(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-08
(54)【発明の名称】シデロフォア・セファロスポリン・コンジュゲートおよびその使用
(51)【国際特許分類】
C07D 501/46 20060101AFI20221031BHJP
A61K 31/546 20060101ALI20221031BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20221031BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20221031BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20221031BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20221031BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20221031BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221031BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C07D501/46 CSP
A61K31/546
A61P1/00
A61P11/00
A61P13/02 105
A61P17/00 101
A61P19/02
A61P31/04
A61P31/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514860
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(85)【翻訳文提出日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 EP2020074754
(87)【国際公開番号】W WO2021043973
(87)【国際公開日】2021-03-11
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517439904
【氏名又は名称】ナブリヴァ セラピュティクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145791
【氏名又は名称】加藤 志麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【氏名又は名称】藤田 尚
(72)【発明者】
【氏名】リートル,ローゼマリー
(72)【発明者】
【氏名】パウクナー,スザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ビヒャ,ボルフガンク
(72)【発明者】
【氏名】ビーザー,ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ティリンク,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】コルマン,ヘルマン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CC12
4C086CC16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA82
4C086ZA90
4C086ZA96
4C086ZB32
4C086ZB35
(57)【要約】
式(I):
【化22】
(I)
(式中、Xは、CH、CClおよびNからなる群から選択され;Zは、CH
2COOH、CH(CH
3)COOH、C(CH
3)
2COOHおよびCH
2Fからなる群から選択され;Dは、AおよびArを接続する単結合であるか、またはCO、NHCOおよびN(C
0~6)アルキル-COからなる群から選択され;Aは、(C
1~6)アルカンジイルおよび(C
3~6)シクロアルカンジイルからなる群から選択されるか、またはDがN(C
0)アルキル-COである場合、Aは、DにおけるN(C
0)アルキル-COの窒素原子と4~7員脂肪族複素環を形成し;Arは、Dに対してパラ位に第1のヒドロキシル基、Dに対してメタ位に第2のヒドロキシル基、および少なくとも1つの電子求引性要素を有する6員芳香環である)
の化合物およびその使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化16】
(式中、
Xは、CH、CClおよびNからなる群から選択され、
Zは、CH
2COOH、CH(CH
3)COOH、C(CH
3)
2COOHおよびCH
2Fからなる群から選択され、
Dは、AおよびArを接続する単結合であるか、またはCO、NHCOおよびN(C
0~6)アルキル-COからなる群から選択され、
Aは、
-(C
1~6)アルカンジイルおよび
-(C
3~6)シクロアルカンジイルからなる群から選択されるか、または
DがN(C
0)アルキル-COである場合、Aは、DにおけるN(C
0)アルキル-COの窒素原子と4~7員脂肪族複素環を形成し、
Arは、Dに対してパラ位に第1のヒドロキシル基、Dに対してメタ位に第2のヒドロキシル基、および少なくとも1つの電子求引性要素を有する6員芳香環である)
による化合物。
【請求項2】
前記電子求引性要素が、前記芳香環におけるヘテロ原子または前記芳香環における電子求引性置換基であり得る、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物が式(II):
【化17】
(式中、X、Z、D、およびAは、請求項1に記載のように定義され、
Eは、CH、N、N
+-CH
3、およびN
+-O
-からなる群から選択され、
Gは、Hまたは電子求引性置換基であり、
ただし、EがCHである場合、DはCO、NHCOおよびN(C
0~6)アルキル-COからなる群から選択され、Gは電子求引性置換基であることを条件とする)
による化合物である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
Gが、F、ClおよびOCF
3からなる群から選択される電子求引性置換基である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
Aにおける最短連結経路が、オキシム基のOとDとの間に延在する結合であって、前記オキシム基のOへの結合を除き、およびDへの結合またはDの単結合を除く結合の数によって規定され、
Aは、前記Aにおける最短連結経路が3つの共有(C-C)単結合より短いかまたは同じであり、特に3つの非環式共有(C-C)単結合より短く、
好ましくは2つの共有(C-C)単結合より短いかまたは同じであり、特に2つの非環式共有(C-C)単結合より短くなるように選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記Aにおける最短連結経路が、単(C-C)結合、1つの環式もしくは非環式(C-C)単結合、および2つの環式共有(C-C)結合のいずれをも越えない、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
Aが、メタンジイル、エタン-1,2-ジイル、プロパン-1,3-ジイル、プロパン-1,2-ジイル、シクロブタン-1,3-ジイル、シクロペンタン-1,3-ジイル、シクロヘキサン-1,3-ジイル、アゼチジン-1,3-ジイル、ピロリジン-1,3-ジイルおよびピペリジン-1,3-ジイルからなる群から選択され、アゼチジン-1,3-ジイル、ピロリジン-1,3-ジイルおよびピペリジン-1,3-ジイルにおいて、DがN(C
0)アルキル-COであり、DにおけるN(C
0)アルキル-COの窒素原子が複素環における窒素であり、
好ましくは、メタンジイル、エタン-1,2-ジイル、シクロブタン-1,3-ジイル、およびピロリジン-1,3-ジイルからなる群から選択され、DがN(C
0)アルキル-COであり、DにおけるN(C
0)アルキル-COの窒素原子がピロリジン環における窒素である、請求項1から6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
Dが、NHCOまたはN(C
