(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(54)【発明の名称】有機ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 67/00 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
C08G67/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515579
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(85)【翻訳文提出日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 US2020049735
(87)【国際公開番号】W WO2021046533
(87)【国際公開日】2021-03-11
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522089929
【氏名又は名称】アーノルド マイケル ジョン
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】アーノルド マイケル ジョン
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AB00
4J005BA00
4J005BB01
4J005BB02
4J005BC00
4J005BD04
(57)【要約】
有機不飽和平面環モノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマー。この繰り返し単位は、スタッキングされ、リンカーによって互いに連結されており、酸化及び/又は還元を受けることが可能であり、このポリマーは導電性である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機不飽和平面環モノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーであって、前記繰り返し単位は、スタッキングされ、リンカーによって互いに連結されており、酸化及び/又は還元を受けることが可能であり、前記ポリマーは導電性であるポリマー。
【請求項2】
各モノマーが単環式(ベンゾイド)、二環式(ナフチル)、又は三環式(アントリル)であり、
前記モノマーが、完全酸化型(キノン)、完全還元型(ヒドロキノン)、部分還元型(セミキノン)、又はこれらの任意の混合物であってよく、前記単環式モノマー、前記二環式モノマー、及び前記三環式モノマーが、それらの完全酸化型において、それぞれ式I、式II、及び式IIIを有し、
【化1】
前記式中、
Xは、-O、-S、-NR、-SiR
2、-CR
2O、及び-CR
2からなる群から選択され、これらの基の各々における結合は前記リンカーに接続し、Rは、水素、C
1~nアルキル、C
1~nアルコキシ、ヒドロキシル、チオール、アリール、ハロゲン、シアノ、アミノ、SO
3H、ニトロ、カルボキシル、ホスホリル、及びホスホニルからなる群から選択され、nは1~20の数字であり、
Yは、酸化型の前記モノマー中の環に結合している場合には、O、S、及びNRからなる群から選択され、還元型の前記モノマー中の環に結合している場合には、OH、SH、OR、NR
1R
2、及びOSiR
3からなる群から選択され、R、並びにR
1及びR
2のそれぞれは、独立に、水素、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、アリール、ハロゲン、シアノ及びアミノからなる群から選択され、
前記リンカーは、結合であるか、又は1~20個の炭素原子を有し、アミノ、シアノ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、シリル、エーテル、クラウンエーテル及び金属配位子からなる群から選択されるヘテロ原子含有官能基によって任意に置換されている飽和若しくは不飽和のアルキレンであり、各リンカーは隣接モノマー上の2つのX基を連結している請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
各モノマーが完全に酸化された(キノン)形態にある請求項1又は請求項2に記載のポリマー。
【請求項4】
各モノマーが完全に還元された(ヒドロキノン)形態にある請求項1又は請求項2に記載のポリマー。
【請求項5】
前記モノマーのすべてが部分酸化型又は部分還元型(それぞれ、セミキノン型又はキンヒドロン型)である請求項1又は請求項2に記載のポリマー。
【請求項6】
前記モノマーの一部が、部分酸化型又は部分還元型(それぞれ、セミキノン型又はキンヒドロン型)であり、残りの前記モノマーが完全酸化型又は完全還元型(それぞれ、キノン型又はヒドロキノン型)である請求項1又は請求項2に記載のポリマー。
