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特表2022-546852温度勾配変性によるサンプル調製およびキャピラリー電気泳動およびCE-ESI-MSのための血清のディープN-グリコミクス分析のスケールアップ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-09
(54)【発明の名称】温度勾配変性によるサンプル調製およびキャピラリー電気泳動およびCE-ESI-MSのための血清のディープN-グリコミクス分析のスケールアップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20221101BHJP
   G01N 27/447 20060101ALI20221101BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20221101BHJP
   C12N 9/24 20060101ALN20221101BHJP
   C12P 19/00 20060101ALN20221101BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N27/447 301B
G01N27/62 V
G01N27/447 331J
C12N9/24
C12P19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515501
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(85)【翻訳文提出日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 IB2020058433
(87)【国際公開番号】W WO2021048793
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】62/898,045
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ガットマン, アンドラス
(72)【発明者】
【氏名】スィゲティ, マルトン
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041FA10
2G041FA12
2G045BA13
2G045BB12
2G045BB35
2G045CA26
2G045DA44
2G045FA34
2G045FA36
2G045FB01
2G045FB03
2G045FB12
4B050LL03
4B050LL05
4B064AF01
4B064CA21
4B064CB07
4B064CE14
4B064DA13
(57)【要約】
キャピラリー電気泳動とレーザー誘起蛍光(CE-LIF)検出によるヒト血清のディープN-グリコミクス分析を容易にするサンプル調製ワークフローは、キャピラリー電気泳動に接続されたエレクトロスプレーイオン化質量分析法(CE-ESI-MS)のより高度なサンプル濃縮要件に適応する。温度勾配変性プロトコールが、沈殿を回避するために、アミン官能化磁性ビーズで分割した糖タンパク質に適用される。これはまた、血清の遊離糖含有量が有意に減少し、N結合型炭水化物のPNGase F媒介性放出を可能にすることを生じる。その遊離されたオリゴサッカリドを、改変された蒸発性標識プロトコールを利用して、アミノピレン-トリスルホネートでタグ化した。このワークフローは、例えば、陰イオン化モードでのCE-ESI-MS分析における使用のために、適切な量の材料を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清サンプルを分析する方法であって、前記方法は、
前記血清サンプルとアミン官能化磁性ビーズとを、前記血清サンプル中に含まれる糖タンパク質を前記磁性ビーズ上に捕捉するように混合する工程であって、前記糖タンパク質は、ペプチド部分に接続されるグリカン部分を含む、工程;
変性溶液と前記磁性ビーズとを混合し、漸増温度勾配を一定期間にわたって適用することによって、前記糖タンパク質を変性させる工程;
酵素を使用して、前記磁性ビーズ上に捕捉された前記糖タンパク質におけるペプチド部分から前記グリカン部分を放出して、放出されたグリカン部分を形成する工程;および
前記放出されたグリカン部分を標識して、標識されたグリカン部分を形成する工程;および
前記標識されたグリカン部分を分析する工程、
を包含する方法。
【請求項2】
前記一定の期間は、少なくとも15分間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記漸増温度勾配は、5℃/分以下の勾配で適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記漸増温度勾配は、30℃~80℃の温度の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記温度勾配を適用した後に、前記温度は、一定温度に維持される、請求項1~4に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素は、PNGase F酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記標識されたグリカン部分を分析する工程は、キャピラリー電気泳動-エレクトロスプレーイオン化質量分析法を使用して分析する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
キャピラリー電気泳動-エレクトロスプレーイオン化質量分析法を使用して分析する工程は、陰イオン化モード質量分析法の使用を包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記標識されたグリカン部分を分析する工程は、キャピラリー電気泳動とレーザー誘起蛍光検出とを使用して分析する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記変性溶液は、NP-40、ジチオスレイトールおよびドデシル硫酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
