,no.16,p.3790,2013.
A.Barth,Biochimica et Biophysica Acta 1767(2007)1073-1101.
A.Ben-Hur and J.Weston,‘A User’s Guide to Support Vector Machines’,in Data Mining Techniques for the Life Sciences,vol.609,O.Carugo and F.Eisenhaber,Eds.Totowa,NJ:Humana Press,2010,pp.223-239.
L.Breiman,‘Random Forests’,Machine Learning,vol.45,no.1,pp.5-32,Oct.2001.
R.G.Brereton and G.R.Lloyd,‘Partial least squares discriminant analysis:taking the magic away’,Journal of Chemometrics,vol.28,no.4,pp.213-225,Apr.2014.
N.V.Chawla,K.W.Bowyer,L.O.Hall,and W.P.Kegelmeyer,‘SMOTE:Synthetic Minority Over-sampling Technique’,Journal of Artificial Intelligence Research,vol.16,pp.321-357,Jun.2002.
C.Cortes and V.Vapnik,‘Support-Vector Networks’,Machine Learning,vol.20,no.3,pp.273-297,Sep.1995.
S.E.Glassford et al. Biochimica et Biophysica Acta 1834(2013)2849-2858P.de Boves Harrington,‘Support Vector Machine Classification Trees’,Anal.Chem.,vol.87,no.21,pp.11065-11071,Nov.2015.
A.Kohler,C.Kirschner,A.Oust,H.Martens,Extended multiplicative signal correction as a tool for separation and characterization of physical and chemical information in Fourier transform infrared microscopy images of cryo-sections of beef loin,Applied Spectroscopy 59(2005)707-716.
A.G.Lalkhen and A.McCluskey,‘Clinical tests:sensitivity and specificity’,Continuing Education in Anaesthesia Critical Care & Pain,vol.8,no.6,pp.221-223,Dec.2008.
L.C.Lee,C.-Y.Liong,and A.A.Jemain,‘Partial least squares-discriminant analysis(PLS-DA)for classification of high-dimensional(HD)data:a review of contemporary practice strategies and knowledge gaps’,Analyst,vol.143,no.15,pp.3526-3539,2018.
M.L.McHugh,‘Interrater reliability:the kappa statistic’,Biochem Med(Zagreb),vol.22,no.3,pp.276-282,2012.
Z.Movasaghi,S.Rehman,and Dr.I.ur Rehman,‘Fourier Transform Infrared(FTIR)Spectroscopy of Biological Tissues’,Applied Spectroscopy Reviews,vol.43,no.2,pp.134-179,Feb.2008.
SIMAFORE,‘Managing unbalanced data for building machine learning models’,Mar-2019.[Online].Available:http://www.simafore.com/blog/handling-unbalanced-data-machine-learning-models.
(1)B.R.Smith et al.,‘Combining random forest and 2D correlation analysis to identify serum spectral signatures for neuro-oncology’,Analyst,vol.141,no.12,pp.3668-3678,2016.
(2)B.R.Smith,M.J.Baker,and D.S.Palmer,‘PRFFECT:A versatile tool for spectroscopists’,Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems,vol.172,pp.33-42,Jan.2018.
A.J.Viera and J.M.Garrett,‘Understanding Interobserver Agreement:The Kappa Statistic’,Family Medicine,p.4.
【国際調査報告】