【請求項7】
1つ以上のヒドロキノン部分の水素が金属カチオンで置き換えられている請求項4から請求項6のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項8】
前記カチオンが1価の金属カチオンである請求項7に記載のポリマー。
【請求項9】
前記カチオンが2価の金属カチオンである請求項7に記載のポリマー。
【請求項10】
XがNRである請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項11】
Rがメチル基である請求項10に記載のポリマー。
【請求項12】
Xが前記ポリマーのすべてのモノマーにおいて同じである請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項13】
Xが前記ポリマーのすべてのモノマーにおいて同じではない請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項14】
すべてのXがモノマーにおいて同じというわけでない請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項15】
前記リンカーがエチレン基である請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項16】
各繰り返し単位が、少なくとも2つのリンカーによって隣接する繰り返し単位に連結されている請求項1から請求項15のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項17】
前記モノマーがキノン、ヒドロキノン、及び/又はセミキノン/キノンヒドロン形態であり、Yが、完全に酸化されたキノンモノマー環においてOであり、Yが、完全に還元されたヒドロキノンモノマー環においてOHであり、Yが、混合酸化状態を有するモノマー環においてO又はOHである請求項1から請求項16のいずれか1項に記載のポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料科学の分野に関し、特に、エネルギー貯蔵及びエネルギーフロー電池システム等の用途を有する有機導電性ポリマー及び有機半導電性ポリマーの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
金属に基づく導電系はどこにでもあるものである。しかしながら、そのような系を維持するために必要な原料のほとんどは、採掘によって地球から得られる。これらの原料は、巨大で、扱いにくく、移動が困難であり、それゆえ輸送コストがかかる。また、天然資源は有限であり、採掘は環境に悪影響を及ぼす。従来の金属導電系に代わるものへのニーズが存在する。
【0003】
ポリマーは、軽量で製造が容易であるため、多くの応用分野で金属に取って代わり続けている。ポリマーは電気絶縁体であり、その用途の多くは、この絶縁特性に依存している。しかしながら、ある種の共役ポリマー(ポリマー骨格に沿った拡張π共役を持つポリマー)は、半導体のような挙動を示すことができる。ポリマーが酸化又は還元されて電荷キャリアを生成するプロセスであるドーピングの発見は、このような共役ポリマーの導電性をさらに飛躍的に向上させることにつながった。
【0004】
導電性ポリマーとその使用については、これまでにも説明されている。例えば、米国特許出願公開第20200176762A1号明細書は、電子伝導性ポリマー複合材料及び電極材料としてのそれらの用途を記載し、米国特許第4,663,001号明細書は、複素環式多環式モノマーから誘導された導電性ポリマーを記載し、Ates Mら、Current Physical Chemistry、2012、2、224-240は、導電性ポリマー及びその応用を記載する。共役系ポリマーの中でも、ポリアセチレンは最も単純な分子骨格を有するため、最も研究が進んでいる。しかしながら、ポリアセチレンには不溶性、不融性、環境安定性の低さ等の短所があり、そのため、多くの技術的な応用には不向きな材料であった。一方、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、及びポリフェニレンビニレンをベースとする共役ポリマーは、多くの用途を見いだしてきた。
【0005】
それにもかかわらず、例えば、より良いドーピング速度を可能にし、導電性をより調節しやすく、単位重量当たりのエネルギー貯蔵容量がより高い改良された導電性ポリマーに対するニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第20200176762A1号明細書