0~6)アルキル-COであり、
Aが
-(C
1~6)アルカンジイル、好ましくは(C
1~4)アルカンジイル、例えば特に(C
2)アルカンジイルエタン-1,2-ジイル、
-(C
3~6)シクロアルカンジイル、好ましくは(C
4~5)シクロアルカンジイル、例えば特に(C
4)シクロアルカンジイルシクロブタン-1,3-ジイルであるか、または
Aが、DにおけるN(C
0)アルキル-COの窒素原子と4~7員脂肪族複素環、好ましくは5員脂肪族複素環、例えば特に、ピロリジンにおける窒素である、DにおけるN(C
0)アルキル-COの窒素原子と5員複素環ピロリジン-1,3-ジイルを形成し、
EがCHであり、
GがClである、
請求項3から7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
Dが単結合であり、
Aが
-(C
1~6)アルカンジイル、好ましくは(C
1~4)アルカンジイル、例えばメタンジイル、または
-(C
3~6)シクロアルカンジイルであり、
EがN
+-O
-であり、
GがHである、
請求項3から7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
-A-D-Ar
が、
【化18】
および
からなる群から選択され、
好ましくは、
【化19】
および
からなる群から選択され、
より好ましくは、
【化20】
および
からなる群から選択される、
請求項1から7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
XがCHまたはNである、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
ZがC(CH
3)
2COOHまたはCH
2Fである、請求項1から11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項13】
(6R,7R)-7-[[(2Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-(1-カルボキシ-1-メチル-エトキシ)イミノ-アセチル]アミノ]-3-[(1,5-ジヒドロキシ-4-オキソ-2-ピリジル)メトキシイミノメチル]-8-オキソ-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクタ-2-エン-2-カルボン酸、
(6R,7R)-7-[[(2Z)-2-(5-アミノ-1,2,4-チアジアゾール-3-イル)-2-(1-カルボキシ-1-メチル-エトキシ)イミノ-アセチル]アミノ]-3-[(1,5-ジヒドロキシ-4-オキソ-2-ピリジル)メトキシイミノメチル]-8-オキソ-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクタ-2-エン-2-カルボン酸、
(6R,7R)-7-[[(2Z)-2-(5-アミノ-1,2,4-チアジアゾール-3-イル)-2-(フルオロメトキシイミノ)アセチル]アミノ]-3-[(1,5-ジヒドロキシ-4-オキソ-2-ピリジル)メトキシイミノメチル]-8-オキソ-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクタ-2-エン-2-カルボン酸、
7-[[(2Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-(1-カルボキシ-1-メチル-エトキシ)イミノ-アセチル]アミノ]-3-[2-[(2-クロロ-3,4-ジヒドロキシ-ベンゾイル)アミノ]エトキシイミノメチル]-8-オキソ-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクタ-2-エン-2-カルボン酸、
7-[[(2Z)-2-(5-アミノ-1,2,4-チアジアゾール-3-イル)-2-(1-カルボキシ-1-メチル-エトキシ)イミノ-アセチル]アミノ]-3-[2-[(2-クロロ-3,4-ジヒドロキシ-ベンゾイル)アミノ]エトキシイミノメチル]-8-オキソ-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクタ-2-エン-2-カルボン酸、
7-[[(2Z)-2-(5-アミノ-1,2,4-チアジアゾール-3-イル)-2-(フルオロメトキシイミノ)-アセチル]アミノ]-3-[2-[(2-クロロ-3,4-ジヒドロキシ-ベンゾイル)アミノ]エトキシイミノメチル]-8-オキソ-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクタ-2-エン-2-カルボン酸、
7-[[(2Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-(1-カルボキシ-1-メチル-エトキシ)イミノ-アセチル]アミノ]-3-[[3-[(2-クロロ-3,4-ジヒドロキシ-ベンゾイル)アミノ]-トランス-シクロブトキシ]イミノメチル]-8-オキソ-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクタ-2-エン-2-カルボン酸
および
7-[[(2Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-(1-カルボキシ-1-メチル-エトキシ)イミノ-アセチル]アミノ]-3-{[(3S)-1-(2-クロロ-3,4-ジヒドロキシ-ベンゾイル)ピロリジン-3-イル]オキシイミノメチル}-8-オキソ-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクタ-2-エン-2-カルボン酸
からなる群から選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
少なくとも1つの医薬賦形剤と組み合わせて請求項1から13のいずれか一項に記載の化合物を含み、場合により、さらに少なくとも1つの医薬活性剤を含む組成物。
【請求項15】
医薬品として使用するための、請求項1から13のいずれか一項に記載の化合物または請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
微生物または細菌、好ましくはグラム陰性細菌によって媒介される感染性疾患の処置および予防において使用するための、請求項1から13のいずれか一項に記載の化合物または請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
前記感染性疾患が、下気道および/または上気道の気道感染症、尿路感染症、腹腔内感染症、全身感染症、人工関節感染症、胃腸感染症、ならびに皮膚および/または軟組織の感染症からなる群から選択され、上下気道感染症には嚢胞性線維症および気管支拡張症が含まれる、請求項16に記載の使用のための化合物または請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
前記感染性疾患が、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、シトロバクター・フレンディ(Citrobacter freundii)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロビデンシア・スチュアルティイ(Providencia stuartii)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アシネトバクター・ルオフィ(Acinetobacter lwoffi)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、バークオルデリア・セノセパシア(Burkolderia cenocepatia)、バークホルデリア・ベトナメンシス(Burkholderia vietnamensis)、ストレプトコッカスspp.(Streptococcus spp.)、およびストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)からなる群から選択される、好ましくは、大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、およびバークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)からなる群から選択される細菌によって媒介される、請求項16もしくは17に記載の使用のための化合物または請求項16もしくは17に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
