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特表2022-546797金ナノ粒子を含む固定色を有する水性ゲルインクの調製のプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-09
(54)【発明の名称】金ナノ粒子を含む固定色を有する水性ゲルインクの調製のプロセス
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/17 20140101AFI20221101BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C09D11/17
B43K8/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022503938
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(85)【翻訳文提出日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2020074113
(87)【国際公開番号】W WO2021038061
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】19306051.4
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501436665
【氏名又は名称】ソシエテ ビック
【氏名又は名称原語表記】SOCIETE BIC
(71)【出願人】
【識別番号】521172561
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ デ オート アルサス
(71)【出願人】
【識別番号】521174152
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ ルシェルシュ サイエンティフィーク(シー.エヌ.アール.エス.)
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルベンジ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】メティロン,ロメイン
(72)【発明者】
【氏名】ムギン,カリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラル,フェリエル
(72)【発明者】
【氏名】スパンゲンベルグ,アルノー
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA04
2C350HA15
4J039BA06
4J039BA39
4J039BC09
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE19
4J039BE23
4J039CA06
4J039DA05
4J039GA11
4J039GA26
(57)【要約】
本発明は、固定色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセスに関し、(i)式(I)によって表されるレチノールのエステルを含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、(ii)ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスに金塩(Au3+)の溶液を添加して、内部に金ナノ粒子が分散した状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。本発明はまた、式(I)によって表されるレチノールの該エステルおよび金ナノ粒子を含む、本発明のプロセスによって取得された固定色を有する水性ゲルインクに関する。最後に、本発明は、本発明による固定色を有する水性ゲルインクを含む筆記具に関する。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセスであって、
(i)以下の式(I):
【化1】
(式中、Rが、C-C脂肪族基を表し、前記脂肪族基が、任意選択的に、少なくとも1つのヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、C-Cアルキル、および/またはC-Cアルコキシ基で置換されており、前記脂肪族基が、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくは非置換、好ましくはメチル基である)によって表されるレチノールのエステルを含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された前記水性インクのゲルベースのマトリックスに金塩(Au3+)の溶液を添加して、内部に金ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記レチノール(I)のエステルが、酢酸レチニル(ビタミンA酢酸塩)である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ステップ(i)の前記水性インクのゲルベースのマトリックス中の前記レチノール(I)のエステルの濃度が、0.10~0.50モルL-1の範囲である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