【特許文献2】米国特許第4,663,001号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ates Mら、Current Physical Chemistry、2012、2、224-240
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、新規な有機導電性ポリマーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの態様では、本明細書で提供されるのは、有機不飽和平面環モノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーであって、この繰り返し単位は、スタッキングされ、リンカーによって互いに連結されているポリマーである。これらの繰り返し単位は、酸化及び還元を受けることが可能であり、これにより当該ポリマーは導電性を有するようになる。
【0010】
当該ポリマーは一般に下記のスキーム1~3に示すように表すことができ、それらのスキーム中、置換基は以下のように定義される。
【0011】
Xは、-O、-S、-NR、-SiR2、-CR2O、及び-CR2からなる群から選択され、これらの基の各々の結合はリンカーに接続し、Rは水素、C1~nアルキル、C1~nアルコキシ、ヒドロキシル、チオール、アリール、ハロゲン、シアノ、アミノ、SO3H、ニトロ、カルボキシル、ホスホリル及びホスホニルからなる群から選択され、nは1~20の数字であり、
Yは、酸化型の上記モノマー中の環に結合している場合には、O、S、及びNRからなる群から選択され、還元型の上記モノマー中の環に結合している場合には、OH、SH、OR、NR1R2、及びOSiR3からなる群から選択され、R並びにR1及びR2の各々は、独立に、水素、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、アリール、ハロゲン、シアノ及びアミノからなる群から選択され、
上記リンカーは、結合であるか、又は1~20個の炭素原子を有し、アミノ、シアノ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、シリル、エーテル、クラウンエーテル及び金属配位子からなる群から選択されるヘテロ原子含有官能基によって任意に置換されている飽和若しくは不飽和のアルキレンであり、各リンカーは隣接モノマー上の2つのX基を連結している。
【0012】
スキーム1:ポリマーの1つの実施形態の接続性及び骨格の一般的な説明。スタッキング単位あたり1つの環(「ベンゾイド」)が描かれている。
【化1】
【0013】
スキーム2:ポリマーの1つの実施形態の接続性及び骨格の一般的な説明。スタッキング単位あたり1つの環(「ナフチル」)が描かれている。
【化2】
【0014】
スキーム3。ポリマーの1つの実施形態の連結性及び骨格の一般的な説明。スタッキング単位あたり1つの環(「アントリル」)が描かれている。
【化3】
【発明を実施するための形態】
【0015】
有機不飽和平面環モノマーから誘導される繰り返し単位を有する新規な有機ポリマーが提供される。この繰り返し単位は、スタッキングされ、リンカーによって互いに連結され(繋がれ)ている。さらに、この繰り返し単位は、酸化及び還元を受けることが可能であり、これにより当該ポリマーは導電性を有するようになる。
【0016】
本明細書に記載される導電性ポリマーは、現在公知である電気エネルギーを貯蔵及び供給するためのモノマー状キノン-ヒドロキノンベースの酸化還元系(例えば、発明の名称「Quinone and Hydroquinone Based Flow Battery」の国際公開第2015/048550号パンフレットを参照)を超える多くの利点を提供する。これらの利点は、少なくとも一部は、キノン化合物の新規なスタッキングし繋がれた構成に起因して生じ、この構成は、それらのキノンモノマー対応物と比較して優れた性能を提供する。具体的には、キノン部分の積み重ねと(共有結合による繋がりに起因する)適切な配列により、ユニークな共鳴効果が得られる。この共鳴は、ポリマーの鎖長、並びにポリマーの各キノン部分の置換基及び酸化状態によって異なり、非常に強いものとなりうる。本開示のポリキノン、ポリヒドロキノン、ポリセミキノン及びポリキンヒドロンモノマーのスタッキングし繋がれたポリマーによって達成可能な大きさの共鳴は、これらのモノマーの他の構成では達成不可能であると考えられる。
【0017】
モノマー状キノン-ヒドロキノンベースの酸化還元系と比較して、本明細書に記載されるポリマーは、はるかに大きく(かつ棒状であり)、これは、流体電池(fluid cell batteries)及び同様のデバイスにおけるセル間に存在する小さな孔を通る不浸透性を高めることを可能にし、これによってこれらのデバイスの寿命を大幅に増加する可能性を有する。さらに、現在公知であるモノマー状キノン-ヒドロキノンベースの酸化還元系とは異なり、本明細書に記載されるポリマーは、半導体として使用することができる。