それを必要とする対象における感染性疾患を処置する方法であって、有効量の式(I):
【化21】
(式(I)による化合物において、X、Z、A、DおよびArは請求項1から13のいずれか一項に記載のように定義される)による化合物を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項20】
前記感染性疾患が、微生物または細菌、好ましくはグラム陰性細菌によって媒介される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記感染性疾患が、下気道および/または上気道の気道感染症、尿路感染症、腹腔内感染症、全身感染症、人工関節感染症、胃腸感染症、ならびに皮膚および/または軟組織の感染症からなる群から選択され、上下気道感染には嚢胞性線維症および気管支拡張症が含まれる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記感染性疾患が、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、シトロバクター・フレンディ(Citrobacter freundii)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロビデンシア・スチュアルティイ(Providencia stuartii)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アシネトバクター・ルオフィ(Acinetobacter lwoffi)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、バークオルデリア・セノセパシア(Burkolderia cenocepatia)、バークホルデリア・ベトナメンシス(Burkholderia vietnamensis)、ストレプトコッカスspp.(Streptococcus spp.)、およびストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)からなる群から選択され、好ましくは、大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、およびバークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)からなる群から選択される細菌によって媒介される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
有効量の式(I)による化合物を医薬組成物の形態で投与する、請求項19から22のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物、すなわちシデロフォア・セファロスポリン・コンジュゲートおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
セファロスポリンは、共通のコア構造、すなわちセフェム環系8-オキソ-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクタ-2-エン-2-カルボキシレートを有するβ-ラクタム抗生物質のクラスである。細菌スペクトル、すなわち様々な細菌に対するセファロスポリンの殺菌活性は、置換パターンに応じて変化する。セフェム環の3位の側鎖にCH=N部分を含むセファロスポリン化合物は、例えば国際公開第96/35692号パンフレットに記載されており、オキシム型CH=N-O化合物は、その中の実施例3、4および6に例示されている。
【0003】
シデロフォアは鉄キレート化合物であり、シデロフォア薬物コンジュゲートは細菌における鉄の取込み機構を利用する。シデロフォア薬物コンジュゲートのいくつかの例は、例えば、Ji, C. et al, Future Med. Chem. (2012) 4(3), 297-313に要約されている。
【0004】
シデロフォア・コンジュゲート・セファロスポリンは、例えば、セフェム環の3位の側鎖に第四級アンモニウム基と共にアルキルまたはアルケニルを有する誘導体を網羅する国際公開第2010/050468号パンフレット、国際公開第2011/136268号パンフレット、国際公開第2012/134184号パンフレットおよび国際公開第2012/147773号パンフレットに記載されている。例えば、国際公開第2010/050468号パンフレットには、最も進歩したシデロフォア薬物コンジュゲートを表すカテコール型シデロフォア・セファロスポリン・コンジュゲートである、セフィデロコールが例示されており、現在、多剤耐性(MDR)グラム陰性細菌感染症の潜在的な静脈内処置のための事前登録段階にある。
【化1】
【0005】
強力な鉄キレート特性は、シデロフォア薬物コンジュゲートが微生物によって排出される天然のシデロフォアと競合することができるために重要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、式(I):
【化2】
(式中、
Xは、CH、CClおよびNからなる群から選択され、
Zは、CH
2COOH、CH(CH
3)COOH、C(CH
3)
2COOH、およびCH
2Fからなる群から選択され、
Dは、AおよびArを接続する単結合であるか、またはCO、NHCOおよびN(C
0~6)アルキル-COからなる群から選択され、
Aは、
-(C
1~6)アルカンジイルおよび
-(C
3~6)シクロアルカンジイルからなる群から選択されるか、または
DがN(C
0)アルキル-COである場合、Aは、DにおけるN(C
0)アルキル-COの窒素原子と4~7員脂肪族複素環を形成し、
Arは、Dに対してパラ位に第1のヒドロキシル基、Dに対してメタ位に第2のヒドロキシル基および少なくとも1つの電子求引性要素を有する6員芳香環である)
による化合物を提供する。
【0007】
本発明による化合物では、セフェム環の3位にオキシムエーテルを含む連結によって、シデロフォア基(Ar)をセファロスポリンコアに連結している。得られるオキシム型のシデロフォア・コンジュゲート・セファロスポリンは、これまでに記載されていない。本発明者らは、驚くべきことに、オキシム型のシデロフォア・コンジュゲート・セファロスポリン、すなわち式(I)による化合物が、予想外に強い鉄キレート特性と組み合わされた興味深い抗菌活性を有することを見出した。シデロフォア基(Ar)のオキシム連結は、驚くほど強い鉄キレート特性に関与する。主にリンカーにおいて化合物セフィデロコールとは異なる実施例4は、セフィデロコールに対して測定されたものよりも1桁強い鉄キレート活性を示す(以下の表1を参照されたい)。
【0008】
式(I)による化合物では、Arは化合物の鉄キレート特性を主に担うと考えられる。Arは、2つのヒドロキシル基を有する6員芳香環である。両ヒドロキシル基は互いにオルト置換しており(カテコール型)、これは鉄原子の錯化(すなわち、鉄キレート化)を可能にすることが公知である。第1のヒドロキシル基は、化合物の残りの部分に連結された位置とは反対の位置(すなわち、パラ位)を占める。第2のヒドロキシル基は、第1のヒドロキシル基が結合した炭素原子に隣接する炭素原子の位置(すなわち、化合物の残りの部分に連結された位置に対してメタ位)を占める。
【0009】
本発明による化合物では、シデロフォア基Arは、少なくとも1つの電子求引性要素をさらに有する。
【0010】
電子求引性は、有機化学において公知の概念であり、反応中心に対する、またはこの場合には芳香環内の電子系に対する分極または静電力を意味する。電子求引性要素は、例えば、芳香環での電子求引性置換基であってもよい。Dが、CO、NHCOおよびN(C0~6)アルキル-COから選択される場合、芳香環Arはカルボニル基で置換され、これは電子求引性効果を有することが公知である。一方、本発明によれば、Arは少なくとも1つの追加の電子求引性要素を有する。