ステップ(ii)の前記水性インクのゲルベースのマトリックス中の金塩(Au3+)の濃度が、0.004~0.05モルL-1の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記レチノール(I)のエステルおよび金ナノ粒子を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセスによって取得された固定色を有する水性ゲルインク。
【請求項6】
前記レチノール(I)のエステルの量が、前記水性ゲルインクの総重量に対して、3~5.5重量%の範囲である、請求項5に記載の水性ゲルインク。
【請求項7】
前記金ナノ粒子が、10~250nm、および好ましくは50~200nmの範囲の平均粒子サイズを有する、請求項5または6に記載の水性ゲルインク。
【請求項8】
前記金ナノ粒子が、球形状を有する金ナノ粒子である、請求項5~7のいずれか一項に記載の水性ゲルインク。
【請求項9】
金ナノ粒子の量が、前記水性ゲルインクの総重量に対して、0.05~3重量%の範囲である、請求項5~8のいずれか一項に記載の水性ゲルインク。
【請求項10】
水の量が、前記水性ゲルインクの総重量に対して、50~95重量%の範囲である、請求項5~9のいずれか一項に記載の水性ゲルインク。
【請求項11】
グリコールエーテルからなる群から選択される溶剤を、好ましくは前記水性ゲルインクの総重量に対して、5~35重量%の範囲の量でさらに含む、請求項5~10のいずれか一項に記載の水性ゲルインク。
【請求項12】
抗菌剤を、好ましくは前記水性ゲルインクの総重量に対して、0.01~0.5重量%の範囲の量でさらに含む、請求項5~11のいずれか一項に記載の水性ゲルインク。
【請求項13】
腐食防止剤を、好ましくは前記水性ゲルインクの総重量に対して、0.05~1重量%の範囲の量でさらに含む、請求項5~12のいずれか一項に記載の水性ゲルインク。
【請求項14】
消泡剤を、好ましくは前記水性ゲルインクの総重量に対して、0.05~1重量%の範囲の量で、および/またはレオロジー改質剤を、好ましくは前記水性ゲルインクの総重量に対して、0.08~2重量%の範囲の量でさらに含む、請求項5~13のいずれか一項に記載の水性ゲルインク。
【請求項15】
筆記具であって、
-請求項5~14のいずれか一項に記載の固定色を有する水性ゲルインクを含有する軸方向バレルと、
-前記軸方向バレル内に貯蔵された請求項5~14のいずれか一項に記載の水性ゲルインクを送出するペン本体と、を備え、
より具体的には、前記筆記具が、ゲルペン、フェルトペン、修正液、マーカからなる群から選択され、好ましくは、ゲルペンである、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセス、ならびに式(I)によって表されるレチノール(I)のエステル、および本発明のプロセスにより取得された金ナノ粒子を含み、いかなる染料および顔料も含まない固定色を有する水性ゲルインクに関する。本発明はまた、本発明による固定色を有する水性ゲルインクを含む筆記具に関する。
【0002】
本発明の主な目的のうちの1つは、高価であり、かつ高い製造コストを引き起こすという欠点を有する、水性ゲルインク中に通常存在するすべてのタイプの染料および顔料を置き換えることである。
【0003】
本発明の別の目的は、例えば、皮膚および眼などの生体膜を刺激するという欠点を有し、アレルギーを引き起こし得る、水性ゲルインク中に通常存在するすべてのタイプの染料および顔料を置き換えることである。
【0004】
本発明者らは、驚くべきことに、ナノ粒子ベースを含有する新規の水性ゲルインクはまた、紫外線に耐性があり、それにより、経時的に耐光性を改善することを見出した。この目的のために、本発明者らは、染料および顔料を含有する従来の水性ゲルインクを、ナノ粒子ベースの新しいものと置き換えることにより、筆記時に新規の固定色を有する水性ゲルインクを取得することが可能である具体的なプロセスを開発した。本発明の枠組み内で開発されたプロセスはまた、水性媒体中で実施されるという利点を示し、したがって「環境に優しいプロセス」である。さらに、本発明のプロセスは、低温範囲で実施され、生態学的に実行可能な方法で機能し、また生態学的要件も考慮に入れる。
【0005】
本発明は、固定色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセスであって、
(i)以下の式(I):
【化1】
(式中、Rは、C-C脂肪族基を表し、該脂肪族基は、任意選択的に、少なくとも1つのヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、C-Cアルキル、および/またはC-Cアルコキシ基で置換されており、該脂肪族基は、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくは非置換、好ましくはメチル基である)によって表されるレチノールのエステルを含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスに金塩(Au3+)の溶液を添加して、内部に金ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含むプロセスに関する。
【0006】
本発明の意味において、「その場で」という用語は、本発明の水性ゲルインク中に存在する金ナノ粒子が、水性インクのゲルベースのマトリックス中で直接合成されることを意味する。
【0007】
本発明の意味において、「固定色」という用語は、目視観察による水性ゲルインクの色が、具体的には、紙、段ボール、または織物の吸収性支持体上への塗布前、および吸収性支持体上への塗布後に、7暦日(1週間)以内で同じであることを意味することを意図する。
【0008】