血清サンプルを分析する方法であって、前記方法は、
前記血清サンプルとアミン官能化磁性ビーズとを、前記血清サンプル中に含まれる糖タンパク質を前記磁性ビーズ上に捕捉するように混合する工程であって、前記糖タンパク質は、ペプチド部分に接続されるグリカン部分を含む、工程;
捕捉された糖タンパク質を含む前記磁性ビーズを洗浄する工程;
変性溶液と前記磁性ビーズとを混合し、漸増温度勾配を一定期間にわたって適用することによって、前記磁性ビーズ上に捕捉された糖タンパク質を変性させる工程;
酵素を使用して、前記磁性ビーズ上に捕捉された前記糖タンパク質におけるペプチド部分から前記グリカン部分を放出して、放出されたグリカン部分を形成する工程;
前記放出されたグリカン部分を単離および標識する工程;
前記放出されたグリカン部分を標識して、標識されたグリカン部分を形成する工程;ならびに
前記標識されたグリカン部分を分析する工程、
を包含する方法。
【請求項12】
前記放出されたグリカン部分を標識する工程は、8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸を前記放出されたグリカン部分に添加する工程を包含する、請求項1または11に記載の方法。
【請求項13】
前記標識されたグリカン部分を標識する工程は、キャピラリー電気泳動-エレクトロスプレーイオン化質量分析法の使用を包含する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記標識されたグリカン部分を分析する工程は、キャピラリー電気泳動とレーザー誘起蛍光検出とを使用することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記一定期間は、少なくとも15分間である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記漸増温度勾配は、5℃/分以下の勾配で適用される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記漸増温度勾配は、30℃~80℃の温度の間である、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明者らの関連出願
本出願は、2019年9月10日出願の米国仮特許出願第62/898,045号(その内容全体は、本明細書に参考として援用される)の優先権の利益を主張する。
【0002】
分野
本明細書中の技術は、分析のために、特に分析のために血清サンプルを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
ヒト血清は、pg/mLからmg/mLレベルまでの非常に広い範囲の濃度にわたって糖タンパク質を含む(1)。アルブミンおよび免疫グロブリンはともに、全タンパク質含有量のうちの3/4超を表し、いくつかの豊富な糖タンパク質は、高濃度範囲において存在する(例えば、ハプトグロビン、α1-アンチトリプシンおよびトランスフェリン)。これらの豊富なタンパク質は別として、大部分の血清糖タンパク質は、血清タンパク質のうちの1%未満を表し、従って、それらの分析は、より高い出発サンプル容積またはイムノアフィニティーベースの予備濃縮法による標的化された分画のいずれかを必要とする。ヒト血清タンパク質の大部分は、炭水化物の結合を含め、翻訳と同時にまたは翻訳後に修飾され、これは、報告によれば、非常に多数のそれらの生理学的および病理学的特性に影響を及ぼす。結論として、糖タンパク質の炭水化物部分の分析は、体医療分野(例えば、糖生体マーカー)および生物製剤分野(例えば、治療用mAbのエフェクター機能)において非常に重要であり、これら分野はともに、大規模処理において適用可能な強い高感度方法を必要とする。所定の部位での種々の糖形態の存在(ミクロ不均一性)または潜在的なグリコシル化部位の占有(マクロ不均一性)は、さらなる分析課題の代表である。
【0004】
最新の糖分析技術(例えば、HPLC、キャピラリー電気泳動および質量分析法)は、ディープグリコミクス分析の高感度を達成するために、非常に効率的なサンプル調製法を必要とする。これらの技術の大部分は、変性工程で始まって、エンドグリコシダーゼ酵素のアクセスを許容するために糖タンパク質の折りたたみをほどいて、それらの基質に到達し、その結合される糖タンパク質鎖を放出する。しかし、10μL超の血清サンプルを用いる旧来から使用される変性方法では、沈殿が起こり、より多くのサンプル容積のためのより精巧な方法を必要とする。さらに、エンドグリコシダーゼ消化工程の間に、サンプル中の種々のモノサッカリドまたは低重合度(DP)糖(例えば、血中のグルコース、マルトースなど)の存在、および最も重要ことには、放出されたMan3GlcNAc2コア含有糖構造は、インヒビターとして作用する。最終的に、高感度検出のための放出されたグリカンの発蛍光団タグ化は、高性能誘導体化プロセス(例えば、近年導入された蒸発性標識アプローチ)を必要とする。
【0005】
上記放出および標識されたN結合型炭水化物の分析は、十分に確立された液相分離技術(例えば、クロマトグラフィー、キャピラリーまたはマルチキャピラリー電気泳動)によって、および低い程度ではあるが、2D電気泳動またはマイクロチップによって、最も頻繁に達成される。質量分析法ベースの糖分析技術は、他方で、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)飛行時間(TOF)質量分析法(MS)およびエレクトロスプレーイオン化(ESI)ベースの方法を含め、同様に広く利用されており、通常は、分析のための適切なサンプル濃縮を提供するために、スケールアップを必要とする。エレクトロスプレーイオン化は、シアル化およびコアフコシル化グリカン構造の分解を引きおこし得るか、またはさらに、イオン化プロセスの間に構造的再配置をさらにもたらし得、包括的な定性分析のための直交分析技術の使用を必要とする。ヒト血清サンプルのディープN-グリコミクス研究のために、上述の糖分析方法は全て、上記技術のための分析物の十分量を生成することができる効率的なサンプル調製法を必要とする。