【0011】
さらなる電子求引性要素は、芳香環の任意の自由な位置に位置する置換基であってもよい。電子求引性置換基としては、例えば、ハロゲン、ニトリル、カルボニル(特に、C1~C6カルボニル、例えばホルミル、アセチル)、またはハロゲン化アルコキシルが挙げられる。
【0012】
好ましい実施形態では、電子求引性置換基は、F、ClおよびOCF3からなる群から選択される置換基である。特に、電子求引性置換基は、芳香環の自由な位置、好ましくはDに対してオルト位の置換基である。
【0013】
代替的にまたは追加的に、電子求引性要素は、芳香環Arにおけるヘテロ原子であってもよい。
【0014】
好ましい実施形態では、電子求引性要素は、芳香環Arにおける窒素原子または置換された窒素原子である。したがって、得られる芳香環Arはピリジン系芳香環である。例えば、芳香環は、ピリジン、N-(C1~6)アルキル-ピリジニウムおよびピリジン-N-オキシドからなる群から選択されてもよい。好ましくは、ピリジン系芳香環は、窒素原子に対して3位および4位(または4位および5位)にて2つのヒドロキシル基で置換され、窒素原子に対して2位(または6位)にてD(または分子の残りの部分)に連結される。例示的には、Arは、3,4-ジヒドロキシ-2-ピリジニル、4,5-ジヒドロキシ-2-ピリジニル、3,4-ジヒドロキシ-1-(C1~C6)アルキル-2-ピリジニウムイル、4,5-ジヒドロキシ-1-(C1~C6)アルキル-2-ピリジニウムイル、1,3-ジヒドロキシ-4-オキソ-2-ピリジルおよび1,5-ジヒドロキシ-4-オキソ-2-ピリジル、好ましくは4,5-ジヒドロキシ-2-ピリジニル、4,5-ジヒドロキシ-1-(C1~C6)アルキル-2-ピリジニウムイル、1,5-ジヒドロキシ-4-オキソ-2-ピリジルからなる群から選択される。
【0015】
さらに好ましい実施形態では、本発明による化合物は、式(II):
【化3】
(式中、X、Z、D、およびAは、上記のように定義され、
Eは、CH、N、N
+-CH
3、およびN
+-O
-からなる群から選択され、
Gは、Hまたは電子求引性置換基であり、
ただし、EがCHである場合、DはCO、NHCOおよびN(C
0~6)アルキル-COからなる群から選択され、Gは電子求引性置換基であることを条件とする)
による化合物である。
【0016】
これらの実施形態では、EがCHである場合、すなわち芳香環Arがフェニル系環である場合、置換基GおよびDは、電子求引性を意味するように選択されることが保証される。これは、EがCHである場合、Gは電子求引性置換基であり、Dがカルボニル官能基を含むことを意味する。
【0017】
この場合、好ましくは、Gは、F、ClおよびOCF3からなる群から選択される。
【0018】
一実施形態では、リンカー要素Dは、CO、NHCOおよびN(C0~6)アルキル-COからなる群から選択され、より好ましくはNHCOおよびN(C0~6)アルキル-CO、特にNHCOおよびN(C0)アルキル-COからなる群から選択される。DがN(C0)アルキル-COである場合、Aは、DにおけるN(C0)アルキル-COの窒素原子と4~7員脂肪族複素環を形成する。この場合、Aは窒素に対する両方の置換基を形成し、さらなるアルキル置換基は存在しない、すなわち(C0)アルキルとして定義される。
【0019】
リンカー要素Aは(Dと共に)、セフェム環に対するArの幾何学的配置(例えば、距離、配向)に影響を与える。一般に、AはDから独立して選択される。しかしながら、いくつかの実施形態では、Aの定義はDに関係する。予備データに基づくと、オキシム基のOとArの最も近い原子とが少なくとも1個の原子(例えば実施例1)によって分離されているが、好ましくは6個以下の原子、例えば5個の原子によって分離されていることが、特に鉄キレート活性にとって有益であると考えられる。距離は、分子内(または分子の一部内)の最短連結経路の共有結合の数によって記述することができる。これは、立体配座/三次元の側面を無視した非常に単純化された表現であるが、本発明によるリンカーについてのいくつかの選好を定義することを可能にする。当業者は、ヘテロ原子を含む共有結合、sp2ハイブリダイゼーションでのC原子を含む共有(C-C)結合、および環状(C-C)結合(環系内の幾何学的制約による)が、非環状共有(C-C)単結合よりも短いことを理解するであろう。
【0020】
本明細書では、Aにおける最短連結経路は、オキシム基のOとDとの間に延在する結合であって、オキシム基のOへの結合を除き(すなわち、式(I)または(II)の結合O-Aを除く)、Dへの結合またはDの単結合を除く(すなわち、式(I)または(II)中の結合A-Dを除く)、結合の数によって定義される。用語「最短」に従うように、分岐または環状リンカーの場合、結合の数が最も少ない経路が考慮されるべきである。
【0021】
一実施形態では、Aは、Aにおける最短連結経路が3つの共有(C-C)単結合より短いかまたは同じであり、特に3つの非環式共有(C-C)単結合より短く、好ましくは2つの共有(C-C)単結合より短いかまたは同じであり、特に2つの非環式共有(C-C)単結合より短くなるように選択される。
【0022】
好ましい実施形態では、Aにおける最短連結経路は、単(C-C)結合、1つの環式もしくは非環式(C-C)単結合、および2つの環式共有(C-C)結合のいずれをも越えない。
【0023】
したがって、好ましい実施形態では、Aは、メタンジイル、エタン-1,2-ジイル、プロパン-1,3-ジイル、プロパン-1,2-ジイル、シクロブタン-1,3-ジイル、シクロペンタン-1,3-ジイル、シクロヘキサン-1,3-ジイル、アゼチジン-1,3-ジイル、ピロリジン-1,3-ジイルおよびピペリジン-1,3-ジイルからなる群から選択され、ここで、アゼチジン-1,3-ジイル、ピロリジン-1,3-ジイルおよびピペリジン-1,3-ジイルにおいて、DはN(C0)アルキル-COであり、DにおけるN(C0)アルキル-COの窒素原子は複素環における窒素であり、
好ましくは、メタンジイル、エタン-1,2-ジイル、シクロブタン-1,3-ジイル、およびピロリジン-1,3-ジイルからなる群から選択され、DはN(C0)アルキル-COであり、DにおけるN(C0)アルキル-COの窒素原子はピロリジン環中の窒素である。
【0024】
さらなる実施形態では、本発明による化合物は、式(II)
(式中、XおよびZは上記のように定義され、
Dは、NHCOまたはN(C0~6)アルキル-COであり、
Aは、
-(C1~6)アルカンジイル、好ましくは(C1~4)アルカンジイル、例えば特に(C2)アルカンジイルエタン-1,2-ジイル、
-(C3~6)シクロアルカンジイル、好ましくは(C4~5)シクロアルカンジイル、例えば特に(C4)シクロアルカンジイルシクロブタン-1,3-ジイルであるか、または
Aは、DにおけるN(C0)アルキル-COの窒素原子と4~7員脂肪族複素環、好ましくは5員脂肪族複素環、例えば特に、ピロリジン中の窒素である、DにおけるN(C0)アルキル-COの窒素原子と5員複素環ピロリジン-1,3-ジイルを形成し、
EはCHであり、
GはClである)
による化合物である。
【0025】
あるいは、EがN、N+-CH3、およびN+-Oである場合、すなわち芳香環Arがピリジニル系環である場合、GおよびDに関するそのような要件は求められない。ヘテロ原子Nは、Arにおける電子求引性要素である。したがって、Gは水素であってもよく、および/またはDは単結合(すなわち、Dは個々の部分として存在しない)であってもよい。
【0026】
好ましくは、この場合、本発明による化合物は、式(II):
(式中、XおよびZは上記のように定義され、
Dは単結合であり、
Aは、
-(C1~6)アルカンジイル、好ましくは(C1~4)アルカンジイル、例えばメタンジイル、
-(C3~6)シクロアルカンジイルであり、または
EはN+-O-であり、
GはHである)
による化合物である。
【0027】
別の実施形態では、式(I)中の-A-D-Arは、
【化4】
および
からなる群から選択され、
好ましくは、
【化5】
および
からなる群から選択され、
より好ましくは、
【化6】
および
からなる群から選択されることが好ましい。
【0028】
本発明の化合物は、チアゾール環(XはCHであるか、またはXはCClである)または1,3,4-チアジアゾール(XはNである)を含む。