【0018】
また、公知のモノマー状キノン-ヒドロキノンベースの酸化還元系とは異なり、本明細書に記載される選択されたポリマーは、磁化率の特性を有することができ、従って、マイクロ磁気学の分野で使用されてもよい。
【0019】
本明細書に記載されるスタッキング型(積層型)キノン-ヒドロキノン化合物のポリマーの分光学的特性及び分子力学的特性も、当該ポリマーをモノマー状のキノン及びヒドロキノンよりも優れたものとする。本明細書に記載されるスタッキングされ繋がれたポリマーのアレイは、そのアレイが有しうる多くの異なる構造のために、豊富な分光学的状態を有するだろうと考えられる。この特性は、これらのポリマーを用いた感熱性色素の調製に有利であると予想される。これらの感熱性色素によって放出又は吸収される波長が熱的摂動を受けることを考えると、異なる分光状態は、当該ポリマーを有する感熱性色素の波長を細かく調整することを可能にすることが期待される。同様に、これらのポリマーを組み込んだレーザー色素を用いると、置換基及び/若しくは鎖長、並びに/又はポリマーの酸化還元状態を変化させることによって、選択する波長が得られうると考えられる。
【0020】
本明細書に記載されるポリマーの別の際だった特徴は有向性である。というのも、当該ポリマーはスタックの方向においてのみ電子伝導性を提供するからである。スタックに直交する方向への電流の流れは許容されない。この有向性は、これらのポリマーを含む固体において最も良好に利用される可能性がある。
【0021】
ポリマーの一般的な説明
上記のスキーム1~3は、全体として、当該ポリマーの3つの異なる実施形態の接続性及び骨格を描く。スタッキング単位あたり1つの環が描かれている。モノマーの酸化状態は示されていない。他の様々な実施形態は、以下のスキーム4~17に示されている。これらのスキームに示されるポリマーにおいて、置換基は、スキーム1~3において定義されるとおりである。
【0022】
スキーム4~6は、本明細書に記載されるポリマーの異なる実施形態の一般的な説明も提供する。これらのスキームでは、ポリマーの酸化状態が示されている。ベンゾイド(スキーム4)、ナフチル(スキーム5)、及びアントリルをベースとするポリマーが、すべて完全に酸化された状態で描かれている。
【0023】
以下のスキーム7~9は、YがO(酸化型)又はOH(還元型)である実施形態を示す。これらのポリマーは、ポリキノンと称される。
【0024】
以下のスキーム10~12は、混合酸化状態のポリマーを示す。
【0025】
スキーム13及びスキーム14は、本開示のポリマーのいくつかの互変異性状態のうちの1つを示す。
【0026】
スキーム15は、XとしてOCH2を有し、リンカーとして結合を有するポリマーを示す。完全に酸化されたポリキノン形態が示されている。
【0027】
スキーム16は、XとしてOCH2を有し、リンカーとして結合を有するポリマーを示す。完全に還元されたポリキンヒドロン形態が示されている。
【0028】
スキーム17は、XとしてOCH2を有し、リンカーとして結合を有するポリベンゾイドキンヒドロン(半酸化型)ポリマーを示す。可能な多くの互変異性体のうちの1つだけが示されている。
【0029】
スキーム4。スタッキング単位あたり完全に酸化された状態の1つの環(「ベンゾイド」)を有するポリマーの1つの実施形態の一般的な説明。
【化4】
【0030】
スキーム5。スタッキング単位あたり完全に酸化された状態の2つの環(「ナフチル」)を有するポリマーの1つの実施態様の一般的な説明。
【化5】
【0031】
スキーム6。スタッキング単位あたり完全に酸化された状態の3つの環(「アントリル」)を有するポリマーの1つの実施形態の一般的な説明。
【化6】
【0032】
スキーム7。スタッキング単位あたり1つの環(「ベンゾイド」)を有するポリキノン。酸化された形態(酸化型)が描かれている。
【化7】
【0033】
スキーム8。スタッキング単位あたり2つの環(「ナフチル」)を有するポリキノン。還元された形態(還元型)が描かれている。
【化8】
【0034】
スキーム9。スタッキング単位あたり3つの環(「アントリル」)を有するポリキノン。還元された形態が描かれている。
【化9】
【0035】
スキーム10:混合酸化状態の1つの環(「ベンゾイド」)を有するポリマー(ポリキンヒドロン)が示されている(酸化型及び還元型の繰り返し単位が交互に存在する)
【化10】
【0036】
スキーム11:各繰り返しスタッキング単位に混合酸化状態の2つの環(「ナフチル」)を有するポリマー(ポリキンヒドロン)(一方の環は酸化状態、他方は還元状態にある)
【化11】
【0037】
スキーム12:混合酸化状態の3つの環(「アントリル」)を有するポリマー(ポリキンヒドロン;完全に酸化された繰り返し単位と完全に還元された繰り返し単位とが交互に存在する)