【0006】
本技術は、変性工程の間の沈殿問題を最小限にする、広い範囲の容積にわたって血清サンプルを生成する血清サンプル調製法を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
要旨
本教示によれば、分析のための血清サンプルを調製する方法が、開示される。
【0008】
本教示の1つの局面において、血清サンプルを分析する方法であって、上記血清サンプルとアミン官能化磁性ビーズとを、上記血清サンプル中に含まれる糖タンパク質を上記磁性ビーズに捕捉するように混合する工程であって、上記糖タンパク質は、ペプチド部分に接続されるグリカン部分を含む、工程;変性溶液と上記磁性ビーズとを混合し、漸増温度勾配を一定期間にわたって適用することによって、上記糖タンパク質を変性させる工程;酵素を使用して、上記磁性ビーズ上に捕捉された上記糖タンパク質におけるペプチド部分から上記グリカン部分を放出して、放出されたグリカン部分を形成する工程;および上記放出されたグリカン部分を標識して、標識されたグリカン部分を形成する工程;および上記標識されたグリカン部分を分析する工程を包含する方法が記載される。
【0009】
本発明の実施形態において、血清サンプルを分析する方法は、上記血清サンプルとアミン官能化磁性ビーズとを、上記血清サンプル中に含まれる糖タンパク質を上記磁性ビーズ上に捕捉するように混合する工程であって、上記糖タンパク質は、ペプチド部分に接続されるグリカン部分を含む、工程;捕捉された糖タンパク質を含む上記磁性ビーズを洗浄する工程;変性溶液と上記磁性ビーズとを混合し、漸増温度勾配を一定期間にわたって適用することによって、上記磁性ビーズ上に捕捉された糖タンパク質を変性させる工程;酵素を使用して、上記磁性ビーズ上に捕捉された上記糖タンパク質におけるペプチド部分から上記グリカン部分を放出して、放出されたグリカン部分を形成する工程;上記放出されたグリカン部分を単離および標識する工程;上記放出されたグリカン部分を標識して、標識されたグリカン部分を形成する工程;および上記標識されたグリカン部分を分析する工程を包含する。
【0010】
本教示の実施形態において、上記一定期間は、少なくとも15分間である。
【0011】
本教示の実施形態において、上記漸増温度勾配は、5℃/分以下の勾配で適用される。
【0012】
本教示の実施形態において、上記漸増温度勾配は、30℃~80℃の温度の間である。
【0013】
本教示の実施形態において、上記温度勾配を適用した後に、上記温度は、一定温度に維持される。
【0014】
本教示の実施形態において、上記酵素は、PNGase F酵素である。
【0015】
本教示の実施形態において、上記標識されたグリカン部分を分析する工程は、キャピラリー電気泳動-エレクトロスプレーイオン化質量分析法を使用して分析する工程を包含する。
【0016】
本教示の実施形態において、キャピラリー電気泳動-エレクトロスプレーイオン化質量分析法を使用して分析する工程は、陰イオン化モード質量分析法の使用を包含する。
【0017】
本教示の実施形態において、上記標識されたグリカン部分を分析する工程は、キャピラリー電気泳動とレーザー誘起蛍光検出とを使用して分析する工程を包含する。
【0018】
本教示の実施形態において、上記変性溶液は、NP-40、ジチオスレイトールおよびドデシル硫酸ナトリウムを含む。
【0019】
実施形態において、上記放出されたグリカン部分を標識する工程は、8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸を上記放出されたグリカン部分に添加する工程を包含する。
【0020】
認識されるべきであるように、異なる実施形態からの種々の要素が、当業者の知識に従って他の実施形態と組み合わせるおよび/または他の実施形態を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図面の簡単な説明
当業者は、以下に記載される図面が、例証目的に過ぎないことを理解する。図面は、出願人の教示の範囲をいかなる方法においても限定することを意図しない。
【0022】
図1図1は、本発明の一実施形態のフローチャートを示す。
【0023】
図2図2は、本発明の一実施形態を使用するサンプルのキャピラリー電気泳動-レーザー誘起蛍光分離の結果を示す。
【0024】
図3図3Aは、APTS標識反応に対する漸増量のグルコースの効果を示す。
【0025】
図3Bは、PNGase Fグリカン放出反応に対する漸増量のグルコースの効果を示す。
【0026】
図4図4は、PNGase F消化反応の間の反応混合物中の漸増グルコース濃度の効果を示すプロットを示す。
【0027】
図5図5は、10μLの10mg/mL hIgG1および50μLの30mg/mL hIgG1に関するアミン官能化磁性ビーズ捕捉の効率のSDS-PAGE分析を示す。
【0028】
図6図6は、ヒトhIgG1(パネルA)およびヒト血清(パネルB)のPNGase F放出され、APTS標識したN結合型グリカンのCE-LIF分析を示す。
【0029】
図7図7は、それぞれ、ヒトIgG1およびヒト血清から放出されたN結合型グリカンの同定された構造のCE-ESI-MS全イオンクロマトグラムおよびその相当する面積を示す。
【0030】
図8図8は、従来の変性プロセスの間の漸増濃度の使用から生じる沈殿を示す。
【0031】
図9図9および10は、CE-ESI-MSによって同定されたグリカンの詳細な構造情報を示す。
図10図9および10は、CE-ESI-MSによって同定されたグリカンの詳細な構造情報を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
実施形態の詳細な説明