【0029】
好ましい実施形態では、XはCHまたはNである。
【0030】
7位での置換のオキシムは、CH2COOH、CH(CH3)COOH、C(CH3)2COOHおよびCH2Fからなる群から選択される置換アルキルZでO置換されている。
【0031】
好ましい実施形態では、ZはC(CH3)2COOHまたはCH2Fである。
【0032】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの医薬賦形剤と組み合わせて本発明による化合物を含む組成物を提供する。
【0033】
一実施形態では、組成物は、場合により、さらに少なくとも1つの医薬活性剤を含む。
【0034】
別の態様では、本発明は、医薬品として使用するための本発明による化合物または組成物を提供する。
【0035】
本発明による化合物または組成物は、疾患の処置または予防の方法において使用することができ、本発明による化合物または化合物を含む組成物は、それを必要とする対象に適用される。
【0036】
本発明による化合物は殺菌活性を有することが見出された。したがって、それらは感染性疾患の処置および予防に適している。
【0037】
したがって、一実施形態では、本発明は、微生物または細菌、好ましくはグラム陰性細菌によって媒介される感染性疾患の処置および予防において使用するための、本発明による化合物または組成物を提供する。
【0038】
好ましい実施形態では、感染性疾患は、
-上気道および/または下気道の気道感染症、ここで、気道感染症には嚢胞性線維症および気管支拡張症が含まれる、
-尿路感染症、
-腹腔内感染症、
-全身感染症、
-人工関節感染症、
-胃腸感染症、ならびに
-皮膚および/または軟組織の感染症
からなる群から選択される。
【0039】
別の実施形態では、感染性疾患は、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、シトロバクター・フレンディ(Citrobacter freundii)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロビデンシア・スチュアルティイ(Providencia stuartii)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アシネトバクター・ルオフィ(Acinetobacter lwoffi)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、バークオルデリア・セノセパシア(Burkolderia cenocepatia)、バークホルデリア・ベトナメンシス(Burkholderia vietnamensis)、ストレプトコッカスspp.(Streptococcus spp.)、およびストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)からなる群から選択され、好ましくは、大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、およびバークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)からなる群から選択される細菌によって媒介される。
【0040】
さらなる態様では、本発明は、それを必要とする対象における感染性疾患を処置する方法を提供し、方法は、有効量の式(I)による化合物を対象に投与する工程を含み、式(I)による化合物において、X、Z、A、DおよびArは上記のように定義される。
【0041】
一実施形態では、化合物は医薬組成物の形態で投与される。処置には、処置および予防が含まれる。抗菌処置および嚢胞性線維症の処置のために、適切な投与量(有効量)は、もちろん、例えば、用いられる本発明の化合物の化学的性質および薬物動態データ、個々の宿主、投与の様式、ならびに処置される疾患(複数可)の性質および重症度に応じて変化する。しかしながら、一般に、大型哺乳動物、例えばヒトにおける満足のいく結果のために、示される1日投与量は、例えば1日4回までの分割用量で都合よく投与される本発明の化合物約0.5mg~3gの範囲である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
式(I)または(II)による化合物中の(CX~Y)基の定義には、X~Y個の炭素原子を有する任意の基が含まれる。例えば、(C1~5)アルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、プロパ-2-イル、ブチル、ブタ-2-イル、トリメチルメチル、2-メチルプロパ-1-イル、ペンチル、ペンタ-2-イル、ペンタ-3-イル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、3-メチルブタ-2-イルが挙げられる。同様に、(C1~C6)アルキルまたは(C1~6)アルカンジイルにも、直鎖および分岐アルカン基が含まれる。
【0043】
本発明による化合物の一部として定義される任意の基は、非置換であってもよく、または例えば1つもしくはそれ以上で置換されていてもよい。
【0044】
(C1~6)アルキル、(C1~6)アルカンジイル、シクロアルキル、(C3~6)シクロアルカンジイル、4~7員脂肪族複素環、および6員芳香環には、それぞれ、非置換または置換の(C1~6)アルキル、(C1~6)アルカンジイル、シクロアルキル、(C3~6)シクロアルカンジイル、4~7員脂肪族複素環、および6員芳香環が含まれる。これらの基は、例えば、有機化学における従来の基によって置換されていてもよい。置換基としては、例えば、(C1~C6)アルキル、(C2~C6)アルケニル、(C1~C6)アルコキシ、ヒドロキシ、オキソ、カルボキシル、(C1~C6)アルキルカルボニル、アミド、ウレイド、グアニジノ、チオウレイド、アミノ、ハロゲンが挙げられる。
【0045】
基AおよびD(Dが単結合でない場合)は両方とも、化合物の他の部分との結合を形成するための2つの遊離原子価を有する連結基である。別途示されない場合、連結基AまたはDは、左から右に書かれるように式(I)または(II)において配向される。例えば、式(I)においてDがNHCOである場合、アミドの窒素原子はAに連結され、炭素原子はArに連結される。
【0046】
本発明による化合物は、オキシイミン官能基とも呼ばれる2つのオキシムエーテル官能基を有する。これらの官能基について、窒素原子への二重結合(C=N結合)でのE/Z配置に基づいて、異なる立体化学的配向が可能である。式内の配向の図は、代替的な配置を排除するものではないことを理解されたい。したがって、式(I)または(II)による化合物において、立体化学が明示的に示されていない場合(すなわち、セフェム環のキラル炭素原子の場合のように)、すべての配置異性体が網羅されていると理解されるべきである。特に、両方のオキシム官能基について、互いに独立して、両方の配置が式(I)または(II)に含まれ、したがってそれぞれの4つのジアステレオマー形態も網羅される。しかしながら、各オキシム官能基は、互いに独立して、式(I)または(II)の図によって可視化されるような配置であることが好ましく、より好ましくは、両方とも式(I)または(II)の図によって可視化されるような配置である。
【0047】
ピリジン-N-オキシド、ピリジノンまたはピリジニウムは、互変異性形態で存在し得る:
【化7】
【0048】
本発明は、それぞれの式または命名法の描画のために選択された互変異性体とは関わりなく、すべての互変異性形態を含む。
【0049】
本発明の化合物は、任意の形態、例えば遊離形態/内塩/双性イオン形態、塩の形態、溶媒和物の形態、または塩および溶媒和物の形態の化合物を含む。塩は、好ましくは薬学的に許容される塩を含むが、任意の塩が、例えば調製/単離/精製の目的のために含まれる。
【0050】
本発明の化合物を調製するための方法は公知であるか、または例えば、従来の方法または以下の合成スキーム1で指定される方法に従って同様に調製することができる:
【化8】
【0051】
式(I)、式(A)および式(D)の化合物において、X、Z、A、D、およびArは上に定義される通りである。
【0052】