本発明の目的のために、「インク」という用語は、筆記具、特にペンで使用されることを意図された「筆記用インク」を意味することを意図している。筆記用インクは、印刷機で使用され、かつ同じ技術的制約、したがって同じ仕様を有しない「印刷用インク」と混同してはならない。実際、筆記用インクは、筆記具のチャネルよりも大きいサイズの固体粒子を含んではならず、これは、必然的に不可逆的に筆記が停止されることになる、筆記具の詰まりを回避するためである。さらに、使用される筆記具に好適なインク流量、特に100~500mg/200mの筆記流量、有利には150~400mg/200mの筆記流量を可能にしなければならない。また、筆記媒体を汚すことを回避するために、十分に急速に乾く必要がある。また、経時的な移染(出液)の問題を回避する必要がある。したがって、本発明によるインクは、それが意図される筆記具、特にペンに好適であろう。
【0009】
さらに、「筆記用インク」は、筆記中の漏出を回避するために、流動性が高すぎてはならない。しかしながら、筆記動作の流れを容易にするために、十分に流動的である必要がある。
【0010】
本発明の特定の場合では、筆記用インクは、より具体的には「ゲルインク」(したがってチキソトロピー性インクに相当する)であり得、特に20℃で、静止状態(0.01s-1のせん断速度)で測定された粘度は、例えば、60mmの円錐および1°の角度を有するMalvern KINEXUSなどのコーンプレート型レオメータなどの同じレオメータを使用して、20℃で100s-1のせん断速度で測定された粘度とは異なり、特により高くなる。特定の実施形態では、これらの条件下で測定された本発明によるゲルインクの粘度は、1s-1のせん断速度では、1,000~7,000mPa.s、有利には2,000~5,000mPa.s、より有利には2,500~3,500mPa.sの範囲であり、5,000s-1のせん断速度では、有利には5~50mPa.s、より有利には7~40mPa.s、さらにより有利には10~20mPa.sである。有利には、かかる粘度は、40℃および20%の相対湿度で少なくとも3ヶ月の貯蔵中安定しており、特に、粘度は、50%超で減少することはない。より有利には、筆記後数分での静的漏出を回避するために、せん断後の静止時の粘度への復帰は非常に迅速であり、有利には最大で数分である。
【0011】
本発明において、ステップ(i)で調製された水性インクのゲルベースのマトリックスは、50~95重量%、好ましくは60~90重量%、より好ましくは70~85重量%の水を含み得る。
【0012】
ステップ(i)で調製された水性インクのゲルベースのマトリックスはまた、溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー改質剤などの古典的なゲルインク成分を含み得る。ステップ(i)の水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するために使用されるゲルインク成分について、本発明の固定色を有する水性ゲルインクの主題に関連して、以下で主に説明される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、固定色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセスは、
(i)以下の式(I):
【化2】
(式中、Rは、C-C脂肪族基を表し、該脂肪族基は、任意選択的に、少なくとも1つのヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、C-Cアルキル、および/またはC-Cアルコキシ基で置換されており、該脂肪族基は、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくは非置換、好ましくはメチル基である)によって表されるレチノールのエステルを含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスに金塩(Au3+)の溶液を添加して、内部に金ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。
【0014】
本発明の最も好ましい実施形態では、固定色を有する水性ゲルインクをその場で調製するためのプロセスは、
(i)以下の式(I):
【化3】
(式中、Rは、メチル基を表す)によって表されるレチノールのエステルを含む、水性インクのゲルベースのマトリックスを調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスに金塩(Au3+)の溶液を添加して、内部に金ナノ粒子が分散された状態の固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。
式(I)(式中、Rはメチル基を表す)によって表されるレチノールのエステルは、一般に酢酸レチニルとして知られている。
【0015】
酢酸レチニル(CAS番号:127-47-9)は、ビタミンA酢酸塩としても知られ、Sigma-Aldrichから購入することができる。酢酸レチニルは、溶液の形態または粉末の形態で添加することができる。
【0016】
以下の式(I)(式中、Rは、C-C脂肪族基を表し、該脂肪族基は、任意選択的に、少なくとも1つのヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、C-Cアルキル、および/またはC-Cアルコキシ基で置換されており、該脂肪族基は、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくは非置換、好ましくはメチル基である)によって表されるレチノールのエステルは、金塩を元素金属(すなわち、酸化状態:0)に低減させる。