本教示は、沈殿を回避する温度勾配変性プロセスとともに血清糖タンパク質のアミンビーズベースの捕捉を含み、50μLにおいて1.5mg タンパク質程度の多さを含むサンプルの調製を可能にする方法を記載する。このアプローチの1つの利益は、サンプルマトリクスから高含有量の血中遊離糖(これは、PNGaseF消化効率を阻害することが示されている)の除去である。上記サンプル調製法を、hIgG1およびヒト血清サンプルに対して試験した。
【0033】
実験手順
化学物質および試薬
SDS-PAGE分析のために使用した酢酸(氷酢酸)、酢酸アンモニウム(溶液中7.5M)、イソプロパノール、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(THF中1M)、テトラヒドロフラン、水(HPLCグレード)、アセトニトリルおよび全ての化合物は、Sigma Aldrich(St. Louis, MO, USA)から得た。ヒト免疫グロブリンサンプル(hIgG1)は、Molecular Innovations(Novi, MI, USA)製であった。ヒト血清サンプルは、全ての必要とされる倫理的許可および患者の同意書を得て、Medical School of the University of Debrecen(Debrecen, Hungary)が得た。Fast Glycan Labeling and Analysis Kit(8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸(APTS)のタグ化色素、HR-NCHO分離ゲル-緩衝液システムおよび過剰色素除去のための磁性ビーズを含む)は、Sciex(Brea, CA, USA)製であった。PNGase F酵素は、Asparia glycomics(San Sebastian, Spain)製であった。アミン官能化磁性ビーズは、Chemicell(Berlin, Germany)製であった。
【0034】
サンプル調製
簡潔には、50μLの未希釈ヒト血清または50μLの30mg/mLのhIgG1溶液からの糖タンパク質を、製造業者のプロトコールに従って、50μLの1M シアノ水素化ホウ素ナトリウム(テトラヒドロフラン中)および1.0mLの0.1×PBSの混合物中に懸濁した20μL(50mg/mL)のアミン官能化磁性ビーズによって捕捉した。上清を除去した後、そのビーズを、1.0mLのHPLCグレードの水で洗浄し、続いて、20μLのHPLCグレードの水で再懸濁した。上記捕捉されたタンパク質を、5.0℃/分の速度で30℃から80℃へと温度を上昇させ、さらに80℃での5.0分間の等温インキュベーション工程によって、10μLの予め混合した変性溶液(12.5% グリセロールを補充した、Sciex Fast Glycan Kit)の存在下での温度勾配変性によって、ビーズ上でインサイチュ変性させた。上記変性工程に続いて、エンドグリコシダーゼ消化を行い、ビーズ上で再び、2.0μLのPNGase F酵素(1.5 IUB/μL)を上記反応混合物に添加し、50℃で1.0時間インキュベートして、全てのN結合型グリカン構造タイプの完全な除去を確認した。グリカン放出プロセスの最後に、残りのポリペプチドを、120μL 氷冷アセトニトリルを添加することによって上記ビーズ上に結合させた。その上清(放出された糖を含む)を、60℃において真空遠心分離機(2,500rpm, 1.0時間)において乾燥させた。その乾燥サンプルを、ふたを閉めた状態で50℃において1.0時間、続いて、ふたを開けた状態で55℃において1.0時間のわずかな改変を伴って、本発明者らが近年公開した蒸発性標識プロトコール(Reider, B., Szigeti, M., and Guttman, A. (2018) Evaporative fluorophore labeling of carbohydrates via reductive amination. Talanta 185, 365-369(参考として援用される))を使用してアミノピレン-トリスルホネート(APTS)蛍光色素で標識した。標識工程の後に、過剰なAPTS色素を、Fast Glycan Sample Preparation and Analysisキット(Sciex)からの磁性ビーズを使用して除去し、精製サンプルを、キャピラリー電気泳動-レーザー誘起蛍光(CE-LIF)およびキャピラリー電気泳動-エレクトロスプレーイオン化質量分析法(CE-ESI-MS)方法によって分析した。
【0035】
キャピラリー電気泳動
CE-LIF: 固体レーザー誘起蛍光検出(λex=488nm/λem=520nm)を備えたPA800 Plus Pharmaceutical Analysis System(Sciex)を、50cmおよび20cm 有効長(それぞれの合計の長さは60cmおよび30cm)の50μm ID 露出された溶融シリカキャピラリーにおいてHR-NCHO分離ゲル緩衝液を使用して、全てのキャピラリーゲル電気泳動分離のために使用した。印加した電位は、逆極性モード(注入側のカソード)において30kVであり、分離温度を30℃に設定した。以下を含む3工程サンプル注入プロトコールを適用した: 1)30cmおよび60cmのキャピラリーに関して、それぞれ、3.0および5.0psiにおいて、5.0秒 水予備注入、2)キャピラリー長およびサンプル濃縮に基づいて、1.0秒間から3.0秒間のサンプル注入に対して1.0kVから6.0kV(それぞれの図のキャプションの中で特定される)、および3)1.0kVで1.0秒間のブラケット標準注入(マルトースおよびマルトペンタオース)。32Karat(バージョン10.1)ソフトウェアパッケージ(Sciex)を、データ獲得および処理のために使用した。
【0036】