本発明の化合物の調製における、場合により保護された形態または塩の形態またはその両方の形態の、中間体または出発物質(A)、(B)および(D)は、公知であるか、または例えば従来の方法と同様に調製され得る。
【0053】
式(B)および(C)の中間体または出発物質は、アルデヒドを含み、これは、近位カルボン酸と一緒に、ヘミアシラールとして存在してもよい:
【化9】
【0054】
本発明の化合物は、処置または予防(prophylaxis)(すなわち、予防(prevention))のために使用され得(またはそのための方法において適用され得)、本発明の化合物は、対象に適用、すなわち投与される。
【0055】
本発明の化合物は、任意の従来の経路、例えば経腸的に、例えば経鼻、頬側、経口投与など;非経口的に、例えば、静脈内、筋肉内、皮下投与など;または局所的に、例えば吸入、経皮、鼻腔内、気管内、耳内、眼内投与などにより、例えばコーティングされたまたはコーティングされていない錠剤、カプセル、注射可能な溶液または懸濁液の形態、例えばアンプル、バイアルの形態、クリーム、ゲル、ペースト、吸入液、吸入粉末、スプレー、フォーム、チンキ剤、または滴剤の形態で投与される。
【0056】
好ましくは、本発明による化合物は、純粋な形態で投与されず、組成物に製剤化される。
【0057】
したがって、別の態様では、本発明は、少なくとも1つの医薬賦形剤(例えば、担体または希釈剤)と組み合わせて、本発明による化合物を含む医薬組成物を提供する。その中で、本発明による化合物は、遊離形態または薬学的に許容される塩の形態および/または溶媒和物の形態であり得る。
【0058】
投与経路に応じて、組成物は、医薬品の先行技術に従って製剤化される。当業者は、例えば、充填剤、結合剤、崩壊剤、流動コンディショナー、潤滑剤、糖および甘味料、芳香剤、保存剤、安定剤、湿潤剤および/または乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節するための塩および/または緩衝剤を含む公知の賦形剤から少なくとも1つの医薬賦形剤を選択することができる。
【0059】
本発明の化合物は、単独で、または1つもしくはそれ以上の他の薬学的に活性な薬剤と組み合わせて、処置または予防のために使用され得る(またはそのための方法において適用され得る)。そのような他の薬学的に活性な薬剤には、例えばベータラクタマーゼ阻害剤、増強剤および他の抗生物質が含まれ、本発明の化合物が嚢胞性線維症の処置において使用される場合、他の薬学的に活性な薬剤には、嚢胞性線維症の処置において従来使用されている薬剤がさらに含まれる。
【0060】
他の薬学的に活性な薬剤は、本発明による化合物を含む組成物中に提供されてもよく、または他の薬学的に活性な薬剤は別に投与されてもよい。
【0061】
本発明の使用および方法は、主にヒト対象における処置および予防に関するが、他の哺乳動物対象、すなわち動物およびペット、例えば家禽、ブタ、子ウシ、イヌ、ネコにおける処置および予防のために、すなわち獣医学目的のために、ならびに人工授精および卵浸漬技術のための流体を希釈するために用いることもできる。
【0062】
本発明の化合物は、感染性疾患の処置または予防のために使用され得る(またはそのための方法において適用され得る)。感染性疾患は、当業者によって診断され得、当業者は、対象の症候を微生物もしくは細菌による感染と関連付けるか、または感染性疾患は、対象もしくは対象から採取される試料における微生物もしくは細菌を検出することによって診断され得る。
【0063】
本発明による化合物は薬理活性を示し、したがって医薬として有用である。例えば、本発明の化合物は、グラム陰性細菌、例えば大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、シトロバクター・フレンディ(Citrobacter freundii)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロビデンシア・スチュアルティイ(Providencia stuartii)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アシネトバクター・ルオフィ(Acinetobacter lwoffi)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、バークオルデリア・セノセパシア(Burkolderia cenocepatia)、バークホルデリア・ベトナメンシス(Burkholderia vietnamensis)、ならびにグラム陽性細菌、例えばストレプトコッカスspp.(Streptococcus spp.)およびストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)に対して抗菌活性を示す。
【0064】
グラム陰性細菌によって媒介される感染性疾患は、例えば大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、シトロバクター・フレンディ(Citrobacter freundii)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、プロビデンシア・スチュアルティイ(Providencia stuartii)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、アシネトバクター・ルオフィ(Acinetobacter lwoffi)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、バークオルデリア・セノセパシア(Burkolderia cenocepatia)、およびバークホルデリア・ベトナメンシス(Burkholderia vietnamensis)からなる群から選択される細菌によって媒介され得る。
【0065】
したがって、本発明による化合物は、微生物、例えば細菌によって媒介される疾患の処置および予防に適している。グラム陽性およびグラム陰性細菌に対する抗菌活性に基づき、本発明による化合物は、感染性疾患の処置および予防に適している。本発明による化合物で処置することができる疾患には、例えば、嚢胞性線維症および気管支拡張症を含む上下気道感染症、ならびに尿路感染症、腹腔内感染症、全身感染症、人工関節感染症、胃腸感染症、および軟部組織感染症が含まれる。
【0066】
細菌に対するインビトロ活性を、Clinical and Laboratory Standards Institute CLSI document (Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing) M100Ed29E (2019)および(Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Test for Bacteria That Grow Aerobically) M07Ed11 (2018)に従って標準的なブロス微量希釈によって決定した。データは、鉄キレート活性を有する化合物について、陽イオン調整ミューラーヒントンブロス培地(CAMHB)およびさらに鉄を枯渇させたCAMHB培地(ID-CAMHB)を使用して得た。実施例1~8および比較化合物の結果を表1に要約する。
【0067】
鉄キレート特性は、Schwyn B., et al., Universal Chemical Assay for the Detection and Determination of Siderophores, 1987. Analytical Biochemistry 160: 47-56に従いクロムアズロールアッセイによって決定した。アッセイは、鉄(III)に対するクロムアズロールS/鉄(III)/ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(hexadecyltrimethylamimonium)ブロミドの親和性を使用する。強力なキレート剤がこの染料から鉄を除去すると、その色は青色から橙色に変わり、630nmで測定される吸光度はシデロフォアのキレート特性を示す。実施例1~8および比較化合物の結果を表1に要約する。
【0068】
したがって、一実施形態では、本発明による化合物は、40μM以下、好ましくは20μM未満のIC