【化12】
【0038】
スキーム13:スタッキング型ポリキノンポリマーの2電子/2プロトン還元された「互変異性」形態が示されている。スタッキング単位あたり1つの環(「ベンゾイド」)が描かれている。多くの互変異性体が速い交換速度で平衡状態にある可能性があり、この平衡状態はポリマーの状態及び/又は溶媒和に依存している可能性がある。
【化13】
【0039】
pHを変化させることにより互変異性平衡が変化する可能性があることに留意されたい。さらに、金属カチオンが、本明細書に記載される還元型有機ポリマーの対イオンとしてプロトンの代わりに利用されてもよい。これらの金属カチオンとしては、1価のカチオン、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、及びセシウムのカチオン、並びに2価のカチオン、例えば、カルシウム及びマグネシウムのカチオン等が挙げられる。他の金属塩は、本発明の範囲内に十分にあることが企図され、様々な用途(例えば、半導体、色素、又は流体電池として)に有用である可能性がある。本明細書に記載される有機ポリマーのモノ金属塩の一例が、以下のスキーム14に示されている。
【0040】
スキーム14:スタッキング型ポリキノンポリマーの2電子/2プロトン還元された金属互変異性体が示されている。多くの互変異性体が速い交換速度で平衡状態にある可能性があり、この平衡状態はポリマーの状態及び/又は溶媒和に依存している可能性がある。
【化14】
【0041】
スキーム15:XとしてOCH
2を有するポリマー。完全に酸化されたポリキノンが示されている。
【化15】
【0042】
スキーム16。XとしてOCH
2を有するポリマー。完全に還元された、すなわちポリヒドロキノン形態が示されている。
【化16】
【0043】
スキーム17:ポリベンゾイドキンヒドロン(半酸化型)ポリマーの一例が示されている。このスキームでは、XはOCH
2である。可能な多くの互変異性体のうちの1つだけが示されている。
【化17】
【0044】
具体的な実施形態
第1の実施形態において、本明細書で提供されるのは、有機不飽和平面環モノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーである。この繰り返し単位は、スタッキングされ、リンカーによって互いに連結され、酸化及び/又は還元を受けることが可能であり、当該ポリマーは導電性である。
【0045】
第2の実施形態において、本明細書で提供されるのは、上記モノマーが単環式(ベンゾイド)、二環式(ナフチル)、又は三環式(アントリル)である第1の実施形態のポリマーである。
【0046】
この実施形態において、モノマーは、完全酸化型(キノン)、完全還元型(ヒドロキノン)、部分還元型(セミキノン)、又はこれらの任意の混合物であってよく、単環式モノマー、二環式モノマー、及び三環式モノマーは、それらの完全酸化型において、それぞれ式I、式II、及び式IIIを有し、
【化18】
【0047】
上記式中、Xは、-O、-S、-NR、-SiR2、-CR2O、及び-CR2からなる群から選択され、これらの基の各々における結合はリンカーに接続し、Rは、水素、C1~nアルキル、C1~nアルコキシ、ヒドロキシル、チオール、アリール、ハロゲン、シアノ、アミノ、SO3H、ニトロ、カルボキシル、ホスホリル及びホスホニルからなる群から選択され、nは1~20の数であり、
Yは、酸化型のモノマー中の環に結合している場合には、O、S、NRからなる群から選択され、還元型のモノマー中の環に結合している場合には、OH、SH、OR、NR1R2及びOSiR3からなる群から選択され、R、並びにR1及びR2のそれぞれは、独立に、水素、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシル、アリール、ハロゲン、シアノ及びアミノからなる群から選択され、
上記リンカーは、結合であるか、又は1~20個の炭素原子を有し、アミノ、シアノ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、シリル、エーテル、クラウンエーテル及び金属配位子からなる群から選択されるヘテロ原子含有官能基によって任意に置換されている飽和若しくは不飽和のアルキレンであり、各リンカーは隣接モノマー上の2つのX基を連結している。
【0048】
第3の実施形態において、本明細書で提供されるのは、各モノマーが完全に酸化された(キノン)形態にある実施形態1又は実施形態2のポリマーである。
【0049】
第4の実施形態において、本明細書で提供されるのは、各モノマーが完全に還元された(ヒドロキノン)形態にある実施形態1又は実施形態2に記載のポリマーである。
【0050】
第5の実施形態において、本明細書で提供されるのは、モノマーのすべてが部分酸化型又は部分還元型(それぞれ、セミキノン型又はキンヒドロン型)である実施形態1又は実施形態2のポリマーである。