【0017】
好ましい実施形態では、式(I)(式中、Rは、C-C脂肪族基を表し、該脂肪族基は、任意選択的に、少なくとも1つのヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、C-Cアルキル、および/またはC-Cアルコキシ基で置換されており、該脂肪族基は、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくは非置換、好ましくはステップ(i)の水性インクのゲルべ-スのマトリックス内のメチル基である)によって表されるレチノールのエステルの濃度は、0.10~0.50モルL-1、好ましくは0.20~0.40モルL-1、より好ましくは0.25~0.35モルL-1の範囲である。
【0018】
本発明では、金塩(Au3+)の溶液は、有利には、塩化金(III)三水和物HAuCl.3HOの溶液である。金ナノ粒子は、金塩の溶液を、式(I)(式中、Rは、C-C脂肪族基を表し、該脂肪族基は、任意選択的に、少なくとも1つのヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、C-Cアルキル、および/またはC-Cアルコキシ基で置換されており、該脂肪族基は、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくは非置換、好ましくはメチル基である)によって表されるレチノールのエステルと接触させるときに形成される。
好ましい実施形態では、ステップ(ii)の水性インクのゲルベースのマトリックス中の金塩(Au3+)の濃度は、0.004~0.05モルL-1、および好ましくは0.005~0.04モルL-1の範囲である。
【0019】
ステップ(i)において調製された水性インクのゲルベースのマトリックスへの金塩(Au3+)の溶液の添加は、連続注入によって行われ得る。
【0020】
好ましい実施形態では、金ナノ粒子は、球形状または多面体形状、好ましくは多面体形状、より好ましくは三角形、正方形、長方形の形状を有する。
【0021】
好ましい実施形態では、金塩(Au3+)と、式(I)(式中、Rは、C-C脂肪族基を表し、該脂肪族基は、任意選択的に、少なくとも1つのヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、C-Cアルキル、および/またはC-Cアルコキシ基で置換されており、該脂肪族基は、好ましくはC1-C6アルキル基、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくは非置換、好ましくはメチル基である)によって表されるレチノールのエステルとの間のモル比は、0.005:1~0.50:1、および好ましくは0.005:1~0.25:1の範囲である。
【0022】
本発明はまた、本発明のプロセスにより取得された固定色を有する水性ゲルインクに関し、該水性ゲルは、式(I)(式中、RはC-C脂肪族基を表し、該脂肪族基は、任意選択的に、少なくとも1つのヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、C-Cアルキル、および/またはC-Cアルコキシ基で置換されており、該脂肪族基は、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくは非置換、好ましくはメチル基である)によって表されるレチノールのエステルおよび金ナノ粒子を含む。
【0023】
本発明によるプロセスは、プラズモン効果(プラズモン色)を呈する、水性インク組成物を取得することを可能にする。
【0024】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明のプロセスにより取得された固定色を有する水性ゲルインクに関し、該水性ゲルは、酢酸レチノールおよび金ナノ粒子を含む。
【0025】
本発明の水性ゲルインクの、式(I)(式中、Rは、C-C脂肪族基を表し、該脂肪族基は、任意選択的に、少なくとも1つのヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、C-Cアルキル、および/またはC-Cアルコキシ基で置換されており、該脂肪族基は、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくは非置換、好ましくはメチル基である)によって表されるレチノールのエステルおよび金ナノ粒子は、本発明のプロセスの主題に関連して上記で定義された通りである。
【0026】
それらのサイズ、形状、および距離に応じて、金ナノ粒子の分散体の色、ならびにその特性は、変化する可能性がある。これはプラズモン共鳴によるものである。金ナノ粒子を特定の周波数の波にさらすと、電子が特定の場所に集まり、金ナノ粒子のサイズおよび形状に応じて変化する。この電子の凝集は、金ナノ粒子の異方性を引き起こし、それが、次いで光の吸収と散乱の変化につながり、特定の色をもたらす。プラズモン共鳴はまた、該金ナノ粒子の結合に起因する金ナノ粒子間の距離により影響を受ける。実際、金ナノ粒子が近ければ近いほど、さらにそれらは互いに相互作用し、プラズモン効果とも呼ばれる、それらの結合効果を増加させる。同様に、形状はプラズモン共鳴に影響を与える。
【0027】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、式(I)(式中、Rは、C-C脂肪族基を表し、該脂肪族基は、任意選択的に、少なくとも1つのヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、C-Cアルキル、および/またはC-Cアルコキシ基で置換されており、該脂肪族基は、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくは非置換、好ましくはメチル基である)によって表されるレチノールのエステルの量は、水性ゲルインクの総重量に対して、有利には3~5.5重量%、より有利には3.5~5重量%の範囲である。