50によって規定される鉄キレート活性を有し、鉄キレート活性はクロムアズロールアッセイによって決定される。
【表1】
【0069】
表1の略語:
CI95 LL-UL 95%確率信頼区間、下限~上限
EC 大腸菌(Escherichia coli)
KP クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)
AB アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)
PA シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)
BC バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)
CF 嚢胞性線維症
n.d.未決定
【実施例】
【0070】
本明細書では、実施例および反応スキームを含めて、以下の略語が使用される:
1H-NMR プロトン核磁気共鳴分光法
℃ 摂氏
BOC tert-ブチルオキシカルボニル
BSA N,O-ビス(トリメチルシリル)-アセトアミド
DMSO ジメチルスルホキシド
EDC N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミドヒドロクロライド
eq 当量
h 時間
HOBT 1-ヒドロキシベンゾトリアゾール
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
MS 質量分析
N 正常
NMR 核磁気共鳴分光法
m/e 質量/電荷比
THF テトラヒドロフラン
【0071】
実施例1:(6R,7R)-7-[[(2Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-(1-カルボキシ-1-メチル-エトキシ)イミノ-アセチル]アミノ]-3-[(1,5-ジヒドロキシ-4-オキソ-2-ピリジル)メトキシイミノメチル]-8-オキソ-5-チア-1-アザビシクロ[4.2.0]オクタ-2-エン-2-カルボン酸
【化10】
工程1:アミド形成
化合物B(国際公開第95/29182号パンフレット)(1.47g、6.44mmol)およびBSA(3.15mL、2当量)を含むアセトニトリル(10mL)の氷冷溶液に、化合物A1(米国特許第4500526号明細書)(3.8g、1当量)のアセトニトリル(20mL)中懸濁液を添加した。得られた反応混合物を氷冷下で1時間、室温で1時間撹拌し、次いで、氷水にゆっくり添加した。得られた沈殿を濾過し、減圧下で乾燥させて、化合物C1を黄色固体として得、これを次の工程のために直接使用した。
1H-NMR(400MHz、DMSO-d
6、δ、ppm):9.46(d、1H、CONH、J=8.2Hz)、7.43~7.18(m、15H、トリチル-H)、6.71(s、1H、チアゾール-H)、6.30、6.22(2xs、1H、O-CH-O)、5.90(dd、1H、H-6、J=5.2Hz、8.2Hz)、5.16(d、1H、H-7、J=5.2Hz)、3.76(d、1H、H-2a、J=18.6Hz)、3.58(d、1H、H-2b、J=18.6Hz)、1.41(s、6H、2xCH
3)、1.37(s、9H、COO
tBu)。
MS m/e:782[M+H]
+
【0072】
工程2:オキシム形成
アセトニトリル(15mL)中の化合物C1(実施例1、工程1)および化合物D1(欧州特許出願公開第0430286号明細書)(1.11g、1当量)の懸濁液に氷冷下で1N塩酸(19.3mL、3当量)を添加した。得られた混合物を室温に加温し、3時間撹拌し、次いで、氷水にゆっくり添加した。得られた沈殿を濾別し、減圧下で乾燥させて、保護された形態の化合物I1を固体として得、これを次の工程のために直接使用した。
1H-NMR(400MHz、DMSO-d6、δ、ppm):9.41(d、1H、CONH、J=8.1Hz)、)、8.36(s、1H、アゾメチン)、7.80(s、1H、ジヒドロピリジンH-6)、7.38~7.17(m、15H、トリチル-H)、6.74(s、1H、ジヒドロピリジンH-3)、6.68(s、1H、チアゾール-H)、5.79(dd、1H、H-6、J=5.0Hz、8.1Hz)、5.23(d、1H、H-7、J=5.0Hz)、5.15(s、2H、O-CH2)、3.85(d、1H、H-2a、J=18.0Hz)、3.58(d、1H、H-2b、J=18.0Hz)、1.38(bs、6H.2xCH3)、1.35(s、9H、COOtBu)。
MS m/e:936[M+H]+
【0073】
工程3:脱保護
保護された形態の化合物I1(実施例1、工程2)を氷冷下でトリフルオロ酢酸(20mL)に溶解した。得られた混合物を氷冷下で4時間撹拌し、次いで、冷ジエチルエーテルにゆっくり添加した。得られた沈殿を濾別し、減圧下で乾燥させて、トリフルオロアセテート塩の形態の化合物I1を固体として得た。
1H-NMR(400MHz、MeOH-d4、δ、ppm):8.46(s、1H、アゾメチン)、7.84(s、1H、ジヒドロピリジンH-6)、6.94(s、1H、チアゾール-H)、6.84(s、1H、ジヒドロピリジンH-3)、5.87(d、1H、H-6、J=5.1Hz)、5.20(s、2H、O-CH2)、5.16(d、1H、H-7、J=5.1Hz)、3.89(d、1H、H-2a、J=18.2Hz)、3.50(d、1H、H-2b、J=18.2Hz)、1.52(s、3H、CH3)、1.51(s、3H、CH3)。
MS m/e:638[M+H]+
【0074】
工程4a(任意):塩交換およびクロマトグラフィー
トリフルオロアセテート塩の形態の化合物I1(1.6g、1.85mmol)(実施例1、工程3)を水に懸濁し、1N NaOHをpH6~6.5に達するまでゆっくり添加した。得られた溶液に、pH2に達するまで1N HClを添加し、得られた沈殿を濾別し、逆相クロマトグラフィーに供し、凍結乾燥後にヒドロクロライド塩の形態の化合物I1をオフホワイトの固体(530mg)として得た。
1H-NMR(400MHz、MeOH-d4、δ、ppm):8.45(s、1H、アゾメチン)、7.77(s、1H、ジヒドロピリジンH-6)、6.81(s、1H、チアゾール-H)、6.77(s、1H、ジヒドロピリジンH-3)、5.87(d、1H、H-6、J=5.0)、5.18(s、2H、O-CH2)、5.14(d、1H、H-7、J=5.0Hz)、3.86(d、1H、H-2a、J=18.0Hz)、3.48(d、1H、H-2b、J=18.0Hz)、1.52(s、3H、CH3)、1.50(s、3H、CH3)。
MS m/e:638[M+H]+
【0075】
R、XおよびZが表2(実施例2~8)に定義される通りである式(III)の化合物は、例えば、従来の方法と同様に、または上記の実施例1、工程2~3、および場合により工程4に記載される方法に従い、但し、適切な出発物質を使用して調製される。
【化11】
【表2】
【0076】
適切な出発物質C2およびC3(国際公開第98/43981号パンフレット)は、例えば同様に、従来の方法に従って、または例えば実施例1、工程1に記載されるものと同様に調製される。
【化12】
【0077】
適切な出発物質D2、D3およびD4は、例えば、従来の方法または以下に記載される方法と同様にして調製される。
【0078】
【化13】
2-クロロ-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]安息香酸(欧州特許第0416410号明細書)(1g、2.33mmol)を含むジクロロメタンの溶液に、HOBT(316mg、1当量)、EDC(446mg、1当量)およびO-(2-アミノエチル)ヒドロキシルアミンヒドロクロライド(348mg、1当量)を添加し、室温で1時間撹拌した。次いで、トリエチルアミン(976μL、3当量)を添加し、得られた反応混合物を室温でさらに2時間撹拌した。得られた反応混合物を濃縮乾固し、残渣をクロマトグラフィー(エチルアセテート/メタノール=10/1)によって精製して、化合物D2を白色固体(1.92g)として得た。
1H-NMR(400MHz、MeOH-d
4、δ、ppm):7.41(m、2H、arom.)、7.30(m、2H、arom.)、7.22(d、1H、arom.、J=8.5Hz)、7.12(d、1H、arom.、J=8.5Hz)、6.96(m、2H、arom.)、6.82(m、2H、arom.)、5.11(s、2H、OCH