CE-MS: 全てのCE-MS分析を、露出された溶融シリカOptiMSキャピラリーカートリッジ(91cm全長、30μm ID、150μm OD)を使用して、6500+ QTRAP質量分析器に接続したCESI 8000 Plus High Performance Separation - ESI Module(ともにSciex製)を使用することによって達成した。上記質量分析法に都合の良いバックグラウンド電解質は、10mMの酢酸アンモニウム、0.1% 酢酸(pH4.5)および20% イソプロパノールを含んだ。分離を、分離ラインおよび導電ラインの両方に対して2.0psiの前方への圧力を印加して、20℃での逆極性モードにおいて、20kV 印加電圧で行った。ここで、以下を含む2工程サンプル注入プロトコールを適用した: 1)1.0psiで5.0秒間の水予備注入、2)10kVで20秒間のサンプル注入。
【0037】
質量分析法
The 6500+ QTRAP質量分析器(Sciex)を、エッチングした噴霧器側の露出した溶融シリカ(BFS)カラムOptiMSカートリッジを利用して、ナノソースインターフェースを伴う全CE-ESI-MS実験のために陰イオン化モードで使用した。ESI電圧を、-1,600Vで1分間に設定して、スプレーを安定化し、次いで、高感度検出のために-1,400kVへと減少させた。オリフィスプレート温度は80℃であり、カーテンガス圧は、上記システムの超低流速(20.4nL/分)でのエレクトロスプレーの安定性を担保するために、5.0psiであった。MRMスキャンは、15m秒時間において二重荷電されたAPTS標識された標的グリカン質量を標的化した。その結果を評価し、PeakViewソフトウェアパッケージ(バージョン2.2, Sciex)で可視化した。
【0038】
SDS-PAGE
Cleaver nanoPAC-300(Warwickshire, UK)スラブゲル電気泳動システムを、全てのSDS-PAGE分析に関して使用した。分離ゲルは、10%の上側濃縮部分および12%の下側分離ゲルを有した。上記濃縮ゲルは、0.375mLの40% アクリルアミド(2.67% N,N’-メチレンビスアクリルアミドを含む)、0.375mLの1M Tris-HCl(pH6.8)、30μLの10% APS、30μLの10% SDS、3.0μLのTEMEDおよび2.2mLの水を含んだ。分離ゲルは、1.8mLの40% アクリルアミド溶液(2.67% N,N’-メチレンビスアクリルアミドを含む)、1.5mLの1.5M Tris-HCl(pH8.8)、60μLの10% APS、60μLの10% SDS、3.0μLのTEMEDおよび2.6mLの水を含んだ。SDS-PAGE分析の前に、上記サンプルを、95℃において5.0分間、4.0mLのグリセロール、1.0mLの2-メルカプトエタノール、1.2gのSDS、5.0mLの1M Tris-HCl(pH6.8)および0.03gのブロモフェノールブルーを含むサンプル緩衝液の1:1比で熱変成させた。分離緩衝液は、3.0Lの水に溶解した36.0gのTris、172.8g グリシンおよび120mLの10% SDSを含んだ。電気泳動を、150V 一定電圧を印加し、75mA 電流を発生させることによって行った。その分離したタンパク質を、クーマシーブルー(1.0gのクーマシーブルーR250を、300mLのメタノール、650mLの水および50mLの氷酢酸の混合物中に溶解した)で一晩染色し、続いて、300mLのメタノール、650mLの水および50mLの氷酢酸の混合物中で脱色した。その発色させたゲル画像を、Nikonカメラによってデジタル化した。
【0039】
本教示は、CE-LIFによるヒト血清のディープN-グリコミクス分析およびCE-ESI-MSのより高度なサンプル濃縮要件を支援するためにスケールアップされ得る。スケールアップは、CE-ESI-MSにとっては特に重要であった。なぜなら放出されたグリカンもAPTSタグも、エレクトロスプレープロセスにおいて十分にイオン化されなかったからである。さらに、APTS標識を用いると、陰イオン化モードが印加されなければならず、これは、陽イオンモード操作と比較して、より低いシグナル強度を生じる。
【0040】
CE-LIFによるヒト血清のディープグリコミクス分析のために、およびCE-ESI-MSによってAPTS標識N-グリカンを分析するための適切なサンプル量を確認するために、サンプル濃縮のかなりの増大が必要であった。以前は、CE-LIFおよびCE-ESI-MSのサンプル調製法は、高い糖タンパク質濃度(>10mg/mL)で開始する。しかし、>10μL サンプル容積(およそ100μg タンパク質に相当する)の使用は、変性工程の間に、大部分の場合において沈殿を引きおこし、酵素によるグリカン放出および発蛍光団タグ化という下流のサンプル調製工程を妨げる。例えば、図8に示される実験は、hIgG1が、旧来の変性技術を使用する場合、20mg/mL(10μL サンプル容積; 200μg タンパク質)濃度においてまたはそれを上回る濃度で沈殿したことを示す。この問題を軽減するために、本教示の温度勾配変性法を利用した。温度を、30℃から80℃へと、5.0℃/分の速度で上昇させ、続いて、さらに80℃で5.0分間、インキュベートした。このアプローチは、別の点で旧来の等温変性に伴う深刻な問題を表す35mg/mL(10μL サンプル容積; 350μg タンパク質)までの濃度においてタンパク質沈殿を軽減した。
【0041】
2.0μLおよび5.0μL ヒト血清サンプルから始まる、放出されたN-グリカン分析の間に観察された別の現象は、変性工程の間にいずれの場合にも沈殿は観察されないが、より高いサンプル容積(5.0μL)で開始すると、より小さなピーク強度が生じることであった。図2を参照すると、2.0μL(上側の軌跡)および5.0μL(下側の軌跡)の初期サンプル容積からのPNGase Fで放出してAPTSで標識したヒト血清N-グリカンプールのCE-LIF分離が示される。図の上のDP数は、マルトオリゴサッカリドラダーのグルコース単位(GU)を示す。分離条件: HR-NCHOゲル緩衝液で充填した50cm 有効(60cm 合計)、50μm ID 露出された溶融シリカキャピラリーカラム。印加電圧: 30kV。分離温度: 30℃。注入シーケンス: 1)5.0psi/5.0秒 水; 2)6.0kV/3.0秒 サンプルおよび3)1.0kV/1.0秒 ブラケット標準。図2は、2.0μLおよび5.0μLのヒト血清から調製した、PNGase F放出され、APTS標識されたN-グリカンのCE-LIF分析軌跡を比較する。観察され得るように、いくつかのピークのシグナル強度は、小さい方(2.0μL)のサンプル容積がサンプル調製のために使用される場合のほぼ3倍高かった。