【0028】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、金ナノ粒子は、好ましくは球の形状を有する。
【0029】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、本発明の金ナノ粒子は、好ましくは10~250nm、およびより好ましくは50~200nmの範囲の平均粒子サイズを有する。この平均粒子サイズは、規格ISO9001:2015に従って、2D画像(顕微鏡:JEOL ARM 200)の分析によって測定される。
【0030】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクでは、金ナノ粒子の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、有利には0.05~3重量%、より有利には0.10~2重量%の範囲である。
【0031】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクにおいて、水の量は、水性ゲルインクの総重量に対して、有利には50~95重量%、より有利には60~90重量%、さらにより有利には70~85重量%の範囲である。
【0032】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクはまた、以下に記載されるように、溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー改質剤などの古典的なゲルインク成分を含み得る。これらのゲルインク成分は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスに添加される。
【0033】
本発明の水性ゲルインクは、溶剤を含み得る。使用可能な溶剤の中でも、
-トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレン-グリコール-モノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノールなどのグリコールエーテル、
-アルコール:イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどのC-C15の直鎖または分枝鎖アルコール、
-酢酸エチルまたは酢酸プロピルなどのエステル、
-炭酸プロピレンまたは炭酸エチレンなどの炭酸エステル、
-メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、またはシクロヘキサノンなどのケトン、および
-それらの混合物などの水に混和性の極性溶剤が挙げられ得る。
【0034】
好ましい実施形態では、溶剤は、グリコールエーテルからなる群から選択され、より好ましくは、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレン-グリコール-モノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、およびそれらの混合物からなる群から選択される。さらに有利な実施形態では、溶剤は、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0035】
有利には、溶剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して5~35重量%、より有利には9~30重量%、さらにより有利には11~25重量%の範囲の量で存在する。
【0036】
本発明の水性ゲルインクは、イソチアゾリノン(ThorによるACTICIDE(登録商標))などの、好ましくは1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、およびそれらの混合物からなる群から選択される抗菌剤を含み得る。
【0037】
有利には、抗菌剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して0.01~0.5重量%、より有利には0.1~0.2重量%の範囲の量で存在する。
【0038】
本発明の水性ゲルインクは、好ましくはトリトリアゾール、ベンゾトリアゾール、およびそれらの混合物からなる群から選択される腐食防止剤を含み得る。
【0039】
有利には、腐食防止剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して0.05~1重量%、より有利には0.07~0.5重量%、さらにより好ましくは0.08~0.15重量%の範囲の量で存在する。
【0040】
本発明の水性ゲルインクは、消泡剤、好ましくはポリシロキサン系消泡剤、より好ましくは変性ポリシロキサンの水性エマルジョン(SynthronによるMOUSSEX(登録商標)、EvonikによるTEGO(登録商標)Foamexなど)を含み得る。
【0041】
有利には、消泡剤は、本発明の水性ゲルインク中に、水性ゲルインクの総重量に対して0.05~1重量%、より有利には0.1~0.5重量%、さらにより有利には0.2~0.4重量%の範囲の量で存在する。
【0042】
本発明の水性ゲルインクは、好ましくはキサンタンガム、アラビアガム、およびそれらの混合物からなる群から選択される、ゲル化効果を生じさせることができるレオロジー改質剤を含み得る。