2)、4.94(s、2H、OCH
2)、3.83(s、3H、OCH
3)、3.80(t、NOCH
2、J=5.3Hz)、3.79(s、3H、OCH
3)、3.58(t、2H、NCH
2、J=5.3Hz)。
MS m/e:487[M+H]
+、531[M+HCOO
-]
【0079】
【化14】
工程a
N-ヒドロキシ-フタルイミド(730mg、4.48mmol)を含むDMSOの溶液に、カリウムカーボネート(1.55g、2.5当量)およびシス-tert-ブチルN-(3-ヨードシクロブチル)カルバメート(1.99g、1.5当量)を添加した。得られた反応混合物を80℃で3時間撹拌し、次いで、氷水にゆっくり添加した。得られた沈殿を濾過し、減圧下で乾燥させ、クロマトグラフィー(ジクロロメタン/メタノール=100/1)によって精製して、トランス-tert-ブチルN-[3-(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)オキシシクロブチル]カルバメートを白色固体(290mg)として得た。
MS m/e:350[M+NH
4
+]
【0080】
工程b
トランス-tert-ブチルN-[3-(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)オキシシクロブチル]カルバメート(2.26g、6.80mmol)を含むジクロロメタンの溶液に、ヒドロジェンクロライド(ジエチルエーテル中2M、12mL)を添加し、室温で一晩撹拌した。得られた反応混合物を濃縮乾固して、トランス-2-(3-アミノシクロブトキシ)イソインドリン-1,3-ジオンを淡褐色固体(1.84g、湿潤)として得た。
MS m/e:233[M+H]+
【0081】
工程c
2-クロロ-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]安息香酸(欧州特許第0416410号明細書)(3.40g、7.92mmol)を含むジクロロメタンの溶液に、HOBT(1.07g、1当量)、EDC(1.52g、1当量)およびtrans-2-(3-アミノシクロブトキシ)イソインドリン-1,3-ジオンを淡褐色固体(1.84g、湿潤、6.80mmol)として添加し、室温で1時間撹拌した。次いで、トリエチルアミン(3.29mL、3当量)を添加し、得られた反応混合物を室温で一晩撹拌した。得られた反応混合物を濃縮乾固し、残渣をクロマトグラフィー(ジクロロメタン/メタノール/アンモニア=100/5/0.5)によって精製して、トランス-2-クロロ-N-[3-(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)オキシシクロブチル]-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]ベンズアミドを淡黄色固体(2.49g)として得た。
【0082】
工程d
トランス-2-クロロ-N-[3-(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)オキシシクロブチル]-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]ベンズアミド(1.99g、3.09mmol)を含むアセトニトリルの溶液に、ヒドラジン水和物(64~65%ヒドラジン、0.30mL、2当量)を添加し、室温で4時間撹拌した。得られた反応混合物を濾過した。濾液をアンモニウム水溶液で希釈し、エチルアセテートで2回抽出した。有機相を合わせ、Na2SO4で乾燥させ、濃縮して、化合物D3を白色固体(0.98g)として得た。
MS m/e:513[M+H]+
【0083】
【化15】
工程a
(3R)-ヒドロキシピロリジン(919mg、10.56mmol)を含むジクロロメタンの溶液に、2-クロロ-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]安息香酸(欧州特許第0416410号明細書)(4.53g、1当量)、EDC(2.02g、1当量)およびHOBT(1.43g、1当量)を添加し、室温で一晩撹拌した。得られた反応混合物をジクロロメタンで希釈し、水で洗浄した。得られた有機相を濃縮乾固し、クロマトグラフィー(ジクロロメタン/メタノール/アンモニア=100/5/0.5)によって精製して、[2-クロロ-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]フェニル]-[(3R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル]メタノン(3.93g)を得た。
MS m/e:498[M+H]
+
【0084】
工程b
[2-クロロ-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]フェニル]-[(3R)-3-ヒドロキシピロリジン-1-イル]メタノン(3.77g、7.57mmol)を含むTHFの溶液に、氷冷下でトリエチルアミン(1.59mL、1.5当量)およびメタンスルホニルクロライド(0.71mL、1.2当量)を添加し、室温で2日間撹拌した。得られた反応混合物を濃縮し、エチルアセテートと水との間に分配し、得られた有機相を飽和NaCl水溶液で洗浄した。有機相を再度分離し、Na2SO4で乾燥させ、蒸発乾固して、粗[(3R)-1-[2-クロロ-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]ベンゾイル]ピロリジン-3-イル]メタンスルホネート(4.36g、湿潤)を得た。
MS m/e:573[M+H]+
【0085】
工程c
粗[(3R)-1-[2-クロロ-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]ベンゾイル]ピロリジン-3-イル]メタンスルホネート(3.83g、6.65mmol)を含むDMSOの溶液に、カリウムカーボネート(2.30g、2.5当量)およびN-ヒドロキシ-フタルイミド(2.00g、1当量)を添加し、80℃で3時間撹拌した。反応混合物をエチルアセテートと水との間に分配し、得られた有機相を飽和NaCl水溶液で洗浄した。有機相を再度分離し、Na2SO4で乾燥させ、濃縮乾固して、粗2-[(3S)-1-[2-クロロ-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]ベンゾイル]ピロリジン-3-イル]オキシイソインドリン-1,3-ジオン(2.73g、湿潤)を得た。
MS m/e:643[M+H]+
【0086】
工程d
粗2-[(3S)-1-[2-クロロ-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]ベンゾイル]ピロリジン-3-イル]オキシイソインドリン-1,3-ジオン(2.96g、4.60mmol)を含むアセトニトリル(20mL)の溶液に、ヒドラジン水和物(64~65%ヒドラジン、0.45mL、2当量)を添加し、室温で1時間撹拌した。得られた反応混合物をアンモニウム水溶液で希釈し、エチルアセテートで2回抽出した。有機相を合わせ、Na2SO4で乾燥させ、濃縮して、粗[(3S)-3-アミノオキシピロリジン-1-イル]-[2-クロロ-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]フェニル]メタノン(1.83g、湿潤)を得た。
MS m/e:513[M+H]+
【0087】
工程e
粗[(3S)-3-アミノオキシピロリジン-1-イル]-[2-クロロ-3,4-ビス[(4-メトキシフェニル)メトキシ]フェニル]メタノン(1.01g、1.97mmol)を含むジクロロメタン(10mL)の溶液に、トリフルオロ酢酸(5mL)を添加し、室温で1時間撹拌した。得られた反応混合物を濃縮し、ヒドロジェンクロライド(ジエチルエーテル中2M、1当量)を添加し、再度蒸発乾固して、粗(3S)-3-アミノオキシピロリジン-1-イル]-(2-クロロ-3,4-ジヒドロキシ-フェニル)メタノンヒドロクロライド(1.36g)を得た。
MS m/e:273[MH]+
【国際調査報告】