【0051】
第6の実施形態において、本明細書で提供されるのは、モノマーの一部が、部分酸化型又は部分還元型(それぞれ、セミキノン型又はキンヒドロン型)であり、残りのモノマーが、完全酸化型又は完全還元型(それぞれ、キノン型又はヒドロキノン型)である実施形態1又は実施形態2のポリマーである。本実施形態は、多くの互変異性体を有する。
【0052】
第7の実施形態において、本明細書で提供されるのは、1つ以上のヒドロキノン部分の水素が金属カチオンで置き換えられている実施形態4から実施形態6のポリマーである。
【0053】
第8の実施形態において、本明細書で提供されるのは、上記カチオンが1価の金属カチオンである実施形態7のポリマーである。
【0054】
第9の実施形態において、本明細書で提供されるのは、上記カチオンが二価の金属カチオンである実施形態7のポリマーである。
【0055】
第10の実施形態において、本明細書で提供されるのは、XがNRである実施形態1から実施形態9のいずれかのポリマーである。
【0056】
第11の実施形態において、本明細書で提供されるのは、Rがメチル基である実施形態10のポリマーである。
【0057】
第12の実施形態において、本明細書で提供されるのは、Xがポリマーのすべてのモノマーにおいて同じである実施形態1から実施形態11のいずれかのポリマーである。
【0058】
第13の実施形態において、本明細書で提供されるのは、Xがポリマーのすべてのモノマーにおいて同じではない実施形態1から実施形態11のいずれかのポリマーである。
【0059】
第14の実施形態において、本明細書で提供されるのは、モノマー中のすべてのXが同じというわけではない実施形態1から実施形態11のいずれかのポリマーである。
【0060】
第15の実施形態において、本明細書で提供されるのは、上記リンカーがエチレン基である実施形態1から実施形態14のいずれかのポリマーである。
【0061】
第16の実施形態において、本明細書で提供されるのは、各繰り返し単位が少なくとも2つのリンカーによって隣接する繰り返し単位に連結されている実施形態1から実施形態15のいずれかのポリマーである。
【0062】
第17の実施形態において、本明細書で提供されるのは、上記モノマーがキノン、ヒドロキノン、及び/又はセミキノン/キノヒドロン形態であり、Yが、完全に酸化されたキノンモノマー環においてOであり、Yが、完全に還元されたヒドロキノンモノマー環においてOHであり、Yが、混合酸化状態を有するモノマー環においてO又はOHである実施形態1から実施形態16のいずれかのポリマーである。
【0063】
さらに、モノマーあたり3つよりも多い環を有するポリマーも本明細書で企図されることを理解されたい。例えば、当該ポリマーは、四環式モノマーを含んでもよい。さらに、上記モノマーが1つ以上のヘテロ原子を含むポリマーも企図される。本明細書では、単環式、二環式、三環式及び四環式のモノマーから選択されるモノマーの混合物を有するポリマーも本明細書で企図される。隣接するモノマーとの連結の形成に関与する各モノマー中の2つの置換基(すなわち、X)が、オルト位又はメタ位にあるポリマーも本明細書で企図される。
【0064】
他に記載がない限り、「アルキル」は、炭素数1~20の直鎖若しくは分枝状の飽和又は不飽和の基を意味する。アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル及びiso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル及びtert-ブチル、ネオペンチル等が例示され、1つ、2つ、3つ、又は炭素数2以上のアルキル基の場合、3つよりも多い、独立にハロ、ヒドロキシル、C1~6アルコキシ、SO3H、アミノ、ニトロ、カルボキシル、ホスホリル、ホスホニル、チオール、C1~6アルキルエステル、C1~6アルキルチオ、及びオキソ、又はそれらのイオンからなる群から選択される置換基で任意に置換されていてもよい。
【0065】
本明細書で使用する場合、「アルコキシ」は、式-ORの基を意味し、この式中、Rは、本明細書に定義されるアルキル基である。
【0066】
本明細書で使用する場合、「アルキルチオ」は、-S-Rを意味し、この式中、Rは、本明細書で定義されるアルキル基である。
【0067】
本明細書で使用する場合、「アルキルエステル」は、-COORを意味し、この式中、Rは、本明細書に定義されるアルキル基である。
【0068】
本明細書で使用する場合、「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨードを意味する。
【0069】
本明細書で使用する場合、「ヒドロキシル」は-OHを意味する。
【0070】
本明細書で使用する場合、「アミノ」は-NH2を意味する。
【0071】