【0042】
反直感的な結果は、APTS標識工程の間に放出された糖と競合する非常に多量の遊離血清糖(例えば、図2中で強調されるとおりのグルコース)含有量によって引きおこされることが見出された。図3AおよびBを参照すると、得られるピーク強度に関するAPTS標識反応(図3A)およびPNGase Fグリカン放出反応(図3B)に対するグルコースの漸増量の影響。挿入図は、FA2G2構造のピーク強度変化を示す。CE-LIF分離条件は、キャピラリー長(20cm 有効、30cm 全長、50μm ID)および注入シーケンス: 1)3.0psi/5.0秒 水; 2)1.0kV/1.0秒 サンプルおよび3)1.0kV/1.0秒 ブラケット標準を除いて、図2に示されるものと同じであった。実験において、漸増量のグルコースを、図3Aに示されるPNGase F消化の後であるがAPTS標識の前に、10μLの10mg/mL hIgG1試験タンパク質サンプルに添加した。これは、ATPS標識工程前のグルコースの添加が、血清N-グライコームピークのシグナル強度において見かけ上の変化を生じなかったことを示す。右上角の挿入図は、FA2G2ピークの4.3% ピーク面積RSDを示す(構造の略語は、Harvey, D. J., Merry, A. H., Royle, L., Campbell, M. P., and Rudd, P. M. (2011) Symbol nomenclature for representing glycan structures: Extension to cover different carbohydrate types. Proteomics 11, 4291-4295(参考として援用される)に示唆される命名法に倣った)。反応混合物中で使用されるATPS濃度が、サンプル中の全ヒト血清N-グリカンおよび多量の添加されるグルコースの完全な標識を容易にするために十分であったことを注記することは重要である。第2の実験において、余分なグルコースを、PNGase F消化の前にhIgG1サンプルに添加したところ、これは、他方で、図3Bに示されるように、全てのピークのシグナル強度の顕著な減少を引きおこした。
【0043】
反応混合物中の漸増グルコース濃度は、PNGase F酵素反応をおそらく阻害したと考えられる。参照軌跡と比較したピーク面積の連続的な減少を、5種の主要なhIgG1グリカンに関して図4に示す。図4では、5種の主要なhIgG1グリカン構造の生じるピーク面積に対する、PNGase F消化反応の間の反応混合物中の漸増グルコース濃度の効果が、示される(シアル化-FA2G2S1、ガラクトシル化-FA2G2、FA2[6]G1、非ガラクトシル化-FA2、およびバイセクト型-FA2B)。
【0044】
上記で考察した問題、すなわち、hIgG1サンプル濃縮の35mg/mL(10μL中350μg タンパク質)を上回る変性工程の間の沈殿を回避し、ヒト血清サンプルからの多量のPNGase F阻害遊離糖(主にグルコース)を除去するために、アミン官能化磁性微粒子媒介性ワークフローを利用した。糖タンパク質を、シアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下でPBS緩衝液中の20μLの十分に懸濁したアミン官能化ビーズの表面上に捕捉した。捕捉工程の後、上記ビーズを、磁石スタンドによって下に引きつけて、その上清を除去し、ビーズを、HPLCグレードの水で洗浄した。
【0045】
アミン官能化磁性ビーズ捕捉工程の効率を、10μLの10mg/mL(100μg タンパク質)および50μLの30mg/mL(1.5mg タンパク質) hIgG1サンプルをそれぞれ使用することによって評価した。両方の場合に、10μLのサンプルを、SDS-PAGEによる捕捉および洗浄工程の後に、ならびに50mMのクエン酸(pH3.0)での溶離後に、分析した。図5を参照すると、10μLの10mg/mL hIgG1(パネルA)および50μLの30mg/mL(パネルB) hIgG1のアミン官能化磁性ビーズ捕捉の効率のSDS-PAGE分析。ストリップ1および4:非結合オーバーフロー; ストリップ2および5:洗浄工程; ストリップ3および6:50mM クエン酸(pH3.0)でのタンパク質溶離。図5は、アミン官能化磁性ビーズによって捕捉されたタンパク質量が、適用されるビーズ量によってのみ制限されたことを示す。10μLの10mg/mL(100μg タンパク質) hIgG1サンプルの場合、タンパク質の全量を、図5の第1のストリップにおいて認められるようにビーズの表面上に捕捉した。これは、いかなるシグナルもないことを示す。また、この場合の洗浄工程は、図5のストリップ2においてバンドがないことによって示されるように、いかなるタンパク質をも除去しなかった。クエン酸溶離液において、hIgG1の軽鎖および重鎖はともに、図5のストリップ3における相当する2つのバンドによって示されるように明らかであった。他方で、その過負荷効果は、50μLの30μg/mL(1.5mg タンパク質) hIgG1サンプルを注入した場合に容易に明らかであった。なぜならその構成要素(重鎖および軽鎖)は、図5のストリップ4において示されるように、ビーズ捕捉工程後のフロースルーにおいてなお明らかだったからである。より重要なことには、上記洗浄工程は、図5のストリップ5における構成要素の欠如によって認められるように、いかなる結合したタンパク質をも除去せず、図5のストリップ3および6に類似して、クエン酸が軽鎖および重鎖バンドを溶離することを示した。
【0046】
サンプル調製プロトコール