【0043】
有利には、レオロジー改質剤は、水性ゲルインクの総重量に対して0.08~2重量%、より好ましくは0.2~0.8重量%、さらにより好ましくは0.3~0.6重量%の範囲の量で存在する。
【0044】
本発明の固定色を有する水性ゲルインクはまた、
-水酸化ナトリウムおよびトリエタノールアミンなどのpH調整剤、
-潤滑剤、
-合体剤、
-架橋剤、
-湿潤剤、
-可塑剤、
-酸化防止剤、および
-UV安定剤などの他の添加剤を含み得る。
【0045】
存在する場合、これらの添加剤は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスに添加される。
【0046】
一態様では、本発明は、固定色を有する水性インクをその場で調製するためのプロセスに関し、
(i)以下の式(I):
【化4】
(式中、Rは、C-C脂肪族基を表し、該脂肪族基は、任意選択的に、少なくとも1つのヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、C-Cアルキル、および/またはC-Cアルコキシ基で置換されており、該脂肪族基は、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくはC-Cアルキル基、好ましくは非置換、好ましくはメチル基である)によって表されるレチノールのエステルを含む、水性インクのマトリックスを調製するステップと、
(ii)ステップ(i)において調製された水性インクのマトリックスに金塩(Au3+)の溶液を添加して、内部に金ナノ粒子が分散された固定色を有する水性ゲルインクを取得するステップと、を含む。
【0047】
一態様では、本発明は、本発明の上記のプロセスにより取得された固定色を有する水性インクに関し、特に、該水性インクは、式(I)により表されるレチノールのエステルおよび金ナノ粒子を含み、特にこれらは本開示で定義されている通りである。
【0048】
本発明の固定色を有する水性インクはまた、前述のように、溶剤、抗菌剤、腐食防止剤、消泡剤、レオロジー改質剤などの古典的なインク成分を含み得る。これらの成分は、本発明のプロセスのステップ(i)において、水性インクのマトリックスに添加される。
【0049】
一態様では、本発明は、吸収性支持体上に書き込むための、上記で定義された固定色を有する水性インク、より具体的には水性ゲルインクの使用に関する。一実施形態では、吸収性支持体は、多孔質基材、具体的には、紙、段ボール、または織物である。
【0050】
本発明はまた、固定色を有する水性インク、より具体的には水性ゲルインクで書き込む方法に関し、本発明による固定色を有する水性インクで、吸収性支持体上に書き込むステップを含み、吸収性支持体は、多孔質基材、具体的には、紙、段ボール、または織物である。
【0051】
本発明の固定色を有する水性インク、具体的には、水性ゲルインクで吸収性支持体上に書き込んだ後、吸収性支持体上に塗布された水性ゲルインク内の金ナノ粒子間の距離は、2μmより少なく、好ましくは50nm~2μmで変化し、より好ましくは200nm~1μmで変化する。
【0052】
最後に、本発明は、筆記具に関し、この筆記具は、
-本発明による水性インク、より具体的には、水性ゲルインクを含有する軸方向バレルと、
-軸方向バレル内に貯蔵された水性インクを送出するペン本体と、を含む。
【0053】
本発明の筆記具は、ゲルペン、フェルトペン、修正液、マーカからなる群から選択され得、好ましくは、ゲルペンであり得る。
【0054】
上記に加えて、本発明はまた、本発明のプロセスによる固定色を有する水性ゲルインクの調製に関する、以下の追加の説明から明らかになる他の規定、および比較例を含む。
【実施例
【0055】
実施例1:本発明のプロセスによる、酢酸レチニルおよび金ナノ粒子に基づく、固定色を有する水性ゲルインクの調製
第1のステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスを、15gのトリエチレングリコール(溶剤)、4gのポリエチレングリコール(溶剤)、0.19gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および0.10gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物を、ホモジナイザミキサで、15m.s-1の速度で15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次いで、0.40gのキサンタンガム(レオロジー改質剤)を混合物に添加した。混合物を、ホモジナイザミキサで、15m.s-1の速度で、35℃の温度において15分間均質化した。80.01gの脱イオン水を、混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次いで、0.30gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物を、ホモジナイザミキサで、15m.s-1の速度で、35℃の温度において30分間均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。次いで、取得された1mLの水性インクのゲルベースのマトリックスを、0.05gの酢酸レチニル(Sigma-Aldrich)と混合した。混合物を、ホモジナイザミキサで、400rpmの速度で、15分間均質化した。
【0056】
第2のステップ(ii)において、100μLの塩化金(III)三水和物(520918-1G Sigma-Aldrich製)(200mM)の溶液を、400rpmの速度で15分間混合物に導入した。