本明細書で使用する場合、「ニトロ」は-NO2を意味する。
【0072】
本明細書で使用する場合、「カルボキシル」は-COOHを意味する。
【0073】
本明細書で使用する場合、「オキソ」は=Oを意味する。
【0074】
本明細書で使用する場合、「スルホニル」は-SO3Hを意味する。
【0075】
本明細書で使用する場合、「チオール」は-SHを意味する。
【0076】
ポリマーの一般的な合成方法
本発明のポリマーは、以下のスキーム18及びスキーム19に示すような段階的な方法、又はスキーム20及びスキーム21に示すようなブロックモノマーのバルク重合により合成されてもよい。スキーム20は、ブロックモノマーの合成及びその伸長を段階的に行い、既知の鎖長、配列及び組成を有するポリマーを生成する方法を示す。スキーム21は、スキーム20で生成されたポリマーのその場での頭-尾重合を示す。
【0077】
スキーム18:一般的な「ワンポット」ブロック重合合成
【化19】
【0078】
上に示したように、所望のポリマーは、頭-尾重合から生じる。また、上に示したように、分子内置換は、所望のポリマーを生じさせる反応性経路を無効にすることになる。従って、所望のスタッキング型ポリマーを得るためには、求電子性(E)末端及び求核性(Nu)末端は、求核剤がその求電子性対応物と分子内反応しないような十分離れた距離を有する必要がある。
【0079】
スキーム19:一般的な段階重合合成 - ブロックモノマーの合成並びに制御された鎖長、配列及び組成を有するポリマーの合成
【化20】
【0080】
スキーム20:ブロックモノマーの合成及びその段階的な伸長(出発物質としてクロラニルを使用)
【化21】
【0081】
スキーム21:スキーム20から得られたブロックモノマーの重合
【化22】
【0082】
使用
本明細書に記載される導電性ポリマーは、広い範囲の用途を有する。例としては、以下のものが挙げられる。
【0083】
当該ポリマーは、電池(フロー電池を含む)、キャパシタ、スーパーキャパシタ、及び燃料電池等のエネルギー貯蔵デバイスに使用されてもよい。
本開示のポリマーの多くは、光活性である。この特性は、光に曝露されたときに太陽エネルギーを生成するために使用することができる。
【0084】
本開示のポリマーのユニークな構造は、より効率的なキノン-ヒドロキノンベースの流体電池システムを可能にし、とりわけリチウムイオン等の金属カチオンに結合された場合、固体電池システムにも有用であることが明らかになりうる。それゆえ、このようなポリマーは、電池、キャパシタ、又はスーパーキャパシタ等の高エネルギー貯蔵デバイスにおいて使用されてもよい。
【0085】
本明細書に記載されるポリマーは、磁気的又は誘導磁気的な有機若しくは有機金属のマイクロ磁気システムを製造するのに有用である可能性がある。
【0086】
本明細書に記載されるポリマーは、複合導電性材料、例えば、アノード又はカソードの調製に使用されてもよい。これらの複合材料において、当該導電性ポリマーは、金属、合金、炭素、又は共役二重結合を有する別の有機ポリマー(例えば、アセチレン又は単環式芳香族及び複素芳香族モノマーから誘導されるもの)を含んでもよい基材(基板)と関連付けられてもよい。金属基材を用いた場合、この複合導電性材料は、光電極(例えば、太陽エネルギーによる水の分解に用いる場合)等の腐食から保護された電極の製造に使用されてもよい。炭素基材を用いた場合、炭素が例えば繊維の形態にあれば、基材上に微小量の導電性ポリマーを堆積させることが可能であるため、この複合材料は医療機器用の微小電極を作製するために使用されてもよい。
【0087】
当該ポリマーは、光電池及び発光ダイオードの作製に使用されてもよい。さらに、当該ポリマーは、ドーピングの性質に応じた半導体特性(n型又はp型)に基づいて、接合部、ショットキー障壁ゲート、及びトランジスタを製造するためにマイクロエレクトロニクスで使用されてもよい。このようにして得られた半導体特性を有するこれらの材料のドーピング/脱ドーピングサイクルによっては、当該ポリマーは、光メモリ素子及び光電子デバイス及びスイッチの製造に使用されてもよい。
【0088】
他の実施形態
本明細書に開示されたすべての特徴は、任意の組み合わせで組み合わされてもよい。本明細書に開示された各特徴は、同一、同等、又は類似の目的を果たす代替の特徴によって置き換えられてもよい。従って、明示的に特段の記載がない限り、開示された各特徴は、同等又は類似の特徴の一般的なシリーズの一例にすぎない。
【0089】
上記の説明から、当業者は本発明の本質的な特徴を容易に把握することができ、その趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な用途と条件に適合させるために、本発明に様々な変更と改変を加えることができる。従って、他の実施形態も添付の特許請求の範囲の範囲に含まれる。
【国際調査報告】