本教示は、変性、PNGase F消化およびAPTS標識を含む、生物学的サンプル(例えば、ヒト血清)のN-グリコシル化分析のための調製プロトコールを提供する。アミン官能化磁性ビーズベースのタンパク質捕捉と、温度勾配変性および本発明者らが以前に報告した蒸発性標識技術とを組み合わせると、30mg/mL程度の高さの濃度および50μL サンプル容積(1.5mg 全タンパク質) - 例えば、hIgG1およびヒト血清 - を有するサンプルが、いかなる沈殿問題もなしに、N-グリコシル化分析のために成功裡に調製された。上記プロトコールはまた、全PNGase F阻害遊離糖(例えば、ヒト血清サンプル中に存在する多量のグルコース)の効率的除去を提供した。
【0047】
キャピラリー電気泳動とレーザー誘起蛍光検出(CE-LIF)
hIgG1およびヒト血清サンプルから放出されかつAPTS標識したN-グリカンを、CE-LIFによって先ず分析した。図6を参照すると、ヒトhIgG1(パネルA)およびヒト血清(パネルB)のPNGase Fで放出されかつAPTS標識されたN結合型グリカンのCE-LIF分析。存在量が低い方の血清N-グリカンの拡大図は、パネルBの挿入図の中に示される。サンプルを、多量のhIgG1(1.5mg)および高容積のヒト血清(50μL)サンプルから出発して、最適化したアミン官能化磁性ビーズ媒介性サンプル調製および温度勾配変性プロトコールに従って調製した。分離条件は、サンプルを1.0kV/1.0秒(注入シーケンス、工程2)によって注入したことを除いて、図2におけるものと同じであった。高強度シグナルは、以下の実施例1に記載される最適化したサンプル調製プロトコールを使用することによって、hIgG1(図6の第1のパネル)およびヒト血清サンプル(図6の第2のパネル)について観察された。温度勾配変性アプローチとともに適用したアミン官能化磁性ビーズベースのタンパク質捕捉プロトコールは、いかなるタンパク質沈殿問題もなしに、血清サンプルの25倍超の量(図2において認められるように、2.0μLの代わりに50μL)の使用を可能にした。また、多量のグルコースを、血清サンプルから除去した(図6、パネルBにおいて強調される)ところ、PNGase F消化効率の阻害を大きく低減した。従って、実施例1のワークフローの後に処理した50μL 血清サンプルからの1.0kVで1.0秒(1kVs)の動電的注入は、旧来のサンプル調製プロトコールに伴う6.0kV/3.0秒(18kVs)注入パラメーターを使用して2.0μL サンプル容積から観察された類似のピーク強度を生じた。このスケールアッププロトコールが、ヒト血清のディープN-グリコミクス分析のための十分な材料を提供した、すなわち、別の方法で基底ノイズにおいて失われたピークを明らかにしたことは、図6、パネルBの挿入図から明らかである。サンプル調製および分析方法の相当する再現性は、表1に示される。上記ヒト血清サンプルからのより高い% RSD値は、アミン官能化磁性ビーズが、サンプル調製プロセスの間に反応バイアルの壁に貼り付く傾向にあることにおそらく原因があったことに注意すること。
【表1】
【0048】
キャピラリー電気泳動とエレクトロスプレーイオン化質量分析法(CE-ESI-MS)
本教示、および特に、以下の実施例1で詳述される調製プロトコールを利用することによって調製されたhIgG1およびヒト血清サンプルのPNGase F放出され、APTS標識したN-グリカンをまた、CE-ESI-MSによって分析したところ、陰イオン化モードにおける負に荷電した糖-APTS結合体の低いイオン化効率にもかかわらず、高強度MSデータが生じた。図7を参照すると、CE-ESI-MS TIC、ならびにそれぞれ、ヒトIgG1(パネルAおよびC)およびヒト血清(パネルBおよびD)から放出されたN結合型グリカンの同定された構造の相当する面積が示される。条件: 10mM AmAc緩衝液(10% イソプロピルアルコールを有するpH4.5)を充填した、91cm 有効長(30μm ID) 露出された溶融シリカキャピラリーカラム(OptiMS)。印加電圧: 2.0psi 前方圧力で20kV。分離温度:20℃。注入シーケンス: 1)1.0psi/5.0秒 水; 2)10kV/20秒 サンプル。パネルAおよびBは、それぞれ、hIgG1および血清サンプルの、放出されかつAPTS標識されたN-グリカンプールの全イオン電気泳動図を示す。その相当するグリカン構造とそれらの積分されたピーク面積値は、図7のパネルCおよびDに示される。全ての同定されたグリカンの詳細な構造情報は、図9および10に列挙される。
【実施例
【0049】
実施例1
キャピラリー電気泳動およびCE-ESI-MSによるヒト血清サンプルのディープN-グリコミクス分析に関する1つの実施形態のサンプル調製スケールアッププロトコールを、以下に記載する。手順に対する他の改変は、当業者の知識の範囲内である。
【0050】
サンプル:50μLのヒト血清/50μLのmAb(30~50mg/mL)溶液。
【0051】
1.アミン官能化磁性ビーズによるタンパク質捕捉。
[1]50μLのサンプルを1.5mL エッペンドルフチューブに入れる。
[2]50μLの1M NaBHCN(THF中)を上記サンプルに添加する。
[3]上記サンプルを最大速度で5秒間、ボルテックスにかける。
[4]1分間静置する。
[5]1.0mLの0.1×PBS溶液を添加する。
[6]20μLのアミン官能化磁性ビーズ(50mg/mL; 1.0μm 直径)を添加する。
[7]30分間室温(RT)で静置する。
【0052】
2.ビーズ洗浄
[8]磁石スタンドによって上記磁性ビーズを下に引きつけた後に、上清を除去する。
[9]上記ビーズを、500μLのHPLCグレードの水中で再構成する。
[10]上記サンプルを最大速度で10秒間、ボルテックスにかける。
[11]卓上型微量遠心分離機の中で短時間(2~3秒間)遠心分離を適用する。
[12]5分間RTで静置する。
[13]上記バイアルが磁石スタンドに置かれている間に、上清を除去する。
【0053】
3.温度勾配変性
[14]70μLのFast Glycan Kit変性溶液に10μLのグリセロールを補充することによって、上記変性溶液を調製する(変性溶液 - Fast Glycan Kit: 50μLの0.5% NP-40 + 10μL 100mM ジチオスレイトール + 10μLの5% ドデシル硫酸ナトリウム)。他の業者からの他の類似目的の変性溶液が、グリセロール補充とともに使用されてもよい。