【0057】
連続注入による塩化金(III)三水和物の溶液の添加後、水性ゲルインクの色は、暗い青色になった。
【0058】
水性ゲルインク内に存在する金ナノ粒子の平均粒子サイズは、標準ISO9001:2015に従って、2D画像(顕微鏡:JEOL ARM 200)の分析により50nmである。
【0059】
取得された固定色を有する水性ゲルインクをセルロース紙に書き込んだとき、色は、即座に暗い青色で現れ、結局変化しなかった。
【0060】
それゆえ、インクの色は、セルロース紙に塗布する前と、セルロース紙に塗布した後とで同じである。さらに、この水性ゲルインクの色の視覚的評価が、経時的に実現された。
【0061】
表1から分かるように、水性ゲルインクの色は、経時的に変化しなかった。
【表1】
【0062】
比較例1:パルミチン酸レチニルおよび金ナノ粒子に基づく水性ゲルインクの調製
第1のステップにおいて、水性インクのゲルベースのマトリックスを、15gのトリエチレングリコール(溶剤)、4gのポリエチレングリコール(溶剤)、0.19gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および0.10gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物を、ホモジナイザミキサで、15m.s-1の速度で15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次いで、0.40gのキサンタンガム(レオロジー改質剤)を混合物に添加した。混合物を、ホモジナイザミキサで、15m.s-1の速度で、35℃の温度において15分間均質化した。80.01gの脱イオン水を、混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次いで、0.30gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物を、ホモジナイザミキサで、15m.s-1の速度で、35℃の温度において30分間均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。次いで、取得された1mLの水性インクのゲルベースのマトリックスを、0.05gのパルミチン酸レチニル(CAS番号:79-81-2、Sigma-Aldrich製)と混合した。混合物を、ホモジナイザミキサで、400rpmの速度で、15分間均質化した。
【0063】
第2のステップにおいて、100μLの塩化金(III)三水和物(520918-1G Sigma-Aldrich製)(200mM)の溶液を、400rpmの速度で15分間混合物に導入した。連続注入による塩化金(III)三水和物の溶液の添加後、水性ゲルインクの色は、半透明の黄色になった。
【0064】
取得された水性ゲルインクを、セルロース紙上に書き込んだとき、色は、変化せず、半透明の黄色のままであった。
【0065】
さらに、セルロース紙上のこの水性ゲルインクの色の視覚的評価が、経時的に実現された。
【0066】
表2から分かるように、セルロース紙上の水性ゲルインクの色は、1週間後、茶色に見えた。
【0067】
それゆえ、インクの色は、セルロース紙上への塗布前と、セルロース紙上への塗布後で経時的に同じではない。
【表2】
【0068】
比較例2:酢酸レチノールおよび銀ナノ粒子に基づく可変色を有する水性ゲルインクの調製
第1のステップ(i)において、水性インクのゲルベースのマトリックスを、15gのトリエチレングリコール(溶剤)、4gのポリエチレングリコール(溶剤)、0.19gのActicide(登録商標)MBS(抗菌剤)、および0.10gのAdditin(登録商標)RC8221(腐食防止剤)を混合することにより調製した。混合物を、ホモジナイザミキサで、15m.s-1の速度で15分間均質化し、35℃の温度で加熱した。次いで、0.40gのキサンタンガム(レオロジー改質剤)を混合物に添加した。混合物を、ホモジナイザミキサで、15m.s-1の速度で、35℃の温度において15分間均質化した。80.01gの脱イオン水を、混合物にゆっくりと添加した。混合物を2時間30分静置した。次いで、0.30gのMoussex(登録商標)S 9092(消泡剤)を添加した。混合物を、ホモジナイザミキサで、15m.s-1の速度で、35℃の温度において30分間均質化した。取得された水性インクのゲルベースのマトリックスを室温(25℃)で冷却した。次いで、取得された1mLの水性インクのゲルベースのマトリックスを、0.025gの酢酸レチニル(Sigma-Aldrich)と混合した。混合物を、ホモジナイザミキサで、400rpmの速度で、15分間均質化した。
【0069】
第2のステップ(ii)において、100μLの硝酸銀(Carl Roth)(100mM)の溶液を、400rpmの速度で15分間混合物に導入した。
【0070】
連続注入による硝酸銀の溶液の添加後、水性ゲルインクの色は、暗い灰色になった。
【0071】
水性ゲルインク内に存在する銀ナノ粒子の平均粒子サイズは、標準ISO9001:2015に従って、2D画像(顕微鏡:JEOL ARM 200)の分析により70nmである。
【0072】
取得された可変色を有する水性ゲルインクをセルロース紙上に書き込んだとき、色は、セルロース紙への銀ナノ粒子の拡散プロセスを通して、暗い灰色から茶色に即座に変化した。
【0073】
それゆえ、インクの色は、セルロース紙上への塗布前と、セルロース紙上への塗布後で経時的に同じではない。
【0074】
さらに、セルロース紙上のこの水性ゲルインクの色の視覚的評価が、経時的に実現された(表3)。
【表3】
【国際調査報告】