[15]20μLのHPLCグレードの水を、上記ビーズに添加する。
[16]卓上型微量遠心分離機の中で短時間(2~3秒間)遠心分離を適用して、エッペンドルフバイアルの壁からいかなるサンプルをも移動させる。
[17]10μLの変性溶液を上記サンプルに添加する(ピペット先端でビーズに触れてはならない)。
[18]上記サンプルを最大速度で10秒間、ボルテックスにかける。
[19]卓上型微量遠心分離機の中で短時間(2~3秒間)遠心分離を適用する。
[20]上記サンプルを、以下の温度勾配を使用して15分間変性させる: 5℃/分加熱プログラムを使用して30℃から80℃へ、続いて、80℃において5.0分間インキュベーション。
【0054】
ビーズ上でのPNGase F消化
[21]卓上型微量遠心分離機の中で短時間(2~3秒間)遠心分離を適用する。
[22]50μLのHPLCグレードの水を、上記変性工程後に添加する。
[23]2.0μLのPNGase F酵素を添加する。
[24]上記サンプルを最大速度で5秒間、ボルテックスにかける。
[25]卓上型微量遠心分離機の中で短時間(2~3秒間)遠心分離を適用する。
[26]上記サンプルを、50℃において1.0時間インキュベートする。
【0055】
予備標識工程
[27]卓上型微量遠心分離機の中で短時間(2~3秒間)遠心分離を適用する。
[28]120μLの氷冷アセトニトリルを添加する。
[29]上記サンプルを、-20℃において15分間維持する。
[30]上記サンプルを、10,700×gにおいて5分間遠心分離する。
[31]上記サンプル上清(200μL)を新しい0.5mL エッペンドルフバイアルに移す。
[32]上記サンプルを、SpeedVacの中で60分間にわたって60℃で乾燥させる。
【0056】
6.蒸発性APTS標識
[33]1サンプルあたり9.0μLの20mM APTS(20% 酢酸中)、1.0μLの1M NaBHCN(THF中)および10μLのさらなるTHFの標識ストック溶液を調製する。
[34]20μLの標識溶液を乾燥したサンプルに添加する(上記サンプルをエッペンドルフの壁から標識溶液で洗い落とす)。
[35]上記サンプルを最大速度で10秒間、ボルテックスにかける。
[36]卓上型微量遠心分離機の中で10秒間、遠心分離を適用する。
[37]上記サンプルを、1時間、50℃で蓋を閉じた状態でインキュベートする。
[38]上記サンプルを、さらに1時間、55℃で蓋を開けた状態で(または上記サンプルが完全に乾燥するまで)インキュベートする。
[39]代替の標識: サンプルを、37℃で一晩蓋を開けてインキュベートする。
【0057】
7.過剰な色素除去
[40]上記乾燥したサンプルを、水中の20μLのFast Glycan Kit磁性ビーズ(磁石スタンド上で水での貯蔵溶液交換によって、200μLのM1 プロセス溶媒から濃縮される)で再構成する。
[41]上記サンプルを最大速度で10秒間、ボルテックスにかける(ビーズの添加後に完全な再構成のために3分間静置し、次いで、再びボルテックスにかける)。
[42]180μLのアセトニトリルを上記サンプルに添加する(この工程の後にはボルテックスにかけてはならない)。
[43]RTで1分間静置する。
[44]磁石スタンド上にバイアルを置いた後、上清を除去する。
[45]Fast Glycan Kitユーザーマニュアルに従って、20μLのHPLCグレードの水および180μLのアセトニトリルを使用して、工程[41]~[43]をさらに3回反復する。
【0058】
8.サンプル溶離
[46]最後の上清除去工程の後に、50μLのHPLCグレードの水を添加する。
[47]上記サンプルを最大速度で10秒間、ボルテックスにかける。
[48]卓上型微量遠心分離機の中で短時間(2~3秒間)の遠心分離を適用する。
[49]上記サンプルを磁石スタンド上に少なくとも1分間置く。
[50]新しい200μL PCRチューブの中に45μLのサンプルを移す(磁性ビーズ移動を回避する)。
[51]上記サンプルを、分析するまで4℃で貯蔵する。
[52]5.0μLのサンプルを、CESI-MS測定のためのCE nanoVialにおける5回までの連続注入に使用する。
【0059】
上記の手順を使用して、ヒト血清N-グライコームの高感度CE-LIF分析が可能になり、陰イオン化モードにおいてすらCE-ESI-MS分析のための適切なサンプル濃縮が提供される。
【0060】
本教示は、高濃度の糖タンパク質が使用される場合に、APTS標識したサンプルのCE-LIFおよびCE-ESI-MSによって、ディープN-グリコミクス分析を可能にした。本教示は、沈殿問題を軽減し、エンドグリコシダーゼ媒介性グリカン放出反応を別な点で後に阻害される遊離血清糖の濃度を減少させた。
【0061】
多くの変更が、本教示の範囲から逸脱することなく開示される実施形態に対して行われ得ることは、理解されるべきである。前述の図面および実施例は、具体的な要素に言及するが、これは、例示および例証によるものであるに過ぎず、限定によるものでないことが意図される。種々の変更が、添付の特許請求の範囲によって包含される教示の範囲から逸脱することなく開示される実施形態に対して、形態および詳細において行われ得ることは、当業者によって認識されるべきである。
【0062】
略語: APTS=8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸三ナトリウム塩; CE-LIF=キャピラリー電気泳動とレーザー誘起蛍光検出; TIC=全イオンカウント; XIC=抽出イオンカウント; hIgG1=ヒト免疫グロブリンG1; BST=ブラケット標準; MS=質量分析法; ESI=エレクトロスプレーイオン化; PBS=リン酸緩衝化生理食塩水、PNGase F=ペプチドN-グリコシダーゼF; DP=重合度; RT=室温。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】